(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、塩素は水溶性塩の成分(塩化ナトリウムなど)や、塩素ガス、残留塩素、有機塩素化合物などの形態で地球上に存在する。このうち、木材や土壌に含まれる塩素の主な形態は水溶性塩の成分である。そこで、木材や土壌に含まれる塩素量を把握するには、測定対象となる塩素が、水溶性塩の成分、すなわち水溶液中で塩化物イオンとして存在するものであれば十分である。
【0011】
水溶液中の塩化物イオンの分析方法としては、硝酸銀滴定法、チオシアン酸水銀(II)吸光光度法、イオン電極法、イオンクロマトグラフ法などが挙げられる(例えば、特許文献1、非特許文献3〜4参照)。このうち、硝酸銀滴定法は滴定操作に時間を要する結果、分析時間が長くなり、また、使用する硝酸銀が高価であるという問題点がある。チオシアン酸水銀(II)吸光光度法は、有害な水銀を含む試薬を用いるため、現場での分析には適さない。イオン電極法は小型の装置に適しているが、指針値に適合するか否かを判断するには感度が不足する(>5mg/L)。イオンクロマトグラフ法は、高感度であるもの、装置が大型であるため、現場での分析には適さない。
【0012】
また、鋼構造物などの表面に付着する塩分を測定する分析計が提案されており(例えば、特許文献2参照)、市販もされている。この分析計は、水溶液の電気伝導度を測定するものであるが、塩化物イオンに特異的ではないため、木材や土壌の塩素濃度の指針値と比較することは困難である。
【0013】
上述から明らかなように、現在、広く採用されている塩化物イオンの分析方法の中で、木材や土壌中の塩素を分析するのに際して、現場で使用可能な小型の装置に適用でき、安価であって、短時間に塩化物イオンを分析することが可能であり、かつ指針値に対して十分な感度を有している、という全ての条件を満たすものがない。
【0014】
そこで、本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、現場で使用可能な小型の装置に適用でき、安価であって、短時間に塩化物イオンを定量することが可能であり、かつ指針値に対して十分な感度を有している塩化物イオンの定量方法及び塩化物イオンの定量装置、並びに、塩素の定量方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、塩化物イオンを直接定量するのではなく、他のイオンに変換した後に当該他のイオンを含む水溶液の吸光度を測定することによって、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
すなわち、本発明は、下記のとおりである。
[1]塩化物イオンを含む水溶液中の塩化物イオンの濃度を求める塩化物イオンの定量方法であって、前記水溶液を電気分解することにより、前記水溶液中に次亜塩素酸イオンを発生させる工程と、次亜塩素酸イオンが発生した前記水溶液の吸光度をジエチル−p−フェニレンジアンモニウム吸光光度法により測定する工程と、前記吸光度から、前記塩化物イオンの濃度を求める工程と、を有する、塩化物イオンの定量方法。
[2]前記電気分解することに用いる電極が、導電性ダイヤモンド電極である、上記の定量方法。
[3]
前記測定する工程の前に、前記電気分解することに用いた電極に正電
解をかけ
て前記電極を処理する工程を更に有する、上記の定量方法。
[4]前記測定する工程の前に、前記電気分解することに用いた電極に逆電解をかけて前記電極を処理する工程を更に有する、上記の定量方法。
[
5]前記塩化物イオンを含む水溶液が、イオン強度調整剤を含む、上記の定量方法。
[
6]前記塩化物イオンを含む水溶液は、木材及び/又は土壌の溶出液である、上記の定量方法。
[
7]前記塩化物イオンを含む水溶液は、環境水である、上記の定量方法。
[
8]上記の定量方法によって求められた塩化物イオンの濃度から、木材及び/又は土壌に含まれる塩素の濃度を求める工程を有する、塩素の定量方法。
[
9]
上記の塩化物イオンの定量方法に用いる、塩化物イオンを含む水溶液の塩化物イオンの濃度を求める塩化物イオンの定量装置であって、前記水溶液を電気分解することにより、前記水溶液中に次亜塩素酸イオンを発生させる電気分解部と、次亜塩素酸イオンが発生した前記水溶液の吸光度をジエチル−p−フェニレンジアンモニウム吸光光度法により測定する計測部と、前記吸光度から、前記塩化物イオンの濃度を求める濃度演算部と、を備える、塩化物イオンの定量装置。
【発明の効果】
【0017】
本発明によると、現場で使用可能な小型の装置に適用でき、安価であって、短時間に塩化物イオンを定量することが可能であり、かつ指針値に対して十分な感度を有している塩化物イオンの定量方法及び塩化物イオンの定量装置、並びに、塩素の定量方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明は下記本実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。
【0020】
本実施形態の塩化物イオンの定量方法は、塩化物イオンを含む水溶液中の塩化物イオンの濃度を求める塩化物イオンの定量方法であって、塩化物イオンを含む水溶液を電気分解することにより、その水溶液中に次亜塩素酸イオンを発生させる工程(以下、「電気分解工程」ともいう。)と、次亜塩素酸イオンが発生した水溶液の吸光度をジエチル−p−フェニレンジアンモニウム(以下、「DPD」と表記する。)吸光光度法により測定する工程(以下、「吸光度測定工程」という。)と、その吸光度から、水溶液中の塩化物イオンの濃度を求める工程(以下、「Cl
-定量工程」という。)と、を有するものである。
【0021】
本実施形態の定量方法において測定対象となる塩化物イオンを含む水溶液(以下、単に「Cl
-含有液」と表記する。)は、特に限定されないが、例えば、木材及び/又は土壌の溶出液;塩化物イオンを含む雨水、河川水及び海水などの環境水、及び、その他の水道水や工業用水などの塩化物イオンを含む水溶液が挙げられる。また、Cl
-含有液に含まれる陽イオンも特に限定されず、例えば、ナトリウムイオン(Na
+)、カリウムイオン(K
+)、カルシウムイオン(Ca
2+)、マグネシウムイオン(Mg
2+)が挙げられる。Cl
-含有液は、陽イオンを1種又は2種以上含んでもよい。
【0022】
Cl
-含有液中に有機物や懸濁物質などの不純物が含まれる場合、吸着剤やフィルターを用いて、Cl
-含有液からそれらの不純物を事前に除去することが好ましい。吸着剤としては、特に限定されないが、塩素の含有量が少なく、不純物除去前後で水溶液中の塩化物イオンの濃度(以下、「塩化物イオン濃度」という。)の変化が小さい活性炭が好ましい。また、フィルターのメッシュサイズや寸法は、懸濁物質の粒径に合わせて適宜選択すればよい。
【0023】
木材及び/又は土壌の溶出液は、木材及び/又は土壌中の塩素をより十分に溶出させる観点から、木材及び/又は土壌を必要に応じて細かく粉砕した後、それを純水と共に十分に混合し、上澄み液と固形分を分離し、更に上澄み液をフィルターによって濾過する方法により調製されることが好ましい。また、木材及び/又は土壌を純水と混合する際に、活性炭などの吸着剤も共に混合することが、有機物等の不純物をより有効かつ確実に除去する観点から好ましい。
【0024】
また、海水などのイオン強度が高い水溶液中の塩化物イオンを定量したい場合、予めイオン交換水や純水により希釈したCl
-含有液を測定対象としてもよい。この場合、希釈したCl
-含有液中での塩化物イオン濃度と希釈倍率とから、希釈前の水溶液中の塩化物イオン濃度を導き出すことができる。
【0025】
Cl
-含有液は、イオン強度調整剤を含有すると好ましい。イオン強度調整剤は、塩化物イオン濃度の異なる複数の試料を同じ設定条件で電気分解する際に、電気分解の程度を互いに同程度にするためにCl
-含有液に添加されるものである。イオン強度調整剤は、Cl
-含有液のイオン強度を調整することのできるものであれば特に限定されず、例えば、りん酸塩、りん酸、硫酸塩及び硫酸が挙げられる。これらの中では、Cl
-含有液のpHに対する影響が小さく、水溶液中に存在した場合に調製剤自身の酸化還元反応が起こりにくい観点から、りん酸塩が好ましい。イオン強度調整剤をCl
-含有液に添加する場合、Cl
-含有液中のイオン強度調整剤の濃度を制御しやすい観点から、水溶液の状態で添加することが好ましい。
【0026】
電気分解工程では、Cl
-含有液を電気分解することにより、その液中に次亜塩素酸イオンを発生させる。例えば、塩化ナトリウムを含むCl
-含有液中では、塩化ナトリウムは、ナトリウムイオン(Na
+)と塩化物イオン(Cl
-)とに電離している。そのCl
-含有液を電気分解すると、アノード側で下記式(1)及び(2)で表される反応により次亜塩素酸イオン(ClO
-)が発生する。
2Cl
-→Cl
2+2e
- (1)
Cl
2+H
2O→2H
++ClO
-+Cl
- (2)
上記の反応は、塩素の製造技術や海水の電解技術として公知のものである。
【0027】
電気分解では、Cl
-含有液中に一対の電極を浸漬した状態で、それらの電極間に電圧を印加することで、Cl
-含有液を電気分解する。電極の材質としては特に限定されず、例えば、導電性ダイヤモンド、白金、白金被覆チタン電極が挙げられる。
【0028】
Cl
-含有液中で電離した塩化物イオンを、より正確に定量するためには、上記式(1)で表される電気分解による反応が、一定の効率で起こることが好ましい。そのような観点から、導電性ダイヤモンド電極は、電気分解による反応によっても電極表面の状態がより変化し難く、電気分解による反応がより一定の効率に保持されやすいので好ましい。導電性ダイヤモンド電極は、市販のものを入手してもよく、常法により作製してもよい。
【0029】
電気分解工程において、電極間に印加する電圧は適宜設定すればよいが、塩化物イオンの酸化還元電位を考慮して、1.5V以上にすることが好ましい。その電圧は、Cl
-含有液中の塩化物イオン濃度に応じて、最適値を設定すればよい。例えば、塩化物イオン濃度が高い場合、低い電圧を採用すればよい。印加する電圧は、塩化物イオンの酸化還元電位の観点、及び、水の電気分解により発生する酸素及び水素の量が増加して、電極や水溶液に影響を与えることを抑制する観点から、3〜18Vが好ましい。後述の正電解又は逆電解をかける工程において正電解をかける場合は、発色性及び測定時間の短縮の観点から、6〜18Vがより好ましい。また、逆電解をかける場合は、3〜6Vであってもよい。
【0030】
また、電極の作用面積は、測定対象であるCl
-含有液の量によって適宜調整すればよい。電極の作用面積が広いほうが感度は向上する。一対の電極(アノード及びカソード)間の距離は、特に限定されないが、1mm〜10mmであると好ましい。電極間の距離が1mm以上であることにより、電極間の短絡を抑制しやすくなると共に、発生する気泡による電気分解阻害を防止しやすくなり、10mm以下であることにより、感度が高くなり電気分解による反応効率が高まる。
【0031】
なお、次亜塩素酸イオンへの変換効率を高める観点から、電気分解中は水溶液を攪拌しないことが好ましい。また、電気分解の時間(電極間に電圧を印加する時間)は特に限定されず、塩化物イオン濃度によって適宜調整すればよいが、短時間に塩化物イオンを定量し、かつ指針値に対して十分な感度を有する観点から、1分〜5分が好ましい。
【0032】
電気分解により電極の表面状態が変化すると、電気分解による反応を一定の効率に維持し難くなり、定量性が低下する傾向にある。そこで、本実施形態の塩化物イオンの定量方法は、電気分解に用いた電極に正電解又は逆電解をかける工程(以下、「電解工程」という。)を有すると好ましい。これにより、電極の表面状態を再生する、つまり電気分解前の状態に戻す又は近づけることができるので、本実施形態の塩化物イオンの定量方法を複数回行った場合でも、高い定量性を維持することができる。
【0033】
このうち、正電解は、電極を電解液に浸漬し、電気分解工程における電気分解から電極の極性を変えずに両電極間に電圧を印加することである。また、逆電解は、電極を電解液に浸漬して、電気分解工程においてアノードであった電極をカソードにし、かつカソードであった電極をアノードにするように両電極間に電圧を印加することである。正電解は、逆電解と比較して、発熱し難い点、及び、一度実施すれば長期間電極の表面状態を良好に維持することができる点で好ましい。したがって、一度に多種のCl
-含有液を測定する場合に有用である、一方、逆電解は、正電解と比較して、再生した場合の電極の表面状態を、より電気分解前の状態に近づけることができる点で好ましい。正電解又は逆電解をかける工程を経ることにより、電極の表面状態を電気分解前の状態に戻しやすい観点から、電極は導電性ダイヤモンド電極であると好ましい。
【0034】
逆電解に用いる電解液(以下、「逆電解液」ともいう。)としては、特に限定されないが、希釈した酸が好ましく、例えば、希硫酸、希りん酸、及び希硝酸が挙げられる。これらの中では、逆電解液としての機能がより優れている観点から希釈した酸が好ましく、酸の安定性と環境負荷の観点から、希硫酸が特に好ましい。一方、正電解に用いる電解液(以下、「正電解液」ともいう。)としては、特に限定されないが、塩化物イオンとイオン強度調整剤との混合溶液が好ましい。イオン強度調整剤としては、特に限定されないが、上述のものが挙げられるが、りん酸塩が好ましい。また、正電解液中の塩化物イオンの濃度は、特に限定されないが、5〜15mg/Lが好ましく、3〜12mg/Lがより好ましく、10mg/Lが特に好ましい。また、逆電解において電極間に印加する電圧は、例えば、3V〜18Vであると好ましい。一方の正電解においても、例えば、3V〜18Vであると好ましい。正電解又は逆電解ともに、電極間の距離は、特に限定されないが、電極間の短絡を抑制する観点、発生する気泡による電気分解阻害を防止する観点、及び、電気分解による反応効率を高める観点から、1mm〜10mmであると好ましい。さらに、逆電解の時間(電極間に電圧を印加する時間)も特に限定されず、塩化物イオン濃度及び印加する電圧の大きさによって適宜調整すればよい。ただし、浸漬する逆電解液の酸濃度が高い場合や印加する電圧が高い場合、逆電解により逆電解液の発熱量が大きくなるため、逆電解の時間は短い方が好ましい。また、逆電解は、より正確な塩化物イオン濃度を得る観点から、1回の電気分解の都度、電極に対して印加することが好ましく、そのような観点からも、逆電解の時間は短い方が好ましい。具体的には、数秒〜3分が好ましい。一方、正電解の時間(電極間に電圧を印加する時間)も特に限定されず、塩化物イオン濃度及び印加する電圧の大きさによって適宜調整すればよい。ただし、正電解は、電気分解の都度、電極に対して印加する必要がない。例えば、1日に複数の測定対象について塩化物イオンを定量する場合は、初めに1度、正電解を電極にかければよい。また、正電解は、逆電解と比較して電解液(正電解液)の発熱量が小さい。したがって、これらの観点、及び、より正確な塩化物イオン濃度を得る観点から、正電解の時間は、電気分解よりも長い方が好ましい。具体的には、15分〜20分が好ましい。
【0035】
こうして、電解工程を経た電極は、再び電気分解工程において用いられる。なお、電極として白金などの金属電極を用いる場合、電解工程に加えて又は代えて、電極表面を物理的に研磨しても電極の表面状態を再生することができる。ただし、電極表面の研磨は、電極表面の材料をある程度除去することになり、電極の作用面積や寸法が変化するため、そのようなことを抑制できる電解工程の方が好ましい。
【0036】
なお、電解工程の前後に、電極を純水で洗浄する工程を有してもよい。
【0037】
吸光度測定工程では、電気分解工程を経て次亜塩素酸イオンが発生した水溶液の吸光度を、DPD吸光光度法により測定する。DPD吸光光度法は、水溶液中の次亜塩素酸イオンの濃度を測定する方法としてよく知られている方法である。
【0038】
具体的には、まず、電気分解工程を経た水溶液中に、DPD発色試薬と、必要に応じてpH緩衝剤とを添加する。DPD発色試薬及びpH緩衝剤は、水溶液中に別々のタイミングで添加してもよく同時に添加してもよいが、同時に添加した方が簡便である。電気分解工程において発生した次亜塩素酸イオンは、電気分解後徐々に分解するので、より良好な定量性を確保する観点から、電気分解工程の後速やかにDPD発色試薬を水溶液に添加するのが好ましい。DPD発色試薬及び必要に応じてpH緩衝剤を添加後、水溶液の収容された容器を振とうしたり、攪拌機を用いたりして、DPD発色試薬を水溶液中に混合する。なお、混合中に気泡が発生する場合は、しばらく静置するなどの方法により除去することが好ましい。
【0039】
次に、DPD発色試薬を添加して発色させた水溶液を測定セルに収容し、その測定セルを分光光度計の所定位置にセットして、吸光度を測定する。測定セルは、石英製、ガラス製、樹脂製のいずれであってもよい。測定セルの光路長も特に限定されないが、吸光度に合わせて、2mm〜100mmの範囲で適切なものを選択するのが好ましい。また、吸光度の測定波長は、可視光領域であれば特に限定されないが、DPDの発色に対する感度を良好にする観点から、500nm〜560nmであると好ましく、510nm付近及び555nm付近が特に好ましい。ただし、測定波長は、上述の範囲で、光源に合わせて最適なものを選択すればよい。
【0040】
分光光度計は可視光領域の吸光度を測定できるものであれば特に限定されない。吸光度が安定した状態で測定する観点から、DPD発色試薬を水溶液に添加し混合してから5分以内に吸光度の測定を開始することが好ましい。
【0041】
Cl
-定量工程では、上記吸光度測定工程において測定された吸光度の値から、水溶液中の塩化物イオン濃度を求める。
【0042】
水溶液中の塩化物イオン濃度は、塩化物イオン濃度が既知である標準試料から予め作成しておいた吸光度と塩化物イオン濃度との関係を示す検量線により、上記吸光度測定工程において測定された吸光度から算出することができる。検量線作成用の標準試料としては、好ましくは、塩化ナトリウムや塩化カリウムなどの塩化物塩水溶液を用いる。また、検量線作成に際しては、測定対象となる水溶液と同様の条件により、標準試料の電気分解と吸光度の測定とを実施する。
【0043】
電気分解の際、電極により次亜塩素酸の発生効率が異なるので、より正確な塩化物イオン濃度を求める観点から、検量線は、電極対毎に作成しておくことが好ましい。また、標準試料を用いた検量線の作成は、塩化物イオン濃度を求める日毎に実施することが好ましいが、少なくとも1か月に1度は実施することが好ましい。
【0044】
本実施形態の塩化物イオンの定量方法によると、1mg/L程度の低濃度の塩化物イオン濃度を求めることが可能である。
【0045】
次に、本実施形態の塩化物イオンの定量方法の一例を、
図1に示すフローチャートに基づいて、簡単に説明する。
【0046】
まず、木材及び/又は土壌から塩化物イオンを溶出させて測定対象となる溶出液を得る(溶出操作)。次いで、得られた溶出液について、必要に応じて有機物等を濾過やフィルターにより除去して、更に必要に応じて、イオン強度調整液を添加した後、電気分解して次亜塩素酸イオンを発生させる(電気分解)。あるいは、溶出液に代えて、その他の塩化物イオンを含む水溶液試料を電気分解してもよい。次に、電気分解後の溶出液又は水溶液試料にDPD発色試薬を添加し、必要に応じてpH調整剤も添加した後、分光光度計により吸光度を測定する(吸光度測定)。一方、ここまでの操作に先立って、異なる既知の塩化物イオン濃度を有する複数の標準試料(塩化物イオンを含有する水溶液)について、上記と同様の条件にて電気分解、吸光度測定を行って、吸光度と塩化物イオン濃度との関係を示す検量線を作成する。また、測定対象又は標準試料について電気分解を行う毎に、電極に対して逆電解をかけて、あるいは、測定開始時に一度、電極に対して正電解をかけて、電極の表面状態を電気分解前の状態に戻したり近づけたりする(正電解又は逆電解)。そして、測定対象となる溶出液又は水溶液試料の吸光度から検量線を用いて、塩化物イオン濃度を求める(Cl
-定量)。
【0047】
次に、本実施形態の塩素の定量方法について説明する。本実施形態の塩素の定量方法は、上記本実施形態の塩化物イオンの定量方法によって求められた塩化物イオンの濃度から、木材及び/又は土壌に含まれる塩素の濃度を求める工程(以下、「塩素濃度導出工程」という。)を有するものである。
【0048】
塩素濃度導出工程では、予め溶出液を得る際に用いた木材及び/又は土壌の量を測定しておく。また、溶出液の総量も測定しておく。例えば、木材及び/又は土壌の量をA(mg)とし、溶出液の総量をB(リットル)とし、塩化物イオンの濃度をC(mg/リットル)とすると、木材及び/又は土壌に含まれる塩素の濃度X(質量%)は、下記式(3)で表される。
X=100×B×C/A (3)
【0049】
次に、本実施形態の塩化物イオンの定量装置について説明する。本実施形態の塩化物イオンの定量装置は、塩化物イオンを含む水溶液の塩化物イオンの濃度を求める塩化物イオンの定量装置であって、水溶液を電気分解することにより、水溶液中に次亜塩素酸イオンを発生させる電気分解部と、次亜塩素酸イオンが発生した水溶液の吸光度をDPD吸光光度法により測定する計測部と、吸光度から、塩化物イオンの濃度を求める濃度演算部とを備えるものである。本実施形態の塩化物イオンの定量装置は、上記本実施形態の塩化物イオンの定量方法に用いることができる装置である。
【0050】
図2は、本実施形態の塩化物イオンの定量装置の一例を示す模式図であるが、定量装置は
図2に示すものに限定されない。定量装置100は、電気分解部110と、計測部120と、濃度演算部130とを備え、更に、塩化物イオンを含む水溶液を準備する水溶液準備部140、正電解又は逆電解部150及び結果表示部160を備えていてもよい。
【0051】
水溶液準備部140は、例えば、木材及び/又は土壌から塩化物イオンを溶出させるために、それらを純水と共に十分混合できるように振とうする振とう部142と、そのようにして得られた溶出液、あるいは、標準試料や、塩化物イオンを含む水溶液から不純物を除去するために設けられる濾過部144とを備える。振とう部142は、液体試料を十分混合するように振とうできる機器であれば特に限定されず、公知の振とう器であってもよい。濾過部144は、水溶液から有機物等の不純物を除去するための公知のフィルター、あるいは吸着剤を有する容器であってもよい。
【0052】
電気分解部110は、測定対象である塩化物イオンを含む水溶液を電気分解することにより、水溶液中に次亜塩素酸イオンを発生させるものである、電気分解部110は、図示しないが、水溶液を収容する容器と、水溶液に浸漬可能な一対の電極と、電極に電圧を印加する電源とを有し、更に、イオン強度調整剤を含むイオン強度調整液を水溶液に滴下するためのイオン強度調整液添加部を有していてもよい。電気分解部110では、測定対象である水溶液が、一対の電極間に電源によって印加された電圧により電気分解され、次亜塩素酸イオンが発生する。電極はすでに上述したものであればよく、電源は、上述の電圧を電極間に印加して、電気分解を発生させることができるものであれば特に限定されず、公知の電気分解に用いられる電源であってもよい。上記電気分解に先立って、イオン強度調整液添加部からイオン強度調整液を水溶液に添加することにより、塩化物イオン濃度の異なる複数の試料を同じ設定条件で電気分解する際に、電気分解の程度を互いに同程度にすることができる。イオン強度調整液添加部は、特に限定されず、溶液中に一定量の液体を滴下できる公知の機器であってもよい。
【0053】
計測部120は、次亜塩素酸イオンが発生した水溶液の吸光度をDPD吸光光度法により測定するものである。計測部120は、吸光度の測定に通常用いられる吸光光度計と同様の構成を備えるものであってもよく、例えば、図示しないが、光源と、測定セルと、検出部とを備える。測定セルは、上記本実施形態の塩化物イオンの定量方法の吸光度測定工程において用いられる測定セルに相当する。光源は、測定セルに収容された、電気分解により発生した次亜塩素酸イオンを含み、DPD発色試薬を添加して発色させ、必要に応じてpH調整剤によりpHを調整した水溶液に対して、吸光度の測定波長を有する入射光(可視光)を照射するものである。また、検出部は、入射光(可視光)から、測定セル内の水溶液に吸収された光を除く透過光の光量を測定するものである。入射光の光量と透過光の光量から、水溶液の吸光度が測定される。
【0054】
濃度演算部130は、上記水溶液の吸光度から、塩化物イオン濃度を求めるものである。濃度演算部130は、塩化物イオン濃度が既知の塩化物イオンの水溶液である標準試料とその標準試料の吸光度とから予め作成した検量線を式化した関数に、測定対象である水溶液の吸光度を入力することにより、その塩化物イオン濃度を出力できるものであれば、特に限定されない。それに加えて、濃度演算部130は、上述の本実施形態の塩素濃度の定量方法における塩素濃度導出工程のようにして、塩素濃度を出力するものであってもよい。また、結果表示部160は、出力された塩化物イオン濃度、及び/又は、その塩化物イオン濃度から算出される木材及び/又は土壌中の塩素濃度の結果を表示できるものであれば特に限定されず、例えば、ディスプレイであってもよく、印刷機であってもよい。
【0055】
正電解又は逆電解部150は、図示しないが、例えば、電気分解部110における電気分解に用いられた電極に電圧を印加する電源と、電極を浸漬する電解液を収容する容器とを有する。電解液は、上記本実施形態の塩化物イオンの定量方法の正電解又は逆電解をかける工程において用いられた電解液に相当する。正電解又は逆電解部150が逆電解部である場合、その逆電解部150では、電極を逆電解液に浸漬し、電気分解部110においてアノードであった電極をカソードにし、かつカソードであった電極をアノードにするように、電源により両電極間に電圧を印加することで、逆電解をかける。あるいは、電極を正電解液に浸漬し、電気分解部110における電極から、電極の極性を変えずに、電源により両電極間に電圧を印加することで、正電解をかける。これにより、電気分解により表面状態が変化した電極を電気分解前の状態に戻したり近づけたりすることができる。
【0056】
本実施形態の塩化物イオンの定量方法により、木材及び/又は土壌の溶出液や環境水に含まれる塩化物イオン濃度を、他のイオンとは区別して選択的に、かつ30分以内の短時間で分析することが可能となる。また、木質系材料の塩素含有量の指針値にも対応できる1mg/L付近の低濃度試料にも対応することができる。さらに、定量に必要な構成部品を小型化することができ、使用する試薬は安全性が高いため、可搬型の簡易分析装置に容易に適用することできる。これらの結果、本実施形態の塩化物イオンの定量方法を採用することにより、作業現場における木材や土壌の塩素含有量の管理を迅速に行うことが可能となる。
【実施例1】
【0057】
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0058】
(実施例1)
まず、測定対象となる塩化物イオンを含む水溶液として、塩化物イオン濃度が0.5mg/L〜30mg/Lの種々の塩化ナトリウム水溶液と、塩化物イオンを含まない純水とを準備した(以下、これらを単に「試料」ともいう)。次に、試料5mLを電気分解用セル(石英製)に収容し、そこにイオン強度調整液(0.1mol/Lりん酸二水素カリウム水溶液)0.05mLを添加した。次いで、その電気分解用セル内の試料に、一対の電極(両極とも導電性ダイヤモンド電極(CONDIAS GmbH社製のホウ素ドープダイヤモンド電極、商品名「ダイヤモンド電極(BDD)」)、試料に浸漬した電極の作用面積:一つの電極当たり300mm
2(10mm×30mm)、電極間距離:2mm)を浸漬した。そして、両電極間に4.5Vの電圧を印加して3分間、試料を電気分解した。
【0059】
電気分解終了後、速やかに電気分解用セル内の試料から電極を取り出し、試料に、pH緩衝剤も含まれるDPD発色試薬(関東化学株式会社製ラピッドDPD試薬)50mgを添加し、軽く振とうして混合することにより発色させた。次いで、発色した試料を吸光度の測定用セル(光路長10mmの石英セル)に収容して、分光光度計(日本分光株式会社製紫外可視分光光度計、型番:V−650、)の所定位置にセットした。そして、測定波長510nm、532nm、555nmにて、試料の吸光度を測定した。
【0060】
なお、電気分解後に試料から取り出した電極を、まず純水で洗浄した後、逆電解液である0.1mol/Lの希硫酸5mLに浸漬した。次いで、電気分解の際とはアノードとカソードが逆になるように、両電極間に6.0Vの電圧を印加し、90秒間逆電解をかけた。逆電解終了後、電極を逆電解液から取り出し、純水で洗浄してから、次の測定に用いるようにした。
【0061】
塩化物イオン濃度を10mg/Lに調整した塩化ナトリウム水溶液について、上記の手順で5回吸光度の測定までを実施し、測定値の繰り返し再現性を確認した。その結果を表1に示す。各波長の吸光度とも、良好な再現性を示した。
【0062】
【表1】
【0063】
次に、塩化物イオン濃度を0.5mg/Lから30mg/Lの間で変化させた塩化ナトリウム水溶液である標準試料について、上記のようにして吸光度の測定までを実施して、検量線を作成した。その結果を
図3、4及び表2に示す。検量線は良好な直線性を示した。
【0064】
【表2】
【0065】
(実施例2)
イオン強度調整液を添加しない他は、実施例1と同様にして電気分解を実施した。次いで、塩化物イオン濃度を1mg/L〜30mg/Lの間で変化させた塩化ナトリウム水溶液である標準試料を用いて、実施例1と同様にして検量線を作成した。その結果を
図3に示す。イオン強度調整液を添加しない場合、塩化物イオン濃度が低濃度(1mg/L付近)のときは吸光度が低下し、塩化物イオン濃度が高濃度(30mg/L付近)のときは吸光度が増大するため、イオン強度調整液を添加する場合と比較し、検量線の直線性が低下した。
【0066】
(実施例3)
逆電解をかけない他は実施例1と同様にして、塩化物イオン濃度が10mg/Lの塩化ナトリウム水溶液について、吸光度の測定までを実施した。その結果を表3に示す。電極に対して逆電解をかけない場合、逆電解をかける場合と比較して、得られる吸光度が減少することがわかった。
【0067】
【表3】
【0068】
(実施例4)
まず、正電解液である10mg/Lの塩化物イオン水溶液5mL及びイオン強度調整液(0.1mol/Lりん酸二水素カリウム水溶液)0.05mLを正電解用セル(石英製)に収容した。次いで、この正電解用セル内の正電解液に、一対の電極(両極とも導電性ダイヤモンド電極(CONDIAS GmbH社製のホウ素ドープダイヤモンド電極、商品名「ダイヤモンド電極(BDD)」)、試料に浸漬した電極の作用面積:一つの電極当たり300mm
2(10mm×30mm)、電極間距離:2mm)を浸漬した。そして、両電極間に6.0Vの電圧を印加して15分間、正電解を行った。正電解終了後、電極を正電解液から取り出し、純水で洗浄してから、試料の測定に用いるようにした。
【0069】
次に、測定対象となる塩化物イオンを含む水溶液として、塩化物イオン濃度が10mg/Lの塩化ナトリウム水溶液を準備した(以下、これらを単に「試料」ともいう)。次に、試料5mLを電気分解用セル(石英製)に収容し、そこにイオン強度調整液(0.1mol/Lりん酸二水素カリウム水溶液)0.05mLを添加した。次いで、その電気分解用セル内の試料に、一対の上記電極を浸漬した。そして、両電極間に12.0Vの電圧を印加して2分間、試料を電気分解した。
【0070】
電気分解終了後、速やかに電気分解用セル内の試料から電極を取り出し、試料に、pH緩衝剤も含まれるDPD発色試薬(関東化学株式会社製ラピッドDPD試薬)50mgを添加し、振とうして混合することにより発色させた。次いで、発色した試料を吸光度の測定用セル(光路長10mmの石英セル)に収容して、分光光度計(日本分光株式会社製紫外可視分光光度計、型番:V−650、)の所定位置にセットした。そして、測定波長510nm、532nm、555nmにて、試料の吸光度を測定した。
【0071】
塩化物イオン濃度を10mg/Lに調整した塩化ナトリウム水溶液について、以後正電解を行わず、5回連続で吸光度の測定までを実施して、測定値の繰り返し再現性を確認した。その結果を表4に示す。各波長の吸光度とも、良好な再現性を示した。
【0072】
【表4】
【0073】
(実施例5)
電気分解に用いる電極を白金電極に変更し、イオン強度調整液を0.1mol/Lの硫酸ナトリウム水溶液に変更し、電気分解の条件を6.0V、3分間に変更し、逆電解の条件を9.0V、6分間に変更し、1回目の測定と2回目の測定の間では逆電解に代えて電極表面の研磨を行った他は実施例1と同様にして、塩化物イオン濃度10mg/Lの塩化ナトリウム水溶液について、吸光度の測定までを実施した。その結果を表5に示す。白金電極を用いた場合、表面を研磨することにより得られる吸光度は増大するが、逆電解では、測定ごとに吸光度の減少が見られた。
【0074】
【表5】
【0075】
(比較例1)
イオン電極法により、塩化ナトリウム水溶液中の塩化物イオン(塩化物イオン濃度:0.5mg/L〜30mg/L)の測定を行った。結果を
図5に示す。なお、電位差計として、東亜ディーケーケー株式会社製のマルチ水質計(型番:MM−60R)を用いた。イオン電極法では、塩化物イオン濃度が3mg/L前後までしか検量線が直線性を示さないことがわかった。
【0076】
(実施例6)
試料を塩化カリウム水溶液(塩化物イオン濃度:10mg/L)に変更した他は、実施例1と同様にして吸光度の測定までを実施した。その結果を、試料が塩化ナトリウム水溶液である場合と共に表6に示す。塩化ナトリウム水溶液と比較して、吸光度は約85%の値となった。
【0077】
【表6】
【0078】
(実施例7)
廃木材を細かく粉砕したもの0.2gを所定量の活性炭と共に容器に収容し、そこに純水を添加して、約10分間振とうした。振とう後の上澄み液をメンブランフィルターでろ過し、木材溶出液を得た。その木材溶出液を試料とした他は実施例1と同様にして、吸光度の測定まで実施した。結果を表7に示す。
【0079】
【表7】
【0080】
(参考例1)
実施例7と同様にして木材溶出液を得た。その木材溶出液について、イオンクロマトグラフ法(イオンクロマトグラフィー装置:ダイオネクス社製、製品名「ICS−3000」)により塩化物イオンの定量分析を行った。結果を表7に示す。活性炭をある程度添加することにより有機物を除去した木材溶出液については、イオンクロマトグラフ法と同程度に木材溶出液中の塩化物イオン濃度を導き出せることが分かった。