特許第6341774号(P6341774)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6341774衣服ダメージ加工用シート、ダメージ加工衣服の製造方法、及びダメージ加工衣服
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6341774
(24)【登録日】2018年5月25日
(45)【発行日】2018年6月13日
(54)【発明の名称】衣服ダメージ加工用シート、ダメージ加工衣服の製造方法、及びダメージ加工衣服
(51)【国際特許分類】
   A41D 27/08 20060101AFI20180604BHJP
   B32B 5/02 20060101ALI20180604BHJP
【FI】
   A41D27/08 C
   B32B5/02 Z
【請求項の数】11
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-131044(P2014-131044)
(22)【出願日】2014年6月26日
(65)【公開番号】特開2016-8366(P2016-8366A)
(43)【公開日】2016年1月18日
【審査請求日】2017年3月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】596147323
【氏名又は名称】豊和株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114535
【弁理士】
【氏名又は名称】森 寿夫
(74)【代理人】
【識別番号】100075960
【弁理士】
【氏名又は名称】森 廣三郎
(74)【代理人】
【識別番号】100155103
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 厚
(74)【代理人】
【識別番号】100187838
【弁理士】
【氏名又は名称】黒住 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100194755
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀明
(72)【発明者】
【氏名】片山 二郎
(72)【発明者】
【氏名】前田 進悟
(72)【発明者】
【氏名】山根 修
(72)【発明者】
【氏名】森山 未央
(72)【発明者】
【氏名】田代 雄久
【審査官】 米村 耕一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−280655(JP,A)
【文献】 特開昭56−141877(JP,A)
【文献】 特開昭54−038973(JP,A)
【文献】 特公昭49−033711(JP,B1)
【文献】 特開2013−231260(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41D 27/00−27/28
A41D 1/06
D06C 23/00−23/04
D06Q 1/00−1/14
A41H 27/00
D05C 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、基材の表面に固定される複数の糸条と、基材と複数の糸条との間に設けられ基材及び複数の糸条を貼着する接合層とからなり、
接合層は、水溶性の接合剤からなる衣服ダメージ加工用シート。
【請求項2】
基材は、水に対して溶解又は分散する素材からなる請求項1に記載の衣服ダメージ加工用シート。
【請求項3】
シートが衣服に接面する側に第2接合層をさらに備える請求項1又は2に記載の衣服ダメージ加工用シート。
【請求項4】
第2接合層は、水溶性の接合剤からなる請求項に記載の衣服ダメージ加工用シート。
【請求項5】
衣服は織編布を縫製してなる衣服である請求項1ないしのいずれかに記載の衣服ダメージ加工用シート。
【請求項6】
請求項1ないしのいずれかに記載した衣服ダメージ加工用シートを、適用する衣服の開口の大きさに応じて裁断し、衣服を構成する生地の開口に対して生地の裏面側からあてがって、衣服を構成する生地と衣服ダメージ加工用シートとを接合するダメージ加工衣服の製造方法。
【請求項7】
裁断した衣服ダメージ加工用シートを生地の裏面側からあてがった後、さらに補強材をあてがって、衣服を構成する生地と衣服ダメージ加工用シートと補強材とを縫着する請求項に記載のダメージ加工衣服の製造方法。
【請求項8】
衣服を構成する生地と衣服ダメージ加工用シートと補強材とを縫着した後、衣服を水に浸漬して基材を水に溶解又は分散させる請求項に記載のダメージ加工衣服の製造方法。
【請求項9】
衣服を構成する生地と衣服ダメージ加工用シートと補強材とを縫着した後、衣服を水に浸漬して複数の糸条を貼着する接合層を水に溶解させる請求項又はに記載のダメージ加工衣服の製造方法。
【請求項10】
衣服を構成する生地の開口に対して衣服ダメージ加工用シートを生地の裏面側からあてがった際に、第2接合層によって衣服を構成する生地の裏面に対して衣服ダメージ加工用シートを接合する請求項ないしのいずれかに記載のダメージ加工衣服の製造方法。
【請求項11】
請求項1ないしのいずれかに記載した衣服ダメージ加工用シートを、衣服の開口に対して衣服を構成する生地の裏側から接合したダメージ加工衣服。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジーンズパンツ、ジーンズジャケット、ジーンズシャツなどの衣服に使用する衣服ダメージ加工用シート、ダメージ加工衣服の製造方法、及びダメージ加工衣服に関する。
【背景技術】
【0002】
ジーンズパンツ等は、ジーンズ生地を縫製してなる。ジーンズ生地は、主に綾織組織である。経糸には、インジゴ染料で染色した糸を使用する。そして、緯糸には、未染色の白色糸を使用する。ジーンズ生地は綾織組織であることから、生地表面には経糸が多く露出する。ジーンズパンツ等を着古すと、経糸が摩擦ですり切れて、開口部ができる。開口部には、複数本の緯糸が露出した状態で残る。
【0003】
ジーンズパンツ等のカジュアル衣料品の分野では、着古した風合いが好まれることがある。例えば、特許文献1のように、ジーンズパンツの表面をサンドペーパーやローラーサンダーで研磨することが行われている。この文献に係る発明では、しわ模様を形成した板材をジーンズ生地の裏面にあてがって、サンドぺーパー等で研磨してしわ模様を形成する。
【0004】
特許文献2では、ダメージ加工に使用する当て布が開示されている。この当て布は、開口部を有する布地と、開口部に縫い付けられる複数本の横糸(緯糸)とからなる。ジーンズパンツの開口から、複数本の横糸が見えるように、当て布をジーンズ生地に対して縫着する。開口からは複数本の横糸が見えるため、縦糸(経糸)がすり切れて横糸だけが残った状態を再現することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−155465号公報
【特許文献2】特開2008−280655号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2の当て布は、布地部位に開口を設けて、その開口の内縁部に複数本の横糸を縫着する構成であることから、横糸の縫着に手間がかかるという問題がある。さらに、ジーンズパンツ等の開口に対して当て布が小さい場合は、ジーンズの開口から、当て布の布地部位と横糸の縫着部分が見えてしまう。すなわち、ジーンズパンツの開口の大きさに合わせて、大小さまざまな寸法の当て布が必要になる点で問題である。
【0007】
本発明では、衣服の開口の大きさに応じて裁断して使用することができる衣服ダメージ加工用シートを提供する。また、縫着によらないで簡易に製造することができる衣服ダメージ加工用シートを提供する。また、係る衣服ダメージ加工用シートを使用してダメージ加工衣服を製造する方法を提供する。さらに、係る衣服ダメージ加工用シートを使用したダメージ加工衣服を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
基材と、基材の表面に固定される複数の糸条と、基材と複数の糸条との間に設けられ基材及び複数の糸条を貼着する接合層とからなる衣服ダメージ加工用シート(以下、単にシートと称する)によって、上記の課題を解決する。本発明では、接着剤や粘着剤からなる接合層によって、基材に対して複数の糸条を貼着するので、適用する衣服の開口の大きさに応じてシートを任意の大きさに裁断して衣服に適用することができる。縫着によって複数の糸条を基材に対して固定する場合は、玉止部分や返し縫い部分を裁断すると、糸条が脱落するのでシートを裁断して使用することができない。本発明では、玉止部分や返し縫い部分を有しないので、自由に裁断して使用することが可能である。
【0009】
すなわち、シートを、適用する衣服の開口の大きさに応じて裁断し、衣服を構成する生地の開口に対して生地の裏面側からあてがって、衣服を構成する生地とシートとを接合するダメージ加工衣服の製造方法である。これによって、衣服の開口に対して衣服を構成する生地の裏側からシートを接合したダメージ加工衣服を簡単に製造することができる。
【0010】
基材は、水に対して溶解又は分散する素材から構成することが好ましい。例えば、基材を構成する素材としては、紙や水溶性樹脂からなる水溶性シートを使用する。使用に際しては、本発明のシートを裁断し、シートを生地の裏面側からあてがった後、さらに補強材をあてがって、衣服を構成する生地とシートと補強材とを縫着する。縫着後、衣服を水に浸漬することで基材を溶解又は分散させて取り除くことができる。基材を溶解又は分散させることで、複数の糸条は基材から離れて自由に動けるようになり、衣服の生地を構成する経糸又は緯糸がすり切れた状態を再現することができる。また、基材を溶解又は分散させることで複数の糸条の下の補強材が見えやすくなる。さらに、基材を溶解又は分散させることで衣服の着心地を向上させることができる。この場合において、基材及び複数の糸条を貼着固定する接合層を、水溶性の接合剤から構成してもよい。
【0011】
別の構成として、基材及び複数の糸条を貼着固定する接合層を、水溶性の接合剤から構成することでも同様の効果が得られる。すなわち、衣服を構成する生地とシートと補強材とを縫着した後、衣服を水に浸漬して、水溶性の接合剤を溶解させることで、複数の糸条は基材から離れて自由に動けるようになり、経糸がすり切れて緯糸が露出した状態などの衣服に与えられたダメージを再現することができる。この場合において、基材は水に対して溶解又は分散する素材から構成してもよい。水に対して溶解又は分散する素材を基材として使用するときは、上述の補強材をシートの裏面側からあてがった状態で衣服に縫着する。また、基材は水に対して溶解又は分散しない素材から構成してもよい。この場合は、基材が補強材の役割を担うので、補強材の使用を省略することができる。
【0012】
シートが衣服に接面する側に第2接合層をさらに備えることが好ましい。第2接合層は、衣服に対して接着又は粘着可能な接合剤から構成する。これにより、衣服を構成する生地の開口に対してシートを生地の裏面側からあてがった際に、第2接合層によって衣服を構成する生地の裏面に対してシートを接合することが可能になる。この構成によれば、縫着によらずに、本発明のシートを衣服に貼着することも可能になる。シートと衣服を縫着によって固定する場合でも、シートを第2接合層によって、仮止めすることができるのでシートを衣服に対して容易に縫着することが可能になる。第2接合層は、水溶性の接合剤から構成することが好ましい。
【0013】
本発明のシートを使用することで、衣服ダメージ加工用シートを、衣服の開口に対して衣服を構成する生地の裏側から接合したダメージ加工衣服を得ることができる。ここでいう接合とは、縫着と接着と粘着とが含まれる。
【0014】
本発明のシートは、織編布を縫製してなる衣服に対して好適に使用することができる。より好ましくは、ジーンズ生地又はチノクロスのような綾織の織布を縫製してなる衣服に対して使用することができる。特に好ましくは、ジーンズ生地を縫製してなる衣服に対して使用することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明のシートは、基材と複数の糸条とを縫着によらないで、貼着によって固定するので、衣服の開口の大きさに応じて適切な寸法に裁断して使用することができる。したがって、種々の形状の開口に対してシートを適用することができる。また、基材と複数の糸条とを縫着によらないで、貼着によって固定するので、簡易に製造することができる。
【0016】
本発明のシートは、着古して経糸及び緯糸がすり切れてしまった中古衣服の孔を塞ぐ際に使用することもできる。また、新たに縫製した衣服に意図的に孔を設けて、その孔に本発明のシートを使用して着古した中古風の衣服に加工することもできる。例えば、複数の糸条として白色糸を使用し、ジーンズパンツの開口にシートを適用した場合は、インジゴで染色された経糸がすり切れて白色の緯糸が露出したジーンズパンツを簡易に再現することができる。
【0017】
本発明のシートを適用した衣服では、複数の糸条の間から基材又は補強材が見える。基材又は補強材として、革、合成皮革、和柄などの模様入りの織布、編布などを使用すれば、一味変った中古風の衣服を製造することができる。
【0018】
被服の業界においては、ダメージ加工とは衣服を構成する布地を破ったり、擦ったりして衣服に中古感を持たせる加工のことをいう。そして、リメイク加工とは、衣服を構成する生地に布等をあてて縫着などにより固定して、衣服を作り直すことをいう。リメイク加工の場合は、加工前の衣服とは一味違った外観に仕上げられることが多い。一方、本明細書でいうところの「ダメージ加工」とは、本発明のシートを衣服に適用することによって、生地にダメージが与えられた状態を再現することをいう。上述のように、本発明のシートに皮革や和柄の布などを組み合わせれば一味違った外観に仕上げることができるので、本発明のシートは、衣服をリメイク加工する用途にも使用することができる。したがって、本発明の衣服ダメージ加工用シートは、衣服ダメージ加工・リメイク加工用シートして捉えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の衣服ダメージ加工用シートの一実施例の斜視図である。
図2図1のA-A部分の断面を模式的に示した断面図である。
図3】本発明の衣服ダメージ加工用シートを適用する衣服の平面図である。
図4図1の衣服ダメージ加工用シートを適用した衣服の平面図である。
図5図4のB-B部分の断面を模式的に示した断面図である。
図6】衣服ダメージ加工用シートの変形例を示す図5に相当する断面図である。
図7】衣服ダメージ加工用シートの変形例を示す図5に相当する断面図である。
図8】衣服ダメージ加工用シートの変形例を示す図5に相当する断面図である。
図9図8の衣服ダメージ加工用シートを適用した衣服の平面図である。
図10図8の衣服ダメージ加工用シートを裁断した状態を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図面を参照しつつ本発明を実施するための形態について説明する。
【0021】
図1に示したように、本発明の衣服ダメージ加工用シート1(以下、単にシートと称する)は、基材11と、基材11の表面に固定される複数の糸条12とからなる。図2の断面図に示したように、複数の糸条12は、基材11と複数の糸条12との間に設けた接合層13に貼着され、基材11に対して固定されている。図1及び図2に挙げた例では、複数の糸条12のそれぞれが平行になるように基材の一端から他端に至る範囲に貼着されている。
【0022】
糸条12を貼着する密度は特に限定されないが、シート1を適用する衣服の経糸又は緯糸の打ち込み密度を目安に設定することが好ましい。これによって、経糸又は緯糸のいずれか一方が摩耗し、他方の糸が露出した状態を自然に再現することができる。例えば、ジーンズ生地やチノクロスを使用した衣服では、20〜50本/インチとすることが好ましい。同様に、個々の糸条の太さもシート1を適用する衣服の経糸又は緯糸の太さを目安に設定することが好ましい。例えば、ジーンズ生地やチノクロスを縫製してなる衣服では、3〜20番手とすることが好ましい。
【0023】
以下、図1及び図2に係るシート1を使用したダメージ加工衣服15の製造方法を図3ないし5を参照して説明する。本実施例のシート1は、水に対して溶解又は分散する素材からなる基材11と、基材11と複数の糸条12との間に設けられる接合層13と、複数の糸条12と、シート1が衣服に接面する側に配される第2接合層14とを記載した順に下から上に積層してなる。本実施例のシート1では、接合層13及び第2接合層14は水溶性の接合剤から構成される。
【0024】
上述の水に対して溶解する素材としては、例えば、コーンスターチ、マンナン、ペクチン、寒天、アルギン酸、デキストラン、プルラン、にかわ、ゼラチンなどの水溶性天然素材や、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、酸化でんぷん、変性デンプンなどの水溶性半合成素材や、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルピロリドンなどの水溶性合成素材が挙げられる。上述の水に対して分散する素材としては、バインダーを添加していない紙などのパルプ系の素材やオブラートなどのデンプン系の素材などが挙げられる。上述の水溶性の接合剤としては、水溶性天然素材、水溶性半合成素材、水溶性合成素材、又はこれらの混合物を接合成分とする接合剤を使用することができる。
【0025】
接合層13と第2接合層14は、例えば、接合剤を基材11又は複数の糸条12に接合剤を塗布したり散布したりして形成することができる。接合剤をシート状に成形して、これを基材11又は複数の糸条12の上に積層してもよい。このときシートは、不織布状であってもよい。また、複数の糸条12を液状の接合剤にディッピングするなどして複数の糸条を接合剤でコーティングしてもよい。また、複数の糸条12として、芯鞘型繊維を使用し、鞘成分に接合剤を配合するか、鞘成分を低融点の熱可塑性樹脂から構成し、熱可塑性樹脂を熱溶融させて接合(溶着)してもよい。さらに、複数の糸条12を熱可塑性樹脂から構成し、熱可塑性樹脂を熱溶融させて接合(溶着)してもよい。複数の糸条12を熱可塑性樹脂から構成する場合は、複数の糸条12が接合層13の役割割を兼ねる。
【0026】
本実施例のシート1は、図3ないし5に示したように、衣服15に設けた開口16の裏面側から第2接合層14の表面をあてがって衣服15に固定する。第2接合層14は、ポリビニルアルコールなどの水溶性の接合剤を複数の糸条12の上に塗布して構成されているため、第2接合層14を衣服の裏面にあてがうことで、シート1を衣服15に対して簡単に仮止めすることができる。第2接合層14を省略する場合は、複数の糸条12が露出する面を衣服15の開口19にあてがって後述するようにジグザグ縫いにすればよい。
【0027】
シート1を衣服15に仮止めした後は、基材11の裏面側から補強材16をあてがって、図4及び5に示したように、衣服15を構成する生地とシート1と補強材16とを縫着する。本実施例では、ミシンを使用して、複数の糸条12の延びる方向に交差するようにジグザグ縫いにした。図5においては、破線で上糸17を図示し、太目の実線で下糸18を図示し、黒丸で上糸17と下糸18の交点を図示した。
【0028】
本実施例のシート1を適用した衣服15は、新品のジーンズパンツである。型紙にそって裁断したジーンズ生地の膝に相当する部分を、鋏を使用して楕円形に切り取って開口19を設けた。この際、指を使って開口19の縁部分の生地を少し解すと自然に見える。切り取る際には、緯糸も含めて完全に切断した。このようにして穿孔した開口19に対してシート1と補強材16とを上述のようにして縫着した後、脚の外側側面部分を縫着してジーンズパンツの股下部分を縫製した。複数の糸条12として、未染色、7番手の綿糸を使用した。糸条12は45本/インチの密度で基材11に貼りつけた。基材11には、バインダーを添加していない紙を使用した。接合層13及び第2接合層14には、ポリビニルアルコールを含有する糊を使用した。
【0029】
ジグザグ縫いを終えた上述の衣服15を水に浸漬すると、図5の下段に図示したように、第2接合層14、接合層13及び基材11が水に溶解又は分散して消失する。基材11が溶解又は分散しにくい場合は、市販の洗濯機に入れて洗濯してもよい。図では、説明の便宜上、シート1の厚みを大きく図示したが、本実施例の場合は、第2接合層14の厚みは10μm程度、複数の糸条12の厚みは30μm程度、接合層13の厚みは10μm程度、基材11の厚みは100μm程度、補強材18の厚みは1mm程度である。したがって、基材11等を水に溶解又は分散させた後において、図5に図示したほどには、補強材18と複数の糸条16の間に大きな隙間は形成されない。各層の厚みは、接合剤の適用量などに応じて、適宜定めることができる。
【0030】
第2接合層14、接合層13及び基材11が水に溶解又は分散して消失すると、複数の糸条12が自由に動けるようになり、ジーンズパンツを構成する経糸が摩耗して、緯糸が残った状態を簡易に再現することができる。本実施例では、補強材18として、白色の綿布(綾織組織)を使用した。補強材16としては、例えば、皮革、合成皮革、織編布などを使用することができる。複数の糸条12は自由に動くので、身体を動かすと、複数の糸条12の間から補強材16が覗く。補強材16として、和柄をあしらった織布や革や異なる色彩の織編布などの衣服生地とは異なる素材を使用すれば、独特の風合いを有するダメージ加工衣服を製造することができる。本実施例のシート1では、基材11が水に溶解又は分散して消失して複数の糸条12の間から補強材18が見える。補強材18を選択することでユーザーは様々な風合いのダメージ加工衣服を得ることができる。
【0031】
従来のダメージ加工衣服の製造方法では、軽石、サンダー、やすりなどを使用して衣服の生地表面を摩耗させる方法がとられてきた。これらの方法は、作業に多大な労力を要するとともに、摩耗させる加減が難しく、作業者が作業に熟練していることが不可欠であった。本発明のシートを使用すれば、誰もが簡単にダメージ加工衣服を製造することができる。
【0032】
次に、シートの変形例について図6を参照して説明する。図6のシート2は、基材20と、水溶性の接合剤からなる接合層13と、複数の糸条12と、シート2が衣服に接面する側に配される第2接合層14とを記載した順に下から上に積層してなる。シート2とシート1とで共通する部材については同一の符号を使用する。基材20を水に対して溶解又は分散しない素材で構成した点で上述のシート1とは相違する。具体的には、本実施例の基材20は、白色の綿織布で構成されている。基材20は、上述の補強材18と同様に皮革、合成皮革、織編布等から構成することができる。
【0033】
シート2は、シート1の場合と同様に、衣服15に設けた開口19の裏面側から適用する。シート1と同様に、シート2でも第2接合層14は、ポリビニルアルコールから構成されているため、第2接合層14を衣服の裏面にあてがうことで、シート1を衣服15に対して仮止めすることができる。シート2を衣服15に仮止めした後は、衣服15を構成する生地とシート2とをミシンを使用して、図4に示したようにジグザグ縫いにして接合した。本実施例のシート2を衣服15に固定する際には、シート1で使用したような補強材16は用いない。基材20が補強材として機能するからである。
【0034】
ジグザグ縫いを終えた衣服15を水に浸漬又は洗濯すると、図6の下段に図示したように、第2接合層14、接合層13が水に溶解又は分散して消失する。図6では、図5と同様に説明の便宜上シート2の厚みを大きく図示したが、同様に基材20と複数の糸条12の間に大きな隙間は形成されない。
【0035】
第2接合層14及び接合層13が水に溶解又は分散して消失すると、複数の糸条12が自由に動けるようになり、経糸が摩耗して、緯糸が残った状態を簡易に再現することができる。複数の糸条12は自由に動くので、身体を動かすと、複数の糸条12の間から基材20が覗く。基材20として、和柄をあしらった織布や革などを使用すれば、独特の風合いを有するダメージ加工衣服を製造することができる。
【0036】
別の変形例について、図7及び図8を参照して説明する。図7のシート3は、基材20と、接合剤からなる接合層21と、複数の糸条12と、シート3が衣服に接面する側に配される第2接合層22とを記載した順に下から上に積層してなる。基材20、接合剤21及び第2接合層22は、いずれも水に対して溶けない素材から構成されている。本実施例では、基材20として綿織布を使用し、接合剤21としては、市販されている耐水性の衣服用ボンドを塗布した。第2接合層22としては、市販の熱可塑性樹脂からなる不織布シートをホットメルト接着剤として使用した。不織布シートとしては、蜘蛛の巣状といわれるような薄く、そのために下にある複数の糸条12が透けて見えるようなものを使用することが好ましい。熱可塑性樹脂としては、低密度ポリエチレン樹脂、エチレン酢酸ビニル樹脂、合成ゴム、共重合ポリアミド樹脂、共重合ポリエステル樹脂が挙げられる。
【0037】
シート3を衣服15に適用するには、開口19の裏側の生地に対して第2接合層22が接面するようにシート3をあてがう。開口の表側からアイロンなどで加熱してシート3と衣服15を接合(熱溶着)させる。シート3では、複数の糸条12は自由に動くことはできないものの、加熱することで簡単に衣服15の開口19を塞ぐことができる。たとえば、実際に履き古したジーンズパンツに穴が開くことがあるが、シート3を使用すれば、パンツの脚の外側部分の縫着を解くことなく、シート7を開口19に適用することが可能である。
【0038】
図8に示したように、第2接合層22を省略して、複数の糸条23を熱可塑性樹脂から構成してもよい。このシート4は、開口19の裏側の生地に対して複数の糸条23が接面するようにシート4をあてがう。開口の表側からアイロンなどで加熱してシート4と衣服15を接合させる。熱可塑性樹脂としては、低密度ポリエチレン樹脂、エチレン酢酸ビニル樹脂、合成ゴム、共重合ポリアミド樹脂、共重合ポリエステル樹脂が挙げられる。接合層21及び基材20は、シート3と同様に水に対して不溶である。
【0039】
本発明のシート1、2、3、4は、種々の衣服の開口に対して適用することができる。例えば、ジーンズパンツ(衣服25)においては、履き古していく過程で摩擦によって脚の側面の周辺部分にヒゲと呼ばれる色落ちが生じる。生地の摩耗が進むと、図9に示したように、ヒゲの部分が穿孔することがある。このような開口24に対しては、図10に示したように本発明のシート1、2、3、4を短冊状に裁断して開口24を塞ぐことが可能である。図10ではシート4を使用する例を示したが、シート1、2、3、4のいずれも使用可能である。
【符号の説明】
【0040】
1 シート
2 シート(変形例1)
3 シート(変形例2)
4 シート(変形例3)
11 基材
12 糸条
13 接合層
14 第2接合層
15 衣服
16 補強材
17 上糸
18 下糸
19 開口
20 基材(変形例1)
21 接合層(変形例2)
22 第2接合層(変形例2)
23 糸条(変形例3)
24 開口(ヒゲ)
25 衣服(中古のジーンズパンツ)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10