特許第6341705号(P6341705)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6341705
(24)【登録日】2018年5月25日
(45)【発行日】2018年6月13日
(54)【発明の名称】移動工法
(51)【国際特許分類】
   E04G 23/06 20060101AFI20180604BHJP
【FI】
   E04G23/06 A
【請求項の数】2
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2014-52368(P2014-52368)
(22)【出願日】2014年3月14日
(65)【公開番号】特開2015-175162(P2015-175162A)
(43)【公開日】2015年10月5日
【審査請求日】2017年1月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000156640
【氏名又は名称】間瀬建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076428
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 康徳
(74)【代理人】
【識別番号】100112508
【弁理士】
【氏名又は名称】高柳 司郎
(74)【代理人】
【識別番号】100115071
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 康弘
(74)【代理人】
【識別番号】100116894
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 秀二
(72)【発明者】
【氏名】井瀬 弘志
(72)【発明者】
【氏名】小倉 学
(72)【発明者】
【氏名】佐瀬 伸一
(72)【発明者】
【氏名】矢島 清志
(72)【発明者】
【氏名】川越 耕治
(72)【発明者】
【氏名】加藤 篤
【審査官】 西村 隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭55−052896(JP,A)
【文献】 特開2002−013299(JP,A)
【文献】 黒田 隆司,旧栃木県庁舎移築保存の為の曳家工事の施工,建設の施工企画 平成20年5月号,社団法人日本建設機械化協会,2008年 5月20日,第41頁〜第46頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 23/06
E04G 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤上で変位可能に設けられた複数の荷台上に既設構造物を移し替え、前記既設構造物を移動させる移動工法において、
前記複数の荷台は、
前記既設構造物のレベル調整が可能なアクチュエータを備える複数の荷台を備え、
前記アクチュエータにより前記既設構造物のレベル調整を行いながら、前記既設構造物を移動し、
前記アクチュエータが油圧ジャッキであり、
前記油圧ジャッキの油圧を圧力計で計測し、その計測結果に基づいて前記既設構造物のレベル調整を行う、
ことを特徴とする移動工法。
【請求項2】
請求項1記載の移動工法であって、
前記荷台は、複数のレール上に並べて置かれた複数のコロ棒上に支持される、
ことを特徴とする移動工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、曳家に代表される既設構造物の移動工法に関する。
【背景技術】
【0002】
既設構造物を移動工法として、既設構造物を複数の荷台に移し替え、荷台と共に既設構造物を移動する工法が知られている。複数の荷台は、既設構造物の支持点を構成する。荷台を変位させる構成として、コロ装置や滑り装置が提案されている(例えば特許文献1)。コロ装置は、複数のレール上に、丸棒等のコロ棒を並べて置き、コロ棒状に荷台を支持する構成である。荷台は例えばH形鋼からなる台座上に木製楔を積み上げて構成される。既設構造物を複数の荷台に移し替える際には、ジャッキにより既設構造物を徐々に荷台に載せながら既設構造物のレベルを保つように、楔の打つ位置、打込み深さなどを調整している。複数に荷台に既設構造物の全荷重を移した後、推進ジャッキの付勢でレールに沿って既設構造物を移動することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−117242号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
既設構造物の移動経路上の地盤の剛性は必ずしも均一ではなく、既設構造物の移動に伴って地盤が変形する。このため、各荷台が負担する鉛直力が増減し、ある荷台が荷重を多く受け持つと、他の荷台では荷重が抜ける場合が生じる。この結果、既設構造物の移動前の初期レベルを維持できなくなり、既設構造物を変形させる場合がある。既製構造物が木造モルタル造で外壁にひび割れを入れたくない場合、大型の建物の場合、或いは、水平断面が矩形でない建物である場合等ではこのような変形を無視できなくなる。その対策として、荷台の楔の調整により既設構造物の初期レベルを維持することも不可能ではないが、多くの手間と時間が必要となる。
【0005】
本発明の目的は、既設構造物を移動させる際に、その変形を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、地盤上で変位可能に設けられた複数の荷台上に既設構造物を移し替え、前記既設構造物を移動させる移動工法において、前記複数の荷台は、前記既設構造物のレベル調整が可能なアクチュエータを備える複数の荷台を備え、前記アクチュエータにより前記既設構造物のレベル調整を行いながら、前記既設構造物を移動し、前記アクチュエータが油圧ジャッキであり、前記油圧ジャッキの油圧を圧力計で計測し、その計測結果に基づいて前記既設構造物のレベル調整を行う、ことを特徴とする移動工法が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、既設構造物を移動させる際に、その変形を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施形態に係る移動工法の概要図。
図2】荷台の構成例を示す説明図。
図3】(A)〜(D)は既設構造物の移し替えの例を示す図。
図4】レベル調整の例の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1は本発明の一実施形態に係る移動工法の概要図であり、既設構造物1の移動途中の状態を示している。図2は既設構造物1を支持する荷台6の構成例を示す図である。
【0010】
既設構造物1はここでは建物を想定している。荷台6は本実施形態の場合、コロ装置であるが、車輪を有する台車装置、滑り支承を行う滑り装置等、既設構造物を支持可能で地盤上で変位可能であれば他の種類の装置であってもよい。
【0011】
本実施形態の場合、既設構造物1を平行移動させる場合を想定しているが回転させてもよい。既設構造物1の移動経路の地盤は事前に地盤改良を施し、移動時の沈下防止対策を施すことが好ましい。本実施形態の場合、既設構造物1の移動経路に、平滑なコンクリート路床2を事前施工し、その上に枕木4を介してレール群3を敷設している。
【0012】
各レール群3は、既設構造物1の移動方向に延びる複数のレール3aを互いに平行に配置して構成されている。各レール群3には、レール3aと直交する姿勢でレール3aの長手方向に並べて置かれた複数のコロ棒5が転動自在に配置されている。コロ棒は例えば丸鋼である。荷台6は複数のコロ棒5上に支持される。既設構造物1の移動は、コロ棒5の転動を利用して荷台6をレール群3上で変位させることにより行う。荷台6の移動に伴ってコロ棒5は順次盛り替えられる。
【0013】
荷台6は、既設構造物1の規模に応じて複数設けられ、それぞれが既設構造物1の支持点を構成する。荷台6は、本実施形態の場合、土台部61と土台部61上に搭載されたアクチュエータ62、サポートジャッキ65、及び、木材64を備える。土台部61は、コロ棒5上に搭載される部分であり、例えば、鋼板上に形鋼を積載して構成される。アクチュエータ62は、既設構造物1の鉛直荷重を負担してそのレベル調整を行うものであり、本実施形態では油圧ジャッキであるが、同様の機能を有するものであればこれに限られない。アクチュエータ62には、その油圧を計測する圧力計63が接続されている。アクチュエータ62の油圧を計測することで、そのアクチュエータ62が負担している鉛直荷重の変動を計測することが可能となる。本実施形態の場合、一つの荷台6にはアクチュエータ62を一つ搭載しているが、複数搭載してもよい。その際、圧力計62も各アクチュエータ62に設けてもよい。
【0014】
サポートジャッキ65及び木材64は、補助的に既設構造物1の鉛直荷重を負担するものであり、通常時の荷重負担はアクチュエータ62よりも小さく、アクチュエータ62の故障時等にその支持点が急激に下がることを防止する。
【0015】
荷台6は平面的に複数布設されてこの上に既設構造物1が搭載される。複数の荷台6に既設構造物1を搭載するためには、地盤から荷台6へ既設構造物1の移し替えが必要となる。移し替えの方法は公知の方法を適宜利用できる。一例を図3(A)〜(D)を参照して説明する。
【0016】
荷台6、レール群3等は、既設構造物1の1階部分と基礎12との間において、柱10が配置されている複数個所において施工する。図3(A)に示すように、1階部分の梁11に補強用のスラブ13を施工する。また、柱10の下部にコンクリート路床2を施工する。図3(B)に示すように、スラブ13と基礎12との間に仮受装置7を設置し、その後、柱10を切断する。仮受装置7は例えば油圧ジャッキと鋼材とを上下に連結して構成される。柱10の切断は、不図示の変位計により既設構造物11の鉛直方向の変位を監視しながら行う。
【0017】
次に、図3(C)に示すように切断した柱10の配置空間において、コンクリート路床2上に枕木4、レール群3、コロ棒5及び荷台6を順次積載する。既設構造物1の鉛直荷重の負担を、仮受装置7からアクチュエータ62に徐々に移し、既設構造物1のレベル調整を行いながら、最終的にアクチュエータ62で既設構造物1の鉛直荷重を負担する。その後、図3(D)に示すように仮受装置7を撤去して、既設構造物1の移し替え完了する。既設構造物1のレベル調整は、例えば、既設構造物1の複数個所を基準点とし、基準点の高さを計測しながら行うことができる。
【0018】
次に、既設構造物1の移動中におけるレベル調整について図4を参照して説明する。同図の例は、既設構造物1の荷台6への移し替えが完了した初期状態ST0と、その後に既設構造物1を所定量移動させた移動途中の状態ST1とを模式的に説明する。#1〜#9は、荷台6の平面配置を示しており、ここでは便宜的に9台の荷台6を設けた場合を想定している。既に述べたとおり、荷台6の数は既設構造物1の規模に応じて設定され、比較的大型の建物の場合、数十〜百個に及ぶ場合がある。
【0019】
P1〜P9、P1’〜P9’は各荷台#1〜#9が備えるアクチュエータ62の油圧を示しており、P1〜P9は初期状態ST0におけるアクチュエータ62の油圧を示しており、基準値となる。P1’〜P9’は移動途中の状態ST1におけるアクチュエータ62の油圧を示している。これらの油圧の計測値は、例えば、作業者が圧力計63の計測値を読み取り、記録することができる。また、各圧力計63とコンピュータとを有線又は無線で通信可能に接続し、各圧力計63の計測結果をコンピュータで自動収集するようにしてもよい。
【0020】
P1〜P9とP1’〜P9’とを比較することで、各荷台#1〜#9のアクチュエータ62が負担する鉛直荷重の変動を把握することができる。よって、変動分に応じてアクチュエータ62の出力調整を行うことで既設構造物1のレベル調整を行うことができる。例えば、P1’〜P3’が増圧傾向を示し、P6’〜P9’が減圧傾向を示している場合、既設構造物1が荷台#1〜#3側に傾き始めていることになる。そこで、荷台#1〜#3のアクチュエータ62の上昇操作、又は、荷台#7〜#9のアクチュエータ62の降下操作を行う。これにより、既設構造物1を初期レベルに維持することが可能となる。
【0021】
操作量は、圧力計63の計測値を基準とし、計測値が基準値に対して許容値内にあればよいことになる。許容値は、例えば、基準値の数十%の範囲内(例えば±20%以内)とすることができる。こうして既設構造物1の移動と各圧力計63の監視及び各アクチュエータ62の出力調整とを繰りかすことで、既設構造物1を初期レベルに維持しながら、目的地まで移動することができ、移動中における既設構造物1の変形を抑制することができる。
【0022】
平成25年版の公共建築工事標準仕様書(建築工事編)によれば、コンクリート路床の仕上りの平坦さの標準値は、高くした場合でも3mにつき7mm以下である。レール3aの高さ精度の管理値を±3mm以内(レールの形状誤差を含む)とすると、路床の仕上りと移動させる装置の設定により-3mm〜+10mmの差が発生することになる。既設構造物1の重量が、補強スラブ等も含めて数千トンに及ぶ場合、荷台が負担する荷重は大きく前後する場合が想定される。本実施形態のようにアクチュエータ62により既設構造物1のレベル調整を行いながら、その移動を行うことで、木製楔の位置、打ち込み深さを調整する場合よりも迅速に既設構造物1の移動を行える。
【0023】
なお、各圧力計63の計測値に応じて各アクチュエータ62を自動制御する構成とすれば、既設構造物1を停止しなくても、その移動中に既設構造物1のレベル調整も可能となり、既設構造物1の移動を更に迅速に行える。
【符号の説明】
【0024】
1 既設構造物
6 荷台
62 アクチュエータ
図1
図2
図3
図4