(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項2に記載のDNAを有する微生物を培養すること、及び得られる培養液を精製すること、を含む請求項1に記載のフラビン結合型グルコース脱水素酵素を製造する方法。
【発明を実施するための形態】
【0016】
1.低温反応性
本発明における低温反応性とは、25℃での酵素活性、又は37℃での酵素活性と比較した5℃での酵素活性の相対値として評価される。各温度での酵素反応性は、下記2.記載のフラビン結合型グルコース脱水素酵素(FGDH)活性測定法に準じて、その反応温度を5℃、25℃、37℃に変更して測定される。FGDHは、25℃における酵素活性と比較して35%以上、37℃での酵素活性と比較して20%以上であることが好ましい。後述する実施例で測定された代表的なFGDHは、5℃での反応性が、25℃での反応性の39%を示し、37℃での反応性の25%を示す。
【0017】
2.フラビン結合型グルコース脱水素酵素(FGDH)活性
GDHは、電子受容体存在下でグルコースの水酸基を酸化してグルコノ−δ−ラクトンを生成する反応を触媒する理化学的性質を有する酵素である。本書においては、この理化学的性質をグルコースデヒドロゲナーゼ活性といい、特に断りが無い限り、「酵素活性」又は「活性」とは、当該酵素活性を意味する。前記電子受容体は、GDHが触媒する反応において、電子の授受を担うことが可能である限り特に制限されないが、例えば、2,6−ジクロロフェノールインドフェノール(DCPIP)、フェナジンメトサルフェート(PMS)、1−メトキシ−5−メチルフェナジウムメチルサルフェート、及びフェリシアン化合物等を使用することができる。
【0018】
グルコースデヒドロゲナーゼ活性の測定方法としては、種々の方法が知られているが、本書では、DCPIPを電子受容体として用い、反応前後における750nmの波長における試料の吸光度の変化を指標に活性を測定する方法が用いられる。具体的な試薬組成や測定条件は、特にことわらない限り下記のとおりである。
【0019】
グルコースデヒドロゲナーゼ活性の測定方法
<試薬>
1.5M D−グルコースを含む150mM リン酸緩衝液pH7.0(0.1% TritonX−100を含む)
3.1mM 2,6−ジクロロフェノールインドフェノール(DCPIP)溶液
上記D−グルコースを含むリン酸緩衝液20mL、DCPIP溶液10mL、を混合して反応試薬とする。
【0020】
<測定条件>
反応試薬3mLを37℃で5分間予備加温する。GDH溶液0.1mLを添加しゆるやかに混和後、水を対照に37℃に制御された分光光度計で、750nmの吸光度変化を5分記録する。反応時間をX軸、吸光度をY軸として測定結果をプロットし、直線部分から(即ち、反応速度が一定になってから)1分間あたりの吸光度変化(ΔOD
TEST)を測定する。盲検はGDH溶液の代わりにGDHを溶解する溶媒を試薬混液に加えて同様に1分間あたりの吸光度変化(ΔOD
BLANK)を測定する。これらの値から次の式に従ってGDH活性を求める。ここでGDH活性における1単位(U)とは、濃度1MのD−グルコース存在下で1分間に1マイクロモルのDCPIPを還元する酵素量である。
【0021】
活性(U/mL)=
{−(ΔOD
TEST−ΔOD
BLANK)×3.1×希釈倍率}/{0.85×0.1×1.0}
【0022】
なお、式中の3.1は反応試薬+酵素溶液の液量(mL)、0.85は本活性測定条件におけるミリモル分子吸光係数(cm
2/マイクロモル)、0.1は酵素溶液の液量(mL)、1.0はセルの光路長(cm)を示す。本書においては、別段の表示をしない限り、酵素活性は上記の測定方法に従って、測定される。
【0023】
本発明のGDHは、フラビンを補欠分子族として要求するフラビン結合型のGDH(FGDH)である。
【0024】
本発明のFGDHは、単離されたFGDH又は精製されたFGDHであることが好ましい。また、本発明のFGDHは、上記保存に適した溶液中に溶解した状態又は凍結乾燥された状態(例えば、粉末状)で存在してもよい。本発明のFGDHに関して使用する場合の「単離された」とは、当該酵素以外の成分(例えば、宿主細胞に由来する夾雑タンパク質、他の成分、培養液等)を実質的に含まない状態をいう。具体的には例えば、本発明の単離された酵素は、夾雑タンパク質の含有量が重量換算で全体の約20%未満、好ましくは約10%未満、更に好ましくは約5%未満、より一層好ましくは約1%未満である。一方で、本発明のFGDHは、保存又は酵素活性の測定に適した溶液(例えば、バッファー)中に存在してもよい。
【0025】
3.ポリペプチド
本発明のFGDHは、下記(a)〜(c)のいずれかのポリペプチドで構成されることが好ましい。
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列を有するポリペプチド;
(b)配列番号1に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入および/または付加したアミノ酸配列を有し、且つ、グルコース脱水素酵素活性を有するポリペプチド;
(c)配列番号1に示されるアミノ酸配列との同一性が80%以上であるアミノ酸配列を有し、且つ、グルコース脱水素酵素活性を有するポリペプチド。
【0026】
配列番号1で示されるアミノ酸配列とは、後述する実施例5に示される通り、タラロマイセス・エスピー・FKI−2725株に由来するFGDH(以下、TasGDHとも表す)のアミノ酸配列であり、後述の4−1〜4−5の特性を全て満たす。
【0027】
上記(b)のポリペプチドは、グルコース脱水素酵素活性を保持する限度で、配列番号1に示されるアミノ酸において、1若しくは数個のアミノ酸配残基が置換、欠失、挿入および/または付加(以下、これらを纏めて「変異」とも表す。)されたアミノ酸配列を有するポリペプチドである。
【0028】
当該変異がアミノ酸の置換である場合、置換の種類は、特に制限されないが、FGDHの表現型に顕著な影響を与えないという観点から保存的アミノ酸置換が好ましい。「保存的アミノ酸置換」とは、あるアミノ酸残基を、その側鎖と性質が類似する側鎖を有するアミノ酸残基に置換することをいう。アミノ酸残基はその側鎖によって塩基性側鎖(例えばリシン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖(例えばアスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電極性側鎖(例えばグリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン)、非極性側鎖(例えばアラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、β分岐側鎖(例えばスレオニン、バリン、イソロイシン)、芳香族側鎖(例えばチロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)のように、いくつかのファミリーに分類される。よって、同一のファミリー内のアミノ酸残基間で置換されることが好ましい。
【0029】
一又は数個の変異は、制限酵素処理、エキソヌクレアーゼやDNAリガーゼ等による処理、位置指定突然変異導入法やランダム突然変異導入法(Molecular Cloning, Third Edition, Chapter 13 ,Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York)など公知の手法を利用して、GDHをコードするDNAに変異を導入することによって実施することが可能である。また、紫外線照射など他の方法によってもバリアントを得ることができる。バリアントには、GDHを保持する微生物の個体差、種や属の違いに基づく場合などの天然に生じるバリアント(例えば、一塩基多型)も含まれる。
【0030】
活性を維持するという観点からは、活性部位又は基質結合部位に影響を与えない部位において上記変異が存在することが好ましい。
【0031】
上記(c)のポリペプチドは、上記1.の低温反応性を保持することを限度で、好ましくは下記4−1〜4−5の特性を保持する限度で、配列番号1に示されるアミノ酸配列と比較した同一性が80%以上であるアミノ酸配列からなるポリペプチドである。好ましくは、本発明のFGDHが有するアミノ酸配列と配列番号1に示されるアミノ酸配列との同一性は、85%以上であり、より好ましくは88%以上、更に好ましくは90%以上、より更に好ましくは93%以上、一層好ましくは95%以上、特に好ましくは98%以上、最も好ましくは99%以上である。このような一定以上の同一性を有するアミノ酸配列からなるポリペプチドは、上述するような公知の遺伝子工学的手法に基づいて作成することができる。
【0032】
一実施形態において、上記(c)のポリペプチドは、配列番号1に示されるアミノ酸配列と完全に一致するアミノ酸配列を有していないことが、より改善された特性を備えるという観点から好ましい。また、同様の観点から、上記(c)のポリペプチドは、組換え発現によって得られたポリペプチドであることが好ましい。組換え発現によって得られるポリペプチドは、天然に存在するポリペプチドとは糖鎖結合等において異なるため、より好ましい特性を有していることが期待される。
【0033】
アミノ酸配列の同一性を算出する方法としては、種々の方法が知られている。例えば、市販の又は電気通信回線(インターネット)を通じて利用可能な解析ツールを用いて算出することができる。本書では、全米バイオテクノロジー情報センター(NCBI)の相同性アルゴリズムBLAST(Basic local alignment search tool)http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/においてデフォルト(初期設定)のパラメーターを用いることにより、アミノ酸配列の同一性を算出する。
【0034】
なお、前記FGDHを構成するポリペプチドは、シグナルペプチド部分を欠失していてもよい。The Technical University of DenmarkのThe Center for Biological Sequence Analysis(CBS)により提供されているSignalP 4.1(http://www.cbs.dtu.dk/services/signalp/)を用いて、デフォルトの設定での推定によれば、配列番号1に示すアミノ酸配列のうち、1番目から16番目までがシグナル配列と予想される。したがって、この部分を欠失することは酵素特性に不都合な影響をもたらさないと推察される。
【0035】
4.諸特性
本発明のFGDHは、下記4−1〜4−5のうち少なくとも1つ以上を備えていることが好ましく、より好ましくはその2つ以上を備え、更に好ましくはその3つの特性を更に備え、より更に好ましくはその4つ以上を備え、一層好ましくはその5つ以上を備え、特に好ましくはその全てを備える。本発明のFGDHは、上記4−1〜4−5の特性を如何なる組合せで備えていても良いが、上記4−1の特性を備えていることが好ましく、更には上記4−1の特性に加えて更に4−2〜4−5のうち少なくとも1つ以上の特性を備えていることが好ましい。
【0036】
4−1.分子量
本発明のFGDHを構成するポリペプチド部分の分子量は、SDS−PAGEで測定した場合に約55kDaである。「約55kDa」とは、SDS−PAGEで分子量を測定した際に、当業者が、通常55kDaの位置にバンドがあると判断する範囲を含むことを意味する。「ポリペプチド部分」とは、実質的に糖鎖が結合していない状態のFGDHを意味する。微生物によって生産された本発明のFGDHが糖鎖結合型である場合は、それを熱処理や糖加水分解酵素によって処理することにより、糖鎖を除去した状態(即ち、「ポリペプチド部分」)にすることができる。実質的に糖鎖が結合していない状態とは、熱処理や糖加水分解酵素によって処理された糖鎖結合型FGDHに不可避的に残存する糖鎖の存在を許容する。よって、FGDHが本来的に糖鎖結合型でない場合は、それ自体が「ポリペプチド部分」に相当する。
【0037】
糖鎖結合型FGDHから糖鎖を除去する手段としては、種々の方法が知られている。本書においては、後述する実施例に示すように、糖鎖結合型のFGDHを100℃で10分間加熱処理をして変性させた後、N−グリコシダーゼEndo H(ニューイングランドバイオラボ社製)を用いて37℃で6時間以上処理する方法を使用することができる。
【0038】
本発明のFGDHに糖鎖が結合している場合、その分子量は、グルコース脱水素酵素活性、基質特異性、及び比活性などにネガティブに影響しない限り特に制限されない。例えば、糖鎖が結合した状態の本発明FGDHの分子量は、SDS−PAGEでの測定において、60〜80kDaであることが好ましい。糖鎖結合型のFGDHは、酵素をより安定にするという観点及び水溶性を高め、水に溶け易くするという観点から好ましい。
【0039】
SDS−PAGEでの分子量の測定は、一般的な手法及び装置を用い、市販される分子量マーカーを用いて行うことができる。
【0040】
4−2.基質特異性
本発明のFGDHの基質特異性は、同一濃度のD−グルコースに対する反応性を100%とした場合に、D−キシロースに対する反応性が同一濃度のD−グルコースに対する反応性を100%として、5%以下であることが好ましい。また、FGDHのD−ガラクトースに対する反応性は、同一濃度のD−グルコースに対する反応性を100%として、1%以下であることが好ましい。更に、FGDHのマルトースに対する反応性は、同一濃度のD−グルコースに対する反応性を100%として、2%以下であることが好ましい。
【0041】
本書において、本発明のFGDHの各糖類に対する反応性は、上記2.に示すグルコースデヒドロゲナーゼ活性の測定方法において、D−グルコースを他の糖(例えば、D−キシロース、D−ガラクトース、又はマルトース)に置き換えて、D−グルコースの場合の活性と比較することにより求める。但し、比較する場合の各糖類の濃度は50mMを基準とする。また、基質特異性を測定する際の酵素濃度は、グルコースに対する反応性を測定する時は、反応液の最終酵素濃度を10μg/ml、キシロースやマルトース及びガラクトースに対する反応性を測定する時は1mg/mlとする。
【0042】
4−3.至適活性pH
本発明のFGDHは、後述する実施例に示す通り、pH6.0(リン酸緩衝液)において最も高い活性を示すことが好ましい。また、本発明のFGDHは、pH6.5〜7.0の範囲において、pH6.0(リン酸緩衝液)における活性を100%とした場合と比較して、80%以上の相対活性を示すことが好ましい。即ち、本発明のFGDHの至適活性pHは6.5〜8.0であり、好ましくはpH6.0である。
【0043】
4−4.pH安定性
本明細書において、特定のpH条件の下、2U/mLの酵素を25℃で16時間処理した後の残存酵素活性が、処理前の同じpH条件下での酵素活性と比較して90%以上である場合に、当該酵素は、当該pH条件において安定であると判断する。本発明のFGDHは、少なくともpH3.5〜6.5の範囲全体で安定であることが好ましい。
【0044】
4−5.温度安定性
本明細書において、特定の温度条件の下、適当な緩衝液中(例えば酢酸カリウムバッファー(pH5.0))で2U/mLの酵素を15分間処理した後の残存酵素活性が、処理前の酵素活性と比較して80%以上である場合に、当該酵素は当該温度条件において安定であると判断する。本発明のFGDHは、少なくとも45℃以下(即ち、0℃〜45℃の温度範囲)において安定であることが好ましい。
【0045】
5.由来
一実施形態において、本発明のFGDHは、タラロマイセス・エスピーFKI−2725株に由来することが好ましい。タラロマイセス・エスピーFKI−2725株は、石垣島土壌より単離された菌株であり、北里生命科学研究所微生物資源センターで保管されている。該菌株は所定の手続を経ることによってその分譲を受けることができる。
【0046】
本発明のFGDHには、微生物から直接単離されるFGDHだけでなく、単離されたFGDHを蛋白質工学的な方法によりアミノ酸配列等を改変したものや、遺伝子工学的手法により改変したものも含まれる。例えば、前述の、タラロマイセス・エスピーFKI−2725株から取得した酵素に改変を加えることによって、特性を付与した改変型の酵素であってもよい。
【0047】
6.フラビン結合型グルコース脱水素酵素をコードするDNA
本発明のDNAは、上記1.のFGDHをコードするDNAであり、具体的には以下の(A)〜(F)のいずれかである。
(A)配列番号1に示されるアミノ酸配列をコードするDNA;
(B)配列番号2に示される塩基配列からなるDNA;
(C)配列番号2に示される塩基配列との同一性が80%以上である塩基配列を有し、且つ、該塩基配列がグルコース脱水素酵素活性を有するポリペプチドをコードするDNA;
(D)配列番号2に示される塩基配列に相補的な塩基配列に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列を有し、且つ、該塩基配列がグルコース脱水素酵素活性を有するポリペプチドをコードするDNA;
(E)配列番号2に示される塩基配列において、1若しくは数個の塩基が置換、欠失、挿入、付加および/または逆位した塩基配列をNAであり、且つ、該塩基配列がグルコース脱水素酵素活性を有するポリペプチドをコードするDNA;
(F)配列番号1に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入および/または付加したアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するDNAであり、且つ、該塩基配列がグルコース脱水素酵素活性を有するポリペプチドをコードするDNA。
【0048】
本書において「タンパク質(ポリペプチドまたはFGDHなどと言うこともある)をコードするDNA」とは、それを発現させた場合に当該タンパク質が得られるDNA、即ち、当該タンパク質のアミノ酸配列に対応する塩基配列を有するDNAのことをいう。従ってコドンの縮重によって相違するDNAも含まれる。
【0049】
本発明のDNAは、それがコードするアミノ酸配列を有するタンパク質が、グルコース脱水素酵素活性を持つタンパク質として上記1.の低温反応性を満たす限り、配列番号2に示される塩基配列との同一性が80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは88%以上、更に好ましくは90%以上、より更に好ましくは93%以上、一層好ましくは95%以上、特に好ましくは98%以上、最も好ましくは99%以上である塩基配列を有する。
【0050】
塩基配列の同一性を算出する方法としては、種々の方法が知られている。例えば、市販の又は電気通信回線(インターネット)を通じて利用可能な解析ツールを用いて算出することができる。本書では、全米バイオテクノロジー情報センター(NCBI)の相同性アルゴリズムBLASTにおいてデフォルト(初期設定)のパラメーターを用いることにより、塩基配列の同一性の値(%)を算出する。
【0051】
本発明のDNAは、それがコードするタンパク質がグルコース脱水素活性をもつタンパク質として上記1.を満たす限り、配列番号2に示される塩基配列に相補的な塩基配列に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであっても良い。ここで「ストリンジェントな条件」とは、一般には、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。このようなストリンジェントな条件は当業者に公知であって、例えば、Molecular Cloning(Third Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York)を参照して設定することができる。
【0052】
本書では、「ストリンジェントな条件」とは、以下に示す条件を言う。ハイブリダイゼーション液として50%ホルムアミド、5×SSC(0.15M NaCl, 15mM sodium citrate, pH 7.0)、1×Denhardt溶液、1%SDS、10%デキストラン硫酸、10μg/mlの変性サケ精子DNA、50mMリン酸バッファー(pH7.5))を用いる。
【0053】
このような条件でハイブリダイズするDNAの中には途中にストップコドンが発生したものや、活性中心の変異により活性を失ったものも含まれ得るが、それらについては、市販の活性発現ベクターに組み込み、適当な宿主で発現させて、酵素活性を公知の手法で測定することによって容易に取り除くことができる。
【0054】
好適な一実施形態において、本発明のFGDHをコードするDNAは、単離された状態で存在するDNAである。ここで「単離されたDNA」とは、天然状態において共存するその他の核酸やタンパク質等の成分から分離された状態であることをいう。但し、単離されたDNAは、天然状態において隣接する核酸配列(例えばプロモーター領域の配列やターミネーター配列など)など一部の他の核酸成分を含んでいてもよい。例えば染色体DNAの場合の「単離された」状態とは、好ましくは、天然状態において共存する他のDNA成分を実質的に含まない。一方、cDNA分子など遺伝子工学的手法によって調製されるDNAの場合の「単離された」状態では、好ましくは、細胞成分や培養液などを実質的に含まない。同様に、化学合成によって調製されるDNAの場合の「単離された」状態では、好ましくは、dNTPなどの前駆体(原材料)や合成過程で使用される化学物質等を実質的に含まない。尚、それと異なる意味を表すことが明らかでない限り、本明細書において単に「DNA」と記載した場合には単離された状態のDNAを意味する。本発明のDNAには、上記(A)〜(F)のDNAと相補的なDNA(cDNA)も含まれる。
【0055】
本発明のDNAは、本明細書又は添付の配列表が開示する配列情報(特に、配列番号2)を基に、化学的DNA合成法により製造、取得することができ、例えば、標準的な遺伝子工学的手法、分子生物学的手法、生化学的手法などを用いることによって容易に調製することができる(Molecular Cloning 3d Ed, Cold Spring Harbor Lab. Press (2001)等参照)。化学的DNA合成法としては、フォスフォアミダイト法による固相合成法を例示することができる。この合成法には自動合成機を利用することができる。
【0056】
また、本発明のGDH生産に用いるDNAの入手方法としては、化学的にDNA鎖を合成するか、もしくは合成した一部オーバーラップするオリゴDNA短鎖を、PCR法を利用して接続することにより、本発明のGDHの全長をコードするDNAを構築することも可能である。化学合成もしくはPCR法との組み合わせで全長DNAを構築することの利点は、該遺伝子を導入する宿主に合わせて使用コドンを遺伝子全長にわたり設計できる点にある。同一のアミノ酸をコードする複数のコドンは均一に使用されるわけではなく、生物種によってその使用頻度が異なる。一般にある生物種において高発現する遺伝子に含まれるコドンは、その生物種において使用頻度の高いコドンを多く含んでおり、逆に発現量の低い遺伝子は使用頻度の低いコドンの存在がボトルネックとなって高発現を妨げている例が少なくない。異種遺伝子の発現に際し、その遺伝子配列を宿主生物において使用頻度の高いコドンに置換することで該異種タンパク質発現量が増大した例はこれまでに多数報告されており、このような使用コドンの改変は異種遺伝子発現量の増大に効果があると期待される。
【0057】
上記の理由から、本発明のGDHをコードするDNAは、それが導入される宿主細胞により適したコドン(即ち、該宿主において使用頻度の高いコドン)に改変すること(最適化)が望ましい。各宿主のコドン使用頻度は、該宿主生物のゲノム配列上に存在する全遺伝子における各コドンの使用される割合で定義され、たとえば1000コドンあたりの使用回数で表される。またコドン使用頻度は、その全ゲノム配列の解明されていない生物にあっては代表的な複数遺伝子の配列から近似的に算出することも可能である。組換えようとする宿主生物におけるコドン使用頻度のデータは、例えば(財)かずさDNA研究所のホームページ(http://www.kazusa.or.jp)に公開されている遺伝暗号使用頻度データベースを用いることができ、または各生物におけるコドン使用頻度を記した文献を参照してもよく、あるいは使用する宿主生物のコドン使用頻度データを自ら決定してもよい。入手したデータと導入しようとする遺伝子配列を参照し、遺伝子配列に用いられているコドンの中で宿主生物において使用頻度の低いものを、同一のアミノ酸をコードし使用頻度の高いコドンに置換すればよい。このような使用頻度の高いコドンとしては、例えば宿主が大腸菌K12株である場合にあっては、GlyにはGGTまたはGGC、GluにはGAA、AspにはGAT、ValにはGTG、AlaにはGCG、ArgにはCGTまたはCGC、SerにはAGC、LysにはAAA、IleにはATTまたはATC、ThrにはACC、LeuにはCTG、GlnにはCAG、ProにはCCGなどが挙げられる。
【0058】
標準的な遺伝子工学的手法としては、具体的には、本発明のFGDHが発現される適当な起源微生物より、常法に従ってcDNAライブラリーを調製し、該ライブラリーから、本発明のDNA配列(例えば、配列番号2の塩基配列)に特有の適当なプローブや抗体を用いて所望クローンを選択することにより実施できる〔Proc. Natl. Acad. Sci., USA., 78, 6613(1981)等参照〕。
【0059】
cDNAライブラリーを調整するための起源微生物は、本発明のFGDHを発現する微生物であれば特に制限されないが、好ましくは、タラロマイセス属に分類される微生物である。
【0060】
微生物からの全RNAの分離、mRNAの分離や精製、cDNAの取得とそのクローニング等は、いずれも常法に従って実施することができる。本発明のDNAをcDNAライブラリーからスクリーニングする方法も、特に制限されず、通常の方法に従うことができる。例えば、cDNAによって産生されるポリペプチドに対して、該ポリペプチド特異抗体を使用した免疫的スクリーニングにより対応するcDNAクローンを選択する方法、目的のヌクレオチド配列に選択的に結合するプローブを用いたプラークハイブリダイゼーション、コロニーハイブリダイゼーション等やこれらの組合せ等を適宜選択して実施することができる。
【0061】
DNAの取得に際しては、PCR法またはその変法によるDNA若しくはRNA増幅法が好適に利用できる。殊に、ライブラリーから全長のcDNAが得られ難いような場合には、RACE法、特に5’−RACE法〔M.A. Frohman, et al., Proc. Natl. Acad. Sci., USA., 8, 8998 (1988)〕等の採用が好適である。
【0062】
PCR法の採用に際して使用されるプライマーは、配列番号2の塩基配列に基づいて適宜設計し合成することができる。尚、増幅させたDNA若しくはRNA断片の単離精製は、前記の通り常法に従うことができ、例えばゲル電気泳動法、ハイブリダイゼーション法等によることができる。
【0063】
本発明のDNAを使用することにより、本発明のFGDHを容易に大量に、安定して製造することができる。
【0064】
7.ベクター
本発明のベクターは、上記2.で説明する本発明のFGDHをコードするDNAが組み込まれたベクターである。ここで「ベクター」とは、それに挿入された核酸分子を細胞等のターゲット内へと輸送することができる核酸性分子(キャリアー)であり、適当な宿主細胞内で本発明のDNAを複製可能であり、且つ、その発現が可能である限り、その種類や構造は特に限定されない。即ち、本発明のベクターは発現ベクターである。ベクターの種類は、宿主細胞の種類を考慮して適当なベクターが選択される。ベクターの具体例としては、プラスミドベクター、コスミドベクター、ファージベクター、ウイルスベクター(アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、レトロウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター等)等を挙げることができる。また、糸状菌を宿主とする場合に適したベクターや、セルフクローニングに適したベクターを使用することも可能である。
【0065】
大腸菌を宿主とする場合は、例えば、M13ファージ又はその改変体、λファージ又はその改変体、pBR322又はその改変体(pB325、pAT153、pUC8など)など)を使用することができる。酵母を宿主とする場合は、pYepSec1、pMFa、pYES2等を使用することができる。糸状菌を宿主とするときは、pUN1、pUSC等を使用することができる。昆虫細胞を宿主とする場合は、例えば、pAc、pVL等が使用でき、哺乳類細胞を宿主とする場合は、例えば、pCDM8、pMT2PC等を使用することができるが、これらに限定される訳ではない。
【0066】
発現ベクターは通常、挿入された核酸の発現に必要なプロモーター配列や発現を促進させるエンハンサー配列等を含む。選択マーカーを含む発現ベクターを使用することもできる。かかる発現ベクターを用いた場合には選択マーカーを利用して発現ベクターの導入の有無(及びその程度)を確認することができる。本発明のDNAのベクターへの挿入、選択マーカー遺伝子の挿入(必要な場合)、プロモーターの挿入(必要な場合)等は標準的な組換えDNA技術(例えば、Molecular Cloning, Third Edition, 1.84, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New Yorkを参照することができる、制限酵素及びDNAリガーゼを用いた周知の方法)を用いて行うことができる。
【0067】
8.形質転換体
本発明は、宿主細胞に本発明のDNAが導入された形質転換体に関する。本発明のDNAの宿主への導入手段は特に制限されないが、例えば、上記7.で説明するベクターに組み込まれた状態で宿主に導入される。宿主細胞は、本発明のDNAを発現してFGDHを生産することが可能である限り、特に制限されない。具体的には、大腸菌、枯草菌等の原核細胞や、酵母、カビ、昆虫細胞、植物培養細胞、哺乳動物細胞等の真核細胞等を使用することができる。
【0068】
宿主が原核細胞の場合は、エシェリヒア属、バチルス属、ブレビバチルス属、コリネバクテリウム属などが例として挙げられ、それぞれ、エシェリヒア・コリC600、エシェリヒア・コリHB101、エシェリヒア・コリDH5α、バチルス・サブチリス、ブレビバチルス・チョウシネンシス、コリネバクテリウム・グルタミカムなどが例として挙げられる。また、ベクターとしてはpBR322、pUC19、pBluescriptなどが例として挙げられる。
【0069】
宿主が酵母の場合は、サッカロミセス属、シゾサッカロミセス属、キャンデイダ属、ピキア属、クリプトコッカス属などが例として挙げられ、それぞれ、サッカロミセス・セレビシエ、シゾサッカロミセス・ポンベ、キャンデイダ・ウチリス、ピキア・パストリス、クリプトコッカス・エスピーなどが例として挙げられる。ベクターとしてはpAUR101、pAUR224、pYE32などが挙げられる。宿主が糸状菌細胞である場合は、アスペルギルス属、トリコデルマ属、タラロマイセス属などが例として挙げられ、それぞれ、アスペルギルス・オリゼー、アスペルギルス・ニガー、トリコデルマ・レセイ、タラロマイセス・エスピー等を例示することができる。
【0070】
本発明においては、FGDHが単離されたタラロマイセス・エスピーFKI−2725株を宿主とすることも好ましい。即ち、形質転換体では、通常、外来性のDNAが宿主細胞中に存在するが、DNAが由来する微生物を宿主とするいわゆるセルフクローニングによって得られる形質転換体も好適な実施形態である。
【0071】
本発明の形質転換体は、好ましくは、上記7.に示される発現ベクターを用いたトランスフェクション乃至はトランスフォーメーションによって調製される。形質転換は、一過性であっても安定的な形質転換であってもよい。トランスフェクション及びトランスフォーメーションはリン酸カルシウム共沈降法、エレクトロポーレーション、リポフェクション、マイクロインジェクション、Hanahanの方法、酢酸リチウム法、プロトプラスト−ポリエチレングリコール法、等を利用して実施することができる。
【0072】
本発明の形質転換体は、本発明のFGDHを産生する能力を有するため、それを用いて効率的に本発明のFGDHを製造することが可能となる。
【0073】
9.フラビン結合型グルコース脱水素酵素の製造方法
本発明のFGDHは、典型的には、本発明のFGDHの生産能を有する微生物を培養することで製造される。培養に供される微生物は、本発明のFGDHを産生する能力を有する限り特に制限されず、例えば、上記5.に示すタラロマイセス・エスピーFKI−2725株及び上記8.に示す形質転換体を好適に利用することができる。
【0074】
上記のタラロマイセス・エスピーFKI−2725株は、北里生命科学研究所微生物資源センターに保管された菌株であり、所定の手続を経ることによってその分譲を受けることができる。
【0075】
培養方法及び培養条件は、本発明のFGDHが生産される限り特に限定されない。即ち、FGDHが生産されることを条件として、使用する微生物の生育に適合した方法及び条件を適宜設定できる。以下に、培養条件として、培地、培養温度、及び培養時間を例示する。
【0076】
培地としては、使用する微生物が生育可能な培地であれば、特に制限されない。例えば、グルコース、シュクロース、ゲンチオビオース、可溶性デンプン、グリセリン、デキストリン、糖蜜、有機酸等の炭素源、更に硫酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、あるいは、ペプトン、酵母エキス、コーンスティープリカー、カゼイン加水分解物、ふすま、肉エキス等の窒素源、更にカリウム塩、マグネシウム塩、ナトリウム塩、リン酸塩、マンガン塩、鉄塩、亜鉛塩等の無機塩を添加したものを用いることができる。使用する微生物の生育を促進するためにビタミン、アミノ酸などを培地に添加してもよい。
【0077】
タラロマイセス・エスピーFKI−2725株を培養して本発明のFGDHを得る場合は、その微生物の栄養生理的性質を考慮して培養条件を選択すればよい。多くの場合は液体培養で行い、工業的には通気攪拌培養を行うのが有利である。ただし、生産性を考えた場合に、固体培養で行った方が有利な場合もある。
【0078】
培地のpHは、培養する微生物の生育に適していればよく、例えば約3〜8、好ましくは約5〜7程度に調整し、培養温度は通常約10〜50℃、好ましくは約25〜35℃程度で、1〜15日間、好ましくは1〜7日間程度好気的条件下で培養する。培養法としては例えば振盪培養法、ジャー・ファーメンターによる好気的深部培養法が利用できる。
【0079】
上記のような条件で培養した後、培養液又は菌体よりFGDHを回収することが好ましい。FGDHを菌体外に分泌する微生物を用いる場合は、例えば培養上清をろ過、遠心処理等することによって不溶物を除去した後、限外ろ過膜による濃縮、硫安沈殿等の塩析、透析、各種クロマトグラフィーなどを適宜組み合わせて分離、精製を行うことにより本酵素を得ることができる。タラロマイセス・エスピーFKI−2725株が産生するフラビン結合型グルコース脱水素酵素は基本的に分泌型のタンパク質である。
【0080】
他方、菌体内から回収する場合には、例えば菌体を加圧処理、超音波処理、機械的手法、又はリゾチーム等の酵素を利用した手法等によって破砕した後、必要に応じて、EDTA等のキレート剤及び界面活性剤を添加してFGDHを可溶化し、水溶液として分離採取し、分離、精製を行うことにより本酵素を得ることができる。ろ過、遠心処理などによって予め培養液から菌体を回収した後、上記一連の工程(菌体の破砕、分離、精製)を行ってもよい。
【0081】
精製は、例えば、減圧濃縮、膜濃縮、さらに硫酸アンモニウム、硫酸ナトリウムなどの塩析処理、あるいは親水性有機溶媒、例えばメタノール、エタノール、アセトンなどによる分別沈殿法により沈殿処理、加熱処理や等電点処理、吸着剤あるいはゲルろ過剤などによるゲルろ過、吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー等を適宜組み合わせて実施することができる。
【0082】
カラムクロマトグラフィーを用いる場合は、例えば、セファデックス(Sephadex)ゲル(GEヘルスケア バイオサイエンス社製)などによるゲルろ過、DEAEセファロースCL−6B(GEヘルスケア バイオサイエンス社製)、オクチルセファロースCL−6B(GEヘルスケア バイオサイエンス社製)等を用いることができる。該精製酵素標品は、電気泳動(SDS−PAGE)的に単一のバンドを示す程度に純化されていることが好ましい。
【0083】
なお、培養液からのグルコース脱水素酵素活性を有するタンパク質の採取(抽出、精製など)にあたっては、グルコース脱水素酵素活性、マルトース作用性、熱安定性などのうちいずれか1つ以上を指標に行ってもよい。
【0084】
各精製工程では原則としてGDH活性を指標として分画を行い、次のステップへと進む。但し、予備試験などによって、適切な条件を予め設定可能な場合にはこの限りでない。
【0085】
組換えタンパク質として本酵素を得ることにすれば種々の修飾が可能である。例えば、本酵素をコードするDNAと他の適当なDNAとを同じベクターに挿入し、当該ベクターを用いて組換えタンパク質の生産を行えば、任意のペプチドないしタンパク質が連結された組換えタンパク質からなる本酵素を得ることができる。また、糖鎖及び/又は脂質の付加や、あるいはN末端若しくはC末端のプロセッシングが生ずるような修飾を施してもよい。以上のような修飾により、組換えタンパク質の抽出、精製の簡便化、又は生物学的機能の付加等が可能である。
【0086】
10.グルコースの測定方法等
グルコースデヒドロゲナーゼを用いたグルコースの測定方法は既に当該技術分野において確立されている。よって、公知の方法に従い、本発明のFGDHを用いて、各種試料中のグルコースの量又は濃度を測定することができる。本発明のFGDHを用いてグルコースの濃度又は量が測定可能である限り、その態様は特に制限されないが、例えば、本発明のFGDHを試料中のグルコースに作用させ、グルコースの脱水素反応に伴う電子受容体(例えば、DCPIP)の構造変化を吸光度で測定することにより実施することができる。より具体的には、上記2.に示す方法に従って、実施することができる。本発明に従った、グルコース濃度の測定は、試料に本発明のFGDHを添加すること、又は添加して混合することにより実施することができる。グルコースを含有する試料は、特に制限されないが、例えば、血液、飲料、食品等を挙げることができる。グルコース濃度又は量の測定が可能である限り、試料に添加する酵素の量はと特に制限されない。
【0087】
11.グルコースアッセイキット
本発明のグルコースアッセイキットは、本発明に従うFGDHを少なくとも1回のアッセイに十分な量で含む。典型的には、本発明のFGDH、緩衝液、メディエーターなど測定に必要な試薬、キャリブレーションカーブ作製のためのグルコース標準溶液、ならびに使用の指針を含む。本発明のキットは、例えば、凍結乾燥された試薬として、または適切な保存溶液中の溶液として提供することができる。また、FGDHを含む試薬中には、安定化剤及び/又は活性化剤としてウシ血清アルブミン、セリシン等のタンパク質、TritonX−100、Tween20、コール酸塩、デオキシコール酸塩などの界面活性剤、グリシン、セリン、グルタミン酸、グルタミン、アスパラギン酸、アスパラギン、グリシルグリシン等のアミノ酸、トレハロース、イノシトール、ソルビトール、キシリトール、グリセロール、スクロース等の糖及び/又は糖アルコール類、塩化ナトリウム、塩化カリウム等の無機塩類、さらにはプルラン、デキストラン、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース、ポリグルタミン酸などの親水性ポリマーを適宜添加してもよい。
【0088】
12.グルコースセンサ
本発明に従うFGDHを用いるグルコースセンサは、電極としては、カーボン電極、金電極、白金電極などを用い、この電極上に本発明の酵素を固定化する。固定化方法としては、架橋試薬を用いる方法、高分子マトリックス中に封入する方法、透析膜で被覆する方法、光架橋性ポリマー、導電性ポリマー、酸化還元ポリマーなどを用いる方法があり、NADもしくはNADPといった補酵素、あるいはフェロセンあるいはその誘導体に代表される電子メディエーターとともにポリマー中に固定あるいは電極上に吸着固定してもよく、またこれらを組み合わせて用いてもよい。典型的には、グルタルアルデヒドを用いて本発明のFADGDHをカーボン電極上に固定化した後、アミン基を有する試薬で処理してグルタルアルデヒドをブロッキングすることができる。使用する電子メディエーターとしては、GDHの補酵素であるFADから電子を受け取り、発色物質や電極に電子を供与しうるものが挙げられ、たとえばフェリシアン化物塩、フェナジンエトサルフェート、フェナジンメトサルフェート、フェニレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルフェニレンジアミン、1−メトキシ−フェナジンメトサルフェート、2,6−ジクロロフェノールインドフェノール、2,5−ジメチル−1,4−ベンゾキノン、2,6−ジメチル−1,4−ベンゾキノン、2,5−ジクロロ−1,4−ベンゾキノン、ニトロソアニリン、フェロセン誘導体、オスミウム錯体、ルテニウム錯体等が例示されるが、これらに限定されない。また、電極上のGDH組成物中には、安定化剤及び/又は活性化剤としてウシ血清アルブミン、セリシン等のタンパク質、TritonX−100、Tween20、コール酸塩、デオキシコール酸塩などの界面活性剤、グリシン、セリン、グルタミン酸、グルタミン、アスパラギン酸、アスパラギン、グリシルグリシン等のアミノ酸、トレハロース、イノシトール、ソルビトール、キシリトール、グリセロール、スクロース等の糖及び/又は糖アルコール類、塩化ナトリウム、塩化カリウム等の無機塩類、さらにはプルラン、デキストラン、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース、ポリグルタミン酸などの親水性ポリマーを含んでもよい。
【0089】
センサーを用いたグルコース濃度の測定は、以下のようにして行うことができる。恒温セルに緩衝液を入れ、一定温度に維持する。メディエーターとしては、フェリシアン化カリウム、フェナジンメトサルフェートなどを用いることができる。作用電極として本発明のFGDHを固定化した電極を用い、対極(例えば白金電極)および参照電極(例えばAg/AgCl電極)を用いる。カーボン電極に一定の電圧を印加して、電流が定常になった後、グルコースを含む試料を加えて電流の増加を測定する。標準濃度のグルコース溶液により作製したキャリブレーションカーブに従い、試料中のグルコース濃度を計算することができる。
【0090】
以下に、本発明を実施例により具体的に説明する。以下の実施例の記載はいかなる面においても本発明を限定しない。
【実施例】
【0091】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0092】
<実施例1>
タラロマイセス・エスピーFKI−2725株からのGDHの取得
50mLのYPD培地(0.5重量%酵母エキス、1重量%ペプトン、2重量%グルコース)を500mL坂口フラスコに入れ、オートクレーブで滅菌し、前培養用の培地を調製した。予めDPプレート培地で復元したタラロマイセス・エスピーFKI−2725株を前培養培地に一白金耳植菌し、25℃、180rpmで3日間振とう培養し、種培養液を得た。
【0093】
次に、6.0Lの生産培地(酵母エキス3.0重量%、グルコース重量3.0%、pH6.0)を10L容ジャーファーメンターに入れ、オートクレーブで滅菌し、本培養培地を調製した。50mLの種培養液を本培養培地に植菌し、培養温度25℃、攪拌速度350rpm、通気量2.0L/分、管内圧0.2MPaの条件で3日間培養した。その後、培養液を3Lまで濃縮し、粗酵素液を得た。
【0094】
粗酵素液に40%飽和になるように硫酸アンモニウムを徐々に添加し、予め40%飽和の硫酸アンモニウムを含む50mMリン酸カリウム緩衝液(pH6.0)で平衡化した500mLのPSセファロースFastFlow(GEヘルスケア製)カラムにかけ、50mMリン酸緩衝液(pH6.0)のリニアグラジエントで溶出させた。溶出されたGDH画分を分画分子量10,000の中空糸膜(スペクトラムラボラトリーズ製)で濃縮後、50mMリン酸カリウム緩衝液(pH6.0)で平衡化したSuperdex G25(GEヘルスケア製)カラムにかけ、脱塩を実施した。その後、脱塩した画分を、50mMリン酸カリウム緩衝液(pH6.0)で平衡化したDEAEセファロースFast Flow(GEヘルスケア製)カラムにかけ、夾雑タンパクのみを吸着させた。そして、得られた画分を40%飽和の硫酸アンモニウムを含む50mMリン酸カリウム緩衝液(pH6.0)で平衡化した50mLのResorce Phe(GEヘルスケア製)カラムにかけ、50mMリン酸緩衝液(pH6.0)のリニアグラジエントで溶出させた。さらに、溶出した画分をSuperdex S−200(GEヘルスケア製)カラムにかけ、精製酵素を得た。以下、得られた精製GDHを「Tas−GDH」とも表する。
【0095】
<実施例2>
温度依存性
実施例1で得られたTas−GDHについて上記2.に示したFADGDHの活性測定法に従い、5℃、25℃、37℃での活性を測定した。酵素濃度については最終濃度が17μg/mlとなるように調整した。
【0096】
<比較例1>
特許文献2の配列番号4のアミノ酸配列を麹菌で組み替え産生し、精製した酵素について上記2.に示したFADGDHの活性測定法に従い、5℃、25℃、37℃での活性測定を行った。酵素濃度については最終濃度3.8μg/mlとなるように調整した。
【0097】
<比較例2>
特許文献1の配列番号1のアミノ酸配列を酵母で組み替え産生し、精製した酵素を比較例2として調製し、上記2.に示したFADGDHの活性測定法に従い、5℃、25℃、37℃での活性測定を行った。酵素濃度については最終濃度4.7μg/mlで統一した。
【0098】
実施例2、比較例1、及び比較例2の測定結果、及び5℃での酵素活性の25℃及び37℃での酵素活性に対する相対値を表1に示す。
【0099】
【表1】
【0100】
表1に示される通り、実施例1で得られたTas−GDHが5℃において高い活性を有していることが確認された。
【0101】
<実施例3>
温度安定性
実施例1で得られたTas−GDHの温度安定性を調べた。50mMリン酸カリウム緩衝液(pH6.0)に2U/mlとなるようにTas−GDHを添加し、各温度(4℃、40℃、45℃、50℃、55℃、60℃)で15分間維持した後、上記2.に示したFADGDH活性測定方法を用いてGDH活性を測定し、処理前のGDH活性と比較して残存率を求めた。結果を
図1に示す。
【0102】
その結果、Tas−GDHは、4℃〜45℃の範囲の温度での処理した場合、90%以上の残存率を有していた。以上から、Tas−GDHは、45℃までの加温処理で実質的な失活が起こらないことが確認された。
【0103】
<実施例4>
pH依存性
実施例1で得られたTas−GDHの至適pHを調べた。100mM酢酸カリウム緩衝液(pH5.0−5.5、
図2中■印でプロット)100mM MES−NaOH緩衝液(pH5.5−6.4、
図2中□印でプロット)、100mM リン酸カリウム緩衝液(pH6.3−7.8、
図2中▲でプロット)、100mMTris−HCl緩衝液(pH7.0−8.0、
図2中△印でプロット)を用いた。それぞれのpHにおける37℃での活性を測定し、最も高い活性値を基準(100%)として、各pHにおける相対活性を求めた。結果を
図2に示す。
【0104】
その結果、Tas−GDHの至適活性pHは、リン酸カリウム緩衝液を使用した場合のpH6.3であった。また、pH6.3〜7.0の範囲で、pH6.3における活性を100%とした場合と比較して90%以上の相対活性を示した。以上のことから、Tas−GDHの至適活性pHはpH6.3〜7.0であることが確認された。
【0105】
<実施例5>
pH安定性
実施例1で得られたTas−GDH酵素液(2U/mL)を用いて、pH安定性を調べた。100mM Glycine−NaOH緩衝液(pH2.5−3.5、図中■でプロット)、100mM 酢酸カリウム緩衝液(pH3.5−pH5.5:
図3中□印でプロット)、100mM MES−NaOH緩衝液(pH5.5−pH6.5:
図3中▲印でプロット)、100mM リン酸カリウム緩衝液(pH6.0−pH8.0:
図3中△印でプロット)、100mM Tris−HCl緩衝液(pH7.5−pH9.0:
図3中●印でプロット)を用い、25℃、16時間、各緩衝液中で酵素を維持した後のグルコースを基質とした場合の活性を測定した。処理後の活性値と処理前の同じ緩衝液中での活性値を比較し、残存活性率を求めた。結果を
図2に示す。
【0106】
その結果、改変型FADGDHは、pH3.5〜pH6.5の範囲で90%以上の活性残存率であった。以上のことから、改変型FADGDHの安定pH域はpH3.5〜pH6.5であることが確認された。
【0107】
<実施例6>
基質特異性
実施例1で得られたTas−GDHについて上記2.に示したFADGDHの活性測定法に従い、D−グルコース、マルトース、D−ガラクトース、D−キシロースを基質とした場合の活性を測定した。D−グルコースを基質とした場合の活性を100%とし、それと比較した他の糖に対する活性を求めた。各糖の濃度は200mMとした。結果を表2に示す。なお、酵素濃度は、グルコースに対する活性を測定した場合は最終濃度10μg/mlとなるように調製し、他の糖に対する活性を測定した場合は、最終濃度1mg/mlとなるように調製した。結果を表2に示す。
【0108】
【表2】
【0109】
<実施例7>
SDS−PAGEによる分子量の推定
実施例1で得られたTas−GDHについて100℃、10分間、加熱処理して変性させた後、5Uのエンドグリコシダーゼ(Endo H:ニューイングランドバイオラボ社製)で37℃、1時間処理し、タンパク質に付加している糖鎖を分解した。次に、糖鎖を分解した酵素について、Nu−PAGE 4−12% Bis−Tris Gel(Invitrogen社製)を用いたSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動を行った。その結果、主に55kDaにバンドが見られたため、それのバンドをゲルから切り出し、トリプシンで消化させた後LC/MS/MS解析による消化断片の分子量測定、およびMASCOT解析によるタンパク質の同定を行った。結果、55kDaのバンドから得られるペプチドが既知のFAD依存型GMCオキシドレダクターゼ様タンパク質と高いヒット率を示したため、このバンドがGDHであると推定した。
【0110】
<実施例8>
GDH遺伝子の取得
(1)Total―RNAの調製
タラロマイセス・エスピー・FKI−2725株をGDH生産培地(酵母エキス3.0重量%、グルコース3.0重量%、pH6.0)60mLに接種し、2日間、25℃で振とう培養した。この培養液を濾紙濾過し、菌糸体を回収した。得られた菌糸体を液体窒素中で凍結させ、乳鉢を用いて粉砕した。次いで、ホットフェノール法により、粉砕した菌糸体からTotal―RNAを得た。
【0111】
(2)部分アミノ酸配列の決定
実施例1で得られた精製Tas−GDHについてNu−PAGE 4−12% Bis−Tris Gel(Invitrogen社製)を用いたSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動を行った。電気泳動後のゲルをSimply Blue Safe Stain(Invitrogen社製)を用いて染色し、当該酵素の分子量に相当するバンド部分を切り出した。切り出したゲル断片を外部機関に委託し、その中に含まれるタンパク質の内部アミノ酸配列情報を取得した。その結果、得られたアミノ酸配列は、MVGFTVHPDTLDR(配列番号3)およびAYYWPYEAR(配列番号4)であった。
【0112】
(3)遺伝子配列の決定
上記の部分アミノ酸配列情報に基づき、ミックス塩基を含有するディジェネレートプライマーを作製した。上記(1)にて調製したタラロマイセス・エスピー・FKI−2725株のTotal−RNAをテンプレートとし、Smarter RACE cDNA Amplification kit(クロンテック社製)を用いて、そのプロトコールに従ってRT−PCRを行った。反応液をアガロースゲル電気泳動に供したところ、100bp程度の長さに相当するシングルバンドが確認された。このバンドに含まれる増幅DNA断片を精製し、Target clone−plus−(東洋紡社製)を用いて、pTA2(東洋紡社製)に前記増幅DNA断片をライゲーションすることにより、組換えプラスミドpTA−Th2725GDHpartialを構築した。
【0113】
次いで、得られたpTA−Th2725GDHpartialを用い、公知のヒートショック法により大腸菌DH5αコンピテントセル(東洋紡社製)を形質転換した。得られた形質転換体からMagExtractor−Plasmid−(東洋紡社製)を用いてプラスミドを抽出・精製し、プラスミド中に含まれる前記増幅DNA断片の塩基配列を決定した(111bp)。
【0114】
得られた前記増幅DNA断片の配列情報を元に、Smarter RACE cDNA Amplification kit(クロンテック社製)を用いて3’側及び5’側のGDH遺伝子未知領域を決定した。いずれも各キットのプロトコールに従い、3’RACE、及び5’RACEを行った。前記の方法に従って得られた複数のプラスミド中に含まれるDNA断片の塩基配列解析を行った結果、配列番号2に示す全鎖長1782bpのタラロマイセス・エスピー・FKI2725株由来GDH遺伝子配列が明らかとなった。当該遺伝子配列により予測した当該酵素遺伝子のアミノ酸配列を配列番号1に示す。
【0115】
<実施例9>
GDH遺伝子の組換え発現
実施例2で明らかにしたタラロマイセス・エスピーFKI−2725株由来FGDH遺伝子(配列番号2)をかずさDNA研究所提供のコドンユーセージデータベース(http://www.kazusa.or.jp/codon/)内の、サッカロマイセス・セレビシエ コドンユーセージテーブル(http://www.kazusa.or.jp/codon/cgi−bin/showcodon.cgi?species=4932)を元にコドンユーセージの至適化を行い、至適化遺伝子配列を取得した(配列番号
5)。配列番号
5では、SignalPにより輸送シグナルであることが予測された16アミノ酸残基分のDNAを除去すると共に、後の制限酵素処理のため制限酵素サイトを付加している。配列番号
5に示される塩基配列を有するポリヌクレオチドを、外部機関に合成依頼し、pUCベクターに接続されたサッカロマイセス・セレビシエコドンユーセージ至適化遺伝子を取得した(pUC−Th2725GDH−Sc)。pUC−Th2725GDH−Scを制限酵素KpnI及びNotIで処理し、遺伝子領域を含むDNA断片を取得し、同じく制限酵素KpnI及びNotIで処理したベクターpYES3(インビトロジェン社)と混合し、混合液と等量のライゲーション試薬(東洋紡製ラーゲーションハイ)を加えてインキュベーションすることにより、ライゲーションを実施した。このように、ライゲーションしたDNAをコンピテントハイDH5α(東洋紡製)に当製品に添付のプロトコールに従ってそれぞれ形質転換した。得られた形質転換体をLB培地で培養し、プラスミド(pYES3TasGDH)を抽出した。これを用いて、サッカロミセス・セレビシエINVSc1(インビトロジェン社)を定法で形質転換を実施した。
【0116】
次に得られた形質転換体を、1重量%酵母エキス、5重量%ポリペプトン、及び5重量%ガラクトースを含む培地で20℃にて72時間培養し、培養液を12000rpmにて5分間遠心することで菌体を取得した。菌体に50mMリン酸緩衝液pH6.0を1mL添加し、ボルテックスで十分に懸濁した。懸濁液に少量のガラスビーズを加えた後、ビーズショッカー(安井器械(株)製)で3,000rpm、2分間×2回の条件で破砕し、4℃、2,000×g、5分間の条件で遠心分離して、培養上清を粗酵素液として得た。得られた粗酵素液の活性を上記2.に示す方法に従って測定したところ、0.740 U/mlのGDH活性が確認された。