(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6341707
(24)【登録日】2018年5月25日
(45)【発行日】2018年6月13日
(54)【発明の名称】シリコクロムの製造方法及びフェロクロムの製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 33/04 20060101AFI20180604BHJP
【FI】
C22C33/04 B
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-53338(P2014-53338)
(22)【出願日】2014年3月17日
(65)【公開番号】特開2015-175043(P2015-175043A)
(43)【公開日】2015年10月5日
【審査請求日】2017年3月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】500103236
【氏名又は名称】JFEマテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112140
【弁理士】
【氏名又は名称】塩島 利之
(72)【発明者】
【氏名】坂口 一弘
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 一
【審査官】
米田 健志
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭48−103412(JP,A)
【文献】
特開2001−323329(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2003/0110886(US,A1)
【文献】
特開昭50−120416(JP,A)
【文献】
特開2011−094210(JP,A)
【文献】
特開平05−051690(JP,A)
【文献】
特開平01−180941(JP,A)
【文献】
特開平01−052013(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 33/00
C22C 33/04〜33/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロム鉱石と石灰を炉内で溶解して、シリコクロムの製造方法における1次スラグを生成させる工程と、
前記シリコクロムの製造方法における1次スラグに金属シリコン及びフェロシリコンの少なくとも一方を添加し、前記シリコクロムの製造方法における1次スラグ中の酸化物を還元して、シリコクロムとシリコクロムの製造方法における2次スラグを生成させる工程と、
前記シリコクロムの製造方法における2次スラグを分離する工程と、
を備えるシリコクロムの製造方法。
【請求項2】
クロム鉱石と石灰を炉内で溶解して、低炭素フェロクロムの製造方法における1次スラグを生成させる工程と、
前記低炭素フェロクロムの製造方法における1次スラグに請求項1に記載のシリコクロムの製造方法によって製造されたシリコクロムを添加し、前記低炭素フェロクロムの製造方法における1次スラグ中の酸化物を還元して、フェロクロムと低炭素フェロクロムの製造方法における2次スラグを生成させる工程と、
前記低炭素フェロクロムの製造方法における2次スラグを分離する工程と、を備えることを特徴とする低炭素フェロクロムの製造方法。
【請求項3】
前記低炭素フェロクロムの製造方法はさらに、
前記低炭素フェロクロムの製造方法における2次スラグに金属シリコン及びフェロシリコンの少なくとも一方を添加し、前記低炭素フェロクロムの製造方法における2次スラグ中の酸化クロムを還元して回収シリコクロムを生成させる工程と、を備え、
前記回収シリコクロムを、請求項1に記載のシリコクロムの製造方法によって製造されたシリコクロムと共に前記低炭素フェロクロムの製造方法における1次スラグに添加することを特徴とする請求項2に記載の低炭素フェロクロムの製造方法。
【請求項4】
製造されたシリコクロムのマンガン含有量が1.0質量%以下であることを特徴とする請求項1に記載のシリコクロムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マンガンの含有量を低くすることができるシリコクロムの製造方法、及びこのシリコクロムの製造方法によって製造されたシリコクロムを用いた低炭素フェロクロムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコクロムは、Si,Cr,Feを含有するフェロアロイである。シリコクロムは、低炭素フェロクロムの製造方法の還元剤として用いられる。
図3に示すように、従来の低炭素フェロクロムの製造方法は、酸化クロム及び酸化鉄を含むクロム鉱石1と媒溶剤である焼石灰2を電気炉3内で溶解し、溶製された1次スラグを取鍋4に出湯し、この取鍋4内に還元剤として副原料シリコクロム5を添加して強制撹拌し、還元反応を行わせて2次スラグを分離して製品の低炭素フェロクロム7を得るものである(特許文献1参照)。
【0003】
回収シリコクロム8は、低炭素フェロクロム7を製造する際に分離される2次スラグ6から製造される。すなわち、
図3に示すように、2次スラグ6にフェロシリコン9を添加して取鍋10内で強制撹拌し、2次スラグ6中の酸化クロムを還元して回収シリコクロム8を生成させる。回収シリコクロム8は、1次スラグに添加する副原料シリコクロム5の一部代替品として用いられる。従来のシリコクロムの製造方法にあっては、低炭素フェロクロム7を製造する際に分離される2次スラグ6中に残留している多量のクロムが回収シリコクロム8として回収されるので、クロム歩留が向上するという効果がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−51690号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来のシリコクロムの製造方法にあっては、回収シリコクロムが系内を循環するので、回収シリコクロム中にマンガンが濃縮するという新たな課題が生ずる。還元剤として使用する回収シリコクロム中のマンガン含有量が高くなると、製品の低炭素フェロクロム中のマンガン含有量も高くなってしまう。
【0006】
そこで、本発明は、マンガン含有量の低いシリコクロムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、クロム鉱石と石灰を炉内で溶解して、シリコクロム
の製造方法における1次スラグを生成させる工程と、前記シリコクロム
の製造方法における1次スラグに金属シリコン及びフェロシリコンの少なくとも一方を添加し、前記シリコクロム
の製造方法における1次スラグ中の酸化物を還元して、シリコクロムとシリコクロム
の製造方法における2次スラグを生成させる工程と、前記シリコクロム
の製造方法における2次スラグを分離する工程と、を備えるシリコクロムの製造方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、シリコクロム
の製造方法における1次スラグに金属シリコンを添加してシリコクロムを得るので、シリコクロム中のマンガン含有量を低くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態のシリコクロムの製造方法の工程図である。
【
図2】本実施形態のシリコクロムの製造方法によって製造されたシリコクロムを使用した低炭素フェロクロムの製造方法の工程図である。
【
図3】従来の低炭素フェロクロムの製造方法の工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して本発明の一実施形態のシリコクロムの製造方法を説明する。
図1は、本実施形態のシリコクロムの製造方法の工程図を示す。
【0011】
図1に示すように、まず、クロム鉱石11aと媒溶剤である焼石灰11bを電気炉12内で溶解させて、シリコクロム
の製造方法における1次スラグ(以下、単に1次スラグ13という)を生成させる(S1)。1次スラグ中13中のクロムの含有量は19〜20質量%である。溶製された1次スラグ13を取鍋としてのレードル14に出湯し、この1次スラグ13に金属シリコン15aとクロム鉱石15bを添加して撹拌する(S2)。撹拌方法は、二基のレードルを用意して、1次スラグの移し替えを繰り返し行うリレードリングであっても、ガス吹き込みによるバブリング法であってもよい。クロム鉱石11a中の酸化物と金属シリコン15aとの反応は、発熱反応であるので、レードル14が高温になりすぎるおそれがある。このため、冷材としてのクロム鉱石15bを金属シリコン15aと共に添加する。
【0012】
1次スラグ13中の酸化物であるCr2O3、FeOは金属シリコン15aによって還元されて、シリコクロム17とシリコクロム
の製造方法における2次スラグ(以下、単に2次スラグ16という)が生成する。2次スラグ16中のクロムの含有量は、1.0質量%以下と低くなる。2次スラグ16中のクロムの略全量をシリコクロム17として回収することができる。2次スラグ16の組成は、
図2に示す低炭素フェロクロムの製造方法における3次スラグ39と略同一である。
【0013】
次に、還元反応によって生成した2次スラグ16をシリコクロム17の溶湯から分離する(S3)。分離によって得られたシリコクロム17の溶湯は、鋳型に鋳込まれて(S4)、
図2に示す低炭素フェロクロムの製造方法におけるシリコン還元剤として使用される。
【0014】
本実施形態のシリコクロム製造方法によれば、クロム鉱石11aと焼石灰11bを溶解して得た1次スラグ13に金属シリコン15aを添加し、シリコクロム17を生成させる。金属シリコン15a中のマンガン含有量は低いので、得られるシリコクロム17中のマンガン含有量も低い。しかも、従来の回収シリコクロム8(
図3参照)の製造方法のように、2次スラグ6にフェロシリコン9を添加し、回収シリコクロム8を低炭素フェロクロム製造方法の系内に循環させている訳ではない。このため、シリコクロム17(
図1参照)の溶湯中にマンガンが濃縮するのを防止することができる。
【0015】
図2は、本実施形態のシリコクロムの製造方法によって製造されたシリコクロム17を還元剤として使用した低炭素フェロクロムの製造方法の工程図を示す。この低炭素フェロクロム製造方法は、低炭素フェロクロム35を製造する工程(S21)と、低炭素フェロクロム35を製造した際に生成する低炭素フェロクロム
の製造方法における2次スラグ36からシリコクロムを回収する工程(S22)の組み合わせからなる。低炭素フェロクロム35は、クロムが60質量%以上、カーボンが0.1質量%以下のFe−Cr合金である。
【0016】
低炭素フェロクロム製造工程(S21)は以下のとおりである。まず、クロム鉱石31aと媒溶剤である焼石灰31bを電気炉32内で溶解させて、低炭素フェロクロム
の製造方法における1次スラグ(以下、単に1次スラグ33という)を生成させる(S21A)。溶製された1次スラグ33を取鍋としてのレードル34に出湯し、この1次スラグ33にシリコクロム32a及びクロム鉱石32bを添加して撹拌する(S21B)。1次スラグ33中のクロムの含有量は19〜20質量%である。添加されるシリコクロム32aは、本実施形態のシリコクロムの製造方法によって製造されたシリコクロム17(
図1参照)、購入品のシリコクロム、及び下記に説明する回収シリコクロム38(
図2参照)からなる。
【0017】
1次スラグ33中の酸化物であるCr2O3、FeOはシリコクロム32aによって還元されて、低炭素フェロクロム35の溶湯と低炭素フェロクロム
の製造方法における2次スラグ(以下、単に2次スラグ36という)が生成する。クロム鉱石31a中の酸化物であるCr2O3、FeOとシリコクロム32aとの反応は、発熱反応であるので、レードル34が高温になりすぎるおそれがある。このため、冷材としてのクロム鉱石32bをシリコクロム32aと共に添加する。
【0018】
次に、低炭素フェロクロム35の溶湯から2次スラグ36を分離する。2次スラグ36の分離によって得られた低炭素フェロクロム35の溶湯は、鋳型に鋳込まれて製品となる(S21C)。2次スラグ36はレードル40に排出される。
【0019】
2次スラグ36中のクロムの含有量は7〜8質量%である。2次スラグ36中のクロムをシリコクロムとして回収するために、シリコクロム回収工程(S22)が設けられる。シリコクロム回収工程(S22)では、まず、2次スラグ36に金属シリコン37を添加して撹拌する(S22A)。2次スラグ36中に残留している酸化クロムは、金属シリコン37によって還元されて、回収シリコクロム38と3次スラグ39が生成する。3次スラグ39は、シリコクロムの溶湯から分離されて、路盤材等として使用される(S22B)。3次スラグ39中のクロムの含有量は、1.0質量%未満である。
【0020】
シリコクロム回収工程(S22)で回収されたシリコクロム(回収シリコクロム38)は、鋳込まれた後(S22C)、
図1に示す製造方法によって製造されたシリコクロム17(
図1参照)、及び購入品のシリコクロムと共に、低炭素フェロクロム製造工程(S21)の還元剤のシリコクロム32aとして使用される。
【0021】
本実施形態の低炭素フェロクロムの製造方法によれば、還元剤としてのシリコクロム32a(
図2参照)が
図1に示すシリコクロムの製造方法によって製造されたマンガン含有量の低いシリコクロム17(
図1参照)を含むので、製品の低炭素フェロクロム35中のマンガン含有量も低くすることができる。また、シリコクロム32a(
図2参照)が回収シリコクロム38(
図2参照)を含むので、低炭素フェロクロムを製造する際のクロムの歩留まりも向上させることができる。さらに、購入品のシリコクロムがマンガン含有量の低いシリコクロム17(
図1参照)及び回収シリコクロム38(
図2参照)によって代替されるので、購入品のシリコクロムを節減することができる。
【0022】
なお、本発明は上記実施形態に具現化されるのに限られることはなく、本発明の要旨を変更しない範囲で様々な実施形態に具現化可能である。
【0023】
例えば、上記実施形態では、シリコクロム
の製造方法における1次スラグに金属シリコンを添加しているが、金属シリコンの替わりにフェロシリコンを添加することもできるし、金属シリコン及びフェロシリコンの両方を添加することもできる。
【0024】
また、上記実施形態では、低炭素フェロクロム
の製造方法における2次スラグに金属シリコンを添加しているが、金属シリコンの替わりにフェロシリコンを添加することもできるし、金属シリコン及びフェロシリコンの両方を添加することもできる。
【実施例1】
【0025】
図1の工程図に従ってシリコクロムを製造した。電気炉に、鉱石、石灰、中間スラグ、土壌黒鉛、キャスター屑を調合して装入し、電気炉内でこれらを溶解させて、1次スラグを生成した。1次スラグは合計6タップ生成した。表1に本実施例で使用した原料の配合例を示す。なお、表1中の中間スラグは、
図2の工程図で製造される2次スラグ36であり、炉内のガスを抜け易くし、炉内の溶解性を高めるために使用される。キャスター屑は、Al
2O
3を主成分とするもので、炉内の溶解性を高めるために装入される。土壌黒鉛は、電気を通しやすくするために装入される。
【表1】
【0026】
次に、1次スラグをレードルに出湯し、レードルに表2に示す配合例の金属シリコンと鉱石を追装した。
【表2】
【0027】
次に、生成した2次スラグを分離し、シリコクロムを鋳型に鋳込んだ。シリコクロムの組成は表3のとおりである。1〜6のいずれのタップでもマンガン含有量が0.43質量%以下のマンガン含有量の低いシリコクロムが得られた。
【表3】
【0028】
図3の工程図に従ってフェロシリコン9の替わりに金属シリコンを使用して、回収シリコクロムを製造した。表4に回収シリコクロムの品位を示す。
【表4】
【0029】
回収シリコクロム中のMn含有量は2.3%と高い。シリコクロムが系内を循環するので、マンガンが濃縮しているからである。また、回収シリコクロム中のFe含有量は9.6%であり、本発明例のシリコクロムのFe含有量(平均14.6%)よりも低い。鉄の含有量が低くなっている2次スラグに金属シリコンを添加するからである。
【符号の説明】
【0030】
11a…クロム鉱石
11b…石灰
12…電気炉(炉)
13…シリコクロム
の製造方法における1次スラグ
14…レードル
15a…金属シリコン
15b…クロム鉱石
16…シリコクロム
の製造方法における2次スラグ
17…シリコクロム
31a…クロム鉱石
31b…石灰
32…電気炉
32a…シリコクロム
32b…クロム鉱石
33…フェロクロム
の製造方法における1次スラグ
34…レードル
35…低炭素フェロクロム
36…低炭素フェロクロム
の製造方法における2次スラグ
37…金属シリコン
38…回収シリコクロム
39…3次スラグ
40…レードル