(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の画像記録装置が備える搬送機構において、被搬送体の端部位置を検出する検出部では、被搬送体の幅方向の変位だけでなく、被搬送体のエッジ形状についても検出される。そのため、被搬送体の端部位置のみに基づいて補正制御を行ったとしても、エッジ形状に起因する新たな蛇行が生じる虞がある。このように、端部位置のみに基づいて補正制御を行った場合に、補正精度を向上させることが困難となる、という問題が発生する。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みなされたものであり、長尺帯状の被搬送体を搬送する搬送機構において、より補正精度の高い補正制御を行う技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本願の第1発明は、搬送経路の上流側から下流側へ長尺帯状の被搬送体をその長手方向に搬送する搬送機構とともに用いられる蛇行周波数特定装置であって、前記搬送機構により搬送される前記被搬送体の
幅方向の両端の張力差を検出する張力差検出部と、前記張力差検出部により検出された前記張力差の周波数スペクトルを取得する周波数特性取得部と、前記周波数特性取得部により取得された前記周波数スペクトルと閾値関数とを比較して、蛇行周波数を取得する蛇行周波数特定部と、を有する。
【0009】
本願の第2発明は、第1発明の蛇行周波数特定装置であって、前記閾値関数は、周波数の関数であり、前記閾値関数は、基準周波数において最小値をとり、前記基準周波数から離れるにつれ、
前記閾値関数のとる値が同一または大きくなる関数である。
【0010】
本願の第3発明は、搬送経路の上流側から下流側へ長尺帯状の被搬送体をその長手方向に搬送する搬送機構とともに用いられる、蛇行量特定装置であって、第1発明または第2発明の蛇行周波数特定装置と、前記被搬送体の前記幅方向における変位を検出する変位検出部と、前記変位検出部が検出した前記変位と、前記蛇行周波数特定部が取得した前記蛇行周波数とに基づいて、前記張力差検出部における前記被搬送体の蛇行量を算出する蛇行量特定部と、を有する。
【0011】
本願の第4発明は、第3発明の蛇行量特定装置であって、前記変位検出部は、前記被搬送体の前記幅方向の端部の変位を検出するエッジセンサである。
【0012】
本願の第5発明は、長尺帯状の被搬送体を搬送する搬送装置であって、第3発明または第4発明の蛇行量特定装置と、搬送経路の上流側から下流側へ前記被搬送体をその長手方向に搬送する搬送機構と、前記搬送機構により搬送される前記被搬送体の前記幅方向の位置を補正する補正機構と、前記補正機構を制御する補正制御部と、を有し、前記変位検出部は、前記補正機構の近傍に配置され、前記補正制御部は、前記蛇行量特定部が算出した前記蛇行量に基づいて、前記補正機構を制御する。
【0013】
本願の第6発明は、長尺帯状の被搬送体である記録媒体に向けて液滴を吐出して画像を記録する画像記録装置であって、第5発明の搬送装置と、前記被搬送体の幅方向に沿って並ぶ複数の吐出口を有し、前記搬送機構により搬送される前記被搬送体に向けて液滴を吐出する複数のヘッド部とを有する。
【0014】
本願の第7発明は、長尺帯状の被搬送体である記録媒体に向けて液滴を吐出して画像を記録する画像記録装置であって、第3発明または第4発明の蛇行量特定装置と、搬送経路の上流側から下流側へ前記被搬送体をその長手方向に搬送する搬送機構と、前記被搬送体の幅方向に沿って並ぶ複数の吐出口を有し、前記搬送機構により搬送される前記被搬送体に向けて液滴を吐出する複数のヘッド部と、前記ヘッド部からの液滴の吐出を制御するヘッド制御部と、を有し、前記ヘッド制御部は、前記蛇行量特定部が算出した前記蛇行量に基づいて、前記液滴の吐出を行う前記吐出口を選択する。
【0015】
本願の第8発明は、搬送経路の上流側から下流側へ長手方向に搬送される長尺帯状の被搬送体の蛇行周波数を特定する蛇行周波数特定方法であって、a)前記被搬送体の幅方向の両端の張力差を検出する張力差検出工程と、b)前記工程a)により検出された前記張力差の周波数スペクトルを取得する周波数特性取得工程と、c)前記工程b)により取得された前記周波数スペクトルと閾値関数とを比較して蛇行周波数を取得する蛇行周波数取得工程と、を有する。
【0016】
本願の第9発明は、第8発明の蛇行周波数特定方法を用いて前記被搬送体の蛇行量を特定する蛇行量特定方法であって、前記工程a)ないし前記工程c)と、d)前記被搬送体の前記幅方向における変位を検出する変位検出工程と、e)前記工程d)により検出された前記変位と、前記工程c)により取得された前記蛇行周波数とに基づいて、前記被搬送体の蛇行量を算出する蛇行量特定工程と、を有する。
【0017】
本願の第10発明は、第9発明の蛇行量特定方法を用いた前記被搬送体の蛇行補正方法であって、前記工程a)ないし前記工程e)と、f)前記工程e)により算出された前記蛇行量に基づいて、前記被搬送体の前記幅方向の位置を補正する蛇行補正工程と、を有する。
【発明の効果】
【0018】
本願の第1発明から第10発明によれば、搬送機構において生じる被搬送体の蛇行周波数が特定できる。したがって、より補正精度の高い補正制御を行うことができる。
【0019】
特に、本願の第3発明および第9発明によれば、搬送機構において生じる被搬送体の蛇行量が特定できる。したがって、より補正精度の高い補正制御を行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0022】
<1.第1実施形態>
<1−1.画像記録装置の構成>
図1は、本発明の第1実施形態に係る画像記録装置1の構成を、概念的に示した図である。
図2は、補正機構41の構成を示した図である。
図3は、画像記録装置1における制御系統を示したブロック図である。
【0023】
この画像記録装置1は、長尺帯状の記録媒体である印刷用紙9を搬送しつつ、複数のヘッド部31から印刷用紙9にインクを吐出することにより、印刷用紙9にカラー画像を記録するインクジェット方式の印刷装置である。すなわち、この画像記録装置1は、長尺帯状の被搬送体である印刷用紙9に対して画像記録処理を施す処理装置である。
【0024】
図1に示すように、画像記録装置1は、搬送機構20、画像記録部30、補正部40、張力測定部50、乾燥部60、検査部70および制御部10を備えている。
【0025】
搬送機構20は、印刷用紙9をその長手方向に搬送するための機構である。本実施形態の搬送機構20は、巻き出し部21、複数のローラ22および巻き取り部23を有する。印刷用紙9は、巻き出し部21から繰り出され、複数のローラ22により構成される搬送経路に沿って、巻き取り部23へ搬送される。各ローラ22は、水平軸を中心として回転することによって、印刷用紙9を搬送経路の下流側へ案内する。また、複数のローラ22が印刷用紙9に接触して押圧することで、印刷用紙9に張力が与えられる。これにより、搬送機構20は、画像記録部30と対向する位置において、印刷用紙9に張力を付与している。搬送後の印刷用紙9は、巻き取り部23へ回収される。
【0026】
画像記録部30は、搬送機構20により搬送される印刷用紙9に対向し、印刷用紙9に対してインクの吐出を行う。すなわち、画像記録部30は、印刷用紙9に対して画像記録処理を行う処理部である。
【0027】
本実施形態の画像記録部30は、4つのヘッド部31を有する。4つのヘッド部31は、搬送方向に沿って間隔をあけて互いに平行に配置されている。これらのヘッド部31は、印刷用紙9の幅方向(長手方向に直交する水平方向)と平行に配列された複数の吐出口を有する。すなわち、ヘッド部31は、印刷用紙9の幅方向に沿って並ぶ複数の吐出口を有する。
【0028】
各ヘッド部31は、複数の吐出口から印刷用紙9の上面へ向けて、記録すべきカラー画像の色成分となるK(ブラック)、C(シアン)、M(マゼンタ)、Y(イエロー)の各色のインク滴を、それぞれ吐出する。これにより、印刷用紙9の上面にカラー画像が記録される。
【0029】
補正部40は、印刷用紙9の幅方向の位置を補正するための機構である。補正部40は、補正機構41および基準センサ42を有する。また、補正部40は、画像記録部30の上流側に配置される。
【0030】
補正機構41は、搬送機構20により搬送される印刷用紙9の幅方向の位置を補正する。補正機構41は、
図2に示すように、2対の固定ローラ411の間に、1対の揺動ローラ412を有している。1対の揺動ローラ412は、制御部10からの駆動信号に基づき、ピボット413を中心として幅方向に揺動する。これにより、印刷用紙9を幅方向に変位させることができる。ただし、本発明の補正機構41は、
図2の構造に限定されるものではない。例えば、ローラを幅方向にスライド移動させて、印刷用紙9を幅方向に変位させるものであってもよい。
【0031】
基準センサ42は、印刷用紙9の幅方向における変位を検出するための変位検出部である。基準センサ42は、補正機構41の近傍に配置される。印刷用紙9の幅方向の位置が標準位置からずれると、基準センサ42に対する印刷用紙9のエッジ位置が変化する。基準センサ42は、このエッジ位置を検知することにより、印刷用紙9の幅方向の位置ずれ量を検出する。
【0032】
本実施形態では、基準センサ42には、光学式のエッジセンサが用いられる。なお、基準センサには、接触式のセンサや、超音波センサなど、他の方式のエッジセンサが用いられてもよい。本実施形態の基準センサ42は、印刷用紙9の幅方向の端部の変位を検出し、その検出結果を、制御部10の後述する蛇行量特定部16へ出力する。
【0033】
図1に戻り、張力測定部50は、搬送機構20により搬送される印刷用紙9の幅方向の両端の張力を検出するための機構である。張力測定部50は、画像記録部30の上流側かつ補正部40の下流側に配置される。
【0034】
張力測定部50は、第1張力センサ51および第2張力センサ52を有する。第1張力センサ51および第2張力センサ52は、画像記録部30近傍に配置された張力検出ローラ221に備えられている。なお、張力検出ローラ221は、ローラ22と同様に印刷用紙9を搬送するための機能も有する。
【0035】
第1張力センサ51は、張力検出ローラ221の幅方向における一方側の端部付近に配置される。また、第2張力センサ52は、張力検出ローラ221の他方側の端部付近に配置される。第1張力センサ51および第2張力センサ52は、張力検出ローラ221の接触箇所における印刷用紙9の幅方向の両端それぞれにおける張力を、例えばロードセルにより検出する。また、第1張力センサ51の検出結果および第2張力センサ52の検出結果は、印刷用紙9の幅方向の両端の張力差(
図3の張力差S15)を検出するために用いられる。
【0036】
乾燥部60は、画像記録部30の下流側に配置される。乾燥部60は、画像記録部30によって画像が記録された印刷用紙9の乾燥を行う。乾燥部60は、ヒータが内蔵されたヒートローラ61および複数のローラ22を有する。また、ヒートローラ61は、印刷用紙9と接触しながら回転駆動されて、印刷用紙9を加熱しつつ下流側へ搬送する。この結果、印刷用紙9が乾燥する。
【0037】
検査部70は、乾燥部60の下流側に配置される。検査部70は、印刷用紙9の印刷面の画像を取得するためのカメラを有する。これにより、検査部70は、カメラにより取得した画像に基づいて、印刷用紙9の印刷面に汚れや印刷抜けがないか等、画像記録結果を検査する。
【0038】
制御部10は、画像記録装置1内の各部を統括的に制御する。
図1中に概念的に示したように、制御部10は、CPU等の演算処理部11、RAM等のメモリ12およびハードディスクドライブ等の記憶部13を有するコンピュータにより構成されている。また、制御部10は、
図3に示すように、搬送機構20、各ヘッド部31、補正機構41、基準センサ42、第1張力センサ51、第2張力センサ52、ヒートローラ61および検査部70と、それぞれ電気的に接続されている。
【0039】
制御部10は、記憶部13に記憶されたコンピュータプログラムやデータを、メモリ12に一時的に読み出し、当該コンピュータプログラムおよびデータに基づいて、演算処理部11が演算処理を行うことにより、画像記録装置1内の各部の動作を制御する。これにより、画像記録装置1における印刷処理や、後述する蛇行補正処理が実行される。なお、制御部10の機能はソフトウエアにより実現されてもよいし、電子回路等のハードウエアにより実現されてもよい。
【0040】
また、
図3に示すように、制御部10は、ソフトウエア上で実現される機能部として、ヘッド制御部14、張力差検出部15、周波数特性取得部16、蛇行周波数特定部17、蛇行量特定部18および補正制御部19を有する。これらの各部の機能は、上述の演算処理部11、メモリ12、および記憶部13によりそれぞれ実現される。
【0041】
ヘッド制御部14は、各ヘッド部31のそれぞれの吐出口からのインク滴の吐出を制御する。具体的には、ヘッド制御部14は、記録すべき画像の画像データに基づく、いずれの吐出口からいずれの液滴サイズで吐出するかを示す液滴吐出命令信号S14を各ヘッド部31に出力する。これにより、各ヘッド部31のそれぞれの吐出口から適切なタイミングかつ適切な液滴サイズでインク滴が吐出され、印刷用紙9に所望の画像が記録される。
【0042】
張力差検出部15は、張力測定部50の第1張力センサ51が検出した第1張力値S51と、第2張力センサ52が検出した第2張力値S52とに基づいて、張力測定部50における印刷用紙9の幅方向の両端の張力差S15を検出する。そして、張力差検出部15は、検出した張力差S15を周波数特性取得部16へ出力する。
【0043】
周波数特性取得部16は、張力差検出部15により検出された張力差S15の周波数スペクトルS16を取得し、これを蛇行周波数特定部17へ出力する。
【0044】
蛇行周波数特定部17は、周波数特性取得部16により取得された周波数スペクトルS16と、後述する閾値関数S170とを比較して、蛇行周波数S17を取得し、これを蛇行量特定部18へ出力する。閾値関数S170と、蛇行周波数特定部17における蛇行周波数S17の取得方法とについては、後述する。
【0045】
蛇行量特定部18は、基準センサ42が検出した印刷用紙9のエッジ位置の変位S42と、蛇行周波数特定部17が取得した蛇行周波数S17とに基づいて、張力差検出部15における印刷用紙9の蛇行量S18を算出する。また、蛇行量特定部18は、算出した蛇行量S18を補正制御部19へ出力する。
【0046】
補正制御部19は、蛇行量特定部18が算出した蛇行量S18に基づいて、補正機構41を制御する。すなわち、補正制御部19は、張力測定部50の検出結果である第1張力値S51および第2張力値S52と、変位検出部である基準センサ42の検出結果である変位S42とに基づいて、補正機構41に補正指令信号S19を出力する。補正機構41は、補正指令信号S19により、その動作が制御される。
【0047】
<1−2.印刷用紙の蛇行補正について>
続いて、上述した画像記録装置1における印刷用紙9の蛇行補正について、
図4および
図5を参照しつつ説明する。
図4は、画像記録装置1における蛇行補正処理の流れを示したフローチャートである。
図5は、画像記録装置1における周波数スペクトルS16と閾値関数S170の一例を示した図である。
【0048】
画像記録装置1が搬送機構20を駆動させ、印刷用紙9の搬送を開始すると、補正制御部19による補正機構41の制御も同時に開始される。
【0049】
印刷用紙9の搬送が開始され、補正制御部19による補正機構41の制御が開始されると、基準センサ42が、印刷用紙9のエッジ位置の幅方向における変位S42を検出して、制御部10へ出力する(ステップST101)。本実施形態では、基準センサ42は、検出した変位S42を蛇行量特定部18へ出力する。
【0050】
ここで、基準センサ42の検出結果のみに基づいて補正機構41のフィードバック制御を行うと、印刷用紙9には、ハンチング等の一定の周期性を有する幅方向の位置の蛇行が生じる。また、基準センサ42は印刷用紙9のエッジ位置の変位S42を検出するため、印刷用紙9のエッジ位置自体に周期的な蛇行がある場合には、補正機構41がエッジ位置の蛇行に対して逆相の蛇行を生じさせる虞がある。そこで、本実施形態では、基準センサ42の検出結果のみでなく、基準センサ42の検出結果と張力測定部50の検出結果との双方に基づいて補正機構41を制御することにより、印刷用紙9の蛇行をより抑制する。すなわち、印刷用紙9の幅方向の位置ずれをより抑制する。
【0051】
上述のステップST101と並行して、張力差検出部15は、張力測定部50から第1張力値S51および第2張力値S52を取得するとともに、第1張力値S51と第2張力値S52との差分を算出し、張力差S15として出力する(ステップST102)。そして、周波数特性取得部16は、張力差S15を周波数解析し、周波数スペクトルS16を取得する(ステップST103)。
図5に示すように、周波数スペクトルS16には、複数のピークが現れる。これらのピークには、補正対象である印刷用紙9の蛇行成分の周波数成分や、画像記録装置1を構成するローラ等の部品の振動の周波数成分などが含まれる。
【0052】
次に、蛇行周波数特定部17は、周波数スペクトルS16を閾値関数S170と比較することにより、周波数スペクトルS16から蛇行成分のピークを検出し、蛇行周波数S17を取得する(ステップST104)。具体的には、蛇行周波数特定部17は、周波数スペクトルS16のうち閾値関数S170よりも値が大きくなるピーク周波数を蛇行周波数S17として取得する。
【0053】
図5に示すように、閾値関数S170は、周波数スペクトルS16と同様に、周波数の関数である。本実施形態の閾値関数S170は、基準周波数fmin[Hz]において最小値Pmin[gf^2]をとり、基準周波数fmin[Hz]から離れるにつれ、その値が同一または大きくなる。また、閾値関数S170は、遮断周波数fmax[Hz]以上では、最大値Pmax[gf^2]をとる。閾値関数S170がこのような形状をしていることにより、周波数スペクトルS16から、基準周波数fmin[Hz]周辺のピークを効率良く検出できる。
【0054】
閾値関数S170の各パラメータは、例えば、実験結果に基づいて設定される。実験の一例として、所定のノズルからインク滴を吐出し、印刷用紙9の長手方向に延びる直線の画像を記録する。その後、当該直線の蛇行特性から基準周波数fmin[Hz]等の各パラメータを算出してもよい。
【0055】
なお、ピーク周波数が検出できない場合は、ピーク周波数が検出できるように最小値Pminを下げる。これにより、蛇行周波数S17をより確実に取得できる。なお、上述のように最小値Pminを下げた結果、ピーク周波数が複数検出された場合は、それらは全て蛇行周波数S17として検出してもよい。また、最小値Pminを所定の値まで下げても、ピーク周波数が検出されない場合は、蛇行が発生していないものとみなし、蛇行周波数S17を検出しない。
【0056】
なお、
図5に例示した周波数スペクトルS16は、0[Hz]にピークを有するが、これは張力検出ローラ221の左右の張力差のオフセットである。そのため、蛇行周波数特定部17は、周波数スペクトルS16の0[Hz]付近は除外して蛇行周波数S17を取得する。
【0057】
画像記録装置1において、周波数スペクトルS16のピークは一定範囲の周波数帯域内に現れる。この周波数帯域は、画像記録装置1の装置構成によって決まるため、当該装置構成から推定される蛇行周波数の周波数帯域を考慮して、基準周波数fmin[Hz]を予め設定しておく。
【0058】
続いて、蛇行量特定部18は、ステップST101により検出した変位S42と、ステップST104により取得した蛇行周波数S17とに基づいて、張力差検出部15における印刷用紙9の蛇行量S18を算出する(ステップST105)。本実施形態では、変位S42から蛇行周波数S17付近の周波数を有する成分のみを抽出して、蛇行量S18とする。なお、変位S42から、蛇行周波数S17付近の周波数を有する成分と、その他の成分とを分離し、各成分について重み付けを行って蛇行量S18を算出してもよい。
【0059】
そして、補正制御部19は、蛇行量S18に基づいて、補正機構41に補正指令信号S19を出力する。これにより、補正機構41は、蛇行量S18に基づいて、印刷用紙9の幅方向の位置を調節する(ステップST106)。このように、補正機構41が、補正すべき蛇行量S18をより正確に把握することにより、印刷用紙9の幅方向の周期的な蛇行を効率良く抑制できる。したがって、印刷用紙9の幅方向の位置ずれが、効率良く抑制できる。
【0060】
上述の画像記録装置1では、上述の通り、搬送機構20において生じる印刷用紙9の蛇行周波数S17を特定できる。これにより、搬送機構20において生じる印刷用紙9の蛇行量S18を特定できる。したがって、画像記録装置1において、より補正精度の高い補正制御を行うことができる。
【0061】
本実施形態では、補正部40よりも画像記録部30に近い位置に配置された張力測定部50により、印刷用紙9の幅方向両端の張力差を検出する。通常、補正部40は補正機構41の装置構成を小型化するのが困難であるため、処理部である画像記録部30の近傍に配置するのが困難である。このため、基準センサ42の検出する変位S42は、画像記録部30における蛇行量を必ずしも反映できない。そこで、画像記録部30の近傍のローラ22を、張力測定部50を備えた張力検出ローラ221とした。これにより、処理部である画像記録部30により近い位置における蛇行特性についても考慮して、印刷用紙9の蛇行補正を行うことができる。
【0062】
また、変位検出部である基準センサ42の検出結果だけでなく、張力測定部50の検出結果も用いて補正機構41を制御することにより、印刷用紙9のエッジ形状や補正部40の特性に起因する蛇行を抑制できる。したがって、画像記録部30付近における印刷用紙9の蛇行を抑制できる。したがって、画像記録部30付近における画像記録位置の幅方向のずれが効率良く抑制できる。
【0063】
本実施形態のように、処理部である画像記録部30が搬送方向に沿って間隔を開けて配置される複数のヘッド部31を有する場合、画像記録部30付近において印刷用紙9に蛇行があると、ヘッド部31間における蛇行の振幅および位相のずれにより、印刷精度が低下する虞がある。そのため、画像記録部30付近における画像記録位置の幅方向のずれを効率良く抑制できる本発明が特に有用である。
【0064】
また、本実施形態では、
図1に示すように、補正部40と張力測定部50との間の搬送経路の距離は、張力測定部50と画像記録部30との間の搬送経路の距離よりも長い。このように、補正部40が処理部である画像記録部30と離れている場合、画像記録部30付近における印刷用紙9の蛇行特性を、補正部40に備えられた基準センサ42の検出した変位のみから推測するのは困難である。したがって、張力測定部50が画像記録部30の近傍に配置されることにより、画像記録部30付近における印刷用紙9の幅方向の位置ずれが、より効率良く抑制できる。
【0065】
<2.変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、例えば以下のように変形実施されてもよい。
【0066】
<2−1.ヘッド部による蛇行補正>
図6は、変形例に係る画像記録装置1Aにおける制御系統を示したブロック図である。
図7は、
図6の例の画像記録装置1Aの蛇行補正処理の流れを示したフローチャートである。
図6において、上記の実施形態と同じ構成については、同じ符号を付してある。
【0067】
図6および
図7の例では、画像記録装置1Aが補正機構を有していない。
図6および
図7の例の画像記録装置1Aでは、制御部10が、張力測定部50の第1張力センサ51および第2張力センサ52により検出された第1張力値S51および第2張力値S52と、基準センサ42により検出された印刷用紙のエッジ位置の変位S42とに基づいて、蛇行量S18を算出する。そして、画像記録装置1Aでは、補正機構を用いて印刷用紙の蛇行そのものを抑制するのではなく、印刷用紙の蛇行に合わせて各ヘッド部31がインク滴を吐出させる吐出口を適切に選択する。
【0068】
図7に示すように、画像記録装置1Aでは、印刷用紙の搬送が開始され、補正制御部19による補正機構41の制御が開始されると、基準センサ42が、印刷用紙のエッジ位置の幅方向における変位S42を検出して、制御部10の蛇行量特定部18へ出力する(ステップST201)。
【0069】
一方、印刷用紙9の搬送が開始されると、ステップST201と並行して、張力差検出部15は、第1張力値S51と第2張力値S52との差分を算出し、張力差S15として出力する(ステップST202)。そして、周波数特性取得部16は、張力差S15を周波数解析し、周波数スペクトルS16を取得する(ステップST203)。
【0070】
次に、蛇行周波数特定部17は、周波数スペクトルS16を閾値関数と比較することにより、周波数スペクトルS16から蛇行成分のピークを検出し、蛇行周波数S17を取得する(ステップST204)。
【0071】
続いて、蛇行量特定部18は、ステップST201により検出した変位S42と、ステップST204により取得した蛇行周波数S17とに基づいて、張力差検出部15における印刷用紙9の蛇行量S18を算出する(ステップST105)。本変形例では、変位S42から蛇行周波数S17付近の周波数を有する成分のみを抽出して、蛇行量S18とする。なお、変位S42から、蛇行周波数S17付近の周波数を有する成分と、その他の成分とを分離し、各成分について重み付けを行って蛇行量S18を算出してもよい。
【0072】
そして、ヘッド制御部14は、外部から入力された画像データおよび蛇行量S18に基づいて、いずれの吐出口からいずれの液滴サイズで吐出するかの液滴吐出情報を算出する(ステップST206)。すなわち、ヘッド制御部14は、外部から入力された画像データおよび蛇行量S18に基づいて、インク滴の吐出を行う吐出口を選択する。
【0073】
ヘッド制御部14は、まず、外部から入力された画像データを、いずれの吐出口からいずれの液滴サイズで吐出するかの基本液滴吐出情報へ変換する。その後、ステップST206において、ヘッド制御部14は、蛇行量特定部18から入力された蛇行量S18から各吐出口のインク吐出時における印刷用紙の幅方向のずれ量を算出する。そして、ヘッド制御部14は、各吐出口から吐出されるインク滴の着弾位置が当該ずれ量に相当する距離分ずれるように、基本液滴吐出情報を補正し、液滴吐出情報を算出する。
【0074】
ヘッド制御部14が、当該液滴吐出情報に基づいて、各ヘッド部31に液滴吐出命令信号S14を出力する。これにより、各ヘッド部31のそれぞれの吐出口から適切なタイミングかつ適切な液滴サイズでインク滴が吐出され、印刷用紙に所望の画像が記録される。
【0075】
図6および
図7の例では、ヘッド制御部14が、補正すべき蛇行量S18を正確に把握することにより、印刷用紙の幅方向の蛇行に従って各ヘッド部31からのインク滴の吐出位置を補正する。したがって、印刷用紙に記録される画像の位置ずれを、効率良く抑制できる。
【0076】
<2−2.その他の変形例>
図8〜
図11は、他の変形例に係る画像記録装置における周波数スペクトルS16および閾値関数の一例を示した図である。上記の実施形態の閾値関数S170は、周波数が0[Hz]〜fmax[Hz]の間において、3次関数で表されるが、本発明はこれに限られない。
【0077】
図8の例では、閾値関数S170aは、fmin[Hz]の周辺周波数帯域で最小値Pmin[gf^2]をとり、それ以外の周波数帯域では最大値Pmax[gf^2]をとるバンドパスフィルタである。このように、閾値関数がバンドパスフィルタであっても、蛇行周波数S17を検出できる。
【0078】
また、
図9の例では、閾値関数S170bは、0[Hz]から基準周波数fmin[Hz]に向かうにつれて直線的に小さくなり、基準周波数fmin[Hz]から遮断周波数fmax[Hz]に向かうにつれて直線的に大きくなる。このように、閾値関数は1次関数で示される関数であってもよい。
【0079】
図10の例では、閾値関数S170cは、0[Hz]から遮断周波数fmax[Hz]までの区間では、基準周波数fmin[Hz]で最小値Pmin[gf^2]をとる2次関数である。また、閾値関数S170cは、遮断周波数fmax[Hz]以上の区間では、最大値Pmax[gf^2]をとる。このように、閾値関数は2次関数で示される関数であってもよい。
【0080】
図11の例では、閾値関数S170dは、0[Hz]から遮断周波数fmax[Hz]までの区間では、0[Hz]および遮断周波数fmax[Hz]で最大値Pmax[gf^2]をとり、基準周波数fmin[Hz]で最小値Pmin[gf^2]をとる正弦波である。また、閾値関数S170dは、遮断周波数fmax[Hz]以上の区間では、最大値Pmax[gf^2]をとる。このように、閾値関数は正弦波で示される関数であってもよい。
【0081】
上記の実施形態および
図9〜
図11の例の閾値関数S170,170b〜S170dはいずれも、基準周波数fmin[Hz]において最小値Pmin[gf^2]をとり、基準周波数fmin[Hz]から離れるにつれ、その値が同一または大きくなる。そのため、周波数スペクトルS16から、基準周波数fmin[Hz]周辺のピークを効率良く検出できる。
【0082】
また、上記の実施形態、
図10の例、および
図11の例の閾値関数S170,S170c,S170dはいずれも、基準周波数fmin[Hz]において最小値Pmin[gf^2]をとり、基準周波数fmin[Hz]から離れるにつれ、その値が同一または大きくなる。さらに、これらの閾値関数S170,S170c,S170dは、基準周波数fmin[Hz]の付近において、基準周波数fmin[Hz]に近づくにつれ、その接線の傾きが小さくなる。これにより、周波数スペクトルS16から、基準周波数fmin[Hz]周辺のピークをさらに効率良く検出できる。
【0083】
また、上記の実施形態では、変位検出部が被搬送体のエッジ位置の幅方向の変位を検出するエッジセンサであったが、本発明はこの限りではない。変位検出部は、被搬送体に予め付けられたマークの幅方向の変位を検出するセンサなど、他の種類の変位検出機構であってもよい。すなわち、変位検出部は、被搬送体の特定の部位の幅方向における変位を、検出するものであればよい。
【0084】
また、本発明は、被搬送体に対して画像を記録する上記画像記録装置以外の装置にも適用することが出来る。例えば、一般的な紙以外のシート状の記録媒体(例えば、樹脂製のフィルム等)に、画像を記録する記録装置であってもよい。また、長尺帯状のフレキシブル基板に対して配線等の模様を露光する露光処理装置であってもよい。さらに、被搬送体に対して処理液を塗布する塗布装置や、被搬送体に対してレーザ加工を施す加工装置など、シート状の被搬送体に対して処理を施すその他の処理装置であってもよい。
【0085】
また、上記の実施形態や変形例に登場した各要素を、矛盾が生じない範囲で、適宜に組み合わせてもよい。