特許第6341888号(P6341888)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6341888ポリヒドロキシウレタン樹脂及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6341888
(24)【登録日】2018年5月25日
(45)【発行日】2018年6月13日
(54)【発明の名称】ポリヒドロキシウレタン樹脂及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 71/04 20060101AFI20180604BHJP
   C08G 18/30 20060101ALI20180604BHJP
【FI】
   C08G71/04
   C08G18/30
【請求項の数】7
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2015-133435(P2015-133435)
(22)【出願日】2015年7月2日
(65)【公開番号】特開2017-14413(P2017-14413A)
(43)【公開日】2017年1月19日
【審査請求日】2017年5月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002820
【氏名又は名称】大日精化工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000238256
【氏名又は名称】浮間合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 薫
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【弁理士】
【氏名又は名称】竹山 圭太
(72)【発明者】
【氏名】武藤 多昭
(72)【発明者】
【氏名】木村 千也
(72)【発明者】
【氏名】高橋 賢一
(72)【発明者】
【氏名】宇留野 学
(72)【発明者】
【氏名】谷川 昌志
(72)【発明者】
【氏名】花田 和行
【審査官】 松浦 裕介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−111796(JP,A)
【文献】 特開2015−007197(JP,A)
【文献】 特開2011−105827(JP,A)
【文献】 特表2013−530297(JP,A)
【文献】 特開2000−319504(JP,A)
【文献】 特開昭62−285910(JP,A)
【文献】 特許第5277233(JP,B2)
【文献】 特開2008−291143(JP,A)
【文献】 N. KIHARA, N. HARA, Y. ENDO,Catalystic Activity of Various Salts in the Reaction of 2,3-Epoxypropyl Phenyl Ether and Carbon Dioxide under Atmospheric Pressure ,J. Org. Chem.,米国,American Chemical Society,1993年,第58巻,第6198頁−第6202頁
【文献】 N. KIHARA, Y. ENDO,Synthesis and Properties of Poly(hydroxyurethane)s,Journal of Polymer Science, Part A Polymer Chemistry,JOHN WILEY & SONS, INC.,1993年,第31巻第11号,第2765頁−第2773頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC C08G 18/00 − 18/87
C08G 71/00 − 71/04
DB名 CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
五員環環状カーボネート構造を有するカーボネート化合物と、二以上のアミノ基を有するアミン化合物との重付加反応によって製造される、熱可塑性を有するポリヒドロキシウレタン樹脂であって、
前記カーボネート化合物が、下記一般式(1)で表される化合物I及び下記一般式(2)で表される化合物IIを、I:II=20:80〜80:20の質量比で含むポリヒドロキシウレタン樹脂。
(前記一般式(1)中、X1は、炭素数1〜20の炭化水素基を示し、その構造中に−O−、−CO−、−CH2−、−C(CH2)−、−SO2−、−CO−O−、及び−NH−CO−O−のいずれかを含んでいてもよい。X2は、炭素数1〜20のアルキレン基又はアリーレン基を示し、その構造中に−O−、−CO−、−CH2−、−C(CH2)−、−SO2−、−CO−O−、及び−NH−CO−のいずれかを含んでいてもよい。Zは、水素原子又は炭素数1〜10のアルキル基を示し、mは1〜10を示し、nは1〜200を示す)
(前記一般式(2)中、Aはベンゼン骨格、芳香族多環骨格、及び縮合多環骨格のいずれかを含む構造を示し、その構造中に−O−、−CO−、−CH2−、−C(CH2)−、及び−SO2−のいずれかを含んでいてもよい)
【請求項2】
前記化合物I及び前記化合物IIが、それぞれ、エポキシ化合物と二酸化炭素の反応によって形成された二酸化炭素由来の構造部分を含むとともに、
樹脂中の前記二酸化炭素由来の構造部分の含有量が、樹脂全体を基準として、17〜30質量%である請求項1に記載のポリヒドロキシウレタン樹脂。
【請求項3】
前記一般式(1)中のX2が、下記一般式(3)で表される請求項1又は2に記載のポリヒドロキシウレタン樹脂。
(前記一般式(3)中、Bは炭素数1〜20のアルキレン基又はアリーレン基を示す)
【請求項4】
前記一般式(2)中のAが、下記式で表される構造のいずれかである請求項1〜3のいずれか一項に記載のポリヒドロキシウレタン樹脂。
(前記式中、Rは水素原子又はメチル基を示す)
【請求項5】
重量平均分子量が10,000〜100,000であり、25℃における破断強度が20MPa以上であり、25℃における破断伸度が200%以上であり、水酸基価が50〜200mgKOH/gである請求項1〜4のいずれか一項に記載のポリヒドロキシウレタン樹脂。
【請求項6】
前記化合物Iが、ポリカーボネートポリオール、イソシアネート化合物、及びグリセリンカーボネートにより合成されたものである請求項1〜5のいずれか一項に記載のポリヒドロキシウレタン樹脂。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載のポリヒドロキシウレタン樹脂の製造方法であって、
前記カーボネート化合物と、前記アミン化合物とを重付加反応させる工程を有するポリヒドロキシウレタン樹脂の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原料の一部に二酸化炭素を用いて製造され、その構造中に二酸化炭素に由来する構造部分を含むポリヒドロキシウレタン樹脂、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化が深刻な問題となっており、その対応が急務となっている。地球温暖化は、化石燃料などの利用により大気中の二酸化炭素濃度が急激に上昇していることが原因とされている。このため、地球温暖化問題を解決するには大気中の二酸化炭素濃度を低減することが有効であり、具体的には、二酸化炭素の排出量を削減する取り組みが行われている。また、二酸化炭素を工業的に利用し、各種製品の原料として利用する試みも行われている。
【0003】
二酸化炭素を原料の一つとして用いて合成される樹脂として、二酸化炭素とエポキシドの交互重合によって製造される脂肪族ポリカーボネートが知られている(非特許文献1)。しかしながら、得られる脂肪族ポリカーボネートはゴム状物質でありポリプロピレン等の汎用樹脂に置き換えられるものではなかった。そこで、他の樹脂とブレンドしたブレンドポリマーや、無機フィラーの分散など(特許文献1及び2)が検討されている。しかしながら、製造される樹脂中の二酸化炭素に由来する構造部分の含有量が低下するといった課題があった。
【0004】
一方、二酸化炭素を原料の一つとして用いて合成される樹脂として、ポリヒドロキシウレタン樹脂が知られている(非特許文献2及び3)。このポリヒドロキシウレタン樹脂は、五員環環状構造を有するカーボネート化合物と、アミン化合物とを用いて合成される。五員環環状を有するカーボネート化合物は二酸化炭素を原料として合成されるため、製造されるポリヒドロキシウレタン樹脂中に二酸化炭素を固定することが可能である。しかし、二酸化炭素を原料の一つとして用いて合成されるポリヒドロキシウレタン樹脂は、前述の脂肪族ポリカーボネートとは異なり、水酸基の凝集力のために硬くて脆いといった特性を有するため、その用途が限定されるといった課題があった。
【0005】
ポリヒドロキシウレタン樹脂の硬さ及び脆さを改善すべく、例えば、エーテル結合を含む長鎖の二価の有機基を有するアミン化合物を原料として用いることが提案されている(特許文献3)。また、長鎖の有機基を有する五員環環状構造を有するカーボネート化合物を原料として用いることが提案されている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第4912149号明細書
【特許文献2】国際公開第2010/053110号
【特許文献3】特許第3840347号公報
【特許文献4】特許第5277233号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】S.Inoue,H.koinuma,T.Tsuruta,J.Polym.Sci,Polym.Lett.Ed.7,287(1969)
【非特許文献2】N.Kihara,T.Endo,J.Org.Chem.,1993,58,6198
【非特許文献3】N.Kihara,T.Endo,J.Polymer Sci.,PartA Polymer Chem.,31(11),2765(1993)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献3及び4で提案された方法により、機械的物性が改善されたポリヒドロキシウレタン樹脂を得ることは可能ではあった。しかしながら、得られる樹脂中への二酸化炭素の固定量が減少してしまい、大気中の二酸化炭素濃度の低減への寄与度が低下するため、環境対応製品としては課題の残るものであった。
【0009】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、二酸化炭素を原料の一つとして用いながらも、成形材料、接着剤、塗料、及びコーティング剤などの工業材料に求められる十分な強度及び柔軟性を有するとともに、金属や他の樹脂等に対する密着性が良好であり、かつ、二酸化炭素由来の構造部分の含有率が高い、環境対応性に優れたポリヒドロキシウレタン樹脂を提供することにある。また、本発明の課題とするところは、上記のポリヒドロキシウレタン樹脂の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、本発明によれば、以下に示すポリヒドロキシウレタン樹脂が提供される。
[1]五員環環状カーボネート構造を有するカーボネート化合物と、二以上のアミノ基を有するアミン化合物との重付加反応によって製造される、熱可塑性を有するポリヒドロキシウレタン樹脂であって、前記カーボネート化合物が、下記一般式(1)で表される化合物I及び下記一般式(2)で表される化合物IIを、I:II=20:80〜80:20の質量比で含むポリヒドロキシウレタン樹脂。
【0011】
(前記一般式(1)中、X1は、炭素数1〜20の炭化水素基を示し、その構造中に−O−、−CO−、−CH2−、−C(CH2)−、−SO2−、−CO−O−、及び−NH−CO−O−のいずれかを含んでいてもよい。X2は、炭素数1〜20のアルキレン基又はアリーレン基を示し、その構造中に−O−、−CO−、−CH2−、−C(CH2)−、−SO2−、−CO−O−、及び−NH−CO−のいずれかを含んでいてもよい。Zは、水素原子又は炭素数1〜10のアルキル基を示し、mは1〜10を示し、nは1〜200を示す)
【0012】
(前記一般式(2)中、Aはベンゼン骨格、芳香族多環骨格、及び縮合多環骨格のいずれかを含む構造を示し、その構造中に−O−、−CO−、−CH2−、−C(CH2)−、及び−SO2−のいずれかを含んでいてもよい)
【0013】
[2]前記化合物I及び前記化合物IIが、それぞれ、エポキシ化合物と二酸化炭素の反応によって形成された二酸化炭素由来の構造部分を含むとともに、樹脂中の前記二酸化炭素由来の構造部分の含有量が、樹脂全体を基準として、17〜30質量%である前記[1]に記載のポリヒドロキシウレタン樹脂。
[3]前記一般式(1)中のX2が、下記一般式(3)で表される前記[1]又は[2]に記載のポリヒドロキシウレタン樹脂。
【0014】
(前記一般式(3)中、Bは炭素数1〜20のアルキレン基又はアリーレン基を示す)
【0015】
[4]前記一般式(2)中のAが、下記式で表される構造のいずれかである前記[1]〜[3]のいずれかに記載のポリヒドロキシウレタン樹脂。
【0016】
(前記式中、Rは水素原子又はメチル基を示す)
[5]重量平均分子量が10,000〜100,000であり、25℃における破断強度が20MPa以上であり、25℃における破断伸度が200%以上であり、水酸基価が50〜200mgKOH/gである前記[1]〜[4]のいずれかに記載のポリヒドロキシウレタン樹脂。
[6]前記化合物Iが、ポリカーボネートポリオール、イソシアネート化合物、及びグリセリンカーボネートにより合成されたものである前記[1]〜[5]のいずれかに記載のポリヒドロキシウレタン樹脂。
【0017】
また、本発明によれば、以下に示すポリヒドロキシウレタン樹脂の製造方法が提供される。
[7]前記[1]〜[6]のいずれかに記載のポリヒドロキシウレタン樹脂の製造方法であって、前記カーボネート化合物と、前記アミン化合物とを重付加反応させる工程を有するポリヒドロキシウレタン樹脂の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明のポリヒドロキシウレタン樹脂は、二酸化炭素を原料の一つとして用いながらも、成形材料、接着剤、塗料、及びコーティング剤などの工業材料に求められる十分な強度及び柔軟性を有するとともに、金属や他の樹脂等に対する密着性が良好であり、かつ、二酸化炭素由来の構造部分の含有率が高い、環境対応性に優れたものである。また、本発明のポリヒドロキシウレタン樹脂の製造方法によれば、上記のポリヒドロキシウレタン樹脂を簡便に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<ポリヒドロキシウレタン樹脂>
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。本発明のポリヒドロキシウレタン樹脂は、五員環環状カーボネート構造を有するカーボネート化合物と、二以上のアミノ基を有するアミン化合物との重付加反応によって製造される、熱可塑性を有する樹脂である。また、五員環環状カーボネート構造を有するカーボネート化合物は、下記一般式(1)で表される化合物I、及び下記一般式(2)で表される化合物IIの二種類を必須成分として含む。
【0020】
(前記一般式(1)中、X1は、炭素数1〜20の炭化水素基を示し、その構造中に−O−、−CO−、−CH2−、−C(CH2)−、−SO2−、−CO−O−、及び−NH−CO−O−のいずれかを含んでいてもよい。X2は、炭素数1〜20のアルキレン基又はアリーレン基を示し、その構造中に−O−、−CO−、−CH2−、−C(CH2)−、−SO2−、−CO−O−、及び−NH−CO−のいずれかを含んでいてもよい。Zは、水素原子又は炭素数1〜10のアルキル基を示し、mは1〜10を示し、nは1〜200を示す)
【0021】
(前記一般式(2)中、Aはベンゼン骨格、芳香族多環骨格、及び縮合多環骨格のいずれかを含む構造を示し、その構造中に−O−、−CO−、−CH2−、−C(CH2)−、及び−SO2−のいずれかを含んでいてもよい)
【0022】
本発明のポリヒドロキシウレタン樹脂は、カーボネート化合物とアミン化合物を、例えば、以下に示すようなスキームにしたがって重付加反応させることで製造することができる。
【0023】
【0024】
化合物Iは、その構造中にエポキシ化合物と二酸化炭素の反応(交互共重合反応)によって形成された二酸化炭素由来の構造部分(繰り返し単位)を含む。この化合物Iを用いると、ポリウレタン樹脂のソフトセグメントを形成するための一般的なポリオールを用いた場合と同様に、柔軟性に優れたポリヒドロキシウレタン樹脂を得ることができる。また、化合物Iには二酸化炭素由来の構造部分が含まれているため、化合物Iを用いることで、得られるポリヒドロキシウレタン樹脂の二酸化炭素含有率を高く維持することができる。
【0025】
化合物IIは、その構造中に芳香族環を有するため、この化合物IIを用いると、分子間力による凝集力を持ったセグメントを有するポリヒドロキシウレタン樹脂を得ることができる。なお、化合物Iによって形成されるユニットは、凝集力が弱く自由に動けるため、化合物Iと化合物IIを適切な割合で用いることにより、柔軟性及び強度を使用目的に合わせて適切に制御したポリヒドロキシウレタン樹脂を得ることができる。例えば、樹脂構造中の化合物Iに由来するユニットの含有量が多すぎると、強度が不足する場合がある。一方、樹脂構造中の化合物Iに由来するユニットの含有量が少なすぎると、柔軟性が不足する場合がある。このため、本発明においては、化合物I及び化合物IIを、I:II=20:80〜80:20の質量比で含むカーボネート化合物を用いる。化合物Iと化合物IIの割合を上記の範囲内で必要とされる特性に合わせて適宜設計することで、目的とする特性を有するポリヒドロキシウレタン樹脂を得ることができる。
【0026】
化合物I及び化合物IIは、それぞれ、エポキシ化合物と二酸化炭素の反応によって形成された二酸化炭素由来の構造部分を含む。そして、本発明のポリヒドロキシウレタン樹脂は、環境対応の点から二酸化炭素由来の構造部分をより多く含有していることが好ましく、具体的には、樹脂中の二酸化炭素由来の構造部分の含有量が、樹脂全体を基準として17〜30質量%であることが好ましい。必須成分として用いる化合物I及び化合物IIのいずれも、二酸化炭素を原料として製造される化合物である。このため、両者の使用比率を変えても、得られるポリヒドロキシウレタン樹脂中の二酸化炭素由来の構造部分の含有量はさほど変化せず、一定以上の水準に維持することができる。したがって、使用目的に合わせた機械物性等の特性を得るために化合物I及び化合物IIの使用量を高い自由度で適宜調整することができる。
【0027】
ウレタン樹脂を一般的なプラスチックの代替材料として使用するためには、優れた機械強度及び柔軟性を有することが要求される。本発明のポリヒドロキシウレタン樹脂の25℃における破断強度は、通常、20MPa以上である。また、本発明のポリヒドロキシウレタン樹脂の25℃における破断伸度は、通常、200%以上である。そして、本発明のポリヒドロキシウレタン樹脂は、二酸化炭素由来の構造部分の含有量を高い水準に維持しながらも、機械強度及び柔軟性を高い自由度で変化させることができる。また、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される、本発明のポリヒドロキシウレタン樹脂のポリスチレン換算の重量平均分子量は、10,000〜100,000であることが好ましい。
【0028】
(アミン化合物)
二以上のアミノ基を有するアミン化合物としては、従来公知のいずれの化合物であっても用いることができる。アミン化合物の好適例としては、エチレンジアミン、1,3−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノブタン、1,6−ジアミノへキサン、1,8−ジアミノオクタン、1,10−ジアミノデカン、1,12−ジアミノドデカンなどの鎖状脂肪族ポリアミン;イソホロンジアミン、ノルボルナンジアミン、1,6−シクロヘキサンジアミン、ピペラジンなどの環状脂肪族ポリアミン;キシリレンジアミンなどの芳香環を持つ脂肪族ポリアミン;2,5−ジアミノピリジン、メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタンなどの芳香族ポリアミンなどを挙げることができる。これらのアミン化合物は、得られるポリヒドロキシウレタン樹脂の機械物性に合わせて適宜選択して用いることができる。なかでも、得られるポリヒドロキシウレタン樹脂の二酸化炭素由来の構造部分の含有量を多くするためには、より分子量の小さいアミン化合物を用いることが好ましい。
【0029】
ポリヒドロキシウレタン樹脂中の二酸化炭素由来の構造部分の含有量を多くするほど、水酸基の数も多くなる。水酸基はポリヒドロキシウレタン樹脂の特徴の一つであり、水酸基を有することで、ポリヒドロキシウレタン樹脂は従来のウレタン樹脂にはない性能を有する。本発明のポリヒドロキシウレタン樹脂の水酸基価は、50〜200mgKOH/gであることが好ましい。
【0030】
水酸基の機能性として例えば、金属表面には水酸基が存在している。このため、その構造中に極性基を有する樹脂は、極性基を有しない樹脂に比して、金属に対する密着性が良好である。本発明のポリヒドロキシウレタン樹脂も、主鎖中に水酸基を有するために金属に対する密着性が良好である。
【0031】
(化合物I)
化合物Iの構造は、前記一般式(1)で表される。そして、前記一般式(1)中のX2は、下記一般式(3)で表されることが好ましい。
【0032】
(前記一般式(3)中、Bは炭素数1〜20のアルキレン基又はアリーレン基を示す)
【0033】
一般式(3)中、Bで表される炭素数1〜20のアルキレン基としては、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基などを挙げることができる。また、アリーレン基としては、フェニル基、ビフェニル−ジイル基、ナフタレン−ジイル基などを挙げることができる。
【0034】
化合物Iは、例えば、ポリオール、イソシアネート化合物、及びグリセリンカーボネートを反応させることによって合成することができる。具体的には、まず、ポリオールとジイソシアネート化合物を、イソシアネート基が水酸基に対して過剰となる配合比で混合し、20〜150℃の温度で理論イソシアネート%になるまで反応させる。これにより、ポリオールの末端にイソシアネート化合物が結合した、主鎖の両末端にイソシアネート基を有する化合物を得ることができる。次いで、グリセリンカーボネートを加えて20〜150℃の温度で1〜24時間反応させれば、化合物Iを得ることができる。
【0035】
また、グリセリンカーボネートに代えて、グリシドールを反応させても化合物Iを合成することができる。すなわち、ポリオールとイソシアネート化合物の反応生成物にグリシドールを結合させた後、後述する方法によりエポキシ基と二酸化炭素を反応させて五員環環状カーボネート基を形成することで、化合物Iを得ることができる。この場合、グリセリンカーボネートを用いた場合よりも、得られるポリヒドロキシウレタン樹脂中の二酸化炭素由来の構造部分の含有量を高めることができる。
【0036】
ポリオールとしては、ポリカーボネートポリオールを用いることが好ましい。さらに、ポリカーボネートポリオールとしては、エポキシ化合物と二酸化炭素の交互共重合反応によって形成された繰り返し単位を含むポリカーボネートポリオールを用いることが好ましい。上記のポリカーボネートポリオールは、エチレングリコールやプロピレングリコールなどの多官能アルコール類を開始物質として用いるとともに、二重金属シアン化物触媒などの存在下、エポキシ化合物に、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、1,2−ブチレンオキシド、又はこれらの誘導体と、二酸化炭素とを反応させることで製造することができる。なかでも、二酸化炭素由来の構造部分の含有量を高める観点からは、エチレンオキシドやプロピレンオキシドをエポキシ化合物として用いて製造されたポリカーボネートポリオールを用いることが好ましい。また、反応開始剤として、グリセリン、トリメチロールプロパン、1,2,4−ブタントリオール、エリスリトール、ペンタエリスリトールなどの3官能以上の多価アルコールを使用することもできる。
【0037】
上記のポリカーボネートポリオールは、例えば、1〜10MPa程度の二酸化炭素高圧力雰囲気下、60〜200℃で製造することができる。上記の反応では、二酸化炭素が共重合しないエポキシ化合物の重合体であるエーテルユニットが副反応によって生成する。このため、エーテルユニットがなるべく生成しない製造処方で製造されたポリカーボネートポリオールを用いることが好ましい。ポリカーボネートポリオールとしては、市場から入手したものを用いることもできる。
【0038】
イソシアネート化合物としては、従来公知のポリイソシアネートを用いることができる。イソシアネート化合物の具体例としては、トルエン−2,4−ジイソシアネート、4−メトキシ−1,3−フェニレンジイソシアネート、4−イソプロピル−1,3−フェニレンジイソシアネート、4−クロル−1,3−フェニレンジイソシアネート、4−ブトキシ−1,3−フェニレンジイソシアネート、2,4−ジイソシアネートジフェニルエーテル、4,4’−メチレンビス(フェニレンイソシアネート)(MDI)、トリレンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート(XDI)、1,5−ナフタレンジイソシアネート、ベンジジンジイソシアネート、o−ニトロベンジジンジイソシアネート、4,4’−ジイソシアネートジベンジルなどの芳香族ジイソシアネート;メチレンジイソシアネート、1,4−テトラメチレンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、1,10−デカメチレンジイソシアネートなどの脂肪族ジイソシアネート;1,4−シクロヘキシレンジイソシアネート、4,4−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、1,5−テトラヒドロナフタレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水添MDI、水添XDIなどの脂環式ジイソシアネート;これらのジイソシアネートと、低分子量のポリオール又はポリアミンとを、末端がイソシアネートとなるように反応させて得られるポリウレタンプレポリマーなどを挙げることができる。
【0039】
上記の反応の際には、必要に応じて触媒を加えてもよい。触媒としては、例えば、ジブチルチンラウレート、ジオクチルチンラウレート、スタナスオクトエート、オクチル酸亜鉛、テトラn−ブチルチタネートなどの、金属と有機酸又は無機酸との塩;有機金属誘導体;トリエチルアミンなどの有機アミン;ジアザビシクロウンデセン系触媒などを挙げることができる。
【0040】
化合物Iは、溶剤を用いずに合成してもよく、有機溶剤を用いて合成してもよい。有機溶剤としては、イソシアネート基に対して不活性な有機溶剤や、イソシアネート基に対して反応成分よりも低活性な有機溶剤を用いることができる。有機溶剤の具体例としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶剤;トルエン、キシレン、スワゾール(商品名、コスモ石油社製)、ソルベッソ(商品名、エクソン化学社製)などの芳香族系炭化水素溶剤;n−ヘキサンなどの脂肪族系炭化水素溶剤;ジオキサン、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチルなどのエステル系溶剤;エチレングリコールエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、3−メチル−3−メトキシブチルアセテート、エチル−3−エトキシプロピオネートなどのグリコールエーテルエステル系溶剤;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどのアミド系溶剤;N−メチル−2−ピロリドンなどのラクタム系溶剤などを挙げることができる。
【0041】
また、以下に示す合成方法によっても、化合物Iを合成することができる。まず、ポリカーボネートポリオールの水酸基にエピクロルヒドリンを反応させ、エポキシ基を有するポリカーボネートを得る。次いで、エポキシ基に二酸化炭素を反応させて五員環環状カーボネート基を形成することで、化合物Iを得ることができる。
【0042】
(化合物II)
化合物IIの構造は、前記一般式(2)で表される。そして、前記一般式(2)中のAは、下記式で表される構造のいずれかであることが好ましい。
【0043】
(前記式中、Rは水素原子又はメチル基を示す)
【0044】
化合物IIは、例えば、下記式のようにエポキシ化合物と二酸化炭素とを反応させることによって合成することができる。具体的には、原材料であるエポキシ化合物を、触媒の存在下、0〜160℃、大気圧〜1MPa程度に加圧した二酸化炭素雰囲気下で4〜24時間反応させることにより、化合物IIを得ることができる。
【0045】
【0046】
エポキシ化合物と二酸化炭素との反応の際に用いられる触媒としては、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、ヨウ化ナトリウムなどの塩類や、4級アンモニウム塩などを挙げることができる。触媒の使用量は、エポキシ化合物100質量部に対して、1〜50質量部とすることが好ましく、1〜20質量部とすることがさらに好ましい。また、触媒として用いる塩類の溶解性を向上させるべく、トリフェニルホスフィンなどを併用してもよい。
【0047】
エポキシ化合物と二酸化炭素は、有機溶剤の存在下で反応させることもできる。有機溶剤としては、触媒を溶解しうるものであればよい。有機溶剤の具体例としては、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドンなどのアミド系溶剤;メタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコールなどのアルコール系溶剤;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶剤を挙げることができる。
【0048】
化合物Iはポリヒドロキシウレタン樹脂のソフトセグメントを構成するモノマーであるのに対し、化合物IIはハードセグメントを構成するモノマーである。このため、化合物IIは、その構造中にベンゼン骨格、芳香族多環骨格、及び縮合多環骨格のいずれかを含む化合物である。化合物IIの好適な具体例としては、下記式(2−1)〜(2−7)で表される化合物を挙げることができる。
【0049】
(前記式中、Rは水素原子又はメチル基を示す)
【0050】
(その他のカーボネート化合物)
五員環環状カーボネート構造を有するカーボネート化合物としては、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、上述の化合物I及び化合物II以外のカーボネート化合物(その他のカーボネート化合物)を用いることができる。その他のカーボネート化合物としては、脂肪族又は脂環族の環状カーボネート化合物を用いることができる。その他のカーボネート化合物の具体例としては、下記式(3−1)〜(3−8)で表される化合物を挙げることができる。
【0051】
(前記式中、Rは水素原子又はメチル基を示す)
【0052】
(その他)
本発明のポリヒドロキシウレタン樹脂は、必要に応じて、添加剤を加えて得られる樹脂組成物として用いることができる。添加剤としては、例えば、酸化防止剤(ヒンダードフェノール系、ホスファイト系、チオエーテル系など)、光安定剤(ヒンダードアミン系など)、紫外線吸収剤(ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系など)、ガス変色安定剤(ヒドラジン系など)、加水分解防止剤(カルボジイミドなど)、金属不活性剤などを挙げることができる。これらの添加剤は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0053】
また、本発明のポリヒドロキシウレタン樹脂は、必要に応じて、種々の架橋剤によって樹脂構造中の水酸基を架橋した架橋樹脂として用いることができる。架橋剤としては、水酸基と反応しうるものを用いることができる。架橋剤としては、例えば、尿素樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ポリイソシアネート、酸無水物、アルキルチタネート化合物などを挙げることができる。
【0054】
<ポリヒドロキシウレタン樹脂の製造方法>
本発明のポリヒドロキシウレタン樹脂の製造方法は、上述してきたポリヒドロキシウレタン樹脂の製造方法であって、前述のカーボネート化合物と、前述のアミン化合物とを重付加反応させる工程を有する。上記の工程では、例えば、溶剤の存在下又は非存在下、化合物I及び化合物IIを所定の割合で含む五員環環状カーボネート構造を有するカーボネート化合物と、アミン化合物とを、40〜200℃で4〜24時間反応させる。これにより、目的とするポリヒドロキシウレタン樹脂を得ることができる。
【0055】
上記の工程で溶剤を用いる場合、この溶剤は、使用する原料及び得られるポリヒドロキシウレタン樹脂に対して不活性な有機溶剤であればよい。有機溶剤としては、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、トルエン、キシレン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、パークロルエチレン、トリクロルエチレン、メタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテルなどを挙げることができる。
【0056】
溶剤の存在下で製造されたポリヒドロキシウレタン樹脂は、そのまま(溶剤が存在したまま)の状態で、塗料やコーティング材料などとして用いることもできる。用途に適した溶剤に置換するため、又は成形材料として用いるために、例えば、貧溶媒を添加してポリヒドロキシウレタン樹脂を沈殿させて回収したり、加熱して溶剤を揮発させたりすることもできる。
【0057】
上記の工程においては、反応を促進させるべく、触媒の存在下で反応させることも好ましい。触媒としては、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ジアザビシクロウンデセン(DBU)、トリエチレンジアミン(DABCO)、ピリジンなどの塩基性触媒;テトラブチル錫、ジブチル錫ジラウリレートなどのルイス酸触媒などを用いることができる。触媒の使用量は、カーボネート化合物とアミン化合物の合計100質量部に対して、0.01〜10質量部とすることが好ましい。
【実施例】
【0058】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。
【0059】
<カーボネート化合物の製造>
(製造例1:化合物(I))
撹拌機、温度計、ガス導入管、及び還流冷却器を備えた反応容器に、エポキシ当量190g/eqのビスフェノールAジグリシジルエーテル(商品名「YD−128」、新日鉄住金化学社製)100部、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)100部、及びヨウ化ナトリウム(和光純薬製)20部を入れて均一に溶解させた。撹拌下、炭酸ガスを0.5L/minの速度で導入しながら、100℃で10時間反応させた。反応後、イソプロピルアルコール2,000部を加えて析出した白色沈殿をろ取し、乾燥機で乾燥して白色の粉末を得た。
【0060】
赤外分光光度計(商品名「FT−720」、堀場製作所社製)を使用して得られた粉末をIR分析したところ、910cm-1付近の原材料のエポキシ基由来の吸収ピークが消失し、新たに1800cm-1付近にカーボネート基(カルボニル基)由来の吸収ピークが生じていることが分かった。このため、得られた粉末は、エポキシ基と二酸化炭素との反応により形成された環状構造のカーボネート基を有する、下記式(I)で表される化合物(化合物(I))と確認された。下記式(I)から算出される、化合物(I)中の二酸化炭素由来の構造部分の割合(二酸化炭素含有率)は、20.6%であった。
【0061】
【0062】
(製造例2:化合物(II))
ビスフェノールAジグリシジルエーテルに代えて、ハイドロキノンジグリシジルエーテル(商品名「デナコール EX203」、ナガセケムテックス社製)を用いたこと以外は、前述の製造例1と同様にして、下記式(II)で表される化合物(化合物(II))を得た。下記式(II)から算出される二酸化炭素含有率は、28.4%であった。
【0063】
【0064】
(製造例3:化合物(III))
ビスフェノールAジグリシジルエーテルに代えて、エポキシ当量471g/eqのポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル(商品名「デナコール EX931」、ナガセケムテックス社製)を用いたこと以外は、前述の製造例1と同様にして、下記式(III)で表される化合物(化合物(III))を得た。下記式(III)から算出される二酸化炭素含有率は、8.54%であった。
【0065】
【0066】
(製造例4:化合物(IV))
撹拌機、温度計、及び還流冷却器を備えた反応容器に、二酸化炭素とプロピレンオキサイドより合成されたポリプロピレンカーボネートジオール(商品名「Converge polyol 212−20」、NOVOMER社製)100部、及びヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)16.82部を入れた。固形分30%になるようにN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)を入れて均一に溶解させた後、60℃で7時間反応させた。NCO%が1.08%となったことを確認した後、グリセリンカーボネート11.8部を加え、さらに5時間反応させた。IRにて2,260cm-1付近のNCOピークが消失していることを確認して、化合物(IV)を得た。得られた化合物(IV)は、下記式(1−1)で表される構造を有し、その数平均分子量は2,500であった。なお、下記式(1−1)中のmは2であり、nは、数平均分子量が2,500となる数である。
【0067】
【0068】
<ポリヒドロキシウレタン樹脂の製造>
(実施例1)
撹拌機、温度計、及び還流冷却器を備えた反応容器を用意して内部を窒素置換した後、製造例1で得た化合物I 80部、製造例4で得たIV 20部、及びヘキサメチレンジアミン(HMD)22.6部を入れた。固形分が35%となるようにDMFを入れて均一に溶解させた後、撹拌しながら80℃で10時間反応させてポリヒドロキシウレタン樹脂の溶液を得た。反応後の溶液の一部をメタノール中に注いで析出させた生成物をろ過して回収し、80℃で24時間乾燥してポリヒドロキシウレタン樹脂を得た。得られた樹脂をIR分析したところ、1800cm-1付近のカーボネート基(カルボニル基)由来の吸収ピークが消失しており、新たに1760cm-1付近にウレタン結合のカルボニル基由来の吸収ピークが生じていることが分かった。また、得られた樹脂の水酸基価は178.2mgKOH/gであった。以上より、目的とするポリヒドロキシウレタン樹脂が得られていることを確認した。なお、テトラヒドロフラン(THF)を移動相とするGPCにより測定した樹脂の重量平均分子量は35,000であった。
【0069】
(実施例2)
製造例1で得た化合物I 50部、製造例4で得たIV 50部、及びHMD 15.8部を用いたこと以外は、前述の実施例1と同様にしてポリヒドロキシウレタン樹脂の溶液、及びポリヒドロキシウレタン樹脂を得た。得られた樹脂の水酸基価は132.0mgKOH/gであり、重量平均分子量は40,000であった。
【0070】
(実施例3)
製造例1で得た化合物I 20部、製造例4で得たIV 80部、及びHMD 9.04部を用いたこと以外は、前述の実施例1と同様にしてポリヒドロキシウレタン樹脂の溶液、及びポリヒドロキシウレタン樹脂を得た。得られた樹脂の水酸基価は80.1mgKOH/gであり、重量平均分子量は40,000であった。
【0071】
(実施例4)
撹拌機、温度計、及び還流冷却器を備えた反応容器を用意して内部を窒素置換した後、製造例2で得た化合物II 50部、製造例4で得た化合物IV 50部、及びエチレンジアミン(EDA)10.9部を入れた。上記以外は前述の実施例1と同様にして、ポリヒドロキシウレタン樹脂の溶液、及びポリヒドロキシウレタン樹脂を得た。得られた樹脂の水酸基価は182.7mgKOH/gであり、重量平均分子量は25,000であった。
【0072】
(比較例1)
撹拌機、温度計、及び還流冷却器を備えた反応容器を用意して内部を窒素置換した後、製造例1で得た化合物I 100部、及びHMD 14.4部を入れた。上記以外は前述の実施例1と同様にして、ポリヒドロキシウレタン樹脂の溶液、及びポリヒドロキシウレタン樹脂を得た。得られた樹脂の水酸基価は206.3mgKOH/gであり、重量平均分子量は35,000であった。
【0073】
(比較例2)
撹拌機、温度計、及び還流冷却器を備えた反応容器を用意して内部を窒素置換した後、製造例1で得た化合物I 50部、製造例3で得た化合物III 50部、及びHMD 19.2部を入れた。上記以外は前述の実施例1と同様にして、ポリヒドロキシウレタン樹脂の溶液、及びポリヒドロキシウレタン樹脂を得た。得られた樹脂の水酸基価は110.0mgKOH/gであり、重量平均分子量は30,000であった。
【0074】
(比較例3)
撹拌機、温度計、及び還流冷却器を備えた反応容器を用意して内部を窒素置換した後、1,3ブタンジオール(1,3BD)50部、ポリプロピレンカーボネートジオール(商品名「Converge polyol 212−20」、NOVOMER社製)50部、及びHMD 97.4部を入れた。上記以外は前述の実施例1と同様にして、ウレタン樹脂の溶液及びウレタン樹脂を得た。得られた樹脂の重量平均分子量は40,000であった。
【0075】
<評価>
(二酸化炭素(CO2)含有率)
樹脂の化学構造中における、原料由来の二酸化炭素に由来する構造部分(セグメント)の占める割合を二酸化炭素(CO2)含有率(質量%)として算出した。具体的には、樹脂を製造する際に使用したモノマー中の二酸化炭素の理論量を二酸化炭素含有率として算出した。実施例1で得た樹脂を例に挙げると、化合物(I)中の二酸化炭素由来の構造部分は20.6%、化合物(IV)中の二酸化炭素由来の構造部分は33.6%であるため、実施例1で得た樹脂の二酸化炭素含有率は、(80部×20.6%+20部×33.6%)/122.6部=18.9%となる。同様にして実施例2〜4及び比較例1〜3で得た樹脂の二酸化炭素含有率を算出した。結果を表1に示す。
【0076】
(ガラス転移点(Tg)及び融点(Tm))
示差走査熱量計(リガク製)を使用した熱分析により、製造した樹脂のガラス転移点(Tg(℃))及び融点(Tm(℃))を測定した。結果を表1に示す
【0077】
(破断強度及び破断伸度)
樹脂溶液を離型紙上に塗布した後、乾燥して溶媒を除去することで厚さ約50μmのフィルム(試験片)を作製した。作製した試験片につき、オートグラフ(商品名「AGS−J」、島津製作所社製)を使用し、JIS K−6251に準拠した測定方法によって室温(25℃)における破断強度(MPa)及び破断伸度(%)を測定した。結果を表1に示す。
【0078】
(密着性)
アルミ板、アルミ箔、及び100μmPETフィルムに、乾燥時の膜厚が20μmになるように樹脂溶液をそれぞれ塗布した後、100℃で乾燥して塗膜を形成した。そして、それぞれの塗膜の密着性を以下の基準で評価した。
【0079】
[アルミ板]
セロファンテープを使用し、JIS K−5400に準拠した100マス碁盤目試験を行った。そして、以下に示す評価基準にしたがってアルミ板に対する塗膜の密着性を評価した。結果を表1に示す。
○:剥離部分がない。
△:全体の10%以下に剥離が確認される。
×:全体の10%を超えて剥離が確認される。
【0080】
[アルミ箔/PETフィルム]
塗膜表面の一部にセロファンテープを圧着した後、ゆっくりと手で引き剥がして塗膜の剥がれ具合を観察し、以下に示す評価基準にしたがってアルミ箔及びPETフィルムに対する塗膜の密着性を評価した。結果を表1に示す。
○:塗膜の剥離がない。
△:塗膜の一部が剥離した。
×:塗膜が全部剥離した。
【0081】
【0082】
表1に示すように、実施例1〜4の樹脂は、二酸化炭素含有率が高く維持されながらも強度及び柔軟性に優れていることが分かる。また、実施例1〜4の樹脂は、金属及びPETに対する密着性が良好であった。金属表面は、通常、空気中の水分などとの反応によって生じた水酸基で覆われていると考えられる。このため、樹脂の水酸基と金属表面の水酸基とが相互作用し、密着性が良好になったと考えられる。さらに、実施例1〜4の樹脂は、従来のポリヒドロキシウレタン樹脂である比較例1の樹脂に比して、柔軟性に優れていることが分かる。このため、基材から引き剥がされる際に生ずる応力が緩和されやすくなり、従来のポリヒドロキシウレタン樹脂にはなかったアルミ箔やPETフィルムに対する密着性を示したと考えられる。
【0083】
一方、比較例1の樹脂は、二酸化炭素含有率は高いが、破断伸度の値が小さく、固く脆い樹脂であることが分かる。また、比較例3の樹脂は金属に対する密着性が低く、比較例1及び3の樹脂は、いずれも実施例1〜4の樹脂よりも性能が劣っていることが分かる。さらに、比較例2の樹脂は、実施例1〜4の樹脂と同程度の強度、柔軟性、及び密着性を有するが、二酸化炭素含有率が低く、環境対応の面で劣っていることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明のポリヒドロキシウレタン樹脂は、環境対応性に優れているとともに、十分な強度及び柔軟性を有し、かつ、種々の材料に対する密着性にも優れているため、例えば、成形材料、接着剤、塗料、コーティング剤などに用いることができる。