【実施例1】
【0011】
図1は本発明で採用するセンサとしての3軸加速度センサを取り付けた骨切りガイドの正面(平面)図及び側面図、
図2は調整機構の説明図、
図3は骨切りスリット冶具の斜視図である。骨切り手術システム11は、3軸加速度センサ141が搭載されて基準面143を有して骨切りガイドが取り付けられる可動金具14と可動金具14に連係して遠位端に固定される固定金具12とからなり、可動金具14にはボーンソーを案内する不図示の骨切りスリット冶具15が形成されているとともに、可動金具14の方位を固定金具12に対して調整する2軸の調整機構13や方位合わせ等を計算するプロセッサ142を有している。本実施例では、3軸加速度センサ141を採用しており、それは単一のパッケージで互いに直交するX 、Y、 Z軸方向に沿った成分の加速度を検出できる加速度センサとなっている。加速度センサは、物体にかかる加速度を検知するものであるが、地上の物体には重力が働いているため、静止時には重力の反対方向に大きさ1G(Gは重力加速度)に対応した電圧の出力を持つ特徴がある。
図5に、3軸加速度センサのZ軸が重力の方向に平行である時の図を示す。なお、ここでは3軸加速度センサのZ軸が鉛直上方を、X軸とY軸が水平面内を向いて静置された場合に、(X,Y,Z)=(0,0,1)(1は1Gを表す)と出力するセンサを用いており、一般的な3軸加速度センサの出力方式に倣った。図6に、この加速度センサが重力に対して任意の向きの時の図を示す。図6左は重力を基準とした表現であり、図6右は加速度センサの座標系基準で表現したものである。3軸加速度センサの姿勢に応じてその出力のX成分、Y成分、Z成分は変化するが、その姿勢で静置される場合に3軸加速度センサが感じる力は不変の重力であるから、出力(X,Y,Z)のベクトルの大きさは常に1(1は1Gを表す)である。なお、加速度センサ141としては、単一のパッケージで互いに直交する3軸方向の加速度を検出するものであってもよいし、1軸のみの加速度センサを3個互いに直交する向きに組み合わせてもよく、いずれも小型のキットとなって(一例で4mm×4mm×1.5mm程度の大きさ)市販されているから、それを使用すればよい。もちろん、単一のパッケージで3軸の加速度を検出できるものの方が小型化には有利であり、本発明でもこれを使用している。3軸加速度センサ141としては、例えば、アナログ・デバイセズ社のADXL3277Z 等が好適である。
【0012】
加速度センサを使った理由は、重力の絶対的方向は常に不変であり、任意の姿勢においても絶対的な基準方位を知るものとして利用できるためである。絶対的な基準方位を知る方法には、他に、方位磁針等もあるが、方位磁針は周囲に電子機器等があると狂いやすく一定方位を保ち難い欠点がある、その点、電気・磁気的な外乱を受け難い加速度センサで重力を絶対的な基準に用いるのは好適である。
【0013】
図1では、座標系144に示すような方向に3軸加速度センサ141の座標系の
X 軸、
Y軸、Z軸が向くように設置する。すなわち、骨切りスリット冶具15におけるスリット151のカットラインの長手方向がX 軸、奥行方向がY軸、そして、短手方向がZ軸である。
なお、図1ではこのように定義されたZ軸に対して、図面上、これと同じ方向に大腿骨16の機能軸162が描かれているが、これは本発明のガイドシステムの調整が完了した状態を簡便に表しており、手術の初期状態に置いては機能軸162はZ軸とは合致していない。
【0014】
本発明を実施して骨切りスリット冶具15のスリット151のカットラインが大腿骨16の機能軸162に直角になるように位置合わせをする方法は以下のとおりである。
まず、大腿骨16の遠位端161に、本発明の骨切りガイドの固定金具12を固定する。骨切りガイドは固定金具12が2軸の角度調整機構13を介して可動金具14と連結されている。可動金具14には前述の3軸加速度センサ141が、そのX 軸とY軸が、可動金具14の基準面143と平行になるよう、骨切りガイドの製造時において精密に位置決めされて予め取り付けられているものとする。なお、3軸加速度センサ141は、不図示の電源により給電され稼働するものとする。
【0015】
このとき、大腿骨16に対して固定金具12が取り付けられる姿勢は、
大腿骨16の機能軸に対して可動金具14上にある3軸加速度センサ141のZ軸の向きが概ね近い方向を向くものの同一ではなく、10°程度の範囲で不定であり、これに伴って、角度調整機構13も何ら操作されていないのであるから、大腿骨16の機能軸162に対して、可動金具14上にある3軸加速度センサ141のZ軸の向き
が何度の角度でどのようにずれているのかは、全く判別不能である。
図7にこの状態を示す。図7左は重力を基準とした表現であり、図7右は3軸加速度センサの座標系基準で表現したものである。重力に対して回転軸すなわち大腿骨16の機能軸162は方位不明であり、かつ3軸加速度センサ141のZ軸も冶具を組み付けた初期状態では回転軸と合致せず方位不明である。
【0016】
ここで、大腿骨16を、水平ないしは20〜30°程度の任意の傾斜角度にする。この傾斜角度は、以後の操作で一定に維持できればよく、測定をする必要はない。傾斜角度は任意で良いが、本発明の方法は、大腿骨が垂直に立っていると最も精度が悪く実施できないので、可能であれば大腿骨がより水平になるのが好ましい。実際には、患者は寝かせてあることが多いので、大腿骨の鉛直面内における傾斜角度は通常ほぼ水平か水平に近い傾斜になっているのが通常である。膝下はそのまま下に向けておいてよい。
【0017】
大腿骨16の角度を決めたら、正面視(平面視)で脛骨を下方に向ける基準姿勢(第1の姿勢とする)で大腿骨16の動きを止め、3軸加速度センサ141の出力値を取得する。この時のセンサのX軸、Y軸、Z軸の出力を(X1,Y1,Z1)とする。
図8にこの時の3軸加速度センサの座標系と回転軸、及びセンサの出力値のベクトルの関係を示す。この値の取得は、3軸加速度センサ141の出力が接続されたプロセッサ142で行われる。なお、加速度センサの出力そのものは一般に電圧値であるが、ここでは所定の電圧が所定の加速度に換算されるよう、プロセッサ142はまず演算しているものとする。
【0018】
次に、大腿骨16の傾斜角度はそのままに、大腿骨16を機能軸162の回りに内旋する。このときの内旋する角度は、大きいほどよいが、大腿骨が内旋できる角度には限度があり、およそ、15〜20°程度の角度で内旋できれば十分である。また、このときの内旋する角度も測定する必要はない。大腿骨16を内旋させたなら、その姿勢(第2の姿勢とする)で大腿骨16の動きを止め、3軸加速度センサ141の出力値を取得する。このときのセンサのX 軸、Y軸、 Z軸の出力を(X2、Y2、 Z3)とする。
図9にこの時の3軸加速度センサの座標系と回転軸、センサの出力値のベクトルの関係を示す。図9左は大腿骨の内外旋に伴って3軸加速度センサがそれ自身の座標系を伴って回転するように表現したものであり、図9右は3軸加速度センサの座標系基準で表現したものであって、重力に起因する出力値のベクトルの方が回転軸周りに回転してセンサの出力値が変化するように見える。
【0019】
さらに、大腿骨16の角度はそのままに、大腿骨16を機能軸162まわりに第1の姿勢の時よりも外旋する。この時の外旋する角度も、大きいほど良いが、大腿骨が外旋できる角度には限りがあるので、およそ15°〜20°程度の角度で外旋できれば十分である。また、この時の外旋する角度も、測定する必要がない。大腿骨16を外旋させたら、その姿勢(第3の姿勢とする)で大腿骨16の動きを止め、3軸加速度センサ141の出力値を取得する。この時のセンサのX軸、Y軸、Z軸の出力を(X3,Y3,Z3)とする。
図10にこの時の3軸加速度センサの座標系と回転軸、センサの出力値のベクトルの関係を示す。図10左は大腿骨の内外旋に伴って3軸加速度センサがそれ自身の座標系を伴って回転するように表現したものであり、図10右は3軸加速度センサの座標系基準で表現したものであって、重力に起因するセンサの出力値のベクトルの方が回転軸周りに回転してセンサの出力値が変化するように見える。
【0020】
骨切りガイドを最適にセットする場合に求められる最小限の測定においては、第1〜第3の姿勢の時の出力値があれば良い。前述の(X1,Y1,Z1)、(X2,Y2,Z2)、(X3,Y3,Z3)のいずれも、加速度センサは重力に対して不定の向きである。しかし、そのトータルの大きさは、静止状態で計測したので1Gである。
図11に示すように、内外旋を行った場合に回転軸周りに3軸加速度センサが回転すると、3軸加速度センサの座標系基準では重力の方向が回転軸周りに回転するように見える。なお、これらのベクトルの先端が動く軌跡の円は、方位が未知の回転軸に垂直な面上にあるが、3軸加速度センサのX軸およびY軸とは未だ平行ではなく無関係であることに注意する。ここで、(X1,Y1,Z1)と(X2,Y2,Z2)の差を(XA,YA,ZA)とし、及び(X2,Y2,Z2)と(X3,Y3,Z3)の差を(XB,YB,ZB)とすると、
図12および図13に示すように、(XA,YA,ZA)も(XB,YB,ZB)もいずれも3軸加速度センサ141のX軸、Y軸、Z軸で張る座標系の中で重力の方位(正確には重力の反対向きの方位)のベクトルの先端が動いた円に平行であることが分かる。
【0021】
従って、(XA,YA,ZA)と(XB,YB,ZB)の三次元ベクトルの外積を求め、これを(XC,YC,ZC)とすると、(XC,YC,ZC)は外積の性質から(XA,YA,ZA)にも(XB,YB,ZB)にもどちらにも直角なベクトルを表すことになる。
図14に、(XA,YA,ZA)と(XB,YB,ZB)及びこれらの外積ベクトル(XC,YC,ZC)の関係を示す。これは、大腿骨16を内旋、外旋させた回転軸(以下では、機能軸と適宜併用することにする)162の方位そのものに他ならない。なお、プロセッサ142においては、上記で求めた外積ベクトル(XC、YC、ZC)は、その大きさで除して長さが1Gの単位ベクトルに演算しなおすものとし、以降はそれを改めて(XC、YC、ZC)と呼ぶ。もちろんベクトルをその長さで除して単位ベクトルにしても、(XA、YA、ZA)及び(XB、YB、ZB)との直交性は失われない。
なお、図14では、(XC,YC,ZC)のベクトルの向きは、3軸加速度センサ141のZ軸の正の側で描いてあるが、差ベクトル(XA.YA,ZA)及び(XB,YB,ZB)を求める3つの姿勢及びその姿勢間の角度によっては、(XC,YC,ZC)は3軸加速度センサ141のZ軸の負の側になる場合もあるが、どちらであってもその後の演算に問題は無い。
【0022】
より精度を上げるためには、第4、第5の姿勢など、より多くの内外旋の角度における姿勢で前述の操作を実施し、より多くの重力方位を求め、より多くの差ベクトルを求め、より多くの組み合わせで外積ベクトルを求めるのが好ましく、このようにして得られた多くの外積ベクトル(単位ベクトル)の平均値を以ってしてもよい。
【0023】
以上から、大腿骨16の機能軸162に対して最初に3軸加速度センサ141がどのような向きで取り付けられていたか、及び大腿骨16を内外旋させるときの大腿骨16の傾斜角度がいくらであったか、及び内旋・外旋の角度がいくらであったかを知ることなく、大腿骨16を機能軸162まわりに回動させた3つの異なる姿勢における3軸加速度センサ141の出力値の差ベクトルを2つ求め、それらの外積を求めるだけで、3軸加速度センサ141の座標系から見た回転軸162の方位がどちらを向いているかが計算できるのである。
【0024】
今、大腿骨16の機能軸162に対して最初に3軸加速度センサ141が取り付けられた向きは任意であったから、プロセッサ142によって上記のプロセスで求められた外積ベクトル(XC,YC,ZC)は、回転軸162の方位と合致はするがその成分は不明である。
図15に、3軸加速度センサ141のZ軸と、回転軸すなわち機能軸162とのなす角度の関係を示す。本手法のゴールは
、図16に示すように大腿骨16の機能軸162と3軸加速度センサ141のZ軸の方位を揃えること(平行にすること)であり、すなわち外積ベクトル(XC,YC,ZC)を(0,0,1)に平行にする(向きを合致させる)ことである。これが(0,0,1)でない場合、ZCの値は大腿骨16の回転軸162と3軸加速度センサ141のZ軸のなす角の余弦に等しい。また、XCの値は、Z軸が回転軸162に対して倒れている角度のうちX軸の方向に倒れている角度の正弦に等しく、YCの値は、Z軸が回転軸162に対して倒れている角度のうちY軸の方向に倒れている角度の正弦に等しい。従って、前述の(XC,YC,ZC)は、機能軸162の方位を具体的に明らかにしただけでなく、機能軸162の角度ずれ量も求めており、すなわちどれだけ3軸加速度センサ141の角度を修正すれば良いかの調整量そのものを明らかにしている。
【0025】
そこで、プロセッサ142は、XC、YCの値に基づいて上記した角度調整機構13が有する2つのチルト機構131及び132をどのように調整すればよいかを手術者に分かるよう表示器により表示をする。表示は、現在の角度ずれ量を表示するのでもよいが、より好ましくは、角度調整機構13の2つの軸を各々どのような数値にセットすれば良いかの調整指示を表示する。これにより、手術者は固定金具12と可動金具14(可動金具14上には3軸加速度センサ141が載っている)を連結する角度調整機構13の2つのチルト機構131及び132を各々調整する。
【0026】
なお、この角度調整機構13は、基本的にはY軸回りにチルト調整可能な機構131と、X軸回りにチルト調整可能な機構132の2つの機構を有しておればよい。これらの機構は、個々に、手動のネジ式の調整つまみであってもよく、またはプロセッサ142から自動で駆動される小型のステッピングモータであってもよい。
【0027】
これにより、3軸加速度センサ141のZ軸は、回転軸すなわち大腿骨16の機能軸162の方位と合致する。すなわち3軸加速度センサ141のX軸とY軸が張る面に平行に設置した可動金具14の基準面143は、大腿骨16の機能軸162に垂直になる。仮にもう一度上記の手法によって、大腿骨16を内外旋させて得られた3軸加速度センサ141の出力値から外積ベクトル(XC、YC、ZC)を求めると、それはほぼ(0,0,1)に等しくなるはずである。実際には僅かな誤差により厳密には一致しないが、その場合の調整量誤差が角度で0.5°以下であれば実用精度的には何ら問題ない。
【0028】
本実施例の方法により、基準面143が機能軸162に対して初期に5°程度もずれていたものが、本手法を実施し、その中で角度調整機構13の2つのチルト機構131及び132で角度調整することで、基準面143を機能軸162に対して0.5°以内にアライメントすることができた。加えて、本手法では、三次元ベクトルを用いて回転軸の方位を求め、これに三次元的に垂直になるように基準面を調整するので、正面視と側面視の両方から見た垂直を同時に求めることが可能である。
【0029】
以上により、可動金具14の基準面143が大腿骨16の回転軸162に垂直になったら、この基準面143に突き当てて位置決めするように、ボーンソーを挿入する骨切りスリット冶具15を取り付ける。この骨切りスリット冶具15は、その製造時において、位置出し面152が、スリット151のカットラインと精密に平行になるよう加工されている。そのため、可動金具14の基準面143に、骨切りスリット冶具15の位置出し面152を密着させることで、可動金具の基準面143と骨切りスリット冶具15のスリット151とは正確に平行にな
る。ちなみに、スリット151は骨切りスリット冶具15に形成されており、縁面は平行になっている。ここで、可動金具14の基準面143は3軸加速度センサ141のX軸及びY軸と平行になるよう製造されているのだから、結局、可動金具14の基準面143に骨切りスリット冶具15の位置出し面152を密着させることで、スリット151が3軸加速度センサ141のX軸及びY軸と正確に平行になる。この後、大腿骨の遠位端から所定の距離になるよう並行移動させて固定すればよく、この状態で骨切りスリット151に合わせてボーンソーにより大腿骨を切除すれば、その切除面は機能軸162に垂直にすることができる。
【0030】
なお、本実施例では、プロセッサ142は、3軸加速度センサ141とケーブルで接続された外部のコンピュータのように図示しているが、3軸加速度センサ141と並べて、電圧値を読み込むためのAD変換素子(アナログの電圧値をコンピュータが扱えるデジタルの整数値に変換する素子)及びその数値データを演算する専用のマイクロコンピュータ及び調整量の表示器を全て稼動金具14の上に実装しても構わないし、電圧信号を引き回すケーブルで発生するノイズを最小限にするために、3軸加速度センサ141と並べてAD変換素子のみ近接して実装し、AD変換素子のデジタルデータのみケーブルで演算するプロセッサに送信しても良い。
【実施例2】
【0031】
本実施例では、内外旋の精度を向上するために以下の措置をとることがある。具体的には、
図1等で示す骨切り手術システム11に加え、
図4で示すように、支援機構21を併用する。骨切り手術システム11は、3軸加速度センサ141が搭載され基準面143を有する可動金具14と固定金具12と調整機構13とからなる骨切りガイド、及びプロセッサ142、及び骨切りスリット冶具15とからなる。本実施例では、3軸加速度センサ141を採用しており、それは単一のパッケージで互いに直交するX、Y、Z軸方向に沿った成分の加速度を検出できる加速度センサとなっている。また、支援機構21は、術野から離れて床面上に設置された固定の三脚211と、三脚212上に取り付けられたレーザポインタ212とからなる。三脚211は一般にカメラ撮影等で用いられるようなもので、不図示の調整機構により、高さ、水平方向、垂直方向の向きを自由に変えられるものとする。
支援機構21は、大腿骨の内外旋により複数の姿勢を得る際に、回転軸、すなわち大腿骨の機能軸の軸ブレを十分小さくするために、術野の1点をレーザポインタのレーザ光線で指し示し、レーザ光線のスポットに術野の1点を合わせた状態に複数の姿勢を得ることで、その位置の再現性を向上する目的で用いる。また、レーザポインタを用いることで、手術者から離れた固定位置から手術を邪魔することなく支援することができる。
【0032】
図1では、座標系144に示すような方向に3軸加速度センサ141の座標系
のX軸、Y軸、Z軸が向くように設置する。すなわち、骨切りスリット冶具15におけるスリット151のカットラインの長手方向がX軸、奥行方向がY軸、そして短手方向がZ軸である。
なお、図1ではこのように定義されたZ軸に対して、図面上同じ方向に大腿骨16の機能軸162が描かれているが、これは本発明のガイドシステムの調整が完了した状態を表しており、手術の初期状態に置いては機能軸162はZ軸とは合致していない。
【0033】
本発明を実施して骨切りスリット冶具15のスリット151のカットラインが大腿骨16の機能軸162に直角になるように位置合わせする方法は以下の通りである。まず、大腿骨16の遠位端161に、本発明の骨切りガイドの固定金具12を固定する。骨切りガイドは固定金具12が2軸の角度調整機構13を介して可動金具14と連結されている。可動金具14には前述の3軸加速度センサ141が、そのX軸とY軸が、可動金具の基準面143と平行になるよう、骨切りガイドの製造時において精密に位置決めされて予め固定して取り付けられているものとする。なお、3軸加速度センサ141は、不図示の電源により給電され稼動するものとする。
【0034】
このとき、大腿骨16に対して固定金具12が取り付けられる姿勢は
、大腿骨16の機能軸162に対して可動金具14上にある3軸加速度センサ141のZ軸の向きが概ね近い方向を向くものの同一ではなく10°程度の範囲で不定であり、これに伴って、角度調整機構13も何ら操作されていないのであるから、大腿骨16の機能軸162に対して、可動金具14上にある3軸加速度センサ141のZ軸の向き
が何°の角度でどのようにずれているのかは、全く判別不能である。
以下、本実施例の手技における3軸加速度センサの座標系や回転軸、センサの出力値のベクトル等の関係は実施例1と同様、図7から図16で図示される。
【0035】
ここで、大腿骨16を、水平ないしは20〜30°程度の任意の傾斜角度にする。この傾斜角度は、以後の操作で一定に維持できればよく、測定をする必要はない。膝下はそのまま下に向けておいてよい。
【0036】
大腿骨16の角度を決めたら、支援機構21を用いて、レーザポインタ212が照射するレーザ光線213が、大腿骨16の遠位端の凹部中央部26を指し示すように、三脚211の姿勢を調整しておく。
【0037】
大腿骨16の膝関節中心26(遠位端の陥凹部分であり予定インプラント中心部)に、レーザ光線213が正しく照射されるよう維持しながら、その姿勢(第1の姿勢とする)で大腿骨16の動きを止め、3軸加速度センサ141の出力値を取得する。この時のセンサのX軸、Y軸、Z軸の出力を(X1,Y1,Z1)とする。この値の取得は、3軸加速度センサ141の出力が接続されたプロセッサ142で行われる。
【0038】
次に、大腿骨16の傾斜角度はそのままに、大腿骨16を機能軸162まわりに内旋する。この時の内旋する角度は、大きいほど良いが、大腿骨の内旋できる角度には限りがある。本発明では、およそ15°〜20°程度の角度で内旋できれば十分である。また、この時の内旋する角度も、測定する必要がない。大腿骨16を内旋させたら、そのまま大腿骨の膝関節中心26に、レーザ光線213が正しく照射されるよう維持しながら、その姿勢(第2の姿勢とする)で大腿骨16の動きを止め、3軸加速度センサ141の出力値を取得する。この時のセンサのX軸、Y軸、Z軸の出力を(X2,Y2,Z2)とする。
【0039】
さらに、大腿骨16の角度はそのままに、大腿骨16を機能軸162まわりに第1の姿勢の時よりも外旋する。この時の外旋する角度も、大きいほど良いが、大腿骨の外旋できる角度には限りがあるので、およそ15°〜20°程度の角度で外旋できれば十分である。また、この時の外旋する角度も、測定する必要がない。大腿骨16を外旋させたら、そのまま大腿骨の膝関節中心26に、レーザ光線213が正しく照射されるよう維持しながら、その姿勢(第3の姿勢とする)で大腿骨16の動きを止め、3軸加速度センサ141の出力値を取得する。この時のセンサのX軸、Y軸、Z軸の出力を(X3,Y3,Z3)とする。
【0040】
ここで、(X1,Y1,Z1)と(X2,Y2,Z2)の差を(XA,YA,ZA)、及び(X2,Y2,Z2)と(X3,Y3,Z3)の差を(XB,YB,ZB)とすると、(XA,YA,ZA)も(XB,YB,ZB)もいずれも3軸加速度センサ141のX軸、Y軸、Z軸で張る座標系の中で重力の方位(正確には重力の反対向きの方位)のベクトルの先端が動いた円に平行であることが分かる。従って、(XA,YA,ZA)と(XB,YB,ZB)の三次元ベクトルの外積を求め、これを(XC,YC,ZC)とすると、(XC,YC,ZC)は外積の性質から(XA,YA,ZA)にも(XB,YB,ZB)にもどちらにも垂直なベクトルを表すことになる。これは、大腿骨16を内旋、外旋させた回転軸162の方位そのものに他ならない。なお、プロセッサ142においては、上記で求めた外積ベクトル(XC、YC、ZC)は、その大きさで除して長さが1Gの単位ベクトルに演算しなおすものとし、以降はそれを改めて(XC、YC、ZC)と呼ぶ。もちろんベクトルをその長さで除して単位ベクトルにしても、(XA、YA、ZA)及び(XB、YB、ZB)との直交性は失われない。
【0041】
より精度を上げるためには、第4、第5の姿勢などより多くの内外旋の角度で前述の操作を実施し、より多くの重力方位を求め、より多くの差ベクトルから、より多くの組み合わせで外積ベクトルを求めてもよく、このようにして得られた多くの外積ベクトル(単位ベクトル)の平均値を以ってしてもよい。
【0042】
以上により、プロセッサ142によって上記のプロセスで求められた外積ベクトル(XC,YC,ZC)は、回転軸162の方位と合致はするがその成分は不明である。本手法のゴールは大腿骨16の機能軸162と3軸加速度センサ141のZ軸の方位を揃えること(平行にすること)であり、すなわち外積ベクトル(XC,YC,ZC)を(0,0,1)に平行にする(向きを合致させる)ことである。これが(0,0,1)でない場合、ZCの値は大腿骨16の回転軸162と3軸加速度センサ141のZ軸のなす角の余弦に等しい。また、XCの値は、Z軸が回転軸162に対して倒れている角度のうちX軸の方向に倒れている角度の正弦に等しく、YCの値は、Z軸が回転軸162に対して倒れている角度のうちY軸の方向に倒れている角度の正弦に等しい。従って、前述の(XC,YC,ZC)は、機能軸162の方位を具体的に明らかにしただけでなく、機能軸162の角度ずれ量も求めており、すなわちどれだけ3軸加速度センサ141の角度を修正すれば良いかの調整量そのものを明らかにしている。
【0043】
そこで、プロセッサ142は、XC、YCの値に基づいて角度調整機構13の2つのチルト機構131及び132をどのように調整すればよいかを手術者に分かるよう表示器により表示をする。表示は、現在の角度ずれ量を表示するのでもよいが、より好ましくは、角度調整機構13の2つの軸を各々どのような数値にセットすれば良いかの調整指示を表示する。これにより、手術者は固定金具12と可動金具14(可動金具14上には3軸加速度センサ141が載っている)を連結する2軸の角度調整機構13の2つのチルト機構131及び132を各々調整する。
【0044】
なお、この角度調整機構13は、Y軸回りにチルト調整可能な機構131と、X軸回りにチルト調整可能な機構132の2つの軸からなる。これらの機構は、個々に、手動のネジ式の調整つまみであってもよく、またはプロセッサ142から自動で駆動される小型のステッピングモータであってもよい。
【0045】
これにより、3軸加速度センサ141のZ軸は、回転軸すなわち大腿骨16の機能軸162の方位と合致する。すなわち3軸加速度センサ141のX軸とY軸の張る面に平行に設置した可動金具14の基準面143は、大腿骨16の機能軸162に垂直になる。仮にもう一度上記の手法によって、大腿骨16を内外旋させて得られた3軸加速度センサ141の出力値から外積ベクトル(XC、YC、ZC)を求めると、それはほぼ(0,0,1)に等しくなるはずである。実際には僅かな誤差により厳密には一致しないが、その場合の調整量誤差が角度で0.5°以下であれば実用精度的には何ら問題ない。特に、大腿骨16を内外旋する際の手技において起こりうる回転軸ブレを、支援機構21のレーザ光線213によるマーキングを維持することで抑制することで、誤差を抑制することができる。
レーザポインタによる照射であれば、術野において2mm程度以内の位置誤差を維持することは容易であり、大腿骨の骨長(およそ40数cm)から決まる角度誤差は高々0.3°程度以下になる。
【0046】
本実施例の方法により、基準面143が機能軸162に対して初期に5°程度もずれていたものが、本手法を支援機構も用いて実施し、その中で角度調整機構13の2つのチルト機構131及び132で角度調整することで、基準面143を機能軸162に対して0.5°以内にアライメントすることができた。また、本手法では、三次元ベクトルを用いて回転軸の方位を求め、これに三次元的に垂直になるように基準面を調整するので、正面視と側面視の両方から見た垂直を同時に求めることが可能である。
【0047】
以上により、可動金具14の基準面143が大腿骨16の回転軸162に垂直になったら、この基準面143に突き当てて位置決めするように、ボーンソーを挿入する骨切りスリット冶具15を取り付ける。この骨切りスリット冶具15は、その製造時において、位置出し面152が、スリット151のカットラインと精密に平行になるよう加工されている。そのため、可動金具14の基準面143に、骨切りスリット冶具15の位置出し面152を突き当てることで、可動金具の基準面143と骨切りスリット冶具15のスリット151とは正確に平行になる。ここで、可動金具14の基準面143は3軸加速度センサ141のX軸及びY軸と平行になるよう製造されているのだから、結局、可動金具14の基準面143に骨切りスリット冶具15の位置出し面152を突き当てることで、スリット151が3軸加速度センサ141のX軸及びY軸と正確に平行になる。この後、大腿骨の遠位端から所定の距離になるよう平行移動させて固定すればよく、この状態で骨切りスリット151に合わせてボーンソーにより大腿骨を切除すれば、その切除面は機能軸162に垂直にすることができる。
【0048】
なお、実施例1、2において、骨切りスリット冶具15は、その位置出し面152を可動金具14の基準面143に突き当てることで、スリット151のカットラインが3軸加速度センサ141のX軸及びY軸に平行にすることが可能であるが、稀に、患者によっては、本手法により機能軸とその垂直な面を明らかにした上で、予定して垂直から所望の角度(例えば1°)だけオフセットさせた角度で骨切りを実施したい場合もあるので、骨切りスリット冶具15は、可動金具14に対して平行移動できるだけでなく、別途傾斜機構を設けることにより、可動金具の基準面143と骨切りスリット冶具15の位置出し面152とを所望の角度に位置決めして、その角度を保ったまま平行移動させて固定できるようにしてもよい。