【課題を解決するための手段】
【0021】
新規なプロセスによって得られた線形的パラボラトラフの基板又は集熱管用の光学的選択塗膜材料によれば、高い吸収度の値が最適な放射率の値とともに得ることができる。
【0022】
この態様の下に、本発明の特別な特徴は、従来技術よりも僅かに低い吸収度(α=0.893)とともに、ε=0.087(550℃における)に等しい従来よりも相当低い放射率を有し、したがって、従来技術よりも吸収度損失を補償する放射率利得を獲得する。
【0023】
本発明の第2の態様によれば、驚くべきことにα相Wの塗膜がマッチング層を使用することなく得られるということを見出した。
【0024】
本発明の目的は、高温で動作するのに特に適した太陽熱集熱器デバイス、より具体的には線形パラボラトラフの集熱管に好適な材料による集熱器における基板の光学的選択塗膜の作製プロセスであって、
・加熱した前記集熱器の基板上に高融点金属で構成した赤外線反射層を堆積するステップと、
・反射層を堆積するのと同一の温度及び圧力条件の下でアニーリングするステップと、
・前記高融点金属上に1層又は複数層の金属−セラミック複合材料(サーメット:CERMET)を堆積するステップであり、前記金属はWとし、前記セラミック母材はYPSZ(「Yttria-Partially Stabilized Zirconia」)とするステップと、
・前記サーメット層上に、好適にはYPSZにより構成する反射防止層を堆積するステップと、
・前記サーメット層及び前記反射防止層の堆積と同一の温度及び圧力条件の下でアニーリングするステップと
を有する、プロセスに関する。
【0025】
とくに、高温用の線形的パラボラトラフの集熱管とすることができる、好適な材料の基板は、ステンレス鋼、好適には、AISI 316L、AISI 316H、AISI 316Ti、又はAISI 321等級のステンレス鋼により構成する。
【0026】
前記反射層、前記サーメット層及び前記反射防止層の堆積は、好適には、単独チャンバ内で2つの個別ソース又は双方ソースの上方で前記基板を移動させつつ同時DC/RFスパッタリングによって行う。DCマグネトロン源(ソース)のターゲットはWにより構成するとともに、RFマグネトロン源(ソース)は、好適には、YPSZにより構成する。
【0027】
本発明の態様は、予備的ないかなるマッチング層を堆積する補助なくWのα相を得ることである。
【0028】
さらに、驚くべきことに、Wのα相成長は研磨した基板上で生ずることができ、この研磨によれば、この層の機械的特性を損なうことなく赤外線放射の反射特性を最適化することができることが観測された。基板の研磨は、当業者に既知の方法で0.20ミクロンより大きくない粒径の研磨剤によって研磨することができる。
【0029】
以下に本発明の目的であるプロセスをより詳細に説明する。Wの赤外線反射層は、以下のステップ、すなわち、
・チャンバ内で酸素汚染を阻止するのに十分となる初期真空レベルにするステップと、
・Wターゲットを予スパッタリングするステップと、
・前記基板を加熱するステップと、
・前記Wソース付近でサンプルホルダをスパッタリングするとともに、低速で振動させるステップと、
・堆積温度と同一温度及びスパッタリング圧力と同一圧力でアニーリングするステップと
を順次に行うことによって調製する。
【0030】
基板の加熱は、開発したプロセスの最も重要な特徴のうちの1つである。コンパクトな円柱構造に至る段階は、基板上にW原子の蒸気相からの吸着、移動性を依然として有する小さいクラスタの形成、移動性が少ない又は静止状態にある原子核クラスタの成長、上方及び側方に成長する安定アイランドへの原子核の転換、その後に連続的薄膜を形成するよう近隣アイランドとの合体である。表面における原子の吸着後、成長段階における薄膜の構造は、主にこれら原子が表面自体上で移動する容易性によって決定される。基板の温度は、表面上における拡散率、いわゆる移動度に直接影響する。
【0031】
低速度(<1cm/s)での振動は、薄膜の成長均質性を確保する上での他の重要な特徴である。広い面積を有するサンプルに対して、サンプルをその軸線周りに単に回転させるよりも、この振動によってより高い均質性が得られる。基板上における堆積率は、実際、原子が基板に達する速度及び原子の粘着係数に依存する。到達率は、基板上で凝縮する材料の蒸気圧力に依存し、この凝縮は、以下の等式によるソースにおける蒸気圧力及びソース−基板間距離に相関する、すなわち、
P
substrate = P
evapAcosφcosθ/πR
2
ここで、
P
substrate=基板における蒸気圧力
P
evap=ソース温度での蒸発物質の蒸気温度
A=ソースにおける蒸発物質の面積
φ=ソースからの蒸気の放射角度(垂線=0゜)
θ=基板における入射角(垂線=0゜)
R=ソース−基板間距離
【0032】
この等式からは、他の条件がすべて予め確立された後に基板の振動によりcosθがサンプルの種々の領域における異なる入射角を平均化でき、したがって、表面全体で厚さが均質化できるということが浮かび上がる。
【0033】
赤外線帯域内で高い反射率特性を有するWのα相は、以下の条件、すなわち、
・基板を0.20ミクロンより大きくない粒径の研磨剤によって研磨する、
・前記チャンバ内の前記初期真空レベルは1×10
−6mbar〜5×10
−6mbarの範囲内、好適には3×10
−6mbar〜4×10
−6mbarの範囲内の圧力に調整する、
・低電力、好適には、15W〜25Wの範囲内、より好適には20Wの電力で短時間、好適には、8′〜12′、より好適には9′〜10′にわたりWターゲットを予スパッタリングする、
・前記基板又は集熱管を400℃〜600℃、好適には485℃〜515℃で加熱する、
・2.7×10
−2mbar〜3.2×10
−2mbarの範囲内の残留圧力(Ar 6N)、好適には3×10
−2mbarの残留圧力で前記基板をスパッタリングすると同時に、DCソース上方で前記基板を0.1cm/s〜1cm/sの範囲内、好適には0.4cm/s〜0.6cm/sの範囲内の低速で振動させる、
・厚さが200nm〜900nm、好適には750nm〜850nmの範囲内となる主にα相であるW層を得るよう、前記スパッタリングと同一の温度及び圧力で0.5h〜2hの範囲内、好適には0.8h〜1.2hの範囲内の時間にわたりアニーリングする
という条件を確保して調製することができる。
【0034】
堆積温度と同一の温度でアニーリングするのが望ましいのは、より低い温度を用いる場合、プロセスにとって処理時間を容認できないほど長くしなければならなくなるからであり、逆に温度を上昇させる場合には、薄膜構造の焼結現象を促進し、その後基板から剥離するという深刻なリスクを招く。良好な結果は約1時間で得られる。
【0035】
サーメットの堆積に関する限り、良好な放射率特性を有する塗膜は、金属/セラミックの濃度勾配を有する層を調製することなく得ることができることを見出した。
【0036】
本発明によるプロセスの主な利点は、単独の堆積チャンバを使用し、すべての選択的塗膜層を同一温度で堆積し、プロセスコストを明確に低減できる点にある。
【0037】
サーメット層は、以下のステップ、すなわち、
・前記YPSZターゲットを予スパッタリングするステップと、
・前記基板を加熱するステップと、
・前記Wソース及びYPSZソースの上方でサンプルホルダをスパッタリングし、また振動させるステップと、
・堆積温度と同一温度及びスパッタリング圧力と同一圧力でアニーリングするステップと
を順次に行うことによって調製する。
【0038】
サーメットの堆積はWの堆積に続いて行うため、Wの予スパッタリングを行う必要はなく、また基板の加熱に関しても、単に先行の層の堆積温度と同一温度に維持するだけで済む。
【0039】
サーメット層は、量が70体積%〜30体積%であるYPSZ母材内にナノメートルスケールで、より好適には30〜70体積%の範囲内の量となるよう分散したWにより構成する。
【0040】
好適にはナノメートルスケールで分散したWにより構成する第2サーメット層を堆積することができ、またより好適には、第2サーメット層は、量が80〜40体積%の範囲内であるYPSZ母材内に20〜60体積%の範囲内の量となるよう分散したWにより構成し、前記第2サーメット層における前記Wの体積%は、先に堆積したサーメット層よりも少ないものとする。
【0041】
第2サーメット層は、以下のステップ、すなわち、
・前記基板又は集熱管の加熱を維持するステップと、
・電力をサーメットの新体積比に関連して変化させたWソース及びYPSZソース近辺で前記基板をスパッタリングし、また振動させるステップと、
・堆積温度及び同一スパッタリング温度でアニーリングするステップと
を順次に行うことによって調製することができる。
【0042】
YPSZターゲットの予スパッタリングは、好適には40W〜45Wの範囲内の低電力で、好適には8′〜12′の範囲内の短時間で行うことができる。
【0043】
とくに、単一の又は2重のサーメット層は、以下の条件、すなわち、
・前記基板又は集熱管を400℃〜600℃、好適には485℃〜515℃で加熱する、
・2.7×10
−2mbar〜3.2×10
−2mbarの範囲内の残留圧力(Ar 6N)、好適には3×10
−2mbarの残留圧力でステンレス鋼製の基板をスパッタリングすると同時に、DCソースとRFソースとの間で交互に前記基板を5cm/s〜15cm/sの範囲内、好適には8cm/s〜12cm/sの範囲内の高速で振動させる、
・50nm〜150nm、好適には80〜120nmの範囲内の厚さでサーメット層を得るよう、堆積温度と同一温度及びスパッタリング圧力と同一圧力で、0.2h〜1hの範囲内、好適には0.5hの時間にわたりアニーリングする
という条件を確保して調製する。
【0044】
2つのサーメット層を順次堆積するとき、2つのDCソース及びRFソースの相対電力は単に変化させ、中間アニーリングは行わず、単に最終アニーリングのみを行う。
【0045】
反射防止層(ARL)は、以下のステップ、すなわち、
・前記基板の加熱を維持するステップと、
・YPSZ単独のソース上方でサンプルホルダをスパッタリングするとともに、低速で振動させるステップと、
・堆積温度と同一温度及びスパッタリング圧力と同一圧力でアニーリングするステップと
を順次に行うことによって調製することができる。
【0046】
とくに、ARLは、以下の条件、すなわち、
・前記基板又は集熱管を400℃〜600℃、好適には485℃〜515℃で加熱する、
・2.7×10
−2mbar〜3.2×10
−2mbarの範囲内の残留圧力(Ar 6N)、好適には3×10
−2mbarの残留圧力で前記基板をスパッタリングすると同時に、RFソース上方で前記基板を0.1cm/s〜1cm/sの範囲内、好適には0.4cm/s〜0.6cm/sの範囲内の低速で振動させる、
・前記スパッタリングと同一の温度及び圧力で0.2h〜1hの範囲内、好適には0.4h〜0.6hの範囲内の時間にわたりアニーリングする
という条件を確保して調製することができる。
【0047】
さらにこの場合、先行層堆積と同一温度での加熱を維持するのは簡単なことであり、YPSZターゲットの予スパッタリングは不要である。さらに、サーメット層の中間アニーリングは、ARL堆積後に最終アニーリングを行うことから、随意的に省略することができる。
【0048】
本発明の第2の目的は、上述のプロセスによって得られる、集熱器の基板、とくに線形的パラボラトラフの高温集熱管における光学的選択塗膜材料に関する。
【0049】
この材料は、
・反射防止材料の上側層と、
・高融点金属で構成した赤外線反射材料の下側層と、
・金属−セラミック複合材料(サーメット:CERMET)の少なくとも1つの中間層であって、前記金属はWとし、前記セラミック母材はYPSZ(「Yttria-Partially Stabilized Zirconia」)とする、該中間層と
を備える多層構造である。
【0050】
前記反射防止材料はYPSZとし、前記赤外線反射材料はWとし、前記サーメットにおけるWは30体積%〜70体積%の範囲内であり、またセラミックYPSZ母材は70体積%〜30体積%である。
【0051】
この材料は、温度550゜での吸収率α及び半球放射率の値ε
Hがそれぞれ0.893及び0.087である。
【0052】
本発明によるプロセスで得られる材料は、熱電コンバータ吸収体における、また一般的に吸収体デバイスのすべての場合における選択的塗膜として使用することもでき、太陽熱放射の高い吸収率を示すとともに、デバイス自体を高温に加熱することから派生する放射放出を減少する。
【0053】
本発明を説明する幾つかの実施例を示すが、これら実施例は本発明自体を制限するものと見なすべきではない。