【実施例1】
【0014】
実施例1に係る排気装置につき、
図1から
図7を参照して説明する。
図1に示されるように、排気装置1は、主に教育機関や研究施設等に導入され、薬品を用いる化学実験で有害な気体が発生するときや、揮発性の有害物質を取り扱うときに使用される。
図1及び
図2に示されるように、この排気装置1は、前面に開き扉2a,2aを設けたベース2と、前面が開口した箱状の筐体3と、を備え、筐体3がベース2の上に載置されて組み立てられている。
【0015】
筐体3は、底板3a、天板3b、背板3c、側板3d,3dからなり、天板3bには、排気口4が設けられており、この排気口4は、図示しない外気と隔離された所定の隔離室と接続している。この隔離室は、排気口4から吸い込まれた空気を浄化処理することができるようになっている。
【0016】
また、筐体3の前面開口上部には、透光性を有する固定板5が固定されているとともに、固定板5の前面側には、上下にスライドする透光性を有した昇降扉としての昇降板6が設けられている。詳しくは、側板3d,3dには、互いに対向して向き合う凹溝7,7(一方のみ図示)が上下方向に沿って形成されており、この凹溝7,7に昇降板6の両端部が嵌合することにより、昇降板6が凹溝7,7に沿って上下にスライド可能となっている。これら底板3a、天板3b、背板3c、側板3d,3d、固定板5及び昇降板6により仕切られた筐体3の内部は、薬品を用いる化学実験等を行う作業室8と成っている。
【0017】
昇降板6を上方に引き上げることにより、筐体3の開口の下方部を開放可能となっており、筐体3の外部から筐体3の開放部30を介して作業室8内にアクセスし実験を行うことができるようになっている。上記したように、固定板5及び昇降板6は、透光性を有しているため、外部から作業室8内を視認しながら実験等を行えるようになっている。
【0018】
また、筐体3には、前面側下方部から斜め上方に延び、作業室8に連通する吸気通路9が設けられていることにより、昇降板6が閉塞状態であっても吸気通路9を介して外気を作業室8内に導くことができるようになっている。
【0019】
図3及び
図4に示されるように、この排気装置1の昇降板6の下端部には、昇降板6の下端辺を囲繞する把持部材10が取付けられている。把持部材10は、昇降板6の下端部に嵌合する嵌合部材11と、嵌合部材11を骨組みとしてその外周面を包むように取付けられた囲繞部材12と、を備えている。
【0020】
嵌合部材11は、金属や硬質の樹脂等の材料により押し出し成形された第1板体13、第2板体14、及び第3板体15から成る。第1板体13は、昇降板6の前面6aに沿って延びる前方立設部13aと、前方立設部13aの上端から前方斜め下方向に突出する前方突出部13bと、前方立設部13aの下端から後方に延びる底面部13cと、を備えている。第2板体14は、底面部13cから昇降板6の後面6bに沿って延びる下面が後方に屈曲したL字形立設部を有し、この後方立設部の後面には、下面が後方に屈曲したL字形の第3板体15が固定されている。尚、嵌合部材11は、第1板体13、第2板体14、及び第3板体15が連結されて形成されているが、1部材で形成するようにしてもよい。
【0021】
図4に示されるように、囲繞部材12は、押し出し成形された軟質の樹脂であり、前方突出部13bの先端部から前方立設部13aに向けて略水平に延びる水平部12aと、水平部12aから前方立設部13aに沿って下方に延びる延設部12bと、内部が肉抜きされた空隙16を有する下端部12cと、この下端部12cから後上方に向かって突出した断面視直線状の傾斜部12dと、この傾斜部12dの第3板体15付近から昇降板6の後面6bの上方に向けて前方に漸次突出する断面視凹形状の凹傾斜部12eと、第2板体14の上方先端部と接着係合する接着係合部12fと、を有している。また、水平部12aの前端上部には、前方立設部13aに接着係合する接着係合部12gが設けられている。
【0022】
このように把持部材10は、前方突出部13bの前端部が折れ曲がって前方立設部13aに向けて延びた部分に水平部12aの当接部12gを接着係合させるとともに、第2板体14の上方先端部に接着係合部12fを接着係合させることにより、囲繞部材12が嵌合部材11に装着されて形成される。
【0023】
図3に示されるように、把持部材10は、前方立設部13aと第2板体14の後方立設部との隙間に昇降板6を挿入することにより、昇降板6の下端部に嵌合される。把持部材10が昇降板6の下端部に嵌合された後には、把持部材10と昇降板6との隙間に接着剤等が流し込まれることで強固に固着される。
【0024】
図4に示されるように、把持部材10における前方突出部13bは、昇降板6を昇降させる際に、使用者が指を掛けることができる突出片として機能しており、延設部12bは、昇降板6閉塞時において前記突出片と筐体3の底板3aとの間のスペーサとして機能している。
【0025】
この把持部材10は、延設部12bの長さBが前方突出部13bの長さAの2倍となっている。換言すれば、前方突出部13bの長さA:延設部12bの長さB=1:2となっている。このように延設部12bの長さBは、前方突出部13bの長さAの2倍であることから、昇降板6を閉塞した状態であっても、前方突出部13bと筐体3の底板3aとの間に十分な間隙が形成され、当該間隙に指を入れて前方突出部13bに引っ掛けることにより昇降板6を容易に操作できる。また、前方突出部13bの長さAと延設部12bの長さBとの割合を1:2のまま、最小化することにより、昇降板6を介して作業室8内を視認可能な領域を広く確保することができる。
【0026】
次に、排気装置1の前面付近を人が通行すること等に起因して把持部材10の前面側に向けて流れる気流Rが発生することを想定し(
図5(a)参照)、昇降板6に取り付けられた把持部材10に向けて前面側から煙を当てるスモーク実験を行い、その結果(把持部材10の近傍の空気の流れ)について説明する。尚、以下、昇降板6が開放状態であり、開放部30が形成されている状態について説明する。
【0027】
前記気流Rは、
図5(b)に示されるように、その一部が延設部12bに衝突し、水平部12aに沿って移動することで渦流である気流Sとなるとともに、その他の一部が気流Tとして把持部材10の下端部12cの下方を通って作業室8内に流れ込むようになる。また、気流Sの一部は、気流Sbとして前方突出部13bの前方端から上方側に向けて押し上げられる。気流Sは、前方突出部13bの前方端から垂下する仮想線と、延設部12bの上下方向の中央部から水平に延びる仮想線と、を結んだ仮想点Zを中心として安定して回動するようになる。
【0028】
上述したように延設部12bの長さBは、前方突出部13bの長さAの2倍であることから、延設部12bの長さBが気流Sの回動直径と同等となるため、気流Sの先頭側の一部が気流Saとして下端部12cの下方を通って作業室8内に流れ込むようになり、気流Sa以外の気流Sは、再び延設部12b及び水平部12aに沿って回動するようになる。
【0029】
したがって、
図5(c)に示されるように、気流Sが延設部12b及び前方突出部13bの間で滞留することが防がれ、昇降板6の開放部30を介して作業室8内に流れ込むように促されることにより、作業室8内から外部へ向かう気流Yが押し戻されることとなり、作業室8内の空気の外気への漏れ出しを防止できる。
【0030】
また、
図5(c)に示されるように、作業室8内に流入する気流Saは、筐体3の底板3aに沿って流れるとともに、その一部が把持部材10の下部後方に設けられた直線傾斜部12dに沿って斜め上方に移動するようになる。
【0031】
作業室8内において昇降板6の後面6bに沿って流下する気流Xは、凹傾斜部12eに沿って後方にガイドされ、且つ直線傾斜部12dに沿って斜め上方に移動する気流Saに押し上げられるため、当該気流Xと筐体3の底板3aに沿って流れる気流Saとが、昇降板6の開放部30の近傍で合流しない。そのため、気流Xと気流Saとがぶつかり合うことに伴う乱流が、昇降板6の開放部30の近傍で発生することを抑制して、昇降板6の開放部30に向かう気流Yの流れを弱めることができる。
【0032】
図6(a)に示されるように、昇降板6を上昇させた場合には、前方突出部13bの上方の空気が水平部12aの下方側に巻き込まれることにより、前述した気流Sが発生する。また、
図6(b)に示されるように、昇降板6を下降させた場合には、延設部12bの下方側の空気が直線傾斜部12dに沿って斜め上方に押し上げられ、昇降板6の後面6bに沿って流下する気流Xを押し上げて、当該気流Xが外部に流出することを防ぐことができる。
【0033】
また、図示しないが、延設部の長さを前方突出部13bよりも短く設定してスモーク実験を行った場合、延設部の前面に前記気流Rが当たる範囲を十分に確保できず、不安定な乱流が形成されることがわかった。また、延設部の長さを前方突出部13bの2倍の長さより長く設定してスモーク実験を行った場合、延設部及び前方突出部13bの間で渦流が滞留することがわかった。したがって、延設部の長さは、前方突出部13bの所定の長さA以上であり、且つ前方突出部13bの所定長さAの2倍以下で設定される。
【0034】
また、
図7に示されるように、把持部材10の囲繞部材12が軟質の樹脂で一体形成されているとともに、囲繞部材12の下端部12cは、内部が肉抜きされた空隙16が形成されていることから、万が一昇降板6の下降時に指を挟んでも下端部12cにおける指との接触部分が空隙16分弾性変形して緩衝するため、怪我を防止することができる。更に、昇降板6閉塞時に筐体3の底板3aとの当接に緩衝し、筐体3の底板3aを傷つけることがない。