(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
最近の建物にあっては、コンピュータ等の精密機器類を地震による振動から保護するために、免震床構造を採択することが多くなっている。免震床構造の中には、床スラブ上に、上面が低摩擦材により構成された固定支承部を設けて、この固定支承部でもって可動床構造体を支承したものがある。この可動床構造体は、その下面が低摩擦材からなるスライドプレートによって構成された摺動プレートを有して、隣り合う摺動プレート同士をジョイントビームにより連結すると共に、各摺動プレートから立設した支柱部材上に、床プレートを固定した構造となっている。低摩擦材からなるスライドプレートと固定支承部上面の低摩擦材との間での良好な滑り作用によって、地震の際の振動に伴って、摺動プレートつまり可動床構造体が全体的に固定支承部に対して相対変位して、免震作用を行うことになる。
【0003】
前記可動床構造体における摺動プレート(つまり床プレートが取付けられる支柱部材)は、平面視において縦横の格子を想定したときに、その格子の交点部分に設けられている。そして、可動床構造体が固定支承部に支承されつつ水平方向に変位可能な最大変位量は、従来は200〜300mm程度であった。
【0004】
大きな地震によって発生される長周期振動によって、可動床構造体が、固定支承部から外れてしまうほど大きく水平方向に変位することが想定される(例えば400〜500mm程度の変位)。特許文献1には、各摺動プレートの周囲に、摺動プレートから放射状に伸びる複数本の予備用の支持部材を設けて、この予備用の支持部材の上面にその長手方向ほぼ全長に渡って長尺の低摩擦材を設けたものが開示されている。これにより、摺動プレートが固定支承部から外れる前に、摺動プレートが予備用の支持部材に乗り移って、この予備用の支持部材によって可動床構造体がスライド可能に支承されることになる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記特許文献1に記載のものでは、上面が低摩擦部材で構成された長尺の予備用の支持部材が、1つの摺動プレートに対して放射状に複数本(4〜6本程度)設ける必要があることから、コスト高となり、また設置工事も面倒になる。
【0007】
本発明は以上のような事情を勘案してなされたもので、その第1の目的は、大きく水平方向に変位した可動床構造体をスライド可能に支承できるようにしつつ、安価でかつ簡単に構築できるようにした免震床構造を提供することにある。
【0008】
本発明の第2の目的は、上記免震床構造に用いて好適な固定支承部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記第1の目的を達成するため、本発明にあっては次のような解決手法を採択してある。すなわち、請求項1に記載のように、
床スラブ上に、所定間隔毎に分散配置された状態で固定された多数の固定支承部と、
下面がスライドプレートにより構成されると共に分散配置された多数の摺動プレートと、隣り合う該摺動プレート同士を連結するジョイントビームと、該各摺動プレートから立設された上側支柱部材と、該上側支柱部材に固定された床プレートとを有する可動床構造体と、
を有し、
前記多数の固定支承部はそれぞれ、前記床スラブに固定されるベース部材と、該ベース部材から立設された下側支柱部材と、該下側支柱部材の上部に取付けられて該固定支承部の上面を構成する低摩擦部材と、を有しており、
前記多数の固定支承部のうち一部の固定支承部が、前記摺動プレートを支承している平常時用とされる一方、他の固定支承部は該摺動プレートの周囲に位置された予備用とされ、
前記可動床構造体が前記床スラブに対して大きく水平方向に変位された際に、前記摺動プレートが前記平常時用の固定支承部から外れる前に、該摺動プレートが前記予備用の固定支承部に支承される、
ようにしてある。上記解決手法によれば、大きな地震に伴う長周期振動により、摺動プレートが平常時用の固定支承部から外れてしまうほど大きく水平方向に変位される場合があるが、摺動プレートが平常時用の固定支承部から外れる前に予備用の固定支承部に支承されることとなり、可動床構造体を安定してスライド可能に支承し続けることができる。固定支承部は、小型でかつ使用材料(特に高価な低摩擦部材)が少なくてすみ、極めて安価に免震床構造を構築できると共に、固定支承部の設置作業も容易に行うことができる。
【0010】
上記解決手法を前提とした好ましい態様は、特許請求の範囲における請求項2以下に記載のとおりである。すなわち、
前記固定支承部における前記下側支柱部材が、前記ベース部材から立設された雄ネジ部材と、内周面に該雄ネジ部材に螺合される雌ネジ部を有する筒状部材とから構成され、
前記低摩擦部材が、前記筒状部材の上端面に着座される摺動部と、該摺動部の下面から突設されて該筒状部材の内孔内に挿入される挿入部と、を有している、
ようにしてある(請求項2対応)。この場合、ネジ方式でもって下側支柱部材の長さ調整を行なうことが可能なので、床スラブが完全な平坦面でない場合でも、各固定支承部における低摩擦部材の上面高さ位置を所望高さ位置に精度よく設定することができる。
【0011】
前記固定支承部は、前記雄ネジ部材に螺合されて前記筒状部材の下面に当接されるロックナットをさらに有している、ようにしてある(請求項3対応)。この場合、高さ調整した後の状態を、ロックナットにより確実に維持させることができる。
【0012】
前記固定支承部における前記摺動部の上面が、上方に凸となるようにされた略球面状とされている、ようにしてある(請求項4対応)。この場合、摺動プレートを支承していない固定支承部に対して、全方向から摺動プレートがスムーズに乗り移ることができる。
【0013】
前記スライドプレートの全周縁部について、その下面が、外周縁部に向かうにつれて徐々に上方に向かうように形成された傾斜面として形成されている、ようにしてある(請求項5対応)。この場合、請求項4に対応した効果と同様の効果を得ることができる。
【0014】
前記床プレートが、正方形とされて、縦横に並べて配置され、
前記摺動プレートと前記上側支柱部材と前記平常時用の固定支承部とがそれぞれ、前記各床プレートの各角部に対応した位置に配設され、
前記予備用の固定支承部が、前記各床プレートの対角線同士が交差する交差部に対応した位置に配設されている、
ようにしてある(請求項6対応)。この場合、固定支承部と摺動プレートと床プレート(方形プレート)との具体的な配設関係が提供される。特に、床プレートは、正方形とされて縦横に並べて配設されるのが一般的であるが、この一般的な床プレートの形状に応じた好ましいものとなる。
【0015】
前記第2の目的を達成するため、本発明にあっては次のような解決手法を採択してある。すなわち、請求項7に記載のように、
床スラブ上に配設された可動床構造体を水平方向にスライド可能に支承するための固定支承部材であって、
床スラブに固定されるベース部材と、
前記ベース部材から立設された雄ネジ部材と、
内周面に前記雄ネジ部材に螺合される雌ネジ部を有する筒状部材と、
前記筒状部材の上端部に取付けられた低摩擦材からなる
低摩擦部材と、
を有し、
前記低摩擦部材が、前記筒状部材の上端面に着座される摺動部と、該摺動部の下面から突設されて該筒状部材の内孔内に挿入される挿入部と、を有し、
前記摺動部の上面が、上方に凸となるようにされた球面状とされている、
ようにしてある。上記解決手法によれば、請求項2、請求項4に対応した効果を得るための固定支承部材が提供される。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、大きく水平方向に変位した可動床構造体をスライド可能に支承できるようにしつつ、安価でかつ簡単に構築できる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1、
図3において、床スラブU上に設置される室Sの床が、水平方向に変位可能な可動床構造体1と、固定された固定床2とから構成されている。可動床構造体1は、室Sの側壁3から所定間隔あけて設置され、可動床構造体1の全周囲に固定床2が位置されている。
【0019】
可動床構造体1は、その周囲に設けたコイルスプリングからなるリターンスプリング5によって、室Sのほぼ中心に位置するように付勢されている。このリターンスプリング5は、水平方向に伸びて、可動床構造体1と床スラブUとの間に架設されている。
【0020】
可動床構造体1は実施形態では室Sの形状に合せて4角形、より具体的には正方形とされているが、可動床構造体1の形状は適宜設定できるものである。また、可動床構造体1の各辺についてそれぞれリターンスプリング5が複数設けられているが、リターンスプリング5の数は適宜設定できるものである。
【0021】
可動床構造体1は、固定支承部10を介して、床スラブUに対して水平方向にスライド可能に支承される。以下、この固定支承部10による可動床構造体1の支承構造について説明するが、まず、固定支承部10について説明する。
【0022】
固定支承部10は、
図7、
図8に示すように、大別して、ベース部材11と、ベース部材11から一体的に上方へ伸びる雄ネジ部材12と、雄ネジ部材12に螺合された筒状部材13と、筒状部材13の上端部に取付けられた低摩擦部材14とを有し、実施形態ではさらにロックナット15を有している。
【0023】
ベース部材11は、例えば鉄系金属板を加工することにより形成されて、実施形態では方形に形成されている。ベース部材11には、複数の取付孔11aが形成されている。ベース部材11は、その下面に塗布された接着材によって、床スラブUに対して固定されている。そして、接着材が取付孔11aにも充填されて、その一部がベース部材11の上面に大径頭部16(
図8参照)として外部に露出されている。接着材による大径頭部16の形成により、アンカ効果も得られて、固定強度向上が図られている。なお、より一層の固定強度を確保するために、接着材に代えてあるいは接着材と共に、取付孔11aに挿通されたボルトによって、ベース部材11を床スラブUに固定することも可能である。
【0024】
雄ネジ部材12は、例えばボルトの軸部を利用して形成されて、その下端部がベース部材11に対して溶接等により一体化されている。筒状部材13は、長尺のナット部材となっており、外周形状が六角形状とされて、その内孔13aに雌ネジ部13bが形成されている。筒状部材13は、その雌ネジ部13bを雄ネジ部材12に螺合させることにより、雄ネジ部材12に一体化される。そして、雄ネジ部材12には、筒状部材13の下方において、ロックナット15が螺合されている。
【0025】
低摩擦部材14は、実施形態ではポリアミドイミド樹脂(より具体的には、東レ株式会社製の商品名TIポリマを使用)により構成してあるが、この他適宜の低摩擦部材により構成することが可能である。この低摩擦部材14は、大別して、摺動部14aと、摺動部14aの下面から下方に向けて突出された挿入部14bとを有する。挿入部14bは断面円形とされて、筒状部材13の内孔13aにがたつきなくスムーズに嵌合されるようになっている。摺動部14aは、筒状部材13の外径とほぼ同径とされて、挿入部14bを内孔13aに挿入した状態で、筒状部材13の上端面に着座される。そして、摺動部14aは、その上面が、上に向けて突面となる球面状(球面の一部を構成する面で、ほぼ球面状を含む)とされている。つまり、摺動部14aの側面断面形状を示す
図8から理解されるように、その上面は上に凸の円弧状に湾曲された形状とされている。
【0026】
床スラブU上にベース部材11を固定した状態で、低摩擦部材14の上面が所望高さ位置となるように、筒状部材13の雄ネジ部材12に対する螺合位置が調整される。この調整終了後に、ロックナット15が筒状部材13の下面に強く当接するように締め付けられて、上記所望高さ位置が維持される。床スラブUが若干の勾配あるいは凹凸を有していても、上述した螺合位置の調整によって、低摩擦部材14の上面高さ位置が所望高さ位置とされる。このように、実施形態では、雄ネジ部材12と筒状部材13とで、長さ調整可能な支柱部材を構成している。
【0027】
上記固定支承部10は、多数設けられて、
図2、
図5に示すように分散配設される。すなわち、縦横それぞれ等ピッチ間隔の正方形の格子を想定したとき、この格子の交点位置に固定支承部10が位置するように配設される。上記格子のピッチは、後述する正方形の床プレートの1辺の長さ(実施形態では600mm)の半分の長さ(実施形態では300mm)とされている。
【0028】
可動床構造体1は、大別して、多数の摺動プレート21と、隣り合う摺動プレート21同士を連結するジョイントビーム22と、摺動プレート21の中心部から上方へ一体的に伸びる支柱部材23と、支柱部材23の上部に取付けられた床プレート24と、を有する。
【0029】
摺動プレート21は、
図6に示すように、正方形状の4隅を切り欠いた形状とされている。この摺動プレート21は、
図8に示すように、鉄系金属板を加工したベース部材21Aの下面に、中間部材21Bを介在させて、低摩擦部材21Cを一体化した構造とされている。なお、実施形態では、低摩擦部材21Cは、コストや強度等の観点から、皿状の金属プレートの下面(外周面)に、テフロン(登録商標)、ナイロン、ポリアセタール等の低摩擦材をコーティングすることにより構成されている。
【0030】
低摩擦部材21Cは、その全周縁部において、外周縁部に向かうにつれて徐々に高い位置となるように湾曲された傾斜面21aとされている(当然のことながら、傾斜面21aの外周面にも、テフロン(登録商標)、ナイロン、ポリアセタール等の低摩擦材がコーティングされている。つまり、後述するように、摺動プレート21が水平方向に移動して、固定支承部10に新たに支承されようとする際に、傾斜面21aと固定支承部10の摺動部14aの球面状の上面との相互作用により、極めてスムーズに固定支承部10へと乗り移るのに好ましい設定となっている。また、傾斜面21aの背面側には、ベース部材21Aおよび中間部材21Bとの間に間隔(空間)が形成されて、この傾斜面21aが固定支承部10の摺動部14aに対して新たに乗り上げる際に、傾斜面21aが若干弾性変形可能されて、これにより当該新たな乗り上げがより一層スムーズに行われるようになっている。なお、傾斜面21aは、曲面状に限らず、直線状に変化する場合であってもよいものである。
【0031】
隣り合う摺動プレート21同士が、例えば鉄系金属板を加工して形成されたジョイントビーム22によって相互に連結されている(特に
図2参照)。これにより、多数の摺動プレート21は、互いに一体となって水平方向に移動可能とされている。
【0032】
支柱部材23は、例えば鉄系金属により筒状に形成されて、その下部が摺動プレート21に対してボルト等の固定具によって固定される。
図4に示すように、支柱部材23の上端部にはナット部材23Aが嵌合、固定され、またその外周には上方に向けて末広がりとされた受け部材23Bが固定されている。
【0033】
床プレート24は、正方形のプレート材とされて、縦横に並べて配設された構成とされている。床プレート24の各角部に対応した位置において、固定支承部10、摺動プレート21および支柱部材23が位置される。
図4に示すように、床プレート24は、その角部上面が部分的に低くされて、この低くされた部分が受け部材23Bに着座された状態で、押圧部材26によって上方から覆われる。そして、固定ボルト27を押圧部材26を貫通させて前記ナット部材23Aに螺合することにより、床プレート24は、押部材26によって受け部材23Bに押圧された固定状態とされる。この受け部材23Bには、最大で4枚の床プレート24の角部が固定されることになる。なお、床プレート24の角部の底面には係合凹部が形成される一方、受け部材23Bにはこの係合凹部に嵌合される係合突部が形成されていて、この係合凹部に係合突部が嵌合された位置決め状態でもって、押圧部材26、固定ボルト27による固定が行われる。
【0034】
上述した可動床構造体1は、摺動プレート21から床プレート24までの2重床の構造物として強固な一体化物とされる。そして、地震等により大きな揺れが生じたときに、互いに1つの構造物として水平方向にスライド変位されることになる。
【0035】
ここで、可動床構造体1と固定支承部10との位置関係について説明する。まず、方形の床プレート24の各角部となる位置において、摺動プレート21(支柱部材23)が位置される。摺動プレート21は、その対角線が床プレート24の1つの辺と平行となる姿勢でもって配設される。
【0036】
可動床構造体1を設置した直後の平常時(振動による可動床構造体1の水平移動が行われない状態)では、固定支承部10は、1つの摺動プレート21の中心部に1個装備され、この摺動プレートを支承している固定支承部10が、平常時用の固定支承部となる。また、平常時において、摺動プレート21を支承しない固定支承部10が、予備用の固定支承部となる。
【0037】
以上のような構成において、平常時は、可動床構造体1は、その各摺動プレート21が1つの固定支承部10(平常時用の固定支承部)で支承された状態とされる。地震等による揺れによって、可動床構造体1が水平方向に変位(移動)される場合を考える。可動床構造体1の変位が小さいとき(例えば固定支承部10を中心として半径200mm程度の範囲での変位)、つまり摺動プレート21(の低摩擦部材21C)の面積範囲内での変位のときは、摺動プレート21は、少なくとも平常時用の固定支承部10によって支承された状態が維持される。
【0038】
大きな地震のとき、特に長周期振動による揺れの場合に、可動床構造体1が大きく水平方向に変位されると(例えば400〜500mmの変位)、摺動プレート21が、いままで支承されていた平常時用の固定支承部10から外れることになる。しかしながら、この場合は、いままで支承されていた平常時用の固定支承部10の支承が外れる前に、摺動プレート21が予備用の固定支承部10に移乗されて、支承されることになる。つまり、摺動プレート21は、最低1つの固定支承部10によって常に支承されつつ、変位方向によっては最大3個の固定支承部10によって支承されることになる。このように、可動床構造体1が、360度いずれの方向に水平方向に大きく変位しても、固定支承部10による確実な支承が維持されることになる。低摩擦部材21Cの傾斜面21aおよび固定支承部10における低摩擦部材14上面の球面形成によって、摺動プレート21は、スムーズに予備用の固定支承部10に乗り移ることができる。
【0039】
固定支承部10における低摩擦部材14は、その挿入部14bが筒状部材13内に挿入されているため、乗り移ってくる摺動プレート21からの横力を受けても、筒状部材13から外れることはない。なお、低摩擦部材14を筒状部材13に対して、固定具あるいは接着材により強固に一体化しておくこともできる。また、摺動プレート21(低摩擦部材21C)と固定支承部10の低摩擦部材14との間での摺動により、減衰作用が行われることになり、このため実施形態では、可動床構造体1の周囲に対して減衰用のダンパを別途設けないものとなっている(別途減衰用のダンパを設けることも可能である)。
【0040】
ここで、特許文献1で開示されたような1つの摺動プレートからそれぞれ放射状に伸びる複数の支持部材を設ける場合に比して、固定支承部10を用いた場合は、構造そのものが簡単でありしかも安価ですむものである。具体的には、特許文献1の複数本の支持部材を用いる場合に比して、用いる金属材の重量で数分の1〜数十分の1ですみ、また高価な低摩擦部材を用いる面積範囲も数分の1〜数十分の1ですみ、コストの点では飛躍的に低減することが可能である。また、設置個数も少なくてすみ、極めて簡単かつすみやかに設置作業を完了させることができる。
【0041】
次に、可動床構造体1と固定床2との間に構成されるボーダパネル部分の構成について、
図9以下を参照しつつ説明する。まず、固定床2は、床スラブUに固定される縦横に等ピッチで配設された多数の支柱部材51と、支柱部材51の上部に固定された床プレート52とを有する。床プレート52は、方形とされて、縦横に並べて配設されて、その角部に相当する位置に支柱部材51が位置したものとなっている。
【0042】
図9、
図10に示すように、固定床2上に伸びるボーダパネル部4は、フレーム部材31と、当該フレーム部材31に固定された床プレート32とを有している。床プレート32は、可動床構造体1に用いた床プレート24と同じものである。そして、各床プレート32は、その角部において、フレーム部材31に固定されている(床プレート24の固定手法と同様の固定手法)。床プレート32の角部底面には、床プレート24と同様に係合凹部が形成され、この係合凹部に嵌合される係合突部31aがフレーム部材31の上面に形成されている(
図9参照)。可動床構造体1の床プレート24に対して、ボーダパネル部4の床プレート32が面一とされている。
【0043】
上記フレーム部材31は、例えば鉄系金属板を加工することにより閉断面状とされた断面方形のパイプ材を複数本(実施形態では3本)接合することにより極めて剛性の高いものとして構成されている。そして、フレーム部材31は、長尺に形成されている(例えば1600mm)。フレーム部材31は、床プレート24(32)の配設ピッチと同じピッチ間隔(床プレート24、32の1辺の長さ間隔)で複数本用いられている。各フレーム部材31の一端部は、可動床構造体1における端部側の支柱部材23(の受け部材23B)に連結、固定されている。フレーム部材31の他端部は、固定床2上にオーバラップするように伸びており、平常時でのオーバラップ量は、600mm程度と大きくされている。
【0044】
図12、
図13に示すように、フレーム部材31の下面には、上レール部材33が固定されている。上レール部材33は、下方に向けて開口されて断面コ字状とされて、フレーム部材31と同方向に長く伸びている。
【0045】
上記フレーム部材31(の上レール部材33)に対応して、固定床2(の床プレート52)上には、下レール部材53が固定されている(
図11、
図12参照)。下フレーム部材53は、上方に向けて開口された断面コ字状とされて、フレーム部材31(上レール部材33)と直交する方向に伸びている。
【0046】
上レール部材33と下レール部材53との交差位置において、支承ピン部材34が配設されている(
図11、
図13参照)。支承ピン部材34は、適宜の低摩擦部材により構成されており、実施形態ではポリアミドイミド樹脂により構成してある(より具体的には、東レ株式会社製の商品名TIポリマを使用)。低摩擦部材からなる支承ピン部材34は、各レール部材33、53に対して円滑に摺動できるようにされている。支承ピン部材34は、固定支承部10における低摩擦部材14を上下逆とした形態とされている(低摩擦部材14と共用)。つまり、支承ピン部材34の下面は、球面状の突面とされている。なお、支承ピン部材34の上面側が球面状の突面となるように配設してもよい。勿論、支承ピン部材34は、低摩擦部材13と共用することなく、別途専用の形状、大きさのものを用いてもよく、例えば上面および下面をそれぞれ球面状の突面とした形状とすることもできる。
【0047】
特に
図12に示すように、1本の上レール部材33に対して、1つの下レール部材53が対応づけられている。すなわち、1つの下レール部材53が複数の上レール部材33用として兼用しないものとなっている。そして、隣り合う2つの下レール部材53同士は、上レール部材33の長手方向に若干オフセットした位置に設定されている。
【0048】
上下のレール部材33、53は、大きな水平方向変位を吸収できるように、例えば1200mm程度の長尺とされているが、1本のアングル材を用いて、途中に継ぎ目を有しないようにされている。つまり、継ぎ目部分が存在すると、支承ピン部材34の円滑な摺動を妨げる原因となるが、このような継ぎ目を有しないようにするために、下レール部材53が複数の上レール部材33用として兼用しないものとしてある。
【0049】
なお、下レール部材53を、複数本のチャネル材を連結することにより、複数の上レール部材33を跨ぐように極めて長尺なものとして構成することもできる。この場合、支承ピン部材34の円滑が摺動が確保されるように、下レール部材53の継ぎ目部分を滑らかに仕上げ加工しておくのが好ましい。なお、より円滑な摺動が確保のために、各レール部材33、53の内面(支承ピン部材34が摺動される面)を低摩擦部材(テフロン(登録商標)、ナイロン、ポリアセタール等)によってコーティングしておくこともできる。
【0050】
ボーダパネル部4の先端部(室Sの側壁3に近い側の端部)には、例えばアルミニウム合金を押し出し形成してなるエッジモール部材35が取付けられている。
【0051】
上述したボーダパネル部4は、フレーム部材31と床プレート32とにより、剛性の優れたものとして構成されている。また、ボーダパネル部4は、固定床2にも支承されているため、ボーダパネル部4上に重量物の機器類を載置することが可能になっている。さらに、ボーダパネル部4は、フレーム部材31に床プレート32を固定したパネル構造であるため、剛性に優れるだけでなく、施工性のよいものとなる。
【0052】
可動床構造体1が水平方向に変位するのに伴って、ボーダパネル部4が固定床2上に対して相対変位される。ボーダパネル部4は、固定床2に対して600mm以上のオーバラップ量を有し、また室Sの側壁3に対しては500mm以上の隙間を有するように設定され、さらに可動床構造体1と固定床2との間隔は500mm以上となるように設定されている。これにより、可動床構造体1が、床スラブUに対して水平方向に大きく変位しても(例えば大地震のときの長周期振動を想定した半径500mmの変位量)、可動床構造体1と固定床2との間に隙間が形成されることなく、オーバラップ状態が維持されることになる。
【0053】
ここで、1600mmの長さを有するボーダパネル部4を、鉄板で構成した場合を想定する。この場合は、撓み変形防止のために相当に肉厚を大きくせざるを得ず、また側壁3に沿う方向に複数に分割形成したとしても、1枚の鉄板の重量が極めて大きくなって、その設置作業が重労働となる。また、鉄板により構成されたオーバラップ部分上に、重量物の機器類を設置することも難しいものとなる。
【0054】
以上実施形態について説明したが、本発明は、実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載された範囲において適宜の変更が可能である。固定支承部10は、高さ調整できないものであってもよい(互いに螺合される雄ネジ部材12と筒状部材13とに分割構成とすることなく、例えば1つの筒状部材で構成する)。勿論、本発明の目的は、明記されたものに限らず、実質的に好ましいあるいは利点として表現されたものを提供することをも暗黙的に含むものである。