(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態の図面を参照しながら詳細に説明する。
【0012】
(第1の実施形態)
第1の実施形態に係る信号検出装置は、「所望信号が存在しない」とする仮説H
0と、「所望信号が存在する」とする仮説H
1を設定し、仮説検定により所望信号が存在するとする仮説H
1が採択された場合、「信号検出」と判定する。
【0013】
なお、下記の説明では、背景技術に示したように、センサからの信号に対し、その信号の振幅(信号振幅)の絶対値を取るなどして信号強度に変換し、信号強度に基づいて「信号検出」を判定する例を示すが、センサからの信号に対し、その信号振幅に基づいて「信号検出」を判定するように構成することができる。
【0014】
図1は、第1の実施形態に係る信号検出装置の構成を示すブロック図である。この第1の実施形態に係る信号検出装置は、閾値算出部11、尤度比算出部12、判定部13を備える。
【0015】
上記閾値算出部11は、上限閾値T
Uと下限閾値T
Lを算出する。上記尤度比算出部12は、時系列の信号の順番を表す記号をkとすると、センサからの信号強度に基づいて、評価値としてk番目の尤度比ST(k)を算出する。判定部13は、閾値算出部11からの上限閾値T
Uと下限閾値T
L、尤度比算出部12からの尤度比ST(k)に基づいて、以下の式により判定を行い、判定結果として「信号検出」、「信号不検出」、「保留」のいずれかを選択する。
【数1】
【0016】
図2は、第1の実施形態に係る信号検出装置の処理の流れの具体例を示すフローチャートである。
図2に基づいて、第1の実施形態に係る信号検出装置の処理の流れを説明する。
【0017】
上記閾値算出部11は、第1種の誤り率αと第2種の誤り率βに基づいて、上限閾値T
Uと下限閾値T
Lを算出する(ステップS101)。上限閾値T
Uと下限閾値T
Lは、以下の式で算出される。
【数2】
【0018】
上記尤度比算出部12は、尤度比の初期化のためk−1番目の尤度比ST(k−1)に初期値を設定する(ステップS102)。次に、センサからk番目の信号を入力し(ステップS103)、センサからのk番目の信号強度a(k)に基づいて、k番目の尤度比ST(k)を算出する(ステップS104)。k番目の尤度比ST(k)は、以下の式で算出される。
【数3】
【0019】
ここで、f(・|a
0)は雑音モデルの尤度関数、g(・|a
1)は信号モデルの尤度関数、a
0は雑音モデルの尤度関数のパラメータである信号強度、a
1は信号モデルの尤度関数のパラメータである信号強度を表す。なお、f(・|a
0)とg(・|a
1)は、尤度関数の代わりに、確率密度関数を用いることもできる。
【0020】
また、雑音の信号強度が時間的に変化する場合、k番目の尤度比ST(k)は、k番目の雑音の信号強度a
0(k)を用いて、以下の式で算出するように構成できる。
【数4】
【0021】
上記判定部13は、上記尤度比算出部12からの尤度比ST(k)と上記閾値算出部11からの上限閾値T
Uを比較し(ステップS105)、尤度比ST(k)が上限閾値T
U以上の場合、判定結果を「信号検出」とする(ステップS106)。尤度比ST(k)が上限閾値T
Uよりも小さな場合、尤度比ST(k)と閾値算出部11からの下限閾値T
Lを比較し(ステップS107)、尤度比ST(k)が下限閾値T
L以下の場合、判定結果を「信号不検出」とする(ステップS108)。上記以外の場合、判定結果を「保留」とする(ステップS109)。以後、k+1番目の信号を用いて、ステップS103からの処理が繰り返される。
【0022】
判定結果が「信号検出」または「信号不検出」の場合、上記の判定結果を外部に出力する(ステップS110)。その後、新たな信号検出を行うため、ステップS102からの処理が繰り返される。
【0023】
なお、それぞれの値を対数変換して処理するように構成することができる。この場合、上限閾値T
Uと下限閾値T
Lは、以下の式で算出される。
【数5】
【0024】
対応するk番目の尤度比ST(k)は、以下の式で算出される。
【数6】
【0025】
以上説明したように、第1の実施形態に係る信号検出装置によれば、評価値として時間方向に累積した尤度比を用いて「信号検出」を判定するように構成したので、パルス状ではない所望信号の検出確率を向上させることができる。
【0026】
なお、第1の実施形態に係る閾値算出部11、尤度比算出部12、判定部13の機能は、コンピュータに実現させるプログラムとして構成することができる。
【0027】
(第2の実施形態)
第2の実施形態に係る信号検出装置は、「所望信号が存在する」とする仮説を異なるパラメータが設定された複数の仮説に細分化して、細分化した仮説の検定を行うと共に、これらの結果を総合的に判定し、判定結果として「信号検出」、「信号不検出」、「保留」のいずれかを選択する。以下では、「所望信号が存在しない」とする仮説をH
0、「所望信号が存在する」とする仮説をN(N≧2)個の仮説に細分化し、異なるパラメータを設定したそれぞれの仮説をH
i(1≦i≦N)と呼ぶ。また、それぞれの仮説に対応する信号モデルをi番目のモデルと呼ぶ。
【0028】
図3は、第2の実施形態に係る信号検出装置の構成を示すブロック図である。第2の実施形態に係る信号検出装置は、複数モデル閾値算出部21、複数モデル尤度比算出部22、総合判定部23を備える。
【0029】
上記複数モデル閾値算出部21は、i番目のモデルに対する上限閾値T
U(i)と下限閾値T
L(i)を算出する。上記複数モデル尤度比算出部22は、時系列の信号の順番を表す記号をkとすると、センサからの信号強度に基づいて、評価値としてi番目のモデルに対するk番目の尤度比ST(k,i)を算出する。総合判定部23は、複数モデル閾値算出部21からの上限閾値T
U(i)と下限閾値T
L(i)、複数モデル尤度比算出部22からの尤度比ST(k,i)に基づいて、以下の式により総合的に判定を行い、判定結果として「信号検出」、「信号不検出」、「保留」のいずれかを選択する。
【数7】
【0030】
図4は、第2の実施形態に係る信号検出装置の処理の流れの具体例を示すフローチャートである。
図2に基づいて、第2の実施形態に係る信号検出装置の処理の流れを説明する。
【0031】
上記複数モデル閾値算出部21は、i番目のモデルに対する第1種の誤り率α(i)と第2種の誤り率β(i)に基づいて、i番目のモデルに対する上限閾値T
U(i)と下限閾値T
L(i)を算出する(ステップS201)。上限閾値T
U(i)と下限閾値T
L(i)は、以下の式で算出される。
【数8】
【0032】
上記複数モデル尤度比算出部22は、i番目のモデルに対する尤度比の初期化のため、i番目のモデルに対するk−1番目の尤度比ST(k−1,i)に初期値を設定する(ステップS202)。次に、センサからk番目の信号を入力し(ステップS203)、センサからのk番目の信号強度a(k)に基づいて、i番目のモデルに対するk番目の尤度比ST(k,i)を算出する(ステップS204)。i番目のモデルに対するk番目の尤度比ST(k,i)は、以下の式で算出される。
【数9】
【0033】
ここで、f(・|a
0)は雑音モデルの尤度関数、f(・|a
i)はi番目のモデルにおける信号モデルの尤度関数、a
0は雑音モデルの尤度関数のパラメータである信号強度、a
iはi番目のモデルにおける信号モデルの尤度関数のパラメータである信号強度を表す。具体例として、2つのモデルを用いる場合、信号強度が小さい場合に対応できるように、a
1を雑音モデルの尤度関数のパラメータである信号強度a
0に近い値(但し、a
1>a
0)に設定し、信号強度が通常の場合に対応できるように、a
2をa
1よりも大きな設定することができる。なお、f(・|a
0)とf(・|a
i)は、尤度関数の代わりに、確率密度関数を用いることもできる。
【0034】
また、雑音の信号強度が時間的に変化する場合、i番目のモデルに対するk番目の尤度比ST(k,i)は、k番目の雑音の信号強度a
0(k)を用いて、以下の式で算出するように構成できる。
【数10】
【0035】
上記総合判定部23は、上記複数モデル尤度比算出部22からのi番目のモデルに対する尤度比ST(k,i)と上記複数モデル閾値算出部21からのi番目のモデルに対する上限閾値T
U(i)を比較し(ステップS205)、ST(k,i)≧T
U(i)を満足するモデルが一つでもあった場合、判定結果を「信号検出」とする(ステップS206)。ST(k,i)≧T
U(i)を満足するモデルが一つもない場合、i番目のモデルに対する尤度比ST(k,i)と複数モデル閾値算出部21からのi番目のモデルに対する閾値T
L(i)を比較し(ステップS207)、ST(k,i)≦T
L(i)を満足するモデルが一つでもあった場合、判定結果を「信号不検出」とする(ステップS208)。上記以外の場合、判定結果を「保留」とする(ステップS209)。その後、k+1番目の信号を用いて、ステップS203からの処理が繰り返される。
【0036】
判定結果が「信号検出」または「信号不検出」の場合には、それぞれの判定結果を外部に出力する(ステップS210)。その後、新たな信号検出を行うため、ステップS202からの処理が繰り返される。
【0037】
なお、それぞれの値を対数変換して処理するように構成することができる。この場合、i番目のモデルに対する上限閾値T
U(i)と下限閾値T
L(i)は、以下の式で算出される。
【数11】
【0038】
対応するi番目のモデルに対するk番目の尤度比ST(k,i)は、以下の式で算出される。
【数12】
【0039】
上記の説明では、雑音モデルの尤度関数f(・|a
0)とi番目のモデルにおける信号モデルの尤度関数f(・|a
i)が、尤度関数のパラメータa
0、a
iを除き、共に同じ尤度関数f(・)の例を示したが、信号モデルの尤度関数は、それぞれのモデルで異なる尤度関数を用いることができる。具体例として、信号モデルの尤度関数とその尤度関数のパラメータがg(・|a
1)とh(・|a
2)で表される場合、それぞれモデルに対するk番目の尤度比ST(k,1)とST(k,2)は、以下の式で算出される。
【数13】
【0040】
更に、それぞれの尤度関数において、その尤度関数のパラメータを細分化して、それぞれのモデルを構成することもできる。
【0041】
以上説明したように、第2の実施形態に係る信号検出装置によれば、第1の実施形態に係る信号検出装置と同様に、評価値として時間方向に累積した尤度比を用いて「信号検出」を判定するように構成したので、パルス状ではない所望信号の検出確率を向上させることができる。また、所望信号が存在するとする仮説を異なる尤度関数のパラメータが設定された複数の仮説に細分化して、細分化した仮説の検定を行うと共に、これらの結果に基づいて、総合的に「信号検出」を判定するように構成したので、信号強度が小さい所望信号の検出確率を向上させることができる。
【0042】
なお、第2の実施形態に係る複数モデル閾値算出部21、複数モデル尤度比算出部22、総合判定部23の機能は、コンピュータに実現させるプログラムとして構成することができる。
【0043】
(第3の実施形態)
第3の実施形態に係る信号検出装置は、第2の実施形態に係る信号検出装置と同様に、「所望信号が存在する」とする仮説を異なるパラメータが設定された複数の仮説に細分化して、細分化した仮説の検定を行うと共に、これらの結果を総合的に判定し、判定結果として「信号検出」、「信号不検出」、「保留」のいずれかを選択する。以下では、「所望信号が存在しない」とする仮説をH
0、「所望信号が存在する」とする仮説をN(N≧2)個の仮説に細分化し、異なるパラメータを設定したそれぞれの仮説をH
i(1≦i≦N)と呼ぶ。また、それぞれの仮説に対応する信号モデルをi番目のモデルと呼ぶ。
【0044】
図5は、第3の実施形態に係る信号検出装置の構成を示すブロック図である。第3の実施形態に係る信号検出装置は、複数モデル閾値算出部31、複数モデル尤度比算出部32、モデル選択部33、総合判定部34を備える。
【0045】
上記複数モデル閾値算出部31は、i番目のモデルに対する上限閾値T
U(i)と下限閾値T
L(i)を算出する。上記複数モデル尤度比算出部32は、時系列の信号の順番を表す記号をkとすると、センサからの信号強度に基づいて、評価値としてi番目のモデルに対するk番目の尤度比ST(k,i)を算出する。上記モデル選択部33は、信号検出性能の制御を容易に実施できるようにするため、総合判定部34の「信号不検出」の判定に用いるモデル番号Jを選択する。上記総合判定部34は、上記複数モデル閾値算出部31からの上限閾値T
U(i)と下限閾値T
L(i)、複数モデル尤度比算出部32からの尤度比ST(k,i)、モデル選択部33からのモデル番号Jに基づいて、以下の式により総合的に判定を行い、判定結果として「信号検出」、「信号不検出」、「保留」のいずれかを選択する。
【数14】
【0046】
図6は、第3の実施形態に係る信号検出装置の処理の流れの具体例を示すフローチャートである。
図3に基づいて、第3の実施形態に係る信号検出装置の処理の流れを説明する。
【0047】
上記複数モデル閾値算出部31は、i番目のモデルに対する第1種の誤り率α(i)と第2種の誤り率β(i)に基づいて、i番目のモデルに対する上限閾値T
U(i)と下限閾値T
L(i)を算出する(ステップS301)。上限閾値T
U(i)と下限閾値T
L(i)は、以下の式で算出される。
【数15】
【0048】
上記複数モデル尤度比算出部32は、i番目のモデルに対する尤度比の初期化のためi番目のモデルに対するk−1番目の尤度比ST(k−1,i)に初期値を設定する(ステップS302)。次に、センサからk番目の信号を入力し(ステップS303)、センサからのk番目の信号強度a(k)に基づいて、i番目のモデルに対するk番目の尤度比ST(k,i)を算出する(ステップS304)。i番目のモデルに対するk番目の尤度比ST(k,i)は、以下の式で算出される。
【数16】
【0049】
ここで、f(・|a
0)は雑音モデルの尤度関数、g(・|a
i)はi番目のモデルにおける信号モデルの尤度関数、a
0は雑音モデルの尤度関数のパラメータである信号強度、a
iは、i番目のモデルにおける信号モデルの尤度関数のパラメータである信号強度を表す。なお、f(・|a
0)とg(・|a
i)は、尤度関数の代わりに、確率密度関数を用いることもできる。
【0050】
また、雑音の信号強度が時間的に変化する場合、i番目のモデルに対するk番目の尤度比ST(k,i)は、k番目の雑音の信号強度a
0(k)を用いて、以下の式で算出するように構成できる。
【数17】
【0051】
「所望信号が存在する」とする仮説を異なる尤度関数のパラメータが設定された複数の仮説に細分化して、細分化した仮説の検定を行うと共に、これらの結果を総合的に判定する場合、細分化が進む(モデル数が多くなる)につれて、仮説検定の結果が相互干渉するため、信号検出性能を制御することが難しくなってくる。
【0052】
そこで、上記モデル選択部33は、信号検出性能の制御を容易に実施できるようにするため、総合判定部34の「信号不検出」の判定に用いるモデル番号Jを選択する(ステップS305)。例えば、尤度関数のパラメータとして小さな信号強度が設定されたモデルを選択すると、信号強度が小さい所望信号の検出確率をより向上させることができる。
【0053】
上記総合判定部34は、上記複数モデル尤度比算出部32からのi番目のモデルに対する尤度比ST(k,i)と上記複数モデル閾値算出部31からのi番目のモデルに対する上限閾値T
U(i)を比較し(ステップS306)、ST(k,i)≧T
U(i)を満足するモデルが一つでもあった場合、判定結果を「信号検出」とする(ステップS307)。ST(k,i)≧T
U(i)を満足するモデルが一つもない場合、モデル選択部33からの「信号不検出」の判定に用いるモデル番号Jを用いて、J番目のモデルに対する尤度比ST(k,J)と複数モデル閾値算出部31からのJ番目のモデルに対する閾値T
L(J)を比較し(ステップS308)、ST(k,J)≦T
L(J)の場合、判定結果を「信号不検出」とする(ステップS309)。上記以外の場合、判定結果を「保留」とする(ステップS310)。以後、k+1番目の信号を用いて、ステップS303からの処理が繰り返される。
【0054】
判定結果が「信号検出」または「信号不検出」の場合、上記の判定結果を外部に出力する(ステップS311)。その後、新たな信号検出を行うため、ステップS302からの処理が繰り返される。
【0055】
なお、第3の実施形態では、それぞれの値を対数変換する例を示したが、第1及び第2の実施形態で示したように、それぞれの値を対数変換せずに処理するように構成することができる。
【0056】
また、第1種の誤り率α(i)と第2種の誤り率β(i)が全モデルで共通の場合、上限閾値T
U(i)と下限閾値T
L(i)も全モデルで共通となる。全モデル共通の上限閾値をT
Uとすると、最大の尤度比max(ST(k,i))を用いて、「信号検出」を判定するように構成できる。
【0057】
以上説明したように、第3の実施形態に係る信号検出装置によれば、第1の実施形態に係る信号検出装置と同様に、評価値として時間方向に累積した尤度比を用いて「信号検出」を判定するように構成したので、パルス状ではない所望信号の検出確率を向上させることができる。また、第2の実施形態に係る信号検出装置と同様に、「所望信号が存在する」とする仮説を異なる尤度関数のパラメータが設定された複数の仮説に細分化して、細分化した仮説の検定を行うと共に、これらの結果に基づいて、総合的に「信号検出」を判定するように構成したので、信号強度が小さい所望信号の検出確率を向上させることができる。さらに、「信号不検出」の判定に用いるモデル番号を選択するモデル選択部と、これに対応する総合判定部を備えたことにより、信号検出性能の制御を容易に実施することができる。
【0058】
なお、第3の実施形態に係る複数モデル閾値算出部31、尤度比算出部32、モデル選択部33、総合判定部34の機能は、コンピュータに実現させるプログラムとして構成することができる。
【0059】
上記実施形態は、センサからの信号振幅に基づいて、所望信号を検出する信号検出装置に適用可能である。
【0060】
その他、本実施形態は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。