(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の第一態様は、βフェランドレン重合体である。本発明の第二態様は、βフェランドレン重合体の製造方法である。本発明の第三態様は、第一態様のβフェランドレンからなる成形品である。
【0016】
<βフェランドレン重合体の製造方法>
βフェランドレン重合体を構成するモノマーであるβフェランドレンは、生物から抽出及び精製されていてもよいし、石油由来の化合物から化学合成されていてもよい。例えば植物の種子や根から水蒸気蒸留によって得られたエッセンシャルオイルに含まれるβフェランドレンを用いてもよいし、既存の化学物質を原料として、公知の化学合成法によって得られたβフェランドレンを用いてもよい。
【0017】
例えば、既存の化学物質を原料とする場合は、4-Isopropylcyclohexanoneを出発原料としCrypronを経由して合成する公知の化学合成法(Organic & Biomolecular Chemistry, 9(7), 2433-2451, 2011)によって得られたβフェランドレンを使用することができる。
【0018】
生物から抽出した化学物質を材料として使用する場合は、例えばβフェランドレンが含有される植物として、トドマツ、ジンジャー、フェンネル、ネロリ、ローズウッド、トマト、ラベンダー、カナダバルサム、アンジェリカ、などの葉または種子からの抽出物を精製して用いてもよい。特に高純度のβフェランドレンを使用することが好ましく、その場合は精密蒸留等の方法により純度(純分)を上げることができる。
【0019】
カーボンニュートラルな材料として生物由来のβフェランドレンを用いることにより、製造過程における環境負荷を下げ、二酸化炭素の排出を低減することができる。
【0020】
βフェランドレン重合体の数平均分子量Mnを高め、耐熱性に関するガラス転移温度Tgを高め、優れた光透過性を得る目的を達成するために、βフェランドレン重合体を合成する反応系において、βフェランドレンを含む反応液中のβフェランドレンの純度(純分)をなるべく高くすることが好ましい。また、前記反応系は、βフェランドレンの重合に干渉する二重結合を有する化合物をなるべく排除した反応系であることがより好ましい。
特に好ましくは、例えば、ディールスアルダー反応試薬等のシス型の共役二重結合と反応する物質を添加し、βフェランドレン以外のシス型の共役二重結合物質を不溶性の物質として除去し、純分を高くすることがよく、精密蒸留と組み合わせることにより純分をあげるのが好ましい。
【0021】
具体的には、前記反応液中の重合性化合物の総重量に対して、βフェランドレンの含有量、即ちβフェランドレンの純度(純分)は、70重量%以上が好ましく、80重量%以上がより好ましく、90重量%以上が更に好ましく、95重量%以上が特に好ましい。前記含有量は100重量%であってもよい。ここで、「純度」とは、βフェランドレンの光学異性体を区別した光学的な純度を意味しておらず、βフェランドレンの光学異性体を区別しない単なる化学的な純度を意味する。また、前記「重合性化合物」とは、βフェランドレンと重合可能な二重結合を有する化合物を意味する。
【0022】
本明細書および特許請求の範囲において、前記反応に使用するβフェランドレンの純度はガスクロマトグラフィー(GC)法またはGC−MSの方法によって、βフェランドレンのピーク面積百分率で求められた値である。
例えば、βフェランドレン反応用液を1重量%となるようにクロロホルム溶液(和光純薬社製高速液体クロマトグラフ用、純度99.7%)に希釈し、ガスクロマトグラフ分析装置(HEWLETT PACKARD社製 HP6890 Series GC System)を用いて測定することができる。この時、成分分離用のカラムとしてはDB−5(アジレント・テクノロジー社製キャピラリーカラム、30m×0.25mmID×0.25μ)、を用い、カラム温度:開始50℃、最終300℃、昇温速度 15℃/分、インジェクション温度:300℃で測定することが好ましい。βフェランドレンのピークはβフェランドレン標準液またはMSスペクトルより同定することができる。βフェランドレンの純分はGC分析において観測された面積値1000以上のピークの全面積の合計を100としたときのβフェランドレンの面積比率で算出することが好ましい。
【0023】
前記反応液を構成する有機溶媒に、触媒としてのルイス酸を添加してよく分散させた後、高純度のβフェランドレンをゆっくり滴下して、カチオン重合を開始し、所定時間反応させることにより、目的のβフェランドレン重合体を得ることができる。
【0024】
このような溶液重合法によってカチオン重合を行うに際しては、モノマーであるβフェランドレンの濃度は、前記反応溶液の総重量に対して、好ましくは1〜90重量%、より好ましくは10〜80重量%、更に好ましくは10〜50重量%に調製することができる。前記濃度が1重量%未満では生産性が低くなり、一方、90重量%を超えると重合熱の除去が困難になる。
【0025】
前記反応液を構成する有機溶媒の種類はβフェランドレンを溶解可能であれば特に制限されず、従来のカチオン重合で使用される溶媒が適用できる。なかでも連鎖移動の少ない溶媒であることが好ましい。このような溶媒としては、ポリマーの重合条件下での溶解性や反応性等の観点から、例えばハロゲン化炭化水素、芳香族炭化水素、及び脂肪族炭化水素等が挙げられる。より具体的には、例えば、塩化メチレン、クロロホルム、1,1−ジクロロエタン、1,2−ジクロルエタン、n−プロピルクロライド、1−クロロ−n−ブタン、2−クロロ−n−ブタン等のハロゲン化炭化水素系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン、アニソール等の芳香族炭化水素系溶媒;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、デカリン等の脂肪族炭化水素系溶媒等が挙げられる。
前記有機溶媒として、1種の有機溶媒を単独で用いてもよいし、2種以上の有機溶媒を併用してもよい。
【0026】
前記有機溶媒は、非極性溶媒であってもよいし、極性溶媒であってもよい。
βフェランドレン重合体の重合度を一層高めて、高靭性の重合体を得るためには、非極性溶媒を用いる方が特に好ましい。ハロゲン化脂肪族炭化水素、ハロゲン化芳香族炭化水素等の塩素系溶媒(塩素原子有する化合物からなる溶媒)は使用可能である。しかし、廃棄溶剤の処理、重合製品の脱塩処理および昨今のVOC規制の観点から使用不可能な塩素系溶剤もあるため、環境問題の観点からは好ましいとは限らない。
【0027】
前記ルイス酸としては、従来のカチオン重合で使用されるルイス酸が適用可能であり、例えばEtAlCl
2、AlCl
3、Et
2AlCl、Et
3Al
2Cl
3、BCl
3、SnCl
4、TiCl
4、Ti(OR)
4−yCl
4[Rはアルキル基又はアリール基を表し、yは1〜3の整数を表す。]が、反応性及び選択性が高いため、好ましい。これらの他、BF
3、BBr
3、AlF
3、AlCl
3、AlBr
3、TiBr
4、TiI
4、FeCl
3、FeCl
2、SnCl
2、WCl
6、MoCl
5、SbCl
5、TeCl
2、ZnCl
2等の金属ハロゲン化物、(i−Bu)
3Al、(i−Bu)
2AlCl、(i−Bu)AlCl
2、Me
4Sn、Et
4Sn、Bu
4Sn、Bu
3SnCl等の金属アルキル化合物[Meはメチル基を表し、Etはエチル基を表し、Buはブチル基を表す。]、Al(OR)
3−xCl
x[Rはアルキル基又はアリール基を表し、xは1又は2の整数を表す。]等の金属アルコキシ化合物が挙げられる。
前記ルイス酸として、1種のルイス酸を単独で用いてもよいし、2種以上のルイス酸を併用してもよい。
【0028】
重合触媒としては上述のルイス酸のみでもよいが、ルイス酸として組み合わせて用いられる開始剤を利用してもよい。この場合、開始剤とはルイス酸と反応して炭素カチオンを発生するものであり、そのような特質を有するものであればどんなものでもよい。具体的には、アルキルビニルエーテル−塩化水素付加体、α−クロロエチルベンゼン、α―クロロイソプロピルベンゼン、1,4−ビス(α―クロロイソプロピル)ベンゼン、1,3−ビス(α―クロロイソプロピル)−5−t−ブチルベンゼン、1,3,5−トリス(α−クロロイソプロピル)ベンゼン、t−ブチルクロライド、2−クロロ−2,4,4−トリメチルペンタン等の塩素系開始剤:アルキルビニルエーテル−酢酸付加体、α―アセトキシエチルベンゼン、α―アセトキシイソプロピルベンゼン、1,4−ビス(α−アセトキシイソプロピル)ベンゼン等のアルコール系開始剤等が上げられる。
【0029】
また、リビングカチオン重合触媒と共に用いられる電子供与剤を用いてもよい。そのような電子供与剤としては、公知のものを使用することができる。具体的にはジエチルエーテル(Et2O)、メチル−t−ブチルエーテル、ジブチルエーテル等のエーテル類:酢酸エチル(EtOAc)、酢酸メチル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、イソ酪酸メチル、イソ酪酸エチル、イソ酪酸プロピル等のエステル類;ピリジン、2−メチルピリジン、2,6−ジメチルピリジン、2,6−ジーブチルピリジン、2,6−ジフェニルピリジン、2,6−ジーt−ブチル−4−メチルピリジン等のピリジン類;トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン等のアミン類;ジメチルアセトアミド、ジエチルアセトアミド等のアミド類;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類等を、挙げることができる。特に、ジエチルエーテルや酢酸メチル等が、経済性及び反応後の除去が容易であることから、好適に使用される。
【0030】
これらのルイス酸の前記反応液中の濃度としては、後で添加するβフェランドレン100重量部に対して、0.001〜100重量部が好ましく、0.01〜50重量部がより好ましく、0.1〜10重量部が更に好ましい。ルイス酸触媒の使用量が少な過ぎると反応が重合の完了前に停止してしまう恐れがあり、逆に多過ぎると不経済である。
【0031】
前記滴下するβフェランドレンは、前記反応液を構成する有機溶媒と同じ種類の有機溶媒に予め溶解しておいてもよい。前記滴下する際の前記反応液の温度は、通常、−120℃〜150℃に設定することができ、−90℃〜100℃に設定することが好ましい。反応温度が高過ぎると反応の制御が困難となって再現性が得られ難くなる恐れがあり、低過ぎると製造コストが高くなる。
【0032】
本発明にかかるβフェランドレン重合体の製造方法においては、低温で反応させる方が重合度を高める点で有利であり、例えば−80〜70℃で反応させることにより、数平均分子量Mnが100,000以上、例えば140,000程度のβフェランドレン重合体を容易に得ることができる。また、−15〜40℃で反応させてもよく、この温度においては数平均分子量Mnが50,000〜100,000程度のβフェランドレン重合体を容易に得ることができる。
【0033】
カチオン重合の反応時間は特に制限されず、重合触媒の種類や量、反応温度、反応設備等の条件に応じて、所望の特性を有するβフェランドレン重合体が得られるように適宜調整することができる。通常は、1秒〜100時間程度、好ましくは10秒〜1時間程度、より好ましくは30秒〜10分程度で反応させることにより、所望の特性を有するβフェランドレン重合体を得ることができる。
【0034】
本発明にかかるβフェランドレン重合体の製造方法においては2官能性のビニル化合物の存在において共重合せしめて得ることもできる。
ただし、2官能性のビニル化合物を添加する場合は、βフェランドレン単量体よりも十分少ない量にて添加される。重合体を製造する際に、2官能性ビニル化合物は一般的に分岐剤または架橋剤として使用されるが、十分少ない量とすることで、長鎖分岐構造を有し、溶剤可溶性の良好な重合体を得ることができる。
【0035】
本発明において使用される2官能性ビニル化合物としては、分子内に2つのビニル基を有するものであれば特に制限なく用いることができる。具体的には、m−ジイソプロペニルベンゼン、p−ジイソプロペニルベンゼン、m−ジビニルベンゼン、p−ジビニルベンゼン、1,4−シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル、エチレングリコールジビニルエーテル、m−ジイソプロペニルベンゼン等があげられる。
【0036】
2官能性ビニル化合物の好適な添加量としては、βフェランドレンの単量体の総量100重量部に対して、例えば、0.1〜5.0重量部が好ましく、1.0〜4.0重量部がより好ましい。上記範囲であると、得られるβフェランドレン重合体の有機溶媒に対する溶解性を良好とすることができる。通常、2官能性ビニル化合物の添加量が少なすぎる(例えば0.01重量部未満)と、その添加効果は認められない。一方、その添加量が多すぎる(例えば20重量部以上)と、架橋反応が必要以上に進行し、得られるβフェランドレン重合体がゲル状となり、熱可塑性を失い、有機溶媒に対する溶解性が不良となる恐れがある。
【0037】
前記反応液中で重合して得られたβフェランドレン重合体を溶媒から分離する方法としては、例えば再沈殿、加熱による溶媒の留去、減圧による溶媒の除去、水蒸気による溶媒の除去(コアギュレーション)、押出し機による脱気溶媒除去等の公知方法が適用可能である。
【0038】
重合体を溶媒から分離する際に塩素系のルイス酸触媒を中和除去する必要がある場合は、適時アルカリ性の中和剤例えば、水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、アンモニア等の一般的に公知な中和剤を用いることができ、特に限定されるものではない。更に透明性や熱安定性の要求が厳しい用途においては、得られる重合体の不純物として残留する塩素、中和塩の十分な除去が望まれる。その除去方法としては特に限定されるものではないが、例えば、重合体の再枕時に適時加水等の処理により精製することが好ましい。特に光学特性や電気絶縁性を向上させるためには、残留の中和塩の含有率は重合体の重量に対し、100ppm以下とすることが好ましい。特に好ましくは10ppm以下である。
【0039】
<βフェランドレン重合体>
上記のようにして得られたβフェランドレン重合体の数平均分子量Mnは、重合溶液の粘度や溶融粘度、成形性、成形品の強度、耐熱性の観点から、1万〜100万が好ましい。本発明にかかるβフェランドレン重合体の数平均分子量Mnは、2万〜50万に調製することもできるし、3万〜40万に調製することもできるし、4万〜30万に調製することもできるし、5万〜25万に調製することもできるし、6万〜20万に調製することもできるし、7万〜15万に調製することもできるし、8万〜12万に調製することもできる。重合体の分子量が大き過ぎると、重合溶液の粘度が高くなって重合体の生産性が悪くなり、又は、重合体の溶融粘度が高くなって成形性が悪くなる恐れがある。一方、分子量が小さ過ぎると、重合体を用いて得られる成形品の強度が低下すると共に、ガラス転移温度が80℃未満となり、十分な耐熱性を発揮し得ない恐れがある。
【0040】
βフェランドレン重合体のガラス転移温度Tgは、耐熱性、成形性、成形品の強度の観点から、80〜350℃程度が好ましく、85〜250℃がより好ましく、90〜200℃が更に好ましい。本発明にかかるβフェランドレン重合体のガラス転移温度Tgは、80℃以上200℃以下に調製することもできるし、85℃以上200℃以下に調製することもできるし、90℃以上200℃以下に調製することもできるし、95℃以上200℃以下に調製することもできるし、100℃以上200℃以下に調製することもできるし、110℃以上200℃以下に調製することもできるし、120℃以上200℃以下に調製することもできるし、125℃以上200℃以下に調製することもできるし、130℃以上200℃以下に調製することもできる。ガラス転移温度Tgが高過ぎると、βフェランドレン重合体の溶融粘度が高くなり、成形性が悪くなる恐れがある。一方、ガラス転移温度Tgが低過ぎると、成形品の耐熱使用温度が低くなるために、実用的ではない。
【0041】
本明細書及び特許請求の範囲において、βフェランドレン重合体の数平均分子量Mnは、JIS−K−0124−2002にて規定されているサイズ排除クロマトグラフィーの手法に従って求められるものであって、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定される示差屈折検出器の値と、標準ポリスチレンの校正曲線とから求められるものである。また、ガラス転移温度Tgは、JIS−K−7121−1987「プラスチックの転移温度測定方法」に規定されている手法に従って測定されたものであって、より詳細には、中間点ガラス転移温度(T
mg)として求められる温度が、本明細書及び特許請求の範囲におけるガラス転移温度Tgである。
【0042】
<βフェランドレンの光学異性について>
本発明の第一態様のβフェランドレン重合体の材料として用いるβフェランドレンは、下記一般式(I)及び(II)で表される互いに光学異性体(エナンチオマー)である化合物の混合物又はラセミ体であってもよいし、何れか一方の光学異性体のみであってもよい。化学合成されたβフェランドレンは、通常、前記混合物である。何れか一方の光学異性体のみからなるβフェランドレンの材料を用いる場合、例えばキラルカラムを用いたクロマトグラフィー、光学分割剤を用いたジアステレオマ法等の手法を用いることにより、光学異性分離をして得られた材料を用いてもよい。
【0044】
βフェランドレンの前記混合物を材料として使用して得られたβフェランドレン重合体には、下記一般式(I−1)、(I−2)、(II−1)及び(II−2)で表されるモノマー単位(繰り返し単位)のうち何れか1種以上が含まれる。なお、各一般式中、括弧は重合(結合)している隣のモノマー単位との結合を表す。
【0046】
本発明の第一態様のβフェランドレン重合体は、上記の各一般式で表されるモノマー単位のうち、1種を有していてもよいし、2種を有していてもよいし、3種を有していてもよいし、4種を有していてもよい。
【0047】
本発明の第一態様のβフェランドレン重合体には、上記一般式(I)及び(II)の混合物をその材料として用いた場合、上記一般式(I−1)、(I−2)、(II−1)及び(II−2)で表されるβフェランドレン単位が、当該βフェランドレン重合体の総重量に対して合計で70重量%以上含有されていると考えられる。この含有量は、70〜100重量%が好ましく、80〜100重量%がより好ましく、90〜100重量%がさらに好ましい。
【0048】
<βフェランドレン重合体に対する水素添加>
本発明の第一態様のβフェランドレン重合体が有するオレフィン性炭素−炭素二重結合に対して水素添加を行うことができる。水素添加を行うことによって、耐熱性が一層向上した重合体を得ることができる。
【0049】
本発明の第一態様のβフェランドレン重合体に対する水素添加の方法として、従来公知の方法が適用可能である。この際に用いられる水素添加触媒としては、一般にオレフィン類や芳香族化合物の水素化反応に使用される触媒が適用可能であり、例えば、パラジウム、白金、ニッケル、ロジウム、ルテニウム等の遷移金属をカーボン、アルミナ、シリカ、ケイソウ土などの担体に担持してなる担持型金属触媒;チタン、コバルト、ニッケル等の有機遷移金属化合物とリチウム、マグネシウム、アルミニウム、スズ等の有機金属化合物からなる均一系触媒;ロジウム、ルテニウム等の金属錯体触媒等が挙げられる。
【0050】
前記担持型金属触媒としては、例えば、ニッケル・シリカ、ニッケル・ケイソウ土、ニッケル・アルミナ、パラジウム・カーボン、パラジウム・シリカ、パラジウム・ケイソウ土、パラジウム・アルミナ、白金・シリカ、白金・アルミナ、ロジウム・シリカ、ロジウム・アルミナ、ルテニウム・シリカ、ルテニウム・アルミナ等の触媒を挙げることができる。
【0051】
前記均一系触媒としては、例えば、酢酸・コバルトトリエチルアルミニウム、トリオクチル酸ニッケル・トリイソブチルアルミニウム、ニッケルアセチルアセトナート・トリイソブチルアルミニウム、チタノセンジクロリド・n−ブチルリチウム、ジルコノセンジクロリド・sec−ブチルリチウム、テトラブトキシチタネート・ジメチルマグネシウム等の組み合わせを挙げることができる。
【0052】
前記金属錯体触媒としては、例えば、クロロトリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム、ジヒドリドテトラ(トリフェニルホスフィン)ルテニウム、ヒドリド(アセトニトリル)トリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム、カルボニルクロロヒドリドトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム、カルボニルジヒドリドトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム等を挙げることができる。
【0053】
ここで例示した水素化反応に用いる触媒のうち、前記担持型金属触媒は、水素化反応後に、重合触媒と共にろ過で容易に分離回収することができるため、特に好ましい。
前記触媒を1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0054】
前記水素添加を行う際の反応温度は、通常、−20℃〜250℃で行うことが可能であり、−10℃〜220℃が好ましく、0〜200℃がより好ましい。反応温度が高過ぎると、重合体が熱分解する恐れがあり、低過ぎると、反応速度が遅くなり、反応が完了しない恐れがある。
【0055】
前記水素添加を行う際の水素圧力は、通常0.1〜100kg/cm
2で行うことが可能であり、好ましくは0.5〜70kg/cm
2、より好ましくは1〜50kg/cm
2である。水素圧力が低過ぎると、水素化反応が遅くなり、高過ぎると高耐圧反応装置が必要となる。
【0056】
前記水素添加を行う際の溶媒としては、重合体が溶解し、触媒不活性な有機溶媒であれば特に制限されない。重合体の水素添加物の溶解性や反応性の観点から、例えば、脂肪族炭化水素、ハロゲン化炭化水素、及び芳香族炭化水素等が挙げられる。具体的には、ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素系溶媒;n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、デカリン等の脂肪族炭化水素系溶媒;テトラヒドロフラン、エチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル系溶媒;塩化メチレン、クロロホルム、1,1−ジクロルエタン、1,2−ジクロルエタン、n−プロピルクロライド、1−クロロ−n−ブタン、2−クロロ−n−ブタン等のハロゲン化炭化水素系溶媒が挙げられる。これらの有機溶媒のうち、溶解性や反応性の観点から、特に炭化水素系溶媒が好ましい。
前記有機溶媒を1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0057】
前記水素添加は、βフェランドレンの重合反応が終了した後の前記反応液の溶媒を交換せずに、そのまま水素添加の反応を行うことも可能である。このように溶媒を置換せずに水素添加を行うと、製造プロセスから排出される廃液が減少するので、環境負荷を下げる観点から好ましい。
【0058】
前記水素添加の反応時間は、通常0.1〜20時間程度で行うことができる。水素添加反応の終了の目安としては、例えば、水素添加前の重合体が有するオレフィン性炭素−炭素二重結合(不飽和結合)のうち、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、更に好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上が飽和されるまで、最も好ましくは100%が飽和されるまで、水素添加を継続することが望ましい。十分にβフェランドレン重合体に対して水素添加を行うことにより、耐熱性、耐光性に優れた重合体を得ることができる。
【0059】
前記水素添加の前後の重合体におけるオレフィン性炭素−炭素二重結合の水素添加率を求める方法として、一般に、ヨウ素価滴定法、赤外分光スペクトル測定、核磁気共鳴スペクトル(
1H−NMRスペクトル)測定等の分析値から算出する方法が知られている。
【0060】
本明細書及び特許請求の範囲において、βフェランドレン重合体のオレフィン性炭素−炭素二重結合に対する水素添加率は、重水素化クロロホルムを溶媒として用いた核磁気共鳴スペクトル(
1H−NMRスペクトル)の測定値を用いて算出している。具体的には、テトラメチルシランのプロトンを0ppmとして、δ=5.0〜6.0ppmに検出されるシグナルの積分値、即ちオレフィン性炭素−炭素二重結合のプロトンに由来するシグナルの積分値Aと、0.5〜2.5ppmに検出されるシグナルの積分値、即ち飽和炭化水素のプロトンに由来するシグナルの積分値Bとの比(A/B)を算出する。この比は、水素添加率が高くなるにつれて小さくなる。前記水素添加前の前記比(A/B(水添前))及び前記水素添加後の前記比(A/B(水添後))をそれぞれ算出し、下記式に代入することにより、水素添加率を求めることができる。
【0061】
水素添加率(%)=
(比(A/B(水添前))−比(A/B(水添後))×100÷比(A/B(水添前))
【0062】
βフェランドレン重合体に対して水素添加することにより得られる重合体のガラス転移温度Tgは、耐熱性、成形性、成形品の強度の観点から、80〜350℃程度が好ましく、85〜250℃がより好ましく、90〜200℃が更に好ましい。前記水素添加された重合体のガラス転移温度Tgは、80℃以上200℃以下に調製することもできるし、85℃以上200℃以下に調製することもできるし、90℃以上200℃以下に調製することもできるし、95℃以上200℃以下に調製することもできるし、100℃以上200℃以下に調製することもできるし、110℃以上200℃以下に調製することもできるし、120℃以上200℃以下に調製することもできるし、125℃以上200℃以下に調製することもできるし、130℃以上200℃以下に調製することもできる。ガラス転移温度Tgが高過ぎると、βフェランドレン重合体の溶融粘度が高くなり、成形性が悪くなる恐れがある。一方、ガラス転移温度Tgが低過ぎると、成形品の耐熱使用温度が低くなるために、実用的ではない。
【0063】
<成形品>
本発明にかかるβフェランドレン重合体及びその水素添加された重合体は熱可塑性を有するため、プレス成形、押し出し成形、射出成形などの成形加工が可能である。
本発明にかかる成形品には、成形の際に、安定剤、滑剤、顔料、耐衝撃性改良剤、加工助剤、補強剤、着色剤、難燃剤、耐候性改良剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防カビ剤、抗菌剤、光安定剤、帯電防止剤、シリコンオイル、ブロッキング防止剤、離型剤、発泡剤、香料等の各種添加剤;ガラス繊維、ポリエステル繊維等の各種繊維;タルク、マイカ、モンモリロナイト、シリカ、木粉等の充填剤;各種カップリング剤等の成分を必要に応じて所定量を配合することができる。
【0064】
本発明にかかるβフェランドレン重合体又はその水素添加された重合体を成形することにより、透明性および耐熱性に優れた比重の軽い成形品を得ることができる。具体的には、全光線透過率が90%以上、且つ、ガラス転移温度Tgが80℃以上である成形品を得ることができる。この成形品のガラス転移温度Tgの上限値は、通常、当該成形品を構成する重合体のTgの上限値と同様である。
【0065】
本明細書及び特許請求の範囲における「全光線透過率」は、JIS−K−7361:1997 (ISO13468-1:1996)に基づいて測定される値である。
【0066】
前記成形品の用途は特に制限されず、従来の透明樹脂と同様に種々の用途に適用可能である。例えば、フィルム、光学シート、光ディスク、光学レンズ、液晶表示装置用の位相差板、導光板、拡散板、偏光板保護膜、ディスプレイ全面板、自動車用ライトカバー、レンズカバー、計器カバーなどの用途が挙げられる。
【実施例】
【0067】
次に、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0068】
[実施例1:βフェランドレン重合体の製造]
乾燥させた300mlガラス製フラスコに、トルエン(関東化学株式会社製)78.6
mlを入れ、0℃に冷却した。つぎにルイス酸触媒のEtAlCl
2(エチルアルミニウムジクロリド)(17%ヘキサン溶液、約1mol/L、東京化成工業株式会社製)を、モノマーであるβフェランドレン100重量部に対して7.3重量部に相当する量(0.035ml)を投入し、よく分散させたのち、βフェランドレン(純度83.3%)6.0ml(5.1g)をゆっくりと滴下投入した。1分後に、メタノール10mlを加えて反応を停止した。反応溶液を分液ロートに移した後に1%水酸化ナトリウム溶液20mlを加えて、よく撹拌した後、水溶液の相を分離除去した。次に、有機溶媒相をエバポレータによりゆっくりと蒸発させ、反応溶液を濃縮させた。濃縮した反応溶液約40mlをメタノール300mlにゆっくり滴下し、重合物を再沈させた。得られた沈殿物を溶液よりろ過分離し、十分乾燥させ、βフェランドレン重合体を得た。反応時のモノマーの反応率は100%であった。
【0069】
得られたβフェランドレン重合体の数平均分子量は40,900、ガラス転移温度は85℃であった。
【0070】
[水素添加]
十分窒素置換を行った圧力容器に、脱水したヘキサン90mlおよび得られたβフェランドレン重合体4gを投入し十分溶解させた。ついで、パラジウム・アルミナ触媒(和光純薬製、Pd:5%)10gを添加し、8MPaの水素雰囲気下にて、120℃で10時間、水素添加反応を行った。テフロン(登録商標)からなる孔径1μmのフィルターを用いて反応液をろ過し、触媒を除去した後、メタノールにて再沈させ、沈殿を十分に乾燥させて、βフェランドレン重合体の水素添加物4.5gを得た。
【0071】
得られた重合体の水素添加率をH−NMRスペクトル測定により算出したところ、99.9%であった。また重合体の数平均分子量は40,500、ガラス転移温度は130℃、全光線透過率は92%であった。
【0072】
[実施例2]
実施例1において反応温度を−40℃、反応時間を5分に設定した以外は同一条件で実施し、βフェランドレン重合体を得た。反応時のモノマーの反応率は100%であり、得られ重合体の数平均分子量は40,000であり、ガラス転移温度は82℃であった。
さらに、実施例1と同様に水素添加して得た重合体の水素添加率は99.9%、重合体の数平均分子量は39,500、ガラス転移温度は125℃、全光線透過率は93%であった。
【0073】
[実施例3]
実施例1において反応時間を10秒とした以外は同一条件で実施し、βフェランドレン重合体を得た。反応時のモノマーの反応率は88%であり、得られた重合体の数平均分子量は33,800であり、ガラス転移温度は82℃であった。
さらに、実施例1と同様に水素添加して得た重合体の水素添加率は99.9%、重合体の数平均分子量は33,500、ガラス転移温度は125℃、全光線透過率は93%であった。
【0074】
[実施例4]
実施例1において、モノマーであるβフェランドレンを、植物から精製した材料に変更し、更に、重合反応に使用する溶媒をヘキサンにした以外は同一条件で実施した。上記材料におけるβフェランドレンの純度(純分)は99.3%であった。上記材料は、トドマツ(植物体)から水蒸気蒸留の方法により得られた精油を精密蒸留し、得られた濃縮液にディールスアルダー反応試薬を添加し、更にトランス共役二重結合物質を除去することによって得た。
反応時のモノマーの反応率は100%であり、得られた重合体の分子量は80,200であり、ガラス転移温度は84℃であった。
さらに、水素添加した重合体の水素添加率は99.7%であり、重合体の数平均分子量は80,000であり、ガラス転移温度は131℃であり、全光線透過率は93%であった。
【0075】
[実施例5]
実施例4において反応温度を−78℃とした以外は同一条件で実施した。
反応時のモノマーの反応率は100%であり、得られた重合体の数平均分子量は139,400であり、ガラス転移温度は88℃であった。
さらに、水素添加した重合体の水素添加率は99.6%であり、重合体の数平均分子量は138,500であり、ガラス転移温度は139℃であり、全光線透過率は92%であった。
【0076】
[実施例6]
実施例4において反応温度を20℃とした以外は同一条件で実施した。
反応時のモノマーの反応率は100%であり、得られた重合体の数平均分子量は57,700であり、ガラス転移温度は 81℃であった。
さらに、水素添加した重合体の水素添加率は99.9%であり、重合体の数平均分子量は57,300であり、ガラス転移温度は125℃であり、全光線透過率は93%であった。
【0077】
[実施例7]
実施例4において、反応液中にモノマーであるβフェランドレンを投入した後、さらに電子供与剤である2,6−ジ−t−ブチルピリジン(東京化成工業株式会社製)0.072 g(βフェランドレンの100重量部にたいして1.4重量部)を添加した以外は同一条件で実施した。
反応時のモノマーの反応は42%であり、得られたβフェランドレン重合体の数平均分子量は75,300であり、ガラス転移温度は87℃であった。
さらに、水素添加した重合体の水素添加率は99.8%であり、重合体の数平均分子量は74,500であり、ガラス転移温度は133℃であり、全光線透過率は92%であった。
【0078】
[実施例8]
実施例4において、重合反応時の溶媒をメチルシクロヘキサンにした以外は同一条件で実施し、βフェランドレン重合体を得た。反応時のモノマーの反応率は100%、得られた重合体の数平均分子量は82,200であり、ガラス転移温度は84℃であった。
さらに、水素添加した重合体の水素添加率は99.7%であり、重合体の数平均分子量は82,000であり、ガラス転移温度は133℃であり、可視光線透過率は93%であった。
【0079】
[実施例9]
実施例8において、重合反応時の温度を80℃とした以外は同一条件で実施し、βフェランドレン重合体を得た。反応時のモノマーの反応率は80%、得られた重合体の数平均分子量は20,200であり、ガラス転移温度は81℃であった。
さらに、水素添加した重合体の水素添加率は99.7%であり、重合体の数平均分子量は20,000であり、ガラス転移温度は120℃であり、可視光線透過率は93%であった。
【0080】
[比較例1]
実施例4において、βフェランドレンに代えて、市販の試薬であるβピネン(和光純薬社製、純度95%)をモノマーとして使用した以外は同一条件で行った。得られた重合体の分子量は3,200であった。また、反応時のモノマーの反応率は3%であった。
【0081】
[参考例1]
実施例4において、植物由来のβフェランドレンの純度(純分)を80%として、反応時間を24時間とした以外は同一条件で行った。
得られた重合体の分子量は5,000であった。
【0082】
<測定方法>
【0083】
(反応収率)
o-ジクロロベンゼンを内部標準とする方法により、β-フェランドレンモノマーの共役二重結合に由来するシグナル5.5〜6.5ppmのシグナルの面積の減少率により算出した。
【0084】
(数平均分子量)
標準ポリスチレン換算で測定した。装置として、島津製作所社製、LC-20AD送液ユニット、RID-10示差屈折率検出器を用いた。カラムは、昭和電工株式会社製のShodex KF803を2本用いた。溶媒は、THF(40℃)を用いた。
【0085】
(水素添加率)
溶媒は重水素化クロロホルムを用いた。TMSで0ppm補正を行った。日本電子株式会社製のNMR装置、JNM-ECX400(400MHz)を使用して、H-NMRスペクトルを測定した。
測定は室温で行った。
水素添加前のスペクトルの不飽和結合に起因する5.0〜6.0ppmのピークの減少率を求めた。この時、5.0〜6.0ppmのオレフィン性二重結合のプロトンに由来するシグナルの積分値Aと、0.5〜2.5ppmの飽和炭化水素のプロトンに由来するシグナルの積分値Bとの比 A/Bを用いた。水素添加率(%)は(A/B(After)−A/B(Before))x100/A/B(Before)で算出した。
【0086】
(ガラス転移温度)
JIS-K-7121-1987「プラスチックの転移温度測定方法」により、示差熱測定装置を用いて測定した。装置は、島津製作所社製のDSC-60を用いた。
【0087】
(全光線透過率)
JIS-K-7361 : 1997 (ISO13468-1:1996)に準拠して測定した。測定装置として、東京電色社製のヘーズメーターTC-H3DPKを用いた。
調製したβフェランドレン重合体又はそのβフェランドレン重合体を水素添加して得た重合体からなる厚み100μmのフィルムを、溶剤キャスティング法によって作製し、測定試料として用いた。
【0088】
以上で説明した各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。また、本発明は各実施形態によって限定されることはなく、請求項(クレーム)の範囲によってのみ限定される。