(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6342197
(24)【登録日】2018年5月25日
(45)【発行日】2018年6月13日
(54)【発明の名称】燃料蒸気処理器
(51)【国際特許分類】
F02M 25/08 20060101AFI20180604BHJP
【FI】
F02M25/08 311H
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-71497(P2014-71497)
(22)【出願日】2014年3月31日
(65)【公開番号】特開2015-194088(P2015-194088A)
(43)【公開日】2015年11月5日
【審査請求日】2017年3月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129643
【弁理士】
【氏名又は名称】皆川 祐一
(72)【発明者】
【氏名】田中 憲喜
(72)【発明者】
【氏名】山田 博嗣
【審査官】
齊藤 公志郎
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−240638(JP,A)
【文献】
特開平08−210530(JP,A)
【文献】
特開平06−241131(JP,A)
【文献】
特開2009−068350(JP,A)
【文献】
特開2005−247151(JP,A)
【文献】
米国特許第04058380(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02M 25/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の燃料を貯留する燃料タンク内で発生した燃料蒸気を処理するための燃料蒸気処理器であって、
燃料蒸気を吸着する吸着剤が充填された処理器本体と、
前記処理器本体に設けられ、前記処理本体内と前記燃料タンクとを連通するためのエミッションポートと、
前記処理器本体に設けられ、前記処理器本体内から燃料をパージするためのパージポートと、
前記処理器本体から上方に延び、前記処理器本体内と連通し、上端が大気に開放された大気開放管と、
前記大気開放管に上方から覆い被さり、前記大気開放管の上端と間隔を空けて対向する上壁部および前記大気開放管の側方を取り囲む側壁部を有するキャップと
を含み、
前記キャップの前記側壁部には、前記大気開放管の上端よりも低い位置に、空気取入口が貫通して形成され、
前記キャップの前記上壁部には、前記上壁部から前記大気開放管と前記空気取入口との間に延び、下端が上下方向において前記空気取入口と同じ位置または前記空気取入口よりも低い位置に位置する障壁が形成され、
前記処理器本体の上面には、前記キャップの側方において、上方に突出する凸部が形成されており、
前記空気取入口は、前記凸部に臨む位置に形成されている、燃料蒸気処理器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料蒸気を処理するための燃料蒸気処理器に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関を搭載した車両には、燃料タンク内で発生した燃料蒸気が大気に放出されることを抑制するために、その燃料蒸気を吸着して一時的に蓄えることが可能なチャコールキャニスタが備えられている。
【0003】
チャコールキャニスタ内には、チャコール(活性炭)が充填されている。また、チャコールキャニスタには、燃料タンクから燃料蒸気が流入するエミッションポートと、燃料をパージするためのパージポートと、大気に開放された大気開放ポートとが設けられている。
【0004】
内燃機関の停止時または運転中に、燃料タンク内の燃料が蒸発し、燃料タンク内の圧が一定圧以上に上昇すると、燃料蒸気がエミッションポートを介してチャコールキャニスタ内に流入する。チャコールキャニスタ内に流入した燃料蒸気中の燃料成分は、チャコールに吸着されて、チャコールに一時的に蓄えられる。これにより、燃料蒸気中から燃料成分が除去され、空気がチャコールキャニスタ内から大気開放ポートを通して大気に放出される。
【0005】
一方、内燃機関の運転時には、パージ要求に基づき、内燃機関の吸気系に生じる負圧により、大気開放ポートから外気が取り込まれて、チャコールに蓄えられている燃料が外気とともに、パージポートを通して内燃機関に送られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−152972号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
大気開放ポートが大気に開放されているため、たとえば、車両の冠水路走行時に、大気開放ポートから外気とともに水をチャコールキャニスタ内に吸い込むおそれがある。水がチャコールキャニスタ内に吸い込まれると、チャコールが早期に劣化し、チャコールによる燃料蒸気の吸着性が低下して、燃料蒸気が大気に放出されるおそれがある。また、チャコールキャニスタ内に吸い込まれた水がパージポートを通して内燃機関に流入すると、内燃機関の故障を招くおそれがある。
【0008】
本発明の目的は、燃料蒸気を吸着する吸着剤が充填された処理器本体に水などの液体が入ることを抑制できる、燃料蒸気処理器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の目的を達成するため、本発明に係る燃料蒸気処理器は、内燃機関の燃料を貯留する燃料タンク内で発生した燃料蒸気を処理するための燃料蒸気処理器であって、燃料蒸気を吸着する吸着剤が充填された処理器本体と、処理器本体に設けられ、処理本体内と燃料タンクとを連通するためのエミッションポートと、処理器本体に設けられ、処理器本体内から燃料をパージするためのパージポートと、処理器本体から上方に延び、処理器本体内と連通し、上端が大気に開放された大気開放管と、大気開放管に上方から覆い被さり、大気開放管の上端と間隔を空けて対向する上壁部および大気開放管の側方を取り囲む側壁部を有するキャップとを含み、キャップの側壁部には、大気開放管の上端よりも低い位置に、空気取入口が貫通して形成され、キャップの上壁部には、上壁部から大気開放管と空気取入口との間に延び、下端が上下方向において空気取入口と同じ位置または空気取入口よりも低い位置に位置する障壁が形成されている。
【0010】
この構成によれば、処理器本体内には、燃料蒸気を吸着する吸着剤が充填されている。燃料タンク内で燃料蒸気が発生し、燃料タンク内が一定圧以上に昇圧すると、燃料蒸気がエミッションポートを介して処理器本体内に流入する。処理器本体内に流入した燃料蒸気(燃料成分)は、吸着剤に吸着されて、吸着剤に一時的に蓄えられる。燃料成分が除去された空気は、処理器本体内から大気開放管を通して大気に放出される。
【0011】
内燃機関の運転時には、制御上のパージ要求に基づき、内燃機関の吸気系に生じる負圧により、処理器本体内に大気開放管から空気(外気)が取り込まれる。このとき、吸着剤に蓄えられている燃料は、吸着剤から離脱し、外気とともに、パージポートを介して内燃機関に送られる。
【0012】
大気開放管には、キャップがその上方から覆い被されている。キャップの上壁部は、大気開放管の上端と間隔を空けて対向している。キャップの側壁部は、大気開放管の側方を取り囲んでいる。側壁部には、大気開放管の上端よりも低い位置に、空気取入口が貫通して形成されている。大気開放管と空気取入口との間には、キャップの上壁部から延びる障壁が形成されている。障壁の下端は、上下方向において、空気取入口と同じ位置かそれよりも低い位置に位置している。
【0013】
これにより、内燃機関の作動時に、空気取入口からキャップ内に空気を取り込むことができ、キャップ内に取り込んだ空気を大気開放管を通して処理器本体内に流入させることができる。また、大気開放管にキャップが覆い被されているので、大気開放管の上端から大気開放管内に水などの液体が入ることを抑制できる。さらに、空気取入口からキャップ内に空気とともに水などの液体が入っても、障壁により、その水などの液体が大気開放管の上端とキャップの上壁部との間に流入することを抑制できる。そのため、水などの液体が大気開放管を通して処理器本体内に入ることを抑制できる。その結果、吸着剤の劣化および内燃機関の故障を抑制することができる。
【0014】
キャップの側方において、処理器本体の上面から上方に突出する凸部が形成されている場合、空気取入口は、凸部に臨む位置に形成されていることが好ましい。
【0015】
空気取入口が凸部に臨む位置に形成されているので、空気取入口からキャップ内への空気の流入を阻害することなく、空気取入口からキャップ内に水などの液体が入ることを抑制できる。その結果、水などの液体が大気開放管を通して処理器本体内に入ることを一層抑制できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、水などの液体が大気開放管を通して処理器本体内に入ることを抑制できる。その結果、吸着剤の劣化および内燃機関の故障を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態に係るチャコールキャニスタの平面図である。
【
図2】
図1に示される切断面線A−Aにおけるチャコールキャニスタの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下では、本発明の実施の形態について、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0019】
図1は、本発明の一実施形態に係るチャコールキャニスタ1の平面図である。
図2は、
図1に示される切断面線A−Aにおけるチャコールキャニスタ1の断面図である。
【0020】
チャコールキャニスタ1は、内燃機関を搭載した車両に設けられ、燃料タンク内で発生した燃料蒸気が大気に放出されることを抑制するために、その燃料蒸気を吸着して一時的に蓄えるものである。
【0021】
チャコールキャニスタ1は、キャニスタ本体2、凸部3、エミッションポート4、パージポート5、大気開放ポート6、大気開放管7およびキャップ8を備えている。
【0022】
キャニスタ本体2は、中空の略直方体形状に形成されている。キャニスタ本体2内には、燃料蒸気を吸着する吸着剤としてのチャコール(活性炭)9が充填されている。
【0023】
凸部3は、キャニスタ本体2と一体に形成されている。凸部3は、キャニスタ本体2の上面において、その上面の長手方向の一方側に片寄った位置に設けられ、キャニスタ本体2の上面から上方に突出する円柱状の外形を有している。
【0024】
エミッションポート4は、凸部3と一体に形成されている。エミッションポート4は、凸部3の上面の中央を貫通して、凸部3の内外に延びる管状をなしている。エミッションポート4における凸部3の外部に突出した外側部分は、途中部で屈曲し、キャニスタ本体2の上面と平行をなして延びている。この外側部分には、燃料タンク内と連通するエミッション管(図示せず)の一端部が外嵌される。エミッションポート4における凸部3内に収容される部分は、キャニスタ本体2に向けて直線状に延びている。エミッションポート4内は、キャニスタ本体2内と連通している。
【0025】
パージポート5は、凸部3の側方において、上下方向に延び、途中部で屈曲し、キャニスタ本体2の上面と平行をなして延びる管状に形成されている。パージポート5の先端部には、内燃機関の吸気系と連通するパージ管(図示せず)の一端部が外嵌される。パージポート5内は、キャニスタ本体2内と連通している。
【0026】
大気開放ポート6は、キャニスタ本体2と一体に形成されている。大気開放ポート6は、凸部3の側方において、上下方向に延びる管状に形成されている。大気開放ポート6内は、キャニスタ本体2内と連通している。
【0027】
大気開放管7は、その下端部が大気開放ポート6に外嵌されて、大気開放ポート6の上方に延びている。大気開放管7の上端71は、上方に向けて開放されている。
【0028】
キャップ8は、大気開放管7に上方から覆い被さっている。キャップ8は、凸部3と干渉しない形状をなし、大気開放管7の上端71と間隔を空けて対向する上壁部81と、上壁部81から垂下し、大気開放管7の側方を取り囲む筒状の側壁部82とを一体的に備えている。
【0029】
側壁部82の凸部3側に配置される凸部側部分83は、凸部3の外側面と間隔を空けて対向している。凸部側部分83には、大気開放管7の上端71よりも低い位置に、空気取入口84が貫通して形成されている。また、凸部側部分83の下端とキャニスタ本体2の上面との間には、排水口86が形成されている。
【0030】
そして、上壁部81の下面には、大気開放管7と凸部側部分83との間に、板状の障壁85が上壁部81と一体に形成されている。障壁85は、上壁部81の下面から下方に延び、その下端が上下方向において空気取入口84よりも低い位置に位置している。
【0031】
以上の構成によれば、燃料タンク内で燃料蒸気が発生し、燃料タンク内が昇圧すると、燃料蒸気がエミッションポート4を介してキャニスタ本体2内に流入する。キャニスタ本体2内に流入した燃料蒸気(燃料成分)は、チャコール9に吸着されて、チャコール9に一時的に蓄えられる。燃料成分が除去された空気は、キャニスタ本体2内から大気開放ポート6および大気開放管7を通して大気に放出される。
【0032】
内燃機関の運転時には、制御上のパージ要求に基づき、内燃機関の吸気系に生じる負圧により、キャニスタ本体2内に大気開放管7から空気(外気)が取り込まれる。このとき、チャコール9に蓄えられている燃料は、チャコール9から離脱し、外気とともに、パージポート5を介して内燃機関に送られる。
【0033】
大気開放管7には、キャップ8がその上方から覆い被されている。キャップ8の上壁部81は、大気開放管7の上端と間隔を空けて対向している。キャップ8の側壁部82は、大気開放管7の側方を取り囲んでいる。側壁部82には、大気開放管7の上端よりも低い位置に、空気取入口84が貫通形成されている。大気開放管7と空気取入口84との間には、キャップ8の上壁部81から延びる障壁85が形成されている。障壁85の下端は、上下方向において、空気取入口84の下端縁よりも低い位置に位置している。
【0034】
これにより、内燃機関の作動時に、空気取入口84からキャップ8内に空気を取り込むことができ、キャップ8内に取り込んだ空気を大気開放管7を通してキャニスタ本体2内に流入させることができる。また、大気開放管7にキャップ8が覆い被されているので、大気開放管7の上端から大気開放管7内に水などの液体が入ることを抑制できる。さらに、空気取入口84からキャップ8内に空気とともに水などの液体が入っても、障壁85により、その水などの液体が大気開放管7の上端とキャップ8の上壁部81との間に流入することを抑制できる。そして、側壁部82と障壁85との間を落ちる水などの液体は、凸部3側に開口した排水口86を通して排水される。そのため、水などの液体が大気開放管7を通してキャニスタ本体2内に入ることを抑制できる。その結果、チャコール9の劣化および内燃機関の故障を抑制することができる。
【0035】
また、キャップ8の側方には、キャニスタ本体2の上面から突出する凸部3が形成され、空気取入口84は、凸部3に臨む位置に形成されている。
【0036】
空気取入口84が凸部3に臨む位置に形成されているので、空気取入口84からキャップ8内への空気の流入を阻害することなく、空気取入口84からキャップ8内に水などの液体が入ることを抑制できる。その結果、水などの液体が大気開放管7を通してキャニスタ本体2内に入ることを一層抑制できる。
【0037】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、他の形態で実施することもできる。
【0038】
たとえば、障壁85の下端は、上下方向において、空気取入口84の下端縁よりも低い位置に位置しているとしたが、障壁85は、その下端が空気取入口84の下端縁と上下方向において同じ位置に位置するように形成されていてもよい。障壁85の下端が空気取入口84の下端縁よりも低い位置に位置していると、キャップ8の下側からキャップ8内に水などの液体が入り込んだときに、障壁85と大気開放管7との間に水が入りやすく、それらの間に水などの液体が入ると、その水が大気とともに大気開放管7に吸い込まれるおそれがある。これに対し、障壁85の下端が空気取入口84の下端縁と上下方向において同じ位置に位置する構成では、空気取入口84からキャップ8内に入った水などの液体が大気開放管7に入ることを抑制できながら、キャップ8の下側からキャップ8内への水などの液体の進入に対し、障壁85の下端までの距離を稼ぐことができ、かつ、空気取入口84からその液体を排水することができる。そのため、大気開放管7に水などの液体が入ることを効果的に防ぐことができる。
【0039】
その他、前述の構成には、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0040】
1 チャコールキャニスタ(燃料蒸気処理器)
2 キャニスタ本体(処理器本体)
3 凸部
4 エミッションポート
5 パージポート
7 大気開放管
8 キャップ
9 チャコール(吸着剤)
71 上端(大気開放管の上端)
81 上壁部
82 側壁部
84 空気取入口
85 障壁