特許第6341909号(P6341909)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6341909SEO−F融合タンパク質を含む人工フォリソーム体、このタンパク質をコードするベクターを含む植物細胞又は酵母細胞、及びSEO−F融合タンパク質をコードするベクター
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6341909
(24)【登録日】2018年5月25日
(45)【発行日】2018年6月13日
(54)【発明の名称】SEO−F融合タンパク質を含む人工フォリソーム体、このタンパク質をコードするベクターを含む植物細胞又は酵母細胞、及びSEO−F融合タンパク質をコードするベクター
(51)【国際特許分類】
   C07K 19/00 20060101AFI20180604BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20180604BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20180604BHJP
   C07K 14/415 20060101ALN20180604BHJP
   C12N 9/00 20060101ALN20180604BHJP
   C07K 16/00 20060101ALN20180604BHJP
   C07K 14/00 20060101ALN20180604BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20180604BHJP
【FI】
   C07K19/00ZNA
   C12N1/19
   C12N5/10
   !C07K14/415
   !C12N9/00
   !C07K16/00
   !C07K14/00
   !C12N15/00 A
【請求項の数】7
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2015-510750(P2015-510750)
(86)(22)【出願日】2013年5月2日
(65)【公表番号】特表2015-516402(P2015-516402A)
(43)【公表日】2015年6月11日
(86)【国際出願番号】EP2013059190
(87)【国際公開番号】WO2013167471
(87)【国際公開日】20131114
【審査請求日】2016年4月8日
(31)【優先権主張番号】12167377.6
(32)【優先日】2012年5月9日
(33)【優先権主張国】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】597159765
【氏名又は名称】フラウンホーファーゲゼルシャフト ツール フォルデルング デル アンゲヴァンテン フォルシユング エー.フアー.
(74)【代理人】
【識別番号】100166338
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 正夫
(74)【代理人】
【識別番号】100152054
【弁理士】
【氏名又は名称】仲野 孝雅
(72)【発明者】
【氏名】ミュラー ボイ
(72)【発明者】
【氏名】プリュフェル ディルク
(72)【発明者】
【氏名】フィッシャー ライナー
【審査官】 野村 英雄
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2009/0012262(US,A1)
【文献】 MULLER, B. et al.,"Recombinant artificial forisomes provide ample quantities of smart biomaterials for use in technical devices.",APPL. MICROBIOL. BIOTECHNOL.,2010年10月,Vol.88, No.3,pp.689-698
【文献】 RUPING, B. et al.,"Molecular and phylogenetic characterization of the sieve element occlusion gene family in Fabaceae plants.",BMC PLANT BIOLOGY,2010年10月 8日,Vol.10,219(pp.1-14)
【文献】 NOLL, G.A. et al.,"Native and artificial forisomes: functions and applications.",APPL. MICROBIOL. BIOTECHNOL.,2011年 3月,Vol.89, No.6,pp.1675-1682
【文献】 SHEN, A.Q. et al.,"Forisome based biomimetic smart materials.",PROC. SPIE,2005年,Vol.5765,pp.97-107,URL,http://publica.fraunhofer.de/documents/N-171227.html
【文献】 NOLL, G.A. et al.,"Characteristics of artificial forisomes from plants and yeast.",BIOENGINEERED BUGS,2011年,Vol.2, No.2,pp.111-114
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00−15/90
C07K 1/00−19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのSEO−F(フォリソームによる篩部閉塞)タンパク質と、少なくとも1つの他のタンパク質又はペプチドとから成る融合タンパク質を含む人工フォリソーム体(ただし、全体又は一部が蛍光性融合タンパク質で構成されるフォリソーム体を例外とする。)であって、
前記SEO−Fタンパク質がSEQ ID No.1、4、5、6、7及び8の配列のうちいずれか1つを有するタンパク質から選択されるタンパク質であり、
前記少なくとも1つの他のタンパク質又はペプチドが、酵素、抗体及び抗原から選択され、
前記人工フォリソーム体が下記変更形態(a)又はb)であり、ただし、4つのシステインのうちの任意の数のシステインが、前記SEO−Fタンパク質のC末端側の部分の600位のアミノ酸と670位のアミノ酸との間に存在し、S−S架橋結合を形成できないアミノ酸と交換可能である、人工フォリソーム体。
(a)前記他のタンパク質又はペプチドは、最大30kDaの質量を有し、フォリソーム体が、非融合のSEO−Fタンパク質、並びに、C末端側でアミノ酸最大45個分が欠失した、及び/もしくはN末端側でアミノ酸最大13個分が欠失したSEO−Fタンパク質の形態を含まないか、又は
(b)フォリソーム体がタンパク質化学的に利用でき、更に、非融合のSEO−Fタンパク質、又は、C末端側でアミノ酸最大45個分が欠失した、及び/もしくはN末端側でアミノ酸最大13個分が欠失したSEO−Fタンパク質の形態を含み、前記非融合のSEO−Fタンパク質、又は、C末端側でアミノ酸最大45個分が欠失した、及び/もしくはN末端側でアミノ酸最大13個分が欠失したSEO−Fタンパク質の前記形態がSEQ ID No.1、4、5、6、7及び8の配列のうちいずれか1つを有するタンパク質のうちから選択され、前記非融合SEO−Fタンパク質が、他のSEO−Fタンパク質の不在時に、ホモマーフォリソーム体を形成することが可能となる特性を有するタンパク質から選択される
【請求項2】
前記融合タンパク質は、前記SEO−Fタンパク質のN末端側の端部に融合される酵素を含むか、又は、前記融合タンパク質は、薬学的効能を有するか、又はバイオ技術の観点から利用価値があり、前記SEO−Fタンパク質のC末端側の端部に融合されるタンパク質を含む、請求項記載の人工フォリソーム体。
【請求項3】
少なくとも2つの融合タンパク質を含み、該融合タンパク質が、それぞれ酵素を含むことで、該酵素のうち第1の酵素を用いた基質の転換による生成物が、前記酵素のうち第2の酵素の基質として使用可能である、請求項又はに記載の人工フォリソーム体。
【請求項4】
少なくとも1つのSEO−F(フォリソームによる篩部閉塞)タンパク質と、少なくとも1つの他の非蛍光性タンパク質又はペプチドとから成るタンパク質化学に有用な特性を有する融合タンパク質をコードした第1のベクターであって、前記SEO−Fタンパク質がSEQ ID No.1、4、5、6、7及び8の配列のうちいずれか1つを有するタンパク質から選択されるタンパク質であり、
前記他の非蛍光性タンパク質又はペプチドが、最大30kDaの質量を有し、酵素、抗体及び抗原から選択される、第1のベクターと、
SEO−Fタンパク質、又は、C末端側でアミノ酸最大45個分が欠失した、及び/又はN末端側でアミノ酸最大13個分が欠失した、前記タンパク質の形態をコードした第2のベクターであって、前記SEO−Fタンパク質が、その他のSEO−Fタンパク質がない場合、ホモマーフォリソーム体を形成することができる特性を有し、前記SEO−Fタンパク質、又は、C末端側でアミノ酸最大45個分が欠失した、及び/もしくはN末端側でアミノ酸最大13個分が欠失したSEO−Fタンパク質の前記形態がSEQ ID No.1、4、5、6、7及び8の配列のうちいずれか1つを有するタンパク質のうちから選択される、第2のベクターとを含み、ただし、4つのシステインのうちの任意の数のシステインが、前記SEO−Fタンパク質のC末端側の部分の600位のアミノ酸と670位のアミノ酸との間に存在し、S−S架橋結合を形成できないアミノ酸と交換可能である、
植物細胞又は酵母細胞。
【請求項5】
前記融合タンパク質は、前記SEO−Fタンパク質のN末端側の端部に融合される酵素を含むか、又は、前記融合タンパク質は、薬学的効能を有するか、又はバイオ技術の観点から利用価値があり、前記SEO−Fタンパク質のC末端側の端部に融合されるタンパク質を含む、請求項に記載の植物細胞又は酵母細胞。
【請求項6】
前記ベクター又は第1のベクターが、第1の酵素のアミノ酸配列を有する融合タンパク質をコードし、前記細胞が、第2の酵素のアミノ酸配列を有する融合タンパク質をコードする少なくとも1つの他のベクターを含み、前記第1の酵素を用いた基質の転換による生成物は、前記第2の酵素の基質に適していることを特徴とする、請求項又はに記載の植物細胞又は酵母細胞。
【請求項7】
求項1〜のいずれか一項記載の人工フォリソーム体であって、前記人工フォリソーム体がタンパク質化学に使用される、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質化学で利用可能な特性を有する人工フォリソーム体と、かかる人工フォリソーム体の細胞内での形成及び分離を可能にするベクターの組み合わせを含む植物細胞及び酵母細胞と、SEO−F融合タンパク質をコードするベクターとに関する。
【背景技術】
【0002】
フォリソームは、マメ科植物 (Fabaceae/Leguminosen/ファバーシエ)の篩部にのみ見られる植物タンパク質体(機械的タンパク質)である。フォリソームは、維管束組織の篩部 に位置する。篩部が損傷を受けると、フォリソームは、カルシウム依存性の構造変調の影響を受け、この構造変調において、フォリソームは、液化状態から凝縮・拡散状態に移行し、この凝縮・拡散状態によって、フォリソームは篩管を閉塞し、これによって、貴重な糖分子の流出が防止される。フォリソームは、サイズの大きいコンパクトな束から成る繊維状の基礎構造の中に位置する。フォリソームは、in vitroでは、ATPに応じて、二価カチオン、pHの変化又は電気刺激によって励起され、交互に発生する収縮及び拡張の複数回反復可能なサイクルを引き起こすことが可能である。
【0003】
フォリソームは、数百万のサブユニットから構成される。ここで言うサブユニットとは、その機能に応じて「フォリソームによる篩部閉塞」(“Sieve Element Occlusion by Forisomes”=SEO−F)と呼ばれる同族タンパク質である。細菌発現ベクターを用いて、上記の同族タンパク質をコードしたいくつかの遺伝子を発現させる手順は、非特許文献1に記載されている。メディカーゴ・トルンクラータ(Medicago trunculata)には少なくとも4つのサブユニット(SEO−F1〜SEO−F4)が存在することは、確実視された(非特許文献2、非特許文献3)。これら4つのサブユニットは全て、現在では配列されており、これらのサブユニットの配列(SEQ ID No:1〜4)を、図1〜4に示した。トンカマメ(Dipteryx panamensis)、ミヤコグサ、エンドウ及びソラマメの各種植物のSEO−F1タンパク質の配列(SEQ ID No:5〜8)を、図9〜12に示した。植物においては、異なるSEO−Fタンパク質が凝集して、フォリソームタンパク質体を成す。外部組織(タバコ植物体、酵素)にそれぞれ遺伝子を発現させることで、タルウマゴヤシにおいて、上記のサブユニットのうち2つのみ、すなわちSEO−F1及びSEO−F4が、それぞれその他のサブユニットの不在時であっても合成されて、ホモマーから成る人工フォリソームをなすことが示された。非特許文献4、非特許文献5参照。これに反して、サブユニットSEO−F2は、ホモマーから成る人工フォリソームに自己組織化されることはないが、サブユニットSEO−F1ともサブユニットSEO−F4と共に凝集し得る。
【0004】
分析の目的で、既に、SEO−F融合タンパク質が生成された。たとえばグンドゥラ・ノルは、非特許文献1によれば、大腸菌における抗体生成の目的で、フォリソーム遺伝子酵素結合を行った。しかし、ここでは、フォリソーム体の生成は認められなかった。H・C・ペリシエ(H・C・Pelissier)他は、非特許文献3において、フォリソームサブユニットと緑色蛍光タンパク質(GFP)とから成る融合タンパク質について説明し、この緑色蛍光タンパク質を用いて、融合タンパク質が移植されるトランスジェニック植物において、上記サブユニットとフォリソーム体との関連性を確認することが可能となった。B・ミュラー他は、非特許文献6において、タルウマゴヤシから得られた遺伝子MtSEO1〜MtSEO4の一方と、ビーナス遺伝子とから成る融合タンパク質と、黄色蛍光タンパク質とをコードした4つのベクターについて説明している。融合タンパク質は、ベンサミアナタバコの上皮細胞に発現することが可能である。それぞれMtSEO遺伝子も同時に発現し、MtSEO−F1とMtSEO−F4の場合には、フォリソーム体に類似しているが、異なる表現型を有するタンパク質複合体が生成される。MtSEO−F2とMtSEO−F3の場合には、同一の実験手法で、細胞質局在性のタンパク質のみが検出される。更に、このような人工フォリソーム体が大量に生成可能であることを証明するために、MtSEO−F1/MtSEO−F1venusとMtSEO−F4/MtSEO−F1venusの同時発現が酵素中で行われた。加えて、大量の人工フォリソーム体は、MtSEO−F1又はMtSEO−F4の単独発現によって生成可能である。
【0005】
タンパク質生化学はここ数十年多大な進歩を遂げたが、組換産物として生成されたタンパク質の精製は、極めて困難であった。このような状況は、たとえば、膜結合タンパク質又は毒性タンパク質に当てはまる。まさに、酵素の場合には、酵素の量及び/又は活性が所望の範囲にないという状況がしばしば見られるため、必要な量が原因となって、アッセイその他の費用が並外れて高額になる。組換えタンパク質の発現についても、それ自体としては、問題となり得る。それゆえ、これらのタンパク質の多くは、発現生物内で正しく折り畳まれないか、又は不活性の形態の封止体として細胞内で析出される。生成のもう1つの要件は、多くの場合担体(アガロース、ナイロン)への固定化によって実現される酵素の再利用可能性である。多くの場合、かかる固定化は、酵素活性の大幅な低下を引き起こすため、アッセイその他の費用が並外れて高額になる。特に、ポリクローナル抗体の精製は、通常クロマトグラフ法を用いて行われ、依然として改善が必要な状況である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】G.Noll, Molekularbiologische Charakterisierung der Forisome,Giessen, 2005.
【非特許文献2】G.Nollet al.,Plant Molecular Biology, 65(2007), 285−294
【非特許文献3】H. C.Pelissier et al.,Plant and Cell Physiology),49(2008)、1699−1710
【非特許文献4】G.Noll et al.,Bioengineered Bugs,2:2(2011), 1−4
【非特許文献5】G.Noll et al,Plant Signaling & Behavior 6:1, 151−153
【非特許文献6】B.Mueller et al.,Applied Microbiology and Biotechnology,89(2011):1675−1682.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上から、本発明は、ここで是正策を創出し、タンパク質として、一方では容認される費用で製造することが可能であり、他方、上記の目的で、上のタンパク質の使用を容易にするか、又は、従来公知で同様の目的で使用されてきたタンパク質その他の材料の使用の際の結果との比較で、上のタンパク質の使用の際の結果を改善する構造又は形状を有するタンパク質を提供するという課題を設定した。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題の解決において、本発明は、改変されたフォリソームを提供することを提案する。このフォリソームは、タンパク質化学の多くの点で、特に、このフォリソームに融合タンパク質の形態で含有される生化学活性を有する構造の形態で、改善及び簡略化をもたらすことを可能にする。融合を介して酵素の機能がフォリソームに導入される場合には、フォリソームが担体として使用可能となり、この担体に酵素が固着されることで、外部マトリックスとの結合が不必要になる。しかし、フォリソームは、たとえば、その精製が容易となる組換えタンパク質の生成との関連で、結合される外来タンパク質の保護機能も有する。外来タンパク質は、フォリソームの形態で容易に分離され、次いで、必要に応じて、適合したプロテアーゼ切断部位及び対応するタンパク質分解酵素を用いて、フォリソームから分離することが可能となる。融合を介して抗原性の構造をフォリソームに導入した場合には、フォリソームそのものが抗体の精製に利用可能となる。更に、本発明の物体は、その接合特性又は構造変調特性の意図的な改変によって、マイクロ工学で役割を果たすことが可能である。
【0009】
従来の研究として、上に引用された、SEO−F遺伝子及びSEO−Fタンパク質の分析との関連での文献において、SEO−F1又はSEO−F4タンパク質から成る融合タンパク質に蛍光タグを施したものは、対応する天然タンパク質と共に、フォリソーム体をなす。しかし、本発明の発明者は、任意のタンパク質を含む任意のSEO−Fユニットを含む融合タンパク質から、又はこの融合タンパク質を用いて、フォリソームを生成することは不可能であることを確認する必要があった。にもかかわらず、発明者は、外来タンパク質を用いて、本発明の使用目的に適した人工フォリソーム体を生成するのに成功した。かかるフォリソーム体は、酵素内で発現可能であり、このため、大量のフォリソーム体が提供可能となる。特に、SEO−Fタンパク質又はそのセグメント、更には、C末端及びN末端が、多数のタンパク質、場合によってはペプチドと結合可能であり、ここで、以下の条件の1つが満たされる限りにおいて、フォリソーム体をなすことが証明された。
【0010】
それゆえ、本発明の課題は、少なくとも1つのSEO−Fタンパク質又は少なくとも50のアミノ酸を含むSEO−Fタンパク質の少なくとも1つのセグメントと、少なくとも1つの他のタンパク質又はペプチドとから成る融合タンパク質を含む人工フォリソーム体の提供によって解決され、ここで、
(a)他のタンパク質又はペプチドが、最大30kDa、好ましくは25kDaの質量を有する、及び/又は
(b)フォリソーム体が、更に、非融合の、多くの場合天然のSEO−Fタンパク質、又は、C末端側でアミノ酸最大約50個分、特に最大約45個分、好ましくは最大43個分が欠失した、及び/又は、N末端側でアミノ酸最大13個分が欠失した、上記のタンパク質の形態を含み、非融合SEO−Fタンパク質が、他のSEO−Fタンパク質の不在時に、ホモマーフォリソーム体を形成する特性を有するか、又は
(c)他のタンパク質又はペプチドが、第2のSEO−Fタンパク質のセグメントであり、その条件として、2つのSEO−Fタンパク質のうちの1つが、非融合の形態では、ホモマーフォリソーム体を形成することが可能であり、融合タンパク質が、N末端タンパク質セグメントとC末端タンパク質セグメントとから成り、2つのタンパク質セグメントの融合が、2つのSEO−Fタンパク質において同一又は略同一な領域に位置し、タンパク質の機能に関連する領域について見ると、同一又は略同一な部位に位置することで、融合タンパク質が、完全なSEO−Fタンパク質となるが、融合タンパク質は、必要に応じて、C末端側でアミノ酸最大約50個分、最大約45個分、好ましくは最大43個分及び/又は、N末端側でアミノ酸最大13個分が欠失することが可能である。
【0011】
もちろん、上記の条件(a)、(b)、(c)のうち二以上を満たすフォリソーム体も、本発明に含まれる。
【0012】
上述の通り、融合タンパク質MtSEO−F1venus及びMtSEO−F4venusと、それぞれの天然タンパク質MtSEO−F1/MtSEO−F1venus及びMtSEO−F4/MtSEO−F4venusとの組み合わせから成るフォリソーム体は、先行技術から公知である。かかるフォリソーム体は、本特許の保護の範囲から除外されるべきである。このフォリソーム体は、フォリソーム検出の目的で生成されているが、本発明はこれを目的としておらず、タンパク質化学で発生する特定の問題の解決を目的としている。それゆえ、必要に応じて励起光下で、融合タンパク質が蛍光体である限りにおいて、SEO−Fタンパク質又はペプチドが、GFPタンパク質(図13及びSEQ ID No.9参照)又はビーナスタンパク質(図14及びSEQ ID No.10参照)、若しくは、そのセグメント又はその(人工の)修飾体に融合する、融合タンパク質から成るか又はこれを用いて生成されるフォリソーム体は、本特許の保護の範囲には含まれない。融合タンパク質を組み込んだ際に、蛍光性を有するか、又は、化学発光タンパク質のように、その他の方法で視認可能なペプチドを含む構造を有するフォリソーム体も、少なくともこのフォリソーム体が、以下に規定の意味で生化学活性又は生化学活性化能を有する限りにおいて、本発明に含まれることにはならない。最も広義では、必要があれば、この条件は、そのSEO−F分子に由来しないタンパク質部分が、所望の融合の存在の確認以外の目的を達成することができないか、又は通常その必要もない融合タンパク質から成るか又はこれを含む全てのフォリソーム体に該当する。もちろん、上記の例外は、上記のフォリソーム体を含有するか、又はかかるフォリソーム体を用いて、本発明の生成物又は対応する融合タンパク質が生成される全ての本発明の生成物にも適用される。
【0013】
本発明は、融合タンパク質から成るフォリソームとして、フォリソームに人工的な生化学活性又は活性化能又は変化を加えた機械的特性を付与するフォリソームを対象とする。それゆえ、他のタンパク質又はペプチドは、人工的な生化学活性又は活性化能を有するタンパク質又はペプチドか、或いは、第2のSEO−Fタンパク質のセグメントから選択される。
【0014】
本発明によれば、「生化学活性又は活性化能を有するタンパク質又はペプチド」という記載は、特に、その生体触媒作用のゆえに、酵素のように、物質転換に使用される全てのタンパク質、免疫反応を引き起こすことが可能であるか、特に抗体及び抗原と同様の薬学的効能を有する全てのタンパク質、外来タンパク質又は外部ペプチドとの結合部位を有する全てのタンパク質又はペプチド、更に、その他のバイオ技術の観点から利用価値のあるタンパク質又はペプチドを含む。本発明によれば、「バイオ技術の観点から利用価値のある」とされるのは、たとえば、その合成が医療用の用途又は診断方法の目的で、重要性を帯びることがある全てのタンパク質又はペプチドである。多くのタンパク質又はペプチドが、基質に結合された生物材料又は生化学的に生成された材料との親和反応が原因で、基質に固定化されることで、再利用可能性を達成する。これらのタンパク質又はペプチドも、本発明によれば、「バイオ技術の観点から利用価値のある」ものに該当する。これに反して、視認可能であり、特に蛍光タンパク質のように、生体触媒作用又は上記の特性のうち、生体触媒作用以外のものが、問題のタンパク質又はペプチドに欠けている場合に、(もっぱら)融合タンパク質の形成の確認に使用されるタンパク質又はペプチドは、上の記載には含まれない。
【0015】
発明者は、通常は、融合タンパク質が他のSEO−Fタンパク質の不在時に、ホモマーフォリソーム体を形成する特性を有する限りにおいて、融合タンパク質が非融合の、たとえば天然のSEO−Fタンパク質と同時発現する場合には常に、フォリソーム体が酵素内で形成されることを確認できた。これに関しては条件(b)参照。これは、ホモマーを形成するSEO−Fが存在することで、組立に関連する構造の数と相違が比較的大きくなることに起因するとすることが可能である。
【0016】
しかし、驚くべきことに、発明者は、上に規定した融合タンパク質が、上記のSEO−Fタンパク質の存在がなくとも、外来タンパク質部分が一定の大きさを超えなければ、フォリソーム体に自己組織化することを確認できた。発明者は、上記の目的で、非SEO−F部分が、最大30kDaの質量を有することになることを確認した。上記の限界を約25kDaに設定する(条件(a))と一層有利である。上記の方法で得られるフォリソーム体は、若干薄手で繊維質であるが、それでも精製される。
【0017】
人工フォリソームの定義の条件(c)について、SEO−Fタンパク質に必要な特性を全て有するSEO−F融合生成物が、人工的に生成可能であることが確認されたことはすでに述べた。この前提条件は、融合タンパク質の少なくとも一部が、ホモマーフォリソーム体を形成することが可能であるSEO−Fタンパク質に由来することにある。かかるタンパク質においては、構造はいっそう顕著に特徴的なものとなり、この構造が自己組織化、更にはフォリソーム形成に役立つと想定される。ある程度の欠失が、N末端領域よりもC末端領域で際立って発生している可能性があるという上記の可能性は、発明者としては必ずしも固執するつもりはないが、発明者の今のところの見解としては、自己組織化に関連する構造がN末端領域には存在しないことに起因する。
【0018】
発明者が発見した可能性である、(c)による条件のもとで、必要に応じてホモマーとして、すなわち、他の、たとえば非融合タンパク質の存在がなくとも、フォリソームに自己組織化する人工的なSEO−Fタンパク質に想到する可能性によって、その自己組織化能が目的に応じて制御される、たとえばこの能力を高めることが可能なフォリソームの生成が開始される。このようにして、かかるフォリソームの機械的特性が、所望の用途に適応可能となる。たとえば、構造変調のために条件(Ca2+含量及び/又はpH値及び/又は電気刺激)を変動させることが可能になり、もってフォリソームが、天然のフォリソームでは構造変調を引き起こすことのない条件でも使用可能となる。
【0019】
本発明によれば、融合タンパク質は、C末端側、すなわち、クローニングベクター及び「アップストリーム」領域でのDNA読み取りとの関係で、又は、N末端をなす、すなわち、クローニングベクター及び「ダウンストリーム」領域でのDNA読み取りとの関係で、他のタンパク質を含む。
【0020】
特別な利点が、本発明によって、以下の分野で得られる。
a)酵素の固定化は、工業分野で使用される酵素において利用される。というのは、酵素の固定化は、酵素の再利用可能性という利点と、酵素生成物の不純物の低減をもたらすからである。しかし、酵素の安定性及び酵素活性は、可溶性の酵素の形態と比較した場合、通常は使用される担体によって低減される。従来、酵素の固定化は、多くの場合、酵素の担体への吸着、組み込み、架橋結合又は共有結合によって行われる。固定化法の不都合は、たとえば、吸着及び組み込みの場合には不十分な酵素の固定であり、架橋結合の場合には毒性を有する化学物質の使用であり、共有結合の場合にはアミノ酸の本質をなす官能基の阻害である。担体としては、アクリル樹脂、ハイドロゲル及び珪藻土のような合成ポリマー、PNIPAMのようなスマートポリマー、又は、アガロース、セルロース、スターチ及びキトサンのようなバイオポリマーが従来使用されてきた。それゆえ、たとえば、アガロース1g当たり1000〜1750単位の活性を有するアガロース粒子に固定化されたグルコース−6−リン酸脱水素酵素が商用に供給されている。酵素の精製、その後の酵素の担体への結合は、2つの別々の作業ステップであり、酵素活性は、固定化の後に、著しく低下させられる。
b)組換えタンパク質の発現は、タンパク質の特性に応じて、問題となることがある。たとえば、毒性タンパク質は、発現生物の生活力に影響を及ぼし、組換えタンパク質の生成量を低下させる。その他のタンパク質は、正しく折り畳まれないか、又は非活性の形態の封止体として、細胞内で析出される。これ以外の問題が、組換えタンパク質の精製の際に発生することがある。それゆえ、たとえば、膜タンパク質の分離が、膜成分との相互作用によって困難となるか、又は、タンパク質が、精製プロセス中に分解される。更に、精製プロセスは、通常極めて費用がかさみ、多くの場合、大量の環境に有害な化学物質の使用なしではすませられない。実際には、精製は、工業的な製法においては、複数のステップに区分される。ここで、作業ステップには、沈殿、ろ過又はクロマトグラフィー法が含まれる。上記の方法において最重要の基準は、精製効率、費用効率、かかる方法の生体内持続性である。たとえば、沈殿は、非常に安価であるが、低い純度しか得られず、大量の化学物質の使用を前提とするが、ろ過又はクロマトグラフィー法は著しく費用がかさむ。この理由から、生成物の一体性を高め、費用を削減し、化学物質の使用を低減する新規の精製方法の開発は、高まる業界の関心の的である。
c)ポリクローナル抗体の獲得は、それぞれの抗原(タンパク質又はペプチド)の動物への注射によって行われる。数週間経つと、ポリクローナル血清が動物の血管から採取可能となる。モノクローナル抗体の獲得のために、形質細胞が脾臓又はリンパ節から分離され、がん細胞と融合され、無菌培養で培養される。複数回分離を行った後、ハイブリドーマ培養に成功し、このハイブリドーマ培養は、単一の細胞に由来し、所望のモノクローナル抗体を分泌する。特に、ポリクローナル抗体においては、モノクローナル抗体の場合よりもまれに、所望の抗体以外にも、有害な抗体(たとえばケラチン抗体)及び/又は検出を妨害する物質(たとえば、使用された抗原に類似するタンパク質又は凝集し検出方法を妨害するタンパク質)が血清中に含まれる。このような物質は、所望の抗体から分離する必要がある。これは、従来クロマトグラフィー法によって実施されてきた。この目的で、抗原は、コラムマトリックスに結合される。その後、マトリックスは、「不純物を含む」抗体溶液でインキュベートされ、こうして、特異的な抗体が抗原更にはマトリックスに結合することが可能となる。マトリックスが洗浄された後に、抗体がコラムから溶離される(たとえば、酸性を示すpH値の溶液によって)。この手間のかかる方法の単純化と、効率の向上は、大いに必要とされる。
d)しかし、本発明の利点は、外来タンパク質の生成及び特性にとどまらない。フォリソームそのものの分野でも、かかる利点は、有利に利用可能である。上述した通り、フォリソームは、カルシウムに起因するか、又はpH依存性の構造変調のために、制御モジュールとしてマイクロ流体システム内で使用可能である機械的タンパク質である。それゆえ、A. Q. Shen et al., Smart Structures and Systems)』2(2006),225−235及びK. Uhlig et al., Journal of Microelectromechanical Systems 17(2008),1322−1328は、マイクロ流路中の蛍光粒子の流れが、一体化されたフォリソームによって制御されることを証明した。しかし、意図的且つ持続的なフォリソームの固定は、従来はもっぱら手動で、マイクロ操作技術を用いて、且つ極めて大量の時間及び労力の消費のもとで可能であった。それゆえ、シェン他及びウルリッヒ他(上掲論文)によって、天然のガラスの接着力が利用された。ここで、フォリソームは、表面に押しつけられた場合には、この表面に固定される。しかし、かかる接着力は、液体の流れ中でのフォリソームの固定を保証するものではない。更に、フォリソームが表面に接着した場合には、フォリソームの反応強度が低下する(G.Noll et al., Bioengineered Bugs,2:2(2011),111−114)。
【0021】
その構造変調特性が、所定の刺激の影響のもとで変化する(たとえば、異なるpH値又は異なるCa2+濃度における、液化状態から拡散状態、又はその逆への移行によって)フォリソームの提供も期待される。
【0022】
本発明の発明者は、上記の領域のうち4つ全てにおける利点が得られる材料を提供することに成功した。ここで、多くの場合、融合タンパク質の発現は、他のタンパク質サブユニットの存在とは無関係にホモマーを形成可能であるフォリソームタンパク質の同時発現が、同一の細胞内で発生した場合に、可能となる。これに反して、融合タンパク質の発現は、小型の外来タンパク質の使用時に、利用価値のある生成物をもたらすが、他方、その他の場合には、フォリソーム体が全く形成されず、可溶性の形態のタンパク質が存在するか、又は「封止体」が細胞内に堆積する。
【0023】
融合タンパク質とホモマーフォリソーム体をなすSEO−Fサブユニットとの同時発現が行われる、及び/又は融合タンパク質が、小型の外来タンパク質サブユニットを伴って発現した場合には、植物又は酵素において、安定したフォリソーム体が発現され、このフォリソーム体は、外来タンパク質又はペプチドの存在にもかかわらず、略天然フォリソームの形状を有する。それゆえ、本発明は、個別にモジュール化可能で、機能性の人工フォリソームを生成する可能性をもたらす。この点が驚くべきであるのみならず、特に、ここで、フォリソーム体の自己組織化が、外来タンパク質の機能効果を妨害しないという確認も、驚くべきである。酵素と融合したSEO−Fサブユニットを例に、フォリソーム体が、商用の固定化担体と比較して、外来タンパク質の活性を、低い強度で低下させることが証明可能となったが、この点は、全ての融合タンパク質について想定可能ではあったが、一連のそれ以外のタンパク質においては、定量的な比較の可能性がないことから、確認されてはいなかった。
【0024】
MtSEO−F1及びMtSEO−F4の使用は特に好ましい。しかし、他の供給源由来のSEO−Fサブユニットも同様に使用される。
【0025】
それぞれの天然のSEO−Fサブユニットの鎖全体が、融合タンパク質内に存在することが確認可能であった。これに代えて、SEO−Fサブユニットの鎖の、必要に応じて比較的小さい一部分でも、たとえば、約60〜250の長さの領域でも十分であることが、発明者が蛍光タンパク質との融合を用いて確認可能となった。この点は、SEO−F1又はSEO−F4のように、ホモマーをなすタンパク質の存在が、外来タンパク質が一定量を上回った場合にフォリソームが形成されるか否か決定する。
【0026】
融合タンパク質のSEO−F成分は、全てのSEO−Fサブユニットに由来するとすることが可能である。好ましくはSEO−F1、SEO−F2及びSEO−F4に由来し、特に、MtSEO−F1、MtSEO−F2及びMtSEO−F4に由来する。
【0027】
同時発現した非融合SEO−Fタンパク質が存在する限りにおいては、フォリソームの形成を確保するために、略完全又は少なくともその大部分が完全なものとなる必要がある。しかし、発明者は、それぞれのサブユニットの鎖全体が存在する必要があることについては確認していない。N末端の少なくとも最大13のアミノ酸及び/又はC末端の少なくとも最大43のアミノ酸、必要に応じて最大45のアミノ酸、可能であれば、最大50のアミノ酸の欠失が、本発明のフォリソーム体が影響を受けない範囲で、許容可能である。
【0028】
本発明のフォリソーム体は、任意の数のサブユニットから構成可能である。通常は、融合タンパク質1種との組み合わせでの非融合SEO−Fサブユニット1種か、又は、融合タンパク質の外来タンパク質部が上記の大きさを上回らなければ、融合タンパク質1種のみでも十分である。フォリソーム体は、通常、約10〜10の個別のタンパク質鎖から成り、必要に応じて、非融合SEO−Fサブユニットの数と融合タンパク質の数の比が、外来タンパク質の種類と大きさに応じて、約4:1〜1:1の範囲となる。
【0029】
本発明の個々のフォリソーム体は、通常、1種類の融合タンパク質のみを含む。しかし、このフォリソーム体は、複数の異なる融合タンパク質を含むことがある。この点についての特異的且つ特に好適な例は、以下の第1)項において説明される。
【0030】
各フォリソームサブユニットが天然の供給源に由来することは、本発明には何の役割も持たない。本発明のフォリソーム体は、トンカマメ(Dipteryx panamensis)、エンドウ、ソラマメ、ナタマメ及びミヤコグサに由来するSEO−F遺伝子を用いて生成される。ここから、本発明によれば、マメ科の全ての植物の対応する遺伝子が使用可能であることが推論される。更に、遺伝子組換え又は合成SEO−F遺伝子又はフォリソームサブユニットも、少なくとも、上記の植物の属する科で保存されている領域が維持されているか又は存在している限りにおいては、使用可能である。
【0031】
異なるフォリソームサブユニットのアミノ酸配列における4つのシステインの順番が、かかるフォリソームサブユニットの構造及び安定性に、多大な影響を及ぼすと、長きにわたって仮定されてきた。上記のシステインは、3つのフォリソームサブユニット全てにおいて、アミノ酸配列のC末端部(600位以降)、特に、CPNPXCGRVMEVXSXXYKCC(Xは、変更可能なアミノ酸を示す)という高度保存モチーフに位置する。このモチーフは、全てのSEO−F遺伝子において(すなわち、他の植物の科におけるSEO−F遺伝子においても)、高度に保存される。対応するシークエンスロゴは、図5に示した。しかし、発明者は、この部位の存在がフォリソーム形成に本質的ではないことを証明することが可能であった。というのは、同時発現した非融合SEO−F又は2つのSEO−F成分から成る融合タンパク質として、SEO−Fタンパク質を使用することが可能であり、C末端が最大43のアミノ酸、必要に応じて最大45のアミノ酸、又は、最大50のアミノ酸分だけ短縮され、ここで本発明のタンパク質鎖の自己組織化特性は失われない。SEO−F1又はSEO−F4が、全長にわたって、又は、上記の保存モチーフの一部又は全体が存在する配列長で使用される場合には、上記のシステインが、明らかに無視できない役割を帯びる。特に、上記のシステインが、「部位特異的突然変異」を用いて、一部又は全体が、ジスルフィド架橋形成を実現しないアミノ酸に置換され、このアミノ酸は、たとえばグリシン又はアラニンのように、上記のシステインのうち最後の2つ(シークエンスロゴではシステインC21及びC22)が変異した場合、タンパク質フィブリルが他の場合にはフォリソーム体に自己組織化しないような形で、フォリソーム体の構造状態を変化させることが証明された。それゆえ、理論の制約を受けようとするのでない限り、2つのフォリソームサブユニットの上記のシステインの間のジスルフィド架橋がタンパク質フィブリルの秩序立った自己組織化に起因することは想定できない。これに反して、上記のシステインのうち最初の2つ(シークエンスロゴではシステインC3及びC8)のうち、少なくとも1つが変異した場合、そのシステインの発現の後、典型的なフォリソーム体が形成されるが、このフォリソーム体は、カルシウムイオン及びNaHSOの添加後に完全に溶解する。カルシウムがタンパク質フィブリルの反発作用を引き起こし、NaHSOの添加が、その後も残存するジスルフィド架橋を溶解する。それゆえ、システインC3及びC8が、個々のサブユニットの結合による繊維形成に関与していると想定され、それゆえ、タンパク質が、その変異後に、その可溶性の形状に転移することが可能になる。
【0032】
繊維体は有利な特性を有することが可能で、本発明に含まれている。それゆえ、「人工フォリソーム」という表現は、本発明で使用される場合には、本発明の少なくとも1つの実施形態において、上記のファイバーネットワークも含める。
【0033】
特に有利なものは、上記の可溶性のフォリソーム体である。というのは、このフォリソーム体によって、以下の例に示した通り、タンパク質の精製が容易になるためである。
【0034】
フォリソーム体の生成は、上述のとおり、好ましくは植物細胞又は酵母細胞で行われ、酵母細胞の使用が特に有利である。というのは、酵母細胞の使用が大量の人工フォリソーム体の生成を可能にするからである。それゆえ、本発明は、これに応じて形質転換された細胞を対象とする。そして最後に、本発明は、これを用いて本発明のフォリソーム体が生成可能となる、新規のベクター構造体を含む。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】メディカーゴ・トルンクラータのサブユニット(SEO−F1)の配列を示す。
図2】メディカーゴ・トルンクラータのサブユニット(SEO−F2)の配列を示す。
図3】メディカーゴ・トルンクラータのサブユニット(SEO−F3)の配列を示す。
図4】メディカーゴ・トルンクラータのサブユニット(SEO−F4)の配列を示す。
図5】シークエンスロゴを示す。
図6】SEO−F1及びSEO−F2に由来する本発明のフォリソーム体に結合されるグルコース−6−リン酸脱水素酵素の酵素活性試験を示す。
図7】フォリソーム体SEO−F1及びSEO−F4を用いたMSP119の精製を示す。
図8】人工フォリソームの固定化のための、IgG抗体とBドメインとの相互作用の利用を示す。
図9】トンカマメのSEO−F1タンパク質の配列を示す。
図10】ミヤコグサのSEO−F1タンパク質の配列を示す。
図11】エンドウのSEO−F1タンパク質の配列を示す。
図12】ソラマメのSEO−F1タンパク質の配列を示す。
図13】GFPタンパク質の配列を示す。
図14】ビーナスタンパク質の配列を示す。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下において、本発明は、複数の例を用いて詳細に説明され、この例は、一方では本発明の適用可能性の範囲を示し、他方では、これを用いれば当業者が本発明を実施することが可能になる、個々の措置を具体的に示している。それゆえ、上記の例が限定的なものと理解されてはならないことは明白であるはずである。
【0037】
1) 酵素結合された融合タンパク質を含むフォリソーム体
酵素とSEO−Fタンパク質との結合によって、人工フォリソームに、酵素の担体として使用されるという形で機能が加えられる。酵素は、このようにして固定化することが可能になる。ここで、酵素結合されたフォリソームは、酵素と融合された、必要に応じて短縮された第1のSEO−Fサブユニットと、必要に応じて、必要があれば又は要請に応じて、上記のとおり欠失することが可能であるSEO−F1とSEO−F4とのうちから選択される第2のSEO−Fユニットとから成る。融合タンパク質は、C末端又はN末端側で、融合酵素を担持することが可能である。酵素結合されたフォリソームは、酵素(たとえばサッカロマイセス・セレビシエ)、細菌(たとえば大腸菌)又は植物(たとえばタバコ)のような、目的に適した発現生物における同時発現によって生成される。酵素における(同時)発現が特に好ましい。発生した酵素結合されたフォリソームは、高い安定性で際立っている。このフォリソームは、発現生物から単離され(たとえば酵母細胞の分解によって)、たとえば、遠心分離法/密度勾配遠心分離法によって、細胞成分から分離される。グルコース−6−リン酸脱水素酵素をフォリソームサブユニットのN末端に融合される酵素とすると、市販品として入手可能な固定化された酵素と比較して明らかに高い酵素活性が測定可能となる(フォリソーム1g当たり2700単位に対して、アガロース1g当たり1000〜1750単位。図4参照)。ここで、酵素が、直接固定化された形態で、生成生物から単離可能となり、これによって、担体結合ステップの分だけ、酵素生成が減少する。これは、作業の簡素化に相当するのみならず、明白且つ驚くべき形で外的要因による活性の上昇をもたらす。ヘキソキナーゼとホスホグルコイソメラーゼとを用いて同様の方法で生成された融合タンパク質は、同様の結果をもたらした。
【0038】
同時発現が1種類にとどまらず、2種類以上の融合タンパク質を用いて行われ、融合パートナーが、第1の酵素の反応生成物が、第2の酵素の基質として使用され、第2の酵素の反応生成物が、必要に応じて第3の酵素の基質として使用されるか、又は反応複合体が生成され、この反応複合体上で、一定の反応連鎖が発生する。
【0039】
融合タンパク質において、酵素はSEO−Fタンパク質のC末端にも結合した状態で存在することが可能である。
【0040】
2) 組換えタンパク質の精製
上述の通り、本発明の人工フォリソーム体は、組換えタンパク質の精製系として利用される。ここで、組換えタンパク質は、SEO−Fサブユニットに結合され、融合タンパク質は、必要に応じて、第2のSEO−Fサブユニットと同時発現し、第2のSEO−Fサブユニットは、上述の通り、たとえば酵母細胞又は植物細胞において、他のサブユニットの不在時にホモマーを成すことが可能である。組換えタンパク質は、融合タンパク質のC末端又はN末端側に存在し、必要があれば、プロテアーゼ制限部位を備えることで、精製に続いて、外来タンパク質のフォリソーム体からの分離を確保することが可能である。得られた人工フォリソーム体の単離と精製は、細胞分解更には、たとえば遠心分離法/密度勾配遠心分離法を用いて行われる。この代わりに、タンパク質ポリマーが、特に、上記のC末端側に保存されたシステインの一又は複数の変異の後に、高いCa2+濃度(<2mM)又は高いCa2+濃度(<2mM)と還元条件(>18.5μMのNaHSO)との組み合わせを用いて、ポリマーの固体状態から可溶状態に転移することが可能となる。こうして、フォリソーム技術が、沈殿、ろ過及びクロマトグラフィー法という従来の方法と完全に決別し、この代わりに遠心分離法及びタンパク質の構造状態に依拠した完全に新規の精製系を提供する。この技術に基づいて、多数のタンパク質のタンパク質精製が容易になり、且つ安価となることが可能となった。更に、上記の精製系は、精製されるタンパク質の毒性作用又は膜相互作用が、フォリソーム結合によって軽減されるか又は阻止されるという利点を有する。それゆえ、たとえばマラリア抗原MSP119については、その精製がその強力な膜相互作用によって、他の方法では極めて困難であったが、このマラリア抗原も本発明を用いて、首尾よく精製された。この点は、図7に示す抗原の免疫学的検出を用いて証明された。
【0041】
3) 抗体の精製
本発明は、人工フォリソームを用いてポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体の精製を実施し、もって従来のクロマトグラフィー法による分離ステップを回避することを可能にする。この目的で、抗原は、上記の方法を用いて、フォリソーム遺伝子(上に定義された通り、MtSEO−F1、MtSEO−F2又はMtSEO−F4又はそのセグメント)のアップストリーム又はダウンストリーム領域でクローニングされる。次いで、抗原・MtSEO−F間の融合が、必要に応じてC末端側及び/又はN末端側で最大13個のアミノ酸が欠失したMtSEO−F1及びMtSEO−F4と共に、酵素において発現する。ここで、酵素内で、抗原を含む人工フォリソームが形成される。
【0042】
酵素は培養され、遠心分離され、分解される。ここで、抗原を担持する人工フォリソームは、遊離した状態で溶液中に存在し、以下において、ポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体の精製に利用可能となる。
【0043】
抗原を含む人工フォリソームは、抗体血清によってインキュベートされる。ここで、特異的な抗体が人工フォリソームに結合される。フォリソームは遠心分離され、洗浄され、次いで、抗体がpHシフトを用いて溶離される。その後、抗体溶液は中和され、さまざまな用途(ウェスタンブロット、ELISA免疫沈降、抗体療法その他)に利用可能となる。
【0044】
4) フォリソーム特性の改変
本発明を用いて、フォリソームは、新規の、技術的に有益な特性を獲得するように改変される。たとえば、フォリソームの表面への接着力は、フォリソームがタンパク質又は(タンパク質又はペプチドの)タグと融合されたSEO−Fサブユニットを含有するとすることで改善される。こうして、フォリソームは、マイクロ流路内に配置され、固定化される。この例となるのは、黄色ブドウ球菌タンパク質A由来Bドメイン、グルタチオン−S−転移酵素ビオチン又はビオチンとの融合であって、これらによって、生成生物内で生成され、次いで単離された人工フォリソームの表面機能の獲得が、かかる人工フォリソームが、共有結合を介して、IgG、グルタチオン又はストレプトアビジンでコーティングされた表面に結合することが可能となるような形で実現される。更に、他のサブユニットの不在時にはホモマーを形成可能であるSEO−Fサブユニットと、融合タンパク質との同時発現が行われるか、又は発現産物中の外来タンパク質部が過度に大きくない場合に、安定したフォリソームが得られる。こうして、機械的タンパク質体として利用されるフォリソームの表面上又はマイクロ流路中の配置に関連する問題が排除される。外来タンパク質との融合に代えて他のSEO−Fタンパク質との融合が行われれば、その構造変調特性が、Ca2+濃度及びpH値の影響下で変動する機械的タンパク質体が得られる。
【0045】
以下の具体的な実施例は、本発明の理解を更に深めるためのものである。
【実施例】
【0046】
例1−人工フォリソームでの酵素の固定化
I. フォリソーム遺伝子MtSEO−F1、MtSEO−F2又はMtSEO−F4は、翻訳終止コドンの有無にかかわらず、以下のオリゴヌクレオチドを有するタルウマゴヤシcDNAに基づいて増幅された(制限部位には下線を引いた)。
MtSEO-F1 fw NcoI: 5’-AGA ACC ATG GGA TCA TTG TCC AAT GGA ACT AAA C-3’
MtSEO-F1 rev XhoI with stop codon: 5’-AGA CTC GAG TCA TAT CTT GCC ATT CTG TGG AGC-3’
MtSEO-F1 rev XhoI without stop codon: 5’-AGA CTC GAG CAT ATC TTG CCA TTC TGT GGA GC-3’
MtSEO-F2 fw NcoI: 5’-AGA ACC ATG GGA TCC ACT GCA TTG TCC TAT AAT G-3’
MtSEO-F2 rev XhoI with stop codon: 5’-AGA CTC GAG TCA AAT GCA GCA ACT ATC TGG-3’
MtSEO-F2 rev XhoI without stop codon: 5’-AGA CTC GAG ATG CAG CAA CTA TCT GGA-3’
MtSEO-F4 fw NcoI: 5’- AGA ACC ATG GGA TCC CTT TCC AAC TTA GGA AG-3’
MtSEO-F4 rev XhoI with stop codon: 5’-AGA CTC GAG TCA AAC ACC AAG ATT GTT TGG-3’
MtSEO-F4 rev XhoI without stop codon: 5’- AGA CTC GAG ACA CCA AGA TTG TTT GGT TC-3’
【0047】
増幅産物は、制限酵素NcoI/XhoIで制限され、pENTR4TMベクター(インビトロジェン社、独国)の対応する切断部位にクローニングされた。こうして、pENTR4TM−MtSEO−Fベクターが、翻訳終止コドンの有無にかかわらず生成された。
【0048】
II. サッカロマイセス・セレビシエ由来の酵素ヘキソキナーゼ2(HXK2)、ホスホグルコイソメラーゼ(PGI)及びグルコース−6−リン酸脱水素酵素(G6PDH)の遺伝子は、以下のオリゴヌクレオチドを有するcDNAに基づいて増幅された(制限部位には下線を引いた)。
G6PDH fw XhoI: 5’-AGA CTC GAG AAT GAG TGA AGG CCC CGT C-3’
G6PDH rev XhoI: 5’- AGACTCGAGCTAATTATCCTTCGTATCTTC
HXK2 fw XhoI: 5’-AGACTCGAGAATGGTTCATTTAGGTCCAAA
HXK2 bw XhoI: 5’-AGACTCGAGTTAAGCACCGATGATACCA
PGI XhoI fw: 5’-AGACTCGAGAATGTCCAATAACTCATTCAC
PGI XhoI rev: 5’- AGACTCGAGATCACATCCATTCCTTGAATTG
Invertase XhoI fw: 5’-AGACTCGAGAGCATCAATGACAAACGAAAC
Invertase XhoI rev: 5’- AGACTCGAGCTATTTTACTTCCCTTACTTGG
【0049】
増幅産物は、制限酵素NcoI/XhoIで制限され、翻訳終止コドンなしのpENTR4−MtSEO−Fベクターの対応する切断部位にクローニングした(a)I.参照)。こうして、pENTR4−MtSEO−F1−G6PDH、pENTR4−MtSEO−F2−G6PDH、pENTR4−MtSEO−F4−G6PDH、pENTR4−MtSEO−F1−HXK2、pENTR4−MtSEO−F2−HXK2、pENTR4−MtSEO−F4−HXK2、pENTR4−MtSEO−F1−PGI、pENTR4−MtSEO−F2−PGI及びpENTR4−MtSEO−F4−PGIの各ベクターが得られた。
【0050】
III. 翻訳終止コドンを有するpENTR4−MtSEO−F1及び翻訳終止コドンを有するpENTR4−MtSEO−F4の各ベクターは、酵母ベクター425GPD−ccdB(アドジーン、米国)に組み換えられた。結果として得られた発現構築物425GPD−MtSEO−F1及び425GPD−MtSEO−F4が、酵母株InvSc1(インビトロジェン社、独国)に形質転換された。選択のために、酵母株のロイシン栄養要求性の相補が利用された。結果として得られた酵母が、MtSEO−F1又はMtSEO−F4から人工フォリソームを生成し、この人工フォリソームが、酵素結合の基礎として使用される。
【0051】
IV. 上記のMtSEO−F・酵素間の融合(1.II参照)を伴うpENTR4ベクターは、酵母ベクター425GPD−ccdB(アドジーン、米国)によって組み換えられた。結果として得られたベクター(424GPD−MtSEO−F1−G6PDH、424GPD−MtSEO−F2−G6PDH、424GPD−MtSEO−F4−G6PDH、424GPD−MtSEO−F1−HXK2、424GPD-MtSEO−F2−HXK2、424GPD -MtSEO−F4−HXK2、424GPD−MtSEO−F1−PGI、424GPD−MtSEO−F2−PGI、424GPD−MtSEO−F4−PGI)は、酵母に形質転換され、この酵母は、MtSEO−F1又はMtSEO−F4から成る人工フォリソームの生成のために、プラスミドを得ている(a)III参照)。それゆえ、結果として得られた二重変異体(たとえば、425GPD−MtSEO−F1/424GPD−MtSEO−F2−G6PDH)は、ロイシン栄養要求性又はトリプトファン栄養要求性との関連で相補される。
【0052】
V. 酵素結合フォリソームを生成する(a)I〜IV参照)発現酵母は、OD600nmが5〜7の範囲までは、50mLの規模で培養され、遠心分離(1000×g、10分間)を用いて回収される。酵母ペレットは、50mLのV培地(10 mMのTRIS、 10 mMのEDTA、 100 mMのKCl、 pH 7.4)で洗浄され、再度遠心分離(1000×g、10分間)を行った後、−20℃で凍結される。凍結された酵母ペレットは、1mLのV培地で再懸濁され、約500mg(425〜600μm)のガラスビーズで移し替える。細胞の分解は、1.5mLの容器中で、ミキサーミルMM400(レッチ、独国)内で30Hzの周波数で行われる。次いで、人工フォリソームが、不溶性の細胞成分と共に遠心分離され、0.5mLのV培地で再懸濁される。次いでこの溶液が、スクロース又はナイコデンツによる密度勾配にかけられ、ここで、スクロース又はナイコデンツの濃度は、40%〜70%の勾配で増加する。この勾配が、ベックマン超遠心分離機を用いて、163,000×g、4℃の条件で、3時間遠心分離された。
【0053】
その後、勾配中のフォリソーム含有相は、ピペットを用いて収集され、V培地を用いて1:2に希釈され、2つの等量のアリコートに分けられる。アリコートは10分間100×gで遠心分離され、上清が除去された。第1のアリコートのフォリソームは、次いで50μLのV培地に加えられ、SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法(SDS−PAGE)を用いた酵素結合した人工フォリソームの質量・濃度測定に使用された。第2のアリコートは、50μLの酵素緩衝液に加えられた(G6PDHに結合したフォリソーム用:250mMグリシルグリシン緩衝液、pH7.4;HXK2に結合したフォリソーム用:13.3mMのMgClを加えた0.05Mtris−HCl緩衝液、pH8;PGIに結合したフォリソーム用:250mMグリシルグリシン緩衝液、pH7.4)。このアリコートは、特異的酵素アッセイを用いた、フォリソームに結合した酵素の活性の測定に使用された。
【0054】
VI. 酵素結合した人工フォリソーム(a)IV参照)は、その質量及び濃度に関して、SDS−PAGEを用いて検証された。ここで、酵素結合した人工フォリソームが構成される元となるフォリソームタンパク質(たとえば、MtSEO−F1及びMtSEO−F2酵素融合タンパク質)が分離された。個々のタンパク質の存在は、生物情報から予測された質量(たとえば、MtSEO−F2−G6PDH=124.7キロダルトン)と、ゲル中の実際の質量(MtSEO−F2−G6PDH=約130kDa)と比較することで確認される。タンパク質の濃度測定は、規定されたタンパク質の量の標準系列を追加で加えたものを用いるか、又はタンパク質マーカ、プレシジョンPlusプロテイン未着色スタンダード(バイオラッド社)を用いて行われる。50mLの発現培養物から、選択されたフォリソームタンパク質及び酵素融合に応じて、タンパク質の総量(個々のMtSEO−Fタンパク質+MtSEO−F酵素融合)56〜124μg分の酵素結合した人工フォリソームが得られる。ここで、タンパク質の総含有量に占めるMtSEO−F酵素融合の割合は、融合パートナーに応じて、10%〜50%となる。タンパク質総量(50mLの発現培養物当たり124μg)においても、酵素融合タンパク質(50mLの発現培養物当たり37μg)においても、最大量は、PGIに結合した酵素フォリソーム(MtSEO−F1/MtSEO−F2−PGI)の生成時に得られた。
【0055】
フォリソームによって固定化された酵素の活性は、特異的分光光度測定用酵素アッセイを用いて測定された。グルコース−6−リン酸脱水素酵素については、シグマ・アルトリッチ社(独国)の推奨プロトコルが使用された。アッセイは、G6PDHに触媒された、グルコース−6−リン酸の6−ホスホグルコノラクトンへの変換に依拠している。この反応の際に、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADP)が、以下の通り、NADPHに還元される。
【化1】
【0056】
340nmの波長域におけるNADPHの消失は、分光光度測定によって測定可能であり、この消失を用いて、酵素活性が計算可能となる。アッセイのために、第2のアリコート(a)V参照)から精製された酵素フォリソームが使用される。酵素結合されたフォリソームの算出された濃度を用いて、人工フォリソーム1グラム当たりで測定された酵素活性が計算可能である。構造物(a)III参照)に応じて、フォリソームによって固定化されたグルコース−6−リン酸脱水素酵素については、人工フォリソーム1グラム当たり2000〜2700単位の活性が得られた。これに比較して、シグマ・アルトリッチ社(独国)によって市販品として入手可能となった固定化されたグルコース−6−リン酸脱水素酵素では、アガロース1グラム当たり1000〜1750単位の活性しか得られなかった。それゆえ、本発明のグルコース−6−リン酸脱水素酵素は、明らかにより高い特異的酵素活性(担体の量に対する酵素活性)を有する。図6は、SEO−F1及びSEO−F2に由来する本発明のフォリソーム体に結合されるグルコース−6−リン酸脱水素酵素の酵素活性試験を示す。
【0057】
フォリソームによって固定化されたヘキソキナーゼ2及びホスホグルコイソメラーゼの活性も、同様のアッセイ原理に基づいて測定された。ここでは、340nmにおけるNADPHの吸光増加を用いて酵素活性を測定するために、相前後して推移する2つの酵素反応のみが利用された。ヘキソキナーゼ2については、ワーシントン社(レークウッド、ニュージャージー州、米国)の推奨プロトコルが使用され、このプロトコルの基礎は、以下に示す反応である。
【化2】
【0058】
2番目の反応に必要とされたグルコース−6−リン酸脱水素酵素は、本アッセイのアプローチに、市販品として入手可能な、可溶性の酵素として所定の活性を有するものの形で添加された。構造物(a)III参照)に応じて、フォリソームによって固定化されたヘキソキナーゼ2については、人工フォリソーム1グラム当たり6000〜8000単位の活性が得られた。これに対して、シグマ・アルトリッチ社の提供するアガロースによって固定化されたヘキソキナーゼについては、わずか50〜75単位の活性しか得られなかった。
【0059】
ホスホグルコイソメラーゼについては、シグマ・アルトリッチ社(独国)の推奨プロトコルが使用され、このプロトコルの基礎は、以下に示す反応である。
【化3】
【0060】
構造物(a)III参照)に応じて、フォリソームによって固定化されたホスホグルコイソメラーゼについては、人工フォリソーム1グラム当たり6000〜8000単位の活性が得られた。これに対して、シグマ・アルトリッチ社の提供するアガロースによって固定化されたヘキソキナーゼについては、わずか300〜600単位の活性しか得られなかった。
【0061】
例2−タンパク質の精製
2.1a 未変異のフォリソーム遺伝子を用いるか、又は未変異のフォリソーム遺伝子の不在時の組換えタンパク質の精製
I. マラリア表面抗原MSPの断片(MSP119)のコードされた配列は、以下のオリゴヌクレオチドを有するベクターに基づいて増幅された(制限部位には下線を引いた)。
MSP119 NcoI fw: 5’- AGACCATGGACCTGCGTATTTCTCAG-3’
MSP119 NcoI FaXa rev: 5’- AGACCATGGTACGACCTTCGATCCTGCATATAGAAATGCC-3’
MSP119 XhoI FaXa fw: 5’- AGACTCGAGAATCGAAGGTCGTGACCTGCGTATTTCTCAG-3’
MSP119 XbaI rev: 5’- AGATCTAGATCACCTGCATATAGAAATG-3’
【0062】
プライマーMSP119NcoI FaXa rev及びMSP119 XhoI FaXa fwは、遺伝子特異的な配列に加えて、プロテアーゼ因子Xaの認識部位(斜体にて表記)を含んでいる。第1の増幅産物は、制限酵素NcoIで処理され、終止コドンを有するベクターpENTR4−MtSEO−F1、終止コドンを有するベクターpENTR4−MtSEO−F2及び終止コドンを有するベクターpENTR4−MtSEO−F4それぞれのNcoI切断部位においてクローニングされる(a)I参照)ことで、ベクターpENTR4− MSP119−MtSEO−F1、 pENTR4− MSP119−MtSEO−F2及びpENTR4− MSP119−MtSEO−F4を得る。第2の増幅産物−Mtは、制限酵素XhoI及びXbaIで処理され、終止コドンなしのベクターpENTR4−MtSEO−F1、終止コドンなしのベクターpENTR4−MtSEO−F2及び終止コドンなしのベクターpENTR4−MtSEO−F4それぞれのXhoI/XbaI切断部位においてクローニングされる(a)I参照)ことで、ベクターpENTR4SEO−F1− MSP119、 pENTR4−MtSEO−F2− MSP119及びpENTR4−MtSEO−F4− MSP119を得る。発現ベクター424GPD−MSP119−MtSEO−F1、424GPD−MSP119−MtSEO−F2、424GPD−MSP119−MtSEO−F4、424GPD−MtSEO−F1−MSP119、424GPD−MtSEO−F2−MSP119及び424GPD−MtSEO−F4−MSP119の生成のために、生成されたベクターは、酵母ベクター424GPD−ccdB(アドジーン、米国)によって組み換えられた。
【0063】
II. ベクター424GPD−MSP119−MtSEO−F4及び424GPD−MtSEO−F4−MSP119が、酵母株InvSc1(インビトロジェン社、独国)に形質転換された。選択のために、酵母株のトリプトファン栄養要求性の相補が利用された。MSP119及びMtSEO−F4から成る融合タンパク質が、他のMtSEO−Fタンパク質のこれ以上の発現を伴わずに、フォリソームを形成する。
【0064】
ベクター424GPD−MSP119−MtSEO−F1、424GPD−MSP119−MtSEO−F2、 424GPD−MtSEO−F1−MSP119及び424GPD−MtSEO−F2−MSP119は、酵母に形質転換され、この酵母は、MtSEO−F1から成る人工フォリソームの生成のために、プラスミド(425GPD−MtSEO−F1)を得ている(a)III参照)。それゆえ、結果として得られた酵母(たとえば、425GPD−MtSEO−F1/424GPD−MSP119−MtSEO−F1)は、ロイシン栄養要求性又はトリプトファン栄養要求性との関連で相補され、MSP119タンパク質と融合する人工フォリソームを生成する。
【0065】
MSP119と融合する人工フォリソームは、1.Vに記載した通り精製され、SDS−PAGE及びウェスタンブロット法を用いて検証され、定量化された。全ての構造物は精製に利用可能であった。細胞培養物1L当たりの0.49mgのMSP119の最適な精製については、発明者は、424GPD−MSP119−MtSEO−F4構造物でも達成した。培養と精製の適応による最適化は、将来、より大量のタンパク質量の精製をもたらすことになる。更に、プロテアーゼ因子Xaを用いたインキュベーションによって、MSP119タンパク質が、人工タンパク質から分離可能になる。加えて、発明者は、いくつかの還元性を有し、カルシウムを含有するという緩衝条件が、人工フォリソームの溶解をもたらす可能性がある(特に、MtSEO−F1タンパク質の615位及び620位におけるシステインの変異の場合)ことを認めた。この不溶相から可溶相への転移は、タンパク質精製に利用可能である。図7は、フォリソーム体SEO−F1及びSEO−F4を用いたMSP119の精製を示す。MSP119の免疫学的検出が図示されている。
【0066】
2.1b システインにより変異されたフォリソーム遺伝子を用いた組換えタンパク質の精製
MtSEO−F1遺伝子において、シークエンスロゴでシステインNo.3及び8(図5)は、アジレントテクノロジー社(カリフォルニア州、米国)のQuickChangeII部位特異的突然変異誘発キットを用いて、製造者の注意事項に従い、セリンに変異させた。出発物質として使用されたのは、ベクターpENTR4−MtSEO−F1として、終止コドンを有するものと終止コドンなしのもの(例1)である。システインNo.3及び8は、MtSEO−F1タンパク質のアミノ酸の615位及び620位に相当する。それゆえ、結果として得られた変異MtSEO−F1遺伝子は、以下においてMtSEO−F1(C615S/C620S)と言う。
【0067】
マラリア表面抗原の断片(MSP119)のコードされた配列は、例2.1aにおいて記載された通り、pENTR4TMベクター(インビトロジェン社、独国)のベクターにおいては、MtSEO−F1(C615S/C620S)のアップストリーム領域及びダウンストリーム領域でクローニングされる。
【0068】
酵母ベクター425GPD−ccdB(アドジーン、米国)によるベクターpENTR4−MtSEO−F1(C615S/C620S)の組換え及び酵母ベクター424GPD−ccdB(アドジーン、米国)によるベクターpENTR4−MSP119−MtSEO−F1(C615S/C620S)及びpENTR4−MtSEO−F1(C615S/C620S)−MSP119の組換えを用いて、発現ベクター425GPD− MtSEO−F1 (C615S/C620S)、424GPD−MSP119−MtSEO−F1(C615S/C620S)、 424GPD−MtSEO−F1(C615S/C620S)−MSP119が生成される。
【0069】
酵母ベクターは、以下の組み合わせ、すなわち
【化4】
で、酵母株InvSc1(インビトロジェン社、独国)に形質変換される。選択のために、酵母株のロイシン栄養要求性及びトリプトファン栄養要求性の相補が利用された。結果として得られた酵母は、MSP119タンパク質を含有するMtSEO−F1(C615S/C620S)由来の人工フォリソームを生成する。
【0070】
結果として得られた人工フォリソームは、還元性の緩衝液中で、カルシウムイオン(4mMのCaCl、200μMのNaHSO、10mMのTRIS、100mMのKCl、pH 7.2)によって約100%可溶性の形状に転移され、変異なしのバージョンでは、わずかな部分しか可溶性の形状に転移しない。
【0071】
それゆえ、精製プロセスが短縮可能となる。培養後、MSP119タンパク質を含有する酵母細胞は分解され、人工フォリソーム及び酵母破片は、遠心分離によって可溶性部分から分離し、次いで、タンパク質・フォリソーム融合が可溶相に転移することが可能となる。
【0072】
2.2 人工フォリソーム遺伝子を用いた抗体の精製
I. ゴム小粒子結合蛋白質3(SRRP3)のコードされた配列は、以下のオリゴヌクレオチドを有するベクターに基づいて増幅された(制限部位には下線を引いた)。
SRPP3 XhoI fw: 5‘-AGA CTCGAGA ATGACCGACGCTGCTTC-3‘
SRPP 3 XhoI rev: 5‘-AGA CTCGAG TCATGTTTCCTCCACAATC-3‘
【0073】
増幅産物は、制限酵素XhoIで処理され、翻訳終止コドンなしのpENTR4−MtSEO−F1ベクターのXhoI切断部位にクローニングされる(a)I.参照)ことで、ベクターpENTR4−MtSEO−F1−SRPP3を得る。発現ベクター424GPD−MtSEO−F1−SRPP3の生成のために、生成されたベクターは、酵母ベクター424GPD−ccdB(アドジーン、米国)によって組み換えられた。
【0074】
II. ベクター424GPD−MtSEO−F1−SRPP3は、酵母に形質転換され、この酵母は、MtSEO−F1から成る人工フォリソームの生成のために、すでにプラスミド(425GPD−MtSEO−F1)を含んでいる(1.III参照)。結果として得られた酵母(たとえば、425GPD−MtSEO−F1/424GPD−MtSEO−F1−SRPP3)は、ロイシン栄養要求性及びトリプトファン栄養要求性との関連で相補され、SRPP3タンパク質と融合する人工フォリソームを生成する。酵母は、OD600nmまでは、50mLの規模で培養され、遠心分離され、1mLのV培地(10mMのTRIS、 10mMのEDTA、 100mMのKCl、pH7.4)で、ボールミルを用いて分解される。ここで、抗原を担持する人工フォリソームは、遊離した状態で溶液中に存在し、以下において、ポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体の精製に利用可能となる。
【0075】
III. 抗原を含む人工フォリソームは、500μLのポリクローナル抗体血清を用いて、ウサギにおいて生成されたSRPP3との比較で、30分間インキュベートされる。ここで、特異的抗体は、人工フォリソームに結合する。フォリソームは遠心分離(4000×g、4分間)され、1mLのPBS(137mMのNaCl、2.7mMのKCl、10mMのNaHPO、2 mMのKHPO、pH7.4)で三度洗浄された。次いで、抗体は、450μLの0.1Mグリシン・HCl溶液(pH2.7)で5分間溶離される。その後、抗体は、450μLの0.1Mtris−HCl溶液(pH8.5)で中和される。以下のブロットにおいては、精製される抗体(血清不純物のない状態)の高い特異性が確認される。フォリソームを用いて精製された抗体は、さまざまな用途(ウェスタンブロット、ELISA免疫沈降、抗体療法その他)に利用可能となる。このような精製の原理は、図7に示している。図8は、人工フォリソームの固定化のための、IgG抗体とBドメインとの相互作用の利用を示している。Bドメインと結合されたSEO−F1サブユニットから成る人工フォリソームは、蛍光IgG抗体を形成する。
【0076】
例3−人工フォリソームの技術的表面への固定(表面結合)
I. グルタチオンS−転移酵素(GST)のコードされた配列は、以下のオリゴヌクレオチドを有するpGex−3Xベクター(GEヘルスケア社、米国)に基づいて増幅された(制限部位には下線を引いた)。
GST fw NcoI XhoI fw: 5’-AGACCA TGG GAC TCG AGA ATG TCC CCT ATA CTA GGT TA-3’
GST SalI rev: 5’-AGA GTC GAC TTA ACG ACC TTC GAT CAG ATC-3’
【0077】
この断片は、制限酵素NcoI/SalIで処理され、NcoI/XhoIで切断されたベクターpENTR4TMでクローニングされ、この結果、ベクターpENTR4−GSTが生成される。以下において、終止コドンを有するMtSEO−F1遺伝子の増幅産物(1.I参照)が、結果として生成されるベクターのNcoI/XhoI部位でクローニングされることで、ベクターpENTR4−GST−MtSEO−F1を得る。発現ベクター424GPD−GST−MtSEO−F1の生成のために、ベクターpENTR4−GST−MtSEO−F1は、酵母ベクター424GPD−ccdB(アドジーン、米国)によって組み換えられた。発現ベクターは、酵母に形質転換され、この酵母は、MtSEO−F1から成る人工フォリソームの生成のために、すでにプラスミド(425GPD−MtSEO−F1)を含んでいる(a)III参照)。結果として得られた酵母(425GPD−MtSEO−F1/424GPD−GST−MtSEO−F1)は、ロイシン栄養要求性及びトリプトファン栄養要求性との関連で相補され、GSTタグを有する人工フォリソームを生成する。この酵母は、a)Vに記載の通り精製され、SDS−PAGEを用いて、それぞれのタンパク質(MtSEO−F1及びGST−MtSEO−F1)の存在が検証可能となった。更に、結果として得られた人工のGST結合されたフォリソームが、グルタチオン結合されたマトリックス(グルタチオンセファロース4B、アマシャムバイオサイエンス社、米国)に接着することも証明された。
【0078】
II. 黄色ブドウ球菌タンパク質A由来Bドメインのコードされた配列は、以下のオリゴヌクレオチドを有する424GPD−ccdB−TAPベクター(GEヘルスケア社、米国)に基づいて増幅された(制限部位には下線を引いた)。
B-Domain NcoI fw: 5’- AGACCATGGCGGATAACAAATTCAACA-3’
B-Domain NcoI rev: 5’-AGACCATGGCTTTTGGTGCTTGAGCATC-3’
B-Domain XhoI fw: 5’- AGACTCGAGAGCGGATAACAAATTCAAC-3’
B-Domain XhoI rev: 5’- AGACTCGAGTCATTTTGGTGCTTGAGCATC-3’
【0079】
第1の増幅産物は、制限酵素NcoIで処理され、終止コドンを有するベクターpENTR4−MtSEO−F1及び終止コドンを有するベクターpENTR4−MtSEO−F4のNcoI切断部位でクローニングされる(a)I.参照)ことで、ベクターpENTR4−B−domain−MtSEO−F1及びpENTR4−B−domain−MtSEO−F4を得る。第2の増幅産物は、制限酵素XhoIで処理され、終止コドンなしのベクターpENTR4−MtSEO−F1及び終止コドンなしのベクターpENTR4−MtSEO−F4のXhoI切断部位でクローニングされる(a)I.参照)ことで、ベクターpENTR4− MtSEO−F1−B−domain及びpENTR4−MtSEO−F4−B−domainを得る。発現ベクター424GPD−B−domain−MtSEO−F1、424GPD−B−domain−MtSEO−F4、424GPD−MtSEO−F1−B−domain、424GPD−MtSEO−F4−B−domainの生成のために、生成されたベクターは、酵母ベクター424GPD−ccdB(アドジーン、米国)によって組み換えられた。
【0080】
ベクター424GPD−B−domain−MtSEO−F4及び424GPD−MtSEO−F4−B−domainは、酵母株InvSc1(インビトロジェン社、独国)に形質変換された。選択のために、酵母株のトリプトファン栄養要求性の相補が利用された。Bドメイン及びMtSEO−F4から成る融合タンパク質が、他のMtSEO−Fタンパク質のこれ以上の発現を伴わずに、フォリソーム構造を形成する。
【0081】
ベクター424GPD−B−domain−MtSEO−F1及び424GPD−MtSEO−F1−B−domainは、酵母に形質転換され、この酵母は、MtSEO−F1から成る人工フォリソームの生成のために、すでにプラスミド(425GPD−MtSEO−F1)を含んでいる(1.III参照)。結果として得られた酵母(たとえば、425GPD−MtSEO−F1/424GPD−B−domain−MtSEO−F1)は、ロイシン栄養要求性及びトリプトファン栄養要求性との関連で相補され、Bドメインと融合する人工フォリソームを生成する。以上生成されたBドメインを含む人工フォリソームは全て、IgGに結合されたセファロース(GEヘルスケア社、米国)に固定化される。
【0082】
2.3 異なるSEO−Fタンパク質から成る人工SEO−Fフォリソームの生成及び精製
2.3.1 MtSEO−F4のアミノ酸1〜96とMtSEO−F1のアミノ酸73〜648との融合
N末端側のMtSEO−F4断片及びC末端側のMtSEO−F1断片は、以下のオリゴヌクレオチド、すなわち
MtSEO-F4 MSLSN NcoI fw 5’-AGACCATGGGATCCCTTTCCAACTTAGGAAGTG -3’
MtSEO-F4 LISCQ NcoI rev 5‘-AGACCATGGCCTGACAAGAAATCAGCTT-3‘
MtSEO-F1 MITTR NcoI fw 5‘-AGACCATGGGAATGATAACCACCCCTC-3’
MtSEO-F1 QNGKI XhoI rev 5'-AGACTCGAGGTCATATCTTGCCATTCTGTGGAG-3'
によって増幅され、NcoI/XhoIによって制限されたpENTR4ベクターIIクローニングされた。その後、生成されたベクターpENTR4−MtSEO−F4(1−288bp)/MtSEO−F1(219−1944bp)は、植物発現ベクターpBatTL及び酵母発現ベクター425GPD−ccdBによって組み換えられた。生成されたpBatTL−MtSEO−F4(1−288bp)/MtSEO−F1(219−1944bp)は、アグロバクテリウムに形質転換され、このアグロバクテリウムで、ベンサミアナタバコ植物体が浸透を受けた(ミュラー他、2010)。生成されたベクター425GPD−MtSEO−F4(1−288bp)/MtSEO−F1(219−1944bp)は、酵母株InvSc1に形質転換された。2つの系ではいずれも、人工フォリソームの形成が顕微鏡で観察可能であった。精製は、上の例1.Vに記載した通り実施された。
【0083】
2.3.2 MtSEO−F1のアミノ酸1〜583とMtSEO−F2のアミノ酸620−670との融合
N末端側のMtSEO−F1断片及びC末端側のMtSEO−F2断片は、以下のオリゴヌクレオチド、すなわち
MtSEO-F1 MSLNS NcoI fw 5'-AGACCATGGGATCATTGTCCAATGGAACTA-3'
MtSEO-F1 FKEYY XhoI rev 5‘-AGACTCGAGTGATAGTATTCTTTGAATGCAAT-3‘
MtSEO-F2 DTKLS XhoI fw 5‘-AGACTCGAGTGATACTAAGCTTTCAGAGAT-3‘
MtSEO-F2 DSCCI XhoI bw 5'-AAACTCGAGTCAAATGCAGCAACTATCTGGATCATC-3'
によって増幅され、NcoI/XhoIによって制限されたpENTR4ベクターIIクローニングされた。その後、生成されたベクターpENTR4−MtSEO−F4(1−288bp)/MtSEO−F1(219−1944bp)は、植物発現ベクターpBatTL及び酵母発現ベクター425GPD−ccdBによって組み換えられた。生成されたpBatTL−MtSEO−F1(1−1749bp)/MtSEO−F2(1860−2010bp)は、アグロバクテリウムに形質転換され、このアグロバクテリウムで、ベンサミアナタバコ植物体が浸透を受けた(ミュラー他、2010)。生成されたベクター425GPD−MtSEO−F1(1−1749bp)/MtSEO−F2(1860−2010bp)は、酵母株InvSc1に形質転換された。2つの系ではいずれも、人工フォリソームの形成が顕微鏡で観察可能であった。精製は、上の例1.Vに記載した通り実施された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]