(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記隠蔽部の前記樹脂バインダーが、ウレタン変性共重合ポリエステルと塩化ビニル・酢酸ビニルコポリマーとを含み、かつ前記隠蔽部の前記複数種の着色顔料の少なくとも1種が、塩化ビニル・酢酸ビニルコポリマーを含むキャリア樹脂によってコーティングされている、請求項4に記載の感熱基材。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2及び特許文献3では、隠蔽ベタ層の上から2次元コードをサーマルプリントすると、2次元コードがプリントされた箇所の隠蔽ベタ層の光沢が変化することで2次元コードが目視できてしまうという課題があり、これらの文献では、それぞれその課題を解決する手段を記載している。
【0008】
具体的には特許文献2に記載の印刷物では、隠蔽ベタ層の上に光沢の変化を低くするためのトップコート層を与えることで、その課題を解決しようとしている。
【0009】
また、特許文献3に記載の印刷物でも、隠蔽ベタ層の上に光沢の変化をカモフラージュするためのカモフラージュ層を設けることで、上記課題を解決しようとしている。
【0010】
しかし、特許文献2のようにトップコート層をさらに設ける構成、及び特許文献3のようにカモフラージュ層をさらに設ける構成では、2次元コードをサーマルヘッドで熱をかけてサーマルプリントする際、サーマル層に熱が伝わりにくいという問題がある。つまり、サーマルヘッドの熱を、トップコートやカモフラージュの印刷層が遮熱してしまう可能性があるということである。このような場合、例えば自動発券機のような、2次元コードをその場でサーマルプリントする用途においては、2次元コードのプリントが不十分となってしまい、2次元コードとして不適合となる場合があることが分かった。
【0011】
そこで本発明では、識別コードをサーマルプリントする際に熱を伝えやすく、かつ一般的なコピー機を用いても識別コードを偽造することが困難な、識別コードプリント用の感熱基材を与えることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、鋭意検討したところ、以下の手段により上記課題を解決できることを見出した。すなわち、本発明は以下の通りである:
〈1〉基材層、余白部及びコード部を含む識別コードをサーマルプリントするためのサーマル層、及び隠蔽部を有する、識別コードプリント用の感熱基材であって、
前記識別コードのコード部は、赤外光吸収性でかつ可視光吸収性であり;
前記隠蔽部は、赤外透過性でかつ可視光吸収性であり;かつ
前記隠蔽部は、以下の数式を満たす、感熱基材:
A−B<0.10
A:トンボ鉛筆株式会社製MONOプラスチック消しゴムを用いて、荷重1800gfの圧力で300往復する擦過試験を行う前の400nm〜1120nmの波長間でのPCS値、
B:トンボ鉛筆株式会社製MONOプラスチック消しゴムを用いて、荷重1800gfの圧力で300往復する擦過試験を行った後の400nm〜1120nmの波長間でのPCS値。
〈2〉前記隠蔽部は、複数種の着色顔料、樹脂バインダー、及び溶媒を含む混色インキを用いて印刷されており、
前記樹脂バインダーが、ポリエステル、ウレタン変性共重合ポリエステル、ニトロセルロース、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリヒドロキシポリエーテル、及びポリウレタンからなる群より選択される耐可塑剤樹脂と、塩化ビニル・酢酸ビニルコポリマーとを含み、前記耐可塑剤樹脂が、前記樹脂バインダーの全重量に対して50重量%超である、上記〈1〉に記載の感熱基材。
〈3〉前記隠蔽部の前記樹脂バインダーが、ウレタン変性共重合ポリエステルと塩化ビニル・酢酸ビニルコポリマーとを含む、上記〈2〉に記載の感熱基材。
〈4〉前記隠蔽部の前記複数種の着色顔料の少なくとも1種が、前記樹脂バインダーの樹脂を含むキャリア樹脂によってコーティングされている、上記〈2〉又は〈3〉に記載の感熱基材。
〈5〉前記キャリア樹脂が、塩化ビニル・酢酸ビニルコポリマーを含む、上記〈4〉に記載の感熱基材。
〈6〉基材層、余白部及びコード部を含む識別コードをサーマルプリントするためのサーマル層、及び表面上の隠蔽部を有する感熱基材であって、
前記識別コードのコード部は、赤外光吸収性でかつ可視光吸収性であり;
前記隠蔽部は、赤外透過性でかつ可視光吸収性であり;かつ
前記隠蔽部は、複数種の着色顔料、樹脂バインダー、及び溶媒を含む混色インキを用いて印刷されており、
前記樹脂バインダーが、ポリエステル、ウレタン変性共重合ポリエステル、ニトロセルロース、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリヒドロキシポリエーテル、及びポリウレタンからなる群より選択される耐可塑剤樹脂と、塩化ビニル・酢酸ビニルコポリマーとを含み、前記耐可塑剤樹脂が、前記樹脂バインダーの全重量に対して50重量%超である、
感熱基材。
〈7〉前記隠蔽部の前記樹脂バインダーが、ウレタン変性共重合ポリエステルと塩化ビニル・酢酸ビニルコポリマーとを含み、かつ前記隠蔽部の前記複数種の着色顔料の少なくとも1種が、塩化ビニル・酢酸ビニルコポリマーを含むキャリア樹脂によってコーティングされている、上記〈6〉に記載の感熱基材。
〈8〉前記混色インキが、他の成分の固形分100質量部に対して、シリコーン系樹脂及び/又はフッ素系樹脂からなる滑剤を20重量部以下で含む、上記〈2〉〜〈7〉のいずれか一項に記載の感熱基材。
〈9〉前記サーマル層と前記隠蔽部との間に、保護層を含む、上記〈1〉〜〈8〉のいずれか一項に記載の感熱基材。
〈10〉上記〈1〉〜〈9〉のいずれか一項に記載の感熱基材に、識別コードがサーマルプリントされている、識別コード付き印刷物。
【発明の効果】
【0013】
本発明の識別コードプリント用の感熱基材によれば、比較的低い熱量で識別コードをサーマルプリントすることができ、サーマルプリントしたことで得られた識別コード付き印刷物は、容易に偽造することができないため有用である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
《識別コードプリント用の感熱基材》
本発明の感熱基材は、基材層、余白部及びコード部を含む識別コードをサーマルプリントするためのサーマル層、及び隠蔽部を有する。
【0016】
識別コードのコード部及び隠蔽部はいずれも可視光を吸収するため目視ではいずれも同色であり、本発明の感熱基材に識別コードをサーマルプリントした場合は、隠蔽部の存在によって、識別コードのコピー機による複製及び目視での複製を防止することができる。これに対して、識別コードリーダーが主に用いる850nm付近の赤外光では、識別コードのコード部は光を吸収する一方で、隠蔽部は光を透過するため、隠蔽部があっても識別コードリーダーはコードを読み取ることができる。
【0017】
図1は、(a)目視で見た場合(可視光)と(b)リーダーで読み取る場合(赤外光)の印刷物100の見え方の概略図であり、目視の場合には隠蔽部3が識別コード(QRコード)4を隠蔽しているが、リーダーが読み取る場合には隠蔽部3は赤外光を透過して識別コード4を隠蔽していない。
【0018】
(基材層)
基材層は、識別コードリーダーが用いる波長の赤外光を反射することが好ましい。すなわち、基材層のみで880nm〜930nmの波長の光を用いて測定した場合に、その平均反射率は、60%以上、70%以上、又は80%以上であることが好ましい。
【0019】
基材層は、それ単独では、白色であってもよく、又は他の色を有していてもよいが、460nm〜650nmの波長の光を用いて測定した場合、その平均反射率は、50%以上、60%以上、70%以上、又は80%以上であることが好ましい。
【0020】
ここで本明細書においては、880nm〜930nmの波長間での平均反射率は、光学濃度計であるサカタインクスエンジニアリング株式会社製のプリントコントラストメーターMR−12で、Dフィルターを用いて測定した値をいう。また、460nm〜650nmの波長間での平均反射率は、同機種でAフィルターを用いて測定した値である。
【0021】
このような基材層としては、その上にサーマル層を形成できれば特に制限されないが、例えば上質紙、再生紙、コート紙、ラベルなどの紙類、ポリエステルフィルム、ポリプロピレンフィルムなどの樹脂フィルムを使用することができる。
【0022】
(サーマル層)
サーマル層としては、サーマルプリントされた部分が赤外光を吸収し、サーマルプリントされない部分が赤外光を透過又は反射する性質があれば特に限定されない。例えば、サーマル層としては、赤外発色するロイコ染料(電子供与体)と酸性物質(電子受容体)を樹脂バインダー中に固体微粒子として分散させたものが使用できる。
【0023】
サーマル層を有する基材にサーマルヘッドで加熱すると、ロイコ染料と酸性物質の両成分が互いに反応して、赤外光を吸収する特性を有するようになる。
【0024】
(識別コード)
識別コードは、上記のサーマル層にサーマルプリントされる。識別コードは、余白部及びコード部を含み、そのコード部は識別コードのリーダーが用いる波長の赤外光を吸収し、僅かしか反射しない。
【0025】
具体的には、識別コードのコード部は、その下に白色基材のみを配置して測定した場合に、880nm〜930nmの波長間での平均反射率が、20%以下、15%以下、10%以下、又は8%以下となる。ここで、その白色基材とは、460nm〜650nmの波長間での平均反射率が50%以上、60%以上、70%以上、又は80%以上であり、880nm〜930nmの波長間での平均反射率が50%以上、60%以上、70%以上、又は80%以上である白色の基材をいう。
【0026】
880nm〜930nmの波長間での識別コードのコード部のPCS値は、好ましくは0.75以上、0.80以上、0.85以上、又は0.90以上である。PCS値とは、識別コードの読取率に影響を与える、コード部と余白部との反射率から計算される値である。ここで、本明細書においては、880nm〜930nmの波長間でのPCS値とは、上記の白色基材上に配置している測定対象を、光学濃度計であるサカタインクスエンジニアリング株式会社製のプリントコントラストメーターMR−12で、Dフィルターを用いて測定したPCS値をいう。この測定は、基材の厚みに測定値が影響を受けないようにして行われ、例えばJIS−X9004に規定されている十分な裏当て法に準拠して測定が行われる。
【0027】
さらに、識別コードのコード部は、可視光を吸収し、好ましくは目視で黒色である。具体的には、識別コードのコード部は、その下に白色基材のみを配置して測定した場合に、460nm〜650nmの波長の光に対する平均反射率は、30%以下、20%以下、15%以下、10%以下、又は8%以下となる。
【0028】
460nm〜650nmの波長間での識別コードのコード部のPCS値は、好ましくは0.75以上、0.80以上、0.85以上、又は0.90以上である。本明細書においては、460nm〜650nmの波長間でのPCS値とは、上記の白色基材上に配置している測定対象を、光学濃度計であるサカタインクスエンジニアリング株式会社製のプリントコントラストメーターMR−12で、Aフィルターを用いて測定したPCS値をいう。
【0029】
識別コードとしては1次元コード及び2次元コードが挙げられる。さらに1次元コードとしては、具体的には、CODE39、CODE128、JAN、ITF等のバーコードが挙げられ、2次元コードとしては、具体的には、QRコード、PDF417、データマトリックス、CPコード、MaxiCode等が挙げられる。
【0030】
(隠蔽部)
隠蔽部は、本発明の感熱基材の最表面の少なくとも一部を構成している。隠蔽部は、可視光吸収性であり、かつ識別コードのリーダーが用いる波長の赤外光を透過する。
【0031】
本発明者らは、感熱基材に形成される隠蔽部がその表面に最位置する場合に、トップコート層が存在しないことによってサーマルヘッドからサーマル層への伝熱については有利であるものの、一般的な混色インクで隠蔽部を印刷すると偽造防止性については著しく低下することを見出した。これは、一般的な混色インクが、樹脂バインダーとして、塩化ビニル・酢酸ビニルコポリマーを用いており、可塑剤としてフタル酸ジオクチル(DOP)を含有している消しゴムによって容易に除去されてしまうことによる。
【0032】
それに対して、本発明者らは、隠蔽部が次の数式を満たす場合には、偽造防止性が維持できることを見出した:A−B<0.10
(ここで、A:トンボ鉛筆株式会社製MONOプラスチック消しゴムを用いて、荷重1800gfの圧力で300往復する擦過試験を行う前の400nm〜1120nmの波長間でのPCS値;
B:トンボ鉛筆株式会社製MONOプラスチック消しゴムを用いて、荷重1800gfの圧力で300往復する擦過試験を行った後の400nm〜1120nmの波長間でのPCS値)。
【0033】
上記A−Bは、好ましくは0.08以下、0.06以下、又は0.05以下である。本明細書においては、400nm〜1120nmの波長間でのPCS値とは、上記の白色基材上に配置している測定対象を、光学濃度計であるサカタインクスエンジニアリング株式会社製のプリントコントラストメーターMR−12で、Bフィルターを用いて測定したPCS値をいう。
【0034】
ここで、このプラスチック消しゴムは可塑剤を含むものであり、JIS S 6050の規格に準拠したものを用いる。当該プラスチック消しゴムは、塩化ビニル樹脂製を使用する。このようなプラスチック消しゴムとして代表的には、トンボ鉛筆株式会社製MONO消しゴムを使う。これは特に、2014年6月1日時点で製造販売されているものをいう。また、この擦過試験は、JIS P8136に準拠して、板紙耐摩擦試験機(熊谷理化工業(株)製)を用いて行う。ここでは、試験機の摩擦子に上記の消しゴム(縦10mm、横20mm、厚さ5mm)を両面テープで固定し、試験台に試験サンプル(隠蔽部を有する感熱基材)を固定し、荷重1800gfの圧力で300往復させる。さらにこの試験においては、消しゴムが小さくなるため、150往復時点で消しゴムを交換する。
【0035】
このような構成の隠蔽部であれば、ポリ塩化ビニル用の可塑剤(例えば、フタル酸ジオクチル(DOP)、フタル酸ジイソノニル(DINP)等のフタル酸系の可塑剤)と隠蔽部とが接触した場合であっても、隠蔽部が容易に除去されることはなく、高い偽造防止性を維持することができる。
【0036】
隠蔽部は、赤外光を透過するため、その下に白色基材のみを配置して測定した場合、880nm〜930nmの波長間での平均反射率は、例えば65%以上、70%以上、80%以上、85%以上である。
【0037】
880nm〜930nmの波長間での隠蔽部の白色基材とのPCS値は、好ましくは0.20以下、0.15以下、0.10以下、又は0.05以下である。
【0038】
各隠蔽部は、可視光吸収性であり、目視で好ましくは黒色である。具体的には、本発明の印刷物を識別コードがその下に存在しない隠蔽部上において460nm〜650nmの波長の光を用いて測定した場合、平均反射率は、30%以下、20%以下、15%以下、10%以下、又は8%以下となる。
【0039】
460nm〜650nmの波長間での隠蔽部の白色基材とのPCS値は、好ましくは0.75以上、0.80以上、0.85以上、又は0.90以上である。
【0040】
識別コードのコード部の色と、隠蔽部の色の明度の差は、大きいと目視で容易に識別できてしまうために、小さい方が好ましい。具体的には、隠蔽部と、隠蔽部がその上に存在しない識別コードのコード部上との間で、460nm〜650nmの波長の光に対する平均反射率の差は10%以下、8%以下、5%以下、3%以下、又は1%以下であることが好ましい。また、460nm〜650nmの波長間での、識別コードのコード部のPCS値と、隠蔽部のPCS値との差は、好ましくは0.12以下、0.10以下、0.08以下、0.05以下、0.03以下、又は0.02以下である。
【0041】
隠蔽部は、本発明の感熱基材の表面上であって、サーマル層上の識別コードがサーマルプリントされる部分の少なくとも一部上、及び識別コードがサーマルプリントされないサーマル層の少なくとも一部上に存在する。
【0042】
例えば、識別コードがQRコードである場合、隠蔽部で隠蔽される部分の面積が小さすぎると、コピー機でコピーしたQRコードが読み込み可能となる場合がある。一方で、隠蔽部で識別コードの全面積を隠蔽すると、識別コード付き印刷物の利用者が、印刷物のどこに識別コードがあるのか分かりにくくなる場合がある。したがって、隠蔽部は、識別コードがプリントされる部分の30%以上、40%以上、又は50%以上の面積に好ましくは存在し、100%以下、80%以下、又は60%以下の面積に好ましくは存在する。また、QRコードの位置検出パターン、クワイエットゾーンなどの隠蔽することで、QRコードが読み取り不可となるような部分を隠蔽するように隠蔽部を設計しても良い。
【0043】
このような隠蔽部を得るために、隠蔽部を一度印刷した後に、2回又は3回以上重ねて印刷したり、インキの着色剤の濃度を高めたりすることができる。
【0044】
隠蔽部は、ベタ層であってもよいが、規則的又は不規則な線若しくは点で描かれた、多角形、円若しくは楕円、文字、模様等、識別コードを目視で読み取りにくくする印刷であることが好ましい。
【0045】
2次元コードのコード部の1セルの辺長と、隠蔽部を構成する線の径又は点の最小径とは同程度であることが、目視で読み取りにくくするために好ましい。具体的には、隠蔽部を構成する線の径又は点の最小径の、2次元コードのコード部の1セルの辺長に対する比(隠蔽部の径/2次元コードの辺長)は、0.5以上、0.7以上、又は0.9以上であることが好ましく、かつ2.0以下、1.5以下、又は1.2以下であることが好ましい。
【0046】
識別コードの余白部の面積の、識別コード全体の面積に対する比(識別コードの余白部の面積/識別コードの面積:識別コードの余白率)と、上記識別コード上に隠蔽部が存在しない部分の、識別コード全体の面積に対する比(識別コード上に隠蔽部が存在しない部分の面積/識別コードの面積:隠蔽部の不存在率)との差は、同程度であることが好ましい。具体的には、この差(識別コードの余白率−隠蔽部の不存在率)は、0.4以下、0.3以下、0.2以下、又は0.1以下であることが好ましい。
【0047】
(隠蔽部−混色インキ)
上記のような隠蔽部を、複数種の着色顔料、樹脂バインダー、及び溶媒を含む混色インキ、特に混色黒インキを用いて印刷することができる。例えば、混色黒インキは、シアン、マゼンタ、及びイエローの三色の着色顔料を混合することによって調製することができる。これらの各色の顔料は、識別コードリーダーが用いる波長域の赤外光は吸収しないため、混合しても赤外光は吸収しない一方で可視光域では黒色を呈する。
【0048】
隠蔽部を印刷するための混色インキ中に含まれる着色顔料としては、キャリア樹脂でコーティングされている顔料を用いることができ、このキャリア樹脂は、樹脂バインダーに含まれる樹脂と同じ樹脂を含むことが好ましい。それによりインキ中での顔料の分散性を高めることができる。このような顔料としては、特開2008−23933号公報に記載のものを挙げることができる。
【0049】
例えば着色顔料として、塩化ビニル・酢酸ビニルコポリマーをキャリア樹脂とする、BASFジャパン(株)社製のマイクロリスYellow3G−K/KP、マイクロリスYellow2R−K/KP、マイクロリスYellow3R−K/KP、「マイクロリスBrown2R−K、マイクロリスBrown5R−K/KP、マイクロリスScarletR−K/KP、マイクロリスRedBR−K/KP、マイクロリスRed4C−K、マイクロリスMagenta174−K、マイクロリスVioletB−K/KP、マイクロリスBlueA3R−K/KP、マイクロリスBlue4G−K/KP、マイクロリスGreenG−K/KP等、富士色素(株)社製のIKイエロー、IKレッド、IKブルー、IKグリーン等を挙げられる。
【0050】
隠蔽部を印刷するための混色インキ中の着色顔料の含有量は、適度な粘度と着色が得られるように、1.0重量%以上、3.0重量%以上又は5.0重量%以上であることが好ましくは、また30.0重量%以下、20.0重量%以下、又は10.0重量%以下であることが好ましい。
【0051】
隠蔽部を印刷するための混色インキに含まれる樹脂バインダーとしては、ポリエステル、ウレタン変性共重合ポリエステル、ニトロセルロース、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリヒドロキシポリエーテル、及びポリウレタンからなる群より選択される耐可塑剤樹脂と、塩化ビニル・酢酸ビニルコポリマーとを含むことが好ましく、この場合、耐可塑剤樹脂が、樹脂バインダーの全重量に対して50重量%超であることが好ましい。
【0052】
塩化ビニル・酢酸ビニルコポリマーは、インキ用バインダーとして汎用性が高く、印刷面への定着性能が高いために有用である。しかし、本発明者らは、汎用性の高い塩化ビニル・酢酸ビニルコポリマーのみで樹脂バインダーを構成し、隠蔽部を表面に印刷した場合には、識別コードをプリントした後に得られる識別コード付き印刷物の偽造防止性が低下することを見出した。
【0053】
すなわち、塩化ビニル・酢酸ビニルコポリマーのみで樹脂バインダーを構成した場合、表面上にある隠蔽部と、ポリ塩化ビニル用の可塑剤(例えば、フタル酸ジオクチル(DOP)、フタル酸ジイソノニル(DINP)等のフタル酸系の可塑剤)とが接触すると、隠蔽部が容易に除去された。
【0054】
そこで、本発明者らは、上記の耐可塑剤樹脂を、塩化ビニル・酢酸ビニルコポリマーと組み合わせて樹脂バインダーに用いることで、容易に除去されない偽造防止性の高い隠蔽部を与えることを見出した。
【0055】
上記の耐可塑剤樹脂の中でも特に、芳香族ポリエステルを基本骨格としているウレタン変性共重合ポリエステル、エステルの繰返し単位とウレタンの繰返し単位とを骨格中に含むウレタン変性共重合ポリエステル等が好ましく、例えば東洋紡(株)製のバイロン(商標)URシリーズを挙げることができる。
【0056】
隠蔽部を印刷するための混色インキ中の、耐可塑剤樹脂と塩化ビニル・酢酸ビニルコポリマーとの重量比は、グラビア印刷をする場合の隠蔽部の印刷面への定着性と可塑剤への耐性とのバランスを考慮して、好ましくは80:20〜45:55、より好ましくは75:25〜40:60とすることができる。樹脂バインダーの全重量に対して、耐可塑剤樹脂は、50重量%超、60重量%以上、70重量%以上、80重量%以上、又は90重量%以上であることが好ましく、塩化ビニル・酢酸ビニルコポリマーは、10重量%以上、20重量%以上、30重量%以上、40重量%以上、又は50重量%未満であることが好ましい。
【0057】
隠蔽部を印刷するための混色インキ中の樹脂バインダーの含有量は、適度な粘度と定着性が得られるように、固形分量で、1.0重量%以上、2.0重量%以上又は3.0重量%以上であることが好ましくは、また15.0重量%以下、10.0重量%以下、又は8.0重量%以下であることが好ましい。
【0058】
混色インキ中で用いられる溶媒としては、炭化水素系溶媒(例えば、トルエン、キシレン、ヘキサン、シクロヘキサン等)、エステル系溶媒(例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル等)、アルコール系溶媒(例えば、イソプロピルアルコール、ブタノール等)、ケトン系溶媒(例えば、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等)を挙げることができる。
【0059】
隠蔽部を印刷するための混色インキ中の溶媒の含有量は、適度な粘度が得られるように、40.0重量%以上、45.0重量%以上又は50.0重量%以上であることが好ましくは、また85.0重量%以下、80.0重量%以下、又は70.0重量%以下であることが好ましい。
【0060】
隠蔽部を印刷するための混色インキ中には、サーマルヘッドのすべり性を向上させるために、滑剤を含むことが好ましい。滑剤としては、シリコーン系樹脂及び/又はフッ素系樹脂を挙げることができる。
【0061】
隠蔽部を印刷するための混色インキ中の滑剤の含有量は、適度な粘度、サーマルヘッドのすべり性、着色剤の定着性が得られるように、0.5重量%以上、1.0重量%以上、3.0重量%以上、又は5.0重量%以上であることが好ましく、また20重量%以下、15重量%以下、又は10重量%以下であることが好ましい。
【0062】
隠蔽部の印刷は、グラビア印刷、オフセット印刷、フレキソ印刷、シルクスクリーン印刷等の公知の方法で行うことができるが、このような混色インキを用いた場合には、隠蔽部は、グラビア印刷で印刷することが好ましい。
【0063】
(他の層)
サーマル層と隠蔽部との間には、サーマル層が容易には着色しないようにするための保護層を含んでもよい。このような保護層の材料としては、サーマル層と隠蔽部との接着性を考慮してその材料が選択される。例えば、保護層は、ポリビニルアルコール系の樹脂から形成されていてもよい。
【0064】
《識別コード付き印刷物》
本発明の識別コード付き印刷物は、上記の識別コードプリント用の感熱基材に、識別コードをサーマルプリントすることによって得られる。
【0065】
図2は、本発明の印刷物の1つの実施態様の層構造を示しており、ここでは本発明の印刷物100は、基材層1、基材層1上のサーマル層2、サーマル層2の保護層5、表面上にある隠蔽部3を有する感熱基材10に、サーマルプリントすることによって、識別コード4がサーマル層2にプリントされている。
【実施例】
【0066】
試験1.様々なインクによって印刷した隠蔽部を有する印刷物の隠蔽性の試験
《サンプル作製》
基材層、サーマル層、及び保護層を有するサーマル紙として、発色させると赤外光吸収がある黒色を呈する白色のサーマル紙(王子イメージングメディア株式会社製;460nm〜650nmの波長間での平均反射率が50%以上であり、880nm〜930nmの波長間での平均反射率が50%以上である白色の基材)を用いた。
【0067】
このサーマル紙に、表1に記載のA〜Hの混色黒インク及び変量したシリコーン樹脂(藤倉化成(株)製、AD8719D)を用いて、規則性のないパターンの隠蔽部をグラビア印刷し、各印字コードプリント用の感熱基材を得た。ここではグラビア印刷を、以下の条件で行った:
グラビアシリンダー:版深40ミクロン、40L/cm;
インキ粘度:ザーンカップ#3で18〜20秒;
印刷速度:40m/分;
乾燥温度:70℃。
【0068】
【表1】
【0069】
なお、塩化ビニル・酢酸ビニルコポリマーとして、日信化学株式会社のソルバイン(商標)A(固形分20%);ウレタン変性共重合ポリエステルとして、東洋紡株式会社バイロン(商標)UR−9500(固形分30%);シアン系顔料としてBASFジャパン株式会社のマイクロリス(商標)ブルー4G−K;マゼンタ系有機顔料としてBASFジャパン株式会社のマイクロリス(商標)レッドBR−K;イエロー系有機顔料としてBASFジャパン株式会社のマイクロリス(商標)イエロー3G−Kを用いた。また、表1中の樹脂バインダーの重量部は、溶媒を含めた量で記載している。
【0070】
上記の感熱基材にサーマルプリンタ(PX430、フェニックス株式会社製)を用いて、印字エネルギー16で、識別コードとしてQRコード(データ:56789、バージョン1、訂正レベル:標準のM、6ドット/セル、300dpi)をサーマルプリントし、表2に記載の実施例1〜41及び比較例1〜6の印刷物を得た。
【0071】
《評価方法》
〈グラビア印刷適性〉
隠蔽部をグラビア印刷により印刷した際に色むらが発生するかどうかを評価した。色むらがない印刷物を○、少し色むらが発生している印刷物を△、ひどい色むらが発生している印刷物を×とした。
【0072】
〈偽造防止性〉
得られた印刷物の隠蔽部に対して、トンボMONOプラスチック消しゴム((株)トンボ鉛筆製)を使いJISP8136に準拠して荷重1800gfで300往復させ、擦過試験を行った。隠蔽部のPCS値を、擦過試験の前後で測定し、擦過試験前のPCS値と擦過試験後のPCS値の差を求めた。なお、PCS値はMR−12(サカタインクスエンジニアリング(株)製)のBフィルター(波長域400〜1220nm)で測定した。ここで、PCS値については、JIS−X−9004に規定された十分な裏当て法に準拠して測定した。擦過試験後に、読取装置(QB−30XB、(株)デンソーウェーブ製)で読み取れないものを○、読み取れるものを×とした。
【0073】
〈印字適性〉
印字後のサーマルヘッドを、100%エタノールをしみこませた綿棒で拭き取り、付着した汚れの量を比較した。汚れがかなり少ないものを◎、少ないものを○、やや多いものを△、かなり多いものを×とした。
【0074】
《評価結果》
評価結果を以下の表2に示す。
【0075】
【表2】
【0076】
ウレタン変性共重合ポリエステルの割合が低いインクを用いた比較例では、消しゴムで隠蔽部が除去されてしまい、偽造防止性が低下してしまった。
【0077】
読取装置(QB−30XB、(株)デンソーウェーブ製)を可視光線で用いて、コピー機による複写物の二次元コードの読取性を、偽造防止性として評価したところ、擦過試験前は全てのサンプルの複写物から2次元コードを読み取ることができなかった。しかし、擦過試験後には、比較例のサンプルの複写物から二次元コードを読み取ることができてしまったのに対し、実施例のサンプルの複写物からは二次元コードを読み取ることができず、コピー防止性があることが分かった。なお、全てのサンプルの2次元コードを、読取装置(QB−30XB、株式会社デンソーウェーブ製)を使い赤外光線で読み取れることができた。
【0078】
試験2.隠蔽部のパターンを変更した印刷物の隠蔽性の試験
《サンプル作製》
試験1の実施例3で用いたのと同じ材料を用いて、隠蔽部のパターンを変えた以外は同様にして実施例42〜50の印刷物サンプルを作成した。
【0079】
各例のパターンの詳細を表3に示す。また、実施例42、44、及び45のサンプルの写真を
図3及び4に示す。
【0080】
これらに対して、サーマルプリンタ(PX430、フェニックス株式会社製)を用いて、印字エネルギー20で、識別コードとしてQRコード(データ:56789、バージョン1、訂正レベル:標準のM、6ドット/セル、300dpi)をプリントした。
【0081】
《評価方法》
上記のようにして得た印刷物の、隠蔽部が上にない箇所のQRコードのコード部、及びQRコードのコード部が下にない隠蔽部の、平均反射率及びPCS値を、光学濃度計(MR−12、サカタインクスエンジニアリング株式会社製)でAフィルター(波長域460〜650nm)及びDフィルター(波長域880〜930nm)を用いて測定した。ここで、PCS値については、JIS−X9004に規定された十分な裏当て法に準拠して測定した。また、Aフィルターを用いた測定した平均反射率及びPCS値について、隠蔽部が上にない箇所のQRコードのコード部の測定値と、QRコードのコード部が下にない隠蔽部の測定値との差を求めた。これらの差が小さい場合には、コード部と隠蔽部との明度の差が小さく、目視での識別性が高くなる。
【0082】
余白部面積の測定には、MYKA研究所のArea Measure(Ver.2.00、リリース日2001年12月14日、ファイル名AM20000.exe)を使用した。ここではまず、隠蔽部のない基材に2次元コードを印刷して、QRコードの余白部面積を測定し、QRコードと同じ面積でQRコードを印刷する前の各サンプルの隠蔽部の不存在部分の面積を測定した。これにより、QRコードの余白率と、隠蔽部の不存在率との余白率を計算し、その差を求めた。
【0083】
隠蔽部の線の径又はチェック柄の正方形の径、及び2次元コードの1セルの辺長を、フィルムゲージで測定して、それらの比(径/セル辺長)を求めた。
【0084】
2次元コードの目視での視認性を隠蔽性として評価した。2次元コードが極めて見えにくい場合には隠蔽性を○、2次元コードが見えにくい場合を△として評価した。
【0085】
コピー機による複写が可能かどうかを、コピー防止性として評価したところ、全てのサンプルで複写物から2次元コードを読み取ることができなかった。
【0086】
《評価結果》
評価結果を以下の表3に示す。
【0087】
【表3】
【0088】
なお、全てのサンプルの2次元コードを、読取装置(QB−30XB、株式会社デンソーウェーブ製)で赤外光線で読み取れることができた。
【0089】
実施例42〜50のサンプルについて、試験1と同様に偽造防止性の試験を行った。結果を表4に示す。実施例42〜50のサンプル全てで、読取装置(QB−30XB、(株)デンソーウェーブ製)の可視光線で読み取ることが出来なかった。また、偽造防止性についての試験も行ったところ、擦過試験後でも、二次元コードを読み取れなかったことから偽造防止性があることが照明された。
【表4】