特許第6341902号(P6341902)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6341902
(24)【登録日】2018年5月25日
(45)【発行日】2018年6月13日
(54)【発明の名称】耐水試験装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 17/00 20060101AFI20180604BHJP
   G01M 99/00 20110101ALI20180604BHJP
【FI】
   G01N17/00
   G01M99/00 Z
【請求項の数】8
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-235600(P2015-235600)
(22)【出願日】2015年12月2日
(65)【公開番号】特開2017-102018(P2017-102018A)
(43)【公開日】2017年6月8日
【審査請求日】2017年7月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000108797
【氏名又は名称】エスペック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100480
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 隆
(72)【発明者】
【氏名】榎 浩之
【審査官】 萩田 裕介
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭60−017448(JP,U)
【文献】 特開昭63−238447(JP,A)
【文献】 特許第3427840(JP,B1)
【文献】 実開昭50−092290(JP,U)
【文献】 特開2008−089564(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 17/00
G01M 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被試験物に直接的又は間接的に放水する放水機能を備えた耐水試験装置において、
被試験物を設置する試験室と、空気導入部と空気吹き出し部を有すると共に内部に空調機器が収容された空調部を有し、当該空調部は前記空気導入部と空気吹き出し部を介して試験室と連通し、試験室内の空気が空気導入部から空調部に導入され、空調機器で空調されて空気吹き出し部から試験室に戻されることによって試験室内を空調可能であり、
空気導入部と空気吹き出し部の少なくとも一方に水滴飛散防止板が設けられ、
当該水滴飛散防止板は独立した多数の小開口が設けられた部材であることを特徴とする耐水試験装置。
【請求項2】
断熱壁で覆われた断熱箱を有し、断熱箱の内部に縦壁状の仕切り部材が設けられていて断熱箱内が前記試験室と空調部に仕切られており、
前記仕切り部材の下部に前記空気導入部があり、当該空気導入部に前記水滴飛散防止板が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の耐水試験装置。
【請求項3】
被試験物に直接的又は間接的に放水する放水機能を備えた耐水試験装置において、
被試験物を設置する試験室と、空気導入部と空気吹き出し部を有すると共に内部に空調機器が収容された空調部を有し、当該空調部は前記空気導入部と空気吹き出し部を介して試験室と連通し、試験室内の空気が空気導入部から空調部に導入され、空調機器で空調されて空気吹き出し部から試験室に戻されることによって試験室内を空調可能であり、
断熱壁で覆われた断熱箱を有し、断熱箱の内部に縦壁状の仕切り部材が設けられていて断熱箱内が前記試験室と空調部に仕切られており、
前記仕切り部材の下部に前記空気導入部があり、当該空気導入部に水滴飛散防止板が設けられていることを特徴とする耐水試験装置。
【請求項4】
水滴飛散防止板は、面積が3平方ミリメートル乃至50平方ミリメートルの開口が平面的に多数分布するものであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の耐水試験装置。
【請求項5】
水滴飛散防止板は、円形又は多角形であり内接円の直径が2mm乃至8mmの開口が平面的に多数分布するものであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の耐水試験装置。
【請求項6】
床部を有し、当該床部であって、空気導入部よりも空調部側の位置に水集め用の空調部側凹部があり、当該凹部内に排水口が設けられていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の耐水試験装置。
【請求項7】
床部を有し、当該床部であって、空気導入部よりも空調部側の位置に水集め用の空調部側凹部があり、前記床部であって、空気導入部よりも試験室側の位置に試験室側凹部があり、前記空調部側凹部と前記試験室側凹部は溝で繋がっており、前記空調部側凹部と前記試験室側凹部の少なくともいずれかに排水口が設けられていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の耐水試験装置。
【請求項8】
空気吹き出し部に水滴飛散防止板が設けられていることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の耐水試験装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機器の耐水I 性を試験する耐水試験装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
時計や携帯電話等の日用品や、電気機械器具等には耐水性が要求されるものがある。また自動車の部品や、車載用機器にも耐水性が要求されるものが多い。
ここで本明細書において耐水性とは、例えば一般に「生活防水」と称される様な比較的程度の低い耐水性を含む。
例えば日本工業規格には、電気機械器具の外郭の保護等級の一つとして、水の侵入に対する保護等級(JIS 0920)が定められている。
JIS 0920:2003によると、保護等級は、0級から8級まで規定されている。例えば1級では、垂直に滴下する水に対して保護されていることが要求され、3級では、散水に対して保護されていることが要求される。5級では噴流に対して保護され、6級では暴噴流に対して保護されていることが要求されている。
【0003】
また自動車の部品や、車載用機器に対する耐水性試験方法が、IPX9K(ISO20653 JISD5020)に規定されている。
IPX9Kに規定された試験は、自動車を高圧スチーム洗車した場合を想定した耐水試験であり、過酷な試験である。
【0004】
IPX9Kに規定された試験条件は、次の通りである。
(1)被試験物を回転台に載せて、5プラスマイナス1rpmで回転させる。
(2)試料とノズルとの距離は10乃至15cm。
(3)垂直に対して0度、30度、60度、90度の各位置で30秒噴流する。
(4)水量は14乃至16L/min。
(5)水圧は8000乃至10000KPa。
(6)水温は摂氏80度プラスマイナス5度。
(7)試験時間は2分。
【0005】
従来技術においては、排水設備を有する試験室又は屋外にターンテーブルを設置し、ターンテーブルに被試験物を載置して回転し、ノズルから被試験物に水を吹きつけてIPX9Kに規定された試験を実施していた。
【0006】
また耐水試験装置に関する発明が特許文献1に開示されている。特許文献1に開示された発明は、被試験物を水中に沈めて行う試験装置であり、IPX9Kに規定された試験を行うものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実開平2−12647号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記したIPX9Kの規格では、被試験物の回転条件や、水圧等が細かく規定されている。しかしながら前記した規格には、被試験物自体の温度や、周囲の気温等については規定がない。
そのため従来技術においては、前記した様に排水設備を有する試験室等にターンテーブルを設置し、ターンテーブルに被試験物を載置して回転し、ノズルから被試験物に水を吹きつけてIPX9Kに規定された試験を実施していた。
試験開始時における被試験物自体の温度や、周囲の気温等については、JISD5020の8.1項に規定がある。JISD5020の規定は、23度プラスマイナス5度であり、常温であって許容範囲の広い規定である。
【0009】
これに対して、被試験物自体の温度や、周囲の気温等を厳密に規定した上で、耐水試験を実施したいという要求がある。また常温域を離れた過酷な気温の元で耐水試験を実施したいという要求もある。
例えば極寒の地方で洗車を行ったり、熱帯地方や砂漠地帯で洗車を行う場合があり、この様な特殊環境下における耐水性を知りたい場合がある。
【0010】
そこで本発明者らは、空調機能を備えた試験室を試作し、ターンテーブルをこの試験室に設置した。そして空調機器を駆動して試験室の温度を一定に保ち、被試験物の温度を周囲の温度に馴染ませた後に、ノズルから被試験物に水を吹きつけてIPX9Kに規定された試験を実施した。
【0011】
ところがその結果、発明者らが予期しなかった問題が発生した。
即ちIPX9Kに規定された試験は、相当の水圧で水を被試験物に噴射する。ノズルから放出された水は、被試験物に当たるものが多いが、被試験物が回転しているため、被試験物を外れて直接、試験室の床や壁に吹きつけられるものも多い。
そのため床や壁、天井、被試験物等に当たって跳ね返った水が、空調機器側に回り込む事態や、上部の風向部材(レジスタ、ガラリ)や送風機部に付着する事態が発生することがあった。空調機器側に回り込んだ水は、冷凍機の蒸発器やヒータ等の加熱器に付着し、温度制御を行う際の熱負荷となってしまう。
そのため試作した耐水試験装置は、無駄な電力消費を要するものであった。また試作した耐水試験装置は、試験室内の温度を所望の温度とするのに予想以上に時間が掛かってしまうものであった。
【0012】
本発明は、試作した耐水試験装置を改良するものであり、電力消費が少なく、且つ試験室内を所望の環境にするのに要する時間が短い耐水試験装置を開発することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記した課題を解決するための請求項1に記載の発明は、被試験物に直接的又は間接的に放水する放水機能を備えた耐水試験装置において、被試験物を設置する試験室と、空気導入部と空気吹き出し部を有すると共に内部に空調機器が収容された空調部を有し、当該空調部は前記空気導入部と空気吹き出し部を介して試験室と連通し、試験室内の空気が空気導入部から空調部に導入され、空調機器で空調されて空気吹き出し部から試験室に戻されることによって試験室内を空調可能であり、空気導入部と空気吹き出し部の少なくとも一方に水滴飛散防止板が設けられ、当該水滴飛散防止板は独立した多数の小開口が設けられた部材であることを特徴とする耐水試験装置である。
【0014】
「被試験物に直接的又は間接的に放水する」とは、水を垂直に滴下する放水、散水状の放水、噴流や暴噴流に相当する放水を含む概念である。
「独立した小開口」とは、ガラリ(風向部材)の開口の様な幅方向に連続する開口を除く概念である。「小開口」は、空気導入部と空気吹き出し部の面積に対して十分に小さい開口を意味する。
「小開口」の一つの開口面積は、空気導入部と空気吹き出し部の面積の0.1パーセント未満である。
本発明の耐水試験装置では、空調部は空気導入部と空気吹き出し部を介して試験室と連通している。そして本発明の耐水試験装置では、空気導入部と空気吹き出し部の少なくとも一方に水滴飛散防止板が設けられている。
ここで水滴飛散防止板は独立した多数の小開口が設けられた部材であるから、空気は容易に通過するが、床や壁で跳ね返った水は遮られる。
そのため空調部に水が侵入しにくく、空調部の蒸発器や加熱器に水が付着することが防止され、温度制御を行う際の熱負荷が小さい。
【0015】
請求項2に記載の発明は、断熱壁で覆われた断熱箱を有し、断熱箱の内部に縦壁状の仕切り部材が設けられていて断熱箱内が前記試験室と空調部に仕切られており、前記仕切り部材の下部に前記空気導入部があり、当該空気導入部に前記水滴飛散防止板が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の耐水試験装置である。
【0016】
耐水試験装置では、被試験物に放水する機器が必要である。水は被試験物の上や横から放水する必要から、放水機器の一部又は全部は被試験物の上にある。一方、試験室内の温度等を整えるためには、被試験物から遠い位置から試験室に空調後の空気を導入することが望ましい。
この観点から、耐水試験装置では、試験室の上部寄りの位置から空調された空気を吹き出し、下部寄りの位置から試験室内の空気を空調部に導入することが望ましい。
ところが、試験室の下部側に空気導入部が設けられたレイアウトを採用すると、床で跳ね返った水が空気導入部から空調部に吸い込まれてしまう。
そこで本発明では、仕切り部材の下部に空気導入部を設け、空気導入部に水滴飛散防止板を設置した。
本発明によると、試験室内の温度等を円滑に調整でき、空調部に水が侵入することが少ない。
【0017】
請求項3に記載の発明は、被試験物に直接的又は間接的に放水する放水機能を備えた耐水試験装置において、被試験物を設置する試験室と、空気導入部と空気吹き出し部を有すると共に内部に空調機器が収容された空調部を有し、当該空調部は前記空気導入部と空気吹き出し部を介して試験室と連通し、試験室内の空気が空気導入部から空調部に導入され、空調機器で空調されて空気吹き出し部から試験室に戻されることによって試験室内を空調可能であり、断熱壁で覆われた断熱箱を有し、断熱箱の内部に縦壁状の仕切り部材が設けられていて断熱箱内が前記試験室と空調部に仕切られており、前記仕切り部材の下部に前記空気導入部があり、当該空気導入部に水滴飛散防止板が設けられていることを特徴とする耐水試験装置である。
【0018】
本発明の耐水試験装置は、前記した発明と同様の機能を発揮するものであり、仕切り部材の下部に空気導入部を設け、空気導入部に水滴飛散防止板を設置したので、試験室内の温度等を円滑に調整でき、且つ空調部に水が侵入することが少ない。
【0019】
水滴飛散防止板に設けられる開口が大きすぎると、跳ね返った水の侵入を阻止することができない。
また、水滴飛散防止板の開口が過度に小さい場合は、水の表面張力の作用により、開口に水膜ができてしまうことがある。そして通風によって水膜が破壊されると、それが水滴となって空調部に吸い込まれてしまう。
さらに水滴飛散防止板の開口が過度に小さい場合は、試験室に空調された空気が回らない問題もある。即ち開口の面積が小さすぎると開口を通過する際の空気抵抗が大きくなり槽内の循環風量の低下を招くこととなる。
この様な理由から、開口の大きさは、水膜が形成されない程度に小さいことが望ましい。
【0020】
この観点から完成された請求項4に記載の発明は、水滴飛散防止板は、面積が3平方ミリメートル乃至50平方ミリメートルの開口が平面的に多数分布するものであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の耐水試験装置である。
【0021】
また請求項5に記載の発明は、水滴飛散防止板は、円形又は多角形であり内接円の直径が2mm乃至8mmの開口が平面的に多数分布するものであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の耐水試験装置である。
【0022】
請求項6に記載の発明は、床部を有し、当該床部であって、空気導入部よりも空調部側の位置に水集め用の空調部側凹部があり、当該凹部内に排水口が設けられていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の耐水試験装置である。
【0023】
本発明の耐水試験装置では、空気導入部よりも空調部側の位置に水集め用の凹部がある。そのため空調部側に入り込んだ水が水集め用の凹部に溜まる。また水集め用の凹部内に排水口が設けられているので溜まった水は円滑に排水される。
【0024】
請求項7に記載の発明は、床部を有し、当該床部であって、空気導入部よりも空調部側の位置に水集め用の空調部側凹部があり、前記床部であって、空気導入部よりも試験室側の位置に試験室側凹部があり、前記空調部側凹部と前記試験室側凹部は溝で繋がっており、前記空調部側凹部と前記試験室側凹部の少なくともいずれかに排水口が設けられていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の耐水試験装置である。
【0025】
床で跳ね返った水は水滴飛散防止板に当たり、水滴飛散防止板に沿って落下する。本発明の耐水試験装置では、空気導入部よりも試験室側の位置に試験室側凹部がある。そのため水滴飛散防止板に沿って落下した水は、試験室側凹部で捕捉される。
また本発明の耐水試験装置においては、空気導入部よりも空調部側の位置にも水集め用の凹部がある。そのため空調部側に入り込んだ水が水集め用の凹部に溜まる。
本発明の耐水試験装置では、空調部側凹部と前記試験室側凹部とが溝で繋がっているから、いずれかに溜まった水は少なくとも空調部側凹部と前記試験室側凹部のいずれかに設けられた排水口から排水される。
【0026】
空気吹き出し部に水滴飛散防止板が設けられていることが望ましい(請求項8)。
【発明の効果】
【0027】
本発明の耐水試験装置は、跳ね返った水が空調部側に回り込み難いので、空調機器に悪影響を与えず、電力消費が少なく、且つ試験室内を所望の環境にするのに要する時間が短い。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の実施形態の耐水試験装置の斜視図である。
図2図1の耐水試験装置の正面扉を開いた状態における試験室の正面図である。
図3】(a)は図1の耐水試験装置を概念的に表した断面図であり、(b)(c)は耐水試験装置の変形例を示し、試験室の開口端と正面扉との関係を図示した断面図であり、(b)は正面扉が試験室の開口を封鎖した状態を示し、(c)は正面扉が試験室の開口から離れた状態を示す。
図4図1の耐水試験装置の試験室を図3のA−A断面方向から観察した正面図(図2の正面図から放水装置及びターンテーブルを省略した状態の正面図)である。
図5図1の耐水試験装置の断熱箱の断面斜視図である。
図6図1の耐水試験装置の空気吹き出し部に設けられた風向部材と上部側水滴飛散防止板との位置関係を説明する説明図である。
図7図1の試験室の仕切り壁の下部近傍の断面斜視図である。
図8】本発明の他の実施形態の耐水試験装置の試験室の空気吹き出し部近傍の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下さらに本実施形態の耐水試験装置1について説明する。耐水試験装置1は、試験機器部2と、環境調整部3によって構成されている。
試験機器部2は、前記したIPX9K規格に則った装置であり、図2図3の様に、放水装置5と、ターンテーブル6を有している。
放水装置5は、図2の様にノズル7a,7b,7c,7dを有している。
即ち放水装置5は、扇型のノズル保持板8を有している。ノズル保持板8は、約90度の角度のカーブを描いた板である。
【0030】
そして保持板8の正面に4個のノズル7a,7b,7c,7dが取り付けられている。4個のノズル7a,7b,7c,7dは、それぞれ噴射方向が異なっている。即ちノズル7aは、垂直に対して0度方向(垂直下方向)に向けて水を噴射するものである。ノズル7bは、垂直に対して30度方向に向けて水を噴射するものであり、ノズル7cは、垂直に対して60度方向に向けて水を噴射するものである。ノズル7dは、垂直に対して90度方向に向けて水を噴射するものである。
各ノズル7a,7b,7c,7dには図示しないホースが接続されており、さらにホースは図示しない給水源及び電磁弁に接続されている。
本実施形態では、各ノズル7a,7b,7c,7dから所定の圧力で所定の流量の水が放出される。
各ノズル7a,7b,7c,7dはいずれもターンテーブル6に載置される被試験物(図示せず)に向いており、各ノズル7a,7b,7c,7dから放出された水は、被試験物に直接当たる。
【0031】
ターンテーブル6は、基台部10と載置テーブル11によって構成されている。基台部10には図示しないモータ及び減速機が内蔵されている。減速機の出力軸12は、基台部10から上方に突出し、載置テーブル11に接続されている。載置テーブル11は円板状の部材であり、減速機の出力軸12に接続されている。
載置テーブル11は、基台部10のモータによって低速で回転する。
【0032】
環境調整部3は、断熱壁33によって覆われた断熱箱13を有している。断熱箱13は、6面が断熱壁によって覆われた空間である。
具体的には、断熱箱13は、正面扉20、奥壁21、天面壁22、床部23、左右側壁25によって覆われている。正面扉20は、断熱箱13の本体部分に設けられた開口27を覆うものである。本実施形態では、本体部分に設けられた開口27の下縁に小さな堰28が設けられている。
堰28は、図3(a)に示すように断熱箱13の断熱壁により構成されていてもよいし、図3(b)、(c)に示すように、床部23に取り付けられた板状の部材により構成されていてもよい。
【0033】
また断熱箱13の床部23には奥壁21に向かって下がる傾斜が設けられていることが望ましい。ただし傾斜の角度は緩く、一般の流れ勾配よりも小さい。なお流れ勾配は、2乃至3パーセント程度の勾配である。本実施形態の床部23に設けられた傾斜は、それよりも小さく2パーセント未満であることが望ましい。
傾斜は2%に限定されるものではない。また断熱箱13の床部23には傾斜がなく、本体の扉側のアジャスタ(図示せず)の調整で水が空調部側に流れるようにしてもよい。
本実施形態では、断熱箱13の内部に仕切り板26が設けられており、内部が試験室30と空調部31に仕切られている。
本実施形態では仕切り板26は縦壁状であり、断熱箱13の奥壁21と平行に配置されている。従って断熱箱13の奥壁21と仕切り板26の間には空調部31となる空間がある。
仕切り板26の側面は、断熱箱13の左右側壁25と接している。
【0034】
仕切り板26の上下には開口が設けられている。本実施形態では、仕切り板26の上部に設けられた開口が、空気吹き出し部16として機能し、仕切り板26の下部に設けられた開口が、空気導入部17として機能する。
空調部31は、断熱箱13の奥壁21と仕切り板26の間で構成される空間である。空調部31は、空気導入部17から空気吹き出し部16に向かう一連の空調通風路であり、その内部に冷却装置35、加熱装置36、及び送風機37等の空調機器が内蔵されている。ここで冷却装置35は、冷凍機40の蒸発器である。加熱装置36は電気ヒータである。
【0035】
また空調部31の空気吹き出し部16の近傍に、温度センサー41と湿度センサー42が設けられている。
温度センサー41は、空調部31の空気吹き出し部16の近傍に設けられており、空調部31で調整された直後の空気の温度を検知することができる。また温度センサー41の検知温度は、試験室30内の現実の温度であると言える。
湿度センサー42は、空調部31で調整された直後の空気の相対湿度を検知することができる。
【0036】
本実施形態で採用する環境調整部3は、空調部31が空気導入部17と空気吹き出し部16を介して試験室30と連通し、空調部31と試験室30を含む一連の循環経路が形成されている。
そして試験室30内の空気が送風機37によって空気導入部17から空調部31に導入される。空調部31内に導入された空気は、内部の空調機器(冷却装置35、加熱装置36及び送風機37)で空調されて空気吹き出し部16から試験室30に戻される。その結果、試験室30の温度が所望の温度に調整される。
【0037】
本実施形態で採用する環境調整部3は、空気吹き出し部16に、公知の風向部材45が設けられている。風向部材45は、ガラリであり、短冊状の風向板46が複数並列状に設置された部材である。各風向板46は軸47(図5参照)を中心として手動で揺動させることができ、揺動角度を手動で変更することができる。
風向部材45は、短冊状の風向板46同士の隙間から風を送風するものである。風向板46同士の隙間は、細長いスリットであり、試験室30の幅方向に連通する開口である。
風向部材45は、風向板46同士によって形成される開口の向きを変更することができる。
【0038】
本実施形態では、風向部材45の試験室30側に、上部側水滴飛散防止板50が設けられている。上部側水滴飛散防止板50は、ステンレススチール等の錆びにくい素材で作られた板であり、円形の小開口51が多数設けられている。
小開口51の開口面積は、前記した風向板46同士によって形成される開口に比べて著しく小さい。
小開口51の直径は、2mm乃至8mmであり、より好ましくは5mm乃至7mmである。本実施形態では、小開口51の直径は6mmである。
小開口51の面積は、3平方ミリメートル乃至50平方ミリメートルである。
小開口51が大き過ぎると、水滴の侵入を許してしまうので好ましくない。また小開口51が小さ過ぎると、通風時の抵抗が大きくなってしまう。また小開口51が小さ過ぎると、表面張力によって水膜が形成されることがあり、好ましくない。
【0039】
上部側水滴飛散防止板50は、風向部材45より試験室30側にあって、風向部材45の試験室30側を全面的に覆っている。
上部側水滴飛散防止板50は風向部材45に対して平行に設置されており、図3図5の様に傾斜姿勢で取り付けられている。
【0040】
また本実施形態では、下部側の空気導入部17に下部側水滴飛散防止板52が設けられている。
下部側水滴飛散防止板52の材質及び小開口53の大きさは、上部側水滴飛散防止板50と同じである。下部側水滴飛散防止板52は垂直姿勢で空気導入部17に取り付けられている。下部側水滴飛散防止板52の下面と、断熱箱13の床部23との間には、通水可能な程度の隙間55がある。
また、下部側水滴飛散防止板52の材質及び小開口53の大きさは、上部側水滴飛散防止板50と異なっていてもよい。
また上部側水滴飛散防止板50及び下部側水滴飛散防止板52に設けられた小開口53の大きさ及び形状は、同一のものである必要はなく、大きさや形状の異なるものが混在していてもよい。
【0041】
また下部側水滴飛散防止板52の近傍の床部23に注目すると、下部側水滴飛散防止板52を境としてその前後に溝56,57が設けられている。
即ち断熱箱13の床部23であって、空気導入部17よりも試験室30側の位置に試験室側凹部56がある。試験室側凹部56は、試験室30の幅方向に延びる溝であり、空気導入部17に沿って延びている。試験室側凹部56の長さは、試験室30の全幅に及んでいる。
また断熱箱13の床部23であって、空気導入部17よりも空調部31側の位置に空調部側凹部57がある。空調部側凹部57は、試験室30の幅方向に延びる溝であり、空気導入部17に沿って延びている。空調部側凹部57の長さは、試験室30の全幅に及んでいる。
なお試験室側凹部56及び空調部側凹部57の長さは試験室30の全幅に及んでいることが望ましいが、これよりも短くてもよい。即ち試験室側凹部56及び空調部側凹部57は、試験室30の全幅に及んでいることが望ましいが、水を集めて排水できればよい。なお床部23に、多少水が床に残っても特に悪い影響はない。
【0042】
試験室側凹部56と空調部側凹部57の間は、図7の様に複数の溝60で繋がっている 。
また試験室側凹部56と空調部側凹部57にはそれぞれ排水口61,62が設けられている。
【0043】
本実施形態の耐水試験装置1では、試験機器部2が環境調整部3の試験室30内に設置されている。即ちターンテーブル6の基台部10が、試験室30の床部23に設置され、載置テーブル11が、試験室30の中央部にある。放水装置5のノズル保持板8は、載置テーブル11の側方にあり、載置テーブル11を囲う位置にある。
以下、耐水試験装置1を使用した耐水試験について説明する。
耐水試験は、試験機器部2のターンテーブル6に被試験物を固定して実施する。より具体的には、環境調整部3の正面扉20を開き、ターンテーブル6の載置テーブル11に図示しない治具を使用して被試験物を固定する。
【0044】
そして正面扉20を閉じて試験室30を密閉状態とし、空調部31内の空調機器(冷却装置35、加熱装置36及び送風機37)を起動して試験室30を所望の温度に調整する。
空調部31内の空調機器が起動されると、試験室30内の空気が送風機37によって空気導入部17から空調部31に吸入される。そして空気は、空調部31内を通過し、その間に温度調節されて空気吹き出し部16から試験室30に吐出される。
空気は、試験室30と空調部31を含む一連の循環路を循環し、試験室30内の温度が設定された温度に収斂する。
また試験室30内に設置された被試験物の温度も所望の温度となる。
【0045】
被試験物の温度が所望の温度に至ると、空調機器(冷却装置35、加熱装置36及び送風機37)を停止する。続いて、試験機器部2を駆動して実際の試験を開始する。即ちターンテーブル6の載置テーブル11を回転して被試験物を回転しつつ、各ノズル7a,7b,7c,7dから順次放水する。各ノズル7a,7b,7c,7dはいずれも、被試験物の方向に向けられており、各ノズル7a,7b,7c,7dから被試験物に直接的に放水される。
即ちノズル7aから30秒放水され、その後にノズル7bから30秒放水され、さらにその後、ノズル7c,7dから30秒ずつ放水される。
【0046】
各ノズル7a,7b,7c,7dからの放水が終了すると、耐水試験を終了する。
ここで各ノズル7a,7b,7c,7dから放水された水は、試験室30の内壁に当たり飛散する。特に試験室30の床部23に当たった水は、床部23で跳ね返る。
しかしながら本実施形態では、空調部31の入口たる下部側の空気導入部17に下部側水滴飛散防止板52が設けられており、空気導入部17が実質的に塞がれている。そのため水が床部23に当たって跳ね返っても空気導入部17内に水が入りにくい。
【0047】
即ち床部23に当たって跳ね返った水は、下部側水滴飛散防止板52に当たって下部側水滴飛散防止板52で止まり、重力によって落下して下部の試験室側凹部56に落ちる。そして試験室側凹部56に設けられた排水口61から外部に排出される。
【0048】
なお本実施形態では、床部23に傾斜が設けられているが、この傾斜は流れ勾配よりも小さく、床部23にはある程度の水が溜まる構造となっている。そのため各ノズル7a,7b,7c,7dから放出された水は、床部23に直接衝突せず、溜まった水と衝突する。そのため床部23に溜まった水が緩衝材として機能し、床部23からの水の跳ね返りは比較的少ない。
【0049】
また本実施形態では、下部側水滴飛散防止板52に設けられた小開口53の直径は、6mmである。この開口の大きさは、空気を通過させるのには十分な大きさであり、試験室30内の空気を空調部31側に吸入する際の抵抗が小さい。
またこの小開口53の大きさは、水膜を形成するには大きすぎる大きさであり、小開口53に水膜が発生しにくい。そのため水膜が破壊されてできた水滴が空調部31側に吸い込まれることは少ない。
【0050】
また本実施形態では、空調部31によって形成される空調通風路は、上下方向に向いている。これに対して、空気導入部17は水平方向に開いている。そのため空気導入部17から導入された試験室30内の空気は、空調部31に入った途端に方向を換えることとなる。そのため比重の大きい水滴は、断熱箱13の奥壁21と衝突し、奥壁21に付着する。そして水滴が成長すると、下に落下し、空調部側凹部57に落ちる。そして空調部側凹部57に設けられた排水口62から外部に排出される。
【0051】
また各ノズル7a,7b,7c,7dから放水された水が試験室30の正面扉20、左右側壁25、仕切り板26とも衝突して跳ね返る。しかしながら、本実施形態の耐水試験装置1では、空気吹き出し部16に上部側水滴飛散防止板50が装着されている。そのため左右側壁25等に衝突して跳ね返った水は、上部側水滴飛散防止板50に遮られて空調部31には入りにくい。
そのため本実施形態の耐水試験装置1では、試験中に空調部31内に水が入り込み難く、続けて耐水試験を行うことができる。即ち−つの被試験物に対する耐水試験を終了し、被試験物を取り替えて別の被試験物に対して耐水試験を実施する際、試験室30内の環境を早期に安定させることができる。
また本実施形態の耐水試験装置1では断熱箱13の本体部分に設けられた開口27に小さな堰28が設けられているので、試験を終えて被試験物を取り出すべく正面扉20を開いた際に、水が開口27から溢れ出にくい。そのため作業者の被服を濡らすことが少ない。
【0052】
以上説明した実施形態では、水滴飛散防止板50,52に設けた小開口51,53の形状として、円形のものを例示した。しかしながら本発明は、円形の開口に限定するものではなく、楕円形や三角形や四角形等の多角形であってもよい。
開口に多角形を採用する場合には、その内接円の直径が、前記した範囲であることが望ましい。
また開口はスリット状であってもよい。スリット状の開口を採用する場合、その面積が前述した範囲であることが望ましい。
【0053】
また前記した実施形態は、IPX9Kに規定された試験を実施するものであるが、本発明はこの構成に限定されるものではなく、他の耐水試験を実施するものであってもよい。
【0054】
上記した実施形態では、空気吹き出し部16に上部側水滴飛散防止板50が装着され、下部側の空気導入部17に下部側水滴飛散防止板52が設けられている。即ち上記した実施形態の耐水試験装置1では、上部側水滴飛散防止板50と下部側水滴飛散防止板52を有している。しかしながら本発明はこの構成に限定されるものではなく、上部側水滴飛散防止板50のみ、または下部側水滴飛散防止板52のみを有するものであってもよい。
【0055】
また、上部側水滴飛散防止板50及び下部側水滴飛散防止板52の少なくともいずれか一方が、仕切り板26と一体的に形成されたものであってもよい。
【0056】
上記した実施形態の耐水試験装置1では、断熱箱13の床部23に、試験室側凹部56と空調部側凹部57の双方が設けられているが、一方だけを有するものであってもよい。例えば試験室側凹部56だけを有し、空調部側凹部57が設けられていないものであってもよい。この場合には、空調部31側に侵入した水が、試験室30側に流れる様に勾配を設けることが望ましい。
逆に空調部側凹部57だけを有し、試験室側凹部56が設けられていないものであってもよい。この場合には、試験室30側から空調部31側に水が流れる様に勾配を設けることが望ましい。
試験室側凹部56と空調部側凹部57の間の溝60は必須ではなく、無くてもよい。
【0057】
上記した実施形態の耐水試験装置1は、温度センサー41と湿度センサー42を有し、試験室30内の温度と湿度を調節することができるものであるが、温度センサー41だけを有し、試験室30内の温度を調節する機能だけを有するものであってもよい。
また上記した実施形態の耐水試験装置1では、温度センサー41と湿度センサー42の位置は、上部側水滴飛散防止板50よりも試験室30寄りの位置であるが、本発明はこの構成に限定されるものではない。
例えば図8(a)の様に、風向部材45と上部側水滴飛散防止板50の間に温度センサー41と湿度センサー42が設けられていてもよい。また図8(b)の様に、風向部材45よりも空調部31側に温度センサー41と湿度センサー42が設けられていてもよい。 風向部材45は必ずしも必要ではない。
【符号の説明】
【0058】
1 耐水試験装置
2 試験機器部
3 環境調整部
5 放水装置
6 ターンテーブル
7a,7b,7c,7d ノズル
16 空気吹き出し部
17 空気導入部
23 床部
26 仕切り板
30 試験室
31 空調部
45 風向部材
50 上部側水滴飛散防止板
51 小開口
52 下部側水滴飛散防止板
53 小開口
56 試験室側凹部
57 空調部側凹部
60 溝
61,62 排水口
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8