【文献】
Celine Merlet,On the molecular origin of supercapacitance in nanoporous carbon electrodes,Nature Materials,英国,Nature Publishing Group,2012年 4月,VOL.11,306-310
【文献】
Youngseon Shim,Nanoporous Carbon Supercapacitors in an Ionic Liquid: A Computer Simulation Study,ACS NANO,米国,American Chemical Society,2010年 4月,VOL.4 NO.4,2345-2355
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0003】
電気エネルギー蓄積は、ハイブリッドおよび/または電気自動車の発達の状況において、特に重要な面である。電気二重層キャパシタ(または、電気化学キャパシタ)は、その(非常に)高いパワーにおいて、従来のキャパシタと異なる。それらは、1分のオーダの非常に短い時間にわたる複数のエネルギーパルスを必要とするアプリケーションに特によく適合する。
【0004】
電気二重層キャパシタは、2つの多孔性の電極で構成され、この電極は、一般的には活性炭で作られていて電解液で充満されており、この2つの電極は、浸透性の隔離膜(イオン導電性を有する)によって分けられている。電気二重層は、各電極−電解質インタフェースで発達し、電気二重層キャパシタは、2つのキャパシタの直列接続として模式的に表すことができ、その2つのうちの一方が陽極を有し、他方が陰極を有する。キャパシタの接続の法則によれば、直列接続の静電容量は、2つのキャパシタのうちの低い方よりも常に低い。
【0005】
バッテリと異なり、電子伝達を招く化学反応は電気二重層キャパシタでは生じず、電気二重層キャパシタは物理現象によって支配される。
【0006】
充電期間の間、電位が2つの電極に印加され、電解質内のイオンは分離されて電気化学二重層を形成し、陰極が陽イオンを引きつけ、陽極が陰イオンを引きつける。カレントコレクタが使用されるとすぐに、キャパシタは放電し、二重層は壊れる。
【0007】
キャパシタの静電容量(C)は、
【数1】
に従って、蓄積された電荷の量(Q)と印加された電位差(ΔV)によって決定される。
【0008】
電圧差は、
【数2】
の電荷の関数として表現される。
ここで、Eは電界の値、εは媒体の誘電率、Aは電極/電解液インタフェースの表面積、そして、dは二重層の厚さである。
【0009】
我々は、このようにして、
【数3】
を有する。
【0010】
電極においては、その静電容量は、インタフェースの表面積が増加したときおよび二重層の厚さが減少したときに増加する。その厚さは、イオンが溶媒分子(水、アセトニトリン)または反対イオンに奪われたときに減少するであろう。イオン性溶液族(100℃より低い温度の塩類溶液)は、それらの反対イオンに奪われる可能性/性質を有する。
【0011】
イオン性溶液を使う電気二重層キャパシタの静電容量を最適化するために、イオン性溶液の多くの材料/カチオン−アニオンペアがテストされる必要がある。
【0012】
そのようなスクリーニングを実行する方法は、ペアごとに、イオン性溶液(アニオン+カチオン)ペアを脱溶媒和しそしてそれを電極の孔に吸着するためのトータルエネルギー(ΔE
tot)を決定することを有する。このトータルエネルギーは、静電容量に反比例するようになる。
【0013】
ΔE
totの計算を容易にするために、ΔE
totを、その合計がΔE
totとなる3つのエネルギー項に分割できる熱力学サイクルを使うことがよく知られている(
図1)。
1.脱溶媒和エネルギー(ΔE
desolv)
それは、イオン性溶液(カチオン+アニオン)ペアを凝縮相(純粋な、または、アセトニトリンのような溶媒内に溶けたイオン性溶液)から気相に移すために必要なエネルギーに対応する。この技術は、Koddermann, D. Paschek, R. Ludwig, ChemPhysChem 2008, 9, 549.という文献に明白に記載されている。
2.分離エネルギー(ΔE
diss)
それは、カチオンとアニオンを分離するために必要なエネルギーを表す。この技術は、Shimizu, K.; Tariq, M.; Costa Gomes, M.F.; Rebelo, L.P.N.; Canongia Lopes, J.N. The Journal of Physical Chemistry, B. 2010, 114, 5831-4という文献に明白に記載されている。
3.吸着エネルギー(ΔE
ads)
それは、イオンが電極の孔の中に入り込むときに放出される。電気二重層キャパシタの構成内において、アニオンの吸着エネルギー(ΔE
ads-an)とカチオンの吸着エネルギー(ΔE
ads-cat)が計算される。
【0014】
図1は、カチオンとアニオンを凝縮相から取り出しそれらを電極の孔の中に吸着するために必要なトータルエネルギーを計算することを可能にする方針を表す。
【0015】
しかしながら、この熱力学サイクルを使った吸着エネルギーの決定は、イオン(ゲストとして称する)と電極(ホスト)との間の短い作用距離および長い作用距離(short- and long-range)の静電相互作用を考慮する必要がある。ところで、それらは必須であるけれども、計算形式によって課せられた制約は、これらの相互作用が考慮されることを許さない。
【0016】
したがって、本発明の目的は、イオンと電極との間の静電相互作用を考慮しつつ、電気二重層キャパシタ内のアニオン−カチオンペアの吸着エネルギーを決定する方法に関する。
【0017】
本発明は、アニオン−カチオンペアをスクリーニングする方法、および、電気二重層キャパシタの電極の孔の大きさを決める方法にも関する。
【発明の概要】
【0018】
概括的に言えば、本発明は、電気によって帯電された吸着体と電気によって帯電された吸着物との間の吸着エネルギーを、吸着物と吸着体との間の静電相互作用を考慮して決定する方法に関する。本方法は、以下のステージを有する:
前記吸着体(A、B)と前記吸着物(i+、i-)を、同じタイプで反対の電荷の他の吸着体(A’、B’)および同じタイプで反対の電荷の他の吸着物(i’+、i’-)と同様に含むシミュレーションボックス(BSA)を、前記シミュレーションボックスがゼロの電荷を有するように構成することと、
前記第1のシミュレーションボックス(BSA)内の前記吸着物(i+、i-およびi’)の吸着エネルギーを、分子シミュレーションによって、エワルド法を用いて決定し、そこから前記吸着体(A、B)上の前記吸着物(i+、i-)の吸着エネルギーを推測すること。
【0019】
本発明によれば、吸着体は、ゼオライトまたはナノチューブまたは酵素または電極(A、B)とすることができ、吸着物は、イオン(i+、i-)またはタンパク質とすることができる。
【0020】
1つの実施形態によれば、イオン性溶液のアニオン−カチオンペアの吸着エネルギーが、イオンと電極との間の静電相互作用を考慮することによって、電気二重層キャパシタの2つの電極に基づき、以下のステージを実行することによって決定される。
前記陽極Aと少なくとも1つのアニオンを、反対の電荷の電極A’および反対の電荷の少なくとも1つのイオンと同様に含む第1のシミュレーションボックス(BSA)を、前記シミュレーションボックスがゼロの電荷を持つように構成することと、
前記陰極Bと少なくとも1つのカチオンを、反対の電荷の電極B’と反対の電荷の少なくとも1つのイオンと同様に含む第2のシミュレーションボックス(BSB)を、前記シミュレーションボックスがゼロの電荷を持つように構成することと、
エワルド法を使って前記第1のシミュレーションボックス(BSA)内の前記イオンの吸着エネルギーの静電的寄与を決定し、そこからアニオンの吸着エネルギーを推測することと、
エワルド法を使って前記第2のシミュレーションボックス(BSB)内の前記イオンの吸着エネルギーの静電的寄与を決定し、そこからカチオンの吸着エネルギーを推測する。
【0021】
我々は、溶媒から前記アニオン−カチオンペアを脱溶媒和し前記ペアを電気二重層キャパシタの2つの電極内に挿入するためのトータルエネルギーΔE
totを、以下のステージを実行することによって決定できる。
前記アニオン−カチオンペアの脱溶媒和エネルギー(ΔE
desolv)を決定することと、
前記アニオン−カチオンペアの分離エネルギー(ΔE
diss)を決定することと、
本発明に従った方法で前記アニオン−カチオンペアの吸着エネルギー(ΔE
ads)を決定することと、
該脱溶媒和エネルギーと該分離エネルギーと該吸着エネルギーを合計することによってトータルエネルギー(ΔE
tot)における変化を決定すること。
【0022】
本発明によれば、脱溶媒和エネルギー(ΔE
desolv)は、第1の分子力学シミュレーションを実行して所定温度での凝縮相の平均トータルエネルギーを計算し、第2の分子力学シミュレーションを実行して1つのイオンペアの平均トータルエネルギーを計算することによって決定可能であり、そして、分離エネルギー(ΔE
diss)は、アニオン−カチオンペアのエネルギー、カチオンのエネルギーおよびアニオンのエネルギーを決定することで決定可能である。
【0023】
1つの実施形態によれば、電気二重層キャパシタの電極を形成する材料のスクリーニングは、以下のステージ:
イオン性溶液のためにアニオン−カチオンペアを選択し、
本発明に従った方法で電極の異なる孔サイズごとに、これらのイオンのトータルエネルギーΔE
totを決定し、
最小のトータルエネルギーΔE
totに対応する孔サイズを選択することによって最大の静電容量を得ることを可能にする孔サイズを決定すること、
を実行することによって実行される。
【0024】
電気二重層キャパシタのイオン性溶液のカチオン−アニオンペアのスクリーニングは、以下のステージ:
電極のために孔サイズを選択し、
本発明に従った方法で前記孔サイズについて異なるアニオン−カチオンペアのトータルエネルギーΔE
totを決定し、
前記孔サイズで最小のトータルエネルギー(ΔE
tot)を持つペアを選択することによって最大の静電容量を得ることを可能にするアニオン−カチオンペアを選択すること、
を実行することによって実行可能である。
本発明に従った方法の他の特徴および効果は、添付図面に関して、非限定的な例の目的で与えられた実施形態の以下の記載を読むことから明らかであろう。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明は、電気によって帯電された吸着体と電気によって帯電された吸着物との間の静電(クーロン力)相互作用をシミュレーションする方法である。
その例は、
ゼオライト内のイオン、
MOF(金属有機構造体)内のイオン、
ナノチューブ内のイオン、
酵素内のタンパク質である。
【0027】
特に、本発明は、イオン性溶液のアニオン−カチオンペアを脱溶媒和し、このペアを電気二重層キャパシタの電極の中に挿入するためのトータルエネルギーを決定する方法である。
【0028】
図1に示したように、トータルエネルギーΔE
totを、合計がΔE
totとなる3つのエネルギー項に分割することを可能にする熱力学サイクルが使用される。
【0029】
それゆえ、本方法は、以下のステージを有する:
1.脱溶媒和エネルギー(ΔE
desolv)を決定すること
2.分離エネルギー(ΔE
diss)を決定すること
3.吸着エネルギー(ΔE
ads)を決定すること
【0030】
1.脱溶媒和エネルギー(ΔEdesolv)を決定すること
脱溶媒和エネルギーは、イオン性溶液(カチオン+アニオン)ペアを、凝縮相(純粋なまたはアセトニトリルのような溶媒の中に溶けているイオン性溶液)から気相に移すために必要なエネルギーに対応する。
【0031】
それを計算するために、2つのシミュレーションが必要となる。
1)分子動力学シミュレーションが実行されて、所定の温度での凝縮相(n個のイオンペアを有する)の平均トータルエネルギーE1を計算する。このような技術は、例えば以下の文献に記載されている。
Allen, M. P.; Tildesley, D. J. Computer simulation of liquids; Oxford: Clarendon press, Ed.; 1987th ed.; Oxford University Press: Oxford, 1987.
Frenkel, D.; Smit, B. Understanding Molecular Simulation; 2nd ed.; Academic Press: London, 2002; p. 638.
2)分子動力学シミュレーションが実行されて、1つのイオンペア(カチオン+アニオン)の平均トータルエネルギーE2を計算する。
【0032】
このように、脱溶媒和エネルギーは、ペアの数(n)によって割られたE1とE2との間の差、すなわち、
ΔEdesolv=E1/n - E2である。
【0033】
このような技術は、例えば、以下の文献に記載されている。
Shimizu, K.; Tariq, M.; Costa Gomes, M. F.; Rebelo, L. P. N.; Canongia Lopes, J. N. The journal of physical chemistry. B 2010, 114, 5831-4.
【0034】
2.分離エネルギー(ΔEdiss)を決定すること
分離エネルギーは、カチオンとアニオンを分離するために必要なエネルギーを表す。それは、3つの量子計算から計算される。
1)カチオン+アニオンペアのエネルギー:E3
2)カチオンのエネルギー:E4
3)アニオンのエネルギー:E5
【0035】
我々は、以降、
ΔEdiss=E3−E4−E5と記載する。
【0036】
このような技術は、例えば、以下の文献に記載されている。
Fernandes, A. M.; Rocha, M. A. A.; Freire, M. G.; Marrucho, I. M.; Coutinho, J. A. P.; Santos, L. M. N. B. F. The journal of physical chemistry. B 2011, 115, 4033-41.
【0037】
3.吸着エネルギー(ΔEads)を決定すること
【0038】
吸着エネルギーは、イオンが電極(本発明によればカーボンナノチューブによって表される)の孔の中に挿入されたときリリースされるエネルギーである。
【0039】
吸着エネルギーは、分子シミュレーションにて計算され、そこでは、ショートレンジおよびロングレンジの静電相互作用がエワルド法を使って以下のように計算される
【数4】
ここで、E
electrode+ion、E
electrodeおよびE
ionは、電極とイオンのエネルギー、電極のみのエネルギーおよびイオンのみのエネルギーにそれぞれ対応する。このエネルギーは、力場(force field)で計算されたエネルギーであり、力場のパラメータはイオン性溶液を十分に表すために最適化されている。この力場は、以下の文献に基づくことができる。
Canongia Lopes, J. N.; Deschamps, J.; Padua, A. A. H. The Journal of Physical Chemistry B 2004, 108, 11250.
Canongia Lopes, J. N.; Padua, A. A. H. The Journal of Physical Chemistry B 2006, 110, 19586-19592.
Canongia Lopes, J. N.; Padua, A. A. H. The Journal of Physical Chemistry B 2004, 108, 16893-16898.
De Andrade, J.; Bo, E. S.; Stassen, H. Journal of Physical Chemistry B 2002, 3546-3548.
Kaminski, G. A.; Jorgensen, W. L. Journal of the Chemical Society, Perkin Transactions 2 1999, 2365-2375.
【0040】
各ポテンシャルエネルギー(E
pot)は、2つの重要な項:分子内エネルギー(E
intra)と分子間エネルギー(E
inter)に分けることができる。例えば、
【数5】
【0041】
第1の項(E
intra)は、原子の手(bond)、結合角または二面角にてリンクされた原子間の相互作用を考慮している。第2の項(E
inter)は、いわゆる非結合相互作用である、ファンデルワークス力と静電気力を含む。
【0042】
一般論として、種(イオン、電極、イオンペア)のポテンシャルエネルギーは、
【数6】
によって定義される。
ここで、
l
i=原子の手(bond)iの長さ
l
i,0=この原子の手のための基準距離
θ
i=結合角iの大きさ
θ
i,0=この結合角のための基準
ω=二面角
V
n=その二面角のための定数
γ=その二面角のための定数
ε
ij=原子iおよびjのペアのための基準エネルギー
σ
ij=原子iおよびjのペアのための基準距離
【0043】
この定義は、Leach, A. R. Molecular Modelling: Principles and Applications; 2nd ed.; Prentice Hall, 2001.に、明白に記載されている。
【0044】
静電相互作用は、(非常に)長い作用距離(long range)を有する。このため、長い距離で分離された複数の帯電原子(または複数の帯電体)でさえ、静電相互作用を受ける。この相互作用を考慮するために、エワルド法が非常に一般的に適用される。エワルド法は、分子シミュレーションのために広く使われている方法である。それは、実空間における短い距離と逆空間における長い距離での静電相互作用を評価することを可能にし、その合計が、ある値に収束する。
【0045】
エワルド法は、周期系の相互作用エネルギー、より具体的には静電エネルギーを計算するための方法である。静電エネルギーは、短い作用距離および長い作用距離の相互作用項の両方を有しており、相互作用ポテンシャルを、短い作用距離項(その合計が実空間で実行される)と長い作用距離項(その合計がフーリエ空間(逆空間)で実行される)に分離することは非常に興味深い。このアプローチの長所は、長い作用距離の相互作用の場合において、フーリエ空間での合計の収束が、実空間でのそれと比較して速いということである。
【0046】
カチオンとアニオンの全ての原子は、部分的な実効電荷を持っている。このため、各原子は、「点電荷」として考えられる。そして、その系での各「点電荷」は、以下の式で計算されるトータル静電エネルギーに寄与する。
【数7】
ここで、
第1の項は、実空間での寄与を表し、
第2の項は、逆空間での寄与を表し、
第3の項は、それ自身の各ガウス関数の間の相互作用の補正を表し、
ここで(主要変数の定義)、
E
elec:静電エネルギー(2つの電気によって帯電されたパーティクル間の相互作用)、
q
iまたはq
j:原子iおよびjの実効原子電荷
r
ij:電荷q
iおよびq
jをそれぞれ運ぶ原子iおよびjの間の距離
N:電荷を運ぶ原子のトータル数(電極の原子+イオン性溶液の原子)
n = (n
xL, n
yL, n
zL) n
x, n
y, n
zは整数
L:ボックスの長さ
erfc:相補誤差関数:
【数8】
a:ガウス関数
【数9】
の「幅」を定義
k:2πn/L(逆格子ベクトル)
k:ベクトルkのノルム
【0047】
エワルド法は、静電部分を計算する。しかしながら、この方法は、シミュレーションボックス内のトータルの電荷がゼロ(中性)にする必要があり、他の状態では、式(3)内の第2項が収束しない。シミュレーションボックスは、事象が調べられる物理環境の再現(representation)、モデルである。
【0048】
ここで、イオンが電極に挿入されたときの物理系のダイレクトシミュレーションは、電極のみが帯電されているか、または、電極とイオンの系が帯電されているかを含意する。その結果、エワルド法は、もはや適用できない。
【0049】
この問題を克服するために、本発明による方法は、
図2に示したように、各電極が、正確に反対の電荷を受け取ることによって二重化されている。
【0050】
このため、本発明によれば、2つのシミュレーションボックスBSAおよびBSBが物理系(SP)で構成されている。
【0051】
物理系内の陽極Aとアニオン(i-)は、電極Aとアニオン(i-)を、反対電荷の電極A’と反対電荷のイオン(i’+)と共に有するシミュレーションボックスBSA内で調べられる。
【0052】
物理系内の陰極Bとカチオン(i+)は、電極Bとカチオン(i+)を、反対電荷の電極B’と反対電荷のイオン(i’-)と共に有するシミュレーションボックスBSB内で調べられる。
【0053】
各シミュレーションボックスにおいて電気的中性を確実にするために、カチオンの数と反対電荷のカチオン(カチオン’)の数は同じであり、トータルの電荷がゼロになる。同様に、電極AとA’の電荷が互いにキャンセルされる。
【0055】
電極A内のアニオンの吸着エネルギーを得るために、我々は、シミュレーションボックスBSAで計算された吸着エネルギー
【数10】
を2つに分ける。
電極B内のカチオンの吸着エネルギーを得るために、我々は、シミュレーションボックスBSBで計算された相互作用エネルギーを2つに分ける。
【0056】
このように、より詳細には、各電極は、トータルの電荷がゼロになるように、距離dだけ離れ反対であるが同じ絶対値の電荷を正確に有する無限長の複数のナノチューブにてモデル化される。距離dは、静電力およびファンデルワークス力相互作用が無視できるように、2つのナノチューブが互いから十分に離れるように選択されている。各ナノチューブは、同じ性質であるが反対の原子電荷を有する同じ数(1、2、3…)のイオンで満たされている。1以上のアニオンは、陽電荷を有するナノチューブの中に挿入可能であり、第2のナノチューブには、カチオンになるように、同じアニオンであるが反対の原子電荷を有する負電荷が挿入可能である。
【0057】
この説明は、
図3に示されており、上のナノチューブは2-の電荷を保持し、下のナノチューブは、同じ絶対値で反対の電荷(2+)を保持する。下のナノチューブは、3つの(ヘキサフルオロホスフェイト)[PF6]-アニオンでチャージされ、このため、このサブシステムのトータルの電荷は−1となり、一方、上のナノチューブは、反対電荷を持つ3つのアニオン[PF6]+でチャージされ、このサブシステムのトータルの電荷は+1となり、シミュレーションボックスのトータル電荷はゼロである。
【0058】
我々は、原子電荷のみを対比し、力場の他の全てのパラメータ(パーティクルの系のポテンシャルエネルギーを表す数式とパラメータのセット)は依然として同一であり、トータルの内部エネルギーが2つの種(アニオンとカチオン)で正確に同一となる、ということを、特に言及する。このように、複数のナノチューブは、2つのイオンのように反対の電荷を持つので、電気的中性はトータルの系に常に提供される。このため、エワルド法は、静電相互作用を評価するために使用可能となる。
【0059】
このアプローチを使用することは、いくつかの利点を含む。
1.電気的中性がトータルの系に常に提供される。その理由は、複数のナノチューブは2つのイオンのように反対の電荷をもつからである。エワルド法が、静電相互作用の評価に使用可能になる。
2.ある数のイオンで満たされたナノチューブのトータルの電荷は、ゼロである必要がない。その理由は、この実効電荷は、同じ数のイオン(しかし反対の電荷)を持つ他方のナノチューブの電荷で補償されるからである。このアプローチは、以下のことを可能にする。
a)ナノチューブの電荷に関わらず、各ナノチューブ内のイオンの数を変更すること。このため、ナノチューブの一定の電荷で、ナノチューブに入れることができるイオン(アニオンとカチオン)の最大数が調査可能になる。
b)挿入されたイオンの数に関わらず、ナノチューブの電荷を変更すること。もし、ナノチューブの直径がイオンのサイズに対して「非常に小さく」てナノチューブの電荷を増加することによってフィットさせることができないと、静電相互作用は、イオンの変形エネルギーを補償できる。
【0060】
3.システムのシミュレーションは、イオンとナノチューブの間の平均相互作用エネルギー(ナノチューブごとの平均エネルギー)の2倍に対応する計算をもたらすので、平均吸着エネルギーの計算の統計も改良される。
【0061】
例
吸着エネルギー
図4において、吸着エネルギー(ΔE
ads)は、ファンデルワールス力相互作用(E
vdw)と静電相互作用(E
electro)とからの寄与に分解されている。ファンデルワールス力相互作用(E
vdw)は円で、静電相互作用(E
electro)は三角で、吸着エネルギー((ΔE
ads)は四角で表されている。
【0062】
これらのエネルギーは、ナノチューブの内径(DIN)の関数としてプロットされ、この直径は、テトラエチルアンモニウム(TEA+)とエチルメチルイミダゾリウム(EMIM+)のカチオンと、テトラフルオロホウ塩酸(BF
4-)とビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(TFSI
-)のアニオンとのそれぞれについて、電極の孔サイズをモデル化している。
【0063】
結果は、一定の電荷(ナノチューブごとに±2e)では、静電の寄与は、電極の孔サイズおよびイオンの種類と関わりないことを示し、実際、イオンとナノチューブ(常に±2e)のトータル電荷(常に±1e)によってもっぱら決定される。
【0064】
一方、吸着エネルギーは、最小値を有する曲線を示し、その形状はファンデルワールスエネルギーの寄与を表す曲線の形状によって影響を受けている。
【0065】
図4に示した吸着エネルギー曲線の最小値は、イオンのサイズに依存している。幾何学サイズが小さいイオン(BF
4およびEMIM)ほど、小さい径(5〜6オングストローム)を有するナノチューブに中に入ることができる。すなわち、吸着エネルギーは、DINが4.5オングストロームよりも大きい限りはマイナスであり、イオンが大きくなるほど中に入れなくなる。すなわち、DINが5.5オングストローム(TFSI)または6オングストロームあたりより小さくなるとすぐ、吸着エネルギーはプラスになる(
図4)。
【0066】
イオンとホストの間の相互作用エネルギー(井戸の深さ)は、大きい数の原子からなるイオン(TFSI:15個の原子、EMIM:19個の原子、NEt
4:29個の原子)では、小さい数の原子を有するイオン(BF
4:5個の原子)よりも大きくなる。この相互作用は、各原子がファンデルワールス相互作用の総和に寄与するため高い。イオンの形状も重要な役割を果たすことを言及する。TFSIのような伸長した形状を有するイオンは、NEt
4のようなより球形状を有するイオンよりも、円柱(ナノチューブ)に対してより高い相互作用を有する。
【0068】
静電エネルギーを考慮してイオン性溶液のアニオン+カチオンペアを脱溶媒和しそれを電極の孔に吸着するためのトータルエネルギー(ΔE
tot)を決定するために本発明に応じた方法を使うことは、電極の孔サイズ、または、イオン性溶液内のアニオン−カチオンペアの関数として、電気二重層キャパシタの静電容量の予測を可能にする。
【0069】
そして、所定のイオン性溶液について前記電気二重層キャパシタの最大静電容量を得ることを許容する電極孔サイズを決定することを可能にする。
【0070】
所定の電極孔サイズについて前記電気二重層キャパシタの最大静電容量を得ることを許容するアニオン−カチオンペアを決定することも可能にする。
【0071】
孔サイズの関数として電気二重層キャパシタの静電容量を予測すること
【0072】
(測定された)静電容量曲線と、(孔サイズ分布を考慮して)本発明に従って決定されたトータルエネルギー(ΔE
tot)を表す曲線は、実質的に同じ孔サイズで、最大と最小をそれぞれ持つ。
【0073】
このように、トータルエネルギーを表す曲線は、電極の最適の孔サイズを評価するための非常に良い指標である
【0074】
そして、電気二重層キャパシタの電極を形成する材料をスクリーニングする方法は、以下のステージを有する:
イオン性溶液のためにアニオン−カチオンペア(電気二重層キャパシタの電解液)を選択すること、
本発明に従った方法で、異なる電極孔サイズについてこれらのイオンのトータルエネルギー(ΔE
tot)を決定すること、
最小エネルギー(ΔE
tot)に応じた孔サイズを選択することによって、最大の静電容量を得ることを可能にする孔サイズを決定すること。
【0076】
以下のアニオン−カチオンペアが選択される:EMIM/TFSI。
【0077】
本発明に従った方法を適用することによって、これらのイオンのトータルエネルギーが、異なる電極孔サイズについて決定される。
【0078】
トータルエネルギー曲線は、P. Simon et al. (Science (New York, N.Y.) 2006, 313, 1760-3)にて実験的に測定された正規化静電容量(normalized capacitance)と類似している。これは、一方では、実験的に測定された電気二重層キャパシタ(EMIM/TFSIペアを有する)の正規化された静電容量(NC−ひし形を有する曲線)の展開を、孔サイズ(PS)の関数として表し、他方では、トータルエネルギー(ΔE
tot−円を有する曲線)の展開を孔サイズの関数として示す
図5において見ることができる。
【0079】
「静電容量」曲線の最大とΔE
tot曲線の最小は実質的に0.7nmの孔サイズにところにあることが観測される。
【0080】
この孔サイズは、EMIM/TFSIペアで動作する電気二重層キャパシタにとって最適の孔サイズである。
【0081】
電気二重層キャパシタの静電容量をアニオン−カチオンペアの関数として予測すること
【0082】
反対に、所定の電極の孔サイズについて、前記電気二重層キャパシタの最大静電容量を得ることを可能にするアニオン−カチオンペアを決定する方法は、以下のステージを有する。
電極のための孔サイズを選択すること、
本発明に従った方法で前記孔サイズについて異なるアニオン−カチオンペアのトータルエネルギー(ΔE
tot)を決定し、
前記孔サイズについて最小のトータルエネルギー(ΔE
tot)を有するペアを選択することで、最大の静電容量を得ることが可能なアニオン−カチオンペアを選択すること。