(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6341858
(24)【登録日】2018年5月25日
(45)【発行日】2018年6月13日
(54)【発明の名称】穿刺針
(51)【国際特許分類】
A61M 5/158 20060101AFI20180604BHJP
【FI】
A61M5/158 500D
【請求項の数】13
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2014-521407(P2014-521407)
(86)(22)【出願日】2013年6月13日
(86)【国際出願番号】JP2013066380
(87)【国際公開番号】WO2013187483
(87)【国際公開日】20131219
【審査請求日】2016年4月27日
(31)【優先権主張番号】特願2012-134902(P2012-134902)
(32)【優先日】2012年6月14日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】507365204
【氏名又は名称】旭化成メディカル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】500277803
【氏名又は名称】有限会社ネクスティア
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 正富
(72)【発明者】
【氏名】新里 徹
(72)【発明者】
【氏名】丸山 泰代
(72)【発明者】
【氏名】三輪 真幹
【審査官】
鈴木 洋昭
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−250999(JP,A)
【文献】
米国特許第4808170(US,A)
【文献】
米国特許出願公開第2011/0295152(US,A1)
【文献】
特開2012−30010(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/158
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚表面からシャント血管表面まで形成されている穿刺ルートに挿入され、シャント血管の表面に作製されている穿刺孔を形成する切痕を拡張するための穿刺針であって、
針先端に向かって傾斜した傾斜端面を有し、
該傾斜端面の先端部は、鋭利性のない縁となって、円弧状に形成されており、
前記先端部に続く前記傾斜端面の左右の側縁には、エッジ角が5度から85度の刃線が形成され、
前記刃線は、前記円弧状の先端部よりも後方の始点から後方に向かって形成されている、穿刺針。
【請求項2】
前記先端部に続く前記傾斜端面の左右の側部が、それぞれ傾斜し、その側縁に前記刃線が形成されている、請求項1に記載の穿刺針。
【請求項3】
前記側部は、外側に向かって低くなるように傾斜している、請求項2に記載の穿刺針。
【請求項4】
前記刃線のエッジ角は、15度から65度である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の穿刺針。
【請求項5】
前記傾斜端面の先端部の円弧方向の長さが0.05mm以上、1.2mm未満である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の穿刺針。
【請求項6】
前記穿刺針の円弧状の先端部の曲率半径が200μm以上、4.4mm未満である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の穿刺針。
【請求項7】
前記刃線の始点が、前記傾斜端面の先端部と側部の境界に位置し、前記刃線の終点が、前記傾斜端面の先端を起点として、当該先端から前記傾斜端面の後端までの距離の1/10から7/10の間を通りなおかつ穿刺針を傾斜端面側の側面から見たときに穿刺針の軸と直角をなす横方向の仮想横線と、前記傾斜端面の側縁とが互いに交わる位置にある、請求項1〜6のいずれか一項に記載の穿刺針。
【請求項8】
前記穿刺針は、前記穿刺孔が作製された後に、該穿刺孔に挿入するものである、請求項1〜7のいずれか一項に記載の穿刺針。
【請求項9】
前記穿刺針は、前記穿刺孔を作製するのに用いた穿刺針よりも太い径を有する、請求項1〜8のいずれか一項に記載の穿刺針。
【請求項10】
前記側部の外側に向かって傾斜する傾斜面は、平面である、請求項2又は3に記載の穿刺針。
【請求項11】
前記側部の外側に向かって傾斜する傾斜面のある部分の針の外径幅は、当該傾斜面のある部分よりも後方部分の針の外径幅よりも狭い、請求項2又は3に記載の穿刺針。
【請求項12】
前記側部の傾斜する傾斜面の傾斜角は、0度より大きく30度以下である、請求項2又は3に記載の穿刺針。
【請求項13】
前記先端部の鋭利性のない縁において、針側面から見た場合の先端部の曲率半径は、0.01mm〜0.05mmである、請求項1〜12のいずれか一項に記載の穿刺針。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚の表面からシャント血管の表面まで形成されている穿刺ルートを通して、既にシャント血管壁上に作製されている円弧状あるいは直線状の穿刺孔に挿入することにより、当該穿刺孔を形成している切痕の両端を起点として、シャント血管壁を切り裂いて穿刺孔の切痕を拡張する穿刺針に関するものである。
【背景技術】
【0002】
血液透析などの血液浄化を行う際には、鋭い尖端を有する2本の穿刺針により、皮膚表面から、皮下組織を通して、シャント血管をそれぞれ異なる部位で穿刺し、当該穿刺針のうち一方の穿刺針を通して前記シャント血管から脱血し、脱血した血液を血液浄化器において浄化した後、浄化した血液を他方の穿刺針を通して前記シャント血管に返血する。
【0003】
これらの穿刺行為は、血液浄化時に毎回行う必要があるが、その都度患者に大きな痛みを与える。そこで、近年では、穿刺時の痛みを軽減するため、いわゆるボタンホール穿刺法が用いられている(特許文献1、非特許文献2参照)。ボタンホール穿刺法では、例えば
図11に示すように、初回の穿刺時には、鋭利性が高い通常穿刺針100により、傾斜端面を上向きにした状態で、おおよそ30°の角度で斜めに皮膚102から皮下組織101を貫いてシャント血管103を穿刺する。これにより、皮膚102からシャント血管103の表面104まで、穿刺ルート105を作製すると伴に、シャント血管103の表面104上であって、穿刺ルート105の延長線上に、例えば
図12に示すような、穿刺方向Xに対して後方に凸の円弧状の切痕106及び穿刺孔107を形成する。なお、本明細書において、「後方」とは、穿刺方向Xに対して後方を意味し、「前方」とは、穿刺方向Xに対して前方を意味する。
【0004】
上述のように形成された切痕106においては、円弧状の切痕106の両端を結ぶ仮想直線106aと円弧状の切痕106とで区画されるシャント血管壁上の区域は、フラップと呼ばれている。そして、フラップ108は、穿刺孔107の蓋として機能し、仮想直線106aのある部位は、フラップ108が開閉する際の蝶番として機能している。
【0005】
鋭利性が高い通常穿刺針100による初回の穿刺により、穿刺ルート105と穿刺孔107が作製された後には、血液浄化の度に、
図13(a)に示すように、傾斜端面の先端縁も側縁も鋭利性が低い穿刺針(以下「ダルニードル」とする。)115を、
図11に示した皮膚側の入り口105aから穿刺ルート105に挿入し、更に穿刺ルート105を経て、切痕106により形成された、シャント血管103の表面104上の穿刺孔107を通過させ、シャント血管103に挿入する。この方法によれば、穿刺ルート105の作製後は、新たに皮膚102に穿刺する必要がないので、患者の痛みが軽減される。
【0006】
なお、
図13(b)に示すように、通常穿刺針100の先端には、尖った刃線100cが形成されており、これに伴って、穿刺針100の先端は尖った尖端点100bとなっており、以て、尖端点100bは、皮膚、皮下組織および血管壁を貫くことができるようになっている。これに対し、
図13(a)に示すように、ダルニードル115は、管状の先端部を斜めに切断して形成された傾斜端面115aを有している。傾斜端面115aの先端部115bは、楕円形の傾斜端面115aの一部であって、丸みがある。したがって、先端部115bは皮膚に刺さることがなく、皮膚、皮下組織および血管壁を貫くこともないようになっている。
【0007】
ところで、鋭利性が高い通常穿刺針100による初回の穿刺の後に、ダルニードル115を上述のように形成された切痕106に挿入する場合には、上述のようにまずダルニードル115の先端115bを皮膚側の入り口105aから穿刺ルート105に挿入し、穿刺ルート105内を進め、ダルニードル115の先端部115bをシャント血管103の表面に到達させる。ダルニードル115の先端部115bがシャント血管103の表面に到達したら、ダルニードル115の先端部115bにより、シャント血管103の表面104上に形成されている
図12に示す切痕106の底点106bを、これを溶着しているフィブリン糊による凹凸として感知し、しかる後に、ダルニードル115の先端部115bを、その直ぐ前方部位であるフラップ108上の最適押圧部位108bに滑らせる。ダルニードル115の先端部115bが最適押圧部位108bに達したら、ダルニードル115を垂直方向に立て、ダルニードル115の先端部115bでフラップ108上の最適押圧部位108bを押圧する。これにより、フラップ108をシャント血管103の内腔内に回転させて穿刺孔107を開き、同時にダルニードル115の先端部115bをシャント血管103内に進入させる。
【0008】
しかし、しばしば、ダルニードル115の先端部115bにより切痕106の底点106bを感知することができず、ダルニードル115の先端部115bがフラップ108を通り過ぎたり、あるいは最適押圧部位108bにおいてダルニードル115を垂直方向に立てる際に、ダルニードル115の先端部115bが最適押圧部位108bから別の部位に滑り出ることがある。かかる場合、フラップ108がシャント血管103の内腔内に回転せず、ダルニードル115はシャント血管103内に挿入されない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2009−045124号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Shigeki Toma, Takahiro Shinzato, Kenji Maeda et al, A timesaving Method to create a fixed puncture route for the buttonhole technique, Nephrol Dial Transplant, UK,OXFORD university press,2003, 18: p2118-2121
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで、この問題を解決するために、シャント血管103の表面104上であって、穿刺ルート105の延長線上に、
図14に示すような、穿刺方向Xに対して前方に凸の円弧状の切痕111が形成される。前方に凸の円弧状の切痕111を形成するためには、初回の穿刺に、例えば
図15に示すような、傾斜端面120aを有し、且つ、傾斜端面120aの先端には尖端点120bが形成されており、更に尖端点120bが中心線Yの方向に湾曲している穿刺針120を使用する(以下「湾曲尖端針」とする。)。そして、湾曲尖端針120により皮膚102からシャント血管103を穿刺する場合には、
図16に示すように、まず、湾曲尖端針120の傾斜端面120aを下向きにして、おおよそ30°の角度で斜めに皮膚102から皮下組織101に挿入し、その後、シャント血管103に向かって湾曲尖端針120の傾斜端面120aを押し進め、更に、尖端点120bがシャント血管103の表面104に到達した後も、そのままの姿勢でシャント血管103内に湾曲尖端針120の傾斜端面120aを進め、以て、尖端点120bでシャント血管壁を貫く。
【0012】
図15に示す湾曲尖端針120を用いて作製した、
図14に示す穿刺方向Xにおいて前方に凸の円弧状の穿刺孔109とその穿刺孔109を覆うフラップ110においては、フラップ110の先端が穿刺方向Xにおいて前方にあるため、穿刺孔109からシャント血管内にダルニードル115の先端部115bを挿入するにあたって、当該先端でシャント血管壁104上のフラップ110を押圧しながら、シャント血管壁104上を滑らせて行けば、多くの場合、ダルニードル115の先端部115bは自然にシャント血管壁104上の穿刺孔109からシャント血管103内に進入する。このため、フラップ110上でダルニードル115を垂直方向に立ててからフラップを押圧するという手技は必要ではないという利点がある。
【0013】
しかしながら、湾曲穿刺針120を用いて穿刺孔109を作製した場合においてもなお、ダルニードル115による穿刺孔109への挿入が適正に行われない場合がある。そこで、本発明の発明者らは、穿刺孔109の面積を広くすることにより、ダルニードル115の穿刺孔109への挿入し易さが向上すると考えた。穿刺孔109の面積は、穿刺孔109を形成している前方に凸の円弧状の切痕111の底点111bと円弧の両端を結ぶ仮想の直線111cとの距離Dに相関する。
【0014】
このような問題を解決するために、本発明の発明者らは、湾曲尖端針120により作製された前方に凸の円弧状である切痕111の底点111bと円弧の両端を結ぶ仮想の直線111cとの距離Dを決定する要因について、鋭意、研究した。その結果、
図9に示すように、湾曲尖端針120によって穿刺する場合において、穿刺方向とシャント血管壁とが成す角度が小さいほど、穿刺孔109を形成する切痕111の底点111bと、円弧の両端を結ぶ仮想の直線111cとの距離Dが長くなることを発見した。
【0015】
上記の研究結果は、シャント血管壁上に、ダルニードルを挿入しやすい、より広い面積の穿刺孔を作製するためには、湾曲尖端針120で、皮膚表面と成す角度がより小さくなるように、すなわち皮膚表面に対して、より寝かした状態でシャント血管を穿刺すればよいことを示している。しかし、湾曲尖端針120で、30°より小さな角度でシャント血管を穿刺すると、湾曲尖端針120の管状部分により皮膚表面の穿刺部位を見る術者の視線が遮られるので、湾曲尖端針120の尖端120bで皮膚表面を刺すことが技術的に難しくなる。
【0016】
したがって、湾曲尖端針120の穿刺角度を通常の30°程度より小さくすることは難しい。すなわち、この方法で穿刺孔109を形成する切痕111の底点111bと、切痕111の両端を結ぶ仮想の直線111cとの距離Dを大きくし、以て、穿刺孔109の面積を広げることは難しい。
【0017】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、皮膚表面に対して穿刺ルートを形成する針を30°程度の通常の角度で挿入して形成された切痕および穿刺孔に挿入することにより、当該切痕および穿刺孔を拡大することができる穿刺針を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の要旨とするところは、皮膚表面からシャント血管表面まで形成されている穿刺ルートに挿入され、シャント血管の表面に作製されている穿刺孔を形成する切痕を拡張するための穿刺針であって、針先端に向かって傾斜した傾斜端面を有し、該傾斜端面の先端部は、鋭利性のない縁となって
、円弧状に形成されており、前記先端部に続く前記傾斜端面の左右の側縁には、エッジ角が5度から85度の刃線が形成され
、前記刃線は、前記円弧状の先端部よりも後方の始点から後方に向かって形成されている、穿刺針である。なお、「鋭利性のない縁」とは、面取りや、内側に曲率中心をもつ曲率を設けるなどして、鋭利な刃先を丸める処理を行ったものを言う。
【0019】
本発明における穿刺針を使用するにあたっては、予め、皮膚からシャント血管表面までの間に穿刺ルートを作製すると伴に、シャント血管表面には穿刺方向において前方に凸の穿刺孔を作製しておく。その後、本発明における穿刺針を当該穿刺ルートに挿入し、穿刺ルートに沿って進め、その姿勢のままで当該切痕により形成されている穿刺孔に挿入する。この操作により、本発明における穿刺針の傾斜端面の側縁を形成している刃線が、既に作製されている穿刺孔を形成している切痕の両端を起点として、シャント血管壁を穿刺方向において斜め後方、あるいは後方に切り裂く。これにより、切痕の底点と、切痕の両端を結ぶ仮想の直線との距離が延長し、穿刺孔の面積が大きくなる。また、この時、本発明における穿刺針は先端部が鋭利性のない縁となっているため、既に作製されている穿刺ルートの壁に本発明における穿刺針の先端部が突き刺さることはなく、したがって、本発明における穿刺針の先端部は、すでに作製されている穿刺ルートに沿って、シャント血管壁上に作製されている穿刺孔までスムーズに進んでいく。また、本発明における穿刺針は、先端部が鋭利性のない縁となっているため、シャント血管表面の穿刺孔からシャント血管内に、一旦、進入した本発明における穿刺針が、シャント血管の裏側の壁を傷つけることもない。
【0020】
また、本発明の要旨とするところは、前記先端部に続く前記傾斜端面の左右の側部が、それぞれ傾斜し、その側縁に前記刃線が形成されている穿刺針である。また、前記側部は、外側に向かって低くなるように傾斜していてもよい。
【0021】
また、本発明の要旨とするところは、前記傾斜端面の先端部の円弧方向の長さが0.05mm以上、1.2mm未満の穿刺針である。前記先端部の長さが0.05mm以上であるので、該先端部がたとえシャント血管壁上の穿刺孔以外の部分に当たった場合であっても、該先端部がその部位を傷つけることが防止される。また、前記先端部の長さが1.2mm未満であるので、該先端部を皮膚表面の穿刺ルートの入り口に挿入することが容易になる。
【0022】
また、本発明の要旨とするところは、前記穿刺針の円弧状の先端部の曲率半径が200μm以上、4.4mm未満の穿刺針である。該曲率半径が200μm以上であるので、穿刺針の先端部がシャント血管壁を損傷することを防止できる。また、前記穿刺針の先端部の曲率半径が4.4mm未満であるので、皮膚表面の穿刺ルートの入り口に先端を挿入し易い。
【0023】
また、本発明の要旨とするところは、前記刃線の始点が、前記傾斜端面の先端部と側部の境界にあり、前記刃線の終点が、前記傾斜端面の先端を起点として、当該先端から前記傾斜端面の後端までの距離の1/10
から7/10の間を通
りなおかつ穿刺針を傾斜端面側の側面から見たときに穿刺針の軸と直角をなす幅方向の仮想横線と、前記傾斜端面の側縁とが互いに交わる位置にある穿刺針である。前記刃線が形成されている部分における傾斜端面の横径が管状部の径に対して大きいほど、切痕はより延長されるので、前記刃線が形成されている部分における傾斜端面の横径が管状部の径に対して大きい方が好ましいが、前記刃線が形成されている部分の終点が前記傾斜端面の先端から後端までの距離の1/10未満の点を通る仮想横線と、前記傾斜端面の側縁とが互いに交わる位置にある場合には、前記刃線が形成されている部分の終点における傾斜端面の横径は小さいので、すでに形成されている切痕に本発明における穿刺針を挿入した場合において、当該切痕を十分に延長させることができない。一方、前記刃線が形成されている部分の終点が前記傾斜端面の先端から後端までの距離の7/10以上の点を通る仮想横線と、前記傾斜端面の側部とが互いに交わる位置にある場合には、本発明における穿刺針を傾斜端面を上向きに静置させ、側面から見た場合において、刃線が形成されている前記傾斜端面の側縁部分が、製造技術上、下向きの凸の円弧状となり、この部分の終点付近が切痕の端に引っかかるようになる。
【0024】
また、本発明の要旨とするところは、前記刃線のエッジ角は、5度から85度、より好ましくは、15度から65度である。刃線のエッジ角度が、5度未満の場合は、刃線の強度が弱くなりすぎる。一方、刃線のエッジ角が、85度以上の場合は、切れ味が悪くなりすぎる。
【0025】
また、前記穿刺針は、既に作製されている前記穿刺孔に挿入、穿刺するものであってもよい。また、前記穿刺針は、前記穿刺孔を形成する穿刺針よりも太い径を有するものであってもよい。また、前記穿刺針は、前記側部傾斜する傾斜面が平面であってもよい。前記側部の外側に向かって傾斜する傾斜面のある部分の針の外径幅は、当該傾斜面のある部分よりも後方部分の針の外径幅よりも狭くてもよい。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、既に作製されている穿刺孔に挿入することにより、当該穿刺孔を拡張し、以て、ダルニードルの穿刺孔への挿入の成功率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】血液浄化処理用器具の構成の概略を示す図である。
【
図2A】本発明における穿刺針の先端付近の上面図である。
【
図2C】別の例の穿刺針の先端付近の上面図である。
【
図3】本発明における穿刺針の先端付近の斜視図である。
【
図4A】本発明における穿刺針の先端付近の側面図である。
【
図4B】本発明における穿刺針の先端の鋭利性のない先端付近の拡大側面図である。
【
図5】本発明における穿刺針を穿刺ルートに挿入する様子を示す説明図である。
【
図7】ダルニードルを穿刺ルートに挿入する様子を示す説明図である。
【
図8】ダルニードルが、シャント血管壁上の穿刺孔に挿入される様子を示す図である。
【
図9】穿刺針の穿刺角度と、穿刺針により形成される穿刺孔の形状との関係を示す、シリコンゴム板の上に作製した穿刺孔の写真である。
【
図10】シリコンゴム板の上に作製した切痕を示す写真である。
【
図11】通常穿刺針により穿刺ルートが形成される様子を示す説明図である。
【
図13】(a)は、ダルニードルの先端部の上面図である。(b)は、通常穿刺針の先端部の上面図である。
【
図16】湾曲尖端針により穿刺ルートと穿刺孔が形成される様子を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照して、本発明の好ましい実施の形態について説明する。
図1は、本発明の穿刺針10を有する血液浄化処理用器具1の一例を示す説明図である。
【0029】
血液浄化処理用器具1は、例えば湾曲尖端針による最初の穿刺に続く2回目の穿刺時に患者に穿刺される穿刺針10と、穿刺針10の後端部に接続されたチューブ11と、チューブ11の後端部を他のチューブに接続するための接続部12とを有している。チューブ11の穿刺針10に近い部分には、穿刺針10を動かす際に作業者が保持する保持部13が設けられている。また、チューブ11には、クランプ14が取り付けられている。接続部12には、キャップ15が嵌められている。
【0030】
血液浄化処理用器具1は、例えば接続部12により他のチューブに接続され、図示しない血液浄化器を有する血液浄化回路の一部を構成する。血液浄化処理用器具1は、血液浄化回路の脱血側の端部区間と返血側の端部区間に取り付けられ、血液浄化処理時には先端の穿刺針10を通じて脱血や返血が行われる。なお、血液浄化処理には、例えば透析処理、血漿交換処理、血漿吸着処理、血液成分除去処理などが含まれる。
【0031】
穿刺針10は、
図2A、
図3及び
図4Aに示すように、針先端に向かって傾斜した傾斜端面10aを有する管状部20を有しており、傾斜端面10aの先端部10bは、前方に凸の円弧状となり、鋭利性のない縁を有している。より具体的には、先端部10bは、
図4Bに示すように、針側面から見た場合の先端部10bの曲率半径r2を、0.01〜0.05mmの範囲で鋭利性をないようにすることが望ましい。より好適には曲率半径r2を、0.015〜0.03mmの範囲とすることが望ましい。一実施例として、先端部10bは、曲率半径r2を0.02mmとした。また、先端部10bを形成する円弧の長さは、0.05mm以上、1.2mm未満、例えば0.6mmに設定されており、針上側から見たときの先端部10bの円弧の曲率半径r1は、200μm以上、4.4mm未満、例えば0.43mmに設定されている。
【0032】
また、穿刺針10の円弧状の先端部10bに続く左右の側部10cは、それぞれ外側が低くなるように傾斜し、その側縁10dには、鋭利な刃線10eが形成されている。そして、
図2Aに示すように、刃線10eのエッジ角(θ1)は5度から85度で形成され、カット性を有している。この鋭利な刃線10eとなっている部分の後方側の終点Tは、先端N1から傾斜端面10aの後端N2までの距離Rの1/10ないし7/10の間を通る仮想横線Gと、傾斜端面10aの側縁10dとが互いに交わる位置にある。また、側部10cの外側に向かって傾斜する傾斜面(上面)は、湾曲しておらず、平面である。側部10cの外側に向かって傾斜する傾斜面のある部分の穿刺針10の外径幅K1は、当該傾斜面のある部分よりも後方部分の穿刺針10の外径幅K2よりも狭くなっている。さらに側部10cの外側に向かって傾斜する傾斜面の傾斜角θ2は、0度より大きく30度以下が好ましい。
【0033】
ここで、ダルニードル115との比較の上で、穿刺針10の特徴を明らかにするために、
図2Bの下段には、上方に向けて静置して、上方から見たダルニードル115の傾斜端面115aの形状を示し、更に、
図2Bの上段には、傾斜端面115aの先端点115pから任意の距離Lだけ離れた、ダルニードル115の長軸Aに直角な傾斜端面115aの断面115gを示す。一方、
図2Aの下段には、上方に向けて静置して、上方から見た穿刺針10の傾斜端面10aの形状を示し、
図2Aの上段には、ダルニードル115の場合と同様に、傾斜端面10aの先端N1から任意の距離Lだけ離れた部位であって、側縁10dに刃線10eが形成されている部位における、穿刺針10の長軸Aに直角な傾斜端面10aの断面10gを示す。
【0034】
ダルニードル115の場合においては、
図2Bの下段に示すように、傾斜端面115aの形状は、おおむね楕円形であり、そして、傾斜端面115aの先端部115bは、楕円形の一部であるために、穿刺方向において前方に凸の円弧状となっている。そして、
図2Bの上段に示すように、この状態では、ダルニードル115の傾斜端面115aの左右の側部115cは、水平に形成されている。したがって、ダルニードル115の外表面115fと、傾斜端面115aとにより形成される側縁115dの角は鈍角であり、シャント血管に挿入する場合において、シャント血管壁を横に切り裂くことはない。
【0035】
これに対し、
図2Aの上段に示す穿刺針10の傾斜端面10aの側部10cは、外側に傾斜するように斜めに研磨あるいは切断されている。したがって、外側に傾斜するように斜めに形成された傾斜端面10aの側部10cと、穿刺針10の外表面10fとにより形成される側縁10dの角は、鋭利な刃線10eとなっている。すなわち、穿刺針10の傾斜端面10aをシャント血管103に挿入する場合において、鋭利な刃線10eがシャント血管壁104を後方に切り裂く。
【0036】
次に、以上のように構成された穿刺針10を用いてシャント血管壁の穿刺孔の面積を拡大する穿刺作業について説明する。当該穿刺作業を行う前には、穿刺ルート及び穿刺孔を形成する一回目の穿刺作業が行われる。例えば、
図16に示すように、湾曲尖端針120の傾斜端面120aを下に向けた状態で、シャント血管表面104に対しておおよそ30°の角度で、湾曲尖端針120により皮膚102から皮下組織101を貫いてシャント血管103を穿刺する。その結果、皮膚102とシャント血管表面104の間には穿刺ルート105が形成され、穿刺ルート105の延長線上のシャント血管壁104には、
図14に示す、前方に凸の円弧状の切痕111による穿刺孔109が作製される。
【0037】
このような湾曲尖端針120によるシャント血管103の穿刺は、シャント血管表面104上の2か所で行い、2本の湾曲尖端針120のうち一方の湾曲尖端針120を通してシャント血管103から脱血し、脱血された血液を血液浄化器において浄化した後、浄化された血液を他方の湾曲尖端針120を通してシャント血管103に返血する。
【0038】
次に穿刺針10を用いた二回目の穿刺作業が行われる。二回目の穿刺作業では、先ず、
図5に示すように、湾曲尖端針120より太い穿刺針10を、皮膚102上の穿刺ルート105の入り口105aから穿刺ルート105に、傾斜端面10aを下に向けた状態で挿入し、穿刺ルート105に沿って、そのままの姿勢で進める。次に、穿刺針10の先端N1がシャント血管103の表面104上の穿刺孔109を覆うフラップ110に到達したら、そのままの姿勢で穿刺針10の傾斜端面10aを穿刺孔109に挿入する。そうすると、穿刺針10の側部10cの刃線10eが穿刺孔109の切痕111の両端に接触し、当該刃線10eにより、シャント血管表面104が、
図6に示す穿刺孔109を形成する切痕111の両端E1、E2を起点として穿刺方向Xにおいて後方に向かって切り裂かれ、以て、切痕111は、
図6において点線111dで示す分だけ、穿刺方向Xの後方に延長される。その結果、切痕111の両端を結ぶ仮想の直線111cと切痕111の底点111bとの距離Dである、切痕111の円弧の深さは深くなり、穿刺孔109の面積が拡張する。なお、この時の血液浄化処理は、このようにしてシャント血管103内に留置した穿刺針10を通して、脱血し、あるいは返血することにより行う。
【0039】
次に、ダルニードル115を用いて三回目以降の穿刺作業を行う。三回目以降の穿刺作業では、
図7に示す皮膚102上の穿刺ルート105の入り口105aから、傾斜端面115aを上に向けた状態で、二回目の穿刺作業で使用した穿刺針10と同じ太さのダルニードル115を挿入する。次に、穿刺ルート105に沿ってダルニードル115を進めていくと、ダルニードル115の傾斜端面115aの先端部115bがシャント血管103の表面104に到達する。そこで、ダルニードル115の先端部115bにより、
図8に示すように、フラップ110をシャント血管103内に押し下げ、以て、穿刺孔109を開口させ、ダルニードル115をシャント血管103内に挿入する。
【0040】
本実施の形態によれば、穿刺孔109を形成する切痕111が穿刺方向Xにおいて後方に向かって延び、以て、切痕111の両端を結ぶ仮想の直線111cと切痕111の底点111bとの距離Dが延長し、穿刺孔109の面積が拡張しているので、ダルニードル115の先端が穿刺孔109に入り易くなり、ダルニードル115による穿刺孔109への挿入の成功率が向上する。また、太い湾曲尖端針120を使用して最初の穿刺を行うと強い穿刺痛が生じるが、最初の穿刺ではより細い湾曲穿刺針120を使用し、二度目の穿刺作業時により太い穿刺針10を用いて穿刺ルート105を広げるなら、最初の穿刺作業時における穿刺痛はより弱いものとなり、二度目の穿刺作業時にはほとんど穿刺痛が生じない。すなわち、最初の穿刺ではより細い湾曲穿刺針120を使用し、二度目の穿刺でより太い穿刺針10を用いることにより、穿刺痛による患者の苦痛を最小限に抑えることができる。
【0041】
上記実施の形態においては、一回目の穿刺に用いる湾曲尖端針120と二回目の穿刺に用いる穿刺針10とを同じ太さにしてもよい。二回目の穿刺で、一回目の穿刺において湾曲尖端針120により作製された穿刺孔109に穿刺針10を挿入する時、穿刺針10をより寝かした角度とし、すなわち皮膚表面に対する穿刺針10の角度をより小さくして挿入すれば、
図6に示すように、穿刺孔109を形成している切痕は、その両端を起点として、穿刺方向において斜め後方、あるいは後方に切り裂かれ、切痕111の両端を結ぶ仮想の直線111cと切痕111の底点111bとの距離Dは延長する。その結果、一旦穿刺孔109に到達したダルニードル115の先端は、切痕111の両端を結ぶ仮想の直線111cと切痕111の底点111bとの距離Dである、切痕111の深さが深くなった分だけ、穿刺孔109に入りやすくなる。
【0042】
また、上記実施の形態において、側部10cの傾斜面は、外側が低くなるように傾斜していたが、外側が高くなるように傾斜していてもよい。
【0043】
さらに、上記実施の形態における傾斜する側部10cはなくてもよく、
図2Cに示すように穿刺針10の円弧状の先端部10bに続く左右の側縁10dに、直接的に鋭利な刃線10eが形成されていてもよい。かかる場合、刃線10eは、例えば傾斜端面10aの外側を削って形成される。
【0044】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0045】
例えば、上記実施の形態では、最初の穿刺で湾曲尖端針120を使用してシャント血管表面104に穿刺孔109を作製、二回目の穿刺作業では穿刺針10を使用して当該穿刺孔109を深化させ、三回目の穿刺作業で初めてダルニードル115を用いて穿刺作業を行い、以後、ダルニードル115を用いて穿刺作業を続ける。しかし、穿刺針10を使用して当該穿刺孔109を深化させる作業は、必ずしも二回目の作業として行わなければならない訳ではない。最初の穿刺で湾曲尖端針120を使用してシャント血管表面104に穿刺孔109を作製し、二回目以降の穿刺作業ではダルニードル115を用いて穿刺作業を続け、その後、穿刺ルート105が確立したところで、穿刺針10を使用して穿刺孔109を深化させてもよい。このような場合には、たとえ、最初の穿刺で使用した湾曲尖端針120や、それまで使用していたダルニードル115よりも太い穿刺針10を使用したとしても、穿刺ルート105が確立しているので、穿刺針10の先端が皮膚表面の穿刺ルート105の入り口105aに挿入しにくいという現象が生じない。
【0046】
更に、例えば、上記実施の形態では、穿刺方向に対して前方に凸の円弧状の切痕により形成された穿刺孔を穿刺針10を使用して拡張した。しかし、穿刺針10を使用して拡張できるのは、穿刺方向に対して前方に凸の円弧状の切痕により形成された穿刺孔に限らない。穿刺方向に対して後方に凸の円弧状の切痕により形成された穿刺孔を穿刺針10を使用して拡張しても何ら差支えない。たとえ、穿刺孔の形状が穿刺方向に対して後方に凸の円弧状であっても、
図12に示すような切痕106の両端を結ぶ仮想の直線106aと切痕106の底点106bとの距離Dが延長すれば、ダルニードル115の先端は穿刺孔107に入りやすくなる。
【0047】
なお、別の観点から、皮膚表面からシャント血管に穿刺して、皮膚表面からシャント血管表面との間に穿刺ルートを形成しつつ、シャント血管表面に切痕を作製する第1の穿刺工程と、その後、前記皮膚表面から穿刺ルートを通じ、さらに第1の穿刺工程で作製した前記切痕により形成さている穿刺孔を通してシャント血管内に挿入することにより、前記シャント血管表面の、第1の穿刺工程で作製した前記切痕を拡張する第2の穿刺工程と、を有する穿刺方法が提案できる。
また、かかる穿刺方法は、第1の穿刺工程の穿刺を尖端湾曲針112で行い、第2の穿刺工程の穿刺を穿刺針10で行い、さらに、前記拡張された切痕を通じてシャント血管内にダルニードル115を穿刺する第3の工程を有していてもよい。
【実施例】
【0048】
(評価実験1)
シャント血管の表面に穿刺方向において前方に凸の円弧状の切痕を作製する場合において、切痕を形成するための湾曲尖端針120の穿刺方向とシャント血管壁とが成す角度が大きいほど、作製される穿刺孔の開口面積は小さく、穿刺方向とシャント血管壁とが成す角度が小さいほど、穿刺孔の面積は大きくなるということを確認するための実験である。すなわち、評価実験1では、17Gの湾曲尖端針120を用い、傾斜端面を下向きに、表面に対して20°、30°及び40°の角度でシリコンゴム板を穿刺して、それぞれ穿刺方向に対して前方に凸の円弧状の切痕を作製した。
図9には、このようにして作製したシリコンゴム板の上の切痕P1、P2、P3を示す。
【0049】
湾曲尖端針120の穿刺角度が20°、30°、40°と大きくなるに従い、切痕の両端を結ぶ仮想の直線111cと切痕の底点111bとの距離Dは、0.951mm、0.809mm、0.727mmと縮小した。
【0050】
(評価実験2)
湾曲尖端針120により、シャント血管の表面を通常の穿刺角度である、30°の角度で穿刺して凸の切痕を作製し、当該切痕により形成された穿刺孔に、湾曲穿刺針より太い穿刺針10(破面エッジ角:58度)を、同様に30°で再挿入した場合に、2回目の穿刺針10の穿刺により、切痕の両端を結ぶ仮想の直線と切痕の底点との距離が延長するか否かを確認することを目的とする実験である。評価実験2では、この目的を達成するために、まず、17Gの太さの湾曲尖端針120で、傾斜端面を下向きに、表面に対して30°の角度でシリコンゴム板を穿刺して、シャント血管の表面に切痕を作製した。引き続いて、当該切痕に、湾曲尖端針120より太い15G穿刺針10を30°の角度で挿入した。
図10には、一回目の湾曲尖端針120により、穿刺角度を30°で穿刺して作製したままの凸の切痕(Q1)、及び当該切痕に、更により太い穿刺針10を、30°の角度で挿入した後の切痕(Q2)の写真を示す。
【0051】
湾曲尖端針120で、傾斜端面を下向きに、表面に対して30°の角度でシリコンゴム板を穿刺して作製した場合(Q1)、穿刺方向に対して前方に凸の切痕における、切痕の底点と切痕の両端を結ぶ仮想の直線との距離は0.710mmであった。更に、当該切痕に湾曲尖端針120より太い穿刺針10を、同じ30°の角度で挿入した場合(Q2)、切痕の底点と切痕の両端を結ぶ仮想の直線との距離は1.232mmであった。すなわち、この実験結果は、湾曲尖端針120で、傾斜端面を下向きに、表面に対して30°の角度で穿刺して作製した、穿刺方向に対して前方に凸の切痕に、更に湾曲尖端針120より太い穿刺針10を、同じ角度で挿入することにより、切痕の底点と切痕の両端を結ぶ仮想の直線との距離を延長できることを示している。
【0052】
(評価実験3)
評価実験3は、シャント血管の表面に対して30°の角度でシャント血管を穿刺して作製した、穿刺方向において前方に凸のシャント血管壁上の穿刺孔に、より太い穿刺針10を、同様に30°の角度で、挿入して、切痕を延長した場合において、実際にダルニードルが挿入しやすくなるか否かを確認するために施行された。
【0053】
評価実験3は、前腕に自己血管内シャントを有する20名の末期腎不全血液透析患者を対象に、週に三回施行する血液浄化治療のうちの二回目の血液浄化治療時に施行された。これらの患者に対して、17Gの
図15に示す湾曲尖端針120を用い、当該湾曲穿刺針の傾斜端面120aを下に向けた状態で、シャント血管壁に対して30°の角度で、皮下組織を貫いて皮膚からシャント血管を穿刺し、皮膚とシャント血管壁の間に穿刺ルートを形成すると伴に、穿刺ルートの延長線上のシャント血管の表面に穿刺孔を作製した。このような穿刺は、異なる2か所で行われた。これらの穿刺孔の形状は、
図14に示す、前方に凸の円弧状であると考えられる。これらの穿刺孔を作製した日は、このようにしてシャント血管内に挿入し、留置した湾曲尖端針120を通して脱血及び返血を行うことにより血液浄化治療が施行された。
【0054】
二日後の次の血液浄化治療時における穿刺作業では、熟練した看護士が、二か所に作製された前述の穿刺孔のうちの一方には、
図7に示すように皮膚102の上の穿刺ルート105の入り口105aから穿刺ルート105に、針先端の傾斜端面を上に向けた状態で、管状部の径が等しい、すなわち17Gのダルニードル115を挿入し、穿刺ルート105に沿って、この姿勢のままでダルニードル115を進め、更に穿刺孔109を通してシャント血管103内に挿入した。
【0055】
更に、他方の穿刺孔には、
図5に示すように皮膚102上の穿刺ルート105の入り口105aから穿刺ルート105に、針先端の傾斜端面10aを下に向けた状態で、管状部の径がより太い15Gの穿刺針10(刃面エッジ角:39度)を挿入し、穿刺ルート105に沿って、この姿勢のままで穿刺針10を進めた。その結果、穿刺針10の先端部10bがシャント血管表面104の上の穿刺孔109に到達したところで、穿刺針10の側部10cの側縁10dを形成する刃線10eにより、穿刺孔109の切痕111の両端が、穿刺方向Xにおいて後方に向かって切り開かれ、以て、切痕111は穿刺方向Xの後方に延長するように、穿刺針10をそのままの姿勢で穿刺孔に挿入した。その後は、このようにしてシャント血管103内に留置した穿刺針10を通して、脱血し、あるいは返血して、血液浄化治療を施行した。
【0056】
それから、更に二日後の次の血液浄化治療時における穿刺作業では、前回のダルニードル115及び穿刺針10によるシャント血管103の穿刺を行った看護士とは別の看護士が、穿刺針10で拡張していない穿刺孔に対しては17Gのダルニードル115を使用し、穿刺針10で拡張した穿刺孔に対しては15Gのダルニードル115を使用して、それぞれの穿刺孔109を通してシャント血管を穿刺した。そして、当該看護士には、それぞれの穿刺孔109を通してシャント血管103内にそれぞれのダルニードル115を挿入する際に、それぞれ抵抗を感じたか否か報告させた。これらの評価実験3の結果を次の表1に示す。
【0057】
【表1】
本発明に係る穿刺針10により、切痕111を延長した場合には、ダルニードル115の挿入にあたって、「抵抗なし」の比率が高まった。
【符号の説明】
【0058】
1 血液浄化処理用器具
11 チューブ
14 クランプ
15 キャップ
10 穿刺針
10a 傾斜端面
10b 先端部10c 側部
10d 側縁
10e 刃線
10f 外表面
10g 仮想断面
20 管状部N2 後端
N1 先端
T 後端の終点
G 仮想横線
R 距離
101 皮下組織
102 皮膚
103 シャント血管
104 シャント血管表面
105 穿刺ルート
105a 入り口
106 切痕
106a 仮想直線106b 底点
107、109 穿刺孔
108、110 フラップ108b 最適押圧部位
111 切痕
111b 円弧の底点
111c 円弧の弦
115 ダルニードル
115a 傾斜端面
115b 先端部115c 側部
115d 側縁
115f 外表面
115g 仮想断面
115p 先端A 長軸
L 距離
120 湾曲尖端針
120a 傾斜端面
120b 尖端点
Y 中心線