(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6342890
(24)【登録日】2018年5月25日
(45)【発行日】2018年6月13日
(54)【発明の名称】結腸直腸癌の化学的予防
(51)【国際特許分類】
A61K 31/616 20060101AFI20180604BHJP
A61K 31/592 20060101ALI20180604BHJP
A61K 31/593 20060101ALI20180604BHJP
A61K 9/20 20060101ALI20180604BHJP
A61K 9/48 20060101ALI20180604BHJP
A61K 9/16 20060101ALI20180604BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20180604BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20180604BHJP
【FI】
A61K31/616
A61K31/592
A61K31/593
A61K9/20
A61K9/48
A61K9/16
A61P35/00
A61P43/00 121
【請求項の数】12
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-516735(P2015-516735)
(86)(22)【出願日】2013年6月13日
(65)【公表番号】特表2015-519392(P2015-519392A)
(43)【公表日】2015年7月9日
(86)【国際出願番号】IB2013054846
(87)【国際公開番号】WO2013186734
(87)【国際公開日】20131219
【審査請求日】2016年6月13日
(31)【優先権主張番号】MI2012A001041
(32)【優先日】2012年6月15日
(33)【優先権主張国】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】507084903
【氏名又は名称】ソファル ソシエタ ペル アチオニ
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】特許業務法人 谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】アレクシス グランデ
(72)【発明者】
【氏名】ファブリツィオ フェッラリーニ
(72)【発明者】
【氏名】サンドラ パレンティ
【審査官】
上條 肇
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2006/125073(WO,A2)
【文献】
国際公開第99/056697(WO,A2)
【文献】
米国特許出願公開第2001/0049364(US,A1)
【文献】
European Journal of Cancer Prevention, 2008, Vol.17(6), p.502-514
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/616
A61K 31/59 − 31/593
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
結腸直腸癌の予防および/または治療に使用されるための、
(i)5−アミノサリチル酸、またはその薬理学的に許容される塩と、
(ii)グループDビタミン、その誘導体、代謝産物、または類似体と
の組合せ医薬であって、
前記グループDビタミン、またはその誘導体、代謝産物、もしくは類似体は、ビタミンD3、ビタミンD2、25−ヒドロキシ−ビタミンD3、および1α,25ジヒドロキシ−ビタミンD3を含む群から選択され、
カルシウムを含まないことを特徴とする、組合せ医薬。
【請求項2】
5−アミノサリチル酸およびビタミンD3を含むことを特徴とする請求項1に記載の組合せ医薬。
【請求項3】
5−アミノサリチル酸およびビタミンD3からなることを特徴とする請求項1に記載の組合せ医薬。
【請求項4】
前記5−アミノサリチル酸、またはその薬理学的に許容される塩は、0.5から5gまでに含まれる1日用量で投与され、前記グループDビタミン、その誘導体、代謝産物、または類似体は、500から10,000IUまでに含まれる1日用量で投与されることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の組合せ医薬。
【請求項5】
前記5−アミノサリチル酸、またはその薬理学的に許容される塩は、約2.4gの1日用量で投与され、前記グループDビタミン、その誘導体、代謝産物、または類似物は、約2000IUの1日用量で投与されることを特徴とする請求項4に記載の組合せ医薬。
【請求項6】
哺乳類に、特にヒトに投与されることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の組合せ医薬。
【請求項7】
(i)5−アミノサリチル酸、またはその薬理学的に許容される塩と、
(ii)グループDビタミン、その誘導体、代謝産物、または類似体と
の組合せと、
少なくとも1種の生理学的に許容される賦形剤と
含む、結腸直腸癌の予防および/または治療用医薬組成物であって、
前記グループDビタミン、またはその誘導体、代謝産物、もしくは類似体は、ビタミンD3、ビタミンD2、25−ヒドロキシ−ビタミンD3、および1α,25ジヒドロキシ−ビタミンD3を含む群から選択され、
カルシウムを含まないことを特徴とする、結腸直腸癌の予防および/または治療用医薬組成物。
【請求項8】
経口、筋肉内、皮下、または直腸投与用であることを特徴とする請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
経口投与によることを特徴とする請求項7または8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
錠剤、カプセル剤、顆粒剤、丸剤、ロゼンジ剤の形状であることを特徴とする請求項9に記載の医薬組成物。
【請求項11】
制御放出に適切であることを特徴とする請求項7から10のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記組合せの成分の同時、逐次、または個別投与用である、組合せ製剤としての請求項7から11のいずれか一項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、
(i)5−アミノサリチル酸(5−ASA:5−aminosalicylic acid)もしくはその誘導体、またはその薬理学的に許容される塩、および
(ii)グループDビタミン、その誘導体、代謝産物、または類似体の新しい組合せと、結腸直腸癌の予防および/または治療におけるその使用とに関する。
【0002】
本発明の別の態様は、前記組合せを少なくとも1種の生理学的に許容される賦形剤と一緒に含有する医薬組成物と、結腸直腸癌の予防および/または治療に使用される前記組成物とに関する。
【背景技術】
【0003】
非ステロイド系抗炎症薬、NSAIDS(non steroidal anti−inflammatory drugs)は、結腸直腸癌(CRC:colorectal cancer)に対して認められた化学発癌抑制作用によって特徴付けられる(例えば、非特許文献1参照)。残念ながら、NSAIDの全身および胃腸毒性は、関係する患者の長期治療を要するプロトコルの領域におけるその投与を厳格に制限する(例えば、非特許文献2参照)。種々の研究は、5−ASAが、CRCに対する同等の化学発癌抑制作用を得るための将来性ある代替物であり、それと同時にNSAIDにより誘発された副作用が回避されることを示す(例えば、非特許文献3参照)。事実、アスピリン、即ち典型的なNSAIDとの化学的類似性にも関わらず、5−ASAは、この療法薬の臨床上の安全性を明確に説明する特性であるシクロオキシゲナーゼの弱い阻害によっておよび無視できる全身吸収によって、特徴付けられる(例えば、非特許文献4参照)。この点に関し、5−ASAの抗炎症作用がその他のメカニズムによって媒介されることは驚くに当たらず、中でも重要な役割は、NFkBおよびPPARなどの免疫応答を促進させる転写因子の阻害によっておそらくは果たされる(例えば、非特許文献5参照)。
【0004】
次いで最近の研究は、5−ASAが、β−カテニンにより媒介される増殖シグナル伝達経路を妨げることを示している。このタンパク質は、結腸直腸癌のほとんど全ての場合に構成上活性化する転写因子である。β−カテニンのリン酸化の状態は、その転写機能に間接的に影響を及ぼすことが公知であり、このタンパク質は、リン酸化した場合に細胞質内で分解するのに対して脱リン酸化した場合には核に転座するとみなされる。非特許文献6は、5−ASAが、通常ならβ−カテニンの脱リン酸化の原因となるホスファターゼPP2Aの酵素活性を阻害することができ、したがってその核転座が低減されることを実証している。非特許文献7および8は、5−ASAによるCRC癌細胞の治療が、カドヘリンの上科に属しかつ原形質膜上のβ−カテニンを隔離することが可能なμ−プロトカドヘリンとして公知の膜タンパク質の発現を誘発し、β−カテニンが核に転座するのを防止しかつその標的遺伝子の転写を活性化することも実証している。
【0005】
特許文献1は、カドヘリンの上科に属する膜タンパク質、前記μ−プロトカドヘリンの誘発により、5−ASAでの治療後にβ−カテニンの核転座が阻害されることを、さらに実証している。このカドヘリンは、膜内でβ−カテニンに結合し隔離し、その核転座とその標的遺伝子の転写とを防止する。
【0006】
その数多くの疫学的研究は、ビタミンD3(VD3:vitamin D3)の投与によってCRCの発生が著しく低減することも示唆している。カルシウム恒常性の制御に加え、実際には、VD3は、中でも結腸の癌腸細胞を引用することも可能な数多くの細胞型で行われる、重要な抗増殖性、分化促進性、およびアポトーシス促進性の活性によっても特徴付けられる(例えば、非特許文献9参照)。この目的で、非特許文献10は、この場合はE−カドヘリンまたは主な上皮カドヘリンの過発現により媒介される原形質膜でのこの転写因子の隔離からなる、5−ASAに関して既に言及されている類似したメカニズムを通して、VD3がβ−カテニンのシグナル伝達経路を妨げることを実証している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】欧州特許第2239580号明細書
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】O’Morain C et al.,World J Gastrointest.Oncol 2009;1(1):21−25
【非特許文献2】Guadagni F.et al.,Anticancer Res,2007;27:3147−3162
【非特許文献3】Rubin DT et al.,Inflamm Bowel Dis,2008;14:65−274
【非特許文献4】Bergman R.et al.,Aliment Pharmacol Ther,2006;23:841−855
【非特許文献5】Lyakhovich A.et al.,Aliment Pharmacol Ther;31(2):202−9,2010
【非特許文献6】Bos et al.,Carcinogenesis 2006;27(12):2371−82
【非特許文献7】Parenti S.et al.,Aliment Pharmacol Ther;31(1):108−19,2010
【非特許文献8】Losi L.et al.,Hum Pathol, 42(7):960−971,2011
【非特許文献9】Jimenez−Lara AM.,Int J Biochem Cell Biol 2007;39(4):672−7
【非特許文献10】Palmer et al.,J Cell Biol 2001;154(2):369−87
【非特許文献11】Methods 2001;25(4):402−8
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、結腸直腸癌を治療するための新しいより有効な療法を見出すことからなる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
驚くべきことに、(i)5−アミノサリチル酸(5−ASA)もしくはその誘導体、またはその薬理学的に許容される塩と、(ii)グループDビタミン、その誘導体、代謝産物、または類似体との組合せは、β−カテニンの増殖シグナルの伝達経路に対する単一の治療のそれぞれの作用に比べて、両方の有効成分に相乗効果を発揮させ、その構成的活性化が結腸直腸癌の90%の進行で観察されることを見出した。したがって本発明は、(i)5−アミノサリチル酸(5−ASA)もしくはその誘導体、またはその薬理学的に許容される塩、および(ii)グループDビタミン、その誘導体、代謝産物、または類似体の組合せと、この組合せを少なくとも1種の生理学的に許容される賦形剤と共に含む医薬組成物と、結腸直腸癌の予防および/または治療における前記組合せおよび/または医薬組成物の使用とに関する。
【0011】
本発明の組合せには、結腸直腸癌の予防および/または治療で通常使われる投薬量に関して、両方の成分の薬用量を低減させるという利点がある。
【0012】
好ましくは、本発明は、(i)5−アミノサリチル酸(5−ASA)と、(ii)グループDビタミン、その誘導体、代謝産物、または類似体との組合せに関する。
【0013】
5−アミノサリチル酸(5−ASA)の誘導体は、好ましくは、スルファサラジン(6−オキソ−3−((4−(ピリジン−2−イル)スルファモイル]フェニル)ヒドラジニリデン]シクロヘキサ−1,4−ジエン−1−カルボン酸)、オルサラジン(5−[(2Z)−2−(3−カルボキシ−4−オキソ−1−シクロヘキサ−2,5−ジエニリデン)ヒドラジニル]−2−ヒドロキシ−安息香酸)、およびバサラジド(5−[4−(2−カルボキシエチルカルバミル”)フェニル]ジアゼニル−2−ヒドロキシ−安息香酸)を含む群から選択される。
【0014】
好ましくは、グループDビタミン、またはその誘導体、代謝産物、もしくは類似物は、ビタミンD3(またはコレカルシフェロール、IUPAC名:(3S,9S,10R,13R,14R,17R)−17−((2R,5R,E)−6−メチルヘプタン−2−イル)−10,13−ジメチル−2,3,4,9,10,11,12,13,14,15,16,17−ドデカヒドロ−1H−シクロペンタ[a]フェナントレン−3−オール)、ビタミンD2(またはエルゴカルシフェロール、IUPAC名:(3S,9S,10R,13R,14R,17R)−17−((2R,5R,E)−5,6−ジメチルヘプタン−3−エン−2−イル)−10,13−ジメチル−2,3,4,9,10,11,12,13,14,15,16,17−ドデカヒドロ−1H−シクロペンタ[a]フェナントレン−3−オール)、25−ヒドロキシ−ビタミンD3(またはカルシフェジオールもしくはカルシジオール、IUPAC名:(6R)−6−[(1R,3aR,4E,7aR)−4−[(2Z)−2−[(5S)−5−ヒドロキシ−2−メチリデン−シクロヘキシリデン]エチリデン]−7aメチル−2,3,3a,5,6,7−ヘキサヒドラ−1H−インデン−1−イル]−2−メチル−ヘプタン−2−オール)、および1α,25ジヒドロキシ−ビタミンD3(またはカルシトリオール、IUPAC名:(1R,3S)−5−[2−[(1R,3aR,7aS)−1−[(2R)−6−ヒドロキシ−6−メチルヘプタン−2−イル]−7a−メチル−2,3,3a,5,6,7−ヘキサヒドロ−1H−インデン−4−イリデン]エチリデン]−4−メチリデン−シクロヘキサン−1,3−ジオール)を含む群から選択される。
【0015】
より好ましくは、本発明の組合せはビタミンD3を含む。
【0016】
本発明の一態様によれば、5−アミノサリチル酸(5−ASA)とビタミンD3との前記組合せは、カルシウムを含まない。
【0017】
本発明のその他の態様によれば、前記組合せは、5−アミノサリチル酸(5−ASA)とビタミンD3とからなる。
【0018】
一態様によれば、本発明は、5−アミノサリチル酸(5−ASA)およびビタミンD3の組合せと、この組合せを少なくとも1種の生理学的に許容される賦形剤と共に含む医薬組成物と、結腸直腸癌の予防および/または治療における前記組合せおよび/または医薬組成物の使用とに関する。
【0019】
別の態様によれば、本発明は、例えば、健康な/正常な個人;腸の慢性炎症性疾患(クローン病および潰瘍性直腸結腸炎など)に罹患している患者;結腸−直腸の腺腫および/または腺癌の内視鏡的除去術下にある患者;遺伝的癌症候群(リンチ症候群および家族性腺腫性ポリポーシスなど)に罹患している患者など、新生物を発症する異なるリスクを有する者において、結腸直腸癌を予防するための本発明の組合せおよび/または医薬組成物の使用に関する。
【0020】
本発明の組合せおよび/または医薬組成物を投与するための適切な経路には、経口、筋肉内、皮下、または直腸投与が含まれ、好ましくは経口投与である。
【0021】
本発明の医薬組成物は、組合せの成分の同時、逐次、または個別投与のための、組合せ製剤として、2成分が同じ投薬単位または個別の投薬単位中に存在する医薬組成物として配合することができる。
【0022】
好ましくは、2成分の個別の投与は、1から24時間までを含む時間間隔で行われる。
【0023】
本発明の医薬組成物は、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、丸剤、ロゼンジ剤の形で配合することができる。
【0024】
好ましい態様によれば、本発明の医薬組成物は、経口投与のため圧縮形態にある同じ投薬単位中に、組合せの2成分を少なくとも1種の生理学的に許容される賦形剤と共に含む。
【0025】
結腸直腸癌の予防および/または治療のための本発明の組合せの使用は、0.5から5gの範囲に含まれる量、好ましくは約2.4gの量の5−アミノサリチル酸(5−ASA)もしくはその誘導体またはその薬理学的に許容される塩と、500から10,000IUの範囲に含まれる量、好ましくは約2000IUの量のグループDビタミン、その誘導体、代謝産物、または類似体とを毎日投与することを含む。
【0026】
患者に投与される本発明の組成物の量は、当業者に周知の様々な因子、例えば患者の体重、投与経路、および病気の重症度によって異なり得る。
【0027】
他の態様によれば、本発明は、腸の異なる区域、例えば、全身吸収を目的とするグループDビタミン、その誘導体、代謝産物、または類似体に関しては小腸に、局所作用を有する5−アミノサリチル酸(5−ASA)もしくはその誘導体、またはその薬理学的に許容される塩に関しては結腸に、2成分を制御放出するのに適しており、したがって、2種の活性成分の対応する濃度は本発明の目的に最適である、医薬組成物に言及する。
【0028】
好ましい態様によれば、本発明の組合せおよび/または医薬組成物は、哺乳類、特にヒトに投与される。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】5−ASA、VD3、および5−ASA+VD3での治療に供された細胞系HT29の成長曲線を示す図である。x軸には治療時間が示されており、y軸には、初期の細胞数と比較した細胞増殖数が示されている。データは、3つの独立した実験から得られた平均±s.e.mとして示されている。
【
図2】5−ASA、VD3、および5−ASA+VD3で治療したHT29細胞での、β鎖のシグナル伝達経路に属する遺伝子のRNAメッセンジャーのQRT−PCR分析を示す図である。分析された遺伝子をx軸に示し、一方、RNAメッセンジャーのレベルの定量的変動をy軸に示す。データは、3つの独立した実験から得られた平均±s.e.mとして表示されている。
【
図3】5−ASAおよびASAでの治療に供された細胞系CaCo2の成長曲線を示す図である。x軸には、分析された化合物およびその濃度が示され、y軸には、初期の細胞数と比較した細胞増殖数が示されている。データは、3つの独立した実験から得られた平均±s.e.mとして表示されている。
【
図4】5−ASAおよびASAで治療したCaCo2におけるβ鎖のシグナル伝達経路に属する遺伝子のRNAメッセンジャーのQRT−PCR分析を示す図である。分析された遺伝子はx軸に示され、それに対してRNAメッセンジャーのレベルの定量的変動をy軸に示す。データは、3つの独立した実験から得られた平均±s.e.mとして表示されている。
【発明を実施するための形態】
【0030】
材料および方法
ATCC(Rockville、MD、USA)から得られた結腸直腸腺癌の細胞系CaCo2およびHT29を、熱および1mMのL−グルタミン(Euroclone)で不活性化した10%ウシ胎児血清(Lonza、Walkersville、MD、USA)を添加したDMEM培地(Euroclone、Devon、UK)で成長させた。5−アミノサリチル酸(5−ASA、SOFAR S.p.A.、Milan、イタリア)およびアセチルサリチル酸(ASA、Sigma Aldrich、St Louise、MO、USA)を、それぞれ20および10mMの濃度で培地に溶解した。ビタミンD3(VD3)(1α,25ジヒドロキシビタミンD3、カルシトリオール、Sigma Aldrich)を、10
-7Mの濃度で培地に希釈した。細胞系HT29を用いて実施した実験では、300,000細胞を各サンプルごとに播き、5−ASA、ビタミンD3、または5−ASAとVD3との組合せを各ウェルに添加した。一方、細胞系CaCo2を用いて実施した実験でも、再び300,000細胞を各サンプルごとに播いたが、5−ASAまたはASAを各ウェルに添加した。次いで処理された細胞を、24時間ごとに細胞計数に供して、異なる刺激の抗増殖作用をモニターした。治療の96時間後、全ての細胞を収集し、再吸収させ、「Qiagen全RNA精製キット」を用いて製造元の取扱説明書(Qiagen、Valencia、CA)に従いRNAを抽出した。RNAの完全性および濃度を、Bio−Analyzer技法(Applied Biosystem、Foster City、CA)を使用して試験した。次いで合計で100ngのRNAを、High Capacity cDNA Archive Kit(Applied Biosystems)を使用して、製造元より提供された取扱説明書に基づき逆転写した。次いでQRT−PCRを、ABI PRISM 7900(Applied Biosystems)配列検出システムを用いて実施し、様々なサンプルで測定されたmRNAの相対レベルを定量した。μ−プロトカドヘリン、E−カドヘリン、p21
waf-1、KLF4、およびグリセルアルデヒド3−リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH:glyceraldehyde 3−phosphate dehydrogenase)のmRNAを増幅するためのトリガーおよびプローブがApplied Biosystemsにより考案された。cDNAの各サンプルを、Taqman Universal PCR Master Mix(Applied Biosystems)を使用して、50μlの反応体積として3つずつ処理した。熱サイクルを、50℃で2分間の初期変性から開始し、90℃で10分間を経た後、95℃で15秒および60℃で1分を40サイクル行った。QRT−PCRシグナルを、対応する定量方法ΔΔCtを使用して評価した(Livak KJ、Schmittgen TD。相対的遺伝子発現データを、リアルタイム定量PCRおよび2(−ΔΔC(T))方法を使用して分析した(例えば、非特許文献11参照)。この手順は、内因性対照(GAPDH)に対して正規化され、また較正サンプルと比較した、標的遺伝子の遺伝子発現の相対的な差を計算する。得られた値を、メッセンジャーレベルの変動の相対量(RQ:relative quantity)として表した。
【0031】
[実施例1]
結腸−直腸の腺癌細胞系HT29の、5−ASAおよびVD3での治療によって促進された抗増殖作用の分析
対応するVDR受容体から誘導された、VD3に対するその応答性により選択された結腸直腸腺癌細胞系HT29を、個々に使用され、また関連付けて使用される5−ASA 20mMおよびVD3 10
-7Mでの「in vitro」処理に供し、癌性結腸細胞に対して分析された化合物により決定された抗増殖作用を定量した。この実験から得られた細胞計数値に基づく成長曲線のプロットは、5−ASAとVD3とを組み合わせた治療が、単一の治療で観察されたものよりも明らかに優れているさらなる抗増殖作用を引き起こすことを示している。この知見は、刺激を与えた96時間で何よりも明らかであり、対照では14の増殖が検出され、5−ASAでの治療においては8倍、VD3の治療では10倍、組み合わせた治療では5倍しか検出されなかった(
図1)。これらのデータは、結腸直腸癌細胞における5−ASAおよびVD3での治療によって個々に実現された抗増殖作用を裏づけ、それらの薬理学的関連付けから得られる追加の作用の存在をさらに実証する。
【0032】
[実施例2]
5−ASAおよびVD3での治療に供される結腸−直腸の結腸直腸腺癌細胞HT29での、増殖、分化、およびアポトーシスを制御する遺伝子のQRT−PCR分析
5−ASA/VD3の関連付けによる、細胞系HT29に対して決定された作用を分子レベルでチェックするために、「リアルタイム」定量RT−PCRを使用して、そのタンパク質生成物がμ−プロトカドヘリン、E−カドヘリン、p21
waf1、およびKLF4などの癌性結腸細胞の増殖、分化、およびアポトーシスの制御に関与する一連の遺伝子の発現を分析した。この分析は、先に開示された濃度で使用された研究済みの薬物での96時間の治療に供した細胞培養物で実施した。
【0033】
列挙された遺伝子の選択は、以下に説明される一連の知見に由来する。μ−プロトカドヘリンおよびE−カドヘリンは、細胞間接着を媒介するカドヘリン科に属するタンパク質であり、したがって間接的に、抗転移活性を有する。それらは、原形質膜上で転写因子β−カテニンを隔離し、それが標的遺伝子の転写を活性化するのを防止することによって、細胞増殖を制御することも実証されている。これら記載の理由のため、これらカドヘリンの発現は、上皮腫瘍において頻繁に下方制御される。タンパク質p21
waf1の体系化遺伝子は、β−カテニンの主なネガティブ標的の1つであり、その発現の大量誘発の後に、アポトーシスによる細胞死後の増殖抑制を決定することができる細胞周期の重要なレギュレーターである。最後に、KLF4は、β−カテニンにより媒介される増殖活性と対照をなすその能力に部分的に由来し、または部分的にしか特徴付けられていない分子メカニズムを通して、結腸癌細胞の増殖および分化の制御において決定的な役割を果たす転写因子の体系化癌抑制遺伝子である。これまで述べてきた遺伝子の重要性は、それらが全て結腸直腸癌の発症および進行に関与するという事実によっても十分に強調される。
【0034】
得られたデータは、5−ASAによる単一の治療が、μ−プロトカドヘリンに関しては2.5倍、E−カドヘリンに関しては2.2倍、p21に関しては2.9倍、KLF−4に関しては2.2倍のメッセンジャー発現の増加を決定することを実証している。VD3での治療後、これらの値はそれぞれ1、1.7、1.5、および1.6であり、それに対して組合せ治療後には、それらはそれぞれ3.2、3.1、4.2、および3.1であり、問題となっている薬物の関連付けにより、試験された遺伝子のメッセンジャー発現の誘発に対して相加作用が決定されることを示している(
図2)。
【0035】
これらの結果は明らかに、5−ASA/VD3を関連付けたものを、結腸直腸癌に対して化学予防的に使用するのに適切なものにする。
【0036】
[実施例3]
結腸直腸腺癌細胞系における5−ASAおよびASAでの治療によって促進される抗増殖および分子作用の比較分析
5−ASAの化学予防的性質に関連した有効性および安全性のプロファイルをさらに特徴付けるために、先に説明した系列と同じタイプの一連の実験を実施し、5−ASAおよびアスピリン(ASA)、即ちNSAID系列の主な薬物での治療後に、癌性結腸細胞に関して決定された生物学的作用の比較分析を実施した。これらの実験は、同じ由来のその他の細胞系との比較から生じる5−ASAに対する選択的応答性のために結腸直腸腺癌細胞系で実施し、培養物を96時間の治療時間に曝した。
【0037】
得られた結果は、ASAが5−ASAよりも明白な抗増殖作用を有するが、これは分析された薬物20mMの濃度でもたらされる明らかな毒性作用に関連付けられたものであり、この濃度では、1に等しい細胞充実性「倍率変化」値によって示された完全な増殖遮断にも関わらず、5−ASAで治療された全ての細胞は生存し、それに対してASAでの治療に供された細胞は、0.2に等しい細胞充実性「倍率変化」により示されるように80%の死亡率を有することを実証している(
図3)。これらの結果から生じる追加の知見は、ASA 10mMおよび5−ASA 20mMの濃度が、治療に供される癌細胞上で完全に重ね合わせることができる抗増殖作用を促進するので、2種の比較された薬物の均等物であると実際にみなすことができるという事実からなる(
図3)。
【0038】
これらの細胞培養物からおよび対照として使用されるその他の培養物から採取されたサンプルでは、先のパラグラフで列挙された遺伝子のメッセンジャーRNAのレベル(
図2参照)を、定量的リアルタイムRT−PCRにより決定した。得られた結果は、5−ASA 20mMで治療した後に、μ−プトロカドヘリン、E−カドヘリン、p21
waf1、およびKLF4遺伝子のメッセンジャー発現がそれぞれ3.8、2.4、8.0、および5.5倍誘発されたことを示しており(
図4)、細胞系HT29で既に観察されたデータを裏づけている。一方、10mMに等しい等価用量のASAでの治療は、その発現が5.8倍の増加を示し、したがって5−ASAでの対応する治療で観察されたものに匹敵するとみられる遺伝子p21
waf1の唯一の例外はあるものの、分析した遺伝子を誘発しなかった。このデータは、遺伝子p21
waf1の分子制御を特徴付ける重複性および不均質性を考えれば意外ではなく、その発現は、μ−プロトカドヘリン、E−カドヘリン、およびKLF4の体系化遺伝子の評価を通して本発明者らの実験条件で求められるβ鎖の増殖シグナル伝達経路によって制御されるだけではなく、数多くのシグナル伝達経路によっても制御される。この結果から生じる最も真実味のある結論は、結果的に、ASAが、5−ASAによる同じ作用を媒介するもの以外の分子メカニズムを通してp21
waf1の発現を誘発させるという考察からなり、したがって、比較した薬物の関係において後者の作用の特異性が実証される。
【0039】
全体として、これまで提示されてきたデータはしたがって:1)5−ASAが、VD3と協調して働いて、β−カテニンのシグナル経路およびこれに矛盾することなく癌性結腸細胞の増殖活性を阻害し、それがこの薬理学的関連付けを結腸直腸癌に対する化学予防的使用に適切なものにし;2)5−ASAは、それほど毒性がなく、したがって化学予防的な保護を得るために必要とされるような長期使用の目的ではASAよりも安全であり;3)等価用量のASAおよび5−ASAは全く異なる分子メカニズムを通して作用し、それがASAと比較した5−ASAの作用の特異性を立証することを示す。