特許第6341546号(P6341546)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6341546光エネルギー時分割分配装置、植物工場、建築物、光エネルギー時分割分配方法及び回転筒
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6341546
(24)【登録日】2018年5月25日
(45)【発行日】2018年6月13日
(54)【発明の名称】光エネルギー時分割分配装置、植物工場、建築物、光エネルギー時分割分配方法及び回転筒
(51)【国際特許分類】
   G02B 26/08 20060101AFI20180604BHJP
   A01G 7/00 20060101ALI20180604BHJP
   A01G 31/00 20180101ALI20180604BHJP
   A01G 9/20 20060101ALI20180604BHJP
   F21S 2/00 20160101ALI20180604BHJP
   F21S 11/00 20060101ALI20180604BHJP
【FI】
   G02B26/08 E
   A01G7/00 601B
   A01G31/00 612
   A01G9/20 B
   F21S2/00 355
   F21S11/00 310
【請求項の数】8
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2016-33366(P2016-33366)
(22)【出願日】2016年2月24日
(65)【公開番号】特開2017-147973(P2017-147973A)
(43)【公開日】2017年8月31日
【審査請求日】2017年6月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000227205
【氏名又は名称】NECプラットフォームズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】高橋 博
(72)【発明者】
【氏名】大場 紀彦
【審査官】 堀部 修平
(56)【参考文献】
【文献】 登録実用新案第3194355(JP,U)
【文献】 特開平4−166076(JP,A)
【文献】 特開平3−59610(JP,A)
【文献】 特公昭62−6785(JP,B1)
【文献】 特開平3−130018(JP,A)
【文献】 特開2011−12(JP,A)
【文献】 特許第4280456(JP,B2)
【文献】 特開2006−106169(JP,A)
【文献】 特開平05−313089(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0021934(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 26/08 − 26/12
A01G 7/00
A01G 9/20
A01G 31/00
F21S 2/00
F21S 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面を有し中心軸を回転軸として回転する回転筒であって、一方向から入射する入射光を、第1方向に反射する第1反射面及び前記入射光を前記第1方向と異なる第2方向に反射する第2反射面を含む前記外周面を有する回転筒と、
前記第1方向に反射された光を、所定の空間の第1照明範囲に導光する第1反射光導光路と、
前記第2方向に反射された光を、前記第1照明範囲と異なる所定の空間の第2照明範囲に導光する第2反射光導光路と、
を備え、
前記第1反射面及び前記第2反射面における前記回転軸に直交した断面形状は、それぞれ前記回転軸を中心とした対数螺旋曲線の所定の一部を含む光エネルギー時分割分配装置。
【請求項2】
前記第2反射面における前記断面形状の前記対数螺旋曲線は、前記第1反射面における前記断面形状の前記対数螺旋曲線の曲率の正負を逆としたものである請求項1に記載の光エネルギー時分割分配装置。
【請求項3】
前記外周面は、前記入射光を、前記第1方向及び前記第2方向と異なる第3方向に反射する第3反射面と、
前記第3方向に反射された光を、前記第1照明範囲及び前記第2照明範囲と異なる所定の空間の第3照明範囲に導く第3反射光導光路と、
をさらに含み、
前記第3反射面における前記回転軸に直交する前記断面形状は、前記回転軸を中心とした前記対数螺旋曲線の所定の一部を含む請求項1または2に記載の光エネルギー時分割分配装置。
【請求項4】
光を集光し、集光した前記光をライン状の光に変換する集光器と、
前記ライン状の光を前記回転筒へ導光する入射光導光路と、
をさらに備えた請求項1〜3のいずれか一項に記載の光エネルギー時分割分配装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の前記光エネルギー時分割分配装置を用いた植物工場。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の前記光エネルギー時分割分配装置を用いた建築物。
【請求項7】
外周面を有し中心軸を回転軸として回転する回転筒であって、一方向から入射する入射光を、第1方向に反射する第1反射面及び前記入射光を前記第1方向と異なる第2方向に反射する第2反射面を含む前記外周面を有する回転筒に、前記一方向から光を入射させる工程と、
前記第1方向に反射された第1反射光を、所定の空間の第1照明範囲に導光するとともに、前記第2方向に反射された第2反射光を、前記第1照明範囲と異なる所定の空間の第2照明範囲に導光する工程と、
を備え、
前記第1反射面及び前記第2反射面における前記回転軸に直交した断面形状は、それぞれ前記回転軸を中心とした対数螺旋曲線の所定の一部を含む光エネルギー時分割分配方法。
【請求項8】
外周面を有し中心軸を回転軸として回転する回転筒であって、一方向から入射する入射光を、第1方向に反射する第1反射面及び前記入射光を前記第1方向と異なる第2方向に反射する第2反射面を含む前記外周面を備え、
前記第1反射面及び前記第2反射面における前記回転軸に直交した断面形状は、それぞれ前記回転軸を中心とした対数螺旋曲線の所定の一部を含む回転筒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、集光された太陽光の光エネルギー、または、ランプ等人工光源の光エネルギーを、時分割で分配する光エネルギー時分割分配装置、植物工場、建築物、光エネルギー時分割分配方法及び回転筒に関し、特に、入射された光エネルギーを、高速で分配する構造を有する光エネルギー時分割分配装置、植物工場、建築物、光エネルギー時分割分配方法及び回転筒に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の地球温暖化防止の気運から、再生可能エネルギー利用のニーズが以前にもまして高まっている。中でも太陽光は、太陽光発電パネル及び太陽熱集熱装置を用いた発電への利用、または、温水生成への利用に適用されることが多い。他にも太陽光は、住宅またはオフィス等の建築物における採光システムへの利用に適用されている。
【0003】
一方、植物工場において、強い光を必要とする陽性植物を栽培する場合には、陽性植物に対して、太陽光や高輝度ランプ等の光を照射する。省エネルギーの目的から、これら太陽光や高輝度ランプ等の光をパルス状に高速で点滅または時分割して配光する場合もある。また、光をパルス状に植物に対して照射すると、植物の光合成が加速されることが、特許文献1〜3に開示されている。
【0004】
このように、住宅、オフィス等の建築物、植物工場(太陽光併用型、完全人工光型を含む)の他にも、病棟、教育施設他の建物、あるいはこれ以外の幅広い用途や目的で、光エネルギーの時分割分配装置及び光エネルギーの時分割分配方法の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平03−059610号公報
【特許文献2】特公平05−019129号公報
【特許文献3】特公昭62−006785号公報
【特許文献4】特許第4280456号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】植物工場研究所、“パルス光が植物の光合成速度に与える影響”、[online]、平成26年8月17日、[平成27年12月3日検索]、インターネット<URL:http:// www.sasrc.jp/pulse.htm>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のように、太陽光や高輝度人工光などの強い光(高い光量子束密度(photosynthetic photon flux density)の光、以下高いPPFDの光と記す。)を高速に点滅または時分割して分配する技術が望まれているにもかかわらず、そのような技術はまだ確立されていない。ここで、高い光量子束密度(高いPPFD)とは、自然光の最大PPFDに相当する約2000マイクロモル毎平方メートル毎秒(単位:μmol/m2/s)の10分の1程度以上(≧約200μmol/m2/s)のPPFDの光エネルギーをいう。また、ここで、高速とは、光の点滅周波数が例えば数十ヘルツ以上で明暗を繰り返す状態、また光を分配する時の時間幅が例えば約100マイクロ秒以下になる状態をいう。
【0008】
例えば、特許文献1〜3には、回転傾斜鏡による光分配機能及び入射側光ファイバーと射出側光ファイバーの接合面の物理的な切り替え機能による時分割分配の構造が開示されている。しかしながら、これらの構造は複雑であるため、高速化させることが困難である。また、光の反射面が狭いために、高いPPFDの光を時分割分配することは困難である。
【0009】
一方、光源そのものが高速に点滅可能な発光ダイオード(以下、LEDと記す。)を用いた場合には、光を意図的に高速に点滅させることができる。LEDを用いることで、植物工場における省エネルギー化と長寿命化を実現することができる。しかし、完全人工光型植物工場において、LEDの光の点滅を利用して、強い光を必要とするトマトやメロン他の陽性植物の光合成を加速させることはできない。LEDの光源は、陽性植物の光合成に必要な輝度及びPPFDが十分ではない。
【0010】
輝度を上げるためには照射面積当たりのLEDの個数を多くする方法もある。しかし、LEDの電気-光変換時の損失による発熱への対策が必要となる。また、この損失分を含む多くのLEDの発光駆動に大きな電力を必要とする。このようなことから、LEDの個数を多くすることは採算性から考慮して現実的ではない。
【0011】
仮に、光合成の加速のためではなく、省エネルギー化のためだけとしても、LEDを含め蛍光灯、ナトリウムランプやメタルハライドランプ他の人工光では、発熱と消費電力が問題となる。このように、発熱及び消費電力の問題のために、LEDを用いる方法は、輝度やPPFDを十分に上げることができない。
【0012】
一般的に、完全人工光型植物工場において、レタスやホウレンソウなどの半陰性植物や陰性植物の栽培が多くなるのは、このように発熱及び消費電力とのトレードオフにより、PPFDを容易に上げられないためである。
【0013】
一般的に、陽性植物の栽培には、自然の太陽光を活用している。日射が強すぎる場合は遮光している。仮に40%程度に遮光したとしてもPPFDは約1000(単位:μmol/m2/s)程度もある。これは、一般的に使われている植物工場用LED光源の20センチメートル程度上空からの照射に比べると、少なくとも4倍以上のPPFDである。
【0014】
よって陽性植物の栽培で、パルス状発光の高速な点滅制御を行うためには、太陽光や高輝度人工光などの高いPPFDの光を高速に点滅または時分割して分配する構造が必要とされる。しかしながら、植物工場及び植物工場以外の用途であっても、現時点で、高いPPFDの光を高速に点滅または時分割して分配する技術は見当たらない。このことが課題となっている。
【0015】
また、他の課題としては、特許文献1でも開示されているように、高いPPFDの光を、時分割して分配する場合に光の反射面で発生する熱の問題が挙げられる。
【0016】
反射面における狭い範囲に高いPPFDの光を照射する場合には、反射面に排熱する機能がない場合には、反射面を構成する素材が発熱により変形または焼損するおそれがある。すなわち、狭い範囲に集光した高いPPFDの光を、例えば、回転傾斜鏡やポリゴンミラーなどを用いて反射させる場合、反射面に用いる素材の反射損失により、光エネルギーが熱に変換される。変換された熱は、反射面を構成する素材に対して、変形または焼損を引き起こす。
【0017】
この発熱の影響を防ぐための対策として、熱排出を目的とする空冷または水冷他の冷却機能が必要となる。例えば、北緯35度付近の晴天時の地表面において、1平方メートルの面積で太陽に向けた集光機能から得られる光エネルギーは、全波長域の総和で最大約1キロワット秒(=1000ジュール)である。仮に、ほぼ無損失で集光された光エネルギーが反射面で2%ほど損失し、更に、この損失エネルギーが全て素材側で熱に変わると仮定する。そうすると、この時の熱エネルギーは約20ワット秒(=20ジュール)に相当する。
【0018】
より具体的に示すと、全ての辺が5センチメートルのアルミニウムの立方体において、反射率が98パーセントの或る1面を反射面とする。そして、この面全体に約1キロワット秒の光エネルギーを照射する。そうすると、アルミニウムの立方体の周囲が無風で20℃程度ならば、2%分の損失エネルギーの発熱となる。これにより、理論上は、照射後100分くらいでアルミニウムの表面温度が摂氏160度以上に達する。アルミニウムの温度が140度上昇すると体積が約1%膨張する。したがって、反射面は変形し、光の反射性能にも影響する。
【0019】
このように、高いPPFDの光を、時分割して分配する場合には、光の反射面で発生する熱が課題となっている。
【0020】
さらに、他の課題としては、高いPPFDの光を時分割で分配させる構成が複雑であることが挙げられる。
【0021】
特許文献1には、反射鏡、または、反射鏡と併用された導光ロッド、光ファイバーを回転させることで、導光路を機械的に切り替えることが開示されている。しかし、特許文献1に開示されているように、時分割で分配する数が多くなるほど、構成部品が増える。そのため、加工に要求される精度が高くなる。
【0022】
さらに、時分割を高速にするほど、回転部材のぶれが大きくなるので、軸加工の精度を高くする必要が生じる。このため、構成部品の配置及び質量のバランスを取るのが困難となる。また、導光路及び光ファイバーの断面形状等、多くの部材の加工精度と組立精度が要求される。
【0023】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、集光された太陽光やランプ等の高いPPFDの光を時分割分配する装置において、反射面での発熱の影響を抑えつつ、装置の構造を簡素化し、光エネルギーを高速で時分割分配することができる光エネルギー時分割分配装置、植物工場、建築物、光エネルギー時分割分配方法及び回転筒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
一実施の形態に係る光エネルギー時分割分配装置は、外周面を有し中心軸を回転軸として回転する回転筒であって、一方向から入射する入射光を、第1方向に反射する第1反射面及び前記入射光を前記第1方向と異なる第2方向に反射する第2反射面を含む前記外周面を有する回転筒と、前記第1方向に反射された光を、所定の空間の第1照明範囲に導光する第1反射光導光路と、前記第2方向に反射された光を、前記第1照明範囲と異なる所定の空間の第2照明範囲に導光する第2反射光導光路と、を備え、前記第1反射面及び前記第2反射面における前記回転軸に直交した断面形状は、それぞれ前記回転軸を中心とした対数螺旋曲線の所定の一部を含む。
【0025】
また、一実施の形態に係る植物工場は、前記光エネルギー時分割分配装置を用いる。
【0026】
さらに、一実施の形態に係る建築物は、前記光エネルギー時分割分配装置を用いる。
【0027】
一実施の形態に係る光エネルギー時分割分配方法は、外周面を有し中心軸を回転軸として回転する回転筒であって、一方向から入射する入射光を、第1方向に反射する第1反射面及び前記入射光を前記第1方向と異なる第2方向に反射する第2反射面を含む前記外周面を有する回転筒に、前記一方向から光を入射させる工程と、前記第1方向に反射された第1反射光を、所定の空間の第1照明範囲に導光するとともに、前記第2方向に反射された第2反射光を、前記第1照明範囲と異なる所定の空間の第2照明範囲に導光する工程と、を備え、前記第1反射面及び前記第2反射面における前記回転軸に直交した断面形状は、それぞれ前記回転軸を中心とした対数螺旋曲線の所定の一部を含む。
【0028】
また、一実施の形態に係る回転筒は、外周面を有し中心軸を回転軸として回転する回転筒であって、一方向から入射する入射光を、第1方向に反射する第1反射面及び前記入射光を前記第1方向と異なる第2方向に反射する第2反射面を含む前記外周面を備え、前記第1反射面及び前記第2反射面における前記回転軸に直交した断面形状は、それぞれ前記回転軸を中心とした対数螺旋曲線の所定の一部を含む。
【発明の効果】
【0029】
一実施の形態によれば、発熱の影響を抑えつつ、装置の構造を簡素化し、光エネルギーを高速で時分割分配することができる光エネルギー時分割分配装置、植物工場、建築物、光エネルギー時分割分配方法及び回転筒を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】実施の形態1に係る光エネルギー時分割分配用の回転筒を例示した図であり、(a)は斜視図であり、(b)及び(c)は、回転軸に直交する断面図である。
図2】(a)は、実施の形態1に係る対数螺旋曲線及び断面形状が対数螺旋曲線となっている反射面に対する入射光及び反射光を例示した図であり、(b)及び(c)は、実施の形態1に係る反射面に用いられた対数螺旋曲線の一部を例示した図である。
図3】(a)及び(b)は、実施の形態1の変形例に係る回転筒を例示した断面図である。
図4】実施の形態2に係る光エネルギー時分割分配装置を例示した図である。
図5】実施の形態2における光エネルギー時分割分配装置による照射範囲の明暗の遷移を例示した図である。
図6】実施の形態2に係る集光器における受光エネルギー及び照射範囲における照射エネルギーを算出するための要素を例示した図である。
図7】実施の形態2に係る光エネルギー時分割分配装置を用いた光エネルギー時分割分配方法を例示したフローチャート図である。
図8】実施の形態2の変形例に係る光エネルギー時分割分配装置を例示した図である。
図9】実施の形態3に係る光エネルギー時分割分配装置を例示した図である。
図10】実施の形態4に係る光エネルギー時分割分配装置を例示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
(実施の形態1)
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。実施の形態1は、光エネルギー時分割分配に用いる回転筒についてのものである。まず、図1(a)〜(c)を参照して、実施の形態1に係る回転筒を説明する。
【0032】
図1は、実施の形態1に係る光エネルギー時分割分配用の回転筒を例示した図であり、(a)は斜視図であり、(b)及び(c)は、回転軸に直交する断面図である。図1(a)〜(c)に示すように、回転筒1は、略円筒状の部材である。円筒状における中心軸に相当する位置に軸2が設けられている。軸2は、線状に延びた部材である。軸2に沿った方向を軸方向とする。軸2を中心に回転する方向を回転方向とする。
【0033】
回転筒1の外周面3は、複数の反射面4、例えば、複数の第1反射面4a及び複数の第2反射面4bを含んでいる。複数の第1反射面4a及び複数の第2反射面4bは、回転筒1の軸方向における一方の端から他方の端まで軸方向に延びている。第1反射面4a及び第2反射面4bは、外周面3を、回転方向に沿って交互に配置されている。したがって、外周面3は、軸方向に細長く延びた第1反射面4a及び第2反射面4bが外周に沿って交互に並んだ縞模様となっている。第1反射面4a及び第2反射面4bの回転方向における幅は、例えば、等しくなっている。第1反射面4a及び第2反射面4bは、外周面3における回転方向において相互に隣り合っている。
【0034】
例えば、第1反射面4aは、外周面3における回転方向に等間隔で6個配置されている。第2反射面4bは、等間隔で配置された第1反射面4aの間に6個配置されている。軸2に直交する断面において、30°の角度に対応する円弧の部分に各反射面4が配置されている。
【0035】
複数のスポーク5は、軸2から回転筒1の内周面に放射状に延びるように設けられている。複数のスポーク5によって、軸2と回転筒1とが固定されている。軸2は、図示しないモータに接続されている。モータを駆動させることにより、軸2を回転軸として、回転筒1を回転させることができる。このように、回転筒1は、外周面3を有し、中心軸を回転軸として回転する。なお、モータは、例えば、制御器を介して電源に接続されている。また、制御器はセンサによって回転筒1の回転をセンサしつつ、モータの回転を制御している。
【0036】
回転筒1には、光6、例えば、軸方向に延びたライン状の光6が入射する。入射光は、一方向、例えば、上方から回転筒1の外周面3に入射する。外周面3は回転筒1の回転に伴って回転している。これにより、外周面3に入射した光6は、第1反射面4a及び第2反射面4bに交互に入射する。第1反射面4aは、入射した光6を第1方向7aに反射する。第2反射面4bは、入射した光6を第2方向7bに反射する。
【0037】
このように、回転筒1は、一方向から入射する入射光を、第1方向に反射する第1反射面及び入射光を第1方向と異なる第2方向に反射する第2反射面を含む外周面を有している。第1反射面4aにより反射された光8aは第1方向7aに進む。第2反射面4bにより反射された光8bは、第2方向7bに進む。なお、光6は、高いPPFDの光が望ましいが、これに限らない。LEDの光でもよい。第1反射面4a及び第2反射面4bの回転軸に直交した断面形状は、回転軸を中心にした対数螺旋曲線の一部を含んでいる。第1反射面4a及び第2反射面4bは、この断面形状を軸方向に平行移動した形状となっている。
【0038】
図2を参照して、実施の形態1に係る第1反射面4a及び第2反射面4bに用いられた対数螺旋曲線を説明する。図2(a)は、実施の形態1に係る対数螺旋曲線及び断面形状が対数螺旋曲線となっている反射面に対する入射光及び反射光を例示した図であり、(b)及び(c)は、実施の形態1に係る反射面に用いられた対数螺旋曲線の一部を例示した図である。
【0039】
対数螺旋曲線は等角螺旋曲線とも呼ばれ、一般に、以下の数式で表される(θ、bの単位:radian)。
【0040】
【数1】
【0041】
ここで、長さrは原点からの距離、角θは螺旋の回転角、係数aは回転角θ=0における原点からの距離を示す。図2に示すように、角bに依存して対数螺旋曲線9上のどの点でも曲率は一定である。対数螺旋曲線9上の接線t1及びt2と、中心Oとを結ぶ線R11及びR21との成す角は、常に角bとなる。よって、対数螺旋曲線9上での光の入反射を考えると、入射光I11と接線t1の垂線S1とのなす角及び反射光I12と接線t1の垂線S1との成す角、すなわち、入射角及び反射角φは、以下のように導かれ(φの単位:radian)、対数螺旋曲線9上のどの点でも常に一定である。
【0042】
【数2】
【0043】
なお、図2では対数螺旋曲線9の外側からの入射角及び反射角を表しているが、内側からの入射角及び反射角においても一定になる性質は同じである。
【0044】
図2(b)に示すように、第1反射面4aにおける回転軸に直交した断面形状は、回転軸を中心Oとした対数螺旋曲線の一部9aを含んでいる。また、図2(c)に示すように、第2反射面4bにおける回転軸に直交した断面形状は、回転軸を中心Oとした対数螺旋曲線の一部9bを含んでいる。このように、第1反射面4a及び第2反射面4bにおける回転軸に直交した断面形状は、それぞれ回転軸を中心Oとした対数螺旋曲線の一部を含んでいる。
【0045】
対数螺旋曲線9のこの性質を利用した機能には、例えば、特許文献4がある。特許文献4は、図2の原点を結ぶ線の距離であるr1及びr2が異なることを利用したものである。入射光を固定し、対数螺旋曲線側を回転させたときの反射光を含めた光路長が回転角に応じて変化することから、光路の遅延時間を変化させるために対数螺旋曲線の反射を利用する用法である。
【0046】
本発明では、入射光を固定し、原点を結ぶ線上に光を入射させるところは同じであるが、複数の異なる曲率の対数螺旋曲線を用いて複数の方向へ反射させることを目的とするため、対数螺旋曲線の用法にはっきりとした違いがある。
【0047】
図1(b)及び(c)に示すように、軸方向から見たとき、軸2を原点として外周面3を各30°に分割した12個の部分に分けて対数螺旋曲線9の一部を配置している。そして、この12個の部分において、隣り合う部分が互いに対数螺旋曲線9の曲率の正負を反対にした部分を配置している。すなわち、例えば、対数螺旋曲線9の曲率の正の部分を、第1反射面4aとし、対数螺旋曲線9の曲率の負の部分を、第2反射面4bとしている。このように、第2反射面4bにおける断面形状の対数螺旋曲線は、第1反射面4aにおける断面形状の対数螺旋曲線の曲率の正負を逆としたものになっている。
【0048】
外周面3の断面形状は、緩やかな山及び谷が形成されている。緩やかと表現しているのは対数螺旋曲線5の曲率が比較的小さいことを意味する。曲率の小さい時とは角bの絶対値が比較的90°側に近い状態をいう。つまり、入反射角φが小さい時と言い換えることもできる。
【0049】
図1(b)及び(c)において、一方向、例えば、上方から回転筒1に光6が入射される場合に、回転筒1は回転しているため、光6は、第1反射面4a及び第2反射面4bに交互に入射する。光6が第1反射面4aに入射している間は、第1反射面4aのどの部分に入射していても、第1方向7aに反射する。そして、回転筒1の回転に伴って、光6の入射が、第1反射面4aから第2反射面4bに切り替わると、第2方向7bに反射されるようになる。光6が第2反射面4bに入射している間は、第2反射面4bのどの部分に入射していても、第2方向7bに反射する。
【0050】
このように、第1反射面4a及び第2反射面4bの断面形状に、対数螺旋曲線を利用しているので、外周面3に入射した光6は、第1反射面4aまたは第2反射面4bの曲率で決定される第1方向7a及び第2方向7bのいずれかに反射することになる。このとき入射光の光束にある程度の幅があったとしても、曲率が比較的小さい場合の入反射角φの角度差の幅は小さい。このため、同一反射面内の反射において反射された光8の角度的な広がりは少ない。よって、光束は、概ねある一定の方向へ纏まった束となって向かう。よって、一定の速度で回転する回転筒1の回転角に応じて、例えば、第1方向7a及び第2方向7bの2方向へスイッチするように時分割で分配される。
【0051】
図1(b)及び(c)の例では、一回転する間に第1反射面4a及び第2反射面4bがそれぞれ6つあるように配置されている。したがって、回転筒1が1回転する毎に、第1方向7a及び第2方向7bの2つの方向へ6回の分配が行われる。このとき、例えば、第1方向7aから回転筒1を見ていると、回転筒1が1回転する毎に光が6回の点滅を行っているように見える。対数螺旋曲線9の鏡面は全て同じ30°の角度で分割されている。よって、回転筒1が等速度で回転している場合には、光の明暗周期における明時間または暗時間は等しい。デューティ比は50%になる。
【0052】
本実施形態の回転筒1によれば、太陽光等の高いPPFDの光を時分割分配することができる。回転筒1の回転速度を変えることにより、時分割の周期を制御することができる。また、回転速度を高速にすることにより、高いPPFDの光を高速で時分割分配することができる。
【0053】
また、回転筒1は高速で回転しているので、反射光による熱は発散される。よって、熱による回転筒1の変形及び破損等を抑制することができる。さらに、筒状の部材を回転させるだけで、時分割分配することができるので、構造を簡単にすることができる。
【0054】
(変形例)
次に、実施の形態1の変形例を説明する。
図3(a)及び(b)は、実施の形態1の変形例に係る回転筒を例示した断面図である。図3(a)に示すように、回転筒1の第1反射面4a及び第2反射面4bの代わりに、曲率の異なる第3反射面4c及び第4反射面4dを配置してもよい。第3反射面4c及び第4反射面4dは、それぞれ異なる方向に入射光を反射する。
【0055】
また、図3(b)に示すように、第1反射面4a及び第2反射面4bに加えて、入射光を第3方向に反射する第5反射面4e及び第4方向に反射する第6反射面4fを加えてもよい。すなわち、外周面3が、入射光を第1方向及び第2方向と異なる第3方向及び第4方向に反射する第5反射面及び第6反射面を含み、第5反射面及び第6反射面における回転軸に直交する断面形状は、回転軸を中心とした対数螺旋曲線の一部9a及び一部9b以外の部分を含んでいてもよい。
【0056】
本変形例によれば、第1方向7a及び第2方向7bの2つの方向に加えて、第3方向及び第4方向等、3方向以上の方向に光エネルギーを高速で時分割分配することができる。その他の効果は、実施形態1と同様である。
【0057】
(実施の形態2)
次に、実施の形態2を説明する。実施の形態2は、光エネルギー時分割分配装置についてのものである。図4を参照して、実施の形態2に係る光エネルギー時分割分配装置の構成を説明する。図4は、実施の形態2に係る光エネルギー時分割分配装置を例示した図である。
【0058】
図4に示すように、光エネルギー時分割分配装置20は、集光器11、入射光導光路12、回転筒1、受光部16a及び16b、筐体17、反射光導光路13a及び13b、照明器14a及び14bを備えている。
【0059】
集光器11は、光6、例えば、太陽光を集光する。集光器11は、集光した光6をライン状に変換する。集光器11は、集光した光6を、連続的なライン状の光6、または、離散的なライン状の光6に変換する。入射する光6をライン状にすることで、発熱を低減することができる。また、光6をライン状とすることで、時分割分配された光のムラを抑制することができる。
【0060】
入射光導光路12は、例えば、光ファイバケーブルである。入射光導光路12は、集光器11で集光された光6を回転筒1まで導光する。入射光導光路12は、集光器11で変換されたライン状の光6を回転筒1へ導光する。
【0061】
回転筒1は、入射光導光路12により回転筒1まで導光された光6を時分割分配する。回転筒1は、実施形態1で説明したように、光6を第1方向7a及び第2方向7bに時分割分配する。回転筒1は、筐体17の内部に配置されている。
【0062】
反射光導光路13a及び13bは、例えば、光ファイバケーブルである。反射光導光路13a及び13bには、受光部16a及び16bが設けられている。反射光導光路13a及び13bは、受光部16a及び16bで受光した光を導光する。反射光導光路13a(第1反射光導光路)は、回転筒1の第1反射面4aにより第1方向7aに反射された光8を、照明範囲15a(第1照明範囲)に導光する。反射光導光路13b(第2反射光導光路)は、回転筒1の第2反射面4bにより第2方向7bに反射された光8を、照明範囲15b(第2照明範囲)に導光する。
【0063】
反射光導光路13a及び13bにより、照明範囲15a及び15bに導光された光は、照明器14a及び14bを介して、照明範囲15a及び15bに照射される。
【0064】
このように、入射光は、回転筒1における反射面4(第1反射面4a及び第2反射面4b)に応じて何れかの方向(第1方向7a及び第2方向7b)へ反射される。したがって、入射光は、反射光導光路13a−照明器14a−照射範囲15aの通過ルートか、または、反射光導光路13b−照明器14b−照射範囲15bの通過ルートのどちらか一方へ導光される。なお、曲率の異なる反射面を増やして、3方向以上に導光してもよい。
【0065】
図5は、実施の形態2における光エネルギー時分割分配装置による照射範囲の明暗の遷移を例示した図である。図5に示すように、回転筒1が、1回転をしたときの第1方向7a側及び第2方向7b側の照射範囲15a及び15bは、「明」及び「暗」が交互に繰り返されている。「明」の時が導光され照射されているときであり、「暗」は導光されていないときを表す。現実的には入射した光6には、わずかな幅がある。このため、回転筒1が回転するに伴い、入射光が異なる反射面4を跨ぐ時は、図5のように、明確にスイッチはしない。ここでは、便宜上理想的な細い光6の分配状態を表している。
【0066】
図5において、反射面4における照射面積が同じなら光量子束密度(PPFD)は同じレベルである。これは、回転筒1が2方向以上の時分割分配を行う場合でも同様である。
【0067】
本実施形態の光エネルギー時分割分配装置20は、条件によっては、PPFDの光を受光面積以上の面積に照射することを可能にする。また、逆に、受光面積未満の面積に照射することで、条件によっては、光量子束密度を元の光より高い密度にして照射することができる。これについて、以下で説明する。
【0068】
図6は、実施の形態2に係る集光器の受光エネルギー及び照射範囲の照射エネルギーを算出するための要素を例示した図である。図6に示すように、集光器11の受光面で受けた光6が集光器11、回転筒1、反射光導光路13a及び13b、照明器14a及び14bを介して、2つの照射範囲15a及び15bに照射される。このときの照射範囲15a及び15bは、回転筒1の回転に応じて明暗を繰り返す。集光器11から照射範囲15a及び15bまでの光の損失を考慮した通過率をそれぞれη1、η2とする。照射範囲15a及び15bに照射されている時間のデューティ比をそれぞれ50%とする。
【0069】
図6に示すように、集光器11における受光面積をS0、光量子束密度をD0、受光エネルギーをP0、平均光エネルギー係数をAとする。照射範囲15aにおける照射面積をS1、光量子束密度をD1、照射エネルギーをP1、平均光エネルギー係数をAとする。照射範囲15bにおける照射面積をS2、光量子束密度をD2、照射エネルギーをP2、平均光エネルギー係数をAとする。このとき、以下の式が成り立つ。
【0070】
【数3】
【0071】
【数4】
【0072】
【数5】
【0073】
【数6】
【0074】
【数7】
【0075】
【数8】
【0076】
【数9】
【0077】
なお係数Aは、光の波長帯域分布に依存する1光量子束あたりの平均光エネルギーを表す。ここでは、受光から照射までの間で波長帯域分布は変化しないと仮定する。受光側と全ての照射側で同じ平均光エネルギー係数Aを用いる。このとき、図5に示すように、時分割の分配が100%から0%、または、0%から100%のように綺麗に切り替わっている理想状態と仮定する。そうすると、時間軸上でP1とP2が同時にエネルギーを持つことはない。なお、η0は総合の通過率である。
【0078】
次に、話を簡単にするために、便宜上、照射範囲15a及び15bにおいて照射面積が等しく、何れかに時分割分配されているときの光量子束密度および通過率も双方の導光路で等しいと仮定する。その場合には、以下の式が導かれる。
【0079】
【数10】
【0080】
【数11】
【0081】
【数12】
【0082】
(3)式から(9)式に当てはめて整理すると最終的に以下の3つの式を得る。
【数13】
【0083】
【数14】
【0084】
【数15】
【0085】
具体的に説明すると、受光面の光量子束密度D0と照射側の光量子束密度Dとを同じ光量子束密度にする目的の場合において、例えば通過率ηが50%以上の任意の通過率であったとする。そうすると、D0=D、50%≦η≦100%となるので、(13)式に当てはめると、以下のようになる。
【0086】
【数16】
【0087】
元の受光面積S0以上の広い範囲の照射面積(S1+S2)へ照射できることが分かる。なおここまでの説明は、図1を基にした2分配の場合を考えた。ここで、更に新たに導光路数を表す変数として、Nを定義する。(10)式から(12)式の条件を導光路数Nまで拡張し、(13)式から(15)式を一般式化する。
【0088】
【数17】
【0089】
【数18】
【0090】
ここで、個々の照射面の面積Sm、光エネルギーPmのサフィックスmは導光路番号を示し、1〜Nの整数をとる。また、ここでは、説明を簡単にするために、各照射面へ時分割分配された光の照射されている時間幅が全て等しいとして、パルス光照射面の時間軸上のデューティ比を、1/Nとする。加えて、便宜上、(10)式から(12)式の条件を拡張して、全ての導光路の通過率η1〜ηNは等しいとしてηで表し、照射面S1〜照射面SNも全て等しいとする。
【0091】
(17)式と(18)式を用いて、本実施形態の効果を説明する。ある目的から照射側の光量子束密度Dを受光面の光量子束密度D0に等しくしたい場合は、以下の式を(17)式に当てはめればよい。
【0092】
【数19】
その結果、以下の式を得る。
【0093】
【数20】
【0094】
この関係式から、受光面積S0の(N×η)倍の照射総面積ΣSmへ時分割の分配を可能にできることが分かる。言い換えれば、照射側総面積ΣSmの(1/(N×η))倍の受光面積S0で済むともいえる。後者を具体的に説明すると、照射側の光量子束密度Dを受光面の光量子束密度D0に等しくする場合に、2分配で通過率ηが60%のシステムの場合を想定すると、照射総面積ΣSmの約83.3%の受光面積S0で済むことが分かる。
一方で照射側総面積ΣSmと受光面積S0を等しくする場合は、以下の式を(17)式に当てはめればよい。
【0095】
【数21】
その結果、以下の式を得る。
【0096】
【数22】
【0097】
この関係式から、受光面の光量子束密度D0の(N×η)倍の照射側光量子束密度Dが得られることが分かる。この照射側光量子束密度Dは、時分割分配によりパルス光になって照射される光が、一周期内で照射されている時間帯での光量子束密度である。また、照射側光量子束密度Dは、平均の光量子束密度ではなく、ピーク光量子束密度を示す。
【0098】
このように(17)式において、照射側総面積ΣSmと受光面積S0の比(ΣSm/S0)や、受光面の光量子束密度D0と照射側光量子束密度Dの比(D0/D)、および導光路数Nと導光路の通過率ηとの積(N×η)の関係を調整すれば、様々な用途や目的に応用できる光エネルギー時分割分配装置を構成することができる。そして、これは、図1の入射光6の元の受光面積S0と反射光8の先で照射される照射側総面積ΣSmの関係が(17)式の条件を満たす範囲においてある程度の自由度があることから可能になっている。
【0099】
このように、(17)式に従い、条件によっては同一のピーク光量子束密度(D0=D)の光を受光面積S0以上の照射側総面積ΣSmに照射することを可能にする。他方で受光面積S0未満の照射側総面積ΣSmに照射することで、条件によってはピーク光量子束密度を元の光より高い密度、つまり、(D>D0)にして照射することをも可能にする効果がある。
【0100】
本実施形態によれば、光量子束密度の光を受光面積以上の面積に照射することを可能にする。また、逆に、受光面積未満の面積に照射することで、光量子束密度を元の光より高い密度にして照射することができる。
【0101】
また、集光器11は、集光した光6を、ライン状の光に変換している。これにより、発熱を低減することができる。また、光6をライン状とすることで、各時分割分配光のムラを抑制することができる。
【0102】
さらに、回転させた回転筒1に光を入射させるだけで、光エネルギーを高速で時分割分配することができる。よって、光エネルギーを時分割分配する簡単な方法を提供することができる。その他の効果は、実施形態1と同様である。
【0103】
次に、光エネルギー時分割分配装置20を用いた光エネルギー時分割分配方法を説明する。
【0104】
図7は、実施の形態2に係る光エネルギー時分割分配装置を用いた光エネルギー時分割分配方法を例示したフローチャート図である。まず、図7のステップS10に示すように、光を集光する。例えば、集光器11は、太陽光を集光する。集光器11は、集光した光6をライン状に変換する。
【0105】
次に、ステップS20に示すように、集光した光を回転筒1に対して入射させる。例えば、入射光導光路12により、集光器11で集光された光6を回転筒1に入射させる。
【0106】
次に、ステップS30に示すように、回転筒1により、入射光を時分割分配する。回転筒1は第1反射面4a及び第2反射面4bを有している。第1反射面4aは、一方向から入射する入射光を、第1方向7aに反射する。また、第2反射面4bは、入射光を第1方向7aと異なる第2方向7bに反射する。このようにして、入射した光6を第1方向7a及び第2方向7bに時分割分配する。
【0107】
次に、ステップS40に示すように、回転筒1により時分割分配された光を照射範囲、例えば、照射範囲15a及び15bに導光する。第1方向に反射された光を、照射範囲15aに導光するとともに、第2方向に反射された光を、照射範囲15bに導光する。導光された各光は、照射範囲15a及び15bを照射する。このようにして、光エネルギー時分割分配装置20を用いて、光エネルギーを時分割分配することができる。
【0108】
(変形例)
次に、実施の形態2の変形例について説明する。
図8は、実施の形態2の変形例に係る光エネルギー時分割分配装置を例示した図である。図8に示すように、本変形例の光エネルギー時分割分配装置20aでは、回転筒1により時分割分配された光を、反射光導光路13を介して照射範囲15に導光するとともに、人工光源30からの光を、導光路31を介して照射範囲15に導光している。人工光源30は、例えば、LED及びメタルハライドランプである。
【0109】
このような構成とすることにより、照明範囲15を照射する方法の選択肢を広げることができる。すなわち、強い光を必要とする場合には、太陽光を回転筒1により時分割分配して照射範囲15を照射することができる。弱い光を必要とする場合には、人工光源30の光で照射範囲15を照射することができる。
【0110】
(実施の形態3)
次に、実施の形態3を説明する。本実施形態は、光エネルギー時分割分配装置を用いた植物工場の例である。
【0111】
図9は、実施の形態3に係る光エネルギー時分割分配装置を例示した図である。図9に示すように、光エネルギー時分割分配装置30は、照射範囲15a及び15bに、植物40a及び40bを配置している。そして、回転筒1により時分割分配された光6を照明器14a及び14bを介して、植物40a及び40bに対して照射している。光エネルギー時分割分配装置20におけるその他の構成及び動作は、実施形態2と同様である。
【0112】
現在、完全人工光型植物工場などで用いられるLED光源や蛍光灯、ナトリウムランプやメタルハライドランプ他の人工光では、発熱と消費電力の問題が伴い、輝度やPPFDを十分に上げられない。
【0113】
これに対し、本実施の形態では、日本国内での植物栽培でありながら、赤道付近と同等の光量子束密度(PPFD)での栽培を可能としている。そのため、従来の人工光では困難であった陽性植物の栽培を可能としている。
【0114】
受光面が、照射側光量子束密度Dと同等以上の密度の照射側光量子束密度を得ようとする場合には、照射側総面積ΣSmと 受光面積S0とが等しく、2分配で通過率ηが60%の時分割分配照明を行うと想定する。この場合には、(17)式に以下の(23)〜(25)式を当てはめる。
【0115】
【数23】
【0116】
【数24】
【0117】
【数25】
この結果、以下の式を得る。
【0118】
【数26】
【0119】
よって、照射側光量子束密度Dが受光面の光量子束密度D0の1.2倍になる。この結果について、更に現実的な例で説明する。受光している場所が北緯35度付近の地表であるならば、照射側では、赤道付近に近い光量子束密度の光照射が可能なことを意味する。すなわち、光エネルギー時分割分配装置30が植物工場に適用される場合は、日本国内での植物栽培でありながら赤道付近と同等のピーク照度を持つ光量子束密度(PPFD)での栽培を可能にする。
【0120】
ただし、補足すると、植物栽培に適用する場合は、時分割分配による特定周期及び特定デューティ比の点滅光での植物の光合成速度が、連続光での植物の光合成速度と同等以上という前提を必要とする。より具体的な事例で言えば、非特許文献1には、サラダ菜の栽培について開示されている。そこでは、時間幅200マイクロ秒前後の短い間隔の明暗周期で光を間欠照射した時に、単位光量当たりの光合成の割合及び成長の割合が、連続光に比べて20〜25%も増大することが開示されている。
【0121】
このように植物の光合成の加速を促進することは、大気中のCO2を有機物に固定化することでもあるため、地球温暖化防止に効果がある。
【0122】
上記でも述べたように、LED光源では、輝度やPPFDを十分に上げることができないため、LED光源を植物に近い位置に設定している。しかし、この場合には、LED光源が発する熱によって植物が焼けるなどの影響がでている。本実施の形態における光エネルギー時分割分配装置30では、集光器11及び回転筒1の位置を植物から遠ざけることができる。このため、植物の生長を妨げることはない。
【0123】
本実施の形態の光エネルギー時分割分配装置30によれば、太陽光を利用した植物工場においても、人工光を用いた植物工場と変わらない面積での栽培を行うことができる。本装置を植物工場で使用するケースを検討する。サラダ菜の成長を速めると言われる200マイクロ秒の明暗周期を実現するためには、曲率の異なる2つの対数螺旋曲線の組を60個とした回転筒1を、1秒間に約83回転させなければならない。このため、回転筒1の高速回転が求められる。
【0124】
回転筒1の回転数を下げるためには1回転あたりの反射面4の数を増やさなければならない。回転筒1のサイズを変えずに反射面4の数を増やそうとすると、反射面4の1面あたりの面積が小さくなる。このため、製造するときの反射面4の精度が求められる。しかし、植物工場では十分な面積が確保できる。よって、回転筒1のサイズを大きくし、反射面4の1面当たりの面積を大きくするなどして対応することができる。
【0125】
(実施の形態4)
次に、実施の形態4を説明する。本実施の形態は、光エネルギー時分割分配装置40を用いた建築物の例である。すなわち、住宅、オフィスビル等の建築物において、屋上などに設置した集光器11から自然光6を取り込み、複数の部屋へ分配することで、電気照明の消費電力を抑える実施形態である。
【0126】
図10は、実施の形態4に係る光エネルギー時分割分配装置40を例示した図である。図10に示すように、光エネルギー時分割分配装置40は、例えば、住宅に設けられている。集光器11は宅地の屋根に設けられている。集光器11によって集光された光6は、例えば、天井裏に設けられた回転筒1により時分割分配され、住宅内の複数の部屋へ導光される。照明範囲15a及び15bには、部屋18a及び18bが設けられている。そして、照明器14a及び14bにより部屋18a及び18bが照明される。
【0127】
また、屋根には、太陽光発電用パネル23が設けられている。太陽光発電用パネル23で発電された電力は、ケーブル24を通じて、蓄電池25に送電される。これにより、必要に応じて蓄電池25によって蓄電された電力を使用することができる。
【0128】
ここで、回転筒1の回転速度が十分に速い時に、部屋18a及び18bに居る人が、照射された光の明るさをどのように感じるかを検討する。人の目は、蛍光灯や白熱電球がおよそ100ヘルツ以上の速さで点滅していることに気づかない。図10の明暗の点滅速度が十分に速いときは、人の目は、点滅に気付かない。したがって、人の目は、あたかも連続に照射されているかのように錯覚する。
【0129】
このように、点滅速度が十分に速いときに、人が明るさを認識する特性は、「トールボットの法則」に従う。すなわち、光源の輝度とデューティ比の積に概ね比例する。この場合の光源の輝度とは、照射側の光量子束密度Dである。デューティ比は図5における(TL/T)である。各導光路のTLが全て等しい時間である場合には、デューティ比は(1/N)である。
【0130】
よって、人が感じる明るさは、(D/N)に比例する。すなわち、点滅光の照射側で、人が感じる光の明るさを照度Dp(ただし単位は光量子束密度と同じとする)と定義すると、照度Dpは以下の式になる。
【0131】
【数27】
ここで、(17)式を照射側の光量子束密度D について解く。
【0132】
【数28】
これを(27)式に当てはめる。
【0133】
【数29】
【0134】
このように、照度Dpは導光路数Nには依存せず、受光側の光量子束密度D0に比例する。ここで、更に、受光側の光量子束密度D0と照射側で人が感じる明るさ照度Dpとの比を照度比Bとして定義する。受光側と照射側で光波長のスペクトル分布が変わらないとする。そうすると、照度の比と光量子束密度の比とは同じなので、以下のようになる。
【0135】
【数30】
これを、(29)式に当てはめて整理すると、次の関係が導ける。
【0136】
【数31】
【0137】
ここで、産業上の効果の具体的な説明の前に、更に、前提となる事象を説明する。オフィスなどの電気照明の照度は、一般に、750から1500ルクスの間に設定されている。これに対し、日本付近の緯度における曇天の午前10時頃の太陽光の照度は、1万ルクスを超える。真夏や雪山の最も明るい時の照度に至っては、10万ルクス以上とも言われている。
【0138】
つまり、太陽光の照度は、オフィスなどに必要な照度に比べて、およそ10から100倍の照度がある。この事象を前提にして説明する。例えば、受光面の明るさと照射側の明るさの比である照度比Bを10分の1倍(=0.1倍)に設定する。通過率ηが60%の時分割分配照明を行うシステムにおける受光面の面積S0と照射側総面積ΣSmの関係を考える。透過率ηを0.6、照度比Bを0.1として、(31)式にあてはめる。そうすると、ΣSm/S0が6と得られる。
【0139】
つまり、受光面の面積S0の6倍の照射側総面積ΣSmへ時分割分配することができる。言い換えれば、受光面の面積S0は照射側総面積ΣSmの6分の1で済む。
【0140】
この試算結果を住宅におけるより具体的な例で説明する。このような時分割分配照明のシステムを用いて、1部屋が20平方メール(およそ畳12枚)の部屋3部屋に対して時分割分配照明を施す場合の照射側総面積ΣSmは60平方メートル(およそ畳36枚)である。これに必要な屋上や屋根に設置する集光器の受光面の面積S0は6分の1の面積の10平方メートル(およそ畳6枚)で済むことになる。
【0141】
以上の建物の照明への応用の具体例から、ここで改めて、産業上の効果を更に2点に分けて説明する。
【0142】
時分割分配照明の仕組みを先の例のように人が活動する空間の複数の部屋に適用すれば、各部屋の総面積よりも十分に狭い受光面積の集光器11で賄える。このため、集光器11の省スペース化および小型化が可能になる。よって、集光器11及び集光器11の設置に関わる資材費と工事費のコスト低減を図ることができる。
【0143】
また、このように、集光器11の省スペース化および小型化を可能とすることによって、建物の屋上や屋根、ベランダ、壁面、庭といった太陽光を採光できる箇所で、太陽光エネルギーを採取しようとした場合に、太陽光発電用パネルや太陽熱集熱装置など他の太陽光を利用する設備を設置するためのスペースを減らす必要がない。
【0144】
さらに、時分割分配された光は、生活空間の電気照明を抑えることを可能にする。これにより、電気照明に使われる電気を節電することができる。このことは、導光路の先の光が照射される全ての部屋で有効である。このため、導光路数Nによっては全体として電気照明の節電により比較的大きな省エネルギーを実現することができる。
【0145】
なお補足すると、このような時分割分配照明を行うシステムの現実的な実装においては、太陽光の照度が時刻や季節、天候によっても変化することへの対策も必要になる。例えば、真夏の晴天の正午頃の照度は、曇天の午前10時ころの照度の1000倍から1万倍程度の差がある。よって、明るすぎる場合は減光の仕組みが必要になる。逆に暗い時は、電気照明で照度を補う仕組みが必要になる。
【0146】
これらの照度調整は、受光側または照射側または両方の照度をセンシングしながら自動で調整されることが望ましい。また、明るさを抑える目的の減光機能を実現するにあたっては、除光された側の光を、太陽光発電用のパネルに照射し、電気エネルギーに変換する機構にすれば、なおのこと、再生可能エネルギーの利用促進に寄与する効果がある。
【0147】
なお、減光機能を実装する箇所は、受光面から照射器の通過ルートの間のどこかで行うことになり、このような時分割分配照明を行うシステムの設置や利用目的、利用方法、運用保守方法に合った適切な1箇所または複数個所で行われることが望ましい。
【0148】
ここで、更に、補足すれば、直射日光を雲や飛行物体が遮るようなときは、照度が瞬間的に大きく変化することがある。したがって、減光の仕組みや補光の仕組みは、想定される照度の変化速度に十分に追随できることが望ましい。
【0149】
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。例えば、回転筒1の回転速度、回転筒1のサイズ、反射面の数、形状等は、最適な条件に調整することができる。また、回転筒1は、光エネルギー時分割分配装置に用いるだけに限らない。投影機器、映像機器等の光を分配する装置に用いてもよい。さらに、光エネルギー時分割分配装置は、植物工場や建築物への適用に限らない。光を分配する必要がある場所ならばどこにでも適用可能である。
【符号の説明】
【0150】
1 回転筒
2 軸
3 外周面
4 反射面
4a 第1反射面
4b 第2反射面
4c 第3反射面
4d 第4反射面
4e 第5反射面
4f 第6反射面
5 スポーク
6、8、8a、8b 光
7a 第1方向
7b 第2方向
9 対数螺旋曲線
9a、9b 一部
20、20a、30、40 光エネルギー時分割分配装置
11 集光器
12 入射光導光路
13、13a、13b 反射光導光路
14a、14b 照明器
15a、15b 照射範囲
16a、16b 受光部
17 筐体
18a 18b 部屋
21 光
23 太陽光発電用パネル
24 ケーブル
25 蓄電池
30 人工光源
31 導光路
40a、40b 植物
I11、I21 入射光
I12、I22 反射光
t1、t2 接線
r1、r2 距離
S1、S2 垂線
R11、R21 線
O 中心
図1
図2
図3
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図5
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図10