(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照しながら本発明による成膜装置の一実施形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0020】
図1に示される第1実施形態に係る成膜装置1は、いわゆるイオンプレーティング法に用いられるイオンプレーティング装置である。なお、説明の便宜上、
図1には、XYZ座標系を示す。Y軸方向は、後述する成膜対象物が搬送される方向である。X軸方向は、成膜対象物と後述するハース機構とが対向する方向である。Z軸方向は、X軸方向とY軸方向とに直交する方向である。
【0021】
成膜装置1は、成膜対象物11の板厚方向が水平方向(
図1ではX軸方向)となるように、成膜対象物11を直立又は直立させた状態から傾斜した状態で、成膜対象物11が真空チャンバー10内に配置されて搬送される、いわゆる縦型の成膜装置である。この場合には、X軸方向は水平方向且つ成膜対象物11の板厚方向であり、Y軸方向は水平方向であり、Z軸方向は鉛直方向となる。一方、本発明による成膜装置の一実施形態では、成膜対象物の板厚方向が略鉛直方向となるように成膜対象物が真空チャンバー内に配置されて搬送されるいわゆる横型の成膜装置であってもよい。この場合には、Z軸及びY軸方向は水平方向であり、X軸方向は鉛直方向且つ板厚方向となる。なお、以下の実施形態では、縦型の場合を例に、本発明の成膜装置の一実施形態を説明する。
【0022】
成膜装置1は、ハース機構2、搬送機構3、輪ハース部4、ステアリングコイル5、プラズマ源7、圧力調整装置8及び真空チャンバー10を備えている。
【0023】
真空チャンバー10は、成膜材料の膜が形成される成膜対象物11を搬送するための搬送室10aと、成膜材料Maを拡散させる成膜室10bと、プラズマ源7から照射されるプラズマビームPを真空チャンバー10に受け入れるプラズマ口10cとを有している。搬送室10a、成膜室10b、及びプラズマ口10cは互いに連通している。搬送室10aは、所定の搬送方向(図中の矢印A)に(Y軸に)沿って設定されている。また、真空チャンバー10は、導電性の材料からなり接地電位に接続されている。
【0024】
搬送機構3は、成膜材料Maと対向した状態で成膜対象物11を保持する成膜対象物保持部材16を搬送方向Aに搬送する。例えば保持部材16は、成膜対象物の外周縁を保持する枠体である。搬送機構3は、搬送室10a内に設置された複数の搬送ローラ15によって構成されている。搬送ローラ15は、搬送方向Aに沿って等間隔に配置され、成膜対象物保持部材16を支持しつつ搬送方向Aに搬送する。なお、成膜対象物11は、例えばガラス基板やプラスチック基板などの板状部材が用いられる。
【0025】
プラズマ源7は、圧力勾配型であり、その本体部分が成膜室10bの側壁に設けられたプラズマ口10cを介して成膜室10bに接続されている。プラズマ源7は、真空チャンバー10内でプラズマビームPを生成する。プラズマ源7において生成されたプラズマビームPは、プラズマ口10cから成膜室10b内へ出射される。プラズマビームPは、プラズマ口10cを取り囲むように設けられたステアリングコイル5によって出射方向が制御される。ステアリングコイル5は、Y軸方向の磁場を生成し、プラズマ源7で生成したプラズマビームを真空容器内の中央に導くものです。
【0026】
圧力調整装置8は、真空チャンバー10に接続され、真空チャンバー10内の圧力を調整する。圧力調整装置8は、例えば、ターボ分子ポンプやクライオポンプ等の減圧部と、真空チャンバー10内の圧力を測定する圧力測定部とを有している。
【0027】
ハース機構2は、成膜材料Maを保持するための機構である。ハース機構2は、真空チャンバー10の成膜室10b内に設けられ、搬送機構3から見てX軸方向の負方向に配置されている。ハース機構2は、プラズマ源7から出射されたプラズマビームPを成膜材料Maに導く主陽極又はプラズマ源7から出射されたプラズマビームPが導かれる主陽極である主ハース17を有している。
【0028】
主ハース17は、成膜材料Maが充填されたX軸方向の正方向に延びた筒状の充填部17aと、充填部17aから突出したフランジ部17bとを有している。主ハース17は、真空チャンバー10が有する接地電位に対して正電位に保たれているため、プラズマビームPを吸引する。このプラズマビームPが入射する主ハース17の充填部17aには、成膜材料Maを充填するための貫通孔17cが形成されている。そして、成膜材料Maの先端部分が、この貫通孔17cの一端において成膜室10bに露出している。
【0029】
輪ハース部4は、プラズマビームPを誘導するための電磁石を有する補助陽極である輪ハース6を有する。輪ハース6は、成膜材料Maを保持する主ハース17の充填部17aの周囲に配置されている。輪ハース6の中心軸CL6上に成膜材料Maが配置されている。なお、成膜材料Maは輪ハース6の中心からずれた位置に配置されていてもよい。輪ハース6は、環状のコイル9と環状の永久磁石20と環状のケース(容器)12とを有し、コイル9及び永久磁石20はケース12に収容されている。
【0030】
成膜材料Maには、ITOやZnOなどの透明導電材料や、SiONなどの絶縁封止材料が例示される。成膜材料Maは、後述するように、蒸気圧が異なる複数の成膜材料を有するものでもよい。成膜材料Maが絶縁性物質からなる場合、主ハース17にプラズマビームPが照射されると、プラズマビームPからの電流によって主ハース17が加熱され、成膜材料Maの先端部分が蒸発又は昇華し、プラズマビームPによりイオン化された成膜材料粒子(蒸発粒子)Mbが成膜室10b内に拡散する。また、成膜材料Maが導電性物質からなる場合、主ハース17にプラズマビームPが照射されると、プラズマビームPが成膜材料Maに直接入射し、成膜材料Maの先端部分が加熱されて蒸発又は昇華し、プラズマビームPによりイオン化された成膜材料粒子Mbが成膜室10b内に拡散する。成膜室10b内に拡散した成膜材料粒子Mbは、成膜室10bのX軸方向の正方向へ移動し、搬送室10a内において成膜対象物11の表面に付着する。なお、成膜材料Maは、所定長さの円柱形状に成形された固体物であり、一度に複数の成膜材料Maがハース機構2に充填される。そして、最先端側の成膜材料Maの先端部分が主ハース17の上端との所定の位置関係を保つように、成膜材料Maの消費に応じて、成膜材料Maがハース機構2のX軸方向の負方向側から順次押し出される。
【0031】
また、成膜装置1は、成膜室10b内にハース機構2、輪ハース部4及びプラズマ源7の組み合わせを複数組備えるものであり、複数の蒸発源を有する。複数のハース機構2は、Z軸方向に等間隔で配置され、ハース機構2に対応して輪ハース部4、プラズマ源7及びステアリングコイル5がそれぞれ配置されている。成膜装置1は、Z軸方向の複数個所から成膜材料Maを蒸発又は昇華させて成膜材料粒子Mbを拡散させることができる。
【0032】
次に、
図2を参照して主ハース17近傍の磁場分布について説明する。
図2では、プラズマ源7から出射されたプラズマビームが輪ハース6によって主ハース17に導かれている状態の磁場分布を示している。図中の矢印は磁力線の向きを示している。主ハース17近傍の磁場は、輪ハース6による磁場、ステアリングコイル5による磁場、及びプラズマビームPの自己誘導による磁場の影響を受け、
図2に示されるように、輪ハース6の中心軸CL6に対して非対称に分布している。そのため、プラズマビームPの入射位置は、輪ハース6の中心軸CL6からずれた位置となり、中心軸CL6上に配置された成膜材料Ma(の中心)からずれた位置となる。
【0033】
ここで、成膜装置1は、輪ハース6の中心軸CL6方向から見て、主ハース17の充填部17aの周囲に配置された補助コイル群23と、補助コイル群23に電流を供給する補助コイル電源部24と、補助コイル群23に供給される電流を調整する電流調整部(磁場調整部)25とを備えている。
【0034】
図3に示されるように、補助コイル群23は、一対の第1補助コイル26,27及び一対の第2補助コイル28,29を有する。なお、
図3(a)では、輪ハース部4のケース12の図示を省略している。補助コイル群23は、ケース12内に収容されている。
【0035】
補助コイル群23は、搬送機構3(成膜対象物)が配置されている方を正面とした場合、永久磁石20の正面(コイル9とは反対側の面)上に配置されている。一対の第1補助コイル26,27は、X軸方向から見て、蒸発源を挟んでY軸方向の両側に配置されている。
図3では、左側に第1補助コイル26が配置され、右側に第1補助コイル27が配置されている。第1補助コイル26,27は、環状の永久磁石20の周方向に沿って略扇型に巻かれた平面コイルである。第1補助コイル26,27の軸線方向は、X軸方向に沿って配置されている。
【0036】
一対の第2補助コイル28,29は、X軸方向から見て、蒸発源(主ハース17に充填された成膜材料Ma)を挟んでZ軸方向の両側に配置されている。
図3(a)では、上側に第2補助コイル28が配置され、下側に第2補助コイル29が配置されている。第2補助コイル28,29は、環状の永久磁石20の周方向に沿って略扇型に巻かれた平面コイルである。第2補助コイル28,29の軸線方向は、X軸方向に沿って配置されている。
【0037】
補助コイル電源部24は、交流電源部24A及び直流電源部24Bを有する。交流電源部24Aは、一対の第1補助コイル26,27及び一対の第2補助コイル28,29のそれぞれに交流電流を供給するものである。交流電源部24Aは、一対の第1補助コイル26,27の正面側の極性が互いに異なるように交流電流を供給する。例えば、第1補助コイル27に供給される交流電流の位相は、第1補助コイル26に供給される交流電流の位相と180度ずれている。また、交流電源部24Aは、一対の第2補助コイル28,29の正面側の極性が互いに異なるように交流電流を供給する。例えば、第2補助コイル29に供給される交流電流の位相は、第2補助コイル28に供給される交流電流の位相と180度ずれている。一対の第1補助コイル26,27及び一対の第2補助コイル28,29に供給される交流電流の波形は例えば正弦波を成している。
【0038】
交流電源部24Aは、輪ハース部4の周方向に配置された4つの補助コイル26,28,27,29に対して、位相を90度ずつずらして交流電流を供給する。例えば、第1補助コイル26に供給される交流電流の位相は、第2補助コイル29に供給される交流電流の位相より90度進んでいる。第2補助コイル28に供給される交流電流の位相は、第1補助コイル26に供給される交流電流の位相より90度進んでいる。第1補助コイル27に供給される交流電流の位相は、第2補助コイル28に供給される交流電流の位相より90度進んでいる。第2補助コイル29に供給される交流電流の位相は、第1補助コイル27の位相より90度進んでいる。
【0039】
交流電源部24Aは、輪ハース部4の周方向に隣接する補助コイル26〜29に供給される交流電流の位相を変えることで、補助コイル26〜29による磁場の向きを周方向に移動させて回転させる回転磁場生成部として機能する。
【0040】
交流電流の周波数は、例えば数十Hz〜数kHzとすることができる。交流電流の周波数が数kHzを超えると、ケーシング12の表面に生じた渦電流によって磁気シールドが発生し、補助コイル群23による磁場が消失するおそれがある。
【0041】
直流電源部24Bは、一対の第1補助コイル26,27及び一対の第2補助コイル28,29のそれぞれに直流電流を供給するものである。補助コイル電源部24は、交流電流に直流電流を重畳させて、一対の第1補助コイル26,27及び一対の第2補助コイル28,29のそれぞれに電流を供給する。
【0042】
直流電源部24Bは、一対の第1補助コイル26,27の正面側の極性が互いに異なるように直流電流を供給する。例えば、第1補助コイル26の正面側の極性がS極、第1補助コイル27の正面側の極性がN極となるように、直流電流が供給される。このとき、一対の第1補助コイル26,27によって、第1補助コイル27から第1補助コイル26へY軸方向に沿う磁場が形成される。第1補助コイル26,27の電流値は、一対の第1補助コイル26,27により形成される磁場の大きさに応じて適宜設定される。
【0043】
また、補助コイル電源部24は、一対の第2補助コイル28,29の正面側の極性が互いに異なるように直流電流を供給する。例えば、第2補助コイル28の正面側の極性がS極、第2補助コイル29の正面側の極性がN極となるように、直流電流が供給される。このとき、一対の第2補助コイル28,29によって、第2補助コイル29から第2補助コイル28へZ軸方向に沿う磁場が形成される。第2補助コイル28,29の電流値は、一対の第2補助コイル28,29により形成される磁場の大きさに応じて適宜設定される。
【0044】
電流調整部25は、第1補助コイル26,27及び第2補助コイル28,29に供給される直流電流を調整するものである。電流調整部25は、例えば抵抗値を変えることで、第1補助コイル26,27及び第2補助コイル28,29に供給される電流値を調整する。電流調整部25は、第1補助コイル26,27及び第2補助コイル28,29に供給される電流値を調整することで、第1補助コイル26,27により生成される磁場の強さ及び第2補助コイル28,29により生成される磁場の強さを調整することができる。
【0045】
また、電流調整部25は、一対の第1補助コイル26,27に供給される直流電流の向きを逆転させて、第1補助コイル26,27の極性を反転させ第1補助コイル26,27により生成される磁場の向きを変えてもよい。電流調整部25は、一対の第2補助コイル28,29に供給される直流電流の向きを逆転させて、第2補助コイル28,29の極性を反転させ第2補助コイル28,29により生成した磁場の向きを変えてもよい。
【0046】
図4では、直流電流を供給し、交流電流を供給しない場合において、一対の第1補助コイル26,27により輪ハース6の中心軸CL6上に形成される磁場の強度H
1を示している。
図4に示す縦軸は、中心軸方向における第1補助コイル26,27からの距離を示し、横軸は、Y軸方向に沿う磁場の強度を示している。
図4の状態では、一対の第1補助コイル26,27による磁場は左向きである。
【0047】
図4に示すように、輪ハース6のコイル9及び永久磁石20が生成する磁場は、輪ハース6から正面側へ所定距離進んだ位置で弱くなる。この磁場が弱くなる位置において、磁場強度H
1のピークH
1Pが現れるように一対の第1補助コイル26,27により磁場を生成する。これにより、ステアリングコイル5が生成する磁場やプラズマビームが生成する自己誘導磁場の影響を効率良く打ち消して、成膜材料Maの中心(輪ハース6の中心軸CL6)にプラズマビームPを入射させることができる。例えば、一対の第1補助コイル26,27による磁場強度H
1のピークH
1Pは、中心軸CL6方向において第1補助コイル26,27から正面側へ6cm離れた位置である。
【0048】
次に、本実施形態に係る成膜装置1の作用について説明する。
【0049】
成膜装置1では、交流電源部24Aによって、一対の第1補助コイル26,27及び一対の第2補助コイル28,29に交流電流を供給する。補助コイル26,28,27,29に供給される交流電流は、位相が90度ずつずれているので、補助コイル26,28,27,29による磁場の向きは、
図5(a)〜
図5(h)に示されるように、例えば、右回りに回転するように変化する。
図5(a)〜
図5(h)では、X軸方向から蒸発源側を見た場合の図であり、蒸発源の正面側に発生した磁場の向きを矢印で示している。
【0050】
図5(a)の状態では、第2補助コイル28の正面側の極性がS極、第2補助コイル29の正面側の極性がN極である。磁場の向きは、Z軸方向の負方向であり、第2補助コイル29から第2補助コイル28に向かう向きとなっている。
【0051】
図5(b)の状態は、
図5(a)の状態よりも交流電流の位相が45度進んだ状態である。
図5(b)の状態では、第2補助コイル28及び第1補助コイル27の正面側の極性がS極、第2補助コイル29及び第1補助コイル26の正面側の極性がN極である。磁場の向きは、Z軸方向の負方向からY軸方向の負方向へ45度傾斜した向きとなっている。
【0052】
図5(c)の状態は、
図5(b)の状態よりも交流電流の位相が45度進んだ状態である。
図5(c)の状態では、第1補助コイル27の正面側の極性がS極、第1補助コイル26の正面側の極性がN極である。磁場の向きは、Y軸方向の負方向であり、第1補助コイル26から第1補助コイル27に向かう向きとなっている。
【0053】
図5(d)の状態は、
図5(c)の状態よりも交流電流の位相が45度進んだ状態である。
図5(d)の状態では、第1補助コイル27及び第2補助コイル29の正面側の極性がS極、第1補助コイル26及び第2補助コイル28の正面側の極性がN極である。磁場の向きは、Y軸方向の負方向からZ軸方向の正方向へ45度傾斜した向きとなっている。
【0054】
図5(e)の状態は、
図5(d)の状態よりも交流電流の位相が45度進んだ状態である。
図5(e)の状態では、第2補助コイル29の正面側の極性がS極、第2補助コイル28の正面側の極性がN極である。磁場の向きは、Z軸方向の正方向であり、第2補助コイル28から第2補助コイル29に向かう向きとなっている。
【0055】
図5(f)の状態は、
図5(e)の状態よりも交流電流の位相が45度進んだ状態である。
図5(f)の状態では、第2補助コイル29及び第1補助コイル26の正面側の極性がS極、第2補助コイル28及び第1補助コイル27の正面側の極性がN極である。磁場の向きは、Z軸方向の正方向からY軸方向の正方向へ45度傾斜した向きとなっている。
【0056】
図5(g)の状態は、
図5(f)の状態よりも交流電流の位相が45度進んだ状態である。
図5(g)の状態では、第1補助コイル26の正面側の極性がS極、第1補助コイル27の正面側の極性がN極である。磁場の向きは、Y軸方向の正方向であり、第1補助コイル27から第1補助コイル26に向かう向きとなっている。
【0057】
図5(h)の状態は、
図5(g)の状態よりも交流電流の位相が45度進んだ状態である。
図5(h)の状態では、第1補助コイル26及び第2補助コイル28の正面側の極性がS極、第1補助コイル27及び第2補助コイル29の正面側の極性がN極である。磁場の向きは、Y軸方向の正方向からZ軸方向の負方向へ45度傾斜した向きとなっている。
【0058】
図5(a)〜
図5(h)に示すように、磁場の向きを回転させることで、
図6に示されるように、プラズマビームPが導入される位置を回転移動させることができる。成膜装置1では、プラズマビームPが導入される位置を円周状に周期的に回転移動させることができるので、プラズマビームPが導かれる位置が局所的に集中しないようにすることができる。
【0059】
図6では、正面側から蒸発源側を見た場合の成膜材料Maの上面、プラズマビームPの入射位置及び移動方向を示している。
図6では、プラズマビームPの回転移動における中心Pcは、成膜材料Maの中心と一致している。プラズマビームPの外径は、例えば、主ハース17の半径に対応している。
【0060】
また、成膜装置1は、交流電流に直流電流を重畳させて、補助コイル群23に電流を供給することができる。成膜装置1は、プラズマビームPのずれ量に応じて、一対の第1補助コイル26,27及び一対の第2補助コイル28,29に供給される電流値を調整して、磁場の強度を調整してプラズマビームPの回転移動の中心Pc位置を修正する。中心Pc位置のY軸方向におけるずれは、一対の第1補助コイル26,27により生成される磁場によって修正する。中心位置のZ軸方向におけるずれは、一対の第2補助コイル28,29により生成した磁場によって修正する。このように、磁場を修正して、プラズマビームPが導入される位置を修正した後に、成膜処理を実行する。
【0061】
図7は、成膜材料の減り方に偏りが生じた場合を示している。例えば、従来の成膜装置において、プラズマビームPの入射位置が、成膜材料Maの中心(CL6)からずれている場合には、
図7に示されるように、成膜材料Maの減り方に偏りが生じる。
図7に示される場合は、プラズマビームPが成膜材料Maの中心から図示左側にずれて入射した場合であり、中心より左側の部分は、中心より右側の部分よりも、成膜材料の減り方が速くなっている。成膜材料は、右側の部分において、盛り上がっている。
【0062】
このように、成膜材料の減り方に偏りが生じ、片側が盛り上がるようになっている(片掘れが発生している)場合には、成膜材料の蒸発又は昇華においても偏りが生じてしまい、安定した蒸発又は昇華ができなくなる。成膜装置1では、磁場の向きを周期的に回転させているので、プラズマビームPが導入される位置は、円周状の軌道を描くように旋回する。そのため、プラズマビームPが導入される位置が一点に集中しないため、成膜材料Maの減り方に偏りが生じることが防止される。成膜装置1では、
図7に示されるような片掘れの発生を抑制することができるので、成膜材料Maを安定して蒸発又は昇華させることができる。
【0063】
なお、プラズマビームPの外径は、例えば、成膜材料Maの半径に対応し、プラズマビームPの回転移動の中心は成膜材料Maの中心と一致している。また、プラズマビームPの外径は、成膜材料Maの半径よりも大きくても、小さくてもよい。また、プラズマビームPの回転移動の中心は、成膜材料Maの中心からずれていてもよい。
【0064】
図8は、従来の成膜装置100の主ハース101及び輪ハース部102を示す拡大断面図であり、主ハース101の周りに成膜材料の異常堆積物Mdが発生している状況を示している。
図8に示されているように、異常堆積物Mdは、主ハース101の先端部から外方(図示上方又は側方)へ張り出すように、局所的に堆積している。本実施形態の成膜装置1では、磁場の向きを周期的に回転させて、プラズマビームPが導入される位置を回転移動させているので、主ハース17の先端部にプラズマビームPがかかるように移動させることができる。これにより、成膜装置1では、主ハース17の先端部における成膜材料の堆積が抑制されるので、局所的な異常堆積物の発生が抑制される。
【0065】
本実施形態の成膜装置1によれば、補助コイル群23に交流電流を供給して、補助コイル群23による磁場の向きを回転させることができるので、プラズマビームPが導かれる位置を周期的に回転移動させることができる。そのため、プラズマビームPが導かれる位置を好適に移動させて分散させることができる。これにより、人手により主ハース17の取り付け位置を変更する作業を行うことなく、蒸発源に対してプラズマビームが導かれる位置を容易に調整することができる。成膜装置1では、プラズマビームPが導かれる位置を、一定の範囲内で動かすことができるので、プラズマビームPが導入される位置を成膜材料Maの中心に合わせなくても、成膜材料Maの減り方が局所的に偏ってしまうことを抑制することができる。成膜装置1では、プラズマビームPが入射する位置を回転移動させることで、成膜材料Maが中心軸からずれた位置で局所的に蒸発又は昇華することが防止され、成膜材料Maを安定的に蒸発又は昇華することができる。その結果、成膜装置1では、連続的に成膜材料Maを供給しながら成膜材料Maの蒸発又は昇華を行い、安定的に連続運転を行うことができ、連続運転の時間を延ばすことができる。
【0066】
また、成膜装置1では、交流電流に直流電流を重畳させて、補助コイル群23に電流を供給することができるので、磁場の向きが回転する際の回転中心を移動させて調整することができる。これにより、プラズマビームPが回転移動する際の回転中心を移動させて調整することができ、プラズマビームPが導入される位置を調整して、成膜材料Maが中心軸CL6からずれた位置で、局所的に蒸発又は昇華することが防止される。
【0067】
例えば、従来の成膜装置では、成膜材料の正面側に発生する磁場の影響によって、プラズマビームPが輪ハースの中心軸CLに対して傾斜すると、成膜材料のイオン化率の差に伴って組成ムラが生じ、膜質分布にムラが発生するおそれがある。成膜装置1では、プラズマビームPが輪ハース6の中心軸CL6周りに回転移動しながら入射され、蒸発又は昇華した成膜材料も旋回するように飛翔するので、成膜材料の組成分布も平均化されて、組成ムラの発生を抑制して、膜質分布の均一化を図ることができる。
【0068】
次に、成膜装置1での使用に適した成膜材料のタブレットについて説明する。
図9は、成膜材料のタブレットの変形例を示す斜視図である。
図9に示されるように、成膜材料のタブレットT
A〜T
Cは、組成が異なると共に蒸気圧が異なる複数の成膜材料M
1,M
2を有し、成膜材料M
1,M
2ごとに配置される領域が分けられている。例えば、成膜材料M
1の蒸気圧は、成膜材料M
2の蒸気圧より低い。例えば、成膜材料M
1はAl
2O
3であり、成膜材料M
2はZnOである。
【0069】
図9(a)に示されるタブレットT
Aでは、円柱状を成すタブレットT
Aの軸線方向から見た場合に、成膜材料M
1,M
2が配置される領域F
1,F
2は、扇状を成すように4つに分けられている。具体的には、タブレットT
Aの中心C
1を通り、直交する境界線L
1,L
2によって、成膜材料M
1,M
2が配置される領域F
1,F
2が区切られている。周方向において、成膜材料M
1,M
2は交互に配置されている。成膜材料M
1は、中心C
1を挟んで対向する領域F
1に配置され、成膜材料M
2は、中心C
1を挟んで対向する領域F
2に配置されている。
【0070】
図9(b)に示されるタブレットT
Bでは、タブレットT
Bの軸線方向から見た場合に、成膜材料M
1,M
2が配置される領域は、中央に配置され円形を成す領域F
3と、この領域F
3の外側で周方向に配置された円環状の領域F
4と、に分けられている。中央の領域F
3には成膜材料M
2が配置され、外側の領域F
4には成膜材料M
1が配置されている。なお、領域F
3に成膜材料M
1を配置して、領域F
4に成膜材料M
2を配置してもよい。
【0071】
図9(c)に示されるタブレットT
Cでは、タブレットT
Cの軸線方向から見た場合に、成膜材料M
1,M
2が配置される領域は、円形を成す複数の領域F
5と、複数の領域F
5以外の領域F
6と、に分けられている。領域F
5には成膜材料M
1が配置され、領域F
6には成膜材料M
2が配置されている。なお、領域F
5に成膜材料M
2を配置して、領域F
6に成膜材料M
1を配置してもよい。
【0072】
このような成膜材料のタブレットT
A,T
B,又はT
Cを成膜装置1に使用することができる。成膜装置1では、回転移動しながらプラズマビームPがタブレットT
A,T
B,又はT
Cに入射される。プラズマビームPの入射位置が移動するので、タブレットT
A,T
B,又はT
Cの各領域F
1〜F
2,F
3〜F
4,又はF
5〜F
6にプラズマビームPが順次照射されることになる。プラズマビームPの外径を小さく絞り一定の速度で走査しながらプラズマビームPを照射すると、蒸気圧が低く蒸発し難い領域をプラズマビームPが避けずに、この蒸気圧が低い領域にもプラズマビームPが照射される。一定速度でタブレットT
A,T
B,又はT
Cが送り出されると、蒸気圧が低い領域は蒸発温度が上がり、タブレット全体として一様に蒸発又は昇華が行われる。そのため、各領域F
1〜F
2,F
3〜F
4,又はF
5〜F
6においてそれぞれ成膜材料が蒸発又は昇華するので、成膜材料ごとの蒸発又は昇華の偏りを抑えて分留の発生を抑制することができ、基板に成膜された膜質を均一に保つことができる。例えば、蒸気圧の差が大きい2つの成膜材料を均一に混合させた場合には、蒸気圧の高い方の成膜材料のみが蒸発又は昇華し、蒸気圧の低い方の成膜材料が蒸発又は昇華せずに残ってしまうことがあった。本実施形態の成膜装置1において、タブレットT
A,T
B,又はT
Cを使用することで、成膜材料の分留の発生を抑制することができる。なお、このようなタブレットT
A,T
B,又はT
Cを、その他の成膜装置に使用してもよい。また、タブレットは、蒸気圧が異なる3種類以上の成膜材料を有するものでもよい。
【0073】
次に、第2実施形態に係る成膜装置について説明する。第2実施形態に係る成膜装置が、第1実施形態の成膜装置1と異なる点は、交流電流に直流電流を重畳させて補助コイル群23に電流を供給する補助コイル電源部24に代えて、補助コイル群23に直流電流を供給する補助コイル電源部(直流電源部)を備える点である。なお、第2実施形態の説明において、第1実施形態の説明と同一の説明は省略する。
【0074】
補助コイル電源部は、一対の第1補助コイル26,27及び一対の第2補助コイル28,29のそれぞれに直流電流を供給する。補助コイル電源部は、一対の第1補助コイル26,27の正面側の極性が互いに異なるように直流電流を供給する。例えば、第1補助コイル26の正面側の極性がS極、第1補助コイル27の正面側の極性がN極となるように、直流電流が供給される。このとき、一対の第1補助コイル26,27によって、第1補助コイル27から第1補助コイル26へY軸方向に沿う磁場が形成される。第1補助コイル26,27の電流値は、一対の第1補助コイル26,27により形成される磁場の大きさに応じて適宜設定される。
【0075】
また、補助コイル電源部は、一対の第2補助コイル28,29の正面側の極性が互いに異なるように直流電流を供給する。例えば、第2補助コイル28の正面側の極性がS極、第2補助コイル29の正面側の極性がN極となるように、直流電流が供給される。このとき、一対の第2補助コイル28,29によって、第2補助コイル29から第2補助コイル28へZ軸方向に沿う磁場が形成される。第2補助コイル28,29の電流値は、一対の第2補助コイル28,29により形成される磁場の大きさに応じて適宜設定される。
【0076】
電流調整部25は、第1補助コイル26,27及び第2補助コイル28,29に供給される直流電流を調整する。電流調整部25は、例えば抵抗値を変えることで、第1補助コイル26,27及び第2補助コイル28,29に供給される電流値を調整する。電流調整部25は、第1補助コイル26,27及び第2補助コイル28,29に供給される電流値を調整することで、第1補助コイル26,27により生成される磁場の強さ及び第2補助コイル28,29により生成される磁場の強さを調整する。
【0077】
また、電流調整部25は、一対の第1補助コイル26,27に供給される直流電流の向きを逆転させて、第1補助コイル26,27の極性を反転させ第1補助コイル26,27により生成される磁場の向きを変えてもよい。電流調整部25は、一対の第2補助コイル28,29に供給される直流電流の向きを逆転させて、第2補助コイル28,29の極性を反転させ第2補助コイル28,29により生成される磁場の向きを変えてもよい。
【0078】
第2実施形態の成膜装置では、使用前において、プラズマビームPの照射位置の確認を行う。成膜材料Maは主ハース17の充填部17aに充填されている。成膜装置1は、プラズマ源7からプラズマビームPを照射する。このとき、プラズマビームPが導かれる位置を確認する。プラズマビームPが成膜材料Maに対して正しい位置(中心)に導入されている場合には、成膜材料Maは、
図10に示されるように、中心が最も減少量が多く、中心軸を対称に等しく減少している。なお、
図10では、成膜材料Maの減少部分を破線で示している。プラズマビームPが成膜材料Maの中心に導入されていない場合には、成膜材料Maの減少量は、中心軸に対して対称とはならず、片側の減り方が多くなる。なお、プラズマビームPの照射位置(入射する位置)を確認するには、上述のように、成膜材料Maの減少の仕方を確認してもよく、プラズマの測定器を用いてプラズマビームPの照射位置自体を測定してもよい。
【0079】
この成膜装置では、一対の第1補助コイル26,27及び一対の第2補助コイル28,29により磁場を発生させて、プラズマビームPの導入位置を修正する。プラズマビームPのずれ量に応じて、一対の第1補助コイル26,27及び一対の第2補助コイル28,29に供給される電流値を調整して、磁場の強度を調整してプラズマビームPの成膜材料Maに対する導入位置を修正する。例えば、プラズマビームPのY軸方向におけるずれは、一対の第1補助コイル26,27により生成される磁場によって修正する。プラズマビームPのZ軸方向におけるずれは、一対の第2補助コイル28,29により生成される磁場によって修正する。このようにプラズマビームPが導入される位置を修正した後に、成膜処理を実行する。
【0080】
このような第2実施形態の成膜装置によれば、一対の第1補助コイル26,27に、正面側の極性が互いに異なるように直流電流が供給されるので、一対の第1補助コイル26,27によって、蒸発源の正面側でY軸方向に磁場を発生させることができる。また、この成膜装置では、一対の第2補助コイル28,29に、正面側の極性が互いに異なるように直流電流が供給されるので、一対の第2補助コイル28,29によって、蒸発源の正面側でZ軸方向に磁場を発生させることができる。
【0081】
また、この成膜装置は、第1補助コイル26,27に供給される直流電流を調整する電流調整部25を備えているので、一対の第1補助コイル26,27に供給される直流電流を調整して一対の第1補助コイル26,27による磁場の強さを調整することができる。同様に、電流調整部25は、一対の第2補助コイル28,29に供給される電流を調整することができるので、一対の第2補助コイル28,29による磁場の強さを調整することができる。
【0082】
この成膜装置は、電流調整部25によって、一対の第1補助コイル26,27及び/又は一対の第2補助コイル28,29の電流を自動調整してもよく、作業者によって電流調整部25を操作することで、一対の第1補助コイル26,27及び/又は一対の第2補助コイル28,29の電流を微調整してもよい。
【0083】
このように、第2実施形態に係る成膜装置では、第1補助コイル26,27及び第2補助コイル28,29による電流を調整するだけで、プラズマビームPが導かれる位置を成膜材料Maの中心に容易に合わせることができる。これにより、成膜材料Maの中心にプラズマビームPが導かれるので、成膜材料が中心軸からずれた位置で局所的に蒸発又は昇華することが防止され、成膜材料を安定的に蒸発又は昇華することができる。その結果、この成膜装置では、連続的に成膜材料を供給しながら成膜材料の蒸発又は昇華を行い、安定的に連続運転を行うことができ、連続運転の時間を延ばすことができる。
【0084】
また、この成膜装置では、従来のように作業員によって主ハースの取り付け位置を変更する必要がなく、一対の第1補助コイル26,27及び/又は一対の第2補助コイル28,29により生成された磁場によりプラズマビームPが入射する位置を調整することができる。また、運転条件を変更した場合にあっても、成膜装置1では、プラズマビームPが入射する位置を容易に調整することができる。
【0085】
本発明は、前述した実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、下記のような種々の変形が可能である。
【0086】
例えば、上記実施形態では、主ハース17及び輪ハース6を複数組備え、主ハース17及び輪ハース6に対応して、プラズマ源7、ステアリングコイル5、補助コイル群23及び電流調整部25がそれぞれ設けられているが、一組だけの主ハース17及び輪ハース6を備える成膜装置でもよい。また、
図11に示されるように、Y軸方向(搬送方向)及びZ軸方向に複数の蒸発源を備える成膜装置でもよい。なお、
図11では、補助コイル群23の図示を省略している。複数の蒸発源を備える成膜装置において、それぞれの蒸発源に対応して補助コイル群23を備えていると、各蒸発源におけるプラズマビームPの導入位置の調整を容易に行うことができ、特に有効である。
【0087】
また、上記の実施形態では、補助コイル群23は、一対の第1補助コイル26,27及び一対の第2補助コイル28,29を備えているが、一対の第1又は第2の補助コイルのみを備える構成でもよい。また、補助コイル群23は、互いに異なる方向に対向して配置された3対以上の補助コイルを備えるものでもよい。また、補助コイルの対向する向きは、Y軸方向又はZ軸方向に限定されず、その他の方向に対向して配置されているものでもよい。例えば、一対の補助コイルが対向する方向を60度ずつ変えて、3組の補助コイルを備える構成でもよい。この構成において、補助コイルに交流電流を供給する場合には、位相を60度ずつずらす。
【0088】
また、一対の補助コイルの形状は、扇形に限定されず、円形や矩形などその他の形状でもよい。
【0089】
また、上記実施形態では、補助コイル群23が永久磁石20の正面側に配置されているが、補助コイル群23が、永久磁石20とコイル9との間に配置されているものでもよく、その他の位置に配置されているものでもよい。
【0090】
また、補助コイル群23は、輪ハース部4のケース12内に収容されていないものでもよく、ケース12とは別体として設けられたケース内に収容されているものでもよい。
【0091】
また、上記の第1実施形態では、交流電流に直流電流を重畳させて、補助コイル群23に電流を供給しているが、補助コイル電源部は、直流電流を重畳させずに交流電流を供給してもよい。
【0092】
また、上記の第1実施形態では、補助コイル群23に交流電流を供給することで、補助コイル群23による磁場の向きを回転させて、プラズマビームPの入射位置が円運動するようにしているが、プラズマビームPの入射位置がその他の形状を描くように、磁場の向きを変えてよい。例えば、プラズマビームPの入射位置が楕円形を描くように、磁場を発生させてもよく、直線的に往復するように磁場を発生させてもよい。
【0093】
また、上記の第1実施形態では、成膜を行う際に、プラズマビームPを回転移動させているが、例えば、成膜を行わずに、補助コイル群23に交流電流を供給してプラズマビームPを移動させて、主ハース17に堆積した異常堆積物MdにプラズマビームPを照射して、異常堆積物Mdを除去してもよい。