特許第6342899号(P6342899)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6342899高温太陽光集熱器デバイス用基板の光学的選択塗膜を作製するプロセス及びこれにより得られた関連材料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6342899
(24)【登録日】2018年5月25日
(45)【発行日】2018年6月13日
(54)【発明の名称】高温太陽光集熱器デバイス用基板の光学的選択塗膜を作製するプロセス及びこれにより得られた関連材料
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/06 20060101AFI20180604BHJP
   F24S 70/225 20180101ALI20180604BHJP
   C23C 14/34 20060101ALI20180604BHJP
【FI】
   C23C14/06 N
   F24S70/225
   C23C14/34 R
【請求項の数】10
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2015-532395(P2015-532395)
(86)(22)【出願日】2013年9月18日
(65)【公表番号】特表2015-534606(P2015-534606A)
(43)【公表日】2015年12月3日
(86)【国際出願番号】EP2013069386
(87)【国際公開番号】WO2014044712
(87)【国際公開日】20140327
【審査請求日】2016年8月3日
(31)【優先権主張番号】MI2012A001572
(32)【優先日】2012年9月21日
(33)【優先権主張国】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】515063312
【氏名又は名称】イーエヌアイ ソシエタ ペル アチオニ
【氏名又は名称原語表記】ENI S.P.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100136858
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100179903
【弁理士】
【氏名又は名称】福井 敏夫
(72)【発明者】
【氏名】グイド スパーノ
(72)【発明者】
【氏名】カーラ ラザリー
(72)【発明者】
【氏名】マルチェッロ マレーラ
【審査官】 塩谷 領大
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/107157(WO,A1)
【文献】 特表2012−506021(JP,A)
【文献】 特開昭59−080747(JP,A)
【文献】 特開2009−198170(JP,A)
【文献】 特開2010−271033(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/036219(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00−14/58
F24S 70/225
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高温で動作するのに適した太陽熱集熱器に適切な材料による集熱器における基板の光学的選択塗膜の作製プロセスであって、
・400℃〜600℃の温度で加熱した前記集熱器の基板上に、主にα相のWからなる赤外線反射層を堆積するステップと、
・前記赤外線反射層を堆積するのと同一の温度及び圧力条件の下でアニーリングするステップと、
・前記赤外線反射層上に、1又は複数の、金属−セラミック複合材料のサーメット層を堆積するステップであり、前記金属はWとし、前記サーメットのセラミック母材はYPSZ(「Yttria-Partially Stabilized Zirconia」)とするステップと、
・前記サーメット層上に反射防止層を堆積するステップと、
・前記サーメット層及び前記反射防止層の堆積と同一の温度及び圧力条件の下でアニーリングするステップと
を有する、プロセス。
【請求項2】
請求項1記載のプロセスにおいて、前記赤外線反射層、前記サーメット層及び前記反射防止層の堆積は、単独チャンバ内で前記基板又は集熱管を移動させつつ同時DC/RFスパッタリングによって行う、プロセス。
【請求項3】
請求項記載のプロセスにおいて、前記Wの赤外線反射層は、以下のステップ、すなわち、
・チャンバ内で酸素汚染を阻止するのに十分となる初期真空レベルにするステップと、
・Wターゲットを予スパッタリングするステップと、
・前記基板を加熱するステップと、
・前記Wターゲットをスパッタリングすると同時に前記Wターゲットの上方で前記基板を0.1cm/s〜1cm/sの範囲内の速度で振動させることにより、前記基板へ成膜するステップと、
・堆積温度と同一温度及びスパッタリング圧力と同一圧力でアニーリングするステップとを順次に行うことによって調製する、プロセス。
【請求項4】
請求項1〜のうちいずれか一項記載のプロセスにおいて、堆積させたサーメット層は、量が70体積%〜30体積%であるYPSZ母材内にナノメートルスケールで30〜70体積%の範囲内の量となるよう分散したWにより構成する、プロセス。
【請求項5】
請求項記載のプロセスにおいて、前記サーメット層は、以下のステップ、すなわち、
PSZターゲットを予スパッタリングするステップと、
・前記基板又は集熱管を加熱するステップと、
Wターゲット及びYPSZターゲットに交互に曝されるようスパッタリングすると同時に前記基板振動させることにより、前記基板へ成膜するステップと
順次に行うことによって調製する、プロセス。
【請求項6】
請求項1〜のうちいずれか一項記載のプロセスにおいて、YPSZ母材内にナノメートルスケールで分散したWにより構成する第2サーメット層は、量が80〜40体積%の範囲内であるYPSZ母材内に20〜60体積%の範囲内の量となるよう分散したWにより構成し、前記第2サーメット層における前記Wの体積%は、先に堆積したサーメット層よりも少ないものとして堆積する、プロセス。
【請求項7】
請求項5又は6記載のプロセスにおいて、前記サーメット層又は第2サーメット層は、以下の条件、すなわち、
・前記基板又は集熱管を400℃〜600℃で加熱する、
・2.7×10−2mbar〜3.2×10−2mbarの範囲内の圧力(Ar 6N)でスパッタリングすると同時にWターゲット及びYPSZターゲットに対して交互に曝されるよう前記基板を5cm/s〜15cm/sの範囲内の速度で振動させることにより前記基板へ成膜する
という条件を確保して調製する、プロセス。
【請求項8】
請求項1〜のうちいずれか一項記載のプロセスにおいて、YPSZにより構成する反射防止層(ARL)を、前記サーメット層又は第2サーメット層上堆積する、プロセス。
【請求項9】
集熱器の基板の光学的選択塗膜材料において、
・反射防止材料の上側層と、
・主にα相のWからなる赤外線反射材料の下側層と、
・金属−セラミック複合材料のサーメットよりなる、少なくとも1つの中間層であって、前記金属はWとし、前記サーメットの前記セラミック母材はYPSZ(「Yttria-Partially Stabilized Zirconia」)とする、該中間層と
を備える多層構造である、光学的選択塗膜材料。
【請求項10】
請求項記載の光学的選択塗膜材料において、前記反射防止材料はYPSZとし、前記赤外線反射材料はWとし、前記サーメットにおけるWは20体積%〜70体積%の範囲内であり、またセラミックYPSZ母材は80体積%〜30体積%である、光学的選択塗膜材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気エネルギー発電プラントにおいて太陽光放射を吸収するのに適した高温で動作する集熱器デバイス用基板の光学的選択塗膜を作製するプロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
集中太陽熱プラントにおいて、太陽光放射を集熱器デバイスに集中させ、この集熱デバイスが熱ベクター(媒介)流体によって貯蔵される熱エネルギーに変換する。エネルギー変換プロセスを最適化するため、この集熱器デバイスは、高温に耐え、太陽光放射の吸収を最大化し、これと同時に高温に起因した放射放出によるエネルギー損失を最小化することができなければならない。
【0003】
この目的のため、集熱器は好適な調合物を有する薄い塗膜で被覆することができ、この調合物は、特有の光学的特性を有し、また太陽光放射を含む電磁スペクトル範囲内での高吸収性、及び赤外線熱放射範囲内での低放射性を集熱器に与えるものとする。この材料の光学的特性は、理想モデルの傾向を示し、また太陽放射照度範囲内で100%の吸収率(α=1、反射率0%)、及び熱放射範囲内で放射率0%(ε=0、反射率100%)を示すものでなければならない。スペクトル範囲を考慮してこれら特性のこの顕著な不連続性の理想的位置は、動作温度に依存し、また約2ミクロン(2,000ナノメートル)の波長に位置するのが都合がよい。
【0004】
現在世界中で稼働している太陽熱プラントは、約400℃にも達する温度で動作するが、プラントの全体効率を確実にするためには、温度を550℃又はそれ以上にまでも上昇させようとしている。
【0005】
温度上昇には一連の技術的問題に突当り、そのうちの1つは確実に集熱器デバイスにおける塗膜の熱的、化学的及び機械的な耐久性であり、また上述したように、その光学的効率は、高い太陽光吸収性及び最小熱放射性であることを必要とする。
【0006】
非特許文献1は、選択塗膜における技術的解決策の広範囲の分析について記載し、さらに、これらデバイスが動作できる温度に注目して分析を行っている。
【0007】
最も興味を抱かせる解決策としては、「サーメット(CERMET)」に基づく多層塗膜についての言及があり、サーメットは、金属がセラミック母材内に分散しているナノ構造複合材料である。塗膜の層は、数十/数百ナノメートルの厚さを有し、入射放射光における屈折成分及び反射成分の干渉によって上述した光学的特性の不連続性を生ずる。
【0008】
多層構造(マルチレイヤ)のアーキテクチャは、概して第1金属反射層と、可変屈折率を有する一連の2層以上のサーメットと、例えば、SiO又は複合材で使用されたのと同一のセラミック材料により一般に構成される最終的な反射防止層とにより構成される。この多層構造を集熱器デバイスに堆積する上では数多くの方法があり、工業的慣行において、最も簡便かつ効率的な方法はプラズマ蒸着(スパッタリング)である。
【0009】
特許文献1(国際公開第2009/051595号)において、純粋に計画段階であるが、多くの酸化物及びセラミック、例えば、TiO、HfO、Y、ZrO、Ta、及び対応のホウ化物、窒化物、及びAu、Ag、Ta、W、Moと結合したオキシ窒化物が、それぞれの化学的、熱的、及び反射的な特性を利用してサーメットの調合のために提案されている。幾つかのケースでは、これら材料の可能な組合せを理論的にモデル化する研究が進められている。とくに、W/ZrOの組合せに対する計算が提示され、有望であると見なされ、ただし金属−セラミックの多層構造としてモデル化されたもので、サーメット(セラミック母材に金属が分散している)としてではない。同時に、成分の物理−化学的特性に基づく若干の組合せに対する期待した関心度は理論的モデリング(Pt/ZrOの場合)では確認されないと断言している。この特許文献1は、実際、IR反射層が少なくともケイ化チタン、随意的に貴金属であり、また吸収層は金属及び半金属の酸化物又はオキシ窒化物で構成する複合材(多層構造又はサーメット)を特許請求している。金属酸化物は、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo又はWの酸化物とすることができる。耐熱性金属シリサイドは、化学式TiSiを有する(ここにx=1、3、5,y=1、2、4である)少なくとも1つのケイ化チタンにより構成する。
【0010】
前掲の非特許文献1には同じスペクトルレベルが提示されている。表2には、高温材料がその安定性に基づいてランク付けして表示されている。スチール基板上のW−Al、Cu基板上のW−AlN、スチール基板上のZrO/ZrC/Zrが材料中最高位のランクである。
【0011】
他方、ZrOは極めて機械的耐久性が高く、熱バリヤのための塗膜(熱バリヤコーティング)として広く高温で使用される化合物である。M. P. ラザロフ(M. P. Lazarov)及びI. V. メイヤー(I. V. Mayer)氏らによる特許文献2(米国特許第5,670,248号)及び特許文献3(米国特許第5,776,556号)には、とくに、スチール上に600℃まで温度安定的にスパッタリングすることにより堆積させたZrNに基づく塗膜が特許請求されている。
【0012】
マーチン氏ら(Martin et al.)の非特許文献2には、種々の技術、「イオンビーム・スパッタリング」、「電子ビーム蒸着」及び「熱蒸着」でZrOの反射防止塗膜を有するPbS薄膜を調製し、低い動作温度でこれら薄膜の光学的特性を比較したことが記載されている。反射防止層を追加することなく調製した材料に関して、硬さ及び吸収率は上昇し、また66%〜80%にわたる吸収率の値に達した。
【0013】
特許文献4(国際公開第2009/107157号)は、Wを可変濃度でAlに分散させて構成したサーメットに基づく塗膜の調製方法を特許請求しており、この場合、赤外線反射金属層は同一のWで構成し、反射防止層はAl又はSiOにより構成する。用いる技術はW及びAlを供給源としてそれぞれ又は交互にDC−RF同時スパッタリングするものであり、DC反応スパッタリングはW及びAlの金属ターゲットを出発材料とする。この特許文献4における発明の重要な特徴は、赤外線反射を最大化するのに必要なα相のW堆積である。このことは、反射性α−W相の成長を導くことができるマッチング層を予め堆積させることによって可能であり、これを特許請求している。
【0014】
マッチング層は薄膜堆積技術で広範囲に使用され、界面におけるいかなる格子状の不適合をも徐々に補償し、エピタキシャル成長を促進し、機械的特性を含む特性の向上をもたらす。しかし、それらマッチング層は順次堆積における複雑なプロセス追加を意味する。マッチング層なしに堆積を行うことができれば、堆積層が設計した通りの特性を有し、また動作時に基板に強固に結合した状態に留まる点で確実に有利となる。
【0015】
集熱器塗膜の作製及び商業化に関する従来の産業的状況は、非特許文献3による最近の調査に見られる。現在市場で利用可能であり、高温にも適合可能である選択塗膜は、もはや1に迫ろうとする吸収度(α=0.96)を獲得することができるものの、放射率は依然として10%より高く、とくに高温(550℃)に関しては、ε=0.14である。
【0016】
この点に関し、非特許文献4に示されているように、太陽熱プラント、とくに、500℃より最終高温で動作するプラントの実際の稼働において、放射による熱損失がエネルギー変換プロセスの全体効率に大きな影響を有する。実際平均的な稼働条件の下で、またエンタルピー平衡をとる目的のために、放射率の1百分率ポイントは吸収度の少なくとも1.2百分率ポイントに対応する。換言すれば、εの1ポイントを利得し、またαを1.2ポイント失うことはプラントの効率に影響しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】国際公開第2009/051595号
【特許文献2】米国特許第5,670,248号明細書
【特許文献3】米国特許第5,776,556号明細書
【特許文献4】国際公開第2009/107157号
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】C. E. Kennedy, “Review of Mid- to High-Temperature Solar Selective Absorber Materials”, (NREL Technical Report 520-31267, July 2002)
【非特許文献2】“Spectrally Selective PbSFilms produced by Ion Beam Sputtering”, Thin Solid Films 87 (1982) 203
【非特許文献3】Solar Energy Materials & Solar Cells 98 (2012) 1-23
【非特許文献4】“Progress to Develop an Advanced Solar Selective Coating” [14th Biennial CSP Solar PACES Symposium, 4-7 March 2008, Las Vegas, Nevada, USA (NRELLACD-550-42709)]”
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
さらに、太陽熱放射がない場合、熱放射に起因してコンバータ流体の冷却を最小化する機会が、高温で稼働するときとくに望まれる。
【0020】
したがって、従来技術の状況は、依然として放射率の高い値を示し、他方でとくに高温での利便性は放射率を制限し、吸収度の損失さえ生ずる可能性がある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
新規なプロセスによって得られた線形的パラボラトラフの基板又は集熱管用の光学的選択塗膜材料によれば、高い吸収度の値が最適な放射率の値とともに得ることができる。
【0022】
この態様の下に、本発明の特別な特徴は、従来技術よりも僅かに低い吸収度(α=0.893)とともに、ε=0.087(550℃における)に等しい従来よりも相当低い放射率を有し、したがって、従来技術よりも吸収度損失を補償する放射率利得を獲得する。
【0023】
本発明の第2の態様によれば、驚くべきことにα相Wの塗膜がマッチング層を使用することなく得られるということを見出した。
【0024】
本発明の目的は、高温で動作するのに特に適した太陽熱集熱器デバイス、より具体的には線形パラボラトラフの集熱管に好適な材料による集熱器における基板の光学的選択塗膜の作製プロセスであって、
・加熱した前記集熱器の基板上に高融点金属で構成した赤外線反射層を堆積するステップと、
・反射層を堆積するのと同一の温度及び圧力条件の下でアニーリングするステップと、
・前記高融点金属上に1層又は複数層の金属−セラミック複合材料(サーメット:CERMET)を堆積するステップであり、前記金属はWとし、前記セラミック母材はYPSZ(「Yttria-Partially Stabilized Zirconia」)とするステップと、
・前記サーメット層上に、好適にはYPSZにより構成する反射防止層を堆積するステップと、
・前記サーメット層及び前記反射防止層の堆積と同一の温度及び圧力条件の下でアニーリングするステップと
を有する、プロセスに関する。
【0025】
とくに、高温用の線形的パラボラトラフの集熱管とすることができる、好適な材料の基板は、ステンレス鋼、好適には、AISI 316L、AISI 316H、AISI 316Ti、又はAISI 321等級のステンレス鋼により構成する。
【0026】
前記反射層、前記サーメット層及び前記反射防止層の堆積は、好適には、単独チャンバ内で2つの個別ソース又は双方ソースの上方で前記基板を移動させつつ同時DC/RFスパッタリングによって行う。DCマグネトロン源(ソース)のターゲットはWにより構成するとともに、RFマグネトロン源(ソース)は、好適には、YPSZにより構成する。
【0027】
本発明の態様は、予備的ないかなるマッチング層を堆積する補助なくWのα相を得ることである。
【0028】
さらに、驚くべきことに、Wのα相成長は研磨した基板上で生ずることができ、この研磨によれば、この層の機械的特性を損なうことなく赤外線放射の反射特性を最適化することができることが観測された。基板の研磨は、当業者に既知の方法で0.20ミクロンより大きくない粒径の研磨剤によって研磨することができる。
【0029】
以下に本発明の目的であるプロセスをより詳細に説明する。Wの赤外線反射層は、以下のステップ、すなわち、
・チャンバ内で酸素汚染を阻止するのに十分となる初期真空レベルにするステップと、
・Wターゲットを予スパッタリングするステップと、
・前記基板を加熱するステップと、
・前記Wソース付近でサンプルホルダをスパッタリングするとともに、低速で振動させるステップと、
・堆積温度と同一温度及びスパッタリング圧力と同一圧力でアニーリングするステップと
を順次に行うことによって調製する。
【0030】
基板の加熱は、開発したプロセスの最も重要な特徴のうちの1つである。コンパクトな円柱構造に至る段階は、基板上にW原子の蒸気相からの吸着、移動性を依然として有する小さいクラスタの形成、移動性が少ない又は静止状態にある原子核クラスタの成長、上方及び側方に成長する安定アイランドへの原子核の転換、その後に連続的薄膜を形成するよう近隣アイランドとの合体である。表面における原子の吸着後、成長段階における薄膜の構造は、主にこれら原子が表面自体上で移動する容易性によって決定される。基板の温度は、表面上における拡散率、いわゆる移動度に直接影響する。
【0031】
低速度(<1cm/s)での振動は、薄膜の成長均質性を確保する上での他の重要な特徴である。広い面積を有するサンプルに対して、サンプルをその軸線周りに単に回転させるよりも、この振動によってより高い均質性が得られる。基板上における堆積率は、実際、原子が基板に達する速度及び原子の粘着係数に依存する。到達率は、基板上で凝縮する材料の蒸気圧力に依存し、この凝縮は、以下の等式によるソースにおける蒸気圧力及びソース−基板間距離に相関する、すなわち、
Psubstrate = PevapAcosφcosθ/πR2
ここで、
Psubstrate=基板における蒸気圧力
Pevap=ソース温度での蒸発物質の蒸気温度
A=ソースにおける蒸発物質の面積
φ=ソースからの蒸気の放射角度(垂線=0゜)
θ=基板における入射角(垂線=0゜)
R=ソース−基板間距離
【0032】
この等式からは、他の条件がすべて予め確立された後に基板の振動によりcosθがサンプルの種々の領域における異なる入射角を平均化でき、したがって、表面全体で厚さが均質化できるということが浮かび上がる。
【0033】
赤外線帯域内で高い反射率特性を有するWのα相は、以下の条件、すなわち、
・基板を0.20ミクロンより大きくない粒径の研磨剤によって研磨する、
・前記チャンバ内の前記初期真空レベルは1×10−6mbar〜5×10−6mbarの範囲内、好適には3×10−6mbar〜4×10−6mbarの範囲内の圧力に調整する、
・低電力、好適には、15W〜25Wの範囲内、より好適には20Wの電力で短時間、好適には、8′〜12′、より好適には9′〜10′にわたりWターゲットを予スパッタリングする、
・前記基板又は集熱管を400℃〜600℃、好適には485℃〜515℃で加熱する、
・2.7×10−2mbar〜3.2×10−2mbarの範囲内の残留圧力(Ar 6N)、好適には3×10−2mbarの残留圧力で前記基板をスパッタリングすると同時に、DCソース上方で前記基板を0.1cm/s〜1cm/sの範囲内、好適には0.4cm/s〜0.6cm/sの範囲内の低速で振動させる、
・厚さが200nm〜900nm、好適には750nm〜850nmの範囲内となる主にα相であるW層を得るよう、前記スパッタリングと同一の温度及び圧力で0.5h〜2hの範囲内、好適には0.8h〜1.2hの範囲内の時間にわたりアニーリングする
という条件を確保して調製することができる。
【0034】
堆積温度と同一の温度でアニーリングするのが望ましいのは、より低い温度を用いる場合、プロセスにとって処理時間を容認できないほど長くしなければならなくなるからであり、逆に温度を上昇させる場合には、薄膜構造の焼結現象を促進し、その後基板から剥離するという深刻なリスクを招く。良好な結果は約1時間で得られる。
【0035】
サーメットの堆積に関する限り、良好な放射率特性を有する塗膜は、金属/セラミックの濃度勾配を有する層を調製することなく得ることができることを見出した。
【0036】
本発明によるプロセスの主な利点は、単独の堆積チャンバを使用し、すべての選択的塗膜層を同一温度で堆積し、プロセスコストを明確に低減できる点にある。
【0037】
サーメット層は、以下のステップ、すなわち、
・前記YPSZターゲットを予スパッタリングするステップと、
・前記基板を加熱するステップと、
・前記Wソース及びYPSZソースの上方でサンプルホルダをスパッタリングし、また振動させるステップと、
・堆積温度と同一温度及びスパッタリング圧力と同一圧力でアニーリングするステップと
を順次に行うことによって調製する。
【0038】
サーメットの堆積はWの堆積に続いて行うため、Wの予スパッタリングを行う必要はなく、また基板の加熱に関しても、単に先行の層の堆積温度と同一温度に維持するだけで済む。
【0039】
サーメット層は、量が70体積%〜30体積%であるYPSZ母材内にナノメートルスケールで、より好適には30〜70体積%の範囲内の量となるよう分散したWにより構成する。
【0040】
好適にはナノメートルスケールで分散したWにより構成する第2サーメット層を堆積することができ、またより好適には、第2サーメット層は、量が80〜40体積%の範囲内であるYPSZ母材内に20〜60体積%の範囲内の量となるよう分散したWにより構成し、前記第2サーメット層における前記Wの体積%は、先に堆積したサーメット層よりも少ないものとする。
【0041】
第2サーメット層は、以下のステップ、すなわち、
・前記基板又は集熱管の加熱を維持するステップと、
・電力をサーメットの新体積比に関連して変化させたWソース及びYPSZソース近辺で前記基板をスパッタリングし、また振動させるステップと、
・堆積温度及び同一スパッタリング温度でアニーリングするステップと
を順次に行うことによって調製することができる。
【0042】
YPSZターゲットの予スパッタリングは、好適には40W〜45Wの範囲内の低電力で、好適には8′〜12′の範囲内の短時間で行うことができる。
【0043】
とくに、単一の又は2重のサーメット層は、以下の条件、すなわち、
・前記基板又は集熱管を400℃〜600℃、好適には485℃〜515℃で加熱する、
・2.7×10−2mbar〜3.2×10−2mbarの範囲内の残留圧力(Ar 6N)、好適には3×10−2mbarの残留圧力でステンレス鋼製の基板をスパッタリングすると同時に、DCソースとRFソースとの間で交互に前記基板を5cm/s〜15cm/sの範囲内、好適には8cm/s〜12cm/sの範囲内の高速で振動させる、
・50nm〜150nm、好適には80〜120nmの範囲内の厚さでサーメット層を得るよう、堆積温度と同一温度及びスパッタリング圧力と同一圧力で、0.2h〜1hの範囲内、好適には0.5hの時間にわたりアニーリングする
という条件を確保して調製する。
【0044】
2つのサーメット層を順次堆積するとき、2つのDCソース及びRFソースの相対電力は単に変化させ、中間アニーリングは行わず、単に最終アニーリングのみを行う。
【0045】
反射防止層(ARL)は、以下のステップ、すなわち、
・前記基板の加熱を維持するステップと、
・YPSZ単独のソース上方でサンプルホルダをスパッタリングするとともに、低速で振動させるステップと、
・堆積温度と同一温度及びスパッタリング圧力と同一圧力でアニーリングするステップと
を順次に行うことによって調製することができる。
【0046】
とくに、ARLは、以下の条件、すなわち、
・前記基板又は集熱管を400℃〜600℃、好適には485℃〜515℃で加熱する、
・2.7×10−2mbar〜3.2×10−2mbarの範囲内の残留圧力(Ar 6N)、好適には3×10−2mbarの残留圧力で前記基板をスパッタリングすると同時に、RFソース上方で前記基板を0.1cm/s〜1cm/sの範囲内、好適には0.4cm/s〜0.6cm/sの範囲内の低速で振動させる、
・前記スパッタリングと同一の温度及び圧力で0.2h〜1hの範囲内、好適には0.4h〜0.6hの範囲内の時間にわたりアニーリングする
という条件を確保して調製することができる。
【0047】
さらにこの場合、先行層堆積と同一温度での加熱を維持するのは簡単なことであり、YPSZターゲットの予スパッタリングは不要である。さらに、サーメット層の中間アニーリングは、ARL堆積後に最終アニーリングを行うことから、随意的に省略することができる。
【0048】
本発明の第2の目的は、上述のプロセスによって得られる、集熱器の基板、とくに線形的パラボラトラフの高温集熱管における光学的選択塗膜材料に関する。
【0049】
この材料は、
・反射防止材料の上側層と、
・高融点金属で構成した赤外線反射材料の下側層と、
・金属−セラミック複合材料(サーメット:CERMET)の少なくとも1つの中間層であって、前記金属はWとし、前記セラミック母材はYPSZ(「Yttria-Partially Stabilized Zirconia」)とする、該中間層と
を備える多層構造である。
【0050】
前記反射防止材料はYPSZとし、前記赤外線反射材料はWとし、前記サーメットにおけるWは30体積%〜70体積%の範囲内であり、またセラミックYPSZ母材は70体積%〜30体積%である。
【0051】
この材料は、温度550゜での吸収率α及び半球放射率の値εがそれぞれ0.893及び0.087である。
【0052】
本発明によるプロセスで得られる材料は、熱電コンバータ吸収体における、また一般的に吸収体デバイスのすべての場合における選択的塗膜として使用することもでき、太陽熱放射の高い吸収率を示すとともに、デバイス自体を高温に加熱することから派生する放射放出を減少する。
【0053】
本発明を説明する幾つかの実施例を示すが、これら実施例は本発明自体を制限するものと見なすべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0054】
図1】作製した多層構造の略図である。
図2】堆積チャンバ内部を示す写真である。
図3】所定条件で得られたW薄膜の形態を示し、左側は基板の形態(80000×)、右側は切断により得られた断面の形態80000×)の写真である。
図4】GID形態における薄膜のX線回折測定の結果を示す。
図5】GID形態(第1層:W;第2層:W−YPSZサーメット)における薄膜(サンプル6−7−8)のX線回折測定の結果を示す。
図6】サンプル9(実施例7)の反射率の分光光度計測定結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0055】
実施例は以下に説明する好適な実施形態を使用して行ったが、これら実施形態は本発明の範囲を制限するものと見なすべきではない。
【0056】
作製した多層構造を図1に略図的に示し、この図1において、
・基板:316Lステンレス鋼管
・赤外線反射層:W
・集中太陽熱放射吸収層:W−YPSZ(“Yttria-Partially Stabilized Zirconia”)
・反射防止層(ARL: anti reflective layer):YPSZ
である。
【0057】
この多層構造は、450℃〜600℃にわたる動作範囲内での高動作温度用に設計した選択塗膜である。
【0058】
堆積技術は、W及びYPSZのターゲットを出発材料とするDC/RF同時スパッタリングである。図1におけるすべての層は、適切な温度に加熱したAISI316L基板上に順次堆積する。堆積チャンバ内部を図2に示し、この図2において、頂部左側に加熱した回転サンプルホルダを示し、中央にW(灰色)及びYPSZ(白色)のターゲットを有するマグネトロン源を示す。
【0059】
平面状基板は、バヨネットシステムによってヒータ底部に配置し、またチャンバ底部に配置したミラーにより見ることができる。熱電対を反対側で基板に接触させて固定し、堆積温度を制御できるようにする。サンプルは、単独ソース又は双方ソースの上方で外部モータに連結したアームによってプログラム可能な振幅及び振動率で振動することができる。
【0060】
管状基板での実験の拡張は、制御された速度で回転及び並進移動する管状基板に向かって指向する折畳みヘッドを有するマグネトロン源(ソース)を使用して可能である。このタイプの構成は、当業者によれば堆積チャンバ内で容易に実現でき、したがって、発明自体を制限するものと見なすべきではない。
【0061】
2つのマグネトロン源への給電は、「マテリアルズ・サイエンス社(Materials Science, Inc.)」(カリフォルニア州サンディエゴ)の2つの電源によって行う。DC電源は1500Wの最大電力を供給できるモデルION1500(商標名)とする。RF電源はマニトウ・システムズ社(Manitou Systems Inc.)のシリーズPB−3のモデルとし、このモデルは、実際の電源とインピーダンス整合ネットワークを単一ユニットに統合している。このジェネレータは、13.56MHzの固定動作周波数で300Wの最大RF出力を供給する。2つのスパッタリング源Polaris Gen IIは組立てるべき標準ターゲットを50.8mm(2インチ)の直径及び3.1〜4.8mmにわたる厚さにすることができる。ターゲットは銀ペーストによって銅製にバックプレート上に接着する。マグネトロン源はHAAKEクライオスタットによって冷却する。
【0062】
他の付属装備は、ターボ分子高真空ポンプ、2つの回転ベーンポンプ、チャンバ真空レベルゲージ、及び四重極質量により構成する。サンプルはプログラマに接続した可変変圧器(パワーバリアック)によって加熱する。
【0063】
ターゲットは高品質多層構造を得るために重要である。
【0064】
Wターゲットはプランゼー(Plansee)社によって4Nの純度レベルで生産されている。主要不純物は100ppmのMoにより構成し、この場合、このMoは汚染物質とは見なされない。YPSZターゲットは東ソー社製のジルコニアTZ−3Y粉末を出発材料とし、単一方向プレスによって整形し、またリン(Linn)社製のHT1800MVAC高温オーブン内で空気中1600℃の温度により焼結することによって調製した。表面研磨プロセスにより仕上げ処理をしてからマグネトロン源に対して封止する。ジルコニアが3モル%のYにより部分的に安定化するターゲットの化学組成は、以下の理由、すなわち、
・正方相を安定化する点、
・結晶相がより大きな機械的抵抗性を有して得ることができる点
・純粋ZrO2で見られる不均質屈折率勾配を有する傾向を減少する点
から重要である。
【0065】
第2の理由は、高周波数でのスパッタリング中にターゲットが受ける大きな熱−機械的応力に耐える上で技術的に有用である。第3の理由は、高品質のARL層及びサーメット層を得る上で重要である。
【0066】
使用する基板AISI316Lは、0.021%のC、16.93%のCr、10.48%のNi、2.09%のMo、0.564%のSi、1.121%のMnを有するオーステナイト鋼である。Moの存在によりAISI304に対して耐腐食性をより強くする。低炭素含有316のバージョンである等級316Lは、粒界におけるカーバイドの沈殿の影響を受けない。425℃〜860℃にわたる温度範囲内で連続的に使用できる。
【0067】
代案として、より高い炭素含有量の等級316Hを使用することができ、これは500℃より高い温度に対してより高い機械的抵抗性を有する。
【0068】
基板は、アルミナベースの研磨ペーストを使用する表面研磨を施してから堆積チャンバ内に据付ける。
【0069】
基板をサンプルホルダに挿入した後、驚くべきことに、整合層を使用することなくα相のW塗膜が得られることが分かった。このタイプの層を得るためには、以下の条件、すなわち、1) 酸素汚染を回避するに十分なチャンバ内初期真空レベル、2) 10分オーダーの短時間にわたるWターゲットの予スパッタリング、3) 好適には500℃の温度まで基板を加熱する、4) W源の上方でサンプルホルダを0.5cm/sの低速度で振動させる、5) 堆積温度及び同一スパッタリング圧力で好適には1時間にわたる十分な焼なましの条件が必要である。
【0070】
それに続くYPSZ母材(サーメット層)におけるWのナノメートル単位の堆積を得るためには、図2に示す加熱したサンプルホルダを、一方のターゲットと他のターゲットとの間で10cm/sのオーダーの高速度で振動させる。
【0071】
この場合、2つのソースは、YPSZターゲットの短い予スパッタリング段階後に、同一堆積圧力で同時に付勢させる。可動バリア(図2には示されない)は、W蒸気がYPSZターゲットに堆積しない、またその逆の堆積も起こらないよう防止するが、こら2つの蒸気の混合気のサンプルに向かう流れを阻害しないもので、サンプルは一般的に第1層と同一の堆積温度(500℃)に加熱する。サンプルホルダから同一距離にあるWとYPSZとの間におけるスパッタリング収率の大きな差に起因して、一方のソース(W源)はほぼ最小電力(10〜20W)で動作させるとともに、他方のソース(YPSZ源)は約55〜60Wで動作させる。YPSZは最高の機械的抵抗性を有するジルコニアをベースとする材料であるが、ターゲットの完全性を脅かす熱機械的応力に起因してこれら電力値を超えるのは賢明ではない。堆積の持続時間は、15÷20′(分)で最適化された。さらにこの場合、堆積が完了するとき、アニーリング段階を同一堆積温度及び同一スパッタリング圧力で30′の持続時間にわたり行う。
【0072】
代案として、サーメットの2重層を異なるW−YPSZ容積比で作製することができる。この場合、W層(背面リフレクタ)の堆積及びYPSZの予スパッタリング後に、2つのターゲットの上方でサンプルフィルタを振動させることによって、YPSZ源のスパッタリング電力を一定に維持し(一般的に55W)、また25Wの電力をW源に比較的短い期間(5÷10′)だけ加えてサーメットの第1層を得る。次にW源の電力のみ瞬間的に15Wに低下させ、堆積を15〜20′にわたり実施する。さらにこの場合、アニーリング段階を同一堆積温度及び同一スパッタリング圧力で30′の持続時間にわたり行う。2重層の厚さは100nm未満とする。
【0073】
最終層としてARL層を堆積し、このARL層は純粋YPSZにより約100nmの厚さとなるよう構成し、この場合、ステンレス鋼基板をRF源の上方において好適には0.4〜0.6cm/sの速度となるよう上述の層と同一の温度及びスパッタリング圧力の下に振動させ、また堆積圧力と同一圧力で30′の最終アニーリングを行う。
【0074】
得られる薄膜の形態学的、構造的及び機能的特性評価は種々の技術で実施する。とくに、形態学的特性評価は、走査型電子顕微鏡(SEM:scanning electron microscope)を使用する観察の下に表面及び断面の双方に対して行う。観察は画像解析プログラムに統合する。組成マッピング又はインライン走査もEDS(「Energy Dispersive System」)によって行う。構造的特性評価は、θ-2θ構成及びGID構成(「Grazing Index Diffraction」)の双方においてX線回折によって行う。薄膜の組成及び厚さは主に、ムルクアント(MLQUANT)プログラムで蛍光X線(XRF)によって決定する。厚さはSEM観察からまたテンコール社(Tencor)製の表面形状測定装置によって得られた厚さと比較する。近−中間赤外線の機能的特性評価は新世代携帯エミッソメータ(emissometer)であるET100エミッソメータによって行う。この機器、すなわち、表面の熱放射率を計算するのに適した反射率計は、サーフェス・オプティクス(Surface Optics)社(アメリカ合衆国カリフォルニア州サンディエゴ)によって「海軍航空システム司令部(Naval Air Systems Command)」であるアメリカNREL及びNISTとの共同で開発された。
【0075】
この機器は、表面に対して20゜及び60゜の異なる2つの入射角度で1.5μm〜21μmにわたるスペクトル範囲内の6つの波長帯域における赤外線反射率を測定する。これら帯域は、1.5〜2.0μm、2.0〜3.5μm、3.0〜4.0μm、4.0〜5.0μm、5.0〜10.5μm、10.5〜21μmである。
【0076】
積分球は材料によって反射された放射を捕捉し(機器のヘッド自体も湾曲した表面に適合することができる)、全方向の反射の積分を与える。波長に対してフィルタ処理した検出器が各測定帯域で反射した放射全体を測定し、またそれをアナログ信号に変換する。次にこの信号をデジタル信号に変換し、またサンプルの各入射角度及び波長帯域に対する反射率を決定するよう処理する。これら反射率を使用して20゜及び60゜の双方における入射角度に対する指向性熱放射率を計算する。この結果は以下のように表現される、すなわち、
・20゜の入射角で反射率を測定したときの近法線方向放射率、
・60゜の入射角で反射率を測定したときの高角放射率、
・半球での積分ができ、
【数1】
として計算するのに十分な入射角範囲内で反射率を測定したときの全半球的放射率
で表現される。
【0077】
これら実施例において、25〜600℃の黒体温度につき計算した放射率が示されている。
【0078】
反射率測定200nm〜15,000nmの範囲内の反射率測定は、入射角8゜を有する150mmの積分球を装備したパーキン・エルマー(Perkin Elmer)社製のモデルLambda950UV-Vis-NIR(200-2500nm) 分光光度計、及び金で被覆した80mmの積分球を装備したサーモ(Thermo)社製のモデルNicolet Nexus 670FT-IR(5000-600cm-1)分光光度計によって行う。
【0079】
サーメットにおける元素の原子比率に対する調査はXPS(「X-Ray Photoelectron Spectroscopy」)によって実施する。
【0080】
実施例1(比較)
ターゲットは、直径50.8±0.3mm、厚さ3.18±0.2mmを有するプランゼー(Plansee)社製のW4Nディスクとする。基板は、直径70mm、厚さ0.2mmを有するAISI 316Lのディスクとする。
堆積条件は以下のもの、すなわち、
・チャンバ内初期真空レベル4×10−6mbar、
・基板加熱温度:500℃、
・ターゲット−基板間距離:6cm、
・初期圧力P.=1.3×10−5mbar、
・堆積圧力P.=3×10−2mbar(Ar 6N)、
・基板並進速度:0.5cm/s、
・スパッタリング持続時間:30′、
・V=370V;I=300mA;P=111W
とした。
【0081】
このサンプル、すなわちサンプル3の厚さ測定値を表1に示し、放射率測定値を表2に示す。表1は、より少ない堆積回数で調製したサンプル、すなわちサンプル1及び2の厚さ測定値も示す。
【0082】
実施例2
ターゲットは、直径50.8±0.3mm、厚さ3.18±0.2mmを有するプランゼー(Plansee)社製のW4Nディスクとする。基板は、直径70mm、厚さ0.2mmを有するAISI 316Lのディスクとする。
予スパッタリング:
・初期圧力P.=4×10−6mbar、
・堆積圧力P.=8.5×10−3mbar(Ar 6N)、
・V=320V;I=60mA
・持続時間:10′。
スパッタリング:
・基板温度:500℃、
・ターゲット−基板間距離:6cm、
・初期圧力P.=1×10−5mbar、
・堆積圧力P.=3×10−2mbar(Ar 6N)、
・基板並進速度:0.5cm/s、
・V=360V;I=440mA;P=158.4W、
・スパッタリング持続時間:30′。
アニーリング:
・基板温度:500℃、
・P=3×10−2mbar、
・持続時間:1時間。
とした。
【0083】
サンプル4の厚さ測定値を表1に示し、放射率測定値を表2に示す。
これらデータを実施例1のものと比較すると、同一厚さで放射率値がほぼ半分になることが分かる。
【0084】
実施例3
ターゲットは、直径50.8±0.3mm、厚さ3.18±0.2mmを有するプランゼー(Plansee)社製のW4Nディスクとする。基板は、直径70mm、厚さ0.2mmを有するAISI 316Lのディスクとする。
予スパッタリング:
・初期圧力P.=4×10−6mbar、
・堆積圧力P.=8.5×10−3mbar(Ar 6N)、
・V=320V;I=60mA、
・持続時間:10′。
スパッタリング:
・基板温度:500℃、
・ターゲット−基板間距離:6cm、
・初期圧力P.=1×10−5mbar、
・堆積圧力P.=3×10−2mbar(Ar 6N)、
・基板並進速度:0.5cm/s、
・V=350V;I=370mA;P=129.5W、
・スパッタリング持続時間:30′。
アニーリング:
・基板温度:500℃、
・P=3×10−2mbar、
・持続時間:1時間。
とした。
【0085】
サンプル5の厚さ測定値を表1に示し、放射率測定値を表2に示す。
【0086】
図3は、所定条件で得られたW薄膜の形態を示し、左側は基板の形態(80000×)、右側は切断により得られた断面の形態80000×)を示す。トポグラフィが中小倍率(図示せず)でも、成長が結晶学的対称性要素に従って配列して進行するすると思われる鮮明な粒子を明確に見て取ることができる。断面において、薄膜の形態は極めてコンパクトであり、円柱構造であることが見える。
【0087】
GID形態における薄膜のX線回折測定の結果を図4に示す。望ましい相はα−W(ファイルJCPDS 00-004-0806参照)であり、中心本体が立方晶系構造であり、スペクトルのIR領域で最大の反射率を有する。
【0088】
他の準安定相、いわゆるA15構造を有するβ−Wがあり、これは、角度2−θ:35.7゜、44.1゜、66.9゜及び69.7゜にピークを有するWW(ファイルJCPDS 03-065-6453参照)又はWO(ファイルJCPDS 01-073-2526参照)のいずれかとすることができる。I/Ic比法を使用して得られるこれら相の相対的存在度数の半定量的な推定は、「α(アルファ)」相と「β(ベータ)」相との間で88:12となる。
【0089】
実施例4
ターゲットは、直径50.8±0.3mm、厚さ3.18±0.2mmを有するプランゼー(Plansee)社製のW4Nディスク、及びb) 東ソー社製の粉末を一方向プレスして得られた直径49mm、厚さ3.5mmを有するYPSZディスクとする。基板は直径70mm、厚さ0.2mmを有するAISI 316Lのディスクとする。
【0090】
Wによる第1層の堆積
予スパッタリング:
・初期圧力P.=4×10−6mbar、
・堆積圧力P.=8.5×10−3mbar(Ar 6N)、
・V=320V;I=60mA、
・持続時間:10′。
スパッタリング:
・基板温度:500℃、
・ターゲット−基板間距離:6cm、
・初期圧力P.=1×10−5mbar、
・堆積圧力P.=3×10−2mbar(Ar 6N)、
・基板並進速度:0.5cm/s、
・V=350V;I=370mA;P=129.5W、
・スパッタリング持続時間:30′。
アニーリング:
・基板温度:500℃、
・P=3×10−2mbar、
・持続時間:1時間。
【0091】
サーメットの堆積
YPSZ予スパッタリング:
・堆積圧力P.=3.3×10−2mbar(Ar 6N)、
・持続時間:10′、
・RF:フォワード電力40W、
DC/RF複合スパッタリング:
・基板温度:500℃、
・ターゲット−基板間距離:6cm、
・堆積圧力P.=3×10−2mbar(Ar 6N)、
・2つのソース(源)間における基板並進速度:10cm/s、
・RF:フォワード電力55W一定、
・DC:V=290V;I=90mA;P=26.1W、
・総持続時間:11′、
・3×10−2mbar(Ar 6N)での500℃×0.5時間の「アニーリング」。
【0092】
サンプル6の放射率測定値を表2に示す。サンプル5(実施例4)の放射率との比較により、サーメット層堆積に起因して放射率の著しい減少が分かる。
【0093】
実施例5
ターゲットは、直径50.8±0.3mm、厚さ3.18±0.2mmを有するプランゼー(Plansee)社製のW4Nディスク、及びb) 東ソー社製の粉末を一方向プレスして得られた直径49mm、厚さ3.5mmを有するYPSZディスクとする。基板は直径70mm、厚さ0.2mmを有するAISI 316Lのディスクとする。
【0094】
Wによる第1層の堆積
予スパッタリング:
・初期圧力P.=4×10−6mbar、
・堆積圧力P.=8.5×10−3mbar(Ar 6N)、
・V=320V;I=60mA、
・持続時間:10′。
スパッタリング:
・基板温度:500℃、
・ターゲット−基板間距離:6cm、
・初期圧力P.=1×10−5mbar、
・堆積圧力P.=3×10−2mbar(Ar 6N)、
・基板並進速度:0.5cm/s、
・V=350V;I=370mA;P=129.5W、
・スパッタリング持続時間:30′。
アニーリング:
・基板温度:500℃、
・P=3×10−2mbar、
・持続時間:1時間。
【0095】
サーメットの堆積
YPSZ予スパッタリング:
・堆積圧力P.=3.3×10−2mbar(Ar 6N)、
・持続時間:10′、
・RF:フォワード電力40W、
DC/RF複合スパッタリング:
・基板温度:500℃、
・ターゲット−基板間距離:6cm、
・堆積圧力P.=3×10−2mbar(Ar 6N)、
・2つのソース(源)間における基板並進速度:10cm/s、
・RF:フォワード電力55W一定、
・DC:V=270V;I=50mA;P=13.5W、
・総持続時間:11′、
・3×10−2mbar(Ar 6N)での500℃×0.5時間の「アニーリング」。
サンプル7の放射率測定値を表2に示す。
【0096】
実施例6
ターゲットは、直径50.8±0.3mm、厚さ3.18±0.2mmを有するプランゼー(Plansee)社製のW4Nディスク、及びb) 東ソー社製の粉末を一方向プレスして得られた直径49mm、厚さ3.5mmを有するYPSZディスクとする。基板は直径70mm、厚さ0.2mmを有するAISI 316Lのディスクとする。
【0097】
Wによる第1層の堆積
予スパッタリング:
・初期圧力P.=4×10−6mbar、
・堆積圧力P.=8.5×10−3mbar(Ar 6N)、
・V=320V;I=125mA、
・持続時間:10′。
スパッタリング:
・基板温度:500℃、
・ターゲット−基板間距離:6cm、
・初期圧力P.=1×10−5mbar、
・堆積圧力P.=3×10−2mbar(Ar 6N)、
・基板並進速度:0.5cm/s、
・V=314V;I=415mA;P=130.3W、
・スパッタリング持続時間:30′。
アニーリング:
・基板温度:500℃、
・P=3×10−2mbar、
・持続時間:1時間。
【0098】
サーメットの堆積
YPSZ予スパッタリング:
・堆積圧力P.=3.0×10−2mbar(Ar 6N)、
・持続時間:10′、
・RF:フォワード電力45W、
DC/RF複合スパッタリング:
・基板温度:500℃、
・ターゲット−基板間距離:6cm、
・堆積圧力P.=3×10−2mbar(Ar 6N)、
・2つのソース(源)間における基板並進速度:10cm/s、
・RF:フォワード電力55W一定、
・DC:V=248V;I=61mA;P=15.1W、
・総持続時間:18′45″、
・3×10−2mbar(Ar 6N)での500℃×0.5時間の「アニーリング」。
【0099】
サンプル8の放射率測定値を表2に示す。
【0100】
実施例7
ターゲットは、直径50.8±0.3mm、厚さ3.18±0.2mmを有するプランゼー(Plansee)社製のW4Nディスク、及びb) 東ソー社製の粉末を一方向プレスして得られた直径49mm、厚さ3.5mmを有するYPSZディスクとする。基板は直径70mm、厚さ0.2mmを有するAISI 316Lのディスクとする。
【0101】
Wによる第1層の堆積
予スパッタリング:
・初期圧力P.=4×10−6mbar、
・堆積圧力P.=8.5×10−3mbar(Ar 6N)、
・V=320V;I=125mA、
・持続時間:10′。
スパッタリング:
・基板温度:500℃、
・ターゲット−基板間距離:6cm、
・初期圧力P.=1×10−5mbar、
・堆積圧力P.=3×10−2mbar(Ar 6N)、
・基板並進速度:0.5cm/s、
・V=391V;I=333mA;P=130.2W、
・スパッタリング持続時間:30′。
アニーリング:
・基板温度:500℃、
・P=3×10−2mbar、
・持続時間:0.5時間。
【0102】
サーメット1の堆積
YPSZ予スパッタリング:
・堆積圧力P.=3.0×10−2mbar(Ar 6N)、
・持続時間:10′、
・RF:フォワード電力45W、
DC/RF複合スパッタリング:
・基板温度:500℃、
・ターゲット−基板間距離:6cm、
・堆積圧力P.=3×10−2mbar(Ar 6N)、
・2つのソース(源)間における基板並進速度:10cm/s、
・RF:フォワード電力55W一定、
・DC:V=303V;I=85mA;P=25.8W、
・総持続時間:7′30″、
【0103】
サーメット2の堆積
DC/RF複合スパッタリング:
・基板温度:500℃、
・ターゲット−基板間距離:6cm、
・堆積圧力P.=3×10−2mbar(Ar 6N)、
・2つのソース(源)間における基板並進速度:10cm/s、
・RF:フォワード電力55W一定、
・DC:V=242V;I=52mA;P=12.5W、
・総持続時間:20′、
アニーリング:
・基板温度:500℃
・P=3×10−2mbar
・持続時間:0.5時間。
【0104】
サンプル9の放射率測定値を表2に示す。
【0105】
以下の観察は上述の実施例のうち2つ又はそれ以上に関連する。
【0106】
表1は、テンコール社(Tencor)製の表面形状測定装置、蛍光X線(XRF)分析及びSEM観察によって得られたタングステン薄膜のみの厚さデータを示す。測定値は、サンプル2を除いてほぼ良好な互いの一致が見られる。表2は、ET100エミッソメータにより25℃〜600℃の範囲内の種々の温度で測定した半球放射率データ(ε)を示す。この表2はさらに、比較目的のためにAISI 316L基板及びバルクW(Wターゲット)の放射率をも示す。サンプル3,4,5は比較可能な厚さを有する3つのW薄膜(表1参照)であるが、異なる動作条件(実施例1〜3参照)の下で得られたものである。赤外線で反射する良好なW層の放射率値は塊状のW基板に限りなく近似すべきである。実際、とくにサンプル4で得られた薄膜のうち幾つか、とくにサンプル4は、これら機能的特性に近似する。類似する厚さ及び調製手順を有するサンプル4とサンプル3との測定値間の比較は、それぞれ実施例2及び1でそれぞれ説明され、特許請求しているもの、すなわち、α相のW塗膜がマッチング層を使用することなく得られることを立証する。
【0107】
僅かに低いスパッタリング電力であることを除いてサンプル4と同様の条件の下で得られたサンプル5は、上述の試験から得られるデータの再現性テストを代表する。
【0108】
サンプル6,7,8は、背面リフレクタ及びサーメット単独層を有する2層構造である(実施例4〜6参照)。サンプル9は、背面リフレクタ及びサーメット2重層を有する3層構造である(実施例7参照)。サンプル6,7,8及び9のすべては、バルクWよりも低い放射率測定値を示す。とくに、サーメット2重層を有するサンプル9は、とくに600℃までも増加する興味深い特性を示す。SEM(図示せず)を使用する断面の形態学的観察によれば、円柱状構造を有するコンパクトな多層構造を示し、幾つかの層間での不連続性が見られない。
【0109】
図5は、GID形態(第1層:W;第2層:W−YPSZサーメット)における薄膜(サンプル6−7−8)のX線回折測定の結果を示す(サンプル6−7−8)。もっぱらα相のWのピークが観測でき、このことはサーメット層が非結晶質であることを意味し得る。
【0110】
サンプル9(実施例7)の反射率の分光光度計測定結果(中央における連続曲線)を図6に、全地球的チルト太陽熱放射変化曲線(プロファイル)AM1.5(左側の破線曲線)及び550℃における黒体エミッタンス(放射力)変化曲線(右側の点線曲線)とともに示す。0.893に等しい吸収率値α及び0.087に等しい放射率値は反射率スペクトルから計算される。
【0111】
表1:表面形状測定装置、蛍光X線(XRF)分析及びSEM観察によるW層厚さの測定
【表1】
【0112】
表2:ET100エミッソメータにより種々の温度で測定した半球放射率測定(ε
【表2】
図1
図2
図3
図4
図5
図6