【実施例】
【0048】
つぎに、本発明の実施例について説明する。ただし、本発明は、下記実施例により制限されない。
【0049】
[実施例1]
膵臓がん患者の血漿中のプロレニン受容体の濃度上昇を確認した。
【0050】
血漿中のプロレニン受容体の測定は、Human soluble (Pro)renin Receptor Assay Kit(株式会社 免疫生物研究所)を用いて、そのプロトコルに従って行った。まず、健常者男性(n=9)、健常者女性(n=3)、膵臓がん患者男性(n=9)および膵臓がん患者女性(n=8)の血液から血漿を回収した。これらを、前記キットの希釈液(1% BSAおよび5% Tween−20含有リン酸緩衝液)で2倍希釈し、得られた希釈血漿を被検サンプルとした。前記被検サンプル100μLを、捕獲抗体(抗Human renin receptorポリクローナルラビットIgG抗体)が結合したプレートに添加し、4℃で一晩反応させた。前記被検サンプルを除き、前記プレートを前記リン酸緩衝液で4回洗浄した。つぎに、前記プレートに、標識抗体(HRP標識抗Human renin receptorポリクローナルマウスIgG抗体)を100μL添加し、4℃で60分反応させた。前記標識抗体を除き、前記プレートを前記リン酸緩衝液で5回洗浄した。さらに、前記プレートにTetra Methyl Benzidine含有基質液を100μL添加して発色させた後、0.5mol/L(1N) H
2SO
4で、発色反応を停止した。停止後、プレートリーダーで、前記プレート内の反応液について450nmでの吸光度を測定した。他方、前記キットの標準物質(Human soluble (Pro)renin Receptor)を段階希釈し、得られた希釈標準サンプルを用いて、同様に吸光度を測定し、検量線を作成した。そして、前記被検サンプルの吸光度から、前記検量線に基づき、前記血漿中のプロレニン受容体の濃度を測定した。
【0051】
また、健常者(n=20)、膵臓がんを原発巣とし且つ転移のない膵臓がん患者(転移なし、n=11)、および膵臓がんを原発巣とし且つ他臓器への転移がある膵臓がん患者(転移あり、n=9)から血漿を回収し、同様にして前記血漿中のプロレニン受容体の濃度を測定した。
【0052】
この結果を
図1(A)および(B)に示す。
図1(A)および(B)は、血漿中のプロレニン受容体の濃度を示すグラフである。
図1(A)および(B)において、横軸は、前記被検サンプルの種類を、縦軸は、プロレニン受容体の濃度を示す。
図1(A)に示すように、男性および女性共に、膵臓がん患者(PDAC)は、健常者(Normal)と比較して、血漿中のプロレニン受容体の濃度が有意に上昇した。また、
図1(B)に示すように、膵臓がんの転移無しの患者および膵臓がんの転移ありの患者は、いずれも、健常者と比較して、血漿中のプロレニン受容体濃度が有意に上昇した。これらの結果から、転移の有無および性別に関わらず膵臓がんの発症と血漿中のプロレニン受容体濃度上昇との間に相関関係があり、血漿中のプロレニン受容体が、膵臓がんのマーカーとなることがわかった。
【0053】
[実施例2]
膵臓がん細胞株のプロレニン受容体の発現を抑制し、前記細胞株の増殖能力を確認した。
【0054】
40%コンフルエントのヒト膵臓がん細胞株PK−1を、37℃、5% CO
2の条件下で24時間、ディッシュ上の無血清培地中で培養した。次に、前記PK−1に、プロレニン受容体遺伝子をノックダウンさせる下記のsiRNA(P)RR (Life Technologies)またはネガティブコントロールであるscrambled siRNA (Life Technologies)を、Lipofectamine(商標) RNAiMAX (Life Technologies)を使用し、そのプロトコルに従って導入した。そして、siRNAを導入したPK−1を、同条件下で48時間培養した。培養後、0.25%トリプシンおよび1mmol/L EDTA含有リン酸緩衝液(Life Technologies)を用い、前記ディッシュからPK−1を剥離し、新たな前記無血清培地を添加した。そして、PK−1を含む前記培地から、遠心分離によってPK−1を含むペレットを回収した。前記ペレットをリン酸緩衝液1mLに懸濁し、この懸濁液と20μLのトリパンブルー液とを混合後、血球計算板に注入し、1mLあたりの細胞数を算出した。生細胞の数が5×10
5細胞/10cm径ディッシュとなるように播種し、細胞増殖を誘導するヒトWnt3a(R&D Systems)を150ng/mLで加えた。0、24、48、72時間の培養後、PK−1を回収し、同様に生細胞の数を算出した。また、コントロールとして、siRNA処理を行わない以外は、同様にして培養および生細胞数の測定を行った。
【0055】
siRNA(P)RR
センス鎖(配列番号8)
5’−UAUAGGGACUUGCUGGGUUCUUCGC−3’
アンチセンス鎖(配列番号9)
5’−GCGAAGAACCCAGCAAGUCCCUAUA−3’
【0056】
この結果を
図2に示す。
図2は、RNAiによりプロレニン受容体の発現を抑制したときの、前記膵臓がん細胞株の細胞数を示すグラフである。
図2において、コントロール(○)は、siRNA無処理のコントロール群、スクランブル(△)は、スクランブルsiRNAで処理したスクランブル群、siRNA(P)RR(□)は、siRNA(P)RRで処理したsiRNA(P)RR群の結果である。
図2の横軸は、Wnt3aで刺激した時間を、縦軸は、細胞数を示す。
図2に示すように、コントロール群およびスクランブル群は、各処理時間で同等の細胞増殖を示した。これに対して、siRNA(P)RR群は、前記両群に比べて、各処理時間のいずれにおいても、前記膵臓がん細胞株の細胞増殖が抑制された。さらに、コントロール群およびスクランブル群は、72時間まで増殖し続けたのに対して、siRNA(P)RR群は、48時間をピークに細胞数が減少した。この結果から、プロレニン受容体の発現を抑制することで、膵臓がん細胞株の増殖を抑制できること、つまり、プロレニン受容体が、膵臓がんのターゲットとなることがわかった。
【0057】
[実施例3]
転移がん組織におけるプロレニン受容体タンパク質およびmRNAの発現上昇を確認した。
【0058】
(1)プロレニン受容体タンパク質の発現
原発巣が膵臓であるがん患者から、肝臓の正常組織(コントロール)、肝臓の転移がん組織および腹膜の転移がん組織を採取した。各組織2gにLysis buffer 1mLを添加し、4,000rpmで5分間、ホモジェナイズを行い、被検サンプルを作製した。試薬(商品名 Bio−Rad Protein Assay、Bio−Rad社)を用いて、前記被検サンプル中のタンパク質量を測定した。
【0059】
前記被検サンプル(総タンパク量20μg)を、10%SDSポリアクリルアミドゲルを用いて電気泳動に供し、PVDF(ポリビニリデンジフルオライド)メンブレンに転写した。前記転写後の前記メンブレンを、Blocking buffer(Li−Cor BioSciences)を用いてブロッキングした。前記ブロッキング後の前記メンブレンを、1000倍希釈した抗ラビット(P)RRポリクローナル抗体と室温で1時間反応させ、続いて2000倍希釈したIRDye(登録商標)標識抗ラビットIgG抗体(Li−Cor BioSciences)と、同条件下で反応させた。前記反応後のメンブレンについて、Odyssey(登録商標) System(Li−Cor BioSciences)を用い、前記被検サンプル中のプロレニン受容体タンパク質の発現量を測定した。コントロールである肝臓の正常組織の発現量を1として、肝臓および腹膜の転移がん組織の発現量の相対値を求めた。
【0060】
各組織におけるプロレニン受容体タンパク質の発現の結果を、
図3に示す。
図3は、各組織におけるプロレニン受容体タンパク質の発現量を示したグラフである。横軸は、被検サンプルの種類を、縦軸は、プロレニン受容体タンパク質の相対的発現量を示す。
図3に示すように、肝臓および腹膜の転移がん組織は、正常な肝臓組織よりプロレニン受容体タンパク質の発現が、有意に上昇した。これらの結果から、転移がん組織と、プロレニン受容体タンパク質の発現上昇との間に相関があること、つまり、プロレニン受容体タンパク質が、転移がんのマーカーとなることがわかった。
【0061】
(2)プロレニン受容体遺伝子のmRNAの発現
前記(1)で採取した肝臓の正常組織(コントロール)、肝臓の転移がん組織および腹膜の転移がん組織を使用した。各組織2gにISOGEN(Nippon Gene) 1mLを添加し、4,000rpmで5分間、ホモジェナイズを行い、被検サンプルを作製した。前記被検サンプルにエタノールを加え、RNAを沈殿させた後、前記RNAをRNase free waterに溶解し、RNA溶液を作製した。分光光度計により、前記RNA溶液の濃度およびOD
260/OD
280(純度)を計測した。そして、RNA濃度300ng/μL、純度1.8以上の前記RNA溶液を、以下の定量的リアルタイム(qRT)−PCRに使用した。
【0062】
逆転写酵素およびランダムプライマーを用い、常法により、前記RNA溶液からcDNAを合成後、RNaseHを用いてRNAを分解した。得られた前記cDNAを鋳型として、SYBR(登録商標) Green(Applied Biosystems)およびApplied Biosystems 7300 Real−Time PCR System(Applied Biosystems)を用い、添付のプロトコルに従ってqRT−PCRを行い、前記被検サンプル中のプロレニン受容体遺伝子のmRNA発現量および内部標準であるβ−アクチン遺伝子のmRNA発現量を測定した。プロレニン受容体遺伝子のmRNA発現量は、前記β−アクチン遺伝子のmRNA発現量に対する比として算出した。前記qRT−PCRにおいて、プロレニン受容体遺伝子および前記β−アクチン遺伝子の増幅には、それぞれ以下のプライマーセットを使用した。
【0063】
プロレニン受容体遺伝子増幅用プライマーセット
(配列番号1)5’-GGCGTTGGTGGCGGGTGTTT-3’
(配列番号2)5’-AGCCCATGGACAATGCAGCCAC-3’
β−アクチン遺伝子増幅用プライマーセット
(配列番号3)5’-CACAGAGCCTCGCCTTTGCCGATC-3’
(配列番号4)5’-ACGAGCGCGGCGATATCATCATC-3’
【0064】
各組織のプロレニン受容体遺伝子のmRNAの発現量の結果を、
図4に示す。横軸は、被検サンプルの種類を、縦軸は、プロレニン受容体遺伝子のmRNAのβ−アクチン遺伝子のmRNAに対する相対的発現量を示す。
図4に示すように、肝臓および腹膜の転移がん組織は、正常な肝臓組織と比較して、プロレニン受容体遺伝子のmRNAの発現が上昇した。この結果から、転移がん組織と、プロレニン受容体遺伝子のmRNAの発現上昇との間に相関があること、つまり、プロレニン受容体遺伝子のmRNAが、転移がんのマーカーとなることがわかった。
【0065】
[実施例4]
胃がん組織におけるプロレニン受容体タンパク質およびmRNAの発現上昇を確認した。
【0066】
(1)プロレニン受容体タンパク質の発現
胃がん患者4名から、それぞれ胃の正常組織(n=4)およびがん組織(n=4)を採取し、前記実施例3(1)と同様にして、プロレニン受容体タンパク質の発現量を測定した。そして、患者4名の正常組織およびがん組織について、それぞれ発現量の平均を求めた。
【0067】
胃がん組織におけるプロレニン受容体タンパク質の発現の結果を、
図5に示す。
図5は、プロレニン受容体タンパク質の発現量を示したグラフである。横軸は、被検サンプルの種類を、縦軸は、プロレニン受容体タンパク質の相対的発現量を示す。
図5に示すように、胃がん組織(n=4)では、正常な胃組織(n=4)と比較して、プロレニン受容体タンパク質の発現が、有意に上昇した。これらの結果から、胃がんの発症と、プロレニン受容体タンパク質の発現上昇との間に相関があること、つまり、胃組織におけるプロレニン受容体タンパク質が、胃がんのマーカーとなることがわかった。
【0068】
(2)プロレニン受容体遺伝子のmRNAの発現
前記(1)で採取した胃の正常組織およびがん組織を使用し、前記実施例3(2)と同様にして、プロレニン受容体遺伝子のmRNAの発現量を測定した。そして、患者4名の正常組織およびがん組織について、それぞれ発現量の平均を求めた。
【0069】
胃がん組織のプロレニン受容体遺伝子のmRNAの発現量の結果を、
図6に示す。横軸は、被検サンプルの種類を、縦軸は、プロレニン受容体遺伝子のmRNAのβ−アクチン遺伝子のmRNAに対する相対的発現量を示す。
図6に示すように、胃がん組織(n=4)では、正常な胃組織(n=4)と比較して、プロレニン受容体遺伝子のmRNAの発現が、上昇した。この結果から、胃がん発症と、プロレニン受容体遺伝子のmRNAの発現上昇との間に相関があること、つまり、胃組織におけるプロレニン受容体遺伝子のmRNAが、胃がんのマーカーとなることがわかった。
【0070】
[実施例5]
大腸がん組織におけるプロレニン受容体タンパク質およびmRNAの発現上昇を確認した。
【0071】
(1)プロレニン受容体タンパク質の発現
大腸がん患者4名から、大腸の正常組織(n=4)およびがん組織(n=4)を採取し、前記実施例3(1)と同様にして、プロレニン受容体タンパク質の発現量を測定した。そして、患者4名の正常組織およびがん組織について、それぞれ発現量の平均を求めた。
【0072】
大腸がん組織におけるプロレニン受容体タンパク質の発現の結果を、
図7に示す。
図7は、プロレニン受容体タンパク質の発現量を示したグラフである。横軸は、被検サンプルの種類を、縦軸は、プロレニン受容体タンパク質の相対的発現量を示す。
図7に示すように、大腸がん組織(n=4)では、正常な大腸組織(n=4)と比較して、プロレニン受容体タンパク質の発現が、有意に上昇した。これらの結果から、大腸がんの発症と、プロレニン受容体タンパク質の発現上昇との間に相関があること、つまり、大腸組織におけるプロレニン受容体タンパク質が、大腸がんのマーカーとなることがわかった。
【0073】
(2)プロレニン受容体遺伝子のmRNAの発現
前記(1)で採取した大腸の正常組織およびがん組織について、前記実施例3(2)と同様にして、プロレニン受容体遺伝子のmRNAの発現量を測定した。そして、患者4名の正常組織およびがん組織について、それぞれ発現量の平均を求めた。
【0074】
大腸がん組織におけるプロレニン受容体遺伝子のmRNAの発現量の結果を、
図8に示す。横軸は、被検サンプルの種類を、縦軸は、プロレニン受容体遺伝子のmRNAのβ−アクチン遺伝子のmRNAに対する相対的発現量を示す。
図8に示すように、大腸がん組織(n=4)では、正常な大腸組織(n=4)と比較して、プロレニン受容体遺伝子のmRNAの発現が、有意に上昇した。この結果から、大腸がん発症と、プロレニン受容体遺伝子のmRNAの発現上昇との間に相関があること、つまり、大腸組織におけるプロレニン受容体遺伝子のmRNAが、大腸がんのマーカーとなることがわかった。
【0075】
[実施例6]
膵臓がん組織におけるプロレニン受容体タンパク質の発現上昇を免疫組織化学染色により確認した。
【0076】
膵臓がん患者22名から、膵管の正常上皮組織、膵臓のがん組織および前がん病変部位(PanIN)を含む膵管の上皮組織を採取した。これらを被検サンプルとして、パラフィン切片を作製し、100%キシレンおよび99.5%エタノールを用いて、脱パラフィン操作を行った。そして、前記被検サンプルについて、100%エタノールおよび30%過酸化水素水を用い、内在性ペルオキシダーゼを不活性化した。つぎに、前記被検サンプルの切片領域を、リキッドブロッカー(撥水性物質)で囲った後、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄した。続いて、前記被検サンプルを、10%ヤギ正常血清(商品名 ヒストフィンSAB−PO(R)キット、ニチレイバイオサイエンス)を用い、室温で15分間、ブロッキングした。
【0077】
前記ブロッキング後、前記被検サンプルを、4000倍希釈した抗ラビット(P)RRポリクローナル抗体と、室温で1時間反応させ、前記PBSで洗浄した。つぎに、前記被検サンプルを、HRP標識二次抗体であるヒストファイン シンプルステインMAX−PRO(MULTI)(ニチレイバイオサイエンス)と、室温で30分間反応させた。続いて、前記被検サンプルを前記PBSで洗浄し、HRPの発色基質であるDAB(3,3’−diaminobenzidine)で発色させた。そして、前記被検サンプルを流水で洗浄し、ヘマトキシリン・エオシン(HE)で染色した。前記染色後の前記被検サンプルを流水で洗浄し、99.5%エタノールおよび100%キシレンで脱水し、固定した。前記固定した前記被検サンプルをマリノールで封入し、DABにより茶色に染色されるプロレニン受容体の発現領域を、光学顕微鏡を用いて観察した。
【0078】
膵臓組織におけるプロレニン受容体タンパク質の発現の結果を、
図9に示す。
図9は、膵臓組織における、プロレニン受容体タンパク質の発現を示す組織染色図である。
図9において、(A)は、膵臓がん組織の染色図であり、(B)は、膵管の正常上皮組織の染色図であり、(C)は、中期のPanINであるPanIN−2を含む膵管上皮組織の染色図であり、(D)は、後期のPanINであるPanIN−3を含む膵管上皮組織の染色図である。また、(A)−(D)におけるスケールバーは、100μmとし、染色された領域は、実線で囲んで示した(例えば、矢印X、YおよびZの領域)。
【0079】
図9(B)に示すように、膵管上皮組織(正常)は、茶色の染色がほとんど確認されなかった。一方、
図9(A)に示すように、膵臓ガン組織は、実線(X)で囲んだ領域が茶色に染色された。さらに、
図9(C)および(D)に示すように、PanIN−2およびPanIN−3は、それぞれ実線(Y)または実線(Z)で囲んだ領域が茶色に染色された。つまり、膵臓がん組織およびPanINは、正常な膵管上皮組織と比較して、プロレニン受容体タンパク質の発現が上昇した。なお、
図9は、1名の膵臓がん患者由来の組織の染色図を示すが、その他の膵臓がん患者由来の組織においても同様に、膵臓がん組織およびPanINにおいて、プロレニン受容体タンパク質の発現が上昇していた。これらの結果から、PanINの形成および膵臓がん発症と、プロレニン受容体タンパク質の発現上昇との間に相関があること、つまり、膵臓組織におけるプロレニン受容体タンパク質が、膵臓がんの高い発症可能性を示すマーカー、および膵臓がんのマーカーとなることがわかった。
【0080】
[実施例7]
siRNA(P)RRで処理したヒト膵臓がん細胞株をヌードマウスに移植し、ヌードマウスにおける前記膵臓がん細胞株の成長の抑制および血漿中の可溶性プロレニン受容体タンパク質の発現量の低下を確認した。
【0081】
(1)膵臓がん細胞株の成長
PK−1に代えて、ヒト膵臓がん細胞株であるPANC−1を用いた以外は前記実施例2と同様にして、siRNA(P)RRを導入し、siRNAを導入したPANC−1(siRNA(P)RR群)を回収した。つぎに、5×10
5細胞のPANC−1を、5週齢雄BALB/cヌードマウス(n=7)(日本クレア社製)の右上側腹部に皮下移植した。そして、前記移植後25および40日に、前記右上側腹部におけるPANC−1由来のがんの長径および短径を、電気ノギス(アズワン社製)を用いて測定した。前記がんの容積は、下記式から算出した。コントロールは、siRNA(P)RRに代えて、scrambled siRNAを導入したPANC−1(スクランブル群)用いた以外は同様にして、がんの容積を測定した。
[式1]
ガン容積(mm
3)=長径×(短径)
2×0.5
【0082】
図10に、前記がんの容積を示し、
図11に、前記移植後25日目の前記マウスの写真を示す。
図10において、(A)は、前記移植後25日の前記がんの容積を示すグラフであり、(B)は、前記移植後40日の前記がんの容積を示すグラフである。
図10(A)および(B)において、横軸は、処理したsiRNAを示し、縦軸は、がんの容積を示す。
図10(A)および(B)に示すように、前記移植後25および40日において、siRNA(P)RR群由来のがんの容積は、スクランブル群由来のがんの容積に対して、顕著に低下した。
【0083】
図11において、(A)は、スクランブル群の移植後25日目の前記マウスの写真であり、(B)は、si(P)RR群の移植後25日目の前記マウスの写真である。
図11に示すように、前記移植後25日において、スクランブル群は、実線(T)で囲んだ領域にがんの形成が確認された。これに対し、siRNA(P)RR群は、がんの形成が確認されなかった。これらの結果から、プロレニン受容体の発現を抑制することで、生体内におけるがんの成長を抑制できることがわかった。
【0084】
(2)プロレニン受容体タンパク質の発現量
前記移植後25日の前記ヌードマウスの血液から血漿を採取した。前記血漿中のプロレニン受容体タンパク質の発現量の測定は、前記実施例3(1)と同様にして測定した。つぎに、コントロールの血漿のプロレニン受容体の発現量を1として、siRNA(P)RRを導入したPANC−1を移植した前記ヌードマウスの血漿のプロレニン受容体の発現量の相対値を求めた。
【0085】
これらの結果を
図12に示す。
図12は、前記移植後25日の血漿におけるプロレニン受容体の発現量の相対値を示すグラフである。
図12において、横軸は、処理したsiRNAを示し、縦軸は、プロレニン受容体の相対的発現量を示す。
図12に示すように、siRNA(P)RR群を移植した前記ヌードマウスの血漿のプロレニン受容体の相対的発現量は、スクランブル群を移植した前記ヌードマウスの血漿のプロレニン受容体の相対的発現量に対して、有意に低下した。これらの結果から、生体内において、がんのプロレニン受容体の発現を抑制することで、血漿中のプロレニン受容体の発現量を抑制できることがわかった。
【0086】
[実施例8]
膵臓がんを移植したヌードマウスに抗プロレニン受容体抗体を投与することで、がんの成長を抑制できることを確認した。
【0087】
(1)抗プロレニン受容体抗体の作製
前記ヒトプロレニン受容体タンパク質(配列番号6)の200−213番目のポリペプチド(配列番号7)を、スカシ貝ヘモシアニン(KLH)と結合し、抗原タンパク質とした。150−200μgの前記抗原タンパク質を、2週間毎に7−10回ウサギ皮内の数十箇所に免疫した(600−800μg/体重1kg)。前記免疫は、初回は、完全アジュバントと混合した前記抗原タンパク質を用いて行い、2回目以降は、不完全アジュバントと混合した前記抗原タンパク質を用いて行った。つぎに、前記ポリペプチドに対する抗体価の上昇を確認した後、前記ウサギより全血を採取し、さらに、血清を回収し、これを抗血清とした。前記抗血清におけるポリクローナル抗ヒトプロレニン受容体抗体(クローン名:PRR1)の濃度は、0.6μg/μLであった。なお、前記抗原タンパク質に用いたヒトプロレニン受容体タンパク質の全アミノ酸配列とマウスプロレニン受容体タンパク質の全アミノ酸配列(配列番号10)との相同性(異種間のアライメントスコア)は、92.29%であった。このことから、前記抗血清に含まれる前記ヒトプロレニン受容体抗体は、マウスプロレニン受容体にも結合するといえる。
【0088】
マウスプロレニン受容体タンパク質(配列番号10)
MAVLVVLLFFLVAGALGNEFSILRSPGSVVFRNGNWPIPGDRIPDVAALSMGFSVKEDLSWPGLAVGNLFHRPRATIMVMVKGVDKLALPAGSVISYPLENAVPFSLDSVANSIHSLFSEETPVVLQLAPSEERVYMVGKANSVFEDLSVTLRQLRNRLFQENSLLNSLPLNSLSRNNEVDLLFLSELQVLHDISSLLSRHKHLAKDHSPDLYSLELAGLDELGKRYGEDSEQFRDASKILVDALQKFADDMYSLYGGNAVVELVTVKSFDTSLVRKSRTILEAKQENTQSPYNLAYKYNLEYSVVFNLVLWIMIGLALAVIITSYNIWNMDPGYDSIIYRMTNQKIRID
【0089】
(2)生体内におけるがん細胞の成長抑制
1×10
6細胞のPK−1またはPANC−1、30μlの前記抗血清(前記抗体0.6μg/μl)および170μlのPBSを混合した。この混合液(全量)を、ヌードマウス(n=10)の右上側腹部に移植した。この際、前記マウスの体重1kgあたりの移植量は、前記細胞が50×10
6細胞であり、前記抗体0.9mgである。つぎに、前記移植後から3日毎に、10μlの前記抗血清(前記抗体0.6μg/μl)を、PK−1またはPANC−1由来のがん内に投与した、この際、1回の投与における、前記マウスの体重1kgあたりの前記抗体の投与量は、0.3mgである。そして、前記移植後15、18、21、24および27日に、前記右上側腹部におけるPK−1またはPANC−1由来のがんの容積を、前記実施例7と同様に測定した。コントロールは、前記抗プロレニン受容体抗体に代えて、マウスの体重1kgあたり1mgとなるように、ヒトIgG1抗体(WAKO社製)を投与した以外は同様にして、がんの容積を測定した。
【0090】
これらの結果を
図13に示す。
図13において、(A)は、PK−1を移植した際の前記がんの容積を示すグラフであり、(B)は、PANC−1を移植した際の前記がんの容積を示すグラフである。
図13(A)および(B)において、横軸は、移植後の日数を示し、縦軸は、がんの容積を示し、図中の黒抜きバーは、抗プロレニン受容体投与群を示し、白抜きバーは、ヒトIgG1抗体投与群を示す。
図13(A)および(B)に示すように、PK−1およびPANC−1のいずれを移植した前記ヌードマウスにおいても、前記移植後15、18、21、24および27日において、抗プロレニン受容体投与群のがんの容積は、ヒトIgG1抗体投与群のがんの容積に対して低下した。これらの結果から、抗プロレニン受容体抗体を用いることで、生体内におけるがんの成長を抑制できることがわかった。
【0091】
[実施例9]
ヒト膵管上皮細胞株およびヒト膵臓がん細胞株におけるプロレニン受容体タンパク質の発現およびこれらの細胞株の培養上清におけるプロレニン受容体タンパク質の発現を確認した。
【0092】
ヒト膵管上皮細胞株として、HPDEを、ヒト膵臓がん細胞株として、PK−8、PCI−35、BxPC−3、PK−1、PANC−1およびMIAPaCa−2を用いた。前記細胞株を、37℃、5% CO
2の条件下で24時間、無血清培地中で培養した。前記無血清培地は、RPMI−1640(Sigma社製)を用いた。前記培養後、培養上清を回収した。つぎに、1mL前記培養上清を、Amicon Ultra−0.5 Centrifugal Filter Unit with Ultracel−10 membrane(Millipore社製)を用いて濃縮し、20μgの総タンパク質を含む濃縮液を得た。前記濃縮液を培養上清サンプルとした。
【0093】
また、前記培養上清回収後の前記細胞株は、Lysis bufferで溶解した。前記細胞溶解液を12,500rpmで10分遠心後、上清を取得し、細胞溶解サンプルとした。そして、前記培養上清サンプルおよび前記細胞溶解サンプルにおけるプロレニン受容体タンパク質およびβ−アクチンタンパク質の発現を、前記実施例3(1)と同様にして確認した。
【0094】
これらの結果を
図14(A)および(B)に示す。
図14において、(A)は、前記細胞株の前記細胞溶解サンプルにおけるプロレニン受容体タンパク質の発現を示すウエスタンブロットの写真であり、(B)は、前記細胞株の前記培養上清サンプルにおけるプロレニン受容体タンパク質の発現を示すウエスタンブロットの写真である。
図14(A)および(B)において、写真の上側は、細胞株を示し、写真の左側は、検出したタンパク質を示す。
図14(A)に示すように、いずれの前記細胞株の前記細胞溶解サンプルにおいても、プロレニン受容体タンパク質の発現が確認された。また、
図14(B)に示すように、いずれの前記細胞株の前記培養上清サンプルにおいても、プロレニン受容体タンパク質の発現が確認された。これらの結果から、前記ヒト膵管上皮細胞株および前記ヒト膵臓がん細胞株およびこれらの細胞株の培養上清において、プロレニン受容体タンパク質が、発現していることが確認された。
【0095】
[実施例10]
プロレニン受容体の発現を抑制することで、Wntシグナルが抑制されることを確認した。
【0096】
(1)リン酸化LRP6の発現
前記実施例2と同様にして、PK−1にsiRNA(P)RRを導入した(siRNA(P)RR群)。前記導入後、150ng/mLとなるように組換えヒトWnt3aを加えた。前記添加後10分に、PK−1を回収し、Lysis Bufferで溶解し、被検サンプルを調製した。つぎに、実施例3(1)と同様にして、プロレニン受容体タンパク質とβ−アクチンタンパク質の発現を確認した。
【0097】
また、前記被検サンプルについて、前記抗プロレニン受容体抗体に代えて、抗リン酸化LRP6抗体(Ser 1490、Cell Signaling Technology社製)または抗LRP6抗体(クローン名:C47E12、Cell Signaling Technology社製)を用いた以外は、前記実施例3(1)と同様にして、リン酸化LRP6タンパク質またはLRP6タンパク質の発現量を測定した。ネガティブコントロールは、siRNAを導入せず、またWnt3aを加えなかった以外は同様にして、コントロール1は、siRNAを導入しなかった以外は同様にして、コントロール2は、siRNA(P)RRに代えて、scrambled siRNAを導入した以外は同様にして、リン酸化LRP6タンパク質およびLRP6タンパク質の発現量を測定した。
【0098】
さらに、各サンプルについて、LRP6タンパク質の発現量に対するリン酸化LRP6タンパク質の発現量の比(リン酸化LRP6発現量比)を求めた。そして、ネガティブコントロールにおけるリン酸化LRP6発現量比を1として、各サンプルにおけるリン酸化LRP6発現量比の相対値を算出した。
【0099】
図15に、プロレニン受容体タンパク質およびβ−アクチンタンパク質の発現を示し、
図16に、リン酸化LRP6発現量比の相対値を示す。
図15は、プロレニン受容体タンパク質およびβ−アクチンタンパク質の発現を示すウエスタンブロットの写真である。
図15において、写真の下側は、処理したsiRNAおよびWnt3a刺激の有無を示し、写真の左側は、検出したタンパク質を示す。
図15に示すように、siRNA(P)RR群では、ネガティブコントロール、コントロール1および2に対して、プロレニン受容体タンパク質の発現が低下した。
【0100】
図16は、リン酸化LRP6発現量比の相対値を示すグラフである。
図16において、横軸は、処理したsiRNAおよびWnt3a刺激の有無を示し、縦軸は、リン酸化LRP6発現量比の相対値を示す。
図16に示すように、siRNA(P)RR群では、ネガティブコントロール、コントロール1および2に対して、Wnt3a刺激後のリン酸化LRP6発現量比の相対値が低下した。これらの結果から、プロレニン受容体タンパク質の発現を抑制することで、Wntシグナルが抑制されることが確認された。
【0101】
(2)活性型β−カテニンおよびCyclin D1の発現
前記(1)と同様にして、被検サンプルを調製した。つぎに、前記被検サンプルについて、抗プロレニン受容体抗体に代えて、抗活性型β−カテニン抗体(anti−ABC、Millipore社製)または抗Cyclin D1抗体を用いた以外は、前記実施例3(1)と同様にして、活性型β−カテニンタンパク質およびCyclin D1タンパク質の発現量を求めた。ネガティブコントロールは、siRNA(P)RRに代えて、scrambled siRNAを導入し、Wnt3aを加えなかった以外は、コントロールは、siRNA(P)RRに代えて、scrambled siRNAを導入した以外は同様にして、活性型β−カテニンタンパク質およびCyclin D1タンパク質の発現量を求めた。そして、前記ネガティブコントロールにおける活性型β−カテニンタンパク質およびCyclin D1タンパク質の発現量を1として、各サンプルにおける活性型β−カテニンタンパク質およびCyclin D1タンパク質の発現量の相対値を求めた。
【0102】
また、BxPC−3およびPANC−1についても同様にして、活性型β−カテニンタンパク質およびCyclin D1タンパク質の発現量の相対値を求めた。
【0103】
これらの結果を
図17(A)−(C)に示す。
図17において、(A)−(C)は、活性型β−カテニンタンパク質およびCyclin D1タンパク質の発現量の相対値を示すグラフであり、(A)は、PK−1を用いた結果であり、(B)は、BxPC−3を用いた結果であり、(C)は、PANC−1を用いた結果である。
図17(A)−(C)において、横軸は、処理したsiRNAおよびWnt3a刺激の有無を示し、縦軸は、相対的発現量を示し、図中の黒抜きバーは、活性型β−カテニンタンパク質の相対的発現量を示し、白抜きバーは、Cyclin D1タンパク質の相対的発現量を示す。
【0104】
図17(A)−(C)に示すようにsiRNA(P)RR群は、コントロールに対して、活性型β−カテニンタンパク質およびCyclin D1タンパク質の相対的発現量が有意に低下し、ネガティブコントロールと同程度またはネガティブコントロール未満の相対的発現量となった。活性型β−カテニンタンパク質およびCyclin D1タンパク質は、Wntシグナルによって誘導されるタンパク質である。このため、これらの結果から、プロレニン受容体タンパク質の発現を抑制することで、Wntシグナルが抑制されることが確認された。
【0105】
[実施例11]
5×10
4細胞/ウェルとなるよう6ウェルプレートにPK−1を播種した。つぎに、前記実施例2と同様にして、PK−1にsiRNA(P)RRを導入した(siRNA(P)RR群)。前記導入後、150ng/mLとなるように組換えヒトWnt3aを加え、48時間培養した。前記培養後、さらに、100μLの水溶性テトラゾリウム塩(WST−1)試薬を各ウェルに添加し、2時間インキュベートした。そして、各ウェルについて、プレートリーダーを用いて、450nmにおける吸光度を測定し、増殖能力を測定した。ネガティブコントロールは、siRNAを導入せず、またWnt3aを加えなかった以外は同様にして、コントロール1は、siRNAを導入しなかった以外は同様にして、コントロール2は、siRNA(P)RRに代えて、scrambled siRNAを導入した以外は同様にして、増殖能力を測定した。
【0106】
さらに、ネガティブコントロールにおける増殖能力を1として、各サンプルにおける増殖能力の相対値を求めた。また、BxPC−3およびPANC−1についても同様にして、増殖能力の相対値を求めた。
【0107】
これらの結果を
図18に示す。
図18において、(A)−(C)は、増殖能力の相対値を示すグラフであり、(A)は、PK−1を用いた結果であり、(B)は、BxPC−3を用いた結果であり、(C)は、PANC−1を用いた結果である。
図18(A)−(C)において、横軸は、処理したsiRNAおよびWnt3a刺激の有無を示し、縦軸は、相対的増殖能力を示す。
【0108】
図18(A)−(C)に示すように、いずれのヒト膵臓がん細胞株においても、siRNA(P)RR群では、ネガティブコントロール、コントロール1および2に対して、相対的増殖能力が低下した。これらの結果から、プロレニン受容体タンパク質の発現を抑制することで、ヒト膵臓がん細胞株の増殖が抑制されることが確認された。
【0109】
[実施例12]
プロレニン受容体の発現を抑制することで、アポトーシスが誘導されることを確認した。
【0110】
(1)アポトーシス細胞の測定
前記実施例2と同様にして、PK−1にsiRNA(P)RRを導入した(siRNA(P)RR群)。前記導入後、150ng/mLとなるように組換えヒトWnt3aを加え、48時間培養した。つぎに、培養後のPK−1を遠心して回収し、0.5mLの氷冷70%エタノールに懸濁し、−20℃で24時間保存した。前記保存後のPK−1をPBSで洗浄後、10mg/mL RNase A(Macherey−Nagel社製)含有PBSに懸濁し、37℃で30分間インキュベートした。そして、1mg/mL PI(Sigma−Aldrich社製)含有PBSを用いて、37℃で30分間、染色した。
【0111】
前記染色後のPK−1をPBSで洗浄後、再度PBSで懸濁し、DNAフローサイトメーター(ベックマン コールター社製)を用いて、前方散乱光(FS)、側方散乱光(SS)およびDNA含有量を測定した。また、前記DNA含有量に基づき、各細胞周期の細胞の割合を算出した。コントロールは、siRNA(P)RRに代えて、scrambled siRNAを導入した以外は同様にして、前方散乱光(FS)、側方散乱光(SS)およびDNA含有量を測定し、各細胞周期の細胞の割合を算出した。また、PANC−1についても同様にして、各細胞周期の細胞の割合を算出した。
【0112】
図19に、FSおよびSSのドットプロットを示し、
図20に、DNA含有量のヒストグラムを示し、
図21に、各細胞周期の細胞の割合のグラフを示す。
図19は、アポトーシス細胞の割合を示すドットプロットである。
図19において、横軸は、SSを示し、縦軸は、FSを示し、図中の数字は、アポトーシス細胞の割合を示す。
図19に示すように、siRNA(P)RR群では、コントロール対して、アポトーシス細胞を示す4分割のドットプロットの右上画分を占める細胞の割合が増加した。
【0113】
図20は、DNA含有量を示すヒストグラムである。
図20において、横軸は、PIの蛍光強度を示し、縦軸は、カウント数を示し、図中の黒抜きヒストグラムは、siRNA(P)RR群を示し、白抜きヒストグラムは、コントロールを示す。
図20に示すように、siRNA(P)RR群では、図中の矢印で示すDNA含有量の低下したアポトーシス細胞が観察された。これに対し、コントロールでは、アポトーシス細胞が観察されなかった。
【0114】
図21(A)および(B)は、各細胞周期の細胞の割合を示すグラフである。
図21において、(A)は、PK−1を用いた結果であり、(B)は、PANC−1を用いた結果である。
図21(A)および(B)において、横軸は、処理したsiRNAを示し、縦軸は、各細胞周期の細胞の割合を示す。
【0115】
図21(A)および(B)に示すように、いずれのヒト膵臓がん細胞株においても、siRNA(P)RR群では、コントロールに対して、アポトーシス細胞であるSubG1基の細胞の割合が増加した。これらの結果から、プロレニン受容体タンパク質の発現を抑制することで、ヒト膵臓がん細胞株のアポトーシスが誘導されることが確認された。
【0116】
(2)カスパーゼ3の活性化の測定
前記(1)と同様にして、PK−1を培養し、回収した。カスパーゼ3の活性の測定は、APOPCYTE(Kit名:Caspase−3 Colorimetric Assay Kit、Medical & Biological laboratories社製)を用い、そのプロトコルに従って行った。コントロールは、siRNA(P)RRに代えて、scrambled siRNAを導入した以外は同様にして、カスパーゼ3の活性を測定した。また、BxPC−3およびPANC−1についても同様にして、カスパーゼ3の活性を測定した。
【0117】
これらの結果を
図22(A)−(C)に示す。
図22において、(A)−(C)は、カスパーゼ3の活性を示すグラフであり、(A)は、PK−1を用いた結果であり、(B)は、BxPC−3を用いた結果であり、(C)は、PANC−1を用いた結果である。
図22(A)−(C)において、横軸は、処理したsiRNAを示し、縦軸は、カスパーゼ3の活性を示す。
図22(A)−(C)に示すように、いずれのヒト膵臓がん細胞株においても、siRNA(P)RR群では、コントロールに対して、アポトーシスを誘導するカスパーゼ3の活性が上昇した。これらの結果から、プロレニン受容体タンパク質の発現を抑制することで、アポトーシスを誘導するカスパーゼ3が活性化することが確認された。
【0118】
[実施例13]
脳腫瘍患者の血漿中のプロレニン受容体の濃度上昇を確認した。
【0119】
健常者男性(n=4)、健常者女性(n=2)、脳腫瘍患者男性(n=5)および脳腫瘍患者女性(n=10)の血液から血漿を回収した。これらを、前記実施例1と同様にして、前記血漿中のプロレニン受容体の濃度を測定した。
【0120】
この結果を
図23に示す。
図23は、血漿中のプロレニン受容体の濃度を示すグラフである。
図23において、横軸は、前記被検サンプルの種類を、縦軸は、プロレニン受容体の濃度を示す。
図23に示すように、男性および女性共に、脳腫瘍患者(Brain tumor)は、健常者(Normal)と比較して、血漿中のプロレニン受容体の濃度が有意に上昇した。これらの結果から、性別に関わらず脳腫瘍の発症と血漿中のプロレニン受容体濃度上昇との間に相関関係があり、血漿中のプロレニン受容体が、脳腫瘍のマーカーとなることがわかった。
【0121】
以上、実施形態および実施例を参照して本願発明を説明したが、本願発明は、上記実施形態および実施例に限定されるものではない。本願発明の構成や詳細には、本願発明のスコープ内で当業者が理解しうる様々な変更をすることができる。
【0122】
この出願は、2012年9月11日に出願された日本出願特願2012−199508を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。