特許第6342561号(P6342561)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6342561
(24)【登録日】2018年5月25日
(45)【発行日】2018年6月13日
(54)【発明の名称】管体推進装置
(51)【国際特許分類】
   E21D 9/06 20060101AFI20180604BHJP
【FI】
   E21D9/06 311C
   E21D9/06 301L
【請求項の数】9
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-183365(P2017-183365)
(22)【出願日】2017年9月25日
【審査請求日】2017年9月27日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000149206
【氏名又は名称】株式会社大阪防水建設社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】橘 勉
(72)【発明者】
【氏名】小島 浩幸
【審査官】 荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−307643(JP,A)
【文献】 特開2000−310097(JP,A)
【文献】 実開昭62−154092(JP,U)
【文献】 実開昭58−111294(JP,U)
【文献】 特開平09−268876(JP,A)
【文献】 特開平07−238780(JP,A)
【文献】 実開平06−056195(JP,U)
【文献】 特開2000−257379(JP,A)
【文献】 特開平11−315694(JP,A)
【文献】 特開昭63−261097(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 9/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
角柱状の管体と、
前記管体の後端面と対向する位置に配置され、前記管体の後端面を押圧して前記管体を地盤に向けて推進させるジャッキ機構と、
前記管体の外周の少なくとも上面及び両側面を地盤から隔絶されるように前記管体の推進に伴って前記管体に設けられた引出口から前記管体の少なくとも上面及び両側面上に引き出されて前記管体と地盤との間の摩擦力を低減する隔膜と、
前記隔膜と前記管体の少なくとも上面及び両側面との間に介在させる滑剤と、
を備え、
前記滑剤は、グリスと剛性のある球体との混合体であり、前記球体は、直径が0.3mm以上、3mm以下である管体推進装置。
【請求項2】
角柱状の管体と、
前記管体の後端面と対向する位置に配置され、前記管体の後端面を押圧して前記管体を地盤に向けて推進させるジャッキ機構と、
前記管体の外周の少なくとも上面及び両側面を地盤から隔絶されるように前記管体の推進に伴って前記管体に設けられた引出口から前記管体の少なくとも上面及び両側面上に引き出されて前記管体と地盤との間の摩擦力を低減する隔膜と、
前記隔膜と前記管体の少なくとも上面及び両側面との間に介在させる滑剤と、
を備え、
前記滑剤は、グリスと剛性のある球体との混合体であり、前記グリスと前記球体との重量比は、前記グリスを1とすると、0.3以上、3以下である管体推進装置。
【請求項3】
前記隔膜は、前記管体の先端側の内部に設けられた収容部内に、ロール状に巻かれた状態で収容されている請求項1又は2に記載の管体推進装置。
【請求項4】
前記滑剤は、滑剤吐出機構により前記隔膜と前記管体の少なくとも上面及び両側面との間に吐出される請求項1又は2に記載の管体推進装置。
【請求項5】
前記滑剤吐出機構は、前記管体の内部に設けられる滑剤吐出装置と、前記管体の前記引出口より後端側に設けられた吐出口とを含み、前記滑剤吐出装置は、前記吐出口より前記滑剤を吐出させる請求項に記載の管体推進装置。
【請求項6】
前記吐出口は、前記管体に幅方向に沿って複数個設けられる請求項に記載の管体推進装置。
【請求項7】
前記滑剤吐出機構は、前記管体の少なくとも上面及び両側面に幅方向に沿って形成される溝を備え、前記溝は前記吐出口と連通している請求項又はのいずれかに記載の管体推進装置。
【請求項8】
前記滑剤吐出装置は、
前記滑剤が収容されたシリンダと、
前記シリンダ内部に摺動自由に設けられるピストンと、
前記ピストンを前記シリンダ内部で往復動させる駆動手段とを備える請求項に記載の管体推進装置。
【請求項9】
前記滑剤は、前記隔膜の裏面にあらかじめ塗布されている請求項1又は2に記載の管体推進装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、線路や道路、建物などの構造物直下の地盤などを横断するように管体を推進させて地盤内に埋設する管体推進装置に関し、特に、管体と管体の周囲の土との間の摩擦力を低減して、この土の移動を防止することができる管体推進装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えば、特許文献1に示すように、発進側の立坑から到達側の立坑に向かう地盤に対し管体を推進させて埋設する管体推進工法(例えば、R&C工法など)が知られている。一般的な管体推進工法は、図10に示すように、線路や道路などの軌道120を挟んで両側にH鋼(図示せず)を打ち込み、発進側の立坑100及び到達側の立坑(図示せず)を掘削した後、発進側の立坑100の底面に推進台102を設置し、この推進台102の上に、先端側に刃口部105が連結された約7m程度の長さの管体101を、刃口部105が軌道を横断する方向を向くようにして載置する。そして、発進側の立坑100の推進方向とは反対側(後端側)の内壁に反力杭103を設け、反力杭103と管体101の後端面との間にジャッキ機構(推進ジャッキ)104を設置する。
【0003】
刃口部105内には、リール等の巻き取り器に隔膜107が巻き付けられた状態のロール体107aが備えられている。隔膜107は管体101の外周のひとつの面上に引き出される。隔膜107の端縁は発進側の立坑100の推進方向(先端側)の内壁に形成された土留壁108のH鋼に万力などを用いて固定されている。
【0004】
さらに、図10においては、反力を確保するために、発進側の立坑100の後端側に地山による反力体111を形成し、この反力体111の後端側に立坑112を掘削してH鋼からなる補足反力杭113を打ち込んでいる。
【0005】
推進ジャッキ104を作動させると、反力杭103及び補足反力杭113による反力により管体101が推進方向に押され、刃口部105によって地盤109が掘削されて管体101が地盤109内を推進する。
この際、隔膜107が管体101の外周のひとつの面上を覆うようにロール体107aより引き出され、管体101と地盤109との接触を遮断する。この隔膜107により、管体101の周囲の土が管体101の推進に伴って移動するのが防止される。
【0006】
最初の管体101を到達側の立坑に向けて推進させた後、次に、刃口部を備えていない別の管体101を発進側の立坑100内に用意し、最初の管体101の後端面と次の管体101の先端面とを溶接等により連結する。そして、最初の管体101と同様にして次の管体101の後端面を推進ジャッキ104で地盤109に向けて推進させる。これを繰り返すことで、複数の管体101が連なった管体が形成され、この管体は地盤109を貫き線路や道路などの軌道120の下を横断する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公昭47−24803号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1に記載の管体推進工法においては、管体101が地盤109内を推進すると、管体101は外周面が引き出された隔膜107の裏面を擦りながら先端側に移動するので、隔膜107と管体101の外周面との間に摩擦力が生じ、管体101に大きい推進力を与える必要があるという問題がある。
【0009】
本発明は、上記した課題に着目してなされたものであり、隔膜と管体の外周面との間の摩擦力を低減し、小さい力で管体を地盤に向けて推進させることが可能な管体推進装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明による管体推進装置は、管体と、前記管体の後端面と対向する位置に配置され、前記管体の後端面を押圧して前記管体を地盤に向けて推進させるジャッキ機構と、前記管体の外周の少なくとも一部の面を地盤から隔絶されるように前記管体の推進に伴って前記管体に設けられた引出口から前記管体の外周面上に引き出されて前記管体と地盤との間の摩擦力を低減する隔膜と、前記隔膜と前記管体の外周面との間に介在させる滑剤と、を備える。
【0011】
上記の構成によれば、滑剤により隔膜と管体の外周面との間の摩擦力が低減するため、小さい力で管体を地盤に向けて推進させることが可能となる。
【0012】
好ましい実施形態においては、前記隔膜は、前記管体の先端側の内部に設けられた収容部内に、ロール状に巻かれた状態で収容されている。
【0013】
上記の構成によれば、ロール状に巻かれた隔膜は、収容部内から管体の外周面上に引き出される。
【0014】
好ましい実施形態においては、前記滑剤は、滑剤吐出機構により前記隔膜と前記管体の外周面との間に吐出される。
【0015】
好ましい実施形態においては、前記滑剤吐出機構は、前記管体の内部に設けられる滑剤吐出装置と、前記管体の前記引出口より後端側に設けられた吐出口とを含み、前記滑剤吐出装置は、前記吐出口より前記滑剤を吐出させる。
【0016】
引出口から後端側へ引き出された隔膜の裏面には、吐出口から吐出される滑剤が塗布されるので、隔膜と管体の外周面との間に滑剤が介在する。
【0017】
一実施形態においては、前記吐出口は、前記管体に幅方向に沿って複数個設けられる。
【0018】
上記の構成によれば、隔膜の裏面に滑剤が広く塗布される。
【0019】
一実施形態においては、前記滑剤吐出機構は、前記管体の外周面に幅方向に沿って形成される溝を備え、前記溝は前記吐出口と連通している。
【0020】
上記の構成によれば、吐出口から吐出された滑剤は溝に満たされるので、引き出される隔膜の裏面と接触し、管体の外周面と隔膜の裏面との間に広がる。これにより、隔膜と管体の外周面との間に滑剤を広範囲にわたって介在させることができる。
また、溝の長さを隔膜の幅方向の全長に合わせることで、隔膜の裏面の全体に滑剤が接触し、隔膜の裏面に滑剤がムラなく塗布される。
【0021】
一実施形態によれば、前記滑剤吐出装置は、前記滑剤が収容されたシリンダと、前記シリンダ内部に摺動自由に設けられるピストンと、前記ピストンを前記シリンダ内部で往復動させる駆動手段とを備える。
【0022】
上記の構成によれば、ピストンを駆動させるだけの簡単な動作で滑剤を吐出口から吐出させることができる。
【0023】
他の実施形態においては、前記滑剤は、前記隔膜の裏面にあらかじめ塗布されている。
【0024】
上記の構成によれば、管体内に滑剤吐出機構を別途設ける必要がない。
【0025】
好ましい実施形態においては、前記滑剤は、グリス、オイル、高分子潤滑剤、グリスと剛性のある球体との混合体のいずれか1つを含む。
【0026】
上記の構成によれば、隔膜と管体の外周面との間の摩擦力を低減することができる。
【0027】
前記滑剤はグリスと剛性のある球体との混合体であり、前記球体は、直径が0.3mm以上、3mm以下であってもよい。
【0028】
滑剤に剛性のある球体を混合することで、隔膜と管体の外周面との間の摩擦力をより低減することができる。
また、グリスの粘性により球体が管体の外周面に保持されるため、管体の側面又は底面と隔膜との間に混合体を介在させた場合であっても、球体の脱落を防ぐことができる。
【0029】
前記滑剤はグリスと剛性のある球体との混合体であり、前記グリスと前記球体との重量比は、前記グリスを1とすると、0.3以上、3以下であってもよい。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、隔膜と管体の外周面との間の摩擦力を低減でき、小さい力で管体を地盤に向けて推進させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明の一実施形態に係る管体推進装置の全体構成を示す一部を省略した断面図である。
図2】管体の先端部の平面図である。
図3】管体の先端部の側面図である。
図4】管体の正面図である。
図5】収容部及び滑剤吐出機構を拡大して示す断面図である。
図6】管体の先端部の斜視図である。
図7】滑剤吐出機構の他の実施例を示す管体の先端部の平面図である。
図8】本発明の他の実施形態を示す刃口部の断面図である。
図9】実験装置の側面図である。
図10】従来例に係る管体推進装置の全体構成を示す一部を省略した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
図1〜6は、本発明の一実施形態の管体推進装置10を示すもので、外周が複数の面(この実施形態では4面)により形成されている角柱状の管体20と、管体20の後端面と対向する位置に配置され管体20の後端面を押圧して管体20を地盤に向けて推進させるジャッキ機構104と、管体20の外周の少なくとも一つの面(本実施形態では上面及び両側面)が地盤から隔絶されるように管体20が地盤へ推進するに伴って管体20の前記面上に引き出される薄板状の隔膜30と、隔膜30と管体20の外周面との間に介在させる滑剤Rと、滑剤Rを隔膜30と管体20の外周面との間に吐出させる滑剤吐出機構60とを備えている。
【0033】
なお、以下の説明では、図1において、管体20が推進する方向を先端側又は前側、先端方向と反対方向を後端側又は後側とし、前後方向に対して直交する2方向を上下方向及び幅方向とする。また、本実施形態の管体推進装置10において、図10に示す従来例と同一の構成については、対応する構成に同一の符号を付すことで詳細な説明は省略する。
【0034】
管体20は、刃口部21と、刃口部21の後端側に連続して設けられた管本体22とを備えている。刃口部21は管本体22とネジ止めや溶接により連結されており、管体20が到達側の立坑まで到達した際には、管本体22から取り外される。
刃口部21は、先端刃口部211と、先端側が先端刃口部211の後端面に連続し、後端側が管本体22に連結される後端刃口部212とからなる。
【0035】
図2図4に示すように、先端刃口部211の上面211a及び下面211bの幅L1は、後端刃口部212の上面212a及び下面212bの幅L2と同じである。後端刃口部212の幅方向の側面212c、212dの間の幅L3は、幅L1、L2よりも短く、後端刃口部212の側面212c、212dが先端刃口部211の幅方向の側面211c、211dよりも内側に位置している。
【0036】
管体20の外周面は、先端刃口部211の上下面及び両側面211a〜211d、後端刃口部212の上下面及び両側面212a〜212d、及び管本体22の上下面及び両側面22a〜22dを含んでいる。
【0037】
図3に示すように、先端刃口部211は先端部が斜めにカットされた形状となっており、掘削された土砂を刃口部21内に取り込み易くなっている。
【0038】
先端刃口部211の上面211aの内側には、隔膜30が密に巻かれた状態のロール体31を収容する凹状の収容部40が設けられている。図5に示すように、収容部40は、上面(外面)の開口が、隔膜30を引き出すための引出口41を残してカバー体42に覆われている。引出口41は、隔膜30の厚みと幅に応じた開口幅及び長さを有し、収容部40の後端部に位置している。カバー体42は先端刃口部211の上面211aと連続するように溶接等により取り付けられている。
収容部40は、その幅が先端刃口部211の上面211aの幅L1と略同じ幅であって、ロール体31の外形に対応させた内部形状及び大きさを有している。本実施形態での収容部40は、断面形状が矩形状であり、ロール体31の外周面が収容部40の内壁と接する面積を小さくしてロール体31が回転しやすくなっている。
【0039】
収容部40の下端(内側端)はロール体31の出し入れ口45になっており、収容部40にロール体31が収容された状態で出し入れ口45は平板状の蓋体43で塞がれている。詳細には、収容部40の前後の壁40a、40aの下端にネジ孔47、48を有する鍔部40b、40bが形成されており、蓋体43には鍔部40b、40bのネジ孔47、48と対応する位置にネジ孔49、50が形成されている。蓋体43のネジ孔49、50と鍔部40b、40bのネジ孔47、48とにネジ44を通して締め付けることで、蓋体43が前後の鍔部40b、40bに固定されている。蓋体43はロール体40を転動自由に支持する底板と兼ねており、この上面46は先端刃口部211の上面211a、後端刃口部212の上面212a及び管本体22の上面22aと平行である。
【0040】
隔膜30は、幅が収容部40の幅よりも若干短く、ロール体31は収容部40に1個収容されているが、隔膜30は、管体20の側面の幅の2分の1以下の幅のものであってもよく、収容部40に複数個が連なった状態で収容されていてもよい。
【0041】
図5に示すように、隔膜30の巻き終わり端は、隔膜30の裏面が刃口部21の上面211aと向き合うように、引出口41より管体20の刃口部21の上面211a上に引き出される。ロール体31は隔膜30の巻き終わり端が収容部40内の後端部において引出口41と対向するように収容部40内に配置されている。なお、ロール体31は、巻き始め端が中心部分で解放された無芯のものであるが、これに限らず有芯のものであってもよい。ロール体31は収容部40の前後の壁40aにより前後方向の移動が規制される。
【0042】
隔膜30は、例えば亜鉛メッキ鋼のような金属の薄膜により構成されているが、これに限らず、塩化ビニールやポリエチレンなどの合成樹脂の薄膜や、炭素繊維織物の薄膜により構成されていてもよい。
【0043】
滑剤吐出機構60は、管体20の引出口41より後端側に設けられた吐出口61と、管体20の内部に設けられ吐出口61より滑剤Rを吐出させる滑剤吐出装置62と、管体20の外周面(図5においては先端刃口部211の上面211a)に幅方向に沿って形成され吐出口61と連通する溝63とを含む。吐出口61は溝63の底面に開口しており、溝63は滑剤Rで満たされる。本実施形態では、溝63の長さは引出口41の長さと略同一とし、吐出口61は溝63の長さ方向中央部に位置しているが、これに限定されず、例えば、吐出口61は溝63の長さ方向端部に位置していてもよく、溝63の長さは引出口41の長さよりも短くてもよい。
【0044】
滑剤吐出装置62は、滑剤Rが充填されたシリンダ64と、シリンダ64内部に摺動自由に設けられるピストン65と、ピストン65をシリンダ64内部で往復動させる駆動手段66とを備えている。シリンダ64の先端部はチューブ67等を介して吐出口61と連通している。ピストン65を先端側に移動させることで、シリンダ64内部の滑剤Rが吐出口61から吐出される。駆動手段66は、例えば油圧シリンダであり、ロッド66aによりピストン65を往復動させる。
【0045】
滑剤Rは、グリス、オイル、高分子潤滑剤、グリスと剛性のある球体との混合体からなる群から選択される1つを含むものである。なお、高分子潤滑剤とは、例えば、ポリアクリルアミド等の高分子材料からなるエマルジョンを含んでおり、潤滑性を有するものである。
本実施形態では、滑剤Rはグリスと剛性のある球体との混合体としている。混合体の球体は、地盤109内を管体20が推進する際に地盤109から受ける力により変形しない程度の剛性を有しており、例えば鋼などの金属製であるが、合成樹脂製であってもよい。球体は、直径が0.3mm以上、3mm以下であり、グリスと球体との重量比は、グリスを1とすると、0.3以上、3以下である。グリスは、球体を保持し、可塑性を有し、溝63内を自由に移動しない程度の粘度(ちょう度)を有している。吐出口61から溝63に吐出された混合体は、後から吐出された混合体に押されて溝63に沿って移動して溝63を満たす。すなわち、溝63は滑剤Rを管体20の幅方向に広げるためのガイドとして機能する。滑剤Rは溝63の開口で隔膜30の裏面と接触し、隔膜30と管体20の外周面との間に広がる。
【0046】
なお、滑剤吐出装置62は上記の構成に限定されず、吐出口61から滑剤Rを吐出できればどのような構成であってもよい。例えば、滑剤Rを収容するタンクと、タンクと吐出口61とを接続するチューブ67と、チューブ67の途中に設けられるポンプとで構成されるものであってもよく、ポンプの吸引により滑剤Rを吐出口61から吐出させる。
【0047】
また、図7に示すように、溝63の底面に複数の吐出口61を等しい間隔で開口し、各吐出口61に1つの滑剤吐出装置62に連結されたチューブ67を連通させてもよい。なお、滑剤吐出装置62は吐出口61毎に設けていてもよい。このように、吐出口61を複数設けることで、滑剤Rを短期間で均等に溝63に充填することができる。
なお、本実施形態では吐出口61を溝63の底面に設けているが、溝63の側面に設けていてもよい。
【0048】
さらに、溝63を設けず、1つ又は複数の吐出口61を管体20の外周面に開口するように設けてもよい。特に、滑剤Rがオイルや高分子潤滑剤の場合には、滑剤Rを管体20の外周面に吐出することで滑剤Rが外周面を移動し、滑剤Rが移動隔膜30と管体20の外周面との間に広がる。
【0049】
後端刃口部212には、図2図3に示すように、幅方向の両側面212c、212dの内側に、隔膜30が巻かれたロール体31を収容する凹状の収容部40、40が設けられている。両側面212c、212dの各収容部40、40は、幅が後端刃口部212の側面の上下方向の長さとほぼ一致する。さらに、両側面212c、212dの内側には、それぞれ滑剤吐出機構60が設けられている。
【0050】
本実施形態では、滑剤吐出機構60の溝63は上下方向に設けられ、吐出口61は溝63の上端部に設けられている。グリスと球体との混合体である滑剤Rは、吐出口61から吐出されて下方に流下する。溝63の開口は隔膜30で覆われているため、滑剤Rは溝63から脱落せずに溝63に満たされる。
なお、吐出口61の形成位置はこれに限定されず、溝63の長さ方向中央部に設けられていてもよい。
【0051】
収容部40、収容部40に収容されるロール体31、及び滑剤吐出機構60の他の各構成は、先端刃口部211の上面211aに形成された収容部40、ロール体31、及び滑剤吐出機構60と同じであり、対応する構成に同一の符号を付すことで詳細な説明は省略する。
【0052】
滑剤Rがオイルや高分子潤滑剤の場合には、溝63を形成せずに吐出口61を両側面212c、212dの上端部に開口する。滑剤Rは重力により両側面212c、212dの上下方向、すなわち幅方向に広がり、隔膜30の裏面全体に滑剤を塗布することができる。
【0053】
本実施形態の管体推進装置10において、作業の開始前に、作業者は滑剤吐出機構60の滑剤吐出装置62を動作させて、溝63に滑剤Rを満たす。作業を開始し、管体20がジャッキ機構104に押されて地盤に向けて推進されると、収容部40に設けられた引出口41よりロール体31の隔膜30が後端側に向けて管体20の外周面上に順次引き出される。本実施形態では、先端刃口部211に設けられたロール体31の隔膜30が後端刃口部212の上面212a上、管本体22の上面22a上に引き出され、後端刃口部212の内側に設けられたロール体31の隔膜30が後端刃口部212の側面212b、212c上、管本体22の側面22b、22c上にそれぞれ引き出される。
【0054】
隔膜30は裏面が溝63に満たされた滑剤Rと接触しつつ引き出され、管体20の外周面と隔膜30の裏面との間に滑剤Rが介在した状態となる。このため、隔膜30と管体20の外周面との間の摩擦力が低減し、小さい力で管体20を地盤に向けて推進させることが可能となる。
【0055】
このように、滑剤Rが介在しない場合に比べて小さい力で管体20を地盤に向けて推進させることが可能となるため、最大推進力の小さい小型のジャッキ機構104を用いることができる。ジャッキ機構104が小型であるため、発進側の立坑100の規模が小さくてすむ。さらに、ジャッキ機構104の推進力が小さいため、反力も小さくなり、図10に示す従来技術において備えていた反力体111、立坑112及び補足反力杭113が不要になる。また、ジャッキ機構104を立坑100に据え付けるためのクレーンの大きさが小さくなり、機材等を運搬するためのトラックも少なくてすむ。従って、管体推進工事に係る費用を大幅に削減できる。
【0056】
また、管体20がジャッキ機構104に押されて地盤に向けて推進されると、収容部40に設けられた引出口41よりロール体31の隔膜30の巻き終わり端が引き出される。隔膜30が引出口41より収容部40の底面部46に対して垂直方向へ導出されるので、ロール体31は収容部30の底面部46から押し上げられ、隔膜30と底面部46との摩擦力が小さくなり、ロール体31の巻きをゆるませながら隔膜30を引き出すことができる。さらに、ロール体31は収容部40の前面40aや後面40aに押し付けられないため、隔膜30と前後の壁40aとの摩擦力が小さく、隔膜30の引き出し時にこの摩擦力によってロール体31の巻きが締め付けられにくい。このため、隔膜30を引き出すのに大きな力を必要とせず、隔膜30の引き出しが円滑となり、小さい力で管体20を地盤に向けて推進させることが可能となる。
【0057】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
例えば、溝63を管体20の外周面の幅方向の中央部にのみ設けてもよい。この場合、隔膜30の裏面の中央部に滑剤Rが塗布される。隔膜30の裏面の一部と管体20の外周面との間に滑剤Rが介在するので、滑剤Rが介在しない場合に比べて隔膜30と管体20の外周面との間の摩擦力が低減する。
【0058】
また、本実施形態では、滑剤吐出機構60を設けて滑剤Rを隔膜30と管体20の外周面との間に吐出しているが、滑剤吐出機構60を設けずに、ロール体31として滑剤Rを隔膜30の裏面にあらかじめ塗布したものを用いてもよい。
【0059】
図8は他の実施形態を示す。図8に示す実施形態では、管体20は円筒状である。また、刃口部21においても、先端刃口部211と後端刃口部212とに分かれておらず、円筒状となっている。刃口部21の上方側の周面の内側には、中心角αが鉛直方向に対して左右に45度となる角度範囲に亘って複数の収容部40(図8では6つ)が周方向に等角度間隔で設けられている。収容部40及び収容部40に収容されるロール体31を構成する隔膜30の幅は、刃口部21の内周面に沿うことができる程度に十分に短く設定している。また、各収容部40毎に管体20の内部に滑剤吐出機構60を備えている。
その他の構成については図1の実施形態と同様であり、説明を省略する。
上記の実施形態であっても、管体20の外周面と隔膜30の裏面との間に滑剤Rが介在するため、隔膜30と管体20の外周面との間の摩擦力が低減し、小さい力で管体20を地盤に向けて推進させることが可能となる。また、隔膜30を引き出すのに大きな力を必要とせず、隔膜30の引き出しが円滑となる。
【実験例】
【0060】
本発明の図1図6に示す管体推進装置10において、異なる滑剤Rを用いた実験例1〜4と、滑剤Rを用いない比較例とについて、摩擦力の測定実験を行った。
測定実験は、本発明の隔膜30と管体20の外周面とを模擬した実験装置80により行った。
【0061】
実験装置80の構成を図9を用いて説明する。直方体の基台81の上面であって長さ方向の一端側(図9の左側)に、長さ2m、幅30cmの固定プレート84を載置した。固定プレート84は、支持部材82の上面にプレート83を載置したものである。プレート83の上面に滑剤Rを塗布した後、固定プレート84と同じ幅であって固定プレート84より若干長いメッキ鋼板85を載置した。メッキ鋼板85の上面であって長さ方向の一端側に、長さ1m、重量94kgのウェイト86を載置した。メッキ鋼板85の長さ方向の他端側(図9の右側)であって、固定プレート84から突出した部分にロードセル87を介して油圧シリンダ88を連結した。油圧シリンダ88はメッキ鋼板85と水平になるように支持部材89により基台81に載置した。
【0062】
メッキ鋼板85を油圧シリンダ88により分速約1mの速度で30秒間牽引し、ロードセル87によりこの間の荷重を測定し、平均値を算出した(平均荷重という)。実験装置80の固定プレート84のプレート83の上面が、本実施形態の管体20の外周面に相当し、実験装置80のメッキ鋼板85が本実施形態の隔膜30に相当し、実験装置80のウェイト86が本実施形態の地盤に相当し、実験装置80により測定した平均荷重が隔膜30と管体20の外周面との間の摩擦力に相当する。
【0063】
実験例1〜4は異なる滑剤Rを用いている。実験例1の滑剤Rはシリコンオイルであり、信越化学工業株式会社製のKF−96を用いた。実験例2の滑剤Rは高分子潤滑剤であり、株式会社薬材開発センター製のカントールFを100倍に水で希釈したものである。実験例3の滑剤Rはリチウムグリスに二硫化モリブデンを配合したグリスであり、株式会社ガレージ・ゼロ製のGSE025を用いた。実験例4の滑剤Rはグリスと鋼球の混合体であり、実験例3と同じグリスと直径1mmの鋼球とを重量比で1:1の割合で混合したものである。比較例は滑剤Rを用いていない。
実験例1〜3の滑剤Rはプレート83の上面に0.1mmの厚さに刷毛で塗布され、実験例4の滑剤Rは1mmの厚さにゴムべらにより塗布された。
【0064】
実験結果を表に示す。比較例の滑剤Rを用いていない場合の平均荷重は0.263kNであり、これを100%とすると、実験例1は平均荷重が73.4%、実験例2は89.0%、実験例3は平均荷重が66.2%、実験例4は50.2%となり、実験例1〜4において、比較例と比較して平均荷重が減少した。本発明の図1図6に示す管体推進装置10においても、滑剤Rを用いることで、隔膜30と管体20の外周面との間の摩擦力が減少すると考えられる。特に、実験例4においては、平均荷重が比較例の約半分にまで減少した。剛性のある球体をグリスに混合することにより、摩擦力が減少することが分かった。
【0065】
【表1】
【符号の説明】
【0066】
10 管体推進装置
20 管体
21 刃口部
211 先端刃口部
212 後端刃口部
22 管本体
30 隔膜
40 収容部
41 引出口
60 滑剤吐出機構
61 吐出口
62 滑剤吐出装置
63 溝
64 シリンダ
65 ピストン
66 駆動手段
100 発進側の立坑
102 推進台
103 反力杭
104 ジャッキ機構
109 地盤
120 軌道
R 滑剤
【要約】
【課題】隔膜と管体の外周面との間の摩擦力を低減し、小さい力で管体を地盤に向けて推進させることが可能な管体推進装置を提供する。
【解決手段】
管体推進装置10は、管体20と、管体20の後端面と対向する位置に配置され、管体20の後端面を押圧して管体20を地盤に向けて推進させるジャッキ機構104と、管体20の外周の少なくとも一部の面を地盤から隔絶されるように管体20の推進に伴って管体20に設けられた引出口から管体20の外周面上に引き出されて管体20と地盤との間の摩擦力を低減する隔膜30と、隔膜30と管体20の外周面との間に介在させる滑剤Rとを備える。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10