(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
上記複数対の実効励磁部が、上記導体の基準位置における中心線を含み上記第一基準平面に直交する第二基準平面を挟んで対称に配置される請求項1に記載の誘導加熱装置。
上記第一基準平面の一方側の実効励磁部の平均中心距離が導体の第一基準平面方向の最大幅の0.5倍以上10倍以下である請求項1、請求項2又は請求項3に記載の誘導加熱装置。
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の誘導加熱装置と、この誘導加熱装置の上流側に配設され、上記導体に連続的に絶縁塗料を塗布する塗布装置とを備える絶縁電線製造装置。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[本発明の実施形態の説明]
本発明の一態様に係る誘導加熱装置は、線状の導体を連続的に加熱する誘導加熱装置であって、上記導体と平行に延在する複数対の実効励磁部を有する加熱コイルを備え、上記実効励磁部が、互いに平行で、導体の基準位置における中心線を含む第一基準平面を挟んで対称かつ上記第一基準平面の一方側と他方側とで電流の向きが異なるよう配設される。
【0018】
当該誘導加熱装置は、加熱コイルが導体と平行に延在する複数対の実効励磁部を有し、これらの実効励磁部が互いに平行で、導体の基準位置における中心線を含む第一基準平面を挟んで対称かつ上記第一基準平面の一方側と他方側とで電流の向きが異なるよう配設されるので、導体の基準位置近傍において第一基準平面と略平行で直線的な磁束を形成する。これにより、導体が第一基準平面と平行方向に芯ずれしても、渦電流が流れる導体表面に印加される磁束の向きが大きく変化せず、導体に作用するローレンツ力の第一基準平面と平行な方向の成分が大きく増加しない。このため、このローレンツ力が導体の張力による原点復帰を阻害せず、結果として導体の芯ずれを抑制できる。
【0019】
上記複数対の実効励磁部が、上記導体の基準位置における中心線を含み上記第一基準平面に直交する第二基準平面を挟んで対称に配置されるとよい。このように、加熱コイルが第二基準平面を挟んで対称に配置されることにより、第二基準平面の近傍領域に形成される磁束の直進性が高くなり、芯ずれをより効果的に抑制できる共に、導体の芯ずれ方向にかかわらず均等な芯ずれ抑制効果が得られる。
【0020】
対をなす上記実効励磁部の平均間隔としては、1mm以上15mm以下が好ましい。このように、対をなす実効励磁部の平均間隔が上記範囲内であることによって、実効励磁部と導体との接触を防止しつつ、第一基準平面に沿う直線的な磁束を効率よく発生させて誘導加熱の効率を向上できる。この結果、導体の芯ずれをより効果的に抑制できる。
【0021】
上記第一基準平面の一方側の実効励磁部の平均中心距離としては、導体の第一基準平面方向の最大幅の0.5倍以上10倍以下が好ましい。このように、第一基準平面の一方側の実効励磁部の平均中心距離の導体の最大幅に対する比が上記範囲内であることによって、導体の基準位置近傍における磁束の直線性を向上できる。この結果、導体の芯ずれをより効果的に抑制できる。
【0022】
上記加熱コイルが、二対の上記実効励磁部を有するとよい。このように、二対の実効励磁部を有する比較的簡単な構成とすることにより、最小限のコストで導体の芯ずれを抑制する効果が得られる。
【0023】
本発明の一態様に係る絶縁電線製造装置は、当該誘導加熱装置と、この誘導加熱装置の上流側に配設され、上記導体に連続的に絶縁塗料を塗布する塗布装置とを備える絶縁電線製造装置である。
【0024】
当該絶縁電線製造装置は、当該誘導加熱装置により導体を加熱するのでエネルギー効率に優れ、芯ずれが抑制されることで塗布装置において形成される塗膜の均一性を向上させられる。
【0025】
ここで、「平行」とは両者の延在方向の角度差が10°以内、好ましくは5°以内、より好ましくは3°以内であることを意味する。「導体の基準位置」とは、設計上の導体の搬送位置であって、芯ずれがない位置を意味する。実効励磁部の「平均間隔」とは第一基準平面に垂直な断面における実効励磁部間の最短距離(隙間)の平均を意味する。また、実効励磁部の「平均中心距離」とは第一基準平面に垂直な断面における幾何学的重心間の距離の平均を意味する。
【0026】
[本発明の実施形態の詳細]
以下、本発明の一実施形態に係る誘導加熱装置について図面を参照しつつ詳説する。
【0027】
図1の誘導加熱装置1は、線状の導体Cを連続的に加熱する装置である。この誘導加熱装置1は、導体Cに磁界を印加するための加熱コイル2と、加熱コイル2に高周波電流を供給する高周波電源3とを備える。
【0028】
<導体>
導体Cとしては、特に限定されないが、例えば銅線、銅合金線、錫めっき線、アルミニウム線、アルミニウム合金線、鋼心アルミニウム線、カッパーフライ線、ニッケルめっき銅線、銀めっき銅線、銅覆アルミニウム線等が挙げられる。導体Cの平均断面積としては、特に限定されないが、例えば0.1mm
2以上30mm
2以下とされる。また、導体Cの断面形状としては、特に限定されず、例えば円形状又は長方形状等とされる。
【0029】
<加熱コイル>
当該誘導加熱装置1において、加熱コイル2は、導体Cと平行に延在する第1実効励磁部4a、第2実効励磁部4b、第3実効励磁部5a及び第4実効励磁部5bを有する。これらの実効励磁部4a,4b,5a,5bのうち、第1実効励磁部4aと第2実効励磁部4bとが対をなし、第3実効励磁部5aと第4実効励磁部5bとが別の対をなす。つまり、当該誘導加熱装置1は、二対の実効励磁部を有する。
【0030】
上記実効励磁部4a,4b,5a,5bは、
図2に示すように、互いに平行で、導体Cの基準位置における中心線を含む第一基準平面P1を挟んで対称かつ上記第一基準平面P1の一方側と他方側と(
図2における右左)で流れる高周波電流Isの向きが異なるよう配設される。
【0031】
実効励磁部4a,4b,5a,5bの具体的配置としては、一つの対をなす第1実効励磁部4aと第2実効励磁部4bとが第一基準平面P1を挟んで対称に配置され、かつ別の対をなす第3実効励磁部5aと第4実効励磁部5bとが第一基準平面P1を挟んで対称に配置されている。つまり、一方の対をなす第1実効励磁部4aと第2実効励磁部4bとは、第一基準平面P1からの距離が等しく、高周波電流Isが互いに逆方向に流れる。同様に、他方の対をなす第3実効励磁部5aと第4実効励磁部5bとも、第一基準平面P1からの距離が等しく、高周波電流Isが互いに逆方向に流れる。
【0032】
また、上記二対の実効励磁部4a,4b及び実効励磁部5a,5bは、導体Cの基準位置における中心線を含み上記第一基準平面P1に直交する第二基準平面P2を挟んで対称に配置される。換言すると、高周波電流Isの向きが等しい第一基準平面P1の一方側の第1実効励磁部4aと第3実効励磁部5aとが第二基準平面P2を挟んで対称に配置され、かつこれらと高周波電流Isの向きが異なる第一基準平面P1の他方側の第2実効励磁部4bと第4実効励磁部5bとが第二基準平面P2を挟んで対称に配置されている。
【0033】
実効励磁部4a,4b,5a,5bの端部間及びこれらの端部と高周波電源3との間は、例えば銅、アルミニウム等の導電体から形成される接続部6によって接続される。実効励磁部4a,4b,5a,5bの電気的接続は、直列であってもよく並列であってもよいが、実効励磁部4a,4b,5a,5b間の電気的接続に応じて高周波電源3に求められる仕様が異なる。
【0034】
実効励磁部4a,4b,5a,5bの材質としては、導電率が高いもの、つまり電気抵抗が小さくジュール損が小さくなるものが好ましく、例えば銅、アルミニウム、金、銀等が挙げられ、中でも安価で抵抗が小さい銅が好適に用いられる。
【0035】
実効励磁部4a,4b,5a,5bの断面形状としては、図示するように正方形の他、例えば長方形、円形等であってもよい。また、実効励磁部4a,4b,5a,5bは、内部に冷媒を流通させて冷却するために空洞を有してもよい。
【0036】
実効励磁部4a,4b,5a,5bの平均断面積としては、
図2に示すような平面配置が可能な大きさであり、かつ高周波電流Isのジュール損が比較的小さくなるよう選択され、例えば1mm
2以上100mm
2以下とされる。
【0037】
実効励磁部4a,4b,5a,5bの平均長さとしては、例えば加熱の目的、導体Cの搬送速度等に応じて選択され、特に限定されないが、絶縁塗料の焼付けを行う場合、例えば100mm以上2000mm以下とされる。
【0038】
対をなす実効励磁部の平均間隔d1、つまり第1実効励磁部4aと第2実効励磁部4bとの平均間隔、及び第3実効励磁部5aと第4実効励磁部5bとの平均間隔の平均値の下限としては、1mmが好ましく、3mmがより好ましい。一方、上記対をなす実効励磁部の平均間隔d1の上限としては、15mmが好ましく、10mmがより好ましい。上記対をなす実効励磁部の平均間隔d1が上記下限に満たない場合、導体Cが実効励磁部に接触するおそれがある。逆に、上記対をなす実効励磁部の平均間隔d1が上記上限を超える場合、導体Cに励起される電流が小さくなり、加熱効率が低くなるおそれがある。
【0039】
また、対をなす第1実効励磁部4aと第2実効励磁部4bとの平均間隔は、第3実効励磁部5aと第4実効励磁部5bとの平均間隔と略等しいことが好ましい。つまり、第一基準平面P1の一方側の実効励磁部4a,5a及び第一基準平面P1の他方側の実効励磁部4b,5bは、第一基準平面P1から略等距離に配列されることが好ましい。これにより、導体Cの基準位置近傍の磁束の直線性を向上することができ、より効果的に導体Cの芯ずれを抑制できる。
【0040】
第一基準平面P1の一方側の第1実効励磁部4aと第3実効励磁部5aとの平均中心距離d2(第一基準平面P1の他方側の第2実効励磁部4bと第4実効励磁部5bとの平均中心距離と同じ)の下限としては、導体Cの第一基準平面P1方向の最大幅の0.5倍が好ましく、1倍がより好ましい。一方、上記実効励磁部4a,5aの平均中心距離d2の上限としては、導体Cの第一基準平面P1方向の最大幅の10倍が好ましく、6倍がより好ましい。上記実効励磁部4a,5aの平均中心距離d2が上記下限に満たない場合、導体Cの基準位置近傍の十分な範囲に直線的な磁束を形成することができず、導体Cの芯ずれを十分に抑制できないおそれがある。逆に、上記実効励磁部4a,5aの平均中心距離d2が上記上限を超える場合、誘導加熱のエネルギー効率が低下するおそれがある。
【0041】
上記平均中心距離d2の具体的な距離の下限としては、1mmが好ましく、3mmがより好ましい。一方、上記平均中心距離d2の具体的な距離の上限としては、30mmが好ましく、10mmがより好ましい。
【0042】
<高周波電源>
高周波電源3は、加熱コイル2に高周波電流を印加できるものであればよく、その波形としては、例えば正弦波、矩形波、複数の矩形波を重畳したもの等が可能であるが、一般的には、コンバーター回路により交流を整流した直流をインバーター回路によりオンオフして出力される矩形波状の交流が用いられる。
【0043】
高周波電源3の出力電圧としては、波高値として、例えば10V以上100V以下とされる。また、高周波電源3が出力する高周波電流Isの電流値としては、実効値として例えば50A以上300A以下とされる。
【0044】
高周波電源3が出力する高周波電流Isの周波数としては、導体Cの材質等にもよるが、例えば100kHz以上400kHz以下とされる。
【0045】
<作用>
当該誘導加熱装置1は、加熱コイル2に高周波電流Isを通電することによって磁界を形成し、導体Cに磁束Bを印加する。
【0046】
加熱コイル2は、一方の対をなす実効励磁部4a,4bが第一基準平面P1を挟んで対称に配置されていることにより、第二基準平面P2の一方側において、第一基準平面P1近傍にこの第一基準平面P1に沿う方向の磁界を形成することができる。また、他方の対をなす実効励磁部5a,5bが第一基準平面P1を挟んで対称に配置されていることにより、第二基準平面P2の他方においても、第一基準平面P1の近傍にこの第一基準平面P1に沿う方向の磁界を形成することができる。
【0047】
このため、これら二対の実効励磁部4a,4b及び実効励磁部5a,5bが形成する合成磁界による磁束Bは、
図2に示すように、一方の対の実効励磁部4a,4b間の中央領域から他方の対の実効励磁部5a,5b間の中央領域まで略平行に直線的に延伸する。
【0048】
上記高周波電流Isによって形成される磁束Bは、周期的にその向きを入れ替えるよう増減する。導体C内には、この磁束Bの変化を相殺するような渦電流Ieが流れる。この渦電流Ieは、導体C内においてジュール損を生じ、導体Cを内部から発熱させる。また、渦電流Ieは、図示するように、表皮効果によって、一方の実効励磁部4a,5a側の導体C表面近傍及び他方の実効励磁部4b,5b側の導体C表面近傍に集中して流れる。これにより、渦電流Ieは、導体Cの第一基準平面P1から遠い両側の表面に沿って導体Cの中心線に平行かつ互いに逆向きに流れる。
【0049】
ここで、磁界中を移動する電荷には、その移動方向及び磁界の方向に直交する向きのローレンツ力Fが作用する。つまり、上記渦電流Ieにより、導体Cにはローレンツ力Fが作用する。このローレンツ力Fは、一方の実効励磁部4a,5a側の導体C表面近傍の渦電流Ieと他方の実効励磁部4b,5b側の導体C表面近傍の渦電流Ieとが逆向きであることにより、互いに逆向きに作用し、相互に打ち消し合う。
【0050】
<利点>
上記のように、当該誘導加熱装置1では、導体Cの基準位置近傍に、第一基準平面P1に平行で直線的な磁束を形成するので、
図2に二点鎖線で示すように、導体Cが第一基準平面P1に沿って芯ずれしたとしても、導体Cには全体的に第一基準平面P1と平行な磁束Bが同じ本数だけ印加され続ける。従って、導体Cが第一基準平面P1に沿って芯ずれしても、導体Cに作用するローレンツ力Fが殆ど変化せず、導体Cをその張力に抗して移動させるような力を殆ど作用させない。つまり、当該誘導加熱装置1は、導体Cの芯ずれを抑制できる。
【0051】
また、第一基準平面P1の一方側の実効励磁部4a,5a及び第一基準平面P1の他方側の実効励磁部4b,5bがそれぞれ第二基準平面P2を挟んで対称に配置されていることによって、導体Cの近傍に形成される磁束が、第二基準平面P2を挟んで対称となる。これによって、導体Cが第一基準平面P1に沿って芯ずれを抑制する効果が第二基準平面P2の両側で略均等となる。加えて、実効励磁部4a,4b,5a,5bの対の数が偶数であることにより、実効励磁部が第二基準平面P2上に位置しないので、第二基準平面P2近傍の磁束の直進性を向上させることが比較的容易である。このため、当該誘導加熱装置1は、導体Cの芯ずれを効果的に抑制できる。
【0052】
特に、当該誘導加熱装置1では、加熱コイルが二対の実効励磁部4a,4b及び実効励磁部5a,5bを有し、これらの実効励磁部4a,4b,5a,5bが導体Cを四方から取り囲むよう配設される比較的簡素な構成である。このため設備コストに比して導体Cの芯ずれを抑制する効果が相対的に大きい。
【0053】
[絶縁電線製造装置]
続いて、本発明の別の実施形態に係る絶縁電線製造装置について、図面を参照しながら説明する。
【0054】
図3の絶縁電線製造装置は、線状の導体Cに連続的に絶縁塗料(ワニス)を塗布及び焼付けするための装置である。
【0055】
当該絶縁電線製造装置は、導体Cをその軸方向に搬送する送り機構11と、導体Cを連続的に加熱する当該誘導加熱装置1と、当該誘導加熱装置1の上流側に配設され、導体Cの外周面に連続的に絶縁塗料を塗布する塗布装置12と、当該誘導加熱装置1の下流側で加熱された導体Cを冷却する冷却装置13と、塗布装置12の上流側に配設され、導体Cを案内する塗布前ガイドシーブ14と、冷却装置13の中に配設され、導体Cを案内する冷却装置内ガイドシーブ15とを備える。
【0056】
この絶縁電線製造装置は、上記各構成要素が、例えば鋼材等によって形成されるフレームSによって支持されることで、相互の位置関係が担保されている。この絶縁電線製造装置において、誘導加熱装置1が塗布装置12の上方に配置され、さらに冷却装置13が誘導加熱装置1の上方に配置されることが好ましい。
【0057】
図3の絶縁電線製造装置は、塗布装置12、誘導加熱装置1及び冷却装置13を複数組有し、これらが紙面奥行方向に配列されている。従って、当該絶縁電線製造装置は、導体Cに複数回にわたって絶縁塗料を塗布及び焼付けし、絶縁塗料により形成される絶縁層の厚さを徐々に大きくできるよう構成されている。また、
図3の絶縁電線製造装置は、一回の塗布及び焼付けにつき、直列に配列される2つの誘導加熱装置1を備えている。なお、以降の説明では、一回の塗布及び焼付けを行う一組の塗布装置12、誘導加熱装置1及び冷却装置13について説明する。
【0058】
<絶縁塗料>
絶縁塗料の主成分としては、絶縁性及び耐熱性が高い樹脂であればよく、例えばポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエステルイミド等が挙げられる。また絶縁塗料は、例えばN−メチル−2−ピロリドン、クレゾール等の溶剤を含むことができる。
【0059】
<送り機構>
送り機構11は、導体Cが架け渡される下側搬送シーブ(プーリー)11a及び上側搬送シーブ11bを含み、下側搬送シーブ11aから上側搬送シーブ11bに向けて導体を搬送する。下側搬送シーブ11a及び上側搬送シーブ11b間において導体Cは、張力により直線的に張架される。好ましくは、送り機構11は、下側搬送シーブ11aから上側搬送シーブ11bまでの間の導体を略鉛直上向きに搬送する。
【0060】
送り機構11による導体Cの搬送速度(線速)の下限としては、2m/minが好ましく、5m/minがより好ましい。一方、送り機構11による導体Cの搬送速度の上限としては、150m/minが好ましく、80m/minがより好ましい。送り機構11による導体Cの搬送速度が上記下限に満たない場合、絶縁電線の生産性が不十分となるおそれがある。逆に、送り機構11による導体Cの搬送速度が上記上限を超える場合、絶縁塗料の乾燥焼付け時の昇温速度が高くなりすぎて発泡等により絶縁電線の外観が損なわれるおそれがある。
【0061】
<塗布装置>
塗布装置12は、絶縁塗料を貯留し、下方から上方へと導体Cが貫通することにより、導体Cの外周面に絶縁塗料を付着させる塗布槽12aと、導体Cの外周面に付着した絶縁塗料の厚さを略一定になるよう過剰な絶縁塗料を掻き落とすダイス12bとを有する。
【0062】
(塗布槽)
塗布槽12aは、上部が開放され、底部に、絶縁塗料を漏出させずに導体Cを貫通させるよう孔径及び開口形状が定められる貫通孔を有する。この貫通孔は、孔径及び開口形状を変えられるよう、交換可能なブッシングにより形成されてもよい。
【0063】
また、塗布槽12aの容量としては、導体Cを途切れることなく絶縁塗料に浸漬できるだけの絶縁塗料を貯留できればよく、絶縁塗料の供給機構の設計等によっても異なるが、例えば300cc以上3000cc以下とされる。
【0064】
(ダイス)
ダイス12bは、絶縁塗料が外周面に付着した導体Cが通過する孔を有し、この孔の大きさによって絶縁塗料の外径を定めることにより、導体Cに付着する絶縁塗料の平均厚さを調整する。つまり、ダイス12bは、導体Cの外周面から過剰な絶縁塗料を除去する。また、ダイス12bは、内面が円錐面状に形成され、楔膜効果により導体Cを自動的に調心することで周方向に膜厚を一定にする効果を有するものが好適に利用される。このような調心効果を有するダイス12bは、導体Cの芯ずれに合わせて少なくとも導体の搬送方向と直交する方向に移動できるよう移動可能に配設されることが好ましい。
【0065】
<誘導加熱装置>
誘導加熱装置1は、
図1の当該誘導加熱装置1である。よって、当該誘導加熱装置1についての重複する説明は省略する。
【0066】
誘導加熱装置1による加熱後の導体Cの温度の下限としては、絶縁塗料の成分にもよるが、150℃が好ましく、200℃がより好ましい。一方、上記加熱後の導体Cの温度の上限としては、550℃が好ましく400℃がより好ましい。上記加熱後の導体Cの温度が上記下限に満たない場合、絶縁塗料を十分に硬化できないおそれがある。逆に、上記加熱後の導体Cの温度が上記上限を超える場合、導体Cに熱による損傷を与えるおそれがある。
【0067】
<冷却装置>
冷却装置13は、誘導加熱装置1の下流側、つまり誘導加熱装置1の上方に位置している。この冷却装置13は、不図示のファンによって冷却用空気が流通され、この冷却用空気に晒されるよう導体Cが挿通される冷却ダクト13aを有する。上記冷却用空気としては、熱交換器を用いて冷熱源と熱交換した空気であってもよく、外気を好ましくはフィルターを通して取り入れた室温の空気であってもよい。
【0068】
冷却ダクト13aにおける冷却用空気の流通方向としては、導体Cの搬送方向と反対方向とすることが好ましいが、導体Cの搬送方向と同じ向きに冷却用空気を流通するようにしてもよい。
【0069】
冷却装置13による冷却後の導体Cの温度の下限としては、50℃が好ましく、70℃がより好ましい。一方、上記冷却後の導体Cの温度の上限としては、絶縁塗料の成分にもよるが、200℃が好ましく、150℃がより好ましい。上記冷却後の導体Cの温度が上記下限に満たない場合、エネルギー効率が低下するおそれや、冷却装置13が必要以上に大きくなるおそれがある。逆に、上記冷却後の導体Cの温度が上記上限を超える場合、さらなる絶縁塗料の塗布が困難となるおそれがある。
【0070】
<塗布前ガイドシーブ>
塗布前ガイドシーブ14は、塗布装置12に送り込まれる導体Cを位置決めするシーブである。塗布前ガイドシーブ14は、例えば玉軸受等の転がり軸受や滑り軸受などによって回転可能に支持される。塗布前ガイドシーブ14の材質としては、特に限定されず、例えば樹脂、金属等が用いられる。
【0071】
<冷却装置内ガイドシーブ>
冷却装置内ガイドシーブ15は、冷却装置13内で導体Cを位置決めするシーブである。冷却装置内ガイドシーブ15の材質としては、特に限定されず、例えば樹脂、金属等が用いられる。冷却装置内ガイドシーブ15は、例えば玉軸受等の転がり軸受や滑り軸受などによって回転可能に支持される。
【0072】
このような軸受は、比較的耐熱性の高いものであっても、非常に高温の誘導加熱装置1の近傍に配設されると、熱により短時間で損傷して機能を喪失する可能性が高い。従って、冷却装置内ガイドシーブ15は、冷却装置13の内部で、導体Cの温度が例えば250℃以下に低下する位置に配設される。冷却装置内ガイドシーブ15は、冷却装置13により冷却されるため、導体Cよりもさらに低い温度に維持される。
【0073】
<利点>
当該絶縁電線製造装置は、当該誘導加熱装置1により導体Cを加熱するのでエネルギー効率に優れ、芯ずれが抑制されることで塗布装置12において形成される塗膜の均一性を向上させられる。その結果、高品質の絶縁電線を安価に適用できる。
【0074】
[その他の実施形態]
今回開示された実施の形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記実施形態の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0075】
当該誘導加熱装置において、加熱コイルは、三対以上の実効励磁部を有してもよい。例えば、
図4に示す誘導加熱装置20のように、加熱コイル21が、三対の実効励磁部22a,22b、実効励磁部23a,23b及び実効励磁部24a,24bを有してもよい。このように、当該誘導加熱装置において、実効励磁部の対の数が奇数である場合、一対の実効励磁部を第二基準平面上に配置することが好ましい。
【0076】
当該誘導加熱装置において、対をなす実効励磁部の平均間隔が実効励磁部の対毎に異なってもよい。
【0077】
また、当該誘導加熱装置において、実効励磁部は、第一基準平面を挟んで対称に配置されればよく、第二基準平面に対しては非対称であってもよい。
【0078】
当該誘導加熱装置において、実効励磁部の周囲に磁束を案内する磁性体を配置してもよい。
【0079】
当該誘導加熱装置において、複数の加熱コイルに対して、1つの高周波電源から高周波電流が供給されるよう構成されてもよい。
【0080】
当該誘導加熱装置は、絶縁塗料を乾燥及び硬化させるものだけでなく、導体を連続的に加熱する他の装置としても使用できる。
【0081】
また、当該絶縁電線製造装置において、冷却装置は、冷却ダクトを有しないものであってもよく、例えば単に送風機の前を横切るよう導体を搬送するようなものでもよい。
【0082】
当該絶縁電線製造装置において、一連の塗布装置、加熱コイル及び冷却装置間の導体の搬送方向は、下から上に限られず、上から下や水平方向であってもよい。特に、導体を上から下に搬送し、加熱コイルの下に冷却装置を配置すれば、塗工が難しくなる半面、加熱コイル近傍の熱せられた空気が上昇して冷却装置の温度を上昇させることがないので、加熱効率を向上させられるメリットがある。
【0083】
また、当該絶縁電線製造装置は、例えば導体延伸機構、導体軟化処理機構等を備えてもよい。上記導体軟化処理機構における導体加熱装置としても、当該誘導加熱装置を用いることができる。
【実施例】
【0084】
以下、実施例に基づき本発明を詳述するが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるものではない。
【0085】
(シミュレーション1)
シミュレーション1として、上記
図1の誘導加熱装置に準じ、二対の実効励磁部を有する加熱コイルを備えるモデルをコンピューター上でモデリングし、ローレンツ力による押出力と、実効励磁部及び導体の発熱量についてシミュレーションした。
【0086】
(シミュレーション2)
シミュレーション2として、一対の実効励磁部を有する加熱コイルを備えるモデルをコンピューター上でモデリングし、ローレンツ力による押出力と、実効励磁部及び導体の発熱量についてシミュレーションした。
【0087】
上記シミュレーション1及び2の結果導出された導体のずれ量とローレンツ力による押出力との関係を
図5に示し、導体のずれ量と加熱効率との関係を
図6に示す。なお、加熱効率については、導体及び全ての実効励磁部の合計発熱量で導体の発熱量を除することにより算出した。
【0088】
図5に示すように、シミュレーション2の一対の実効励磁部を有する加熱コイルでは、導体が少しでも芯ずれすると、芯ずれを助長する押出力が急激に増大する。一方、シミュレーション1の二対の実効励磁部を有する加熱コイルでは、芯ずれ量が1mmを超えるまでは、芯ずれを助長する押出力が低く抑えられており、導体の張力によって比較的に容易に導体を基準位置に復帰させられることが確認できた。
【0089】
また、
図6に示すように、シミュレーション1の二対の実効励磁部を有する加熱コイルでは、シミュレーション2の一対の実効励磁部を有する加熱コイルと比べて、芯ずれによる加熱効率の低下が少ないことも確認された。