(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6341880
(24)【登録日】2018年5月25日
(45)【発行日】2018年6月13日
(54)【発明の名称】含金属複合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C09J 5/02 20060101AFI20180604BHJP
C09J 5/04 20060101ALI20180604BHJP
C23F 1/14 20060101ALI20180604BHJP
C09J 5/06 20060101ALI20180604BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20180604BHJP
C09J 163/00 20060101ALI20180604BHJP
B29C 65/48 20060101ALI20180604BHJP
【FI】
C09J5/02
C09J5/04
C23F1/14
C09J5/06
C09J11/06
C09J163/00
B29C65/48
【請求項の数】9
【全頁数】38
(21)【出願番号】特願2015-97750(P2015-97750)
(22)【出願日】2015年5月12日
(65)【公開番号】特開2016-210942(P2016-210942A)
(43)【公開日】2016年12月15日
【審査請求日】2017年1月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】514080855
【氏名又は名称】合資会社アンドーコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100093687
【弁理士】
【氏名又は名称】富崎 元成
(74)【代理人】
【識別番号】100106770
【弁理士】
【氏名又は名称】円城寺 貞夫
(74)【代理人】
【識別番号】100139789
【弁理士】
【氏名又は名称】町田 光信
(72)【発明者】
【氏名】安藤 直樹
【審査官】
松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−148937(JP,A)
【文献】
特開2011−026457(JP,A)
【文献】
国際公開第2008/114669(WO,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0098910(US,A1)
【文献】
国際公開第99/010168(WO,A1)
【文献】
米国特許第06468613(US,B1)
【文献】
特開2005−053940(JP,A)
【文献】
特開昭50−155597(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00−201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジシアンジアミド硬化剤型の1液性エポキシ接着剤(A)に、ケトン系溶剤を加えて混合し低粘度懸濁液とした含溶剤型接着剤(B)として用意する工程と、
各種表面処理によって、20〜100nm径の概ね椀型の超微細凹部で全面が覆われた形の超微細凹凸面となっており、前記超微細凹凸面の表面層は金属酸化物又は金属リン酸化物のセラミック質薄層になっているアルミニウム、アルミ合金及びアルミ鍍金鋼板の第1金属形状物(M1)から選択される1種を被着材として用意する工程と、
前記第1金属形状物(M1)の接着面に、前記含溶剤型接着剤(B)を塗布し、前記ケトン系溶剤を乾燥機又は風乾で揮発させる工程と、
揮発させた前記1液性エポキシ接着剤(A)が塗布された前記第1金属形状物(M1)を、接着剤塗布面である前記接着面同士で突合せて固定して、120〜180℃で加熱し、前記1液性エポキシ接着剤を硬化させて接着を完成させる工程と
からなる金属片同士を接着した含金属複合体の製造方法であって、
前記接着面の引っ張り接着強さがせん断接着強さと同等かそれ以上である
ことを特徴とする含金属複合体の製造方法。
【請求項2】
ジシアンジアミド硬化剤型の1液性エポキシ接着剤(A)に、ケトン系溶剤を加えて混合し低粘度懸濁液とした含溶剤型接着剤(B)として用意する工程と、
各種表面処理によって、短長径0.05〜1μmで高さ0.3μm以上の厚壁状、又は前記厚壁状が崩れて不定立体形状となった凸部が0.1〜2μm間隔で林立した形の粗面があり、且つ、前記粗面の全表面が20〜100nm周期の超微細凹凸面で覆われており、前記超微細凹凸面の表面層は金属酸化物又は金属リン酸化物[等]のセラミック質薄層になっている純チタン第1〜4種、及びチタン合金の第2金属形状物(M2)から選択される1種を被着材として用意する工程と、
前記第2金属形状物(M2)の接着面に、前記含溶剤型接着剤(B)を塗布し、前記ケトン系溶剤を乾燥機又は風乾で揮発させる工程と、
揮発させた前記1液性エポキシ接着剤(A)が塗布された前記第2金属形状物(M2)を、接着剤塗布面である前記接着面同士で突合せて固定して、120〜180℃で加熱し、前記1液性エポキシ接着剤を硬化させて接着を完成させる工程と
からなる金属片同士を接着した含金属複合体の製造方法であって、
前記接着面の引っ張り接着強さがせん断接着強さと同等かそれ以上である
ことを特徴とする含金属複合体の製造方法。
【請求項3】
ジシアンジアミド硬化剤型の1液性エポキシ接着剤(A)に、ケトン系溶剤を加えて混合し低粘度懸濁液とした含溶剤型接着剤(B)として用意する工程と、
各種表面処理によって、1〜5μm周期で深皿状凹部面を有する粗面となっており、且つ、前記粗面の全表面が20〜100nm周期の超微細凹凸面で覆われており、前記超微細凹凸面の表面層は金属酸化物又は金属リン酸化物のセラミック質薄層になっている純チタン第1〜4種、及びチタン合金の第3金属形状物(M3)を被着材として用意する工程と、
前記第3金属形状物(M3)の接着面に、前記含溶剤型接着剤(B)を塗布し、前記ケトン系溶剤を乾燥機又は風乾で揮発させる工程と、
揮発させた前記1液性エポキシ接着剤(A)が塗布された前記第3金属形状物(M3)を、接着剤塗布面である接着面同士で突合せて固定して、120〜180℃で加熱し、前記1液性エポキシ接着剤を硬化させて接着を完成させる工程と
からなる金属片同士を接着した含金属複合体の製造方法であって、
前記接着面の引っ張り接着強さがせん断接着強さと同等かそれ以上である
ことを特徴とする含金属複合体の製造方法。
【請求項4】
ジシアンジアミド硬化剤型の1液性エポキシ接着剤(A)を入手し、これに少量の溶剤MIBKを加えてよく混ぜあわせ低粘度懸濁液とした含溶剤型接着剤(B)を用意する工程と、
各種表面処理によって、10〜200nm角の正方体立方体片、又は、前記正方体立方体片と100〜250nm径の円盤状片が、200nm四方に5〜50個の数密度で平原から立っている超微細凹凸面で全面が覆われており、前記超微細凹凸面の表面層は金属酸化物又は金属リン酸化物[等]のセラミック質薄層になっている銅又は銅合金の第4金属形状物(M4)を被着材として用意する工程と、
前記第4金属形状物(M4)の必要個所に前記の含溶剤型接着剤(B)を塗布し、送風乾燥機又は風乾にて溶剤分を十分揮発させる工程と、
前記揮発させた複数の接着剤付きの前記第4金属形状物を接着剤塗布面同士で突合せ治具で固定して熱風乾燥機に入れ120〜180℃で加熱し、1液性エポキシ接着剤を硬化して接着を完成させる工程と
を少なくとも含むことを特徴とする同金属片同士を接着した含金属複合体の製造方法であって、
前記接着面の引っ張り接着強さがせん断接着強さと同等かそれ以上である
ことを特徴とする含金属複合体の製造方法。
【請求項5】
ジシアンジアミド硬化剤型の1液性エポキシ接着剤(A)に、ケトン系溶剤を加えて混合し低粘度懸濁液とした含溶剤型接着剤(B)を用意する工程と、
各種表面処理によって、直径100nm程度の球状体が積み重なり接合して得られた表面形状で、且つ、前記球状体の表面に10nm以下の短いウイスカが多数生えている超微細凹凸形状も併せ持ち、前記超微細凹凸形状の表面層は金属酸化物又は金属リン酸化物のセラミック質薄層になっているマグネシウム合金の第5金属形状物(M5)を被着材として用意する工程と、
前記第5金属形状物(M5)の接着面に前記含溶剤型接着剤(B)を塗布し、乾燥機又は風乾にて溶剤分を揮発させる工程と、
前記揮発させた前記1液性エポキシ接着剤(A)が塗布された前記第5金属形状物(M5)を、接着剤塗布面である接着面同士で突合せて固定して、120〜180℃で加熱し、前記1液性エポキシ接着剤を硬化させて接着を完成させる工程と
からなる金属片同士を接着した含金属複合体の製造方法であって、
前記接着面の引っ張り接着強さがせん断接着強さと同等かそれ以上であることを特徴とする含金属複合体の製造方法。
【請求項6】
ジシアンジアミド硬化剤型の1液性エポキシ接着剤(A)に、ケトン系溶剤を加えて混合し低粘度懸濁液とした含溶剤型接着剤(B)を用意する工程と、
20〜50nm径の概ね椀型の超微細凹部で全面が覆われた形の超微細凹凸面となっており、前記超微細凹凸面の表面層は金属酸化物又は金属リン酸化物のセラミック質薄層になっているアルミニウム、アルミ合金及びアルミ鍍金鋼板の第1金属形状物(M1)から選択される1種の第1金属形状物(M1)、
短長径0.05〜1μmで高さ0.3μm以上の厚壁状、又は前記厚壁状が崩れて不定立体形状となった凸部が0.1〜2μm間隔で林立した形の粗面があり、且つ、前記粗面の全表面が20〜100nm周期の超微細凹凸面で覆われており、前記超微細凹凸面の表面層は金属酸化物又は金属リン酸化物[等]のセラミック質薄層になっている純チタン第1〜4種、及びチタン合金の第2金属形状物(M2)から選択される1種の第2金属形状物(M2)、
1〜5μm周期で深皿状凹部面を有する粗面となっており、且つ、前記粗面の全表面が20〜100nm周期の超微細凹凸面で覆われており、前記超微細凹凸面の表面層は金属酸化物又は金属リン酸化物のセラミック質薄層になっている純チタン第1〜4種、及びチタン合金の第3金属形状物(M3)、
10〜200nm角の正方体立方体片、又は、前記正方体立方体片と100〜250nm径の円盤状片が、200nm四方に5〜50個の数密度で平原から立っている超微細凹凸面で全面が覆われており、前記超微細凹凸面の表面層は金属酸化物又は金属リン酸化物のセラミック質薄層になっている銅又は銅合金の第4金属形状物(M4)、及び
直径100nm程度の球状体が積み重なり接合して得られた表面形状で、且つ、前記球状体の表面に10nm以下の短いウイスカが多数生えている超微細凹凸形状も併せ持ち、前記超微細凹凸形状の表面層は金属酸化物又は金属リン酸化物のセラミック質薄層になっているマグネシウム合金の第5金属形状物(M5)
から選択される2種の前記第1ないし前記第5金属形状物(M1〜M5)を被着材として用意する工程と、
前記2種の前記第1ないし5金属形状物(M1〜M5)の接着面に、前記含溶剤型接着剤(B)を塗布し、前記ケトン系溶剤を乾燥機又は風乾で揮発させる工程と、
前記揮発させた前記1液性エポキシ接着剤(A)が塗布された前記第1ないし5金属形状物(M1〜M5)から選択される前記2種を、接着剤塗布面である前記接着面同士で突合せて固定して、120〜180℃で加熱し、前記1液性エポキシ接着剤を硬化させて接着を完成させる工程と
からなる金属片同士を接着した含金属複合体の製造方法であって、
前記接着面の引っ張り接着強さがせん断接着強さと同等かそれ以上である
ことを特徴とする含金属複合体の製造方法。
【請求項7】
ジシアンジアミド硬化剤型の1液性エポキシ接着剤(A)に、ケトン系溶剤を加えて混合し低粘度懸濁液とした含溶剤型接着剤(B)を用意する工程と、
20〜50nm径の概ね椀型の超微細凹部で全面が覆われた形の超微細凹凸面となっており、前記超微細凹凸面の表面層は金属酸化物又は金属リン酸化物のセラミック質薄層になっているアルミニウム、アルミ合金及びアルミ鍍金鋼板の第1金属形状物(M1)、
短長径0.05〜1μmで高さ0.3μm以上の厚壁状、又は前記厚壁状が崩れて不定立体形状となった凸部が0.1〜2μm間隔で林立した形の粗面があり、且つ、前記粗面の全表面が20〜100nm周期の超微細凹凸面で覆われており、前記超微細凹凸面の表面層は金属酸化物又は金属リン酸化物のセラミック質薄層になっている純チタン第1〜4種、及びチタン合金の第2金属形状物(M2)、
1〜5μm周期で深皿状凹部面を有する粗面となっており、且つ、前記粗面の全表面が20〜100nm周期の超微細凹凸面で覆われており、前記超微細凹凸面の表面層は金属酸化物又は金属リン酸化物のセラミック質薄層になっている純チタン第1〜4種、及びチタン合金の第3金属形状物(M3)、
10〜200nm角の正方体立方体片、又は、前記正方体立方体片と100〜250nm径の円盤状片が、200nm四方に5〜50個の数密度で平原から立っている超微細凹凸面で全面が覆われており、前記超微細凹凸面の表面層は金属酸化物又は金属リン酸化物のセラミック質薄層になっている銅又は銅合金の第4金属形状物(M4)、及び
直径100nm程度の球状体が積み重なり接合して得られた表面形状で、且つ、前記球状体の表面に10nm以下の短いウイスカが多数生えている超微細凹凸形状も併せ持ち、前記超微細凹凸形状の表面層は金属酸化物又は金属リン酸化物のセラミック質薄層になっているマグネシウム合金の第5金属形状物(M5)
から選択される1種の金属形状物(M1〜M5)を被着材として用意する工程と、
前記1種の金属形状物(M1〜M5)の接着面に、前記含溶剤型接着剤(B)を塗布し、前記ケトン系溶剤を乾燥機又は風乾で揮発させる工程と、
エポキシ樹脂を主成分とする熱硬化性エポキシ樹脂組成物を硬化して得た樹脂形状物(P1)を、物理的手法にて研磨することで数十μmオーダーの粗面を特定箇所に接着面として作成し、水洗、乾燥して汚れを落とし、これを被着材の一方として用意する工程と、
前記樹脂形状物(P1)の接着面に前記含溶剤型接着剤(B)を塗布し、乾燥機又は風乾にて前記ケトン系溶剤を揮発させる工程と、
前記揮発させた前記1液性エポキシ接着剤(A)が塗布された前記1種の金属形状物と、前記1液性エポキシ接着剤を塗布した前記樹脂形状物(P1)とを接着剤塗布面同士で突合せ固定して乾燥機に入れ150〜180℃で加熱し、1液性エポキシ接着剤を硬化して接着を完成させる工程と
からなる金属片と樹脂形状物(P1)とを接着した含金属複合体の製造方法であって、
前記接着面の引っ張り接着強さがせん断接着強さと同等かそれ以上である
ことを特徴とする含金属複合体の製造方法。
【請求項8】
ジシアンジアミド硬化剤型の1液性エポキシ接着剤(A)に、ケトン系溶剤を加えて混合し低粘度懸濁液とした含溶剤型接着剤(B)を用意する工程と、
20〜50nm径の概ね椀型の超微細凹部で全面が覆われた形の超微細凹凸面となっており、前記超微細凹凸面の表面層は金属酸化物又は金属リン酸化物のセラミック質薄層になっているアルミニウム、アルミ合金及びアルミ鍍金鋼板の第1金属形状物(M1)、
短長径0.05〜1μmで高さ0.3μm以上の厚壁状、又はこれら壁状物が崩れて不定立体形状となった凸部が0.1〜2μm間隔で林立した形の粗面があり、且つ、前記粗面の全表面が20〜100nm周期の超微細凹凸面で覆われており、前記超微細凹凸面の表面層は金属酸化物又は金属リン酸化物のセラミック質薄層になっている純チタン第1〜4種、及びチタン合金の第2金属形状物(M2)、
1〜5μm周期で深皿状凹部面を有する粗面となっており、且つ、前記粗面の全表面が20〜100nm周期の超微細凹凸面で覆われており、前記超微細凹凸面の表面層は金属酸化物又は金属リン酸化物のセラミック質薄層になっている純チタン第1〜4種、及びチタン合金の第3金属形状物(M3)、
10〜200nm角の正方体立方体片、又は、前記正方体立方体片と100〜250nm径の円盤状片が、200nm四方に5〜50個の数密度で平原から立っている超微細凹凸面で全面が覆われており、前記超微細凹凸面の表面層は金属酸化物又は金属リン酸化物のセラミック質薄層になっている銅又は銅合金の第4金属形状物(M4)、及び
直径100nm程度の球状体が積み重なり接合して得られた表面形状で、且つ、前記球状体の表面に10nm以下の短いウイスカが多数生えている超微細凹凸形状も併せ持ち、前記超微細凹凸形状の表面層は金属酸化物又は金属リン酸化物のセラミック質薄層になっているマグネシウム合金の第5金属形状物(M5)
から選択される1種の金属形状物(M1〜M5)を被着材として用意する工程と、
前記1種の金属形状物(M1〜M5)の接着面に、前記含溶剤型接着剤(B)を塗布し、前記ケトン系溶剤を乾燥機又は風乾で揮発させる工程と、
強化繊維を含む熱硬化性エポキシ樹脂組成物製プリプレグからなる樹脂形状物(P2)を用意する工程と、
前記1種の金属形状物(M1〜M5)と樹脂形状物との形状に合わせた治具内に樹脂形状物(P2)を詰め込み、更に接着剤付きの前記1種の金属形状物(M1〜M5)も組み込んだ形で治具で締め込み、これをオートクレーブの加熱容器に入れて所定の操作を行って全エポキシ樹脂分を硬化し、結果的に硬化した強化繊維を含む樹脂形状物と前記1種の金属形状物の接着を完成させる工程と
からなる金属片と強化繊維を含む樹脂形状物とを接着した含金属複合体の製造方法であって、
前記接着面の引っ張り接着強さがせん断接着強とをと同等かそれ以上である
ことを特徴とする含金属複合体の製造方法。
【請求項9】
請求項1ないし8から選択される1項に記載の含金属複合体の製造方法で得られる含金属複合体であって、
前記ケトン系溶剤は、メチルイソブチルケトン(MIBK)である
ことを特徴とする含金属複合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含金属複合体の
製造方法に関する。より詳しくは、本発明は、金属部品同士、及び、金属部品とCFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics)とを、エポキシ接着剤使用で強力に接着一体化する技術であり、ボルト/ナット、溶接、しまり嵌め等の組立方法に代えて、それら金属部品同士、金属部品とCFRPとの固着法を実用的にするものである。本発明は金属として、銅、鋼、Mg合金、Al合金、Ti合金等の合金を含む全金属種を対象とし、一般機械、医療機械、電気機械、移動機械、その他各種機械、それらの製造分野で使用することができる
含金属複合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
〈CFRPについて〉
CFRPは、別のより正確な言い方ではCFRTS(Carbon Fiber Reinforced Thermo-Set plastics)と呼ばれ、通常は熱硬化型エポキシ樹脂をマトリックス樹脂とする樹脂成形物である。昨今、CFRPは航空機、自動車等の構造体に使用されるようになったが、これはその超軽量性、高強度なる機械物性から来ている。しかしながら、最新のCFRPを多用している旅客機B787では、翼材のCFRP部材同士の結合、また、CFRP材とA7075Al合金(超々ジュラルミン)材との結合組立に、古い固着技術であるリベット継手が採用されている。
【0003】
CFRPは、炭素繊維(以下、適宜「CF」と略記する。)束、CFクロス等を大量に含んではいるが、エポキシ樹脂成形品であり、熱硬化性樹脂成形品である。それ故に、金属部品等の他材との結合組立に、ボルト/ナットによる締結方法は使用できない。即ち、ナットの締め過ぎは、樹脂成形品であるCFRP材を破壊する。航空機メーカーであるボーイング社(The Boeing Company、本社:米国合衆国)の旅客機では、種々のCFRP材同士の組立法を検討したが、結局は個々のCFRP材端部に貫通孔を開け、この貫通孔と外形が合致するTi合金製リベットを押し込んで2材を結合して組み付ける方法を採用している。
【0004】
しかしながら、結合する2種のCFRP材に開ける孔径を、“リベット直径+0.1mm程度”に精密孔加工するのは容易ではない。また、航空機1機を作り上げるのに必要なリベット数は膨大であり、その孔開け作業工数の多さは想像を絶する。仮に、CFRP部材の端部に、金属合金片を高強度で、且つ信頼性ある接着力で接着剤接合できたなら、その端部の金属合金材同士をボルト/ナットで結合すれば、翼も胴体構造も容易に組立てられる。また、金属合金付きCFRP部材を作り、金属合金部と他材のCFRP部とを強く接着できれば、金属合金を介在して、全てが接着により一体化した航空機が得られる。
【0005】
ただし、従来技術では、特定の表面処理〔本発明の発明者(以下、本発明者と言う。)によるNAT理論:文献1〜9参照〕を施した金属合金と、エポキシ接着剤の間の接着力を計測する一つとしてのせん断(破壊)接着強さは、極めて高強度に固着できることが判明している。しかし残念ながら、引っ張り接着強さ(最大引張強さ)は、金属種により変化し、その明快な固着理由を説明できなかった。また、特定の1液性エポキシ接着剤を使った場合の得られるべき最大のせん断破断応力、引っ張り破断応力はどの程度なのか、また、その理論つまりその強さの理由は何処からきているのか、という理論面が明快でなかった。それ故、引っ張り接着強さ(最大引張強さ)を最大値に近づけるために、更に何を改良すべきか分からなかった。
【0006】
これを航空機材料関係で言えば、Al合金同士、Ti合金同士、及び、これらとCFRP材のNAT型接着物(NAT理論により接着した接着物)に関して、最高の強度を得る手法の開発と、その理論的説明ができることが必要であるが、これまで十分満足できる手法とその説明ができなかった。航空機産業だけでなく、自動車、移動型ロボット等において、軽量で剛性のあるジュラルミン材、Ti合金材、CFRP材等を組み合わせて軽量の構造体に仕上げる技術は、今後とも続く省エネルギー時代の重要技術である。信頼性ある固着(接着)技術が得られればその中核技術となる。それ故、上記したことは、特に、航空機、自動車等の移動機械にとって重要である。
【0007】
〈現在のNAT理論について〉
ここで、本発明の発明者が提唱する従来のNAT理論について、その概略を説明する。NAT理論は、金属材同士
又は金属材と樹脂材を強く接着剤で接合させる技術に関する理論であり、以下の必要条件を金属材や接着剤や接着操作工程に求めている。即ち、
(1)金属材には0.8〜10μm(Rz)周期の凹凸ある粗面(ミクロンオーダー周期の粗面)があり、
(2)また、上記粗面上に10〜300nm周期の微細凹
凸があり、及び
(3)上記(1)、(2)の2重凹凸面表面を成す表面層は、金属酸化物、金属リン酸化物、及びその他のセラミック質等の1種以上の硬質薄層で成っていること、
(4)接着剤には1液性エポキシ接着剤を使用すること、並びに
(5)接着操作中に「染み込まし処理」という金属材表面の微細凹凸面形状の微細凹部の奥底まで接着剤が入り込むようにする操作工程があること
の5条件である。
【0008】
NAT理論は、本発明者による理論であるが、当初は仮説(推論)であった。しかし、本発明者は、各種金属種毎に上記(1)〜(5)を実施して、確かに接着力がNAT理論以前のデータより常に2倍程度を示したことから、仮説は正しい理論だと認識するようになった。即ち、アルミニウム合金に関しては特許文献1、マグネシウム(Mg)合金に関しては特許文献2、ステンレス鋼に関しては特許文献3、銅に関しては特許文献4、チタン(Ti)合金に関しては特許文献5、6、一般鋼材に関しては特許文献7、アルミ鍍金鋼板に関しては特許文献8、亜鉛鍍金鋼板に関しては特許文献9に記載されている。既に、これら上記の多くが、電子機器、移動機械等の一部で商業化されるか、商業化手前の量産試作段階にある。
【0009】
〈新NAT理論〉
上記NAT理論は、金属片同士の接着力をそのようにほぼ倍化したので、前記したように実用化が始まっている。また、その強い接着力が正しく測定できるように測定法を変えざるを得なかった。本発明者は、JIS測定法(JISK6849(ISO6922?)「接着剤の引張り接着強さ試験方法」)ではなく、45mm×15mm×3mm(3mm=厚さ)の小片同士の端部3〜4mm程を重ねて接着し(接着面積=0.5〜0.6cm
2)、この二つの小片からなる接着対を「せん断破断接着強さ」測定用試料とした。
【0010】
同じく「引っ張り接着強さ(最大引張強さ)」測定用試料については、JIS6850に依らず、最初は18mm×4mm×3mmの小片とした。この小片2個をその先端面(4mm×3mm)同士を接着剤で接合して、これを引っ張り破断して引っ張り接着強さを求めた。しかしながら、接合した2片の全長36mmの小片の両端部を、グリップして引っ張り試験する上で、両端を掴んで把持するチャックの締め具合が、試料に曲げモーメントを与え易く、データのバラつきの多い弱点も露呈した。それ故、本発明者が使用する引っ張り接着強さ測定用の金属片形状も、近年、50mm×10mm×2mmの小板片形状(接着面は10mm×2mmの端面を使用)になり、更に、最近では100mm×25mm×3mmの長板状の小片(接着面は25mm×3mmの側面)にするのが測定値のバラつきが少ないことから好ましいものと判断した。
【0011】
要するに、NAT理論が広まる中でも、その接着力に関し、測定し易い「せん断接着強さ」に比べて、測定が難しい「引っ張り接着強さ」は殆ど測定されず放置されてきた。それがごく近年の事情で変化した。NAT理論は金属片同士の接着だけでなく金属片とCFRP材の接着にも優れ、移動機械産業、特に自動車製造企業、航空機製造企業等が注目し出したのである。これに引きずられるように、日本の経済産業省の指導で各種公的委員会が作られて、金属片、CFRP片等の接着剤接合物の接着力測定法について、新たなISOの標準測定法を提案する作業が始まった。
【0012】
その結果、引っ張り接着強さにも関心が進み、その測定やISOに提案すべき引っ張り接着強さの測定法改善にも、本発明者は検討努力するようになった。そのような検討研究の中で、本発明者は、金属と接着剤間の真の接着強さを表すのは、せん断破断接着強さではなく引っ張り接着強さであること、また、最高の引っ張り強さを示す金属合金材表面の形状は、厳密にいえば、NAT理論による表面形状である必要はないこと、等が判明した。それだけ、接着剤接合技術の本質に近づいたと考え、これらを纏めて新理論(新NAT理論)にして整理しようと考えた。要するに、後述する新NAT理論が前記した各機械製造業界に、接着剤接合技術の信頼性を伝えることになると思われた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】WO2008/114669
【特許文献2】WO2008/133096
【特許文献3】WO2008/133296
【特許文献4】WO2008/126812
【特許文献5】WO2008/133030
【特許文献6】特開2010−064397
【特許文献7】WO2008/146833
【特許文献8】WO2009/084648
【特許文献9】WO2009/116484
【特許文献10】特開2011−6544
【特許文献11】特開2011−26457
【特許文献12】特開2011−148937
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】「接着耐久性の向上と評価」情報機構社、第1刷、2012、p.372−374
【非特許文献2】「技術ブックス 高性能を生む接着剤えらび」前田勝啓、技術評論社第7刷、平成4年出版、p.51
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明者は、多数の試行錯誤的な化学処理実験と、多数の電子顕微鏡観察、多数の引っ張り接着強さ測定試験等を行い、例えば1液性エポキシ接着剤「スコッチ・ウエルド『EW2040』」(スリーエムジャパン株式会社(本社:日本国東京都)製)を使用した場合、NAT理論による表面処理済みの金属片同士の接着対(試験片)のせん断破断接着強さは、金属種によらず70〜80MPaであること、そして引っ張り接着強さは金属種によって異なり、40〜80MPaになることを先ず確認した。しかしその後に、NAT理論に基づく、金属の表面処理条件の3つの必要条件は拘泥する必要がないということが判明した。NAT理論を改良した新NAT理論により、金属処理法を変化させて行くと、Ti合金について引っ張り接着強さ90〜100MPaが観察され、次に、Al合金でも引っ張り接着強さ80MPaだったものを100MPaに高める処理法が発見された。
【0016】
要するに、接着力を真に表すとみられる「引っ張り接着強さ」は、NAT理論では観察されなかったが、1液性エポキシ接着剤を用いて、最大で約100MPaレベルに至った。本発明を具体的に言えば、一般的な1液性エポキシ接着剤の使用で、金属片同士の接着対に於ける引っ張り接着強さを80〜100MPaレベルにするための方法であり、本発明はこの内容を開示するものである。また、本発明者は、この非常に高い引っ張り接着強さを得る具体的方法を明らかにした、理論的な内容を新NAT理論と称し、これが過去のNAT理論とやや異なることを本発明で示す。この新NAT理論が信頼されることで、接着剤接合技術がより広く各機械製造業に利用されることになると思量される。
【0017】
〈新NAT理論の中身、内容〉
NAT理論では、表面状態について、前述した5条件が必要条件である旨を説明した。しかしながら、新NAT理論では、前述した「(1)金属材には0.8〜10μm(Rz)周期の凹凸ある粗面(ミクロンオーダー周期の粗面)があり」及び「(2)また、上記粗面上に10〜300nm周期の微細凹凸面があり」は、必ずしも必要条件ではないということが判明した。即ち、0.8〜10μm(Rz)周期の凹凸と、この凹凸の粗面上に10〜300nm周期の微細凹凸面の2重凹凸面形状があることが必要条件であるとしたNAT処理モデルに加え、その他の種々の化成処理で得られた種々の金属片表面の電子顕微鏡写真を参考にして、化学処理済み金属片の表面付近の断面形状の模式図を以下に説明するように描いてみたものである。
【0018】
そして、この形状分析の結果と実際の測定値を突合せて検討すると、概念として間違いではないが、必ずしも上記の2重凹凸面の定義値に拘泥する必要がないことが判明した。即ち、種々の接合面断面形状の模式図のそれぞれが、
図1(a)〜
図1(g)に示すものである。
図1(a)は、NAT理論が求める2重凹凸面の基本条件を示す概念を示す模式図である。
図1(b)〜
図1(g)に示す断面形状は、この基本条件に合致するものも合致しないものもある。即ち、これら形状図と実際の測定値の比較から言えることは、金属表面に形成された種々の微細凹凸形状の姿によって接着接合物のせん断接着強さは変わらないが、引っ張り接着強さは変化したことであり、種々の微細凹凸形状の姿そのものが重要々素であることだった。
【0019】
先ず、Al合金にて観察されるであろう「引っ張り接着強さ」が最大限に近いものと予想されるものであるが、それはミクロンオーダーの粗面を有することではなく、20〜100nm径の凹部があり、その凹部形状が椀状であり且つ整然とこの超微細凹部が集合しているものである。その断面を断面模式図として
図1(g)を描いた。即ち、椀型と言う“U字谷型”の超微細凹部は、樹脂(接着剤硬化物)を確実にグリップするはずだからである。要するに、NAT理論には、「染み込まし(奥まで深く入り込む)処理」という操作を実施することが、接着作業上の必要条件になっている。この操作が丁寧に確実に実施されれば、1液性エポキシ接着剤を使用した場合には、20nm径の凹部にも接着剤が侵入し得て、その後に硬化して強い接合力を発揮できると考えた。
【0020】
このことが、この模式図、即ち、
図1(b)の断面図で示す「超微細椀型凹部」が最も優れた形の一つである、と予想したことの根拠である。その理解からすれば、残念ながらNAT処理済みのA5052、A7075Al合金と、1液性エポキシ接着剤を使用したNAT接着対(試験片)では、引っ張り接着強さが80MPaにしか達していない。その他の試料片で、引っ張り接着強さが90MPaに達したものもあったので、Al合金の表面処理法として、本発明者等による過去のNAT処理法は最善でないことが明らかとなった。そこで、本発明者らは、NAT処理法による表面処理法に更に試行錯誤を加えて、
図1(b)模式図で示す「超微細椀型凹部形状」に近づける努力をし、結果的に引っ張り接着強さ100MPaを示す表面処理法を発見、発明することができた。
【0021】
ただし、その様な理想的な形状は、他金属では得られない。
図1(c)は、NAT理論による処理済みのSUS304等のオーステナイト系ステンレス鋼がモデルの断面模式図であり、ミクロンオーダーの粗面が、「V字谷型形状」をなしているのが特徴である。この場合、せん断接着強さは十分に強く上記のAl合金並みなのだが引っ張り接着強さはやや低い。その理由は、接着剤硬化物が金属面凹部の奥底まで侵入して固化したとしても、応力集中がV字谷の上部に発生する。この上部の面積は、接合面の十数%にしか過ぎないためである。また、
図1(d)の「階段型形状」は、SPCC(冷間圧延鋼板)に代表される一般鋼材がモデルを示す模式図である。このNAT理論による処理物は、“階段”が傾いたような形状の微細凹凸面を形成している(その微細凹凸形状はパーライト構造から来ている)。
【0022】
この場合、引っ張り接着強さは、この階段線の角度次第で変わる。結果として、バラつきが出やすく、平均するとステンレス鋼よりは高いレベルとなるとみられるが、階段状の凹凸が単純形状であること自体が弱点である。そして、
図1(e)に示す断面形状は、ごく少量の酸素を含む純チタン1種のNAT理論による処理物(
図8はその電子顕微鏡写真)がモデルである。
図1(e)に示すミクロンオーダーの粗面周期は、約5μm〜20μmとやや大きな周期であり、この微細凹凸面の凹凸周期が、約100nm〜500nmに達することがある。この微細凹凸面の凹凸周期である100nm〜500nmは、前述したNAT理論の条件より周期が大きい。平原から突き出たような凸部は、急峻な山状であり、高さはNAT理論で予期した形状より高く、これが接着力にどう作用するか疑問符が付いたが、結果的にはやはり「せん断接着強さ」も「引っ張り接着強さ」も低いものであった。
【0023】
一方、
図1(f)と
図1(h)の断面形状は、純チタン1種のNAT理論による処理物である
図1(e)の断面形状のモデルから導いたものである。即ち、化成処理等で、
図1(f)と
図1(h)の断面形状物に向かって加工処理が可能ではないかと予想し導いたものである。要するに、20〜100nm周期の超微細凹凸面を、
図1(e)の断面形状の上に付け加えたものである。このように立体的で、且つ2重凹凸形状の硬い表面形状物が出来たとしたら、引っ張り接着強さは最高の強度になると思われた。その後、このモデル形状にすべく、試行錯誤して行った新たな表面処理法で作成した純チタン2種の電子顕微鏡写真は、
図9−1(1千倍)、
図9−2(1万倍)、
図9−3(10万倍)のとおりである。この外観形状は、予想し導いた
図1(f)そのものである。この1液エポキシ加熱硬化型接着剤「EW2040」(スリーエムジャパン株式会社(本社:日本国東京都)製)によるNAT接着対(試験片)は、引っ張り接着強さ80MPa台を示した。
【0024】
また、類似の処理法を加えたα−β型チタン合金の電子顕微鏡写真、
図10−1(1千倍)、
図10−2(1万倍)、
図10−3(10万倍)をそれぞれ示す。この外観形状は、ほぼ
図1(h)そのものとなった。この場合の「EW2040」のNAT接着対(試験片)は、引っ張り接着強さ90〜100MPaを示した。一方、
図1(g)に示す断面形状は、
図1(f)の「棒状凸密集型」を参考に、机上で新たな理想形状の一つを示したものである。即ち、
図1(f)が「棒状凸密集型」であるから、その逆を考えて、凹部の部分が多いものもあると考えて、
図1(g)の「U字谷錯綜型」の断面形状を予期した。しかしながら、このような表面処理物の断面形状は現在のところ発見していない。
【0025】
図1(i)に示した断面形状の模式図は、前述した
図1(a)に示したNAT処理品の標準形状(実際には寸法しか規定されていない)を、整った模式図の姿(断面形状等)に書き換えたものである。即ち、
図1(i)に示す模式図は、一旦出来上がった1.0〜5μm(Rz)周期のへこんだ(凹形)で深皿の様に整った面上に、20〜100nm周期の超微細凹凸面を形成した形である。この形状は、Ti系金属で可能なことが判明したことから描いたものである。即ち、
図11−1(1千倍)、
図11−2(1万倍)、
図11−3(10万倍)がこれにあたる。ただ、この外観形状であれば、Ti合金以外の金属合金類からも得られる可能性が高いと思われた。
【0026】
図12−1(1万倍)、
図12−2(10万倍)は、本発明の新処理法で処理したときの、C1100銅の電子顕微鏡写真である。
図1(j)の「銅特殊型」は、この新NAT処理法で処理した不思議な表面形状を図面化したものである。
図1(j)に示した通り、その表面形状は、平面上に10〜200nm角の立方体や直方体、そして約200nm径の円盤状物が点々と立っている姿であった。
図12−1、
図12−2の「EW2040」を使った
新NAT接着対(試験片)は、せん断接着強さ、引っ張り接着強さ共に80MPaレベルであった。ただ、処理法が更に改良されて、小さな立体物が更に高い密度で存在するようになれば、引っ張り接着強さは90〜100MPaに達すると予期できる。
【0027】
図13−1(1千倍)、
図13−2(1万倍)、
図13−3(10万倍)は、C1100銅の新型NAT処理法を探索していたときに発見した不思議な表面形状であり、酸化銅ウイスカが無数に銅形状物から生えている電子顕微鏡写真である。
図1(k)に示す断面形状は、この酸化銅ウイスカを図面化したものである。ウイスカは長く途中で交差し縺れ合っている。この
図13−1〜
図13−3に示された形状であると、接着剤の「染み込まし処理」をしっかり行った場合でも、接着剤が完全に全ウイスカの根本にまで侵入出来るのか疑問である。
【0028】
要するに、このウイスカが長すぎるためと推定される。実際、この電子顕微鏡写真のC1100銅による、上記「EW2040」を使用したNAT接着対のせん断接着強さは、80MPaであるが、引っ張り接着強さは80MPaに達しない。ただ、処理法を改良し、多毛型ウイスカの形は変わらずにウイスカ長さが短くなり、
図1(k)に示す「ウイスカ多毛型」の形状になれば、引っ張り接着強さが90〜100MPaに達するものと推察できる。ただ残念ながら本発明者は、予期する短毛型ウイスカによる坊主頭の様な銅片を未だ作ることに成功していない。
【0029】
図1(l)に示す「球型とウイスカ型」は、NAT処理したAZ31Bマグネシウム合金の表面がモデルである。「球型とウイスカ型」は、約1〜10μm周期の球面状凹凸がある上に、更に50〜100nm径とみられる短いウイスカ、即ち、頭に短い毛が生えている形状である。これも最高の形状であることは前例から見て明らかである。
【0030】
(新NAT理論は未だ仮説)
そのように断面の模式図にしてみれば、「引っ張り接着強さ」が十分強いことが予期できるのは
図1(b)、
図1(f)〜
図1(l)であり、これが新NAT理論の要点である。そしてもう一つは、このような微細表面形状をし、且つ、その表面層が金属酸化物又は金属リン酸化物等のセラミック質である場合、その接着対(試験片)に於ける引っ張り接着強さはせん断接着強さと同等かやや強いことである。そして、新NAT理論通りに接着操作等が最善の形で実施できた場合、その引っ張り接着強さとせん断接着強さは、使用した接着剤の硬化物の引っ張り強度とせん断強度にほぼ一致するという考えである。要するに、新NAT理論に沿って最善の接着が為された場合、接着物の外力に依る破断応力(接着力)は、接着剤硬化物自身の強度(引っ張り強度、せん断強度)に等しいとしており、ごく単純な材料力学上の理論に近くなる。
【0031】
但し、上記の新NAT理論では2点が実証されていない。即ち、
図1(g)と
図1(k)に示した形状の模式図は未だ実証されていない。また、引っ張り接着強さとして最高値と見られる強さ、例えば接着剤に、 一液エポキシ加熱硬化型接着剤である「スコッチ・ウェルドEW2040」(スリーエムジャパン株式会社(本社:日本国東京都)製)を使用した場合、100MPaの引っ張り接着強さが観察された。本発明者は、この「スコッチ・ウェルドEW2040」(スリーエムジャパン株式会社(本社:日本国東京都)製)のみを、型に流し込む注型法により、引っ張り強度測定用のダンベル形状に成形して、これを硬化させた。この硬化物を引っ張り強度試験にかけて、これが100MPa付近であることを実証せんとしたが失敗した。しかしながら、内部に生じる小ボイドの発生をゼロに出来ず、最高値で60MPaにしか達することが出来なかった。従って、最高の引張り接着強さが接着剤硬化物自体の引張り強度であることを実証できていない。
【0032】
これはオートクレーブを使用しなかったことによるものと解される(減圧と加圧処理が可能なオートクレーブ使用法ではボイド発生を抑制し易い)が、接着剤自体を形状化した完全ボイドレスの硬化物を作るのは元々難しい。又、熱硬化性樹脂用の射出成形機を用いて、テフロン(フッ素樹脂、登録商標)コートした金型に、射出すれば可能だとも思われるがその実験を行うとおそらく成形機を破損することになるだろう。要するに、この点で実証不足である。しかし、エポキシ樹脂硬化物の引っ張り強度は、過去に得られている高分子化学メーカーのデータ等から判断して最大で、約100MPaレベルであるというデータ等から判断して、本発明者の上記判断は間違いではないと推察される。本発明者は、この新NAT仮説の大部分を実証したのであり、金属が絡む高強度接着物の完全接着物を得る方法を示すものである。それ故に本発明は、今後の一般機械、医療機械、移動機械の製造分野に良い新製造法を与えるものと解される。
【課題を解決するための手段】
【0033】
以上のような課題を解決するために本発明は、以下の手段を採る。
本発明1の含金属複合体の製造方法は、
ジシアンジアミド硬化剤型の1液性エポキシ接着剤(A)に、ケトン系溶剤を加えて混合し低粘度懸濁液とした含溶剤型接着剤(B)として用意する工程と、
各種表面処理によって、20〜100nm径の概ね椀型の超微細凹部で全面が覆われた形の超微細凹凸面となっており、前記超微細凹凸面の表面層は金属酸化物又は金属リン酸化物のセラミック質薄層になっている
アルミニウム、アルミ合金及びアルミ鍍金鋼板の第1金属形状物(M1)
から選択される1種を被着材として用意する工程と、
前記
第1金属形状物(M1)の接着面に、前記含溶剤型接着剤(B)を塗布し、前記ケトン系溶剤を乾燥機又は風乾で揮発させる工程と、
揮発させた前記1液性エポキシ接着剤(A)が塗布された前記
第1金属形状物(M1)を、接着剤塗布面である前記接着面同士で突合せて固定して、120〜180℃で加熱し、前記1液性エポキシ接着剤を硬化させて接着を完成させる工程と
からなる金属片同士を接着した含金属複合体の製造方法であって、
前記接着面の引っ張り接着強さがせん断接着強さと同等かそれ以上であることを特徴とする。
【0034】
本発明2の含金属複合体の製造方法は、
ジシアンジアミド硬化剤型の1液性エポキシ接着剤(A)に、ケトン系溶剤を加えて混合し低粘度懸濁液とした含溶剤型接着剤(B)として用意する工程と、
各種表面処理によって、短長径0.05〜1μmで高さ0.3μm以上の厚壁状、又は
前記厚壁状が崩れて不定立体形状となった凸部が0.1〜2μm間隔で林立した形の粗面があり、且つ、
前記粗面の全表面が20〜100nm周期の超微細凹凸面で覆われており、
前記超微細凹凸面の表面層は金属酸化物又は金属リン酸化物[等]のセラミック質薄層になっている
純チタン第1〜4種、及びチタン合金の第2金属形状物(M2)
から選択される1種を被着材として用意する工程と、
前記
第2金属形状物(M2)の接着面に、前記含溶剤型接着剤(B)を塗布し、前記ケトン系溶剤を乾燥機又は風乾で揮発させる工程と、
揮発させた前記1液性エポキシ接着剤(A)が塗布された前記
第2金属形状物(M2)を、接着剤塗布面である前記接着面同士で突合せて固定して、120〜180℃で加熱し、前記1液性エポキシ接着剤を硬化させて接着を完成させる工程と
からなる金属片同士を接着した含金属複合体の製造方法であって、
前記接着面の引っ張り接着強さがせん断接着強さと同等かそれ以上であることを特徴とする。
【0035】
本発明3の含金属複合体の製造方法は、
ジシアンジアミド硬化剤型の1液性エポキシ接着剤(A)に、ケトン系溶剤を加えて混合し低粘度懸濁液とした含溶剤型接着剤(B)として用意する工程と、
各種表面処理によって、1〜5μm周期で深皿状凹部面を有する粗面となっており、且つ、
前記粗面の全表面が20〜100nm周期の超微細凹凸面で覆われており、
前記超微細凹凸面の表面層は金属酸化物又は金属リン酸化物のセラミック質薄層になっている
純チタン第1〜4種、及びチタン合金の第3金属形状物(M3)を被着材として用意する工程と、
前記
第3金属形状物(M3)の接着面に、前記含溶剤型接着剤(B)を塗布し、前記ケトン系溶剤を乾燥機又は風乾で揮発させる工程と、
揮発させた前記1液性エポキシ接着剤(A)が塗布された前記
第3金属形状物(M3)を、接着剤塗布面である接着面同士で突合せて固定して、120〜180℃で加熱し、前記1液性エポキシ接着剤を硬化させて接着を完成させる工程と
からなる金属片同士を接着した含金属複合体の製造方法であって、
前記接着面の引っ張り接着強さがせん断接着強さと同等かそれ以上であることを特徴とする。
【0036】
本発明4の含金属複合体の製造方法は、
ジシアンジアミド硬化剤型の1液性エポキシ接着剤(A)を入手し、これに少量の溶剤MIBKを加えてよく混ぜあわせ低粘度懸濁液とした含溶剤型接着剤(B)を用意する工程と、
各種表面処理によって、10〜200nm角の正方体立方体片、又は、前記正方体立方体片と100〜250nm径の円盤状片が、200nm四方に5〜50個の数密度で平原から立っている超微細凹凸面で全面が覆われており、
前記超微細凹凸面の表面層は金属酸化物又は金属リン酸化物[等]のセラミック質薄層になっている
銅又は銅合金の第4金属形状物(M4)を被着材として用意する工程と、
前記
第4金属形状物(M4)の必要個所に前記の含溶剤型接着剤(B)を塗布し、送風乾燥機又は風乾にて溶剤分を十分揮発させる工程と、
前記揮発
させた複数の接着剤付きの
前記第4金属形状物を接着剤塗布面同士で突合せ治具で固定して熱風乾燥機に入れ120〜180℃で加熱し、1液性エポキシ接着剤を硬化して接着を完成させる工程と
を少なくとも含むことを特徴とする同金属片同士を接着した含金属複合体の製造方法であって、
前記接着面の引っ張り接着強さがせん断接着強さと同等かそれ以上であることを特徴とする。
【0037】
本発明5の含金属複合体の製造方法は、
ジシアンジアミド硬化剤型の1液性エポキシ接着剤(A)に、ケトン系溶剤を加えて混合し低粘度懸濁液とした含溶剤型接着剤(B)を用意する工程と、
各種表面処理によって、直径100nm程度の球状体が積み重なり接合して得られた表面形状で、且つ、
前記球状体の表面に10nm以下の短いウイスカが多数生えている超微細凹凸形状も併せ持ち、
前記超微細凹凸形状の表面層は金属酸化物又は金属リン酸化物のセラミック質薄層になっている
マグネシウム合金の第5金属形状物(M5)を被着材として用意する工程と、
前記
第5金属形状物(M5)の接着面に前記含溶剤型接着剤(B)を塗布し、乾燥機又は風乾にて溶剤分を揮発させる工程と、
前記揮発させた前記1液性エポキシ接着剤(A)が塗布された前記
第5金属形状物(M5)を、接着剤塗布面である接着面同士で突合せて固定して、120〜180℃で加熱し、前記1液性エポキシ接着剤を硬化させて接着を完成させる工程と
からなる金属片同士を接着した含金属複合体の製造方法であって、
前記接着面の引っ張り接着強さがせん断接着強さと同等かそれ以上であることを特徴とする含金属複合体の製造方法。
【0038】
本発明6の含金属複合体の製造方法は、
ジシアンジアミド硬化剤型の1液性エポキシ接着剤(A)に、ケトン系溶剤を加えて混合し低粘度懸濁液とした含溶剤型接着剤(B)を用意する工程と、
20〜50nm径の概ね椀型の超微細凹部で全面が覆われた形の超微細凹凸面となっており、前記超微細凹凸面の表面層は金属酸化物又は金属リン酸化物のセラミック質薄層になっている
アルミニウム、アルミ合金及びアルミ鍍金鋼板の第1金属形状物(M1)
から選択される1種の第1金属形状物(M1)、
短長径0.05〜1μmで高さ0.3μm以上の厚壁状、又は
前記厚壁状が崩れて不定立体形状となった凸部が0.1〜2μm間隔で林立した形の粗面があり、且つ、
前記粗面の全表面が20〜100nm周期の超微細凹凸面で覆われており、
前記超微細凹凸面の表面層は金属酸化物又は金属リン酸化物[等]のセラミック質薄層になっている
純チタン第1〜4種、及びチタン合金の第2金属形状物(M2)
から選択される1種の第2金属形状物(M2)
、
1〜5μm周期で深皿状凹部面を有する粗面となっており、且つ、
前記粗面の全表面が20〜100nm周期の超微細凹凸面で覆われており、
前記超微細凹凸面の表面層は金属酸化物又は金属リン酸化物のセラミック質薄層になっている
純チタン第1〜4種、及びチタン合金の第3金属形状物(M3)、
10〜200nm角の正方体立方体片、又は、前記正方体立方体片と100〜250nm径の円盤状片が、200nm四方に5〜50個の数密度で平原から立っている超微細凹凸面で全面が覆われており、
前記超微細凹凸面の表面層は金属酸化物又は金属リン酸化物のセラミック質薄層になっている
銅又は銅合金の第4金属形状物(M4)、及び
直径100nm程度の球状体が積み重なり接合して得られた表面形状で、且つ、
前記球状体の表面に10nm以下の短いウイスカが多数生えている超微細凹凸形状も併せ持ち、
前記超微細凹凸形状の表面層は金属酸化物又は金属リン酸化物のセラミック質薄層になっている
マグネシウム合金の第5金属形状物(M5)
から選択される2種の
前記第1ないし前記第5金属形状物(M1〜M5)を被着材として用意する工程と、
前記2種の
前記第1ないし5金属形状物(M1〜M5)の接着面に、前記含溶剤型接着剤(B)を塗布し、前記ケトン系溶剤を乾燥機又は風乾で揮発させる工程と、
前記揮発させた前記1液性エポキシ接着剤(A)が塗布された
前記第1ないし5金属形状物(M1〜M5)
から選択される前記2種を、接着剤塗布面である前記接着面同士で突合せて固定して、120〜180℃で加熱し、前記1液性エポキシ接着剤を硬化させて接着を完成させる工程と
からなる金属片同士を接着した含金属複合体の製造方法であって、
前記接着面の引っ張り接着強さがせん断接着強さと同等かそれ以上であることを特徴とする。
【0039】
本発明7の含金属複合体の製造方法は、
ジシアンジアミド硬化剤型の1液性エポキシ接着剤(A)に、ケトン系溶剤を加えて混合し低粘度懸濁液とした含溶剤型接着剤(B)を用意する工程と、
20〜50nm径の概ね椀型の超微細凹部で全面が覆われた形の超微細凹凸面となっており、前記超微細凹凸面の表面層は金属酸化物又は金属リン酸化物のセラミック質薄層になっている
アルミニウム、アルミ合金及びアルミ鍍金鋼板の第1金属形状物(M1)、
短長径0.05〜1μmで高さ0.3μm以上の厚壁状、又は
前記厚壁状が崩れて不定立体形状となった凸部が0.1〜2μm間隔で林立した形の粗面があり、且つ、
前記粗面の全表面が20〜100nm周期の超微細凹凸面で覆われており、
前記超微細凹凸面の表面層は金属酸化物又は金属リン酸化物[等]のセラミック質薄層になっている
純チタン第1〜4種、及びチタン合金の第2金属形状物(M2)
、
1〜5μm周期で深皿状凹部面を有する粗面となっており、且つ、
前記粗面の全表面が20〜100nm周期の超微細凹凸面で覆われており、
前記超微細凹凸面の表面層は金属酸化物又は金属リン酸化物のセラミック質薄層になっている
純チタン第1〜4種、及びチタン合金の第3金属形状物(M3)、
10〜200nm角の正方体立方体片、又は、前記正方体立方体片と100〜250nm径の円盤状片が、200nm四方に5〜50個の数密度で平原から立っている超微細凹凸面で全面が覆われており、
前記超微細凹凸面の表面層は金属酸化物又は金属リン酸化物のセラミック質薄層になっている
銅又は銅合金の第4金属形状物(M4)、及び
直径100nm程度の球状体が積み重なり接合して得られた表面形状で、且つ、
前記球状体の表面に10nm以下の短いウイスカが多数生えている超微細凹凸形状も併せ持ち、
前記超微細凹凸形状の表面層は金属酸化物又は金属リン酸化物のセラミック質薄層になっている
マグネシウム合金の第5金属形状物(M5)
から選択される1種の金属形状物(M1〜M5)を被着材として用意する工程と、
前記1種の金属形状物(M1〜M5)の接着面に、前記含溶剤型接着剤(B)を塗布し、前記ケトン系溶剤を乾燥機又は風乾で揮発させる工程と、
エポキシ樹脂を主成分とする熱硬化性エポキシ樹脂組成物を硬化して得た樹脂形状物(P1)を、物理的手法にて研磨することで数十μmオーダーの粗面を特定箇所に接着面として作成し、水洗、乾燥して汚れを落とし、これを被着材の一方として用意する工程と、
前記樹脂形状物(P1)の接着面に前記含溶剤型接着剤(B)を塗布し、乾燥機又は風乾にて前記ケトン系溶剤を揮発させる工程と、
前記揮発させた前記1液性エポキシ接着剤(A)が塗布された前記1種の金属形状物と、前記1液性エポキシ接着剤を塗布した前記樹脂形状物(P1)とを接着剤塗布面同士で突合せ固定して乾燥機に入れ150〜180℃で加熱し、1液性エポキシ接着剤を硬化して接着を完成させる工程と
からなる金属片と樹脂形状物(P1)とを接着した含金属複合体の製造方法であって、
前記接着面の引っ張り接着強さがせん断接着強さと同等かそれ以上であることを特徴とする。
【0040】
本発明8の含金属複合体の製造方法は、
ジシアンジアミド硬化剤型の1液性エポキシ接着剤(A)に、ケトン系溶剤を加えて混合し低粘度懸濁液とした含溶剤型接着剤(B)を用意する工程と、
20〜50nm径の概ね椀型の超微細凹部で全面が覆われた形の超微細凹凸面となっており、前記超微細凹凸面の表面層は金属酸化物又は金属リン酸化物のセラミック質薄層になっている
アルミニウム、アルミ合金及びアルミ鍍金鋼板の第1金属形状物(M1)、
短長径0.05〜1μmで高さ0.3μm以上の厚壁状、又はこれら壁状物が崩れて不定立体形状となった凸部が0.1〜2μm間隔で林立した形の粗面があり、且つ、
前記粗面の全表面が20〜100nm周期の超微細凹凸面で覆われており、
前記超微細凹凸面の表面層は金属酸化物又は金属リン酸化物のセラミック質薄層になっている
純チタン第1〜4種、及びチタン合金の第2金属形状物(M2)
、
1〜5μm周期で深皿状凹部面を有する粗面となっており、且つ、
前記粗面の全表面が20〜100nm周期の超微細凹凸面で覆われており、
前記超微細凹凸面の表面層は金属酸化物又は金属リン酸化物のセラミック質薄層になっている
純チタン第1〜4種、及びチタン合金の第3金属形状物(M3)、
10〜200nm角の正方体立方体片、又は、前記正方体立方体片と100〜250nm径の円盤状片が、200nm四方に5〜50個の数密度で平原から立っている超微細凹凸面で全面が覆われており、
前記超微細凹凸面の表面層は金属酸化物又は金属リン酸化物のセラミック質薄層になっている
銅又は銅合金の第4金属形状物(M4)、及び
直径100nm程度の球状体が積み重なり接合して得られた表面形状で、且つ、
前記球状体の表面に10nm以下の短いウイスカが多数生えている超微細凹凸形状も併せ持ち、
前記超微細凹凸形状の表面層は金属酸化物又は金属リン酸化物のセラミック質薄層になっている
マグネシウム合金の第5金属形状物(M5)
から選択される1種の金属形状物(M1〜M5)を被着材として用意する工程と、
前記1種の金属形状物(M1〜M5)の接着面に、前記含溶剤型接着剤(B)を塗布し、前記ケトン系溶剤を乾燥機又は風乾で揮発させる工程と、
強化繊維を含む熱硬化性エポキシ樹脂組成物製プリプレグからなる樹脂形状物(P2)を用意する工程と、
前記1種の金属形状物(M1〜M5)と樹脂形状物との形状に合わせた治具内に樹脂形状物(P2)を詰め込み、更に接着剤付きの
前記1種の金属形状物(M1〜M5)も組み込んだ形で治具
で締め込み、これをオートクレーブの加熱容器に入れて所定の操作を行って全エポキシ樹脂分を硬化し、結果的に硬化した強化繊維を含む樹脂形状物と
前記1種の金属形状物の接着を完成させる工程と
からなる金属片と強化繊維を含む樹脂形状物とを接着した含金属複合体の製造方法であって、
前記接着面の引っ張り接着強さがせん断接着強とをと同等かそれ以上であることを特徴とする。
【0041】
本発明9の含金属複合体の製造方法は、本発明1ないし8において、前記ケトン系溶剤は、メチルイソブチルケトン(MIBK)であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0043】
本発明は、新NAT理論により、1液性エポキシ接着剤による金属の接着において、高いせん断接着強さ、引っ張り接着強さを得るための理想的な金属の断面形状を明快にし、かつその形成方法を明らかにした。そして同時にその最高の引っ張り接着強さは、1液性エポキシ接着剤硬化物自体の引っ張り強度と同じであることをほぼ明らかにした。それ故、本発明を利用すれば、完全接着や全方位接着が可能になり、もしそこまで至らぬ接着力しか示されなければ、その接着力を最高度にする為の研究開発の方向を示した。要するに、本発明により、接着剤接合でどこまでの接着強度を発揮できるのか、実用化に適合しているのか否か、等につき信頼を与えることが出来る。その結果、今後の一般機械、医療機械、移動機械の製造分野に新製造法を与えることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【
図1(a)】
図1(a)は、本発明の原理を説明するもので、金属と接着剤硬化物の接着面部の断面模式図であり、「NAT処理品」を示すものである。
【
図1(b)】
図1(b)は、本発明の原理を説明するもので、金属と接着剤硬化物の接着面部の断面模式図で、「超微細椀型凹部形状」示すものである。
【
図1(c)】
図1(c)は、本発明の原理を説明するもので、金属と接着剤硬化物の接着面部の断面模式図で、「V字谷型形状」示すものである。
【
図1(d)】
図1(d)は、本発明の原理を説明するもので、金属と接着剤硬化物の接着面部の断面模式図で、「階段型形状」示すものである。
【
図1(e)】
図1(e)は、本発明の原理を説明するもので、金属と接着剤硬化物の接着面部の断面模式図で、「特殊型(山と平原型)」示すものである。
【
図1(f)】
図1(f)は、本発明の原理を説明するもので、金属と接着剤硬化物の接着面部の断面模式図で、理想型Iである「棒状凸密集型」示すものである。
【
図1(g)】
図1(g)は、本発明の原理を説明するもので、金属と接着剤硬化物の接着面部の断面模式図で、理想型IIである「U字谷錯綜型」示すものである。
【
図1(h)】
図1(h)は、本発明の原理を説明するもので、金属と接着剤硬化物の接着面部の断面模式図で、理想型IIIである「ランダム型」示すものである。
【
図1(i)】
図1(i)は、本発明の原理を説明するもので、金属と接着剤硬化物の接着面部の断面模式図で、理想型IV「標準型」を示すものである。
【
図1(j)】
図1(j)は、本発明の原理を説明するもので、金属と接着剤硬化物の接着面部の断面模式図で、「銅特殊型」示すものである。
【
図1(k)】
図1(k)は、本発明の原理を説明するもので、金属と接着剤硬化物の接着面部の断面模式図で、「ウイスカ多毛型」示すものである。
【
図1(l)】
図1(l)は、本発明の原理を説明するもので、金属と接着剤硬化物の接着面部の断面模式図で、「球型とウイスカ型」示すものである。
【0045】
【
図2】
図2は、金属片同士、又は、金属片とCFRP片の接着剤接合対の形状を示したもので、これを引っ張り破断してその力量からせん断接着破断強さを測定するための試験片である。
【
図3】
図3は、金属片同士、または、金属片とCFRP片の接着剤接合対の形状を示したもので、これを引っ張り破断してその力量から引っ張り接着強さを測定するための試験片である。
【
図4】
図4は、NAT処理をしたA7075Al合金の電子顕微鏡写真(1万倍、10万倍)である。
【0046】
【
図5】
図5は、新NAT処理をしたA7075Al合金の電子顕微鏡写真(10万倍)である。
【
図6】
図6は、NAT処理をしたSUS304ステンレス鋼の電子顕微鏡写真(1万倍、10万倍)である。
【
図7】
図7は、NAT処理をしたSPCCの電子顕微鏡写真(1万倍、10万倍)である。
【
図8】
図8は、NAT処理をした純チタン1種「KS−40」(株式会社神戸製鋼所(本社:日本国兵庫県)製)の電子顕微鏡写真(1万倍、10万倍)である。
【0047】
【
図9-1】
図9−1は、新NAT処理をした純チタン2種「TP340H」(新日鐵住金株式会社(本社:日本国東京都)製)の電子顕微鏡写真(1千倍)である。
【
図9-2】
図9−2は、新NAT処理をした純チタン2種「TP340H」(新日鐵住金株式会社(本社:日本国東京都)製)の電子顕微鏡写真(1万倍)である。
【
図9-3】
図9−3は、新NAT処理をした純チタン2種「TP340H」(新日鐵住金株式会社(本社:日本国東京都)製)の電子顕微鏡写真(10万倍)である。
【0048】
【
図10-1】
図10−1は、新NAT処理をしたα−β型Ti合金「KSTI−9」(株式会社神戸製鋼所(本社:日本国兵庫県製)製)の電子顕微鏡写真(1千倍)である。
【
図10-2】
図10−2は、新NAT処理をしたα−β型Ti合金「KSTI−9」(株式会社神戸製鋼所(本社:日本国兵庫県製)製)の電子顕微鏡写真(1万倍)である。
【
図10-3】
図10−3は、新NAT処理をしたα−β型Ti合金「KSTI−9」(株式会社神戸製鋼所(本社:日本国兵庫県製)製)の電子顕微鏡写真(10万倍)である。
【0049】
【
図11-1】
図11−1は、新NAT処理をしたα−β型Ti合金「KS6−4」(株式会社神戸製鋼所(本社:日本国兵庫県製)製)の電子顕微鏡写真(1千倍)である。
【
図11-2】
図11−2は、新NAT処理をしたα−β型Ti合金「KS6−4」(株式会社神戸製鋼所(本社:日本国兵庫県製)製)の電子顕微鏡写真(1万倍)である。
【
図11-3】
図11−3は、新NAT処理をしたα−β型Ti合金「KS6−4」(株式会社神戸製鋼所(本社:日本国兵庫県製)製)の電子顕微鏡写真(10万倍)である。
【0050】
【
図12-1】
図12−1は、新NAT処理をした「C1100」(タフピッチ銅)の電子顕微鏡写真(1万倍)である。
【
図12-2】
図12−2は、新NAT処理をした「C1100」(タフピッチ銅)の電子顕微鏡写真(10万倍)である。
【
図13-1】
図13−1は、実験8に示した表面処理をした「C1100」(タフピッチ銅)の電子顕微鏡写真(1千倍)である。
【
図13-2】
図13−2は、実験8に記載した表面処理をした「C1100」(タフピッチ銅)の電子顕微鏡写真(1万倍)である。
【
図13-3】
図13−3は、実験8に記載した表面処理をした「C1100」(タフピッチ銅)の電子顕微鏡写真(10万倍)である。
【0051】
【
図14】
図14は、NAT処理をしたAZ31Bマグネシウム合金の電子顕微鏡写真(10万倍)である。
【
図15】
図15は、試験片に使用したCFRP片の外観を示し、内部の炭素繊維の並び方向を示すものである。
【
図16】
図16は、金属片とCFRP片間の引っ張り接着強さを測定する試験片である、金属とCFRPの接着対(試験片)の形状を示す外観図である。
【
図17】
図17は、金属片とCFRP片間の引っ張り接着強さを測定するための試験片である、金属CFRPの接着対の外観図である。
【0052】
【
図18】
図18は、
図17に示す形状で接着対を作った場合、CFRP片内の炭素繊維束の積層方向の2種類の内の一方を模式化した図である。
【
図19】
図19は、
図17に示す形状で接着対を作った場合、CFRP片内の炭素繊維束の積層方向の2種類の内の他方を模式化した図である。
【
図20】
図20は、引っ張り接着強さを測定するための「A7075Al合金片」の接着対の外観を撮影した写真であり、引っ張り破断試験が終了したものを並べて撮った写真である。
【発明を実施するための形態】
【0053】
[1.各種金属とその化学処理(新NAT処理)]
本発明でいう「新NAT処理」は、前述したNAT理論に記された処理法から派生したものである。新NAT処理で処理された表面形状は、前述のNAT処理の前述した5条件から、「(1)金属材には0.8〜10μm(Rz)周期の凹凸ある粗面(ミクロンオーダー周期の粗面)が」必要条件ではない形状も含む。本発明の新NAT処理されたその形状を「新NAT処理面」と定義し、そのための表面処理法を「新NAT処理」と定義する。「新NAT処理面」と以前のNAT処理面の違いは、その金属の表面のミクロンオーダーの粗面である0.8〜10μm(Rz)周期の粗面であるという第1条件が事実上必要ないことである。更に、これを前提とした「(2)また、上記粗面上に10〜300nm周期の微細凹凸面があり」という条件も必要条件とは言い難い。むしろ全てより具体的な微細形状の姿例を示し、その姿自身が必要条件になっている。
【0054】
図1で言えば、
図1(b)、
図1(j)、
図1(k)及び
図1(l)に示した断面形状は、発明者の推察ではミクロンオーダーの粗面であることを要求しない。しかしながらこれらの姿に実在の金属合金を近づけるべく努力するとたまたま数μm周期の緩い凹凸面が出来てしまったというのが
図1(b)に示す断面形状であると推察される。また、
図1(f)〜
図1(h)に示す断面形状は、0.1〜数μm周期の不規則で、且つ非常に激しい粗面を想定しており、これに20〜100nm周期の超微細凹凸面が重なっているものである。発明者が元々設定したNAT条件でいう2重凹凸面のイメージとは全く異なった姿である。従って、端的に言えば、本発明の「新NAT処理」法が求める表面形状は、
図1(b)、
図1(f)〜
図1(l)に示した断面模式図に近いものにすることと言える。これら以外の必要条件として、表面は金属酸化物又は金属リン酸化物の様なセラミック質で覆われていること、の条件は前述したNATの条件と同一である。
【0055】
(使用可能金属種)
本発明で使用できる金属種は、硬質金属であればほぼ全てが可能である。本発明は、その使用金属の表面形状を規定しているだけであり、使用金属は硬質金属であれば全て含まれる。しかしながら、自由に金属種、金属合金種を選んだ後に、その表面形状を
図1(b)、
図1(f)〜
図1(l)の形状にしようとしても全て可能とは思えない。仮に、試行錯誤してもこの理想的な形状に出来るものではない。その理由は、上記の図示した形状は、実験及び観察により、その図の元になる超微細形状物が実際にある種の金属合金で得られたか、又は得られるだろうと考えられたからである。そこから接着力を確保する上で、理想的にはこのような断面形状だろうとして、図化して作成したものである。即ち、殆どにモデルとする形状、及び発明者の経験から描いたものである。机上論だけで描いた形状は、
図1(h)の「ランダム型」のみである。
【0056】
前記のとおり、
図1(b)の形状はAl合金、
図1(f)の形状は純チタン、
図1(g)及び
図1(i)の形状はチタン合金、
図1(j)及び
図1(k)の形状は銅、
図1(l)の形状はMg合金の実例から来ている。それ故、使用するのがAl合金であれば、図(b)の形状は目指すことが可能であるが、他金属種では困難と思われる。純チタンであれば
図1(f)に示した形状が可能であり、チタン合金であれば
図1(f)及び
図1(i)に示した形状が可能である。銅であれば
図1(j)及び
図1(k)に示す形状が可能である。Mg合金であれば、
図1(l)に示す形状が可能である。そしてあらゆる金属種で可能性があるのは
図1(i)に示す「理想型IVの『標準型』」である。
【0057】
文献1〜9に記載のNAT処理法の標準手順の基本は、(1)脱脂、(2)化学エッチング、(3)微細エッチング、(4)表面硬化、の4工程によっている。しかし、金属種によっては化学エッチングのみで、上述した形状の微細エッチングと表面硬化が同時に形成できるものもある。逆に、微細エッチングが出来ずに処理法の開発を断念することもある。ただ、微細エッチングが困難と判断した場合は、表面硬化工程を先に行って一挙に片付くことも多い。要するに、全てが前例のない作業であり、多くは確たる理論的な背景がなく、試行錯誤作業を続けて解明したものが多く、簡潔な手法の組み合わせで説明できるところまで行っていない。
【0058】
[2.エポキシ接着剤]
本発明で使用するエポキシ接着剤は、1液性エポキシ接着剤であり、一般的に市場で市販されているものであり、これらのほぼ全てが使用できる。NAT処理金属片、新NAT処理金属片を、後述の接着手法を用いて接着(これを「NAT接着法」と称する。)した接着対を引っ張り破断して、その接着対のせん断接着強さを測定した場合、常温下での接着力は市販されている殆どの接着剤で60〜80MPaの範囲内であり、多くは70MPa付近であった。要するに、常温下での接着力は、市販1液性エポキシ接着剤の中で大差がないし、同一接着剤使用時には金属種や金属合金種によらない。なお、本発明者らが常用している1液加熱硬化形エポキシ系接着剤は、「EP106NL」(セメダイン株式会(本社:日本国東京都)製)、「スコッチ・ウエルド『EW2040』」(スリーエムジャパン株式会社(本社:日本国東京都)製)であり、双方共にジシアンジアミド硬化型の物である。
【0059】
なお、常温下での接着力のみならず、高温下、例えば150℃下での接着力も重要な場合、前記「EW2040」の使用が好ましい。即ち、NAT処理したA7075Al合金同士のNAT接着において、この接着剤を使うことで、150℃下のせん断接着強さ35MPaを記録した。150℃下の接着力が最高の物は、本発明者が調製した1液性エポキシ接着剤(文献10)であり、45MPa程度の接着力を示すが、未だこの分野の市場が出来上がっていないので、本発明者はこの接着剤の製造は行っていない。
【0060】
[3.接着操作]
NAT法では「染み込まし処理」という操作が必要であるが、これは本発明の新NAT法でも同様である。「染み込まし処理」は、常温で粘度ある1液性エポキシ接着剤の粘度を意図的に下げ、金属片の表面上の超微細凹部に接着剤が入り込むようにする操作である。具体的には、下記「(1)密閉容器を使用する」ことと「(2)ケトン系溶剤を使用する」ことの2法がある。
【0061】
〈(1)密閉容器を使用する〉
金属片の必要個所に接着剤を塗り、予め50〜70℃に加熱したデシケータに入れ、真空ポンプで減圧する。数分間減圧したら空気を入れて常圧に戻す。そして再び減圧にする、という減圧/常圧戻し操作を数回繰り返し、その後にデシケータから金属片を出す。元々糊状の接着剤は、一旦液状になったことが明らかなものになっており、この接着剤付き金属片同士を接合してクリップ、バイス等で接着面を固定し、そのまま熱風乾燥機に入れて硬化工程とする。
【0062】
〈(2)ケトン系溶剤を使用する〉
前記(1)密閉容器を使用する方法は、金属片が大型だと超大型バッグ、オートクレーブ等が必要となり商業化が困難である。当該〈(2)ケトン系溶剤を使用する〉方法はそれ故に発案した方法であり、使用する1液性エポキシ接着剤が、ジシアンジアミド硬化型の1液性エポキシ接着剤の場合しか使用できないものの、非常に有効である。ただし、市販の1液性エポキシ接着剤の殆どが、ジシアンジアミド硬化型であるから実際にはそれらをほぼ全部使用できる(文献11、12)。〈(2)ケトン溶剤を使用する〉方法の具体的用法は以下のとおりである。
【0063】
先ず、1液性エポキシ接着剤に、少量のメチルイソブチルケトン(MIBK)を加え、よく混合して低粘度の懸濁液とする。金属片の必要個所に前記の懸濁液を塗り、50〜60℃にした温風乾燥機に20分ほど入れて溶剤を完全揮発させる。これが「染み込まし処理」工程となる。本発明ではこのMIBKを使用した「染み込まし処理」を重視しているが、その理由は実用的である上に、染み込み具合が上記の密閉容器法より確実なことによる。そしてこの「染み込まし処理」を確かにする鍵は温風乾燥機による溶剤揮発工程であり、乾燥機内の換気を十分にしつつ乾燥時間を確実に取ることである。そして温風乾燥機から出した後、金属上の接着剤量が薄く少ないと感じたら元の接着剤を追加して厚塗りする。そして接着剤付き金属片同士を密着させて、クリップ、バイス等の小型の固定治具で固定し、そのまま熱風乾燥機に入れ硬化工程に入る。
【0064】
(加熱硬化と流下対策)
1液性エポキシ接着剤の硬化方法は一般的硬化方法を採用する。即ち、熱風乾燥機を120〜135℃にセットしておき、前記のクリップ等で固定した金属片対を入れ、直ちに温度を170℃にセットして昇温し、170℃になったら20分程度そのまま置いて硬化を終えるのが標準的な硬化法である。ただ、実際の接着工程は種々の技術、技能が必要である。
【0065】
大型品の接着の場合、接着面がどの方向を向いているか、接着剤層の厚さはどの程度が妥当か、接着面には接着剤が存在できる隙間はあるがそこに凹凸があるか否か、接着面の外側に溶けて液状になった接着剤が流下して流失に至らぬか、等々に対する技術、技能、工夫が必要である。要するに、高粘度の接着剤も60〜90℃で低粘度液状物に一旦なるから、固化すべき場所から接着剤が流下して失敗作業に終わることが多発する。それ故、接着面周辺部を、テフロンテープ等で囲って締め付けておく必要がある。また、多少の流下による接着面での接着剤減少を予想して、上面に余分の接着剤を最初から補給して置くことも重要である。
【0066】
この接着剤閉じ込めのために、テフロンテープを巻き付けて締め付ける操作は、金属対(試験片)間の距離を補助治具により薄く出来ない場合、即ち接着剤硬化層の厚さが0.1〜0.3mm以内にできない時に有効である。言い換えれば、厚い接着層にならざるを得ない場合に、テフロンテープは有効である。流下対策というよりも、接着剤を加圧して封じておくことで、加熱硬化時に接着剤自体が膨張し、閉じ込められることで内圧が上がり何らかの不純物、微量水分等がガス化してボイドとなって、硬化物内に生じることを抑制するからである。それ故、接着対となるべき金属材の表面は、少なくともフライス盤等で凹凸のない平面にしておき、接着剤塗布面同士を組み上げた時点で、その隙間が可能な限り少なくなるようにしておく前加工操作も、ボイドレス接着剤硬化層を作る上で重要である。
【0067】
更に、前述したように、本発明で使用する1液性エポキシ接着剤を「染み込まし処理」するが、その接着剤塗布済み金属材同士を接着して固定する時に、両者間にフィルム型エポキシ接着剤を挟む方法がある。要するに、本発明で言う1液性エポキシ接着剤をプライマー的に使用し、その上にフィルム型接着剤を本接着剤として積層して使う方法である。フィルム型接着剤は、ナイロン等の不織布に1液性エポキシ接着剤を染み込ました物がよく使われ、不織布が硬化昇温時での接着剤成分の流下を防ぎ、ボイド発生による被着材硬化物の強度低下を強化繊維が解消する役目も果たしてくれる。それ故に本発明でも使用可能である。
【0068】
ただし、市販されているフィルム型接着剤(多くは米国製の航空機仕様物)を挟んで接着した場合、本発明者らの試験では、1液性エポキシ接着剤「スコッチ・ウエルド『EW2040』」(スリーエムジャパン株式会社(本社:日本国東京都)製)のみを使った接着物より接着力が低下する。ただ、これは現行のフィルム型接着剤に関する結果であり、本発明が移動機械製造業に広がれば、市販されているフィルム型接着剤も高能力型に変化して行くだろう。何故なら、発明者が提唱したNAT理論以前の接着力は、最高値でも30〜40MPaであったし、この40MPa以上の接着力を測る標準的な方法も存在しなかった。それ故、それよりも遥かに高い接着力の存在がNAT理論の普及と、本発明により明らかになれば接着剤メーカーの新開発が始まる。要するに、現時点で言えば、接着剤の流下対策等に関する作業性は、フィルム型接着剤使用の方が優れている。接着力そのものはフィルム型接着剤を挟むことによって落ちるが、これは適宜改良することができる。
【0069】
(CFRP片と金属の接着法)
既に、成形され硬化しているCFRP材を被着材の一方として使用する場合には、接着すべき個所をサンドペーパー等により、でき得ればCFの一部が露出するまで研磨する。研磨後のCFRP材は、脱脂槽中に浸漬してから水洗して汚れを落とし、熱風乾燥機にて乾燥するのがよい。その後は、前記の金属への接着操作と同様に、「染み込まし処理」をするのが好ましい。これらの操作で接着剤付きCFRP材とする。その後、このCFRP材と接着剤付き金属合金とを、接着治具等で固定し、熱風乾燥機に入れて接着剤を硬化するのは前記操作と同様である。
【0070】
一方、金属と接着する相手がCFRPプリプレグ集合体である場合、CFRP側に於いて前もって行う操作はない。型内に入れたプリプレグ集合体上の所定の位置に、前記操作で得た接着剤付き金属片を乗せて型を締め、そのままオートクレーブに入れて所定のCFRP硬化操作をする。但し、CFRPプリプレグによっては、130℃硬化の低温硬化型物もあるので、このようなCFRPプリプレグ使用物の場合でも最高温度を170℃まで上げ少なくとも15分置くことが好ましい。
【0071】
[4.熱硬化性エポキシ樹脂組成物の硬化物]
NAT処理済みの金属片同士の接着力を測定するために、1液性エポキシ接着剤を使った接着対を引っ張り破断して、金属片同士の接着力を求めている。ここで得られる接着力は、同種の金属片同士間の接着力であると同時に、金属片と接着剤硬化物間の接着力でもある。一方、NAT処理済み金属片とCFRP片とを引っ張り破断して得られる接着力は、金属片とCFRP間の接着力である。同時に、この接着力は、接着剤硬化物層とCF間の接着力であり、更に言えばCFRP内のマトリックス樹脂とCF間の接着力となる。この理由は前記のとおりである。
【0072】
要するに現状では、CFとマトリックス樹脂(これらも熱硬化性エポキシ樹脂組成物である。)間の接着力が、約40MPaレベルに止まっており、表面積の大きい旧型CFを使用して、CFとマトリックス樹脂間の接着力を約60MPa程度に上げることで、CFRP内のマトリックス樹脂とCF間の接着力を向上するのが限度である。
【0073】
ただ、CFに限らず、今後に異なった強化繊維が出現するかもしれず、また、前記したようにCFの表面処理法が改良されて、マトリックス樹脂であるエポキシ樹脂硬化物との接着力がエポキシ樹脂硬化物自身の引っ張り強度と同等になるかもしれない。そのような場合、そのCFRP材同士を、1液性エポキシ接着剤でNAT接着して得た接着対の接着力は、1液性エポキシ接着剤硬化物自体のせん断強度、引っ張り強度の値になるかもしれない。しかし何れにしても、この接着対(試験片)が行き着く最高のせん断接着強さと引っ張り接着強さは、1液性エポキシ接着剤硬化物自体のせん断強度、引っ張り強度の値を超えることはあり得ない。
【0074】
(接着剤硬化物の引っ張り強度)
被着物が、仮に、本発明による新NAT処理済み金属材であったとしても、その金属片同士のNAT接着対のせん断接着強さ、引っ張り接着強さが、接着剤硬化物のせん断強度、引っ張り強度を超えることはあり得ない。それ故、接着剤硬化物のせん断強度、引っ張り強度を求めておき、金属接着技術がその理想値、最高値に何処まで肉薄しているかを知ることは重要である。
【0075】
本発明者らは、1液性エポキシ接着剤である市販の「EP106NL」(セメダイン株式会(本社:日本国東京都)製)、及び「スコッチ・ウエルド『EW2040』」(スリーエムジャパン株式会社(本社:日本国東京都)製)の硬化物そのものの引っ張り強度を求めるべく、実験を多数行ったが全てで失敗した。テフロンコートした型を作り、そこへ接着剤を詰め込む注型法で作成しようとしたが、出来上がった引っ張り強度測定用の形状物は最高でも60MPaしか示さず、この最高強度物でも小ボイドが生じていた。注型物を詰めたままの型を、加熱したデシケータに入れて真空ポンプで減圧し、次に空気を入れて常圧に戻す操作を繰り返し(つまり「染み込まし処理」と同様な操作をし)、デシケータから取り出し、型に蓋をして接着剤を溢れさせたまま蓋を治具固定し、そのまま熱風乾燥機に入れて硬化させたのだが小ボイドの発生を防ぐことは出来なかった。
【0076】
それ故、少なくともオートクレーブ法で、CFRPプリプレグ硬化時のように行わないと、引っ張り強度を測定するに値するサンプルは作成できないと思われた。残念ながらこの作業は、新NAT理論を実証するには必要であるが、本発明の実効性を証明するには必ずしも必要でないことから、企業技術者の立場で断念した。一方、100mm×25mm×3mmのA7075Al合金片同士を、本発明に従い上記「EW2040」で接着して得た接着対で引っ張り接着強さ103MPa(18℃下)を示したものの接着面跡の写真等を
図20、21に示した。この破断面は、ルーペ観察では樹脂破壊面であり、金属相が露出している個所は見出せなかった。大半の面積で金属と接着している接着剤層破断であると思われ、「EW2040」硬化物の引っ張り強度は、前記したこの硬化物そのものの破断数値にほぼ近いと推定される。
【0077】
[5.接着力の測定]
接着物のせん断接着強さの測定法、引っ張り接着強さの測定法は、各々JISK6849(ISO 6922)、JISK6850(ISO 4587)に記載がある。しかし、前記したように、NAT処理、新NAT処理をした金属片同士の1液性エポキシ接着剤を使用した接着対(試験片)の接着力は、これらJISの標準測定法では測れない。そこで、その測定用に本発明者が使用した金属片、CFRP片の接着対(試験片)の形状を、
図2、
図3に示す。
図2はせん断接着強さ測定対の形状、
図3は引っ張り接着強さ測定対の形状である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0078】
以下、本発明の実施の形態を実施例によって説明する。
(a)電子顕微鏡観察
SEM型の電子顕微鏡「S−4800」(株式会社日立製作所(本社:日本国東京都)製)、及び「JSM−6700F」(日本電子株式会社(本社:日本国東京都)製)を使用し、1〜2KVにて観察した。
(b)走査型プローブ顕微鏡観察
「SPM−9600」(株式会社島津製作所(本社:日本国東京都)製)を使用した。
(c)複合体の接合強度の測定
引っ張り試験機「AG−500N/1kN」(株式会社島津製作所(本社:日本国東京都)製)を使用し、引っ張り速度10mm/分でせん断破断力を測定した。
【0079】
[実験の前準備](CFRP片の入手)
本発明者は、CF含量が40〜50%(wt%:以下、溶液についていう%について同じ)とみられる45mm×15mm×3mm(厚)のCFRP片多数を東レ株式会社(本社:日本国東京都、以下、「東レ」という。)より供与を受けた(2010〜2011年)。その半分は、高強度CFを使用した物「トレカT800(東レ製)」である。これの引っ張り強度は5.9GPaである。また、残りの半分は、本発明者から東レへの要請で、引っ張り強度が前記の半分程度の旧型CFを使用して作成されものであり、引っ張り強度3.5GPaの「トレカT300(東レ製)」である。これらCFRP片のマトリックス樹脂に使われたエポキシ樹脂は、東レ社カタログの樹脂No.「2500」か「2580」とみられ、何れも耐熱グレードではない。即ち、プリプレグの組成は、1液性エポキシ接着剤に近い物で、ジシアンジアミド硬化型でもあるが、硬化温度は硬化促進剤を入れることで130℃レベルに下げている種類の物と解された。
【0080】
なお、通常、耐熱グレードCFRPに使われるマトリックス樹脂は、エポキシ樹脂と芳香族ジアミンの共重合物であり、モノマー類を選べば200℃下でもその硬化物の引っ張り強度はかなり高い。これらは航空機用CFRPプリプレグに使われており、その中でも最高耐熱度の物は一般市場には出荷されていないようである。また、エポキシ樹脂と芳香族ジアミン類とで作成した熱硬化性樹脂硬化物の引っ張り強度等については、文献14に記載がある。その多くが引っ張り強度55〜60MPaで、本発明者らが使用した1液性エポキシ接着剤「スコッチ・ウエルドEW2040」(スリーエムジャパン株式会社(本社:日本国東京都)製)の硬化物の常温下の引っ張り強度推定値の約100MPa(実験7参照)より低い。
【0081】
また、日本国内で最も汎用的に使用されている1液性エポキシ接着剤「EP106NL」(セメダイン株式会(本社:日本国東京都)製)の硬化物の引っ張り強度も前記と同程度とみられ、これがジシアンジアミド硬化型のエポキシ樹脂硬化物の平均的な引っ張り強度であると本発明者は解している。要するに、常温下でのエポキシ樹脂硬化物の強度は、ジシアンジアミド硬化型のエポキシ樹脂硬化物の方がエポキシ樹脂と芳香族ジアミンの共重合物よりも高いが、高温下になると逆転する関係になる。
【0082】
なお、入手CFRP片の積層構造については、CFは長辺の方向に並んでおり、水平に収束されたCF束を含むプリプレグ11層から作成された物であり、且つ、硬化後の各層の厚さは、10層が各0.25mm、中央の1層は厚さ0.5mmであった(
図15)。
【0083】
[実験例1](Al合金のNAT処理)
3mm厚のA7075アルミ合金板材を入手し、45mm×15mm×3mmの小板片多数に機械加工した。また、同アルミ合金板材から、100mm×25mm×3mmの小板状片に機械加工で多数個作成した。槽中に、アルミ用脱脂剤「NE−6」(メルテックス株式会社(本社:日本国東京都)製)」10%を含む水溶液を60℃とし、前記合金片を5分間浸漬した後、これを水道水(日本国群馬県太田市)で水洗した。次に別の槽中に、40℃とした1%濃度の塩酸水溶液を用意し、これに合金片を1分間浸漬した後、これを水洗した。次に、40℃とした1.5%濃度苛性ソーダ水溶液を用意し、これに合金片を4分間浸漬した後、これを水洗した。
【0084】
次に、40℃の3%濃度の硝酸水溶液を用意し、合金片を3分間浸漬した後、これを水洗した。次に、60℃とした3.5%濃度の水和ヒドラジン水溶液を用意し、合金片を2分間浸漬した。次に、40℃とした0.5%濃度の水和ヒドラジン水溶液を用意し、合金片を0.5分間浸漬した後、これを水洗した。次に、5%濃度の過酸化水素水を用意し、合金片を5分間浸漬した後、これを水洗した。次に、67℃に設定した温風乾燥機に15分間入れて乾燥した。各々はアルミ箔でまとめて包み、さらにこれをポリ袋に入れて封じ保管した。上記と全く同じ処理をしたA7075Al合金の表面電子顕微鏡写真(1万倍、10万倍)を
図4に示した。この写真、及び、その他の資料(文献13)から
図1の(b)を想定したものである。
【0085】
[実験例2](Al合金の新NAT処理)
3mm厚のA7075アルミ合金板材を入手し、45mm×15mm×3mmの小板片多数に機械加工した。また、同アルミ合金板材から100mm×25mm×3mmの小板状片を機械加工で多数個製作した。槽中にアルミ用脱脂剤「NE−6」(メルテックス株式会社(本社:日本国東京都)製)を10%を含む水溶液を60℃とし、前記合金片を5分間浸漬した後、これを水道水(群馬県太田市)で水洗した。次に、別の槽中に40℃とした1%濃度の塩酸水溶液を用意し、これに合金片を1分間浸漬した後、これを水洗した。次に、40℃とした1.5%濃度苛性ソーダ水溶液を用意し、これに合金片を4分間浸漬した後、これを水洗した。
【0086】
次に、40℃の3%濃度の硝酸水溶液を用意し、合金片を3分間浸漬した後、これを水洗した。次に、60℃とした3.5%濃度の水和ヒドラジン水溶液を用意し、合金片を1分間浸漬した。次に、33℃とした0.5%濃度の水和ヒドラジン水溶液を用意し、合金片を3分間浸漬した後、これを水洗した。次に、1.5%濃度の過酸化水素水を用意し、合金片を0.5分浸漬した後、これを水洗した。次に、67℃に設定した温風乾燥機に15分間入れて乾燥した。各々はアルミ箔でまとめて包み、さらにこれをポリ袋に入れて封じ保管した。上記と全く同じ処理をしたA7075アルミ合金の表面電子顕微鏡写真(10万倍)を
図5に示した。このAl合金処理法は、実験例1では
図1(b)に未だ十分に至っていないとして処理法を変えたものである。
【0087】
[実験例3](ステンレス鋼のNAT処理:参考例)
3mm厚のSUS304ステンレス鋼板材を入手し、それを45mm×15mm×3mmの小板片多数に機械加工した。また、同板材から100mm×25mm×3mmの小板状片を機械加工で多数個製作した。槽中に、アルミ用脱脂剤「NE−6」(メルテックス株式会社(本社:日本国東京都)を10%含む水溶液を60℃とし、鋼片を5分間浸漬した後、これを水道水(群馬県太田市)で水洗した。次に、別の槽中に40℃とした1.5%濃度の苛性ソーダ水溶液を用意し、これに前記鋼片を1分間浸漬した後、これを水道水で水洗した。次に65℃とした5%濃度の硫酸を含む水溶液を用意し、これに前記鋼片を4分間浸漬した後、これを水道水で水洗した。
【0088】
次に40℃の3%濃度の硝酸水溶液を用意し、これに前記鋼片を3分間浸漬した後、これを水道水(群馬県太田市)で水洗した。次に、80℃に設定した温風乾燥機に15分間入れて乾燥した。得られた乾燥物はアルミ箔でまとめて包み、さらにこれをポリ袋に入れて封じ保管した。上記と全く同じ処理をしたSUS304ステンレス鋼片の表面電子顕微鏡写真(1万倍、10万倍)を
図6に示した。この写真から
図1(c)の断面模式図を描いた。即ち
図1(c)の断面模式図は、この写真を基に描いたものである。
【0089】
[実験例4](一般鋼材のNAT処理:参考例)
3.2mm厚のSPCC(冷間圧延鋼板)を入手し、45mm×18mm×3.2mmの小板片多数に機械加工した。また、同板材から100mm×25mm×
3.2mmの小板状片を、機械加工で多数個製作した。脱脂剤「NE−6」(メルテックス株式会社(本社:日本国東京都)を10%含む水溶液を60℃とし、前記鋼片を5分間浸漬した後、これを水道水(群馬県太田市)で水洗した。次に、別の槽中に40℃とした1.5%濃度の苛性ソーダ水溶液を用意し、これに前記鋼片を1分間浸漬した後、これを水洗した。
【0090】
次に、60℃とした5%濃度の硫酸を含む水溶液を用意し、これに前記鋼片を4分間浸漬した後、これを水洗した。次に、1%濃度のアンモニア水を用意し、前記鋼片を1分間浸漬し水洗した。次に、1.2%濃度の水和硝酸クロムと0.3%濃度の三酸化クロムと1.5%濃度のリン酸と0.033%の塩基性炭酸ニッケルを含む水溶液を用意し、これに前記鋼片を1.5分浸漬した後、これを水洗した。次に、80℃に設定した温風乾燥機に15分間入れて乾燥した。アルミ箔で双方をまとめて包み、さらにこれをポリ袋に入れて封じ保管した。上記と全く同じ処理をしたSPCC鋼片の表面電子顕微鏡写真(1万倍、10万倍)を
図7に示した。
図1(d)の断面模式図は、この写真から描いたものである。
【0091】
[実験例5](純チタンのNAT処理:参考例)
3mm厚の純チタン1種「KS−40」(株式会社神戸製鋼所(本社:日本国兵庫県)製)の板材を入手し、45mm×15mm×3mmの小板片を機械加工で多数個製作した。槽中をアルミ用脱脂剤「NE−6」(メルテックス株式会社(本社:日本国東京都)製)の10%を含む水溶液を60℃とし、これにチタン片を5分間浸漬した後、これを水道水(群馬県太田市)で水洗した。次に、別の槽中に、40℃とした1.5%濃度の苛性ソーダ水溶液を用意し、これに前記チタン片を1分間浸漬
した後、これを水洗した。
【0092】
次に、65℃とした2%濃度の万能エッチング薬「KA3」(株式会社金属化工技術研究所(本社:日本国東京都)製)の水溶液に、前記チタン片を3分浸漬した後、これを水洗した。次に、80℃に設定した温風乾燥機に15分間入れて乾燥した。アルミ箔でまとめて包み、さらにこれをポリ袋に入れて封じ保管した。上記と全く同じ処理をした純チタンの表面電子顕微鏡写真(1万倍、10万倍)を
図8に示した。この写真から本発明者は
図1(e)の断面模式図を描いた。
【0093】
[実験例6](純チタン、Ti合金の新NAT処理)
3mm厚の純チタン2種「TP340」(新日鐵住金株式会社(本社:日本国東京都)製)の板材から、45mm×15mm×3mmの小板片を機械加工により多数個製作した。また、同板材から100mm×25mm×3mmの小板状片を機械加工により多数個製作した。槽中に、アルミ用脱脂剤「NE−6」(メルテックス株式会社(本社:日本国東京都)製)を10%を含む水溶液を入れて60℃とし、それにチタン片を5分間浸漬した後、これを水道水(群馬県太田市)で水洗した。次に、別の槽中に、40℃とした1.5%濃度の苛性ソーダ水溶液を用意し、これに前記チタン片を1分間浸漬した後、これを水洗した。次に、別の槽中に、65℃とした2%濃度の万能エッチング薬「KA3」(株式会社金属化工技術研究所(本社:日本国東京都)製)の水溶液に、前記チタン片を3分浸漬した後、これを水洗した。次に、40℃とした3%濃度の硝酸水溶液に、前記チタン片を3分間浸漬した後、これを水洗した。次に、55℃とした5%濃度の亜塩素酸ソーダと10%濃度の苛性ソーダを含む水溶液に、10分浸漬した後、これを水洗した。次に、80℃に設定した温風乾燥機に15分間入れて乾燥した。アルミ箔でまとめて包み、さらにこれをポリ袋に入れて封じて保管した。
【0094】
上記と全く同じ処理をした純チタン2種「TP340」(新日鐵住金株式会社(本社:日本国東京都)製)の表面電子顕微鏡写真を、
図9−1(1千倍)、
図9−2(1万倍)、
図9−3(10万倍)に示した。注目すべきは、10万倍写真であって、網状形状が全体を覆っており、網目による凹凸周期は20〜100nmであることが観察される。網状物による超微細凹凸面の凹凸周期が、小から大までバラつく規則的
ではない網目
状凹凸模様であるが、全体として
図1(f)に示す断面形状に近づいていた。
【0095】
前記超微細な網目状の凹凸形状が、何故に得られたかは不明であるが、純チタンより高強度のチタン合金類につき同様に形状化が可能であるかを試した。その結果、α−β型チタン合金「KSTI−9」(株式会社神戸製鋼所(本社:日本国兵庫県)製)、α−β型チタン合金の「KS6−4」(株式会社神戸製鋼所(本社:日本国兵庫県)製)を、酸化処理することで超微細網目状凹凸面を有するチタン合金が得られた。
図10−1〜
図10−3、
図11−1〜
図11−3は、その電子顕微鏡写真である。
図10−2は
図1(g)に形状が類似しており、
図11−1は
図1(i)に類似している。
【0096】
[実験例7](銅のNAT処理)
3mm厚のC1100銅板を入手し、45mm×15mm×3mm小板状片多数に機械加工した。また、100mm×25mm×3mmの小板片を機械加工で多数個製作した。槽中を、アルミ用脱脂剤10%を含む水溶液を60℃で満たし、これに銅片を5分間浸漬した後、これを水道水(群馬県太田市)で水洗した。次に、別の槽中に、40℃とした1.5%濃度の苛性ソーダ水溶液を用意し、これに前記合金片を1分間浸漬した後、これを水洗した。次に、別の槽中に、40℃とした10%濃度の硝酸水溶液に前記銅片を0.5分浸漬し、次に40℃とした3%濃度の硝酸水溶液を用意し、これにその銅片を10分浸漬した後、これを水洗した。
【0097】
次に、別の槽中に、70℃とした過マンガン酸カリ2%と苛性カリ3%を含む水溶液を用意し、これに前記銅片を35分間浸漬した後、これを水洗した。次に、55℃とした亜塩素酸ソーダ5%と苛性ソーダ10%を含む水溶液に10分浸漬した後、これを水洗した。次に、80℃に設定した温風乾燥機に15分間入れて乾燥した。アルミ箔でまとめて包み、さらにこれをポリ袋に入れて封じ保管した。
【0098】
上記と全く同じ処理をしたC1100銅の表面電子顕微鏡写真を、それぞれ
図12−1(1万倍)、
図12−2(10万倍)に示した。このうち特に、
図12−2(10万倍写真)から判断されるように、10〜200nm角の
長方体片が、200nm四方に10〜20個の数密度で平原から立っている超微細凹凸面で全面が覆われている。これは要するに、
図1(j)の外観に近い。
【0099】
[実験例8](銅の新NAT処理:参考例)
3mm厚のC1100銅板を入手し、45mm×15mm×3mmの小板片を、機械加工により多数個製作した。また、100mm×25mm×3mmの小板片も機械加工により多数個製作した。槽中に、アルミ用脱脂剤10%を含む水溶液を60℃とし、これに銅片を5分間浸漬した後、これを水道水(群馬県太田市)で水洗した。次に、別の槽中に、40℃とした1.5%濃度の苛性ソーダ水溶液を用意し、これに前記合金片を1分間浸漬した後、これを水洗した。次に別の槽中に、40℃とした10%濃度の硝酸水溶液に前記銅片を0.5分浸漬し、次に40℃とした3%濃度の硝酸水溶液を用意し、これに銅片を10分間浸漬した後、これを水洗した。
【0100】
次に、別の槽中に、25℃とした硫酸10%と過酸化水素4%を含む水溶液を用意し、これに前記銅片を3分間浸漬した後、これを水洗した。次に、別の槽中に、70℃とした過マンガン酸カリ2%と苛性カリ3%を含む水溶液を用意し、これに前記銅片を35分間浸漬した後、これを水洗した。次に、55℃とした亜塩素酸ソーダ5%と苛性ソーダ10%を含む水溶液に10分間浸漬した後、これを水洗した。次に、80℃に設定した温風乾燥機に15分間入れて乾燥した。アルミ箔でまとめて包み、さらにこれをポリ袋に入れて封じ保管した。
【0101】
上記と全く同じ処理をしたC1100銅の表面電子顕微鏡写真を、
図13−1(1千倍)、
図13−2(1万倍)、
図13−3(10万倍)に示した。
図13−3(10万倍)の写真から判明するが、ウイスカが頭毛のように生えており、その長さが長く多毛型であり、この下地が写っていない。更に、ウイスカは交差し縺れ合っているようでもある。これでは接着剤が下地まで完全に侵入できるかどうか疑問が生じる。本発明者は、このウイスカ長さを1/2以下にして、直立した短毛型にすべく検討中である。
図1(k)の形状は、その短毛型が完成したときの模式図である。
【0102】
[実験例9](Mg合金のNAT処理)
1mm厚のAZ31Bマグネシウム合金板材を入手し、45mm×15mm×1mmの小板片を機械加工により多数個製作した。槽中に、マグネシウム合金用脱脂剤「クリーナー160」(メルテックス株式会社(本社:日本国東京都)製)を、10%を含む水溶液を入れて60℃とし、Mg合金片を5分間浸漬した後、これを水道水(群馬県太田市)で水洗した。次に、別の槽中に、40℃とした1%濃度の水和クエン酸水溶液を用意し、これに前記合金片を4分間浸漬した後、これを水洗した。次に、別の槽中に、65℃とした炭酸ソーダ1%濃度と重炭酸ソーダ1%を含む水溶液に前記合金片を5分間浸漬し、次に65℃とした15%濃度の苛性ソーダ水溶液を用意し、これに合金片を5分浸漬した後、これを水洗した。
【0103】
次に、別の槽中に、40℃とした0.25%濃度の水和クエン酸水溶液を用意し、これに前記合金片を1分間浸漬した後、これを水洗した。次に、この水洗した合金片を、45℃とした2%濃度の過マンガン酸カリと1%濃度の酢酸と0.5%濃度の水和酢酸ソーダを含む水溶液に1分浸漬した後、これを水洗した後、80℃に設定した温風乾燥機に15分間入れて乾燥させた。この乾燥後、アルミ箔でまとめて包み、さらにこれをポリ袋に入れて封じ保管した。上記と全く同じ処理をしたAZ31Bマグネシウム合金の表面電子顕微鏡写真を
図14(10万倍)に示した。
図1(l)は、
図14から作成したものである。
【0104】
[実験例10](NAT接着物の作成とせん断接合強さの測定)
実験例1〜9で得たA7075Al合金、SUS304ステンレス鋼、冷間圧延鋼板(SPCC)、純チタン1種「KS−40」、α−β型Ti合金「KSTI−9 」(株式会社神戸製鋼所(本社:日本国兵庫県)製)、α−β型Ti合金「KS6−4」(株式会社神戸製鋼所(本社:日本国兵庫県)製)、C1100銅、AZ31Bマグネシウム合金につき、
図2に示す一対の試験片にして、1液性エポキシ接着剤を使って、NAT接着した。
【0105】
即ち、表面処理した45mm×15mm×(3〜3.5)mmの金属小片の端部4mm程度に、前記接着剤3gに対してMIBK(メチルイソブチルケトン)を2g程度を加えて、これをよく攪拌して得た懸濁液をスティックの先で山盛りに塗った。これを55℃にした温風乾燥機内に、20分置いてMIBKを揮発させて取り出し、更に元の(上記と同じ)接着剤を追加して塗り加えた後、接着剤塗布部分同士を接着して対(試験片)を作り、クリップ2個で固定した。その固定した形のまま135℃にした熱風乾燥機に入れ、温度セットを170℃にして昇温し、170℃になったら15分置いて、これを乾燥機から取り出した。
【0106】
クリップを外して放置し、その翌日に引っ張り破断して、これら対のせん断接着強さを測定した。なお、Mg合金片だけは、厚さ1mmであったので接着剤を塗って3枚重ねで1枚分とし、6枚使って1対のせん断接着強さ測定用の試料対とした。そして各金属種毎に接着対を5対ずつ作り、それらを破壊して平均のせん断接着強さを記録した。その結果が下記の表1である。表1から言えることは、
図8の純チタン1種がやや低かったが、その他の物は全て十分に高い。実際、破壊面を観察しても対の双方の接着面跡で金属部が露出している箇所は見当たらず、よい接着をしていたことが分かった。
【0107】
【表1】
【0108】
[実験例11](NAT接着物の作成と引っ張り接着強さの測定)
実験例1〜5で得たA7075Al合金、SUS304ステンレス鋼、冷間圧延鋼板(SPCC)、純チタン1種「KS−40」、純チタン2種「TP340」、α−β型Ti合金「KSTI−9」、α−β型Ti合金「KS6−4」につき、
図3に示す試験片に1液性エポキシ接着剤「スコッチ・ウエルド『EW2040』」(スリーエムジャパン株式会社(本社:日本国東京都)製)を使い、NAT接着した。
【0109】
即ち、表面処理した100mm×25mm×3mmの金属小片の端面(25mm×3mmの面)に、前記接着剤3gに対して、MIBKを2g程度を加え、これをよく攪拌して得た懸濁液をスティックの先で山盛りのように塗った。これを、55℃にした温風乾燥機内に、20分置いてMIBKを揮発させた後、これを温風乾燥機内から取り出し、更に接着剤を継ぎ足した上で、この接着剤塗布部分同士をくっ付けて対を作りテフロンシールテープで接着部を中心に巻き上げてからクリップ2個で固定した上で両端を押し付けて接着剤層厚をゼロに近づけた。その後は実験例6と同様にして熱風乾燥機で接着剤を硬化させた。
【0110】
乾燥機から出してクリップを外した。翌日にテフロンテープを剥がし、接着面から外部に接着剤が出て固まっている部分を回転砥石で削り取り、接着面積が(25mm以下)×(3mm以下)の0.7〜0.73cm
2になるようにした。そして、引っ張り破断させてこれら対の引っ張り接着強さを測定した。各金属種毎に5対ずつ作り、それらを破壊して最高値の引っ張り接着強さを記録した結果が表2である。
【0111】
【表2】
表2から言えることは、
図5、
図10、
図11の物は、約100MPaであり、最も高い最高値は、
図5のAl合金であり103.2MPaだった。これらの次に強い接着力を示したものは、
図9に示した物であり、更には
図4、
図12に示したものが、ほぼ80MPaであった。これらにおいて、引っ張り接着強さは、せん断接着強さと比較して同等か同等以上だった。
【0112】
なお、前記で引っ張り接着強さが、103.2MPaを示したA7075Al合金の接着対(試験片)の実物の写真を
図20、
図21に示す。
図20は、引っ張り破断した後の試料を破断前のように並べた姿のものだが、
図21はその接着面跡を接写した写真である。破断前の接着対長さ測定のデータから、接着剤層厚さは0.17mmであったが、それが中央部付近で2つに引き裂かれ接着面跡にはルーペ観察で金属面が見当たらない。それ故、この接着力は、「EW2040」の硬化物の引っ張り強度とほぼ同一値か、これにごく近い値であろうと推定した。
【0113】
A7075Al合金は、NAT処理から新NAT処理に代えることで明らかに引っ張り接着強さが増加した。電子顕微鏡写真では
図4から
図5への変遷で新たに不思議な線状形状が表れているが、それが効いたと本発明者は思っておらず、むしろ水和ヒドラジンに浸漬する時間を半分にしたことで超微細椀状の姿が整然となった故と推量した。80MPa以下の物では、SPCCが強いが60〜70MPaであり明らかに前4種とは異なるし、SUS304ステンレス鋼、及び、従来型NAT処理による純チタン1
種は弱かった。これらの強弱は
図1で想定した通りであり、電子顕微鏡写真から見ても理解できる。
【0114】
[実験例12](金属とCFRP片のNAT接着物:せん断接着強さ)
実験例2〜6で得たA7075Al合金、SUS304ステンレス鋼、冷間圧延鋼板(SPCC)、α−β型Ti合金「KSTI−9」(株式会社神戸製鋼所(本社:日本国兵庫県)製)、α−β型Ti合金「KS6−4 」(株式会社神戸製鋼所(本社:日本国兵庫県)製)につき、各々2種のCFRP片と
図2に示す形に1液性エポキシ接着剤「スコッチ・ウエルド『EW2040』」(スリーエムジャパン株式会社(本社:日本国東京都)製)を使いNAT接着した。
【0115】
即ち、表面処理した45mm×15mm×約3mmの金属小片の端部4mm程度に、前記接着剤1gに対してMIBK2g程を加えてよく混ぜ合わせて得た懸濁液を、スティックの先で山盛りのように塗った。一方、前記した45mm×15mm×3mmの2種の棒状長さ方向に繊維束型としたCFRP片(
図13)についても、小片端部4mm程までを#600サンドペーパーでしっかり擦ってCFの一部が露出する程度まで研磨し、超音波付きの脱脂槽中に数分浸漬しよく水洗し80℃×15分熱風乾燥した。
【0116】
そして金属片と同様に、含溶剤型接着剤をスティックの先で山盛りのように塗った。これらを55℃にした温風乾燥機内に20分置いて、MIBKを揮発させて取り出し、更に接着剤を継ぎ足した上でこの接着剤塗布部分同士をくっ付けて対を作りクリップ2個で固定した。その固定した形のまま135℃にした熱風乾燥機に入れ、温度セットを170℃にして昇温し、170℃になったら15分置いて乾燥機から出した。これら作業で得た接着対のせん断接着強さを測定した。5対の平均のせん断接着強さを表3に示した。その結果は、CFRPに含まれるCFによって殆ど決まっていることが明快だった。破断面も金属とCFRPの界面ではなくCFRPの表面層が破壊されており、金属側の接着面跡には若干の炭素繊維クズが付着していた。要するにCFRP内のCFとマトリックス樹脂間の接着力がそのまま表れた結果であった。
【0117】
【表3】
【0118】
[実験例13](金属とCFRP片のNAT接着物:引っ張り接着強さ)
東レ社から入手した前記した45mm×15mm×3mmの2種のCFRP片(
図15)につき、2種の引っ張り接着強さを測ることとした。その理由は、このCFRP片が水平繊維束型で出来ていた故である。具体的には、入手していたCFRP片自体を切断作業して内部に衝撃傷を与えぬため、新たに金属側の形状を変えて
図16、
図17形状の接着対を作った。即ち、45mm×15mm×3mm形状のA7075Al合金片、SUS304ステンレス鋼片、α−β型Ti合金である「KS6−4」片を用意し、それらについてNAT処理や新NAT処理をして、その端部面や側面を接着面として使った。一方のCFRP片も接着すべき側面を#600サンドペーパー処理し超音波洗浄して前記実験例と同様に粗面化処理をした上で1液性エポキシ接着剤「スコッチ・ウエルドEW2040」(スリーエムジャパン株式会社(本社:日本国東京都)製)を使い「染み込まし処理」を含めたNAT接着をした。
【0119】
図16、17の接着形状物を得た上で、引っ張り試験機で破断して引っ張り接着強さを測定した。その結果を表4、5に示した。破断面観察の結果だが、表4、5に記載した全てのもので、金属側の接着面跡にはその全域に樹脂分付着がありしかもそこにCFカスは全く見当たらなかった。そしてCFRP片の接着面跡にもCFの剥き出し部はなかった。要するに破断面観察からは双方(マトリックス樹脂硬化物と接着剤硬化物)の中の材料破断であることが分かった。
【0120】
【表4】
【表5】
【0121】
CFRP片として新型の高強度CFの使用物を使った。CFRP中のCFとマトリックス樹脂間の接着力は40MPa程度しかないことが分かっている。その様なCFRPと金属との引っ張り接着強さであるが、表4、5に示したように60MPa近い接着力を示した。しかも繊維の並び方向には関係ないとの結果が得られた。これら引っ張り接着強さデータに対し、表3のせん断接着強さのデータは全く異なる結果を示していた。
【0122】
これは明らかにプリプレグの積層構造に起因するものである。通常は水平収束したCFを含んでプリプレグシートとするが、繊維並びはシート面と平行であり繊維収束面の上下を繋ぐ隙間、即ちその隙間をマトリックス樹脂が埋める。且つ、各繊維収束面同士の間をつなぐ強化繊維は皆無である。この場合にCFとマトリックス樹脂間の接着力が40MPa程度であるとせん断破壊時には繊維平行面にて破壊するのは当然である。要するに、金属側の表面処理が本発明に示したように理想的なレベルまで来れば、接着相手がCFRP材の場合、先ず出来ることは接着面に対してプリプレグの並び方向を変化させることであることが分かる。