(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記保護層は、粒状体の集合物を袋に入れ、これを直方体状の6面を有する金網枠の内側に詰めて形成された保護用ブロック体を有し、複数の前記保護用ブロック体を壁状に積み重ねることによって形成され、上下及び左右に隣り合う前記保護用ブロック体は、互いの前記金網枠の近接する部分同士が連結具で連結されることにより相互に固定されている請求項5記載の擁壁。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の
シェッドの一実施形態について、
図1〜
図8に基づいて説明する。この実施形態のシェッド10は、
図1に示すように、山の斜面Sに沿って設けられた通路Tの上方に設置され、通路Tを落石や土砂崩落から防護するものである。
【0014】
シェッド10は、通路Tの上方に設けられた複数の受け梁12を有している。受け梁12は、太い角柱状のコンクリート材であり、それぞれ通路Tの幅方向に配され、通路Tの長さ方向に所定の間隔を空けて設置されている。各受け梁12は、山の斜面S側の端部が支持壁14の上端部で支持され、反対側の端部が複数の支柱16の上端部により個別に支持されている。
【0015】
受け梁12の上方には、通路Tの上方を覆う屋根部18が設けられ、屋根部18の上面が、落石や土砂等の斜面落下物を受け止める防護面18aとなる。屋根部18は、床版層20の上面に現場打ちコンクリート層22を重ねた2層構造になっており、床版層20は、
図2、
図3に示すように、複数のプレキャスト床版24を用いて形成される。なお、
図3では、屋根部18の上方に設けられる部材(後述する第一及び第二の緩衝材層等)を省略してある。
【0016】
プレキャスト床版24は、
図4、
図5に示すように、コンクリート本体26、これを補強するためのプレート28、及びコンクリート本体26の下面を覆う被覆板30等で構成され、あらかじめ工場で製作され、山間地の現場に搬送される。プレキャスト床版24は、平面視で略長方形の外形を有し、長辺は、両端部を一対の受け梁12の間に架設できる長さに設定され、短辺は、受け梁12の長さ方向に所定の枚数が区切りよく並べられる長さに設定され、厚みは強度等を考慮した所定の値に設定されている。
【0017】
プレート28はH鋼材等の強靱な金属板等で成り、長方形の板状本体28aを有し、その上端部28b及び下端部28cがフランジ状に形成され、大きな断面二次モーメントを有した縦断面形状に形成されている。プレート28の長さは、コンクリート本体26から突出しない程度に若干短く、下端部28cから上端部28bまでの高さは、コンクリート本体26の厚みより高く、コンクリート本体26の上面から上端部28bが突出している。突出長さは、後述する現場打ちコンクリート層22中に上端部28bが埋まる程度である。プレート28の上端部28bがコンクリート本体26の上面から突出している理由については後述する。
【0018】
コンクリート本体26には、2つの薄肉部26aが設けられている。薄肉部26aは、プレート28がない部分の下面側を、プレート28に沿って溝状に凹ませることによって設けられている。これにより、コンクリート本体26の体積を小さくし、プレキャスト床版24の軽量化やコストダウンを図っている。
【0019】
被覆板30は鉄板等であり、コンクリート本体26の下面に沿って密着し、下面全体を覆っている。さらに、内側面がプレート28の下端部28cに溶接等により接合されている。被覆板30は、落石による衝撃を吸収し、プレキャスト床版24の耐力性能を高めるとともに、コンクリート本体26の一部が通路Tに剥落するのを防止する。さらに、プレキャスト床版24を製作する際、コンクリート本体26を打設するための型枠として利用される。
【0020】
現場で床版層20を組み立てるときは、
図2、
図3に示すように、受け梁12の上面に必要数のプレキャスト床版24を敷き並べて通路Tの上方を覆う。そして、通路Tの幅方向に並ぶ複数のプレキャスト床版24を一体化させるため、
図6に示すように、各コンクリート本体26の上面から突出しているプレート28の上端部28bを、鉄筋等である複数の連結部材32を介して相互に固定する。このように連結部材32で固定することによって、通路Tの幅方向に並ぶプレキャスト床版24間のせん断抵抗力を向上させることができる。
【0021】
次に、通路Tの長さ方向に並ぶ複数のプレキャスト床版24を一体化させるため、各コンクリート本体26の上面から突出しているプレート28の上端部28bを、鉄筋等である複数の連結部材34を介して相互に固定する。このように連結部材34で固定することによって、通路Tの長さ方向に並ぶプレキャスト床版24間のせん断抵抗力を向上させることができる。さらに
図6では、複数の連結部材32も、連結部材36を介して相互に固定している。連結部材36は、連結部材34と同様の働きをする。
【0022】
床版層20上の現場打ちコンクリート層22は、プレート28及び連結部材32,34,36の全体が埋まるように打設されている。現場打ちコンクリート層22を設けることによって、屋根部18の強度が向上すると共に、敷設されたプレキャスト床版24間の目地をシールドすることができる。また、現場打ちコンクリート層22内に、床版層20のプレート28の上側部分が嵌合する形になるので、現場打ちコンクリート層22と床版層20の結合力を強くすることができる。
【0023】
このように、シェッド10の屋根部18は、床版層20と現場打ちコンクリート層22とで構成され、現場打ちコンクリート層22の上面が、落石や土砂等を受け止める防護面18aとなる。
【0024】
屋根部18の支柱16側の端部には、
図1(a)に示すように、後述する第一及び第二の緩衝材層や敷砂層の側面を支える囲い壁38が立設されている。なお、
図1(b)、
図2では、囲い壁38を省略してある。屋根部18の防護面18a上には、第二の緩衝層40が設けられている。第二の緩衝層40は、
図1、
図2に示すように、複数の緩衝用ブロック体42を敷き並べることにより形成される。
【0025】
緩衝用ブロック体42は、
図7に示すように、発泡スチロール等の小型樹脂発泡体44を組み合わせて形成した単位直方体であり、単位直方体の6つの面が、それぞれ金属製又は合成樹脂製の網体である6つのネット46で覆われている。ネット46は、対応する端辺同士が6面体の稜線部分に配され、図示しない連結具を用いて連結され、内側の小型樹脂発泡体44を包み込んでいる。なお、ネット46で6面を形成する構造は、複数の面を一枚のネット46で形成する構造にしてもよく、これによって、端辺同士を連結する手間を軽減することができる。
【0026】
緩衝用ブロック体42は、屋根部18の上面にほぼ隙間なく整列させて敷き並べられ、隣り合う緩衝用ブロック体42は、互いの側面を覆って対向するネット46の稜線部同士が連結具48を用いて連結され、相互に固定される。連結具48は螺旋状金属線が好適であり、例えば、緩衝用ブロック体42の端辺の長さに合わせて複数の連結部48を用意し、連結したい部分の双方の網目に通して絡ませることにより、緩衝用ブロック体42の稜線部を密に連結することができる。
【0027】
各緩衝用ブロック体42は、一定の剛性があるとともに伸縮性もあるネット46で表面が覆われているので、その拘束効果により一体となって変形可能である。しかも、隣り合う緩衝用ブロック体42のネット46同士が相互に連結されているので、特定の緩衝用ブロック体42が受けた衝撃を、効率よく周囲の緩衝用ブロック体42に分散させることができる。また、連結具48として螺旋状金属線を使用すると、一方のネット46が強く引っ張られたとき、螺旋状金属線が直径方向に伸縮又は変形するので、連結部分で破断しにくいものである。
【0028】
第二の緩衝層40上には、EVA樹脂発泡体で成る第一の緩衝層50が設けられている。EVA樹脂発泡体とは、エチレン・酢酸ビニル共重合樹脂を所定の発泡倍率で発泡させたものであり、発泡スチロール等の他の樹脂発泡体に比べると、弾性が高く、変形した後の形状復元性に優れている。第一の緩衝層50は、低硬度のEVA樹脂発泡体の層52の上面に高硬度のEVA樹脂発泡体の層54を配置した2層構造になっている。防護面18a側の低硬度のEVA樹脂発泡体の層52は、例えば硬度10〜20(ここではアスカーC硬度、以下単に硬度という)程のEVA樹脂発泡体で成る薄板を重ねることによって形成され、山の斜面Sに近い側の高硬度のEVA樹脂発泡体の層54は、例えば硬度40〜60程のEVA樹脂発泡体で成る薄板を重ねることによって形成される。
【0029】
さらに、第一の緩衝層50上には、
図1、
図2に示すように、第一の緩衝層50の上面を覆うように砂等を敷くことにより形成された保護層56が設けられている。保護層56は、第一の緩衝層50を遮光して保護すると共に、落石等の衝撃に対する緩衝性能を向上させる働きをする。敷砂による保護層56は、遮光性シートに置き換えてもよい。
【0030】
以上のように構成されたシェッド10によれば、屋根部18の防護面18aに、形状復元性に優れたEVA樹脂発泡体で成る第一の緩衝層50が設けられているので、複数の落石が連続した場合でも、防護面18aに加わる衝撃を小さく抑えることができる。
【0031】
また、第一の緩衝層50が、低硬度のEVA樹脂発泡体の層52と高硬度のEVA樹脂発泡体の層54とが厚み方向に重なって形成され、上層(最も斜面Sに近い側)に高硬度のEVA樹脂発泡体の層54が配置されているので、落石等の衝撃をより効果的に分散、吸収することができ、優れた緩衝性能を得ることができる。さらに、第一の緩衝層50の構造を変更し、
図8に示す第一の緩衝層58のように、防護面18aと低硬度のEVA樹脂発泡体の層52との間に、高硬度のEVA樹脂発泡体の層60を追加して3層構造にすれば、緩衝性能をさらに向上させることができる。その他、低硬度のEVA樹脂発泡体の層52を省略して、より厚みの厚い高硬度のEVA樹脂発泡体の層60を第一の緩衝層58として設けることにより、さらに大きな衝撃に耐え得るシェッド10を形成することもできる。
【0032】
次に、本発明の
擁壁の一実施形態について、
図9〜
図12に基づいて説明する。ここで、上記実施形態と同様の構成は、同一の符号を付して説明を省略する。この実施形態の擁壁62は、
図9、
図10に示すように、山の斜面Sに沿って設けられた通路Tの斜面S側の脇に設置され、通路Tを落石や土砂崩落から防護するものである。
【0033】
擁壁62は、コンクリート製の壁本体部64を有している。壁本体部64は、下端部が地面に埋設されて固定され、斜面S側の面(地面に対してぼ垂直に形成された面)が、落石や土砂等の斜面落下物を受け止める防護面64aとなる。
【0034】
防護面64aの斜面S側には、EVA樹脂発泡体で成る第一の緩衝層66が設けられている。第一の緩衝層66は、上記と同様に、低硬度のEVA樹脂発泡体の層52と高硬度のEVA樹脂発泡体の層54とを厚み方向に重ねた2層構造になっており、高硬度のEVA樹脂発泡体の層54の方が斜面Sに近い側に配置されている。
【0035】
さらに、第一の緩衝層66の斜面S側には、第一の緩衝層66の斜面S側の面を覆う保護層68が設けられている。保護層68は、複数の保護用ブロック体70により形成されている。
【0036】
保護用ブロック体70は、粒状体の集合物70a(砂や単粒度砕石等)を袋に入れ、これを直方体状の6面を有する金網枠70bの内側に詰めたものである。保護用ブロック体70は、第一の緩衝層66を覆うように積み重ねられ、上下及び左右に隣り合う保護用ブロック体70は、互いの金網枠70bの稜線部同士が連結具48で連結され、相互に固定される。上記の緩衝用ブロック体42の場合は、表面を覆うネット46に合成樹脂製の網体を使用することができるが、保護用ブロック体70の場合は、上下に積み重ねられるので、積み重ねられた状態で構造が安定するように、一定の剛性を有する金網枠70bが使用されている。下端に位置する保護用ブロック体70は、アンカー72で地面に固定されている
保護層68は、上記の保護層56と同様に、第一の緩衝層66を遮光して保護すると共に、落石等の衝撃に対する緩衝性能を向上させる働きをする。特に、各保護用ブロック体70は、一定の剛性があるとともに伸縮性のある金網で表面が覆われているので、その拘束効果により一体となって変形し、しかも、隣り合う保護用ブロック体70の金網枠70b同士が相互に連結されているので、特定の保護用ブロック体70が受けた衝撃を、効率よく周囲の保護用ブロック体70に分散させることができる。また、連結具48として螺旋状金属線が使用され、一方の金網枠70bが強く引っ張られたとき、螺旋状金属線が直径方向に伸縮又は変形するので、破断しにくい。
【0037】
さらに、
図9に示すように、擁壁62の終端部に位置する第一の緩衝層66の側端面は、保護用ブロック体70と同様のブロック体を積み重ねて成る小口止め部74に覆われて保護されている。また、
図9、
図10では、第一の緩衝層66の上側端面が露出しているが、この部分は図示しない遮光性シート等で覆って保護することが好ましい。
【0038】
以上のように構成された擁壁62によれば、壁本体部64の防護面64aに、形状復元性に優れたEVA樹脂発泡体で成る第一の緩衝層66が設けられているので、複数の落石が連続した場合でも、防護面64aに加わる衝撃を小さく抑えることができる。
【0039】
また、第一の緩衝層66が、低硬度のEVA樹脂発泡体の層52と高硬度のEVA樹脂発泡体の層54とが厚み方向に重なって形成され、斜面Sに近い側に高硬度のEVA樹脂発泡体の層54が配置されているので、落石等の衝撃をより効果的に分散、吸収することができ、優れた緩衝性能を得ることができる。
【0040】
さらに、
図11に示す第一の緩衝層76のように、壁本体部64の防護面64aと低硬度のEVA樹脂発泡体の層52との間に、高硬度のEVA樹脂発泡体の層78を追加して3層構造にすれば、防護面64aに作用する衝撃をより広く分散させ、第一の緩衝層66よりもさらに緩衝性能を向上させることができる。
【0041】
なお、本発明の保護構造物は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、上記のシェッド10は、緩衝性能を高くするため、第一の緩衝層50に加えて独特の第二の緩衝層40及び保護層56が設けられているが、構造を簡単化するため、第二の緩衝層40及び保護層56を省略してもよい。また、第二の緩衝層40の小型樹脂発泡体44として、EVA樹脂発泡体を使用してもよい。
【0042】
上記の擁壁62は、緩衝性能を高くするため、第一の緩衝層66に加えて独特の保護層68が設けられているが、構造を簡単化するため、保護層68を省略してもよい。
【0043】
また、擁壁62の場合、コンクリート製の壁本体部64を備えているが、
図12(a)に示す擁壁82のように、壁本体用ブロック体84を積み重ねて壁本体部86を形成し、壁本体部86の斜面S側の面を防護面86aとしてもよい。壁本体用ブロック体86は、砂や現地発生土86aを袋に入れ、これを直方体状の6面を有する金網枠86bの内側に詰めたものである。壁本体部86の構造は、上述した保護層68とほぼ同様であるが、壁本体としての一定以上の強度を確保するため、個々の壁本体用ブロック体86のサイズが保護用ブロック体70よりも大型に形成される。さらに、
図12(b)に示すように、壁本体部86、第一の緩衝層66、及び保護層68の下端部を地面に埋設する構造に変更することによって、アンカー72を使用するよりも固定強度を強くすることができる。壁本体用ブロック体84で成る壁本体部86は、コンクリート製の壁本体部64よりも景観性に優れ、例えば植物を植えて緑化することも可能である。また、施工時にコンクリートを打設する工程が省略できるので、天候に左右されず効率よく作業を行うことができる。さらに、壁本体部86の一部に破損箇所が発見された場合、その部分の壁本体用ブロック体84だけを交換すればよいので、メンテナンスが容易である。また、壁本体部86と保護部68が、小口止め部74と連結具48により接続され、一体化できるという利点もある。
【実施例】
【0044】
第一の実施形態のシェッド10に関し、第一の緩衝層50,58と、発泡スチロールを金網のネット46で覆った緩衝用ブロック体42を試作し、緩衝性能を評価する実験を行った。なお、実験に使用した低硬度のEVA樹脂発泡体(硬度16)、高硬度のEVA樹脂発泡体(硬度50)、及び発泡スチロール(密度0.16kN/m
3)の個々の応力−歪み特性の測定値は、
図13に示す通りである。
【0045】
まず、EVA樹脂発泡体と発泡スチロールの形状復元性を評価するため、各素材で成る小型直方体ブロックの初期の厚み寸法d1と、小型直方体ブロックに対して厚み方向に一定の荷重を加え、荷重を取り除いて10分経過したときの厚み寸法d2とを測定し、形状復元率d2/d1を算出した。
【0046】
【表1】
表1の実験結果より、EVA樹脂発泡体の方が発泡スチロールよりも優れた形状復元性を有していると言うことができる。
【0047】
次に、緩衝用ブロック体42のサイズ(2050mm×2050mm×520mm)の発泡スチロールを用意し、6面を金網で覆ったサンプルと覆わないサンプルについて、それぞれ厚み方向の応力−歪み特性を測定した。
【0048】
図14の測定結果より、金網で覆った発泡スチロールサンプルの方が、同じ歪みを与えた時に発生する応力が大きいので、エネルギー吸収性が優れていると言うことができる。
【0049】
次に、6面を金網で覆った発泡スチロールの上面に、第一の緩衝層50(低硬度のEVA樹脂発泡体の層の上面に高硬度のEVA樹脂発泡体の層を重ねたもの)を設けたタイプAと、第一の緩衝層58(低硬度のEVA樹脂発泡体の層を2つの高硬度のEVA樹脂発泡体の層の間に挟むように重ねたもの)を設けたタイプBについて、それぞれ応力−歪み特性を測定した。
【0050】
図15の測定結果より、タイプAは、6面を金網で覆った発泡スチロール(
図14のデータを参照)よりもエネルギー吸収性が格段に向上しており、第一の緩衝層50を設けることの効果が非常に大きいと言うことができる。また、タイプBは、タイプAよりもエネルギー吸収性が向上しており、高硬度と低硬度のEVA樹脂発泡体を重ねる数を増やすことによる効果が表れている。