(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記したような無アルカリガラスやLAS系結晶化ガラスを製造する際には、いずれも1500〜1600℃以上の高温で溶融することが必要であるため、従来は清澄剤として酸化ヒ素(As
2O
3)が用いられてきた。ところが酸化ヒ素は毒性が強く環境上有害であることからその使用が避けられており、代わりに酸化錫(SnO
2)が広く用いられるようになってきている(例えば特許文献7)。酸化錫は、酸化ヒ素と同様1500〜1600℃の高温域にて、
2SnO
2 → 2SnO + O
2 ↑
の反応により酸素ガス(O
2)を放出する。放出された酸素ガスがガラス中の泡に拡散することにより、泡の拡大、浮上促進が起こり、泡が除去される。
【0012】
ここで、清澄剤は、ガラスの泡品位を向上させる成分であるが、ガラスバッチへの添加量はごく微量であるため、その効果を的確に得るにはバッチ中に均質に分散している必要がある。均質に分散させるためには、粒子径は小さいことが好ましい。
【0013】
ところが、粒子が細かくなればなるほど粉体の取り扱い性は悪化し、秤量、搬送、混合といったプロセスにおいて問題となる場合が多い。
【0014】
更に、粒子が細かくなればなるほど、一次粒子の凝集が起こりやすくなり、バッチ中で均質に分散し難く、清澄効果を十分に発揮できないといった問題が起こる。
【0015】
本発明の目的は、粒子径が小さいにも関わらず、取り扱い性が良好で、バッチ中に均質に分散し易い酸化錫粉末を用いて、泡品位に優れた珪酸塩ガラスを製造する方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者は上記課題を検証した結果、以下の知見を得た。
【0017】
まず、清澄剤の効果を的確に得るにはバッチ中に均質に分散している必要がある。均質に分散させるためには、粒子径は小さいことが好ましい。
【0018】
ところが、粒子が細かくなればなるほど粉体の取り扱い性は悪化する上、一次粒子の凝集が起こり、バッチ中で均質に分散し難く、清澄効果を十分に発揮できないといった問題が起こる。
【0019】
そこで、本発明者は、それぞれの酸化錫粉末のメディアン粒径D
50を規制することにより、ガラスの清澄剤として用いる場合の取り扱い性や分散性、清澄性が良好な珪酸塩ガラスを製造できることを見出し、本発明の珪酸塩ガラスの製造方法を提案したものである。
【0020】
即ち、本発明の珪酸塩ガラスの製造方法は、珪酸塩ガラスを製造するに当たり、清澄剤としてメディアン粒径D
50が0.3〜2.0μm未満の範囲にある酸化錫粉末を用いることを特徴とする。ここで「珪酸塩ガラス」とは、SiO
2を主成分とするガラス、より具体的にはSiO
2を50質量%以上含有するガラスを意味する。「酸化錫」とは、酸化第二錫(SnO
2)を指すが、酸化第一錫(SnO)を排除するものではない。またメディアン粒径D
50は、レーザー回折散乱式粒度分布計によって測定した体積基準の粒度を意味する。
【0021】
本発明においては、メディアン粒径D
50が0.3〜2.0μm未満の範囲となるように酸化錫粉末の粒度を調整した後、使用することが好ましい。粒度の調整は、酸化錫粉末の製造条件を適宜変更することで行ってもよいし、酸化錫粉末を得た後、更に粒度調整工程を加えることで行ってもよい。粒度調整方法としては、製造工程における反応速度、反応温度、解砕条件等の調整が挙げられる。
【0022】
本発明においては、メディアン粒径D
50が0.3〜2.0μm未満の範囲となるように酸化錫粉末を分級した後、使用することが好ましい。分級方法としては、篩分け分級、乾式分級、湿式分級等があり、具体的には、篩、遠心力、風力、沈降分離、濾過等が挙げられる。
【0023】
上記構成によれば、メディアン粒径D
50が0.3〜2.0μm未満の酸化錫を容易に得ることができる。
【0024】
更に、本発明者は、酸化錫粉末の取り扱い性や分散性が、粉体の「流動性」に大きく関与していることを見出した。
【0025】
そこで、粉体の流動性を評価する指標として、非特許文献1に記載のCarr指数表を用い、粒子が細かくとも、適切な粉体流動特性を有する酸化錫粉末を用いることで、取り扱い性や分散性が良好であり、秤量、搬送、混合といったプロセスで問題になり難い上、珪酸塩ガラスの泡品位を良好にできることを見出した。
なお、Carr指数表における各々の測定項目に際しては、ホソカワミクロン社製の「パウダテスターPT−S型」を用いた。この装置は、Carr指数表に準じた粉体特性の評価装置として、一般に好適に用いられる。
【0026】
本発明の酸化錫粉末は、D
60/D
10が30以下であることが好ましい。ここで、「D
60/D
10」は、粒度の累積分布曲線から求めた60%粒径と10%粒径の比であり、粒度分布幅の目安となる値である。
【0027】
本発明の酸化錫粉末は、疎充填嵩密度が0.3〜0.8g/mlの範囲であることが好ましい。ここで、「疎充填嵩密度」の測定は、ホソカワミクロン社製の「パウダテスターPT−S型」による。
【0028】
本発明の酸化錫粉末は、密充填嵩密度が0.8〜1.8g/mlの範囲であることが好ましい。ここで、「密充填嵩密度」の測定は、ホソカワミクロン社製の「パウダテスターPT−S型」による。
【0029】
本発明の酸化錫粉末は、圧縮度が60%以下であることが好ましい。「圧縮度」は、ホソカワミクロン社製の「パウダテスターPT−S型」にて測定した値を用い、(密充填嵩密度―疎充填嵩密度)/密充填嵩密度×100で算出できる。
【0030】
本発明の酸化錫粉末は、凝集度が60%以下であることが好ましい。「凝集度」の測定は、ホソカワミクロン社製の「パウダテスターPT−S型」による。
【0031】
本発明の酸化錫粉末は、Carr指数表における流動性評価で20以上の評価指数を持つことが好ましい。「流動性評価」は、非特許文献1に記載の評価方法に準ずる。
【0032】
ここで、酸化錫粉末は、例えば、次のようにして作製される。まずSn 99.5%以上の金属錫地金のインゴットを硝酸で分解して、メタ錫酸(H
2SnO
3)を生成させる。これを焼成( H
2SnO
3 → SnO
2 + H
2O↑ )して酸化第二錫を得る。焼成後の酸化第二錫焼結物を解砕することによって酸化錫粉末を得る(湿式法)。
【0033】
また、酸化錫粉末の製造方法として、上記方法の他に気相法(乾式法)がある。気相法は、溶融した錫地金を空気中で強熱、酸化することによって酸化錫粉末を得る。
【0034】
例えば、製造方法の違いによる特性の違いとして、粒子分布幅について、湿式法では広くなり易い上、D
50が5μmを下回るような粉末を得ることはコスト的に見合わない。一方、気相法では湿式法に比べて粒子径が比較的小さく、また、粒度分布幅は比較的狭くなる。
【0035】
そのため、本発明の酸化錫粉末は、気相法で製造されることが好ましい。このようにすれば、メディアン粒径D
50が0.3〜2.0μm未満で、流動性が良好な酸化錫粉末を得易い。
【0036】
本発明においては、珪酸塩ガラスが、無アルカリガラス又はLAS系結晶化ガラスであることが好ましい。ここで「無アルカリガラス」とは、実質的にアルカリ金属成分を含まないガラスを意味し、より具体的にはアルカリ金属酸化物(Li
2O、Na
2O、K
2O)の含有量が合量で1000ppm以下(0.1質量%以下)であるガラスを指す。「LAS系結晶化ガラス」とは、Li
2O、SiO
2及びAl
2O
3を必須成分として含有するとともに、ガラス中に結晶(特にβ−スポジュウメン及び/又はβ−石英固溶体)が析出しているガラスを指す。
【0037】
上記構成によれば、高温溶融が必要なガラスに本発明を適用することになり、本発明の効果を的確に享受できる。
【0038】
本発明においては、酸化物基準の質量%で、SiO
2 50〜80%、Al
2O
3 5〜25%、B
2O
3 0.1〜20%、MgO 0〜15%、CaO 3〜15%、SrO 0〜15%、BaO 0〜15%、RO(ROは、MgO、CaO、SrO及びBaOの合量を表す) 0〜25%、ZnO 0〜10%、ZrO
2 0〜10%、SnO
2 0.01〜1.5%であり、かつ実質的にアルカリ金属を含有しない珪酸塩ガラスとなるようにガラス原料を調合し、溶融、成形することが好ましい。ここで「実質的にアルカリ金属を含有しない」とは、アルカリ金属酸化物(Li
2O、Na
2O、K
2O)の含有量が合量で5000ppm以下(0.5質量%以下)であることを意味する。
【0039】
上記構成によれば、LCDの他、有機エレクトロルミネッセンスディスプレイ(OLED)、プラズマディスプレイパネル(PDP)、フィールドエミッションディスプレイ(FED)等のフラットパネルディスプレイ装置や、各種電子部品の基板等に好適なガラスを得ることが可能である。
【0040】
本発明においては、酸化物基準の質量%で、SiO
2 50〜80%、Al
2O
3 12〜30%、Li
2O 1〜6%、MgO 0〜5%、ZnO 0〜10%、BaO 0〜8%、Na
2O 0〜5%、K
2O 0〜10%、TiO
2 0〜8%、ZrO
2 0〜7%、P
2O
5 0〜10%、SnO
2 0.01〜2%含有する珪酸塩ガラスとなるようにガラス原料を調合し、溶融、成形した後、結晶化することが好ましい。
【0041】
上記構成によれば、石油ストーブや薪ストーブの前面窓、耐熱調理容器、電子部品焼成用セッター、電子レンジ用棚板、電磁調理器用トッププレート、防火戸、カラーフィルターイメージセンサー基板等のガラス材料に好適な低膨張結晶化ガラスを得ることが可能である。
【発明の効果】
【0042】
本発明の方法によれば、適切な粒度の酸化錫粉末を清澄剤として使用することができる。具体的には、本願発明の酸化錫粉末の粒度はメディアン粒径D
50が0.3〜2.0μm未満の範囲で十分小さいため、ガラスバッチへの添加量がごく少量であっても、バッチ中に均質に分散できる。更に、メディアン粒径D
50が小さいため、ガラス溶融時に清澄剤の反応性が高く、十分な清澄効果を得ることができ、延いては珪酸塩ガラスの泡品位を良好にできる。
【発明を実施するための形態】
【0043】
本発明の製造方法は、清澄剤として使用する酸化錫粉末として、メディアン粒径D
50が0.3〜2.0μm未満の範囲にあるものを使用することにより、泡品位の高いガラスを容易に得ることができる。
【0044】
酸化錫粉末の粒径は、メディアン粒径D
50が、0.3〜2.0μm未満、0.4〜1.8μm、0.5〜1.5μm、0.6〜1.2μmが好ましい。粒径が大きすぎると、ガラス溶融時のバッチ反応が遅れ、結果として十分な清澄性能が得られない。また、酸化錫粉末の粒径が小さすぎると、細かすぎて取り扱い難くなったり、凝集し易くなったりする。また、流動性が低下する場合がある。
【0045】
ここで、酸化錫粉末の粒径を上記の範囲に規定した場合でも、粉体の取り扱い性や分散性が懸念される場合は、以下のような観点から酸化錫粉末を更に規制すればよい。
【0046】
具体的には、非特許文献1に記載のCarr指数表を用い、各々の評価項目の指数や測定値により、酸化錫粉末を規制する。
【0047】
本発明の酸化錫粉末のD
60/D
10が、30以下、20以下、10以下、5以下、3以下であることが好ましい。このような特性の酸化錫粉末は、流動性が良好である。ここで、D
60/D
10が小さいほど、粒度分布幅が狭いことを示しており、一般的に、D
50が同じであれば、粒度分布が狭いほど、圧縮度や安息角が小さく、流動性が高いといえる。流動性が高いと、秤量、搬送、混合等のプロセスにおいて閉塞等の問題が起こり難いため、ガラス原料として十分な粉体取り扱い性を保つことができる。
【0048】
本発明の酸化錫粉末の疎充填嵩密度は、0.3〜0.8g/ml、0.35〜0.75g/ml、0.4〜0.7g/ml、0.45〜0.6g/mlであることが好ましい。ここで、疎充填嵩密度は、粒径、真密度、粒度分布、粒子形状等に関係し、特に、他の条件が同一であれば、粒子径が小さい粒子ほど疎充填嵩密度が小さくなる傾向がある。しかし、粒度分布等を調整すれば、メディアン粒径D
50が0.3〜2.0μm未満であっても、疎充填嵩密度が小さくなり過ぎず、原料の容積が大きくなりすぎない。
【0049】
本発明の酸化錫粉末の密充填嵩密度は、0.8〜1.8g/ml、0.85〜1.5g/ml、0.88〜1.2g/ml、0.88〜1.0g/mlの範囲であることが好ましい。このような特性の酸化錫粉末は、圧縮度が小さく、酸化錫粉末の流動性を良好にすることができる。
【0050】
本発明の酸化錫粉末の圧縮度は、60%以下、55%以下、50%以下、48%以下、44%以下、45%以下であることが好ましい。このような特性の酸化錫粉末は、流動性が良好で、ガラス原料として十分な粉体取り扱い性を保つことができる。一般的に圧縮度は、粒径が小さく粒度分布幅が広いほうが、大きくなる傾向にある。また、二次粒子に隙間が多いと、疎充填嵩密度と密充填嵩密度の差が小さくなって圧縮度も小さくなると考えられる。
【0051】
本発明の酸化錫粉末の凝集度は、60%以下、55%以下、50%以下、40%以下、30%以下であることが好ましい。このような特性の酸化錫粉末は、粒子同士が凝集し難く、バッチ中で均一に分散するため清澄効果が十分に得られ、ガラスの泡品位が向上する。更に、流動性が良好であるため、ガラス原料として十分な粉体取り扱い性を保つことができる。凝集度は、ホソカワミクロン社製の「パウダテスターPT−S型」により、同装置による嵩密度測定結果に基づいて算定された目開きの篩の通過割合で決定され、凝集し難い粉体ほど篩を通過する割合が多く、凝集度が低くなる。また、粉体が一旦凝集していた場合でも、篩分けする際に解れ、その結果篩を通過するのであれば、凝集度は低くなる。
【0052】
本発明の酸化錫粉末は、安息角が60°以下、55°以下、50°以下、45°以下であることが好ましい。酸化錫粉末の安息角が小さいと、流動性が良好であり、ガラス原料として十分な粉体取り扱い性を保つことができる。
【0053】
本発明の酸化錫粉末は、スパチュラ角が80°以下、70°以下、65°以下、60°以下であることが好ましい。スパチュラ角は、原料投入サイロから粉体原料を排出する際の排出し易さを示しており、角度が小さいほうが、流動性が良好であり、ガラス原料として十分な粉体取り扱い性を保つことができる。
【0054】
本発明の酸化錫粉末は、Carr指数表における流動性指数で、20以上、25以上、30以上、40以上、50以上の流動性指数を持つことが好ましい。このような特性の酸化錫粉末は、原料投入サイロの架橋防止対策として、特別な装置と技術が不要になる。そのため、生産コストを高騰させることなく生産できる。
【0055】
本発明の酸化錫粉末は、気相法で製造されることが好ましい。気相法で生産された酸化錫粉末は、粒径が小さく、粒度分布幅が狭いため、流動性が良好である。その結果、ガラス原料として十分な粉体取り扱い性を保つことができる。また、粒径が小さいため、バッチ中に均一に分散しやすい上、反応性が高く、清澄剤として用いた場合に、珪酸塩ガラスの泡品位を良好にできる。
【0057】
まず、シリカ源、アルミナ源、硼酸源、アルカリ土類金属源、アルカリ金属源、清澄剤源等となるガラス原料を、目標とするガラス組成となるように計量、混合してバッチを調製する。また必要に応じてガラスカレットをガラス原料として使用してもよい。なおガラスカレットとは、ガラスの製造の過程等で排出されるガラス屑である。各原料及びガラス組成については後述する。
【0058】
次いで調合したバッチを、溶融窯のガラス原料投入口から投入し、溶融、ガラス化する。溶融窯へのバッチの投入は、連続的に行われるが、断続的であってもよい。また溶融窯内でのバッチの溶融温度は1500〜1600℃程度である。このようにしてガラス原料を溶融し、溶融ガラスとする。
【0059】
次に溶融ガラスを成形装置に供給し、所定の肉厚、表面品位、形状を有するようにガラスを成形し、切断する。ガラスを板状に成形する方法としては、公知のオーバーフローダウンドロー法、フロート法、その他の板ガラス成形法を用いることができる。大型のガラス基板を大量に生産するには、オーバーフローダウンドロー法やフロート法を採用すればよい。研磨工程を省略したい場合には、オーバーフローダウンドロー法を採用すればよい。またガラスを容器状に成形する場合は、公知のプレス法等を使用すればよい。
【0060】
さらに必要に応じて、熱処理して結晶化させたり、表面研磨、端面加工、絵付け等の後加工を施したりすることもできる。
【0061】
このようにして作製されたガラス物品は、種々の用途に供される。
【0062】
続いて本発明において使用するガラス原料について説明する。
【0063】
シリカ源には、珪砂(SiO
2)を用いることができる。
【0064】
アルミナ源には、アルミナ(Al
2O
3)、または水酸化アルミニウム(Al(OH)
3)等を用いることができる。
【0065】
硼酸源には、硼酸(H
3BO
3)及び無水硼酸(B
2O
3)を用いることができる。
【0066】
アルカリ土類金属源には、炭酸カルシウム(CaCO
3)、酸化マグネシウム(MgO)、水酸化マグネシウム(Mg(OH)
2)、炭酸バリウム(BaCO
3)、硝酸バリウム(Ba(NO
3)
2)、炭酸ストロンチウム(SrCO
3)、硝酸ストロンチウム(Sr(NO
3)
2)等を用いることができる。
【0067】
アルカリ金属源には、炭酸リチウム(Li
2CO
3)、炭酸ナトリウム(Na
2CO
3)、炭酸カルシウム(CaCO
3)、硝酸ナトリウム(NaNO
3)、硝酸カリウム(KNO
3)、スポジュウメン(LiAlSi
2O
6)等を用いることができる。
【0068】
清澄剤源には、メディアン粒径D
50が0.3〜2.0μm未満の範囲にある酸化錫(SnO
2)の粉末を用いる。酸化錫粉末は、ガラス原料を調合する前に、分級等の方法によりメディアン粒径D
50が0.3〜2.0μm未満の範囲となるように調整しておけばよい。なお、酸化錫粉末のメディアン粒径D
50の好ましい範囲や、その他の特徴については既述の通りであり、ここでは説明を割愛する。
【0069】
また清澄力を補完するために、塩化バリウム(BaCl
2)等の塩化物、或いはその他の清澄剤を併用してもよい。なお環境上の理由から、酸化ヒ素(As
2O
3)や酸化アンチモン(Sb
2O
3)の使用は避けるべきである。
【0070】
上記以外にも、ガラス組成に応じて種々のガラス原料を用いることができる。例えば亜鉛源として酸化亜鉛(ZnO)等を、ジルコニア源としてジルコン(ZrSiO
4)等を、チタン源として酸化チタン(TiO
2)等を、リン酸源としてトリポリリン酸ソーダ(Na
5P
3O
10)、メタリン酸アルミ(Al(PO
3)
3)、リン酸マグネシウム(MgP
2O
7)等をそれぞれ使用することができる。
【0071】
次に、目標とするガラス組成を例示する。
【0072】
例えばLCD用ガラス基板として使用される場合、電気特性、耐熱性、耐久性等に優れることが要求される。このような要求を満たす好適なガラスとして、酸化物基準の質量%で、SiO
2 50〜80%、Al
2O
3 5〜25%、B
2O
3 0.1〜20%、MgO 0〜15%、CaO 3〜15%、SrO 0〜15%、BaO 0〜15%、RO(ROは、MgO、CaO、SrO及びBaOの合量を表す) 0〜25%、ZnO 0〜10%、ZrO
2 0〜10%、SnO
2 0.01〜1.5%含有し、かつ実質的にアルカリ金属を含有しない無アルカリガラスを例示することができる。上記組成のガラスは、LCD基板用途以外にも、OLED、PDP、FED等のフラットパネルディスプレイ装置や各種電子部品の基板として、或いはこれらのカバーガラス等として好適に使用できる。
【0073】
無アルカリガラスの組成範囲を上記のように限定した理由を以下に述べる。なお以降の説明では特に断りのない限り、「%」は「質量%」を意味する。
【0074】
SiO
2の含有量が少なすぎると歪点が低下し、ディスプレイ装置を製造する際の熱処理工程で、ガラス基板が割れたり、熱変形や熱収縮が起こりやすくなったりする。また熱膨張係数が大きくなりすぎて、周辺材料の熱膨張係数との整合性が取りにくくなったり、耐熱衝撃性が低下しやすくなったりする。さらに、耐酸性も悪化する。一方、SiO
2の含有量が多すぎると、高温粘度が高くなり、溶融や成形が困難となる。また、熱膨張係数が小さくなりすぎて、周辺材料の熱膨張係数との整合性が取りにくくなる。SiO
2含有量の好適な範囲は52〜70%である。
【0075】
Al
2O
3の含有量が多すぎると、歪点が低下し、ディスプレイを製造する際の熱処理工程で、ガラス基板が割れたり、熱変形や熱収縮が起こりやすくなったりする。一方、Al
2O
3の含有量が少なすぎると、耐バッファードフッ酸性が低下したり、液相温度が上昇してガラス基板の成形が困難になったりする。Al
2O
3含有量の好適な範囲は7〜22%である。
【0076】
B
2O
3は、粘性を低下させ、かつ溶融性を高める成分であるが、過剰に含有すると、歪点が低くなり、ディスプレイを製造する際の熱処理工程で、ガラス基板が割れたり、熱変形や熱収縮が起こりやすくなったりする。一方、B
2O
3の含有量が少なすぎると、融剤としての効果を得難くなる。B
2O
3含有量の好適な範囲は3〜20%である。
【0077】
MgOは、歪点を低下させずに、高温粘度を低下させて、溶融性を改善する成分である。MgOの含有量が多すぎると、クリストバライトやエンスタタイトの失透ブツが発生しやすくなる傾向にある。さらに耐バッファードフッ酸性が低下し、フォトエッチング工程でガラス基板が侵食され、その反応生成物がガラス基板の表面に付着し、ガラス基板が白濁しやすくなる。MgO含有量の好適な範囲は0〜10%である。
【0078】
CaOは、歪点を低下させずに高温粘度のみを低下させて、溶融性を改善する。CaOの含有量が多すぎると、耐バッファードフッ酸性が低下するとともに、密度や熱膨張係数が上昇する。CaOの含有量が少なすぎると高温粘度が上昇し溶融性が悪化し易くなる。CaO含有量の好適な範囲は3〜12%である。
【0079】
SrOは、耐薬品性と耐失透性を向上させる成分である。SrOの含有量が多すぎると、密度や熱膨張係数が上昇する。SrO含有量の好適な範囲は0〜12%である。
【0080】
BaOは、耐薬品性と耐失透性を向上させる成分である。BaOの含有量が多すぎると、密度や熱膨張係数が上昇する。BaO含有量の好適な範囲は0〜12%である。
【0081】
アルカリ土類金属酸化物(MgO、CaO、SrO及びBaO)は、混合して含有させると、溶融性と、耐失透性を向上させることができるが、これらの成分の合量ROが多すぎると、密度が上昇する傾向にあり、ガラス基板の軽量化が困難となる。一方、これらの成分の合量ROが少なすぎると溶融性が悪化し、失透性が悪化し易くなる。ROの好適な範囲は3〜22%である。
【0082】
ZnOは、耐バッファードフッ酸性を改善するとともに、溶融性を改善する成分である。ZnOの含有量が多すぎると、ガラスが失透しやすくなったり、歪点が低下したりする。ZnO含有量の好適な範囲は0〜5%である。
【0083】
ZrO
2は、耐薬品性、特に耐酸性を改善し、ヤング率を向上させる成分である。ZrO
2の含有量が多すぎると、液相温度が上昇し、ジルコンの失透ブツが出やすくなる。ZrO
2含有量の好適な範囲は0〜2%である。
【0084】
SnO
2は、清澄剤として作用する成分である。SnO
2の含有量が多すぎると失透が生じ易くなる。SnO
2の含有量が少なすぎると十分な清澄効果を発揮することが困難になる。SnO
2の好適な範囲は0.01〜1%である。
【0085】
As
2O
3やSb
2O
3は、環境上の理由から、実質的に含有しないことが好ましい。ここで、「実質的にAs
2O
3やSb
2O
3を含有しない」とは、ガラス組成中のAs
2O
3やSb
2O
3の含有量が、各々0.1%(1000ppm)以下であることを意味する。
【0086】
Fe
2O
3は、ガラスの透過率に影響を与える成分である。Fe
2O
3は、工程中或いは原料から不純物として混入する成分であるが、その含有量が0.001〜0.03%となるように調合することが好ましい。Fe
2O
3の含有量が多すぎると、ガラス基板の透過率が低下しやすくなる。一方、Fe
2O
3の含有量を0.001%より少なくしようとすると、原料コストや製造コストが上昇する。
【0087】
アルカリ金属酸化物(Li
2O、Na
2O、K
2O)は、実質的に含有しないことが好ましい。アルカリ金属酸化物を実質的に含有しないとは、その含有量を0.5%以下に抑えるという意味である。アルカリ金属酸化物の含有量が合量で0.5%を超えると、基板上にTFTを成膜する際の熱処理時に、アルカリ金属が成膜されたTFT半導体物質中に拡散し、膜特性が劣化する。
【0088】
上記以外にも、ガラス特性が損なわれない限り、種々の成分を添加可能である。例えばY
2O
3、La
2O
3、Nd
2O
3、TiO
2等を添加しても良い。
【0089】
また電磁調理器やガス調理器のトッププレート等に使用される場合、電気特性、耐熱性、耐久性等が要求される。このような要求を満たす好適なガラスとして、酸化物基準の質量%で、SiO
2 50〜80%、Al
2O
3 12〜30%、Li
2O 1〜6%、MgO 0〜5%、ZnO 0〜10%、BaO 0〜8%、Na
2O 0〜5%、K
2O 0〜10%、TiO
2 0〜8%、ZrO
2 0〜7%、P
2O
5 0〜10%、SnO
2 0.01〜2%含有するLAS系結晶化ガラスを例示することができる。なおこの結晶化ガラスは、調理用トッププレート以外にも、石油ストーブ、薪ストーブ等の前面窓、耐熱調理容器、電子部品焼成用セッター、電子レンジ用棚板、防火戸、カラーフィルターイメージセンサー基板等のガラス材料にも好適に使用できる。
【0090】
例示したLAS系結晶化ガラスの組成範囲を上記のように限定した理由を以下に述べる。なお以降の説明では特に断りのない限り、「%」は「質量%」を意味する。
【0091】
SiO
2は、ガラスの骨格を形成すると共に、晶出結晶の主要構成成分でもある。SiO
2の含有量が少なすぎると熱膨張係数が高くなりすぎる。一方、SiO
2の含有量が多すぎると高温粘度が高くなり、溶融や成形が困難となる。SiO
2含有量の好適な範囲は52〜77%である。
【0092】
Al
2O
3はガラスの骨格を形成すると共に、晶出結晶の構成成分でもある。Al
2O
3の含有量が少なすぎると化学的耐久性が悪化し、またガラスが失透しやすくなる。一方、Al
2O
3の含有量が多すぎると、高温粘度が高くなり、溶融や成形が困難となる。Al
2O
3含有量の好適な範囲は13〜28%である。
【0093】
Li
2Oは、結晶構成成分であり、結晶性に大きな影響を与えると共に、粘性を低下させる働きがある。Li
2Oの含有量が少なすぎると、結晶性が弱くなり、熱膨張係数が大きくなりすぎる。また、透明結晶化ガラスの場合には、結晶物が白濁しやすくなり、白色結晶化ガラスの場合には、白色度低下が起こりやすくなる。一方、Li
2Oの含有量が多すぎると結晶性が強くなりすぎ、ガラスが失透したり、準安定なβ‐石英固溶体が得られなくなって結晶物が白濁したりして、透明結晶化ガラスを得ることができなくなる。Li
2O含有量の好適な範囲は1.2〜5.5%である。
【0094】
MgOの含有量が多すぎると結晶性が強くなり、析出結晶量が多くなりすぎてしまう。MgOの好適な範囲は0〜4.5%である。
【0095】
ZnOの含有量が多すぎると結晶性が強くなり、析出結晶量が強くなりすぎてしまう。ZnOの好適な範囲は0〜8%である。
【0096】
またMgOとZnOの合量は0〜10%、特に0〜8%であることが好ましい。これらの成分の合量が多すぎると結晶物の着色が強くなりやすい。
【0097】
BaOの含有量が多すぎると結晶の析出が阻害されるために十分な結晶量が得られず、熱膨張係数が大きくなりすぎる。さらに透明結晶化ガラスを得る場合には、結晶物が白濁しやすくなる。BaOの好適な範囲は0.3〜7%である。
【0098】
Na
2Oの含有量が多すぎると結晶性が弱くなって十分な結晶量が得られず、また熱膨張係数が大きくなりすぎる。Na
2Oの好適な範囲は0〜4%である。
【0099】
K
2Oの含有量が多すぎると結晶性が弱くなって十分な結晶量が得られず、また熱膨張係数が大きくなりすぎる。さらに透明結晶化ガラスを得る場合には結晶物が白濁しやすくなる。K
2Oの好適な範囲は0〜8%である。
【0100】
またNa
2OとK
2Oの合量は0〜12%であることが好ましい。これらの成分の合量が多すぎると熱膨張係数が大きくなりやすい。また透明結晶化ガラスを得る場合には結晶物が白濁しやすくなる。
【0101】
TiO
2は結晶化時の核形成剤である。TiO
2の含有量が多すぎると不純物着色が著しくなる。TiO
2の含有量の好適な範囲は0.3〜7%である。
【0102】
ZrO
2も結晶化時の核形成剤である。ZrO
2が多すぎると溶融が困難になると共に、ガラスの失透性が強くなる。ZrO
2の好適な範囲は0.5〜6%である。
【0103】
またTiO
2とZrO
2の合量は0.5%以上であることが好ましい。これらの成分の合量が少なすぎると結晶の析出が不十分となって、所望の特性を得ることが困難になる。
【0104】
P
2O
5は、分相を促進させて、結晶の析出を促がす成分である。含有量が多すぎるとガラスマトリックスの粘度が低下する。P
2O
5の好適な範囲は0〜5%である。
【0105】
SnO
2は、清澄剤として作用するとともに、核形成剤としての機能も有しており、ZrO
2−TiO
2−SnO
2系結晶核を形成する。SnO
2の含有量が少なすぎると清澄効果が十分ではなく、結晶性が低下する。一方、SnO
2の含有量が多すぎるとFeイオンによる着色が著しくなり好ましくない。またガラス溶融が困難になったり、失透しやすくなったりする。SnO
2含有量の好適な範囲は0.01〜1.8%である。
【0106】
またSnO
2による清澄を補助するためにClを0〜2%含有させることができる。ただしClの含有量が多すぎると化学的耐久性が劣化してしまい好ましくない。Clの好適な範囲は0〜1%である。
【0107】
上記以外にも、ガラス特性が損なわれない限り、種々の成分を添加可能である。例えばY
2O
3、La
2O
3、Nd
2O
3等を添加しても良い。また着色剤として、例えばV
2O
5を1.5%までは含有することができる。
【0108】
なおAs
2O
3やSb
2O
3は、環境上の理由から、実質的に含有しないことが好ましい。ここで、「実質的にAs
2O
3やSb
2O
3を含有しない」とは、ガラス組成中のAs
2O
3やSb
2O
3の含有量が、各々0.1%(1000ppm)以下であることを意味する。
【実施例】
【0109】
以下、実施例に基づいて本発明を説明する。
【0110】
表1、表3は、本願の実施例実施例(No.1、3、4、6〜9)及び比較例(No.2、5、10)であり、表2、表4は、本願の方法を適用して作製するガラス組成の例を示している。
【0111】
試料No.1〜5は次のようにして作製した。まず表2の試料Aのガラス組成となるようにガラス原料を調合し、連続溶融炉で溶融した。また、清澄剤として表1に示す特性を有する酸化第二錫をそれぞれ使用した。続いて、オーバーフロー法で、肉厚が0.7mmとなるよう成形し、1.8m×1.5mのサイズに切断することで試料ガラスとした。なお、試料No.2は後述するように、ガラスを得ることができなかった。
【0112】
【表1】
【0113】
【表2】
【0114】
No.1、3、4は、使用した酸化錫粉末のD
50が本願請求範囲内に収まっているため、ガラス原料として十分な粉体取り扱い性を有する上、得られたガラスの泡品位も良好であった。
【0115】
No.2は、D
50が0.25μmと小さく、流動性が低いため、搬送中に原料が閉塞してしまう事態が起こり、ガラスが採取できなかった。No.5は、D
50が25μmと大きい酸化錫粉末を使用したため、ガラスの泡品位が劣っていた。
【0116】
試料No.6〜10は次のようにして作製した。まず表4の試料Jのガラス組成となるようにガラス原料を調合し、連続溶融炉で溶融した。また、清澄剤として表3に示す特性を有する酸化第二錫をそれぞれ使用した。続いて、ロールアウト法で、肉厚が5mmとなるよう成形し、1m×1mのサイズに切断した。その後、800℃で2時間熱処理して結晶化させ、試料ガラスとした。なお得られた試料ガラスは何れも透明であり、X線回折の結果、β−石英固溶体が析出していた。
【0117】
このようにして用意した各試料について、泡品位を評価した。結果を表3に示す。
【0118】
【表3】
【0119】
【表4】
【0120】
No.6、7、8、9は、使用した酸化錫粉末のD
50が本願請求範囲内に収まっているため、ガラス原料として十分な粉体取り扱い性を有する上、得られたガラスの泡品位も良好であった。
【0121】
更に、No.6はD
60/D
10が小さく、凝集度が低く、流動性指数が優れているため、ガラス原料として粉体取り扱い性が良好である上、ガラスの泡品位も優れていた。
【0122】
No.10は、D
50が30μmと大きい酸化錫粉末を使用したため、ガラスの泡品位が劣っていた。
【0123】
上記実験で得られた現象は、表2、表4に示す、その他の材質でも同様に生じるものと考えられる。
【0124】
表1、3から明らかなように、実施例であるNo.1、3、4及びNo.6〜9の各試料は、泡数が50個/t以下と少なく、フラットパネルディスプレイ装置や電子部品に用いられるガラス基板として問題なく使用できるものであった。
【0125】
なお、実施例として、ガラス組成の例を表2及び表4に示したが、本願の方法を適用して作製するガラス組成はこれらに限られるものではない。
【0126】
これに対して、比較例であるNo.5及び10の各試料は、泡数が300個/t以上と多く、泡品位が劣っていた。またNo.2の試料は、凝集度が高く、流動性が悪く、調合プラントが詰り、ガラスバッチに酸化第二錫を供給できなかった。
【0127】
なお泡品位の評価は、試料表面の泡を光学装置にて検出し、カウントした個数をガラス1t(トン)当りに換算して求めた。