(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
上記第1誘電層及び上記第2誘電層のフッ素樹脂が、テトラフルオロエチレン・ヘキサオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、又はテトラフルオロエチレン−パーフルオロジオキソール共重合体(TFE/PDD)である請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の高速伝送基板。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[本発明の実施形態の説明]
本発明に係る高速伝送基板は、第1プリント配線板と、この第1プリント配線板に対向配設される第2プリント配線板とを備え、上記第1プリント配線板が、第1誘電層と、この第1誘電層の上記第2プリント配線板側に積層される導電パターンと、上記第1誘電層の上記第2プリント配線板側と反対側に積層される第1導電層とを有し、上記第2プリント配線板が、第2誘電層と、この第2誘電層の上記第1プリント配線板側と反対側に積層される第2導電層とを有し、上記第1誘電層及び上記第2誘電層がフッ素樹脂を主成分とする。
【0012】
当該高速伝送基板は導電パターンが第1誘電層と第2誘電層との間に配設されている。第1誘電層及び第2誘電層はフッ素樹脂を主成分としているが、このフッ素樹脂は一般に誘電正接(tanδ)及び比誘電率(εr)が低い傾向にある。そのため、第1誘電層及び第2誘電層がフッ素樹脂を主成分とすることで、導電パターンの伝送損失を十分に小さくできると共に十分な伝送速度が得られる。これにより、伝送特性を向上させるために第1誘電層及び第2誘電層を厚くする必要がないことから、当該高速伝送基板は第1誘電層及び第2誘電層を薄くすることが可能となる。
【0013】
また、当該高速伝送基板は、第1誘電層及び第2誘電層の外側に第1導電層及び第2導電層が積層されている。すなわち、第1導電層と第2導電層との間に導電パターンが配設されている。そのため、第1導電層及び第2導電層を導電パターンに対するシールドとして機能させることができる。特に、第1誘電層及び第2誘電層を薄くして第1導電層と第2導電層との距離を小さくすることで優れたシールド効果を発揮できると共に、第1導電層及び第2導電層の側面でのシールド性の悪化を抑制できることから、当該高速伝送基板はシールド効果をより向上させることができる。
【0014】
上記導電パターンが、高周波信号用の伝送部、及びこの伝送部を囲むシールド部を含むとよい。このように導電パターンが伝送部とこの伝送部を囲むシールド部とを含むことでシールド部によって伝送部に対するより高いシールド効果を発揮できる。
【0015】
上記伝送部の周囲がフッ素樹脂を主成分とする絶縁材料により囲繞されているとよい。このように伝送部がフッ素樹脂を主成分とする絶縁材料により囲繞されることで、誘電正接(tanδ)及び比誘電率(εr)が低い傾向にある絶縁材料により伝送部が囲繞されることになる。そのため、伝送部における伝送損失をより小さくできると共により高い伝送速度が得られる。
【0016】
当該高速伝送基板は、上記第1導電層と上記第2導電層とを導通するスルーホールをさらに有するとよい。このように第1導電層と第2導電層とを導通するスルーホールを有することで、第1導電層と第2導電層との電位を等しくし、これらの導電層をグランド層(シールド)として好適に機能させることができる。その結果、当該高速伝送基板は、より高いシールド効果を発揮することができる。また、第1導電層と第2導電層との電位を等しくすることで、当該高速伝送基板の耐電圧をより大きくすることが可能となる。
【0017】
上記導電パターンの少なくとも一方の面の十点平均粗さ(Rz)としては4μm以下が好ましい。このように導電パターンの少なくとも一方の面の十点平均粗さ(Rz)を4μm以下とすることで、導電パターンの表面における表皮効果による伝送遅延の発生を抑制し、抵抗減衰や漏洩減衰の増加による伝送損失を抑制することができる。そのため、当該高速伝送基板は、高周波信号の伝送特性に優れ、高速大容量無線通信に対応できる。
【0018】
当該高速伝送基板は、上記第1プリント配線板の外側に積層される第1カバーフィルムと、上記第2プリント配線板の外側に積層される第2カバーフィルムとをさらに備えるとよい。このように第1及び第2プリント配線板の外側に積層される第1及び第2カバーフィルムをさらに備えることで、当該高速伝送基板の機械的強度を確保し、形状維持性を高めることができる。
【0019】
上記第1誘電層のフッ素樹脂と上記導電パターンとの間に化学結合を有するとよい。このように第1誘電層のフッ素樹脂と導電パターンとの間に化学結合を有することで、第1誘電層と導電パターンとの接合性が高まり、接合強度を向上させることができる。
【0020】
上記化学結合が電離放射線照射により形成されているとよい。このような電離放射線照射によれば、化学結合を適切に形成することができるため、導電パターンと第1誘電層との接合性をより向上させることができる。
【0021】
上記化学結合が、上記第1誘電層と上記導電パターンとの界面に存在するカップリング剤を介して形成されているとよい。このようにカップリング剤を介在させることで、上記化学結合を簡易かつ確実に実現することができ、その結果第1誘電層と導電パターンとの接合性を簡易かつ確実に向上させることができる。
【0022】
上記カップリング剤としてはN原子又はS原子を含む官能基を持つシランカップリング剤が好ましい。このようにカップリング剤をN原子又はS原子を含む官能基を持つシランカップリング剤とすることで、第1誘電層と導電パターンとの接合性をより向上させることができる。この理由は明確ではないが、上記シランカップリング剤の加水分解基が導電パターンにシランカップリング反応により固定される一方で、上記シランカップリング剤のアミノ基、スルフィド基等のN原子又はS原子を含む官能基が、第1誘電層の主成分であるフッ素樹脂がラジカル化した際に生じる炭素ラジカルサイトと化学結合することで接合性が向上するものと推定される。
【0023】
上記第1誘電層及び上記第2誘電層のうちの少なくとも一方のフッ素樹脂が分子間に電離放射線照射により形成される化学結合を有しているとよい。このように第1誘電層及び第2誘電層のうちの少なくとも一方のフッ素樹脂が分子間に化学結合を有することで、第1誘電層及び第2誘電層のうちの少なくとも一方の機械的強度をより向上させることができ、当該高速伝送基板の機械的強度の向上をさらに促進することができる。
【0024】
上記第1誘電層及び上記第2誘電層のフッ素樹脂としては、テトラフルオロエチレン・ヘキサオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、又はテトラフルオロエチレン−パーフルオロジオキソール共重合体(TFE/PDD)が好ましい。このようなフッ素樹脂は、電子線照射や加熱等によりフッ素ラジカルを生成しやすい化合物であると考えられる。そのため、当該高速伝送基板は、例示したフッ素樹脂を主成分とする第1誘電層を備えることで上記化学結合を適切に形成できるため、第1誘電層と導電パターンとの接合性がより優れたものとなる。また、例示したフッ素樹脂は、誘電正接(tanδ)及び比誘電率(εr)が低い材料であるため、第1誘電層及び第2誘電層がそのようなフッ素樹脂を主成分とすることで、伝送損失、伝送速度等の伝送特性に優れる当該高速伝送基板をより簡易に得られる。
【0025】
本発明は、当該高速伝送基板を備える電子部品である。当該電子部品は、当該高速伝送基板を備えているため、伝送損失、伝送速度等の伝送特性及びシールド効果に優れるものとなる。
【0026】
ここで、「フッ素樹脂」とは、高分子鎖の繰り返し単位を構成する炭素原子に結合する水素原子の少なくとも1つが、フッ素原子又はフッ素原子を有する有機基で置換されたものをいう。「主成分」とは、最も含有量の多い成分であり、例えば含有量が50質量%以上の成分をいう。「十点平均粗さ(Rz)」とは、JIS B 0601:1994に準拠して測定される値であり、評価長さ(l)を3.2mmとし、カットオフ値(λc)を0.8mmとした値である。「化学結合」とは、共有結合又は水素結合をいう。
【0027】
[本発明の実施形態の詳細]
以下、本発明に係る高速伝送基板の一実施形態について、
図1から
図6を参照しつつ詳説する。
【0028】
[高速伝送基板]
図1から
図3の高速伝送基板は、高周波伝送用の配線体として好適に使用できるものである。当該高速伝送基板は、第1プリント配線板1、この第1プリント配線板1と対向配設される第2プリント配線板2、これらのプリント配線板1,2を接着する接着層3、第1スルーホール4A,4B、第2スルーホール5、第1プリント配線板1に積層される第1カバーレイ6、及び第2プリント配線板2に積層される第2カバーレイ7を備える。
【0029】
当該高速伝送基板は、全体として平板状であり可撓性を有する。ここで、当該高速伝送基板の可撓性は、例えば以下に説明する耐折れ性等により評価できる。
【0030】
当該高速伝送基板の耐折性は、張力4.9Nで毎分170回の割合で試料(高速伝送基板)を折り曲げ、この試料が断線するまでの回数として評価できる。当該高速伝送基板が断線するまでの回数としては、6回以上が好ましく、12回以上がより好ましい。当該高速伝送基板が断線するまでの断線回数は、JIS C 5016「フレキシブルプリント配線板試験方法(8.7 耐折性)」:1994に準拠して測定される回数であり、10個の試料の測定結果の平均値として定義される。
【0031】
当該高速伝送基板の厚みの下限としては、100μmが好ましく、180μmがより好ましく、246μmがさらに好ましい。一方、当該高速伝送基板の厚みの上限としては、600μmが好ましく、500μmがより好ましく、400μmがさらに好ましい。当該高速伝送基板の厚みが上記下限未満であると、十分な伝送帯域幅が得られないおそれがある。一方、当該高速伝送基板の厚みが上記上限を超えると、所望の可撓性が得られないおそれがある。
【0032】
〔第1プリント配線板〕
第1プリント配線板1は、
図4及び
図5に示すように平面視において帯状のシート体から構成されている。第1プリント配線板1は、導電パターン10、第1導電層11及び第1誘電層12を備える。
【0033】
<導電パターン>
図1から
図3に示すように、導電パターン10は、第1誘電層12における第2プリント配線板2が積層される側(
図1から
図3の上側)に積層されるものであり、伝送部13及びシールド部14を含む。この導電パターン10は、少なくとも伝送部13が防錆処理層を含んでいることが好ましい。
【0034】
(伝送部)
伝送部13は、信号線として機能するものである。この伝送部13は、
図4に示すように第1誘電層12の長手方向に延びる直線状に形成されており、第1誘電層12の幅方向の中央部に配設されている。伝送部13の平均幅W1は特に限定されるものではないが、この平均幅W1の下限としては、10μmが好ましく、50μmがより好ましく、70μmがさらに好ましい。一方、平均幅W1の上限としては、300μmが好ましく、240μmがより好ましく、230μmがさらに好ましい。上記平均幅W1が上記下限未満であると、伝送部13における伝送損失が大きくなり過ぎるおそれがある。一方、上記平均幅W1が上記上限を超えると、伝送部13とシールド部14とが対向する面積が広くなって伝送部13とシールド部14との間の寄生キャパシタンスが大きくなり過ぎ、インピーダンスの整合性が得られなくなるおそれがある。
【0035】
(シールド部)
シールド部14は、伝送部13を囲む平面視略U字状に形成されている。このシールド部14は、一対の長辺部14aと連接部14bとを有している。一対の長辺部14aは、伝送部13の両側に伝送部13と隙間をもって第1誘電層12の長辺に沿って長手方向に延びるように配設されている。長辺部14aの両端は、伝送部13の両端より外側に配設されている。連接部14bは、伝送部13の一端より外側に配設され、一対の長辺部14aの一端同士を連接している。その結果、シールド部14は、伝送部13の他端近傍において開放するU字状とされている。
【0036】
伝送部13及びシールド部14(導電パターン10)の平均厚みT1(
図1参照)は特に限定されるものではないが、この平均厚みT1の下限としては、5μmが好ましく、10μmがより好ましく、12μmがさらに好ましい。一方、平均厚みT1の上限としては、40μmが好ましく、25μmがより好ましく、18μmがさらに好ましい。伝送部13の平均厚みT1が上記下限未満であると、伝送部13における伝送損失が大きくなり過ぎるおそれがある。また、シールド部14の平均厚みT1が上記下限未満であると、シールド部14自体の導電性が十分に得られず、シールド部14によるシールド効果が十分に得られなくなるおそれがある。一方、伝送部13及びシールド部14の平均厚みT1が上記上限を超えると、当該高速伝送基板の可撓性が低下し過ぎるおそれがあると共に、シールド部14が寄生キャパシタンスに影響を与え、インピーダンスの整合性が得られ難くなるおそれがある。なお、上記平均厚みTは、伝送部13及びシールド部14に防錆処理層を形成する場合には、この防錆処理層を含めた値である。
【0037】
なお、伝送部13は、平面方向の任意の箇所の厚みが略均一であることが好ましく、同様に、シールド部14は、平面方向の任意の箇所の厚みが略均一であることが好ましい。ここで、「略均一」とは、上記平均厚みT1に対して誤差が40%以内であることを意味し、「平均厚み」とは任意の10点での測定値の平均値として定義される。なお、以下において他の要素について「平均厚み」という場合には同様に定義される。
【0038】
伝送部13とシールド部14の長辺部14aとの幅方向の平均間隔W2は、特に限定されるものではないが、この平均間隔W2の下限としては、50μmが好ましく、100μmがより好ましく、200μmがさらに好ましい。一方、平均間隔W2の上限としては、1000μmが好ましく、600μmがより好ましく、400μmがさらに好ましい。上記平均間隔W2が上記下限未満であると、シールド部14が寄生キャパシタンスに影響を与え、インピーダンスの整合性が得られ難くなるおそれがある。一方、上記平均間隔W2が上記上限を超えると、当該高速伝送基板が幅方向に大きくなり過ぎるおそれがある。
【0039】
上記シールド部14の平均幅は、特に限定されるものではないが、この平均幅の下限としては、100μmが好ましく、200μmがより好ましい。一方、平均幅の上限としては、500μmが好ましく、400μmがより好ましい。上記平均幅が上記下限未満であると、シールド部14自体の導通性が十分に得られず、シールド部14によるシールド効果が十分に得られなくなるおそれがある。一方、上記平均幅が上記上限を超えると、当該高速伝送基板が幅方向に大きくなり過ぎるおそれがある。
【0040】
また、導電パターン10を含む回路のインピーダンスは、当該高速伝送基板の仕様によって適宜設定すればよい。上記インピーダンスの下限としては、通常10Ωであり、30Ωが好ましい。上記インピーダンスの上限としては、通常100Ωであり、80Ωが好ましい。
【0041】
導電パターン10の周波数10GHzにおける伝送損失としては、0.230dB/cm以下が好ましく、0.228dB/cm以下がより好ましい。これにより、当該高速伝送基板は、高周波領域の伝送に好適に用いることができる。
【0042】
導電パターン10の周波数100GHzにおける伝送損失としては、3.10dB/cm以下が好ましく、3.05dB/cm以下がより好ましく、3.00dB/cm以下がさらに好ましい。これにより、当該高速伝送基板は、100GHz以上のより高い高周波領域の伝送にも好適に用いることができる。
【0043】
導電パターン10における少なくとも一方の面の十点平均粗さ(Rz)の上限は、好ましくは4μmであり、より好ましくは3μm、さらに好ましくは2μmである。このように導電パターン10の表面粗さを設定することで好適な伝送速度及び伝送損失としつつ、後述する第1誘電層12のフッ素樹脂との化学結合等により接合強度を確保することができる。第1誘電層12の十点平均粗さ(Rz)の下限としては、特に制限はなく、製造性やコスト等を考慮して適宜決定すればよい。導電パターン10は、典型的には、伝送部13の第1誘電層12との積層面において、上記十点平均粗さ(Rz)を上記範囲とすることが好ましい。
【0044】
導電パターン10は、例えば第1誘電層12の一方の面に積層される金属層をエッチングすることによって形成されている。この金属層は、導電性を有する材料で形成可能であるが、銅箔によって形成することで、容易かつ確実に所望形状のパターンを形成することができる。
【0045】
(防錆処理層)
導電パターン10は、上述のように少なくとも伝送部13が防錆処理層を含んでいることが好ましい。この防錆処理層は、導電パターン10の表面が酸化することによる接合強度の低下を抑制するものである。防錆処理層としては、コバルト、クロム又は銅を含むことが好ましく、コバルト又はコバルト合金を主成分として含むことがさらに好ましい。防錆処理層は、1層として形成しても複数層として形成してもよい。防錆処理層は、めっき層として形成してもよい。このめっき層は、単一金属めっき層又は合金めっき層として形成される。単一金属めっき層を構成する金属としてはコバルトが好ましい。合金めっき層を構成する合金としては、例えばコバルト−モリブデン、コバルト−ニッケル−タングステン、コバルト−ニッケル−ゲルマニウム等のコバルト系合金などが挙げられる。
【0046】
防錆処理層の平均厚みの下限としては0.5nmが好ましく、1nmがより好ましく、1.5nmがさらに好ましい。この防錆処理層の平均厚みが上記下限未満であると、導電パターン10の酸化を充分に抑制できないおそれがある。一方、上記平均厚みの上限としては、50nmが好ましく、40nmがより好ましく、35nmがさらに好ましい。上記防錆処理層の平均厚みが上記上限を超えると、厚みの増加分に比してそれに見合うだけの酸化防止効果を得られないおそれがある。
【0047】
<第1導電層>
第1導電層11は、第1誘電層12の他方の面(第1プリント配線板1側の面)に積層されている。伝送部13に対するグランド層及びシールドとしての役割を有するものである。この第1導電層11は、
図5に示すように平面視において伝送部13の幅方向の両側に位置し、
図1に示すように断面視において導電パターン10のシールド部14の厚み方向に対応した位置に設けられている。第1導電層11の平均厚み及び平均幅は特に限定されないが、シールド部14の平均厚み及び平均幅と同様とすることができる。
【0048】
<第1誘電層>
第1誘電層12は導電パターン10が積層されるものである。この第1誘電層12は、フッ素樹脂を主成分とする。第1誘電層12は、フッ素樹脂以外に、必要に応じて任意成分を含んでいてもよい。
【0049】
第1誘電層12のフッ素樹脂は、導電パターン10の一方の面(第1誘電層12に対する積層面)と化学結合を形成していることが好ましい。この化学結合としては、導電パターン10と第1誘電層12のフッ素樹脂との間に直接形成される形態、導電パターン10と第1誘電層12のフッ素樹脂との間に介在するカップリング剤によって、導電パターン10と第1誘電層12のフッ素樹脂との間に形成される形態、これら2つの形態が複合した形態が挙げられる。また、第1誘電層12は、フッ素樹脂の分子間に化学結合が形成されていることが好ましい。
【0050】
(カップリング剤)
カップリング剤は、導電パターン10と第1誘電層12のフッ素樹脂との間に化学結合を形成するために使用される。このカップリング剤としては、シランカップリング剤が好ましく、中でも、N原子又はS原子を含む官能基(以下、「反応性官能基」ともいう)を持つシランカップリング剤がより好ましい。上記反応性官能基を持つシランカップリング剤は、加水分解基(−OCH
3、−OC
2H
5、−OCOCH
3等)が加水分解されることで導電パターン10の一方の面にシランカップリング反応により固定される。一方、シランカップリング剤は、後述するように第1誘電層12に対して上記反応性官能基において化学結合するものと推定される。
【0051】
N原子を含む官能基としては、例えばアミノ基、ウレイド基等を挙げることができる。
【0052】
N原子を含む官能基を持つシランカップリング剤としては、例えばアミノアルコキシシラン、ウレイドアルコキシシラン、これらの誘導体が挙げられる。
【0053】
アミノアルコキシシランとしては、例えば3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0054】
アミノエトキシシランの誘導体としては、例えば3−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチル−ブチリデン)プロピルアミン等のケチミン、N−(ビニルベンジル)−2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシランの酢酸塩等のシランカップリング剤の塩などが挙げられる。
【0055】
ウレイドアルコキシシランとしては、例えば、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリメトキシシラン、γ−(2‐ウレイドエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0056】
S原子を含む官能基としては、例えばメルカプト基、スルフィド基等が挙げられる。
【0057】
S原子を含む官能基を持つシランカップリング剤としては、例えばメルカプトアルコキシシラン、スルフィドアルコキシシラン、これらの誘導体が挙げられる。
【0058】
メルカプトアルコキシシランとしては、例えば3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピル(ジメトキシ)メチルシラン、メルカプトオルガニル(アルコキシシラン)等が挙げられる。
【0059】
スルフィドアルコキシシランとしては、例えばビス(3−(トリエトキシシリル)プロピル)テトラスルフィド、ビス(3−(トリエトキシシリル)プロピル)ジスルフィド等が挙げられる。
【0060】
上記シランカップリング剤としては、変性基を導入したものであってもよい。変性基としては、フェニル基が好ましい。
【0061】
シランカップリング剤としては、例示した中でも、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、又はビス(3−(トリエトキシシリル)プロピル)テトラスルフィドが好ましい。
【0062】
カップリング剤としては、N原子又はS原子を含む官能基を持つシランカップリング剤に代えて、又はこのシランカップリング剤に加えて他のカップリング剤を使用することができる。他のカップリング剤としては、第1誘電層12のフッ素樹脂又はそのラジカルに対して反応性を有する官能基を含み、導電パターン10に化学結合できる官能基等を含むものが好ましく、例えばチタン系カップリング剤を使用することができる。
【0063】
チタン系カップリング剤としては、例えばイソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリステアロイルチタネート、イソプロピルトリオクタノイルチタネート、イソプロピルジメタクリルイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリドデシルベンゼンスルホニルチタネート、イソプロピルイソステアロイルジアクリルチタネート、イソプロピルトリ(ジオクチルホスフェート)チタネート、イソプロピルトリクミルフェニルチタネート、イソプロピルトリス(ジオクチルパイロホスフェート)チタネート、イソプロピルトリ(n−アミノエチル−アミノエチル)チタネート、テトライソプロピルビス(ジオクチルホスファイト)チタネート、テトラオクチルビス(ジトリデシルホスファイト)チタネート、テトラ(2,2−ジアリルオキシメチル−1−ブチル)ビス(ジトリデシル)ホスファイトチタネート、ジクミルフェニルオキシアセテートチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)オキシアセテートチタネート、ジイソステアロイルエチレンチタネート、ビス(ジオクチルパオロホスフェート)エチレンチタネート、ビス(ジオクチルパオロホスフェート)ジイソプロピルチタネート、テトラメチルオルソチタネート、テトラエチルオルソチタネート、テトラプロピルオルソチタネート、テトライソプロピルテトラエチルオルソチタネート、テトラブチルオルソチタネート、ブチルポリチタネート、テトライソブチルオルソチタネート、2−エチルヘキシルチタネート、ステアリルチタネート、クレシルチタネートモノマー、クレシルチタネートポリマー、ジイソプロポキシ−ビス−(2,4−ペンタジオネート)チタニウム(IV)、ジイソプロピル−ビス−トリエタノールアミノチタネート、オクチレングリコールチタネート、チタニウムラクテート、アセトアセティックエスチルチタネート、ジイソプロポキシビス8アセチルアセトナト)チタン、ジ−n−ブトキシビス(トリエタノールアルミナト)チタン、ジヒドロキシビス(ラクタト)チタン、チタニウム−イソプロポキシオクチレングリコレート、テトラ−n−ブトキシチタンポリマー、トリ−n−ブトキシチタンモノステアレートポリマー、ブチルチタネートダイマー、チタンアセチルアセトネート、ポリチタンチタンアセチルアセトネート、チタンオクチレングリコレート、チタンラクテートアンモニウム塩、チタンラクテートエチルエステル、チタントリエタノールアミネート、ポリヒドロキシチタンステアレート等が挙げられる。
【0064】
第1誘電層12の比誘電率(εr)の上限としては、3が好ましく、2.7がより好ましく、2.5がさらに好ましく、2.3が特に好ましい。この比誘電率(εr)が上記上限を超えると誘電正接(tanδ)が大きくなり伝送損失を十分に小さくできないおそれがあると共に、十分な伝送速度が得られないおそれがある。第1誘電層12の比誘電率(εr)の下限については特に限定はないが、1.2が好ましい。上記比誘電率(εr)が上記下限未満であると、第1誘電層12の寸法安定度の確保が難しくなる。特に発泡により比誘電率を低下させた場合には、弾性率が低下しすぎて加工、搬送が困難になるおそれがある。
【0065】
第1誘電層12の誘電正接(tanδ)の上限としては、0.004が好ましく、0.0035がより好ましく、0.003がさらに好ましい。この誘電正接(tanδ)が上記上限を超えると伝送損失を十分に小さくできないおそれがあると共に、十分な伝送速度が得られないおそれがある。第1誘電層12の誘電正接(tanδ)については特に制限はなく、この誘電正接(tanδ)は小さければ小さいほど好ましい。
【0066】
第1誘電層12の暴露試験後の曲げ弾性率の下限としては、20GPaが好ましく、30GPaがより好ましく、40GPaがさらに好ましい。この第1誘電層12の暴露試験後の曲げ強さが上記下限未満であると、当該高速伝送基板としての強度が十分でなく、また耐候性を十分に確保できないおそれがある。上記第1誘電層12の暴露試験後の曲げ強さの上限としては、80GPaが好ましく、70GPaがより好ましく、60GPaがさらに好ましい。この第1誘電層12の暴露試験後の曲げ強さが上限を超えると、当該高速伝送基板の可撓性を十分に確保できないおそれがある。
【0067】
第1誘電層12の平均厚みの下限としては、10μmが好ましく、25μmがより好ましく、50μmがさらに好ましい。この第1誘電層12の平均厚みが上記下限未満であると、誘電正接が大きくなり伝送損失を十分に小さくできないおそれが生ずると共に、十分な伝送速度が得られないおそれが生じ、また当該高速伝送基板の製造作業が困難となるおそれがある。上記第1誘電層12の平均厚みの上限としては、150μmが好ましく、125μmがより好ましく、106μmがさらに好ましい。上記第1誘電層12の平均厚みが上記上限を超えると、第1誘電層12及び当該高速伝送基板の厚みが不必要に大きくなると共に、第1誘電層12の材料費が嵩むおそれがあり、また十分な可撓性が得られないおそれがある。
【0068】
(フッ素樹脂)
フッ素樹脂は、高分子鎖の繰り返し単位を構成する炭素原子に結合する水素原子の少なくとも1つが、フッ素原子又はフッ素原子を有する有機基(以下「フッ素原子含有基」ともいう)で置換されたものをいう。フッ素原子含有基は、直鎖状、分岐状又は環状の有機基中の水素原子の少なくとも1つがフッ素原子で置換されたものであり、例えばフルオロアルキル基、フルオロアルコキシ基、フルオロポリエーテル基等が挙げられる。
【0069】
「フルオロアルキル基」とは、少なくとも1つの水素原子がフッ素原子で置換されたアルキル基を意味し、「パーフルオロアルキル基」を包含する。具体的には、「フルオロアルキル基」は、アルキル基の全ての水素原子がフッ素原子で置換された基、アルキル基の末端の1個の水素原子以外の全ての水素原子がフッ素原子で置換された基等を包含する。
【0070】
「フルオロアルコキシ基」とは、少なくとも1つの水素原子がフッ素原子で置換されたアルコキシ基を意味し、「パーフルオロアルコキシ基」を包含する。具体的には、「フルオロアルコキシ基」は、アルコキシ基の全ての水素原子がフッ素原子で置換された基、アルコキシ基の末端の1個の水素原子以外の全ての水素原子がフッ素原子で置換された基等を包含する。
【0071】
「フルオロポリエーテル基」とは、繰り返し単位として複数のアルキレンオキシド鎖を有し、末端にアルキル基又は水素原子を有する1価の基であって、このアルキレンオキシド鎖及び/又は末端のアルキル基若しくは水素原子中の少なくとも1つの水素原子がフッ素原子で置換された基を有する1価の基を意味する。「フルオロポリエーテル基」は、繰り返し単位として複数のパーフルオロアルキレンオキシド鎖を有する「パーフルオロポリエーテル基」を包含する。
【0072】
フッ素樹脂としては、テトラフルオロエチレン・ヘキサオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、又はテトラフルオロエチレン−パーフルオロジオキソール共重合体(TFE/PDD)が好ましい。
【0073】
(任意成分)
第1誘電層12の任意成分としては、例えばエンジニアリングプラスチック、難燃剤、難燃助剤、顔料、酸化防止剤、反射付与剤、隠蔽剤、滑剤、加工安定剤、可塑剤、発泡剤等が挙げられる。
【0074】
上記エンジニアリングプラスチックとしては、第1誘電層12に求められる特性に応じて公知のものから選択して使用でき、典型的には芳香族ポリエーテルケトン樹脂を使用することができる。
【0075】
この芳香族ポリエーテルケトンは、ベンゼン環がパラ位に結合し、剛直なケトン結合(−C=O)又はフレキシブルなエーテル結合(−O−)によってベンゼン環同士が連結された構造を有する熱可塑性樹脂である。芳香族ポリエーテルケトンとしては、例えばエーテル結合、ベンゼン環、エーテル結合、ベンゼン環、ケトン結合及びベンゼン環が、この順序で並んだ構造単位を有するエーテルエーテルケトン(PEEK)、エーテル結合、ベンゼン環、ケトン結合及びベンゼン環が、この順序で並んだ構造単位を有するポリエーテルケトン(PEK)が挙げられる。中でも、芳香族ポリエーテルケトンとしては、PEEKが好ましい。このような芳香族ポリエーテルケトンは、耐摩耗性、耐熱性、絶縁性、加工性等に優れるものであるため、芳香族ポリエーテルケトンを含む第1誘電層12は、導電パターン10との接合性等に優れる。
【0076】
PEEK等の芳香族ポリエーテルケトンとしては、市販品を使用することができる。P芳香族ポリエーテルケトンとしては、様々なグレードのものが市販されており、市販されている単一のグレードの芳香族ポリエーテルケトンを単独で使用してもよく、複数のグレードの芳香族ポリエーテルケトンを併用してもよく、また変性した芳香族ポリエーテルケトンを使用してもよい。
【0077】
エンジニアリングプラスチックの含有量としては、特に限定はない。エンジニアリングプラスチックの含有量の下限としては、フッ素樹脂との合計質量比で、通常10であり、20が好ましく、35がより好ましい。上記含有量の上記上限としては、通常50であり、45以下が好ましい。エンジニアリングプラスチックの含有量が上記下限未満であると第1誘電層12の特性を充分に改善することができないおそれがある。一方、エンジニアリングプラスチックの含有量が上記上限を超えるとフッ素樹脂の有利な特性を充分に発現させることができないおそれがある。
【0078】
難燃剤としては、公知の種々のものを使用することができ、例えば臭素系難燃剤、塩素系難燃剤等のハロゲン系難燃剤が挙げられる。
【0079】
難燃助剤としては、公知の種々のものを使用することができ、例えば三酸化アンチモン等が挙げられる。
【0080】
顔料としては、公知の種々のものを使用することができ、例えば酸化チタン等が挙げられる。
【0081】
酸化防止剤としては、公知の種々のものを使用することができ、例えばフェノール系酸化防止剤等が挙げられる。
【0082】
反射付与剤としては、公知の種々のものを使用することができ、例えば酸化チタン等が挙げられる。
【0083】
第1誘電層12は、電離放射線照射されていることが好ましい。電離放射線照射は、加熱下で行うことが好ましい。第1誘電層12に電離放射線照射を行うことで、フッ素樹脂がラジカル化される。
【0084】
このようにフッ素樹脂がラジカル化されることで、上述のカップリング剤を使用する場合、このカップリング剤とフッ素樹脂のラジカルとが化学結合するものと考えられる。具体的には、フッ素樹脂には、ラジカル部分にカップリング剤の反応性官能基が化学結合することで、カップリング剤が化学結合されるものと推定される。このように、フッ素樹脂のラジカル部分にカップリング剤を化学結合させ、さらに上述のようにカップリング剤を導電パターン10に化学結合することで、第1誘電層12のフッ素樹脂と導電パターン10との間にカップリング剤を介在させた化学結合が形成される。その結果、フッ素樹脂と導電パターン10との間に化学結合が形成されることで、第1誘電層12と導電パターン10との接合強度を高めることができる。
【0085】
ここで、上記シランカップリング剤は、導電パターン10と第1誘電層12との間にはÅオーダーで存在しているものと推定される。そのため、上記カップリング剤は、導電パターン10の表面性状に殆ど影響を与えず、導電パターン10の表面が粗面化されることもないため、カップリング剤による信号伝達性能の悪化が殆ど生じないものと考えられる。
【0086】
一方、上記カップリング剤を使用しない場合、電離放射線照射等によりフッ素樹脂がラジカル化されるとフッ素樹脂のラジカル部分が導電パターン10と化学結合を形成する。そのため、フッ素樹脂と導電パターン10の表面との間に化学結合を形成することで、上記カップリング剤を使用しない場合であっても第1誘電層12と導電パターン10との間の化学結合によって接合強度を高めることが可能である。
【0087】
また、フッ素樹脂がラジカル化されることでフッ素樹脂の分子間に化学結合が形成され、第1誘電層12がPEEK樹脂等のエンジニアリングプラスチックを含む場合にはフッ素樹脂とエンジニアリングプラスチックとの間に化学結合が形成される。化学結合によるフッ素樹脂の分子間の結合、フッ素樹脂とエンジニアリングプラスチックとの結合は共有結合又は水素結合であり、これらの化学結合はフッ素樹脂の分子間結合(F−F結合)に比べて強い。そのため、当該高速伝送基板では、フッ素樹脂の分子間に化学結合が形成され、又はフッ素樹脂がエンジニアリングプラスチックとの間に化学結合が形成されることで、第1誘電層12の機械的強度を向上させることが可能となる。
【0088】
ここで、電離放射線としては、電子線、高エネルギーイオン線等の荷電粒子線、γ線、X線等の高エネルギー電磁波、中性線等が挙げられ、中でも電子線が好ましい。これは、電子線発生装置が比較的安価であり、大出力の電子線が得られると共にラジカルの生成程度、すなわち化学結合の形成程度の制御が容易であるためである。
【0089】
電離放射線照射の照射線量としては、広い範囲で効果が得られるので任意の電離放射線を選択すればよいが、50KGy〜800KGy程度が好ましい。電離放射線の照射線量が上記下限未満であると、ラジカル化が不十分となり第1誘電層12の機械的強度の向上効果、及び導電パターン10と第1誘電層12との接合強度の向上効果等が十分に得られないおそれがある。一方、電離放射線の照射線量が上記上限を超えると、樹脂成分の分解(ポリマー主鎖の切断)が過剰となって第1誘電層12の機械的強度が低下するおそれがある。これに対して、照射線量を50KGy〜800kGyとすればラジカル化を十分に進行させることができると共に樹脂成分の分解も少なく、十分な機械的強度、接合強度等が得られる。
【0090】
電離放射線照射は、低酸素又は無酸素の雰囲気下において第1誘電層12又はこの第1誘電層12を形成する直前の樹脂材料を加熱した状態で行うことが好ましい。
【0091】
電離放射線照射を低酸素又は無酸素の雰囲気下で行うことで、導電パターン10に対する第1誘電層12の接合強度を向上させることができる。具体的には、酸素濃度が1000ppm未満であれば、接合強度の向上効果が得られる。酸素濃度が500ppm以下であれば、顕著な接合強度の改善効果が得られ、100ppm以下でより顕著な接合強度の向上効果が得られる。なお、電離放射線照射時の酸素濃度の制御の安定性及び容易性の観点からは、酸素濃度としては10ppm以下が好ましい。
【0092】
電離放射線照射時の加熱温度は、第1誘電層12の主成分であるフッ素樹脂の融点以上が好ましい。上記加熱温度としては、上記融点より80℃高い温度以下が好ましく、上記融点より40℃高い温度以下がより好ましい。例えば第1誘電層12の主成分がFEPである場合、FEPの融点が約270℃であることから、上記加熱温度としては270℃〜350℃が好ましい。加熱温度を樹脂の融点よりも高い温度で行うことで、フッ素樹脂のラジカル化及び化学結合の形成を適切に促進することができる。その一方、上記加熱温度の上限をフッ素樹脂の融点よりも80℃高い温度以下とすることで、フッ素樹脂の熱分解(ポリマー主鎖の切断)を抑制でき、第1誘電層12の機械的強度や接合強度の低下を抑制できる。
【0093】
なお、第1誘電層12がエンジニアリングプラスチックを含有する場合、電離放射線照射時の加熱温度はフッ素樹脂及びエンジニアリングプラスチックの融点以上が好ましい。このように加熱温度を設定することで、フッ素樹脂とエンジニアリングプラスチックとの間に化学結合を形成して第1誘電層12の機械的強度等をさらに高めることができる。
【0094】
〔第2プリント配線板〕
図1及び
図2に示すように、第2プリント配線板2は、第1プリント配線板1に対向配設される。この第2プリント配線板2は、第2導電層20及び第2誘電層21を備える。
【0095】
<第2導電層>
第2導電層20は、伝送部13のグランド層及びシールドとして役割を果たすものである。この第2導電層20は、第2誘電層21における第1プリント配線板1側と反対側に積層されている。第2導電層20は、金属層から構成することができる。第2導電層20を構成する金属層は導電パターン10等を構成する金属層と同様とすることかできる。
【0096】
図6に示すように、第2導電層20はベタ状に形成されているとよい。これにより、当該高速伝送基板は、第2プリント配線板2側のシールド効果が高くなる。なお、「ベタ状」とは、平面視で少なくとも伝送部13と重なる領域において開口を実質的に有さないような状態を意味する。なお、「開口を実質的に有さない」とは、開口が完全に存在しない場合のほか、気泡抜き等のような微小な穴が存在する場合等を含む。
【0097】
上述のように第2導電層20がベタに形成される場合には、伝送部13と第2導電層20との厚み方向の平均間隔Hとしては25μm以上200μm以下が好ましい。第2導電層20の平均厚みは、伝送部13の平均厚みT1と同程度であればよい。すなわち、第2導電層20の平均厚みの下限としては、5μmが好ましく、10μmがより好ましく、12μmがさらに好ましい。一方、第2導電層20の平均厚みの上限としては、40μmが好ましく、25μmがより好ましく、18μmがさらに好ましい。
【0098】
<第2誘電層>
第2誘電層21は、フッ素樹脂を主成分とし、フッ素樹脂以外の任意成分を含んでいてもよい。この場合のフッ素樹脂及び任意成分は、上述した第1プリント配線板1の第1誘電層12と同様である。
【0099】
この第2誘電層21は、電離放射線照射によりフッ素樹脂の分子間に化学結合が形成されていることが好ましい。このように第2誘電層21のフッ素樹脂の分子間に化学結合が形成されることで、第2誘電層21の機械的強度を向上させることができる。第2誘電層21は、電離放射線照射により形成される第2導電層20と化学結合を有していてもよい。このように第2誘電層21が第2導電層20と化学結合を有していることで、第2誘電層21に対する第2導電層20の接合性を向上させることができる。なお、上記電離放射線照射の照射条件は、上述した第1プリント配線板1の場合と同様とすればよい。
【0100】
また、第2誘電層21は、比誘電率(εr)、誘電正接(tanδ)、暴露試験後の曲げ強さ、光透過率、暴露試験後の光透過率、寸法等についても、上述した第1プリント配線板1の第1誘電層12と同様であることが好ましい。
【0101】
〔接着層〕
接着層3は、第1プリント配線板1と第2プリント配線板2とを接着するものである。この接着層3は、第1プリント配線板1と第2プリント配線板2との間に配設される。
【0102】
また、接着層3の比誘電率は特に限定されるものではないが、この比誘電率の上限としては、4.0が好ましく、3.0がより好ましく、2.0がさらに好ましい。上記比誘電率が上記上限を超えると、この接着層3の存在によって、伝送部13での高周波信号の伝送特性が低下するおそれがある。
【0103】
接着層3を構成する材料としては、絶縁性及び接着性を有する材料であれば特に限定はなく、公知の材料から選択でき、フッ素樹脂又は液晶ポリマーが好ましい。
【0104】
接着層3に用いるフッ素樹脂としては、例えば上述した第1プリント配線板1の第1誘電層12のフッ素樹脂と同様なものが挙げられる。フッ素樹脂を主成分とする材料により接着層3を形成することで、伝送部13の周囲がフッ素樹脂を主成分とする絶縁材料により囲繞される。このように伝送部13がフッ素樹脂を主成分とする絶縁材料、すなわち伝送部13の周囲が接着層3及び第1誘電層12によって囲まれることで、伝送部13における伝送損失を十分に小さくできると共に、十分な伝送速度が得られる。
【0105】
接着層3に用いる液晶ポリマーとしては、例えば後述するカバーレイ6,7のカバーフィルム60,70の液晶ポリマーと同様なものが挙げられる。液晶ポリマーを主成分とする材料により接着層3を形成することで、第1プリント配線板1と第2プリント配線板2との間で高い接着強度を確保できると共に、形状維持性を高めることができる。
【0106】
接着層3の平均厚み(第1誘電層12と第2誘電層21との対向面距離)としては、導電パターン10の平均厚みより大きければ特に限定されない。この接着層3の平均厚みの下限としては、10μmが好ましく、20μmがより好ましく、30μmがさらに好ましい。接着層3の平均厚みの上限としては、100μmが好ましく、85μmがより好ましく、70μmがさらに好ましい。接着層3の平均厚みが上記下限未満であると、接着層3の形成が困難となり、第1プリント配線板1と第2プリント配線板2との良好な接着状態が得られなくなるおそれがある。一方、接着層3の平均厚みが上記上限を超えると、当該高速伝送基板の可撓性が低下し過ぎるおそれがあると共に、接着層3における誘電損失が大きくなるおそれがある。
【0107】
〔第1スルーホール〕
図2、
図4及び
図5に示すように、第1スルーホール4A,4Bは、伝送部13の入出力部を構成している。これらの第1スルーホール4A,4Bは、伝送部13の両端において第2誘電層21を厚み方向に貫通していると共に伝送部13に接続されている。
【0108】
第1スルーホール4A,4Bはさらに、第1誘電層12の第1プリント配線板1側に形成される回路、配線、実装接続用パッド等に接続されている(図示略)。第1スルーホール4A,4Bは、貫通孔を形成した後に、この貫通孔の内壁にメッキ処理を施し、あるいは貫通孔に導体を充填することで形成することができる。第1スルーホール4A,4Bの内径は特に限定されるものではないが、50μm以上500μm以下が好ましい。
【0109】
図4に示すように、第1スルーホール4Aの中心とシールド部14の長辺部14aの端部角とを結ぶ一対の仮想直線のなす角度γの上限としては、45°が好ましく、40°がより好ましい。これにより、第1スルーホール4A及び伝送部13の端部を第1誘電層12の内側に一定距離だけ退避させることができるため、シールド部14がU状に開放した形状であっても、シールド部14によるシールド効果が十分に発揮することができる。
【0110】
〔第2スルーホール〕
図1、
図4及び
図5に示すように、第2スルーホール5は、第1導電層11と第2導電層20との間を接続するものである。この第2スルーホール5は、第1誘電層12、シールド部14及び第2誘電層21を連続して貫通し、端部において第1導電層11及び第2導電層20と接続している。このように第1導電層11と第2導電層20とを導通する第2スルーホール5を有することで第1導電層11と第2導電層20との電位を等しくし、これらの導電層11,20をグランド層(シールド)として好適に機能させることができる。その結果、当該高速伝送基板は、より高いシールド効果を発揮することができる。また、第1導電層11と第2導電層20との電位を等しくすることで、当該高速伝送基板の耐電圧をより大きくすることが可能となる。
【0111】
第1誘電層12の長手方向に隣接する第2スルーホール5同士の間隔L(
図5参照)は特に限定されるものではないが、1cm以内であることが好ましい。これにより、シールド部14によるシールド効果をより向上させることができる。また、第2スルーホール5の内径は特に限定されるものではないが、第2スルーホール5の内径と同様に、例えば50μm以上500μm以下が好ましい。
【0112】
第2スルーホール5は、第1スルーホール4A,4Bと同様にして形成することができる。この第2スルーホール5の配設箇所、個数、大きさ等は、特に限定されるものではなく、適宜設計可能である。
【0113】
〔第1カバーレイ〕
第1カバーレイ6は、第1導電層11を保護すると共に当該高速伝送基板の形状維持性を高めるものである。この第1カバーレイ6は、第1プリント配線板1に対して、その外側(第2プリント配線板2とは反対側)に積層されている。第1カバーレイ6は、カバーフィルム60及び接着層61を備えている。
【0114】
<カバーフィルム>
カバーフィルム60は、当該高速伝送基板の最外層を構成するものである。このカバーフィルム60の平均厚みの下限としては、3μmが好ましく、7μmがより好ましい。一方、カバーフィルム60の平均厚みの上限としては、25μmが好ましく、12μmがより好ましい。カバーフィルム60の平均厚みが上記下限未満の場合、絶縁性が不十分となるおそれがある。一方、カバーフィルム60の平均厚みが上記上限を超える場合、当該高速伝送基板の可撓性が低下し過ぎるおそれがある。
【0115】
カバーフィルム60は、絶縁性を有することが好ましく、当該高速伝送基板に所定の形状維持性を付与できる剛性を有することがより好ましい。このようなカバーフィルム60を構成する材料としては、例えば液晶ポリマーが挙げられる。
【0116】
上記液晶ポリマーには、溶融状態で液晶性を示すサーモトロピック型と、溶液状態で液晶性を示すリオトロピック型があるが、カバーフィルム60としてはサーモトロピック型液晶ポリマーを用いることが好ましい。
【0117】
上記液晶ポリマーは、例えば芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオールや芳香族ヒドロキシカルボン酸等のモノマーとを合成して得られる芳香族ポリエステルである。その代表的なものとしては、パラヒドロキシ安息香酸(PHB)とテレフタル酸と4,4’−ビフェノールとから合成される下記式(1)、(2)及び(3)のモノマーを重合した重合体、PHBとテレフタル酸とエチレングリコールとから合成される下記式(3)及び(4)のモノマーを重合した重合体、PHBと2,6−ヒドロキシナフトエ酸とから合成される下記式(2)、(3)及び(5)のモノマーを重合した重合体等を挙げることができる。
【0119】
この液晶ポリマーとしては、液晶性を示すものであれば特に限定されず、上記各重合体を主体(液晶ポリマー中、50モル%以上)とし、他のポリマー又はモノマーが共重合されていてもよい。また、液晶ポリマーは液晶ポリエステルアミドであってもよいし、液晶ポリエステルエーテルであってもよいし、液晶ポリエステルカーボネートであってもよいし、液晶ポリエステルイミドであってもよい。
【0120】
液晶ポリエステルアミドは、アミド結合を有する液晶ポリエステルであり、例えば下記式(6)並びに上記式(2)及び(4)のモノマーを重合した重合体を挙げることができる。
【0122】
液晶ポリマーは、それを構成する構成単位に対応する原料モノマーを溶融重合させ、得られた重合物(プレポリマー)を固相重合させることにより製造することが好ましい。これにより、耐熱性や強度・剛性が高い高分子量の液晶ポリマーを操作性良く製造することができる。溶融重合は、触媒の存在下に行ってもよく、この触媒の例としては、酢酸マグネシウム、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸鉛、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、三酸化アンチモン等の金属化合物や、4−(ジメチルアミノ)ピリジン、1−メチルイミダゾール等の含窒素複素環式化合物が挙げられ、含窒素複素環式化合物が好ましく用いられる。
【0123】
なお、カバーフィルム60は液晶ポリマー以外に、充填材、添加剤等を含んでもよい。また、カバーフィルム60は、液晶ポリマー以外の材料により形成してもよい。ただし、当該高速伝送基板の形状維持性の観点からは、剛性の高いフィルムを形成可能な材料が好ましい。
【0124】
<接着層>
接着層61は、第1プリント配線板1の外側にカバーフィルム60を接着するものである。この接着層61を構成する材料としては、接着性及び絶縁性を有すれば特に限定されるものではないが、例えばナイロン樹脂、エポキシ樹脂、ブチラール樹脂、アクリル樹脂等が挙げられる。
【0125】
接着層61の平均厚みは、特に限定されるものではないが、その上限としては10μmが好ましく、20μmがより好ましい。接着層61の平均厚みの上限としては、50μmが好ましく、30μmがより好ましい。この接着層61の平均厚みが上記下限未満であると接着性が不十分となるおそれがあり、また上記上限を超えると当該高速伝送基板の可撓性が低下し過ぎるおそれがある。
【0126】
〔第2カバーレイ〕
第2カバーレイ7は、第2導電層20を保護すると共に当該高速伝送基板の形状維持性を高めるものである。この第2カバーレイ7は、第2プリント配線板2に対して、その外側(第1プリント配線板1の反対側)に積層されている。第2カバーレイ7は、カバーフィルム70及び接着層71を備えている。第2カバーレイ7のカバーフィルム70及び接着層71は、上述の第1カバーレイ6のカバーフィルム60及び接着層61と同様なものであるため、以下における説明を省略する。
【0127】
[高速伝送基板の製造方法]
当該高速伝送基板は、例えば
(1)防錆処理層形成工程、
(2)塗工工程、
(3)乾燥工程、
(4)第1接着工程、
(5)第2接着工程、
(6)第1プリント配線板形成工程、
(7)第1スルーホール形成工程、
(8)第2プリント配線板形成工程、
(9)第3接着工程、
(10)第2スルーホール形成工程、及び
(11)カバーレイ積層工程を備える製造方法から得られる。
【0128】
<(1)防錆処理層形成工程>
防錆処理層形成工程は、導電パターン10、第1導電層11及び第2導電層20を形成するための第1導電膜、第2導電膜及び第3導電膜(以下、単に「導電膜」ともいう)のうち少なくも第1導電膜に、防錆処理層を形成する工程である。導電膜としては、例えば金属箔が用いられる。この防錆処理層形成工程は、金属イオンを含む防錆溶液を導電膜の少なくとも一方の面の全部又は一部に塗工した後に、防錆溶液を乾燥させることで行われる。金属イオンとしては、コバルトイオン、クロムイオン及び銅イオンのイオンが好ましく、コバルトイオンがより好ましい。防錆溶液の塗工方法としては、公知の種々の方法を採用でき、例えば防錆溶液に導電膜を浸漬する方法、防錆溶液を導電膜に塗布する方法が挙げられる。防錆溶液の乾燥は、自然乾燥及び強制乾燥のいずれであってもよい。このように防錆溶液を乾燥させることで、導電膜の少なくとも一方の面の全部又は一部に防錆溶液中の金属イオンに由来する金属酸化物の防錆処理層が形成される。
【0129】
防錆処理層形成工程は、水溶性電解めっき法等のめっき法により行ってもよい。めっき法を採用する場合、防錆処理層は単一金属めっき層又は合金めっき層として形成され、コバルトを含むように形成することが好ましい。
【0130】
<(2)塗工工程>
塗工工程は、導電膜に上述のカップリング剤を化学結合させるために行われる。この塗工工程は、少なくとも導電膜の一方の面の全部又は一部にシランカップリング剤を含む組成物(以下、「カップリング剤含有組成物」ともいう)を塗工することで行われる。
【0131】
塗工工程におけるカップリング剤含有組成物の塗工方法としては、特に制限はなく、例えばカップリング剤含有組成物に導電膜を浸漬する方法、カップリング剤含有組成物を導電膜に塗布する方法が挙げられ、カップリング剤含有組成物に導電膜を浸漬する方法が好ましい。
【0132】
カップリング剤含有組成物に導電膜を浸漬する方法を採用する場合、カップリング剤含有組成物の温度は、通常、20℃〜40℃とされ、浸漬時間は10秒〜30秒とされる。
【0133】
(カップリング剤含有組成物)
カップリング剤含有組成物は、上記シランカップリング剤等のカップリング剤及び溶剤を含み、本発明の効果を損なわない範囲で、その他の任意成分を含んでいてもよい。
【0134】
カップリング剤含有組成物におけるカップリング剤の含有量の下限としては、0.1質量%が好ましく、0.5質量%がより好ましい。上記カップリング剤の含有量が上記下限未満であると、第1誘電層12と導電パターン10(伝送部13)との接合性を十分に高めることができないおそれがある。一方、カップリング剤の含有量の上限としては、5質量%が好ましく、3質量%がより好ましく、1.5質量%がさらに好ましい。カップリング剤の含有量が上記上限を超えると、カップリング剤が凝集しやすく、カップリング剤含有組成物の調製が困難となる場合がある。
【0135】
(溶剤)
溶剤としてはカップリング剤を溶解し得るものであれば特に限定されるものではなく、例えばメタノール、エタノール等のアルコール類、トルエン、ヘキサン、水などが挙げられる。ただし、溶剤としては、保存安定性の面から、エトキシシラン系のアミノシランカップリング剤にはエタノールが好ましく、メトキシシラン系のアミノシランカップリング剤にはメタノールが好ましい。
【0136】
(任意成分)
任意成分としては、酸化防止剤、粘度調整剤、界面活性剤等が挙げられる。酸化防止剤としては、例えば鉄、糖、レダクトン、亜硫酸ナトリウム、アスコルビン酸(ビタミンC)等が挙げられる。
【0137】
<(3)乾燥工程>
乾燥工程は導電膜に塗工したカップリング含有組成物を乾燥する工程である。この乾燥工程は、自然乾燥及び強制乾燥のいずれで行ってもよいが、自然乾燥が好ましい。また、カップリング剤含有組成物の乾燥後は導電膜の加熱処理を行うことが好ましい。加熱処理を行うことにより、導電膜の少なくとも一面の全部又は一部に、より確実にカップリング剤を固定させることできる。加熱処理は、例えば恒温槽にて100℃〜130℃で1分〜10分間加熱することで行うことができる。
【0138】
<(4)第1接着工程>
第1接着工程は、第1誘電層12の一方の面に上記第1導電膜を接着すると共に、他方の面に上記第2導電膜を接着する工程である。この第1接着工程は、例えば第1誘電層12の一方の面に第1導電膜(導電パターン10)を載置すると共に他方の面に第2導電膜(第1導電層11)を載置した状態で加圧加熱することで行われる。第1接着工程は、公知の熱プレス機を用いて行うことができる。第1接着工程は、低酸素濃度下、例えば窒素雰囲気下での真空プレスにより行うことが好ましい。第1接着工程を低酸素濃度下で行うことにより、第1導電膜の一方の面(接着面)の酸化を抑制し、接合力の低下を抑制できる。
【0139】
ここで、接着工程における加圧加熱の条件を適宜選択することにより、第1誘電層12の主成分であるフッ素樹脂の末端又は側鎖を分解してフッ素樹脂の一部をラジカル化することができる。加熱温度は、第1誘電層12の主成分であるフッ素樹脂の結晶融点以上が好ましく、結晶融点よりも30℃高い温度以上がより好ましく、結晶融点よりも50℃高い温度以上がさらに好ましい。例えば、第1誘電層12の主成分がFEPの場合、このFEPの結晶融点が約270℃であるため、加熱温度は270℃以上が好ましく、300℃以上がより好ましく、320℃以上がさらに好ましい。このような加熱温度において第1誘電層12を加熱することでフッ素樹脂のラジカルを効果的に生成させることができる。ただし、加熱温度があまりに高温になるとフッ素樹脂自体が劣化するおそれがあるため、加熱温度の上限としては600℃以下が好ましく、500℃以下がより好ましい。
【0140】
また、この接着工程では、上記加圧加熱に加えて、他の公知のラジカル生成方法、例えば、電離放射線照射等を併用してもよい。電離放射線照射としては、例えばγ線照射処理が挙げられる。このように加熱下で電離放射線照射を行うことで、フッ素樹脂の劣化を抑制しつつ、より効果的にフッ素樹脂のラジカル化を生成させることができる。そのため、加熱下で電離放射線照射を行うことで、フッ素樹脂のラジカル化及び化学結合の形成を促進し、第1誘電層12と導電パターン10(特に伝送部13)との間の接合性をさらに向上させることができる。
【0141】
また、電離放射線照射は、必ずしも接着工程において行う必要はなく、例えば第1誘電層12を形成するときに同時に行ってもよいし、第1誘電層12の形成後において接着工程を行う前に行ってもよいし、接着工程後に行ってもよい。また、電離放射線照射は必ずしも加熱下で行う必要はなく、電離放射線照射のみによりフッ素樹脂のラジカル化を実行してもよい。
【0142】
<(5)第2接着工程>
第2接着工程は、第2誘電層21の一方の面に上記第3導電膜を接着する工程である。この第2接着工程は、例えば第2誘電層21の一方の面に第3導電膜(第2導電層20)を載置した状態で加圧加熱することで行われる。この第2接着工程は、公知の熱プレス機を用いて行うことができる。
【0143】
<(6)第1プリント配線板形成工程>
第1プリント配線板形成工程は、導電膜のパターニングにより第1誘電層12の一方の面に第1導電パターン10(伝送部13及びシールド部14)を形成すると共に他方の面に第1導電層11を形成することで第1プリント配線板1を形成する工程である。このパターニングとしては、公知のエッチング手法、例えばドライエッチング、ウェットエッチングが挙げられ、中でも、エッチングスピードの観点による生産性からは、ウェットエッチングが好ましい。このウェットエッチングは、例えば第1導電膜及び第2導電膜の導電パターン10となる部分にマスキングしておき、エッチング液を用いて第1導電膜及び第2導電膜の所望部分(マスキングしていない部分)を除去することで行われる。このエッチング液としては、例えば硫酸過水(硫酸と過酸化水素水との混合液)、加硫酸ソーダ等を用いることができる。
【0144】
なお、パターニングは、第1接着工程及び第2接着工程よりも前に行ってもよい。この接着工程前のパターニングは、例えば離型フィルムの表面に形成した導電膜をパターニングした後にこの導電膜を第1誘電層12に接着する方法、打ち抜いた導電膜を積層する方法等により行うこともできる。
【0145】
<(7)第1スルーホール形成工程>
第1スルーホール形成工程は第1プリント配線板1に第1スルーホール4A,4Bを形成する工程である。この第1スルーホール4A,4Bは、例えば貫通孔を形成した後に、この貫通孔の内壁にメッキ処理を施し、あるいは貫通孔に導体を充填することで形成することができる。貫通孔の形成は、例えばフォトマスクを用いたエッチング、レーザ加工により行うことができる。貫通孔の内壁にメッキ処理は、例えば無電界めっきにより行うことができ、貫通孔への導体の充填は導体ペーストを用いて行うことができる。
【0146】
<(8)第2プリント配線板形成工程>
第2プリント配線板形成工程は、導電膜のパターニングにより第2誘電層21の一方の面に第2導電層20を形成することで第2プリント配線板2を形成する工程である。このパターニングは、上述した第1プリント配線板形成工程のパターニングと同様にして行うことができる。
【0147】
<(9)第3接着工程>
第3接着工程は、第1プリント配線板1と第2プリント配線板2とを接着する工程である。この第3接着工程は、第1プリント配線板1と第2プリント配線板2と間に接着剤を介在させた状態で加圧加熱することで、これらのプリント配線板1,2を接着させることで行われる。接着剤としては、絶縁性及び接着性を有する材料であれば特に限定はなく、公知の材料から選択でき、上述のようにフッ素樹脂、液晶ポリマーが好ましい。なお、セ着剤を用いずに、第1プリント配線板1の第1誘電層12と第2プリント配線板2の第2誘電層21とを融着等により直接接着してもよい。
【0148】
<(10)第2スルーホール形成工程>
第2スルーホール形成工程は、第1プリント配線板1と第2プリント配線板2との接着体に第2スルーホール5を形成する工程である。この第2スルーホール形成工程は、例えば第1スルーホール形成工程と同様にして行うことができる。
【0149】
<(11)カバーレイ積層工程>
カバーレイ積層工程は、第1カバーレイ6及び第2カバーレイ7を積層することで当該高速伝送基板を得る工程である。このカバーレイ積層工程は、例えば第1導電層11を覆うようにカバーフィルム60に接着層61を予め形成した第1カバーレイ6を載置する共に、第2導電層20を覆うようにカバーフィルム70に接着層71を予め形成した第2カバーレイ7を載置した後、加圧加熱することにより行われる。これにより、カバーフィルム60が接着層61を介して第1誘電層12に固定されると共に、カバーフィルム70が接着層71を介して第2誘電層21に固定される。
【0150】
なお、加圧加熱の条件は、カバーレイ6,7に使用する接着層61,71の構成材料等により適宜決定すればよい。
【0151】
<利点>
当該高速伝送基板は、導電パターン10(伝送部13及びシールド部14)が第1誘電層12と第2誘電層21との間に配設されている。第1誘電層12及び第2誘電層21はフッ素樹脂を主成分としているが、このフッ素樹脂は一般に誘電正接(tanδ)及び比誘電率(εr)が低い傾向にある。そのため、第1誘電層12及び第2誘電層21がフッ素樹脂を主成分とすることで、導電パターン10(特に伝送部13)の伝送損失を十分に小さくできると共に十分な伝送速度が得られる。これにより、伝送特性を向上させるために第1誘電層12及び第2誘電層21を厚くする必要がないことから、第1誘電層12及び第2誘電層21を薄くすることが可能となる。
【0152】
また、当該高速伝送基板は、第1誘電層12及び第2誘電層21の外側に第1導電層11及び第2導電層20が積層されている。すなわち、第1導電層11と第2導電層20との間に導電パターン10(伝送部13)が配設されている。そのため、第1導電層11及び第2導電層20を導電パターン10(伝送部13)に対するシールドとして機能させることができる。特に、第1誘電層12及び第2誘電層21を薄くして第1導電層11と第2導電層20との距離を小さくすることで優れたシールド効果を発揮できると共に、第1導電層11及び第2導電層20の側面でのシールド性の悪化を抑制できることから、よりシールド効果を向上させることができる。
【0153】
[他の実施形態]
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記実施形態の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0154】
例えば、第1プリント配線板と第2プリント配線板との間の接着層を省略し、第1誘電層と第2誘電層とを融着してもよい。この場合、伝送部が第1誘電層及び第2誘電層に埋設される。その結果、伝送部は、フッ素樹脂を主成分とする絶縁材料により囲繞されることになる。
【0155】
また、第1導電層と第2導電層とを接続するスルーホールは、必ずしも第1プリント配線板のシールド部を貫通している必要はなく、また省略することもできる。
【0156】
さらに、カバーレイに代えて、絶縁樹脂のコーティング等により第1導電層及び第2導電層を被覆してもよい。
【0157】
また、伝送部は、直線状に限らず、第1誘電層の形状等に応じて決定すればよく、また曲線状や蛇腹状等の他の形状であってもよい。さらに、シールド部は省略することもできる。また、第1導体層は、帯状やメッシュ状等の他の形状としてもよい。第2導体層は、ベタ状やメッシュ状等の他の形状としてもよい。
【0158】
さらに、本発明は高速伝送基板を用いた電子部品も対象とする。具体的には、本発明においては、例えば上記実施形態のような高速伝送基板に、半導体デバイスやチップ抵抗器等の回路素子が電気的に接続される電子部品も意図する範囲内である。