(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
例えば清涼飲料等の容器に用いられる缶は、有底円筒状の缶胴の開口部に缶蓋の外周部を二重巻締めすることにより成形される。このような缶の二重巻締めは、予め缶胴の開口部に設けられたフランジ部に、缶蓋の外周部に設けられたカール部を被せた状態で、これらカール部とフランジ部とを一緒に巻き込むように加工することにより行われる。
【0003】
このように、缶蓋と缶胴とを二重に巻き締める缶の巻締め装置としては、缶蓋に当接されるチャック部材と、缶胴を保持してその軸心方向に上下動するリフターと、チャック部材とリフターとにより挟持され回転する缶蓋及び缶胴に径方向外方から摺接して、フランジ部とカール部とを巻き込むようにして抱き合わせる第1巻締めロール(第1シーミングロール)と、これらフランジ部とカール部との巻き込み部をさらに径方向内方に向けて押圧して二重巻締め部を形成する第2巻締めロール(第2シーミングロール)とを備える装置が知られている。
【0004】
この缶の巻締め装置において、第1巻締めロールは回転自在に支持されており、缶胴のフランジ部と缶蓋のカール部とを巻締める際には、回転する缶蓋及び缶胴と第1巻締めロールの成形凹部(溝部)とが当接すると、摩擦により第1巻締めロールも回転するようになっている。
このように、第1巻締めロールによる巻締め開始時には、回転する缶蓋に静止している第1巻締めロールが当接するため、缶蓋と第1巻締めロールの回転速度は一定とはならず、回転速度に差が生じる。したがって、巻締め開始時に、カール部の端縁と第1巻締めロールの成形凹部とが当接すると、カール部の先端が削られて薄切屑が発生しやすい。
【0005】
この薄切屑の対策として、特許文献1には、缶蓋のカール部(周縁部)を端縁側ほど肉厚が薄くなるように形成することが提案されており、この特許文献1には、カール部の端縁が第1巻締めロールの成形凹部(溝部)と当接した際に、容易に曲折して、端縁に代わってカール部の中程の曲面が第1巻締めロールの成形凹部と当接することで、薄切屑を発生させることなく、巻締められることが記載されている。
また、巻始め開始時にカール部の端縁が成形凹部と接触することを回避するために、カール部と成形凹部との接触開始位置を、缶蓋のカール部の先端側ではなく、カール部の中程の曲面とした缶の巻締め装置が用いられるようになってきている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、近年では、缶蓋を軽量化するために、缶蓋材を薄肉化することが検討されている。このため、特許文献1に記載の缶蓋のように、カール部の端縁の肉厚を薄くすることにも限界があり、薄切屑の発生を抑えることが難しくなっている。また、缶蓋材を薄肉化するだけではなく、従来よりもカール部の最大外周位置から先端までの径方向長さ(カール幅)を小さくすることが検討されており、従来の巻締め方法では、薄切屑の発生を防止することや、カール部を十分に巻き上げることが難しくなっている。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、缶蓋と缶胴の巻締め時に、薄切屑の発生を防止するとともに、カール部の巻き上げ性を維持して良好な密封性を確保できる缶の巻締め方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
従来よりもカール部のカール幅を小さくすると、カール部の端縁が第1巻締めロールの成形凹部に接触しやすくなり、先端が削り取られて薄切屑が生じ易くなる。このため、本発明者は、第1巻締めロールの成形凹部の深さ(グルーブ深さ)を浅くして、巻締め開始時にカール部の端縁が成形凹部と接触することを回避することを検討したが、この場合には、カール部を十分に巻き上げることができないという別の問題が生じる結果となった。そこで、カール部の巻き上げ性を向上させるために、従来よりも成形凹部の幅(グルーブ幅)を小さくすることを検討した。しかし、成形凹部の幅を小さくしすぎると、フランジ部の先端が入り込みすぎることにより、カール部にダメージを与えて局所的な歪みを生じさせ、そのダメージ部分が起点となって二重巻締め部に亀裂を生ずるおそれがあることがわかった。
そこで、本発明者は、このような事情に鑑み、以下の解決方法とした。
【0010】
本発明は、径方向内側に巻き返されたカール部を備えた缶蓋を、缶胴の開口部に設けられたフランジ部に密着させて巻締める方法であって、前記缶蓋及び前記缶胴を前記缶胴の軸心方向に挟持するとともに、前記軸心回りに回転させ、その径方向外方から、第1巻締めロールを摺接させて前記フランジ部と前記カール部とを巻き込んで巻き込み部を加工する巻き込み工程と、前記巻き込み工程によって加工された前記フランジ部及び前記カール部を第2巻締めロールを用いて径方向内方に向けて押圧して二重巻締め部を加工する潰し工程とを有し、前記第1巻締めロールは、その外周面に、前記第1巻締めロールの軸心方向上側に位置する上顎部と、該軸心方向下側に位置する下顎部と、前記上顎部と前記下顎部との間で前記巻き込み部の外周面を成形するための成形凹部とが周方向に沿って形成され、前記成形凹部は、前記上顎部から前記下顎部にかけて順に複数の円弧面と直線部とを連続的につなげた形状とされ、前記直線部は、前記第1巻締めロールの軸心に沿った断面において、前記成形凹部内の最も下方に位置する円弧面と前記下顎部の円弧面とを結ぶ接線とされ、前記巻き込み工程の前記カール部と前記成形凹部との接触開始時において、前記カール部と前記成形凹部との接触開始位置が、前記カール部の中程の外周面に設けられるとともに、前記カール部の外周面先端の端縁における接線Tと、前記直線部を径方向に延長した仮想線Iとの交点Q1が、前記下顎部の最大外周位置よりも前記第1巻締めロールの径方向外側に設けられる。
【0011】
カール部のカール幅CD(カール部の最大外周位置から先端までの径方向長さ)を小さくしたことに対して、第1巻締めロールの成形凹部の形状を変更せずに加工を行うと、カール部が成形凹部に深く入り込むことで、カール部と成形凹部との接触開始位置が、従来よりも成形凹部の底側(径方向内側)に入り込んだ配置となる。このため、カール部の巻締めが進行すると、下顎部にカール部の先端が接触することにより、カール部の先端が削り取られて薄切屑が生じ易くなる。また、単にグルーブ深さGD(成形凹部の深さ)を浅くして対応しようとすると、カール部を十分に巻き上げることが難しくなる。その結果、カバーフックの寸法を十分に確保することが難しくなったり、リバースリンクルが発生したりする等して、缶の良好な密封性を確保することが難しくなる。
そこで、本発明の方法では、まず、カール部と成形凹部との接触開始時において、そのカール部と成形凹部との接触開始位置をカール部の中程の外周面とすることにより、カール部の先端が成形凹部と接触することを回避でき、薄切屑の発生を防止できる。また、この接触開始時において、カール部は、その中程の外周面の曲面から円滑に押し下げられ、成形凹部に沿って円滑に案内されることから、巻き上げ性を良好に維持できる。そして、第1巻締めロールがさらに缶蓋に接近して巻締めが進行するのに伴い、カール部は、その中程の外周面から成形凹部の形状に沿って巻き上げられるが、この際、カール部と成形凹部とは、その接触開始時においてカール部の外周面先端の端縁における接線Tと、直線部を径方向に延長した仮想線Iとの交点Q1を、下顎部の最大外周位置よりも第1巻締めロールの径方向外側に配置していることから、巻締めが進行してカール部が巻き込まれる過程においてもカール部の先端が成形凹部と接触することを回避でき、カール部を円滑に巻き上げることができる。
したがって、カール部のカール幅CDを小さくしたことによる巻き上げ性の低下やリバースリンクル発生の問題を解消でき、カール部の先端と成形凹部とが接触することによる薄切屑の発生を防止することができる。
【0012】
本発明の缶の巻締め方法の前記巻き込み工程において、前記接触開始位置が、前記下顎部の最大外周位置よりも前記第1巻締めロールの径方向内側に配置されるとよい。
カール部と成形凹部との接触開始位置を、下顎部の最大外周位置よりも第1巻締めロールの径方向内側に配置することで、下顎部の最大外周位置よりも径方向外側に配置した場合と比べて、カール部の外周面を成形凹部の円弧面の形状に沿って円滑に案内することが容易となる。したがって、巻き込み部を安定した形状に加工することができ、缶の良好な密封性を確保することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、缶蓋と缶胴の巻締め時に、薄切屑の発生を防止できるとともに、カール部のカール幅を小さくしたことによる巻き上げ性の低下やリバースリンクル発生の問題を解消して缶の良好な密封性を確保することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
図5に示す本実施形態の缶の巻締め装置100は、径方向内側に巻き返されたカール部14を備えた缶蓋10を、缶胴20の開口部に設けられたフランジ部23に密着させて巻締めることにより缶を成形する装置であり、
図3に示すように、缶胴20の開口端部に缶蓋10の周縁部が抱き合せられるように巻締められた二重巻締め構造を形成する。
【0016】
図5に、二重巻締めされる前の缶蓋10と缶胴20を示す。巻締め前の缶胴20は、アルミニウム合金製板材を広口のカップ状に打ち抜いた後、さらに絞りしごき加工(DI加工)することにより形成され、ストレートの有底円筒状の胴体部21と、胴体部21の上部を縮径して設けられるテーパ状の縮径部21aと、この縮径部21aの上端に設けられる首部22を介して、半径方向外方に広がるフランジ部23とが形成された形状である。なお、このフランジ部23の板厚は、0.16mm以上0.20mm以下とされる。
【0017】
一方、巻締め前の缶蓋10は、アルミニウム合金製板材をプレス成形することにより形成され、中心部に設けられる缶胴20の首部22より小径の円形のパネル部11と、このパネル部11の外縁に環状溝を形成するカウンターシンク部12を介して上方に延びて形成されるチャックウォール部13と、このチャックウォール部13の上端から半径方向外方に延びながら外周縁が内側にカールされたカール部14とが形成された形状である。なお、カール部14の板厚は、0.205mm以上0.225mm以下とされる。また、図示は省略するが、カール部14の内面にはコンパウンドが塗布されている。
【0018】
例えば本実施形態では、公称径が204の缶蓋10を用いており、この缶蓋10は、
図1(a)及び
図4に示すカール部14のカール高さCL(缶蓋10の軸心Xに平行な方向の距離)が2.0mm以上2.4mm以下、このカール部14の最大外周位置から先端までの径方向長さCD(換言すると、カール幅CD)は0.7mm以上1.0mm以下、板厚が0.205mm以上0.225mm以下に形成される。特に、缶蓋の軽量化を目的として二重巻締め部を小さく成形するために用いる缶蓋は、カール幅CDが0.7mm以上0.85mm以下と短く設けられており、巻き上げ性が悪くなるため、この巻き上げ性を改善するために、後述する本実施形態の第1巻締めロール50を用いた巻締め方法が有効である。
【0019】
そして、この缶蓋10と缶胴20とを巻締めるための缶の巻締め装置100は、図示は省略するが、巻締め機本体のターレットに、
図5に示す巻締めユニット30が周方向に間隔を開けて複数組設けられた構成とされており、ターレットの旋回により、周方向に移動しつつ缶蓋10及び缶胴20を受け入れて、これらを挟持した状態で、缶胴20のフランジ部23と缶蓋10のカール部14とを巻締めるようになっている。
【0020】
巻締めユニット30は、缶蓋10に当接して缶胴20に被せた缶蓋10を上方から押さえるチャック部材41と、缶胴20を保持して上下移動するリフター45と、このチャック部材41とリフター45との間に挟持された状態で回転させられる缶蓋10及び缶胴20に径方向外方から摺接して巻締め加工を行う第1巻締めロール50及び第2巻締めロール60とを備える。
【0021】
リフター45は、缶胴1が載置されるリフタープレート46、及びこのリフタープレート46を上方に付勢するスプリング等を保持したホルダー部47が備えられており、巻締め機本体のターレットとともに旋回することにより、巻締め機本体に固定状態のリング状カム(図示略)に沿って移動しながら
図5に矢印Aで示すように上下移動し、矢印B1で示すように自身の軸心X回りに回転駆動させられる構成である。
【0022】
チャック部材41は、リフター45と同一の軸心X上に配置され、全体としてスリーブ状に形成される。また、チャック部材41の下部の外周面には、巻締め時に第1巻締めロール50及び第2巻締めロール60から加えられる半径方向内方に向けた押圧力を缶蓋10のチャックウォール部13の内側で支持するウォール面43が、チャック部材41の軸心Xに対して上方に向かうにしたがって漸次拡径する方向に傾斜して形成されており、そのウォール面43の下方に、缶蓋10のカウンターシンク部12に嵌合する環状突出部42が形成されている。なお、このチャック部材41は、その上部が巻締め機本体のターレットに回転自在に支持されているとともに、ターレットの旋回に伴い、巻締め機本体のラックにピニオンギヤが係合して矢印B2で示すように回転駆動されるようになっている。
なお、これらチャック部材41とリフター45とは、同期して軸心X回りに回転駆動される。
【0023】
第1巻締めロール50及び第2巻締めロール60は、外周面に成形凹部53,63が周方向に沿って形成され、チャック部材41に対して
図5の矢印E,Fで示すように半径方向に離間接近するとともに、自身の軸心Y1,Y2の回りに回転自在に支持されており、リフター45とチャック部材41との間に挟持されて回転している缶胴20のフランジ部23上の缶蓋10のカール部14に径方向外方から順番に接近して成形しながら巻締めるようになっている。
【0024】
そして、第1巻締めロール50は、チャック部材41とリフター45とによって挟持された缶蓋10及び缶胴20に対してその径方向外方から摺接することにより、缶蓋10のカール部14と缶胴20のフランジ部23とを径方向外方に巻き込んだ巻き込み部15(
図2参照)を加工するものである。
第1巻締めロール50は、概略円板状をなし、自身の軸心Y1回りに回転自在に支持されており、外周面に、軸心Y1方向上側に位置する上顎部51と、軸心Y1方向下側に位置する下顎部52と、これら上顎部51と下顎部52との間で巻き込み部15の外周面を成形するための成形凹部53とが、周方向に沿って形成されている。ここで、第1巻締めロール50の軸心Y1は、チャック部材41とリフター45とによって挟持された缶蓋10及び缶胴20の軸心Xに対して、軸心X方向上方に向かうに従い漸次軸心Xから離間するように角度αで傾斜して設けられており、チャック部材41に対して
図5の矢印Eで示すように、旋回移動しながら半径方向に離間接近するようになっている。したがって、第1巻締めロール50は、その軸心Y1が、缶蓋10及び缶胴20の軸心Xに対して傾斜した状態で、缶蓋10のカール部14に摺接されるようになっている。
【0025】
この第1巻締めロール50の軸心Y1及び缶蓋10及び缶胴20の軸心Xに沿った断面の要部断面図を
図1及び
図4に示す。本実施形態の第1巻締めロール50においては、
図1及び
図4に示すように、上顎部51が第1巻締めロール50の径方向内方に後退して設けられている。また、成形凹部53は、
図4に示すように、上顎部51から下顎部52にかけて順に3つの円弧面54〜56と直線部57とを連続的に繋げた形状とされており、軸心Y1に沿った断面において、上顎部51に隣接する最初の円弧面(半径R1の円弧面)を第1円弧面54、次の円弧面(半径R2の円弧面)を第2円弧面55、成形凹部53内の最も下方に位置する円弧面(半径R3の円弧面)を第3円弧面56、第3円弧面56と下顎部52との間を接続する直線部分を直線部57としている。この直線部57は、
図4に示すように、第1巻締めロール50の軸心Y1に沿った断面において、成形凹部53内の最も下方に位置する第3円弧面56と下顎部52の円弧面52aとを結ぶ接線とされる。
【0026】
なお、
図4に示す本実施形態の第1巻締めロール50においては、直線部57は、軸心Y1と直交する直交線Hに対して角度βを成して設けられる。具体的には、直線部57は、第1巻締めロール50の径方向外方に向かうにしたがって、軸心Y1方向の下方(下顎部52側)に向かって傾斜して配置されており、成形凹部53の上縁部(上顎部51側)と下縁部(下顎部52側)とは、第1巻締めロール50の径方向外方に向かうに互いに離間するように構成されている。
【0027】
また、このように構成される成形凹部53の表面は、缶蓋10及び缶胴20の回転力を第1巻締めロール50に確実に伝達できるように、ショットピーニング等の表面処理を施すことにより、その表面粗さが最大高さでRmax1.0以上、望ましくはRmax1.0以上3.0以下に設定されている。このように、ショットピーニング処理等により表面処理を行うことで、缶蓋10との接触時における成形凹部53の表面の摩擦力が増加し、表面処理を行わない場合よりも早く第1巻締めロール50の回転速度を缶蓋10の回転速度に同期させることができる。
なお、
図4に示す符号C1は第1円弧面54の曲率中心、符号C2は第2円弧面55の曲率中心、符号C3は第3円弧面56の曲率中心である。
【0028】
また、成形凹部53のグルーブ幅GLは、直線部57の下端側を下顎部52の最大外周位置から軸心Y1と平行に引いた垂線Zまで延ばした仮想線I(
図4に破線で示す。)を引き、この仮想線Iと垂線Zとの交点であるP2から垂線Zと成形凹部53との交点であるP1までの軸心方向距離(軸心Y1に平行な方向の距離)とされる。また、グルーブ深さGDは、垂線Zから成形凹部53の最深位置までの径方向距離(垂線Zと直交する方向の距離)とされる。
【0029】
具体的には、上述したようにカール部14のカール高さCLが2.0mm以上2.4mm以下とされ、カール幅CDが0.7mm以上1.0mm以下(特に0.7mm以上0.85mm以下)とされる公称径が204の缶蓋10を巻締めるための第1巻締めロール50は、例えば、成形凹部53のグルーブ幅GLが1.9mm以上2.2mm以下に設けられ、グルーブ深さGDが1.0mm以上1.3mm以下に設けられる。
【0030】
第2巻締めロール60は、第1巻締めロール50によって径方向内方に巻き込むように加工された缶蓋10のカール部14と缶胴20のフランジ部23とを径方向内方へと押圧して潰し加工を行い、
図3に示す最終的な二重巻締め部16の外周面を形成するものである。
第2巻締めロール60は、
図5に示すように、概略円板状をなし、外周面に、上顎部61と下顎部62との間で二重巻締め部16を形成するための成形凹部63が周方向に沿う溝状に設けられており、缶蓋10及び缶胴20の軸心Xに平行な自身の軸心Y2を中心に回転自在な構成とされる。
【0031】
そして、このように構成された缶の巻締め装置100を用いた本実施形態の缶の巻締め方法について説明する。なお、この巻締め加工によって、缶蓋10及び缶胴20は部分的に変形するが、以下の説明では、缶蓋10及び缶胴20については、巻締め前、巻締め途中、巻締め後において同一符号を付している。
【0032】
まず、
図5に示すようにリフター45に載せた缶胴20のフランジ部23に、
図1(a)に示すように缶蓋10のカール部14を被せ、その上方からチャック部材41を缶蓋10に嵌合して、チャック部材41とリフター45との間で缶蓋10と缶胴20とを挟んで軸心X方向に挟持するとともに、軸心X回りに回転させる。そして、これらの径方向外方から、第1巻締めロール50を摺接させて、缶蓋10のカール部14と缶胴20のフランジ部23とを巻き込んで、巻き込み部15を加工する(巻き込み工程)。
【0033】
具体的には、缶蓋10及び缶胴20の径方向外方から第1巻締めロール50を
図1(a)に示すように旋回させて接近させることにより、第1巻締めロール50の成形凹部53に缶蓋10のカール部14と缶胴20のフランジ部23とを挿入する。そして、この巻き込み工程におけるカール部14と成形凹部53との接触開始時において、
図4に示すように、これらカール部14と成形凹部53との接触開始位置Sは、カール部14の中程の外周面に設けられるとともに、カール部14の外周面先端の端縁における接線Tと直線部57を第1巻締めロール50の径方向に延長した仮想線Iとの交点Q1が、下顎部52の最大外周位置(垂線Z)よりも第1巻締めロール50の径方向外方に設けられる。また、第1巻締めロール50の成形凹部53と缶蓋10のカール部14との接触開始位置Sは下顎部52の最大外周位置(垂線Z)よりも第1巻締めロール50の径方向内側にあり、このように、カール部14の中程の外周面の曲面が成形凹部53と最初に摺接するため、カール部14の外周面が接触開始位置Sから円滑に押し下げられ、成形凹部53に沿って案内される。したがって、
図1(b)に示す第1巻締めロール50が一回転した時点において、カール部14の先端を内側に向けて巻き込んだ状態にすることができる。さらに、成形凹部53に沿って缶蓋10のカール部14と缶胴20のフランジ部23とが内側に一体にカールされ、カール部14がフランジ部23の外方から鉤状に折り返しながら抱合せるようにして巻き込まれ、最終的には、
図2に示すように、巻き込み部15が形成される。
【0034】
次いで、第1巻締めロール50を巻き込み部15から径方向外方に離間させ、第1巻締めロール50による加工(巻き込み工程)が終了した後で、
図2の矢印で示すように、第2巻締めロール60を径方向外方側から巻き込み部15に接近させ、巻き込み部15をさらに径方向内方に向けて押し潰すように押圧して、
図3に示すように二重巻締め部16を加工する(潰し工程)。
このとき、缶蓋10のカウンターシンク部12にはチャック部材41の環状突出部42が嵌合しており、このチャック部材41の外周面のウォール面43が缶蓋10のチャックウォール部13を缶蓋10の径方向内側から支持し、このウォール面43と第2巻締めロール60との間に缶蓋10と缶胴20とが挟み込まれる。これにより、コンパウンド(図示略)を缶蓋10と缶胴20との間に圧縮状態に介在させた二重巻締め部16が形成され、缶蓋10が缶胴20のフランジ部23に装着される。
【0035】
このような構成とされた本実施形態の缶の巻締め方法では、カール幅CD(カール部14の最大外周位置から先端までの径方向長さ)を0.7mm以上1.0mm以下(特に0.7mm以上0.85mm以下)と小さくした缶蓋10において、第1巻締めロール50の成形凹部53の深さ(グルーブ深さGD)を浅くした場合であっても、カール部14の成形凹部53との接触開始位置Sを、カール部14の先端ではなく、カール部14の中程の外周面に配置する。これにより、カール部14と成形凹部14との接触開始時において、カール部14の先端が成形凹部53と接触することを回避でき、薄切屑の発生を防止できる。また、カール部14の先端で成形凹部53が接触する場合と比べて、カール部14は確実に摩擦抵抗を得ることができ、カール部14は、その中程の曲面から円滑に押し下げられ、成形凹部53(ここでは、成形凹部53の上方に位置する第1円弧面54又は第2円弧面55)に沿って円滑に案内されることから、カール部14の巻き上げ性を良好に維持できる。そして、第1巻締めロール50がさらに缶蓋10に接近してカール部14の巻締めが進行するのに伴い、カール部14が成形凹部53の下方に位置する円弧面(ここでは、第3円弧面56)及び直線部57に沿って巻き上げられる。この際、カール部14と成形凹部53とは、その接触開始時において、カール部14の外周面先端の端縁における接線Tと直線部57を径方向に延長した仮想線Iとの交点Q1を、下顎部52の最大外周位置(垂線Z)よりも第1巻締めロール50の径方向外側に配置していることから、このように巻締めが進行してカール部14が巻き込まれる過程においてもカール部14の先端が成形凹部53と接触することを回避できる。このように、交点Q1の配置を調整することにより、カール部14の巻き込み過多や巻き込み不足を防止し、カール部14のカール幅CDを小さくしたことによる巻き上げ性の低下やリバースリンクル発生の問題を解消でき、カール部14の先端と成形凹部53とが接触することによる薄切屑の発生を防止することができる。
【0036】
また、本実施形態では、巻き込み工程において、カール部14と成形凹部53との接触開始位置Sを、下顎部52の最大外周位置(垂線Z)よりも第1巻締めロール50の径方向内側に配置することとしており、下顎部52の最大外周位置(垂線Z)よりも径方向外側に配置した場合と比べて、カール部14の外周面を成形凹部53の各円弧面の形状に沿って円滑に案内することが容易となっている。したがって、巻き込み部15を安定した形状に加工することができ、缶の良好な密封性を確保することができる。
【実施例】
【0037】
次に、本発明の効果を確認するために行った比較実験の結果について説明する。なお、以下の説明でも、便宜のため、上記実施形態で使用した符号を付して説明する。
缶蓋10は、公称径が204のものであり、アルミニウム合金板を成形して、カール部14のカール高さCLが2.0mm以上2.4mm以下、カール幅CDが0.7mm以上1.0mm以下、板厚が0.205mm以上0.225mm以下に形成されたものを使用した。また、缶胴20には、アルミニウム合金板を成形し、フランジ部23の幅FWが2.0mm以上2.5mm以下、板厚が0.16mm以上0.20mm以下に形成されたものを使用した。
【0038】
そして、缶胴20にガスボリューム2.7の内溶液(水)を充填して缶蓋10を巻締め、飲料缶を作製した。その際、表1及び
図6に示すように、各寸法を変更することにより、カール部14と成形凹部53との接触開始時における交点Q1の配置を変更した実施例1及び比較例1,2の第1巻締めロール50A〜50Cを形成し、これら形状の異なる第1巻締めロール50A〜50Cにより巻締めた飲料缶を20缶ずつ作製した。
【0039】
実施例1では、
図6(a)に示すように、カール部14の中程の外周面に第1巻締めロール50Aとの初期接触位置Sを設定し(表1の「初期接触位置S」の項目では「外周面」と表記)、そのカール部14と成形凹部53との接触開始時において、交点Q1を下顎部52の最大外周位置(垂線Z)よりも径方向外側に配置した。
比較例1では、
図6(b)に示すように、カール部14の先端に第1巻締めロール50Bとの初期接触位置Sを設定し(表1の「初期接触位置S」の項目では「先端」と表記)、そのカール部14と成形凹部53との接触開始時において、交点Q1を下顎部52の最大外周位置(垂線Z)よりも径方向内側に配置した。
比較例2では、
図6(c)に示すように、カール部14の中程の外周面に第1巻締めロール50Cとの初期接触位置Sを設定し、そのカール部14と成形凹部53との接触開始時において、交点Q1を下顎部52の最大外周位置(垂線Z)よりも径方向内側に配置した。なお、比較例2の第1巻締めロール50Cは、直線部57の径方向長さLを、実施例1の第1巻締めロール50Aよりも長く設定することにより、交点Q1を下顎部52の最大外周位置よりも径方向内側に配置した。
【0040】
なお、第1巻締めロール50A〜50Cと缶蓋10とは、第1巻締めロール50A〜50Cの軸心Y1が缶蓋10の軸心Xに対して傾いて初期接触するように構成した。また、巻締め速度としては、いずれも2000缶/分に相当する速度とした。
【0041】
表1に、各第1巻締めロール50により巻締めた各飲料缶についての評価結果を示す。
各飲料缶について観察を行い、薄切屑の有無を評価した。。
【0042】
薄切屑は、巻締め時に発生する糸状のアルミニウム片のことであり、この薄切屑の評価については、第1巻締めロール50A〜50Cがその軸心Y1回りに回転しないように固定した状態とし、この最も薄切屑が発生しやすい状態で缶蓋10の巻締めを行うことにより、過酷試験を実施した。この場合、第1巻締めロール50A〜50Cは、巻締め開始時だけでなく、巻締め開始後においても回転することがないので、巻締め時にカール部14の先端が成形凹部53と接触することで、常に薄切屑が発生しやすい条件となっている。そして、この過酷試験において、薄切屑が発生した缶数を表1に記載するとともに、20缶中1缶でも薄切屑が発生した条件を不合格「×」とし、薄切屑が発生しなかった条件(缶数0)を合格「○」とした。
このように、薄切屑の評価は、製品として問題なく使用できる基準よりも過酷な条件のもとで、試験を行った。
【0043】
【表1】
【0044】
表1の結果から明らかなように、カール部14と成形凹部53との接触開始位置Sをカール部14の中程の外周面に設けるとともに、カール部14の外周面先端の端縁における接線Tと直線部57を径方向に延長した仮想線Iとの交点Q1を下顎部52の最大外周位置(垂線Z)よりも径方向外側に設けて巻締めを行った実施例1の飲料缶については、薄切屑は発生しなかった。
なお、交点Q1を下顎部52の最大外周位置(垂線Z)よりも径方向内側に設けて巻締めを行った比較例1及び比較例2では、薄切屑が発生するものがあった。
【0045】
なお、本発明は、前記実施形態の構成のものに限定されるものではなく、細部構成においては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。