(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6342277
(24)【登録日】2018年5月25日
(45)【発行日】2018年6月13日
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 15/06 20060101AFI20180604BHJP
【FI】
B60C15/06 C
B60C15/06 N
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-193738(P2014-193738)
(22)【出願日】2014年9月24日
(65)【公開番号】特開2016-64703(P2016-64703A)
(43)【公開日】2016年4月28日
【審査請求日】2017年5月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】東洋ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076314
【弁理士】
【氏名又は名称】蔦田 正人
(74)【代理人】
【識別番号】100112612
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 哲士
(74)【代理人】
【識別番号】100112623
【弁理士】
【氏名又は名称】富田 克幸
(74)【代理人】
【識別番号】100124707
【弁理士】
【氏名又は名称】夫 世進
(74)【代理人】
【識別番号】100163393
【弁理士】
【氏名又は名称】有近 康臣
(74)【代理人】
【識別番号】100189393
【弁理士】
【氏名又は名称】前澤 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100059225
【弁理士】
【氏名又は名称】蔦田 璋子
(72)【発明者】
【氏名】大宮 将敏
【審査官】
岩本 昌大
(56)【参考文献】
【文献】
特開2004−345414(JP,A)
【文献】
特開2009−220776(JP,A)
【文献】
特開2002−052909(JP,A)
【文献】
特開2013−035407(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2013/0037196(US,A1)
【文献】
特開平09−099716(JP,A)
【文献】
特開昭53−030504(JP,A)
【文献】
実開昭62−086206(JP,U)
【文献】
特開平02−109706(JP,A)
【文献】
特開平10−044724(JP,A)
【文献】
米国特許第06109320(US,A)
【文献】
特開2013−129219(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2014/0311650(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 15/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビード部と、前記ビード部の周りでタイヤ幅方向内側から外側へ折り返されてタイヤ径方向外側へ巻き上げられたカーカスプライと、前記カーカスプライの折り返し部の周りでタイヤ幅方向内側から外側へ折り返されてタイヤ径方向外側へ巻き上げられたチェーハーと、少なくとも前記チェーハーの巻き上げ部のタイヤ幅方向外側に配置された第1リムストリップとを備え、
前記カーカスプライの巻き上げ部と前記チェーハーの巻き上げ部との間に、前記第1リムストリップより硬度の高い第2リムストリップが挟まれ、前記チェーハーの前記巻き上げ部の端部は前記第1リムストリップに覆われ、
前記第1リムストリップの硬度が65〜75度で、前記第2リムストリップの硬度が75〜85度であることを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記チェーハーと前記第2リムストリップとの接触面の前記カーカスプライの巻き上げ方向の端部から、前記チェーハーの前記巻き上げ部の端部までの距離が、前記チェーハーに沿って1mm以上3mm以下である、請求項1の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記第2リムストリップの断面積は前記第1リムストリップの断面積の10%以上50%以下である、請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記第2リムストリップと前記チェーハーとの接触面のタイヤ径方向の長さは、前記ビード部が有するビードコアのタイヤ径方向外側の端部から前記チェーハーの前記巻き上げ部の端部までのタイヤ径方向の長さの50%以上95%以下である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤでは、ビード周りで、カーカスプライがタイヤ幅方向内側から外側へ折り返されタイヤ径方向外側へ巻き上げられている。このカーカスプライの折り返しの外側で、チェーハーがタイヤ幅方向内側から外側へ折り返されタイヤ径方向外側へ巻き上げられている場合がある。ここでカーカスプライとチェーハーとは接触している。このような場合、チェーハーが大きく歪んだり、チェーハーに小さな歪みが繰り返し生じたりすると、カーカスプライとチェーハーとの接触面からセパレーションが生じるおそれがある。
【0003】
これに対し、特許文献1に記載のように、カーカスプライの巻き上げ部とチェーハーの巻き上げ部との間隔を空けた空気入りタイヤが存在する。このような空気入りタイヤでは、カーカスプライの巻き上げ部とチェーハーの巻き上げ部とが接していないため、上記のようなセパレーションを防ぐことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開昭62−86206号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし特許文献1の空気入りタイヤでは、カーカスプライとチェーハーとの間に存在するのは硬度が低いゴムであるため、チェーハーが動き易く、そのためチェーハーの端部において発熱し易い。そのためビード部周辺の耐久性が悪い。
【0006】
そこで本発明では、ビード周りにチェーハーを備える空気入りタイヤであって、ビード部周辺の耐久性が良いものを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態の空気入りタイヤは、ビード部と、前記ビード部の周りでタイヤ幅方向内側から外側へ折り返されてタイヤ径方向外側へ巻き上げられたカーカスプライと、前記カーカスプライの折り返し部の周りでタイヤ幅方向内側から外側へ折り返されてタイヤ径方向外側へ巻き上げられたチェーハーと、少なくとも前記チェーハーの巻き上げ部のタイヤ幅方向外側に配置された第1リムストリップとを備え、前記カーカスプライの巻き上げ部と前記チェーハーの巻き上げ部との間に、前記第1リムストリップより硬度の高い第2リムストリップが挟まれ、前記チェーハーの前記巻き上げ部の端部は前記第1リムストリップに覆われ
、前記第1リムストリップの硬度が65〜75度で、前記第2リムストリップの硬度が75〜85度であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
実施形態の空気入りタイヤでは、カーカスプライの巻き上げ部とチェーハーの巻き上げ部の端部との擦れが抑制されるので、ビード部周辺の耐久性が良い。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態の空気入りタイヤの幅方向の断面図。
【
図2】実施形態の空気入りタイヤのビード部付近の拡大断面図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1、
図2に示すように、実施形態の空気入りタイヤは、ビードコア10と、そのタイヤ径方向外側に設けられたビードフィラー11とからなるビード部1を備える。またカーカスプライがビード部1の周りでタイヤ幅方向内側から外側へ折り返されてタイヤ径方向外側へ巻き上げられている。図示する実施形態では、カーカスプライとして、折り返し部において外側となるカーカスプライ2aと、内側となるカーカスプライ2bとが設けられている。ただしカーカスプライは1枚であっても良い。カーカスプライ2a、2bのタイヤ径方向外側には、ベルト層40、補強層41、トレッド42が設けられている。カーカスプライ2a、2bのタイヤ幅方向外側の部分にはサイドウォール43が設けられている。
【0011】
カーカスプライ2a、2bの前記折り返しの外側にはチェーハー3が設けられている。詳細には、チェーハー3は、ビード部1よりタイヤ幅方向内側に設けられるとともに、カーカスプライ2a、2bと同様にビードコア10の周りでタイヤ幅方向外側へ折り返され、タイヤ径方向外側へ巻き上げられている。この巻き上げられている部分をチェーハー3の巻き上げ部30とする。チェーハー3は、一般に繊維コードがゴムで被覆されたものだが、スチールコードがゴムで被覆されたもの等であっても良い。チェーハー3はビードコア10近傍ではカーカスプライ2aと接している。しかし、チェーハー3の巻き上げ部30は、ある部分(限定されないが、例えば、図示する実施形態のようにビードコア10のタイヤ径方向外側の端部12でも良いし、該端部12よりタイヤ径方向外側の部分でも良い)よりタイヤ径方向外側では、カーカスプライ2aの巻き上げ部20aとの間に間隔が空いている。詳細には、チェーハー3の巻き上げ部30は、タイヤ幅方向外側に向って湾曲しており、タイヤ径方向外側の部分ほどカーカスプライ2aの巻き上げ部20aから離れるように設けられている。
【0012】
カーカスプライ2aの巻き上げ部20aとチェーハー3の巻き上げ部30との間には、第2リムストリップ5が挟まれている。第2リムストリップ5は硬度が高いゴム製の部材である。第2リムストリップ5はカーカスプライ2aの巻き上げ部20aとチェーハー3の巻き上げ部30との両方に接している。ただし、第2リムストリップ5は、チェーハー3の巻き上げ部30の端部31及びその付近の部分には接していない。チェーハー3と第2リムストリップ5との接触面のチェーハー3の巻き上げ方向の端部32から、チェーハー3の巻き上げ部30の端部31までの距離は、タイヤ幅方向断面上のチェーハー3に沿って、1mm以上3mm以下であることが望ましい。第2リムストリップ5のタイヤ径方向内側の端部は、チェーハー3の巻き上げ部30とカーカスプライ2aの巻き上げ部20aとが離れ始める部分と一致している。
【0013】
また、第2リムストリップ5とチェーハー3との接触面のタイヤ径方向の長さmは、ビードコア10のタイヤ径方向外側の端部12からチェーハー3の巻き上げ部30の端部31までのタイヤ径方向の長さnの、50%以上95%以下であることが望ましい。
【0014】
また第2リムストリップ5の厚みlは1mm以上3mm以下であることが望ましい。ここで第2リムストリップ5の厚みlとは、チェーハー3と第2リムストリップ5との接触面のチェーハー3の巻き上げ方向の端部32におけるチェーハー3に垂直な方向への厚みのことである。
【0015】
チェーハー3の巻き上げ部30のタイヤ幅方向外側には、ゴム製の第1リムストリップ6が設けられている。第1リムストリップ6は、チェーハー3の巻き上げ部30のタイヤ幅方向外側の面に接しているだけでなく、チェーハー3の巻き上げ部30の端部31よりタイヤ径方向外側でカーカスプライ2aの巻き上げ部20aのタイヤ幅方向外側の面にも接している。さらに、第1リムストリップ6は、カーカスプライ2aの巻き上げ部20aとチェーハー3の巻き上げ部30との間の第2リムストリップ5が無い部分にも侵入している。そのため、チェーハー3の巻き上げ部30の端部31は、第1リムストリップ6に覆われている。
【0016】
第2リムストリップ5及び第1リムストリップ6は共にゴム製の部材だが、第2リムストリップ5は第1リムストリップ6よりも硬度が高い。第2リムストリップ5の硬度は例えば75〜85度であり、第1リムストリップ6の硬度は例えば65〜75度である。第2リムストリップ5と第1リムストリップ6の硬度の差は、例えば5〜20度である。なおここでの硬度はJIS K 6523に準拠するものである。
【0017】
タイヤ幅方向断面上で、第2リムストリップ5の断面積の第1リムストリップ6の断面積に対する割合(以下で「第1と第2のリムストリップの断面積比」とも言う。(第2リムストリップ5の断面積)/(第1リムストリップ6の断面積)で計算される。)が10%以上50%以下であることが望ましい。
【0018】
なお、以上の説明における各部材やその端部の位置は、空気入りタイヤを正規リムに装着して正規内圧とした場合の無負荷でのものである。ここで正規リムとは、JATMA規格における「標準リム」、TRA規格における「Design Rim」、又はETRTO規格における「Measuring Rim」である。正規内圧とは、JATMA規格における「最高空気圧」、TRA規格における「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に記載の「最大値」、又はETRTO規格における「INFLATION PRESSURE」である。
【0019】
以上の構造の空気入りタイヤでは、カーカスプライ2aの巻き上げ部20aとチェーハー3の巻き上げ部30との間が空いているため、これらが接触している場合のように接触面からのセパレーションが生じるおそれが無い。また、カーカスプライ2aの巻き上げ部20aとチェーハー3の巻き上げ部30との間には、第1リムストリップ6よりも硬度が高い第2リムストリップ5が挟まれているため、チェーハー3の巻き上げ部30が動くことを防ぐことができる。そのため、チェーハー3の巻き上げ部30が繰り返し動いてその端部31付近で発熱したり、該端部31に歪みが集中してそこを起点にセパレーションが生じたりすることを防ぐことができる。また、チェーハー3の巻き上げ部30の端部31が第2リムストリップ5と第1リムストリップ6との境界にある場合、該端部31に生じた歪みにより前記境界でセパレーションが生じるおそれがある。しかし本実施形態では、チェーハー3の巻き上げ部30の端部31は第1リムストリップ6のみに覆われているため、第2リムストリップ5と第1リムストリップ6との境界でセパレーションが生じることを防ぐことができる。以上のことから、本実施形態の空気入りタイヤは、ビード部1周辺の耐久性が良い。
【0020】
また、チェーハー3と第2リムストリップ5との接触面のチェーハー3の巻き上げ方向の端部32から、チェーハー3の巻き上げ部30の端部31までの距離が、チェーハー3に沿って1mm以上3mm以下であれば、ビード部1周辺の耐久性が特に良い。前記距離が1mm未満であると、第2リムストリップ5と第1リムストリップ6との境界にチェーハー3の前記端部31が近いため、該端部31に生じた歪みにより第2リムストリップ5と第1リムストリップ6との境界でセパレーションが生じるおそれがある。また前記距離が3mmを超えると、チェーハー3の巻き上げ部30の端部31が、硬度が高い第2リムストリップ5により十分に固定されず、動き易くなるため、チェーハー3の巻き上げ部30の端部31付近で発熱する等の問題が生じるおそれがある。
【0021】
また、前記の第1と第2のリムストリップの断面積比が10%以上50%以下、つまり第2リムストリップ5の断面積が第1リムストリップ6の断面積の10%以上50%以下であれば、ビード部1周辺の耐久性の向上とタイヤの軽量化が両立する。第1と第2のリムストリップの断面積比が10%未満の場合、第2リムストリップ5が小さく、第2リムストリップ5によるチェーハー3の動きを抑える効果が小さいため、チェーハー3の巻き上げ部30の端部31に歪が集中し、ビード部1周辺の耐久性が十分向上しないおそれがある。また、一般に硬度が高いゴムは重い傾向があるため、硬度が高い第2リムストリップ5の断面積が、硬度が低い第1リムストリップ6の断面積の50%を超える場合、空気入りタイヤが重くなる。
【0022】
また、第2リムストリップ5とチェーハー3との接触面のタイヤ径方向の長さmが、ビードコア10のタイヤ径方向外側の端部12からチェーハー3の巻き上げ部30の端部31までのタイヤ径方向の長さnの、50%以上95%以下であれば、ビード部1周辺の耐久性の向上とタイヤの軽量化が両立する。この長さの割合が50%未満の場合、第2リムストリップ5によるチェーハー3の動きを抑える効果が小さいため、チェーハー3の巻き上げ部30の端部31に歪が集中し、ビード部1周辺の耐久性が十分向上しないおそれがある。一方この長さの割合が95%を超える場合、空気入りタイヤが重くなるおそれがある。
【0023】
また、第2リムストリップ5の前記厚みlが1mm以上3mm以下であれば、ビード部1周辺の耐久性の向上とタイヤの軽量化が両立する。第2リムストリップ5の厚みlが1mm未満の場合、第2リムストリップ5が薄すぎるために、チェーハー3の動きが十分に抑えられないおそれがある。そのため、チェーハー3の巻き上げ部30の端部31に歪が集中し、ビード部1周辺の耐久性が十分向上しないおそれがある。また、第2リムストリップ5の厚みlが3mmを超えると、第2リムストリップ5の重みのために空気入りタイヤが重くなるおそれがある。
【0024】
比較例及び実施例の空気入りタイヤの耐久性について調べた。
【0025】
実施例1の空気入りタイヤは上記実施形態の空気入りタイヤの特徴を備える。一方、比較例1の空気入りタイヤは、上記実施形態における第2リムストリップ5に相当するものを備えず、第1リムストリップ6と同じゴムが、上記実施形態における第2リムストリップ5に相当する部分に入っている。それぞれの空気入りタイヤの詳細な構造は表1の通りである。
【0026】
耐久性について、FMVSS119に準拠するLTステップロード耐久試験にて調べた。調べた結果を、タイヤが故障するまでの走行距離が長く耐久性が良いほど値が大きくなる指数で表した。比較例1の指数を100とした。
【0027】
結果は表1に示す通りで、実施例1の空気入りタイヤの方が指数が大きく耐久性が良いことが確認できた。
【符号の説明】
【0029】
1…ビード部、10…ビードコア、11…ビードフィラー、12…ビードコア10のタイヤ径方向外側の端部、2a、2b…カーカスプライ、20a…カーカスプライ2aの巻き上げ部、3…チェーハー、30…チェーハー3の巻き上げ部、31…チェーハー3の巻き上げ部30の端部、32…チェーハー3と第2リムストリップ5との接触面のチェーハー3の巻き上げ方向の端部、40…ベルト層、41…補強層、42…トレッド、43…サイドウォール、5…第2リムストリップ、6…第1リムストリップ