(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記レジスト層の一面側から凹凸型を押し付けて、前記レジスト層に凹凸型を転写して、前記レジスト層に厚さの薄い凹部と、厚さの厚い凸部を形成してから、前記レジスト層をエッチングして、前記凹部に露出部を形成する工程を有することを特徴とする請求項1に記載のリフトオフ法。
前記薄膜層を形成する前に、前記レジスト層の一部を覆い、少なくとも前記露出部を完全に覆うように付着層を形成することを特徴とする請求項1に記載のリフトオフ法。
前記レジスト除去液を水又は水溶液で置換する際に、最初に表面張力の小さい溶液で置換してから、徐々に表面張力の大きい溶液に置換するようにして、最後に水又は水溶液に置換することを特徴とする請求項1に記載のリフトオフ法。
リフトオフ工程の後に、常温に戻してから、超音波印加して、リフトオフされたレジスト層上に形成した薄膜層のみを分離する工程を更に有することを特徴とする請求項1に記載のリフトオフ法。
【背景技術】
【0002】
ここで言うプラズモン(plasmon)とは、より正確には表面プラズモン、さらに正確には表面プラズモンポラリトンを指し、導電体(金属など)と絶縁体の界面における自由電子群の集団的な振動をいう。プラズモンデバイスは、表面プラズモンの波長(光の波長よりも短い)を考慮して設計された人工微細構造物により表面プラズモンを共鳴させ、その電場増強効果により、発光、吸収、熱放射など、様々な光学現象を増強するデバイスをいう。
【0003】
導電体/絶縁体/導電体共振器をサブ波長配列した超微細2次元パターンアレイに、所定の周波数の光を照射すると、各パターンで照射光により自由電子が集団的に揺動される。このとき共鳴する周波数はパターンのサイズ(線幅、辺の長さや直径)で決まり、入射光の周波数がそれと一致している場合には各パターンで動く自由電子は集団的に共鳴振動し、大きな電場を発生させることができる。あるいは、このような超微細2次元パターンアレイ全体を加熱した場合には、ランダムな熱振動で揺動された自由電子の内、パターン径で決まる特定の周波数のものだけは共鳴的に集団振動し、逆に特定の周波数の光を放射する(熱放射)。よって、このような超微細2次元パターンアレイを備えたデバイスは、プラズモンデバイスとして利用できる。
【0004】
超微細2次元パターンアレイの形成の1つの方法に、先に蒸着やスパッタリングでパターン材料の薄膜を成膜しておき、その上のレジストにパターンを露光・現像して、これをマスクとして薄膜をエッチングするという方法がある。しかし、薄膜を垂直にエッチングするには特殊なドライエッチング装置が必要である上、エッチング深さを個々のケース毎に条件出ししておかねばならないなど、作業環境や効率などの点で問題がある。
【0005】
そこで、従来より半導体素子の製造工程等で使用されてきた微細加工技術であるリフトオフ法が、超微細2次元パターンアレイの重要な作製方法となっている。リフトオフ法とは、電子デバイスや光デバイスの微細なパターンを形成するための方法である。まず、基板上に塗布したレジストと呼ばれる樹脂膜を、光・電子線・モールドによりパターニングする(それぞれ、フォトリソグラフィ、電子線リソグラフィ、ナノインプリントリソグラフィと呼ばれる手法)。次に、その上から、形成したいパターン材料(多くの場合、金属)の薄膜を成膜(多くの場合、真空蒸着法)する。次に、レジストを溶媒にて溶解すると、レジストの上に乗ったパターン材料が剥離し、レジストのなかった部分が基板上に残ってパターンになる。
【0006】
リフトオフ法を良好に行うための重要な秘訣は、レジスト断面形状を逆テーパ形状(上が大きく下が小さい下向き台形やT字型の形状)にしておくことである。フォトリソグラフィにおいては、自動的にそのような断面形状になるようなレジストが市販されている。 電子線リソグラフィにおいては、一般に、下層に露光されやすいレジスト、上層に露光されにくいレジストを成膜しておき、現像すると、下層が広く除去されてレジスト断面形状がT字型になるような2層レジスト法が広く用いられる。ナノインプリントリソグラフィにおいても断面形状をT字型にする2層レジスト法が利用されている。
しかし、近年、リフトオフ法で加工する素子がサブミクロン領域に微細化していくと、作製したいパターンがレジストの厚さに対して相対的に小さくなり、逆テーパ状のレジストで必然的に生じるパターン外周のボケによるパターンの寸法誤差が無視できないものになってきた。パターンを高精度にするには逆テーパの程度を弱くする、あるいはさらに順テーパ形状(上辺が小さく下辺が大きい通常の台形)にする必要があるが、そうすると、残すべき薄膜と剥離すべき薄膜が側面でつながってしまうため、剥離すべき薄膜をリフトオフ(除去)しにくくなった。
【0007】
また、近年、フォトリソグラフィでは実現できない微細なパターンを高い生産性で精密に転写させることができる点から、ナノインプリント法が用いられるようになったが、ナノインプリント法ではレジストの上から型を押し付ける構成なので、レジスト断面形状が必然的に順テーパ形状となり、パターン材料の薄膜が型の側壁部で連続してしまうこととなった。この連続した薄膜に亀裂を生じさせることができない場合、レジスト除去液をレジストに浸透させることができず、レジストの除去自体ができない場合が発生した。また、いずれかの開口部からレジストにレジスト除去液を浸透させ、レジストを除去できたとしても、剥離すべき薄膜と残すべき薄膜が側壁部で一体につながっているために、剥離すべき薄膜部分がそのまま残ってしまう場合が発生した。
【0008】
リフトオフ法に関して以下の報告がある。
特許文献1は、低温液体を用いたリフトオフプロセスに関するものである。「該基板全体を低温液体に浸漬する第2の工程」と、「該基板を溶媒につけて該有機膜とともに該有機膜上の該金属膜を除去する第3の工程」とを有する。冷却する第2の工程は、有機溶媒につける第3の工程の前に限定されている。また、冷却手段は「低温液体」に限定されている。この方法により、高い信頼性でサブミクロンサイズの微細加工が可能となると記載されている。
【0009】
特許文献2は、リフトオフ法及びこのリフトオフ法を用いて作成したTMR素子等に関するものである。温度変化を与える「液体を薄膜表面に付着させる」方法を用いており、レジストマスクと液体が共存する状況が想定されている。また、「温度変化を与える第2工程」後、「レジストマスクをレジストマスク上の薄膜とともに剥離する第3工程」が行われる方法に限定されている。
【0010】
プラズモンデバイスに関しては、以下の報告がある。
非特許文献1は、金属/絶縁体/金属共振器をサブ波長配列したメタ表面における完全吸収に関するものである。
非特許文献2は、メタ表面を加熱して得られる完全熱放射の実証例に関するものである。
非特許文献3は、CO
2濃度計測のための高効率光源として,4.25μmと3.95μmの2波長を無偏光で等方的に熱放射するAu/Al
2O
3/Auメタ表面光源に関するものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、レジスト断面を逆テーパ形状にするための努力を必要とすることなく、希望通りのパターンを形成できるリフトオフ法、精密な超微細2次元パターンアレイ及び効率の高いプラズモンデバイ
スの製造方法を提供することを課題とする。
【0014】
上記事情を鑑みて、本発明者は、微細加工技術においてパターンを形成するためのリフトオフ法、中でも特に、ナノインプリントリソグラフィ(NIL)にてパターンを形成するためのリフトオフ法において、水が凍結する時の体積膨張を利用することにより、レジスト層上に形成した薄膜のみを分離でき、希望通りのパターンを形成することができることを見出して、本発明を完成した。
本発明は、以下の構成を有する。
【0015】
(1) 基板の一面に均一な厚さでレジスト層を形成する工程と、前記レジスト層に基板表面を露出させた露出部を形成する工程と、前記レジスト層の一部を覆い、少なくとも前記露出部を完全に覆うように薄膜層を形成する工程と、レジスト除去液に浸漬して、前記レジスト層を溶解除去する工程と、前記レジスト除去液を水又は水溶液で置換してから、冷凍して、前記露出部を完全に覆うように形成した薄膜層部分を残し、他の薄膜層部分をリフトオフし、前記露出部を完全に覆うように形成した薄膜層部分を有する突出部を形成する工程と、を有することを特徴とするリフトオフ法。
【0016】
(2) 前記レジスト層の一面側から凹凸型を押し付けて、前記レジスト層に凹凸型を転写して、前記レジスト層に厚さの薄い凹部と、厚さの厚い凸部を形成してから、前記レジスト層をエッチングして、前記凹部に露出部を形成する工程を有することを特徴とする(1)に記載のリフトオフ法。
(3) 前記基板がAl
2O
3、HfO
2,SiO
2、MgF
2、SiN、TiO
2、ZnO、ITO、Ta
2O
5、Si、Ge、Au、Ag、Cu、Al又はWの群から選択される同一の又は異なるいずれか一の材料からなることを特徴とする(1)に記載のリフトオフ法。
(4) 前記薄膜層がAl
2O
3、HfO
2,SiO
2、MgF
2、SiN、TiO
2、ZnO、ITO、Ta
2O
5、Si、Ge、Au、Ag、Cu、Al又はWの群から選択されるいずれか一の材料からなることを特徴とする(1)に記載のリフトオフ法。
【0017】
(5) 前記薄膜層を形成する前に、前記レジスト層の一部を覆い、少なくとも前記露出部を完全に覆うように付着層を形成することを特徴とする(1)に記載のリフトオフ法。
(6) 冷凍庫に保持又は液体窒素に浸漬して冷凍することを特徴とする(1)に記載のリフトオフ法。
(7) 前記レジスト除去液を水又は水溶液で置換する際に、最初に表面張力の小さい溶液で置換してから、徐々に表面張力の大きい溶液に置換するようにして、最後に水又は水溶液に置換することを特徴とする(1)に記載のリフトオフ法。
(8) リフトオフ工程の後に、常温に戻してから、超音波印加して、リフトオフされたレジスト層上に形成した薄膜層のみを分離する工程を更に有することを特徴とする(1)に記載のリフトオフ法。
【0018】
(9) 基板の一面に形成された複数の突出部からなる超微細2次元パターンアレ
イの製造方法であって、前記突出部は平面視矩形状であり、一辺の長さが対象とする光波長の1/2以下であり、配列周期が対象とする光波長以下であり
、前記突出部を(1)〜(8)のいずれかに記載のリフトオフ法を用いて形
成することを特徴とする超微細2次元パターンアレ
イの製造方法。
(10) 導電体層と、前記導電体層の一面に形成された絶縁体層と、を有し、前記絶縁体層の一面に、(9)に記
載の方法によって、超微細2次元パターンアレ
イを形成することを特徴とするプラズモンデバイ
スの製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明のリフトオフ法は、基板の一面に均一な厚さでレジスト層を形成する工程と、前記レジスト層に基板表面を露出させた露出部を形成する工程と、前記レジスト層の一部を覆い、少なくとも前記露出部を完全に覆うように薄膜層を形成する工程と、レジスト除去液に浸漬して、前記レジスト層を溶解除去する工程と、前記レジスト除去液を水又は水溶液で置換してから、冷凍して、前記露出部を完全に覆うように形成した薄膜層部分を残し、他の薄膜層部分をリフトオフし、前記露出部を完全に覆うように形成した薄膜層部分を有する突出部を形成する工程と、を有する構成なので、レジスト断面を逆テーパ形状にするための努力を必要とすることなく、レジスト層上に形成した薄膜のみを分離することができ、希望通りのパターンを形成できる。これにより、超微細2次元パターンアレイを容易に形成でき、プラズモンデバイスを容易に作製できる。
【0020】
本発明の超微細2次元パターンアレイは、基板の一面に形成された複数の突出部からなる超微細2次元パターンアレイであって、前記突出部は平面視矩形状であり、一辺の長さが対象とする光波長の1/2以下であり、配列周期が対象とする光波長以下であり、先に記載のリフトオフ法を用いて形成されたものである構成なので、精密にレイアウトできる。これにより、プラズモンデバイスを容易に作製できる。
【0021】
本発明のプラズモンデバイスは、絶縁層と、前記絶縁層の一面に形成された導電体層と、を有し、前記導電体層の一面に、先に記載の超微細2次元パターンアレイが設けられている構成なので、熱放射効率を高くできる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(本発明の実施形態)
(プラズモンデバイス)
まず、本発明の実施形態であるプラズモンデバイスについて説明する。
図1は、本発明の実施形態であるプラズモンデバイスの一例を示す概略図であって、平面図(a)、
図1(a)のA部拡大図(b)、
図1(b)のB−B’線におけるC部拡大部(c)である。プラズモンデバイスにも様々な用途のものがあるが、この事例では特に加熱により共鳴的な熱放射を示す赤外光源デバイスを示す。
図1に示すように、本発明の実施形態であるプラズモンデバイス10は、絶縁層15上に形成したヒータパターン層16上に形成されている。
絶縁層15は、例えば、SiNメンブレンである。
ヒータパターン層16は、導電体層であり、例えば、Auからなる。ヒータパターン層は、例えば、帯状に形成し、一端側に一の電極17A、他端側に別の電極17Bを形成し、電極間に電圧を印加することにより、熱放射させることができる構成とされている。
【0024】
図2は、本発明の実施形態であるプラズモンデバイスの一例を示す拡大概略図であって、
図1(b)のD部拡大図(a)、
図1(c)のD部拡大断面図(b)である。B−B’線とE−E’線は同一の線とされている。
本発明の実施形態であるプラズモンデバイス10は、基板21と、基板21の一面に形成された複数の突出部31とを有して概略構成されている。
複数の突出部31により、超微細2次元パターンアレイが形成されている。
なお、本明細書で基板という時には、必ずしもSiウエハや石英基板のような一体の素材からできた構造体を指すものとは限らず、そのような基板上に単数あるいは複数の薄膜層を積層した構造体の最表面層を指す場合もある。
【0025】
図2では、突出部31は、薄膜層33と基板21との間には付着層32が設けられている。しかし、付着層32は薄膜層33を基板21に強固に接合するためだけの層であり、薄膜層33と基板21が強固に接合する組合せの材料であれば、なくてもよい。
【0026】
基板21がAl
2O
3、HfO
2,SiO
2、MgF
2、SiN、TiO
2、ZnO、ITO、Ta
2O
5、Si、Ge、Au、Ag、Cu、Al又はWの群から選択される同一の又は異なるいずれか一の材料からなることが好ましい。
【0027】
薄膜層33がAl
2O
3、HfO
2,SiO
2、MgF
2、SiN、TiO
2、ZnO、ITO、Ta
2O
5、Si、Ge、Au、Ag、Cu、Al又はWの群から選択されるいずれか一の材料からなることが好ましい。
【0028】
(超微細2次元パターンアレイ)
次に、本発明の実施形態である超微細2次元パターンアレイについて説明する。
本発明の実施形態である超微細2次元パターンアレイ13は、本発明の実施形態であるプラズモンデバイス10の平面視パターンアレイである。
【0029】
超微細2次元パターンアレイ13は、基板21一面に形成された複数の突出部31からなる超微細2次元パターンアレイである。
突出部31は平面視矩形状であり、一辺の長さが対象となる光波長の1/2以下であり、配列周期が対象とする光波長以下である。
突出部31は、本発明の実施形態であるリフトオフ法を用いて形成されたものである。
【0030】
(リフトオフ法)
次に、本発明の実施形態であるリフトオフ法について説明する。
図3〜8は、本発明の実施形態であるリフトオフ法の一例を示す工程図である。
本発明の実施形態であるリフトオフ法は、レジスト層形成工程S1と、凹凸部形成工程S2と、薄膜層形成工程S3と、レジスト層溶解除去工程S4と、冷凍工程S5と、を有する。
【0031】
(レジスト層形成工程S1)
まず、
図3(b)に示すように、基板21の一面21aに均一な厚さでレジスト層41を形成する。レジスト層41の材料は、例えば、ナノインプリント用レジスト(ダイセル社NIAC705)等を挙げることができる。スピンコーティング法などの湿式塗布法によって成膜する。成膜後、必要に応じて、所定の熱処理(ベーキング)を行い、レジストを次の工程に都合の良い状態に整える。
【0032】
(凹凸部形成工程S2)
この工程では、レジスト層41に基板21表面の露出した凹部と、厚さの厚い凸部を形成する。
例えば、
図4(a)〜(c)に示すように、レジスト41の一面41a側から、複数の凹部42c及び凸部42dがアレイ状に設けられた凹凸型42を押し付けて、レジスト層41に凹凸型を転写する。例えば、凹凸型42の凸部42dは、レジスト層41に凹部41cを形成する。
【0033】
ナノインプリントにも紫外光方式と熱方式があるが、紫外光方式の場合には、押し付けた状態で紫外光透過性の凹凸型を通して所定の波長、強度の紫外光を所定の時間照射し、レジストを硬化させる。凹凸型を離脱した後、必要に応じて、再度熱処理(ベーキング)を行い、レジストを最終硬化させる。
【0034】
次に、
図5(a)に示すように、レジスト層41全面をドライエッチングして、凹部41cで基板21表面を露出させて、露出部43を形成する。
【0035】
(薄膜層形成工程S3)
この工程では、レジスト層41の一部を覆い、少なくとも露出部43を完全に覆うように薄膜層33を形成する。
なお、通常、接合力を上げるために、薄膜層33形成の前に付着層を形成する。
そのため、ここでは、
図5(b)に示すように、レジスト層41及び露出部43を覆うように付着層32を形成する。付着層32材料としては、Ti、Crなどを挙げることができる。
次に、
図5(c)に示すように、付着層32を覆うように薄膜層33を形成する。
【0036】
薄膜層33は、少なくとも露出部43を完全に覆うように形成することが好ましい。これにより、所望の超微細2次元パターンアレイを形成できる。完全に覆わない場合、欠陥が生じる。
薄膜層33は、レジスト層41の一部を覆うように形成することが好ましい。これにより、レジスト層が露出された部分を形成することができ、次の工程で、この部分からレジスト層を溶解し、順次溶解を続けることにより、レジスト層をすべて溶解することができる。
【0037】
レジスト層が露出された部分は、付着層32及び薄膜層33を形成する際に、外周部をテープや金具などでマスキングしておくことで容易に実現できる。現実には、付着層32及び薄膜層33を形成する際に成膜装置に固定するための固定金具がその役割を果たすので、特別な工夫を行うことなく実現できる場合が多い。
なお、レジスト層が露出された部分を設けなくても、亀裂を形成させ、亀裂部からレジスト除去液51を侵入させて、溶解させることができるが、レジスト層が露出された部分を設ければ、レジスト除去工程を再現性良く行うことができ、また、除去に要する時間を短縮できる。
【0038】
(レジスト層溶解除去工程S4)
次に、
図6に示すように、レジスト除去液51に浸漬して、レジスト層41を溶解除去する。レジスト除去液51としてはNMP(N−メチル―2―ピロリドン)などを挙げることができる。レジスト層41を除去した空間内にもレジスト除去液51は入り込む。
【0039】
(冷凍工程S5)
この工程では、レジスト除去液を水又は水溶液で置換してから、冷凍して、露出部43を完全に覆うように形成した薄膜層33部分を残し、他の薄膜層33部分をリフトオフし、露出部43を完全に覆うように形成した薄膜層33部分からなる突出部31を形成する。
【0040】
例えば、
図7(a)に示すように、レジスト除去液51を水又は水溶液53で置換する。
次に、冷凍することにより、水又は水溶液53を氷55へ変換させ、
図7(b)に示すように、レジスト層があった部分の水等の氷への変換による体積膨張により、露出部43を完全に覆うように形成した薄膜層33及び付着層32部分を残し、他の薄膜層33及び付着層32部分がリフトオフされる。これにより、露出部43を完全に覆うように形成した薄膜層33及び付着層32部分からなる突出部31が形成される。
水溶液としては、例えば、IPA(イソプロピルアルコール)混合水溶液を挙げることができる。
【0041】
水又は水溶液への置換は、前記レジスト除去液を水又は水溶液で置換する際に、互いに混合可能で、表面張力の小さい溶液で置換してから、最後に水又は水溶液に置換することが好ましい。これにより、レジストを確実に洗い流し、レジストが除去されて設けられる細孔へ表面張力の大きい水又は水溶液を確実に充填できる。
【0042】
具体的には、例えば、NMP(表面張力41mN/m)を満たしたビーカー内に浸漬して、レジスト層を除去してから、IPA(表面張力21mN/m)を満たしたビーカー内に浸漬し、新たなIPAを満たしたビーカー内に浸漬し、水(表面張力73mN/m)を満たしたビーカー内に浸漬し、新たな水を満たしたビーカー内に浸漬する。これにより、IPAにてレジストを溶解したNMPを確実に洗い流し、細孔の細部に至るまで溶液を充填した状態を維持しつつ、最終的に水に置き換えることができる。IPAの代わりにエタノール(表面張力22mN/m)を用いても良い。この時に、細孔内が途中で乾燥しないように、液体が充填された状態を維持することが重要である。ビーカー間を移動する程度の時間であれば付着した液体が乾燥する時間がないので、特別な配慮は不要であるが、必要に応じて、基板が浸る程度の浅いトレイを用意し、トレイの中の液体ごと次のビーカーに移動すれば、乾燥の可能性を完全に防止しつつ、溶液を置換できる。仮に細孔内を乾燥させてしまった場合には、表面張力の大きい水を新たに入れることは困難である。しかし、その場合にも、一度表面張力の小さいIPAに浸漬してから水に置換すれば、細孔内を水で充填することは可能である。
【0043】
冷凍方法としては、冷凍庫に保持又は液体窒素に浸漬して冷凍することを挙げることができる。細孔内の氷の膨張を上から押さえ付けないために、
図7(b)のように、浅いトレイやシャーレに入れて冷凍することが望ましい。液体窒素に浸漬する場合には、瞬時に凍結できるので、基板を水の入ったビーカーから引き上げて、シャーレなどに入れずにそのまま液体窒素に浸漬しても、表面に付着した水の層が存在するために、
図7(b)と同様の状態になる。
【0044】
以上の工程により、
図8(a)に示すように、常温に戻して、氷55を水53に変換して、リフトオフされた他の薄膜層33及び付着層32部分のみを分離する。
水とともにリフトオフされた他の薄膜層33及び付着層32部分を廃棄する。
必要に応じて、基板を洗浄する。この洗浄は微細加工における一般的な方法で良く、例えば、最初にアセトン、次にIPAに浸漬し、最後に乾燥窒素にてブローしてIPAを吹き飛ばす。
以上により、超微細2次元パターンアレイを形成する。
なお、分離の際に、以下の超音波印加工程を実施してもよい。
【0045】
(超音波印加工程)
常温に戻して、氷55を水53に変換してから、水の入ったビーカーに基板を入れた状態で超音波印加して、リフトオフされたレジスト層上に形成した薄膜層のみを分離する。
【0046】
本発明の実施形態であるリフトオフ法は、基板21の一面に均一な厚さでレジスト層41を形成する工程S1と、前記レジスト層に基板表面を露出させた露出部43を形成する工程S2と、前記レジスト層の一部を覆い、少なくとも前記露出部を完全に覆うように薄膜層33を形成する工程S3と、レジスト除去液51に浸漬して、前記レジスト層を溶解除去する工程S4と、前記レジスト除去液を水又は水溶液で置換してから、冷凍して、前記露出部を完全に覆うように形成した薄膜層部分を残し、他の薄膜層部分をリフトオフし、前記露出部を完全に覆うように形成した薄膜層部分を有する突出部31を形成する工程S5と、を有する構成なので、レジスト断面を逆テーパ形状にするための努力を必要とすることなく、レジスト層上に形成した薄膜のみを分離することができ、希望通りのパターンを形成できる。また、レジスト層の露出部から、レジストを確実に溶解除去できる。これにより、例えば、サブ波長構造物を高スループットで製造できる紫外光ナノインプリントリソグラフィにて光源素子を実現できる。
【0047】
本発明の実施形態であるリフトオフ法は、レジスト層41の一面側から凹凸型を押し付けて、前記レジスト層に凹凸型を転写して、前記レジスト層に厚さの薄い凹部と、厚さの厚い凸部を形成してから、前記レジスト層をエッチングして、前記凹部に露出部を形成する工程を有する構成なので、高い信頼性で希望通りのパターンを形成できる。
【0048】
本発明の実施形態であるリフトオフ法は、基板21がAl
2O
3、HfO
2,SiO
2、MgF
2、SiN、TiO
2、ZnO、ITO、Ta
2O
5、Si、Ge、Au、Ag、Cu、Al又はWの群から選択される同一の又は異なるいずれか一の材料からなる構成なので、容易にデバイスを形成することができる。
【0049】
本発明の実施形態であるリフトオフ法は、薄膜層33がAl
2O
3、HfO
2,SiO
2、MgF
2、SiN、TiO
2、ZnO、ITO、Ta
2O
5、Si、Ge、Au、Ag、Cu、Al又はWの群から選択されるいずれか一の材料からなる構成なので、容易にデバイスを形成することができる。
【0050】
本発明の実施形態であるリフトオフ法は、薄膜層33を形成する前に、前記レジスト層の一部を覆い、少なくとも前記露出部を完全に覆うように付着層32を形成する構成なので、薄膜層を強固に固着することができる。
【0051】
本発明の実施形態であるリフトオフ法は、冷凍庫に保持又は液体窒素に浸漬して冷凍する構成なので、水を氷に変換して、体積膨張させることにより、レジスト断面を逆テーパ形状にするための努力を必要とすることなく、レジスト層上に形成した薄膜のみを確実に分離することができる。
【0052】
本発明の実施形態であるリフトオフ法は、レジスト除去液51を水又は水溶液53で置換する際に、最初に表面張力の小さい溶液で置換してから、最後に水又は水溶液に置換する構成なので、元のレジスト層が溶解除去されて形成された空洞部内に表面張力の大きい水又は水溶液を導入することができる。
【0053】
本発明の実施形態であるリフトオフ法は、リフトオフ工程の後に、常温に戻してから、超音波印加して、リフトオフされたレジスト層上に形成した薄膜層のみを分離する工程を更に有する構成なので、不要な薄膜層を完全に分離することができる。
【0054】
本発明の実施形態である超微細2次元パターンアレイ13は、基板21の一面に形成された複数の突出部31からなる超微細2次元パターンアレイであって、前記突出部は平面視矩形状であり、一辺の長さが対象とする光波長の1/2以下であり、配列周期が対象とする光波長以下であり、先に記載のリフトオフ法を用いて形成されたものである構成なので、精密にレイアウトできる。これにより、プラズモンデバイスを容易に作製できる。
【0055】
本発明の実施形態であるプラズモンデバイス10は、絶縁層15と、絶縁層15の一面に形成された導電体層16と、を有し、導電体層16の一面に、超微細2次元パターンアレイ13が設けられている構成なので、熱放射効率を高くできる。
【0056】
本発明の実施形態であるリフトオフ法、超微細2次元パターンアレイ及びプラズモンデバイスは、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で、種々変更して実施することができる。本実施形態の具体例を以下の実施例で示す。しかし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0057】
(実施例1)
次のようにして、金属膜用の大出力エッチング装置も多層レジストのような複雑な工程も用いずに、簡便な単層リフトオフ法にてプラズモン共鳴により特定の波長の赤外光を熱放射するメタ表面素子を作製した。
【0058】
まず、フォトリソグラフィにより、SiNメンブレン上にAu製のヒータパターンを形成した。
図9は、作製したヒータパターンの光学顕微鏡写真である。
このヒータパターン自体がプラズモン共鳴に必要な第1の導電体層としても働く。
【0059】
次に、Au膜上にAl
2O
3を成膜した。
次に、Al
2O
3を覆うようにレジスト(溶剤溶解型UV硬化樹脂(ダイセル,NIAC705))を塗布した。塗布にはスピンコータを用い、回転数5000rpm、回転時間40sの条件で行った。その後、70℃で40秒間、プリベークを行った。こうして塗布されたレジスト膜の厚さは170nmであった。
【0060】
次に、石英製モールド(型)をレジストに押し付けて、型を転写して、凹凸を形成した。モールドの凹凸の高さは250nmである。モールドは事前にエキシマ洗浄の後、離型剤を塗布してある。転写は、東芝機械製のナノインプリント装置ST50型を用い、1.8MPaの圧力で5分間加圧した。その状態で、365nmの紫外光を33mW/cm
2の強度で60s間照射し、レジストを硬化させた。
【0061】
次に、O
2+N
2混合ガスによるICPドライエッチングを3.5分間行い、残膜を除去して、凹部でAl
2O
3膜を露出させた。凸部のレジストは順テーパ形状となった。
次に、凹凸形状を覆うように、電子ビーム蒸着装置を用いて厚さ3nmのTiを成膜した。
【0062】
次に、同じ装置で、Ti膜を覆うように、厚さ40nmのAu膜を成膜した。
蒸着時には基板外周を固定金具で抑えるため、その部分にはTi、Au膜は成膜されず、レジストが露出した状態になる。この部分が次のリフトオフ時にレジスト除去液の入り込む開始点として働く。
【0063】
次に、80℃に加熱したNMPに1時間浸漬した。これにより、レジストを溶解・除去した。
次に、IPAの入ったビーカーを2個、純水の入ったビーカーを2個用意しておき、NMPから引き上げた基板を順次漬けて行くことにより、元レジストの空洞部内部の液体をNMPからIPAを介して水に置換した。
【0064】
次に、水から引き上げた基板を迅速に液体窒素に浸漬し、水を氷に変換した。水から氷へ変換して、元レジスト空洞部内の水を氷に変換し、水が凍結する際の体積膨張を利用することにより、元レジストの基板側の金属膜の薄い部分を破断した。この部分が薄く、最も容易に破断されるためである。
【0065】
次に、液体窒素から引き上げた基板を水の入ったビーカーに移し、室温(常温)に戻し、氷を水に変換した。
図10は、室温(常温)に戻した時点の基板のSEM像である。金属膜が側壁でつながって形成されたブリッジが内圧により破壊され、ブリッジは下辺にて破断していた。
次に、超音波印加した。これにより、破断された金属膜を金属膜がパターン形成された基板からリフトオフ(分離)した。
【0066】
次に、基板をアセトンの入ったビーカー、IPAの入ったビーカーに順次移動し、最後に乾燥窒素ガスをブロアーにより吹き付けてIPA液滴を吹き飛ばし、乾燥させて、金属膜がパターン形成された基板(実施例1)を得た。
【0067】
図11、12は、基板(実施例1)のSEM像である。2波長メタ表面が形成されている。
また、この2波長メタ表面はフォトリソグラフィで作製したヒータパターンの上に形成されており、ヒータはSiNメンブレン上に形成され、周囲から熱絶縁されている。ヒータに電圧を印加して電流を流すと、メンブレン部分だけが高温になり(例えば300℃)、2波長の赤外光が放射される。
【0068】
(比較例1)
NMPに浸漬して、レジストを溶解・除去する工程まで実施例1と同様にして作業を行った。しかし、NMPを水に置換するところから最後までの工程を実施せずに作業を行い、アセトン、IPAで洗浄後、乾燥窒素ガスにて乾燥し、基板(比較例1)を得た。
【0069】
図13、14は、基板(比較例1)のSEM像である。
レジストは、溶剤(NMP)にて溶解・除去されていた。しかし、
図14に示すように、この方法では、モールドを転写し、残膜処理した後のレジストが順テーパ形状となるため、NMPによるレジスト溶解後、金属膜が連続したブリッジ構造を形成し、レジスト上に蒸着した金属膜はリフトオフされていなかった。
溶剤へのさらに長時間の浸漬や超音波印加によってもこれ以上の進展はなかった。
【0070】
(比較例2)
NMPに浸漬して、レジストを分解除去する工程まで実施例1と同様にして作業を行った。しかし、NMPを水に置換せずにアセトン、IPAで洗浄後、乾燥窒素ガスにて乾燥し、実施例1と同様に液体窒素に浸漬させた後、常温に戻す作業を行い、すなわち、単に冷却する作業を行い、基板(比較例2)を得た。
【0071】
図15は、基板(比較例2)のSEM像である。
金属膜が連続したブリッジ構造を形成し、レジスト上に蒸着した金属膜はリフトオフされていなかった。これは、内部に水が存在しない状態で冷却しても何の効果もないことを示している。つまり、実施例1にて良好にリフトオフできたのは、冷却により金属膜が熱収縮したなどの理由によるものではなく、元レジスト空洞部分に水が入り込み、これが凍結したことによるものであることを示している。