(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6342722
(24)【登録日】2018年5月25日
(45)【発行日】2018年6月13日
(54)【発明の名称】微多孔膜のたるみ評価方法
(51)【国際特許分類】
G01B 21/20 20060101AFI20180604BHJP
【FI】
G01B21/20 A
G01B21/20 G
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-120579(P2014-120579)
(22)【出願日】2014年6月11日
(65)【公開番号】特開2016-1120(P2016-1120A)
(43)【公開日】2016年1月7日
【審査請求日】2017年4月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】村井 隆彦
【審査官】
八木 智規
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2011/24849(WO,A1)
【文献】
特開2012−189559(JP,A)
【文献】
特開昭53−43575(JP,A)
【文献】
特開2006−88255(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2005/89640(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 11/00−11/30
G01B 21/00−21/32
B65H 7/00− 7/20
B65H 43/00−43/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
微多孔膜がコアに捲回されてなる微多孔膜の捲回体から前記微多孔膜を水平方向に繰り出した際における当該微多孔膜のたるみを推定して評価する方法であって、
前記捲回体の外径を複数箇所にて測定し、
該測定により得られた外径値を用いた計算により、当該捲回体の断面形状を算出し、
前記捲回体の外径形状を、微小な厚みである円板状の複数の微小領域に分割し、これら微小領域を組み合わせた数理的なモデルで当該捲回体の外径形状を近似化してモデリングし、
前記捲回体から前記微多孔膜を繰り出したと模擬した場合に、前記微小領域に作用する張力fとひずみΔl/lとの関係を数式化し、
前記数式化した張力fと伸びΔlとの関係を、前記微小領域を組み合わせたモデルに組み合わせ、前記微多孔膜の全幅に作用する張力Fと、幅方向の各位置における伸びΔlとの関係を数式化し、
前記張力Fと伸びΔlの関係式を解き、前記微多孔膜のなかで、前記張力が作用して伸びる範囲と、前記張力が作用せずたるむ範囲とを算出し、
隣り合う2つの前記微小領域の繰り出し量を比較し、これら微小領域間に生じる領域間たるみ量を計算し、
前記領域間たるみ量の計算を、前記微多孔膜の全幅における前記微小領域の各区間において行い、得られた全区間の前記領域間たるみ量を積算して、当該微多孔膜の全幅でのたるみ形状を算出する
ことを特徴とする、微多孔膜のたるみ評価方法。
【請求項2】
前記捲回体から前記微多孔膜を繰り出したと模擬した場合に、張力による伸び範囲内において前記微多孔膜は弾性体として振る舞うとして取り扱う、請求項1に記載の微多孔膜のたるみ評価方法。
【請求項3】
前記微小領域に作用する張力fと伸びΔlとの関係を、数式(1)
【数1】
で表す、請求項2に記載の微多孔膜のたるみ評価方法。
【請求項4】
前記微多孔膜の全幅に作用する張力Fと、幅方向の各位置における伸びΔlとの関係を、数式(2)
【数2】
で表す、請求項1から3のいずれか一項に記載の微多孔膜のたるみ評価方法。
【請求項5】
前記領域間たるみ量を、直角三角形の組み合わせで近似したモデルを利用して表す、請求項1から4のいずれか一項に記載の微多孔膜のたるみ評価方法。
【請求項6】
前記直角三角形の組み合わせで近似したモデル中の最大たるみ量BCの長さを数式(3)
【数3】
により求める、請求項5に記載の微多孔膜のたるみ評価方法。
【請求項7】
前記直角三角形の組み合わせで近似したモデル中における、前記微多孔膜の実際のたるみ量に相当するCDの長さを、数式(4)
【数4】
により求める、請求項6に記載の微多孔膜のたるみ評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微多孔膜のたるみ評価方法に関する。さらに詳述すると、本発明は、捲回体から繰り出された微多孔膜のたるみを評価する方法の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
微多孔膜は、種々の物質の分離や選択透過分離膜、隔離材等として広く用いられており、その用途例としては、精密ろ過膜、燃料電池用、コンデンサー用セパレーター、あるいは機能材を孔の中に充填させ新たな機能を出現させるための機能膜の母材、電池用セパレーター等が挙げられる。このような微多孔膜を捲回体から繰り出す(巻き出す)とき、繰り出し位置がずれたり、繰り出した微多孔膜がばたついたりすることなく、一定の状態できれいに巻き出されて電極などと併せて捲回することができれば高い生産性の実現につながる。
【0003】
このような微多孔膜の捲回体においては、膜厚分布不良、収縮むら(斑)といった原因により外径が不均一となっていることがある。このような外径不均一な捲回体から微多孔膜を繰り出すと、巻き出し長の差異によって張力むらが発生し、不均一な膜のたるみ(弛み)が生じてしまうおそれがある(
図1参照)。このようなたるみを生じた製品では、需要者による塗工プロセス(セパレーターの耐熱性を向上させる目的で無機材料をセパレーターの表面に塗布する場合の当該工程のこと)において、いわゆる「抜け」といった塗工不良部位が発生する。このことから、微多孔膜の捲回体を出荷する前には、微多孔膜のたるみ評価によるスクリーニングを実施することが必須となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−88256号公報
【特許文献2】国際公開第2013/146585号
【特許文献3】国際公開第2011/024849号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、製品を対象にした現状の微多孔膜ゆるみ評価は、捲回体から微多孔膜を実際に数mほど繰り出して実施するというものであり、実際に繰り出されて評価に用いられた微多孔膜は、当然ながら製品から切り捨てられなければならず、無駄が生じる。
【0006】
また、このような現状の手法にて微多孔膜ゆるみ評価をするとなれば、全量検査を実施することは事実上困難である。そうすると、実際には抜き打ち検査のように母集団の中から標本を抽出し、これに確率分布や統計的推測といった手法を交えながら全体を評価せざるを得ない。
【0007】
また、従来用いられてきたたるみ試験機による測定では測定誤差が大きい。
【0008】
そこで、本発明は、評価する際に生じる無駄を省きつつ、全製品の検査に向き、尚かつ、測定誤差を減少させる、微多孔膜のたるみ評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる課題を解決するべく本発明者は種々の検討を行った結果、捲回体から微多孔膜を繰り出した際、当該微多孔膜に発生する不均一なたるみの原因は、捲回体外径の幅方向の差異によって生じる微多孔膜の繰り出し長の違いにあると考えられた。このことに着目してさらに検討を重ねた本発明者は、捲回体から微多孔膜を実際に繰り出して評価するという従来型の管理手法を、捲回体の外径値からのたるみ量計算による管理手法に置き換えていく、という観点から新たな知見を得るに至った。
【0010】
これについてより詳細に説明すると、微多孔膜の捲回体の外径が一律でなく、中心軸に沿った位置に応じて外径差が生じている場合、当該捲回体から微多孔膜を繰り出すと、外径の大きさの違いに応じて繰り出し量に違いが生じる(
図2参照)。このような現象を前提として考えてみると、従来は、出荷前の捲回体から微多孔膜を繰り出し、平行かつ同じ高さの2本のローラー上に微多孔膜を掛け渡し、たるみ発生部位を確認している(
図3参照)。このとき、微多孔膜の繰り出し端に荷重を作用させるため、外径が他よりも大きな部分(つまりは繰り出し長が他よりも長くなる部分)が引き出されることになり、その結果、たるみ発生部位にて発生しているたるみ量が過小評価されてしまう(
図3参照)。
【0011】
上述のような現象や問題点などに着目して検討を重ねた本発明者は、捲回体の外径値を用いてたるみの形状を推算することが可能であり、そこから微多孔膜のたるみ量を求めることが可能であるという新たな知見を得るに至った。
【0012】
本発明にかかる微多孔膜のたるみ評価方法はこのような知見に基づくものであり、微多孔膜がコアに捲回されてなる微多孔膜の捲回体から前記微多孔膜を水平方向に繰り出した際における当該微多孔膜のたるみを推定して評価する方法であって、
前記捲回体の外径を複数箇所にて測定し、
該測定により得られた外径値を用いた計算により、当該捲回体の断面形状を算出し、
前記捲回体の外径形状を、微小な厚みである円板状の複数の微小領域に分割し、これら微小領域を組み合わせた数理的なモデルで当該捲回体の外径形状を近似化してモデリングし、
前記捲回体から前記微多孔膜を繰り出したと模擬した場合に、前記微小領域に作用する張力fとひずみΔl/lとの関係を数式化し、
前記数式化した張力fと伸びΔlとの関係を、前記微小領域を組み合わせたモデルに組み合わせ、前記微多孔膜の全幅に作用する張力Fと、幅方向の各位置における伸びΔlとの関係を数式化し、
前記張力Fと伸びΔlの関係式を解き、前記微多孔膜のなかで、前記張力が作用して伸びる範囲と、前記張力が作用せずたるむ範囲とを算出し、
隣り合う2つの前記微小領域の繰り出し量を比較し、これら微小領域間に生じる領域間たるみ量を計算し、
前記領域間たるみ量の計算を、前記微多孔膜の全幅における前記微小領域の各区間において行い、得られた全区間の前記領域間たるみ量を積算して、当該微多孔膜の全幅でのたるみ形状を算出する
ことを特徴とする。
【0013】
微多孔膜の捲回体の外径が一律でなく、中心軸に沿った位置に応じて外径差が生じている場合、当該捲回体から微多孔膜を繰り出すと、外径の大きさの違いに応じて繰り出し量に違いが生じる(
図2参照)。このような現象を前提として考えた場合に、このたるみ評価方法によれば、捲回体の外径値を測定するだけで、当該捲回体から微多孔膜を繰り出さずとも、微多孔膜を繰り出したとした場合のたるみを評価することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、印刷版の現像処理時に当該印刷版の表面に不純物が付着するのをさらに抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】(A)外径が不均一な捲回体から微多孔膜を繰り出した様子を示す平面図と、(B)当該繰り出された微多孔膜における膜幅(幅方向位置)と張力の関係の一例を表すグラフである。
【
図2】外径差を有する捲回体と、該捲回体から繰り出された微多孔膜の一例を説明する図である。
【
図3】従来の微多孔膜たるみ検査の一例を概略的に示す斜視図である。
【
図4】捲回体の外径差がある部分の概略を示す図である。
【
図5】繰り出された微多孔のたるみ部分の概略を示す、微多孔膜の繰り出し方向正面から見た図である。
【
図6】捲回体から繰り出された微多孔膜のたるみ部分の断面形状について示す斜視図である。
【
図7】外径差を有する捲回体および該捲回体から繰り出された微多孔膜を示す概略図である。
【
図8】微多孔膜を、微小な厚みである円板状の複数の微小領域に分割する概念について示す図である。
【
図9】微小領域に作用する力、これによる伸び等について説明する図である。
【
図10】複数の微小領域の一部に張力が作用している微多孔膜の伸びあるいはたるみについて説明する図である。
【
図11】各微小領域における伸び量あるいは余り量について説明する図である。
【
図12】微多孔膜の微小領域におけるたるみ形状を、直角三角形の組み合わせで近似したモデルを斜視で示した図である。
【
図13】実際のたるみ量について説明する図である。
【
図14】領域間たるみ量の計算を、微多孔膜の全幅における微小領域の各区間において実施する際の概念を示す図で、(A)各微小領域における伸び量あるいは余り量、(B)局所的なたるみ量を積分して得られた微多孔膜のたるみ形状である。
【
図15】捲回体の外径値を実測した結果の一例を示すグラフである。
【
図16】微多孔膜のたるみ評価方法によって得られたたるみ形状計算値と、レーザースキャンによってたるみ形状を実測したデータとを比較しつつ示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の構成を図面に示す実施の形態の一例に基づいて詳細に説明する。
【0017】
本発明に係る微多孔膜3のたるみ評価方法は、微多孔膜3がコア2に捲回されてなる微多孔膜3の捲回体1から微多孔膜3を水平方向に繰り出した際における当該微多孔膜3のたるみを推定して評価するというものである。
【0018】
なお、以下においては、便宜上、微多孔膜3の幅方向(換言すれば、捲回体1の中心軸1cに平行な方向)を「TD」、捲回体1から微多孔膜3を繰り出すときの繰り出し方向を「MD」と称する(
図11等参照)。また、本明細書で用いる記号について説明しておくと以下のとおりである。
図6等における符号9はローラーを示す。
F:微多孔膜(フィルム)全幅の張力[kg]
f:微小領域(微小区間)に作用する張力[kg]
E:MD方向の弾性率[kg/cm
2]
t:厚み[cm]
w:幅[cm]
Δx:微小領域(微小区間)の幅[cm]
l:微多孔膜の繰り出し長[cm]
Δl:伸び[cm]
【0019】
<たるみ評価のプロファイルの算出>
捲回体1から微多孔膜3を繰り出した際、繰り出された微多孔膜3の中央部分をMDに垂直な面で切った際の断面形状を本明細書では「プロファイル」と呼び、図中において符号3Sで示す(
図6参照)。
【0020】
既に説明したように、微多孔膜3の捲回体1においては、膜厚分布不良、収縮むら(斑)といった原因により外径が不均一となっていることがあり、このような外径不均一な捲回体1から微多孔膜3を繰り出すと、巻き出し長の差異によって張力むらが発生し、不均一な膜のたるみ(弛み)が生じる可能性がある(
図1参照)。したがって、別言すれば、微多孔膜3の繰り出し時に生じるたるみの原因は、捲回体の外径の幅方向の差異によって生じる微多孔膜(フィルム)3の繰出し長の違いにある。この点に着目した本実施形態では、捲回体1の外径値を用いてたるみの形状を推算する。
【0021】
<たるみ評価のプロファイル算出における考え方>
捲回体1から微多孔膜3を仮に2m繰り出した場合の膜端部の懸垂曲線(
図5中において下向き斜めに垂れている部分)を直線で近似する。たるみ状態の二等辺三角形の底辺の長さをD、底角から対辺へ下ろした垂線(たるみ)の高さをy、たるみ幅をWdとすると(
図4、
図5参照)、長さD、高さyはそれぞれ以下の数式(5)、数式(6)によって求められる。ただし、aはたるみ部分の外径勾配a(外径差の1/2をΔRとすると、外径勾配a=ΔR/Wd)、Rは基準外径(基準となる外径であって、外径差が0となるもの)の1/2を表す。
【数1】
【数2】
【0022】
<たるみ評価のプロファイルの算出方法>
<ステップ1>
従来行われてきたたるみ試験機による測定では測定誤差が大きいことから、本実施形態では、捲回体1の外径値を用いた計算によって、たるみの断面形状(上述のプロファイル3Sと同義)を算出する(
図6参照)。具体的には、捲回体1の外径を複数箇所にて測定し、該測定により得られた外径値を用いた以下のごとき計算により、当該捲回体1に捲回されている最外周の微多孔膜3の断面形状(プロファイル3S)を算出する。
【0023】
<ステップ2>
ここで、
図7に示すような外径差を有する捲回体1から微多孔膜3を繰り出すと、外径差の違いに応じて繰り出し量に違いが生じる(
図7参照)。
【0024】
<ステップ3>
ただし、実際の捲回体1は
図7に示したような単純な形状ではないため、計算を簡便化するため、微小な厚みである円板状の複数の微小領域に分割する(
図8参照)。なお、
図8等において、複数の微小領域をまとめて符号4で表す。また、端の微小領域から順に通し番号を付し、それぞれエリア1、エリア2、・・・と呼ぶことにする(
図11等参照)。これら複数の微小領域4は、
図8上においては長方形に見える。これら分割された複数の円板状微小領域4の組み合わせ、数理的なモデルを構築することにより、捲回体1の外側の形状を近似化してモデル化(モデリング)したもの(
図8参照。以下、「外径形状」と呼ぶ)を得る。
【0025】
<ステップ4>
上述したステップ3のようなモデル化を行うことで、捲回体1の幅方向の任意の位置における微多孔膜3の繰り出し量が計算可能となる。
【0026】
<ステップ5>
捲回体1から微多孔膜3を繰り出したと模擬した場合に、張力による伸び範囲内において微多孔膜3は弾性体として振る舞うとして取り扱うとする。そうすると、微小領域4に掛かる張力fと、この張力fによる当該微小領域4のひずみΔl/lとの関係は、下記数式(1)で表される(
図9参照)。なお、記号lは微小領域4の長さ、記号Δlは張力fが作用した際の当該微小領域の伸びを示す。
【数3】
【0027】
<ステップ6>
次に、ステップ3で説明した複数の円板状微小領域による近似化と組み合わせる、すなわち、微小領域4に作用する力を、近似化した捲回体1の全体(
図8中、向かって右側に示すモデリング後の微小領域4を参照)に作用する力に結び付ける(換言すれば、近似化した捲回体1の全体に作用する力を微小領域4に作用する力の和で表す)ことで、捲回体1の前幅(前縁)に作用する張力Fと幅方向の位置mにおける伸びΔl
mの関係は、下記数式(2)で表される(
図10参照)。
【数4】
【0028】
<ステップ7>
上記の数式(2)を解き、Δl
m>0となる領域が、張力Fが作用することによって微多孔膜3が伸びる範囲(引っ張られている範囲)であり、その他の領域がたるむ部分となる。このように張力Fと伸びΔlの関係式を解くことにより、微多孔膜3のなかで、張力が作用して伸びる範囲と、張力が作用せずたるむ範囲とを算出することができる。
【0029】
<ステップ8>
次に、隣り合う2つの微小領域(一例として、エリア3とエリア4)の繰り出し量を比較することで、これら微小領域間に生じるたるみ量(領域間たるみ量)を計算する(
図11参照)。ここで、たるみ形状は、
図12に示すような直角三角形の組み合わせたモデルで近似することとする(
図12参照)。近似モデル中での最大のたるみ量となる線分BCの長さは、下記数式(3)で表される。なお、隣り合う2つの微小領域の繰り出し長さのうち、長いほうをL
L、短いほうをL
Sとしている。
【数5】
【0030】
<ステップ9>
微小区間ABのたるみについて考えると、当該たるみは、点Aを中心として発生する(点Aを中心として、点Bが点Cまで下がるようにたるむ)ことから、実際のたるみ量は、点Cから線分ABへおろした垂線の長さということになる(
図13参照)。この垂線の足を点Dとおくと、線分CDの長さ(すなわち点Cから線分ABへおろした垂線の長さ)は下記数式(4)で表される。
【数6】
【0031】
<ステップ10>
上記数式(4)で実施した計算(領域間たるみ量の計算)を、微多孔膜3の全幅における微小領域の各区間において実施し、得られた全区間の領域間たるみ量を積算する。こうすることにより、当該微多孔膜3の全幅でのたるみ形状を算出することができる(
図14参照)。このように、微小領域ごとの局所的なたるみ量を積算することで、全体の形状(繰り出した微多孔膜3の断面形状(プロファイル3S))を算出することができる。
【0032】
<たるみ評価方法の利点>
微多孔膜3の捲回体1の外径が一律でなく、中心軸1c(
図2参照)に沿った位置に応じて外径差が生じている場合、当該捲回体1から微多孔膜3を繰り出すと、外径の大きさの違いに応じて繰り出し量に違いが生じるのは既に説明したとおりである(
図2参照)。このような現象を前提として考えた場合に、上述したごとき本実施形態のたるみ評価方法によれば、捲回体1から微多孔膜3を繰り出さずとも、捲回体1の外径を測定して得られた外径値を利用することによって、微多孔膜3を繰り出した場合のたるみ断面形状(プロファイル3S)を算出し、当該たるみを評価することが可能である。
【実施例1】
【0033】
捲回体1の外径値を複数箇所にて測定した結果の一例を示す(
図15参照)。
【実施例2】
【0034】
実施例1にて得られた外径値の測定結果を用い、上述した実施形態で説明した微多孔膜3のたるみ評価方法によって、微多孔膜3のたるみ形状計算値を得た。また、レーザースキャンによってたるみ形状を実測したデータを得た。その後、たるみ形状計算値と実測データとを比較した(
図16参照)。なお、
図16において、縦軸の「たるみ量」が−(マイナス)であることは微多孔膜3がたるんでいる状態(余っている状態)を示し、+(プラス)であることはたるんでいない状態(張っている状態)を示している。
【0035】
比較した結果、微多孔膜3のたるみ評価方法により得られたたるみ形状計算値は、実際のたるみ形状と非常に近似した値であることがわかった(
図16参照)。このことから、本発明に係る微多孔膜3のたるみ評価方法は、評価する際に生じる無駄を省きつつ微多孔膜3のたるみを評価しうるものであることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、微多孔膜がコアに捲回されてなる微多孔膜の捲回体から微多孔膜を水平方向に繰り出した際における当該微多孔膜のたるみを評価する場合に適用して好適である。
【符号の説明】
【0037】
1…捲回体
1c…(捲回体の)中心軸
2…コア
3…微多孔膜
3S…プロファイル(微多孔膜のたるみの断面形状)
4…(分割された)微小領域
R…捲回体の外径値