(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記助触媒の前記可視光応答型光触媒に対する質量比が、0.01質量%以上500質量%以下であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の光触媒複合体材料。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(光触媒複合体材料)
まず、本発明の実施形態である光触媒複合体材料について説明する。
図1は、本発明の実施形態である光触媒複合体材料の態様の一例を示す図であって、斜視図(a)、A部拡大図(b)である。
図1(a)、(b)に示すように、本発明の実施形態である光触媒複合体材料21は、粉末であり、円板状20に集められて配置されている。
【0024】
なお、光触媒複合体材料21は、基板上に光触媒複合体材料膜として形成してもよい。膜としては、光触媒複合体材料21を有している膜であればよく、高分子バインダーに光触媒複合体材料21を分散させた構成としてもよい。つまり、プラスチックや塗装用ペンキ、金属製の製品など様々な材料に混ぜ込んで使用してもよい
基板としては、ガラス基板、無機酸化物基板などを挙げることができる。
成膜方法としては、スピンコーティング法、デッピィング法、キャスト法等の湿式成膜法やスパッタリング法などの乾式製膜法を用いることができる。
【0025】
図2は、本発明の実施形態である光触媒複合体材料の一例を示す図である。
図2に示すように、本発明の実施形態である光触媒複合体材料21は、可視光応答型光触媒31と、可視光応答型光触媒31の表面に担持した助触媒32とからなる。助触媒と担持の態様の一例を示しており、1:1で担持され、助触媒32の可視光応答型光触媒31に対する質量比が10質量%となる一例を示している。
【0026】
可視光応答型光触媒31は、金属酸化物半導体である。前記金属酸化物半導体のバンドギャップが1.4eV以上3.1eV以下である。これにより、可視光で光触媒活性を生じさせることができる。
バンドギャップが3.1eV超では、400nm以上の波長をもつ光が吸収できなくなり、すなわち、400nm以上の波長の可視光線を吸収できないこととなる。
逆に、バンドギャップが1.4eV未満では、安定な光触媒活性を生じさせることができなくなる。標準水素生成電位と標準酸素生成電位の差は1.23Vであり、過電圧も考慮に入れると、助触媒担持前の光触媒のバンドギャップが1.4eV以上必要となるためである。
【0027】
前記金属酸化物半導体の伝導帯のボトムのエネルギー準位から換算した酸化還元電位が0V以上+0.7V以下(vs.SHE,pH=0)である。助触媒担持前の可視光応答型光触媒である金属酸化物の伝導帯のボトムのエネルギー準位から換算した酸化還元電位を0V(vs.SHE,pH=0)より大きくすることにより、電子は酸素の1電子還元反応で消費されないが、助触媒担持により、光触媒金属酸化物の光触媒活性に安定性を付与することができる。
【0028】
伝導帯のボトムのエネルギー準位から換算した酸化還元電位が0V(vs.SHE,pH=0)より小さくなると、酸素の1電子還元反応や水からの水素生成反応が起き、助触媒を担持しないでも可視光応答型光触媒から生じた電子が素早く消費されてしまう可能性がある。
逆に、伝導帯のボトムのエネルギー準位から換算した酸化還元電位が+0.7V(vs.SHE,pH=0)より大きくなると、2電子酸素還元反応も起こりづらくなり、電子の消費が起こりづらい。
【0029】
前記金属酸化物半導体としては、酸化タングステン、ビスマス酸タングステン、酸化鉄、リン酸銀、ビスマス酸バナジウム、モリブテンビスマス酸バナジウム、酸素欠損型酸化チタンを挙げることができる。
【0030】
これらの金属の酸化物は、市販品をそのまま利用してもよく、加工して用いてもよい。
加工して用いる場合としては、例えば、これらの可視光応答型光触媒の金属酸化物に、窒素やクロムイオン等の非金属イオン又は金属イオンを添加して、イオンドープ型にして、金属酸化物として利用してもよい。
【0031】
前記モリブテ
ンビスマス酸バナジウムとしては、モリブテンをドープした化合物、すなわち、モリブテンドープビスマス酸バナジウム又はアルカリ土類金属酸モリブテンとビスマス酸バナジウムの固溶体を挙げることができる。
前記固溶体としては、化学式(AMoO
4)
x(BiVO
4)
1-xで表され、AがMg,Ca,Sr,Ba)のいずれかのアルカリ土類金属であるものを挙げることができる。
これらの金属酸化物半導体は、単独で用いもよいが、2種以上の組み合わせで用いてもよい。
以上の金属酸化物半導体は、バンドギャップが1.4eV以上3.1eV以下、伝導帯のボトムのエネルギー準位から換算した酸化還元電位が0V以上+0.7V以下(vs.SHE,pH=0)の条件を満たす半導体であるので、可視光応答型光触媒として用いることができる。
【0032】
また、前記金属酸化物半導体は、結晶性がよいことが望ましい。これにより、光を有効に利用できる。また、比表面積は0.1m
2g
−1以上であることがよく、好ましくは1m
2g
−1以上であり、より好ましくは10m
2g
−1以上である。これにより、光をより有効に利用できる。
【0033】
前記金属酸化物半導体としては、酸素欠損型酸化チタンを用いることもできるが、他の金属酸化物半導体を酸素欠損型にして用いてもよい。例えば、酸素欠損型のWO
3系としては、W
19O
49を挙げることができる。
【0034】
前記金属酸化物半導体は、金属アルコキシドや金属塩を原料として、ゾルーゲル法、共沈法、スパッタリング法、化学蒸着法、又は水熱合成法のいずれかの方法によって調製することができる。これにより、金属酸化物半導体の光触媒材活性をより高く、粒径を小さくでき、ナノ材料の作製もできる。
【0035】
更にまた、前記金属酸化物半導体に熱処理を行い、還元又は酸化したものを、可視光応答型光触媒として利用してもよい。
例えば、先に記載のいずれかの方法で調整した原料を焼成して利用することもできる。このときの焼成温度は、原料物質が分解して酸化物に転換され、酸化物からなる焼結体が得られる温度であればよく、具体的には100℃以上1200℃以下の温度範囲がよく、より好ましくは300℃以上900℃以下である。
【0036】
助触媒32は、可視光応答型光触媒が生成した電子が酸素などを還元した時に生じる過酸化水素を始めとする活性酸素を可視光応答型光触媒との相互作用により分解する能力を有する。
例えば、生成する活性酸素の主成分である過酸化水素を分解するには、過酸化水素は酸化剤にも還元剤にもなり、電子の供与体、受容体にもなりうる。よって、助触媒は同じく電子の供与体、受容体にもなりうる混合原子価の複合金属酸化物になりやすい材料が好ましい。
具体的には、助触媒32は、鉄系複合金属酸化物、タングステン酸塩、又はそれらの混合体からなる。
【0037】
前記鉄系複合金属酸化物としては、CuFe
2O
4、 CuFeO
2、 FeTaO
4、FeTa
2O
6、FeNbO
4、FeNb
2O
6、FeTiO
3、 Fe
2TiO
4及びFe
2TiO
5を挙げることができる。
【0038】
前記タングステン酸塩としてはFeWO
4、Fe
2(WO
4)
3、MnWO
4、Ce
2(WO
4)
3及びCe(WO
4)
2を挙げることができる。
【0039】
これらの材料を助触媒32として用いることにより、可視光応答型光触媒31である金属酸化物表面に生じた過酸化水素などの消費しづらい活性酸素を除去しやすくできる。その結果、可視光応答型光触媒の電子消費特性を上げ、光触媒酸化特性を向上させることができる。
【0040】
助触媒32には、これらの材料を単独で利用するだけでなく、電子の消費速度を上昇させる第2の助触媒として、Pt、Pdといった貴金属、塩化銅、塩化鉄など塩化金属化合物やアルカリ水酸化物、アルカリ酸化物、アルカリ炭酸塩の1種以上と組み合わせて利用してもよい。
【0041】
助触媒32の可視光応答型光触媒31に対する質量比は、0.01質量%以上500質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上から100質量%以下がより好ましい。
質量比が0.01質量%より小さい場合には、助触媒の担持量が少なすぎ、可視光応答型光触媒が生成した電子を消費した際に生じた過酸化水素を始めとする活性酸素をうまく消費できにくくなり、光触媒活性を十分に発揮できなくなる。
逆に、質量比が500%より大きい場合には、助触媒が光触媒表面を覆い尽くし、光触媒本体まで光が届きづらくなり、光触媒活性の低下をもたらす。
【0042】
図3は、本発明の実施形態である光触媒複合体材料の別の一例を示す図である。助触媒は可視光応答型光触媒に1:1で担持されており、助触媒32の可視光応答型光触媒31に対する質量比が1質量%(a)及び100質量%(b)を示す図である。
図4は、本発明の実施形態である光触媒複合体材料の更に別の一例を示す図であり、助触媒は可視光応答型光触媒に3:1で担持されており、助触媒32の可視光応答型光触媒31に対する質量比が1質量%を示す図である。
【0043】
(光触媒複合体材料の光触媒機構)
図5は、可視光応答型光触媒を単体で用いた場合の光触媒機構の一例を説明する図であって、粒子モデル図(a)とバンド図(b)である。
図5(a)に示すように、可視光が可視光応答型光触媒31の粒子に照射されると、可視光応答型光触媒31のバンドギャップ以上の光が照射されることとなるので、
図5(b)に示すように、可視光応答型光触媒31の価電子帯の電子が伝導帯に励起して、伝導帯に励起電子e
-を形成するとともに、価電子帯にホールh
+を形成する。
【0044】
ホールh
+は酸化力を持っており、有機物質を酸化することができる。一方、励起電子e
-は酸素の還元反応によって消費される。そのため、離別した励起電子e
-とホールh
+が粒子表面付近に移動すると、励起電子が反応物Rを還元物Redに変える還元反応を行い、ホールh
+が別の反応物R’を酸化物Oxに変える酸化反応を行い、光触媒反応を行うことができる。
【0045】
反応の主体となる離別した励起電子e
-とホールh
+は、光触媒反応をしないと、再結合反応する。励起電子e
-の酸素還元反応がうまく進行しないと、励起電子e
-の消費が進まず、励起電子e
-とホールh
+の再結合が増え、光触媒活性が大きく低下する。あるいは失活してしまう。その結果、再結合反応に対する光触媒反応の発生確率が相対的に低くなり、光触媒反応の発生効率が低くなる。
【0046】
また、可視光応答型光触媒31を単独で用いた場合には、空気中の水と酸素を反応させて、過酸化水素を生成する反応を生じさせ、生成した過酸化水素(H
2O
2)が粒子表面の一部または全部を覆う場合を生じさせる。
図6は、可視光応答型光触媒を担体で用いた場合の光触媒機構の一例を説明する図であって、H
2O
2が表面の一部を覆った粒子モデル図である。
この粒子に可視光が照射されると、可視光応答型光触媒31の価電子帯の電子が伝導帯に励起され、励起電子e
-及びホールh
+を形成することはできるが、離別した励起電子e
-とホールh
+がそれぞれ粒子表面付近に移動しても、表面がH
2O
2で覆われているので、還元反応及び酸化反応を行うことができない。
これにより、光触媒反応の発生効率をより低減させる。
【0047】
図7は、本発明の実施形態である光触媒複合体材料の光触媒機構の一例を説明する図である。
図7に示すように、可視光が照射されると、可視光応答型光触媒31の価電子帯の電子が伝導帯に励起され、励起電子e
-及びホールh
+を形成することはでき、離別した励起電子e
-とホールh
+がそれぞれ粒子表面付近に移動した場合に、助触媒に電子の授受がより容易と推測される混合原子価をもちやすい金属からなる複合金属酸化物を選んでいるので、励起電子は素早く助触媒内部にトラップされ、安定に保持される。これにより、離別した励起電子e
―とホールh
+の再結合確率は低減される。また、助触媒に励起電子は、より効率よく還元反応でき、ホールh
+による酸化反応も安定して行うことができる。これらにより、光触媒反応の発生効率は高められる。
その結果、酸化剤にも還元剤にもなり、電子の受容体にも供与体にもなりえる過酸化水素を始めとする未反応の活性酸素を可視光応答型光触媒表面から取り除くことができ、光触媒反応の発生効率をより高めることができる。
【0048】
本発明の実施形態である光触媒複合体材料を光触媒として使用する際には、光触媒複合体材料を室温で用いてもよいが、過酸化水素をより速く消費するために、20〜500℃までの範囲のいずれかの温度に加温してもよい。これにより、可視光応答型光触媒反応を効率的に行うことができ、有害有機物質をより速やかに浄化できる。
【0049】
(光触媒複合体材料の製造方法)
次に、本発明の実施形態である光触媒複合体材料の製造方法について説明する。
図8は、本発明の実施形態である光触媒複合体材料の製造方法の一例を示すフローチャート図である。
図8に示すように、本発明の実施形態である光触媒複合体材料の製造方法は、混合溶液調製工程S1、光触媒複合体材料作成工程S2を有する。
【0050】
(混合溶液調製工程S1)
この工程では、鉄系複合金属酸化物、タングステン酸塩又はそれらの混合体からなる助触媒と、バンドギャップが1.4eV以上3.1eV以下であり、かつ、伝導帯のボトムのエネルギー準位から換算した酸化還元電位が0V以上+0.7V以下(vs.SHE,pH=0)の金属酸化物半導体からなる主触媒を、助触媒/可視光応答型光触媒の比が0.01質量%以上500質量%以下となるようにして、溶媒中に分散して、混合してから、攪拌して、混合溶液を調製する。
【0051】
前記鉄系複合金属酸化物としては、CuFe
2O
4、 CuFeO
2、 FeTaO
4、FeTa
2O
6、FeNbO
4、FeNb
2O
6、FeTiO
3、 Fe
2TiO
4及びFe
2TiO
5を用いることができる。
前記タングステン酸塩としては、FeWO
4、 Fe
2(WO
4)
3、MnWO
4、Ce
2(WO
4)
3及びCe(WO
4)
2を用いることができる。
前記金属酸化物半導体としては、酸化タングステン、ビスマス酸タングステン、酸化鉄、リン酸銀、ビスマス酸バナジウム、モリブテンビスマス酸バナジウム及び酸素欠損型酸化チタンを用いることができる。
【0052】
なお、鉄系複合金属酸化物、タングステン酸塩又はそれらの混合体からなる助触媒を水(溶媒)に分散させて、助触媒懸濁液(助触媒水溶液(スラリー))を調製してから、主触媒の粉末を混合してもよい。
また、水(溶媒)の代わりに、アルコールなどの有機溶媒を用いてもよい。
【0053】
図9は、混合溶液調製工程の一例を示す工程図である。
具体的には、例えば、まず、
図9(a)に示すように、金属酸化物半導体の粉末と、前記助触媒懸濁液(懸濁液スラリー水溶液)を乳鉢に入れる。このとき、(助触媒の質量)/(金属酸化物の質量)が0.01質量%以上500質量%以下となるようにそれぞれの材料の量を調製する。次に、
図9(b)に示すように、乳棒(pestle)で、十分に混ぜ、分散させて、これらを混合する。
【0054】
乳鉢の代わりにビーズミルやボールミルを利用して、材料を分散させることもできる。また、助触媒を水溶液に分散させず、固体のまま、金属酸化物と混ぜ合わせてもよい。
【0055】
(光触媒複合体材料作成工程S2)
この工程では、前記混合溶液を加熱して、光触媒複合体材料を作製する。加熱して、乾燥させて、溶媒を除去することで、助触媒を金属酸化物に担持できる。
前記混合溶液は、例えば、乾燥機等を用い、10℃以上1000℃未満の温度で加熱することが好ましい。これにより、残存した溶媒が気化して、溶媒とともに溶媒中の不純物等を取り除くことができる。
【0056】
なお、前記混合溶液の加熱を120℃以上1000℃以下の高温で行えば、光触媒材料を焼成処理できる。これにより、光触媒材料中の不純物を取り除くことができるとともに、結晶性を向上させることができる。
以上の工程により、金属酸化物の表面に助触媒を担持でき、本発明の実施形態を作製できる。
【0057】
本発明の実施形態である光触媒複合体材料21は、可視光応答型光触媒31と、可視光応答型光触媒31の表面に担持した助触媒32とからなり、可視光応答型光触媒31が、バンドギャップが1.4eV以上3.1eV以下であり、かつ、伝導帯のボトムのエネルギー準位から換算した酸化還元電位が0V以上+0.7V以下(vs.SHE,pH=0)の半導体であり、助触媒32が、鉄系複合金属酸化物、タングステン酸塩又はそれらの混合体からなる構成なので、水溶液に懸濁させても材料の遊離を生じさせず、安定、安全に使用でき、可視光照射下で長寿命な光触媒活性を示し、低価格な光触媒複合体材料を提供できる。また、この材料を用いて、様々な有害な有機物質、非金属無機ガスを効率よく酸化又は還元して分解できる。
【0058】
具体的には、酸素の2電子還元反応、つまり、電子の消費によって生じた過酸化水素は助触媒および助触媒担持光触媒反応により分解でき、光照射時の光触媒の初期活性の低下を抑制し、光触媒活性をより長期間安定化させて、光触媒活性を向上させることができる。その結果、可視光照射下で有機物や非金属の無機物を効率よく酸化あるいは還元することができる。つまり、本発明の実施形態である光触媒複合体材料21によれば、光照射すると短時間で活性を急速に低下させてしまう酸化タングステンを始めとする伝導帯のボトムのエネルギー準位から換算した酸化還元電位が0V(vs.SHE,pH=0)より大きな可視光応答型光触媒の光触媒活性を、助触媒を表面に担持させることで、光触媒活性の低下をより抑制し、活性をより長期間安定化させ、その結果、光触媒活性を向上させることができる。
なお、基板上に膜として形成すれば、安定、安全に使用でき、可視光照射下で長寿命な光触媒活性を示し、低価格な光触媒複合体材料を膜状の配置した基板を、光触媒処理面形状に合わせて容易に配置できる。
【0059】
また、本発明の実施形態である光触媒複合体材料21の光触媒特性に基づく分解反応、酸化反応、または還元反応により除去できる有害物質としては、環境ホルモン、農薬、殺虫剤、カビ、細菌、ウィルス、藻類、環境汚染物質、フロンガス、炭化水素、アルコール、アルデヒド、ケトン、カルボン酸、一酸化炭素、アミン、油、芳香族化合物、有機ハロゲン化合物、窒素化合物、硫黄化合物、有機リン化合物、タンパク質などを挙げることができる。さらに身の回りの汚れの原因となる石鹸や油、手垢、茶渋、台所のシンクのぬめりなども、この固体塩基を被覆した可視光応答型光触媒の光触媒反応により分解することができる。
【0060】
本発明の実施形態である光触媒複合体材料21は、前記金属酸化物半導体が、酸化タングステン、ビスマス酸タングステン、酸化鉄、リン酸銀、ビスマス酸バナジウム、モリブテンビスマス酸バナジウム、酸素欠損型酸化チタンのいずれかである構成なので、これらの材料を主触媒として、水溶液に懸濁させても材料の遊離を生じさせず、安定、安全に使用でき、可視光照射下で長寿命な光触媒活性を示し、低価格な光触媒複合体材料を提供できる。
【0061】
本発明の実施形態である光触媒複合体材料21は、前記モリブテ
ンビスマス酸バナジウムが、ビスマス酸バナジウムにモリブテンをドープした化合物又はアルカリ土類金属酸モリブテンとビスマス酸バナジウムの固溶体である構成なので、これらの材料を主触媒として、水溶液に懸濁させても材料の遊離を生じさせず、安定、安全に使用でき、可視光照射下で長寿命な光触媒活性を示し、低価格な光触媒複合体材料を提供できる。
【0062】
本発明の実施形態である光触媒複合体材料21は、前記固溶体が、化学式(AMoO
4)
x(BiVO
4)
1-xで表され、AがMg,Ca,Sr,Baのいずれかのアルカリ土類金属である構成なので、これらの材料を主触媒として、水溶液に懸濁させても材料の遊離を生じさせず、安定、安全に使用でき、可視光照射下で長寿命な光触媒活性を示し、低価格な光触媒複合体材料を提供できる。
【0063】
本発明の実施形態である光触媒複合体材料21は、前記鉄系複合金属酸化物が、CuFe
2O
4、 CuFeO
2、 FeTaO
4、FeTa
2O
6、FeNbO
4、FeNb
2O
6、FeTiO
3、 Fe
2TiO
4及びFe
2TiO
5の群から選択されるいずれか一の化合物である構成なので、これらの材料を助触媒として、水溶液に懸濁させても材料の遊離を生じさせず、安定、安全に使用でき、可視光照射下で長寿命な光触媒活性を示し、低価格な光触媒複合体材料を提供できる。
【0064】
本発明の実施形態である光触媒複合体材料21は、前記タングステン酸塩が、MnWO
4、Ce
2(WO
4)
3及びCe(WO
4)
2の群から選択されるいずれか一の化合物である構成なので、これらの材料を助触媒として、水溶液に懸濁させても材料の遊離を生じさせず、安定、安全に使用でき、可視光照射下で長寿命な光触媒活性を示し、低価格な光触媒複合体材料を提供できる。
【0065】
本発明の実施形態である光触媒複合体材料21は、助触媒32の可視光応答型光触媒31に対する質量比が、0.01質量%以上500質量%以下である構成なので、水溶液に懸濁させても材料の遊離を生じさせず、安定、安全に使用でき、可視光照射下で長寿命な光触媒活性を示し、低価格な光触媒複合体材料を提供できる。また、この材料を用いて、様々な有害な有機物質、非金属無機ガスを効率よく分解できる。
【0066】
本発明の実施形態である光触媒複合体材料21の製造方法は、鉄系複合金属酸化物、タングステン酸塩又はそれらの混合体からなる助触媒と、バンドギャップが1.4eV以上3.1eV以下であり、かつ、伝導帯のボトムのエネルギー準位から換算した酸化還元電位が0V以上+0.7V以下(vs.SHE,pH=0)の金属酸化物半導体からなる主触媒を、助触媒/可視光応答型光触媒の比が0.01質量%以上500質量%以下となるようにして、溶媒中に分散し、混合してから、攪拌して、混合溶液を調製する工程と、前記混合溶液を加熱して、光触媒複合体材料を作成する工程とを有する構成なので、水溶液に懸濁させても材料の遊離を生じさせず、安定、安全に使用でき、可視光照射下で長寿命な光触媒活性を示し、低価格な光触媒複合体材料を効率よく製造できる。
【0067】
本発明の実施形態である光触媒複合体材料21の製造方法は、前記金属酸化物半導体が、酸化タングステン、ビスマス酸タングステン、酸化鉄、リン酸銀、ビスマス酸バナジウム、モリブテンビスマス酸バナジウム、酸素欠損型酸化チタンのいずれかである構成なので、これらの材料を主触媒として、水溶液に懸濁させても材料の遊離を生じさせず、安定、安全に使用でき、可視光照射下で長寿命な光触媒活性を示し、低価格な光触媒複合体材料を効率よく製造できる。
【0068】
本発明の実施形態である光触媒複合体材料21の製造方法は、前記鉄系複合金属酸化物が、CuFe
2O
4、 CuFeO
2、 FeTaO
4、FeTa
2O
6、FeNbO
4、FeNb
2O
6、FeTiO
3、 Fe
2TiO
4及びFe
2TiO
5の群から選択されるいずれか一の化合物である構成なので、これらの材料を助触媒として、水溶液に懸濁させても材料の遊離を生じさせず、安定、安全に使用でき、可視光照射下で長寿命な光触媒活性を示し、低価格な光触媒複合体材料を効率よく製造できる。
【0069】
本発明の実施形態である光触媒複合体材料21の製造方法は、前記タングステン酸塩がFeWO
4、 Fe
2(WO
4)
3、MnWO
4、Ce
2(WO
4)
3及びCe(WO
4)
2の群から選択されるいずれか一の化合物である構成なので、これらの材料を助触媒として、水溶液に懸濁させても材料の遊離を生じさせず、安定、安全に使用でき、可視光照射下で長寿命な光触媒活性を示し、低価格な光触媒複合体材料を効率よく製造できる。
【0070】
本発明の実施形態である光触媒複合体材料21の製造方法は、前記混合溶液の加熱を、10℃以上1000℃未満の温度で行う構成なので、光触媒複合体材料中の水などの溶媒を含む不純物を除去でき、光照射時の光触媒活性の低下をより抑制し、光触媒活性をより長期化させて、光触媒活性をより向上させた光触媒複合体材料を容易に複合体することができる。
【0071】
本発明の実施形態である光触媒複合体材料及びその製造方法は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で、種々変更して実施することができる。本実施形態の具体例を以下の実施例で示す。しかし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0072】
(実施例1)
10wt%FeWO
4−WO
3を、以下に示す方法を利用して作製した。
まず、FeWO
4(高純度化学社製)を純水中でよく撹拌し、懸濁液(スラリー)を作った。
次に、その懸濁液と酸化タングステンWO
3(和光純薬社製)を十分な時間撹拌し、粉末を得た。粉末の混合比は重量比でFeWO
4:WO
3=10:100であった。
次に、それを70℃で4〜5時間乾燥させて、粉末試料(実施例1試料)を得た。
【0073】
まず、この粉末試料(実施例1試料)の光吸収特性を測定した。
図10は、本測定で得られた吸収スペクトルを示すグラフである。4つの測定結果のうち1つが、実施例1の試料(10%FeWO
4−WO
3)の吸収スペクトルである。
図10に示すように、実施例1試料は約470nm以下の光を強く吸収し、そして470〜800 nm までの可視光も吸収するが、その吸収量は470nm以下よりも非常に弱かった。
【0074】
次に、この粉末試料(実施例1試料)の光触媒活性評価を、2−プロパノール(IPA)ガスの分解試験により、行った。
図11は、光触媒活性評価の装置(a)と、説明図(b)、(c)である。
まず、粉末試料(実施例1試料)0.4gを用意した。
次に、
図11(a)に示すように、500mLの反応容器の内部に、約8cm
2になるように粉末試料(実施例1試料)を置いた。
次に、反応容器内を純空気で置換した。
次に、反応容器内の2−プロパノールガスの濃度が約700〜800ppmになるようにガスを注入した。
次に、光源には300WのXeランプを用い、反応容器の上部面に設けた窓部を通して、カットオフフィルター、水フィルターを用いて、400nm〜530nmの可視光線を約1mWcm
−2で反応容器の粉末試料(実施例1試料)に室温で照射した。
【0075】
図11(b)に示すように、2−プロパノールガスは、反応初期には粉末試料(実施例1試料)の光触媒反応によって、反応中間体のアセトンへと酸化された。2時間光照射後のアセトンの生成量は約42ppmとなった。
さらに、光照射すると、
図11(c)に示すように、アセトンはさらに酸化されて最終生成物である二酸化炭素にまで酸化された。約2日間の光照射後の二酸化炭素の量は約640ppmとなった。
【0076】
(実施例2)
粉末の混合比は重量比でFeWO
4:WO
3=1:1とした他は実施例1と同様にして、FeWO
4をWO
3に担持して、100wt%FeWO
4−WO
3(実施例2試料)を作製した。
【0077】
まず、この粉末試料(実施例2の試料)の光吸収特性を測定した。
図10は、本測定で得られた吸収スペクトルを示すグラフである。4つの測定結果のうち1つが、実施例2試料(100%FeWO
4−WO
3)の吸収スペクトルである。
図10に示すように、実施例2試料は、単独の酸化タングステンとFeWO
4が足し合わせになった吸収スペクトルを示し、約800nmまでの可視光を吸収した。
【0078】
次に、この粉末試料(実施例2試料)の光触媒活性評価を実施例1で示した方法と同じ方法で行った。
最初の2時間の光照射後のアセトンの生成量は約7.2ppmとなった。
さらに、光照射するとアセトンはさらに酸化されて二酸化炭素を生成した。約2日間の光照射後のアセトンおよび二酸化炭素の量はそれぞれ130、13ppmとなった。
【0079】
(実施例3)
粉末の混合比は重量比でMnWO
4(高純度化学社製):WO
3=10:100とした他は実施例1と同様にして、MnWO
4をWO
3に担持して、10wt%MnWO
4−WO
3(実施例3試料)を作製した。
次に、この粉末試料(実施例3試料)の光触媒活性評価を実施例1で示した方法と同じ方法で行った。
最初の2時間の光照射後のアセトンの生成量は27ppmとなった。
さらに、光照射するとアセトンはさらに酸化されて二酸化炭素を生成した。約2日間の光照射後の二酸化炭素の量はそれぞれ82ppmとなった。
【0080】
(実施例4)
実施例1で作った試料をさらに500℃で1時間焼成して、実施例4試料を得た。
【0081】
次に、この粉末試料(実施例4試料)の光触媒活性評価を実施例1で示した方法と同じ方法で行った。
最初の2時間の光照射後のアセトンの生成量は210ppmとなった。
500℃で加熱すると光触媒特性がより高くなった。
【0082】
(実施例5)
粉末の混合比は重量比でFe
2TiO
5(Alfa社製):WO
3=10:100とした他は実施例1と同様にして、Fe
2TiO
5をWO
3に担持して、10wt%Fe
2TiO
5−WO
3(実施例5試料)を作製した。
【0083】
次に、この試料(実施例5の試料)の光触媒活性評価を実施例1で示した方法と同じ方法で行った。
最初の2時間の光照射後のアセトンの生成量は140ppmとなった。
さらに、光照射するとアセトンは酸化されて二酸化炭素を生成した。そして、約1日間の光照射後の二酸化炭素の量は970ppmとなった。
【0084】
(実施例6)
粉末の混合比は重量比でCuFe
2O
4(高純度化学社製):WO
3=10:100とした他は実施例1と同様にして、CuFe
2O
4をWO
3に担持して、10wt%CuFe
2O
4−WO
3(実施例6試料)を作製した。
【0085】
この試料(実施例6試料)の光触媒活性評価を実施例1で示した方法と同じ方法で行った。
最初の2時間の光照射後のアセトンの生成量は68ppmとなった。
さらに、光照射するとアセトンはさらに酸化されて二酸化炭素を生成した。そして、約2日間の光照射後の二酸化炭素の量は340ppmとなった。
【0086】
(実施例7)
10wt%FeTaO
4−WO
3を、以下に示す方法を利用して作製した。
まず、FeTaO
4は科学量論比のFe
2O
3とTa
2O
5を乳鉢でよく混合し、1250℃で5時間焼成することで得た。X線回折装置により、単相のルチル構造をとっていることが確認できた。
そして、粉末の混合比は重量比でFeTaO
4:WO
3=10:100とした他は実施例1と同様にして、FeTaO
4をWO
3に担持して、10wt%FeTaO
4−WO
3(実施例7試料)を作製した。
【0087】
この試料(実施例7試料)の光触媒活性評価を実施例1で示した方法と同じ方法で行った。
最初の2時間の光照射後のアセトンの生成量は99ppmとなった。
【0088】
(実施例8)
粉末の混合比は重量比でFeWO
4:BiVO
4(Alfa社製)=1:100とした他は実施例1と同様にして、FeWO
4をBiVO
4に担持して、1wt%FeWO
4−BiVO
4(実施例8試料)を作製した。
【0089】
次に、この試料(実施例8の試料)の光触媒活性評価を実施例1で示した方法と同じ方法で行った。
最初の2時間の光照射後のアセトンの生成量は4.7ppmとなった。
【0090】
(比較例1)
次に、酸化タングステン(和光純薬社製)を比較例1試料として単独で用いた。
まず、酸化タングステン(比較例1試料:WO
3単独)の光吸収特性を測定した。
図10は、本測定で得られた吸収スペクトルを示すグラフである。4つの測定結果のうち1つが、比較例1の試料(pure WO
3)の吸収スペクトルである。
図10に示すように、酸化タングステン単独(比較例1試料)の吸収スペクトルは、実施例1よりもレッドシフトした。そして、吸収端の立ち上がりは約470nmであった。
【0091】
次に、酸化タングステン(比較例1試料)の光触媒活性評価を実施例1で示した方法と同じ方法で行った。
アセトンの生成速度は光照射時間の増加とともに低下し、特に40分以降の低下が顕著であった。
最初の2時間の光照射後のアセトン生成量は24ppmとなり、実施例1、3〜7に比べて十分に小さかった。
さらに、約2日間の光照射後の二酸化炭素の量は約0ppmとなった。つまり、光触媒反応が遅く実施例1、3、5〜6に比べて光触媒活性が顕著に劣ることとなった。また、約2日間光照射後のアセトンの量は56ppmであり、実施例2と比べても光触媒活性が十分に低いと言える。
【0092】
酸化タングステンの単独(比較例1)の場合は光触媒活性の低下を招いた。
酸化タングステン(比較例1)の光触媒反応では、ホールによってIPAなどの有機物を酸化し、電子は、最初は酸素の2電子還元反応によって酸素を過酸化水素にまで還元することで消費された。また、酸化タングステンは過酸化水素を分解あるいは消費する能力に劣るため、酸化タングステン表面に過酸化水素が蓄積してしまった。その結果、過酸化水素の消費速度が極端に遅いため、光触媒反応で生成した電子が有効に消費されづらくなり、ホールと電子の再結合が非常に起こりやすくなり、光触媒活性が光照射後40分で顕著に見られるように光触媒活性が低下してしまった。
【0093】
一方、過酸化水素は酸化剤にも還元剤にもなり、つまり電子の授受が起きやすい構造であるので、助触媒に混合原子価になりやすいFeWO
4を始めとする前記酸化物を用いると、電子の授受がより起こりやすくなり、過酸化水素の構造が不安定化し反応性が増し、より過酸化水素が消費されやすくなった。その結果、助触媒を担持させた可視光応答型光触媒の電子の消費が進み、表1の実施例1で示すように高い光触媒活性を示した。
【0094】
(比較例2)
次に、FeWO
4(高純度化学社製)を比較例2の試料として単独で用いた。
まず、この試料(比較例2試料:FeWO
4単独)の光吸収特性を測定した。
図10は、本測定で得られた吸収スペクトルを示すグラフである。4つの測定結果のうち1つが、比較例2の試料(pure FeWO
4)の吸収スペクトルである。波長約800nm以下の可視光を多量に吸収できることがわかった。
【0095】
次に、FeWO
4単独(比較例2の試料)の光触媒活性評価を実施例1で示した方法と同じ方法で行った。光触媒実験での光照射条件は400nm〜530nmの可視光が照射されているから、吸収スペクトルから照射される可視光は効率よく吸収されるはずである。
しかし、最初の2時間の光照射後のアセトン生成量の増加量はわずか1ppm未満であった。この値は、実施例1よりも40倍以上低い値であり、FeWO
4単独で用いた場合には、高い光触媒活性が得られなかった。
【0096】
(比較例3)
次に、BiVO
4(Alfa社製)を比較例3の試料として単独で用いた。
光触媒活性評価を実施例1で示した方法と同じ方法で行った。しかし、最初の2時間の光照射後のアセトン生成量の増加量はわずか2ppmであった。この値は、実施例8よりも2倍以上低い値である。実施例8および比較例2、3の結果から、1%FeWO
4を担持することでBiVO
4の光触媒活性を向上させることができると言える。
【0097】
(試験例1)
実施例1で用いた試料(10wt%FeWO
4−WO
3)を用いて、暗所でのIPA分解特性を試験例1として評価した。
しかし、暗所に2時間静置後のアセトン生成量は約2ppm以下とわずかであった。
実施例1と比較例1を比較することにより、光触媒反応によるIPA分解反応が活発化されたか、されなかったかの違いにより、アセトン生成量の相違が生じたと結論できた。
【0098】
図12は、作製した試料の可視光応答光触媒反応によってIPAを分解した時に生じるアセトン生成量の経時変化の材料種類依存性を示す反応初期のグラフである。実施例1(10%FeWO
4−WO
3)、実施例5(10%Fe
2TiO
5−WO
3)と比較例1(WO
3)、比較例2(FeWO
4)の測定結果を示している。
実施例5が最もアセトンを生成した。すなわち、光触媒活性が高く、比較例1、2に比べるとはるかに高い活性を示した。
表1は、作製した各種試料の光触媒特性をまとめた表である。