【実施例】
【0043】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。
〔実施例1〕ヒト軟骨前駆細胞を用いた弾性軟骨創出
1. 要約
成体軟骨組織は血管や神経を欠く単純な臓器であり、複雑な高次構造を有する固形臓器などと比較して、再生医療の早期実現化が期待される。これまでに様々な組織由来間葉系前駆細胞を用いて、成熟軟骨細胞の分化誘導を試みる研究が多数報告されている。しかし、成長因子を用いる従来の分化誘導法では、軟骨細胞への終末分化誘導効率が低いことが重大な未解決課題となっている。
【0044】
本研究では高効率な弾性軟骨創出法の開発を目指し、軟骨の生理分化プロセスの解明を試みた。軟骨前駆細胞を含む発生初期の耳介軟骨を独自のライブ観察系に導入しin vivoにおいて追尾定点観察を行ったところ、一過性に血液灌流が生じ血管内皮細胞が侵入することを見出した。これにより軟骨前駆細胞の増殖活性が一時的に亢進し、続く血管の退行に伴って終末分化誘導が生じることが明らかとなった。そこで、近年我々が同定したヒト軟骨前駆細胞を用いて、このような発生過程における一過性血管侵入を再現する新規培養系の構築を試みた。驚くべきことに、血管内皮細胞との共培養により、軟骨前駆細胞はin vitroで自律的に三次元組織を構築することが明らかとなった。さらに、この三次元組織を移植に用いることで、従来のペレット移植法と比較して、高効率に弾性軟骨を再構築することが示された。
【0045】
本技術によれば、成長因子や足場材料を用いる必要がないことから、安全性やコストの面で極めて有益な弾性軟骨再構築技術になるものと期待される。将来的に、患者のHLA型と一致した血管内皮細胞と低侵襲で採取培養した軟骨前駆細胞と共培養させ、三次元組織化を誘導し移植することで、頭蓋・顎・顔面領域の先天奇形や外傷に起因する組織変形の新たな治療法を提供できると考えられる。
【0046】
2. 緒言
頭蓋・顎・顔面領域の先天奇形や外傷に起因する変形は、全世界で100万人以上の患者が抱えている極めて重要な解決課題であり、これらの疾患に対する新しい治療法の開発が待ち望まれている
1。現在、形成外科領域では顔面の変形や先天性奇形に対して、患者自身の軟骨組織を移植する手術が広く行われている
2。組織移植に広く用いられている軟骨組織として肋軟骨が挙げられるが、採取に伴う術後の疼痛や胸部の瘢痕が問題となるばかりでなく、前胸部の変形をきたす症例もある。先天性の変形に対する手術は小児期に行われることが多いため、患者へ対する侵襲は相対的に大きく、その負担は計り知れない。また、軟骨組織移植に伴う経年的な組織変形と吸収や、骨組織移植に伴う経月的な組織吸収も極めて大きな問題となっており臨床的に満足のいく長期成績が得られていない
3-7。合成高分子化合物などの医用材料を移植する方法もあるが
8-13、それらが人体にとって異物であることから、感染や炎症、皮膚穿孔などが生じることが知られており、これらの問題が未解決である
12,13。このような問題点を克服することの可能な新しい治療法として、組織再生工学を用いたヒト弾性軟骨の臨床的再構築法の開発が切望されている。
【0047】
ヒト弾性軟骨の再構築に適応可能な細胞源として、幾つかの可能性が示唆されている
14-16。ヒト耳介軟骨細胞は軟骨分化能などの優位性を有しているが、採取部位への侵襲に加え、自己複製能を有する幹細胞が存在しないために、細胞寿命に起因する長期的な組織維持が困難であることが問題となっている。骨髄由来のヒト間葉系幹細胞は、これらの諸問題を解決できる可能性を持つ細胞の一つであるが
17,18、骨髄穿刺の侵襲が大きいこと、成熟軟骨細胞への分化能が極めて低いこと、血管侵入や石灰沈着をきたすことなどの様々な問題を抱えているため実用化の可能性は低い
19-21。他にも脂肪組織由来のヒト間葉系幹細胞など候補となる細胞は存在するものの、いずれも成熟軟骨細胞への分化能力が低く、弾性軟骨における細胞外基質の産生能は全く確認されていないことから、ヒト弾性軟骨の再構築に応用可能な優れた細胞源は見いだされていないのが現状である
22-24。
【0048】
ヒト弾性軟骨による再生治療を実現するためには、低侵襲操作で採取が可能であり、高い増殖活性、成熟軟骨細胞への高い分化能、自己複製能を持つヒト軟骨前駆細胞を同定し、これらの分離・培養法、分化誘導法などに関する様々な細胞操作技術を開発することが必要である。
【0049】
先行研究において、BrdU Labeling retaining assayによりマウス耳介軟骨膜部にのみBrdU投与後1年にわたりLabel Retaining Cells ( LRCs )が存在することを確認し
25、軟骨膜に軟骨前駆細胞が存在することが示唆された。そこで、ヒト軟骨膜に、前駆細胞の特徴である高い増殖能、多分化能を有する細胞集団が存在することを明らかにし、前駆細胞を分離・培養する技術を開発した
26。
【0050】
一方で、軟骨細胞への分化誘導因子の探索を目的として、分子生物学的解析が実施され、軟骨分化の進行には、増殖、分化を制御する多様な成長因子が介在していることが明らかとなってきている。その一つの例としてFGFs(Fibroblast Growth Factors)が挙げられる。FGFsは、1974年にGospodarowiczらにより、ウシ脳抽出液中に線維芽細胞の増殖を促進する増殖因子として発見され
27、1977年に仔ウシの軟骨から精製することに成功している
28。FGFR遺伝子に変異が起こることで、頭蓋縫合早期癒合症や四肢の短縮が起こる軟骨無形成症、軟骨低形成症
29,30などの遺伝性骨形成疾患が発生することが明らかになり、FGFシグナルの骨・軟骨形成における役割が注目されている。またその他にも、TGF-βレセプターのキナーゼ領域を欠失させたドミナントネガティブ型レセプターを発現するトランスジェニックマウスが、変形性膝関節症様症状を呈した
31。分子生物学的解析により、TGF-β によるSmad2/3を介したシグナルがSox9の転写活性を促進し、Co12a1遺伝子のエンハンサー領域においてSox9とCBP/p300との複合体形成を調節することで、軟骨の初期分化を促進していることを明らかになっている
32。このことから、軟骨前駆細胞や間葉系幹細胞を軟骨分化誘導するには、TGFsやFGFsなどの成長因子を添加することが必要であると考えられる
33,34。実際に、Insulin-like Growth Factor-I、basic-FGFの二つの成長因子を添加することで、軟骨前駆細胞に軟骨分化誘導を行う方法が標準的である。しかし、生着率が低いなどの理由から軟骨再構築をする効率が低いことが課題となっている。同様に、間葉系幹細胞から軟骨分化誘導を行う研究が多く成されているが
35-38、どの方法においても軟骨再構築をする効率が低いことが課題となっている。
【0051】
発生の初期において、未分化な間葉系細胞から分化した軟骨前駆細胞が出現し、間充織凝集を経て、軟骨細胞へ分化・成熟することで、軟骨組織が形成される。しかし、軟骨前駆細胞の生理分化プロセスには未だに不明な点が多い。そこで、これまで全く未解明であった生理分化プロセスを明らかにし、それらの相互作用を再現化することによる高効率な弾性軟骨創出法の確立を目指した。
【0052】
3. 材料と方法
3-1. クラニアルウインドウの作製
6週齢で雌のNOD/SCIDマウスを、三協ラボサービス株式会社より購入した。購入したマウスは、横浜市立大学 先端医科学研究センター 共同研究支援部門動物実験センター内において飼育・維持され、これらを用いた動物実験に関しては、横浜市立大学福浦キャンパス動物実験指針に則って行った。
クラニアルウインドウ作製は主にYuanらの方法に従い行った
39。麻酔はケタラール(Sankyo Yell Yakuhin Co.)90 mg/kg, キシラジン(Sigma Chemical CO.)9 mg/kgを滅菌処理したPBSで1個体200 μlの投与量になるように調製し、大腿部筋肉内注射により実施した(ケタラール・キシラジン混合麻酔)。ケタラールは麻薬管理法に従い使用した。70 %エタノールでNOD/SCIDマウス頭部を消毒し、頭部皮膚を切開し、頭蓋骨表面の骨膜を綿棒により除去したのち、歯科用マイクロドリル(Fine Science Tools)を用いて頭蓋骨を円形に薄削し、慎重に取り除いた。続いてピンセットを用いて硬膜を剥離した。出血した際には、スポンゼル(Astellas Co.)を用いて止血を行った。出血が見られないことを確認した後、生理食塩水(Otuka Pharmaceutical Co.)で脳表面を満たして、直径7 mmの特注円形スライドガラス(MATSUNAMI)を表面に乗せ、コートレープラスチックパウダー(Yoshida)とアロンアルファ(Toagosei CO.)をセメント状になるように混合した接着剤により強固に封入した。
【0053】
クラニアルウインドウ作製から1週間経過後、手術部に出血や炎症が見られないマウスを今後の実験に用いた。
【0054】
3-2. 共焦点顕微鏡による観察
作成されたクラニアルウインドウマウスにケタラール・キシラジン混合麻酔を腹腔投与後、頭部ガラスが水平になるよう仰向けにしたマウスをカバーガラス上にセロハンテープで固定し、GFP-mouse(C57BL/6-Tg(CAG-EGFP))(日本SLC)の未成熟な軟骨組織や細胞の観察を行った
40,41。観察には、共焦点顕微鏡(Leica)を用いた。また、マウスの血流を可視化するため、尾静脈から29 Gの注射器(Termo)でfluorescein isothiocyanate-conjugated dextran(MW 2,000,000)、tetramethylrhodamine-conjugated dextran (MW 2,000,000)を100μl、マウスの血管構造を可視化するために、尾静脈からAlexaR647-conjugated mouse-specific CD31 antibody(BD Biosciences Pharmingen) 100μl投与した。
【0055】
3-3. 組織化学染色
摘出した組織、および各発生段階の野生型C57BL/6Jマウス(日本SLC)耳介を、4 %パラホルムアルデヒド(PFA)(Wako)/リン酸緩衝食塩液(PBS)(pH7.4)で4 ℃、2時間固定した。次に、100 mM塩化アンモニウム(Wako)/PBSで4 ℃、10分間、3回洗浄した.そして、15 %スクロース(Wako)/PBSに4 ℃、1 時間浸した後,30%スクロース/PBSで4 ℃、over nightで静置した。O.C.T. Compound(SAKURA Japan)(30 ml)に組織を包埋した。4 ℃、1 時間静置した後、液体窒素で急速凍結し、凍結ブロックを作製した。凍結ブロックをクリオスタットHM 500 O(ZEISS)で5 μmの厚さに薄切し、凍結組織切片を作製した。作成した組織切片は、Alcian Blue染色(武藤化学薬品)、Elastica Van Gieson染色(武藤化学薬品)を行った。
【0056】
Alcian Blue染色は、1×PBS(phosphate-buffered saline)で洗浄してOCT Compoundを除去後、3%酢酸水で3分間前処理をし、Alcian blue染色液で60分間染色した。3 %酢酸水で染色液を落とし純水で洗浄後、ケルンエヒトロートで5分間核染色した。余分なケルンエヒトロートを純水で落とした後、上昇エタノール系列にて脱水し、キシレンで透徹処理した。
【0057】
Elastica Van Gieson染色は、OCT Compoundを除去後、1 %塩酸70 %エタノールで3分間前処理をし、ワイゲルト・レゾルシンフクシン液で60分間浸漬した。1 %塩酸70 %エタノールで染色液を落とし、ワイゲルト鉄ヘマトキシリン液で5分間核染色した。微温湯で色出しを行い、ワンギーソン液で15分間浸漬し、上昇エタノール系列にて脱水し、キシレンで透徹処理した。
【0058】
3-4. 免疫組織化学染色
摘出した組織、および各発生段階の野生型C57BL/6Jマウス(日本SLC)耳介を、4 %パラホルムアルデヒド(PFA)(Wako)/リン酸緩衝食塩液(PBS)(pH7.4)で4 ℃、2時間固定した。次に、100 mM塩化アンモニウム(Wako)/PBSで4 ℃、10分間、3回洗浄した。そして、30%スクロース/PBSで4 ℃、over nightで静置し、O.C.T. Compound(SAKURA Japan)(30 ml)に組織を包埋した。30分静置した後、液体窒素で急速凍結し、凍結ブロックを作製した。凍結ブロックをクリオスタットHM 500 O(ZEISS)で5 μmの厚さに薄切し、凍結組織切片を作製した。作成した組織切片を0.1%tween-TBSで洗浄してOCT Compoundを除去後、凍結切片周囲のTBS-Tを拭き取り、染色対象を撥水ペン(DAKO)で囲むように書き、撥水処理を施した。次に、protein block Serum-Free Ready-to-use(Dako)を用い、4 ℃で24時間ブロッキングを行った。一次抗体には、一次抗体は4℃で一晩反応させた。処理後、TBS-Tで5分間3回洗浄し、二次抗体を滴下し、室温で2時間反応させた。TBS-Tで5分間3回洗浄し、DAPIを添加したFA Mounting Fluid(Becton Dickinson)にて核染色および封入を行った。一次抗体および二次抗体の希釈には、protein block Serum-Free Ready-to-use(Dako)を用いた。
【0059】
一次抗体は、Alexa Fluor647 anti-mouse CD31(Biolegend)(1:200)、rabbit anti-polyclonal laminin(Dako)(1:200)、mouse anti-mouse/human CD44(Biolegend)(1:200)、Rabbit anti-polyclonal Ki67(Abcam)(1:200)、rabbit anti-human Collagen type I(MONOSAN)(1:200)、mouse anti-chicken Collagen type II(CHEMICON)(1:200)を使用した。
また、二次抗体は、
Alexa488 Goat Anti-mouse IgG1(Molecular Probe)(1:500)、
Alexa555 Goat Anti-rabbit IgG(Molecular Probe)(1:500)、
Alexa555 Goat Anti-mouse IgG2b(Molecular Probe)(1:500)、
Alexa555 rabbit Anti-rat IgG2b(Molecular Probe)(1:500)、
Alexa546 Goat Anti-rabbit IgG(Molecular Probe)(1:500)、
を使用した。観察には、蛍光顕微鏡(Zeiss)を用いた。
【0060】
3-5. ヒト耳介軟骨からの軟骨膜組織、軟骨組織の分離
横浜市立大学附属病院倫理委員会より承認を得て(approval #03-074)、小耳症患者より手術の際に余剰となる残存耳介弾性軟骨を供与頂き、研究を遂行した。
【0061】
提供されたヒト耳介弾性軟骨は、実体顕微鏡下で軟骨膜組織、軟骨組織の2層に分離した。
【0062】
3-6. ヒト耳介軟骨膜細胞、軟骨細胞の培養
実体顕微鏡下で軟骨膜部、軟骨実質部の2層に分離し、組織を細切にした。その後0.2 %Collagenase TypeII(Worthington)に懸濁・振蕩し、基質を分解し細胞を分離した。その際、軟骨膜組織と軟骨膜は2時間、軟骨組織は10〜15時間振蕩した。各組織の細胞懸濁液は100 μmのCell Strainer (BD Falcon)で濾過し、遠心分離 (1500 rpm、4 ℃、5 min)した。上清を除去後、Standard medium( 10 %Fetal Bovine Serum(FBS;GIBCO)、1 %Antibiotic Antimycotic Solution(SIGMA)を添加したDULBECCO’S MODIFIED EAGLE’S MEDIUM NUTRIENT MIXTURE F-12 HAM(D-MEM/F-12;SIGMA))で洗浄し、遠心分離(1500 rpm、4 ℃、5 min)を行った。回収した各細胞は、35 mmイージーグリップ細胞培養ディッシュ(FALCON)あるいは60 mm細胞培養ディッシュ(FALCON)に播種した。細胞は気相条件を37 ℃、CO
2濃度5 %に設定したインキュベーター内で培養を行った。
【0063】
細胞の継代は、0.2 %Collagenase typeII(Worthington)を含有するDulbecco’s modified Eagle medium and Ham’s F-12 medium(D-MEM/F-12;SIGMA)を用いて行った。培地を除去したディッシュに上記の0.2 %Collagenase溶液を注入し、インキュベーター内で20分静置し、Standard mediumを加え、ピペッティングし細胞を回収した。回収した細胞は遠心分離(1500 rpm、4 ℃、5 min)を行い、洗浄を行った後、ディッシュに播種し再び培養した。ディッシュがコンフルエントに達した際に同様の継代操作を施行し、その操作を繰り返した。
【0064】
3-7. ヒト臍帯静脈血管内皮細胞の培養
正常ヒト臍帯静脈内皮細胞(Normal Human Umbilical Vein Endothelial Cells: HUVEC) (Lonza)の継代は、1×PBSで3回洗浄後、0.05 % Tripysin-EDTA(Gibco)を1 ml注入し、インキュベーター内で1分間静置し、Endothelial Cell Growth Medium SingleQuots Supplements and Growth Factors(EGM)(Lonza)を加えてピペッティングし細胞を回収した。回収した細胞は遠心分離(950 rpm、4 ℃、5 min)を行い、洗浄を行った後、ディッシュに播種し再び培養した。ディッシュがコンフルエントに達した際に同様の継代操作を施行し、その操作を繰り返した。
【0065】
3-8. レトロウイルスベクターによる蛍光標識
全ての遺伝子組み換え実験は、横浜市立大学DNA組み換え委員会の了承を得たうえで、P2レベル安全キャビネット内にて施行した。
【0066】
ウイルスベクターpGCDΔNsamEGFPおよびpGCDΔNsamKOの産出は以下の方法で行った。293GPG/pGCDΔNsamEGFP細胞および293GPG/pGCDΔNsamKO細胞を、poly-L-lysineでコーティングしたディッシュへ播種し、専用に調整した培地(293GPG mediumと示す)を用いて培養した。すなわち、DMEM (SIGMA)中へ10% fetal bovine serum(GIBCO、USA)、2 mmol/L L-glutamine (Gibco)、1penicillin/streptomycin(Gibco)、1 μg/mL Tetracycline hydrochloride(SIGMA T-7660)、2 μg/mL Puromycin(SIGMA P-7255)、0.3 mg/mL G418(SIGMA A-1720)を含むものを用いた。培養は37℃、10%CO
2のインキュベーター内で培養した。約80 %コンフルエント状態まで培養した後、培地を293GPG mediumからTetracycline hydrochloride、Puromycin、G418を抜いた培地(293GP mediumと示す)へ置換した(Day 0とする)。Day 3で培地を交換した後、Day4からウイルスを培地ごと回収し、再び293GP mediumで満たした。回収した培地を0.45μmフィルターでろ過し一時的に4℃で保管した。上記の手順でDay7まで回収したものを6000xg、4℃、16時間遠心し、ペレットへ400μL のStempro (invitrogen)を添加し、4℃、72時間振とう後、この-80℃で回収・保存した。(100倍濃縮ウイルス溶液と示す)。
【0067】
ヒト耳介軟骨膜細胞、HUVECの2種類の細胞を30〜50%コンフルエント状態になるまで培養し、それぞれの培地にProtamine (Sigma)を終濃度0.4μm/mLになるように加え、HUVECへはpGCDΔNsamEGFPおよびpGCDΔNsamKO、hMSCへはpGCDΔNsamKO、hFLCへはpGCDΔNsamEGFPの100倍濃縮ウイルスを添加した。37℃、5%CO
2のインキュベーター内で4時間感染させ、PBSで2回洗浄後、培地を新鮮なものに交換し、再び37℃、5%CO
2インキュベーター内で培養した。この操作を4回繰り返し、FACS CANTOを用いて各細胞へのウイルスベクター導入効率を算出した。
【0068】
3-9. 増殖能の比較
軟骨膜細胞を4.0×10
4 cells/cm
2の密度で播種し,増殖培地で培養を行った。24時間後に、軟骨膜細胞、HUVECそれぞれを4.0×10
4 cells/mlの密度で播種したCell Culture Inserts(BD Falcon)を挿入した。12日間培養後、培地にNuc Blue Live Cell Stain(Molecular Probes)一滴添加した。インキュベーター内で10分静置後、IN Cell analyzer2000(GE)で細胞数を測定した。なお、本検討においては、増殖培地としてStandard medium ( 10 %Fetal Bovine Serum(FBS;GIBCO)、1 %Antibiotic Antimycotic Solution(SIGMA)を添加したDULBECCO’S MODIFIED EAGLE’S MEDIUM NUTRIENT MIXTURE F-12 HAM(D-MEM/F-12;SIGMA))を用いて培養を行った。
【0069】
3-10. FACSを用いた細胞表面抗原の解析
軟骨膜細胞を1.0×10
5 cells/mlの密度で播種し,増殖培地で培養を行った。24時間後に、軟骨膜細胞、血管内皮細胞それぞれを7.5×10
4 cells/mlの密度で播種したCell Culture Insert(BD)を挿入した。3日間培養後、培地を除去したディッシュに上記の0.2 %Collagenase溶液を注入し、インキュベーター内で20分静置し、Standard mediumを加え、ピペッティングし細胞を回収した。
【0070】
各細胞毎にFluorescein isothiocyanate (FITC)、 Phycoerythrin(PE) 、 Allophycocyanin(APC)抱合モノクローナル抗体を用い、氷上で30分間染色した。3度の洗浄後、 1 μg/mlのpropidium iodide(PI) を含むPBSに懸濁し、 FACSによる解析を行った。解析にはMoFlo cell sorter (DakoCytomation)を用いた。軟骨膜細胞に対し、fluorescent-conjugated mouse anti-human CD44(BD science)、CD90(BD science)を用いてソーティングを行った。ソーティングに際し、細胞の残骸、死細胞やダブレットは前方散乱光、側方散乱光、PIによって除去した。
【0071】
3-11. 従来法による軟骨再構築
耳介軟骨膜細胞を用いて積層化培養によって軟骨細胞へ分化誘導を行った。軟骨膜細胞を2.5×10
4 cells/cm
2に調整し細胞培養ディッシュ(FALCON)に播種した。播種後2日間、Standard mediumで培養し、細胞の接着を促した後、軟骨分化誘導培地を用いて5日間培養した。軟骨分化誘導培地は10 %FBS(GIBCO)、1 % Antibiotic Antimycotic Solution、L-ascorbic acid 2-phosphate(WAKO)、Dexamethasone(SIGMA)、Insulin Growth Factor-I(SIGMA)、basic Fibroblast Growth Factor(科研製薬)を含有するD-MEM/F-12 medium(SIGMA)である。軟骨分化誘導培地を用い7日間培養を行った後、別に用意した細胞を5×10
4 cells/cm
2に調整し、上から播種し積層化した。2層目を播種後、1層目と同様に2日間はStandard mediumで培養を行い、その後軟骨分化誘導培地を用いて5日間培養を行った。この操作をもう一度繰り返し、計3層に重層化した。なお、細胞の培養はすべて、気相条件を37℃、CO
2濃度5%に設定したインキュベーター内で行った。分化させた各細胞は、セルスクレイパー(IWAKI)を用いて剥離した。クラニアルウインドウ内に移植し、共焦点顕微鏡を用い観察を行った。
【0072】
3-12. 三次元組織化の誘導
24-well plateに150 μmのEGMとMatrigelをそれぞれ添加し、インキュベーター内で30分静置した。1.0×10
5 cells/mlの軟骨膜細胞、HUVECの各細胞懸濁液を混合し、遠心分離(950 rpm、4 ℃、5 min)を行い、回収した細胞を少量の増殖培地でウェルに播種した。5〜20分静置後、Endothelial Cell Growth Medium SingleQuots Supplements and Growth Factors(EGM)よりEGF添加を行わない培地(EGM-ΔEGF)(lonza)を1 ml添加し、1日毎にEGMを交換し、3日間培養した。なお、10 %Fetal Bovine Serum(FBS;GIBCO)、1 %Antibiotic Antimycotic Solution(SIGMA)を添加したDULBECCO’S MODIFIED EAGLE’S MEDIUM NUTRIENT MIXTURE F-12 HAM(D-MEM/F-12;SIGMA))を用いて培養を行った。
誘導した三次元組織をクラニアルウインドウ内に移植し、肉眼および共焦点顕微鏡によるライブイメージングを実施するとともに、移植15、30、60日後に摘出し、組織化学染色を行った。
【0073】
移植片への血液灌流を阻害するために、作成されたクラニアルウインドウマウスの脳の上にナノメッシュ(pore size = 0.45 μm)を敷き、細胞を移植した。
【0074】
3-14. アルシアンブルー陽性領域の定量
Alcian Blue染色した組織切片を、HSオールインワン蛍光顕微鏡(KEYENCE)により組織全体像の画像を取得し、Image J (http://rsb.info.nih.gov/ij/)により、陽性領域を定量した
42。
【0075】
3-15. 統計解析について
データは、少なくとも3人以上の独立した検体による実験から得たmean±s.d.を表記した。統計学的解析には、まず3あるいは4群のデータに対しKruskal Wallis-H testを行い、P<0.01と判定された場合に、 Mann-Whitney’s U test with Bonferroni correctionによる多重比較検定を行った。有意確率P値がP<0.001またはP<0.01を満たす場合を統計学的有意差ありと判定した。
【0076】
4. 結果
4-1. 軟骨形成プロセスの追尾定点観察
E17.5のEGFP遺伝子改変マウスの耳介軟骨をクラニアルウインドウ内に移植し、共焦点顕微鏡を用いたライブイメージングを行うことで、軟骨前駆細胞が成熟軟骨細胞に分化するまでの追尾観察を行った。肉眼観察で、移植後1、2目に、移植片の血管とホストマウスの血管の吻合が起き始めていることを確認できた。しかし、移植後5日目以降は、完全に血管が吻合していることが確認された。移植後5日目から血管が徐々に退行していき、移植後11日目には、ほぼ完全に血管が移植片から退行していた(
図2A)。tetramethylrhodamine-conjugated dextranとAlexa647-conjugated mouse specific CD31 (mCD31) antibody を血管内に投与することでマウスの血管内皮細胞と血流を可視化したところ、移植後3日に、血流を有した血管が移植した耳介軟骨に侵入していることが確認できた。移植後7日には、一部の血管内皮細胞だけ残し、血管網は退行していた (
図2B)。 同時に、円形の形態をしている軟骨前駆細胞が、軟骨細胞と同様な敷石状の形態へと変化していた。移植後10日には、移植した耳介軟骨からは血管が完全に退行していた(
図2B)。移植後20日に、軟骨組織を包むように血管を有した軟骨膜組織を形成し、軟骨組織を構成する細胞は敷石状の形態を示した(
図2B)。先行研究により、成体のヒトとマウス両方の耳介の軟骨膜組織に、高い軟骨分化能を有している軟骨前駆細胞が存在していることを明らかになっている。移植後20日経過した移植した耳介軟骨は弾性軟骨を形成しているかを組織学的解析により確認したところ、Alcian Blue染色によってプロテオグリカンを産生する軟骨組織が形成され、弾性繊維を染色するElastica Van Gieson染色により、弾性軟骨が形成したことが示された(
図2C)。肉眼で、血管退行が起き始めている移植後5日目以降から、移植した発生初期の耳介軟骨が成長していくことが確認できた(
図2A)。
【0077】
4-2. 発生初期のマウス耳介軟骨における一過性血管侵入
血管内皮細胞を支持している基底膜の構成タンパク質であるラミニン、血管内皮細胞マーカーであるmCD31により、E18.5、P0、P2、P10、P30の発達段階の耳介軟骨をクリオスタットで凍結組織切片を作製し、免疫組織化学染色を行った。E18.5の段階で、ラミニン、mCD31を発現する細胞が軟骨形成予定部位に存在していた。P0では、E18.5と比較して血管が多く存在し、P2で最も多くの血管を確認できた。一方で、P10では、血管をわずかに観察することができたが、P30では全く観察することは出来なかった(
図3A)。P0、P2、P10、P30の段階での、ラミニン、mCD31を発現する血管と軟骨前駆細胞との距離を測定したところ、P2で最も短い距離(17.8 μm)を計測した (
図3B)。
【0078】
4-3. 従来の軟骨再構築法における一過性血管侵入
軟骨再構築過程においても血管の侵入が起きているかを検証した。成長因子を添加した分化培地を用い、重層化させることにより、軟骨前駆細胞に軟骨分化誘導を行った。培養上清が粘性を帯びたときに、セルスクレイパーを用いて細胞を回収し、ペレット化することで、クラニアルウインドウに移植した(
図4A)。fluorescent-conjugated dextranを血管内に投与することで血流を可視化したところ、10日後に移植したペレットに血管が侵入していき、移植30日後まで血管は侵入したままであった。60日後になると、移植したペレットから血管は完全に退行した(
図4B) 。軟骨前駆細胞が成熟軟骨細胞へ分化したかを、組織学的解析により確認したところ、血管が侵入していた移植後10日ではAlcian Blue染色で染色されることはなかったが、移植後30日ではわずかに青色を呈していた。血管の完全に退行している移植後60日後には、濃い青色に染色されており、プロテオグリカンを産生する成熟軟骨細胞へと分化していることが確認できた。
【0079】
4-4. 血管内皮細胞による軟骨前駆細胞の増殖能への影響
血管が侵入する発生初期の耳介軟骨において、細胞が増殖しているかを検討した。血管が侵入していたP0、P2と、完全に血管が退行していたP30の耳介軟骨を用いて、Ki67とCD44により免疫組織化学染色を行った。増殖中の軟骨前駆細胞を、軟骨前駆細胞の特異的マーカーとして我々が報告しているCD44
43と細胞増殖マーカーであるki67により観察した。血管が侵入していた段階であるP0、P2において、Ki67陽性細胞を観察することができ、最も血管の侵入していたP2の段階で最もKi67陽性細胞を確認できた。血管の退行しているP30では、Ki67陽性細胞は観察できなかった(
図5)。次に、軟骨前駆細胞を低密度で播種し、Transwell assayによりヒト臍帯静脈内皮細胞(Normal Human Umbilical Vascular Endothelial Cells: HUVEC)と共培養することで、血管内皮細胞による軟骨前駆細胞の増殖能への影響を評価した。コントロールとして、間葉系幹細胞、繊維芽細胞や軟骨細胞と共培養を行った。共培養を始めて12日後、HUVECと共培養したものは細胞が密な状態に成り、ほぼコンフルエントになった。In cell analyzerにより細胞数を定量したところ、軟骨前駆細胞のみでは約2500 cells/cm
2であったのに対して、HUVECと共培養を行った軟骨前駆細胞では約4000 cells/cm
2であった。また、間葉系幹細胞、繊維芽細胞や軟骨細胞と共培養を行ったが、軟骨前駆細胞の増殖能への影響は見られなかった(
図6A)。次に、フローサイトメトリーを用いて、共培養することによる細胞の表面抗原の変化を解析した。先行研究により、CD44+ CD90+細胞がヒト軟骨前駆細胞であると同定している。内皮細胞と共培養して12日後、コントロールである軟骨前駆細胞のみでは、CD44+ CD90+細胞は全体の0.79 %であったのに対して、HUVECと共培養することでCD44+ CD90+細胞は、12.44 %へと増加した (
図6B)。
【0080】
4-5. 血管内皮細胞との共培養による軟骨前駆細胞の三次元組織化
軟骨前駆細胞と内皮細胞との相互作用を再現することによる、足場材料や成長因子を使わない三次元培養系を開発した。ヒト軟骨前駆細胞とHUVECをマトリゲル上で共培養すると、播種後12時間で細胞が少しずつ凝集していき、48時間後には直径約3 mmの三次元構造を自律的に形成した(
図7A)。この三次元組織は、一定の力学強度を有しており、形状を崩すことなく、薬さじで掬い上げることでマウスのクラニアルウインドウ内に移植することが出来た。肉眼で、E17.5のマウスの未成熟な耳介軟骨を移植した時と同様に、移植後3日に、移植片への血流が再開し始めた。移植後10日後には、完全にHUVECとマウスの血管が吻合することで、移植片内に血管網が構築されていることが確認でき、一過性血管侵入を再現することが出来た(
図7B)。血管侵入している部位を追尾観察していくと、移植後30日では、血管網が完全に無くなり、軟骨前駆細胞は、軟骨細胞と同様な敷石状の形態に変化したことから、軟骨前駆細胞は、成熟軟骨細胞へ分化したと考えられる。ライブイメージング解析でも同様に、移植後3日にはHUVECが血管網を構築し、移植後30日には完全に退行することが確認できた。移植した三次元組織が軟骨組織を形成したかを、組織学的解析により確認したところ、血管が侵入していた移植後3日ではAlcian Blue染色により染色されることはなかったが、移植後15日では一部分が青く染色された。血管の完全に退行した移植後30日後には、一部が濃い青色に染色されており、移植後60日後には、移植した三次元組織の大部分がAlcian Blueにより濃青色に染色された(
図7C)。このことから、軟骨前駆細胞とHUVECを共培養することで構築した三次元組織が、プロテオグリカンを産生する軟骨組織を形成したことが確認できた。また、移植後30日の段階で、サフラニンO染色でも軟骨が再構築していること確認でき、Elastica Van Gieson染色により形成した軟骨は弾性軟骨であることが確認できた。免疫組織化学染色により、再構築した軟骨は、アグリカン陽性である軟骨組織を包み込むように、I型コラーゲン陽性である軟骨膜組織を有していることが示された 。また、hCD31の免疫組織化学染色により、再構築した軟骨膜組織に血管内皮細胞が存在していることが示された(
図7D)。
【0081】
同様の三次元培養系を用いて、脱分化している軟骨細胞とヒト臍帯静脈内皮細胞を共培養した。軟骨前駆細胞を用いたときと同様に、Alcian Blue染色とElastica Van Gieson染色により、弾性軟骨を再構築したことが確認できた (
図7E)。
【0082】
4-6. 血流阻害移植モデルを用いた軟骨形成の阻害
軟骨が成熟することに、マウス由来の血管と血液灌流が必須であるか明らかにするために、0.45 μmのポアサイズのナノメッシュを軟骨前駆細胞とHUVECを共培養することで構築した三次元組織と脳の間に挟み、マウスの血流が移植片に作用しない、血流阻害移植モデルを確立した(
図8A)。移植後15日においても、移植した三次元組織の周囲に血流がないことが確認できた(
図8B)。ライブイメージングにより、移植後3日には多くのHUVECが存在しているが、移植後7日目にはHUVECは減衰していき、移植後10日目にはほとんどのHUVECが死滅していた。また、HUVECの減衰に伴い、移植後11日には軟骨前駆細胞自体も死滅していた(
図8C)。血液灌流を阻害することで、軟骨前駆細胞は、生着しないことが示された。また、免疫組織化学染色により、移植15日後の血液灌流を阻害した移植した三次元組織では、軟骨の基質であるII型コラーゲンが陰性であり、アポトーシス過程における中心的酵素であるcaspase3が陽性であることが確認できた(
図8D)。一方で、血液灌流を阻害していない場合は、caspase3陽性の細胞は検出されず、II型コラーゲン陽性である軟骨組織を形成した。
【0083】
4-7. 従来法との弾性軟骨再構築能の比較
従来法であるペレット移植法
44と、軟骨前駆細胞とHUVECを共培養することで構築した三次元組織との軟骨再構築の効率を比較するために、同一のクラニアルウインドウマウスの左脳に軟骨前駆細胞とHUVECを共培養することで構築した三次元組織、右脳にペレットを移植した(
図9A)。アルシアンブルー染色により、移植後10日で、ペレットは青色に染色されなかったが、共培養することで形成した三次元組織は青色に染色された。このことから、HUVECと共培養することで、プロテオグリカンを産生する成熟軟骨細胞へと軟骨前駆細胞を高効率に分化させることが示唆された。移植後30日になると、共培養することで構築した三次元組織は、プロテオグリカンを多く産生している軟骨組織を形成していることがわかった。移植後60日には、共培養することで構築した三次元組織の大部分がAlcian Blue染色により濃く青色に染色されたため、終末分化した成熟軟骨組織を形成したことが確認できた。対照的に、従来法では移植したペレットに対して一部分でしか、プロテオグリカンを産生する軟骨組織を形成しなかった(
図9A)。このことは、HUVECと共培養した軟骨前駆細胞の方がより効率的に軟骨を再構築していることを示している。 アルシアンブルー陽性領域を定量化するために、青色に染色されている部位をimage Jより抽出して、面積を測定した(
図9B) 。軟骨前駆細胞とHUVECを共培養することで構築した三次元組織では、アルシアンブルー陽性領域は、移植後10日で約100,000 μm
2、移植後30日で約130,000 μm
2、移植後60日では約250,000 μm
2であった。一方で、従来法であるペレット移植法では、移植後10日で約35,000 μm
2、移植後30日で約20,000 μm
2、移植後60日では約80,000 μm
2の面積の軟骨組織を形成した。比較すると、共培養することで構築した三次元組織では、移植後10日で2.85倍、移植後30日で6.5倍、移植後60日では3.27倍の面積の軟骨組織を形成したことが示された(
図9C)。
【0084】
5. 考察
軟骨組織は、軟骨細胞とそれを取り囲む細胞外基質からなる支持器官である。結合組織や骨組織といった他の支持組織と異なり、軟骨組織の細胞間質内には血管、リンパ管、神経などが存在しない
45,46。そのため、複雑な高次構造を有する固形臓器などと比較して、再生医療の早期実現化が期待される領域である
47,48。本研究では、軟骨形成プロセスをライブイメージングにより追尾観察することで、軟骨前駆細胞の分化段階において、従来不要と考えられていた血管が一過性に侵入することを見出した。移植した発生初期の耳介軟骨が、血管が侵入した直後に膨化したことから、軟骨前駆細胞が急激に増殖していると考えられる。血管が侵入する時期の耳介軟骨において、間葉系幹細胞の特異的マーカーとして報告されているCD44を発現している細胞を観察でき、その中の一部の細胞がKi67陽性を示した。そこで、軟骨前駆細胞と血管内皮細胞を共培養したところ、軟骨前駆細胞であるCD44+ CD90+細胞が増殖亢進していることが明らかになった。
【0085】
血管は酸素や栄養を供給し、老廃物を取り除くだけではなく、高次構造の構築に重要な役割を担っていることが明らかにされてきた
49-52。例えば、肝臓における血管内皮細胞と肝細胞の相互作用についてはこれまでに、VEGFR2(Vascular Endothelial Growth Factor Receptor-2)ノックアウトマウスでは、血管新生の未形成により肝臓の形態形成が阻害されることがわかっている。しかし、軟骨組織のような血管の存在しない組織が発達するときの血管内皮細胞との相互作用については、全く未解明である。血管内皮細胞は発生が進むにつれて退行していくが、成長因子を用いずに軟骨前駆細胞に備わっている軟骨分化能を活性化させることが示唆された。成長因子は、臨床で使用する際には、高コストであることや安全性の面で問題が残っている。そのため、血管内皮細胞と共培養させることで、成長因子を使わずに軟骨前駆細胞から軟骨組織を構築することが出来る本技術は、臨床応用に向けた有益な技術になる可能性を示している。
【0086】
臨床応用に際して移植/再構築組織の形態の制御に関しても問題となっている。従来の組織工学的な手法によりヒト軟骨組織を作製するためには、スキャフォールドが必要と考えられてきた。スキャフォールドの多くは生物材料、合成高分子などで構成されている。しかし、臨床応用に耐え得るヒト軟骨組織の作製のためのスキャフォールドはまだ開発されていない。また、軟骨分化誘導した軟骨細胞をゲル状の基質を含めて直接皮下に注入する方法や、それらを一旦腹部皮下に移植し再構築された軟骨様組織を二期的に移植する方法などが開発されているが、いずれも再生軟骨を安定的に得られることは出来ない。本研究において、血管内皮細胞と共培養することで、足場材料を用いることなく、軟骨前駆細胞はin vitroで自律的に三次元組織を誘導が可能であることを示した。この三次元組織は、力学的強度を有しており、形状を崩すことなく移植できるため、移植時に形状の制御が容易になると考えられる。
【0087】
間葉系前駆細胞から軟骨分化誘導を行う従来研究の多くは、生着率が低いなどの理由から、極めて効率が悪く、移植細胞数に対し終末分化した軟骨細胞は10-20 %程度しか得られない。本研究で確立した弾性軟骨創出法は、終末分化誘導効率が大幅に上昇することから、従来法と比較して大型の弾性軟骨を効率的に再構築することが可能となるものと期待される。耳介軟骨のような複雑な形態を有する大型の弾性軟骨を再構築することが必要であり、現在、ヒト軟骨前駆細胞と血管内皮細胞を相互作用させることで構築した三次元組織を、マウスの皮下に大量に移植することで大型の弾性軟骨を創出できないか検証している。
【0088】
本研究で開発したヒト弾性軟骨創出法を臨床応用するためには、自己の軟骨に加えて、Human Leukocyte Antigen:HLAの適合する血管内皮細胞を安定して供給できるシステムを構築する必要がある。HLAとは、ヒトの免疫に関わる重要な分子として働いている。自分と異なるHLA型の人から細胞や臓器の移植を受けた場合、免疫拒絶反応が起こるため、HLA型をできるだけ合わせる必要がある。そのために、臍帯から血管内皮細胞を採取培養し保存する血管内皮細胞バンクを設立することが必要となる。臍帯はこれまで破棄されてきた生物資源であるが、臍帯血と同様に保存することが実現することで、血管内皮細胞を安定して供給すること出来ると考えられる。患者のHLA型と一致した血管内皮細胞と低侵襲で採取培養した軟骨前駆細胞と共培養させ、三次元組織化を誘導し移植することで、頭蓋・顎・顔面領域の先天奇形や外傷に起因する組織変形の新たな治療法を提供できると考えられる。
【0089】
将来的には、in vitroで三次元的に軟骨組織を再構築することが望まれている。近年、注目されている三次元培養法としてはRotating Wall Vessel ( RWV ) bioreactorという回転する培養器を用いることで微小重力環境を摸倣する培養法が挙げられる。先行研究において、RWVを用い、ヒト耳介軟骨膜細胞と小型の新規スキャフォールドを組み合わせ、軟骨様組織を再構築した
53。しかし、軟骨様組織の強度の面に関して問題の残る結果となった。そこで、軟骨形成プロセスで生じる血管化を再現するという独自のアプローチとRWVを組み合わせることにより、従来の培養技術では達成が困難であったin vitroでの終末軟骨分化誘導が期待される。
【0090】
耳介軟骨膜に存在する軟骨前駆細胞は、異種軟骨組織である硝子軟骨への分化能を有し、それらを移植することで関節軟骨組織を再構築できることを明らかにしている(未発表データ)。本技術は、一過性血管侵入を再現することで軟骨を効率的に創出するため、関節軟骨欠損の再生治療における移植後の軟骨再構築する効率が悪いという問題を解決することが可能である。関節軟骨は損傷を受けると、軟骨組織は治癒能を有さないことから関節炎や変形性膝関節症などの二次変性疾患へと進行する。日本だけでも膝変形性関節症の患者数は2530万人いると試算もあり、治療対象となる患者数は相当数に及ぶ。低侵襲で採取できる軟骨膜に存在する軟骨前駆細胞を血管内皮細胞と共培養させ、三次元組織化を誘導し移植することで、莫大なニーズのある関節軟骨欠損に対する新たな治療法になると期待される。
【0091】
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【0092】
〔実施例2〕固さの異なるゲル上での培養
実施例1で採取、継代した軟骨膜細胞 3x10
6 cellsと血管内皮細胞 1x10
6 cellsを、実施例1と同じ培養条件で、硬さ条件:0.5kPaのゲル(細胞培養用ハイドロゲル 評価用サンプルプレート(VERITAS))上で培養した。初日、培養1日目、2日目の三次元組織形成の状態を
図10に示す。
【0093】
細胞培養用ハイドロゲル 評価用サンプルプレート(VERITAS)を用いて、0.2kPaから50kPaまでの様々な硬さ条件において、細胞を播種した。その結果を
図11に示す。なお、通常の培養皿としては、10cmイージーグリップ細胞培養ディッシュ(FALCON)を用いた。
【0094】
硬さ条件0.5〜25kPaのプレートを用いた場合において、軟骨膜細胞は移植操作に耐え得る三次元組織を良好に形成した。通常の培養皿を用いた場合は、三次元組織を形成しなかった。
【0095】
〔実施例3〕底面に細胞が集まるような形状のプレート上での培養
軟骨膜細胞 3x10
4 cellsと血管内皮細胞 1x10
4 cellsを、U底形状を有するPrimeSurface 96well細胞培養用培養基材(住友ベークライト)で培養した(
図12A)。三次元組織の培養には、軟骨分化誘導培地を用いた。(10 %FBS(GIBCO)、1 % Antibiotic Antimycotic Solution、L-ascorbic acid 2-phosphate(WAKO)、Dexamethasone(SIGMA)、Insulin Growth Factor-I(SIGMA)、basic Fibroblast Growth Factor(科研製薬)を含有するD-MEM/F-12 medium(SIGMA))初日、培養2日目の三次元組織形成の状態を
図12Bに示す。播種された軟骨膜細胞は自律的に凝集を開始し、翌日には400μm程度の球状の三次元組織を形成した。これらはピペット操作などで容易に、形状を保ったまま回収が可能であった。
【0096】
〔実施例4〕皮下への大量移植
実施例1と同様の方法で、軟骨膜細胞 3x10
6 cellsと血管内皮細胞 1x10
6 cellsを、Matrigel(BD)上で共培養することにより形成された4mm大の三次元組織100個を薬匙により回収し、NOD SCIDマウス(三協ラボ)の皮下へ移植を行った。その状態を
図13に示す。
図13のAは皮下に大量に三次元組織を配置した状態を示し、
図13のBは薬匙によって回収を行っている30個程度の三次元組織を示す。
【0097】
〔実施例5〕関節軟骨欠損部への移植
実施例3と同様の方法で、軟骨膜細胞 3x10
4 cellsと血管内皮細胞 1x10
4 cellsから形成された400μm大の三次元組織600個を、免疫不全ラット(日本クレア)の関節軟骨表面に作成した3mm大の軟骨欠損部位に移植を行った。その状態を
図14に示す。
図14のAは関節欠損部位に大量に回収した400μm程度の三次元組織をピペットにより移植操作を行っている状態を示す。
図14のBは移植直後の関節欠損部位を示す。移植後20分程度静置し、三次元組織が流れ出ない状態になった後、閉創を行った。
【0098】
〔実施例6〕血管内皮細胞との共培養により、軟骨形成細胞は分化マーカーの発現を増強する
10cmイージーグリップ細胞培養ディッシュ(FALCON)で培養を行った軟骨形成細胞と、ゲル上で血管内皮細胞と共培養を行った軟骨形成細胞の遺伝子発現を、Realtime PCRにより解析を行った。血管内皮細胞との共培養により、未(脱)分化マーカーであるCollagen I遺伝子の発現が減弱し(
図15、左)、軟骨分化マーカーであるSOX9とAggrecanの発現が増強した(
図15、右)。
【0099】
〔実施例7〕in vitro長期培養
軟骨膜細胞 3x10
6 cellsと血管内皮細胞 1x10
6 cellsを、Matrigel(BD)上でEndothelial Cell Growth Medium SingleQuots Supplements and Growth Factors(EGM)(lonza)で2日間共培養を行うことにより4mm大の三次元組織が形成され、血管構造の形成を認めた。さらにその後、増殖培地( 10 %Fetal Bovine Serum(FBS;GIBCO)、1 %Antibiotic Antimycotic Solution(SIGMA)を添加したDULBECCO’S MODIFIED EAGLE’S MEDIUM NUTRIENT MIXTURE F-12 HAM(D-MEM/F-12;SIGMA))、または、軟骨分化誘導培地(10 %FBS(GIBCO)、1 % Antibiotic Antimycotic Solution、L-ascorbic acid 2-phosphate(WAKO)、Dexamethasone(SIGMA)、Insulin Growth Factor-I(SIGMA)、basic Fibroblast Growth Factor(科研製薬)を含有するD-MEM/F-12 medium(SIGMA))で10日程度培養を行うことで、血管構造が消失することが確認された。これらは30日以上の長期にわたって培養を行うことが可能であった。
【0100】
〔実施例8〕
10%DMSO、5% ethylene glycol、10% sucrose含有増殖培地によるガラス化法による急速凍結法、および、TCプロテクター(大日本住友製薬株式会社)を用いることによる緩慢凍結法、による3次元組織の凍結実験を実施した。
【0101】
凍結1週間後に増殖培地により融解を行ったのち、0.2 %Collagenase typeII(Worthington)を含有するDulbecco’s modified Eagle medium and Ham’s F-12 medium(D-MEM/F-12;SIGMA)溶液に懸濁し、インキュベーター内で20分静置し、ピペッティングにより細胞の単細胞化を行った。単離された細胞懸濁液をトリパンブルー染色により染色を行った。自動セルカウンター「Countess
TM」(Invitrogen
TM)により、トリパンブルー染色陰性の生存細胞の数を計測したところ、DMSOを用いる方法では、74%の細胞が生存していたのに対し、TCプロテクターを用いる方法では、88%の細胞が生存していた。細胞は再度培養皿へと播種することにより、良好な増殖性を保っていた。さらに、融解された組織は形状を維持したまま、NOD SCIDマウス(三協ラボ)背部皮下への移植実験に用いることが可能であった。
【0102】
〔実施例9〕支持体の検討(
図16)
方法
24-well plateに次の複数種類の支持体をゲル化し、固着した。
1.Matrigel原液〜希釈率(16倍希釈まで)。
2.4〜0.5%アガロースゲル。
3.I型コラーゲンゲル(BD Bioscience)。
上記に示す様々な支持体上に、2.0×10
6cellsの軟骨膜細胞,0.6×10
6cellsのHUVECの各細胞懸濁液を混合し,遠心分離(950 rpm、4 ℃、5 min)ののちに,回収した細胞をウェルに播種した。30分静置後,EGMを1 ml添加し,3日間培養した。
【0103】
結果
血管化軟骨作製に用いる支持体条件の検討結果を
図16に示す。
A) マトリゲルの希釈率を検討した結果、8倍希釈まで血管化軟骨を作製することが可能であった。
B) アガロースゲルを用いた条件ではいずれの場合においても血管化軟骨の形成を認めなかった。
C) I型コラーゲンを用いた場合においても血管化軟骨の形成を認めなかった。
【0104】
〔実施例10〕凍結保存を行った血管化軟骨移植によるヒト成熟軟骨の創出(
図17)
方法
・血管化軟骨の凍結(
図17A)
TC protectorを凍結用tubeに分注(200〜1000ul/tube)した。その後、24-well plateで誘導した三次元組織を浸漬し、4℃にて数時間からover nightしたのちに、-80℃にて緩慢凍結を行った。
なお、急速凍結(ガラス化)法を用いる場合には、10% DMSO, 5% ethylene glycol, 及び 10% sucrose 添加した組織をEGM培地に15〜20分浸したのちに、2M DMSO, 1 M acetamide, 3M propylene glycol添加を行ったDMEM/F12(bFGF, IGF, Dex, Ascorbic Acid, ITS-X, 10%FBS, 1%ABAM)培地(200 ul/tube)に移した。その後直ちに液体窒素に浸し、液体窒素タンクにて保存を行った。
・血管化軟骨の融解(
図17B)
【0105】
凍結された組織を、-80℃から37℃ water bathに移し、融解したのち、15 ml遠心管に移した。4℃, 750rpm, 3min. で遠心ののち、上清をピペットマンなどで除去した。(アスピレーターは組織を吸ってしまうので、使用しなかった。)PBS wash(5 ml/tube)ののち、4℃,1500rpm,5 minで再度遠心を行い、上清の除去(ピペットマンなどで)を行い、その後、移植、ないし培養実験に用いた。
・融解を行ったヒト血管化軟骨の皮下移植(
図17C)
【0106】
6週齢で雌のNOD/SCID(免疫不全)マウスを、三協ラボサービス株式会社より購入した。購入したマウスは、横浜市立大学 先端医科学研究センター 共同研究支援部門動物実験センター内において飼育・維持され、これらを用いた動物実験に関しては、横浜市立大学福浦キャンパス動物実験指針に則って行った。免疫不全マウスを剃毛の後に、背部皮下ないし、顔面部皮下を切開・剥離し,回収した組織を埋入し,移植を実施した。
摘出した組織を、4 %パラホルムアルデヒド(PFA)(Wako)/リン酸緩衝食塩液(PBS)(pH7.4)で4 ℃、2時間固定した。次に、100 mM塩化アンモニウム(Wako)/PBSで4 ℃、10分間、3回洗浄した。そして、15 %スクロース(Wako)/PBSに4 ℃、1 時間浸した後,30%スクロース/PBSで4 ℃、over nightで静置した。O.C.T. Compound(SAKURA Japan)(30 ml)に組織を包埋した。4 ℃、1 時間静置した後、液体窒素で急速凍結し、凍結ブロックを作製した。凍結ブロックをクリオスタットHM 500 O(ZEISS)で5 μmの厚さに薄切し、凍結組織切片を作製した。作製した組織切片は、Alcian Blue染色(武藤化学薬品)、Elastica Van Gieson染色(武藤化学薬品)を行った。
【0107】
蛍光免疫染色に関しては、凍結ブロックをクリオスタットHM 500 O(ZEISS)で5 μmの厚さに薄切し、凍結組織切片を作製した。作製した組織切片を0.1%tween-TBSで洗浄してOCT Compoundを除去後、凍結切片周囲のTBS-Tを拭き取り、染色対象を撥水ペン(DAKO)で囲むように書き、撥水処理を施した。次に、protein block Serum-Free Ready-to-use(Dako)を用い、4 ℃で24時間ブロッキングを行った。一次抗体は4℃で一晩反応させた。処理後、TBS-Tで5分間3回洗浄し、二次抗体を滴下し、室温で2時間反応させた。TBS-Tで5分間3回洗浄し、DAPIを添加したFA Mounting Fluid(Becton Dickinson)にて核染色および封入を行った。一次抗体および二次抗体の希釈には、protein block Serum-Free Ready-to-use(Dako)を用いた。
【0108】
結果
血管化軟骨の凍結工程の様子を
図17Aに示す。左;培養皿内で形成された組織、中;薬さじにて回収した様子、右;凍結用溶媒(TC Protector)に回収した組織を浸漬した凍結直前の様子。
図17Bは、凍結後、1か月後に融解を行ったヒト血管化軟骨の肉眼観察を示す。
図17Cは、融解を行ったヒト血管化軟骨の皮下移植サンプルの組織学的解析を示す。免疫不全マウス背部の皮下へ移植を行ったサンプルの組織学的解析の結果、移植を行ったヒト血管化軟骨は、アルシアンブルーおよびII型コラーゲン抗体によって染色される軟骨基質を含有する軟骨組織を再構築することが明らかとなった。
【0109】
〔実施例11〕血管化軟骨の長期培養(
図18、19)
方法
24-well plateに150 μmのEGMとMatrigelをそれぞれ添加し, インキュベーター内で30分静置した。2.0×10
6cellsの軟骨膜細胞, 0.6×10
6cellsのHUVECの各細胞懸濁液を混合し,遠心分離(950 rpm、4 ℃、5 min)を行い,回収した細胞をウェルに播種した。30分静置後, EGMを1 ml添加し, 3日間培養した。誘導した三次元組織を培養ベッセルに播種し,三次元培養用軟骨分化培地(DMEM/F12, Dexamethasone, ascorbic acid 2-phosphate, bFGF, IGF-1, ITS-X, 1% Antibiotic Antimycotic Solution)により,気相条件を37 ℃,CO
2濃度5 %に設定したインキュベーター内でRWV bioreactor(Synthecon)により回転培養を行った。回転速度は 7〜12rpmに調整した。60日間の軟骨分化培養の後,5mm〜1cm大の大きさを有する細胞塊を回収し,ピンセット等で用手圧迫を行うことで力学的強度の確認を行った。強度が充分であることを確認のうえ,免疫不全マウスの頭部へと移植した。
【0110】
結果
図18は、長期培養血管化軟骨の組織学的解析を示す。作製した血管化軟骨を60日間にわたり長期培養することにより、血管を含む軟骨膜組織と血管が排除された軟骨組織の形成を認めた。左上;形成された組織の肉眼像、右上;免疫染色により中心部は軟骨マーカーであるAggrecanを発現し、周囲にはLamininが存在することを示す。下段左;免疫染色拡大図、下段中;HE染色、下段右;アルシアンブルー染色。誘導を行った三次元組織はピンセットで用手圧迫を行っても、組織が破壊されない高い力学的強度を有していた。
【0111】
図19は、長期培養を行った血管化軟骨由来成熟軟骨の移植を示す。長期培養血管化軟骨(上段左図の左下の小窓に示す)は顔面部の移植により、皮下の緊張に耐えうる力学的強度を有した軟骨組織であった。上段と下段の写真は、角度を変えて盛り上がっている部分の見え方を確認したものである。
【0112】
本明細書で引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。