特許第6341859号(P6341859)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6341859
(24)【登録日】2018年5月25日
(45)【発行日】2018年6月13日
(54)【発明の名称】がんマーカーおよびその用途
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/68 20180101AFI20180604BHJP
   C07K 14/705 20060101ALI20180604BHJP
   G01N 33/574 20060101ALI20180604BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20180604BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20180604BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20180604BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20180604BHJP
   C12N 15/00 20060101ALN20180604BHJP
【FI】
   C12Q1/68ZNA
   C07K14/705
   G01N33/574 A
   G01N33/50 Z
   G01N33/15 Z
   A61P35/00
   A61K39/395 E
   A61K39/395 T
   !C12N15/00
【請求項の数】11
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2014-535548(P2014-535548)
(86)(22)【出願日】2013年9月10日
(86)【国際出願番号】JP2013074377
(87)【国際公開番号】WO2014042148
(87)【国際公開日】20140320
【審査請求日】2016年9月5日
(31)【優先権主張番号】特願2012-199508(P2012-199508)
(32)【優先日】2012年9月11日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】304028346
【氏名又は名称】国立大学法人 香川大学
(74)【代理人】
【識別番号】100115255
【弁理士】
【氏名又は名称】辻丸 光一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100129137
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 ゆみ
(74)【代理人】
【識別番号】100154081
【弁理士】
【氏名又は名称】伊佐治 創
(74)【代理人】
【識別番号】100194515
【弁理士】
【氏名又は名称】南野 研人
(72)【発明者】
【氏名】西山 成
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 文昭
【審査官】 濱田 光浩
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−182905(JP,A)
【文献】 NGUYEN, Genevieve, Renin, (pro)renin and receptor: an update., Clinical science, 2011, Vol.120, No.5, p. 169-178
【文献】 NGUYEN, Genevieve, Renin and prorenin receptor in hypertension: what's new?, 2011, Vol.13, No.1, p. 79-85
【文献】 市原淳弘, (プロ)レニン受容体, SRL宝函, 2012-07, Vol.33, No.2, pages 4-11
【文献】 大場浩史、外7名, 乳癌における(プロ)レニン受容体発現の検討, 日本分子生物学会年会プログラム・要旨集(web),2011年,Vol. 34,2P-0747
【文献】 LUCERO, Olivia M., et al.,A re-evaluation of the "oncogenic" nature of Wnt/beta-catenin signaling in melanoma and other cancers,Curent oncology reports, 2010, Vol. 12, No. 5, p. 314-318
【文献】 NABI, AHM Nurun, et al.,(Pro)renin receptor and prorenin: their plausible sites of interaction.,Frontiers in biosciences, 2012, Vol. 17, p. 389-395
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/68
C07K 14/705
C12N 15/00
A61K 39/00
A61P 35/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検者の生体試料におけるプロレニン受容体の発現量を測定する工程を含み、
前記生体試料が、血液試料であり、
試験対象のがんが、膵臓がんおよび脳腫瘍の少なくとも一方であることを特徴とする、がんの罹患危険度を試験する方法。
【請求項2】
前記がんが、膵臓がんである、請求項1記載の試験方法。
【請求項3】
前記脳腫瘍が、グリオーマ、アストロサイトーマ、中枢神経系原発悪性リンパ腫および海綿上血管腫からなる群から選択された少なくとも1つである、請求項1記載の試験方法。
【請求項4】
さらに、前記被検者の生体試料におけるプロレニン受容体の発現量を、基準値と比較することにより、前記被検者のがんの罹患危険度を試験する工程を含み、前記基準値が、健常者の生体試料におけるプロレニン受容体の発現量またはがん患者の生体試料におけるプロレニン受容体の発現量である、請求項1から3のいずれか一項に記載の試験方法。
【請求項5】
前記試験工程において、前記被検者の生体試料におけるプロレニン受容体の発現量が、前記健常者の生体試料におけるプロレニン受容体の発現量よりも高い場合、前記がん患者の生体試料におけるプロレニン受容体の発現量と同じ場合または、前記がん患者の生体試料におけるプロレニン受容体の発現量よりも高い場合に、前記被検者は、がんに罹患する危険性があるとする、請求項4記載の試験方法。
【請求項6】
プロレニン受容体の発現量が、そのmRNAの発現量およびタンパク質の発現量の少なくとも一方である、請求項1から5のいずれか一項に記載の試験方法。
【請求項7】
プロレニン受容体に結合する抗体またはその抗原結合断片を含み、
前記抗体またはその抗原結合断片は、ヒトプロレニン受容体タンパク質のアミノ酸配列(配列番号6)において、200−213番目のアミノ酸領域に結合することを特徴とする膵臓がん治療薬。
【請求項8】
請求項記載の膵臓がん治療薬を、ヒトを除く患者に投与する工程を含むことを特徴とする膵臓がんの治療方法。
【請求項9】
膵臓がんの治療用候補物質のスクリーニング方法であって、被検物質から、プロレニン受容体に結合する抗体またはその抗原結合断片を、前記治療用候補物質として選択し、
前記抗体またはその抗原結合断片は、ヒトプロレニン受容体タンパク質のアミノ酸配列(配列番号6)において、200−213番目のアミノ酸領域に結合することを特徴とするスクリーニング方法。
【請求項10】
プロレニン受容体に前記被検物質を接触させる工程、プロレニン受容体と前記被検物質との結合を検出する工程、およびプロレニン受容体に結合した前記被検物質を、前記治療用候補物質として選択する工程を含む、請求項記載のスクリーニング方法。
【請求項11】
ヒトプロレニン受容体タンパク質のアミノ酸配列(配列番号6)において、200−213番目のアミノ酸領域に結合することを特徴とする、抗体またはその抗原結合断片。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、がんマーカー、それを用いたがんの罹患危険度の試験方法、および試験試薬に関し、さらに、がん治療薬およびそのスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、がんは、日本人の死因のトップであり、他の国においても、死因の上位を占めるに致っている。がんの発生および進展には、遺伝的要因、環境的要因等の様々な因子が関連しているが、決定的な診断方法および治療法は、未だ確立されていない。
【0003】
がんの中でも、例えば、膵臓がんは、進行が早いため早期発見が難しく、発見時には、周囲のリンパ節および臓器等に転移していることが多い。このように、治療の段階において、がんが進行しているため、例えば、治療が困難であり、外科的手術を行った場合でも予後が悪いとの問題もある。このため、膵臓がんをはじめとする各種がんについて、早期発見を可能とするためのがんマーカーの開発が望まれている(非特許文献1および2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Duffy MJ、他7名、「Tumor markers in pancreatic cancer: a European Group on Tumor Markers (EGTM) status report」、Annals of Oncology、Oxford Journal、2010年3月、第21巻、第3号、p.441−447
【非特許文献2】渡邊 弘之、他3名、「特集 膵癌の診断と治療.膵癌の早期診断は可能か? 腫瘍マーカー」 外科治療、株式会社 永井書店、2007年9月、第97巻、p.250−257
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明は、がんの罹患危険度を試験するための新たながんマーカーの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のがんマーカーは、プロレニン受容体であることを特徴とする。
【0007】
本発明のがんの罹患危険度の試験方法は、被検者の生体試料におけるプロレニン受容体の発現量を測定する工程を含むことを特徴とする。
【0008】
本発明の試験試薬は、前記本発明のがんの罹患危険度の試験方法に使用する試験試薬であって、プロレニン受容体の発現測定試薬を含むことを特徴とする。
【0009】
本発明のがん治療薬は、プロレニン受容体に結合する結合物質およびプロレニン受容体の発現を抑制する発現抑制物質の少なくとも一方を含むことを特徴とする。本発明のがんの治療方法は、前記本発明のがん治療薬を、患者に投与する工程を含むことを特徴とする。
【0010】
本発明のスクリーニング方法は、がんの治療用候補物質のスクリーニング方法であって、被検物質から、プロレニン受容体に結合する結合物質またはプロレニン受容体の発現を抑制する発現抑制物質を、前記治療用候補物質として選択することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明者は、鋭意研究の結果、生体におけるプロレニン受容体の発現が、がんの発症と相関を示すことを見出し、本発明を確立するに至った。本発明によれば、プロレニン受容体の発現量を測定することによって、被検者のがんの罹患危険度を試験できる。また、本発明において、プロレニン受容体は、がんのターゲットとなることから、前記ターゲットを用いたスクリーニングにより、がんの治療用候補物質を得ることもできる。このため、本発明は、臨床分野および生化学分野において極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、実施例1における血漿中のプロレニン受容体タンパク質の濃度を示すグラフである。
図2図2は、実施例2における経時的な細胞数の変化を示すグラフである。
図3図3は、実施例3におけるプロレニン受容体タンパク質の発現を示すグラフである。
図4図4は、実施例3におけるプロレニン受容体遺伝子のmRNAの発現を示すグラフである。
図5図5は、実施例4におけるプロレニン受容体タンパク質の発現を示すグラフである。
図6図6は、実施例4におけるプロレニン受容体遺伝子のmRNAの発現を示すグラフである。
図7図7は、実施例5におけるプロレニン受容体タンパク質の発現を示すグラフである。
図8図8は、実施例5におけるプロレニン受容体遺伝子のmRNAの発現を示すグラフである。
図9図9は、実施例6におけるプロレニン受容体タンパク質の発現を示す組織染色図である。
図10図10は、実施例7におけるがんの容積を示すグラフである。
図11図11は、実施例7におけるマウスの写真である。
図12図12は、実施例7におけるプロレニン受容体タンパク質の発現を示すグラフである。
図13図13は、実施例8におけるがんの容積を示すグラフである。
図14図14は、実施例9におけるプロレニン受容体タンパク質の発現を示す写真である。
図15図15は、実施例10におけるプロレニン受容体タンパク質の発現を示す写真である。
図16図16は、実施例10におけるリン酸化LRPタンパク質の発現を示すグラフである。
図17図17は、実施例10における活性型β−カテニンタンパク質およびCyllin D1タンパク質の発現を示すグラフである。
図18図18は、実施例11における細胞の増殖能力を示すグラフである。
図19図19は、実施例12におけるアポトーシス細胞の割合を示すドットプロットである。
図20図20は、実施例12におけるアポトーシス細胞の割合を示すヒストグラムである。
図21図21は、実施例12における各細胞周期の細胞の割合を示すグラフである。
図22図22は、実施例12におけるカスパーゼ3の活性を示すグラフである。
図23図23は、実施例13における血漿中のプロレニン受容体タンパク質の濃度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(がんマーカー)
本発明のがんマーカーは、前述のように、プロレニン受容体であることを特徴とする。本発明のがんマーカーによれば、例えば、被検者の生体試料におけるプロレニン受容体の発現量を測定することで、前記被検者のがんの罹患危険度を試験できる。
【0014】
プロレニン受容体の由来は、特に制限されず、例えば、被検者の種類によって適宜設定できる。前記由来は、例えば、ヒト、ヒトを除く非ヒト動物等があげられ、前記非ヒト動物は、例えば、マウス、ラット、イヌ、サル、ウサギ、ヒツジ、ウマ等の哺乳類があげられる。各種動物由来のプロレニン受容体は、例えば、既存のデータベースに登録されている情報を参照できる。具体例として、ヒト由来プロレニン受容体は、cDNAとして、例えば、NCBIアクセッション番号NM_005765で登録されている下記の塩基配列(配列番号5)における103−1155番目の領域(終始コドン含む)、タンパク質として、例えば、NCBIアクセッション番号NP_005756で登録されている下記のアミノ酸配列(配列番号6)があげられる。配列番号5の塩基配列は、配列番号6のアミノ酸配列をコードする配列である。
【0015】
ヒトプロレニン受容体cDNA(配列番号5)
ctggacgagtccgagcgcgtcacctcctcacgctgcggctgtcgcccgtgtcccgccggcccgttccgtgtcgccccgcagtgctgcggccgccgcggcaccatggctgtgtttgtcgtgctcctggcgttggtggcgggtgttttggggaacgagtttagtatattaaaatcaccagggtctgttgttttccgaaatggaaattggcctataccaggagagcggatcccagacgtggctgcattgtccatgggcttctctgtgaaagaagacctttcttggccaggactcgcagtgggtaacctgtttcatcgtcctcgggctaccgtcatggtgatggtgaagggagtgaacaaactggctctacccccaggcagtgtcatttcgtaccctttggagaatgcagttccttttagtcttgacagtgttgcaaattccattcactccttattttctgaggaaactcctgttgttttgcagttggctcccagtgaggaaagagtgtatatggtagggaaggcaaactcagtgtttgaagacctttcagtcaccttgcgccagctccgtaatcgcctgtttcaagaaaactctgttctcagttcactccccctcaattctctgagtaggaacaatgaagttgacctgctctttctttctgaactgcaagtgctacatgatatttcaagcttgctgtctcgtcataagcatctagccaaggatcattctcctgatttatattcactggagctggcaggtttggatgaaattgggaagcgttatggggaagactctgaacaattcagagatgcttctaagatccttgttgacgctctgcaaaagtttgcagatgacatgtacagtctttatggtgggaatgcagtggtagagttagtcactgtcaagtcatttgacacctccctcattaggaagacaaggactatccttgaggcaaaacaagcgaagaacccagcaagtccctataaccttgcatataagtataattttgaatattccgtggttttcaacatggtactttggataatgatcgccttggccttggctgtgattatcacctcttacaatatttggaacatggatcctggatatgatagcatcatttataggatgacaaaccagaagattcgaatggattgaatgttacctgtgccagaattagaaaagggggttggaaattggctgttttgttaaaatatatcttttagtgtgctttaaagtagatagtatactttacatttataaaaaaaaatcaaattttgttctttattttgtgtgtgcctgtgatgtttttctagagtgaattatagtattgacgtgaatcccactgtggtatagattccataatatgcttgaatattatgatatagccatttaataacattgatttcattctgtttaatgaatttggaaatatgcactgaaagaaatgtaaaacatttagaatagctcgtgttatggaaaaaagtgcactgaatttattagacaaacttacgaatgcttaacttctttacacagcataggtgaaaatcatatttgggctattgtatactatgaacaatttgtaaatgtcttaatttgatgtaaataactctgaaacaagagaaaaggtttttaacttagagtagccctaaaatatggatgtgcttatataatcgcttagttttggaactgtatctgagtaacagaggacagctgttttttaaccctcttctgcaagtttgttgacctacatgggctaatatggatactaaaaatactacattgatctaagaagaaactagccttgtggagtatatagatgcttttcattatacacacaaaaatccctgagggacattttgaggcatgaatataaaacatttttatttcagtaacttttccccctgtgtaagttactatggtttgtggtacaacttcattctatagaatattaagtggaagtgggtgaattctactttttatgttggagtggaccaatgtctatcaagagtgacaaataaagttaatgatgattccaaaaaaaaaa
【0016】
ヒトプロレニン受容体タンパク質(配列番号6)
MAVFVVLLALVAGVLGNEFSILKSPGSVVFRNGNWPIPGERIPDVAALSMGFSVKEDLSWPGLAVGNLFHRPRATVMVMVKGVNKLALPPGSVISYPLENAVPFSLDSVANSIHSLFSEETPVVLQLAPSEERVYMVGKANSVFEDLSVTLRQLRKRLFQENSVLSSLPLNSHSRNNEVDLLFLSELQVLHDISSLLSRHKHLAKDHSPDLYSLELAGLDEIGKRYGEDSEQFRDASKILVDALQKFADDMYSLYGGNAVVELVTVKSFDTSLIRKTRTILEAKQAKNPASPYNLAYKYNFEYSVVFNMVLWIMIALALAVIITSYNIWNMDPGYDSIIYRMTNQKIRMD
【0017】
前記プロレニン受容体は、がんマーカーとして使用でき、具体的には、例えば、消化器がんおよび脳腫瘍のがんマーカーとして使用できる。前記消化器がんは、例えば、消化管がんおよび消化腺がんがあげられ、前記消化管がんは、例えば、胃がんおよび大腸がん等があげられ、前記消化腺がんは、例えば、膵臓がんおよび肝臓がん等があげられる。前記脳腫瘍は、例えば、グリオーマ、アストロサイトーマ、中枢神経系原発悪性リンパ腫および海綿上血管腫があげられる。本発明のがんマーカーは、この他に、例えば、腹膜がんのがんマーカーにもなる。また、本発明によれば、例えば、原発巣のがんおよび転移がんのいずれであっても試験できる。
【0018】
本発明のマーカーは、例えば、プロレニン受容体タンパク質でもよいし、プロレニン受容体遺伝子から転写されたmRNAでもよい。
【0019】
(がんの罹患危険度の試験方法)
本発明のがんの罹患危険度の試験方法は、前述のように、被検者の生体試料におけるプロレニン受容体の発現量を測定する工程を含むことを特徴とする。
【0020】
本発明は、がんマーカーとして、プロレニン受容体の発現量を測定することが特徴であって、その他の工程および条件は、特に制限がない。
【0021】
本発明の試験方法によれば、例えば、がんの発症の可能性、がんの発症の有無(がん化しているか否か)、がんの進行度および予後の状態等を評価できる。対象となるがんは、前述のように、例えば、消化器がんおよび脳腫瘍があげられる。前記消化器がんは、例えば、消化管がんおよび消化腺がんがあげられ、消化管がんは、例えば、胃がんおよび大腸がん等があげられ、消化腺がんは、例えば、膵臓がんおよび肝臓がんがあげられる。前記脳腫瘍は、例えば、グリオーマ、アストロサイトーマ、中枢神経系原発悪性リンパ腫および海綿上血管腫があげられる。本発明の試験方法によれば、この他に、例えば、腹膜がんのがんも評価できる。また、本発明によれば、例えば、原発巣のがん、転移がんのいずれであっても試験できる。
【0022】
本発明の試験方法において、前記被検者は、例えば、ヒト、ヒトを除く非ヒト動物等があげられ、前記非ヒト動物は、前述のように、例えば、マウス、ラット、イヌ、サル、ウサギ、ヒツジ、ウマ等の哺乳類があげられる。
【0023】
本発明の試験方法において、前記生体試料の種類は、特に制限はされず、例えば、生体から分離した、体液、体液由来細胞、器官、組織または細胞等があげられる。前記体液は、例えば、血液があげられ、具体例として、例えば、全血、血清、血漿等があげられる。前記体液由来細胞は、例えば、血液由来細胞があげられ、具体的には、血球、白血球、リンパ球等の血球細胞があげられる。前記生体試料は、例えば、試験対象のがんの種類に応じて、適宜決定できる。前記生体試料は、例えば、試験対象のがんが発生しうる器官由来である。前記器官は、例えば、胃、膵臓、大腸、肝臓等の前記消化器、脳または、腹膜等である。前記脳は、例えば、大脳、側頭葉、後頭葉、小脳、大脳基底核および間葉組織等である。具体例として、前記試験対象が膵臓がんの場合、膵臓由来の組織または細胞が好ましい。前記試験対象が脳腫瘍の場合、脳由来の組織または細胞が好ましい。また、本発明のがんマーカーによれば、例えば、膵臓等の前記消化器および大脳等の前記脳におけるがんを、血液中のプロレニン受容体の発現量によって試験できる。このため、例えば、患者や医師の負担を軽減できることから、前記生体試料は、全血、血清、または血漿が好ましく、より好ましくは、血清または血漿である。
【0024】
測定対象であるプロレニン受容体の発現は、例えば、プロレニン受容体遺伝子のmRNAおよびプロレニン受容体タンパク質の発現があげられる。前記発現は、例えば、前記生体試料について、前記mRNAまたは前記タンパク質のいずれか一方のみを測定してもよいし、両方を測定してもよい。これらの測定方法は、特に制限されず、公知の方法が採用できる。具体例として、前記mRNA発現の測定方法は、例えば、逆転写(Reverse transcription:RT)−PCR法等の逆転写反応を利用した遺伝子増幅法等があげられる。具体的には、例えば、mRNAから逆転写反応でcDNAを合成し、前記cDNAを鋳型として遺伝子増幅する方法である。また、前記タンパク質発現の測定方法は、例えば、免疫抗体法、ELISA法、フローサイトメトリーおよびウエスタンブロット法等があげられる。
【0025】
本発明の試験方法は、例えば、さらに、前記被検者の生体試料(以下、被検生体試料ともいう)におけるプロレニン受容体の発現量を、基準値と比較することにより、前記被検者のがんの罹患危険度を試験する工程を含む。前記基準値は、特に制限されず、例えば、健常者、がん患者および進行ステージごとのがん患者のプロレニン受容体の発現量があげられる。予後の評価の場合、前記基準値は、例えば、同じ被検者の治療後(例えば、治療直後)のプロレニン受容体の発現量であってもよい。
【0026】
前記基準値は、例えば、前述のような、健常者および/またはがん患者から単離した生体試料(以下、基準生体試料ともいう)を用いて、得ることができる。また、予後の評価の場合、例えば、同じ被検者から治療後に単離した基準生体試料を用いてもよい。前記基準値は、例えば、前記被検者の被検生体試料と同時に測定してもよいし、予め測定してもよい。後者の場合、例えば、前記被検者の被検生体試料を測定する度に、基準値を得ることが不要となるため、好ましい。前記被検者の被検生体試料と前記基準生体試料は、例えば、同じ条件で採取し、同じ条件でプロレニン受容体の測定を行うことが好ましい。
【0027】
前記比較工程において、被検者のがんの罹患危険度の評価方法は、特に制限されず、前記基準値の種類によって適宜決定できる。具体例として、前記被検者の被検生体試料におけるプロレニン受容体の発現量が、前記健常者の基準生体試料におけるプロレニン受容体の発現量よりも有意に高い場合、前記がん患者の基準生体試料におけるプロレニン受容体の発現量と同じ場合(有意差がない場合)、および/または、前記がん患者の基準生体試料におけるプロレニン受容体の発現量よりも有意に高い場合、前記被検者は、がんに罹患する危険性があるまたは危険性が高いと評価できる。また、前記被検者の被検生体試料におけるプロレニン受容体の発現量が、前記健常者の基準生体試料におけるプロレニン受容体の発現量と同じ場合(有意差が無い場合)、前記健常者の基準生体試料におけるプロレニン受容体の発現量よりも有意に低い場合、および/または、前記がん患者の基準生体試料におけるプロレニン受容体の発現量よりも有意に低い場合、前記被検者は、がんに罹患する危険性が無いまたは危険性が低いと評価できる。また、前記比較工程において、前記被検者の被検生体試料におけるプロレニン受容体の発現量を、前記進行ステージごとのがん患者の基準生体試料におけるプロレニン受容体の発現量と比較することで、がんの進行度を評価できる。具体的には、前記被検者の被検生体試料が、例えば、いずれかの進行ステージの前記基準生体試料と同程度の発現量の場合(有意差がない場合)、前記被検者は、前記進行ステージの可能性があると評価できる。
【0028】
前記比較工程において、予後の状態を評価する場合、例えば、前述と同様に評価判断してもよいし、基準値として、同じ被検者の治療後の基準生体試料におけるプロレニン受容体の発現量を使用して評価することもできる。具体例として、前記被検者の被検生体試料におけるプロレニン受容体の発現量が、前記基準値よりも有意に高い場合、前記被検者は、前記治療後、再発または悪化の危険性があると評価できる。また、前記被検者の被検生体試料におけるプロレニン受容体の発現量が、前記基準値と同じ場合(有意差がない場合)、および/または、前記基準値よりも有意に低い場合、前記被検者は、前記治療後、再発の危険性が無いもしくは危険性が低いと評価できる。
【0029】
本発明においては、例えば、同じ被検者の生体試料を経時的に採取し、前記生体試料におけるプロレニン受容体発現量を比較してもよい。これによって、例えば、経時的に発現量が増加すれば、罹患の可能性が高くなった等の判断が可能であり、経時的に発現量が低下すれば、罹患の可能性が低くなったまたは治癒してきた等の判断が可能である。
【0030】
(試験試薬)
本発明の試験試薬は、前記本発明のがんの罹患危険度の試験方法に使用する試験試薬であって、プロレニン受容体の発現測定試薬を含むことを特徴とする。本発明の試験試薬によれば、前記本発明のがんの罹患危険度の試験方法を簡便に行える。本発明は、がんの罹患危険度の試験をプロレニン受容体の発現の測定に基づいて行うことが特徴であり、プロレニン受容体の発現が測定できればよく、前記発現測定試薬の種類は、特に制限されない。前記プロレニン受容体の発現測定試薬は、例えば、プロレニン受容体タンパク質の発現測定試薬でもよく、プロレニン受容体遺伝子のmRNAの発現測定試薬でもよい。
【0031】
前者は、例えば、プロレニン受容体タンパク質に結合する結合物質があげられ、具体例として、抗体があげられる。この場合、本発明の試験試薬は、例えば、さらに、プロレニン受容体タンパク質と前記抗体との結合を検出する検出物質を含むことが好ましい。前記検出物質は、例えば、前記抗体に対する検出可能な標識化抗体と、前記標識に対する基質等の組合せがあげられる。
【0032】
後者は、例えば、プロレニン受容体遺伝子のmRNAを逆転写により増幅する試薬があげられ、具体例として、プライマーがあげられる。前記プライマーは、例えば、プロレニン受容体の遺伝子配列に基づいて適宜設計できる。
【0033】
(がんの診断方法および診断試薬)
本発明のがんの診断方法は、被検者の生体試料におけるプロレニン受容体の発現量を測定する工程を含むことを特徴とする。また、本発明のがんの診断試薬は、プロレニン受容体の発現測定試薬を含むことを特徴とする。なお、本発明は、前記本発明の試験方法および試験試薬の説明を援用できる。
【0034】
(がん治療薬およびがん治療方法)
本発明のがんターゲットは、プロレニン受容体であることを特徴とする。本発明は、プロレニン受容体を前記がんターゲットとし、例えば、プロレニン受容体遺伝子のmRNAまたはプロレニン受容体タンパク質の発現を抑制すること、または、プロレニン受容体タンパク質の機能を阻害もしくは中和すること等により、がんを治療できる。
【0035】
本発明のがん治療薬は、前述のように、プロレニン受容体に結合する結合物質およびプロレニン受容体の発現を抑制する発現抑制物質の少なくとも一方を含むことを特徴とする。本発明の治療方法は、がんの治療方法であって、患者に前記本発明のがん治療薬を投与する工程を含むことを特徴とする。
【0036】
本発明は、プロレニン受容体タンパク質への結合物質の結合またはプロレニン受容体の発現抑制によって、がんを治療することが特徴であり、前記結合物質および前記発現抑制物質の種類は、特に制限されない。本発明は、例えば、前記結合物質および前記発現抑制物質の一方を使用してもよいし、両者を併用してもよい。
【0037】
前記結合物質は、例えば、低分子化合物、ペプチド、タンパク質、核酸等があげられ、好ましくは、抗体またはその抗原結合断片である。前記結合物質は、アンタゴニストが好ましい。
【0038】
前記抗体は、特に制限されず、一般的な抗体の製造方法により得ることができる。具体例として、例えば、プロレニン受容体タンパク質またはその断片を抗原とし、動物に免疫した後、前記免疫された動物から血清を回収することにより、プロレニン受容体タンパク質に対する抗体を得ることができる。前記抗体は、例えば、モノクローナル抗体でもよいし、ポリクローナル抗体でもよい。
【0039】
前記抗原は、例えば、前述のように、プロレニン受容体の全長アミノ酸配列でもよいし、部分配列でもよい。前記部分配列は、例えば、前記ヒトプロレニン受容体タンパク質のアミノ酸配列(配列番号6)において、200−213番目のアミノ酸領域(HKHLAKDHSPDLYS:配列番号7)があげられる。
【0040】
前記プロレニン受容体タンパク質において、前記プロレニン受容体タンパク質と前記プロレニン受容体タンパク質に対する抗体との結合位置は、特に制限されない。前記プロレニン受容体タンパク質が、ヒトプロレニン受容体タンパク質である場合、前記結合位置は、例えば、前記ヒトプロレニン受容体タンパク質のアミノ酸配列(配列番号6)において、200−213番目のアミノ酸領域(HKHLAKDHSPDLYS:配列番号7)があげられる。
【0041】
前記発現抑制物質は、例えば、プロレニン受容体遺伝子からのmRNAの転写を抑制する物質、転写されたmRNAを切断する物質およびmRNAからのタンパク質の翻訳を抑制する物質等があげられる。具体例としては、例えば、siRNA等のRNA干渉剤、アンチセンス、リボザイム等があげられ、いずれか一種類でもよいし、二種類以上を併用してもよい。
【0042】
本発明のがん治療薬の投与条件は、特に制限されず、例えば、対象となるがん疾患の種類、進行度、患者の年齢等に応じて、投与形態、投与時期、投与量等を適宜設定できる。投与対象は、例えば、ヒト、ヒトを除く非ヒト動物等があげられ、前記非ヒト動物は、前述のように、例えば、マウス、ラット、イヌ、サル、ウサギ、ヒツジ、ウマ等の哺乳類があげられる。
【0043】
(スクリーニング方法)
本発明のスクリーニング方法は、がん治療薬候補物質のスクリーニング方法であって、被検物質から、プロレニン受容体に結合する結合物質またはプロレニン受容体の発現を抑制する発現抑制物質を、前記治療用候補物質として選択することを特徴とする。本発明は、がん治療薬候補物質のターゲットがプロレニン受容体であることが特徴であり、その他の工程および条件は、特に制限されない。
【0044】
前記結合物質は、例えば、低分子化合物、ペプチド、タンパク質、核酸等があげられ、好ましくは、抗体もしくはその抗原結合断片である。
【0045】
前記発現抑制物質は、例えば、プロレニン受容体遺伝子からのmRNAの転写を抑制する物質、転写されたmRNAを切断する物質およびmRNAからのタンパク質の翻訳を抑制する物質等があげられる。具体例としては、例えば、siRNA等のRNA干渉剤、アンチセンス、リボザイム等があげられる。
【0046】
本発明の前記結合物質のスクリーニング方法は、例えば、プロレニン受容体に前記被検物質を接触させる工程と、プロレニン受容体と前記被検物質との結合を検出する工程と、プロレニン受容体に結合した前記被検物質を、前記治療薬候補物質として選択する工程とを含む。前記検出工程において、プロレニン受容体と前記被検物質との結合の検出方法は、特に制限されず、例えば、前記被検物質の種類に応じて、適宜決定できる。
【0047】
本発明の前記発現抑制物質のスクリーニング方法は、例えば、プロレニン受容体の発現系に前記被検物質を共存させて、プロレニン受容体を発現させる工程と、前記発現系におけるプロレニン受容体の発現を検出する工程と、プロレニン受容体の発現量が、前記被検物質を共存させていないコントロールの発現系よりも低い前記被検物質を、前記治療用候補物質として選択する工程とを含む。前記検出工程において、検出対象の前記発現は、例えば、プロレニン受容体タンパク質の発現でもよいし、プロレニン受容体遺伝子のmRNAの転写でもよい。前記タンパク質の発現およびmRNAの発現の検出方法は、特に制限されず、公知の方法が適用できる。
【実施例】
【0048】
つぎに、本発明の実施例について説明する。ただし、本発明は、下記実施例により制限されない。
【0049】
[実施例1]
膵臓がん患者の血漿中のプロレニン受容体の濃度上昇を確認した。
【0050】
血漿中のプロレニン受容体の測定は、Human soluble (Pro)renin Receptor Assay Kit(株式会社 免疫生物研究所)を用いて、そのプロトコルに従って行った。まず、健常者男性(n=9)、健常者女性(n=3)、膵臓がん患者男性(n=9)および膵臓がん患者女性(n=8)の血液から血漿を回収した。これらを、前記キットの希釈液(1% BSAおよび5% Tween−20含有リン酸緩衝液)で2倍希釈し、得られた希釈血漿を被検サンプルとした。前記被検サンプル100μLを、捕獲抗体(抗Human renin receptorポリクローナルラビットIgG抗体)が結合したプレートに添加し、4℃で一晩反応させた。前記被検サンプルを除き、前記プレートを前記リン酸緩衝液で4回洗浄した。つぎに、前記プレートに、標識抗体(HRP標識抗Human renin receptorポリクローナルマウスIgG抗体)を100μL添加し、4℃で60分反応させた。前記標識抗体を除き、前記プレートを前記リン酸緩衝液で5回洗浄した。さらに、前記プレートにTetra Methyl Benzidine含有基質液を100μL添加して発色させた後、0.5mol/L(1N) HSOで、発色反応を停止した。停止後、プレートリーダーで、前記プレート内の反応液について450nmでの吸光度を測定した。他方、前記キットの標準物質(Human soluble (Pro)renin Receptor)を段階希釈し、得られた希釈標準サンプルを用いて、同様に吸光度を測定し、検量線を作成した。そして、前記被検サンプルの吸光度から、前記検量線に基づき、前記血漿中のプロレニン受容体の濃度を測定した。
【0051】
また、健常者(n=20)、膵臓がんを原発巣とし且つ転移のない膵臓がん患者(転移なし、n=11)、および膵臓がんを原発巣とし且つ他臓器への転移がある膵臓がん患者(転移あり、n=9)から血漿を回収し、同様にして前記血漿中のプロレニン受容体の濃度を測定した。
【0052】
この結果を図1(A)および(B)に示す。図1(A)および(B)は、血漿中のプロレニン受容体の濃度を示すグラフである。図1(A)および(B)において、横軸は、前記被検サンプルの種類を、縦軸は、プロレニン受容体の濃度を示す。図1(A)に示すように、男性および女性共に、膵臓がん患者(PDAC)は、健常者(Normal)と比較して、血漿中のプロレニン受容体の濃度が有意に上昇した。また、図1(B)に示すように、膵臓がんの転移無しの患者および膵臓がんの転移ありの患者は、いずれも、健常者と比較して、血漿中のプロレニン受容体濃度が有意に上昇した。これらの結果から、転移の有無および性別に関わらず膵臓がんの発症と血漿中のプロレニン受容体濃度上昇との間に相関関係があり、血漿中のプロレニン受容体が、膵臓がんのマーカーとなることがわかった。
【0053】
[実施例2]
膵臓がん細胞株のプロレニン受容体の発現を抑制し、前記細胞株の増殖能力を確認した。
【0054】
40%コンフルエントのヒト膵臓がん細胞株PK−1を、37℃、5% COの条件下で24時間、ディッシュ上の無血清培地中で培養した。次に、前記PK−1に、プロレニン受容体遺伝子をノックダウンさせる下記のsiRNA(P)RR (Life Technologies)またはネガティブコントロールであるscrambled siRNA (Life Technologies)を、Lipofectamine(商標) RNAiMAX (Life Technologies)を使用し、そのプロトコルに従って導入した。そして、siRNAを導入したPK−1を、同条件下で48時間培養した。培養後、0.25%トリプシンおよび1mmol/L EDTA含有リン酸緩衝液(Life Technologies)を用い、前記ディッシュからPK−1を剥離し、新たな前記無血清培地を添加した。そして、PK−1を含む前記培地から、遠心分離によってPK−1を含むペレットを回収した。前記ペレットをリン酸緩衝液1mLに懸濁し、この懸濁液と20μLのトリパンブルー液とを混合後、血球計算板に注入し、1mLあたりの細胞数を算出した。生細胞の数が5×10細胞/10cm径ディッシュとなるように播種し、細胞増殖を誘導するヒトWnt3a(R&D Systems)を150ng/mLで加えた。0、24、48、72時間の培養後、PK−1を回収し、同様に生細胞の数を算出した。また、コントロールとして、siRNA処理を行わない以外は、同様にして培養および生細胞数の測定を行った。
【0055】
siRNA(P)RR
センス鎖(配列番号8)
5’−UAUAGGGACUUGCUGGGUUCUUCGC−3’
アンチセンス鎖(配列番号9)
5’−GCGAAGAACCCAGCAAGUCCCUAUA−3’
【0056】
この結果を図2に示す。図2は、RNAiによりプロレニン受容体の発現を抑制したときの、前記膵臓がん細胞株の細胞数を示すグラフである。図2において、コントロール(○)は、siRNA無処理のコントロール群、スクランブル(△)は、スクランブルsiRNAで処理したスクランブル群、siRNA(P)RR(□)は、siRNA(P)RRで処理したsiRNA(P)RR群の結果である。図2の横軸は、Wnt3aで刺激した時間を、縦軸は、細胞数を示す。図2に示すように、コントロール群およびスクランブル群は、各処理時間で同等の細胞増殖を示した。これに対して、siRNA(P)RR群は、前記両群に比べて、各処理時間のいずれにおいても、前記膵臓がん細胞株の細胞増殖が抑制された。さらに、コントロール群およびスクランブル群は、72時間まで増殖し続けたのに対して、siRNA(P)RR群は、48時間をピークに細胞数が減少した。この結果から、プロレニン受容体の発現を抑制することで、膵臓がん細胞株の増殖を抑制できること、つまり、プロレニン受容体が、膵臓がんのターゲットとなることがわかった。
【0057】
[実施例3]
転移がん組織におけるプロレニン受容体タンパク質およびmRNAの発現上昇を確認した。
【0058】
(1)プロレニン受容体タンパク質の発現
原発巣が膵臓であるがん患者から、肝臓の正常組織(コントロール)、肝臓の転移がん組織および腹膜の転移がん組織を採取した。各組織2gにLysis buffer 1mLを添加し、4,000rpmで5分間、ホモジェナイズを行い、被検サンプルを作製した。試薬(商品名 Bio−Rad Protein Assay、Bio−Rad社)を用いて、前記被検サンプル中のタンパク質量を測定した。
【0059】
前記被検サンプル(総タンパク量20μg)を、10%SDSポリアクリルアミドゲルを用いて電気泳動に供し、PVDF(ポリビニリデンジフルオライド)メンブレンに転写した。前記転写後の前記メンブレンを、Blocking buffer(Li−Cor BioSciences)を用いてブロッキングした。前記ブロッキング後の前記メンブレンを、1000倍希釈した抗ラビット(P)RRポリクローナル抗体と室温で1時間反応させ、続いて2000倍希釈したIRDye(登録商標)標識抗ラビットIgG抗体(Li−Cor BioSciences)と、同条件下で反応させた。前記反応後のメンブレンについて、Odyssey(登録商標) System(Li−Cor BioSciences)を用い、前記被検サンプル中のプロレニン受容体タンパク質の発現量を測定した。コントロールである肝臓の正常組織の発現量を1として、肝臓および腹膜の転移がん組織の発現量の相対値を求めた。
【0060】
各組織におけるプロレニン受容体タンパク質の発現の結果を、図3に示す。図3は、各組織におけるプロレニン受容体タンパク質の発現量を示したグラフである。横軸は、被検サンプルの種類を、縦軸は、プロレニン受容体タンパク質の相対的発現量を示す。図3に示すように、肝臓および腹膜の転移がん組織は、正常な肝臓組織よりプロレニン受容体タンパク質の発現が、有意に上昇した。これらの結果から、転移がん組織と、プロレニン受容体タンパク質の発現上昇との間に相関があること、つまり、プロレニン受容体タンパク質が、転移がんのマーカーとなることがわかった。
【0061】
(2)プロレニン受容体遺伝子のmRNAの発現
前記(1)で採取した肝臓の正常組織(コントロール)、肝臓の転移がん組織および腹膜の転移がん組織を使用した。各組織2gにISOGEN(Nippon Gene) 1mLを添加し、4,000rpmで5分間、ホモジェナイズを行い、被検サンプルを作製した。前記被検サンプルにエタノールを加え、RNAを沈殿させた後、前記RNAをRNase free waterに溶解し、RNA溶液を作製した。分光光度計により、前記RNA溶液の濃度およびOD260/OD280(純度)を計測した。そして、RNA濃度300ng/μL、純度1.8以上の前記RNA溶液を、以下の定量的リアルタイム(qRT)−PCRに使用した。
【0062】
逆転写酵素およびランダムプライマーを用い、常法により、前記RNA溶液からcDNAを合成後、RNaseHを用いてRNAを分解した。得られた前記cDNAを鋳型として、SYBR(登録商標) Green(Applied Biosystems)およびApplied Biosystems 7300 Real−Time PCR System(Applied Biosystems)を用い、添付のプロトコルに従ってqRT−PCRを行い、前記被検サンプル中のプロレニン受容体遺伝子のmRNA発現量および内部標準であるβ−アクチン遺伝子のmRNA発現量を測定した。プロレニン受容体遺伝子のmRNA発現量は、前記β−アクチン遺伝子のmRNA発現量に対する比として算出した。前記qRT−PCRにおいて、プロレニン受容体遺伝子および前記β−アクチン遺伝子の増幅には、それぞれ以下のプライマーセットを使用した。
【0063】
プロレニン受容体遺伝子増幅用プライマーセット
(配列番号1)5’-GGCGTTGGTGGCGGGTGTTT-3’
(配列番号2)5’-AGCCCATGGACAATGCAGCCAC-3’
β−アクチン遺伝子増幅用プライマーセット
(配列番号3)5’-CACAGAGCCTCGCCTTTGCCGATC-3’
(配列番号4)5’-ACGAGCGCGGCGATATCATCATC-3’
【0064】
各組織のプロレニン受容体遺伝子のmRNAの発現量の結果を、図4に示す。横軸は、被検サンプルの種類を、縦軸は、プロレニン受容体遺伝子のmRNAのβ−アクチン遺伝子のmRNAに対する相対的発現量を示す。図4に示すように、肝臓および腹膜の転移がん組織は、正常な肝臓組織と比較して、プロレニン受容体遺伝子のmRNAの発現が上昇した。この結果から、転移がん組織と、プロレニン受容体遺伝子のmRNAの発現上昇との間に相関があること、つまり、プロレニン受容体遺伝子のmRNAが、転移がんのマーカーとなることがわかった。
【0065】
[実施例4]
胃がん組織におけるプロレニン受容体タンパク質およびmRNAの発現上昇を確認した。
【0066】
(1)プロレニン受容体タンパク質の発現
胃がん患者4名から、それぞれ胃の正常組織(n=4)およびがん組織(n=4)を採取し、前記実施例3(1)と同様にして、プロレニン受容体タンパク質の発現量を測定した。そして、患者4名の正常組織およびがん組織について、それぞれ発現量の平均を求めた。
【0067】
胃がん組織におけるプロレニン受容体タンパク質の発現の結果を、図5に示す。図5は、プロレニン受容体タンパク質の発現量を示したグラフである。横軸は、被検サンプルの種類を、縦軸は、プロレニン受容体タンパク質の相対的発現量を示す。図5に示すように、胃がん組織(n=4)では、正常な胃組織(n=4)と比較して、プロレニン受容体タンパク質の発現が、有意に上昇した。これらの結果から、胃がんの発症と、プロレニン受容体タンパク質の発現上昇との間に相関があること、つまり、胃組織におけるプロレニン受容体タンパク質が、胃がんのマーカーとなることがわかった。
【0068】
(2)プロレニン受容体遺伝子のmRNAの発現
前記(1)で採取した胃の正常組織およびがん組織を使用し、前記実施例3(2)と同様にして、プロレニン受容体遺伝子のmRNAの発現量を測定した。そして、患者4名の正常組織およびがん組織について、それぞれ発現量の平均を求めた。
【0069】
胃がん組織のプロレニン受容体遺伝子のmRNAの発現量の結果を、図6に示す。横軸は、被検サンプルの種類を、縦軸は、プロレニン受容体遺伝子のmRNAのβ−アクチン遺伝子のmRNAに対する相対的発現量を示す。図6に示すように、胃がん組織(n=4)では、正常な胃組織(n=4)と比較して、プロレニン受容体遺伝子のmRNAの発現が、上昇した。この結果から、胃がん発症と、プロレニン受容体遺伝子のmRNAの発現上昇との間に相関があること、つまり、胃組織におけるプロレニン受容体遺伝子のmRNAが、胃がんのマーカーとなることがわかった。
【0070】
[実施例5]
大腸がん組織におけるプロレニン受容体タンパク質およびmRNAの発現上昇を確認した。
【0071】
(1)プロレニン受容体タンパク質の発現
大腸がん患者4名から、大腸の正常組織(n=4)およびがん組織(n=4)を採取し、前記実施例3(1)と同様にして、プロレニン受容体タンパク質の発現量を測定した。そして、患者4名の正常組織およびがん組織について、それぞれ発現量の平均を求めた。
【0072】
大腸がん組織におけるプロレニン受容体タンパク質の発現の結果を、図7に示す。図7は、プロレニン受容体タンパク質の発現量を示したグラフである。横軸は、被検サンプルの種類を、縦軸は、プロレニン受容体タンパク質の相対的発現量を示す。図7に示すように、大腸がん組織(n=4)では、正常な大腸組織(n=4)と比較して、プロレニン受容体タンパク質の発現が、有意に上昇した。これらの結果から、大腸がんの発症と、プロレニン受容体タンパク質の発現上昇との間に相関があること、つまり、大腸組織におけるプロレニン受容体タンパク質が、大腸がんのマーカーとなることがわかった。
【0073】
(2)プロレニン受容体遺伝子のmRNAの発現
前記(1)で採取した大腸の正常組織およびがん組織について、前記実施例3(2)と同様にして、プロレニン受容体遺伝子のmRNAの発現量を測定した。そして、患者4名の正常組織およびがん組織について、それぞれ発現量の平均を求めた。
【0074】
大腸がん組織におけるプロレニン受容体遺伝子のmRNAの発現量の結果を、図8に示す。横軸は、被検サンプルの種類を、縦軸は、プロレニン受容体遺伝子のmRNAのβ−アクチン遺伝子のmRNAに対する相対的発現量を示す。図8に示すように、大腸がん組織(n=4)では、正常な大腸組織(n=4)と比較して、プロレニン受容体遺伝子のmRNAの発現が、有意に上昇した。この結果から、大腸がん発症と、プロレニン受容体遺伝子のmRNAの発現上昇との間に相関があること、つまり、大腸組織におけるプロレニン受容体遺伝子のmRNAが、大腸がんのマーカーとなることがわかった。
【0075】
[実施例6]
膵臓がん組織におけるプロレニン受容体タンパク質の発現上昇を免疫組織化学染色により確認した。
【0076】
膵臓がん患者22名から、膵管の正常上皮組織、膵臓のがん組織および前がん病変部位(PanIN)を含む膵管の上皮組織を採取した。これらを被検サンプルとして、パラフィン切片を作製し、100%キシレンおよび99.5%エタノールを用いて、脱パラフィン操作を行った。そして、前記被検サンプルについて、100%エタノールおよび30%過酸化水素水を用い、内在性ペルオキシダーゼを不活性化した。つぎに、前記被検サンプルの切片領域を、リキッドブロッカー(撥水性物質)で囲った後、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄した。続いて、前記被検サンプルを、10%ヤギ正常血清(商品名 ヒストフィンSAB−PO(R)キット、ニチレイバイオサイエンス)を用い、室温で15分間、ブロッキングした。
【0077】
前記ブロッキング後、前記被検サンプルを、4000倍希釈した抗ラビット(P)RRポリクローナル抗体と、室温で1時間反応させ、前記PBSで洗浄した。つぎに、前記被検サンプルを、HRP標識二次抗体であるヒストファイン シンプルステインMAX−PRO(MULTI)(ニチレイバイオサイエンス)と、室温で30分間反応させた。続いて、前記被検サンプルを前記PBSで洗浄し、HRPの発色基質であるDAB(3,3’−diaminobenzidine)で発色させた。そして、前記被検サンプルを流水で洗浄し、ヘマトキシリン・エオシン(HE)で染色した。前記染色後の前記被検サンプルを流水で洗浄し、99.5%エタノールおよび100%キシレンで脱水し、固定した。前記固定した前記被検サンプルをマリノールで封入し、DABにより茶色に染色されるプロレニン受容体の発現領域を、光学顕微鏡を用いて観察した。
【0078】
膵臓組織におけるプロレニン受容体タンパク質の発現の結果を、図9に示す。図9は、膵臓組織における、プロレニン受容体タンパク質の発現を示す組織染色図である。図9において、(A)は、膵臓がん組織の染色図であり、(B)は、膵管の正常上皮組織の染色図であり、(C)は、中期のPanINであるPanIN−2を含む膵管上皮組織の染色図であり、(D)は、後期のPanINであるPanIN−3を含む膵管上皮組織の染色図である。また、(A)−(D)におけるスケールバーは、100μmとし、染色された領域は、実線で囲んで示した(例えば、矢印X、YおよびZの領域)。
【0079】
図9(B)に示すように、膵管上皮組織(正常)は、茶色の染色がほとんど確認されなかった。一方、図9(A)に示すように、膵臓ガン組織は、実線(X)で囲んだ領域が茶色に染色された。さらに、図9(C)および(D)に示すように、PanIN−2およびPanIN−3は、それぞれ実線(Y)または実線(Z)で囲んだ領域が茶色に染色された。つまり、膵臓がん組織およびPanINは、正常な膵管上皮組織と比較して、プロレニン受容体タンパク質の発現が上昇した。なお、図9は、1名の膵臓がん患者由来の組織の染色図を示すが、その他の膵臓がん患者由来の組織においても同様に、膵臓がん組織およびPanINにおいて、プロレニン受容体タンパク質の発現が上昇していた。これらの結果から、PanINの形成および膵臓がん発症と、プロレニン受容体タンパク質の発現上昇との間に相関があること、つまり、膵臓組織におけるプロレニン受容体タンパク質が、膵臓がんの高い発症可能性を示すマーカー、および膵臓がんのマーカーとなることがわかった。
【0080】
[実施例7]
siRNA(P)RRで処理したヒト膵臓がん細胞株をヌードマウスに移植し、ヌードマウスにおける前記膵臓がん細胞株の成長の抑制および血漿中の可溶性プロレニン受容体タンパク質の発現量の低下を確認した。
【0081】
(1)膵臓がん細胞株の成長
PK−1に代えて、ヒト膵臓がん細胞株であるPANC−1を用いた以外は前記実施例2と同様にして、siRNA(P)RRを導入し、siRNAを導入したPANC−1(siRNA(P)RR群)を回収した。つぎに、5×10細胞のPANC−1を、5週齢雄BALB/cヌードマウス(n=7)(日本クレア社製)の右上側腹部に皮下移植した。そして、前記移植後25および40日に、前記右上側腹部におけるPANC−1由来のがんの長径および短径を、電気ノギス(アズワン社製)を用いて測定した。前記がんの容積は、下記式から算出した。コントロールは、siRNA(P)RRに代えて、scrambled siRNAを導入したPANC−1(スクランブル群)用いた以外は同様にして、がんの容積を測定した。
[式1]
ガン容積(mm)=長径×(短径)×0.5
【0082】
図10に、前記がんの容積を示し、図11に、前記移植後25日目の前記マウスの写真を示す。図10において、(A)は、前記移植後25日の前記がんの容積を示すグラフであり、(B)は、前記移植後40日の前記がんの容積を示すグラフである。図10(A)および(B)において、横軸は、処理したsiRNAを示し、縦軸は、がんの容積を示す。図10(A)および(B)に示すように、前記移植後25および40日において、siRNA(P)RR群由来のがんの容積は、スクランブル群由来のがんの容積に対して、顕著に低下した。
【0083】
図11において、(A)は、スクランブル群の移植後25日目の前記マウスの写真であり、(B)は、si(P)RR群の移植後25日目の前記マウスの写真である。図11に示すように、前記移植後25日において、スクランブル群は、実線(T)で囲んだ領域にがんの形成が確認された。これに対し、siRNA(P)RR群は、がんの形成が確認されなかった。これらの結果から、プロレニン受容体の発現を抑制することで、生体内におけるがんの成長を抑制できることがわかった。
【0084】
(2)プロレニン受容体タンパク質の発現量
前記移植後25日の前記ヌードマウスの血液から血漿を採取した。前記血漿中のプロレニン受容体タンパク質の発現量の測定は、前記実施例3(1)と同様にして測定した。つぎに、コントロールの血漿のプロレニン受容体の発現量を1として、siRNA(P)RRを導入したPANC−1を移植した前記ヌードマウスの血漿のプロレニン受容体の発現量の相対値を求めた。
【0085】
これらの結果を図12に示す。図12は、前記移植後25日の血漿におけるプロレニン受容体の発現量の相対値を示すグラフである。図12において、横軸は、処理したsiRNAを示し、縦軸は、プロレニン受容体の相対的発現量を示す。図12に示すように、siRNA(P)RR群を移植した前記ヌードマウスの血漿のプロレニン受容体の相対的発現量は、スクランブル群を移植した前記ヌードマウスの血漿のプロレニン受容体の相対的発現量に対して、有意に低下した。これらの結果から、生体内において、がんのプロレニン受容体の発現を抑制することで、血漿中のプロレニン受容体の発現量を抑制できることがわかった。
【0086】
[実施例8]
膵臓がんを移植したヌードマウスに抗プロレニン受容体抗体を投与することで、がんの成長を抑制できることを確認した。
【0087】
(1)抗プロレニン受容体抗体の作製
前記ヒトプロレニン受容体タンパク質(配列番号6)の200−213番目のポリペプチド(配列番号7)を、スカシ貝ヘモシアニン(KLH)と結合し、抗原タンパク質とした。150−200μgの前記抗原タンパク質を、2週間毎に7−10回ウサギ皮内の数十箇所に免疫した(600−800μg/体重1kg)。前記免疫は、初回は、完全アジュバントと混合した前記抗原タンパク質を用いて行い、2回目以降は、不完全アジュバントと混合した前記抗原タンパク質を用いて行った。つぎに、前記ポリペプチドに対する抗体価の上昇を確認した後、前記ウサギより全血を採取し、さらに、血清を回収し、これを抗血清とした。前記抗血清におけるポリクローナル抗ヒトプロレニン受容体抗体(クローン名:PRR1)の濃度は、0.6μg/μLであった。なお、前記抗原タンパク質に用いたヒトプロレニン受容体タンパク質の全アミノ酸配列とマウスプロレニン受容体タンパク質の全アミノ酸配列(配列番号10)との相同性(異種間のアライメントスコア)は、92.29%であった。このことから、前記抗血清に含まれる前記ヒトプロレニン受容体抗体は、マウスプロレニン受容体にも結合するといえる。
【0088】
マウスプロレニン受容体タンパク質(配列番号10)
MAVLVVLLFFLVAGALGNEFSILRSPGSVVFRNGNWPIPGDRIPDVAALSMGFSVKEDLSWPGLAVGNLFHRPRATIMVMVKGVDKLALPAGSVISYPLENAVPFSLDSVANSIHSLFSEETPVVLQLAPSEERVYMVGKANSVFEDLSVTLRQLRNRLFQENSLLNSLPLNSLSRNNEVDLLFLSELQVLHDISSLLSRHKHLAKDHSPDLYSLELAGLDELGKRYGEDSEQFRDASKILVDALQKFADDMYSLYGGNAVVELVTVKSFDTSLVRKSRTILEAKQENTQSPYNLAYKYNLEYSVVFNLVLWIMIGLALAVIITSYNIWNMDPGYDSIIYRMTNQKIRID
【0089】
(2)生体内におけるがん細胞の成長抑制
1×10細胞のPK−1またはPANC−1、30μlの前記抗血清(前記抗体0.6μg/μl)および170μlのPBSを混合した。この混合液(全量)を、ヌードマウス(n=10)の右上側腹部に移植した。この際、前記マウスの体重1kgあたりの移植量は、前記細胞が50×10細胞であり、前記抗体0.9mgである。つぎに、前記移植後から3日毎に、10μlの前記抗血清(前記抗体0.6μg/μl)を、PK−1またはPANC−1由来のがん内に投与した、この際、1回の投与における、前記マウスの体重1kgあたりの前記抗体の投与量は、0.3mgである。そして、前記移植後15、18、21、24および27日に、前記右上側腹部におけるPK−1またはPANC−1由来のがんの容積を、前記実施例7と同様に測定した。コントロールは、前記抗プロレニン受容体抗体に代えて、マウスの体重1kgあたり1mgとなるように、ヒトIgG1抗体(WAKO社製)を投与した以外は同様にして、がんの容積を測定した。
【0090】
これらの結果を図13に示す。図13において、(A)は、PK−1を移植した際の前記がんの容積を示すグラフであり、(B)は、PANC−1を移植した際の前記がんの容積を示すグラフである。図13(A)および(B)において、横軸は、移植後の日数を示し、縦軸は、がんの容積を示し、図中の黒抜きバーは、抗プロレニン受容体投与群を示し、白抜きバーは、ヒトIgG1抗体投与群を示す。図13(A)および(B)に示すように、PK−1およびPANC−1のいずれを移植した前記ヌードマウスにおいても、前記移植後15、18、21、24および27日において、抗プロレニン受容体投与群のがんの容積は、ヒトIgG1抗体投与群のがんの容積に対して低下した。これらの結果から、抗プロレニン受容体抗体を用いることで、生体内におけるがんの成長を抑制できることがわかった。
【0091】
[実施例9]
ヒト膵管上皮細胞株およびヒト膵臓がん細胞株におけるプロレニン受容体タンパク質の発現およびこれらの細胞株の培養上清におけるプロレニン受容体タンパク質の発現を確認した。
【0092】
ヒト膵管上皮細胞株として、HPDEを、ヒト膵臓がん細胞株として、PK−8、PCI−35、BxPC−3、PK−1、PANC−1およびMIAPaCa−2を用いた。前記細胞株を、37℃、5% COの条件下で24時間、無血清培地中で培養した。前記無血清培地は、RPMI−1640(Sigma社製)を用いた。前記培養後、培養上清を回収した。つぎに、1mL前記培養上清を、Amicon Ultra−0.5 Centrifugal Filter Unit with Ultracel−10 membrane(Millipore社製)を用いて濃縮し、20μgの総タンパク質を含む濃縮液を得た。前記濃縮液を培養上清サンプルとした。
【0093】
また、前記培養上清回収後の前記細胞株は、Lysis bufferで溶解した。前記細胞溶解液を12,500rpmで10分遠心後、上清を取得し、細胞溶解サンプルとした。そして、前記培養上清サンプルおよび前記細胞溶解サンプルにおけるプロレニン受容体タンパク質およびβ−アクチンタンパク質の発現を、前記実施例3(1)と同様にして確認した。
【0094】
これらの結果を図14(A)および(B)に示す。図14において、(A)は、前記細胞株の前記細胞溶解サンプルにおけるプロレニン受容体タンパク質の発現を示すウエスタンブロットの写真であり、(B)は、前記細胞株の前記培養上清サンプルにおけるプロレニン受容体タンパク質の発現を示すウエスタンブロットの写真である。図14(A)および(B)において、写真の上側は、細胞株を示し、写真の左側は、検出したタンパク質を示す。図14(A)に示すように、いずれの前記細胞株の前記細胞溶解サンプルにおいても、プロレニン受容体タンパク質の発現が確認された。また、図14(B)に示すように、いずれの前記細胞株の前記培養上清サンプルにおいても、プロレニン受容体タンパク質の発現が確認された。これらの結果から、前記ヒト膵管上皮細胞株および前記ヒト膵臓がん細胞株およびこれらの細胞株の培養上清において、プロレニン受容体タンパク質が、発現していることが確認された。
【0095】
[実施例10]
プロレニン受容体の発現を抑制することで、Wntシグナルが抑制されることを確認した。
【0096】
(1)リン酸化LRP6の発現
前記実施例2と同様にして、PK−1にsiRNA(P)RRを導入した(siRNA(P)RR群)。前記導入後、150ng/mLとなるように組換えヒトWnt3aを加えた。前記添加後10分に、PK−1を回収し、Lysis Bufferで溶解し、被検サンプルを調製した。つぎに、実施例3(1)と同様にして、プロレニン受容体タンパク質とβ−アクチンタンパク質の発現を確認した。
【0097】
また、前記被検サンプルについて、前記抗プロレニン受容体抗体に代えて、抗リン酸化LRP6抗体(Ser 1490、Cell Signaling Technology社製)または抗LRP6抗体(クローン名:C47E12、Cell Signaling Technology社製)を用いた以外は、前記実施例3(1)と同様にして、リン酸化LRP6タンパク質またはLRP6タンパク質の発現量を測定した。ネガティブコントロールは、siRNAを導入せず、またWnt3aを加えなかった以外は同様にして、コントロール1は、siRNAを導入しなかった以外は同様にして、コントロール2は、siRNA(P)RRに代えて、scrambled siRNAを導入した以外は同様にして、リン酸化LRP6タンパク質およびLRP6タンパク質の発現量を測定した。
【0098】
さらに、各サンプルについて、LRP6タンパク質の発現量に対するリン酸化LRP6タンパク質の発現量の比(リン酸化LRP6発現量比)を求めた。そして、ネガティブコントロールにおけるリン酸化LRP6発現量比を1として、各サンプルにおけるリン酸化LRP6発現量比の相対値を算出した。
【0099】
図15に、プロレニン受容体タンパク質およびβ−アクチンタンパク質の発現を示し、図16に、リン酸化LRP6発現量比の相対値を示す。図15は、プロレニン受容体タンパク質およびβ−アクチンタンパク質の発現を示すウエスタンブロットの写真である。図15において、写真の下側は、処理したsiRNAおよびWnt3a刺激の有無を示し、写真の左側は、検出したタンパク質を示す。図15に示すように、siRNA(P)RR群では、ネガティブコントロール、コントロール1および2に対して、プロレニン受容体タンパク質の発現が低下した。
【0100】
図16は、リン酸化LRP6発現量比の相対値を示すグラフである。図16において、横軸は、処理したsiRNAおよびWnt3a刺激の有無を示し、縦軸は、リン酸化LRP6発現量比の相対値を示す。図16に示すように、siRNA(P)RR群では、ネガティブコントロール、コントロール1および2に対して、Wnt3a刺激後のリン酸化LRP6発現量比の相対値が低下した。これらの結果から、プロレニン受容体タンパク質の発現を抑制することで、Wntシグナルが抑制されることが確認された。
【0101】
(2)活性型β−カテニンおよびCyclin D1の発現
前記(1)と同様にして、被検サンプルを調製した。つぎに、前記被検サンプルについて、抗プロレニン受容体抗体に代えて、抗活性型β−カテニン抗体(anti−ABC、Millipore社製)または抗Cyclin D1抗体を用いた以外は、前記実施例3(1)と同様にして、活性型β−カテニンタンパク質およびCyclin D1タンパク質の発現量を求めた。ネガティブコントロールは、siRNA(P)RRに代えて、scrambled siRNAを導入し、Wnt3aを加えなかった以外は、コントロールは、siRNA(P)RRに代えて、scrambled siRNAを導入した以外は同様にして、活性型β−カテニンタンパク質およびCyclin D1タンパク質の発現量を求めた。そして、前記ネガティブコントロールにおける活性型β−カテニンタンパク質およびCyclin D1タンパク質の発現量を1として、各サンプルにおける活性型β−カテニンタンパク質およびCyclin D1タンパク質の発現量の相対値を求めた。
【0102】
また、BxPC−3およびPANC−1についても同様にして、活性型β−カテニンタンパク質およびCyclin D1タンパク質の発現量の相対値を求めた。
【0103】
これらの結果を図17(A)−(C)に示す。図17において、(A)−(C)は、活性型β−カテニンタンパク質およびCyclin D1タンパク質の発現量の相対値を示すグラフであり、(A)は、PK−1を用いた結果であり、(B)は、BxPC−3を用いた結果であり、(C)は、PANC−1を用いた結果である。図17(A)−(C)において、横軸は、処理したsiRNAおよびWnt3a刺激の有無を示し、縦軸は、相対的発現量を示し、図中の黒抜きバーは、活性型β−カテニンタンパク質の相対的発現量を示し、白抜きバーは、Cyclin D1タンパク質の相対的発現量を示す。
【0104】
図17(A)−(C)に示すようにsiRNA(P)RR群は、コントロールに対して、活性型β−カテニンタンパク質およびCyclin D1タンパク質の相対的発現量が有意に低下し、ネガティブコントロールと同程度またはネガティブコントロール未満の相対的発現量となった。活性型β−カテニンタンパク質およびCyclin D1タンパク質は、Wntシグナルによって誘導されるタンパク質である。このため、これらの結果から、プロレニン受容体タンパク質の発現を抑制することで、Wntシグナルが抑制されることが確認された。
【0105】
[実施例11]
5×10細胞/ウェルとなるよう6ウェルプレートにPK−1を播種した。つぎに、前記実施例2と同様にして、PK−1にsiRNA(P)RRを導入した(siRNA(P)RR群)。前記導入後、150ng/mLとなるように組換えヒトWnt3aを加え、48時間培養した。前記培養後、さらに、100μLの水溶性テトラゾリウム塩(WST−1)試薬を各ウェルに添加し、2時間インキュベートした。そして、各ウェルについて、プレートリーダーを用いて、450nmにおける吸光度を測定し、増殖能力を測定した。ネガティブコントロールは、siRNAを導入せず、またWnt3aを加えなかった以外は同様にして、コントロール1は、siRNAを導入しなかった以外は同様にして、コントロール2は、siRNA(P)RRに代えて、scrambled siRNAを導入した以外は同様にして、増殖能力を測定した。
【0106】
さらに、ネガティブコントロールにおける増殖能力を1として、各サンプルにおける増殖能力の相対値を求めた。また、BxPC−3およびPANC−1についても同様にして、増殖能力の相対値を求めた。
【0107】
これらの結果を図18に示す。図18において、(A)−(C)は、増殖能力の相対値を示すグラフであり、(A)は、PK−1を用いた結果であり、(B)は、BxPC−3を用いた結果であり、(C)は、PANC−1を用いた結果である。図18(A)−(C)において、横軸は、処理したsiRNAおよびWnt3a刺激の有無を示し、縦軸は、相対的増殖能力を示す。
【0108】
図18(A)−(C)に示すように、いずれのヒト膵臓がん細胞株においても、siRNA(P)RR群では、ネガティブコントロール、コントロール1および2に対して、相対的増殖能力が低下した。これらの結果から、プロレニン受容体タンパク質の発現を抑制することで、ヒト膵臓がん細胞株の増殖が抑制されることが確認された。
【0109】
[実施例12]
プロレニン受容体の発現を抑制することで、アポトーシスが誘導されることを確認した。
【0110】
(1)アポトーシス細胞の測定
前記実施例2と同様にして、PK−1にsiRNA(P)RRを導入した(siRNA(P)RR群)。前記導入後、150ng/mLとなるように組換えヒトWnt3aを加え、48時間培養した。つぎに、培養後のPK−1を遠心して回収し、0.5mLの氷冷70%エタノールに懸濁し、−20℃で24時間保存した。前記保存後のPK−1をPBSで洗浄後、10mg/mL RNase A(Macherey−Nagel社製)含有PBSに懸濁し、37℃で30分間インキュベートした。そして、1mg/mL PI(Sigma−Aldrich社製)含有PBSを用いて、37℃で30分間、染色した。
【0111】
前記染色後のPK−1をPBSで洗浄後、再度PBSで懸濁し、DNAフローサイトメーター(ベックマン コールター社製)を用いて、前方散乱光(FS)、側方散乱光(SS)およびDNA含有量を測定した。また、前記DNA含有量に基づき、各細胞周期の細胞の割合を算出した。コントロールは、siRNA(P)RRに代えて、scrambled siRNAを導入した以外は同様にして、前方散乱光(FS)、側方散乱光(SS)およびDNA含有量を測定し、各細胞周期の細胞の割合を算出した。また、PANC−1についても同様にして、各細胞周期の細胞の割合を算出した。
【0112】
図19に、FSおよびSSのドットプロットを示し、図20に、DNA含有量のヒストグラムを示し、図21に、各細胞周期の細胞の割合のグラフを示す。図19は、アポトーシス細胞の割合を示すドットプロットである。図19において、横軸は、SSを示し、縦軸は、FSを示し、図中の数字は、アポトーシス細胞の割合を示す。図19に示すように、siRNA(P)RR群では、コントロール対して、アポトーシス細胞を示す4分割のドットプロットの右上画分を占める細胞の割合が増加した。
【0113】
図20は、DNA含有量を示すヒストグラムである。図20において、横軸は、PIの蛍光強度を示し、縦軸は、カウント数を示し、図中の黒抜きヒストグラムは、siRNA(P)RR群を示し、白抜きヒストグラムは、コントロールを示す。図20に示すように、siRNA(P)RR群では、図中の矢印で示すDNA含有量の低下したアポトーシス細胞が観察された。これに対し、コントロールでは、アポトーシス細胞が観察されなかった。
【0114】
図21(A)および(B)は、各細胞周期の細胞の割合を示すグラフである。図21において、(A)は、PK−1を用いた結果であり、(B)は、PANC−1を用いた結果である。図21(A)および(B)において、横軸は、処理したsiRNAを示し、縦軸は、各細胞周期の細胞の割合を示す。
【0115】
図21(A)および(B)に示すように、いずれのヒト膵臓がん細胞株においても、siRNA(P)RR群では、コントロールに対して、アポトーシス細胞であるSubG1基の細胞の割合が増加した。これらの結果から、プロレニン受容体タンパク質の発現を抑制することで、ヒト膵臓がん細胞株のアポトーシスが誘導されることが確認された。
【0116】
(2)カスパーゼ3の活性化の測定
前記(1)と同様にして、PK−1を培養し、回収した。カスパーゼ3の活性の測定は、APOPCYTE(Kit名:Caspase−3 Colorimetric Assay Kit、Medical & Biological laboratories社製)を用い、そのプロトコルに従って行った。コントロールは、siRNA(P)RRに代えて、scrambled siRNAを導入した以外は同様にして、カスパーゼ3の活性を測定した。また、BxPC−3およびPANC−1についても同様にして、カスパーゼ3の活性を測定した。
【0117】
これらの結果を図22(A)−(C)に示す。図22において、(A)−(C)は、カスパーゼ3の活性を示すグラフであり、(A)は、PK−1を用いた結果であり、(B)は、BxPC−3を用いた結果であり、(C)は、PANC−1を用いた結果である。図22(A)−(C)において、横軸は、処理したsiRNAを示し、縦軸は、カスパーゼ3の活性を示す。図22(A)−(C)に示すように、いずれのヒト膵臓がん細胞株においても、siRNA(P)RR群では、コントロールに対して、アポトーシスを誘導するカスパーゼ3の活性が上昇した。これらの結果から、プロレニン受容体タンパク質の発現を抑制することで、アポトーシスを誘導するカスパーゼ3が活性化することが確認された。
【0118】
[実施例13]
脳腫瘍患者の血漿中のプロレニン受容体の濃度上昇を確認した。
【0119】
健常者男性(n=4)、健常者女性(n=2)、脳腫瘍患者男性(n=5)および脳腫瘍患者女性(n=10)の血液から血漿を回収した。これらを、前記実施例1と同様にして、前記血漿中のプロレニン受容体の濃度を測定した。
【0120】
この結果を図23に示す。図23は、血漿中のプロレニン受容体の濃度を示すグラフである。図23において、横軸は、前記被検サンプルの種類を、縦軸は、プロレニン受容体の濃度を示す。図23に示すように、男性および女性共に、脳腫瘍患者(Brain tumor)は、健常者(Normal)と比較して、血漿中のプロレニン受容体の濃度が有意に上昇した。これらの結果から、性別に関わらず脳腫瘍の発症と血漿中のプロレニン受容体濃度上昇との間に相関関係があり、血漿中のプロレニン受容体が、脳腫瘍のマーカーとなることがわかった。
【0121】
以上、実施形態および実施例を参照して本願発明を説明したが、本願発明は、上記実施形態および実施例に限定されるものではない。本願発明の構成や詳細には、本願発明のスコープ内で当業者が理解しうる様々な変更をすることができる。
【0122】
この出願は、2012年9月11日に出願された日本出願特願2012−199508を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【産業上の利用可能性】
【0123】
以上のように、本発明によれば、プロレニン受容体の発現量を測定することによって、がんの罹患危険度を試験できる。また、プロレニン受容体は、がんのターゲットとなることから、本発明のスクリーニング方法によれば、プロレニン受容体をターゲットとした、がん治療用候補物質を得ることができる。このため、本発明のがんマーカーは、臨床分野、生化学分野において、極めて有用なマーカーとなる。
図1
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図20
図21
図22
図23
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]