(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
工具軸線(140A)周りに回転する工具本体(140)と、該工具本体(140)に着脱可能に取り付けられる切削インサート(10)と、を備える刃先交換式穴あけ工具(100)であって、
前記工具本体(140)は、
前記工具軸線(140A)の近傍に形成された第1インサート取付座(110)と、
該第1インサート取付座(110)よりも前記工具軸線(140A)から離間した位置に形成された第2インサート取付座(120)と、を備え、
前記切削インサート(10)は、
対向する第1の端面(20)及び第2の端面(30)と、
該第1の端面(20)及び第2の端面(30)に接続する周側面(40)と、
該第1の端面(20)と該周側面(40)との交差部に沿って形成された少なくとも1つの第1切れ刃(28)と、
該第2の端面(30)と該周側面(40)との交差部に沿って形成された少なくとも1つの第2切れ刃(38)であって、前記第1切れ刃(28)と異なる形状を有する第2切れ刃(38)と、を備え、
前記第1インサート取付座(110)には前記第1切れ刃(28)を作用切れ刃とするように前記切削インサート(10)が取り付けられ、
前記第2インサート取付座(120)には前記第2切れ刃(38)を作用切れ刃とするように前記切削インサート(10)が取り付けられ、
前記第1の端面(20)は、前記第1切れ刃(28)から前記第2の端面(30)側に向かって傾斜する傾斜面(24)と、インサート厚さ方向に延びるインサート軸線の周囲に延在するとともに前記傾斜面(24)よりも内側の部位の全体にわたって延在する内側面(25)と、を備え、
前記第1の端面(20)の前記内側面(25)は、その全体が、前記第1の端面(20)側の前記第1切れ刃(28)よりもインサート厚さ方向において前記第2の端面(30)側に位置し、
前記第1の端面(20)に複数の凹部(26)が形成され、該凹部(26)の各々は前記傾斜面(24)と前記内側面(25)との境界部に、少なくとも一部が形成され、
前記第2の端面(30)は、前記周側面(40)から離れるとともに前記インサート軸線の周囲に延在する内側面(35)を備え、
前記第2の端面(30)は、前記第2切れ刃(38)と前記内側面(35)との間に、前記第2切れ刃(38)側から順に、前記第1の端面(20)側に向かって傾斜する傾斜面(37)と、該第1の端面(20)から離れるように立ち上がる立ち上がり面(34c)とを備え、
前記第2の端面(30)の前記立ち上がり面(34c)は、前記第2切れ刃(38)に向かって凸に湾曲する複数の凸湾曲部(36a)を備える、
刃先交換式穴あけ工具(100)。
前記複数の凹部(26)の各々は、前記第1の端面(20)に対向する側から前記切削インサート(10)をみたとき、前記第1切れ刃(28)に対してほぼ直交する方向に延びる、請求項1から3のいずれか一項に記載の刃先交換式穴あけ工具(100)。
前記第2の端面(30)は、前記立ち上がり面(34c)を含むチップブレーカ溝を備え、該チップブレーカ溝の底部(34b)は、前記第2の端面(30)において、もっとも前記第1の端面(20)側に位置する、請求項1から4のいずれか一項に記載の刃先交換式穴あけ工具(100)。
前記第1の端面(20)および前記第2の端面(30)のそれぞれの基本形状は略三角形であり、該第1の端面(20)および該第2の端面(30)はそれぞれ3つの角部を有する、請求項7に記載の刃先交換式穴あけ工具(100)。
前記第1インサート取付座(110)の前記第1切れ刃(28)の前記工具軸線(140A)周りの回転軌跡は前記第2インサート取付座(120)の前記第2切れ刃(38)の前記工具軸線(140A)周りの回転軌跡と部分的に交わる、
請求項1から10のいずれか一項に記載の刃先交換式穴あけ工具(100)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述のドリルは、ドリル軸線周りに回転されて用いられ、中心刃と外周刃とは中心軸側から順に離れるように配置される。それ故、ドリル回転時の中心刃の移動速度(単位時間当たりに切れ刃部分が移動する距離)はそのときの外周刃の移動速度よりも概して遅く、同一切れ刃においてもドリル軸線に近い部分ほどその移動速度は相対的に遅くなる。このような切れ刃の速度は切りくずの流出速度と関係があり、任意の切れ刃部分による切りくずの流出速度は、それよりも外周側の切れ刃部分による切りくずの流出速度よりも遅い。これは、単一切れ刃の異なる箇所間でも同様に成立する。したがって、単一切れ刃により1枚の切りくずが生成するとき、その切りくずの幅方向でその流出速度に差が生じる。この1枚の切りくずの流出速度差は、外周刃よりも中心刃での切削で顕著である。1枚の切りくずにおいてそのような流出速度差が生じることで、切りくずは円錐形になりやすい。
【0007】
きれいな円錐形の切りくずを生成するためには、すくい面上に適当な大きさの空間が必要になる。十分な大きさの空間が無いと、切りくずは生成過程で押しつぶされる。そのことが原因で切削抵抗の増大、または工具の振動が引き起こされ、工具寿命が短くなる傾向にある。この現象は、特に工具径が27mm以下の比較的小径の刃先交換式切削工具において顕著である。つまり、切削インサート自体が小さくなっても、それを工具本体に固定するねじの太さは、強度の問題である程度までしか細くできない。比較的小径の工具に用いられる切削インサートの上面の内接円半径は例えばおおよそ6mm程度である一方、この切削インサートの固定ねじ用の貫通孔の径は、内接円半径がそれより大きいものとさほど変わらない。それ故、比較的小径のドリル用の切削インサートでは、必然的に切れ刃から貫通孔までの上面部分の面積が小さくなる。結果として、すくい面は十分な大きさを確保することができず、すくい面上に所望の空間を確保することが難しい。
【0008】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものである。すなわち、本発明の目的は、例えば外周刃と中心刃とである2種類の切れ刃を備えた切削インサートにおいて、切りくずの好適な生成を促すことにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1態様によれば、
工具軸線周りに回転する工具本体と、該工具本体に着脱可能に取り付けられる切削インサートと、を備える刃先交換式穴あけ工具であって、
前記工具本体は、
前記工具軸線の近傍に形成された第1インサート取付座と、
該第1インサート取付座よりも前記工具軸線から離間した位置に形成された第2インサート取付座と、を備え、
前記切削インサートは、
対向する第1の端面及び第2の端面と、
該第1の端面及び第2の端面に接続する周側面と、
該第1の端面と該周側面との交差部に沿って形成された少なくとも1つの第1切れ刃と、
該第2の端面と該周側面との交差部に沿って形成された少なくとも1つの第2切れ刃)であって、前記第1切れ刃と異なる形状を有する第2切れ刃と、を備え、
前記第1インサート取付座には前記第1切れ刃を作用切れ刃とするように前記切削インサートが取り付けられ、
前記第2インサート取付座には前記第2切れ刃を作用切れ刃とするように前記切削インサートが取り付けられ、
前記第1の端面は、前記第1切れ刃から前記第2の端面側に向かって傾斜する傾斜面と、インサート厚さ方向に延びるインサート軸線の周囲に延在するとともに前記傾斜面よりも内側の部位の全体にわたって延在する内側面と、を備え、
前記第1の端面の前記内側面は、その全体が、前記第1の端面側の前記第1切れ刃よりもインサート厚さ方向において前記第2の端面側に位置
し、
前記第1の端面に複数の凹部が形成され、該凹部の各々は前記傾斜面と前記内側面との境界部に、少なくとも一部が形成され、
前記第2の端面は、前記周側面から離れるとともに前記インサート軸線の周囲に延在する内側面を備え、
前記第2の端面は、前記第2切れ刃と前記内側面との間に、前記第2切れ刃側から順に、前記第1の端面側に向かって傾斜する傾斜面と、該第1の端面から離れるように立がる立ち上がり面とを備え、
前記第2の端面の前記立ち上がり面は、前記第2切れ刃に向かって凸に湾曲する複数の凸湾曲部を備える、
刃先交換式穴あけ工具
が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態を、図面を用いて説明する。一実施形態の切削インサート10を
図1から
図9Bに基づいて説明する。この切削インサート10が着脱可能に取り付けられる切削工具100および工具本体を
図10Aから
図14に基づいて説明する。
【0022】
図1〜
図4に示されるように、切削インサート10は、第1の端面20と、第1の端面に対向するつまり反対側を向いた第2の端面30と、これらの間に延びる周側面40とを備える。さらに、切削インサート10は、第1の端面20から第2の端面30まで貫通する貫通孔50を備える。貫通孔50はインサート厚さ方向に延びる軸線50Aを有する。この軸線50Aに関して切削インサート10は実質的に回転対称であるように形成されている。なお、以下では、第1の端面及び第2の端面を上面及び下面とそれぞれ称するが、これら「上」、「下」という用語は便宜上用いられるに過ぎず、本発明を限定することを意図しないことが理解されよう。
【0023】
上面20は、上面20に対向する側から切削インサートをみたとき(
図5参照)、つまり上面視において、略三角形である。それ故、上面20は、3つの角部60を有する。上面視において、上面20の2つの隣り合う角部60間に、長辺部21と、この長辺部21の両脇にそれぞれ配置された短辺部22、23とが延在する。1つの角部60には、1つの長辺部21に接続する第1短辺部22と、もう1つの長辺部21に接続する第2短辺部23とが接続する。
図5において、1つの長辺部21の左側に第1短辺部22が接続し、その長辺部21の右側に第2短辺部23が接続する。第1短辺部22と長辺部21との間のコーナは第1コーナ21aであり、第2短辺部23と長辺部21との間のコーナは第2コーナ21bである。
図5において、第1コーナ21a及び第2コーナ21bはそれぞれ鈍角である。短辺部22、23はそれぞれ、長辺部21に比べて十分に短い。
【0024】
同様に、下面30も、下面30に対向する側から切削インサートをみたとき(
図6参照)、つまり下面視において、略三角形である。それ故、下面30は、3つの角部70を有する。下面視において、下面30の2つの隣り合う角部70間に、長辺部31と、この長辺部31の両脇にそれぞれ配置された短辺部32、33とが延在する。1つの角部70には、1つの長辺部31に接続する第1短辺部32と、もう1つの長辺部31に接続する第2短辺部33とが接続する。
図6において、1つの長辺部31の右側に第1短辺部32が接続し、その長辺部31の左側に第2短辺部33が接続する。第1短辺部32と長辺部31との間のコーナは第1コーナ31aであり、第2短辺部33と長辺部31との間のコーナは第2コーナ31bである。
図6において、第1コーナ31a及び第2コーナ31bはそれぞれ鈍角である。短辺部32、33はそれぞれ、長辺部31に比べて十分に短い。
【0025】
周側面40は、上面20及び下面30のそれぞれの辺部及び角部に応じた形状を有し、複数の側面(つまり側面領域)を有する。
【0026】
図5から明らかなように、上面20は下面30よりも若干小さい。この大きさの違いは、主に、上面20の第2短辺部23及び角部60と下面30の第2短辺部33及び角部70とを接続する側面43の傾斜と関係する。長辺部21と接続する側面41及び第1短辺部22と接続する側面42は、傾斜せずに上面20に対してほぼ直交、すなわち軸線50Aにほぼ平行に伸びている。一方、第2短辺部23と接続する側面43は、上面20側のわずかな上側部分では軸線50Aにほぼ平行であり、下面30側の大部分の下側部分では上面20側から下面30に向かって外方に広がり、負の逃げ角がつくように傾斜する傾斜面として形成されている。さらに、
図1から
図4に示すように、この側面43は、上面20の第2短辺部23から、下面30の第2短辺部33に向かって伸び、両者をつないでいる。すなわち、この側面43は概ね上面20から下面30に向かって末広がりに傾斜している。そして、この側面43は角部60にも延在し、上面20の角部60から下面30の角部70まで延在する側面44を含み、側面40も同様に傾斜する。したがって、上面20側から切削インサートを見た
図5において、周側面40のうち、第2短辺部23および角部60に接続する側面43のみが、明瞭な面部分として表されている。
【0027】
このように、周側面40は、3つの側面41、42、43を有し、これら側面41、42、43は切削インサートの周方向において連続する。
【0028】
切削インサート10において、切れ刃は、上面20と周側面40との交差稜線部(つまり交差部)に形成されると共に、下面30と周側面40との交差部に形成される。上面20と周側面40との交差部には、3つの第1切れ刃28が形成される。各第1切れ刃28は、隣り合う角部60間に延在する。第1切れ刃28は、長辺部21に沿う主切れ刃28aと、第1コーナ21aに沿う第1コーナ刃28bと、第1短辺部22に沿う第1副切れ刃28cと、第2コーナ21bに沿う第2コーナ刃28dとを含む。第1切れ刃28は、第2短辺部23に沿う第2副切れ刃をさらに備えてもよいが、ここでは含まない。それは、第2短辺部23につながる側面43が上述のごとく概して下面30に近づくほど外方に突き出るように傾斜しているからである。つまり、第1切れ刃28は、後述するように切削インサート10が工具本体に取り付けられたとき、第1切れ刃全体に関して正の逃げ角を付与するのに適するように、平面S1に対して全体としてみたときに概ね鈍角なインサート内角αをなす側面43と上面20との交差部に切れ刃部分を有さない。平面S1は、
図8Aに示され、軸線50Aに直交すると共に、上面20と側面43との交差部の第1切れ刃28の主切れ刃28aを通過するように定められている。主切れ刃28a以外の第1切れ刃28の残りの部分は
図8Aにおいて概ね平面S1の下方に位置する。
【0029】
下面30と周側面40との交差部には、第2切れ刃38が形成される。各第2切れ刃38は、関連する角部70を取り囲むように第2短辺部33から第1短辺部32を介して長辺部31まで延びている。第2切れ刃38は、長辺部31に沿う内側刃38aと、第1コーナ31aに沿う第1コーナ刃38bと、第1短辺部32に沿う外側刃38cと、角部70に沿う第2コーナ刃38dと、第2短辺部33に沿う副外側刃38eと、第2コーナ31bに沿う第3コーナ刃38fとを含む。
図13に示す配置では、外側刃38cが主切れ刃として機能するが、これに限らず、切削インサート10の配置の位置関係に応じて内側刃38aと外側刃38cの主副の関係は決定されるものであってよい。また、第2短辺部33に沿う副外側刃38e及び第2コーナ31bに沿う第3コーナ刃38fは、加工穴の外周壁を削るように機能することができる。
【0030】
したがって、下面30と周側面40との交差稜線部全体に亘って切れ刃は形成され、1つの第2切れ刃38は両隣の2つの第2切れ刃38に連続的に接続する。側面43は上述のように傾いているので、軸線50Aに直交すると共に第2切れ刃38の第2コーナ切れ刃38dを通過するように定められる平面S2に対して鋭角のインサート内角βをなす。
【0031】
このような形状を有する切削インサート10は、インサート中心軸線である軸線50Aの周りに3回回転対称である。
【0032】
次に、上面20の構造を説明する。上面20は、その縁部に隣接し下面30側に向かって傾斜する傾斜面24と、傾斜面24に接続しインサート厚さ方向に略直交(軸線50Aに対して略直交)に延在する平坦面25とを備える。傾斜面24は、この切削インサートが工具本体に取り付けられたとき、切削加工時にすくい面として機能する。平坦面25は、切削インサート10を工具本体に取り付ける際に、インサート取付座の底壁面と当接するべく着座面(第1着座面)として機能するように形成されている。平坦面25は、このように周側面40との間に傾斜面24を介するので周側面40から離れ、インサート軸線である軸線50Aを有する取付穴50の周囲に延在し、ここでは特に取付穴50に実質的に連続するように延在する。よって、平坦面25は上面20のうちでインサート内側に延在する内側面である。
【0033】
図8A及び
図8Bに示すように、平坦面25は、上面20の縁部(第1切れ刃28に相当)よりも、下面30側に下がった位置に延在する(
図8Bの距離W1参照)。言い換えると、下面30のある場所を高さの基準としたときに、平坦面25の方が上面20の縁部よりも低い位置、つまり下面30に近い位置にある。
【0034】
なお、本実施形態では、平坦面25は、着座面として機能するものとしたが、本発明はこれに限らない。例えば、傾斜面24から取付穴50までの間に第1切れ刃28を基準に下面30側に下がった平坦面25が位置し、この平坦面25とは別に取付穴50の周囲に着座面として機能する隆起面を設けてもよい。この隆起面は、平坦面25よりも高い位置、つまり平坦面25よりも下面30から離れた位置に位置付けられる。この隆起面は、第1切れ刃28よりも下面30から離れてよく、第1切れ刃28よりも下面30の近くに位置してもよく、あるいは、インサート厚さ方向において第1切れ刃28と略同じ位置にあってもよい。しかし、隆起面は、第1切れ刃28よりも下面30の近くに位置するのが望ましい。これは、上面20のうち第1切れ刃28から取付穴50までの間を実質的に窪ませ、使用時に第1切れ刃28のすくい面周囲に所望の空間を確保し、それにより切りくずのカールを促すためである。なお、この隆起面は、以下で下面30に関して説明されるボス面を参照することで当業者には明らかであろう。
【0035】
また、上面20の傾斜面24から平坦面25につながる部分に、複数の凹部26が形成されている。複数の凹部26の各々は、ほぼ楕円形または一方向に拡張された長円形(カプセル形)である。この複数の凹部26は、長辺部21(つまり主切れ刃28a)に沿って、各々の長軸が長辺部21にほぼ直交するような向きで一定間隔をおいて形成されている。凹部26は、傾斜面24と平坦面25とにまたがるようにそれらの境界部に形成される。複数の凹部26の長さは均一ではない。複数の凹部26は、長辺部21の略中央のものを基準にしてそこから角部60に近づくものほど長くなるように、形成される。なお、さらに幾つかの凹部は、第1切れ刃の他の部分に沿って配置されてもよい。
【0036】
次に下面30の構造を説明する。下面30は、その縁部側から、傾斜面37と、チップブレーカ溝34と、ボス面35とを備える。傾斜面37は、下面30の縁部からインサート厚さ方向で上面20側に向かって傾斜する。チップブレーカ溝34は、傾斜面37に接続する下り傾斜面34aと、下り傾斜面34aにつながる底部34bと、底部34bから立ち上がりボス面35につながる立ち上がり面34cとを備える。下り傾斜面34aは、インサート厚さ方向において上面20側に向かって緩やかに傾斜する。立ち上がり面34cは、インサート厚さ方向で下面30側に立ち上がる。切削インサート10は、3つのボス面35を有し、これらは貫通孔50の周囲に配置されている。したがって、ボス面35は、周側面40から離れるとともに、インサート軸線である軸線50Aを有する取付穴50の周囲に延在し、よって下面30のうちでインサート内側に延在する内側面である。各ボス面35は、このチップブレーカ溝34につながり、上面20の平坦面25と略平行な平坦面として形成されている。ボス面35は軸線50Aに略直交して伸びるように形成されている。3つのボス面35の各々は、下面30に対向する方向から見たとき略三角形状を有する。3つのボス面35は、それぞれ、切削インサート10がインサート取付座に取り付けられるとき、インサート取付座の底壁面に当接する着座面として機能するように形成されていて、特にここでは組み合わされて実質的に1つの着座面として機能する。3つのボス面35は互いから完全に離れてもよいが、連続して1つのボス面を形成してもよい。
【0037】
図6に示すように、ボス面35は、軸線50Aを中心として、貫通孔50から角部70に向けて広がるように延在する。ボス面35の外周は、波形形状である。これに対応するように、ボス面35の周囲の立ち上がり面34cには凸湾曲部36aと凹湾曲部36bとが交互に連続する。よって、チップブレーカ溝の立ち上がり面34cは、ボス面35の波形形状に対応するように、
図6において波形である。一方、傾斜面37は、切削インサート10の下面30の縁部の全周に沿って延在し、縁部からの距離(幅)は略一定である。
図6では、長辺部31の中央部分に対向する位置には、凸湾曲部36aは形成されていないが、貫通孔50と下面30全体の各部の大きさの関係に応じて、このような部分にも凸湾曲部36aが形成されていてもよい。すなわち、貫通孔50の周囲全体に連続して凸湾曲部36aと凹湾曲部36bとが形成されていてもよい。
【0038】
図9A及び
図9Bに示すように、下面30は、第2切れ刃から離れるに従い、傾斜面37、チップブレーカ溝34の下り傾斜面34aの順に、上面側に近づき、底部34bに至る。下面30のうち、チップブレーカ溝34の底部34bが最も低く(インサート厚さ方向で上面20に最も近く)、
図9Bでは第2切れ刃38から距離W2下がった位置にある。チップブレーカ溝34の立ち上がり面34cは、底部34bからボス面35に向かって立ち上がる。ボス面35は、インサート厚さ方向において、第2切れ刃38と略同じ位置にある。
【0039】
次に、切削インサート10が工具本体(ホルダ)に着脱自在に取り付けられる回転切削工具としての刃先交換式穴あけ工具であるドリル100について説明する。
図10A、
図10Bは、2つの切削インサート10が工具本体140に取り付けられたドリル100を示す斜視図である。
図10Aは上面20側の1つの第1切れ刃28が作用切れ刃となるように切削インサート10が取り付けられたドリル100を第1インサート取付座110側から見た斜視図である。
図10Bは下面30側の1つの第2切れ刃38が作用切れ刃となるように切削インサート10が取り付けられたドリル100を第2インサート取付座120側から見た斜視図である。
図11Aは、
図10Aに対応する図であり、2つの切削インサート10を取り外した状態の工具本体140の斜視図である。
図11Bは、
図10Bに対応する図であり、2つの切削インサート10を取り外した状態の工具本体140の斜視図である。
【0040】
工具本体140は、その先端部140d側から後端部140e側に延びる軸線140Aを有する。
図10A、10Bに示すドリル100は、軸線140Aを回転軸線として、回転方向Kに回転させられることができる。なお、ドリル100は、被削材に対して相対回転されて用いられ得、それ自体が回転しても、被削材が回転してもよい。
【0041】
図14に示すように、上面20側の第1切れ刃28を作用切れ刃とするように切削インサート10が取り付けられる第1インサート取付座110(中心刃インサート取付座)は、下面30側の第2切れ刃38を作用切れ刃とするように切削インサート10が取り付けられる第2インサート取付座120(外周刃インサート取付座)よりも工具回転軸線140Aの近くに形成される。第1インサート取付座110に取り付けられた切削インサート10の作用第1切れ刃28uの軸線140A周りの回転軌跡は、第2インサート取付座120に取り付けられた切削インサート10の作用第2切れ刃38uの軸線140A周りの回転軌跡に一部重なる。切削インサート10の上面20側の作用第1切れ刃28uは、ドリル100の中心刃となり、加工穴の中心部分を切削する。一方、下面30側の作用第2切れ刃38uは、ドリル100の外周刃となり、加工穴の外周部分を切削する。
【0042】
第1インサート取付座110は、回転方向Kの前方を向く底壁面111と、底壁面から屹立するように延在する2つの側壁面112、113とを備える。2つの側壁面のうちの一方は工具先端側かつ外周側を向き、もう一方は工具先端側かつ内周側を向く。切削インサート10が第1インサート取付座110に取り付けられるときは、下面30の3つのボス面35が、第1インサート取付座110の底壁面111と当接し、周側面40の部分が2つの側壁面112、113に当接する。そして、取付ねじ115が貫通孔50を介して底壁面111のねじ孔111aにねじ込まれ、切削インサート10は第1インサート取付座110に固定される。
【0043】
第1インサート取付座110に取り付けられた切削インサート10において、作用第1切れ刃28uの第1コーナ刃28bは軸線140A方向で最も先端に位置する(
図12参照)。
図12では、軸線140Aに直交する仮想平面が仮想線で示されている。第1コーナ刃28bの外周側に主切れ刃28aが位置付けられる。このとき、上面20のうちの特に作用第1切れ刃に沿って延在する傾斜面24の一部がすくい面を形成し、作用第1切れ刃28uに沿って延在する周側面40の一部が逃げ面として機能する。また、
図14において上面20が見えることから明らかなように、逃げ面には正の逃げ角が付与され、すくい面は上述のごとく傾斜面24を備えるので正のすくい角が付与される。
【0044】
一方、第2インサート取付座120は、回転方向Kの前方を向く底壁面121と、底壁面121から屹立するように延在する2つの側壁面122、123とを備える。2つの側壁面のうちの一方の側壁面122は工具先端側かつ外周側を向き、もう一方の側壁面123は工具先端側かつ内周側を向く。切削インサート10が第2インサート取付座120に取り付けられるときは、上面20の平坦面25が、外周刃チップ座120の底壁面121に当接し、周側面40の一部が2つの側壁面122、123に当接する。そして、取付ねじ125が貫通孔50を介して底壁面121のねじ孔121aにねじ込まれ、切削インサート10は第2インサート取付座120に固定される。ただし、インサート厚さ方向で上面20の平坦面25が第1切れ刃28よりも下面30側に位置するので、上面20の第1切れ刃28が第2インサ−ト取付座へ衝突するまたは接触することを防ぐように、第2インサート取付座120は形作られ、ここでは底壁面121と側壁面122、123との間にぬすみ部を備える。
【0045】
第2インサート取付座120に取り付けられた切削インサート10において、作用第2切れ刃38uの第1コーナ刃38bは軸線140A方向で最も先端に位置する(
図13参照)。
図13では、軸線140Aに直交する仮想平面が仮想線で示されている。第1コーナ刃38bの内周側に内側刃38aが位置付けられる。このとき、
下面30のうちの特に作用第2切れ刃38uに沿って延在する傾斜面37の一部がすくい面を形成し、その傾斜面37の一部の内側のチップブレーカ溝34の立ち上がり面34cがチップブレーカとして機能し、作用第2切れ刃38uに沿って延在する周側面40の一部が逃げ面として機能する。また、
図14において下面30が見えることから明らかなように、逃げ面には正の逃げ角が付与され、すくい面は上述のごとく傾斜面37を備えるので正のすくい角が付与される。
【0046】
このように、上面20における平坦面25と、下面30におけるボス面35とは、それぞれ各インサート取付座の底壁面と当接する着座面である。切削インサート10は、上下面のそれぞれに切れ刃を有し、両面使用可能な切削インサートである。よって、上下面の一方の切れ刃を使用するとき、上下面の他方の面が着座面となる。
【0047】
次に、切削インサート10およびそれが着脱自在に取り付けられたドリル100が奏する効果について説明する。
【0048】
切削インサート10においては、上面20に形成された平坦面25が中心刃となる第1切れ刃28の位置よりも低い位置、つまりインサート厚さ方向で下面30側に形成されている。このため、従来の切削インサート(例えば特許文献2の切削インサート)よりも大きな空間が中心刃の周囲に形成される。このことにより、中心刃の切削で生成された切りくずが潰れることが抑制され、十分にカールし、切削抵抗の増大やびびりの発生が抑制される。
【0049】
また、本実施形態の切削インサート10は、従来の切削インサートのように中心刃と外周刃という二種類の切れ刃が同じ端面側(例えば上面)に形成されるのではなく、上面20および下面30のそれぞれの面に、一種類の切れ刃だけが形成される。そのため、上面20では、中心刃で生成されやすい円錐形状の切りくずに対処するよう、平坦面25を第1切れ刃28よりも低い位置とする。一方、下面30では、円錐形状の切りくずのための空間を考慮する必要がないため、ボス面35の位置を第2切れ刃38の位置と同じ位置とすることが可能となる。また、外周刃で生成されやすい長い形状の切りくずに対処するためのチップブレーカを、つまり立ち上がり壁面の高さを第2切れ刃程度に維持した状態で自由に作ることができる。なお、第2切れ刃よりも高い位置にまで、立ち上がり壁面は延在してもよい。
【0050】
加えて、上面20には切れ刃に沿って傾斜面24と平坦面25との間に各々が楕円形の複数の凹部26が形成されている。このような凹部26があることで、傾斜面24(すくい面)に進入してくる切りくずと傾斜面24との接触面積が低減する。接触面積の低減により、切りくずがすくい面上に留まりにくくなり、上面20の摩耗が抑制される。また、切削に際してクーラントを用いる場合、凹部26にクーラントが入り込むことができる。凹部26にクーラントが入るまたは溜まることにより、冷却効果を高め、切れ刃の温度上昇を抑えることができる。
【0051】
さらに、下面30のボス面35の縁部がいわゆる波形形状になっていて立ち上がり面34cが凸湾曲部36aと凹湾曲部36bとが連続して配置された形状を有することにより、切りくずは、それらのうち、チップブレーカ溝34において突き出る凸湾曲部36aに衝突し易くなる。このように、切りくずの衝突箇所が凸湾曲部36aに限定されることにより、切りくずの接触状態をある程度一定の状態に維持することができる。例えば、ボス面35の稜線部が略直線形状だとすると、切りくずの伸びとのタイミングの関係で、チップブレーカ溝の立ち上がり面どの部分にも切りくずが衝突する可能性がある。したがって、切りくずのチップブレーカ溝の立ち上がり面への衝突によるその摩耗を管理することができず、切りくずをあまり長くせずに切断することの常時実現が困難となる。つまり、加工最中に切りくず処理性能が変化したり、コーナチェンジごとに切りくず処理性能が変化したり、場合によっては変化度合いもその時々によって変わることとなり、切りくずサイズが安定しない。しかし、本実施形態のように、ボス面の稜線部に凹凸の湾曲を設けることで、切りくずとの衝突箇所を凸湾曲部36aに制限でき、切りくず処理性能を一定の範囲に保たせたり、例え変化したとしてもその変化度合いを一定の範囲内に収めたりすることが可能になる。よって、切りくずサイズを一定範囲に収束させることができる。さらに、切りくずの衝突によって凸湾曲部36aが摩耗していったとしても、凸湾曲部36aと凹湾曲部36bとの交互構成であるから、凸湾曲部36aと凹湾曲部36bとの凸凹が残存する限り、同様の効果を維持することができる。
【0052】
また、第1インサート取付座110の底壁面111との接触面となる3つのボス面35が下面30に形成されることで、安定した着座性能が得られる。すなわち、仮に、ボス面35が貫通孔50の周囲全体に連続して形成されていると、ボス面の面積自体が大きくなり、製造過程において発生するおそれがある僅かな凸凹の発生可能性も増加する。また、貫通孔50の近傍に凹凸、特に凸部が発生した場合、ボス面35の凹凸湾曲部近傍にできるよりも、切削インサートを工具本体に取り付けたときに傾きが生じ、切れ刃の位置の振れ幅が大きくなるので、好ましくない。本発明のボス面のように、三つの部分から構成され、貫通孔50の周囲における面積が比較的少ないことで、貫通孔50の周囲に連続して1つのボス面が形成されている場合よりも、貫通孔50の近傍に凸凹ができる可能性が低くなる。よって、製品の歩留まりを上げることができる。
【0053】
以上のように、従来の切削インサートは、中心刃と外周刃が同一面に形成されていたが、本発明の切削インサート10は、中心刃と外周刃が異なる面に形成されている。このため、中心刃および外周刃のそれぞれが生成する切りくずに対処するための端面形状も、それぞれ異なる面に作ることになり、一方の刃の条件に制約されることがないので、形状上の制限なく作ることができる。
【0054】
本発明の切削インサートは上記の実施形態に制限されない。本発明は、上下二つの端面と周側面との交差稜線部に切れ刃が形成され、中心刃が形成される方の端面が備える着座面の高さが中心刃の高さよりも低いという、特徴を備える他の形状の切削インサートを含むことができる。例えば、上記の実施形態では凹部26の長さは位置によって変化していたが、全て同じ長さとすることも可能である。また、上記実施形態のボス面35の稜線部は波形形状であったが、凸湾曲部と直線との組み合わせとすることも可能である。この場合であっても、上記実施形態と同様の効果を生じさせることは可能である。また、外周刃側の端面に形成されるボス面の高さを中心刃側のボス面と同様に外周刃よりも下げて形成することも可能である。
【0055】
さらに、上で述べたように、本発明は、平坦面25を着座面として用いずに、そのさらに内側に着座面としての隆起面を備える切削インサートも包含することができる。隆起面は、好ましくは第1切れ刃よりも低い位置にある。このような場合にも、隆起面での切削インサートの着座安定性を確保しつつ、平坦面25を可能な範囲で大きくすることで、切削インサート10及び切削工具100での上記効果は同様にもたらされる。
【0056】
さらに、上面20に、例えば平坦面25に、切削インサート10の設置方向を示すためのマークが設けられていてもよい。加えて、このマークは上面20に限らず、下面30に設けられていてもよい。
【0057】
本発明については、請求の範囲に記載された発明の精神や範囲から離れることなしに、さまざまな改変や変更が可能であることは理解されなければならない。すなわち、本発明には、請求の範囲によって規定される本発明の思想に包含されるあらゆる変形例や応用例、均等物が含まれる。