特許第6342291号(P6342291)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6342291
(24)【登録日】2018年5月25日
(45)【発行日】2018年6月13日
(54)【発明の名称】成膜装置
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/32 20060101AFI20180604BHJP
   H05H 1/48 20060101ALI20180604BHJP
   H05H 1/50 20060101ALI20180604BHJP
【FI】
   C23C14/32 H
   C23C14/32 A
   H05H1/48
   H05H1/50
【請求項の数】3
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2014-211939(P2014-211939)
(22)【出願日】2014年10月16日
(65)【公開番号】特開2016-79456(P2016-79456A)
(43)【公開日】2016年5月16日
【審査請求日】2017年4月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162640
【弁理士】
【氏名又は名称】柳 康樹
(72)【発明者】
【氏名】酒見 俊之
【審査官】 塩谷 領大
(56)【参考文献】
【文献】 特許第6013279(JP,B2)
【文献】 特開平04−013865(JP,A)
【文献】 特開平04−218667(JP,A)
【文献】 特開平09−256147(JP,A)
【文献】 特表平04−500243(JP,A)
【文献】 特開2000−026953(JP,A)
【文献】 特開平03−294476(JP,A)
【文献】 特開平08−246170(JP,A)
【文献】 特開2013−241652(JP,A)
【文献】 特開平08−232060(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00−14/58
H01L 21/31
H05H 1/48
H05H 1/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空チャンバー内でプラズマビームによって成膜材料を加熱して蒸発させ、前記成膜材料の蒸発粒子を成膜対象物に付着させる成膜装置であって、
前記真空チャンバー内で前記プラズマビームを生成するプラズマ源と、
蒸発源となる前記成膜材料が充填されると共に、前記プラズマビームを前記成膜材料へ導く、または前記プラズマビームが導かれる主陽極である主ハースと、
前記主ハースの周囲に配置されると共に、前記プラズマビームを誘導する補助陽極である輪ハースと、
前記輪ハースの軸線方向から見て前記蒸発源を挟んで両側に配置された一対の補助コイルと、
前記成膜対象物が配置される方を正面とした場合、前記一対の補助コイルの正面側の極性が互いに異なるように前記一対の補助コイルに電流を供給する補助コイル電源部と、を備え
前記補助コイル電源部は、前記補助コイルに交流電流を供給する交流電源部を有することを特徴とする成膜装置。
【請求項2】
複数対の前記補助コイルを有し、
前記一対の補助コイル同士は、異なる方向に前記主ハースを挟んで配置され、
前記輪ハースの周方向に隣接する前記補助コイルに供給される交流電流の位相を変えることで、前記複数対の補助コイルによる磁場の向きを回転させる回転磁場生成部を更に備える請求項に記載の成膜装置。
【請求項3】
前記補助コイル電源部は、前記交流電流に直流電流を重畳させて、前記補助コイルに電流を供給する請求項又はに記載の成膜装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空チャンバー内でプラズマビームによって成膜材料を加熱して蒸発させ、成膜材料の粒子を成膜対象物に付着させる成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
成膜対象物の表面に膜を形成する成膜装置として、例えばイオンプレーティング法を用いたものがある。イオンプレーティング法では、蒸発させた成膜材料の粒子を真空チャンバー内で拡散させて成膜対象物の表面に付着させる。このような成膜装置は、真空容器の側壁に設けられると共にプラズマビームを生成するためのプラズマ源と、プラズマ源で生成したプラズマビームを真空容器内に導くステアリングコイルと、成膜材料を保持する主陽極である主ハースと、この主ハースを取り囲む補助陽極である輪ハースとを備えている(例えば、特許文献1参照)。また、特許文献1に記載の成膜装置では、プラズマ源、ステアリングコイル、主ハース及び輪ハースを例えば2組備え、これにより2箇所の蒸発源から成膜材料を蒸発させて、成膜される範囲を広げている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−256147号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の成膜装置では、主ハースの近傍において輪ハースが生成する磁場に、ステアリングコイルが生成する磁場と、プラズマビーム内の電流が生成する自己誘導磁場が加わるため、主ハースの近傍における磁場の対称性が崩れてしまう。このため、輪ハースの中心軸に合せて主ハース内に成膜材料を配置しても、プラズマビームは成膜材料の中心に入射せず、成膜材料の中心からある程度の距離ずれた位置に入射する。プラズマビームが成膜材料の中心に入射しない場合、成膜材料が局所的に昇華又は蒸発する。すると、連続的に成膜材料を供給(主ハースから押し出)しながら、成膜材料の昇華又は蒸発を安定的に長時間行うことが困難となる。
【0005】
プラズマビームが入射する位置にずれが生じることを対処するために、このずれに対応させて主ハースの位置を輪ハースの中心軸に対してずらして配置することが考えられる。
しかし、プラズマビームが入射する位置のずれ量は、成膜装置の運転条件によって変化するため、運転条件が一定ではない場合、適切な位置に主ハースを配置することは容易ではなかった。また、人手により主ハースの取り付け位置を変更することは手間がかかり、正確な位置に取り付けることも容易ではなかった。
【0006】
そこで、本発明は、人手により主ハースの取り付け位置を変更する作業を必要とせず成膜材料の昇華又は蒸発を安定的に長時間行うことができる成膜装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の成膜装置は、真空チャンバー内でプラズマビームによって成膜材料を加熱して蒸発させ、成膜材料の蒸発粒子を成膜対象物に付着させる成膜装置であって、真空チャンバー内でプラズマビームを生成するプラズマ源と、蒸発源となる成膜材料が充填されると共に、プラズマビームを成膜材料へ導く、またはプラズマビームが導かれる主陽極である主ハースと、主ハースの周囲に配置されると共に、プラズマビームを誘導する補助陽極である輪ハースと、輪ハースの軸線方向から見て蒸発源を挟んで両側に配置された一対の補助コイルと、成膜対象物が配置される方を正面とした場合、一対の補助コイルの正面側の極性が互いに異なるように一対の補助コイルに電流を供給する補助コイル電源部と、を備える。
【0008】
この成膜装置は、輪ハースの軸線方向から見て蒸発源を挟んで両側に配置された一対の補助コイルを備えている。この一対の補助コイルには、正面側の極性が互いに異なるように電流が供給される。これにより、一対の補助コイルによって、蒸発源の正面側で輪ハースの軸線方向と交差する方向に磁場を発生させることができるので、人手により主ハースの取り付け位置を変更する作業を行うことなく、蒸発源に対してプラズマビームが導かれる位置を容易に調整することができる。また、成膜材料の中心にプラズマビームが導かれるように調整することで、成膜材料が局所的に昇華又は蒸発することが抑制され、成膜材料の昇華又は蒸発を安定させて連続運転の時間を延ばすことができる。
【0009】
また、補助コイル電源部は、補助コイルに交流電流を供給する交流電源部を有する構成でもよい。この構成によれば、周期的に電流の向きを変えることができ、補助コイルによる磁場の向きを周期的に変えて、プラズマビームが導かれる位置を周期的に変えることができる。そのため、プラズマビームが導かれる位置が局所的に集中しないように移動させることができる。
【0010】
また、成膜装置は、複数対の補助コイルを有し、一対の補助コイル同士は、異なる方向に主ハースを挟んで配置され、成膜装置は、輪ハースの周方向に隣接する補助コイルに供給される交流電流の位相を変えることで、複数対の補助コイルによる磁場の向きを回転させる回転磁場生成部を更に備える構成でもよい。これにより、補助コイルによる磁場の向きを回転移動させることができるので、プラズマビームが導かれる位置を周期的に回転移動させることができる。そのため、プラズマビームが導かれる位置を好適に移動させて分散させることができる。
【0011】
また、補助コイル電源部は、交流電流に直流電流を重畳させて、補助コイルに電流を供給する構成でもよい。これにより、直流電流を重畳させることで、磁場の向きが変化する範囲を全体的にずらすことができ、プラズマビームが周期的に移動する際の範囲を全体的にずらすことができる。
【0012】
また、補助コイル電源部は、補助コイルに直流電流を供給する直流電源部を有する構成でもよい。これにより、補助コイルによる磁場の向きを変更して、変更後の磁場の向きを容易に維持することができる。
【0013】
ここで、成膜装置は、複数対の補助コイルを有し、一対の補助コイル同士は、異なる方向に主ハースを挟んで配置されている構成でもよい。この構成の成膜装置によれば、複数対の補助コイルが、互いに異なる方向に主ハースを挟んで配置されているので、一対の補助コイルによる磁場を複数の異なる方向に発生させることができる。そのため、複数対の補助コイルにより生成した磁場により複数の異なる方向に、磁場の向きを調整することができる。その結果、プラズマビームが導かれる位置の調整範囲を広げることができるので、プラズマビームが導かれる位置の調整を成膜材料の中心に合わせ易くなる。
【0014】
また、一対の補助コイルは、輪ハースの正面側に配置されている構成でもよい。
このように一対の補助コイルが輪ハースの正面側に配置されていると、一対の補助コイルによる磁場を輪ハースの正面側に発生させて、プラズマビームが導かれる位置を容易に調整することができる。
【0015】
また、成膜装置は、補助コイルに供給される直流電流を調整して、補助コイルにより生成される磁場を調整する磁場調整部を更に備える構成でもよい。この構成の成膜装置によれば、補助コイルに供給される直流電流を調整して一対の補助コイルにより生成された磁場の強さを調整することができるので、電流を調整するだけで、蒸発源に対してプラズマビームが導かれる位置を容易に調整することができる。これにより、プラズマビームを容易に成膜材料の中心に導くことができるので、成膜材料が局所的に蒸発又は昇華することが抑制される。
【0016】
また、成膜装置は、真空チャンバー内に、主ハース及び輪ハースを複数組備え、主ハース及び輪ハースに対応して、プラズマ源及び一対の補助コイルがそれぞれ設けられている構成でもよい。
例えば、成膜装置が複数の主ハース及び輪ハースを備える場合、それぞれの主ハース及び輪ハースの相対位置を調整するには手間がかかる。本発明の成膜装置は、プラズマが導かれる位置を容易に調整することができるので、複数の主ハース及び輪ハースを備える場合に特に有効である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の成膜装置は、人手により主ハースの取り付け位置を変更する作業を必要とせずに成膜材料の昇華又は蒸発を安定的に長時間行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の成膜装置の第1実施形態の構成を示す断面図である。
図2】主ハース近傍の磁場を示す模式図である。
図3】(a)輪ハースの環状磁石及び補助コイルを示す平面図、(b)輪ハースの環状磁石及び補助コイルを示す断面図である。
図4】補助コイルがつくる中心軸上の磁場強度を示す図である。
図5】補助コイルによる磁場の向きの変化を示す図である。
図6】プラズマビームの入射位置の回転移動の向きを示す図である。
図7】成膜材料の減り方に偏りが生じた場合である片掘れの状況について示す斜視図である。
図8】従来の成膜装置の主ハース及び輪ハース部を示す拡大断面図であり、主ハースの周りに成膜材料の異常堆積物が発生している状況を示す図である。
図9】成膜材料のタブレットを示す斜視図である。
図10】主ハース及び輪ハース部を示す拡大断面図である。
図11】複数のプラズマ源が設けられた真空チャンバーを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照しながら本発明による成膜装置の一実施形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0020】
図1に示される第1実施形態に係る成膜装置1は、いわゆるイオンプレーティング法に用いられるイオンプレーティング装置である。なお、説明の便宜上、図1には、XYZ座標系を示す。Y軸方向は、後述する成膜対象物が搬送される方向である。X軸方向は、成膜対象物と後述するハース機構とが対向する方向である。Z軸方向は、X軸方向とY軸方向とに直交する方向である。
【0021】
成膜装置1は、成膜対象物11の板厚方向が水平方向(図1ではX軸方向)となるように、成膜対象物11を直立又は直立させた状態から傾斜した状態で、成膜対象物11が真空チャンバー10内に配置されて搬送される、いわゆる縦型の成膜装置である。この場合には、X軸方向は水平方向且つ成膜対象物11の板厚方向であり、Y軸方向は水平方向であり、Z軸方向は鉛直方向となる。一方、本発明による成膜装置の一実施形態では、成膜対象物の板厚方向が略鉛直方向となるように成膜対象物が真空チャンバー内に配置されて搬送されるいわゆる横型の成膜装置であってもよい。この場合には、Z軸及びY軸方向は水平方向であり、X軸方向は鉛直方向且つ板厚方向となる。なお、以下の実施形態では、縦型の場合を例に、本発明の成膜装置の一実施形態を説明する。
【0022】
成膜装置1は、ハース機構2、搬送機構3、輪ハース部4、ステアリングコイル5、プラズマ源7、圧力調整装置8及び真空チャンバー10を備えている。
【0023】
真空チャンバー10は、成膜材料の膜が形成される成膜対象物11を搬送するための搬送室10aと、成膜材料Maを拡散させる成膜室10bと、プラズマ源7から照射されるプラズマビームPを真空チャンバー10に受け入れるプラズマ口10cとを有している。搬送室10a、成膜室10b、及びプラズマ口10cは互いに連通している。搬送室10aは、所定の搬送方向(図中の矢印A)に(Y軸に)沿って設定されている。また、真空チャンバー10は、導電性の材料からなり接地電位に接続されている。
【0024】
搬送機構3は、成膜材料Maと対向した状態で成膜対象物11を保持する成膜対象物保持部材16を搬送方向Aに搬送する。例えば保持部材16は、成膜対象物の外周縁を保持する枠体である。搬送機構3は、搬送室10a内に設置された複数の搬送ローラ15によって構成されている。搬送ローラ15は、搬送方向Aに沿って等間隔に配置され、成膜対象物保持部材16を支持しつつ搬送方向Aに搬送する。なお、成膜対象物11は、例えばガラス基板やプラスチック基板などの板状部材が用いられる。
【0025】
プラズマ源7は、圧力勾配型であり、その本体部分が成膜室10bの側壁に設けられたプラズマ口10cを介して成膜室10bに接続されている。プラズマ源7は、真空チャンバー10内でプラズマビームPを生成する。プラズマ源7において生成されたプラズマビームPは、プラズマ口10cから成膜室10b内へ出射される。プラズマビームPは、プラズマ口10cを取り囲むように設けられたステアリングコイル5によって出射方向が制御される。ステアリングコイル5は、Y軸方向の磁場を生成し、プラズマ源7で生成したプラズマビームを真空容器内の中央に導くものです。
【0026】
圧力調整装置8は、真空チャンバー10に接続され、真空チャンバー10内の圧力を調整する。圧力調整装置8は、例えば、ターボ分子ポンプやクライオポンプ等の減圧部と、真空チャンバー10内の圧力を測定する圧力測定部とを有している。
【0027】
ハース機構2は、成膜材料Maを保持するための機構である。ハース機構2は、真空チャンバー10の成膜室10b内に設けられ、搬送機構3から見てX軸方向の負方向に配置されている。ハース機構2は、プラズマ源7から出射されたプラズマビームPを成膜材料Maに導く主陽極又はプラズマ源7から出射されたプラズマビームPが導かれる主陽極である主ハース17を有している。
【0028】
主ハース17は、成膜材料Maが充填されたX軸方向の正方向に延びた筒状の充填部17aと、充填部17aから突出したフランジ部17bとを有している。主ハース17は、真空チャンバー10が有する接地電位に対して正電位に保たれているため、プラズマビームPを吸引する。このプラズマビームPが入射する主ハース17の充填部17aには、成膜材料Maを充填するための貫通孔17cが形成されている。そして、成膜材料Maの先端部分が、この貫通孔17cの一端において成膜室10bに露出している。
【0029】
輪ハース部4は、プラズマビームPを誘導するための電磁石を有する補助陽極である輪ハース6を有する。輪ハース6は、成膜材料Maを保持する主ハース17の充填部17aの周囲に配置されている。輪ハース6の中心軸CL6上に成膜材料Maが配置されている。なお、成膜材料Maは輪ハース6の中心からずれた位置に配置されていてもよい。輪ハース6は、環状のコイル9と環状の永久磁石20と環状のケース(容器)12とを有し、コイル9及び永久磁石20はケース12に収容されている。
【0030】
成膜材料Maには、ITOやZnOなどの透明導電材料や、SiONなどの絶縁封止材料が例示される。成膜材料Maは、後述するように、蒸気圧が異なる複数の成膜材料を有するものでもよい。成膜材料Maが絶縁性物質からなる場合、主ハース17にプラズマビームPが照射されると、プラズマビームPからの電流によって主ハース17が加熱され、成膜材料Maの先端部分が蒸発又は昇華し、プラズマビームPによりイオン化された成膜材料粒子(蒸発粒子)Mbが成膜室10b内に拡散する。また、成膜材料Maが導電性物質からなる場合、主ハース17にプラズマビームPが照射されると、プラズマビームPが成膜材料Maに直接入射し、成膜材料Maの先端部分が加熱されて蒸発又は昇華し、プラズマビームPによりイオン化された成膜材料粒子Mbが成膜室10b内に拡散する。成膜室10b内に拡散した成膜材料粒子Mbは、成膜室10bのX軸方向の正方向へ移動し、搬送室10a内において成膜対象物11の表面に付着する。なお、成膜材料Maは、所定長さの円柱形状に成形された固体物であり、一度に複数の成膜材料Maがハース機構2に充填される。そして、最先端側の成膜材料Maの先端部分が主ハース17の上端との所定の位置関係を保つように、成膜材料Maの消費に応じて、成膜材料Maがハース機構2のX軸方向の負方向側から順次押し出される。
【0031】
また、成膜装置1は、成膜室10b内にハース機構2、輪ハース部4及びプラズマ源7の組み合わせを複数組備えるものであり、複数の蒸発源を有する。複数のハース機構2は、Z軸方向に等間隔で配置され、ハース機構2に対応して輪ハース部4、プラズマ源7及びステアリングコイル5がそれぞれ配置されている。成膜装置1は、Z軸方向の複数個所から成膜材料Maを蒸発又は昇華させて成膜材料粒子Mbを拡散させることができる。
【0032】
次に、図2を参照して主ハース17近傍の磁場分布について説明する。図2では、プラズマ源7から出射されたプラズマビームが輪ハース6によって主ハース17に導かれている状態の磁場分布を示している。図中の矢印は磁力線の向きを示している。主ハース17近傍の磁場は、輪ハース6による磁場、ステアリングコイル5による磁場、及びプラズマビームPの自己誘導による磁場の影響を受け、図2に示されるように、輪ハース6の中心軸CL6に対して非対称に分布している。そのため、プラズマビームPの入射位置は、輪ハース6の中心軸CL6からずれた位置となり、中心軸CL6上に配置された成膜材料Ma(の中心)からずれた位置となる。
【0033】
ここで、成膜装置1は、輪ハース6の中心軸CL6方向から見て、主ハース17の充填部17aの周囲に配置された補助コイル群23と、補助コイル群23に電流を供給する補助コイル電源部24と、補助コイル群23に供給される電流を調整する電流調整部(磁場調整部)25とを備えている。
【0034】
図3に示されるように、補助コイル群23は、一対の第1補助コイル26,27及び一対の第2補助コイル28,29を有する。なお、図3(a)では、輪ハース部4のケース12の図示を省略している。補助コイル群23は、ケース12内に収容されている。
【0035】
補助コイル群23は、搬送機構3(成膜対象物)が配置されている方を正面とした場合、永久磁石20の正面(コイル9とは反対側の面)上に配置されている。一対の第1補助コイル26,27は、X軸方向から見て、蒸発源を挟んでY軸方向の両側に配置されている。図3では、左側に第1補助コイル26が配置され、右側に第1補助コイル27が配置されている。第1補助コイル26,27は、環状の永久磁石20の周方向に沿って略扇型に巻かれた平面コイルである。第1補助コイル26,27の軸線方向は、X軸方向に沿って配置されている。
【0036】
一対の第2補助コイル28,29は、X軸方向から見て、蒸発源(主ハース17に充填された成膜材料Ma)を挟んでZ軸方向の両側に配置されている。図3(a)では、上側に第2補助コイル28が配置され、下側に第2補助コイル29が配置されている。第2補助コイル28,29は、環状の永久磁石20の周方向に沿って略扇型に巻かれた平面コイルである。第2補助コイル28,29の軸線方向は、X軸方向に沿って配置されている。
【0037】
補助コイル電源部24は、交流電源部24A及び直流電源部24Bを有する。交流電源部24Aは、一対の第1補助コイル26,27及び一対の第2補助コイル28,29のそれぞれに交流電流を供給するものである。交流電源部24Aは、一対の第1補助コイル26,27の正面側の極性が互いに異なるように交流電流を供給する。例えば、第1補助コイル27に供給される交流電流の位相は、第1補助コイル26に供給される交流電流の位相と180度ずれている。また、交流電源部24Aは、一対の第2補助コイル28,29の正面側の極性が互いに異なるように交流電流を供給する。例えば、第2補助コイル29に供給される交流電流の位相は、第2補助コイル28に供給される交流電流の位相と180度ずれている。一対の第1補助コイル26,27及び一対の第2補助コイル28,29に供給される交流電流の波形は例えば正弦波を成している。
【0038】
交流電源部24Aは、輪ハース部4の周方向に配置された4つの補助コイル26,28,27,29に対して、位相を90度ずつずらして交流電流を供給する。例えば、第1補助コイル26に供給される交流電流の位相は、第2補助コイル29に供給される交流電流の位相より90度進んでいる。第2補助コイル28に供給される交流電流の位相は、第1補助コイル26に供給される交流電流の位相より90度進んでいる。第1補助コイル27に供給される交流電流の位相は、第2補助コイル28に供給される交流電流の位相より90度進んでいる。第2補助コイル29に供給される交流電流の位相は、第1補助コイル27の位相より90度進んでいる。
【0039】
交流電源部24Aは、輪ハース部4の周方向に隣接する補助コイル26〜29に供給される交流電流の位相を変えることで、補助コイル26〜29による磁場の向きを周方向に移動させて回転させる回転磁場生成部として機能する。
【0040】
交流電流の周波数は、例えば数十Hz〜数kHzとすることができる。交流電流の周波数が数kHzを超えると、ケーシング12の表面に生じた渦電流によって磁気シールドが発生し、補助コイル群23による磁場が消失するおそれがある。
【0041】
直流電源部24Bは、一対の第1補助コイル26,27及び一対の第2補助コイル28,29のそれぞれに直流電流を供給するものである。補助コイル電源部24は、交流電流に直流電流を重畳させて、一対の第1補助コイル26,27及び一対の第2補助コイル28,29のそれぞれに電流を供給する。
【0042】
直流電源部24Bは、一対の第1補助コイル26,27の正面側の極性が互いに異なるように直流電流を供給する。例えば、第1補助コイル26の正面側の極性がS極、第1補助コイル27の正面側の極性がN極となるように、直流電流が供給される。このとき、一対の第1補助コイル26,27によって、第1補助コイル27から第1補助コイル26へY軸方向に沿う磁場が形成される。第1補助コイル26,27の電流値は、一対の第1補助コイル26,27により形成される磁場の大きさに応じて適宜設定される。
【0043】
また、補助コイル電源部24は、一対の第2補助コイル28,29の正面側の極性が互いに異なるように直流電流を供給する。例えば、第2補助コイル28の正面側の極性がS極、第2補助コイル29の正面側の極性がN極となるように、直流電流が供給される。このとき、一対の第2補助コイル28,29によって、第2補助コイル29から第2補助コイル28へZ軸方向に沿う磁場が形成される。第2補助コイル28,29の電流値は、一対の第2補助コイル28,29により形成される磁場の大きさに応じて適宜設定される。
【0044】
電流調整部25は、第1補助コイル26,27及び第2補助コイル28,29に供給される直流電流を調整するものである。電流調整部25は、例えば抵抗値を変えることで、第1補助コイル26,27及び第2補助コイル28,29に供給される電流値を調整する。電流調整部25は、第1補助コイル26,27及び第2補助コイル28,29に供給される電流値を調整することで、第1補助コイル26,27により生成される磁場の強さ及び第2補助コイル28,29により生成される磁場の強さを調整することができる。
【0045】
また、電流調整部25は、一対の第1補助コイル26,27に供給される直流電流の向きを逆転させて、第1補助コイル26,27の極性を反転させ第1補助コイル26,27により生成される磁場の向きを変えてもよい。電流調整部25は、一対の第2補助コイル28,29に供給される直流電流の向きを逆転させて、第2補助コイル28,29の極性を反転させ第2補助コイル28,29により生成した磁場の向きを変えてもよい。
【0046】
図4では、直流電流を供給し、交流電流を供給しない場合において、一対の第1補助コイル26,27により輪ハース6の中心軸CL6上に形成される磁場の強度Hを示している。図4に示す縦軸は、中心軸方向における第1補助コイル26,27からの距離を示し、横軸は、Y軸方向に沿う磁場の強度を示している。図4の状態では、一対の第1補助コイル26,27による磁場は左向きである。
【0047】
図4に示すように、輪ハース6のコイル9及び永久磁石20が生成する磁場は、輪ハース6から正面側へ所定距離進んだ位置で弱くなる。この磁場が弱くなる位置において、磁場強度HのピークHPが現れるように一対の第1補助コイル26,27により磁場を生成する。これにより、ステアリングコイル5が生成する磁場やプラズマビームが生成する自己誘導磁場の影響を効率良く打ち消して、成膜材料Maの中心(輪ハース6の中心軸CL6)にプラズマビームPを入射させることができる。例えば、一対の第1補助コイル26,27による磁場強度HのピークHPは、中心軸CL6方向において第1補助コイル26,27から正面側へ6cm離れた位置である。
【0048】
次に、本実施形態に係る成膜装置1の作用について説明する。
【0049】
成膜装置1では、交流電源部24Aによって、一対の第1補助コイル26,27及び一対の第2補助コイル28,29に交流電流を供給する。補助コイル26,28,27,29に供給される交流電流は、位相が90度ずつずれているので、補助コイル26,28,27,29による磁場の向きは、図5(a)〜図5(h)に示されるように、例えば、右回りに回転するように変化する。図5(a)〜図5(h)では、X軸方向から蒸発源側を見た場合の図であり、蒸発源の正面側に発生した磁場の向きを矢印で示している。
【0050】
図5(a)の状態では、第2補助コイル28の正面側の極性がS極、第2補助コイル29の正面側の極性がN極である。磁場の向きは、Z軸方向の負方向であり、第2補助コイル29から第2補助コイル28に向かう向きとなっている。
【0051】
図5(b)の状態は、図5(a)の状態よりも交流電流の位相が45度進んだ状態である。図5(b)の状態では、第2補助コイル28及び第1補助コイル27の正面側の極性がS極、第2補助コイル29及び第1補助コイル26の正面側の極性がN極である。磁場の向きは、Z軸方向の負方向からY軸方向の負方向へ45度傾斜した向きとなっている。
【0052】
図5(c)の状態は、図5(b)の状態よりも交流電流の位相が45度進んだ状態である。図5(c)の状態では、第1補助コイル27の正面側の極性がS極、第1補助コイル26の正面側の極性がN極である。磁場の向きは、Y軸方向の負方向であり、第1補助コイル26から第1補助コイル27に向かう向きとなっている。
【0053】
図5(d)の状態は、図5(c)の状態よりも交流電流の位相が45度進んだ状態である。図5(d)の状態では、第1補助コイル27及び第2補助コイル29の正面側の極性がS極、第1補助コイル26及び第2補助コイル28の正面側の極性がN極である。磁場の向きは、Y軸方向の負方向からZ軸方向の正方向へ45度傾斜した向きとなっている。
【0054】
図5(e)の状態は、図5(d)の状態よりも交流電流の位相が45度進んだ状態である。図5(e)の状態では、第2補助コイル29の正面側の極性がS極、第2補助コイル28の正面側の極性がN極である。磁場の向きは、Z軸方向の正方向であり、第2補助コイル28から第2補助コイル29に向かう向きとなっている。
【0055】
図5(f)の状態は、図5(e)の状態よりも交流電流の位相が45度進んだ状態である。図5(f)の状態では、第2補助コイル29及び第1補助コイル26の正面側の極性がS極、第2補助コイル28及び第1補助コイル27の正面側の極性がN極である。磁場の向きは、Z軸方向の正方向からY軸方向の正方向へ45度傾斜した向きとなっている。
【0056】
図5(g)の状態は、図5(f)の状態よりも交流電流の位相が45度進んだ状態である。図5(g)の状態では、第1補助コイル26の正面側の極性がS極、第1補助コイル27の正面側の極性がN極である。磁場の向きは、Y軸方向の正方向であり、第1補助コイル27から第1補助コイル26に向かう向きとなっている。
【0057】
図5(h)の状態は、図5(g)の状態よりも交流電流の位相が45度進んだ状態である。図5(h)の状態では、第1補助コイル26及び第2補助コイル28の正面側の極性がS極、第1補助コイル27及び第2補助コイル29の正面側の極性がN極である。磁場の向きは、Y軸方向の正方向からZ軸方向の負方向へ45度傾斜した向きとなっている。
【0058】
図5(a)〜図5(h)に示すように、磁場の向きを回転させることで、図6に示されるように、プラズマビームPが導入される位置を回転移動させることができる。成膜装置1では、プラズマビームPが導入される位置を円周状に周期的に回転移動させることができるので、プラズマビームPが導かれる位置が局所的に集中しないようにすることができる。
【0059】
図6では、正面側から蒸発源側を見た場合の成膜材料Maの上面、プラズマビームPの入射位置及び移動方向を示している。図6では、プラズマビームPの回転移動における中心Pcは、成膜材料Maの中心と一致している。プラズマビームPの外径は、例えば、主ハース17の半径に対応している。
【0060】
また、成膜装置1は、交流電流に直流電流を重畳させて、補助コイル群23に電流を供給することができる。成膜装置1は、プラズマビームPのずれ量に応じて、一対の第1補助コイル26,27及び一対の第2補助コイル28,29に供給される電流値を調整して、磁場の強度を調整してプラズマビームPの回転移動の中心Pc位置を修正する。中心Pc位置のY軸方向におけるずれは、一対の第1補助コイル26,27により生成される磁場によって修正する。中心位置のZ軸方向におけるずれは、一対の第2補助コイル28,29により生成した磁場によって修正する。このように、磁場を修正して、プラズマビームPが導入される位置を修正した後に、成膜処理を実行する。
【0061】
図7は、成膜材料の減り方に偏りが生じた場合を示している。例えば、従来の成膜装置において、プラズマビームPの入射位置が、成膜材料Maの中心(CL6)からずれている場合には、図7に示されるように、成膜材料Maの減り方に偏りが生じる。図7に示される場合は、プラズマビームPが成膜材料Maの中心から図示左側にずれて入射した場合であり、中心より左側の部分は、中心より右側の部分よりも、成膜材料の減り方が速くなっている。成膜材料は、右側の部分において、盛り上がっている。
【0062】
このように、成膜材料の減り方に偏りが生じ、片側が盛り上がるようになっている(片掘れが発生している)場合には、成膜材料の蒸発又は昇華においても偏りが生じてしまい、安定した蒸発又は昇華ができなくなる。成膜装置1では、磁場の向きを周期的に回転させているので、プラズマビームPが導入される位置は、円周状の軌道を描くように旋回する。そのため、プラズマビームPが導入される位置が一点に集中しないため、成膜材料Maの減り方に偏りが生じることが防止される。成膜装置1では、図7に示されるような片掘れの発生を抑制することができるので、成膜材料Maを安定して蒸発又は昇華させることができる。
【0063】
なお、プラズマビームPの外径は、例えば、成膜材料Maの半径に対応し、プラズマビームPの回転移動の中心は成膜材料Maの中心と一致している。また、プラズマビームPの外径は、成膜材料Maの半径よりも大きくても、小さくてもよい。また、プラズマビームPの回転移動の中心は、成膜材料Maの中心からずれていてもよい。
【0064】
図8は、従来の成膜装置100の主ハース101及び輪ハース部102を示す拡大断面図であり、主ハース101の周りに成膜材料の異常堆積物Mdが発生している状況を示している。図8に示されているように、異常堆積物Mdは、主ハース101の先端部から外方(図示上方又は側方)へ張り出すように、局所的に堆積している。本実施形態の成膜装置1では、磁場の向きを周期的に回転させて、プラズマビームPが導入される位置を回転移動させているので、主ハース17の先端部にプラズマビームPがかかるように移動させることができる。これにより、成膜装置1では、主ハース17の先端部における成膜材料の堆積が抑制されるので、局所的な異常堆積物の発生が抑制される。
【0065】
本実施形態の成膜装置1によれば、補助コイル群23に交流電流を供給して、補助コイル群23による磁場の向きを回転させることができるので、プラズマビームPが導かれる位置を周期的に回転移動させることができる。そのため、プラズマビームPが導かれる位置を好適に移動させて分散させることができる。これにより、人手により主ハース17の取り付け位置を変更する作業を行うことなく、蒸発源に対してプラズマビームが導かれる位置を容易に調整することができる。成膜装置1では、プラズマビームPが導かれる位置を、一定の範囲内で動かすことができるので、プラズマビームPが導入される位置を成膜材料Maの中心に合わせなくても、成膜材料Maの減り方が局所的に偏ってしまうことを抑制することができる。成膜装置1では、プラズマビームPが入射する位置を回転移動させることで、成膜材料Maが中心軸からずれた位置で局所的に蒸発又は昇華することが防止され、成膜材料Maを安定的に蒸発又は昇華することができる。その結果、成膜装置1では、連続的に成膜材料Maを供給しながら成膜材料Maの蒸発又は昇華を行い、安定的に連続運転を行うことができ、連続運転の時間を延ばすことができる。
【0066】
また、成膜装置1では、交流電流に直流電流を重畳させて、補助コイル群23に電流を供給することができるので、磁場の向きが回転する際の回転中心を移動させて調整することができる。これにより、プラズマビームPが回転移動する際の回転中心を移動させて調整することができ、プラズマビームPが導入される位置を調整して、成膜材料Maが中心軸CL6からずれた位置で、局所的に蒸発又は昇華することが防止される。
【0067】
例えば、従来の成膜装置では、成膜材料の正面側に発生する磁場の影響によって、プラズマビームPが輪ハースの中心軸CLに対して傾斜すると、成膜材料のイオン化率の差に伴って組成ムラが生じ、膜質分布にムラが発生するおそれがある。成膜装置1では、プラズマビームPが輪ハース6の中心軸CL6周りに回転移動しながら入射され、蒸発又は昇華した成膜材料も旋回するように飛翔するので、成膜材料の組成分布も平均化されて、組成ムラの発生を抑制して、膜質分布の均一化を図ることができる。
【0068】
次に、成膜装置1での使用に適した成膜材料のタブレットについて説明する。図9は、成膜材料のタブレットの変形例を示す斜視図である。図9に示されるように、成膜材料のタブレットT〜Tは、組成が異なると共に蒸気圧が異なる複数の成膜材料M,Mを有し、成膜材料M,Mごとに配置される領域が分けられている。例えば、成膜材料Mの蒸気圧は、成膜材料Mの蒸気圧より低い。例えば、成膜材料MはAlであり、成膜材料MはZnOである。
【0069】
図9(a)に示されるタブレットTでは、円柱状を成すタブレットTの軸線方向から見た場合に、成膜材料M,Mが配置される領域F,Fは、扇状を成すように4つに分けられている。具体的には、タブレットTの中心Cを通り、直交する境界線L,Lによって、成膜材料M,Mが配置される領域F,Fが区切られている。周方向において、成膜材料M,Mは交互に配置されている。成膜材料Mは、中心Cを挟んで対向する領域Fに配置され、成膜材料Mは、中心Cを挟んで対向する領域Fに配置されている。
【0070】
図9(b)に示されるタブレットTでは、タブレットTの軸線方向から見た場合に、成膜材料M,Mが配置される領域は、中央に配置され円形を成す領域Fと、この領域Fの外側で周方向に配置された円環状の領域Fと、に分けられている。中央の領域Fには成膜材料Mが配置され、外側の領域Fには成膜材料Mが配置されている。なお、領域Fに成膜材料Mを配置して、領域Fに成膜材料Mを配置してもよい。
【0071】
図9(c)に示されるタブレットTでは、タブレットTの軸線方向から見た場合に、成膜材料M,Mが配置される領域は、円形を成す複数の領域Fと、複数の領域F以外の領域Fと、に分けられている。領域Fには成膜材料Mが配置され、領域Fには成膜材料Mが配置されている。なお、領域Fに成膜材料Mを配置して、領域Fに成膜材料Mを配置してもよい。
【0072】
このような成膜材料のタブレットT,TB,又はTを成膜装置1に使用することができる。成膜装置1では、回転移動しながらプラズマビームPがタブレットT,TB,又はTに入射される。プラズマビームPの入射位置が移動するので、タブレットT,TB,又はTの各領域F〜F,F〜F,又はF〜FにプラズマビームPが順次照射されることになる。プラズマビームPの外径を小さく絞り一定の速度で走査しながらプラズマビームPを照射すると、蒸気圧が低く蒸発し難い領域をプラズマビームPが避けずに、この蒸気圧が低い領域にもプラズマビームPが照射される。一定速度でタブレットT,T,又はTが送り出されると、蒸気圧が低い領域は蒸発温度が上がり、タブレット全体として一様に蒸発又は昇華が行われる。そのため、各領域F〜F,F〜F,又はF〜Fにおいてそれぞれ成膜材料が蒸発又は昇華するので、成膜材料ごとの蒸発又は昇華の偏りを抑えて分留の発生を抑制することができ、基板に成膜された膜質を均一に保つことができる。例えば、蒸気圧の差が大きい2つの成膜材料を均一に混合させた場合には、蒸気圧の高い方の成膜材料のみが蒸発又は昇華し、蒸気圧の低い方の成膜材料が蒸発又は昇華せずに残ってしまうことがあった。本実施形態の成膜装置1において、タブレットT,T,又はTを使用することで、成膜材料の分留の発生を抑制することができる。なお、このようなタブレットT,T,又はTを、その他の成膜装置に使用してもよい。また、タブレットは、蒸気圧が異なる3種類以上の成膜材料を有するものでもよい。
【0073】
次に、第2実施形態に係る成膜装置について説明する。第2実施形態に係る成膜装置が、第1実施形態の成膜装置1と異なる点は、交流電流に直流電流を重畳させて補助コイル群23に電流を供給する補助コイル電源部24に代えて、補助コイル群23に直流電流を供給する補助コイル電源部(直流電源部)を備える点である。なお、第2実施形態の説明において、第1実施形態の説明と同一の説明は省略する。
【0074】
補助コイル電源部は、一対の第1補助コイル26,27及び一対の第2補助コイル28,29のそれぞれに直流電流を供給する。補助コイル電源部は、一対の第1補助コイル26,27の正面側の極性が互いに異なるように直流電流を供給する。例えば、第1補助コイル26の正面側の極性がS極、第1補助コイル27の正面側の極性がN極となるように、直流電流が供給される。このとき、一対の第1補助コイル26,27によって、第1補助コイル27から第1補助コイル26へY軸方向に沿う磁場が形成される。第1補助コイル26,27の電流値は、一対の第1補助コイル26,27により形成される磁場の大きさに応じて適宜設定される。
【0075】
また、補助コイル電源部は、一対の第2補助コイル28,29の正面側の極性が互いに異なるように直流電流を供給する。例えば、第2補助コイル28の正面側の極性がS極、第2補助コイル29の正面側の極性がN極となるように、直流電流が供給される。このとき、一対の第2補助コイル28,29によって、第2補助コイル29から第2補助コイル28へZ軸方向に沿う磁場が形成される。第2補助コイル28,29の電流値は、一対の第2補助コイル28,29により形成される磁場の大きさに応じて適宜設定される。
【0076】
電流調整部25は、第1補助コイル26,27及び第2補助コイル28,29に供給される直流電流を調整する。電流調整部25は、例えば抵抗値を変えることで、第1補助コイル26,27及び第2補助コイル28,29に供給される電流値を調整する。電流調整部25は、第1補助コイル26,27及び第2補助コイル28,29に供給される電流値を調整することで、第1補助コイル26,27により生成される磁場の強さ及び第2補助コイル28,29により生成される磁場の強さを調整する。
【0077】
また、電流調整部25は、一対の第1補助コイル26,27に供給される直流電流の向きを逆転させて、第1補助コイル26,27の極性を反転させ第1補助コイル26,27により生成される磁場の向きを変えてもよい。電流調整部25は、一対の第2補助コイル28,29に供給される直流電流の向きを逆転させて、第2補助コイル28,29の極性を反転させ第2補助コイル28,29により生成される磁場の向きを変えてもよい。
【0078】
第2実施形態の成膜装置では、使用前において、プラズマビームPの照射位置の確認を行う。成膜材料Maは主ハース17の充填部17aに充填されている。成膜装置1は、プラズマ源7からプラズマビームPを照射する。このとき、プラズマビームPが導かれる位置を確認する。プラズマビームPが成膜材料Maに対して正しい位置(中心)に導入されている場合には、成膜材料Maは、図10に示されるように、中心が最も減少量が多く、中心軸を対称に等しく減少している。なお、図10では、成膜材料Maの減少部分を破線で示している。プラズマビームPが成膜材料Maの中心に導入されていない場合には、成膜材料Maの減少量は、中心軸に対して対称とはならず、片側の減り方が多くなる。なお、プラズマビームPの照射位置(入射する位置)を確認するには、上述のように、成膜材料Maの減少の仕方を確認してもよく、プラズマの測定器を用いてプラズマビームPの照射位置自体を測定してもよい。
【0079】
この成膜装置では、一対の第1補助コイル26,27及び一対の第2補助コイル28,29により磁場を発生させて、プラズマビームPの導入位置を修正する。プラズマビームPのずれ量に応じて、一対の第1補助コイル26,27及び一対の第2補助コイル28,29に供給される電流値を調整して、磁場の強度を調整してプラズマビームPの成膜材料Maに対する導入位置を修正する。例えば、プラズマビームPのY軸方向におけるずれは、一対の第1補助コイル26,27により生成される磁場によって修正する。プラズマビームPのZ軸方向におけるずれは、一対の第2補助コイル28,29により生成される磁場によって修正する。このようにプラズマビームPが導入される位置を修正した後に、成膜処理を実行する。
【0080】
このような第2実施形態の成膜装置によれば、一対の第1補助コイル26,27に、正面側の極性が互いに異なるように直流電流が供給されるので、一対の第1補助コイル26,27によって、蒸発源の正面側でY軸方向に磁場を発生させることができる。また、この成膜装置では、一対の第2補助コイル28,29に、正面側の極性が互いに異なるように直流電流が供給されるので、一対の第2補助コイル28,29によって、蒸発源の正面側でZ軸方向に磁場を発生させることができる。
【0081】
また、この成膜装置は、第1補助コイル26,27に供給される直流電流を調整する電流調整部25を備えているので、一対の第1補助コイル26,27に供給される直流電流を調整して一対の第1補助コイル26,27による磁場の強さを調整することができる。同様に、電流調整部25は、一対の第2補助コイル28,29に供給される電流を調整することができるので、一対の第2補助コイル28,29による磁場の強さを調整することができる。
【0082】
この成膜装置は、電流調整部25によって、一対の第1補助コイル26,27及び/又は一対の第2補助コイル28,29の電流を自動調整してもよく、作業者によって電流調整部25を操作することで、一対の第1補助コイル26,27及び/又は一対の第2補助コイル28,29の電流を微調整してもよい。
【0083】
このように、第2実施形態に係る成膜装置では、第1補助コイル26,27及び第2補助コイル28,29による電流を調整するだけで、プラズマビームPが導かれる位置を成膜材料Maの中心に容易に合わせることができる。これにより、成膜材料Maの中心にプラズマビームPが導かれるので、成膜材料が中心軸からずれた位置で局所的に蒸発又は昇華することが防止され、成膜材料を安定的に蒸発又は昇華することができる。その結果、この成膜装置では、連続的に成膜材料を供給しながら成膜材料の蒸発又は昇華を行い、安定的に連続運転を行うことができ、連続運転の時間を延ばすことができる。
【0084】
また、この成膜装置では、従来のように作業員によって主ハースの取り付け位置を変更する必要がなく、一対の第1補助コイル26,27及び/又は一対の第2補助コイル28,29により生成された磁場によりプラズマビームPが入射する位置を調整することができる。また、運転条件を変更した場合にあっても、成膜装置1では、プラズマビームPが入射する位置を容易に調整することができる。
【0085】
本発明は、前述した実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、下記のような種々の変形が可能である。
【0086】
例えば、上記実施形態では、主ハース17及び輪ハース6を複数組備え、主ハース17及び輪ハース6に対応して、プラズマ源7、ステアリングコイル5、補助コイル群23及び電流調整部25がそれぞれ設けられているが、一組だけの主ハース17及び輪ハース6を備える成膜装置でもよい。また、図11に示されるように、Y軸方向(搬送方向)及びZ軸方向に複数の蒸発源を備える成膜装置でもよい。なお、図11では、補助コイル群23の図示を省略している。複数の蒸発源を備える成膜装置において、それぞれの蒸発源に対応して補助コイル群23を備えていると、各蒸発源におけるプラズマビームPの導入位置の調整を容易に行うことができ、特に有効である。
【0087】
また、上記の実施形態では、補助コイル群23は、一対の第1補助コイル26,27及び一対の第2補助コイル28,29を備えているが、一対の第1又は第2の補助コイルのみを備える構成でもよい。また、補助コイル群23は、互いに異なる方向に対向して配置された3対以上の補助コイルを備えるものでもよい。また、補助コイルの対向する向きは、Y軸方向又はZ軸方向に限定されず、その他の方向に対向して配置されているものでもよい。例えば、一対の補助コイルが対向する方向を60度ずつ変えて、3組の補助コイルを備える構成でもよい。この構成において、補助コイルに交流電流を供給する場合には、位相を60度ずつずらす。
【0088】
また、一対の補助コイルの形状は、扇形に限定されず、円形や矩形などその他の形状でもよい。
【0089】
また、上記実施形態では、補助コイル群23が永久磁石20の正面側に配置されているが、補助コイル群23が、永久磁石20とコイル9との間に配置されているものでもよく、その他の位置に配置されているものでもよい。
【0090】
また、補助コイル群23は、輪ハース部4のケース12内に収容されていないものでもよく、ケース12とは別体として設けられたケース内に収容されているものでもよい。
【0091】
また、上記の第1実施形態では、交流電流に直流電流を重畳させて、補助コイル群23に電流を供給しているが、補助コイル電源部は、直流電流を重畳させずに交流電流を供給してもよい。
【0092】
また、上記の第1実施形態では、補助コイル群23に交流電流を供給することで、補助コイル群23による磁場の向きを回転させて、プラズマビームPの入射位置が円運動するようにしているが、プラズマビームPの入射位置がその他の形状を描くように、磁場の向きを変えてよい。例えば、プラズマビームPの入射位置が楕円形を描くように、磁場を発生させてもよく、直線的に往復するように磁場を発生させてもよい。
【0093】
また、上記の第1実施形態では、成膜を行う際に、プラズマビームPを回転移動させているが、例えば、成膜を行わずに、補助コイル群23に交流電流を供給してプラズマビームPを移動させて、主ハース17に堆積した異常堆積物MdにプラズマビームPを照射して、異常堆積物Mdを除去してもよい。
【符号の説明】
【0094】
1…成膜装置、6…輪ハース、7…プラズマ源、10…真空チャンバー、11…成膜対象物、17…主ハース、20…永久磁石、23…補助コイル群、24…補助コイル電源部、24A…交流電源部(回転磁場生成部)、24B…直流電源部、25…電流調整部(磁場調整部)、26,27…一対の第1補助コイル、28,29…一対の第2補助コイル、CL6…輪ハースの軸線方向。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11