(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
硬化性の液状充填材を注入するための注入孔をコンクリート母材にその表面側から前記表面に垂直に形成し前記注入孔の内周面に前記コンクリート母材のひび割れ部を露呈させる注入孔形成工程と、前記注入孔形成工程にて形成した前記注入孔の前記コンクリート母材表面側の端部に注入用プラグを挿入し固定するプラグ挿入固定工程と、前記プラグ挿入固定工程の完了後、前記注入用プラグに接続した圧送装置から前記注入用プラグに形成された通液孔を介して前記注入孔に前記液状充填材を注入する補修材注入工程と、前記補修材注入工程にて前記注入孔に注入した前記液状充填材の硬化後に前記注入用プラグを前記注入孔から抜き去るプラグ撤去工程とを有し、
前記注入用プラグは、前記注入孔にねじ込んで前記コンクリート母材に定着させるためのねじ山が形成された軸部を有し、前記通液孔は前記注入用プラグの前記注入孔にねじ込まれる先端側とは反対の後側に開口する入口側開口から前記軸部の側周に開口する出口側開口にわたって延在する前記通液孔が形成され、
前記プラグ挿入固定工程では、前記注入用プラグをその前記軸部の前記注入孔へのねじ込みによって前記コンクリート母材に定着させ、前記プラグ撤去工程では、前記注入用プラグを前記軸部の前記注入孔へのねじ込み時とは逆向きに回転させて前記注入孔から抜き出すことを特徴とするコンクリート母材補修工法。
コンクリート母材にその表面側から延在形成された注入孔の前記コンクリート母材表面側の端部に挿入されて前記注入孔への硬化性の液状充填材の注入に用いられる注入用プラグと、前記注入用プラグの軸部に外挿されたリング状の一対のパッキンと、前記軸部に外挿され前記一対のパッキンの間に配置された山座金とを有し、
前記注入用プラグは、前記注入孔にねじ込んで前記コンクリート母材に定着させるためのねじ山が形成された前記軸部と、前記軸部の後側に前記軸部に比べて太く形成された頭部とを有し、前記軸部には前記注入用プラグの前記注入孔にねじ込まれる前端側とは反対の後側に開口する入口側開口から前記軸部の側周に開口する出口側開口にわたって延在する通液孔が形成され、
前記山座金は、ドーム状に形成され径方向中央部の開口部の周囲を頂部とするドーム状本体を有し、前記ドーム状本体の軸線方向において前記頂部が前記軸部の前端側、前記頂部とは反対の径大側が前記頭部側に位置する向きで前記一対のパッキンの間に配置され、かつ前記開口部の内周と前記軸部外周との間に確保されたクリアランスによって前記軸部に遊挿され、
前記注入用プラグの前記軸部を前記注入孔にねじ込むことで、前記一対のパッキンと前記山座金とが前記注入孔の開口部の周囲の前記コンクリート母材と前記頭部との間に挟み込まれることを特徴とする注入用ユニット。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の1実施形態のコンクリート母材補修工法
、注入用ユニットについて、図面を参照して説明する。
【0014】
(第1実施形態)
まず、本発明に係る第1実施形態のコンクリート母材補修工法
、注入用ユニットを説明する。
図2〜
図10は本実施形態のコンクリート母材補修工法を説明する図である。
図2〜
図10に示すコンクリート母材補修工法(以下、単に、補修工法、とも言う)は、
図1に示すようにひび割れ部12(クラック)が形成されたコンクリート母材10のひび割れ補修を行なうものである。
コンクリート母材10(以下、単に、母材、とも言う)は、例えば、鉄道トンネル等の地下構造物、堤防、擁壁、ビル等の建物のコンクリート躯体などの構造物躯体を構成するものである。但し、母材10は、構造物躯体に限定されず、例えば構造物への建て込み前のプレキャストコンクリート材等のコンクリート製品を構成するものであっても良い。
【0015】
ここで説明する補修工法は、母材10表面に露呈するひび割れ部12の端部を封止材14を用いて封止するひび割れ端部封止工程(
図2参照)と、母材10に液状補修材の注入用の注入孔13を形成する注入孔形成工程(
図4参照)と、注入孔13の母材10表面側の端部に注入用プラグ20を挿入し固定するプラグ挿入固定工程(
図6、
図7参照)とを有する。また、この補修工法は、プラグ挿入固定工程の完了後、
図8に示すように注入用プラグ20に接続した圧送装置51から注入用プラグ20の通液孔27を介して注入孔13に液状補修材52を注入する補修材注入工程、及び補修材注入工程にて注入孔13に注入した液状補修材52の硬化後に注入用プラグ20を注入孔13から抜き去るプラグ撤去工程(
図9、
図10参照)も有している。
【0016】
液状補修材は、母材10に穿孔(形成)した注入孔13及びひび割れ部12に充填し硬化させて注入孔13及びひび割れ部12を埋め込む硬化性の液状充填材である。
液状補修材は、例えばエポキシ樹脂等の液状樹脂材料である有機系液状充填材や、亜硝酸リチウム水溶液、セメント系注入材といった無機系液状充填材の他、ポリマーセメントモルタル等、コンクリート母材のひび割れ補修に使用される周知の液状充填材を採用可能である。液状補修材は、ひび割れ部への充填後の硬化によってひび割れ部の周囲に位置する母材に一体化する。ひび割れ部への液状補修材の充填、硬化によるひび割れ補修は、ひび割れ部内にて硬化させた液状補修材を介して、母材におけるひび割れ部の周囲に位置する部分を一体化するものである。
【0017】
図2に示すように、ひび割れ端部封止工程では、母材10の表面11に露呈するひび割れ部12の端部を封止材14を用いて封止する。封止材14は、硬化性を有するペースト状のパテ材である。
封止材14は母材表面11への塗布等によって、母材表面11に露呈するひび割れ部12の端部を覆って気密に封止する層状に設けて硬化させる。
【0018】
図3(a)〜(c)は、母材表面11にひび割れ部12の端部が線状に露呈延在する場合を示す。
図3(c)に示すように、封止材14は、母材表面11に線状に露呈延在するひび割れ部12に沿って概ね所定幅を保って延在する層状に設けて、ひび割れ部12の母材表面11側の端を封止する。
【0019】
母材表面11に層状に設けた封止材14を、以下、封止材層14Aとも言う。
図3(a)〜(c)は、母材表面11に線状に露呈延在するひび割れ部12に沿って概ね所定幅を保って延在する封止材層14Aの形成方法の一例を示す。
図3(a)〜(c)に示す封止材層14Aの形成方法は、まず、
図3(a)に示すように、母材表面11における、線状に露呈延在するひび割れ部12を介して両側に、粘着テープ14Tを貼着して母材表面11のひび割れ部12に沿って延在配置する。母材表面11において、ひび割れ部12の両側の粘着テープ14Tは、線状のひび割れ部12から概ね一定の離隔距離を保ってひび割れ部12に沿って延在配置する。次いで、
図3(b)に示すように、母材表面11におけるひび割れ部12の両側の粘着テープ14Tの間の領域に封止材14を塗布等によって層状に設ける。このとき、封止材14は粘着テープ14Tの一部を覆うように設けても良い。次に、
図3(c)に示すように粘着テープ14Tを母材表面11から除去する。母材表面11に貼着状態の粘着テープ14Tの母材表面11からの除去は、
図3(b)の工程にて母材表面11に層状に設けた封止材14の可使時間内に行なう。粘着テープ14Tを母材表面11から除去した後、封止材14の硬化が完了することで、母材表面11に線状に露呈延在するひび割れ部12に沿って概ね所定幅を保って延在する封止材層14Aが形成される。
【0020】
注入孔形成工程(
図4参照)は、ひび割れ端部封止工程にて母材表面11に設けた封止材14の硬化後に、穿孔工具30を用いて母材10に注入孔13を形成(穿設)する。
図4に示す注入孔形成工程は、注入孔13の形成以外に、封止材層14Aに母材10とは反対の側から窪む凹部15を形成することを含む。
図4において、注入孔13は、封止材層14Aにおける凹部15と母材10との間に位置する部分(底層部14a)を貫通して形成されている。凹部15は、注入孔13に同軸で注入孔13開口部に比べて径大に形成されている。注入孔13及び凹部15のそれぞれの軸線に垂直の断面形状は円形である。以下、凹部15を、座繰り凹部、とも言う。
【0021】
なお、座繰り凹部15は、その軸線に垂直の断面外周全体が封止材14に取り囲まれた状態に形成する。封止材層14Aは、座繰り凹部15のその軸線に垂直の断面外周全体を取り囲むことが可能な面積を確保して母材表面11に層状に形成する。
【0022】
図4に示す注入孔13は、母材10及び封止材14に、母材表面11に垂直(注入孔13軸線が母材表面11に垂直)の向きで延在形成されている。
座繰り凹部15の底面15a(封止材14の底層部14aの凹部15に臨む面)は、母材表面11に平行に形成された平坦面である。
なお、
図4等に示す母材表面11は平坦面であるが、母材表面11は、例えば、
図11に示す凹曲面や凸曲面であっても良い。凹曲面や凸曲面の母材表面11の場合も、注入孔13は母材表面11に垂直(注入孔13軸線が母材表面11に垂直)に延在形成する。
【0023】
図4、
図5に示すように、注入孔13は、母材10を貫通していない有底孔(非貫通孔)である。注入孔13は、その孔底から母材表面11へ向かって延在する主孔部13aと、主孔部13aの孔底(注入孔13孔底)とは反対の側(注入孔開口部側)に主孔部13aよりも径大に形成された拡張孔部13bとを有する。拡張孔部13bは主孔部13aに同軸に形成されている。なお、注入孔13の軸線は主孔部13aの軸線を指す。
【0024】
拡張孔部13bは母材10内に位置する奥端から座繰り凹部15に向かって延在し、座繰り凹部15の底面15a(以下、座繰り凹部底面、とも言う)に開口している。拡張孔部13bは座繰り凹部15の底面15aから窪んで形成されている。
座繰り凹部底面15aに開口する注入孔13の開口部は、拡張孔部13bの座繰り凹部底面15aに開口する開口部である。
【0025】
図4、
図5に示すように、注入孔形成工程では、注入孔13の形成によって、注入孔13の内周面にひび割れ部12を露呈させる。つまり、注入孔形成工程では、注入孔13をその内周面にひび割れ部12が露呈するように形成する。
図4、
図5に示す注入孔形成工程では、具体的には、拡張孔部13b内周面にひび割れ部12を露呈させた注入孔13を形成する。
【0026】
母材表面11に垂直の注入孔13は、その軸線位置13Pを母材表面11におけるひび割れ部12の存在箇所に設定して形成することで、内周面にひび割れ部12が露呈する状態に形成することを容易に実現できる。
図2、
図3(a)〜(c)に示すように、この実施形態では、注入孔13形成位置(形成する注入孔13の軸線位置13P)を母材表面11におけるひび割れ部12の存在箇所に設定して、注入孔形成工程にて注入孔13を形成する。
【0027】
図3(a)〜(c)では、母材10に対して設定した注入孔13形成位置(形成する注入孔13の軸線位置13P)を、母材表面11等に形成したマーキング16a、16b(図示例では墨出し)によって明示することを例示している。マーキング16a、16bは、ここでは墨出しであるが、墨出しに限定されず、例えば鉛筆、チョークなどの筆記具を用いた描線等、周知のものを採用できる。
【0028】
図3(a)〜(c)に例示した注入孔13形成位置(形成する注入孔13の軸線位置13P)の明示方法は、まず、
図3(a)に示すように、母材表面11及び母材表面11に貼着した粘着テープ14Tに形成した2本の直線状のマーキング16a(以下、一次マーキング、とも言う)の交差部分によって、注入孔形成工程にて形成する注入孔13の軸線位置13Pを明示する。
母材表面11におけるひび割れ部12の両側の粘着テープ14T間の領域を、以下、封止材層形成領域、とも言う。一次マーキング16aの延在方向両端部は、母材表面11における封止材層形成領域からその両側の粘着テープ14Tをそれぞれ越えた外側の領域に形成する。
【0029】
図3(b)に示すように、一次マーキング16aのうち、少なくとも母材表面11の封止材層形成領域に形成された部分は、母材表面11の封止材層形成領域を封止材14によって覆う工程にて封止材14に覆われる。
また、
図3(b)に示す工程(封止材層形成領域を封止材14によって覆う工程)の完了後、
図3(c)に示すように母材表面11に貼着状態の粘着テープ14Tを母材表面11から除去することで、一次マーキング16aのうち粘着テープ14Tに形成された部分は粘着テープ14Tとともに除去される。
【0030】
母材表面11に貼着状態の粘着テープ14Tを母材表面11から除去した後、封止材14の硬化による封止材層14Aの形成が完了したら、
図3(c)に示すように、母材表面11に残っている一次マーキング16aの両端部間に位置する母材表面11及び封止材層14Aに、一次マーキング16aの両端部間を結ぶ直線状のマーキング16b(以下、二次マーキング、とも言う)を形成する。
2本の一次マーキング16aのそれぞれについて、各一次マーキング16aの両端部間を結ぶ二次マーキング16bを形成することで、二次マーキング16b同士の交差部分によって、注入孔形成工程にて形成する注入孔13の軸線位置13Pを明示できる。
【0031】
図2、
図3(a)〜(c)に示すように、この実施形態の補修工法では、注入孔形成工程にて形成する注入孔13(以下、形成予定の注入孔、とも言う)の軸線位置13Pを母材表面11におけるひび割れ部12の存在箇所に設定し、設定した軸線位置13Pの注入孔13を形成する。
但し、形成予定の注入孔13の軸線位置13Pは、母材表面11に存在するひび割れ部12の少なくとも一部を形成予定の注入孔13の形成範囲内に位置させることが可能な範囲で、母材表面11のひび割れ部12からずれた位置に設定することも可能である。
注入孔形成工程では、母材表面11に存在するひび割れ部12の少なくとも一部が形成予定の注入孔13の母材表面11における形成範囲内に位置するように、形成予定の注入孔13の軸線位置13Pを設定して、注入孔13を形成する。その結果、注入孔13の母材表面11付近の内周面にひび割れ部12を露呈させることができる。
【0032】
図4に示す穿孔工具30は、注入孔13の主孔部13aと拡張孔部13b、及び座繰り凹部15を形成できる。
ここで穿孔工具30について説明する。
図4、
図12(a)に示すように、穿孔工具30は、主孔部形成用ビット31と、主孔部形成用ビット31の後端部を収納固定するホルダ筒部材32と、ホルダ筒部材32の主孔部形成用ビット31が突出されている前側とは反対の後側に取り付けられたシャンク33とを有する。
【0033】
主孔部形成用ビット31の後端部は、ホルダ筒部材32に脱着可能に取り付けられている。シャンク33は、ホルダ筒部材32に挿入した前端部をホルダ筒部材32に脱着可能に取り付けて、ホルダ筒部材32にその後側へ延出した状態に設けられている。
主孔部形成用ビット31とシャンク33とは互いに同軸に設けられている。
【0034】
ホルダ筒部材32は、主孔部形成用ビット31の後端部及びシャンク33の前端部が挿入された円筒状の後筒部32aと、この後筒部32aの前端部の側周から張り出されたリング板状のフランジ部32bと、後筒部32aの前側に後筒部32aと同軸に設けられた円筒状の前筒部32cとを有する。また、ホルダ筒部材32は、前筒部32cの前端に突設された拡張孔用刃体32d、及びフランジ部32bの前面側に突設された座繰り用刃体32eも有している。
【0035】
主孔部形成用ビット31の後端部は、ホルダ筒部材32の後筒部32a内に設けられたドリル固定部品への嵌合あるいは螺合によって後筒部32aに対して同軸に固定されている。シャンク33の前端部は、ホルダ筒部材32の後筒部32a内に設けられたシャンク固定部品への嵌合あるいは螺合によって後筒部32aに対して同軸に固定されている。
なお、シャンク固定部品は、シャンク33の後筒部32aに対する固定状態を解除するための操作(固定解除操作)が可能である。ドリル固定部品は、シャンク33を抜き去った状態の後筒部32aの後側から、主孔部形成用ビット31の後筒部32aに対する固定状態を解除するための操作(固定解除操作)を行える。
【0036】
主孔部形成用ビット31はその軸線方向中央部にホルダ筒部材32の前筒部32cに通された部分を有している。ホルダ筒部材32の前筒部32cは主孔部形成用ビット31に同軸に外挿されている。
主孔部形成用ビット31はホルダ筒部材32の前筒部32c内側からホルダ筒部32前側(以下、工具前側、とも言う)へ突出されている。主孔部形成用ビット31先端は、ホルダ筒部材32の拡張孔用刃体32dよりも工具前側に位置している。
【0037】
主孔部形成用ビット31は、後端部を除く部分の側周に切刃が螺旋状に形成された棒状金属製品である。
図4に示すように、主孔部形成用ビット31は、母材10への注入孔13の主孔部13aの形成(穿孔)に用いられる。
【0038】
図12(a)、(b)に示すように、ホルダ筒部材32の拡張孔用刃体32dは、前筒部32c前端の周方向に均等の複数箇所に設けられている。
図12(a)、(b)に例示したホルダ筒部材32の拡張孔用刃体32dは、前筒部32c前端における前筒部32cの内側孔を介して両側(径方向両側)の2箇所に設けられている。前筒部32c前端における拡張孔用刃体32dの設置数は3以上であっても良い。
図4に示すように、ホルダ筒部材32の拡張孔用刃体32dは、母材10(
図4では母材10及び封止材層14A)に、注入孔13の主孔部13aよりも径大の孔(
図4では拡張孔部13b)を形成できる。
【0039】
図12(a)、(b)に示すように、ホルダ筒部材32の座繰り用刃体32eは、リング板状のフランジ部32bの前面側に、フランジ部32bの周方向に均等の複数箇所に設けられている。
図12(a)、(b)に例示したホルダ筒部材32の座繰り用刃体32eは、フランジ部32b前面における後筒部32a前端部を介して両側(径方向両側)の2箇所に設けられている。フランジ部32b前面における座繰り用刃体32eの設置数は3以上であっても良い。
図12(a)、(b)に示すように、座繰り用刃体32eは、前記主孔部形成用ビット31の径方向(フランジ部32b径方向)に延在する突条状に形成されている。
図4に示すように、座繰り用刃体32eは、封止材層14A(あるいは封止材層14A及び母材10)に拡張孔部13bよりも径大の凹部(
図4では座繰り凹部15)を形成できる。
【0040】
図12(a)、(b)に示す穿孔工具30のホルダ筒部材32の後筒部32a前端の工具前後方向における位置はフランジ部32b前面と同じである。
図12(a)、(b)に示す穿孔工具30の前筒部32cは、後筒部32aのフランジ部32bから後側の部分に比べて外径を径小に形成されている。但し、前筒部32cはフランジ部32b径に比べて径小であればよく、後筒部32aのフランジ部32bから後側の部分に対して径大あるいは同等であっても良い。
【0041】
後筒部32a前端及びフランジ部32b前面から工具前側への前筒部32aの突出寸法は、座繰り用刃体32eのフランジ部32bから前側への突出寸法に比べて格段に大きい。
前筒部32c前端は、工具前後方向(ホルダ筒部材32軸線方向)において座繰り用刃体32e前端よりも工具前側に位置する。
【0042】
穿孔工具30は、シャンク33後端部を電動回転装置のチャックに固定して電動回転装置の駆動力によって軸回り回転させることができる。
図4に示す注入孔13及び座繰り凹部15は、電動回転装置に取り付けて軸回り回転させた穿孔工具30の主孔部形成用ビット31先端を封止材層14Aにその表面側(母材10とは反対の側)から母材10に向かって切り込ませ、封止材層14Aを貫通した主孔部形成用ビット31を母材10にも切り込ませていくだけで形成できる。
【0043】
軸回り回転させた穿孔工具30の主孔部形成用ビット31が封止材層14Aを貫通して母材10へ切り込みを開始した後、穿孔工具30の拡張孔用刃体32dが封止材層14Aに達すると拡張孔用刃体32dによる拡張孔部13bの形成が開始される。拡張孔用刃体32dによる拡張孔部13bの形成が開始されると、穿孔工具30の母材10への押し込みに伴い、主孔部形成用ビット31による穿孔と拡張孔用刃体32dによる拡張孔部13bの形成とが並行進行する。
なお、封止材層14Aの厚みは、穿孔工具30の主孔部形成用ビット31と拡張孔用刃体32dとの間の工具前後方向の離隔距離に比べて格段に小さい。拡張孔用刃体32dによる拡張孔部13bの形成は、主孔部形成用ビット31による母材10の穿孔がある程度進行した後に開始される。
【0044】
拡張孔用刃体32dが封止材層14Aを貫通して母材10へ切り込みを開始した後、穿孔工具30の座繰り用刃体32eが封止材層14Aに達すると座繰り用刃体32eによる座繰り凹部15の形成が開始される。座繰り用刃体32eによる座繰り凹部15の形成が開始されると、穿孔工具30の母材10への押し込みに伴い、主孔部形成用ビット31による穿孔と拡張孔用刃体32dによる拡張孔部13bの形成と座繰り用刃体32eによる座繰り凹部15の形成とが並行進行する。
なお、封止材層14Aの厚みは、穿孔工具30の拡張孔用刃体32dと座繰り用刃体32eとの間の工具前後方向の離隔距離に比べて格段に小さい。座繰り用刃体32eによる座繰り凹部15の形成は、拡張孔用刃体32dによる母材10への拡張孔部13bの形成がある程度進行した後に開始される。
【0045】
図12(a)、(b)に示すように、座繰り用刃体32eは、穿孔工具30のホルダ筒部材32のフランジ部32b内周部から外周部に向かって延在形成されている。但し、座繰り用刃体32eはフランジ部32b外周部には到達しておらず、座繰り用刃体32eはフランジ部32b外周部には形成されていない。
座繰り用刃体32eによる座繰り凹部15の形成は、穿孔工具30のホルダ筒部材32のフランジ部32b外周部が封止材層14A表面に当接するまで進行し、フランジ部32b外周部が封止材層14A表面に当接することで進行を停止する。その結果、封止材層14Aに、穿孔工具30のホルダ筒部材32のフランジ部32bからの座繰り用刃体32eの突出寸法に相当する深さの座繰り凹部15が形成される。
【0046】
穿孔工具30のホルダ筒部材32のフランジ部32b外周部が封止材層14A表面に当接すると、穿孔工具30の母材10への押し込みが規制される。その結果、座繰り用刃体32eによる座繰り凹部15の形成のみならず、主孔部形成用ビット31による穿孔、拡張孔用刃体32dによる拡張孔部13bの形成もその進行が停止する。
注入孔形成工程では、軸回り回転させた穿孔工具30を、フランジ部32b外周部が封止材層14A表面に当接するまで母材10に向かって押し込み、フランジ部32b外周部が封止材層14A表面に当接したところで母材10への押し込みを停止し、母材10から離隔させる。その結果、主孔部13aの開口部側(孔底とは反対の側)に主孔部13aと同軸に拡張孔部13bが形成された構成の注入孔13と、注入孔13に同軸の座繰り凹部15とを形成できる。
また、穿孔工具30を用いる注入孔形成工程は、軸回り回転させた穿孔工具30の座繰り用刃体32eによって、座繰り凹部15の底面15aを、主孔部13軸線に垂直(
図4では母材表面11に平行)の平坦面に形成できる。
【0047】
なお、主孔部形成用ビット31先端と拡張孔用刃体32d先端との間の穿孔工具30前後方向(ホルダ筒部材32軸線方向)の離隔距離は、拡張孔用刃体32d先端と座繰り用刃体32e先端との間の穿孔工具30前後方向の離隔距離に比べて格段に大きく確保されている。このため、
図4、
図5に示すように、注入孔形成工程では、注入孔主孔部13aの孔底側(先端側)とは反対の後側に、注入孔主孔部13aに比べて軸線方向寸法が短い拡張孔部13bを有する注入孔13が形成される。
【0048】
注入孔形成工程は、軸回り回転させた穿孔工具30を、フランジ部32b外周部が封止材層14A表面に当接するまで母材10に向かって押し込むだけで、注入孔13と座繰り凹部15とを形成できる。
穿孔工具30を用いる注入孔形成工程は、封止材層14Aから母材10にわたって延在する注入孔13を形成する作業と、封止材層14Aに座繰り凹部15を形成する作業とを連続して行なうことができる。
【0049】
なお、
図4では、軸回り回転させた穿孔工具30の主孔部形成用ビット31先端を、
図3(c)にて設定した形成予定の軸線位置13Pに位置合せして封止材層14Aに切り込ませ、さらに母材10にも切り込ませて注入孔13と座繰り凹部15とを形成している。
但し、既述のように、注入孔形成工程は、母材表面11に存在するひび割れ部12の少なくとも一部が形成予定の注入孔13の母材表面11における形成範囲内に位置するように、形成予定の注入孔13の軸線位置13P(
図3(c)参照)を設定しても良い。そして、設定した軸線位置13Pに主孔部形成用ビット31先端を位置合せした穿孔工具30を軸回り回転させたまま母材10に向かって押し込んでいくことで、拡張孔部13b内周面にひび割れ部12を露呈させた注入孔13と座繰り凹部15とを形成する。
【0050】
注入孔形成工程が完了したら、注入孔13及び座繰り凹部15の内部を清掃(
図5参照)した後、
図6、
図7に示すようにプラグ挿入工程を行なう。
図6、
図7に示すように、プラグ挿入工程では、注入孔13への液状補修材52の注入用の注入用プラグ20を、注入孔13の母材10表面側の端部に挿入し固定する。
図6、
図7に示すプラグ挿入工程では、具体的には、注入用プラグ20と、注入用プラグ20の軸部21(後述)に外挿したパッキン25及び山座金26とを有する構成の注入用ユニット20Aを用いる。
【0051】
ここで、注入用プラグ20及び注入用ユニット20Aの一例を説明する。
図6、
図13(a)、(b)に示すように、注入用プラグ20は、軸部21の片端側に軸部21に比べて太い頭部22が形成されたボルト状のプラグ本体23と、頭部22の軸部21とは反対の後側に突出状態に設けられたニップル24とを有している。
注入用ユニット20Aは、注入用プラグ20と、注入用プラグ20の軸部21に外挿されたリング状のパッキン25及び山座金26とを有する。
【0052】
図6、
図13(a)、(b)に示すプラグ本体23は金属製の一体成形品である。
図6、
図13(a)、(b)に示すプラグ本体23の頭部22は、断面多角形状(図示例では六角形)で軸部21軸線と同軸に延在する工具係合部22aと、工具係合部22aの前側(軸部21側)に形成された座金部22bとを有する。
【0053】
工具係合部22aにはレンチ等の工具を係合させることができる。注入用プラグ20には、工具係合部22aに係合させた工具によって軸部21軸線を中心とする軸回り方向の回転力を与えることができる。
【0054】
座金部22bは頭部22の前側(軸部21側)の端面22c(前端面)を形成している。頭部22の前端面22c(以下、頭部前端面、とも言う)は座金部22bの前側(軸部21側)の端面である。頭部前端面22c(座金部22b前端面)は軸部21側周面後端からその周囲に軸部21軸線に垂直に張り出されている。
座金部22bの側周面は軸部21軸線と同軸で軸部21外径に比べて径大の円筒面状に形成されている。頭部前端面22cの外周は軸部21軸線を中心とする同心円状になっている。
工具係合部22aはその全体が座金部22b側周面の仮想延長の内側に位置する。
座金部22bの軸部21軸線方向の形成範囲は、工具係合部22aの軸部21軸線方向の寸法に比べて格段に小さい。座金部22bの外周部は、工具係合部22a前側(座金部22b側)において、工具係合部22a側周の前端(座金部22b側の端)からその周囲に張り出すフランジ状に形成されている。
【0055】
図6、
図13(b)に示すプラグ本体23の軸部21の、その後端部から前側(頭部22とは反対の先端側)の部分の側周には、注入孔13の主孔部13a(以下、注入孔主孔部、とも言う)にねじ込んで母材10に定着させるためのねじ山21aが形成されている。軸部21のその後端部から前側の部分はねじ山21aが形成されたねじ軸部21bとされている。
ねじ軸部21bのねじ山21aは母材10に切り込ませる切刃の機能を有する。注入用プラグ20は、軸部21のねじ山21aを母材10に切り込ませながら、軸部21を注入孔主孔部13aにねじ込むことができる。
【0056】
図6、
図13(b)に示すプラグ本体23の軸部21のねじ軸部21bから後側の後端部にはねじ山21aは形成されていない。
但し、注入用プラグ20は、軸部21の軸線方向全体の側周にねじ山21aが形成された構成も採用可能である。
【0057】
図13(b)に示すように、プラグ本体23には、頭部22の前端面22cとは反対の後面から前側へ延在して軸部21側周面に開口する本体通液孔27aが形成されている。本体通液孔27aは、後端開口部27b頭部22の後面からプラグ本体23前側へ延在する入口側孔部27bと、軸部21側周面から入口側孔部27bまで延在する出口側孔部27cとを有する。
出口側孔部27cの軸部21側周面に開口する開口部(出口側開口部27d)は、プラグ本体23の軸部21のねじ軸部21bから後側の後端部の側周面に位置する。
【0058】
図13(b)等に示す注入用プラグ20の本体通液孔27aは、1本の入口側孔部27bと複数本(
図13(b)では2本)の出口側孔部27cとを有する。各出口側孔部27cの出口側開口部27dは、軸部21後端部側周の周方向に均等の複数箇所に互いに離隔させて形成されている。
図13(b)に示す注入用プラグ20の2本の出口側孔部27cのそれぞれの出口側開口部27dは、軸部21軸線を介して軸部21径方向両側に位置する。
なお、本体通液孔27aは、1本の入口側孔部27bと1本又は3本以上の出口側孔部27cとを有する構成も採用可能である。
【0059】
図13(b)等に示すプラグ本体23の本体通液孔27aの入口側孔部27bの後端部の内周には雌ねじ部(図示略)が形成されている。
ニップル24は、プラグ本体23の本体通液孔27aの入口側孔部27b後端部にねじ込み可能な螺着軸部24aと、この螺着軸部24aの軸線方向片側に螺着軸部24aに比べて径大に形成された口金部24bとを有する。螺着軸部24aの側周には雄ねじ部が形成されている。螺着軸部24a側周の雄ねじ部は、プラグ本体23の本体通液孔27aの入口側孔部27b後端部内周の雌ねじ部に螺合可能に形成されている。
また、ニップル24は、螺着軸部24a軸線に同軸に形成された貫通孔24cが貫通する筒状に形成されている。
【0060】
図13(b)に示すように、ニップル24は、螺着軸部24aをプラグ本体23の本体通液孔27aの入口側孔部27b後端部にねじ込み、口金部24bをプラグ本体23後端(頭部22後面)に当接させて、プラグ本体23に締め付け固定されている。ニップル24の口金部24bは、プラグ本体23後端(頭部22後面)から後側に突出状態に設けられている。また、ニップル24の貫通孔24cは、プラグ本体23の本体通液孔27aの入口側孔部27bに連通されている。
なお、プラグ本体23に締め付け固定されたニップル24は、プラグ本体23に対して、螺着軸部24aのプラグ本体23の本体通液孔27aの入口側孔部27b後端部にねじ込み時とは逆向きに回転させることで、プラグ本体23から取り外すことができる。
【0061】
注入用プラグ20の通液孔27は、プラグ本体23の本体通液孔27aと、本体通液孔27aに連通したニップル24の貫通孔24cとで構成されている。
ニップル24の貫通孔24cの口金部24b側の開口部は、通液孔27へ液状補修材52を送り込むための通液孔27の入口側開口部27eである。通液孔27は、入口側開口部27eから送り込まれた液状補修材52を、注入用プラグ20の軸部21後端部側周の出口側開口部27dから流出させる。
【0062】
パッキン25及び山座金26はリング状(筒状を含む)の部材であり、それぞれ注入用プラグ20の軸部21(以下、プラグ軸部、とも言う)に外挿されている。山座金26は、注入用プラグ20の頭部22とパッキン25との間に配置されている。
【0063】
図6、
図13(b)に示す注入用プラグ20のねじ軸部21bの外径(ねじ径)は、軸部21後端部外径よりも径大である。
山座金26は、金属板によってテーパ円筒状(より具体的には、径方向中央部の開口部の周囲を頂部とするドーム形)に形成されたリング状部材である。山座金26は、その軸線方向に径小側が注入プラグ20の頭部22側、径大側がパッキン25側に配置される向きで注入用プラグ20の軸部21に外挿されている。また、山座金26は注入用プラグ20の軸部21後端部にその軸線方向にスライド移動可能に外挿されている。
山座金26の内径(山座金26頂部内側の開口部径)は、プラグねじ軸部21b外径よりも大きい。また、注入用プラグ20の頭部前端面22cの外周の軸部21後端側周からの離隔距離は、頭部前端面22c外周全体にわたって、山座金26内径と軸部21後端部外径との差よりも大きく確保されている。注入用プラグ20の頭部22は、プラグ軸部21後端からの山座金26の抜けを防止する。
【0064】
パッキン25は、柔軟性に富み、手指で容易に弾性変形させることが可能な樹脂発泡材料製の筒状部材である。
図13(b)に示す注入用ユニット20Aのパッキン25は円筒状に形成されている。
パッキン25の、外力による変形を与えていない状態における内径は、プラグ軸部21のねじ軸部21b外径よりも小さく、プラグ軸部21後端部外径と概ね同じである。
図13(b)に示す注入用ユニット20Aにおいて、パッキン25は、注入用プラグ20の軸部21後端部に外挿されている。プラグ軸部21後端部に外挿されたパッキン25は、プラグ軸部21からその先端(前端)側へ抜け出しにくく、プラグ軸部21後端部に外挿された状態を保つことができる。プラグ軸部21後端部に外挿されたパッキン25は、プラグ軸部21後端部に外挿された山座金26のプラグ軸部21後端部からプラグ軸部21先端側への移動を規制する役割を果たす。但し、パッキン25は、作業者が手指でプラグ軸部21に挿脱可能であり、作業者の手作業によってプラグ軸部21後端部に挿脱できる。
【0065】
パッキン25の、外力による変形を与えていない状態における内径は、注入用プラグ20の軸部21後端部外径と同等か、軸部21後端部外径に比べて僅かに大きい(但しねじ軸部21b外径よりも小さい)か、あるいは軸部21後端部外径に比べて僅かに小さい。
内径が軸部21後端部外径に比べて僅かに小さいパッキン25は、内径を若干拡径させた状態で軸部21後端部に外挿され、軸部21後端部に圧縮力を作用させた状態で取り付けられる。
【0066】
図6に示すように、プラグ挿入固定工程では、注入用ユニット20Aの注入用プラグ20のねじ軸部21bを座繰り凹部15側から注入孔13の拡張孔部13bに挿入し、注入用プラグ20を軸回り回転させながらねじ軸部21bを注入孔主孔部13aにねじ込んで行く。注入用プラグ20は、頭部21の工具係合部22aにソケット形レンチ等の係合工具53(
図6ではソケット形レンチ)を係合させることで、係合工具53を介して軸回り回転操作を容易に行える。
【0067】
図6に示すように、注入用ユニット20Aのパッキン25及び山座金26は、注入用プラグ20のねじ軸部21bを注入孔13に挿入したときに、注入用プラグ20の頭部22(以下、プラグ頭部、とも言う)と座繰り凹部底面15aとの間に配置される。プラグ頭部22は、注入用プラグ20のねじ軸部21bの注入孔主孔部13aへのねじ込み進行によって、パッキン25及び山座金26を座繰り凹部底面15aに向かって押圧できる。
【0068】
図7に示すように、プラグ挿入固定工程では、注入用プラグ20のねじ軸部21bを注入孔主孔部13aにねじ込んで行き、プラグ頭部22によってパッキン25及び山座金26を座繰り凹部底面15aに向かって押圧することで、パッキン25を圧縮変形させ、山座金26を平板状に押し潰す。注入用プラグ20は、注入用プラグ20のねじ軸部21bの注入孔主孔部13aへのねじ込みによって、パッキン25の圧縮変形、及び山座金26の押し潰しが完了することで、母材10に対してしっかりと締め付け固定される。
【0069】
注入用プラグ20のねじ軸部21bの注入孔主孔部13aへのねじ込みは、
図7に示すように、パッキン25の圧縮変形、及び山座金26の押し潰しが完了し、注入用プラグ20の締め付けトルクが予め設定した基準値以上に達した所で停止、終了する。また、注入用プラグ20のねじ軸部21bの注入孔主孔部13aへのねじ込みの終了によって、プラグ挿入固定工程も完了する。
【0070】
プラグ挿入固定工程が完了したとき、注入用プラグ20の通液孔27の出口側開口部27dは、注入孔13の拡張孔部13b内に配置される。注入孔形成工程にて使用する穿孔工具30は、ひび割れ端部封止工程にて封止材層14Aを予め設定した範囲内の層厚にて形成することで、プラグ挿入固定工程の完了時に通液孔27の出口側開口部27dが拡張孔部13b内に配置されるように、注入孔13及び座繰り凹部15を形成する。
図7に示すように、注入孔主孔部13aは、プラグ挿入固定工程の完了時に、プラグ軸部21先端が孔底から後側(開口部側)に離隔した位置に配置される深さに形成しておく。
【0071】
注入用プラグ20は、ねじ軸部21bの注入孔主孔部13aへのねじ込みよって母材10に簡単に定着させることができる。
したがって、注入用プラグ20は、既述の低圧注入工法にて採用されている、コンクリート母材表面への接着材等による注入器具の固定に比べて、母材10への固定を短時間で確実に行なうことができる。
【0072】
なお、
図6、
図7では、係合工具53にソケット形レンチを用いている。
図6、
図7に示すように、プラグ挿入固定工程の具体的一例は、プラグ頭部22に係合させたソケット形レンチ(係合工具53)を電動回転装置を用いて回転駆動することで注入用プラグ20を軸回り回転させることである。注入用プラグ20を電動回転装置を用いて軸回り回転させることは、注入用プラグ20のねじ軸部21bの注入孔主孔部13aへのねじ込みを短時間で行なうことに有利である。また、電動回転装置の回転トルク管理機能により、締め付けトルクが所望値に達したときに電動回転装置の出力軸の回転駆動を停止するように設定すれば、締め付けトルクが所望値に達したときに、出力軸にチャック固定されたソケット形レンチ(係合工具53)及び注入用プラグ20の回転を自動停止でき、しかも、注入用プラグ20の過剰な締め付けを回避できる。
【0073】
図13(b)に示すように、パッキン25の軸線方向両端面は、パッキン25の軸線に垂直に形成されている。
図6、
図7に示すように、座繰り凹部底面15aには注入用ユニット20Aのパッキン25の軸線方向片側の端面が当接される。山座金26を介して作用するプラグ頭部22からの押圧力によって座繰り凹部底面15aに押圧されたパッキン25は、その軸線方向に圧縮変形されることで、軸線方向の少なくとも一部の側周を拡径する変形を生じる。
【0074】
図13(a)、(b)に示すように、軸線方向の圧縮変形を受けていないパッキン25の軸線方向プラグ頭部22側の端(以下、基端、とも言う)以外の部分の外径は、パッキン25基端外径と同等かパッキン25基端外径よりも小さい。
図7に示すように、パッキン25は、プラグ挿入固定工程の完了時には、平板状に変形された山座金26と座繰り凹部底面15aとの間にて座繰り凹部底面15aに沿って延在する板状(リング板状)に変形される。また、パッキン25は、パッキン25軸線方向において中央部が最も径大で、軸線方向において中央部から離隔するにしたがって径小となる形状に変形される。板状(リング板状)に変形されたパッキン25側周の最大外径は、軸線方向の圧縮変形を受けていないパッキン25側周の最大外径よりも大きい。
パッキン25は、プラグ挿入固定工程にてパッキン25軸線方向に圧縮変形される結果、少なくとも軸線方向中央部の側周を拡径する変形を生じる。
【0075】
図13(a)、(b)に示すように、プラグ軸部21を注入孔13に挿入していない状態の注入用ユニット20Aにおける、パッキン25の基端側端面外径は山座金26外径に比べて大きい。山座金26外周部はパッキン25の基端側端面には、山座金26に覆われずに、山座金26外周外側に露呈する部分が存在する。
板状(リング板状)に変形されたパッキン25側周の最大外径と平板状に変形された山座金26の外径との寸法差は、プラグ軸部21を注入孔13に挿入していない状態の注入用ユニット20A(
図13(a)、(b)参照)におけるパッキン25側周の最大外径と山座金26外径との寸法差よりも大きい。すなわち、
図7に示す板状(リング板状)に変形させたパッキン25の山座金26外周から外側への突出寸法は、プラグ軸部21を注入孔13に挿入していない状態の注入用ユニット20A(
図13(a)、(b)参照)におけるパッキン25の山座金26外周から外側への突出寸法よりも大きい。
このため、プラグ挿入固定工程では、パッキン25の山座金26外周から外側への突出寸法増大を目視確認することで、注入孔主孔部13aへのプラグ軸部21のねじ込み、及びそれによるパッキン25圧縮の正常進行を把握できる。
【0076】
パッキン25を形成する樹脂発泡材料の形成樹脂は、例えば、エチレン・プロピレン・ターポリマー、クロロプレンゴム、アクリルゴム、ブチルゴム、ウレタンゴム等を採用できる。
なお、本発明者が実施した試験等から検討の結果、エチレン・プロピレン・ターポリマーは、特に好適に用いることができる。
【0077】
プラグ挿入固定工程にて板状(リング板状)に変形されたパッキン25は、平板状に変形された山座金26と座繰り凹部底面15aとに密接(圧接)される。また、パッキン25は、プラグ軸部21後端部の側周にも密接(圧接)される。その結果、座繰り凹部底面15aに開口する注入孔13の開口部はパッキン25によって塞がれる。
パッキン25は、補修材注入工程において、注入孔13へ圧送される液状補修材の注入孔13開口部からの漏出を防ぐ役割を果たす。
【0078】
プラグ挿入固定工程が完了したら注入孔13に液状補修材52を注入する補修材注入工程を行なう。
図8に示すように、補修材注入工程では、注入用プラグ20のニップル24の口金部24bにチューブ54を接続する。そして、チューブ54のニップル24側とは反対の端部に接続されている圧送装置51から、チューブ54を介して注入用プラグ20の通液孔27へ液状補修材を圧送し、液状補修材52を通液孔27を介して注入孔13へ圧送注入する。
【0079】
チューブ54から注入用プラグ20の通液孔27へ送り込まれた液状補修材52は、通液孔27を通って、通液孔27の出口側開口部27dから、注入孔13の拡張孔部13bへ流入する。通液孔27から拡張孔部13bへ流入した液状補修材52は注入孔主孔部13aにも入り込む。また、液状補修材52は、圧送装置51からの供給圧により、母材10のひび割れ部12に入り込ませる。
【0080】
ねじ軸部21bを注入孔主孔部13aにねじ込んで母材10に定着させた注入用プラグ20は、注入孔13内の液状補修材52からの圧力による注入孔13からの抜けを生じにくい。このため、補修材注入工程は、圧送装置51から0.4N/mm
2よりも高い供給圧を以て液状補修材52を圧送して行なうことが可能である。圧送装置51は、高圧注入ポンプ等の、0.4N/mm
2よりも高い供給圧を以て液状補修材52を圧送可能なものを採用できる。その結果、コンクリート母材補修工法では、既述の低圧注入工法に比べて母材10のより広範囲にわたってひび割れ部12への液状補修材52の注入が可能である。
【0081】
補修材注入工程が完了したら、液状補修材52の硬化時間を経過した後(液状補修材の硬化後)にプラグ撤去工程を行なう。
図9に示すように、プラグ撤去工程では、プラグ頭部22の工具係合部22aに係合工具53を係合させる。そして、係合工具53を利用して注入用プラグ20を、注入孔主孔部13aへのねじ軸部21bのねじ込み時とは逆向きに回転させ、
図10に示すように、注入用プラグ20を注入孔13から抜き去る。
【0082】
図9に示すように、注入孔主孔部13a内周面には、注入孔主孔部13a内周面を形成する母材10に切り込ませたねじ軸部21bのねじ山21aによってねじ溝17が形成されている。このため、注入用プラグ20は、注入孔主孔部13aへのねじ軸部21bのねじ込み時とは逆向きに回転させるだけで、母材10に対して注入孔13開口部から抜け出る方向へ移動させることができる。
【0083】
また、プラグ撤去工程にて、注入用プラグ20を、注入孔主孔部13aへのねじ軸部21bのねじ込み時とは逆向きに回転させれば、注入孔主孔部13a内にて硬化した液状補修材52におけるプラグ軸部21のねじ山21aが入り込んでいた部分が、注入用プラグ20の回転に伴うプラグ軸部21のねじ山21aの移動を案内する案内溝となる。その結果、注入孔主孔部13aへのねじ込み時とは逆向きに回転させた注入用プラグ20の母材10に対して注入孔13開口部から抜け出る方向へ移動を、円滑、確実にすることができる。
【0084】
この実施形態のプラグ撤去工程では、注入孔13からの注入用プラグ20の撤去の他、注入用プラグ20の撤去後に、注入用ユニット20Aのパッキン25及び山座金26を座繰り凹部15から撤去することも含む。
プラグ挿入固定工程を完了後の注入用ユニット20Aのパッキン25及び山座金26は、注入孔13内ではなく座繰り凹部15に存在するので、パッキン25及び山座金26の撤去は容易である。
【0085】
パッキン25及び山座金26を座繰り凹部15から撤去すれば、注入用ユニット20Aの全ての構成部品の撤去が完了する(プラグ撤去工程が完了)。
プラグ撤去工程が完了することで、補修工法全体が完了する。
【0086】
この実施形態のコンクリート母材補修工法によれば、液状補修材52を注入する注入孔13を母材10にその表面11に対して垂直に延在形成するので、注入孔を斜め穿孔する従来の高圧注入工法に比べて注入孔の形成を短時間で容易に行える。また、注入孔13は、その母材表面11における形成範囲内に、母材表面11に露呈するひび割れ部12が含まれるようにして形成(穿孔)することで、母材表面11近傍の内周面にひび割れ部12を露呈させることができる。その結果、注入孔13のひび割れ部12への到達を目視で簡単に確認可能である。
【0087】
注入孔13にねじ込んで母材10に定着可能な注入用プラグ20は、注入用プラグ20の注入孔13への固定を短時間で行えるため、鉄道トンネル等の作業時間が制限された作業場所での使用に有利である。
また、注入用プラグ20を注入孔13にねじ込んだ注入用ユニット20Aは、注入孔13に注入した液状充填材52の硬化後に全ての構成部品の撤去を容易に行える。注入用ユニット20Aは、液状充填材52の硬化後に全ての構成部品を撤去することで、構成部品の腐食が構造物に影響を与える等の心配が無い。
【0088】
(第2実施形態)
次に、本発明に係る第2実施形態のコンクリート母材補修工法
、注入用ユニットを説明する。
この実施形態のコンクリート母材補修工法
、注入用ユニットは、
図21、
図22に示すように注入孔13が母材表面11に垂直の向きに対して傾斜して穿孔された場合であっても、液状補修材52を注入孔13からの漏れを生じさせることなく注入孔13に注入することに有効に寄与するものである。
なお、
図21、
図22に示す母材表面11は平坦面ではなく、凹曲面である。
【0089】
本実施形態のコンクリート母材補修工法
、注入用ユニットについて、まず、
図14〜
図20に示すように、母材10におけるその表面11が平坦な箇所に適用する場合を例に説明する。
図14〜
図20は本実施形態のコンクリート母材補修工法(以下、単に、補修工法、とも言う)を説明する図である。
【0090】
ここで説明する補修工法は、まず、第1実施形態と同様に、母材10表面に露呈するひび割れ部12の端部を封止材14を用いて封止するひび割れ端部封止工程(
図2参照)を行なう。この補修工法は、ひび割れ端部封止工程の完了後に母材10に注入孔13を形成する注入孔形成工程(
図14参照)と、注入孔13の母材10表面側の端部に注入用プラグ20を挿入し固定するプラグ挿入固定工程(
図16、
図17参照)とを有する。また、この補修工法は、プラグ挿入固定工程の完了後、
図18に示すように注入用プラグ20に接続した圧送装置51から注入用プラグ20の通液孔27を介して注入孔13に液状補修材52を注入する補修材注入工程、及び補修材注入工程にて注入孔13に注入した液状補修材52の硬化後に注入用プラグ20を注入孔13から抜き去るプラグ撤去工程(
図19、
図20参照)も有している。
【0091】
図2に示すように、ひび割れ端部封止工程では、母材10の表面11に露呈するひび割れ部12の端部を封止材14を用いて封止する。
封止材14は母材表面11への塗布等によって、母材表面11に露呈するひび割れ部12の端部を覆って気密に封止する層状に設ける。そして、例えば第1実施形態と同様の手法(
図3(a)〜(c)参照。封止材層の形成方法)により、
図3(c)に示すように、母材表面11に線状に露呈延在するひび割れ部12に沿って概ね所定幅を保って延在しひび割れ部12の母材表面11側の端を封止する封止材層14Aを形成する。
また、
図3(c)に示すように、一次マーキング16aを利用して形成した二次マーキング16b同士の交差部分によって、注入孔形成工程にて形成する注入孔13の軸線位置13Pを明示する。
【0092】
注入孔形成工程(
図14参照)は、ひび割れ端部封止工程にて母材表面11に設けた封止材14の硬化後に、穿孔工具30を用いて母材10に注入孔13を形成(穿設)する。
注入孔13は、第1実施形態にて説明したものと同様の構成である。
図14に示す注入孔13は、母材10及び封止材14に、母材表面11に垂直(注入孔13軸線が母材表面11に垂直)の向きで延在形成されている。
図14、
図15に示すように、注入孔形成工程では、注入孔13をその内周面にひび割れ部12が露呈するように形成する。
図14、
図15に示す注入孔形成工程では、具体的には、拡張孔部13b内周面にひび割れ部12を露呈させた注入孔13を形成する。
【0093】
但し、この実施形態に例示する注入孔形成工程では、座繰り凹部15を形成しない。
図14に示す封止材層14Aの母材10とは反対側の表面は、母材表面11に平行に形成された平坦面である。
図14に示す穿孔工具30Aは、注入孔13の主孔部13aと拡張孔部13bとを形成できる。
図14、
図23(a)、(b)に示すように、穿孔工具30Aは、
図12(a)、(b)に例示した穿孔工具30から座繰り用刃体32eを省略したものである。
【0094】
図14に示す注入孔13は、電動回転装置に取り付けて軸回り回転させた穿孔工具30Aの主孔部形成用ビット31先端を封止材層14Aにその表面側(母材10とは反対の側)から母材10に向かって切り込ませ、封止材層14Aを貫通した主孔部形成用ビット31を母材10にも切り込ませていくだけで形成できる。
【0095】
軸回り回転させた穿孔工具30Aの主孔部形成用ビット31が封止材層14Aを貫通して母材10へ切り込みを開始した後、穿孔工具30Aの拡張孔用刃体32dが封止材層14Aに達すると拡張孔用刃体32dによる拡張孔部13bの形成が開始される。拡張孔用刃体32dによる拡張孔部13bの形成が開始されると、穿孔工具30Aの母材10への押し込みに伴い、主孔部形成用ビット31による穿孔と拡張孔用刃体32dによる拡張孔部13bの形成とが並行進行する。
なお、封止材層14Aの厚みは、穿孔工具30Aの主孔部形成用ビット31と拡張孔用刃体32dとの間の工具前後方向の離隔距離に比べて格段に小さい。拡張孔用刃体32dによる拡張孔部13bの形成は、主孔部形成用ビット31による母材10の穿孔がある程度進行した後に開始される。
【0096】
拡張孔用刃体32dが封止材層14Aを貫通して母材10へ切り込みを開始した後、穿孔工具30Aのホルダ筒部材32のフランジ部32bが封止材層14A表面に当接すると、穿孔工具30Aの母材10への押し込みが規制される。その結果、封止材層14A表面から、主孔部形成用ビット31の穿孔工具30Aのフランジ部32bからの突出寸法に相当する深さの主孔部13aが形成される。また、拡張孔部13bも、封止材層14A表面から、拡張用刃体32d先端の穿孔工具30Aのフランジ部32bからの距離に相当する深さで形成される。
【0097】
注入孔形成工程では、軸回り回転させた穿孔工具30Aを、フランジ部32b外周部が封止材層14A表面に当接するまで母材10に向かって押し込み、フランジ部32bが封止材層14A表面に当接したところで母材10への押し込みを停止し、母材10から離隔させる。その結果、主孔部13aの開口部側(孔底とは反対の側)に主孔部13aと同軸に拡張孔部13bが形成された構成の注入孔13を形成できる。
注入孔形成工程は、軸回り回転させた穿孔工具30Aを、フランジ部32b外周部が封止材層14A表面に当接するまで母材10に向かって押し込むだけで、注入孔13を形成できる。
【0098】
注入孔形成工程が完了したら、注入孔13及び座繰り凹部15の内部を清掃(
図15参照)した後、
図16、
図17に示すようにプラグ挿入工程を行なう。
図16、
図17に示すように、プラグ挿入工程では、注入孔13への液状補修材52の注入用の注入用プラグ20を、注入孔13の母材10表面側の端部に挿入し固定する。
図16、
図17に示すプラグ挿入工程では、具体的には、注入用プラグ20と、注入用プラグ20の軸部21(後述)に外挿したパッキン251、252及び山座金26とを有する構成の注入用ユニット20Bを用いる。
【0099】
ここで、注入用プラグ20及び注入用ユニット20Bの一例を説明する。
図16、
図24(a)、(b)に示すように、注入用プラグ20は、第1実施形態にて説明したものと同様の構成である。ここでは注入用プラグ20の説明を省略する。
注入用ユニット20Bは、リング状の一対のパッキン251、252と、これら一対のパッキン251、252の間に配置した山座金26とを、注入用プラグ20の軸部21に外挿している点で、第1実施形態の注入用ユニット20Aと異なる。
また、注入用ユニット20Bの山座金26は、その径大側が注入用プラグ20の頭部22側、径小側が軸部21前端(先端)側の向きで一対のパッキン251、252の間に配置されている。
【0100】
図24(b)に示す注入用ユニット20Bのパッキン251、252は具体的にはリング板状に形成されている。
パッキン251、252の、外力による変形を与えていない状態における内径は、プラグ軸部21のねじ軸部21b外径よりも小さく、しかも、軸部21後端部外径に比べて僅かに大きい(但しねじ軸部21b外径よりも小さい)か、軸部21後端部外径と同等か、あるいは軸部21後端部外径に比べて僅かに小さい。
内径が軸部21後端部外径に比べて僅かに小さいパッキン251、252は、内径を若干拡径させた状態で軸部21後端部に外挿され、軸部21後端部に圧縮力を作用させた状態で取り付けられる。
【0101】
図24(b)に示す注入用ユニット20Bにおいて、パッキン251、252は、注入用プラグ20の軸部21後端部に外挿されている。プラグ軸部21後端部に外挿されたパッキン251、252は、プラグ軸部21からその先端(前端)側へ抜け出しにくく、プラグ軸部21後端部に外挿された状態を保つことができる。プラグ軸部21後端部に外挿されたパッキン251、252は、山座金26を、プラグ軸部21後端部に外挿された状態に保つ役割を果たす。但し、パッキン251、252は、作業者が手指でプラグ軸部21に挿脱可能であり、作業者の手作業によってプラグ軸部21後端部に挿脱できる。
注入用プラグ20の頭部22は、プラグ軸部21後端からの一対のパッキン251、252及び山座金26の抜けを防止する。
【0102】
図16、
図24(b)に示すように、山座金26は、ドーム状に形成され径方向中央部の開口部26bの周囲を頂部とするドーム状本体26aと、ドーム状本体26aの頂部とは反対の径大側端部の外周全周にわたって張り出されたフランジ部26cとを有する。山座金26は、その頂部(ドーム状本体26aの頂部)がフランジ部26cよりもプラグ軸部21前端側に位置する向きでプラグ軸部21に外挿されている。
【0103】
図16に示すように、プラグ挿入固定工程では、注入用ユニット20Bの注入用プラグ20のねじ軸部21bを注入孔13の拡張孔部13bに挿入し、注入用プラグ20を軸回り回転させながらねじ軸部21bを注入孔主孔部13aにねじ込んで行く。注入用プラグ20は、頭部21の工具係合部22aにソケット形レンチ等の係合工具53(
図16ではソケット形レンチ)を係合させることで、係合工具53を介して軸回り回転操作を容易に行える。
【0104】
図16に示すように、注入用ユニット20Bのパッキン251、252及び山座金26は、注入用プラグ20のねじ軸部21bを注入孔13に挿入したときに、注入用プラグ20の頭部22(以下、プラグ頭部、とも言う)と封止材層14Aとの間に配置される。
一対のパッキン251、252のうち、山座金26を介して頭部22とは反対の側に配置された第1パッキン251の外径は、封止材層14A表面に開口する注入孔13の開口部径(拡張孔部13bの開口部径)よりも径大である。注入用ユニット20Bの注入用プラグ20のねじ軸部21bを注入孔13に挿入したときに、第1パッキン251は注入孔13に入り込まず封止材層14A表面に当接される。
なお、注入用ユニット20Bの山座金26と頭部22との間に配置されたパッキン252(以下、第2パッキンとも言う)の外径は、山座金26のドーム状本体26a外径よりも径小である。
【0105】
プラグ頭部22は、注入用プラグ20のねじ軸部21bの注入孔主孔部13aへのねじ込み進行によって、パッキン251、252及び山座金26を封止材層14に向かって押圧できる。
図17に示すように、プラグ挿入固定工程では、注入用プラグ20のねじ軸部21bを注入孔主孔部13aにねじ込んで行き、プラグ頭部22によってパッキン251、252及び山座金26を封止材層14Aに向かって押圧することで、パッキン251、252及び山座金26にそれぞれの軸線方向の圧縮力を作用させる。
その結果、注入用ユニット20Bの第1パッキン251は封止材層14A表面に圧接される。
注入用プラグ20のねじ軸部21bの注入孔主孔部13aへのねじ込みは、山座金26にその軸線方向に作用する圧縮力が、ドーム状本体26aがドーム状の形状を保てる範囲となるようにねじ込みトルク(締め付けトルク)の基準値(上限値)を設定する。
【0106】
図16に示すように、プラグ挿入固定工程では、注入用ユニット20Bの第2パッキン252のその軸線方向における注入用プラグ20の頭部22とは反対側の端面の外周全周を山座金26のドーム状本体26a外周内側の内面に当接させた状態で、第2パッキン252にプラグ軸部21軸線方向の圧縮力を作用させる。第2パッキン252にはその軸線方向に圧縮力が作用する。その結果、
図17に示すように、プラグ挿入固定工程では、圧縮変形させた第2パッキン252を山座金26のドーム状本体26a内面に圧接させることができる。また、プラグ挿入固定工程において、第2パッキン252には、山座金26のドーム状本体26a内面に押圧されることにより、縮径方向にも圧縮力が作用する。その結果、
図17に示すように、プラグ挿入固定工程の完了時には、第2パッキン252内周面がプラグ軸部21後端部に圧接され、第2パッキン252によってその内側のプラグ軸部21後端部と山座金26との間が気密に密閉される。
【0107】
図16、
図24(b)に示す注入用ユニット20Bのパッキン251、252内径はプラグ軸部21後端部外径に比べて僅かに小さい。
図16、
図24(b)に示す注入用ユニット20Bは、一対のパッキン251、252の間に山座金26を挟み込み、第2パッキン252のその軸線方向における注入用プラグ20の頭部22とは反対側の端面全体を山座金26のドーム状本体26a外周内側に配置した状態を保ってプラグ挿入固定工程に使用される。
なお、
図16、
図24(b)に示す注入用ユニット20Bにおいて、第2パッキン252は、プラグ本体23の通液孔27の出口側開口部27dよりもプラグ軸部21後端側にずれた所に位置する。
【0108】
注入用プラグ20のねじ軸部21bの注入孔主孔部13aへのねじ込みは、
図17に示すように、第1パッキン251の封止材層14A表面への圧接、及び第2パッキン252の山座金26(具体的にはドーム状本体26a内面)への圧接が完了し、注入用プラグ20の締め付けトルクが予め設定した基準値以上に達した所で停止、終了する。また、注入用プラグ20のねじ軸部21bの注入孔主孔部13aへのねじ込みの終了によって、プラグ挿入固定工程も完了する。
【0109】
プラグ挿入固定工程が完了したとき、注入用プラグ20の通液孔27の出口側開口部27dは、注入孔13の拡張孔部13b内に配置される。注入孔形成工程にて使用する穿孔工具30Aは、ひび割れ端部封止工程にて封止材層14Aを予め設定した範囲内の層厚にて形成することで、プラグ挿入固定工程の完了時に通液孔27の出口側開口部27dが拡張孔部13b内に配置されるように注入孔13を形成する。
図17に示すように、注入孔主孔部13aは、プラグ挿入固定工程の完了時に、プラグ軸部21先端が孔底から後側(開口部側)に離隔した位置に配置される深さに形成しておく。
【0110】
注入用プラグ20は、ねじ軸部21bの注入孔主孔部13aへのねじ込みよって母材10に簡単に定着させることができる。
したがって、注入用プラグ20は、既述の低圧注入工法にて採用されている、コンクリート母材表面への接着材等による注入器具の固定に比べて、母材10への固定を短時間で確実に行なうことができる。
【0111】
なお、
図16、
図17では、係合工具53にソケット形レンチを用いている。
図16、
図17に示すように、プラグ挿入固定工程の具体的一例は、プラグ頭部22に係合させたソケット形レンチ(係合工具53)を電動回転装置を用いて回転駆動することで注入用プラグ20を軸回り回転させることである。注入用プラグ20を電動回転装置を用いて軸回り回転させることは、注入用プラグ20のねじ軸部21bの注入孔主孔部13aへのねじ込みを短時間で行なうことに有利である。また、電動回転装置の回転トルク管理機能により、締め付けトルクが所望値(予め設定する基準値)に達したときに電動回転装置の出力軸の回転駆動を停止するように設定すれば、締め付けトルクが所望値に達したときに、出力軸にチャック固定されたソケット形レンチ(係合工具53)及び注入用プラグ20の回転を自動停止でき、しかも、注入用プラグ20の過剰な締め付けを回避できる。
【0112】
パッキン251、252を形成する樹脂発泡材料の形成樹脂は、例えば、エチレン・プロピレン・ターポリマー、クロロプレンゴム、アクリルゴム、ブチルゴム、ウレタンゴム等を採用できる。
なお、本発明者が実施した試験等から検討の結果、クロロプレンゴムは、特に好適に用いることができる。
【0113】
プラグ挿入固定工程にて圧縮力を作用させたパッキン251、252には若干の変形が生じる。第1パッキン251は、プラグ挿入固定工程にて山座金26の径小側端部(ドーム状本体26aの頂部)と封止材層14A表面とに密接(圧接)される。また、第1パッキン251は、プラグ軸部21後端部の側周にも密接(圧接)される。その結果、封止材層14Aに開口する注入孔13の開口部は第1パッキン251によって塞がれる。
第1パッキン251は、補修材注入工程において、注入孔13へ圧送される液状補修材の注入孔13開口部からの漏出を防ぐ役割を果たす。
【0114】
第2パッキン252は、既述のように、プラグ挿入固定工程にて山座金26のドーム状本体26a内面に圧接されるとともに、プラグ軸部21後端部の側周にも密接(圧接)される。
第2パッキン252は、万一、液状補修材52がその注入圧によって注入孔13から第1パッキン251とプラグ軸部21後端部との間を介してドーム状本体26aの開口部26bに漏出しても、山座金26とプラグ軸部21後端部との間からの液状補修材52の漏出を確実に防ぐ役割を果たす。
【0115】
注入用ユニット20Bの一対の第1、第2パッキン251、252は、液状補修材52の漏出を防ぎ、その結果、液状補修材52の注入孔13への注入圧を保つことに有効に寄与する。
【0116】
プラグ挿入固定工程が完了したら注入孔13に液状補修材52を注入する補修材注入工程を行なう。
図18に示すように、補修材注入工程では、注入用プラグ20のニップル24の口金部24bにチューブ54を接続する。そして、チューブ54のニップル24側とは反対の端部に接続されている圧送装置51から、チューブ54を介して注入用プラグ20の通液孔27へ液状補修材を圧送し、液状補修材52を通液孔27を介して注入孔13へ圧送注入する。
【0117】
チューブ54から注入用プラグ20の通液孔27へ送り込まれた液状補修材52は、通液孔27を通って、通液孔27の出口側開口部27dから、注入孔13の拡張孔部13bへ流入する。通液孔27から拡張孔部13bへ流入した液状補修材52は注入孔主孔部13aにも入り込む。また、液状補修材52は、圧送装置51からの供給圧により、母材10のひび割れ部12に入り込ませる。
【0118】
ねじ軸部21bを注入孔主孔部13aにねじ込んで母材10に定着させた注入用プラグ20は、注入孔13内の液状補修材52からの圧力による注入孔13からの抜けを生じにくい。このため、補修材注入工程は、圧送装置51から0.4N/mm
2よりも高い供給圧を以て液状補修材52を圧送して行なうことが可能である。圧送装置51は、高圧注入ポンプ等の、0.4N/mm
2よりも高い供給圧を以て液状補修材52を圧送可能なものを採用できる。その結果、コンクリート母材補修工法では、既述の低圧注入工法に比べて母材10のより広範囲にわたってひび割れ部12への液状補修材52の注入が可能である。
【0119】
補修材注入工程が完了したら、液状補修材52の硬化時間を経過した後(液状補修材の硬化後)にプラグ撤去工程を行なう。
図19に示すように、プラグ撤去工程では、プラグ頭部22の工具係合部22aに係合工具53を係合させる。そして、係合工具53を利用して注入用プラグ20を、注入孔主孔部13aへのねじ軸部21bのねじ込み時とは逆向きに回転させ、
図20に示すように、注入用プラグ20を注入孔13から抜き去る。
【0120】
図19に示すように、注入孔主孔部13a内周面には、注入孔主孔部13a内周面を形成する母材10に切り込ませたねじ軸部21bのねじ山21aによってねじ溝17が形成されている。このため、注入用プラグ20は、注入孔主孔部13aへのねじ軸部21bのねじ込み時とは逆向きに回転させるだけで、母材10に対して注入孔13開口部から抜け出る方向へ移動させることができる。
【0121】
また、プラグ撤去工程にて、注入用プラグ20を、注入孔主孔部13aへのねじ軸部21bのねじ込み時とは逆向きに回転させれば、注入孔主孔部13a内にて硬化した液状補修材52におけるプラグ軸部21のねじ山21aが入り込んでいた部分が、注入用プラグ20の回転に伴うプラグ軸部21のねじ山21aの移動を案内する案内溝となる。その結果、注入孔主孔部13aへのねじ込み時とは逆向きに回転させた注入用プラグ20の母材10に対して注入孔13開口部から抜け出る方向へ移動を、円滑、確実にすることができる。
【0122】
この実施形態のプラグ撤去工程では、注入孔13からの注入用プラグ20の撤去の他、注入用プラグ20の撤去後に、注入用ユニット20Bのパッキン251、252及び山座金26を座繰り凹部15から撤去することも含む。
プラグ挿入固定工程を完了後の注入用ユニット20Bのパッキン251、252及び山座金26は、注入孔13内ではなく座繰り凹部15に存在するので、パッキン251、252及び山座金26の撤去は容易である。
【0123】
パッキン251、252及び山座金26を座繰り凹部15から撤去すれば、注入用ユニット20Bの全ての構成部品の撤去が完了する(プラグ撤去工程が完了)。
プラグ撤去工程が完了することで、補修工法全体が完了する。
【0124】
ところで、鉄道トンネル内等の現場にて、ドリル、穿孔工具等を用いて母材10への注入孔13を形成する作業では、注入孔13をその軸線の母材表面11に対する垂直を高精度に確保して形成できる場合だけでなく、注入孔13が母材表面11に対する垂直方向に若干傾斜して形成されるケースも考えられる。
この実施形態は、注入孔13が母材表面11に対する垂直方向に若干傾斜して形成された場合でも、一対のパッキン251、252による液状補修材52の漏出防止、特に第1パッキン251による注入孔13からの液状補修材52の漏出防止を容易に実現する。
【0125】
図21、
図22は、注入孔13が母材表面11に対する垂直方向に若干傾斜して形成された場合を示す。
図21は、プラグ挿入固定工程にて、プラグ軸部21のねじ軸部21bのその軸線方向前端から中央部までを注入孔主孔部13にねじ込んだ状態、
図22はプラグ挿入固定工程を完了した状態を示す。
なお、
図21、
図22に示す封止材層14Aの母材10とは反対側の表面は、注入孔形成工程にてマーキングにて設定した軸線位置13Pを以て注入孔13が母材表面11に垂直に形成された場合の注入孔13軸線に垂直の平坦面に形成されている。
【0126】
図21、
図22に示すように、山座金26は、ドーム状本体26aの開口部26b内周と注入用プラグ20の軸部21後端部との間に確保されたクリアランスの範囲で、軸部21後端部に対して若干の可動範囲を確保して軸部21後端部に遊挿されている。山座金26は、軸部21後端部に対して揺動可能である。
なお、山座金26が、ドーム状本体26aの開口部26b内周と注入用プラグ20の軸部21後端部との間に確保されたクリアランスの範囲で軸部21後端部に遊挿され、軸部21後端部に対して揺動可能であることは、
図16〜
図18等でも同様である。
【0127】
図21に示すように、注入孔13の拡張孔部13bは、プラグ軸部21を注入孔13軸線に同軸に配置したときの軸部21後端部に対する山座金26の可動範囲に鑑みて、山座金26のドーム状本体26aの頂部が拡張孔部13bの延長上の範囲内に必ず入る大きさの内径を確保して形成する(
図16〜
図18等でも同様)。
図21に示す状態からプラグ軸部21の注入孔13へのねじ込みを進行し
図22に示す状態に至ったとき、第1パッキン251は、山座金26のドーム状本体26aと拡張孔部13b開口部の口縁部との間にて強く締め付けられる。その結果、第1パッキン251による注入孔13開口部の封止を確実にすることができる。
【0128】
また、注入用ユニット20Bの山座金26は、
図21に示す状態から
図22に示す状態に至るまでに、一対のパッキン251、252の圧縮変形を伴いながら軸部21後端部に対する位置、向きを適宜変更する。山座金26の軸部21後端部に対する位置、向きの変更は、一対のパッキン251、252の山座金26と接する部分の圧縮変形を均等化するように実現される。
注入用ユニット20Bは、プラグ挿入固定工程での、軸部21後端部に対する山座金26の位置、向きの変更により、一対のパッキン251、252の山座金26と接する部分の圧縮変形を均等化できる。その結果、注入用ユニット20Bは、プラグ挿入固定工程にて、第1パッキン251の拡張孔部13b開口部の口縁部に対する押圧状態を均等化できる。したがい、注入用ユニット20Bは、第1パッキン251の拡張孔部13b開口部の口縁部に対する押圧力が低い箇所の発生、押圧力が低い箇所からの液状補修材52の漏出を防ぐことができる。
【0129】
以上、本発明を最良の形態に基づいて説明してきたが、本発明は上述の最良の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。