特許第6341572号(P6341572)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6341572
(24)【登録日】2018年5月25日
(45)【発行日】2018年6月13日
(54)【発明の名称】エッチング液管理装置
(51)【国際特許分類】
   C23F 1/08 20060101AFI20180604BHJP
   C25C 1/22 20060101ALI20180604BHJP
   H01L 21/306 20060101ALI20180604BHJP
   C23F 1/16 20060101ALI20180604BHJP
   G01N 33/18 20060101ALI20180604BHJP
【FI】
   C23F1/08 101
   C25C1/22
   H01L21/306 F
   C23F1/16
   G01N33/18 C
【請求項の数】5
【全頁数】37
(21)【出願番号】特願2015-118235(P2015-118235)
(22)【出願日】2015年6月11日
(65)【公開番号】特開2016-29208(P2016-29208A)
(43)【公開日】2016年3月3日
【審査請求日】2016年12月5日
(31)【優先権主張番号】特願2014-146706(P2014-146706)
(32)【優先日】2014年7月17日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591192948
【氏名又は名称】株式会社平間理化研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100083116
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 憲三
(74)【代理人】
【識別番号】100198823
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 秀一
(72)【発明者】
【氏名】中川 俊元
(72)【発明者】
【氏名】白井 浩之
【審査官】 國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−133506(JP,A)
【文献】 特開2009−266893(JP,A)
【文献】 特開平07−176853(JP,A)
【文献】 特開2006−013158(JP,A)
【文献】 特開2000−096264(JP,A)
【文献】 特開2009−231427(JP,A)
【文献】 特開2004−359989(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シュウ酸を含み、エッチング処理によりインジウムが溶出する被エッチング膜のエッチングに繰り返し用いられるエッチング液を管理するエッチング液管理装置において、
前記エッチング液の導電率値を測定する導電率計と、
前記エッチング液の密度値を測定する密度計と、
前記エッチング液中のシュウ酸濃度と導電率との間の相関関係及び前記導電率計の測定結果に基づいて、前記エッチング液中のインジウム濃度と密度との間に相関関係が得られるシュウ酸濃度の濃度範囲内となるように、前記エッチング液に補充液を供給する補充液供給手段と、
前記補充液供給手段によりシュウ酸濃度が管理された前記エッチング液中のインジウム濃度と密度との間の相関関係及び前記密度計の測定結果に基づいて、前記エッチング液中のインジウム濃度が管理される濃度のしきい値以下となるように、前記エッチング液から当該エッチング液中に溶解したインジウムを回収除去するインジウム回収除去手段と、
を備えたことを特徴とするエッチング液管理装置。
【請求項2】
シュウ酸を含み、エッチング処理によりインジウムが溶出する被エッチング膜のエッチングに繰り返し用いられるエッチング液を管理するエッチング液管理装置において、
前記エッチング液の物性値であって少なくとも前記エッチング液中のシュウ酸濃度に相関のある第1物性値を測定する第1物性値測定手段と、
前記エッチング液の物性値であって少なくとも前記エッチング液中に溶解したインジウムの濃度に相関のある第2物性値を測定する第2物性値測定手段と、
前記第1物性値測定手段により測定された前記第1物性値及び前記第2物性値測定手段により測定された前記第2物性値から、多変量解析法により前記エッチング液中のシュウ酸濃度及び前記エッチング液中に溶解したインジウムの濃度を算出する演算手段と、
前記演算手段により算出される前記エッチング液中のシュウ酸濃度が管理される濃度範囲内となるように前記エッチング液に補充液を供給する補充液供給手段と、
前記演算手段により算出される前記エッチング液中に溶解したインジウムの濃度が管理される濃度のしきい値以下となるように前記エッチング液から当該エッチング液中に溶解したインジウムを回収除去するインジウム回収除去手段と、
を備えたことを特徴とするエッチング液管理装置。
【請求項3】
前記第1物性値測定手段及び前記第2物性値測定手段の組合せが、前記エッチング液の導電率値を測定する導電率計、前記エッチング液の超音波伝播速度を測定する超音波濃度計、前記エッチング液の密度値を測定する密度計、及び、前記エッチング液の光の屈折率を測定する屈折率計、のうちから選ばれたいずれか二つによる組合せである請求項2に記載のエッチング液管理装置。
【請求項4】
前記インジウム回収除去手段は、晶析装置又は電解装置である請求項1から3のいずれか一項に記載のエッチング液管理装置。
【請求項5】
前記晶析装置は、スクリューコンベア型晶析装置である請求項4に記載のエッチング液管理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エッチング液管理装置、溶解金属濃度測定装置、及び、溶解金属濃度測定方法に係り、特に、エッチング処理により経時的に濃度変動するエッチング液の濃度の調整、溶解金属の回収除去を行うエッチング液管理装置、溶解金属濃度測定装置、及び、溶解金属濃度測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体や液晶基板の製造工程におけるエッチングでは、エッチング対象に応じて適切に調製された液組成のエッチング液が、循環されて、あるいはエッチング槽に貯留されて、繰り返し使用されている。エッチング対象が、金属膜や、金属合金膜、金属酸化物膜などの金属化合物膜である場合には、主として酸や酸化剤からなるエッチング液が使用されている、また、場合によってはさらに界面活性剤や分解抑制剤などの種々の添加剤をも含む液組成が用いられている。
【0003】
例えば、銅/銅合金膜用のエッチング液として硫酸と過酸化水素等を含有する水溶液が、クロム膜/クロム合金膜用のエッチング液として硝酸第二セリウムアンモニウムと硝酸を主成分とする水溶液が、透明導電膜用のエッチング液としてシュウ酸と界面活性剤等からなる水溶液が、多用されている。
【0004】
このような金属系の被エッチング膜をエッチング処理する場合、エッチング処理が進行するにつれて、エッチング反応によりエッチング液の主要な成分が消費されて減少するとともに、被エッチング膜から金属成分がエッチング液中に溶出し蓄積されていく。エッチング液中に蓄積される溶解金属は、被エッチング膜からの金属成分の更なる溶出を抑制する傾向にあり、エッチング速度を低下させるなど、エッチング液の性能を悪化させる。また、有害ガスが外部に漏れないようにエッチング槽を吸引排気しているため、排気ガスに同伴して、水分や酸などの一部の成分が揮発して失われ、エッチング液中の溶解金属は相対的に濃縮される。このため、エッチング液の液組成は経時的に変動して安定せず、溶解金属は増加して、エッチング液性能の低下を招いていた。
【0005】
この点、従来は、エッチング液の性能が低下し使用できなくなると、液を廃棄し新鮮なエッチング液と交換することが行われていた。しかし、この方式では大量の廃液を生じるとともに、交換のたびに生産ラインを停止しなければならないため生産性を悪化させ、エッチング処理に供されるエッチング液の成分濃度も所定範囲で変動を繰り返すこととなり、エッチング液性能の維持管理としては満足できるものではなかった。
【0006】
エッチング液を連続して自動的に管理するものとしては、溶解金属濃度を管理項目とせずに、エッチング液の本来的な成分の濃度を常時監視しながら必要に応じてエッチング原液や新液又は水分などを補充液として補給して、成分濃度を所定の値に管理するエッチング液管理装置がある(例えば、特許文献1参照)。また、溶解金属濃度をも管理項目に含めて、エッチング液の成分濃度と溶解金属濃度とを検出し、エッチング液を排出したり補充液を補給したりしてエッチング液を管理する装置がある(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−137519号公報
【特許文献2】特開平7−176853号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、一般的に、補充液の供給によるエッチング液の管理は、エッチング液成分の濃度管理には優れているものの、被エッチング膜からの溶出成分に対してはこれを希釈しているに過ぎない。したがって、エッチング液成分に加えてさらに溶出成分の濃度をも所定範囲に管理しようとすると必然的にエッチング液の総量が不要に増加してしまう。この点について、特許文献2に記載の発明は、エッチング液を排出する機構を備えることで液量の増加を抑えつつ溶解金属の濃度を低下させることができる。しかしながら、溶解金属のみならずエッチング液中の有効成分が同時に大量に排出されてしまうため廃液量が多く、また、排出されて減少した有効成分を補うのに補充液を大量に補給する必要があった。これらの問題は、溶解金属のエッチング液への溶解度が低い場合にとりわけ顕著であった。
【0009】
被エッチング膜から溶出する金属成分のエッチング液への溶解度が低い例として、酸化インジウム錫(ITO)、酸化インジウム亜鉛(IZO)、酸化インジウムガリウム(IGO)や酸化インジウムガリウム亜鉛(IGZO)などの透明導電膜、酸化物半導体膜をエッチングするシュウ酸系エッチング液がある。この場合、エッチング処理を繰り返すと、エッチング液中で溶解インジウムが析出し、エッチング残渣を発生させるなど、製品の品質を悪化させる原因となっていた。このため、溶解するインジウムの濃度を適切に管理し、適宜、溶解インジウムをエッチング液から分離除去してエッチング液の性能を維持することが望まれている。
【0010】
また、エッチング液に溶解する金属がインジウムや銅などの有価金属である場合には、これらをエッチング廃液として廃棄するのではなく分離回収したいとの要請もある。しかし、エッチング液管理の現場では、従来は、補充液の補給と劣化液の排出とを適宜行っているに過ぎず、溶解金属濃度を検出してエッチング液から自動的に溶解金属を分離回収することでエッチング液を管理しようとするものはなかった。
【0011】
本発明は、上記の諸点を解決すべくなされたものであり、本発明の目的は、エッチング液の成分濃度とともに溶解金属濃度をも監視し、エッチング液の各成分の濃度を管理される値となるように自動的に補充液を補給するとともに溶解金属を分離回収するエッチング液管理装置を提供することにある。また、エッチング液中の溶解金属濃度を測定する溶解金属濃度測定装置、及び、溶解金属濃度測定方法を提供することにある。
【0012】
すなわち、本発明の目的は、エッチング液の成分濃度を管理される濃度範囲内となるように、自動的に成分濃度を調整することで、エッチング液を常に所望の液性能に維持管理することにある。また、エッチング液の溶解金属濃度に基づいて、溶解金属を回収除去することで、金属の溶解性の低下を防止することにある。さらに、エッチング液量を過度に増加させることなく、エッチング廃液量を極限まで減らし、補給すべき補充液の量も最小限とし、溶解した有価金属を効率よく回収することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、前記目的を達成するために、酸を含み、金属膜又は金属化合物膜のエッチングに繰り返し用いられるエッチング液を管理するエッチング液管理装置において、エッチング液の物性値であってエッチング液中の酸の濃度に相関する第1物性値を測定する第1物性値測定手段と、エッチング液の物性値であってエッチング液中に溶解した金属の濃度に相関する第2物性値を測定する第2物性値測定手段と、エッチング液中の酸の濃度と第1物性値との間の相関関係及び第1物性値測定手段の測定結果に基づいて、酸の濃度が管理される濃度範囲内となるようにエッチング液に補給される補充液の送液を制御する補充液送液制御手段と、エッチング液中に溶解した金属の濃度と第2物性値との間の相関関係及び第2物性値測定手段の測定結果に基づいて、金属の濃度が管理される濃度のしきい値以下となるようにエッチング液からエッチング液中に溶解した金属を回収除去する溶解金属回収除去手段と、を備えたことを特徴とするエッチング液管理装置を提供する。
【0014】
本発明のエッチング液管理装置によれば、エッチング液中の酸の濃度に相関する第1物性値を測定する第1物性値測定手段を備え、エッチング液中の酸の濃度と第1物性値との間の相関関係及び第1物性値測定手段の測定値に基づいて、酸の濃度を管理される範囲内となるように補充液を補給しているので、酸の濃度を所定の範囲とすることができる。なお、補充液の補給は、酸の濃度を算出し、酸の濃度が管理される範囲内としてもよいし、第1物性値を所定の範囲内とすることで、酸の濃度を管理される範囲内としてもよい。
【0015】
酸の濃度が管理される値は、酸の濃度を管理する範囲内とすればよく、範囲内の中央付近の値とすることが好ましい。また、管理する範囲は、予め設定されていることが好ましいが、装置の稼働中に適宜変更することもできる。
【0016】
また、エッチング液中に溶解した金属の濃度に相関する第2物性値測定手段を備え、第2物性値測定手段の測定結果に基づいて、予め得ておいた溶解金属の濃度と第2物性値との間の相関関係を利用することで、第2物性値からエッチング液の溶解金属濃度を得ることができる。したがって、この得られた溶解金属濃度値に基づいて、エッチング液中の溶解金属の濃度が管理される濃度のしきい値以下となるように、溶解金属を回収除去することで、溶解金属濃度の制御をすることができる。なお、溶解金属の回収除去は、溶解金属の濃度を算出し、溶解金属の濃度が管理されるしきい値以下としてもよいし、第2物性値を所定のしきい値以下とすることで、溶解金属の濃度を管理されるしきい値以下としてもよい。
【0017】
このように、酸の濃度を所定の範囲内とすることで、金属膜又は金属化合物膜に対するエッチング液の液性能を一定化することができる。また、酸の濃度を一定にすることで、溶解金属の濃度と相関の関係を有する第2物性値から、エッチング液中に溶解された金属の濃度を正確に求めることができ、エッチング性能の低下したエッチング液から溶解した金属を回収除去することができる。
【0018】
本発明は、前記目的を達成するために、酸及び酸化剤を含み、金属膜又は金属化合物膜のエッチングに繰り返し用いられるエッチング液を管理するエッチング液管理装置において、エッチング液の物性値であってエッチング液中の酸の濃度に相関する第1物性値を測定する第1物性値測定手段と、エッチング液の物性値であってエッチング液中に溶解した金属の濃度に相関する第2物性値を測定する第2物性値測定手段と、エッチング液の物性値であってエッチング液中の酸化剤の濃度に相関する第3物性値を測定する第3物性値測定手段と、エッチング液中の酸の濃度と第1物性値との間の相関関係及び第1物性値測定手段の測定結果に基づいて、酸の濃度が管理される濃度範囲内となるように、及び、エッチング液中の酸化剤の濃度と第3物性値との間の相関関係及び第3物性値測定手段の測定結果に基づいて、酸化剤の濃度が管理される濃度範囲内となるように、エッチング液に補給される補充液の送液を制御する補充液送液制御手段と、エッチング液中に溶解した金属の濃度と第2物性値との間の相関関係及び第2物性値測定手段の測定結果に基づいて、金属の濃度が管理される濃度のしきい値以下となるようにエッチング液からエッチング液中に溶解した金属を回収除去する溶解金属回収除去手段と、を備えたことを特徴とするエッチング液管理装置を提供する。
【0019】
本発明のエッチング液管理装置によれば、エッチング液中の酸の濃度と第1物性値との間の相関関係及び第1物性値測定手段の測定値、及び、エッチング液中の酸化剤の濃度と第3物性値との間の相関関係及び第3物性値測定手段の測定値に基づいて、酸の濃度、及び、酸化剤の濃度を管理される範囲内となるように補充液を補給しているので、酸の濃度、及び、酸化剤の濃度を所定の範囲とすることができる。
【0020】
また、酸の濃度、及び、酸化剤の濃度を所定の範囲とすることで、エッチング液中に溶解した金属の濃度に相関する第2物性値からエッチング液の溶解金属濃度を正確に得ることができる。したがって、この得られた溶解金属濃度値に基づいて、エッチング液中の溶解金属の濃度が管理される濃度のしきい値以下となるように、溶解金属を回収除去することで、溶解金属濃度の制御をすることができる。
【0021】
本発明は、前記目的を達成するために、酸を含み、金属膜又は金属化合物膜のエッチングに繰り返し用いられるエッチング液を管理するエッチング液管理装置において、エッチング液の物性値であって少なくともエッチング液中の酸の濃度に相関のある第1物性値を測定する第1物性値測定手段と、エッチング液の物性値であって少なくともエッチング液中に溶解した金属の濃度に相関のある第2物性値を測定する第2物性値測定手段と、第1物性値測定手段により測定された第1物性値及び第2物性値測定手段により測定された第2物性値から、多変量解析法によりエッチング液中の酸の濃度及びエッチング液中に溶解した金属の濃度を算出する演算手段と、演算手段により算出されるエッチング液中の酸の濃度が管理される濃度範囲内となるようにエッチング液に補給される補充液の送液を制御する補充液送液制御手段と、演算手段により算出されるエッチング液中に溶解した金属の濃度が管理される濃度のしきい値以下となるようにエッチング液からエッチング液中に溶解した金属を回収除去する溶解金属回収除去手段と、を備えたことを特徴とするエッチング液管理装置を提供する。
【0022】
本発明のエッチング液管理装置によれば、エッチング液の酸濃度及び溶解金属濃度と相関のあるエッチング液の二つの異なる物性値を測定する第1物性値測定手段及び第2物性値測定手段により、エッチング液の第1物性値と第2物性値を測定することで、多変量解析法によりエッチング液の酸濃度及び溶解金属濃度を得ることができる。この第1測定手段と第2測定手段とが連続して、あるいは、繰り返してエッチング液の第1物性値と第2物性値を測定することで、多変量解析法により算出されたエッチング液の酸濃度に基づいて、エッチング液の酸濃度が管理される濃度範囲内になるように補充液を補給することで、エッチング液の酸の濃度を制御することができ、酸の濃度を所定の範囲内にすることができる。
【0023】
同様に、多変量解析法によりエッチング液の溶解金属の濃度を算出することができ、この算出された溶解金属の濃度に基づいて、溶解金属回収除去手段を作動させることにより、エッチング液中に溶解した金属が管理されるしきい値以下とすることができる。したがって、酸の濃度を一定に管理し、エッチング液の液性能を一定にし、溶解金属の濃度をしきい値以下とすることで、エッチング液中への金属の溶解性を維持することができる。
【0024】
なお、多変量回析法(例えば、重回帰分析法)においては、エッチング液の1つの物性値は、エッチング液の1つ成分の濃度とで相関関係が得られるのではなく、1つの物性値は、多数の成分の影響を受けて求められるエッチング液を想定している。したがって、第1物性値測定手段、及び、第2物性値測定手段は、それぞれ、少なくともエッチング液中の酸の濃度、溶解した金属の濃度に相関のある第1物性値、及び、第2物性値を測定する手段であり、第1物性値測定手段が酸の濃度にのみ相関のある物性値を測定する手段ではない。すなわち、第1物性値測定手段により測定される第1物性値は、溶解した金属の濃度にも相関のある物性値であってもよい。
【0025】
本発明は、前記目的を達成するために、酸及び酸化剤を含み、金属膜又は金属化合物膜のエッチングに繰り返し用いられるエッチング液を管理するエッチング液管理装置において、エッチング液の物性値であって少なくともエッチング液中の酸の濃度に相関のある第1物性値を測定する第1物性値測定手段と、エッチング液の物性値であって少なくともエッチング液中に溶解した金属の濃度に相関のある第2物性値を測定する第2物性値測定手段と、エッチング液の物性値であって少なくともエッチング液中の酸化剤の濃度に相関のある第3物性値を測定する第3物性値測定手段と、第1物性値測定手段により測定された第1物性値、第2物性値測定手段により測定された第2物性値及び第3物性値測定手段により測定された第3物性値から、多変量解析法によりエッチング液中の酸の濃度、エッチング液中に溶解した金属の濃度及びエッチング液中の酸化剤の濃度を算出する演算手段と、演算手段により算出されるエッチング液中の酸の濃度が管理される濃度範囲内となるように、及び、演算手段により算出されるエッチング液中の酸化剤の濃度が管理される濃度範囲内となるように、エッチング液に補給される補充液の送液を制御する補充液送液制御手段と、演算手段により算出されるエッチング液中に溶解した金属の濃度が管理される濃度のしきい値以下となるようにエッチング液からエッチング液中に溶解した金属を回収除去する溶解金属回収除去手段と、を備えたことを特徴とするエッチング液管理装置を提供する。
【0026】
本発明のエッチング液管理装置によれば、エッチング液の酸濃度、溶解金属濃度及び酸化剤濃度と相関のあるエッチング液の三つの異なる物性値を測定する第1物性値測定手段、第2物性値測定手段及び第3物性値測定手段により、エッチング液の第1物性値、第2物性値及び第3物性値を測定することで、これらの測定した物性値から多変量解析法による演算手段により、エッチング液中の酸の濃度、溶解した金属の濃度、酸化剤の濃度を正確に算出することができる。
【0027】
多変量解析法による演算手段により算出した酸の濃度、酸化剤の濃度に基づいて、エッチング液の酸の濃度、及び、酸化剤の濃度が管理される濃度範囲内になるように補充液を補給することで、エッチング液の酸の濃度、酸化剤の濃度を制御することができ、酸の濃度、酸化剤の濃度を所定の範囲内にすることができる。
【0028】
同様に、演算手段により算出した溶解した金属の濃度に基づいて、溶解金属回収除去手段を作動させることにより、エッチング液中に溶解した金属の濃度を管理されるしきい値以下とすることができる。
【0029】
したがって、酸の濃度、酸化剤の濃度を一定に管理し、エッチング液の液性能を一定にし、溶解金属の濃度をしきい値以下とすることで、エッチング液中への金属の溶解性を維持することができる。
【0030】
また、第1物性値測定手段、第2物性値測定手段、および、第3物性値測定手段は、それぞれ、少なくともエッチング液中の酸の濃度、溶解した金属の濃度、酸化剤の濃度に相関のある第1物性値、第2物性値、第3物性値を測定する手段である。したがって、第1物性値測定手段、第2物性値測定手段、および、第3物性値測定手段により測定される第1物性値、第2物性値、及び、第3物性値は、エッチング液中の他の成分にも相関のある物性値であってもよい。
【0031】
本発明の別の態様においては、第1物性値測定手段は、第1物性値としてエッチング液の導電率値を測定する導電率計、又は、第1物性値としてエッチング液の超音波伝播速度を測定する超音波濃度計であることが好ましい。
【0032】
酸を含むエッチング液の酸濃度と、エッチング液の導電率値又はエッチング液の超音波伝播速度とは、相関関係を有するから第1物性値測定手段を導電率計、又は、超音波濃度計で測定することにより、酸濃度を精度よく測定することができる。
【0033】
本発明の別の態様においては、第2物性値測定手段は、第2物性値としてエッチング液の密度値を測定する密度計、又は、第2物性値としてエッチング液の吸光度値を測定する吸光光度計であることが好ましい。
【0034】
エッチング液の溶解金属濃度と、エッチング液の密度又はエッチング液の特定波長における吸光度値とは、相関関係を有するから、第2物性値測定手段を、密度計、又は、吸光光度計とすることにより、溶解金属濃度を精度よく測定することができる。
【0035】
本発明の別の態様においては、第3物性値測定手段は、第3物性値としてエッチング液の吸光度値を測定する吸光光度計、第3物性値としてエッチング液の超音波伝播速度を測定する超音波濃度計、第3物性値としてエッチング液の密度値を測定する密度計、又は、第3物性値としてエッチング液の酸化還元電位を測定する酸化還元電位計であることが好ましい。
【0036】
この態様によれば、酸化剤の濃度を測定する第3物性値測定手段として、吸光光度計、超音波濃度計、密度計、酸化還元電位計を用いることで、これらの測定手段により測定されるエッチング液の特定波長における吸光度値、超音波伝播速度、密度値、酸化還元電位が、酸化剤の濃度と相関関係を有するので、酸化剤の濃度を精度よく測定することができる。
【0037】
本発明の別の態様においては、溶解金属回収除去手段は、晶析装置又は電解装置であることが好ましい。
【0038】
金属膜又は金属化合物膜からエッチング液中に溶出した金属成分のエッチング液における溶解度は、エッチング液の様々な液条件により異なる。溶解金属回収除去装置として晶析装置を用いることにより、晶析条件を変更することで、エッチング液における金属の溶解度を低下させることができ、溶解された金属を金属塩などの結晶として析出させることができる。また、エッチング液中の溶解された金属成分は、電解処理により電極表面に金属として析出させることができるので、電解装置を用いることにより、溶解された金属の分離除去を行うことができる。
【0039】
本発明の別の態様においては、晶析装置は、スクリューコンベア型晶析装置であることが好ましい。
【0040】
この態様によれば、晶析装置にスクリューコンベア型晶析装置を用いることにより、エッチング液中に析出し、堆積した溶解金属の晶析物を、排出操作を必要とせず、回収除去することができる。また、従来の巨大な晶析槽に滞留させたエッチング液中で晶析物を沈殿させ、スラッジとして晶析槽下部から排出除去していた方法に比べ、エッチング液中から晶析物を直接かつ自動的に回収分離することができるとともに、巨大な晶析槽をなくし、装置の省スペース化を行うことができる。
【0041】
本発明の別の態様においては、金属化合物膜は、金属合金膜、金属酸化膜、金属窒化膜、金属炭化膜、金属硫化膜、金属燐化膜又は金属硼化膜であることが好ましい。
【0042】
本発明の別の態様においては、金属酸化膜は、ITO膜、IZO膜、IGO膜又はIGZO膜であることが好ましい。
【0043】
本発明の別の態様においては、エッチング液は、酸として、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸、フッ化水素酸、過塩素酸及び有機酸のうち少なくとも一つを含む水溶液であることが好ましい。
【0044】
本発明の別の態様においては、有機酸は、シュウ酸、酢酸、クエン酸及びマロン酸のうち少なくとも一つであることが好ましい。
【0045】
本発明の別の態様においては、エッチング液は、酸化剤として、過酸化水素、オゾン、硝酸、過硫酸、硝酸第二セリウムアンモニウム、塩化第二鉄及び塩化第二銅のうち少なくとも一つを含む水溶液であることが好ましい。
【0046】
上記は、被エッチング膜としての金属化合物膜、金属酸化膜の例示である。また、エッチング液に含まれる酸成分の例示である。また、エッチング液に含まれる酸化剤成分の例示である。この態様によれば、被エッチング膜、酸成分、酸化剤成分として上記の成分を用いることで、第1物性値、第2物性値、第3物性値との間に相関関係を有することができ、精度良く、エッチング液中の酸の濃度、溶解した金属の濃度、酸化剤の濃度を求めることができる。
【0047】
本発明は、前記目的を達成するために、酸を含み、金属膜又は金属化合物膜のエッチングに繰り返し用いられるエッチング液中に溶解した金属の濃度を測定する溶解金属濃度測定装置において、エッチング液中の酸の濃度を測定する酸濃度測定手段と、酸濃度測定手段により測定されるエッチング液中の酸の濃度が管理される濃度範囲内となるようにエッチング液に補給される補充液の送液を制御する補充液送液制御手段と、エッチング液の物性値であってエッチング液中に溶解した金属の濃度に相関する物性値を測定する物性値測定手段と、エッチング液中に溶解した金属の濃度と物性値との間の相関関係及び物性値測定手段の測定結果に基づき、エッチング液中に溶解した金属の濃度を測定する溶解金属濃度測定手段と、を備えたことを特徴とする溶解金属濃度測定装置を提供する。
【0048】
本発明の溶解金属濃度測定装置によれば、酸濃度測定手段及び補充液送液制御手段により、エッチング液中の酸の濃度を管理される濃度範囲内とすることができる。そして、エッチング液中の酸の濃度を、管理される濃度範囲内とすることにより、エッチング液中に溶解した金属の濃度に相関する物性値と金属の濃度との間の相関関係を用いて、金属濃度を求めることができる。したがって、溶解した金属の濃度に相関する物性値を測定することで、エッチング中に溶解された金属の濃度を精度良く測定することができる。
【0049】
本発明は、前記目的を達成するために、酸を含み、金属膜又は金属化合物膜のエッチングに繰り返し用いられるエッチング液中に溶解した金属の濃度を測定する溶解金属濃度測定方法において、エッチング液中の酸の濃度を測定する酸濃度測定ステップと、酸濃度測定ステップにより測定されるエッチング液中の酸の濃度が管理される濃度範囲内となるようにエッチング液に補給される補充液の送液を制御する補充液送液制御ステップと、エッチング液の物性値であってエッチング液中に溶解した金属の濃度に相関する物性値を測定する物性値測定ステップと、エッチング液中に溶解した金属の濃度と物性値との間の相関関係及び物性値測定ステップの測定結果に基づき、エッチング液中に溶解した金属の濃度を測定する溶解金属濃度測定ステップと、を備えたことを特徴とする溶解金属濃度測定方法を提供する。
【0050】
本発明の溶解金属濃度測定方法によれば、上記の溶解金属濃度測定装置と同様の効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0051】
本発明のエッチング液管理装置、溶解金属濃度測定装置、及び、溶解金属濃度測定方法によれば、エッチング液の酸の濃度、酸化剤の濃度、溶解された金属の濃度をリアルタイムで連続的に測定することができるので、これらを所定の濃度値に常時、精度よく維持管理することができる。したがって、エッチング液の液性能が一定化し、液寿命を長くすることができる。
【0052】
また、エッチング液中に溶解された金属を回収除去することにより、エッチング液の溶解された金属の濃度を制御しているため、溶解金属濃度を下げるために補充液を補給する必要がない。したがって、エッチング液の不要な増加を抑え、補充液補給量を大幅に削減でき、廃液量も極限まで削減することができるので、廃液処理コストを低減することができる。また、溶解した金属のオンライン回収を行うことができる。
【0053】
さらに、エッチング液が、常時最適な液性能に自動的に維持されることにより、生産装置のダウンタイムを減少させることができ、生産性の向上を実現することができる。また、エッチング処理の進行に伴う溶解金属の析出によるエッチング残渣の発生を防止することができ、製品歩留まりの向上を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
図1】本発明の第一実施形態であるエッチング液管理装置を含むエッチング処理機構の系統図である。
図2】エッチング液のシュウ酸濃度と導電率との関係を示すグラフ図である。
図3】エッチング液の溶解金属濃度と密度との関係を示すグラフ図である。
図4】溶解金属回収除去装置の一実施形態である晶析装置の模式図である。
図5】溶解金属回収除去装置の他の実施形態である電解装置の模式図である。
図6】本発明の第二実施形態であるエッチング液管理装置を含むエッチング処理機構の系統図である。
【発明を実施するための形態】
【0055】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施の形態を詳細に説明する。ただし、これらの実施の形態に記載されている構成機器の形状、その相対配置などは、特に特定的な記載がない限りは、本発明の範囲をそれらのみに限定するものではなく、単なる説明例にすぎない。
【0056】
〔第一実施形態〕
図1は、本発明の第一実施形態であるエッチング液管理装置を含むエッチング処理機構100の系統図である。
【0057】
本実施形態のエッチング液管理装置は、主として、金属膜又は金属化合物膜をエッチングするエッチング処理において、エッチング液が酸を含む水溶液であり、エッチング液の酸濃度及び溶解金属濃度の管理が重要な場合などに適用されるものである。図1の系統図には、本発明のエッチング液管理装置と接続され所定の成分濃度に維持管理されるエッチング液が貯留されるエッチング処理槽1を含むエッチング処理部A、エッチング処理槽1に貯留されたエッチング液を循環し撹拌するエッチング液循環部B、エッチング液中に溶存する金属成分をエッチング液から回収し除去する溶解金属回収除去部C、各種補充液を貯留する補充液供給缶21〜23と補充液供給管路に取り付けられ開閉制御される流量調節弁25〜28とを含む補充液供給部D、エッチング液の酸濃度や溶解金属濃度に相関するエッチング液の物性値を測る測定部E、様々な演算や制御を行うコンピューター30、などを備えている。なお、本発明のエッチング液管理装置は、溶解金属回収除去部C、補充液供給部Dのうちの流量調節弁25〜28、測定部E、コンピューター30から構成される。
【0058】
<エッチング処理部A>
エッチング処理部Aは、搬送される基板表面にエッチング液を噴射し、これにより基板表面をエッチングするためのものである。
【0059】
図1に示すように、エッチング処理部Aは、エッチング液が貯留されるエッチング処理槽1、エッチング処理槽1からオーバーフローしたエッチング液を受けるためのオーバーフロー槽2、エッチング処理槽1内のエッチング液の液面を測定する液面レベル計3、エッチング室フード4、エッチング処理槽1上方に配置された基板6を搬送するためのローラーコンベア5、及び、エッチング液スプレー7等を備えている。
【0060】
エッチング処理槽1とエッチング液スプレー7とは、途中に送液ポンプ8及びエッチング液の微細粒子等を除去するためのフィルター9が設けられた循環管路10により接続されている。
【0061】
送液ポンプ8を作動させると、エッチング処理槽1に貯留されたエッチング液は、循環管路10を介してエッチング液スプレー7に供給され、このエッチング液スプレー7から噴射させられる。これにより、ローラーコンベア5により搬送される基板6表面がエッチングされる。なお、基板6の表面は、金属膜又は金属化合物膜とレジスト膜で覆われている。
【0062】
エッチング後のエッチング液は、エッチング処理槽1に落下し再び貯留され、上記と同様、循環管路10を介してエッチング液スプレー7に供給され、このエッチング液スプレー7から噴射させられる。
【0063】
<エッチング液循環部B>
エッチング液循環部Bは、主として、エッチング処理槽1内に貯留されたエッチング液を循環し、攪拌するためのものである。
【0064】
エッチング処理槽1の底部は、途中に循環ポンプ11が設けられた循環管路12によりエッチング処理槽1の側部と接続されている。循環ポンプ11を作動させると、エッチング処理槽1に貯留されたエッチング液は、循環管路12を介して循環する。エッチング液は、循環管路12を介してエッチング処理槽1の側部からエッチング処理槽1に戻され、貯留されたエッチング液を攪拌する。
【0065】
また、合流管路29を介して循環管路12に補充液が流入した場合、この流入した補充液は、循環管路12内において循環するエッチング液と混合されながら、エッチング処理槽1内に供給される。
【0066】
<溶解金属回収除去部C>
溶解金属回収除去手段である溶解金属回収除去部Cは、エッチング処理により被エッチング膜からエッチング液中に溶出した金属成分を回収してエッチング液から分離除去するためのものである。金属成分をエッチング液から回収・除去することにより、エッチング液中の溶解金属濃度を低下させることができる。
【0067】
溶解金属回収除去部Cは、溶解金属回収除去装置13と、エッチング処理槽1に貯留されたエッチングを溶解金属回収除去装置13に送液する送液配管14aと、送液配管14aに設けられエッチング液を循環させる循環ポンプ15と、溶解金属回収除去装置13で処理されたエッチング液をエッチング処理槽1に戻すための戻り配管14bとからなる。エッチング処理槽1と溶解金属回収装置13は、送液配管14aと戻り配管14bとで、接続されている。溶解金属回収除去装置13は、コンピューター30と接続され、コンピューター30からの指令に基づいて適宜作動したり停止したりする。
【0068】
溶解金属回収装置13が作動しているときは、循環ポンプ15を作動させて、エッチング処理槽1中のエッチング液を、送液配管14aを介して溶解金属回収装置13に送液する。溶解金属回収装置13に送液されたエッチング液は、溶解金属回収装置13でエッチング液に溶存する金属成分が回収除去され、エッチング液の溶解金属濃度が低下する。溶解金属回収装置13は、エッチング液の溶解金属濃度の測定値に基づいて、コンピューター30により、エッチング液中の溶解金属濃度が所定の管理値される濃度のしきい値以下となるように作動される。なお、溶解金属回収除去装置13の動作制御には、コンピューター30の代わりにシーケンサなどのコントローラを使用することもできる。
【0069】
<補充液供給部D>
補充液供給部Dは、エッチング処理槽1内に補充液を供給するためのものである。補充液としては、エッチング原液、エッチング新液、酸原液、純水及びエッチング再生液がある。これらは必ずしも全て必要というのではなく、エッチング液の組成、濃度変化の程度、設備条件、運転条件、補充液の入手状況などにより、最適な補充液及び供給装置が選択される。
【0070】
補充液供給部Dは、各補充液を貯留するための、エッチング原液供給缶21、エッチング新液供給缶22、酸原液供給缶23、及び、純水供給用の既設の配管等を備えている。ただし、供給缶21〜23は、一例として図示しているに過ぎず、供給缶の設置数やその内容物である補充液の種類は、エッチング液の条件により適宜選択すればよい。
【0071】
各供給缶21〜23から補充液を送る送液配管及び純水供給用の既設の配管は、コンピューター30により開閉制御される流量調節弁25〜28が設けられ、流量調節弁より先で合流管路29に集約されて循環管路12と接続する。なお、本実施形態においては、コンピューター30及び流量調節弁25〜28が補充液送液制御手段に該当する。各供給缶21〜23にはNガス供給用の配管24が接続されており、この配管24から供給されるNガスにより各供給缶21〜23は加圧されている。このため、コンピューター30により流量調節弁25〜28のうちの少なくとも一つを開くように制御すると、その制御された流量調節弁に対応する補充液が送液管路、合流管路29、及び循環管路12を介してエッチング処理槽1内に圧送される。なお、流量調節弁25〜28の開閉制御には、コンピューター30の代わりにシーケンサなどのコントローラを使用することもできる。
【0072】
例えば、コンピューター30により流量調節弁25(エッチング原液補給弁)を開くように制御すると、エッチング原液供給缶21に貯留されているエッチング原液が、送液管路、合流管路29、及び循環管路12を介してエッチング処理槽1に圧送される。同様にコンピューター30により流量調節弁28(純水補給弁)を開くように制御すると、既設配管から純水が送液管路、合流管路29、及び循環管路12を介してエッチング処理槽1内に供給される。
【0073】
各流量調節弁はそれが開時に所定量の液体が流れるように流量調節されているので、コンピューター30が各流量調節弁を開ける時間を制御することにより、必要な補充液が必要量だけ補充される。
【0074】
図1においては、各補充液は、各送液配管及び合流管路29を介して循環管路12に流入し、循環管路12内において循環するエッチング液と混合されながら、エッチング処理槽1内に供給される。補充液の補給の仕方は、これに限定されず、合流管路29を介することなく各送液配管を循環管路12又はエッチング処理槽1に直接接続することで、補充液を補給することも可能である。
【0075】
なお、エッチング処理槽1内に貯留されたエッチング液を排出するための液排出ポンプ20が設けられている。これはエッチング処理槽1内の初期洗浄や液交換の際に使用される。
【0076】
補充液供給部Dでは、以下に記載する測定部Eの第1物性値測定装置(第1物性値測定手段)17で測定された物性値から得られたエッチング液の酸濃度に基づいて、補充液の補給を行う。得られたエッチング液の酸濃度の値と、管理される酸濃度の値を比較し、酸濃度が不足していれば酸濃度を高めるように、酸濃度が過剰であれば酸濃度を低くするように、エッチング原液、エッチング新液、エッチング再生液、酸原液、水のうち、少なくとも一つを補充液として補給し、酸濃度を管理される濃度範囲内、ほぼ一定の値に制御する。なお、本発明において「補充液」とは、エッチング液の成分を調整するために用いられる液であり、エッチング原液、エッチング新液、エッチング再生液、酸原液、水などの液の総称である。補充液は、複数の液体を補給前に混合しても良いし、複数の液体のそれぞれを別々に補給してもよい。
【0077】
また、エッチング液の酸濃度の制御は、酸濃度を管理値と比較することによる制御に限定されず、第1物性値測定装置17により常時監視されるエッチング液の酸濃度値に基づいて得られる酸濃度の経時変化の積分値や微分値を用いるものでもよく、または、これらを適宜組み合わせた制御とすることもできる。このような制御を実現できる制御装置を第1物性値測定装置17及び補充液送液制御手段と連動させることで、エッチング液の酸濃度に基づいて、エッチング液の酸濃度を所定範囲内となるように制御することができる。
【0078】
<測定部E>
測定部Eは、サンプリングしたエッチング液の酸濃度及び溶解金属濃度を測定するためのものである。
【0079】
測定部Eは、循環管路10からエッチング液をサンプリングするためのサンプリングポンプ32とサンプリング配管31が接続されており、サンプリングされたエッチング液の酸濃度に相関するエッチング液の第1物性値を測定するための第1物性値測定装置17、エッチング液の溶解金属濃度に相関するエッチング液の第2物性値を測定するための第2物性値測定装置(第2物性値測定手段)18、サンプリングされたエッチング液を戻す戻り配管33とを備えている。なお、サンプリング配管31と戻り配管33は、エッチング処理槽1に直接接続してもよい。
【0080】
第1物性値測定装置17は、エッチング液中の酸の濃度に相関する第1物性値を測定する。予め得ていたエッチング液の酸濃度と第1物性値との間の相関関係を利用すれば、測定された第1物性値からエッチング液の酸濃度を得ることができる。また、第2物性値測定装置18は、エッチング液中の溶解金属濃度に相関する第2物性値を測定する。予め得ていたエッチング液の溶解金属濃度と第2物性値との間の相関関係を利用すれば、測定された第2物性値からエッチング液の溶解金属濃度を得ることができる。
【0081】
第1物性値測定装置17及び第2物性値測定装置18はコンピューター30に接続されており、測定結果などが通信される。
【0082】
エッチング液の酸濃度と第1物性値測定装置17により測定される物性値との間の相関関係は、エッチング液の酸濃度と第1物性値測定装置17によって測定される物性値とが、一義的に対応付けられる関係であればよく、好ましくは多項式、指数関数、対数関数などの簡単な関数で近似的に表現できる関係であり、より好ましくは直線関係である。
【0083】
通常、エッチング液の物性値は酸濃度の変化に伴って連続的に滑らかに変化するものであるため、エッチング液の酸濃度が緩やかな経時変化を示すのに伴い、第1物性値測定装置17により測定される第1物性値も連続的に緩やかな経時変化を示す。そのため、エッチング液の酸濃度の管理範囲を含む酸濃度範囲において、エッチング液の第1物性値と酸濃度との間に前述のような相関関係を得ることができる。そして、この相関関係を用いれば、第1物性値測定装置17が測定したエッチング液の物性値からエッチング液の酸濃度を得ることができる。
【0084】
また、エッチング液の溶解金属濃度と第2物性値測定装置18により測定される物性値との間の相関関係は、エッチング液の溶解金属濃度と第2物性値測定装置18によって測定される物性値とが、一義的に対応付けられる関係であればよく、好ましくは多項式、指数関数、対数関数などの簡単な関数で近似的に表現できる関係であり、より好ましくは直線関係である。
【0085】
通常、エッチング液の物性値は溶解金属濃度の変化に伴って連続的に滑らかに変化するものであるため、エッチング液の溶解金属濃度が緩やかな経時変化を示すのに伴い、第2物性値測定装置18により測定される第2物性値も連続的に緩やかな経時変化を示す。そのため、エッチング液の溶解金属濃度の管理範囲を含む溶解金属濃度範囲において、エッチング液の第2物性値と溶解金属濃度との間に前述のような相関関係を得ることができる。そして、この相関関係を用いれば、第2物性値測定装置18が測定したエッチング液の物性値からエッチング液の金属濃度を得ることができる。
【0086】
このようにして得られた溶解金属濃度値は、その管理値と比較することで、溶解金属回収除去装置13を稼働させるか判断する。溶解金属濃度が管理される濃度のしきい値より高い場合は、溶解金属回収除去装置13により、エッチング液に溶解している金属を回収除去して、溶解金属濃度を管理される濃度のしきい値より低くする。なお、溶解金属回収除去装置13の稼働の有無は、測定された第2物性値から相関関係を利用して得られた溶解金属濃度と、溶解金属濃度の管理値との比較により行ってもよいし、測定された第2物性値と相関関係において溶解金属濃度の管理値に対応する物性値との比較により行うこともできる。
【0087】
溶解金属濃度が管理される値は、溶解金属濃度が管理される濃度範囲の上限以下の溶解金属濃度値とすることが好ましい。また、溶解金属濃度が管理される値は、予め設定しておくことが好ましいが、装置の稼働中に適宜調整してもよい。
【0088】
第1物性値測定装置17としては、導電率計、又は、超音波濃度計を用いることができる。酸を含むエッチング液の酸濃度と、エッチング液の導電率値又はエッチング液の超音波伝播速度とは、酸濃度の管理範囲を含む所定の範囲内において、相関関係を有する。したがって、エッチング液の導電率値又は超音波伝播速度を測定することで、エッチング液中の酸濃度を精度良く測定することができる。
【0089】
第2物性値測定装置18としては、密度計、又は、吸光光度計を用いることができる。金属膜又は金属化合物膜をエッチングするエッチング液の溶解金属濃度と、エッチング液の密度又はエッチング液の特定波長における吸光度値とは、溶解金属濃度の管理範囲を含む所定の範囲内において相関関係を有する。したがって、エッチング液の密度値又は吸光度値を測定することで、エッチング液中の溶解金属濃度を精度良く測定することができる。
【0090】
[酸濃度及び溶解金属濃度の測定方法]
次に、エッチング液の酸濃度及び溶解金属濃度を測定する方法の一例を説明する。なお、以下の説明では、酸にシュウ酸を用い、エッチング液の酸濃度の管理値を3.4%、エッチング液中の溶解金属をインジウムとした例で説明するが、本発明はこれに限定されず、他の材料、他の管理値でも行うことができる。
【0091】
エッチング液としては、ITO、IZO、IGO、IGZO等の金属酸化膜の一種である透明導電膜や酸化物半導体膜をエッチングするために用いられている3.4%シュウ酸水溶液を用い、溶解金属としてインジウムを用い、模擬サンプル液を調製した。この模擬サンプル液の導電率と密度を測定し、シュウ酸濃度及びインジウム濃度との相関を調べた。
【0092】
サンプルの調製は、シュウ酸2水和物と酸化インジウムとを所定量秤量して、純水に溶かして種々の濃度のサンプルを用意した。表1は、調製したシュウ酸濃度(wt%)とインジウム濃度(ppm)、及び、導電率(mS/cm)と密度(g/cm)の関係を示す。サンプルは、A系列サンプル10種類(A−1〜A−10)、B系列サンプル10種類(B−1〜B−10)、C系列サンプル14種類(C−1〜C-14)を調製し、それぞれについて、導電率及び密度を測定した。C系列サンプルは、シュウ酸濃度がおよそ3.4%付近に管理されている状況を模したサンプルである。なお、サンプルのシュウ酸濃度及びインジウム濃度は、サンプル調製のために秤量した試薬の秤量値から算出した値である。また、シュウ酸濃度は無水和物として換算した濃度である。サンプルの導電率値は導電率計により、密度は振動式密度計により測定した。測定時の温度は、全サンプル測定温度25℃とした。
【0093】
【表1】
【0094】
図2及び図3は、表1の結果をグラフにしたものである。図2は、横軸がサンプルのシュウ酸濃度(wt%)、縦軸がサンプルの導電率(mS/cm)である座標系に、全サンプルの導電率値の測定結果をプロットしたグラフである。図2から明らかなように、インジウムが溶解しているシュウ酸水溶液のシュウ酸濃度と導電率とは直線関係にあることが確認できる。したがって、この関係に基づいて、この直線関係が得られるシュウ酸濃度領域において、シュウ酸水溶液の導電率を検出することにより、シュウ酸水溶液のシュウ酸濃度が得られることが確認できる。
【0095】
図3は、横軸がサンプルのインジウム濃度(ppm)、縦軸がサンプルの密度(g/cm)である座標系に、全サンプルの密度の測定結果をプロットしたグラフである。図3から明らかなように、シュウ酸濃度がほぼ一定の値に管理されている場合を模したC系列サンプルにおいては、インジウム濃度と密度とは直線関係にあることが確認できる。したがって、この関係に基づいて、シュウ酸濃度がほぼ一定に管理されている場合には、シュウ酸水溶液の密度を検出することにより、シュウ酸水溶液に溶解するインジウム濃度が得られることが確認できる。
【0096】
このように、本発明者は、実験により、エッチング液の酸濃度とエッチング液の導電率との間には直線関係があること、を見出し、この直線関係に基づけばエッチング液の導電率を検出することによりエッチング液の酸濃度を測定することができることを知見したのである。
【0097】
また、本発明者は、実験により、酸濃度がほぼ一定に管理されている場合には、エッチング液の溶解金属濃度とエッチング液の密度との間には直線関係があること、を見出し、この直線関係に基づけばエッチング液の密度を検出することによりエッチング液の溶解金属濃度を測定することができることを知見したのである。
【0098】
酸濃度の管理幅としては、管理目標値(表1においては3.4%)の±0.1%以内、好ましくは管理目標値の±0.05%以内である。シュウ酸の濃度をほぼ一定の値とすることで、シュウ酸による密度値の変化の影響を抑えることができるので、インジウムの濃度変化をエッチング液の密度変化に相関させることができる。したがって、溶液中に溶解したインジウムの濃度を正確に測定することができる。
【0099】
これらの知見より、測定部Eにおいて、エッチング液の導電率を検出することによりエッチング液の酸濃度と導電率との間の前記直線関係に基づいてエッチング液の酸濃度を得ることができる。また、エッチング液の密度を検出することによりエッチング液の溶解金属濃度と密度との間の前記直線関係に基づいてエッチング液の溶解金属濃度を得ることができる。
【0100】
なお、第1物性値測定装置17としては導電率計が好ましいが、エッチング液の超音波伝播速度を検出する超音波濃度計を採用することもできる。第2物性値測定装置18としては密度計が好ましいが、エッチング液の特定波長における吸光度値を測定する吸光光度計を採用することもできる。第1物性値測定装置17及び第2物性値測定装置18は、測定誤差を最小限とするための諸補償機能を有している。
【0101】
また、図1においては、第1物性値測定装置17及び第2物性値測定装置18が、エッチング処理槽1とは別に設けられ、サンプリング配管31を介してエッチング液のサンプリングを行っているが、第1物性値測定装置17及び第2物性値測定装置18の物性値検出プローブ部をエッチング処理槽1内に設けることで、エッチング液の酸濃度及び溶解金属濃度を得ることができる。
【0102】
<コンピューター30>
コンピューター30は、第1物性値測定装置17、第2物性値測定装置18、溶解金属回収除去装置13、流量調節弁25〜28などと電気的に接続されている。コンピューター30は、これらの接続機器に対して動作指令を発して制御するほか、酸濃度や溶解金属濃度の測定データを取得するなど、接続機器との情報の送受信を行う。また、入出力機能、演算機能、情報記憶機能など、多様な機能を有している。
【0103】
図1においては、エッチング液中の酸濃度と溶解金属濃度の制御をコンピューター30により行っているが、溶解金属濃度を制御する制御装置と酸濃度を制御する制御装置とを、別々に設けてもよい。装置の構成をより簡素に省スペースで実現できるという観点から、酸濃度と溶解金属濃度とを一体の制御装置で維持管理することが好ましいが、より好ましくは、種々の演算を行う演算機能、測定データなどの保持を行う記憶機能、設定値の入力と測定データや演算結果などの種々の情報の表示などを行う入力機能などを一括して処理できる内蔵されたコンピューターによりなされることが好ましい。
【0104】
〔動作例〕
次に、上記構成のエッチング処理装置の動作について説明する。以下、エッチング液としてITO、IZO、IGO、IGZOといった金属酸化膜の一種である透明導電膜、酸化物半導体膜をエッチングするのに多用されるシュウ酸水溶液を使用した例について説明する。
【0105】
送液ポンプ8を作動させると、エッチング処理槽1に貯留されたエッチング液は、循環管路10を介してエッチング液スプレー7に供給され、このエッチング液スプレー7から噴射させられる。これにより、ローラーコンベア5により搬送される基板6表面がエッチングされる。エッチング液は、所定のエッチング速度を保つために、例えば35℃に維持されている。
【0106】
エッチング後のエッチング液は、エッチング処理槽1に落下し再び貯留され、上記と同様、循環管路10を介してエッチング液スプレー7に供給され、このエッチング液スプレー7から噴射させられる。
【0107】
例えば35℃に維持されたエッチング液がスプレーされると水分が優先的に蒸発する。そのため、エッチング液のシュウ酸濃度が上昇する。シュウ酸はインジウムを溶解してシュウ酸イオンとインジウムイオンになり、消費される。それにもかかわらず、水分の蒸発量の方が大きいため、シュウ酸が濃縮され、エッチング速度が大きくなる。また、エッチングが繰り返し行われることにより、基板表面からエッチングにより溶出したインジウムが、エッチング液中に溶解金属として蓄積される。エッチング液中の溶解金属濃度が上昇すると基板表面からの金属成分の溶出が抑えられるため、エッチング液のエッチング性能の低下を招くこととなる。このように、エッチングを行うことにより、エッチング液の酸濃度の上昇と溶解金属濃度の上昇に起因するエッチング性能が変動する。そこで、エッチング液の変動を防止するべく、下記の制御を行う。
【0108】
まず、測定部Eにおいて、エッチング液の酸濃度に相関する第1物性値、溶解金属濃度に相関する第2物性値が測定される。エッチング処理に繰り返し使用されるエッチング液は、サンプリング配管31、サンプリングポンプ32により常時連続してサンプリングされ、測定部Eに供給される。第1物性値測定装置17としては例えば導電率計が、第2物性値測定装置18としては例えば密度計が用いられ、酸濃度と相関関係を有する導電率値、及び、溶解金属濃度と相関関係を有する密度値が検出される。
【0109】
第1物性値測定装置17及び第2物性値測定装置18はコンピューター30の指令を受けて所定間隔で繰り返しエッチング液の導電率値及び密度値を検出し、測定データをコンピューター30に返す。コンピューター30には予め取得されたエッチング液の酸濃度と導電率値との相関関係(例えば直線関係)が検量線として保持されており、この相関関係に基づいて検出された導電率値からエッチング液のシュウ酸濃度が算出される。同様に、コンピューター30には予め取得されたエッチング液の溶解金属濃度と密度値との相関関係(例えば直線関係)が検量線として保持されており、この相関関係に基づいて検出された密度値からエッチング液の溶解インジウム濃度が算出される。
【0110】
コンピューター30では、このようにして常時監視されるエッチング液の酸濃度及び溶解金属濃度が、それらの管理値と比較され、所定の管理値に維持されるように制御がなされる。
【0111】
制御は、比例制御や積分制御、微分制御など、種々の制御方法を採用し得るが、これらを組み合わせたPID制御とするのが好ましい。コンピューター30には適切なPIDパラメータを設定しておけば、酸濃度及び溶解金属濃度が所定の管理値に適切に維持管理されるよう、制御される。
【0112】
エッチング液の酸濃度が低下した場合は、コンピューター30が演算した制御指令により、例えば酸原液を補給するために酸原液供給缶23からの配管途中に設けられた流量調節弁27が開き、酸原液が必要量補給される。エッチング液の酸濃度が上昇した場合は、コンピューター30が演算した制御指令により、例えば純水を補給するために既設の純水配管の途中に設けられた流量調節弁28が開き、純水が必要量補給される。このようにして、エッチング液の酸濃度は、常時監視されながら、管理値からずれた場合には管理値に戻すように制御され、所定の管理値に維持されるよう、制御される。
【0113】
エッチング液の酸濃度が低下することがない場合においては、酸原液供給缶23及び流量調節弁27は不要であり、酸濃度が上昇することがない場合においては、純水を供給するための配管及び流量調節弁28は不要である。
【0114】
同様に、エッチング液の溶解金属濃度が上昇した場合は、コンピューター30が演算した制御指令により溶解金属回収除去装置13が稼働し、エッチング液に溶存する溶解金属が回収除去される。溶解金属濃度が所定の値まで低下すると、溶解金属回収除去装置13は停止させられる。このようにして、エッチング液の溶解金属濃度は、常時監視されながら、管理値よりも上昇した場合には所定の濃度まで溶解金属濃度を下げるように、溶解金属回収除去装置13が稼働する。
【0115】
以上のコンピューター30による制御により、エッチング処理槽1内のエッチング液の酸濃度及び溶解金属濃度を一定範囲に管理することが可能となる。例えば、エッチング処理部Aによるエッチング中に酸濃度の上昇や溶解金属濃度の上昇が起こったとしても、エッチング処理槽1内のエッチング液の酸濃度及び溶解金属濃度を一定範囲に管理することが可能となる。
【0116】
[溶解金属回収除去装置]
次に、溶解金属回収除去装置13の一実施形態である晶析装置について説明する。図4は、本発明の溶解金属回収除去装置13として実施される晶析装置を説明するための模式図である。
【0117】
晶析装置は、図4に示すように、主に、所定の設置角度θで傾けて設置された晶析管35と、搬送スクリュー36、及び、搬送スクリュー36を回転させるモーター37、晶析物回収容器38、熱交換ユニット42、から構成されている。
【0118】
搬送スクリュー36は、モーター37によって回転させられる回転軸36aに、スクリュー羽根36bがらせん状に取り付けられている。搬送スクリュー36は晶析管35内壁に接するように晶析管35内に設置されており、モーター37によって所定方向に回転させられることにより、晶析管35内に晶析した溶解金属の晶析物をかき集めつつ回収してエッチング液中を搬送することができる。
【0119】
晶析管35は、エッチング液の流速や粘性、晶析物の粒径や比重、搬送スクリューの搬送速度などに応じて適切に調節された所定の角度θで傾けられて設置される。
【0120】
晶析管35には、その上部に、下向きの開口部39aを有し、接続配管39を介して晶析物回収容器38と接続されている。晶析管35内で析出した晶析物は、搬送スクリュー36により開口部39aまで搬送され、晶析物回収容器38内に回収され、エッチング液から溶解金属が除去される。
【0121】
晶析管35は、その下部に上向きの開口部41aを有し、上向き配管41が取り付けられている。晶析管35は、晶析管35の外周面に設けられた配管接続部44と、上向き配管41に取り付けられた配管接続部45が、送液配管14aまたは戻り配管14bに接続され、エッチング処理槽1からのエッチング液を循環させることができる。配管接続部44、45は、送液配管14a又は戻り配管14bのいずれに接続されるかは特に限定されない。
【0122】
また、晶析物回収容器38に接続する接続配管39が、晶析管35に設けられる位置を、配管接続部44、45の位置より高くすることで、晶析管35内のエッチング液が、晶析物回収容器38内に流れることを防止することができる。上向き配管41及び晶析管35の上部には、上向き配管41内及び晶析管35内の圧力を開放するエアポート46、47をそれぞれ備える。エアポート46、47により、上向き配管41内及び晶析管35内の圧力を大気圧とすることができるので、上向き配管41内及び晶析管35内の液面を同じ高さとすることができ、晶析管35内のエッチング液が、晶析物回収容器38内に流れることを防止することができる。
【0123】
晶析管35の外側面には、晶析管35内のエッチング液を冷却するための熱交換ユニット42が取り付けられている。熱交換ユニット42は、詳細には図示していないが、例えばペルチェ素子などからなるサーモモジュールと、晶析管35外側面に広く伝熱を行うための熱交換ジャケットと、からなり、サーモモジュールは排熱のため冷却水により冷却される。晶析管35は、さらに、外部熱源との断熱を図るため、その外側面を断熱材(図示せず)で覆われていることが好ましい。
【0124】
また、モーター37と熱交換ユニット42は、コンピューター30と接続され、コンピューター30からの制御指令に基づいて、それぞれが駆動する。
【0125】
晶析装置は、図4に示すように、スクリューコンベア型晶析装置であることが好ましい。図4に示すような、エッチング液管路内に晶析物を回収しつつ自動搬送することのできるスクリューコンベアを内蔵した晶析装置を用いることで、従来晶析の際に多用されてきた晶析物の沈降作用を利用して分離回収する巨大な晶析塔を設けることなく、スクリューコンベアによりエッチング液管路内で晶析物を自動で回収搬送し排出することができる。
【0126】
<動作例>
次に、晶析装置の動作例を説明する。
【0127】
第2物性値測定装置18が測定したエッチング液の溶解金属濃度に相関する第2物性値に基づいて、コンピューター30が溶解金属濃度を所定の管理値まで低下させるように制御命令を発すると、コンピューター30に接続された晶析装置のモーター37及び熱交換ユニット42が駆動し始める。また、循環ポンプ15が作動し、エッチング処理槽1からエッチング液が晶析管35に送液される。
【0128】
熱交換ユニット42が稼働すると、晶析管35を覆う熱交換ジャケットを介してサーモモジュールにより吸熱され、晶析管35及び内部のエッチング液は冷却される。サーモモジュールに集められた熱量は、サーモモジュールを冷却する冷却水により系外に排熱される。
【0129】
エッチング液中の溶解金属、例えば、シュウ酸水溶液中の溶解インジウムは、温度を下げると溶解度が小さくなるので、冷却によりシュウ酸インジウムの結晶として晶析する。熱交換ユニット42により冷却されたシュウ酸水溶液中には、シュウ酸インジウムの種結晶を生じ、これに溶解インジウムが付着して成長し、所定の大きさ以上になると、流れの中でも晶析管35内にシュウ酸インジウム結晶の沈殿を生ずるようになる。
【0130】
このようにして晶析管35の下部に沈降した晶析物は、モーター37により回転させられている搬送スクリュー36により自動的に晶析管35内をかき上げられ、回収されながら上部の開口より晶析物回収容器38へと除去される。
【0131】
晶析管35内部においてエッチング液中で搬送スクリュー36により回収された晶析物は、晶析管35上部の開口部分から直接、晶析物回収容器38内へと落下する。
【0132】
熱交換ユニット42によって冷却される温度は、エッチング液の種類や、溶解金属の溶解度の温度依存性、あるいは、溶解金属濃度の管理値などによって定められる。シュウ酸水溶液中にシュウ酸インジウムの結晶を晶析させる場合には、例えば、20℃程度に冷却するのが良い。
【0133】
晶析管35内で溶解金属が析出され、溶解金属濃度が低下したエッチング液は、戻り配管14bを通り、エッチング処理槽1に循環される。溶解金属濃度が低下したエッチング液を戻すことにより、エッチング処理槽1内のエッチング液の溶解金属濃度を下げることができる。
【0134】
以上が、搬送方式をスクリューコンベア式とした晶析装置の動作例の説明である。
【0135】
次に、スクリューコンベア型晶析装置により晶析を行う方法の一例を実験により説明する。本発明者は、実験により、スクリューコンベア型晶析装置を、エッチング液の流速や粘性、搬送スクリューの回転速度や搬送速度、晶析物の粒径や比重などに応じて所定の角度傾けて設置すれば、晶析管35内のエッチング液中で晶析物を晶析させることができ、エッチング液中で晶析物を回収して連続的かつ自動的に搬送して、エッチング液から回収除去することができることを見出した。本実施形態に含まれるスクリューコンベア型晶析装置に係る発明はこの発明者独自の知見に基づいてなされたものである。
【0136】
本発明者は、シュウ酸水溶液中にシュウ酸インジウムが晶析する状況を模擬するべく水に微粒子を分散させた試験液を用意し、晶析管35を様々な角度にしながら、スクリューコンベア型晶析装置試験機に送液して搬送スクリュー36の回転速度を変えて、分散された微粒子を回収して搬送できるか否かを確認した。
【0137】
試験液の送液流量は33(mL/分)とし、粒径800μm以下の微粒子を使用し、晶析管35の設置角度θは35〜55°の範囲で、搬送スクリュー36の回転速度は0.5〜5.0(rpm)の範囲で、様々に変えながら試験した。
【0138】
以下、表2に結果を示す。実験結果は、試験液中に分散された微粒子のうち、粒径約40μm以上の微粒子についてのものである。
【0139】
【表2】
【0140】
本発明者は、本実験により、晶析管の設置角度が50°以下であれば、搬送スクリューの回転速度が0.5(rpm)の場合を一部除いて、所定の粒径の晶析物についてはこれを回収搬送して、エッチング液から除去することができることを知見した。
【0141】
なお、本実験は、特定の条件における試験液を用いて行った実験であり、晶析管の設置角度、搬送スクリューの回転速度などの条件は本実験に限定されず、エッチング液の条件により変更可能である。
【0142】
本実施形態のスクリューコンベア型晶析装置を採用すれば、従来の晶析技術では多用されていた巨大な晶析塔やこれに付帯する固液分離装置などの煩雑な設備が不要となり、省スペースに晶析及び晶析物の回収除去を実現することが可能となる。
【0143】
また、スクリューコンベア型晶析装置は、エッチング液の溶解金属濃度に基づいてコンピューター30により制御されているので、エッチング液中に蓄積される溶解金属を自動的に連続して晶析して回収除去することが可能となり、溶解金属濃度の所定の管理値を越えないようにエッチング液を常時適切に管理することが可能となる。
【0144】
他の実験例として、塩化カリウム水溶液を用いて実験を行った。実験の条件は、表3に示す条件を基準とし、クリスタライザー設置角度(晶析管の設置角度)、スクリュー回転速度を変更して実験を行った。塩化カリウム溶液は、晶析装置を循環することで冷却され、表3に記載の塩化カリウム溶液濃度、サーモモジュール設定温度で循環させることで、晶析が生じることは確認済みである。クリスタライザー設置角度を変更して行った結果を表4に、スクリュー回転速度を変更して行った結果を表5に示す。なお、表4におけるクリスタライザー設置角度55°の含水率、表5における回転速度0.5rpmにおける含水率は、サンプル量が不足したため測定できなかった(※1)。
【0145】
【表3】
【0146】
【表4】
【0147】
【表5】
【0148】
表4より、クリスタライザー設置角度が小さいほど、結晶を多く回収することができた。これは、結晶が液側へ滑り落ちる勢いが弱まるため、スクリューで結晶をシュートまで搬送しやすくすることができるからであると考えられる。また、結晶の含水率をみると、設置角度35〜45°のデータからは設置角度が大きくなるにしたがって含水率は小さくなる傾向が見られるが、50°の場合は含水率が大きくなっているため、「水をきる」という点においては、45°が最も適当な設置角度であると考えられる。
【0149】
また、表5より、スクリューの回転速度が大きいほど結晶の回収量が多く、結晶の含水率は、回転速度が大きい方が含水率は小さかった。
【0150】
(溶解金属回収除去装置の他の実施形態)
溶解金属回収除去装置13としては、図5に示す電解装置113を用いることもできる。電解装置は、回収槽135、陽極151、陰極152、陽極151及び陰極152に電流を流す電源153、及び、電極に析出した金属を自動的に回収除去するスクレーパー154から構成されている。回収槽135の側面には、配管接続部144、145が設けられている。配管接続部144、145が、送液配管14a及び戻り配管14bに接続され、エッチング処理槽1からのエッチング液を循環させることができる。
【0151】
電源153から電流を流すことにより、陽極151では、エッチング液中の陰イオンが集まり電子を放出し(酸化)、陰極152では、陽イオン(インジウムイオンなど)が集まり電子を受け取る(還元)。陰極152で電子を受け取った陽イオンは金属となり陰極に析出し、エッチング液中に溶解された金属の除去を行うことができる。
【0152】
所定時間電解処理に供された陰極152は、いったん電解処理を停止し、自動搬送装置(図示せず)により自動的に回収槽(電解処理槽)135から引き上げられ、回収槽135とは別に設けられたスクレーパー154の中に挿入される。陰極152は、図中、矢印で示すように、自動搬送装置により、回収槽135とスクレーパー154とを移動可能に構成されている。スクレーパー154は、陰極152と略接するように嵌合する構造となっており、陰極152をスクレーパー154に挿入する操作により、陰極152の表面に所定の厚さ以上に堆積した金属を、スクレーパー154により削ぎ落とすことができ、析出した金属155の回収を行うことができる。スクレーパー154で回収された金属はそのまま排出される。スクレーパー154で表面に堆積した金属が除去された陰極152は、自動搬送装置により、再び回収槽135内に戻され、電解処理に供される。なお、図5においては、陰極152をスクレーパー154に上側から挿入する場合について説明したが、これに限定されず、陰極152をスクレーパー154の下側から挿入する場合、あるいは、スクレーパー154を横向きとして陰極152を横から挿入する場合であっても、陰極152に堆積した金属の回収、除去を行うことができる。
【0153】
溶解された金属が除去されたエッチング液は、配管接続部144、145に接続された戻り配管14bからエッチング処理槽1に戻される。また、陰極152に金属を析出させることで、金属の回収を行うことができる。
【0154】
[金属膜又は金属化合物膜]
本実施形態に用いられる被エッチング膜としての金属膜又は金属化合物膜としては、特に限定されないが、金属合金膜、金属酸化膜、金属窒化膜、金属炭化膜、金属硫化膜、金属燐化膜、又は、金属硼化膜を用いることができる。また、金属酸化膜としては、ITO膜、IZO膜、IGO膜、又は、IGZO膜を用いることができる。
【0155】
[エッチング液]
本実施形態のエッチング液に用いられる酸としては、特に限定されないが、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸、フッ化水素酸、過塩素酸、及び、有機酸のうち少なくとも一つを含むことが好ましい。また、有機酸としては、特に限定されないが、シュウ酸、酢酸、クエン酸、及び、マロン酸の少なくとも一つであることが好ましい。
【0156】
〔第二実施形態〕
図6は、本発明の第二実施形態であるエッチング液管理装置を含むエッチング処理機構110の系統図である。第二実施形態のエッチング液管理装置は、第一実施形態のエッチング液管理装置の測定部Eにおいて、第1物性値測定装置17、第2物性値測定装置18に加え、さらに、第3物性値測定装置(第3物性値測定手段)19を備えている点が第一実施形態のエッチング液管理装置と異なっている。第3物性値測定装置19は、エッチング液中の酸化剤の濃度に相関する第3物性値を測定する。予め得ていたエッチング液の酸化剤の濃度と第3物性値との間の相関関係を利用すれば、測定された第3物性値からエッチング液の酸化剤の濃度を得ることができる。
【0157】
エッチング液の酸化剤濃度は、酸濃度及び溶解金属濃度と同様に、所定の測定温度(例えば25℃)において第3物性値測定装置19により検出されたエッチング液の物性値から該物性値とエッチング液の酸化剤濃度との間の相関関係(例えば直線関係)に基づいて算出される。
【0158】
第3物性値測定装置19としては、吸光光度計、超音波濃度計、密度計、又は酸化還元電位計を採用し得る。第3物性値定装置19として吸光光度計を採用した場合には、酸化剤濃度の管理値を含む所定濃度域において得られる酸化剤濃度と特定波長におけるエッチング液の吸光度値との相関関係を検量線として用いれば、検出される吸光度値から酸化剤濃度が算出される。同様に、第3物性値測定装置19として超音波濃度計を採用した場合には、酸化剤濃度の管理値を含む所定濃度域において得られる酸化剤濃度とエッチング液の超音波伝播速度値との相関関係を検量線として用いれば、検出される超音波伝播速度値から酸化剤濃度が算出される。同様に、第3物性値測定装置19として密度計を採用した場合には、酸化剤濃度の管理値を含む所定濃度域において得られる酸化剤濃度とエッチング液の密度値との相関関係を検量線として用いれば、検出される密度値から酸化剤濃度が算出される。同様に、第3物性値測定装置19として酸化還元電位計を採用した場合には、酸化剤濃度の管理値を含む所定濃度域において得られる酸化剤濃度とエッチング液の酸化還元電位値との相関関係を検量線として用いれば、検出される酸化還元電位値から酸化剤濃度が算出される。第3物性値測定装置19として、いずれの装置を用いるかは、測定する酸化剤の種類により決定することができる。
【0159】
酸化剤としては、例えば、過酸化水素水、オゾン、硝酸、過硫酸、硝酸第二セリウムアンモニウム、塩化第二鉄、及び、塩化第二銅のうち少なくとも一つを含む水溶液を用いることができる。
【0160】
第二実施形態においては、コンピューター30は酸濃度及び溶解金属濃度に加えて、酸化剤濃度を常時監視し、酸化剤濃度が所定の管理値からずれてきたことを検出したときには、これを所定の管理値となるように制御する。
【0161】
酸化剤濃度の調整は、第一実施形態の酸濃度の調整と同様の方法により行うことができる。すなわち、酸化剤濃度が所定の管理値よりも低下したときには、例えば酸化剤原液供給缶160から酸化剤原液を補充液として補給すべく、酸化剤原液供給弁161として設置された流量調節弁を開いて、酸化剤原液を必要量補給する。酸化剤濃度が所定の管理値よりも上昇したときには、例えば純水を補給すべく、純水補給弁28を開いて、純水を必要量補給する。
【0162】
なお、第3物性値測定装置19は、測定誤差を最小限とするための諸補償機能を有している。また、酸化剤濃度、酸濃度や溶解金属濃度は、測定の順番を問わない。
【0163】
〔第三実施形態〕
本発明の第三実施形態のエッチング液管理装置は、第一実施形態のエッチング液管理装置の第1物性値測定装置17を少なくともエッチング液の酸濃度に相関のある物性値を測定する測定装置に、第2物性値測定装置18を少なくともエッチング液の溶解金属濃度に相関のある物性値を測定する測定装置に置き換え、これらが測定したエッチング液の物性値から多変量解析法(例えば、重回帰分析法)によりエッチング液の酸濃度及び溶解金属濃度を算出する演算機能(演算手段)を有したものである。第三実施形態のエッチング液管理装置を含むエッチング処理機構は、図1に示す第一実施形態のエッチング処理機構と同様のものを用いることができる。
【0164】
被エッチング膜から溶出した金属成分などを含むエッチング液は、通常、酸成分や酸化剤成分、溶解金属成分など、多様な成分からなる。そのため、第一実施形態、第二実施形態にこのエッチング液管理装置のように、他の成分の濃度が所定の値に維持管理される条件のもとで特定の成分についてみればその成分濃度と測定される物性値との間に所定の管理範囲内で線形関係などの相関関係が近似的に得られるとしても、一般的には、測定されるエッチング液の物性値が特定成分の濃度にのみ相関しているのではない。例えば、酸濃度に相関するエッチング液の導電率値は、酸濃度に強く依存するとしても、より厳密には他の電解質成分からの寄与も受けるし、溶解金属濃度に相関するエッチング液の密度値は、溶解金属濃度に強く依存するとしても、より厳密には他の成分からの寄与も受ける。したがって、より一般的に、より精密に、エッチング液の成分濃度を管理する、という観点からは、測定されるエッチング液の物性値が、それにより検出しようとしている特定成分の濃度のみならず他成分の濃度にも相関する、として取り扱うことが必要不可欠である。この点、多変量解析法、たとえば重回帰分析法を用いることにより、複数の測定されるエッチング液の物性値からこれに影響を与える各成分の濃度をより正確に算出することができる。
【0165】
本実施形態のエッチング液管理装置は、主として、エッチング処理において、エッチング液の酸濃度及び溶解金属濃度の測定、制御、管理をより精密に行うことが必要な場合に適用されるものであり、酸濃度及び溶解金属濃度の演算手法に多変量解析法(例えば、重回帰分析法)を採用したものである。測定したエッチング液の酸の濃度に基づく酸濃度の制御、測定したエッチング液の溶解金属濃度に基づく溶解金属濃度の制御、他の構成については、第一実施例と同様であるのでその説明を省略する。
【0166】
[多成分演算手法]
本発明者は、実験により、シュウ酸水溶液にインジウムが溶存する場合、このシュウ酸水溶液の導電率及び密度の測定値は、シュウ酸濃度、溶解インジウム濃度のうちのそれぞれ一つの成分だけに感応するわけでなく、相互に相関するので、重回帰分析によりさらに正確に濃度が求められることを知見した。
【0167】
また、本発明者は、相関関係による研究、及び、解析の結果、2種類の特性値(インジウムが溶存するシュウ酸水溶液の導電率値及び密度値)から、線形重回帰分析法(MLR−ILS)によりさらに正確なエッチング液(インジウムが溶存するシュウ酸水溶液)の成分濃度(シュウ酸濃度及び溶解インジウム濃度)を演算できることを見出した。
【0168】
ここで、重回帰分析の演算式について例示する。重回帰分析は校正と予測の二段階からなる。n成分系の重回帰分析において、校正標準溶液をm個用意したとする。i番目の溶液中に存在するj番目の成分の濃度をCijと表す。ここで、i=1〜m、j=1〜nである。m個の標準溶液について、それぞれ、p個の特性値(たとえば、ある波長における吸光度とか導電率とか密度)Aik(k=1〜p)を測定する。濃度データと特性値データは、それぞれ、まとめて行列の形(C、A)に表すことができる。
【0169】
【数1】
【0170】
これらの行列を関係づける行列を校正行列といい、ここでは記号S(Skj;k=1〜p、j=1〜n)で表す。
【0171】
【数2】
【0172】
既知のCとA(Aの内容は同質の測定値のみならず異質の測定値が混在しても構わない。例えば、導電率と密度。)からSを行列演算により算出するのが校正段階である。この時、p>=n、且つ、m>=npでなければならない。Sの各要素は全て未知数であるから、m>npであることが望ましく、その場合は次のように最小二乗演算を行う。
【0173】
【数3】
【0174】
ここで、上付きのTは転置行列を、上付きの−1は逆行列を意味する。
【0175】
濃度未知の試料液についてp個の特性値を測定し、それらをAu(Au;k=1〜p)とすれば、それにSを乗じて求めるべき濃度Cu(Cu;j=1〜n)を得ることができる。
【0176】
【数4】
【0177】
これが予測段階である。
【0178】
本発明者は、前記表1に記載したインジウムが溶解したシュウ酸水溶液を模擬したサンプル液を用いて、複数の校正標準溶液のうちの一つを未知試料に見立てて残りの標準溶液で校正行列を求め、仮定した未知試料の濃度を算出して既知の濃度(重量調製値)と比べる手法Leave−One−Out法によって、MIL−ILS計算を行った。その計算結果を表6に示す。表6は、導電率と密度の測定値から求めたシュウ酸及びインジウムの濃度である。
【0179】
【表6】
【0180】
このときの校正行列を表7に示す。
【0181】
【表7】
【0182】
上記の実験に基づく重回帰分析法を用いた演算により、本発明者は、エッチング液の導電率が所定の範囲(たとえば、55.00±2.5(mS/cm))であれば溶解インジウム濃度として標準偏差24(ppm)程度の精度で、シュウ酸濃度として標準偏差32(ppm)程度の精度で算出できることを知見した。
【0183】
なお、多成分演算手法は、本実施形態においては、コンピューター30の演算機能により実現される。すなわち、コンピューター30に予め多変量解析法(例えば、重回帰分析法)の演算プログラムを組んでおけば、コンピューター30は少なくともエッチング液の酸濃度に相関のある第1物性値を測定する第1物性値測定装置17と少なくともエッチング液の溶解金属濃度に相関のある第2物性値を測定する第2物性値測定装置18と接続されているから、これらにより測定されるエッチング液の異なる二つの物性値(例えば、導電率と密度)を取得して、演算プログラムによりエッチング液の酸濃度及び溶解金属濃度が算出される。
【0184】
本実施形態におけるエッチング液の酸濃度及び溶解金属濃度を算出した後の動作は、第一実施形態と同様であるので、その説明を省略する。
【0185】
また、表6に示すサンプルにおいて、他の物性値を用いて、同様に、Leave−One−Out法によってMIL−ILS計算を行った。物性としては、超音波伝播速度(FUD−1:富士工業株式会社製)、相対屈折率(RI−201H:Shodex社製)を測定した。また、導電率(CD−5)、密度(DA−5)は、既存の測定器を自社でアレンジした装置を用い、表1とは別に、再度測定をおこなった。密度は、さらに、精度の高い測定装置(DMA−5000:アントンパール社製)を用いて測定も行った。表8に測定結果を示す。
【0186】
【表8】
【0187】
次に、これらの測定値を用いて、複数の校正標準溶液のうちの一つを未知試料に見立てて残りの標準溶液で校正行列を求め、仮定した未知試料の濃度を算出して既知の濃度(重量調整値)と比べる手法Leave−One−Out法によって、MIL−ILS計算を行った。計算結果の一例として、表9に、導電率と密度の測定値から求めたシュウ酸及びインジウムの濃度、表10に、導電率と超音波伝播速度から求めたシュウ酸及びインジウム濃度を示す。また、表11に導電率と密度を使用した場合の校正行列、表12に導電率と超音波伝播速度を使用した場合の校正行列を示す。なお、本実施形態においては、少なくともエッチング液の酸濃度に相関ある物性値と、少なくともエッチング液の溶解金属濃度に相関のある物性値を用いて、多変量解析法により、酸濃度及び溶解金属濃度を算出している。今回測定した物性値である、導電率、密度、超音波伝播速度、及び、相対屈折率は、酸濃度、及び、溶解金属濃度の両方に相関のある物性であるため、これらの物性値の全ての組み合わせにおいて多変量解析法を行うことができる。
【0188】
【表9】
【0189】
【表10】
【0190】
【表11】
【0191】
【表12】
【0192】
表11、12より、導電率と密度の組み合わせでは、密度に対するインジウムの感度が非常に大きく、表示感度0.0001g/cmで約80ppm変化しているのに対し、導電率と超音波伝播速度の組み合わせでは、超音波伝播速度に対する濃度の感度は、比較的小さく、表示感度0.01m/sを濃度換算すると約3.5ppmと非常に安定である。
【0193】
また、導電率と超音波伝播速度の組み合わせは、導電率に対する感度も相対的に小さくなっており、計測値の変動に対する安定性が向上することが確認できる。
【0194】
また、表13に、導電率と超音波伝播速度(理想値)から求めたシュウ酸及びインジウム濃度を示す。なお、超音波伝播速度(理想値)とは、サンプルを作成した際の成分濃度から超音波伝播速度を予測した値であり、各成分濃度を説明変数として、超音波伝播速度(FUD−1)の計測値を目的変数として、重回帰分析を行い、その結果から予測した値である。
【0195】
【表13】
【0196】
また、表14に、各計測項目の組み合わせにおけるシュウ酸予測値の標準偏差(wt%)とインジウム予測値の標準偏差(ppm)を示す。
【0197】
【表14】
【0198】
表14中の「複合偏差指標」とは、各計測項目の組み合わせの予測精度を示す指標であり、以下の式により求めることができる。それぞれの予測値の標準偏差を実際の濃度の標準偏差で割り、それを合計したものである。複合偏差指標の値を比較して小さい方が、総合的に優れた予測となりうることを示す。
【0199】
【数5】
【0200】
表9、10、14に示すように、導電率と密度の計測結果からシュウ酸とインジウムの濃度の予測精度を算出した結果、シュウ酸の標準偏差が0.0029%、インジウムの標準偏差が39ppmという値が得られた。また、導電率と超音波伝播速度の計測結果からシュウ酸とインジウムの濃度の予測精度を算出した結果、シュウ酸の標準偏差が0.0030%、インジウムの標準偏差が69ppmとシュウ酸の予測精度は変わらないが、インジウムの予測精度は、倍近く悪くなったが、特に問題ないレベルであった。表14に示す組み合わせにおいては、いずれの組み合わせでも精度良く測定することができる。特に、導電率と超音波伝播速度とを組み合わせることで、最小の複合偏差指標を得ることができるため、好ましいと思われる。
【0201】
〔第四実施形態〕
本発明の第四実施形態のエッチング液管理装置は、第二実施形態のエッチング液管理装置の第1物性値測定装置17を少なくともエッチング液の酸濃度に相関のある物性値を測定する測定装置に、第2物性値測定装置18を少なくともエッチング液の溶解金属濃度に相関のある物性値を測定する測定装置に、第3物性値測定装置19を少なくともエッチング液の酸化剤濃度に相関のある物性値を測定する測定装置に置き換え、これらが測定したエッチング液の物性値から多変量解析法(例えば、重回帰分析法)によりエッチング液の酸濃度及び溶解金属濃度を算出する演算機能を有したものである。第四実施形態のエッチング液管理装置を含むエッチング処理機構は、図6に示す第二実施形態のエッチング処理機構と同様のものを用いることができる。
【0202】
本実施形態のエッチング液管理装置は、主として、エッチング処理において、エッチング液の酸濃度、溶解金属濃度及び酸化剤濃度の測定、制御、管理をより精密に行うことが必要な場合に適用されるものであり、酸濃度、溶解金属濃度及び酸化剤濃度の演算手法に多変量解析法(例えば、重回帰分析法)を採用したものである。
【0203】
本実施形態における多成分演算手法は、前記第三実施形態における多成分演算手法において測定する成分を一つ増やして三成分としたに過ぎず、本質において同様である。すなわち、コンピューター30に予め多変量解析法(例えば、重回帰分析法)の演算プログラムを組んでおけば、コンピューター30は少なくともエッチング液の酸濃度に相関のある第1物性値を測定する第1物性値測定装置17と少なくともエッチング液の溶解金属濃度に相関のある第2物性値を測定する第2物性値測定装置18及び少なくともエッチング液の酸化剤濃度に相関のある第3物性値を測定する第3物性値測定装置19と接続されているから、これらにより測定されるエッチング液の異なる三つの物性値(例えば、導電率と密度と特定波長における吸光度)を取得して、演算プログラムによりエッチング液の酸濃度、溶解金属濃度及び酸化剤濃度が算出される。
【0204】
他の構成については、第二実施形態と同様であるのでその説明を省略する。
【0205】
[溶解金属濃度測定装置及び溶解金属濃度測定方法]
本発明においては、エッチング液中に溶解した金属の濃度を測定する溶解金属濃度測定装置及び溶解金属濃度測定方法として用いることができる。
【0206】
溶解金属濃度を測定する装置としては、図1に示すエッチング処理機構の酸濃度測定手段である第1物性値測定装置17によりエッチング液中の酸濃度を測定する(酸濃度測定ステップ)。酸濃度の測定は、第一実施形態で説明したように、酸の濃度に相関する第1物性値を測定することで酸濃度を測定することができる。次に、測定した酸濃度に基づいて補充液を補充液送液制御手段(補充液供給部D)により補給する(補充液送液制御ステップ)。補充液は、エッチング液中の酸濃度が管理される範囲内となるように、補給される。
【0207】
補充液を補給することで、酸の濃度が一定になったエッチング液のエッチング液中に溶解した金属の濃度に相関する物性値を測定する物性値測定手段である第2物性値測定装置18により測定する(物性値測定ステップ)。コンピューター30には、エッチング液中に溶解した金属の濃度と第2物性値測定装置18により測定される物性値との間の相関関係(例えば直線関係)が検量線として収納されており、この相関関係及び第2物性値測定装置18で測定された物性値に基づいてコンピューター(溶解金属濃度測定手段)30によりエッチング液中の溶解金属の濃度を測定する(溶解金属濃度測定ステップ)。
【0208】
なお、溶解金属濃度測定装置及び溶解金属濃度測定方法については、エッチング液中の酸の濃度を管理される範囲内とし、溶解金属濃度に相関する物性値を測定し、溶解金属濃度を測定する方法で説明したが、これに限定されない。エッチング液中に酸化剤を含む場合は、酸化剤の濃度を測定する酸化剤濃度測定手段(酸化剤濃度測定ステップ)を有し、酸化剤の濃度についても管理される範囲内とし、溶解金属濃度を測定することもできる。
【符号の説明】
【0209】
1…エッチング処理槽、2…オーバーフロー槽、6…基板、7…エッチング液スプレー、8…送液ポンプ、10、12…循環管路、11、15…循環ポンプ、13…溶解金属回収除去装置、14a…送液配管、14b…戻り配管、17…第1物性値測定装置、18…第2物性値測定装置、19…第3物性値測定装置、20…液排出ポンプ、21…エッチング原液供給缶、22…エッチング新液供給缶、23…酸原液供給缶、24…配管、25、26、27、161…流量調節弁、28…流量調節弁(純水補給弁)、29…合流管路、30…コンピューター、31…サンプリング配管、32…サンプングポンプ、33…戻り配管、35…晶析管、36…搬送スクリュー、38…晶析物回収容器、42…熱交換ユニット、100、110…エッチング処理機構、113…電解装置、151…陽極、152…陰極、153…電源、154…スクレーパー、160…酸化剤原液供給缶
図1
図2
図3
図4
図5
図6