特許第6342205号(P6342205)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6342205
(24)【登録日】2018年5月25日
(45)【発行日】2018年6月13日
(54)【発明の名称】積層インダクタの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 41/04 20060101AFI20180604BHJP
   H01F 17/00 20060101ALI20180604BHJP
   H01F 17/04 20060101ALI20180604BHJP
【FI】
   H01F41/04 C
   H01F17/00 D
   H01F17/04 A
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-84574(P2014-84574)
(22)【出願日】2014年4月16日
(65)【公開番号】特開2015-204439(P2015-204439A)
(43)【公開日】2015年11月16日
【審査請求日】2017年3月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000237721
【氏名又は名称】FDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091904
【弁理士】
【氏名又は名称】成瀬 重雄
(72)【発明者】
【氏名】奥田 健二
(72)【発明者】
【氏名】山内 清久
【審査官】 池田 安希子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−278555(JP,A)
【文献】 特開2008−166385(JP,A)
【文献】 特開2002−043163(JP,A)
【文献】 特開平06−283374(JP,A)
【文献】 特開2011−103343(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 41/04
H01F 17/00
H01F 17/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スクリーン印刷によって、コイルの一部形状をなす導電パターンおよびその周囲の電気絶縁性の磁性体層が印刷された印刷部を順次積層する工程を繰り返すことにより、上記磁性体中に上記印刷方向に重畳しながら螺旋状に周回するコイルを形成させる積層インダクタの製造方法において、
上記導電パターンの印刷個所を除いて上記磁性体層を少なくとも2層印刷し、次いで上記導電パターンを、上記印刷個所に、当該印刷個所の幅寸法より狭い幅寸法であって上記磁性体層の表面より突出する高さ寸法となるように印刷した後に、上記導電パターンの上面を平面状に押圧して上記印刷個所内に充填することにより上記印刷部を作成し、
上記押圧後の上記導電パターンの上面が上記磁性体層の上面よりも高い場合に、上記導電パターンを上記印刷個所内に充填した後に、さらに上記磁性体層上に、上記導電パターンの上面よりも高い位置まで磁性体層を印刷することを特徴とする積層インダクタの製造方法。
【請求項2】
上記印刷箇所内に充填された上記導電パターンの厚さ寸法が60μm以上であることを特徴とする請求項1に記載の積層インダクタの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクリーン印刷によって磁性体層と導電パターンが積層されることにより磁性体中にコイルが形成された積層インダクタの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電源回路部品の小型化、薄型化の要請に伴い、DC−DCコンバータなどの電源回路に使用されるトランスやチョークコイルとして、積層構造のチップインダクタが開発され実用化されている。
【0003】
このような積層インダクタは、電気絶縁性の磁性層と導体パターンが交互に積層されるとともに、上記導体パターンが積層方向に順次接続されることにより、磁性体中に積層方向に重畳しながら螺旋状に周回するコイルが形成され、当該コイルの両端がそれぞれ引出導体を介して積層体チップ外表面に引き出されたものである。ここで、磁性体としてフェライトが用いられ、磁性層や導体パターンは、スクリーン印刷によって形成されて順次積層されている。
【0004】
図7は、一般的な上記スクリーン印刷による積層インダクタの製造方法を説明するための図で、先ず図7(a)に示すように、印刷用スクリーンを用いてPETのシート20上にAgペーストによってコイルの一部形状を印刷するとともに、その周囲にフェライトを印刷した印刷部21を形成する。
【0005】
次いで、図7(b)に示すように、このようにして得られた印刷パーツ22を、フェライトブロック23上に圧着して転写した後に、図7(c)に示すように、PETのシート20のみを剥がす。そして、以上の工程を順次繰り返して、上記シート20を剥がした印刷部21上に順次複数の印刷部21を順次積層させた後に、脱脂処理して焼成することにより上記積層インダクタが製造される。
【0006】
ところで、近年小型化を要求するモバイル市場においては、使用される電源のスイッチング周波数の上昇、およびその処理性能向上に合わせてインダクタに流す電流値が増加している。これに伴って、高い直流重畳特性、低直流抵抗および低損失化が要求されている。
【0007】
上記低直流抵抗化を図るためには、コイルの断面積を増加させることが有効であるが、当該コイルの幅寸法を大きくすると、磁性体の磁心面積が縮小されるために、結果的に直流重畳特性が劣化してしまうという問題点がある。そこで、コイルの厚さ寸法を大きくして断面積を増加させようとすると、近年の印刷用スクリーンは、厚塗りとは反対に薄く精度を高める方向にあるため、複数回にわたって磁性体層の印刷を行う必要が生じる。
【0008】
図6は、上記コイルの厚さ寸法を増大させるための従来法に基づいた製造工程を示すものである。この製造工程においては、先ず第1回目の印刷工程においてPETのシート20上に導電パターン24を印刷し、次いで第2回目の印刷工程において、その周囲に磁性体層25を印刷した後に、さらに第3回目の印刷工程において、導電パターン24上に導電パターン26を印刷し、第4回目の印刷工程においてその周囲に磁性体層26を印刷することにより上記印刷部21が作成される。
【0009】
上記製造方法によれば、導電パターン24、26を重ね合わせることにより、従来と比較して2倍の厚さ寸法のコイルを製造することができる。
【0010】
しかしながら、上記製造方法によって得られたコイルにおいては、図6中にエリアXで示すように、導電パターン24、26間に磁性体層25が入り込む結果、当該コイルの延在方向両側に沿って、2つの突起部分24a、26aが形成されてしまう。このため、上記突起部分24a、26aに電流が集中し、特に高周波でスイッチングした際に、電流密度が局部的に高まって損失が増大するという問題点があった。
【0011】
また、これを解決するために、第1回目の印刷工程において、一度に導電パターン24、26の厚さ寸法の導電パターンを印刷しようとすると、上述した汎用の印刷用スクリーンの制約から、磁性体層25、27を印刷することが不可能になるという問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平8−264364号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、汎用の印刷用スクリーンを用いて、容易に高い直流重畳特性、低直流抵抗および低損失化を実現した積層インダクタを製造することができる積層インダクタの製造方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、スクリーン印刷によって、コイルの一部形状をなす導電パターンおよびその周囲の電気絶縁性の磁性体層が印刷された印刷部を順次積層する工程を繰り返すことにより、上記磁性体中に上記印刷方向に重畳しながら螺旋状に周回するコイルを形成させる積層インダクタの製造方法において、上記導電パターンの印刷個所を除いて上記磁性体層を少なくとも2層印刷し、次いで上記導電パターンを、上記印刷個所に、当該印刷個所の幅寸法より狭い幅寸法であって上記磁性体層の表面より突出する高さ寸法となるように印刷した後に、上記導電パターンの上面を平面状に押圧して上記印刷個所内に充填することにより上記印刷部を作成し、上記押圧後の上記導電パターンの上面が上記磁性体層の上面よりも高い場合に、上記導電パターンを上記印刷個所内に充填した後に、さらに上記磁性体層上に、上記導電パターンの上面よりも高い位置まで磁性体層を印刷することを特徴とするものである。
【0016】
さらに、請求項に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、上記印刷箇所内に充填された上記導電パターンの厚さ寸法が60μm以上であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0017】
請求項1〜のいずれかに記載の発明によれば、先行して磁性体層を少なくとも2層印刷し、次いで導電パターンの印刷個所に、導電パターンを上記印刷個所の幅寸法より狭い幅寸法であって上記磁性体層の表面より突出する高さ寸法となるように印刷した後に、さらに上記導電パターンの上面を平面状に押圧して上記印刷個所内に充填しているために、断面積が増大したコイルを得ることができ、よって低直流抵抗化を図ることができる。
【0018】
しかも、当該コイルは、厚さ寸法を大きくすることによって断面積を増大させているために、磁性体の磁心面積の縮小を招くことがなく、高重畳特性を得ることができる。加えて、印刷した導電パターンの上面を平面状に押圧して印刷個所内に充填しているために、形成されたコイルの両側部に突起部分が形成されることがなく、電流密度の局部的な高まりに起因する損失を招くこともない。
【0019】
この結果、汎用の印刷用スクリーンを用いて、容易に高い直流重畳特性、低直流抵抗および低損失化を実現した積層インダクタを製造することができる。
【0020】
また、請求項に記載の発明によれば、導電パターンを印刷個所内に充填した後に、さらに磁性体層上に、上記導電パターンの上面よりも高い位置まで磁性体層を印刷すれば、転写法を用いた場合に後工程における転写性を向上させることができる。
【0021】
なお、本発明は、請求項に記載の発明のように、印刷箇所内に充填された上記導電パターンの厚さ寸法が60μm以上である積層インダクタの製造に適用した場合に、好適である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明に係る積層インダクタの製造方法の一実施形態を説明するための工程図である。
図2】(a)は本発明の一実施形態によって作成された印刷部の横断面図、(b)は従来法に基づく製造方法によって作成された印刷部の横断面図である。
図3】本発明の実施例に用いた本発明品と従来工法品との緒元を示す図表である。
図4】本発明品および従来工法品における電流密度分布のシミュレーション結果を示す図である。
図5】上記実施例の結果を示すQ−f特性のグラフである。
図6】従来法に基づいた積層インダクタの製造方法の要部を示す工程図である。
図7】一般的なスクリーン印刷による積層インダクタの製造方法の工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面に基づいて本発明に係る積層インダクタの製造方法の一実施形態について説明する。
この積層インダクタの製造方法も、スクリーン印刷によって、シート上にコイルの一部形状をなす導電パターンおよびその周囲の電気絶縁性の磁性体層が印刷された印刷部を作成し、上記印刷部を転写して上記シートを剥がす工程を順次繰り返すことにより、上記磁性体中に上記転写方向に重畳しながら螺旋状に周回するコイルを形成させるものであるが、特に上記印刷部を作成する方法に特徴がある。
【0024】
図1は、上記印刷部を作成する際の工程を示すもので、この製造工程においては、先ず第1回目の印刷工程において、PETのシート20上に導電パターンの印刷個所Sを除いて磁性体層1を印刷し、次いで第2回目の印刷工程においても、上記磁性体層1の上に磁性体層2を印刷する。
【0025】
このようにして2層の磁性体層1、2を印刷した後に、第3回目の印刷工程において、導電パターンの印刷箇所Sに導電パターン3を印刷する。この際に、導電パターン3を、印刷個所Sの幅寸法より狭い幅寸法であって、かつ磁性体層2の表面より上方に突出する高さ寸法になるように印刷する。
【0026】
そして次に、プレス工程において、平板によって導電パターン3の上面3aを平面状にプレス(押圧)することにより、この導電パターン3を印刷個所内に充填する。ここで、印刷箇所内に充填された導電パターン3の厚さ寸法は、60μm以上である。次いで、第4回目の印刷工程において、磁性体層1、2上に、導電パターン3の上面よりも僅かに高い位置まで磁性体層4を印刷することにより上記印刷部が作成される。
【0027】
以上の構成からなる積層インダクタの製造方法においては、先ず磁性体層1、2を2層印刷し、次いで導電パターンの印刷個所Sに、導電パターン3を印刷個所Sの幅寸法より狭い幅寸法であって磁性体層2の表面より突出する高さ寸法に印刷した後に、さらに導電パターン3の上面を平面状にプレスして印刷個所内に充填している。
【0028】
このため、通常のスクリーン印刷によって製造される積層インダクタと比較して、厚さ寸法が約2倍のコイルを有する積層インダクタを得ることができる。これにより、コイルの断面積を増大させて低直流抵抗化を図ることができる。
【0029】
加えて、図2(a)に示す上記積層インダクタの製造方法によって作成された印刷部と、同図(b)に示す従来法に基づいて作成された印刷部との対比から明らかなように、上記積層インダクタの製造方法によれば、導電パターンの幅寸法Wおよび厚さ寸法Tが同じであっても、断面積をより増大させることができる。
【0030】
ちなみに、図3に示すように、コイル幅が320μmであってコイル厚さが60μmの積層インダクタを、図1に示した本実施形態による製造方法および図6に示した従来法に基づく製造方法によって製造した場合に、従来法に基づいて製造されたコイルの断面積が16580μmであったのに対して、本実施形態によって製造されたコイルの断面積は、これよりも大きい17745μmであった。
【0031】
また、従来法に基づいて製造されたコイルの直流抵抗値は、45.0mΩであったのに対して、本実施形態によって製造されたコイルの直流抵抗値は、これよりも小さい41.8mΩであった。
【0032】
しかも、本積層インダクタの製造方法によって得られたコイルは、厚さ寸法Tを大きくすることによって断面積を増大させているために、磁性体の磁心面積の縮小を招くことがなく、高重畳特性を得ることができる。さらに、印刷した導電パターン3の上面3aを平面状にプレスして印刷個所S内に充填しているために、図2に見られるように、形成されたコイルの両側部に突起部分が形成されることがない。
【0033】
この結果、図4に示すシミュレーション結果(図中グラデーションが黒から白に向かうにしたがって電流密度が高くなる)に見られるように、従来法に基づいて製造されたコイルにあっては、図中Xで示す突起部分において、電流密度が極めて高くなるのに対して、本実施形態によって製造されたコイルにおいては、このような電流密度が高くなる部分が存在しない。この結果、高周波でスイッチングした場合においても、電流密度が高くなって損失が大きくなることがない。
【0034】
そして、上述した損失が小さいことから、図5に示すように、同じインダクタンスであっても、従来法に基づいて製造されたコイルよりも高いQ−f特性を得ることができる。特に、本願発明の積層インダクタのように、周波数が2〜6MHzの範囲において駆動されるものにあっては、顕著な効果が得られる。
【0035】
このように、上記構成からなる積層インダクタの製造方法によれば、汎用の印刷用スクリーンを用いて、容易に高い直流重畳特性、低直流抵抗および低損失化を実現した積層インダクタを製造することができる。
【0036】
なお、上記実施形態においては、転写法によって印刷部を積層する場合についてのみ説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、転写以外の方法、例えば印刷部の印刷および乾燥を順次繰り返すことにより上記印刷部を積層して行く方法等にも同様に適用することができる。
【符号の説明】
【0037】
1、2 磁性体層
3 導電パターン
3a 上面
20 シート
S 導電パターンの印刷箇所
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7