特許第6341725号(P6341725)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6341725
(24)【登録日】2018年5月25日
(45)【発行日】2018年6月13日
(54)【発明の名称】加飾樹脂成形品
(51)【国際特許分類】
   B32B 15/08 20060101AFI20180604BHJP
【FI】
   B32B15/08 H
【請求項の数】6
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-74253(P2014-74253)
(22)【出願日】2014年3月31日
(65)【公開番号】特開2015-196280(P2015-196280A)
(43)【公開日】2015年11月9日
【審査請求日】2016年9月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006909
【氏名又は名称】株式会社吉野工業所
(74)【代理人】
【識別番号】100186358
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 信人
(74)【代理人】
【識別番号】100191145
【弁理士】
【氏名又は名称】佐野 整博
(72)【発明者】
【氏名】末木 朋哉
【審査官】 斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−278582(JP,A)
【文献】 特開2007−001247(JP,A)
【文献】 実公昭63−012999(JP,Y2)
【文献】 特開2009−006673(JP,A)
【文献】 特開2010−089399(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/113511(WO,A1)
【文献】 特開2015−085584(JP,A)
【文献】 米国特許第06346318(US,B1)
【文献】 特開2003−144288(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00 − 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸着された加飾樹脂成形品であって、
透明樹脂基材からなる容器のような内表面が凹んだ形状の成形品の外表面だけに形成された蒸着膜層と、
蒸着膜層の表面に形成された透明トップコート層とを有することを特徴とする加飾樹脂成形品。
【請求項2】
透明樹脂基材は、着色透明樹脂基材であり、
透明トップコート層は、着色性トップコート層であることを特徴とする請求項1記載の加飾樹脂成形品。
【請求項3】
蒸着膜層は、アルミニウム蒸着膜層であることを特徴とする請求項1または2記載の加飾樹脂成形品。
【請求項4】
蒸着膜層は、真空蒸着によるものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の加飾樹脂成形品。
【請求項5】
蒸着膜層は、スパッタリングによるものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の加飾樹脂成形品。
【請求項6】
成形品の外表面と蒸着膜層の間に無色透明のアンダーコート層が形成されたことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の加飾樹脂成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加飾樹脂成形品に関し、とくに、蒸着された加飾樹脂成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、樹脂成形品の表面に金属を蒸着してメタリック調にしたり、ハーフミラー調にしたりすることで樹脂成形品の装飾性を高めることが知られている。
たとえば、表面に蒸着による金属蒸着膜が形成された光透過性の樹脂成形品として、ハーフミラーにおけるよりも蒸着膜の膜厚を薄くすることにより、見る方向によっては若干のメタル様の感じを付与させながら、優れた透明性を保持した状態で、使用する金属による独特な色合いを出色させることができるものが従来から知られている(特許文献1参照)。
【0003】
上記特許文献1記載の樹脂成形品は、たとえば容器等の湾曲性の形状を有する場合、該成形品の外表面に均一な蒸着膜層を形成することはできるが、同時に凹んだ内表面に均一な蒸着膜層を形成することは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−15867号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
また、樹脂成形品に装飾性や高級感を付与すべく、樹脂成形品の全表面に蒸着膜を形成するには、蒸着工程において樹脂成形品を治具に取り付ける必要があり、樹脂成形品全体に蒸着膜を形成することは困難であった。
その理由は、通常、治具を取り付けるのは樹脂成形品のゲート部(成形樹脂の注入部)であり、蒸着工程終了後に不要なゲート部をカットする必要があり、カットした部分だけに蒸着膜が形成されていないので、樹脂成形品にカットしたゲート部の跡が残るからである。
【0006】
本発明は、上記問題を解決することを課題とし、透明樹脂成形品の外表面だけに蒸着を施しただけで、外表面側から見た色合いと内表面側から見た色合いが近似して見える加飾樹脂成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記の課題を解決するため、加飾樹脂成形品として、蒸着された加飾樹脂成形品であって、透明樹脂基材からなる容器のような内表面が凹んだ形状の成形品の外表面だけに形成された蒸着膜層と、蒸着膜層の表面に形成された透明トップコート層とを有することを特徴とする構成を採用する。
透明樹脂基材および透明トップコート層の実施形態として、透明樹脂基材は、着色透明樹脂基材であり、透明トップコート層は、着色性トップコート層であることを特徴とする構成を採用する。
【0008】
蒸着膜層の実施形態として、蒸着膜層は、アルミニウム蒸着膜層であることを特徴とする構成を採用する。
蒸着膜形成の具体的実施形態として、蒸着膜層は、真空蒸着によるものであることを特徴とする構成を採用し、また、蒸着膜層は、スパッタリングによるものであることを特徴とする構成を採用する。
【0009】
加飾樹脂成形品の別の実施形態として、成形品の外表面と蒸着膜層の間に無色透明のアンダーコート層が形成されたことを特徴とする構成を採用する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の加飾樹脂成形品は、透明樹脂基材からなる容器のような内表面が凹んだ形状の成形品の外表面だけに形成された蒸着膜層と、蒸着膜層の表面に形成された透明トップコート層とを有することにより、内表面が凹んだ形状の樹脂成形品の外表面だけを蒸着しただけで、あたかも樹脂成形品全面に蒸着が施されたような視覚的な印象を与えることができる。
【0011】
また、本発明の加飾樹脂成形品は、内表面が凹んだ形状の樹脂成形品であっても、その外表面だけに蒸着膜層を形成を形成しているので、蒸着工程で特別な工夫をしなくとも、外表面に均一な蒸着膜層を形成することができ、作業効率も向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施例である加飾樹脂成形品としてのオーバーキャップを示す図であり、(a)は側断面図であり、(b)は要部拡大断面図である。
図2】本発明の実施例であるオーバーキャップを用いる噴霧ボトルの半断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明の加飾樹脂成形品について、実施例に示した図面を参照して説明する。
【0014】
本実施例は、加飾樹脂成形品を噴霧ボトルのオーバーキャップとして具体化したものであり、図2に、オーバーキャップを装着する噴霧ボトルの概要が示されており、AはボトルFの口部に装着されたキャップDに嵌着されたオーバーキャップ、BはシリンダーEに接続されたスプレーの頭部、CはキャップDの周囲を覆う金冠である。
【0015】
図1(a)に示すように、オーバーキャップAは、頂壁1と、頂壁1の周縁から垂下された外周壁2と、外周壁3の内周下端に形成された嵌合部3とから構成されている。
嵌合部3は、図2に示すキャップDの外周下端部に嵌合するようになっている。
【0016】
オーバーキャップAの素材である樹脂としては、とくに限定されるものでなく、たとえば、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂等の無色透明な樹脂を使用することができ、この樹脂に透明性を損なわない範囲で着色のための染料あるいは顔料による着色したものを使用することにより、後述する蒸着膜層と組み合わせることにより、色合いを変化させることができる。
【0017】
オーバーキャップAの外表面は、頂壁外表面4と、外周壁外表面5とで構成され、同様に、オーバーキャップAの内表面は、頂壁内表面6と、外周壁内表面8とで構成されている。
つぎに、オーバーキャップAの外表面である頂壁外表面4と、外周壁外表面5とに蒸着を施す工程について、図1(b)を用いて説明する。
【0018】
着色透明樹脂基材からなるオーバーキャップAの頂壁外表面4と外周壁外表面5とに無色透明のアンダーコート層9を形成する。
アンダーコート層は、アンカー層とも呼ばれ、アクリル樹脂系の紫外線(UV)硬化塗膜や、加熱乾燥タイプの塗膜等がよく使用されるが、とくに限定されるものではなく、その塗膜厚さは約7〜8μm程度が好ましい。
アンダーコート層を形成することにより、後述する蒸着膜層10をしっかりと頂壁外表面4と外周壁外表面5に密着固定することができ、蒸着膜層10の部分的な剥離を防いで、装飾効果を高品位に維持することができる。
【0019】
アンダーコート層9の表面には、蒸着膜層10を形成する。
蒸着膜層10は、各種の金属を使用することができ、その膜厚は、使用する金属や蒸着法にもよるが、約1000オングストローム(0.1μm)程度が好ましい。
蒸着する材料に限定はなく、通常アルミニウム、銀、金、銅、ロジウム、クロム、ニッケル、白金、チタン、モリブデン、タングステン等の各種金属を目的に応じて使用できる。
【0020】
また、蒸着法としては、真空蒸着法やスパッタリングなど、とくに限定されるものではないが、通常、真空蒸着法が用いられ、たとえばキャップ等の内表面が凹んだ形状を有する樹脂成形品であっても、該成形品の凹部をマスキングするように、公転および自転を組み合わせた回転装置に取り付けることにより、成形品の外表面全体に均一に蒸着膜を形成することができる。
【0021】
蒸着膜層10の表面には、着色性トップコート層11を形成する。
着色性トップコート層11は、着色用の顔料、着色剤等を含んだもので、たとえば紫外線硬化塗料、アクリル系塗料、ウレタン塗料等を使用することができ、その塗膜厚さは約7〜8μm程度が好ましい。
使用する顔料についてとくに制限はなく、たとえばカーボンブラック、酸化鉄、群青、酸化チタン、チタンイエロー、二酸化チタン、無機珪素化合物(雲母類、カオリン類)等を使用することができる。
【0022】
本実施例では、着色性トップコート層11は、通常のトップコート層のように、有色不透明とすると、内側に積層された蒸着膜層10の色合いを外表面側から見えなくするので、着色性トップコート層11として、塗膜厚さを薄くしたり、着色剤を少量、微分散して有色透明とすることで、内側に積層する蒸着膜層10の色合いを反映して全体としてメタリック調の外観を呈するようにすることができる。
【0023】
さらに、着色性トップコート層11の表面に、必要に応じて、透明性膜でクリアコート層を形成して、着色性トップコート層11の表面を保護するようにしてもよい。
【0024】
次に、本実施例の使用態様と作用効果について説明する。
本実施例のオーバーキャップAは、図1(b)に示すように着色透明樹脂基材としての頂壁外表面4と外周壁外表面5にアンダーコート層9と、蒸着膜層10と、着色性トップコート層11を積層しているが、頂壁内表面6と外周壁下端面7と外周壁内表面8には、アンダーコート層9と、蒸着膜層10と、着色性トップコート層11を形成していない。
【0025】
そして、蒸着膜層10の材料として、たとえば、アルミニウムを用いると銀色の色合いを呈するが、この上に薄黄色の着色性トップコート層11を形成すると、矢印Oで示す外表面側から見ると金色の色合いに見えるとともに、矢印Iで示す内表面側から見ると透明プラスチック基材が薄黄色に着色されていることから、互いに近似した金色の色合いに見える。
このように、本実施例のオーバーキャップAは、あたかも樹脂基材の全面に金色の蒸着膜層を形成したように見せることができるので、樹脂成形品の装飾性を高めることができる。
【0026】
さらに、本実施例のオーバーキャップAのように、内表面が凹んだ形状の樹脂成形品の外表面だけに蒸着膜層を形成しているので、真空蒸着法を用いるときに特別な工夫をしなくとも、外表面に均一な蒸着膜層を形成することができ、作業効率も向上できる。
【0027】
また、本実施例の加飾樹脂成形品であるオーバーキャップAは、図2に示すように、その嵌合部3が、噴霧ボトルのキャップDの外周下端部に嵌着することにより噴霧ボトルの頭部B等を密封するものである。
このオーバーキャップAを使用するに当たって、その嵌合部3は、外表面でないため、蒸着が施されておらず、噴霧ボトルの頭部B等を密封および開封するためにオーバーキャップAを着脱しても、外表面に施された蒸着が噴霧ボトルのキャップDとの摩擦により剥離することを防止できる。
【0028】
本実施例は、噴霧容器のオーバーキャップとして加飾樹脂成形品を具体化しているが、これに限らず、コンパクトケースや口紅などの化粧料容器としてはもちろんのこと、装飾性を高めた各種ジャー容器等として使用できる。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明の加飾樹脂成形品は、あたかも樹脂成形品全面に蒸着が施されたような視覚的な印象を与えることができるから、加飾樹脂成形品として広く使用することができ、特に、装飾性を発揮させる必要がある化粧料などを収納する容器のパーツとして好適である。
【符号の説明】
【0030】
A オーバーキャップ
B 頭部
C 金冠
D キャップ
E シリンダー
F ボトル
I 内面視
O 外面視
1 頂壁
2 外周壁
3 嵌合部
4 頂壁外表面
5 外周壁外表面
6 頂壁内表面
7 外周壁下端面
8 外周壁内表面
9 アンダーコート層
10 蒸着膜層
11 トップコート層
図1
図2