特許第6341569号(P6341569)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6341569-流体圧アクチュエータ 図000002
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  • 特許6341569-流体圧アクチュエータ 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6341569
(24)【登録日】2018年5月25日
(45)【発行日】2018年6月13日
(54)【発明の名称】流体圧アクチュエータ
(51)【国際特許分類】
   F15B 15/10 20060101AFI20180604BHJP
   A61F 2/74 20060101ALI20180604BHJP
【FI】
   F15B15/10 H
   A61F2/74
【請求項の数】6
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-205333(P2014-205333)
(22)【出願日】2014年10月6日
(65)【公開番号】特開2016-75330(P2016-75330A)
(43)【公開日】2016年5月12日
【審査請求日】2017年6月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100124257
【弁理士】
【氏名又は名称】生井 和平
(72)【発明者】
【氏名】鈴森 康一
【審査官】 加藤 昌人
(56)【参考文献】
【文献】 特開平6−101705(JP,A)
【文献】 特開平5−76601(JP,A)
【文献】 特開平5−76600(JP,A)
【文献】 特開2011−137516(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/140032(WO,A1)
【文献】 特開2008−236950(JP,A)
【文献】 特開2013−27237(JP,A)
【文献】 特開2012−39741(JP,A)
【文献】 特開2012−41845(JP,A)
【文献】 特開2013−55877(JP,A)
【文献】 特開平6−181941(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F15B 15/00−15/28
A61F 2/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体圧により伸縮する流体圧アクチュエータであって、該流体圧アクチュエータは、
気液可逆反応が可能な溶液を内部に満たすことが可能な中空の筒状に形成される弾性体からなる弾性チューブと、
糸状体を前記弾性チューブの外壁の上に移動自在に縒り合わて袋編みしてなる編組チューブと、
前記弾性チューブの内部に同軸上に挿入され、気液可逆反応が可能な溶液を内部に満たすことが可能な中空の筒状に形成される高分子電解質チューブと、
前記高分子電解質チューブの内壁上に形成される内側電極と、
前記高分子電解質チューブの外壁上に形成される外側電極と、
前記内側電極と外側電極間に接続され、溶液の電解及び電解により発生する気体の合成を可逆制御する制御部と、
を具備することを特徴とする流体圧アクチュエータ。
【請求項2】
請求項1に記載の流体圧アクチュエータにおいて、前記溶液が水であり、電解により発生する気体が水素と酸素であることを特徴とする流体圧アクチュエータ。
【請求項3】
請求項2に記載の流体圧アクチュエータにおいて、前記制御部は、前記内側電極が負極に接続され、外側電極が正極に接続されるように制御することを特徴とする流体圧アクチュエータ。
【請求項4】
請求項3に記載の流体圧アクチュエータにおいて、前記高分子電解質チューブと弾性チューブとの間の環状部分の横断面積と、高分子電解質チューブ内部の横断面積との比が、1:2であることを特徴とする流体圧アクチュエータ。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4の何れかに記載の流体圧アクチュエータであって、さらに、前記弾性チューブの内壁に形成されるガスバリア膜を具備することを特徴とする流体圧アクチュエータ。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5の何れかに記載の流体圧アクチュエータにおいて、前記制御部は、さらに、気体の合成時に発生するエネルギを回収する蓄電部を具備することを特徴とする流体圧アクチュエータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は流体圧アクチュエータに関し、特に、流体圧により伸縮する流体圧アクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
流体圧アクチュエータとは、例えばエアシリンダや人工筋等、流体圧の変化を用いて駆動するものである。これらは、電磁アクチュエータ等と比べて、重量に対する出力が大きい。例えば、空気圧を用いた弾性収縮体としては、特許文献1がある。特許文献1に開示の弾性収縮体は、所謂マッキベン人工筋と呼ばれるものである。これは、中空の弾性管状体と、弾性管状体を覆う補強層である編組被覆体とを有する構造からなる。このような構造のマッキベン人工筋にコンプレッサから空気を導入すると、弾性管状体が径方向に誇張し、長さ方向には収縮して収縮力が発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭48−24175号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このようなマッキベン人工筋等の流体圧アクチュエータのように、駆動させるための流体として空気圧を用いるアクチュエータでは、コンプレッサが必要であった。そして、コンプレッサ以外にも、各人工筋を制御するためのバルブや空気を送るための空圧チューブ等も必要となっていた。このため、マッキベン人工筋を用いた装置の場合、小型化や一体型化することが難しかった。また、弛緩動作時には空気を抜くことになるが、単に空気をバルブで抜くことになり、駆動させた空気は無駄になっていた。さらに、弛緩動作を促進させるためには別途吸引器等を用いて吸い出す必要もあり、さらに構造が複雑になっていた。
【0005】
本発明は、斯かる実情に鑑み、構造がシンプルでコンプレッサや空圧チューブ等も不要で小型化も可能であり、さらにエネルギ回生を用いればエネルギ効率も良くなる、流体圧アクチュエータを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した本発明の目的を達成するために、本発明による流体圧アクチュエータは、気液可逆反応が可能な溶液を内部に満たすことが可能な中空の筒状に形成される弾性体からなる弾性チューブと、糸状体を弾性チューブの外壁の上に移動自在に縒り合わて袋編みしてなる編組チューブと、弾性チューブの内部に同軸上に挿入され、気液可逆反応が可能な溶液を内部に満たすことが可能な中空の筒状に形成される高分子電解質チューブと、高分子電解質チューブの内壁上に形成される内側電極と、高分子電解質チューブの外壁上に形成される外側電極と、内側電極と外側電極間に接続され、溶液の電解及び電解により発生する気体の合成を可逆制御する制御部と、を具備するものである。
【0007】
ここで、溶液が水であり、電解により発生する気体が水素と酸素であれば良い。
【0008】
また、制御部は、内側電極が負極に接続され、外側電極が正極に接続されれば良い。
【0009】
また、高分子電解質チューブと弾性チューブとの間の環状部分の横断面積と、高分子電解質チューブ内部の横断面積との比が、1:2であれば良い。
【0010】
さらに、弾性チューブの内壁に形成されるガスバリア膜を具備するものであっても良い。
【0011】
また、制御部は、さらに、気体の合成時に発生するエネルギを回収する蓄電部を具備するものであっても良い。
【発明の効果】
【0012】
本発明の流体圧アクチュエータには、構造がシンプルでコンプレッサや空圧チューブ等も不要で小型化も可能であり、また、エネルギ効率も良くすることが可能であるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明の流体圧アクチュエータを説明するための弛緩状態の概略側面図である。
図2図2は、本発明の流体圧アクチュエータを説明するための収縮状態の概略側面図である。
図3図3は、本発明の流体圧アクチュエータの一部拡大縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態を図示例と共に説明する。図1は、本発明の流体圧アクチュエータを説明するための弛緩状態の概略側面図である。また、図2は、本発明の流体圧アクチュエータを説明するための収縮状態の概略側面図である。さらに、図3は本発明の流体圧アクチュエータの一部拡大縦断面図である。これらの図中、図1と同一の符号を付した部分は同一物を表している。図示の通り、本発明の流体圧により伸縮する流体圧アクチュエータ1は、弾性チューブ10と、編組チューブ20と、高分子電解質チューブ30と、内側電極40と、外側電極50と、制御部60とから主に構成されている。これらの内部、具体的には、高分子電解質チューブ30内部と、弾性チューブ10と高分子電解質チューブ30の間の領域に気液可逆反応が可能な溶液5が満たされている。また、両端部には密封部材や動きを他の部材に伝達させるための金具等が適宜取り付けられている。
【0015】
弾性チューブ10は、弾性体からなる中空の筒状に形成されるものである。その内部には、気液可逆反応が可能な溶液5が満たされる。弾性体としては、ゴムチューブやシリコンチューブ等、従来のマッキベン人工筋等で用いられていたものや、今後開発されるべきあらゆる弾性体が適用可能である。
【0016】
ここで、気液可逆反応が可能な溶液5は、最も一般的には水(HO)である。その他、気体から液体、液体から気体に電流制御により可逆反応が可能な溶液であれば、例えばメタノール等、適宜用いることが可能である。
【0017】
編組チューブ20は、糸状体を弾性チューブ10の外壁の上に移動自在に縒り合わて袋編みしたものである。具体的には、例えばスパイラル状に糸状体を巻回し、これにクロスするように反対巻で別の糸状体を巻回することで編組して袋編みすれば良い。また、網目状の糸状体を袋編みにしても良い。編組チューブ20は、径方向(軸方向に垂直な方向)に膨張しつつ、軸方向に伸縮しない構造を用いれば良い。これにより、弾性チューブ10が径方向に膨張した際に、編組チューブ20により動きが制限され、弾性チューブ10が軸方向に短くなる方向に収縮することになる。編組チューブとしても、従来のマッキベン人工筋等で用いられていたものや、今後開発されるべきあらゆる弾性体が適用可能である。
【0018】
高分子電解質チューブ30は、弾性チューブ10の内部に同軸上に挿入されるものであり、中空の筒状体に形成されるものである。その内部には、気液可逆反応が可能な溶液5が満たされる。高分子電解質チューブ30は、固体高分子膜からなるものであり、例えば内側電極40側で生成されるプロトンを外側電極50へと移動する働きを持つものである。より具体的には、スルホン酸基を有するフッ素系の重合体からなるものであり、例えば旭硝子株式会社のFlemion(登録商標)や、旭化成株式会社のAciplex(登録商標)、米国デュポン社のNafion(登録商標)等を用いることが可能である。このような高分子電解質を中空の筒状体に形成して高分子電解質チューブ30が構成される。
【0019】
内側電極40は、高分子電解質チューブ30の内壁上に形成されるものである。外側電極50は、高分子電解質チューブ30の外壁上に形成されるものである。これらの電極は、燃料電池でいうところの燃料極や空気極にあたるものである。例えば、白金触媒やルテニウム−白金合金触媒を、カーボン担体上に担持させて電極としたものである。高分子電解質チューブ30上に適宜メッキ処理等により電極が形成されれば良い。
【0020】
制御部60は、内側電極40と外側電極50の間に接続されるものである。制御部60は、溶液5の電解及び電解により発生する気体の合成を可逆制御するものである。即ち、制御部60は、内側電極40と外側電極50の間の電流調整によりガスの発生及び吸収を制御するものである。例えば、収縮動作時には、内側電極40が負極に接続され、外側電極50が正極に接続されるようにして電流制御すれば良い。なお、電流の印加方向については、発生するガスに応じて種々選択可能である。そして、内側電極40と外側電極50の間に電流を印加すると、可逆反応が可能な溶液5が電解し、例えば内側電極40側と外側電極50側にそれぞれ2種類の気体が発生する。本発明の流体圧アクチュエータ1は、この発生した気体の圧力により弾性チューブ10を径方向に膨張させ、軸方向に短くなる方向に収縮することを利用して収縮動作させるものである。
【0021】
そして、弛緩動作時には、内側電極40と外側電極50とを例えば短絡するように制御する。すると、内側電極40側で発生した気体がプロトンと電子に分解し、プロトンは高分子電解質チューブ30の固体高分子膜内を通り、外側電極50側に移動する。即ち、高分子電解質チューブ30と弾性チューブ10との間の領域に移動する。そして、電子は制御部60で短絡した経路を通って外側電極50へと移動する。高分子電解質チューブ30と弾性チューブ10との間の領域では、高分子電解質チューブ30の固体高分子膜内を通り抜けたプロトンと、短絡した経路を通った電子が、外側電極50側で発生した気体と反応して合成され、溶液が生成される。即ち、燃料電池と同様の動作をすることになる。これにより、発生した気体が溶液になり、膨張した弾性チューブ10が元の状態に戻り、軸方向の長さが元に戻る。なお、弛緩動作を促進させるために、制御部60は、内側電極40と外側電極50の間を短絡するのではなく、この間に逆電流を印加するようにしても良い。
【0022】
以下、本発明の流体圧アクチュエータ1の動作について、溶液5として例えば水を用いた例を用いてより具体的に説明する。弾性チューブ10縮動作時には、制御部60により内側電極40が負極に接続され、外側電極50が正極に接続され、電流が印加される。すると、内側電極40側、即ち、高分子電解質チュー内部及び高分子電解質チューブ30内部に、溶液5として水(HO)が満たされる。高分子電解質チューブ30内部には水素ガス(H)が発生し、外側電極50側、即ち、高分子電解質チューブ30と弾性チューブ10との間の領域には酸素ガス(O)が発生する。この発生した水素ガス及び酸素ガスにより、弾性チューブ10を膨張させ、軸方向に短くなる方向に収縮することを利用して収縮動作が行われる。
【0023】
そして、弛緩動作時には、制御部60により、内側電極40と外側電極50とを短絡するように制御する。すると、内側電極40側で発生した水素ガスがプロトン(H)と電子(e)に分解し、プロトンは高分子電解質チューブ30の固体高分子膜内を通り、外側電極50側に移動し、電子は制御部60で短絡した経路を通って外側電極50へと移動する。高分子電解質チューブ30と弾性チューブ10との間の領域では、プロトンと、短絡した経路を通った電子が、外側電極50側で発生した酸素ガスと反応して合成され、即ち、4H+O+4e→2HOの反応により、水が生成される。これにより、発生した水素と酸素が水になり、膨張した弾性チューブ10が元の状態に戻り、軸方向の長さが元に戻る。
【0024】
ここで、高分子電解質チューブ30と弾性チューブ10の膨張比が同一となるように、発生する2種類の気体の気体発生比(体積比)に合せて各チューブの径を決定しても良い。即ち、高分子電解質チューブ30と弾性チューブ10との間の環状部分の横断面積と、高分子電解質チューブ30内部の横断面積との比を気体発生比に合わせて決定すれば良い。溶液5として例えば水を用いた場合、発生する酸素ガスと水素ガスの気体発生比は1:2である。したがって、これに合わせて高分子電解質チューブ30と弾性チューブ10との間の環状部分の横断面積と、高分子電解質チューブ30内部の横断面積との比を1:2とすれば良い。これにより、高分子電解質チューブ30と弾性チューブ10の膨張比が同一となり、不必要に撓んだりすることを防止可能である。
【0025】
このように、本発明の流体圧アクチュエータは、コンプレッサや空圧チューブ等も不要で、制御部と内側電極や外側電極が導線により接続されていれば良いため、構造がシンプルなものとなる。このため小型化も可能であり、ロボット等に内蔵することも容易となる。
【0026】
さらに、本発明の流体圧アクチュエータでは、弾性チューブ10の内壁に、ガスバリア膜を必要により設けても良い。例えば、高分子電解質チューブ30と弾性チューブ10との間の領域に発生する気体が酸素ガスの場合、酸素ガスバリア膜を設ければ良い。これにより、発生したガスが外部に漏れることを防止できる。発生したガスが漏れにくくなれば、より長時間収縮動作を継続することも可能でり、また、ガス漏れを防止することで長期的に運用可能となる。
【0027】
また、本発明の流体圧アクチュエータは、弛緩動作時に気体の合成が行われるが、この際に電子の移動により電流が流れるため、エネルギが発生する。したがって、このエネルギを回収するキャパシタ等の蓄電部を制御部60に設けても良い。これにより、エネルギ回生を用いることが可能となり、例えば収縮動作に用いることも可能である。したがって、エネルギ効率も良くなる。
【0028】
なお、本発明の流体圧アクチュエータは、上述の図示例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0029】
1 流体圧アクチュエータ
5 溶液
10 弾性チューブ
20 編組チューブ
30 高分子電解質チューブ
40 内側電極
50 外側電極
60 制御部
図1
図2
図3