特許第6342785号(P6342785)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6342785化学兵器用化学剤の無害化装置および無害化処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6342785
(24)【登録日】2018年5月25日
(45)【発行日】2018年6月13日
(54)【発明の名称】化学兵器用化学剤の無害化装置および無害化処理方法
(51)【国際特許分類】
   F42B 33/06 20060101AFI20180604BHJP
   F42D 5/04 20060101ALI20180604BHJP
【FI】
   F42B33/06
   F42D5/04
【請求項の数】10
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-245527(P2014-245527)
(22)【出願日】2014年12月4日
(65)【公開番号】特開2016-109335(P2016-109335A)
(43)【公開日】2016年6月20日
【審査請求日】2016年9月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100067828
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 悦司
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100162765
【弁理士】
【氏名又は名称】宇佐美 綾
(72)【発明者】
【氏名】栗山 歩
(72)【発明者】
【氏名】山口 憲治
(72)【発明者】
【氏名】片山 昌人
(72)【発明者】
【氏名】岩田 俊雄
【審査官】 伊藤 秀行
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−199236(JP,A)
【文献】 特開2007−075740(JP,A)
【文献】 特開2008−215652(JP,A)
【文献】 特開2010−089024(JP,A)
【文献】 特開昭56−010685(JP,A)
【文献】 特開2007−309550(JP,A)
【文献】 特開2003−117538(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F42B 33/06
F42D 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
不活性ガスによって酸素濃度5%以下に雰囲気制御され、かつ、加熱処理温度が550〜600℃である加熱炉と、
前記加熱炉からの排ガスを処理するガス処理装置とを備える、化学兵器を爆破で処理した後の残渣に残留している化学兵器用化学剤の無害化装置。
【請求項2】
さらに、前記加熱炉から引き抜いた排ガスの一部を再び加熱炉へ戻すための装置を備える、請求項1に記載の化学兵器用化学剤の無害化装置。
【請求項3】
前記加熱炉が電気炉である、請求項1または2に記載の化学兵器用化学剤の無害化装置。
【請求項4】
前記不活性ガスが窒素ガスである、請求項1〜3のいずれかに記載の化学兵器用化学剤の無害化装置。
【請求項5】
前記ガス処理装置が、冷却装置、加熱装置及びフィルタからなる群から選択される少なくとも一つである、請求項1〜4のいずれかに記載の化学兵器用化学剤の無害化装置。
【請求項6】
さらに、前記加熱炉から引き抜いた排ガスの一部を貯留する貯留タンクを備える、請求項1〜5のいずれかに記載の化学兵器用化学剤の無害化装置。
【請求項7】
加熱炉において、不活性ガスによって酸素濃度5%以下に雰囲気制御し、550〜600℃の温度で加熱処理を行い、
前記加熱炉からの排ガスを処理することを特徴とする、化学兵器を爆破で処理した後の残渣に残留している化学兵器用化学剤を無害化する方法。
【請求項8】
系内を負圧に保ちながら処理を行う、請求項7記載の化学兵器用化学剤を無害化する方法。
【請求項9】
排ガスを処理する際に、当該処理におけるフィルタの逆洗浄に不活性ガスを用いる、請求項7または8に記載の化学兵器用化学剤を無害化する方法。
【請求項10】
循環流量の調整により炉内圧力を調整する、請求項7〜9のいずれかに記載の化学兵器用化学剤を無害化する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、雰囲気制御式加熱炉を用いた、化学兵器用化学剤の無害化装置および無害化処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化学兵器等に用いられる軍事用の爆発物は、その構成として、鋼製の弾殻の内部に、炸薬と、人体に有害な物質とが充填されたものが知られている。その有害物質の例としては、人体に有害なマスタードやルイサイト等の化学剤が挙げられる。
【0003】
このような爆発物を処理(例えば無害化処理)するための方法として、爆破による処理方法が知られている。このような爆破による軍事用弾薬の処理方法は、解体作業を要しないことから、保存状態が良好な弾薬のみならず、経年劣化・変形などにより解体が困難になった弾薬の処理にも適用可能であり、また、爆発に基づく超高温・超高圧によって有害物質のほとんど全てを分解できる利点がある。
【0004】
具体的には、例えば、耐圧容器で爆破処理を行い、それにより生成されたオフガスを燃焼炉で処理し、燃焼後のオフガスを貯留タンクに貯留して、処理不全の場合耐圧容器または燃焼炉に戻して再度処理するシステム及び処理方法が報告されている(特許文献1)。
【0005】
しかし、上述したような爆破処理後に残った爆破残渣(弾ガラ及びダスト)にも、微量ながら化学剤が残留している、或いは、残留している可能性がある。そして、化学兵器等の残渣の最終処分は、化学剤を完全に分解あるいは除去した上で、ヒ素含有廃棄物として処分される必要がある。
【0006】
一方、汚染土壌中の化学剤由来の有害物質を除去する方法についてはこれまでも検討・報告されている(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−309550号公報
【特許文献2】特開2005−199236号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献2では、バーナーで加熱を行うロータリキルンを用い、酸素含有ガスを供給しないで加熱処理することで、汚染土壌中の化学剤由来のヒ素を除去する装置が報告されている。しかし、前記技術は、土壌における、ルイサイト、ジフェニルシアノアルシン(DC)、ジフェニルクロロアルミン(DA)由来のヒ素による汚染を無害化する方法であり、ヒ素については、排ガス中に移行させるプロセスが開示されている。
【0009】
しかしながら、化学兵器における残渣は大量にヒ素を含有することも多いため、残渣中にヒ素を残したまま他にヒ素を移行させないように更なる処理を行い、残渣に残留する化学剤を確実に除去するための設備が所望されている。
【0010】
本発明は前記の点に鑑みてなされたものであり、雰囲気制御式加熱炉を用いて、化学兵器用化学剤を確実に無害化する装置および処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するために、本発明者は鋭意検討を重ね、下記構成の方法によって上記課題が解決し得ることを見出した。
【0012】
すなわち、本発明の一局面に係る化学兵器用化学剤の無害化装置は、不活性ガスによって酸素濃度5%以下に雰囲気制御され、かつ、加熱処理温度が550〜700℃である加熱炉と、前記加熱炉からの排ガスを処理するガス処理装置とを備えることを特徴とする。
【0013】
さらに、前記無害化装置が、前記加熱炉から引き抜いた排ガスの一部を再び加熱炉へ戻すための装置を備えることが好ましい。
【0014】
また、前記無害化装置において、前記加熱炉が電気炉であることが好ましい。
【0015】
さらに、前記無害化装置において、前記不活性ガスが窒素ガスであることが好ましい。
【0016】
また、前記ガス処理装置が、冷却装置、加熱装置及びフィルタからなる群から選択される少なくとも一つであることが好ましい。
【0017】
さらに、前記無害化装置が、前記加熱炉から引き抜いた排ガスの一部を貯留する貯留タンクを備えることが好ましい。
【0018】
また、本発明の他の局面に係る化学兵器用化学剤を無害化する方法は、加熱炉において、不活性ガスによって酸素濃度5%以下に雰囲気制御し、550〜700℃の温度で加熱処理を行い、前記加熱炉からの排ガスを処理することを特徴とする。
【0019】
さらに、上記化学兵器用化学剤を無害化する方法において、系内を負圧に保ちながら処理を行うことが好ましい。
【0020】
さらに、上記化学兵器用化学剤を無害化する方法において、排ガスを処理する際に、当該処理におけるフィルタの逆洗浄に不活性ガスを用いることが好ましい。
【0021】
さらに、上記化学兵器用化学剤を無害化する方法において、循環流量の調整により炉内圧力を調整することが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明の化学兵器用化学剤の無害化装置によれば、化学剤の付着した残渣(金属片など)から化学剤を確実に(高いレベルで)、かつ安全に分解・除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】化学兵器を制御爆破処理した後に残る爆破残渣を表した写真である。
図2】本発明に係る化学兵器用化学剤の無害化処理装置の一実施態様を示す概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明に係る化学兵器用化学剤を無害化する装置の実施形態について具体的に説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0025】
本実施形態に係る化学兵器用化学剤の無害化装置は、不活性ガスによって酸素濃度5%以下に雰囲気制御され、かつ、加熱処理温度が550〜700℃である加熱炉と、前記加熱炉からの排ガスを処理するガス処理装置とを備えることを特徴とする。
【0026】
本実施形態において、処理対象である化学兵器用化学剤とは、化学兵器を爆破等で処理した後の残渣や、化学剤を保管していた容器や化学兵器を分解した後の分解物に残留している化学兵器用の化学剤をいう。
【0027】
特に爆破残渣とは、化学兵器を爆破処理した後に残る残渣のことであり、図1に示すように主に弾ガラとダストに分類される。弾ガラとは、化学弾、有毒発煙筒の殻の破片であり、主に鉄からなる。また、ダストとは、制御爆破処理時に発生したダストであり、主に鉄粉、煤、塩などが混合した微細粒子からなる。
【0028】
化学兵器用の化学剤とは、主に「化学兵器禁止条約において規定されている物質」を指し、本実施形態において対象とする主な物質は以下の通りである。
−HD(マスタード)、L(ルイサイト)
−DC(ジフェニルシアノアルシン)、DA(ジフェニルクロロアルシン)
−CN(クロロアセトフェノン)
これらはいずれも人体に有毒であり、爆破残渣や分解残渣等の化学兵器の残渣や化学兵器用化学剤の保管容器などを廃棄するにあたり、これら化学剤を確実に分解・除去する必要がある。また、これら化学剤の漏洩がないように、無害化装置は安全かつ安定的に処理を行うものでなければならない。
【0029】
本実施形態の無害化装置は、上述したように、加熱炉と排ガス処理装置を必須の構成として備え、それ以外の設備は特に限定はされない。具体的には、例えば、基本構成として、(1)加熱炉および加熱炉内に加熱炉および加熱炉内に不活性ガスを供給するための一連の装置及び配管からなる構成、(2)加熱炉から引き抜いた排ガスを再び加熱炉に戻すための一連の装置及び配管からなる構成(ガスのパージ量と引き抜き量を制御するための構成を含む)、(3)加熱炉からの排ガスを急冷するとともに、化学剤、その他の物質及び水分を除去するための一連の装置及び配管からなる構成を含んでいてもよい。
【0030】
より具体的な装置の例示としては、例えば、図2に概略説明図に示すように、上記(1)の構成として、加熱炉1;上記(2)の構成として循環ブロワ3、排ガスコンプレッサ4及びガス貯留タンク5;上記(3)の構成として、ガス冷却器21、コールドトラップ22、ラインヒータ23及びバグフィルタ24等を備えた装置が挙げられる。
【0031】
以下に、各構成について詳しく説明する。
【0032】
(1)加熱炉および加熱炉内に不活性ガスを供給するための一連の装置及び配管について
まず、有害な化学剤の処理においては、安全に、かつ安定的に処理することが求められるが、本実施形態では、加熱炉1を用いて加熱処理を行うことで、安全に、かつ安定的に処理することができる。
【0033】
つまり、本実施形態の加熱炉であれば、系内を負圧に保つこと(圧力変動を抑えられることも期待できる)、温度や保持時間を確保すること、非常時にも安全に停止し、化学剤を系内に留めることができる。これらの特徴は、従来の燃焼処理で発揮するのは難しいと考えられる。例えば、温度・保持時間を確保するためには、キルンなど設備が非常に大きくなる可能性が高い。また、非常停止時にガスを系内に留める点においても燃焼処理では不利となる。そもそも、処理対象物が残渣(金属片など)であるため、直接燃焼処理は採用できない。
【0034】
本実施形態の加熱炉においては、不活性ガスを使用して炉内雰囲気制御を行うことで、加熱炉内での燃焼を防ぎ、圧力変動をより抑える効果を期待できる。炉内の酸素濃度は5%以下であり、さらに3%以下程度にまで制御されていることがより望ましい。酸素濃度が5%を超えると、炉内で燃焼が起こる可能性がある。
【0035】
また、本実施形態の加熱炉における加熱処理は温度550〜700℃で行う。より好ましくは、580〜600℃で加熱処理を行う。この加熱温度の保持時間については、残留化学剤の処理量によって適宜調節することができるが、例えば、1バッチ400kgの爆破残渣を処理する場合、1時間以上保持することが好ましい。なお、この保持時間は加熱炉内の温度が所望する温度(例えば、550℃)に達してからの時間である。
【0036】
上記のように温度や処理(保持)時間を適宜調整することで、対象物を撹拌しなくても処理が可能となり、系内でのダスト飛散量を抑えることができる。
【0037】
上記加熱炉としては、例えば、炉内に設置されたヒーター等によって加熱を行う電気炉であることが好ましい。特に、バッチ式の電気炉であることが、雰囲気制御の点から好ましい。
【0038】
本実施形態の加熱炉には、不活性ガスを供給するための配管が備えられている。炉内に供給される不活性ガスは特に限定されないが、例えば、窒素ガスを用いることができる。さらに、炉内に不活性ガスを緩やかに撹拌するファンなどが備えられていることが好ましい。それにより、炉内の温度を均一にし、対象物の置き場所によらず一様に目標温度にすることができる。
【0039】
上述したような本実施形態の雰囲気制御式加熱炉の利点を以下にまとめる:
・処理対象物やその熱分解生成物が炉内で燃焼することを防止することができる。これによって、炉内の圧力変動を小さく抑えることができる。また、温度やガス成分を一定に保ち易くなり、安定した処理を実現できる。
・燃焼を防止することにより、設定した温度や時間で炉内を保持することが容易となり、目標とする条件どおりに処理可能である。また、対象物や含まれる化学剤の性状に応じて最適な処理条件に変更することも容易となる。
・化学兵器に充填される化学剤には、L(ルイサイト:化学式CAsCl)、CN(ジフェニルシアノアルシン:化学式C1310AsN)、CA(ジフェニルクロロアルシン:化学式C1210AsCl)のようにヒ素を含むものがあり、制御爆破処理では還元性雰囲気で化学剤が分解されるため、爆破残渣にはそれらに由来する単体ヒ素(昇華点615℃)が存在する。これに対し、不活性ガスを使用して炉内雰囲気制御を行うことにより、三酸化二ヒ素(沸点465℃、単体ヒ素よりガス化しやすい)の生成を防止できる。これにより、装置後段設備へのヒ素移行、ひいてはヒ素汚染物の発生を低減することができる。
・万一の不具合発生時にも、不活性ガスによるパージを継続しつつ加熱を停止することにより、温度や圧力が制御不能に陥ることなく系内に処理ガスをとどめたまま容易に処理を一時中断することができる。
【0040】
このような加熱炉で加熱処理された残渣が残留化学剤濃度等において、各国で設けられている処理基準を満たせば処理後の残渣を廃棄することができるようになる。
【0041】
(2)加熱炉から引き抜いた排ガスを再び加熱炉に戻すための一連の装置及び配管について
上述の加熱炉から引き抜かれた不活性ガスについては、そのまま系外に放出することはできないため、燃焼処理やフィルタ等により最終処理をする必要がある。そのため、排ガス処理量の削減及び排ガス処理時間を短縮することで、最終処理の負担を軽減できるメリットがある。
【0042】
加熱炉においては、不活性ガスのパージ量及びガスの引き抜き量を多くすることで、化学剤成分の除去効果は上昇するが、同時に排ガス処理量が増加することになる。これについて、加熱炉から引抜いた不活性ガスから、化学剤その他の成分を除去し、再び加熱炉内に戻すことにより、化学剤除去の効果を保ちながら、排ガス処理量を減少させることができる。
【0043】
よって、本実施形態の無害化装置は、加熱炉から引き抜いた排ガスを再び加熱炉に戻すための装置を備えていることが好ましい。不活性ガスの引き抜き量と循環量を調整し、炉内の圧力変動を抑える装置及び配管としては、具体的には、例えば、排ガスを循環するためのブロワ(循環ブロワ)や排ガスを圧縮するためのコンプレッサ(排ガスコンプレッサ)等が挙げられる。
【0044】
加熱炉から引き抜かれたガスは、一部、加熱炉に戻され、一部、後段排ガス処理設備に送られる。加熱炉へ戻すガス量は、不活性ガスのパージ量や加熱炉内の圧力等の状況によって適宜調整することができる。通常、加熱炉内の空気滞留時間を30分程度(1時間に2回、加熱炉内のガスを入れ替える量換気する)とする程度が好ましい。
【0045】
ガスの循環流量については、増加させることで処理能力向上が期待できるが、後述の(3)におけるフィルタなどへの負荷増加や、炉を冷却してしまうなど望ましくない効果もある。なお、炉内の圧力が低下した場合には、不活性ガス供給量を増加し、炉内の過負圧を防止することができる。
【0046】
引き抜かれたガスの一部を後段排ガス処理設備に送る前に、例えば、排ガスコンプレッサ4で圧縮した後、排ガスの一時貯留を行ってもよい。つまり、循環させない余剰の排ガスはガス貯留タンク5等に一時貯留した上で、後段の排ガス処理設備に送り処理を行うことができる。このように一時貯留することによって、後段の排ガス処理設備の処理能力を考慮して、処理能力の範囲内で徐々に排ガス処理を行う、または、一度にまとめて排ガス処理を行ったりと、最終処理における調整を容易に行えるようになる。これは、排ガス処理設備においてトラブルが発生した際に、安全に処理を中断できる点で有利である。
【0047】
化学兵器処理においては、化学剤を含有する排ガスの高温での二次燃焼等の処理が求められる上に、化学兵器処理施設では周辺環境への化学剤排出がないことを厳しく監視、管理する必要がある。そのため、上述したように、排ガス発生量を抑えることや、二次燃焼等による処理の時間を限定することで、燃料費や汚染管理にかかる負担を低減できる。
【0048】
(3)加熱炉からの排ガスを急冷するとともに、化学剤、その他の物質及び水分を除去するための一連の装置(排ガス処理装置)及び配管について
本実施形態の無害化装置は、排ガス処理装置として、前記加熱炉から引き抜いた不活性ガス中から、化学剤やその分解物、水分などを除去する装置が備えられている。蒸気圧などの関係を考慮すれば、引き抜いた排ガス(不活性ガス)からこれらの物質を取り除いた上で加熱炉に戻すことで、処理対象物から化学剤等を除去する効果をより高められる。
【0049】
具体的な排ガス処理装置としては、例えば、冷却装置、加熱装置及びフィルタ等から選択される少なくとも1種が挙げられる。より具体的には、冷却装置としては例えばガス冷却器、コールドトラップ、加熱装置としては例えばラインヒータ、フィルタとしては例えばバグフィルタ、などが挙げられる。これらの排ガス処理装置は、1種または2種以上を組み合わせて、例えば、図2に示すような装置の加熱炉1と循環ブロワ3(不活性ガスの引き抜き量と循環量を調整し、炉内の圧力変動を抑える装置)との間に設けることができる。
【0050】
上述したような化学剤を不活性ガスから除去する装置(フィルタ)は、標的とする化学剤成分に基づいて適宜選択して使用することが好ましい。例えば、コールドトラップは塩素成分に対する除去効果が高く、また、粘着性の有機物成分が多い場合等はスポンジ状のラフフィルタなども使用すると有効である。バグフィルタを用いる場合は、逆洗浄のため、図2に示すように、不活性ガスをフィルタに供給する。これにより、系内の低い酸素濃度を維持することが可能となる。
【0051】
排ガス処理を行った後、排ガス(不活性ガス)は、循環ブロワ3によって、一部は加熱炉に戻されるが、残りは後段の排ガス処理設備に送られ、さらに処理された後に廃棄される。ここでいう後段の排ガス処理設備とは、例えば、二次燃焼炉、オキシダイザー等が挙げられる。
【0052】
なお、さらに本発明には、上記無害化装置を用いて、加熱炉において、不活性ガスによって酸素濃度5%以下に雰囲気制御し、550〜700℃の温度で加熱処理を行い、前記加熱炉からの排ガスを処理することを特徴とする、化学兵器用化学剤を無害化する方法も包含される。
【0053】
本実施形態における化学兵器用化学剤を無害化する方法は、上述した本発明の無害化装置における特性を全て備えており、同様の効果を発揮する。
【0054】
以上説明したように、本発明の一局面に係る、化学兵器用化学剤の無害化装置は、不活性ガスによって酸素濃度5%以下に雰囲気制御され、かつ、加熱処理温度が550〜700℃である加熱炉と、前記加熱炉からの排ガスを処理するガス処理装置とを備えることを特徴とする。
【0055】
このような構成により、化学剤の付着した残渣から化学剤を確実に(高いレベルで)、かつ安全に分解・除去することができる。
【0056】
さらに、前記無害化装置が、前記加熱炉から引き抜いた排ガスの一部を再び加熱炉へ戻すための装置を備えることが好ましい。
【0057】
このような構成により、排ガス処理量の削減及び排ガス処理時間を短縮し、最終処理の負担を軽減できるメリットがある。
【0058】
また、前記無害化装置において、前記加熱炉が電気炉であることが好ましい。それにより、設定温度や設定時間で処理温度と保持時間を制御できるため、目標とする条件どおりに処理可能である。また、万一の不具合発生時にも、不活性ガスによるパージを継続しつつ加熱を停止することにより、温度や圧力が制御不能に陥ることなく系内に処理ガスをとどめたまま容易に処理を一時中断することができる。
【0059】
さらに、前記無害化装置において、前記不活性ガスが窒素ガスであることが好ましい。それにより、コストが安くなる、調達し易いという利点がある。
【0060】
また、前記ガス処理装置が、冷却装置、加熱装置及びフィルタからなる群から選択される少なくとも一つであることが好ましい。それにより、上記効果をより確実に得ることができる。
【0061】
さらに、前記無害化装置が、前記加熱炉から引き抜いた排ガスの一部を貯留する貯留タンクを備えることが好ましい。このような構成によって、最終処理におけるガス量の調整を容易に行えるようになる。
【0062】
また、本発明の他の局面に係る化学兵器用化学剤を無害化する方法は、加熱炉において、不活性ガスによって酸素濃度5%以下に雰囲気制御し、550〜700℃の温度で加熱処理を行い、前記加熱炉からの排ガスを処理することを特徴とする。
【0063】
さらに、上記化学兵器用化学剤を無害化する方法において、系内を負圧に保ちながら処理を行うことが好ましい。それにより、万一、機器の密封を保てなくなった場合にも、系外から系内への大気侵入に留めることができる。という利点がある。
【0064】
さらに、上記化学兵器用化学剤を無害化する方法において、排ガスを処理する際に、当該処理におけるフィルタの逆洗浄に不活性ガスを用いることが好ましい。それにより、雰囲気制御の効果をより高めることができる。
【0065】
さらに、上記化学兵器用化学剤を無害化する方法において、循環流量の調整により炉内圧力を調整することが好ましい。それにより、排ガスの発生量を抑えるという利点がある。
【0066】
以下に、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0067】
本発明の効果を以下の実験によって確認した。本実施例では、図2に示すような、加熱炉1、循環ブロワ3、排ガスコンプレッサ4及びガス貯留タンク5、ガス冷却器21、コールドトラップ22、ラインヒータ23及びバグフィルタ24を備えた無害化装置を用いた。
【0068】
まず、処理対象である、化学兵器の爆破残渣(弾ガラ及びダスト)400kgを電気加熱炉に入れ、窒素(不活性ガス)を炉内に供給して酸素濃度を3%程度とした上で、600℃まで加熱しその温度で1時間保持した。
【0069】
次に、その加熱処理後、循環流量3Nm/h、および引き抜き量(後段排ガス処理設備へ送られる量)1.5〜2Nm/hとして窒素ガスを循環させ、排ガス処理を行った。
【0070】
そして、処理後の爆破残渣を電気炉から取り出して、そこに含まれる各化学剤成分の濃度を、ダストのサンプリング及び分析(抽出―(誘導体化)―GC/MS)することによって測定した。その結果を下記表1に示す。
【0071】
【表1】
本実施例では、残留化学剤量を非常に低い値にすることができ、DCやDAに対しても十分な処理能力を示した。このことより、本実施形態の雰囲気制御式加熱炉を用いる無害化装置が残留化学剤の処理において優れた成果を達成したことが明確に示された。
【符号の説明】
【0072】
1 加熱炉
21 ガス冷却器
22 コールドトラップ
23 ラインヒータ
24 バグフィルタ
3 循環ブロワ
4 排ガスコンプレッサ
5 ガス貯留タンク
図1
図2