(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を適用した一実施形態である過負荷保護継電器9について説明する。
先ず、本実施形態の過負荷保護継電器9の概要について述べる。
交流モータは、電気エネルギを仕事のエネルギに変える働きをする。しかしながら、交流モータに入力される入力電力Pinは、そのすべてが仕事のエネルギとして役立つ訳でなく、一部はモータの内部で損失として消費され、熱や更に一部は音となる。仕事に役に立つ電力は出力電力Poutで、モータに連結された負荷にトルクTfと、回転速度Nfとを与える。入力及び出力はW(ワット)の単位で表される。
【0019】
入力Pin(W)、出力Pout(W)とすると、モータ効率ηおよび、損失Ploss(W)の関係式は(数1)、(数2)で表わすことができる。
【0022】
銅損と漂遊負荷損は、モータ電流の増減により電流の2乗で損失が増減する。また、鉄損や機械損は、電流が増加してもその損失は変わらない(実際には、鉄損はモータの磁束密度に影響を与えるV/f(電圧/周波数)によりモータの電圧変動に影響される。)。したがって、交流モータの過負荷保護をモータの電流をベースにして行うことは好ましくない。モータの温度上昇は全損失量に比例するものであり、モータ電流の2乗に比例するものではないからである。
【0023】
また、モータの全損失は個々の損失を算出し、それらを加算することで得られるが、同じモータ電流値であっても、鉄損が支配的なモータや、銅損が支配的なモータ等により、損失の種類の割合によって全損失値が大きく異なる。
【0024】
ここで、モータの損失のほとんどは、熱としてモータの各部品に拡散(伝播)する。例えば、据付冶具など金属の固体を通して伝導するし、モータ表面の冷却リブから自然又は強制対流して大気中に放射もするし、或いは一部が音として周囲に発散もされる。誘導モータの温度上昇において、銅損は(巻線や回転子側の導体バーに流れる電流の2乗)×(巻線や導体バー等の抵抗)で発熱し、鉄損は、鉄心に生じる磁束の変化によって固定子側や回転子側コアが発熱する。固定子コアに巻き回されたモータ巻線(回転子側は導体バー)は、鉄損によるコアの発熱によって温度が上昇する。また、機械損としては、ベアリングの摩擦の損失やファンの通風抵抗もモータ巻線温度を上昇する方向に働く。漂遊負荷損には、上述した以外の回転子と固定子間のギャップでの磁束密度の減少等も含まれる。
【0025】
そこで、本実施形態では、モータの熱量の基となる物理量を、モータ電流ではなくモータの全損失量Plossとして捉える点を特徴の一つとする。上述した個々の損失を積み上げて全損失量を算出することは実際上困難であるが、損失の内訳がわからなくても全損失は得ることができる。即ち(数2)に示す様に、モータの全損失量Plossを、モータの入力電力Pinから出力電力Poutを差し引いて得る。以下に、Pin及びPoutの算出について述べる。
【0026】
先ず(数2)のモータ出力Poutの算出について述べる。誘導電動機である交流モータには、古くから同期ワットとして知られている式P2=Tf・ωsの特性が知られている。Tfはモータトルク(N・m)であり、ωsは同期角周波数(rad/s)であり、P2はモータの等価回路として表現される固定子の一次側から回転子の二次側に変圧器として描かれ、その二次側の入力(二次入力)である。これらのことからトルクTfは(数3)となる。そして、本実施形態では、係数をksとし、モータの無負荷損をW0(W)としてトルクTfの近似式(数4)を導いた。
【0029】
この(数4)は、先ずモータの入力電力Pinを、過負荷保護継電器9内でモータ印加相電圧と、モータ電流との瞬時値積算演算で求め、モータの無負荷損W0が得られれば、比例定数を1/ksとしてモータのトルクTfを近似値として得る。そして、入力電力Pinからモータの無負荷損W0を減じ、比例定数1/ksを乗じて近似トルクTfを得るようになっている。更に、トルクTfがわかれば、出力電力Poutは、(数5)により、0.1047×回転速度Nf×トルクTfで求めることができる。
【0031】
なお、交流電源を与えられた交流モータは、一般には一定速モータであり、負荷によってモータのすべりsにより回転速度Nf(1/min)は変化するが、定格すべりを考慮して、(数5)のモータの回転速度にはモータ銘板値を入力するようにしてもよい。
【0032】
次に、(数2)の入力電力Pinについて述べる。Pinは、(数4)のPinと同一で、過負荷保護継電器内でモータに印加されるそれぞれの相電圧と、モータに流れるそれぞれの相電流との瞬時値積を演算し、U〜Wの各相電力の和で求める(数6)。
【0034】
ここで、それぞれの瞬時値相電圧をVu、Vv、Vwとし、相電圧実効値をVrms、電源の角周波数をω、時間をtで表すと、より詳細には、(数6)に以下の(数7−1)〜(数7−3)及び(数8−1)〜(数8−3)を代入して計算し、(数9)でモータの入力電力Pinを求めることができる。
【0042】
上記(数2)で求められるモータの全損失Plossは、従来ベースとしていたモータ電流に変わる物理量としてモータ入力電力Pin−モータ出力電力Poutとして求める。全損失Plossを演算するCPU等の演算装置の演算周期をts(s)とすれば、全損失Plossとの積から、モータの全熱量Q(J)を(数10)として表わすことができる。
【0044】
また、モータが誘導モータである場合には、モータの全熱量Qは、モータの一次側(固定子)巻線と二次側(回転子)の導体バーのQ1、Q2に分けて(数11)のようになる。
【0046】
そして、(数11)をモータの一次側の熱量Q1について解くと(数12)に書き換えられる。
【0048】
なお、モータの回転子を永久磁石とするPMモータ(例えば、永久磁石のACサーボモータやDCBLモータ)の場合には、二次側銅損は発生しないことから、(数12)についてはk1=1と考える。
【0049】
モータの一次巻線の温度上昇Tc1(K)は、モータの一次側の熱量をQ1(J)、モータ一次巻線の質量m1(kg)、モータ一次巻線の比熱c1(J/kg・K)とすると(数13)のようになる。
【0051】
モータの巻線(コア等含む)内部から発生する全熱量Qは、(数14)でモータ枠に蓄積される。なお、モータの比熱c0は、実際には、モータは各種部品で構成され又材質も様々であるため、複合的な比熱として温度の測定箇所を定め、実測で求めるようにする。
【0053】
また、モータの熱量は、モータの据付冶具など金属の固体を通じた伝導や、モータ表面の冷却リブから大気中へ自然或いは強制対流又は放射される。モータ表面の冷却リブ(固体)と大気(流体)との間の対流による熱伝達には、自由対流と強制対流があるが、いずれの場合も熱伝達は(数15)の様になる。
【0055】
伝熱学では、温度上昇値を算出する公式として、熱抵抗Rth(℃/W)がある。この熱抵抗は定常状態での値を表しており、時間の概念がなく過度的な時間の変化については扱うことができない。従って、モータの負荷がリアルタイムで変化を続ける場合、瞬時値変化が連続する損失値(W)を熱抵抗に乗じても過度的な温度を得ることができない。
【0056】
そこで、本実施形態は、全熱量Qを積算カウンタによって、常時、累積積算するようになっている。また本実施形態は、放熱エネルギについても負の極性での累積積算(すなわち減算)を行うことで、定格負荷運転での熱平衡状態において、投入エネルギと放熱エネルギが等しくなるようにすることを特徴の1つとする。
【0057】
更に、別の実施形態におけるモータの熱モデルによる伝達関数で算出するモータ巻線温度上昇値では、(数13)と、モータ枠の温度上昇値では(数14)とで算出し、また、放熱量の演算では(数15)で行う。モータ内部から発生する全熱量Qと放熱する放熱量Qfは、ある時点で釣り合い、モータの温度上昇はモータの耐熱クラスの許容温度上昇範囲内の一定値に落ち着く。
以上が、本実施形態の過負荷保護装置の概要である。以下、各実施形態例について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0058】
〔第1実施形態〕
図1に、交流モータ1の損失様を模式的に示す。図中の入力(Pin)、出力(Pout)、全損失(Ploss)の単位はW(ワット)である。電力又はエネルギの流れの向きを概略の大きさと矢印で示している。交流モータ1が、交流電源2に接続されると、出力軸は回転を始め、出力軸を通して連結機等に連結された負荷に動力を与え、回転速度Nf、トルクTfで回転する。交流モータ1の入力は、出力と全損失の和であり、出力と入力の比が交流モータ1の効率となる。
図1は力行状態での運転を示し、入力(電力)が最も大きく、出力(動力)を負荷に与え、その差が全損失(熱、音等)になる。
【0059】
図2に、回生時の交流モータ1の損失を模式的に示す。回生時には、交流モータ1には、負荷から連結機を介して交流モータ1を増速する方向に力が与えられる。交流モータ1は発電状態となり、入力側(交流電源2)に電力を戻し、その差が全損失(熱、音等)となる。
図1と
図2において、電力又はエネルギの入力と出力の流れは逆になるが、全損失の向きは変わらない。
【0060】
図3を用いて、交流モータ(特に、誘導モータ)1の特性を説明する。同図において、x軸はトルク(%)を示し、y軸は電力(W)・電流(A)を示す。ここで、交流モータ1の電流は、トルク0の時には、無負荷電流I0であり、トルク100%時は定格電流とする。トルクが0%から次第に上昇にするにつれて、入力電流は、最初なだらかに上昇し、途中から上昇の傾斜は大きくなる。モータの出力電力(Pout)は、一定速モータであるため、商用電源の場合、破線のようにトルクに比例して上昇する。入力電力Pinは、トルク0%の時が無負荷損W0であり、トルク上昇と共に一定の傾斜で上昇し、途中からゆっくりと傾斜が大きくなる。
【0061】
モータの全損失電力Plossは、上記(数2)によるPin−Poutであるから、トルク0%から最初のうちは略水平に近い上昇をし、途中から傾斜は上昇する。トルク100%では、全損失電力Plossがモータの定格出力時の全損失電力Plrとなる。
【0062】
なお、図中のPin−W0は、本実施形態の特徴の一つであり、交流モータ1のトルクを算出する(数4)の分子を示す。Pin−W0は、モータの入力電力Pinを無負荷損W0だけ下に平行移動し、原点から上昇を始める直線近似に近い曲線になる。この曲線をトルクに近似させるために、その比例定数である1/ksを、定格電流が流れた時にチューニングするようになっている(詳細は、第3実施形態で
図21及び
図22を用いて後述する。)。
【0063】
図4に、過負荷保護継電器9の回路構成を示す。過負荷保護継電器9は、交流モータ1と、交流電源2とに接続され、交流電源2とは、配線用遮断器(MCB)3及び電磁接触器(CTT)の接点4‐1及び励磁コイル4‐2を介して接続される。配線用遮断器3は、2次側に過負荷や短絡事故が発生したとき、配線用遮断器3が異常な過電流や短絡電流を検出して電路を開放するようになっており、1次側からの電力供給を遮断するようになっている。なお、接点4−1の2次側で地絡事故を想定した感電保護も行う場合は、漏電遮断器を選定してもよい。
【0064】
過負荷保護継電器9の主回路は、入力端子R、S、Tから導体(電線、銅やアルミバー、プリント板パターン等)を通して3相のうちの2本に電流検出器(図ではU相に、U相電流検出器(CTu)5、W相にW相電流検出器(CTw)6を通して、出力端子U、V、Wに接続される。出力端子U、V、Wから交流モータ1に、3相電力を供給するようになっている。
【0065】
過負荷保護継電器9の制御電源は、配線用遮断器(MCB)3の出力から3相電源を制御電源端子r、s、tに入力する。3相全波整流器10は、交流電源を直流に変換し、スイッチングレギュレータ用電源11は、制御電源PV5の直流安定化電源を構成し、過負荷保護継電器9内に直流安定化電源PV5を供給する。なお、直流安定化電源PV5は単相交流電源で動作可能となっており、交流電源r、s、tの1本が欠相しても安定した直流電源が得られる様に構成されている。
【0066】
交流モータ1に印加される相電圧は、固定抵抗器23−1〜23−3を通して固定抵抗23−4〜23−6で分圧され、CPU14に内蔵されたA/Dコンバータのアナログ入力ポートVu、Vv、Vwに入力される。次に、交流モータ1に流れる電流は3相のうち2相のU相、W相の電流を、U相電流検出器(CTu)5及びW相電流検出器(CTw)6で検出する。検出された電流検出器の2次側の電流は、固定抵抗器23−7、23−8で電圧信号に変換され、CPU14に内蔵されたA/Dコンバータのアナログ入力ポートIu、Iwに入力される。
【0067】
また、過負荷保護継電器9には、R相導体温度検出用サーミスタ7及びT相導体温度検出用サーミスタ8がR相及びT相の導体(電線、銅やアルミバー、プリント板パターン等)に取り付けられ、検出された温度値をCPU14に内蔵のA/Dコンバータのアナログ入力ポートth1、th2に入力するようになっている。CPU14は、過負荷保護トリップから復帰する際、導体の温度が復帰温度以下に下がっているか否かをチェックすることで、復帰するか否かを判断するようになっている。
【0068】
次に、CPU14のデジタル入力(DI)について説明する。手動/自動復帰選択SW21は、過負荷保護継電器9が過負荷保護トリップ動作をした際、トリップから復帰する方式の切替えを設定するSWである。復帰方式には、手動復帰又は自動復帰が選択できるようになっており、SWオフ時は手動復帰、オン時は自動復帰となる。手動/自動復帰選択SW21は、DI8に入力する。
【0069】
電流/全損失信号選択SW22は、電流/全損失信号の選択を行うSWであり、交流モータ1が、熱の基となる信号の種別を電流信号(従来方式であり、交流モータの銅損のみを検出し電流二乗時間積一定で過負荷保護を行う方式。)とするか或いは本実施形態の特徴の1つである全損失量信号とするかを選択するSWである。なお、電流信号が選択された場合は、過負荷保護継電器9は、交流モータ1の無負荷電流「I0」、無負荷損「W0」及びトルク比例定数「1/ks」をチューニングしながら運転するモードで動作する。チューニングの完了後は、SWの切替えにより、過負荷保護継電器9は、全損失信号を選択した状態で運転するようになっている。電流/全損失信号選択SW22は、DI9に入力する。なお、固定抵抗器23−12、23−13は、プルダウン抵抗であり、SW21、22に接続する。
【0070】
押釦SW24は、リセット用であり、過負荷保護継電器9が過負荷保護トリップ動作した際に、ユーザによるリセット操作信号を出力するSWである。押釦SW24は、DI10に入力する。押釦SW25は、テストトリップ用であり、試運転時などに、トリップ動作や過負荷保護継電器9に設けられた種々の表示等や出力された種々の情報を表示装置で確認をする際に、ユーザが操作するSWである。押釦SW25は、DI11に入力する。なお、固定抵抗器23−14、23−15は、プルダウン抵抗であり、押釦SW24、25に接続する。
【0071】
上位電流整定値設定ディップSW20‐2、下位電流整定値設定ディップスSW20‐1は、電流値をデジタル値で設定する為のSWである。上位電流整定値設定ディップSW20−2は、上位4bitをDI4〜DI7に設定し、下位電流整定値設定ディップSW20−1は、下位4bitをDI0〜DI3に設定し、計8bitで設定するようになっている。過負荷保護継電器9は、上位、下位電流整定値設定ディップSW20−2、20−1で設定した電流値の120%で、3相過負荷動作はトリップ動作を実行するようになっている。
【0072】
また、入力端子DI12は、外部信号の入力であり、DI13は、各種タイミングの入力である。本実施形態では、交流モータ1に取り付けられたメカブレーキのブレーキコイルの動作タイミングを測定したり、モータのスター−デルタ切替タイミングや極数変換の切替タイミングを、電磁接触器のコイル電圧を測定したりすることができるようになっており、トレースデータの測定時に取り込むことができるようになっている。なお、DI13はアナログ信号入力のAI0端子に接続されているが、過負荷保護継電器9のパラメータによって、DI3に接続するか或いはアナログ信号入力AI0に接続するかを設定できるようになっている。
【0073】
図33に、メカブレーキ68の適用構成及びタイミング測定を模式的に示す。交流モータ1の特性を測定する時、交流モータ1に、連結器13を介して取り付けられたメカブレーキ68の開閉タイミングが重要になる場合がある。
【0074】
過負荷保護継電器9は、通信ケーブル55を介してPC54aにオフラインで接続される。過負荷保護継電器9は、入力ケーブル70を介して、メカブレーキ用励磁コイル69の電圧測定値の入力をDI端子DI12に受ける。その後、過負荷保護継電器9は、通信コネクタ26から、ブレーキタイミングやモータトルク、電流、出力電力等をPC54aに転送し、トレースデータの画面表示又は印字出力を可能とするようになっている。
更に、過負荷保護継電器9は、電磁接触器のコイル電圧を測定し、交流モータ1のスター−デルタ切替タイミングや、極数変換の切替タイミングをトレースデータとして測定できるようになっている。
【0075】
図4に戻り、アナログ信号入力AI0を取込むアナログ信号の例としては、交流モータ1の軸受部に設置した振動センサ(後述する振動センサ65)からの信号や、周囲温度検出サーミスタ(周囲温度検出サーミスタ64)によって測定された交流モータ1の周囲温度Ta等である。振動センサの信号から運転状態の振動を測定することで、ユーザや上位装置等で軸受寿命の予測ができ、交換時期を把握すること等に利用できる。また、周囲温度検出サーミスタからの周囲温度Taは、ユーザや上位装置等で、使用温度範囲以内であるか否かを判定することができる。また、モータの周囲温度の最大値よりもTaが低い場合には、交流モータ1の一次巻線温度の上限値をその差分だけ手動又は自動で大きくしたりすることにも利用することができる。
振動センサからの入力を行うか否か、周囲温度検出サーミスタでモータの周囲温度を測定するか否かは、過負荷保護継電器9に入力するパラメータで選択できるようになっている。
【0076】
図31に、振動センサの構成例を示す。交流モータ1の軸受に振動センサ65を取り付け、常時、運転状態の軸受の振動を測定する。振動センサ65で検出した微小振動は、センサケーブル66を介して増幅器67で増幅され、過負荷保護継電器9の通信コネクタ26から、CPU14のアナログ入力AI0端子に振動センサ値として取り込む。
CPU14は、振動センサ値が一定のレベルを超えたとき、軸受の交換時期と判断し、通信コネクタ26から上位装置(PLC)等にアラーム信号を送信し、上位装置からモータに停止信号を出力するようになっている。例えば、微細な塵埃が多く含まれる環境で運転する場合、塵埃の侵入により、微小ながら振動が増加傾向にある時を捉えて早急に交流モータ1を停止するのが好ましい。軸受の焼き付きは、微小振動の発生後に突然発生することから、微小振動の変化に注視することで機器破損の予防となる。
【0077】
図32に、サーミスタ64の構成例を示す。サーミスタ64は、交流モータ1のモータ枠表面や周辺に設置され、センサケーブル66から通信コネクタ26を経由してCPU14のアナログ入力AI0端子に取り込まれる。
【0078】
図4に戻り、CPU14のデジタル出力(DO)について説明する。
CPU14の出力端子DO0は、過負荷保護トリップ動作時の表示出力である。DO0が“H”の時、インバータゲート17で論理反転して固定抵抗器23−10を通して発光ダイオード19−1を点灯させ、ユーザに、過負荷保護トリップ中であることを報知するようになっている。
【0079】
DO1は、モータ定数チューニング完了の表示出力である。DO1が“H”の時、インバータゲート17で論理反転して固定抵抗器23−11を通して発光ダイオード19−2を点灯させ、モータ定数チューニングの完了を、ユーザに、報知するようになっている。
【0080】
DO2は、警報接点信号の出力である。DO2が“H”の時、インバータゲート17で論理反転し、警報出力リレー用コイル16−2に電圧印加して、16−1の警報出力のb接点を開にするようになっている。なお、18はフライホイルダイオードであり、リレーコイル16−2に並列に接続され、リレーオン時に蓄えられたエネルギを、オフ時にダイオード18を通して放電する。
【0081】
DO3は、過負荷保護トリップ信号の出力である。DO3が“H”の時、インバータゲート17で論理反転し、過負荷出力リレー用コイル15−3に電圧を印加して、15−1、15−2の過負荷出力リレーのb及びa接点を動作させる。また、過負荷出力リレー用コイル15−3に並列に接続されるフライホイルダイオード18は、リレーオン時に蓄えられたエネルギを、オフ時にダイオードを通して放電する。なお、27は不揮発性メモリで、CPU14と接続され、試運転時にチューニングしたモータの無負荷電流I0、無負荷損W0とトルク比例定数1/ks等を格納する。
【0082】
SIO端子は、シリアル通信用入出力インタフェースであり、通信コネクタ26と接続される。CPU14は、通信コネクタ26を介して、外部PCやPLC等の上記装置に、交流モータ1の入力並びに出力電力或いは電力量や、全損失電力或いは全損失電力量、電圧、電流、トルク、力率などの運転情報やパラメータ、省エネルギのデータ、交流モータ1適用先機械の特性把握、保守情報、トレースデータ等を出力するようになっている。
【0083】
以上の構成を有する過負荷保護継電器9の処理動作を説明する。
図6に、処理フローを示す。配線用遮断器3(
図4)がオンし、過負荷保護継電器9の制御電源端子r、s、tに電源が入ると、制御回路のPV5電源が生き、CPU14が動作を開始する。CPU14は、プログラムとの協働によって処理を行う。電磁接触器の接点4−1が入ることによって交流モータ1が運転を開始し、これ以降、CPU14は、交流モータ1を保護する過負荷保護トリップ動作を開始する。
【0084】
先ず、S101で、初期設定を行う。具体的には、等価モータ巻線熱量Qc=「0」、モータ定数無負荷損=「W0」、トルク比例定数=「1/ks」及びモータの耐熱クラスを設定する。
次いで、S103で、手動/自動復帰選択SW21、電流/全損失信号選択SW22、押釦SW24、25及び電流整定値設定ディップSW20−1、20−2からの入力値の読み取り及びR相、T相導体温度検出用サーミスタ7、8の温度値を読み取る。
【0085】
S105で、「入力電力Pin演算処理」を行う。
図7に、Pin演算処理の流れを模式的に示す。相電流Ivは、三相電流Iu+Iv+Iw=0から、Iv=−(Iu+Iw)となるように構成される。CPU14は、上記(数6)の演算をU、V、W相毎の相電圧、相電流の瞬時値積を演算することで、(数7−1)〜(数7−3)の相電圧と(数8−1)〜(数8−3)の相電流の積演算を行う。そして、CPU14は、各相のU相、V相、W相の入力電力量を加算することで「3相入力電力Pin」を得る。
【0086】
3相入力電力Pinを得ると、Pinが零の場合を除き、Pinの入力時間を累積積算し、「モータの運転時間(稼働時間)」を得る(S113b)。そして、リアルタイムで変化する「3相入力電力Pin」をモータの運転時間毎に積算し、「入力電力量(kW・h)」を得る(S113a)。以上が、「入力電力Pin演算処理」である。
【0087】
図6に戻り、S107及びS109で、モータの「トルクTf演算処理」と、「出力電力Pout演算処理」とを上記(数4)、(数5)に示す演算式を用いて実行する。
【0088】
そして、S111で、モータの熱量の基となる物理量である「全損失Ploss」を、(数2)の入力電力Pin-出力電力Poutから求める。
【0089】
なお、モータの出力電力Pout、全損失Plossが得られると、上記Pin演算処理で「モータの運転時間(稼働時間)(S105/113b)」が得られているので、「入力電力量(S105/S113a)」と同様に、CPU14は、「出力電力量(kW・h)(S117)」及び「全損失電力量(kW・h)(S119)」も演算によって求める。また、交流モータ1のトルクTfが(数4)で得られるので、CPU14は、トルクTfをモータの運転時間毎に積算し、この値をモータの運転時間で除算することで、この間の平均トルクを得る。平均トルクを定格トルクで除算し、百分率で表示すると、「モータの平均負荷率」となり、モータの運転の動作点を得ることができる(S115)。
【0090】
ユーザは、得られたモータの動作点から、モータ出力の選定が適切であったか或いは余裕を持ち過ぎているのかを検証することができる。この点は、本実施形態の特徴の一つである。従来、得られている入力電力だけでは確認ができなかった為である。
【0091】
次いで、破線枠S120の処理を説明する。
S120では、CPU14は、大きく「全損失に対する加減算重み値Pdテーブルの処理(S120a)」と、「等価モータ巻線熱量Qcの演算処理(S120b)」とを行う。
Pdテーブルは、
図8に示す関係から演算によって得ることができる。
【0092】
図8において、x軸は全損失Ploss(%)を示し、y軸は電子サーマル動作時間t(s)を示し、曲線は交流モータ1の過負荷特性を示す。この特性は、(数16)で表わすことができる。
【0094】
また、
図8では、y軸を全損失Ploss=100%に平行移動した位置を破線で示し、x軸とPloss=100%の破線軸で見た第一象限の反比例曲線は、短時間の過負荷運転が何秒間運転できるかを示す。全損失が100%以上継続する場合、モータの巻線に蓄えられる熱量が、サンプリング毎に累積加算を繰り返し積算される。また、第三象限は全損失が100(%)未満のときに、モータの巻線温度が定格点より下がるので、第一象限で蓄えられた熱量は第三象限では減算に移る。
【0095】
図9に、
図8の全損失400%を与えた時の重み値の関係を示す。Qcは、モータ巻線に蓄えられた熱量を模擬した値であり、零点から傾斜aの直線y=atで上昇する。Qcは、時間t(trip)でカウンタの最大値Cmaxに達し、結果、交流モータ1は過負荷保護トリップをする。Δtは、電子サーマルを演算するサンプリング時間であり、Δyは、1回のサンプリング時間(s)で加減算する重み値(=Pd)である。以上から(数17)が成り立つ。
【0097】
ここで(数17)の時間tに(数16)を代入すれば、過負荷保護トリップ時のカウンタの最大値はCmaxであるから、(数18)が得られる。
【0099】
CPU14は、以上の演算から「加減算重み値Pdテーブルの処理(
図6/S120a)」を実行する。
【0100】
図10は、
図8に示す過負荷保護トリップ動作の特性を、加減算時の重み値Pdで表した図である。(数18)式の(Cmax×Δt/kc)は一定値となり、比例定数である。
図10に示す加減算時の重み値は、全損失Plossに対し直線となる。全損失が100%以上で過負荷保護トリップ動作を行う累積加算となり、100%未満で累積加算された値からの減算となる。等価モータ巻線熱量Qcは、重み値Pdの時間積分で表わすことができ、(数19)となる。
【0102】
CPU14は、以上の演算から「等価モータ巻線熱量Qcの演算処理(S120b)」を実行する。
以上が、S120の処理である。
【0103】
再び
図6に戻り、破線枠S130の「熱量Qc判断処理」を説明する。S131〜S135は、「警報出力処理」である。CPU14は、等価モータ巻線熱量Qcが第二の閾値以上であると判断する場合(S131:Y)、DO2端子(
図4参照)を“L”から“H”に切替え、警報出力リレー用コイル16−2を励磁し、警報出力リレーのb接点16−1を開放として警報出力を行う(S133)。
【0104】
ここで、第二の閾値は、過負荷保護トリップ動作を開始する第一の閾値よりも低い温度閾値である。第二の閾値を管理する理由は、過負荷保護トリップさせることにより、交流モータ1は急停止等するが、交流モータ1の適用先であるライン装置等も同時に急停止や急減速してしまいライン製造品等を破損させてしまう虞があり、これを予防する為である。つまり、等価モータ巻線熱量Qcの値が、過負荷保護トリップ動作を開始する第一の閾値よりも低い第二の閾値温度に達した場合、警報を出力し、停止準備等の切替動作ができるようにしている。
【0105】
次いで、S137〜S147の処理は、「等価モータ巻線熱量Qcの過負荷保護トリップ又はトリップ解除処理」である。
【0106】
S137で、等価モータ巻線熱量Qcの値が第一の閾値以上であると判断する場合(S137:Y)、交流モータ1が過負荷であると見做す。そして、S149に進み、交流モータ1の運転を停止する。具体的には、S149で、CPU14はDO3端子の出力を“L”から“H”とし、過負荷出力リレー用コイル15−3を励磁し、過負荷出力リレーのa接点及びb接点15−2、15−1を動作させ、過負荷保護継電器9の外部で構成されるリレー回路で、電磁接触器のコイル4−2をオフとし、接点4−1を開放することで交流モータ1の運転を停止する。
他方、S137の判断で、第一の閾値である過負荷保護トリップ値未満であると判断する場合(S137:N)、S139に進む。
【0107】
S139で、等価モータ巻線熱量Qcが解除レベルか否かの判断を行う。等価モータ巻線熱量Qcが解除レベル以上の場合(139:Y)は、現状のままとし、本フローを抜ける。他方、解除レベル未満の場合(S139:N)は、S141に進む。
S141で、サーミスタ7及び8の値が解除レベルか否かの判断を行う。具体的には、
図4のR相、T相導体温度検出用サーミスタ7、8の抵抗値をCPU14が測定し、これを温度に換算して導体温度が解除レベル以上の場合(S141:Y)は、温度が高いと判断してS149に進み、過負荷保護トリップ動作を実行する。逆に、R相、T相の導体温度が解除レベル未満の場合(S141:N)であれば、運転可能な温度であるから、S143に進む。
【0108】
S143で、自動復帰モードか否かの判断を行う。
図4の手動/自動復帰選択SW21の設定が自動設定の場合(S143:Y)、S145に進み、過負荷保護トリップを解除する処理を行う。他方、手動設定の場合(S143:N)は、S147に進む。
S147で、リセット入力有か否かの判断を行う。リセット入力無の場合(S147:N)、本フローを抜ける。他方、リセット入力有(S147:Y)の場合、S145に進み、過負荷保護トリップを解除し、
図6の処理を抜ける。
以上が、S130の「等価モータ巻線熱量Qcの過負荷保護トリップ又はトリップ解除処理」である。
【0109】
なお、S139の「Qcが過負荷保護トリップ解除レベルか否かの判断」、S141の「サーミスタ値が解除レベルか否かの判断」における夫々の解除条件は、上位装置等からパラメータで設定可能となっている。以下に夫々の解除条件の設定例について述べる。
【0110】
図11に、過負荷保護トリップ解除及びサーミスタ解除の条件の設定例を示す。同図において、パラメータNo:PA−15は、過負荷保護トリップ解除の条件例であり、PA−16は、サーミスタ解除の条件例である。
【0111】
過負荷保護トリップ解除条件(PA−15)としては、設定1と設定2がある。設定1は、制御電源r、s、tがオン且つ手動/自動復帰選択SW21が自動復帰を選択の時に、熱量Qc(又は巻線温度Tc1)が解除レベル以下に下がっており(条件A)、そしてサーミスタ温度が解除レベル以下(条件B)の時(A and B)にトリップを解除するというものである。設定2は、熱量Qc(又は巻線温度Tc1)が解除レベル以下のみの場合にトリップを解除するというものである。上位装置又はPC等から、何れかの設定を選択できるようになっている。
【0112】
また、電源投入時のサーミスタ温度トリップ解除条件(PA−16)の設定としては、設定1及び2がある。設定1は、サーミスタ温度が解除レベル以下の時にトリップを解除するというものであり、設定2は、サーミスタ温度を無視するというものである。何れかを上位装置又はPC等から選択できるようになっている。
なお、PA−15及びPA−16の何れの場合でも、手動/自動復帰選択SW21が手動復帰を選択している時は、上記条件に対して、リセット用押釦SW24がオンされた時がand条件として更に加わる。
【0113】
以下では、
図11に例示する過負荷保護トリップ解除条件及びサーミスタ解除条件を設定した場合の、過負荷保護トリップ動作と、トリップ解除動作とについて、具体的に時系列で説明する。
【0114】
図12に、過負荷保護トリップ動作とトリップ解除動作のタイムチャートを示す。
時間t1で、制御電源(r、s、t)及び電磁接触器の接点4−1がオンの時、PA−16=設定1であることから、サーミスタ温度は有効である。同図では、時間t1直後に巻線熱量Qc又は巻線温度Tc1がサーミスタトリップ解除レベルを超えているため過負荷保護トリップとなる。その後、熱量Qc又は巻線温度Tc1がサーミスタトリップ解除レベル未満となっても、手動/自動復帰選択SW21は手動復帰設定であることから、リセット用押釦SW24がオンされるまでは、交流モータ1は停止を維持する。
【0115】
次に時間t2で、リセット用押釦SW24のオン(1回目)が入力されることで、交流モータ1は運転を再開する(手動復帰)。交流モータ1が運転を再開すると、熱量Qc又は巻線温度Tc1が上昇を開始する。熱量Qc又は巻線温度Tc1の上昇途中に、手動/自動復帰選択SW21が、a点において自動に切り替えられる。すると時間t3で、交流モータ1は、再度過負荷保護トリップ動作を実行し、保護のために交流モータ1を停止する。停止後、冷却により熱量Qc及び巻線温度Tc1が下降する。
【0116】
その後、熱量Qc及び巻線温度Tc1が、トリップ解除レベルまで下がる。時間t4で、復帰方式は上述のように自動復帰設定に切り替わっていることから、交流モータ1は運転を再開する。運転再開による温度上昇の途中、b点において、復帰方式が自動から手動復帰に変更される。熱量Qc又は巻線温度Tc1が温度上昇を続け、時間t5で再び過負荷保護トリップ動作となり、交流モータ1は停止し、その後、トリップ解除レベルまで下がる。復帰方式は手動復帰であるから、時間t6で、2回目のリセット用押釦SW24が入力を契機として、交流モータ1の運転が再開する(手動復帰)。
以上が、第1実施形態の説明である。
【0117】
このように、第1実施形態の過負荷保護継電器によれば、モータの熱量の基である全損失で、モータの巻線温度上昇値を管理するため交流モータの仕様に左右されることなく過負荷保護の精度が向上する。
【0118】
また、過負荷保護トリップを第一の閾値のみならず、それよりも低い温度であるサーミスタ7、8の解除レベルも用いて管理するため、より安全かつ精度の高い過負荷保護トリップを実現することができる。
【0119】
また、過負荷保護トリップ解除条件や、サーミスタによる解除条件を上位装置又はPCからパラメータにより任意に設定することができ、交流モータ1の適用先に応じて柔軟に交流モータ1の保護を行うことができる。
【0120】
更に、等価モータ巻線放熱量(巻線温度Tc1)の温度を、第一の閾値よりも低い第二の閾値でも管理し、交流モータ1の急停止を予告することができる。
【0121】
〔第1実施形態の変形例〕
第1実施形態における過負荷保護継電器9の回路構成について、変形例を例示する。
図5に、変形例の回路構成を示す。第1実施形態の回路構成例(
図4)では、CPU14がVu、Vv、Vw端子でモータの相電圧を検出するようになっており、その上流の23−1、23−2、23−3の固定抵抗器の上流がR、S、Tに接続されているようになっている。
これに対して
図5の変形例では、23−1、23−2、23−3の固定抵抗器の上流はR0、S0、T0端子とし、LCフィルタ51を通して、R、S、T端子に接続するようになっている。このLCフィルタ51は、モータに印加される電圧が、ACモータ駆動用PWM(Pulse Width Modulation)出力ドライバの場合に、PWMのキャリア周波数を除去する為のフィルタである。
【0122】
図29に、過負荷保護継電器9にPWM出力ドライバを適用した構成を模式的に示す。本構成の用途として、電源周波数の相違(例えば、50Hz、60Hz)による、モータ回転速度の変換を行う場合や、電源投入停止時又は急激な加速・停止を防止するためのソフトスタート・ソフトストップ動作をさせるために、始動停止時のみVVVF方式で運転し、一定速運転に達した後のほとんどの時間は、CVCF方式PWM駆動インバータ・ドライバで使用する場合が上げられる。
【0123】
交流電源2には、配線用遮断器3を通して交流電源の引き込みがされる。過負荷保護継電器9では、モータの相電圧を検出する検出点がR0、S0、T0であり、LCフィルタ51を通してR、S、Tに接続される。制御電源r、s、tは、配線用遮断器3の2次側に接続される。第1実施形態では商用電源で駆動される交流モータ1で有ったが、本変形例では、ACモータ駆動用PWM出力ドライバにより供給されるACモータ63を適用するものとする。
【0124】
ACモータ63には、エンコーダ61が設けられる。エンコーダ61では、ACモータ63の速度、位置が検出され、ACモータ駆動用PWM出力ドライバ62にフィードバックされる。このドライバ62では、PWM出力タイプの可変電圧・可変周波数が出力され、ACモータ63の電流・速度・位置制御ができるようになっている。
【0125】
なお、LCフィルタ51は、PWM出力波形のキャリア周波数を除去するフィルタであり、基本波周波数成分を出力するアナログの正弦波近似の波形を出力する。ACモータ63とドライバ62は、CVCV(定電圧・定周波数)方式PWMインバータ・ドライバであり、PWM出力されるこれらのモータの過負荷保護トリップ動作の他、省エネルギ情報等を、通信コネクタから上位装置に送信することができるようになっている。
【0126】
図30に、LCフィルタ51の回路構成例を示す。LCフィルタ51は、LCフィルタ用コンデンサ51−1と、LCフィルタ用インダクタンス51−2とで構成され、ドライバのPWM出力波形のキャリア周波数を除去するフィルタ定数に従い、コンデンサ容量やインダクタンスの定数が設計されるようになっている。
以上の構成により、過負荷保護継電器9にPWM出力ドライバを適用した場合でも、第1実施形態の過負荷保護トリップ動作を行うことができる。
【0127】
〔第2実施形態〕
次いで、第2実施形態の過負荷保護継電器9を説明する。第2実施形態の特徴の一つは、交流モータ1の放熱量を考慮して一次巻線温度を管理する点である。例えば、交流モータ1で発する熱は、モータの枠等を伝播したり、冷却媒体等によって外部に放熱されたりするのが通常である。第2実施形態は、この放熱を考慮した一次巻線の温度を管理し、過負荷保護トリップを実行する。
【0128】
第2実施形態の回路構成等は第1実施形態と同様であり、CPU14での過負荷保護トリップ動作の処理が異なる。以下では、処理の相違点について主に説明し、第1実施形態と重複する部分は、説明を省略する場合がある。なお、第1実施形態と同様に、以下に述べる過負荷保護トリップの処理は、CPU14とプログラムの協働によって実行されるものである。
【0129】
図13に、第2実施形態の過負荷保護トリップ動作の流れを示す。
S201で、初期設定を行う。ここでは、モータの巻線温度Tc1=周囲温度Ta、モータ定数である無負荷損W0、トルク比例定数1/ks、モータ耐熱クラスを設定する。
S203で、(第1実施形態の
図6:S103と同様に)手動/自動復帰選択SW21、電流/全損失信号選択SW22、押釦SW24(リセット)、25(テストトリップ)、電流整定値設定ディップSW20−1、20−2及びサーミスタ7、8の温度を読み取る。
S205〜S211の各処理は、第1実施形態の「入力電流Pin処理(
図6:S105、
図7)」、「トルクTf演算処理(
図6:S107)」、「出力電力Pout演算処理(
図6:S109)」及び「全損失Ploss演算処理(
図6:S111)」と同様のため説明は省略する(S213〜S219も、
図6のS113〜S119と同様である。)。
【0130】
破線枠S220で、CPU14は、「一次巻線Tc1の温度上昇算出処理」を行う。本処理は
図14〜
図17に示す種々の熱モデルの何れかに基づいて実行される。
【0131】
図14に、「第1の熱モデル」を示す。S211の「全損失Ploss演算処理」即ち入力電力Pinの“+”と、出力電力Poutの“−”とを加え合せ点28で差をとり、全損失Plossを指令として出力した後、CPU14は、全損失Plossについて、加え合せ点29で単位時間当たりの放熱量のフィードバックとの差を求める。
【0132】
その偏差εは、モータ枠発熱部の伝達関数31へ送られる。ここでは(数10)により全損失Plossを積分要素1/sで積分してモータの全熱量Q(J)とし、次に(数14)により(モータ質量m0)×(モータ比熱C0)で除算して、モータ枠温度上昇値Tc0を出力する。
【0133】
CPU14は、加え合せ点30で、このモータ枠温度上昇値Tc0から周囲温度Taとの差(Tc0−Ta)を演算し、その差をモータ枠放熱部の伝達関数32に送る。伝達関数32で、(数15)の演算を行い、単位時間の放熱量Qf’を出力する。
【0134】
なお、単位時間の放熱量Qf’は放熱ルート毎による放熱量(例えば、モータの取り付け脚からの放熱、モータ枠周囲の冷却リブからの放熱)は不明であり又計測も困難である。
【0135】
また、モータの熱モデルを負帰還ループとした理由は、モータをある負荷率で運転すると必ずモータの温度上昇はある一定の温度上昇値となり、熱平衡状態に落ち着くとの事実による。熱平衡状態とは、定常状態では、全損失Plossが、フィードバック量である単位時間の放熱量Qf’と一定の等しい値になるということである。この事実から、本実施形態では、モータの熱モデルは負帰還フィードバックループとし、電気と熱力学の融合による熱モデルを構成した。
【0136】
次に、加え合せ点29の出力である偏差εを、負帰還フィードバックループから分岐し、伝達関数33に送る。ここで、交流モータ1の全損失Ploss(熱量Q)に対する一次側の損失(熱量)の比率k1を乗じた後、伝達関数34に送る。そして、積分要素1/sで積分し、交流モータ1の一次巻線の熱量Q1(J)とし、(数13)による演算即ち(モータの一次巻線の質量m1)×(一次巻線(銅線)の比熱c1)で除算することで、一次巻線の温度上昇値Tc1を出力する。
【0137】
ところで、モータ枠は質量も大きいため温まりにくく冷め難い。このため全損失Plossに多少の変動があってもモータ枠全体の温度上昇値は、短時間では大きな変動を受けない安定した値となる。本実施形態では、この特性を利用し、負帰還フィードバックループを構成し、偏差である全損失Ploss−単位時間の放熱量Qf’は熱平衡状態で発散しない損失として捉え、ここから分岐させて熱時定数がモータ枠に比べ十分小さく、全損失Plossの多少の変動に対して大きく変動を受ける一次巻線温度上昇値を求める構成としている。
【0138】
そして、過負荷保護する一次巻線の温度上昇値は、一次巻線の損失k1×Plossの変動を捉え、瞬時の温度上昇値のピーク値を監視し、これを閾値と比較することで、瞬時過負荷でも保護することができる構成とした。
なお、伝達関数33のk1はモータの回転子が永久磁石のPMモータでは二次側銅損がないとしてk1=1とすることができる。
【0139】
図15は、
図14に示す定数を変形させた「第2の熱モデル」を説明する図である。
図14との相違部分は、
図14ではモータ枠放熱部の伝達関数32は定数αAであるのに対し、
図15ではモータ枠放熱部の伝達関数35は、αA/〔τm(s+1/τm)〕として一次遅れ要素を考慮した点を特徴の1つとする。他の熱モデルの処理は
図14と同じである。伝達関数35の一次遅れ要素は、交流モータ1から放熱が始まる際、周囲温度との温度差がある値になってはじめて空気の運動が起こり始め、自然対流では空気の流れは下から上に層になって流れる。この層ができるまでを遅れ時間τmとして表したものである。
【0140】
図16は、
図14、
図15に示す熱モデルと異なる「第3の熱モデル」を説明する図である。
図14等との相違部分は、
図14の伝達関数31は、積分要素を含むモータ枠発熱部の伝達関数であり、伝達関数34は、積分要素を含むモータ1次巻線の伝達関数であるのに対し、
図16では、積分要素1/sを加え合せ点29の上流側即ち指令側とフィードバック側に移動し、伝達関数36として等価変換したものである。そのため伝達関数38、37は積分要素1/sを削除している。このため、加え合せ点28の出力である全損失Ploss(W)が、積分要素の伝達関数36で全熱量Q(J)となる。また、モータ枠放熱部の伝達関数32の出力である単位時間当たりの放熱量Qf’(J/s)は、積分要素の伝達関数36を通り、全放熱量Qf(J)となる。なお、モータ枠温度上昇値Tc0、モータ1次巻線の温度上昇値Tc1については変わらない。
【0141】
図17は、
図16に示す熱モデルの定数を変形させた「第4の熱モデル」を説明する図である。
図16との相違部分は、
図16ではモータ枠放熱部の伝達関数32は定数αAであるのに対し、
図17では、モータ枠放熱部の伝達関数35としてαA/〔τm(s+1/τm)〕として一次遅れ要素にしたことであり、熱モデルの動作は
図16と同じである。
【0142】
このように、CPU14は、
図14〜
図17に示す「第1〜第4の熱モデル」の何れかの処理を用いて、
図13のS220で、「一次巻線Tc1の温度上昇算出」処理を行うようになっている。
【0143】
図13のフローチャート戻る。モータの熱モデルによる一次巻線Tc1の温度上昇算出後、CPU14は、ステップ群S230に進む。ステップ群S230の処理は第1実施形態における
図6のS131〜149と概ね重複しており、以下の点で相違する。先ず、第1実施形態では、対象としている信号及び閾値は等価モータ巻線熱量Qc(J)であるのに対し、第2実施形態では、これらを巻線温度上昇値Tc1(K)とする。
【0144】
また、第1実施形態の
図12における種々の解除条件を適用した場合の過負荷保護トリップ動作例と、第2実施形態の
図13における動作は同様に扱うことができる。
【0145】
図18は、モータ枠等と、一次巻線の温度上昇値(Tc1)との関係を説明する図である。x軸は時間tを示し、y軸は温度上昇値を示す。モータ枠の温度上昇値としては、モータのコアと、モータ枠の温度との夫々を示しており、両者の温度上昇値は安定した値であることを示している。
【0146】
他方、モータ一次巻線の温度は、モータの全損失、一次側損失又は熱量の変動を受け、モータ枠と一次巻線の(質量×比熱)の違いが顕著であることから、大きなリップルが重畳されている。過負荷保護としては、このリップルのピークを監視して保護する必要がある。
【0147】
図19は、
図14〜
図17の熱モデルでモータの巻線温度の動作を説明する図である。全損失Ploss(=入力電力Pin−出力電力Pout)を、Ploss1からPloss2に変化させた時の全熱量Q、全放熱量Qf及びモータ一次巻線温度上昇値Tc1、モータ枠温度上昇値Tc0、警報出力、過負荷保護トリップ出力の関係を示す図である。
【0148】
全熱量Q、全放熱量Qfは、
図14、
図15の場合は、全損失Ploss、単位時間の放熱量Qfを積分要素1/sで積分した値を示し、
図16、
図17の場合は、加え合せ点29の2つの入力を示している。全熱量Qは、全損失Ploss1の入力に対してこの値を積分し、一定の傾斜で上昇する。次に、全損失がPloss1からPloss2に増加すると、積分の傾斜は更に急となって上昇を続ける。他方、全放熱量Qfは、モータにとっては暖められた熱量が逃げていくため、負側で示している。放熱量は、全熱量Qが上昇することでモータ枠発熱部の温度上昇値Tc0が上がってくると、周囲温度との温度差(Tc0−Ta)が大きくなることから、全放熱量Qfが徐々に大きくなる。モータ枠温度上昇値Tc0及びモータ一次巻線温度上昇値Tc1は、全熱量Q又は一次巻線の熱量k1×Qと、全放熱量Qfとの差に比例して、図示するように変化する。温度上昇値が一定となる熱平衡状態になると、全熱量Qのプラス向きの傾斜と、全放熱量Qfのマイナス向きの傾斜とは、絶対値が等しくなる。
【0149】
全損失がPloss2となり、モータ一次巻線温度上昇値Tc1が第二の閾値を越すと警報を発し、その後、更にモータ一次巻線温度上昇値Tc1が第一の閾値を越すと過負荷保護トリップ動作が実行され、交流モータ1は停止する。なお、警報出力はトリップしても継続し、第2の閾値以下でリセットされるようになっている。
【0150】
図20は過負荷と判定する第一の閾値と、許容温度上昇値との関係を説明する図である。先ず、(1)のモータの周囲温度Taを検出しない場合を説明する。(a)はモータの耐熱クラスA〜Hを示し、各クラスの最高許容温度が(b)に対応する。例えば、クラスAは、最高許容温度が105℃で、クラスHに行くほど180℃と高くなり、これらは規格で定められている。
【0151】
ここで、モータの一次巻線の温度測定方法には抵抗法がある。抵抗法は、抵抗温度係数が既知であることを利用して、温度試験前後の抵抗値から温度上昇値を算出する方法であり、巻線の平均温度が測定できる。しかし、1つの巻線で、冷却風の影響を受けている部分と、いない部分との温度差は抵抗法では測定できない。そこで、余裕温度のマージンδを予め定め、(c)に示す如く、(最高許容温度−δ)の余裕を見る。なお、第一の閾値は巻線自身のクラスや、巻線を保護する絶縁紙のクラス、絶縁寿命を確保するワニス材のクラスなどモータのクラスに合わせて選定される。なお、巻線のマージンδは、一般的に5〜15℃とし、熱電対等を用いた温度試験で実測することで最終確認するものとする。
【0152】
(d)は第一の閾値となるモータ一次巻線の許容温度上昇値を示す。過負荷保護継電器9では、交流モータ1の周囲温度Ta(℃)を検出しない場合には、モータの周囲温度Taの初期値をモータの使用温度範囲の上限値Ta(max)として設定する。例えば、上限値Ta(max)が40℃であれば、初期値は40℃にセットされる。また、本実施形態では、モータの実際の周囲温度が10℃でも過負荷保護継電器9の制御上の初期値は40℃になるようにしている。例えば、
図19の温度上昇値モータ枠温度上昇値Tc0、モータ一次巻線の温度上昇値Tc1の時間0の温度は、初期値40℃である。ここで、実際の周囲温度が10℃の場合、制御上は40℃からスタートするので、実際の温度とはオフセットがプラス30(K)となりギャップがある。(c)では最高許容温度からマージンのみをマイナスした値が示されているから、実際の周囲温度が10℃の場合、30(K)低い温度で過負荷保護トリップが動作することとなる。一見、交流モータ1にはまだ余裕があり、過負荷保護トリップの開始が早期に過ぎるとも思えるが、実際の周囲温度を検出するようになっていない場合、焼損事故防止上からは、より厳しい条件(本例では最も厳しい条件である初期値40℃)とすることが好ましいともいえる。以上から、(d)の第一の閾値となるモータ一次巻線の許容温度上昇値は、マージンを減じた(c)の値から更にTa(max)を減じた値としている。
【0153】
次いで、
図20(2)のモータの周囲温度Taを検出する場合について説明する。(2)の(a)〜(c)は、(1)と同様である。(2)の場合、過負荷保護継電器9は、交流モータ1の実際の周囲温度を検出できるようになっている。よって、第一の閾値であるモータ一次巻線の許容温度上昇値(d)は、(数20)で示される。
【0155】
周囲温度が、交流モータ1の使用温度範囲の上限値より低い場合、一次巻線温度の上限値をその差の分だけ大きくすればよく、過負荷保護トリップ動作が、実状により適った条件で開始される。逆に、周囲温度が、交流モータ1の使用温度範囲の上限値より高い場合、第一の閾値が下がるので、モータが焼損することはない。このため、より正確な過負荷保護トリップが実現できる。
以上が第2実施形態の説明である。
【0156】
第2実施形態の過負荷保護継電器9によれば、放熱を考慮して一次巻線温度を管理するため、過負荷保護トリップ動作の精度を更に高くするという効果が得られる。特に、上記種々の熱モデルでは、温度の瞬間的上昇・下降に影響され難いモータ枠の温度変化を考慮しつつ、温度の急上昇・急下降に大きく影響される一次巻線の温度変化を管理することから、より現実に近いモータ温度管理を実現することができる。
【0157】
また、第一の閾値の設定では、固定値及び周囲温度値の両方に対応し、夫々交流モータ1の保守且つ効率的な運用に適う温度をもって過負荷保護トリップ動作を実現することができる。
【0158】
〔第3実施形態〕
本発明を適用した第3実施形態について説明する。第3実施形態は、過負荷保護継電器9が、モータ定数(無負荷電流I0、無負荷損W0、トルク比例定数1/ks)をチューニングしながら過負荷保護動作を行う点を主な特徴とする。
【0159】
第1実施形態は、全損失を累積加減算し、等価モータ巻線熱量により保護特性(
図8)から過負荷保護トリップ動作する例である(
図6)。第2実施形態は、全損失から種々のモータ熱モデル(
図14〜
図17)による巻線温度に基づいて過負荷保護トリップ動作する例である。これらは、全損失を検出するためのモータ定数(無負荷電流I0、無負荷損W0、トルク比例定数1/ks)が既知であることを前提とした処理例である。
【0160】
これに対し第3実施形態は、モータ定数が未知である場合に、これをチューニングしながら過負荷保護動作を行う例である。具体的には、電流二乗時間積を一定として過負荷保護動作を行うようになっており又入力電力Pinを、
図7による演算処理で検出することで、モータ定数(無負荷電流I0、無負荷損W0、トルク比例定数1/ks)をチューニングするようになっている。
【0161】
図21に、第3実施形態の過負荷保護トリップの処理フローを示す。
S301で、初期設定として、等価モータ巻線熱量Qc=0とし、定格電流、定格トルクにモータ銘板値から入力した値を使用する。
S303で、電流/全損失信号選択SW22は電流信号に固定とし、手動/自動復帰選択SW21、電流/全損失信号選択SW22、押釦SW24、25及び電流整定値設定ディップSW20−1、20−2の読み取り及びR相、T相導体温度検出用サーミスタ7、8の温度値を読み取る。
S305で、入力電力Pinの演算処理を行う(
図7)
枠線部S307で、等価モータ巻線熱量Qcを求める演算を行う。なお、本演算は、第1実施形態のS120(「全損失に対する加減算重み値Pdテーブルの処理(S120a)」、「等価モータ巻線熱量Qcの演算処理(S120b)」とは異なり、過負荷保護継電器の規格に従う。即ち三相負荷において、周囲温度常温(20℃)を中心にして上下限の温度で、定格電流比に対して、過負荷不動作範囲と過負荷動作範囲が夫々定められており、規格の範囲内の加減算重み値Pd’テーブルを設定(S307a)している。モータ定格電流は電流整定値設定ディップSW20−2、SW20−1で計8bitで設定する。電流積算する関数は電流二乗時間積一定動作特性としている。これは、モータ損失の一部である電流の二乗に比例する銅損であり、規格で定まる保護動作値として等価モータ巻線熱量Qc=kd∫I
2・dt(S307b)で定めている。この等価モータ巻線熱量Qcは、本考案によるモータ巻線熱量とは異なり、規格で定められたトリップレベルを、損失の一部である銅損の値として定めている。
【0162】
S309は、第3実施形態の特徴の一つである「モータ定数チューニング処理」である。なお、枠線部S310の各処理は、第1実施形態の枠線部S130と同様であるため説明を省略し、S309の「モータ定数チューニング処理」について詳述する。
【0163】
図22に、S309「モータ定数チューニング処理」の処理フローを示し、
図23に「モータのトルク(Tf)と、すべり(s)との関係性」を示す。
先ず
図23において、x軸は、モータのすべりs(回転速度)を示し、y軸は、トルクTf、モータ電流(実効値)I、入力電力Pinを示す。すべりsが1のときのモータのトルクは、始動トルクである。すべりs=0は同期回転速度であり、モータ極数4極(対極数2)で、電源周波数50Hzの時1500(1/min)、60Hzの時1800(1/min)である。
【0164】
このとき、モータトルクは零、モータ電流は無負荷電流I0、入力電流Pinは無負荷損W0となる。また、定格トルクで運転する場合のすべりが、定格すべりである。次に、すべりs=−1は負荷側からモータを増速する方向に外部から回される回生状態である。第3実施形態における「モータ定数のチューニング処理」は、次の3点を求めることにある。
(1)無負荷電流I0
(2)無負荷損W0
(3)トルク比例定数1/ks=定格トルクTf/(Pin−W0)
なお、モータ定数のチューニングは、過負荷保護継電器9がモータを直接制御することはできないので、過負荷保護検出しながらチューニング条件の監視を続け、受動態で待ち続ける。そのチューニングの方向を示すのが、
図23の下側に示す矢印である。
【0165】
(A)は、現在の負荷が急に軽くなり、モータの回転速度が同期回転速度を一瞬越え、再び元に戻る過度状態を捉える。このとき、すべりsが(+)→(−)→(+)と変化し、モータ電流Iが最少となる電流を捉え、その電流が無負荷電流I0であり、その時の入力電力Pinが、無負荷損W0となる。(B)は、負荷から増速され回生状態となった後に再度戻る場合であり、すべりsが(−)→(+)になる時である。
【0166】
次いで、トルク比例定数1/ksのチューニングは、モータの定格電流及び定格トルクを用いて行う。定格電流及びトルクは、例えば、モータの銘板記載又は記載されている項目から計算で求めることができる値であり、外部入力値。(モータ定格電流は
図21の枠線部S307の説明で、電流整定値設定ディップSW20−2、SW20−1で計8bitの値が設定されている。)過負荷保護継電器9は、モータの電流が定格電流になるまで待機し、定格電流になった時、入力電力Pinを瞬時に読み取り、定格トルクをTfとすれば、先にチューニングした無負荷損W0からTf/(Pin−W0)を演算し、1/ksを求めることができる。
【0167】
図22に、このような関係特性に基づいたチューニング処理のフローを示す。本フローは、「(a)無負荷電流I0及び無負荷損W0のチューニング処理」、「(b)トルク比例定数1/ksのチューニング処理」、「(c)チューニング完了出力処理」の3つから成り立つ。
【0168】
先ず、「(a)無負荷電流I0及び無負荷損W0のチューニング処理」の流れから述べる。
S401で、スタート後、(a)チューニングが終了しているかを、後述するS413の(a)チューニング完了フラグがオンであるかに基づいて判断し、終了している場合(S401:Y)はS420に進み、終了していない場合はS403に進む(S401:N)。
【0169】
S403で、入力電力Pinが零(W)を通過し、
図23のチューニングの方向(A)に入っているかを判断する。入力電力Pinが零(W)通過及びチューニング方向(A)の場合(S403:Y)、S405に進み、異なる場合(S403:N)、本フローを抜ける。
【0170】
S405で、電流Iが最小値か否かを判断する。
図23ではすべりs=0の同期速度で無負荷電流I0が最小電流となるので、チューニング方向(A)が戻る時に、無負荷電流I0と無負荷損W0のチューニングを行えばよい。電流Iが最小値である場合(S405:Y)、S407に進み、最小値で無い場合(S405:N)、本フローを抜ける。
【0171】
S407で、チューニング方向(A)の場合は、電流最小値Iminを無負荷電流I0の最初の1個目のデータとしてメモリに保存し、チューニング方向(B)の場合は、入力電力Pinを無負荷損W0の最初の一個目のデータとしてメモリに保存する。
【0172】
S409で、無負荷電流I0と、無負荷損W0とが所定数(n個分)保存されたかを判断し、所定数分保存していたらS411に進み(S409:Y)、不足していたら本フローを抜ける(S409:N)。
【0173】
S411で、保存したn個の無負荷電流I0及び無負荷損W0について、夫々の平均値I0(ave)
、平均値W0(ave)を算出し、算出結果をメモリに保存する。
その後、S413で(a)チューニング完了フラグをオンにし、本フローを抜ける。
以上が、「(a)無負荷電流I0及び無負荷損W0のチューニング処理」である。
【0174】
次いで、「(b)トルク比例定数1/ksのチューニング処理」の流れを説明する。
【0175】
S420で、(b)チューニングが完了したか否かを、後述するS429の(b)チューニング完了フラグがオンであるかに基づいて判断し、終了している場合(S420:Y)、S431に進み、終了していない場合(S420:N)、S421に進む。
S421で、電流Iが定格電流であるか否かを判断する。定格電流である場合(S421:Y)、S423に進み、定格電流Irのときの定格トルクをTfrとして、Tfr/(Pin−W0(ave))を演算し、トルク比例定数1/ksの1個目のデータとしてメモリに保存する。電流Iが定格電流でない場合(S421:N)、本フローを抜ける。
【0176】
S425で、所定数(n個)のデータが保存されたか否かを判断し、所定数保存されている場合(S425:Y)、S427で、n個のトルク比例定数から平均値1/ks(ave)を算出してメモリに保存する。所定数保存後は、S429に進み(b)チューニング完了フラグをオンにする。なお、所定数(n個)のデータから不足している場合( S425:N)、本フローを抜ける。
以上が、「(b)トルク比例定数1/ksのチューニング処理である。
【0177】
最後に、「(c)チューニング完了出力処理」である。
S431で、CPU14は、出力端子DO1を出力し、LED19−2を点灯させ、モータ定数のチューニングが完了した旨を報知する。なお、モータ定数は(a)・(b)のチューニング完了フラグ(S413、S429)と共に、制御電源がオフする直前にRAMメモリから不揮発性メモリ27に保存され、制御電源遮断の度、消去されることはない。
以上の(a)(b)(c)によって、モータ定数のチューニング処理が実行される。
【0178】
このように第3実施形態によれば、モータ定数が未知であっても、これをチューニングしながら過負荷保護トリップ動作を動的に実行することができる。
【0179】
〔第3実施形態の変形例〕
第3の実施形態では、過負荷保護継電器9が、モータ定数のチューニングを行いながら電流二乗時間積一定動作による過負荷保護トリップを行うようになっていた。また、モータ定数チューニング後、実運転中のトルクを検出し、出力電力を得てモータの全損失を入手した。そして、これらを積算することで入出力並びに全損失電力量、平均負荷率及びモータ効率を入手するようにした。
【0180】
ここで、ユーザの機器に設置された状態の交流モータ1では、モータのトルク等を測定するトルクピックアップなどのセンサが実装されていないことも多く、交流モータ1のトルクや負荷率が不明となる場合もある。また、運転中にリアルタイムでのモータの実出力がどの程度であるかということも不明である。
【0181】
そこで、第3実施形態の変形例では、過負荷保護継電器9に、外部からの入力によってモータ定数を与えることを特徴の一つとする。
【0182】
図34に、変形例の構成を示す。60は、ユーザ側のシステム構成で、59は、交流モータ1の製造メーカ側のシステム構成を示す。ユーザ側のPC54aは、通信ケーブル55を介して、過負荷保護継電器9の通信コネクタ26と接続され、更に、インターネット等の通信網を介して、交流モータ1の製造したメーカのカスタマセンタ58側のPC54bと接続される。PC54bは、データセンタ57と接続され、データセンタ57には、当該製造メーカのモータ製品に関するモータ定数56が保存されている。
【0183】
まず、ユーザ側システム60で、過負荷保護継電器9をオンラインからオフラインに切り替える。PC54aはメーカ側59に、交流モータ1の製造番号等と共に該当するモータ定数の送信を要求する。要求を受信したカスタマセンタ58は、製造番号に対応するモータ定数56の出力要求をデータセンタ57に送信し、データセンタ57はこれを受け、PC54bへ該当するモータ定数56を送信する。次にPC54bはユーザ側のPC54aにモータ定数56を送信する。ユーザ側のPC54aは、受信したモータ定数56を過負荷保護継電器9にインストールする。
【0184】
本変形例では、モータ定数56を直接、交流モータ1、過負荷保護継電器9を製造しているメーカから入手することで、より正確な入出力並びに全損失電力量、平均負荷率及びモータ効率を得ることができる。
【0185】
なお、
図22に示したチューニング処理のLED点灯処理(S431 )は、チューニング完了でLED19−2を点灯させるだけでなく、モータ定数56のインストールを契機に、DO1を出力しLED19−2を点灯させるようにしてもよい。
【0186】
また、過負荷保護継電器9は、通信コネクタ26から上位装置としてのPLC52と通信ケーブル55を介してオンライン接続され、
図26の表に記載される省エネルギに関するデータが送信される。
【0187】
〔第4実施形態〕
第4実施形態の過負荷保護継電器9は、上述した第1〜第3実施形態の過負荷保護トリップ処理(
図6、
図13、
図21)を実装する場合の種々の構成や外部通信/表示等を例示するものである。
【0188】
先ず、第1〜第3実施形態の過負荷保護トリップ処理の実装構成例を説明する。
図24に、過負荷処保護トリップ動作を実行する機能部の実装構成を模式的に示す。
図24の左側の構成は、第1実施形態の過負荷保護処理(全損失の累積加減算による過負荷保護プログラム機能部47/
図6)と、第2実施形態の過負荷保護処理(全損失+熱モデルによる過負荷保護プログラム機能部48/
図13)の切替構成を示す。SW45は、パラメータで選択可能に切り替わる論理スイッチであり、ユーザの指定により選択される。
【0189】
図24の右側は、第3実施形態(電流二乗累積加減算+モータ定数チューニングプログラム機能部49/
図21)の構成である。本処理は、電流/全損失信号選択SW22(
図4参照)の指定が(全損失量ではなく)電流となっているときに選択されるようになっている。なお、SW22の指定はユーザ指定である。
【0190】
なお、モータ定数がチューニングされていない等の場合には、先ず電流二乗累積加減算+モータ定数チューニング機能部49を選択し、チューニング後、全損失累積加減算による過負荷保護プログラム機能部47又は全損失+熱モデルによる過負荷保護プログラム機能部を実行させるようにしてもよい。モータ定数が未知で有る場合や交流モータ1の仕様環境や外部環境の変化に応じて変化する各設定値をチューニングしてからの方が、各処理での精度向上に資する為である。例えば、
図25に示すように、判定部50を実現するプログラムを追加し、モータ定数チューニング済みか否かを判定するようにし、チューニングが未済みの場合(N)は、先ず機能部49を実行し、その後、SW45の指定に従うように構成してもよい。また、モータ定数は負荷の条件によって、チューニングが不可の場合もある。この場合は、上記第3実施形態の変形例による、外部からモータ定数のインストールを行うようにする。
なお、機能部47、48及び49の全てではなく、一部を1つの過負荷保護継電器9に実装してもよい。
【0191】
次いで、過負荷保護継電器9から外部(上位装置)に出力する各種情報の出力例(画面表示、印刷出力等)を説明する。
図26に、交流モータ1の各種電力量、運転動作点を外部送信した場合の出力例を示す。
(1)は日々モータ運転電力量報告書であり、モータ出力3.7kW、極数(対極数)4(2)、定格トルク24.515N・m、電源200V・50Hzの場合の一例である。交流モータ1の入力電力量、出力電力量、損失電力量、運転時間、平均負荷率、モータ効率及び過負荷トリップ回数を日別に表示する。各情報は、過負荷保護継電器9から通信コネクタ26を通して上位装置に出力されるようになっている。
日毎の情報を過負荷保護継電器9で蓄積しておき、定期又は不定期に、上位装置にプッシュ又はプル送信するなどしてもよい。不揮発メモリ27の要領に応じて任意に構成できる。(2)は。月間モータ運転電力量報告書で、(1)の月次累計の表示例である。
【0192】
(1)及び(2)の種々の情報は、過負荷保護継電器9において、以下のようにカウントされる。
入力電力及び出力電力量は、
図6および
図13の処理フロー実行中に、入力電力、出力電力を積算して演算される。損失電力量は、(入力電力量)−(出力電力量)で演算される。運転時間は、
図7の入力電力Pin演算処理のブロック図において、3相入力電力Pinが0(W)以外の値が発生している延べ時間をモータ稼働時間とする(1日単位等で計測する)。平均負荷率は、1日単位のリアルタイムの負荷トルクを時間毎積算し、1日の運転時間で除算し、更に定格トルクで除算して百分率で表して求めることができる。モータ効率(%)は、1日単位のデータから、100×(出力電力量)/(入力電力量)で求められる。また、過負荷トリップ回数は過負荷保護動作が働いた回数を計測して1日単位等で合計値を出力する。なお、過負荷保護継電器9は時計機能がなくとも、例えば、PLC52で時計機能を持ち、モータ運転開始と運転停止直前に年月日と時間を過負荷保護継電器9へ送信し、運転停止の年月日と時間を受信後、その運転期間のデータを通信コネクタから上位へ転送するようにしてもよい。
【0193】
次に、過負荷保護継電器9を用いた「制御システムの構成例」を説明する。
図27に、システム構成を模式的に示す。交流モータ1−1〜1−9は、過負荷保護継電器9−1〜9−9と、一般には1対1で接続される。過負荷保護継電器9は、1又は複数のグループ(ブロック)で、上位装置(本例では、PLC52−1〜52−3)と有線又は無線接続される。PLC52−1等は、更に、インターネット等の種々の通信規約に準拠した通信線と有線又は無線で接続され、最上位の管理コンピュータ53と接続される。
【0194】
図26に例示した入力電力量や過負荷保護トリップ回数等のデータは、過負荷保護継電器9−1等からブロック毎のPLC52−1等に転送される。PLC52−1等は、自ら管理する過負荷保護継電器9の交流モータ1の台数分のデータを収集し、その後、管理コンピュータ53に送信する。管理用コンピュータ53には、交流モータ1のデータが全台数分収集される。管理コンピュータ53は、
図26に例示する日々や月次のデータ収集結果を、1台毎又は複数台毎で表示等行うことができる。
【0195】
このような収集結果を用いれば、ユーザは以下のような管理を行うことが可能となる。
図28は、
図26に示すモータ負荷率及びモータ効率を夫々x、y軸にとって、効率特性をグラフ化したものである。ここで、
図26のモータが、特定のユーザのモータであり、出力3.7kWで、その効率特性が
図28のモータBであるものとする。そして、ユーザがより省エネルギを図るために、高効率モータAへの交換を検討する場合を考える。
【0196】
モータの効率は、カタログ等には、一般には負荷率毎のデータとして記載されておらず、定格トルクでの効率が公表される傾向にある。モータには、100%付近の負荷率では効率が高いものの負荷率が下がると効率は従来よりも下がるという特性をもつこともある。いかほどの負荷でモータを利用するかはユーザ毎に異なるため、定格負荷での効率のみで比較することは必ずしも全てのユーザの要求を満たすとは限らない。
【0197】
この点、本実施形態では、現在使用中であるモータBの平均負荷率を明示することができるようになっている(
図26)。即ち
図26(1)先頭行の平均負荷率51.8%を
図28に照らしてみれば、モータAは負荷率51.8%の時、モータ効率71%程度で、現在使用中のモータBはモータ効率が81%で、高効率モータに変えない方がよいということがわかる(なお、
図26の(1)の先頭の行のモータ効率が測定値で68.5%となっているのは、負荷率は平均であり51.8%の前後に変動しており、負荷率が下がればモータBも効率が下がるからである。)。
【0198】
また、高効率モータAの負荷率毎の効率データが不明であっても、本実施形態の場合、現状のモータBの入力電力量、出力電力量、損失電力量、運転時間、平均負荷率及びモータ効率まで測定できるので、出力電力量を同一条件として比較すれば、入力電力量が少ない方が、効率がよいこととなり、ユーザが容易に判断することができる。
【0199】
更に、本実施形態による測定結果から、3.7kWモータの定格トルク24.515N・mに、実測した平均負荷率0.518を掛けると12.7N・mとなり、仮にモータBの効率特性が2.2kWモータと相似であれば、2.2kWの定格トルクは14.58N・m(=24.515×2.2/3.7)で、平均負荷率は87.1%と改善され、3.7kWから2.2kWに下げた方がモータの全損失量の絶対量も少なくなり、より省エネルギ化が図れることをユーザは判断できる。
【0200】
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明はこれらの例に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で、種々の変形が可能である。