特許第6341936号(P6341936)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許63419365−アミノレブリン酸の高生産株及びその製造方法と使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6341936
(24)【登録日】2018年5月25日
(45)【発行日】2018年6月13日
(54)【発明の名称】5−アミノレブリン酸の高生産株及びその製造方法と使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/21 20060101AFI20180604BHJP
   C12P 13/00 20060101ALI20180604BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20180604BHJP
【FI】
   C12N1/21ZNA
   C12P13/00
   !C12N15/00 A
【請求項の数】12
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2015-556388(P2015-556388)
(86)(22)【出願日】2014年1月28日
(65)【公表番号】特表2016-506738(P2016-506738A)
(43)【公表日】2016年3月7日
(86)【国際出願番号】CN2014071712
(87)【国際公開番号】WO2014121724
(87)【国際公開日】20140814
【審査請求日】2015年10月6日
(31)【優先権主張番号】201310051018.X
(32)【優先日】2013年2月7日
(33)【優先権主張国】CN
【微生物の受託番号】CGMCC  CGMCC NO.6588
【微生物の受託番号】CGMCC  CGMCC NO.6589
(73)【特許権者】
【識別番号】515107775
【氏名又は名称】ティアンジン インスティテュート オブ インダストリアル バイオテクノロジー、チャイニーズ アカデミー オブ サイエンシーズ
【氏名又は名称原語表記】TIANJIN INSTITUTE OF INDUSTRIAL BIOTECHNOLOGY, CHINESE ACADEMY OF SCIENCES
(74)【代理人】
【識別番号】100102842
【弁理士】
【氏名又は名称】葛和 清司
(72)【発明者】
【氏名】ツェン,ピン
(72)【発明者】
【氏名】チェン,ジウツォウ
(72)【発明者】
【氏名】プウ,ウェイ
(72)【発明者】
【氏名】スン,ジービン
(72)【発明者】
【氏名】ウー,シンヤン
(72)【発明者】
【氏名】マア,ヤンヘー
【審査官】 小林 薫
(56)【参考文献】
【文献】 特表2003−503064(JP,A)
【文献】 特表2008−513023(JP,A)
【文献】 特表2002−511250(JP,A)
【文献】 特表2012−522515(JP,A)
【文献】 Journal of Bacteriology,1973年,Vol.114,p.1052-1057
【文献】 Bioengineered Bugs,2011年,Vol.2, No.6,p.1-4
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00− 7/08
C12P 1/00−41/00
C12N 15/00−15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
DWPI(Thomson Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
5-アミノレブリン酸の高生産菌株の構築方法であって、
5-アミノレブリン酸生産菌株におけるオキサロ酢酸合成を促進する関連酵素の活性を増強し、またはオキサロ酢酸合成を促進する外来性の関連酵素を導入すること、および、
5-アミノレブリン酸生産菌株における5-アミノレブリン酸の合成経路を増強すること、または5-アミノレブリン酸の外来性の合成経路を導入すること、
を含み、オキサロ酢酸合成を促進する関連酵素がホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼまたはピルビン酸カルボキシラーゼであり、
5-アミノレブリン酸の合成経路が、5-アミノレブリン酸合成酵素、グルタミルtRNA合成酵素、グルタミルtRNA還元酵素およびグルタミン酸-1-セミアルデヒドアミノトランスフェラーゼから選択される少なくとも1つであることを特徴とする、前記方法。
【請求項2】
5-アミノレブリン酸生産菌株におけるスクシニルCoAの下流代謝経路の関連酵素の活性を減弱することをさらに含み、スクシニルCoAの下流代謝経路の関連酵素がスクシニルCoAシンテターゼまたはコハク酸デヒドロゲナーゼであることを特徴とする、請求項1に記載の構築方法。
【請求項3】
ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼおよび/またはリンゴ酸酵素の活性を減弱することをさらに含むことを特徴とする、請求項1または2に記載の構築方法。
【請求項4】
5-アミノレブリン酸の高生産菌株の構築方法であって、
5-アミノレブリン酸生産菌株におけるホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼおよび/またはリンゴ酸酵素の活性を減弱すること;および
5-アミノレブリン酸生産菌株における5-アミノレブリン酸の合成経路を増強すること、または5-アミノレブリン酸の外来性の合成経路を導入すること、
を含み、
5-アミノレブリン酸の合成経路が、5-アミノレブリン酸合成酵素、グルタミルtRNA合成酵素、グルタミルtRNA還元酵素およびグルタミン酸-1-セミアルデヒドアミノトランスフェラーゼからなる群から選択される少なくとも1つであることを特徴とする、前記方法。
【請求項5】
5-アミノレブリン酸生産菌株であって、前記菌株におけるオキサロ酢酸合成を促進する関連酵素の活性が増強し、またはオキサロ酢酸合成を促進する外来性の関連酵素を含み、および、
菌株における5-アミノレブリン酸の合成経路が増強し、あるいは菌株において5-アミノレブリン酸の外来性の合成経路を含み、
オキサロ酢酸合成を促進する関連酵素がホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼまたはピルビン酸カルボキシラーゼであり、
5-アミノレブリン酸の合成経路が、5-アミノレブリン酸合成酵素、グルタミルtRNA合成酵素、グルタミルtRNA還元酵素およびグルタミン酸-1-セミアルデヒドアミノトランスフェラーゼからなる群から選択される少なくとも1つであることを特徴とする、前記菌株。
【請求項6】
さらにスクシニルCoAの下流代謝経路の関連酵素の活性が減弱し、スクシニルCoAの下流代謝経路の関連酵素はスクシニルCoAシンテターゼまたはコハク酸デヒドロゲナーゼであることを特徴とする、請求項に記載の菌株。
【請求項7】
菌株が、大腸菌 (Escherichia coli)、コリネバクテリウム・グルタミクム(Corynebacterium glutamicum)、ロドバクター・スフェロイデス(Rhodobacter sphaeroides)、ロドシュードモナス・パルストリス(Rhodopseudomonas palustris)から選ばれることを特徴とする、請求項5または6に記載の菌株。
【請求項8】
菌株におけるホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼおよび/またはリンゴ酸酵素の活性が減弱したことを特徴とする、請求項5または6に記載の菌株。
【請求項9】
5-アミノレブリン酸生産菌株であって、前記菌株におけるホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼおよび/またはリンゴ酸酵素の活性が減弱し;かつ前記菌株における5-アミノレブリン酸の合成経路が増強すること、または5-アミノレブリン酸の外来性の合成経路を含み、5-アミノレブリン酸の合成経路が、5-アミノレブリン酸合成酵素、グルタミルtRNA合成酵素、グルタミルtRNA還元酵素およびグルタミン酸-1-セミアルデヒドアミノトランスフェラーゼからなる群から選択される少なくとも1つであることを特徴とする、前記菌株。
【請求項10】
5-アミノレブリン酸を生産する大腸菌株であって、寄託番号CGMCC No.6588で中国微生物菌種保蔵管理委員会普通微生物センターに寄託された菌株あるいは寄託番号CGMCC No.6589で中国微生物菌種保蔵管理委員会普通微生物センターに寄託された菌株から選ばれることを特徴とする、前記菌株。
【請求項11】
5-アミノレブリン酸を生産する方法であって、
1) 請求項5〜10のうちのいずれか一項に記載の菌株を培養し、5-アミノレブリン酸を得ること、および
2) 1)の発酵培養システムから5-アミノレブリン酸を得ること、
を含むことを特徴とする、前記方法。
【請求項12】
5-アミノレブリン酸を生産するための、および/または5-アミノレブリン酸を前駆体として用いることによる下流産物の生産のための、請求項5〜10のうちのいずれか一項に記載の菌株の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝子工学および微生物発酵の技術分野に関する。具体的に、本発明は、5-アミノレブリン酸の高生産株及びその製造方法と使用に関する。
【背景技術】
【0002】
5-アミノレブリン酸(5-aminolevulinic acid、ALA)は、生体において合成されるヘム、クロロフィル、ビタミンB12などのテトラピロール化合物の前駆体で、テトラピロール化合物はシトクロム、ヘモグロビン、葉緑体タンパク質などの重要な構成部分で、生命活動において重要な作用を果たす。分解可能で、毒性がなく、残留しないといった特徴があるため、ALAは医薬、農業、牧畜業、日用化学品などの分野における応用の将来性が期待され、付加価値の高い重要なバイオベース化学品である。ALAは、次世代の光線力学薬として癌の治療、腫瘍の診断や皮膚病の治療などに有用で、植物生長調節剤として花、作物や野菜の生長を促進し、作物、果物、野菜の品質を向上させることができ、動物飼料添加剤として動物の新陳代謝や免疫力を強化することができる。近年、ALAは、さらに、主要添加成分として化粧品や健康食品の開発において使用され、関連の製品はすでに市販されている。
【0003】
しかしながら、現在、ALAは主に化学合成法によって製造され、反応工程が多いこと、転化率が低いこと、生産コストが高いこと、エネルギー消費が高いこと、製造過程において毒性のある原料が使用されること、環境汚染がひどいことや高価であるといった欠点が存在する。いま、中国市場では、ALA塩酸塩の工場渡し価格は約1.7〜1.9万元/kgで、試薬級の市販価格は2000元/gと高い。高い製造コストは、ALAの応用の普及のネックになっている。
【0004】
社会と科学技術の発展に伴い、化学合成法の代わりに効率的でクリーンな生物発酵法によるALAの生産は研究の重点になってきた。現在、微生物を利用してALAを生産する方法は主に二種類ある。一つは、光合成細菌に対して突然変異育種を行い、ALAの高生産突然変異株を選択して特定の培地で培養し、高濃度のALAを蓄積させる方法であるが、当該方法は発酵周期が長く、条件のコントロールが複雑で、基質と抑制剤の添加も生産コストの増加につながる。もう一つは、代謝工学の技術によって微生物の代謝経路を改造し、ALAの合成を強化することによってALAの過剰蓄積を実現する。微生物におけるALAの合成経路は主に二つで、一つはALA合成酵素の作用下でスクシニルCoAとグリシンを前駆体としてALAを合成する、C4経路と呼ばれるもので、もう一つはグルタミルtRNAを前駆体として二段反応によってALAを合成する、C5経路と呼ばれるものである。
【0005】
Xieら(Xie L, Hall D, Eiteman MA, Altman E, Appl Microbiol Biotechnol, 2003, 63(3): 267-273)は、ロドバクター・スフェロイデス(Rhodobacter sphaeroides)ALA合成酵素を発現する野生型大腸菌MG1655を利用し、発酵条件の最適化によって、ALAの生産量を5.2 g/Lにした。林建平ら(CN200710068168.6、CN201210013562.0)は、ロドバクター・スフェロイデスのALA合成酵素の遺伝子を大腸菌Rosetta 2(DE3)において発現させ、発行プロセスの最適化後、ALAの生産量が6.6 g/Lに達し、さらに最適化後、15Lの発酵タンクでは生産量が9.4 g/Lに達し、現在文献で報告された最高の生産量である。以上の研究はいずれも比較的に簡単なC4経路を使用し、主に大腸菌において外来ALA合成酵素を発現させ、且つLB富栄養培地に基質であるコハク酸とグリシンおよび下流代謝経路の阻害剤を添加することによって実現する。上記方法によるALAの生産量はすでに比較的に高いレベルに達したが、LB培地の使用および基質と阻害剤の添加によって、発酵プロセスのコントロールが複雑になるだけでなく、生産コストも増加し、大規模の工業化応用が制限される。
【0006】
Shinら(Shin JA, Kwon YD, Kwon OH, Lee HS, Kim P, J Microbiol Biotechnol, 2007, 17(9): 1579-1584)は、ロドバクター・スフェロイデスのALA合成酵素を発現する大腸菌において大腸菌自身のNADP依存型のリンゴ酸酵素を共発現させ、嫌気条件では、コハク酸を添加していない富栄養培地においてALAの生産量を向上させることができるが、そのALAの向上の程度では、全体の生産量がまだ低く、生産の要求に達していない。
【0007】
Kangら(Kang Z, Wang Y, Gu P, Wang Q, Qi Q, Metab Eng, 2011, 13(5): 492-498)は、大腸菌において改良されたC5経路およびALA輸送タンパク質の発現を利用し、5 L発酵タンクにおけるALAの生産量を4.13 g/Lにし、且つブドウ糖を主な炭素源とする合成培地でALAを発酵生産することを実現したが、発酵周期が長く、且つブドウ糖の転化率が0.168 g/g(モル比で約0.23)と低い。上記研究ではALA合成基質の細胞内供給が部分的に試みされたが、全体的に効果がよくないため、現在、ALA合成の基質供給は一般的に直接外部添加の様態が使用され、特にALA合成において最も使用されるC4合成経路では、C4経路の組換え工学菌によって低価のブドウ糖を主な炭素源とする培地においてALAを発酵生産する報告はまだない。
このように、本分野では、効率的で、低コストで、低汚染のALAの製造方法の開発が切望されている。
【発明の概要】
【0008】
本発明の目的は、高レベルの5-アミノレブリン酸生産菌株を構築する方法及び得られる相応の菌株を提供することにある。
第一には、本発明は、5-アミノレブリン酸生産菌株の構築方法であって、
前記5-アミノレブリン酸生産菌株におけるオキサロ酢酸合成を促進する関連酵素の活性を増強し、またはオキサロ酢酸合成を促進する外来性の関連酵素を導入し、かつ/あるいは
5-アミノレブリン酸生産菌株におけるスクシニルCoAの下流代謝経路の関連酵素の活性を減弱する方法を提供する。
【0009】
具体的な実施形態において、前記オキサロ酢酸合成を促進する関連酵素はホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼまたはピルビン酸カルボキシラーゼで、前記スクシニルCoAの下流代謝経路の関連酵素はスクシニルCoAシンテターゼまたはコハク酸デヒドロゲナーゼである。
好適な実施形態において、前記5-アミノレブリン酸生産菌株におけるオキサロ酢酸合成を促進する関連酵素の活性を増強することは、ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼの活性を増強する方法、および/またはピルビン酸カルボキシラーゼの活性を増強する方法、あるいはこれらの方法の組み合わせによって実現する。
【0010】
もう一つの好適な実施形態において、前記5-アミノレブリン酸生産菌株におけるホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼもしくはピルビン酸カルボキシラーゼの活性を増強することは、相同もしくは非相同のホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼもしくはピルビン酸カルボキシラーゼのコード遺伝子を発現させる方法、および/または前記菌株における前記コード遺伝子のコピー数を増加する方法、および/または前記コード遺伝子のプロモーターを改造して転写開始速度を向上させる方法、および/または前記コード遺伝子を持つ伝令RNAの翻訳調節領域を修飾して翻訳強度を向上させる方法、あるいはこれらの方法の組み合わせによって実現することができる。
【0011】
好適な実施形態において、前記減弱は、前記スクシニルCoAの下流代謝経路の関連酵素を欠失せることを含む。
もう一つの好適な実施形態において、前記スクシニルCoAの下流代謝経路の関連酵素はスクシニルCoAシンテターゼまたはコハク酸デヒドロゲナーゼである。
好適な実施形態において、前記5-アミノレブリン酸生産菌株におけるスクシニルCoAの下流代謝経路の関連酵素の活性を減弱することは、スクシニルCoAシンテターゼもしくはコハク酸デヒドロゲナーゼのコード遺伝子の一部もしくは全部を欠損させる方法、遺伝子を突然変異によって不活性化させる方法、遺伝子のプロモーターもしくは翻訳調節領域を変化させて転写もしくは翻訳を減弱する方法、遺伝子配列を変化させてmRNAもしくは酵素構造の安定性を低下させる方法など、あるいはこれらの方法の組み合わせによって実現することができる。
もう一つの好適な実施形態において、前記方法は、さらに、前記5-アミノレブリン酸生産菌株における5-アミノレブリン酸の合成経路を増強し、あるいは5-アミノレブリン酸の外来性の合成経路を導入することを含む。
【0012】
好適な実施形態において、前記5-アミノレブリン酸生産菌株における5-アミノレブリン酸の合成経路を増強するとは、前記5-アミノレブリン酸生産菌株における5-アミノレブリン酸合成酵素の活性を増強し、あるいは外来性の5-アミノレブリン酸合成酵素を導入することである。
もう一つの具体的な実施形態において、前記方法は、前記5-アミノレブリン酸生産菌株における5-アミノレブリン酸合成酵素の活性を増強し、あるいは外来性の5-アミノレブリン酸合成酵素を導入し、ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼの活性を増強し、かつコハク酸デヒドロゲナーゼを欠損させることを含む。
【0013】
もう一つの好適な実施形態において、前記方法は、さらに、得られる菌株における5-アミノレブリン酸の生産量を測定することを含む。
もう一つの好適な実施形態において、前記方法によって得られる5-アミノレブリン酸生産菌株は、コハク酸を外来的に添加することなく、高レベルで5-アミノレブリン酸を生産することができる。
もう一つの好適な実施形態において、前記方法によって得られる5-アミノレブリン酸生産菌株は、好気条件において、コハク酸を外来的に添加することなく、高レベルで5-アミノレブリン酸を生産することができる。
もう一つの具体的な実施形態において、前記菌株自身が5-アミノレブリン酸の合成能力を有する。
【0014】
もう一つの具体的な実施形態において、本発明の方法は、さらに、ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼおよび/またはリンゴ酸酵素の活性を減弱することを含む。
好適な実施形態において、前記ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼおよび/またはリンゴ酸酵素の活性を減弱することは、ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼおよび/またはリンゴ酸酵素の遺伝子を欠損させることによって実現する。
一方、本発明は、5-アミノレブリン酸生産菌株の構築方法であって、前記5-アミノレブリン酸生産菌株におけるホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼおよび/またはリンゴ酸酵素の活性を減弱し、かつ前記5-アミノレブリン酸生産菌株における5-アミノレブリン酸の合成経路を増強し、または5-アミノレブリン酸の外来性の合成経路を導入することを含む方法を提供する。
【0015】
第二には、本発明は、5-アミノレブリン酸生産菌株であって、前記菌株におけるオキサロ酢酸合成を促進する関連酵素の活性が増強し、またはオキサロ酢酸合成を促進する外来性の関連酵素を含み、かつ/あるいは
前記スクシニルCoAの下流代謝経路の関連酵素の活性が減弱した菌株を提供する。
具体的な実施形態において、前記オキサロ酢酸合成を促進する関連酵素はホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼまたはピルビン酸カルボキシラーゼで、前記スクシニルCoAの下流代謝経路の関連酵素はスクシニルCoAシンテターゼまたはコハク酸デヒドロゲナーゼである。
【0016】
もう一つの具体的な実施形態において、前記菌株における5-アミノレブリン酸の合成経路も増強した。好適な実施形態において、前記菌株における5-アミノレブリン酸合成酵素の活性が増強し、または外来性の5-アミノレブリン酸合成酵素を含む。
もう一つの具体的な実施形態において、前記菌株における5-アミノレブリン酸合成酵素の活性が増強し、または外来性の5-アミノレブリン酸合成酵素を含み、ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼの活性が増強し、または外来性のホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼの活性が増強し、かつコハク酸デヒドロゲナーゼが欠損した。
【0017】
もう一つの具体的な実施形態において、前記菌株は、大腸菌 (Escherichia coli)、コリネバクテリウム・グルタミクム(Corynebacterium glutamicum)、ロドバクター・スフェロイデス(Rhodobacter sphaeroides)、ロドシュードモナス・パルストリス(Rhodopseudomonas palustris)等から選ばれる。
もう一つの具体的な実施形態において、前記菌株におけるホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼおよび/またはリンゴ酸酵素の活性が減弱した。
好適な実施形態において、前記菌株におけるホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼおよび/またはリンゴ酸酵素の遺伝子が欠損した。
一方、本発明は、5-アミノレブリン酸生産菌株であって、前記菌株におけるホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼおよび/またはリンゴ酸酵素の活性が減弱し、かつ前記菌株における5-アミノレブリン酸の合成経路が増強し、または5-アミノレブリン酸の外来性の合成経路を含む菌株を提供する。
【0018】
第三には、本発明は、5-アミノレブリン酸を生産する大腸菌(Escherichia coli)であって、寄託番号CGMCC No.6588で中国微生物菌種保蔵管理委員会普通微生物センターに寄託された菌株あるいは寄託番号CGMCC No.6589で中国微生物菌種保蔵管理委員会普通微生物センターに寄託された菌株からなる群から選ばれる菌株を提供する。
具体的な実施形態において、前記菌株は、コハク酸を外来的に添加することなく、5-アミノレブリン酸を生産することができる。
もう一つの好適な実施形態において、前記菌株における5-アミノレブリン酸の生産量は、7 g/Lよりも高い。
【0019】
もう一つの好適な実施形態において、前記菌株における5-アミノレブリン酸の生産のブドウ糖転化率は、0.35(モル比)よりも高く、好ましくは0.45(モル比)よりも高く、最も好ましくは0.5(モル比)よりも高い。
もう一つの好適な実施形態において、前記5-アミノレブリン酸生産菌株は、外来のコハク酸を添加することなく、高レベルで5-アミノレブリン酸を生産する。
もう一つの好適な実施形態において、前記5-アミノレブリン酸生産菌株は、好気条件において、コハク酸を外来的に添加することなく、高レベルで5-アミノレブリン酸を生産する。
【0020】
第四には、本発明は、5-アミノレブリン酸を生産する方法であって、
1) 本発明の第二または第三に係る菌株を培養し、5-アミノレブリン酸を得ること、および
2) 1)の発酵培養システムから5-アミノレブリン酸を得ること、
を含む方法を提供する。
好適な実施形態において、前記方法によって得られる5-アミノレブリン酸の生産量は、7 g/Lよりも高い。
もう一つの好適な実施形態において、前記方法は、別途にコハク酸を添加することなく、5-アミノレブリン酸の高生産を実現することができる。
【0021】
第五には、本発明は、さらに、5-アミノレブリン酸を生産する方法であって、
1) スクシニルCoAの下流代謝経路の関連酵素の阻害剤を含有する培地において5-アミノレブリン酸生産菌株を培養し、5-アミノレブリン酸を得ること、および
2) 1)の培養システムから5-アミノレブリン酸を得ること、
を含む方法を提供する。
好適な実施形態において、前記スクシニルCoAの下流代謝経路の関連酵素はスクシニルCoAシンテターゼまたはコハク酸デヒドロゲナーゼである。
【0022】
第六には、本発明は、5-アミノレブリン酸および/または5-アミノレブリン酸を前駆体として用いることによる下流産物の生産のための本発明の第二または第三に係る菌株の使用を提供する。
好適な実施形態において、前記下流産物は、ALAを前駆体とするヘムまたはビタミンB12である。
【0023】
もちろん、本発明の範囲内において、本発明の上記の各技術特徴および下記(例えば実施例)の具体的に記述された各技術特徴は互いに組合せ、新しい、または好ましい技術方案を構成できることが理解される。紙数に限りがあるため、ここで逐一説明しない。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は、ALAの生産量を向上させた本発明の技術方案の概略図を示す。
図2図2は、本発明で使用される発現ベクターの遺伝地図を示す。
図3図3は、ALAの生産量を向上させた本発明のさらなる技術方案の概略図を示す。
図4図4は、pZWA1およびpZWA2組換えベクターの構築概略図を示す。
【0025】
具体的な実施形態
発明者は、幅広く深く研究したところ、5-アミノレブリン酸の生産菌株におけるオキサロ酢酸合成を促進する関連酵素の活性を増強することによって、前記生産菌株における5-アミノレブリン酸の生産量を大幅に向上させることができることを意外にも見出した。また、発明者は、前記生産菌株におけるスクシニルCoAの下流代謝経路の関連酵素を減弱することによっても、得られる生産菌株における5-アミノレブリン酸の生産量を向上させることができることを見出した。さらに、発明者は、ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼおよびリンゴ酸酵素の活性を減弱することによって、5-アミノレブリン酸の生産量を顕著に向上させることができることを見出した。そして、上記手段のうちの任意の2種類または3種類を合わせると、得られる生産菌株における5-アミノレブリン酸の生産量をさらに向上させることができる。これに基づき、本発明を完成させた。
【0026】
用語の定義
ここで用いられる用語「外来性」とは、あるシステムに元来存在しない物質が含まれることを指す。例えば、形質転換などの手段である菌株に当該菌株に元来存在しない酵素のコード遺伝子を導入することによって、当該菌株において当該酵素を発現させる場合、当該酵素は当該菌株にとって「外来性」のものである。
【0027】
ここで用いられる用語「増強」とは、あるタンパク質、例えば酵素の活性を増加、向上、増大または上昇させることである。本発明の指導および既存技術に基づき、当業者は、ここで用いられる用語「増強」がさらに酵素の非相同コード遺伝子を発現させてその活性を増強することを容易に理解することができる。具体的な実施形態において、酵素の活性を増強するには、酵素の相同もしくは非相同のコード遺伝子を発現させる方法、および/または前記コード遺伝子のコピー数を増加する方法、および/または前記コード遺伝子のプロモーターを改造して転写開始速度を向上させる方法、および/または前記コード遺伝子を持つ伝令RNAの翻訳調節領域を修飾して翻訳強度を向上させる方法、および/またはコード遺伝子自身を修飾してmRNAの安定性、タンパク質の安定性を増強し、タンパク質のフィードバック阻害を解除する方法などの方法によって実現することができる。
【0028】
同じように、ここで用いられる用語「減弱」とは、あるタンパク質、例えば酵素の活性を低下、弱化、減少または完全消失させることである。具体的な実施形態において、酵素の活性を減弱するには、酵素のコード遺伝子の一部もしくは全部を欠損させる方法、遺伝子を突然変異によって不活性化させるか部分的に不活性化させる方法、遺伝子のプロモーターもしくは翻訳調節領域を変化させて転写もしくは翻訳を減弱する方法、遺伝子配列を変化させてmRNAもしくは酵素構造の安定性を減弱する方法、あるいはこれらの組み合わせによって実現することができる。
【0029】
ここで用いられる用語「オキサロ酢酸合成を促進する関連酵素」とは、オキサロ酢酸の合成に関連し、オキサロ酢酸の合成量に対して促進、向上、増加などのプラス作用を果たす酵素である。具体的な実施形態において、本発明におけるオキサロ酢酸合成を促進する関連酵素は、ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼppcまたはピルビン酸カルボキシラーゼpycを含むが、これらに限定されない。また、本発明の指導および既存技術に基づき、当業者は、本発明では様々なオキサロ酢酸合成を促進する関連酵素を使用することができ、前記酵素が菌株においてオキサロ酢酸の合成量を促進、向上または増加させることができればよいことを容易に理解することができる。具体的な実施形態において、本発明で使用されるホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼは大腸菌由来のもので、ピルビン酸カルボキシラーゼは根粒菌由来のものである。
【0030】
ここで用いられる用語「スクシニルCoAの下流代謝経路の関連酵素」とは、スクシニルCoAを基質としてほかの物質を合成することによって、スクシニルCoAを消費する酵素である。具体的な実施形態において、前記スクシニルCoAの下流代謝経路の関連酵素はスクシニルCoAシンテターゼまたはコハク酸デヒドロゲナーゼを含むが、これらに限定されない。
【0031】
ここで用いられる用語「5-アミノレブリン酸の合成経路」とは、微生物において5-アミノレブリン酸を生産する具体的な経路で、様々な酵素、例えば5-アミノレブリン酸合成酵素、グルタミルtRNA合成酵素、グルタミルtRNA還元酵素やグルタミン酸-1-セミアルデヒドアミノトランスフェラーゼなどを含む。同じように、ここで用いられる用語「5-アミノレブリン酸の合成経路が増強する」とは、5-アミノレブリン酸の合成経路に関与する関連酵素、例えば5-アミノレブリン酸合成酵素、グルタミルtRNA合成酵素、グルタミルtRNA還元酵素やグルタミン酸-1-セミアルデヒドアミノトランスフェラーゼの活性が増加することである。好適な実施形態において、前記酵素は、ロドシュードモナス・パルストリス由来の5-アミノレブリン酸合成酵素である。
【0032】
本発明の5-アミノレブリン酸生産菌株
本発明は、5-アミノレブリン酸生産菌株であって、前記菌株におけるオキサロ酢酸合成を促進する関連酵素の活性が増強し、またはオキサロ酢酸合成を促進する外来性の関連酵素を含み、かつ/あるいは前記スクシニルCoAの下流代謝経路の関連酵素の活性が減弱した菌株を提供する。好適な実施形態において、前記オキサロ酢酸合成を促進する関連酵素はホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼまたはピルビン酸カルボキシラーゼを含むが、これらに限定されず、前記スクシニルCoAの下流代謝経路の関連酵素はスクシニルCoAシンテターゼまたはコハク酸デヒドロゲナーゼを含むが、これらに限定されない。
【0033】
ほかの実施形態において、前記菌株における5-アミノレブリン酸の合成経路も増強し、または5-アミノレブリン酸の外来性の合成経路を含む。そのため、具体的な実施形態において、本発明菌株における5-アミノレブリン酸の合成経路が増強し、または5-アミノレブリン酸の外来性の合成経路を含み、オキサロ酢酸合成を促進する関連酵素の活性が増強し、またはオキサロ酢酸合成を促進する外来性の関連酵素を含み、かつ/あるいは前記スクシニルCoAの下流代謝経路の関連酵素の活性が減弱した。好適な実施形態において、本発明の菌株における5-アミノレブリン酸合成酵素の活性が増強し、または外来性の5-アミノレブリン酸合成酵素を含み、ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼの活性が増強し、または外来性のピルビン酸カルボキシラーゼの活性が増強し、かつコハク酸デヒドロゲナーゼが欠損した。
もう一つの具体的な実施形態において、本発明の菌株におけるホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼおよび/またはリンゴ酸酵素の活性が減弱した。
好適な実施形態において、本発明の菌株におけるホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼおよび/またはリンゴ酸酵素の遺伝子が欠損した。
【0034】
当業者には、多くの菌株が5-アミノレブリン酸の生産に使用することができることが既知である。これらの菌株は異なるが、5-アミノレブリン酸を合成する合成システム、経路は類似である。そのため、当業者は、本発明の指導および既存技術に基づき、本発明の菌株が5-アミノレブリン酸の生産に使用できる任意の菌株でもよく、大腸菌 (Escherichia coli)、コリネバクテリウム・グルタミクム(Corynebacterium glutamicum)、ロドバクター・スフェロイデス(Rhodobacter sphaeroides)、ロドシュードモナス・パルストリス(Rhodopseudomonas palustris)などを含むが、これらに限定されないことがわかる。
【0035】
具体的な実施形態において、本発明は、寄託番号CGMCC No.6588で中国微生物菌種保蔵管理委員会普通微生物センターに寄託された大腸菌 (Escherichia coli)を提供する。もう一つの具体的な実施形態において、本発明は、寄託番号CGMCC No.6589で中国微生物菌種保蔵管理委員会普通微生物センターに寄託された大腸菌 (Escherichia coli)を提供する。
【0036】
本発明の菌株は、前駆体であるコハク酸を外来的に添加することなく、5-アミノレブリン酸を生産することができ、5-アミノレブリン酸の生産量が7 g/Lよりも高い。また、本発明の菌株によって5-アミノレブリン酸を生産する場合、ブドウ糖転化率は、0.35(モル比)よりも高く、好ましくは0.45(モル比)よりも高く、最も好ましくは0.5(モル比)よりも高い。好適な実施形態において、本発明の菌株は、コハク酸を外来的に添加することなく、高レベルで5-アミノレブリン酸を生産することができる。もう一つの好適な実施形態において、本発明の菌株は、好気条件において、高レベルで5-アミノレブリン酸を生産することができることで、既存技術レベルの発酵タンクなどの設備を改造する必要がなく、工業化レベルでの拡大に有利である。
そのため、本発明の菌株は、より低いコストで簡単に5-アミノレブリン酸を製造することができる。
また、当業者は、本発明の菌株は、5-アミノレブリン酸の生産だけでなく、5-アミノレブリン酸を前駆体として用いる様々な下流産物の生産にも使用することができることがわかる。具体的な実施形態において、前記下流産物は、ALAを前駆体とするヘムまたはビタミンB12である。
【0037】
また、本発明は、5-アミノレブリン酸生産菌株の構築方法であって、前記5-アミノレブリン酸生産菌株におけるオキサロ酢酸合成を促進する関連酵素の活性を増強し、またはオキサロ酢酸合成を促進する外来性の関連酵素を導入し、かつ/あるいは前記5-アミノレブリン酸生産菌株におけるスクシニルCoAの下流代謝経路の関連酵素の活性を減弱する方法を提供する。好適的な実施形態において、前記オキサロ酢酸合成を促進する関連酵素はホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼまたはピルビン酸カルボキシラーゼで、前記スクシニルCoAの下流代謝経路の関連酵素はスクシニルCoAシンテターゼまたはコハク酸デヒドロゲナーゼである。
【0038】
好適な実施形態において、前記5-アミノレブリン酸生産菌株におけるオキサロ酢酸合成を促進する関連酵素の活性を増強することは、ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼの活性を増強する方法、および/またはピルビン酸カルボキシラーゼの活性を増強する方法、あるいはこれらの方法の組み合わせによって実現する。
【0039】
さらに好適な実施形態において、前記5-アミノレブリン酸生産菌株におけるホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼもしくははピルビン酸カルボキシラーゼの活性を増強することは、非相同のホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼもしくははピルビン酸カルボキシラーゼのコード遺伝子を発現させる方法、および/または前記菌株における前記コード遺伝子のコピー数を増加する方法、および/または前記コード遺伝子のプロモーターを改造して転写開始速度を向上させる方法、および/または前記コード遺伝子を持つ伝令RNAの翻訳調節領域を修飾して翻訳強度を向上させる方法、あるいはこれらの方法の組み合わせによって実現することができる。
【0040】
もう一つの好適な実施形態において、前記減弱は、前記スクシニルCoAの下流代謝経路の関連酵素を欠失せることを含む。さらに好適な実施形態において、前記スクシニルCoAの下流代謝経路の関連酵素はスクシニルCoAシンテターゼまたはコハク酸デヒドロゲナーゼである。
好適な実施形態において、前記5-アミノレブリン酸生産菌株におけるスクシニルCoAの下流代謝経路の関連酵素の活性を減弱することは、スクシニルCoAシンテターゼもしくはコハク酸デヒドロゲナーゼのコード遺伝子の一部もしくは全部を欠損させる方法、遺伝子を突然変異によって不活性化させるか部分的に不活性化させる方法、遺伝子のプロモーターもしくは翻訳調節領域を変化させて転写もしくは翻訳を減弱する方法、遺伝子配列を変化させてmRNAもしくは酵素構造の安定性を低下させる方法など、あるいはこれらの方法の組み合わせによって実現することができる。
【0041】
もう一つの好適な実施形態において、前記方法は、さらに、前記5-アミノレブリン酸生産菌株における5-アミノレブリン酸の合成経路を増強し、あるいは5-アミノレブリン酸の外来性の合成経路を導入することを含む。そのため、具体的な実施形態において、前記方法は、前記5-アミノレブリン酸生産菌株における5-アミノレブリン酸の合成経路を増強し、または5-アミノレブリン酸の外来性の合成経路を含み、オキサロ酢酸合成を促進する関連酵素の活性を増強し、またはオキサロ酢酸合成を促進する外来性の関連酵素を含み、かつ/あるいは前記スクシニルCoAの下流代謝経路の関連酵素の活性を減弱することを含む。
好適な実施形態において、前記方法は、前記5-アミノレブリン酸生産菌株における5-アミノレブリン酸合成酵素の活性を増強し、あるいは外来性の5-アミノレブリン酸合成酵素を導入し、ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼを増強し、かつコハク酸デヒドロゲナーゼを欠損させることを含む。
【0042】
もう一つの具体的な実施形態において、本発明の方法は、さらに、5-アミノレブリン酸生産菌株におけるホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼおよび/またはリンゴ酸酵素の活性を減弱することを含む。
好適な実施形態において、前記ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼおよび/またはリンゴ酸酵素の活性を減弱することは、ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼおよび/またはリンゴ酸酵素の遺伝子を欠損させることによって実現する。
さらに好適な実施形態において、前記方法は、さらに、得られる菌株における5-アミノレブリン酸の生産量を測定することを含む。
【0043】
もう一つの好適な実施形態において、前記方法によって得られる5-アミノレブリン酸生産菌株は、好気条件において、コハク酸を外来的に添加することなく、高レベルで5-アミノレブリン酸を生産することができる。
また、本発明の指導および既存技術に基づき、当業者は、本発明では出発菌株におけるオキサロ酢酸合成を促進する関連酵素の活性を増強し、またはオキサロ酢酸合成を促進する外来性の関連酵素を導入する方法、および/または前記出発菌株におけるスクシニルCoAの下流代謝経路の関連酵素の活性を減弱する方法、および/またはホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼおよび/またはリンゴ酸酵素の活性を減弱する方法によって、前記菌株の5-アミノレブリン酸を生産する能力を向上させることがわかる。そのため、以上の手段またはそのうちの任意の二つまたは三つの組み合わせで菌株を構築または改造することによって5-アミノレブリン酸の生産量を向上させる方法あるいはこの方法によって得られる菌株であれば、本発明の保護範囲に含まれ、本発明の保護範囲は実施例で使用される具体的な方法および得られる菌株に限定されない。
【0044】
本発明の方法および得られる菌株に基づき、本発明は、さらに、5-アミノレブリン酸を生産する方法であって、1)本発明の菌株を培養し、5-アミノレブリン酸を得ること、および2)1)の発酵培養システムから5-アミノレブリン酸を得ること、を含む方法を提供する。
好適な実施形態において、前記方法によって得られる5-アミノレブリン酸の生産量は、7 g/Lよりも高い。もう一つの好適な実施形態において、前記方法は、別途にコハク酸を添加せず、かつ/またはブドウ糖だけを炭素源として使用する。
また、本発明の指導および既存技術に基づき、当業者は、5-アミノレブリン酸の生産菌株の培養システムにスクシニルCoAの下流代謝経路の関連酵素の阻害剤を添加することによってもこと5-アミノレブリン酸の生産量をこうじょうさせることができることがわかる。具体的な実施形態において、前記スクシニルCoAの下流代謝経路の関連酵素はスクシニルCoAシンテターゼまたはコハク酸デヒドロゲナーゼである。
【0045】
本発明の利点
1.本発明の菌株は、糖の転化率を向上させ、ALAの合成に必要な基質の一つであるスクシニルCoAの合成を増加することで、ALAの生産量を向上させる。
2.本発明の菌株によってALAを製造する場合、前駆体であるコハク酸を外来的に添加する必要がなく、生産過程では、基質であるコハク酸の添加に対する依存、および高価の培地、例えばLBの使用がなくなり、生産コストを大幅に低下させる。
【0046】
以下、具体的な実施例によって、さらに本発明を説明する。これらの実施例は本発明を説明するために用いられるものだけで、本発明の範囲の制限にはならないと理解されるものである。下述実施例で具体的な条件が示されていない実験方法は、通常、例えばSambrookら、「モレキュラー・クローニング:研究室マニュアル」(ニューヨーク、コールド・スプリング・ハーバー研究所出版社、1989) に記載の条件などの通常の条件に、或いは、メーカーが奨励する条件に従う。
【0047】
材料および方法
本発明の実施例で使用されたDNAポリメラーゼは、北京TransGen Biotech社から購入されたFastpfuで、制限酵素およびDNAリガーゼなどは、いずれもFermentas社から購入された。
酵母粉末およびペプトンは、英国Oxoid社から、グリシンおよびIPTGは、Promega社から、5-ALAおよびp-ジメチルアミノベンズアルデヒドなどは、Sigma社から、寒天粉および抗生物質は北京Solarbio社から、ブドウ糖、氷酢酸、過塩素酸、トリクロロ酢酸、アセチルアセトン、クロロホルムおよびほかの通常の化学試薬はいずれもSinopahrm社から購入された。
【0048】
プラスミド抽出キットおよびアガロースゲル電気泳動回収キットは上海Sangon Biotech社から購入され、関連操作はすべて厳格に説明書に従って行われた。
プラスミド構築のシークエンシング検証はBGI社によって行われた。
DH5α感受性細胞は、北京TransGen Biotech社から購入された。
LB培地の成分:酵母粉末5 g/L、ペプトン10 g/L、NaCl 10 g/L、固体培地に2%の寒天粉を添加した。
抗生物質の濃度は、アンピシリン100 μg/mL、カナマイシン30 μg/mL。
【0049】
ALAの検出方法:200 μLの希釈した発酵液に100 μLのpH 4.6の酢酸ナトリウム緩衝液を入れた後、5 μLのアセチルアセトンを入れ、100℃の水浴で15 minインキュベートし、室温に冷却した後、等体積のEhrlish's試薬(42 mL氷酢酸、8 mL 70%過塩素酸、1 gジメチルアミノベンズアルデヒド)を入れて均一に混合し、10 min呈色させた後、波長553 nmにおける吸光度を測定する。
ブドウ糖の分析方法は、山東科学院によって生産されたSBA-40Dバイオセンサー分析装置を使用して検出した。
【0050】
実施例1.スクシニルCoAシンテターゼ欠損変異株およびコハク酸デヒドロゲナーゼ欠損変異株の構築
大腸菌の遺伝子ノックアウトは代表的なRed組換え方法を使用し、関連文献を参照して行い、具体的な操作は以下の通りである。スクシニルCoAシンテターゼの構造遺伝子であるsucCD遺伝子のノックアウトは、まず、NCBIで公開された大腸菌MG1655のゲノム配列および補助ベクターpKD13の配列によってプライマーsucCD-1およびsucCD-2を設計し、具体的な配列はプライマー配列表を参照し、pKD13を鋳型として増幅し、sucCD遺伝子の上下流にホモロジーアームを持つKan耐性遺伝子断片を得た。PCR増幅のパラメーターは、94℃ 2 min;94℃ 20 s,64℃ 20 s,72℃ 1 min,30サイクル;72℃で5 min伸長である。PCR産物のゲルを回収した後、MG1655/pKD46菌株を電気的形質転換し、感受性細胞の調製および形質転換の過程は、J. Sambrookら編の「モレキュラー・クローニング:研究室マニュアル」を参照した。形質転換体はsucCD-3およびsucCD-4のプライマーでPCRを行って検証し、野生型菌株の断片の大きさは2267 bpで、sucCD遺伝子欠損菌株における目標バンドの大きさは1558 bpで、バンドの大きさによってsucCD欠損変異株を選別してZPEcA1とした。
【0051】
sdhABのノックアウトは、まず、NCBIで公開された大腸菌MG1655のゲノム配列および補助ベクターpKD13の配列によってプライマーsdhAB-1およびsdhAB-2を設計し、pKD13を鋳型として増幅し、sdhAD遺伝子の上下流にホモロジーアームを持つKan耐性遺伝子断片を得た。PCR増幅のパラメーターは、94℃ 2 min;94℃ 20 s,64℃ 20 s,72℃ 1 min,30サイクル;72℃で5 min伸長である。PCR産物のゲルを回収した後、MG1655/pKD46菌株を電気的形質転換し、感受性細胞の調製および形質転換の過程は、J. Sambrookら編の「モレキュラー・クローニング:研究室マニュアル」を参照した。形質転換体はsdhAB-3およびsdhAB-4のプライマーでPCRを行って検証し、野生型菌株の断片の大きさは2553 bpで、sucCD遺伝子欠損菌株における目標バンドの大きさは1408 bpで、バンドの大きさによってsdhAB欠損変異株を選別してZPEcA2とした。
【0052】
実施例2.ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼppcおよびALA合成酵素共発現プラスミドの構築
NCBIで公開された大腸菌MG1655のゲノム配列によってプライマーppc-Fおよびppc-Rを設計し、大腸菌MG1655のゲノムを鋳型としてPCR増幅し、自身のプロモーターを持つppc遺伝子断片を得た。PCR増幅のパラメーターは、94℃ 2 min;94℃ 20 s,60℃ 20 s,72℃ 1.5 min,30サイクル;72℃で5 min伸長である。ppc遺伝子断片を回収した後、HindIIIで処理し、同時にALA合成酵素を持つプラスミドpZGA24(pZGA24の構築は、参照文献:郭小飛ら、5-アミノレブリン酸デヒドラターゼ欠損の組換え大腸菌による5-アミノレブリン酸の合成,天津科技大学学報,2012, 27(4):1-6を参照)も同酵素で処理し、ベクターおよび断片を回収した後、T4リガーゼで連結し、DH5α感受性細胞を形質転換し、Amp含有LBプレートに塗布し、陽性クローンを選び出してプラスミドを抽出し、かつ酵素切断によって検証し、シークエンシングが正しい組換えプラスミドをpZPA6とした。
【0053】
実施例3.ピルビン酸カルボキシラーゼpycおよびALA合成酵素共発現プラスミドの構築
BioBrickにおけるプロモーターBBa_J23105の配列およびNCBIで公開された根粒菌CFN42のゲノム配列によってプライマーpyc-1およびpyc-2を設計し、根粒菌CFN42のゲノムを鋳型としてPCR増幅し、構成型プロモーター配列を持つpyc遺伝子断片を得た。PCR増幅のパラメーターは、94℃ 2 min;94℃ 20 s,60℃ 20 s,72℃ 2 min,30サイクル;72℃で5 min伸長である。目標断片を回収した後、ホスファターゼで処理し、同時にpWSK29ベクター用制限酵素PvuIIで処理した後、ホスファターゼを除去し、得られたベクター断片とリン酸化pyc遺伝子断片をT4リガーゼで連結し、DH5α感受性細胞を形質転換し、Amp含有LBプレートに塗布し、陽性クローンを選び出してプラスミドを抽出し、かつ酵素切断によって検証し、シークエンシングが正しい組換えプラスミドをpSLS33とした。
【0054】
上記pSLS33の配列によってプライマーpyc-Fおよびpyc-Rを設計し、具体的な配列はプライマー配列表を参照し、pSLS33を鋳型としてPCR増幅し、構成型プロモーターを持つpyc遺伝子断片を得た。PCR増幅のパラメーターは、94℃ 2 min;94℃ 20 s,60℃ 20 s,72℃ 2 min,30サイクル;72℃で5 min伸長である。同時に、pZGA24ベクターの配列によってpA-1およびpA-2を設計し、pZGA24を鋳型としてインバースPCRで、ALA合成酵素遺伝子を含有するpTrc-hemAベクターを増幅した。PCR増幅のパラメーターは、94℃ 2 min;94℃ 20 s,60℃ 20 s,72℃ 3 min,30サイクル;72℃で5 min伸長である。pyc遺伝子断片を回収した後、制限エンドヌクレアーゼで消化し、T4リガーゼでインバースPCRで増幅して精製したpZGA24ベクターに連結し、連結産物でDH5α感受性細胞を形質転換し、Amp含有LBプレートに塗布し、陽性クローンを選び出してプラスミドを抽出し、かつ酵素切断によって検証し、シークエンシングが正しい組換えプラスミドをpZPA7とした。
【0055】
【表1】
【0056】
実施例4.組換え菌株の構築およびALA生産量の比較
上記で構築された組換えプラスミドpZGA24、pZPA6和pZPA7でそれぞれ野生型大腸菌MG1655およびsucCD欠損変異株ZPEcA1とsdhAB欠損変異株ZPEcA2を形質転換し、Amp耐性LBプレートに塗布し、一晩培養した後、陽性クローンを選び出してプラスミドを抽出し、検証し、それぞれ組換え菌株MG1655/pZGA24、ZPEcA1/pZGA24、ZPEcA2/pZGA24、MG1655/pZPA6、ZPEcA1/pZPA6、ZPEcA2/pZPA6、MG1655/pZPA7、ZPEcA1/pZPA7およびZPEcA2/pZPA7を得た。
【0057】
上記組換え菌の単一コロニーをそれぞれ5 mLの100 μg/mLアンピシリン含有LB液体培地に接種し、37℃、220 rpmで12 h培養した。初期ODが0.05となるように50 mLの発酵培地を入れた250 mL三角フラスコに移し、37℃、220 rpmで2.5 h培養した後、最終濃度が25 μMとなるようにIPTGを入れ、19 h誘導培養した後、醗酵液を収集し、ALAの濃度を検出した。中では、発酵培地は、酵母粉末を少量に添加したM9培地で、主な成分はNa2HPO4・12H2O 12.8 g/L、KH2PO4 3.0 g/L、NaCl 0.5 g/L、NH4Cl 1.0 g/L、MgSO4 2 mM、CaCl2 0.1mM、ブドウ糖10 g/L、酵母粉末2 g/L、グリシン4 g/Lで、アンピシリン濃度が100 μg/mLである。ALAの検出およびブドウ糖の分析方法は、「材料および方法」の部分の通りである。
【0058】
各組換え菌のALA生産量の結果を表2に示し、コントロール菌株MG1655/pZGA24におけるALAの生産量が1.06 g/Lだけで、sucCDまたはsdhAB欠損のZPEcA1/pZGA24およびZPEcA2/pZGA24菌株におけるALAの生産量がそれぞれ1.33 g/Lおよび1.45 g/Lで、それぞれ出発菌株に比べて25%および37%向上し、大腸菌においてスクシニルCoAシンテターゼまたはコハク酸デヒドロゲナーゼの一部または全部の活性が欠損すると、ALAの生産量が向上することが示された。ppcを発現するMG1655/pZPA6菌株およびpycを発現するMG1655/pZPA7菌株におけるALAの生産量はそれぞれ2.52 g/Lおよび2 g/Lに達し、それぞれ出発菌株の2.38倍および1.89倍で、結果からオキサロ酢酸合成を促進する関連酵素の活性を増強すると、ALAの生産量が向上することがわかる。
【0059】
また、sucCDまたはsdhAB欠損でかつppcまたはpyc過剰発現のZPEcA1/pZPA6、ZPEcA2/pZPA6、ZPEcA1/pZPA7和ZPEcA2/pZPA7菌株におけるALAの生産量はそれぞれ2.43 g/L、3.08 g/L、2.12 g/Lおよび2.66 g/Lに達し、いずれも相応のコントロール菌株よりも高く、sucCDまたはsdhAB欠損とppcまたはpycの過剰発現はある程度の相乗効果があり、ALAの生物合成を促進することが示された。なかでも、sdhAB欠損でかつppcを発現するZPEcA2/pZPA6菌株におけるALAの生産量は最も高く、コントロール菌株MG1655/pZGA24の2.91倍で、ブドウ糖転化率も最高の0.47(モル比)に達し、出発菌株の2.57倍である。本発明の菌株を使用して発酵タンクの発酵を行う場合、ALAの生産量が7 g/L以上になり、国内の良いレベルに達した。上記実験結果から、大腸菌において外来ALA合成酵素の発現に加え、スクシニルCoAシンテターゼまたはコハク酸デヒドロゲナーゼの一部または全部の活性を欠損させ、同時にオキサロ酢酸合成を促進する関連酵素の発現を増強すると、ALAの生産量を大幅に向上させることができることが示された。
【0060】
上記組換え菌株MG1655/pZPA6およびZPEcA2/pZPA6菌株は、既に2012年9月19日に中国微生物菌種保蔵管理委員会普通微生物センター、北京市朝よう区北辰西路1号院3号に寄託され、寄託番号はそれぞれCGMCC No.6588およびCGMCC No.6589である。
【表2】
【0061】
実施例5.BW25113菌株における重複検証
組換え菌株の構築:上記プラスミドpZGA24、pZPA6およびpZPA7でそれぞれ大腸菌BW25113(コントロールである菌株BW25113はCGSC (米国イェール大学大腸菌保蔵センター)から)および相応のsucC欠損変異株JW0717(スクシニルCoAシンテターゼβサブユニット(sucC)欠損)のJW0717菌株とsdhA欠損変異株JW0713 (JW0717とJW0713はいずれもKeio Collection大腸菌単一遺伝子欠損菌株ライブラリー,National BioResource Project E. coli, Microbial Genetics Laboratory, National Institute of Genetics 1111 Yata, Mishima, Shizuoka, 411-8540 Japan)を形質転換し、Amp耐性LBプレートに塗布し、一晩培養した後、陽性クローンを選び出してプラスミドを抽出し、検証し、それぞれ組換え菌株BW25113/pZGA24、JW0717/pZGA24、JW0713/pZGA24、BW25113/pZPA6、JW0717/pZPA6、JW0713/pZPA6、BW25113/pZPA7、JW0717/pZPA7およびJW0713/pZPA7を得た。
【0062】
各組換えの振とう発酵およびALAとブドウ糖の検出方法は前記と同様で、結果を表3に示し、表から、各組換え菌と相応のMG1655組換え菌の生産量および変化はほぼ一致し、生産量が最も高いのはsdhA欠損でかつppcを発現するJW0713/pZPA7菌株で、ALA生産量が3.21 g/Lで、ブドウ糖転化率が0.56(モル比)に達したことがわかり、本発明によって提供される方法は大腸菌のほかの菌株にも適用できることが示された。
【表3】
【0063】
実験結果から、本発明によって提供される方法を使用し、ブドウ糖を主な炭素源とする培地において振とう発酵すると、組換え菌におけるALA生産量が3.08 g/Lで、単位菌体あたりのALA生産量が0.76 g/L/ODで、それぞれ出発菌株の2.91倍と2.59倍で、ブドウ糖転化率が0.47(mol/mol)で、出発菌株の2.57倍であったことが示された。本発明によって提供される方法を使用して構築した組換え菌およびそれでALAを生産する方法では、コハク酸の添加に対する依存、および高価のLB培地の使用がなくなり、良い工業応用の将来性および経済的価値がある。
【0064】
実施例6.ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼおよびリンゴ酸酵素の活性が増強した組換え菌株の構築およびALA生産量の比較
発明者は、実施例1-5の記載と類似の方法でホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ(コード遺伝子pck)およびリンゴ酸酵素(コード遺伝子maeB)の活性が増強した組換え菌株を構築し、かつこれらのALA生産量を検出した。
まず、実施例2と類似の方法によって、表4に示すプライマーで大腸菌MG1655のホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼのコード遺伝子pckをクローンし、かつpZGA24ベクターに連結し、得られた組換えプラスミドをpZPA12とした。
【0065】
次に、NCBIで公開された大腸菌MG1655のゲノム配列によって表4に示すプライマーmaeB-FおよびmaeB-Rを設計し、大腸菌MG1655のゲノムを鋳型としてPCR増幅し、リンゴ酸脱水素酵素のコード遺伝子maeBを得た。目標断片をT4ポリヌクレオチドキナーゼでリン酸化処理した後、上記インバース増幅で得られたpZGA24ベクター断片と連結した。形質転換、酵素切断および検証を経てシークエンシングが正しい組換えベクターをpZPA14とした。
【表4】
【0066】
実施例4と類似の方法を使用し、上記で構築した組換えプラスミドpZPA12およびpZPA14でそれぞれ野生型大腸菌MG1655を形質転換し、組換え菌株MG1655/pZPA12およびMG1655/pZPA14を得た。さらに、実施例4と類似の方法を使用し、各組換え菌のALA生産量を検出し、結果を下記表6に示す。
【表6】
【0067】
上記表から、PCKおよびMaeBを発現する工学菌株MG1655/pZPA12およびMG1655/pZPA14のALA生産量がそれぞれコントロール菌株MG1655/pZGA24に比べて46%および17%低下したことがわかる。ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼpckの活性の増強は菌株のALA生産量を向上させる技術効果がない。
【0068】
実施例7.pckまたはmaeB遺伝子のノックアウトのALA生産量に対する影響
実施例9の結果に基づき、本発明者は、さらにpckまたはmaeB遺伝子の欠損のALA合成に対する影響を研究した。
ALASおよびPPCの共発現ベクターpZPA6をそれぞれKelio Collection(National BioResource Project E. coli, Microbial Genetics Laboratory, National Institute of Genetics 1111 Yata, Mishima, Shizuoka, 411-8540 Japan)からの単一遺伝子欠損菌株JW3366 (pck遺伝子欠損菌株)およびJW2447 (maeB遺伝子欠損菌株)に導入し、検証によって正しい工学菌株JW3366/pZPA6およびJW2447/pZPA6を得た。実施例5で得られたBW25113/pZPA6をコントロールとし、最初15 g/Lブドウ糖および4 g/Lグリシンを添加した発酵培地に発酵し、上記組換え菌株のALAを生産する能力を検証した。発酵過程において、12 h培養した後、5 g/Lブドウ糖および2 g/Lグリシンを追加した。発酵結果を下記表7に示し、25 h発酵した後、JW3366/pZPA6のALA生産量が4.84 g/Lで、糖転化率が0.51 mol/molで、それぞれコントロール菌株BW25113/pZPA6に比べて29%および20.8%向上した。一方、JW2447/pZPA6のALA生産量がやや低下したが、転化率が7.8%向上した。
【0069】
この結果から、pckまたはmaeB遺伝子の欠損はALAの蓄積に有利で、特にpck遺伝子のノックアウトはALAの蓄積および糖転化率の向上にさらに有利であることが示された。
【表7】
【0070】
実施例8.コリネバクテリウム・グルタミクムの発現ベクターの構築および発酵検証
NCBIで公開されたロドシュードモナス・パルストリス(Rhodopseudomonas palustris)ATCC 17001のALA合成酵素のコード遺伝子配列(GenBank: JQ048720.1)によって、プライマーhemA-F (プライマー配列:GGCGAATTCAAGGAGATATAGATATGAATTACGAAGCCTATTTCCGCCGT;SEQ ID NO: 21)およびhemA-R (プライマー配列:TATACCCCGGGTCAGGCCGCCTTGGCGAGAC;SEQ ID NO: 22)を設計した。pZGA24ベクター(pZGA24の構築は、参照文献:郭小飛ら、天津科技大学学報,2012, 27(4):1-6を参照)を鋳型としてPCRで目標遺伝子hemAを増幅した。PCR増幅システムにおいて、PCR増幅のパラメーターは、94℃ 10 min;94℃ 20 s,65℃ 30 s,72℃ 40 s,30サイクル;72℃で5 min伸長である。目標断片をEcoRIおよびSmaIで二重酵素切断した後、DNAリガーゼで得られた断片を同じ酵素切断処理したプラスミドpEC-XK99Eと連結し、かつ連結産物でDH5α感受性細胞を形質転換し、カナマイシン耐性プレートに塗布して一晩培養し、陽性クローンを選び出してコロニーのPCR検証を行い、正しい形質転換体をシークエンシングによって検証し、正しい組換えベクターをpZWA1とした(図4)。
【0071】
次に、NCBIで公開されたコリネバクテリウム・グルタミクム(Corynebacterium glutamicum) ATCC 13032のホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼのコード遺伝子ppcの配列(GenBank: BA000036.3)によって、プライマーCg-ppc-F (ATACCCCGGGAAGGAGATATAGATATGACTGATTTTTTACGCGATGAC;SEQ ID NO: 23)およびCg-ppc-R(GCTCTAGACTAGCCGGAGTTGCGCAGCGCAGT;SEQ ID NO: 24)を設計した。ATCC 13032のゲノムを鋳型としてPCRで増幅し、目標遺伝子を得た。PCR増幅システムにおいて、PCR増幅のパラメーターは、94℃ 10 min;94℃ 20 s,65℃ 30 s,72℃ 2 min,30サイクル;72℃で5 min伸長である。目標断片をSmaIおよびXbaIで二重酵素切断した後、DNAリガーゼで得られた断片を同じ酵素切断処理したpZWA1ベクターと連結し、かつ連結産物でDH5α感受性細胞を形質転換し、カナマイシン耐性プレートに塗布して一晩培養し、陽性クローンを選び出してコロニーのPCR検証を行い、正しい形質転換体をシークエンシングによって検証し、正しい組換えベクターをpZWA2とした(図4)。
【0072】
上記組換えベクターpZWA1とpZWA2およびコントロールのブランクベクターpEC-XK99Eでそれぞれコリネバクテリウム・グルタミクムATCC 13032を形質転換し、組換え菌株ATCC13032/pEC-XK99E、ATCC13032/ pZWA1およびATCC13032/pZWA2を得た。
上記組換え菌の単一コロニーをそれぞれ10 mLの25 μg/mLカナマイシンおよび24 g/Lブドウ糖を含有するLB液体培地に接種し、30℃、200 rpmで12 h培養した。初期ODが0.3となるように50 mLの発酵培地を入れた500 mL三角フラスコに移し、30℃、200 rpmで3 h培養した後、最終濃度が100 μMとなるようにIPTGを入れ、32 h誘導培養した後、醗酵液を収集し、ALAの濃度を検出した。なかでは、振とう発酵培地の配合は、Glu 50 g/L、(NH4)2SO4 10 g/L、MnSO4 1 g/L、K2HPO4 1.5 g/L、MgSO4 0.6 g/L、コーンスティープリカー1 g/L、グリシン 4 g/L、MOPS 31.395 g/Lで、pHを7.0とした。カナマイシンの最終濃度は25 μg/mLであった。ALAの検出およびブドウ糖の分析方法は、「材料および方法」の部分の通りである。
【0073】
振とう発酵の結果を表8に示し、外来のALA合成酵素だけを発現するATCC13032/pZWA1菌株におけるALA生産量が1.31 g/Lで、ブドウ糖モル転化率が0.052であった。一方、菌株ATCC13032/pZWA2におけるALA生産量およびブドウ糖モル転化率がそれぞれ1.95 g/Lおよび0.077に達し、いずれもATCC13032/pZWA1菌株に比べて48%向上し、効果が顕著であった。そのため、本発明によって提供されるALA生産菌株の改造方法は、コリネバクテリウム・グルタミクムなどの発酵工業の通常の微生物にも適用できる。
【表8】
【0074】
検討
本発明者は、5-アミノレブリン酸の合成経路に基づき、ALAを生産する組換え微生物を目的とし、理性的設計で宿主菌の糖代謝経路を改造したところ、オキサロ酢酸合成を促進する関連酵素の活性はブドウ糖の転化率およびALAの生産量を顕著に向上させることが示された。具体的に、本発明は、ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼまたはピルビン酸カルボキシラーゼを発現してオキサロ酢酸の補充を増強することによって、ALAの生産量およびブドウ糖の転化率を大幅に向上させる。
また、本発明者は、スクシニルCoAの下流代謝経路の関連酵素、すなわち、スクシニルCoAシンテターゼおよびコハク酸デヒドロゲナーゼの活性を低下させることによっても、類似の技術効果を果たすことができることを見出した。生物学の常識によれば、多サブユニット酵素は、各サブユニットが密接に協力してこそ完全の生物学機能を果たすため、任意の一つのサブユニットの配列または構造の変化、発現レベルの変化でも酵素全体の活性に影響するかもしれない。
【0075】
スクシニルCoAシンテターゼおよびコハク酸デヒドロゲナーゼはいずれも多サブユニット酵素で、スクシニルCoAシンテターゼは二つのサブユニットを含み、それぞれsucC、sucDによってコードされ、コハク酸デヒドロゲナーゼは四つのサブユニットを含み、それぞれsdhA、sdhB、sdhCおよびsdhDによってコードされる。実施例4および5によって、発明者は、sucCおよびsucD、sucC、sdhAおよびsdhB、sdhAの遺伝子欠損は相応の酵素を不活性化させ、ALAの合成に有利であることを実証した。生物学の常識から、この二つの酵素の活性を弱めるほかの遺伝修飾あるいはほかの方法、例えばスクシニルCoAシンテターゼまたはコハク酸デヒドロゲナーゼの阻害剤を外来的に添加することによる両者の活性の抑制または低下も、ALAの生物合成に有利であることが推測される。
【0076】
以上の2種類の改造策略を合わせると、さらに大幅にブドウ糖の転化率およびALAの生産量を向上させ、ALA合成酵素を発現するだけのコントロール菌株と比べ、改造後の菌株のALAの生産量およびブドウ糖の転化率がそれぞれ1.91倍和1.57倍向上し、そして本発明の菌株で発酵タンク発酵を行う場合、ALAの生産量が7 g/L以上になり、良いレベルに達する。また、本発明の改造方法は、コリネバクテリウム・グルタミクムなどの発酵工業の通常の微生物にも適用でき、優れた汎用性を有する。
そのため、本発明によって提供される菌株および方法は、ALAの生産量およびブドウ糖の転化率を顕著に向上させ、従来のALAの合成におけるコハク酸の添加に対する依存、および高価で複雑な培地、例えばLB培地の使用がなくなり、生産コストを大幅に低下させ、良い工業化の将来性がある。
【0077】
発明者は、最初に、ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼの活性を増強することによっても、オキサロ酢酸の合成を増加し、ALA合成に必要な前駆体の量を増加し、ALAの生産量を向上させる作用を果たすことも予想した。しかしながら、具体的な実験では、ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼの活性を増強しても、予想した技術効果が得られないことが証明された。同様に、発明者は、リンゴ酸酵素の活性を増強しても、ALA生産量の向上が実現できないことも見出した。発明者は、さらなる研究によって、ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼおよびリンゴ酸酵素の活性を弱めることによって、逆にALA生産量を顕著に向上させることができることを意外に見出した。具体的に、ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼの欠損は、ALAの生産量およびブドウ糖の転化率を大幅に向上させ、リンゴ酸酵素の欠損もブドウ糖の転化率の向上に有利である。
【0078】
各文献がそれぞれ単独に引用されるように、本発明に係るすべての文献は本出願で参考として引用する。また、本発明の上記の内容を読み終わった後、この分野の技術者が本発明を各種の変動や修正をすることができるが、それらの等価の様態のものは本発明の請求の範囲に含まれることが理解されるはずである。
図1
図2
図3
図4
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]