(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6343150
(24)【登録日】2018年5月25日
(45)【発行日】2018年6月13日
(54)【発明の名称】真空バルブおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01H 33/662 20060101AFI20180604BHJP
【FI】
H01H33/662 E
H01H33/662 F
H01H33/662 R
【請求項の数】6
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-11101(P2014-11101)
(22)【出願日】2014年1月24日
(65)【公開番号】特開2015-138732(P2015-138732A)
(43)【公開日】2015年7月30日
【審査請求日】2016年9月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107928
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正則
(72)【発明者】
【氏名】浅利 直紀
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 純一
(72)【発明者】
【氏名】塩入 哲
(72)【発明者】
【氏名】関森 裕希
【審査官】
関 信之
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−282557(JP,A)
【文献】
国際公開第2000/021107(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01H 33/662
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミナ磁器よりなる筒状の真空絶縁容器と、
前記真空絶縁容器の両端開口部に封着された封着金具と、
前記真空絶縁容器に収納された接離自在の一対の接点とを有する真空バルブであって、
前記真空絶縁容器は、アルミナ磁器の基材層と、
前記基材層の内外周の表面に設けられた酸素結合を促進させた酸化促進層とで構成されていることを特徴とする真空バルブ。
【請求項2】
前記酸化促進層を開口部にいくほど絶縁厚さを厚くしたことを特徴とする請求項1に記載の真空バルブ。
【請求項3】
前記真空絶縁容器の外周に絶縁材料をモールドして絶縁層を設けたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の真空バルブ。
【請求項4】
所定形状に成形したアルミナ磁器を加熱炉に搬入して焼成し、
これを再び加熱炉に搬入して再加熱し、
表面に酸素結合を促進させた酸化促進層を設けた真空絶縁容器を製造し、
この真空絶縁容器に接離自在の一対の接点を収納することを特徴とする真空バルブの製造方法。
【請求項5】
前記再加熱を複数回繰り返すことを特徴とする請求項4に記載の真空バルブの製造方法。
【請求項6】
前記再加熱を温度1250℃以上とすることを特徴とする請求項4または請求項5に記載の真空バルブの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、真空絶縁容器の沿面絶縁特性を向上し得る真空バルブおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、接離自在の一対の接点を有する真空バルブの真空絶縁容器には、絶縁特性の優れたアルミナ磁器が用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
一方、最近の真空バルブは、高電圧化の傾向にあり、電極の電界緩和や破壊電界に及ぼす面積効果などを採用して、真空中の耐電圧向上策が図られている。このような耐電圧向上策では、真空ギャップ間での特性改善が図れるものの、真空絶縁容器の沿面絶縁での特性改善には限界がある。即ち、真空中の沿面絶縁破壊は、真空ギャップ間の絶縁破壊と現象が多少異なり、電極から放出された電界電子が一旦、沿面に帯電し、臨界電界に達すると二次電子を放出し、絶縁破壊に到るものとなる。帯電の抑制には、抵抗率を下げるなど真空絶縁容器に他の成分を付加して行うことができるが、基本的な成分を変えずに帯電の抑制をすることには限界があった。なお、帯電時には、発光を伴い、部分放電として検出される。
【0004】
このため、アルミナ磁器の成分を変えずに沿面絶縁特性を向上させることができるものが望まれていた。ここで、エポキシ樹脂で外周をモールドした真空バルブでは、外部絶縁が補強されているので(例えば、特許文献2参照)、少なくとも内部絶縁となる真空中での沿面絶縁特性の向上が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−15919号公報
【特許文献2】特開2009−193734号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、真空絶縁容器の沿面での絶縁破壊前に起こる帯電現象を抑制し、沿面絶縁特性の向上を図ることのできる真空バルブおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、実施形態の真空バルブは、アルミナ磁器よりなる筒状の真空絶縁容器と、前記真空絶縁容器の両端開口部に封着された封着金具と、前記真空絶縁容器に収納された接離自在の一対の接点とを有する真空バルブであって、前記真空絶縁容器は、
アルミナ磁器の基材層と、前記基材層の内外周の表面に設けられた酸素結合を促進させた酸化促進層とで構成されていることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施例1に係る真空バルブの構成を示す断面図。
【
図2】本発明の実施例1に係る帯電による発光強度と部分放電特性の関係を示す特性図。
【
図3】本発明の実施例1に係る真空絶縁容器の熱処理温度と部分放電特性の関係を示す特性図。
【
図4】本発明の実施例1に係る真空バルブの製造方法を説明するフロー図。
【
図5】本発明の実施例2に係る真空バルブの構成を示す要部拡大断面図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明の実施例を説明する。
【実施例1】
【0010】
先ず、本発明の実施例1に係る真空バルブを
図1〜
図4を参照して説明する。
図1は、本発明の実施例1に係る真空バルブの構成を示す断面図、
図2は、本発明の実施例1に係る帯電による発光強度と部分放電特性の関係を示す特性図、
図3は、本発明の実施例1に係る真空絶縁容器の熱処理温度と部分放電特性の関係を示す特性図、
図4は、本発明の実施例1に係る真空バルブの製造方法を説明するフロー図である。
【0011】
図1に示すように、真空バルブには、アルミナ磁器からなる筒状の真空絶縁容器1が用いられている。真空絶縁容器1の両端開口部には、固定側封着金具2と可動側封着金具3が封着されている。固定側封着金具2には、固定側通電軸4が貫通固定され、真空絶縁容器1内の端部に固定側接点5が固着されている。固定側接点5に対向して接離自在の可動側接点6が、可動側封着金具3の開口部を移動自在に貫通する可動側通電軸7の端部に固着されている。可動側通電軸7の中間部には、伸縮自在のベローズ8の一方端が封着され、他方端が可動側封着金具3の開口部に封着されている。固定側、可動側接点5、6の周りには、筒状のアークシールド9が設けられ、真空絶縁容器1内面に固定されている。ここで、真空絶縁容器1は、内周面に設けられた
アルミナ磁器の酸素結合を促進させた第1の酸化促進層1aと、外周面に設けられた第1の酸化促進層1aと同様の第2の酸化促進層1bと、これらの厚さ方向の中間に設けられた
アルミナ磁器の基材層1cで構成されている。これらにより、真空バルブが構成されている。
【0012】
次に、モールドした真空バルブの構成を説明する。真空絶縁容器1の周りには、エポキシ樹脂のような絶縁材料をモールドした絶縁層10が設けられている。絶縁層10内には、固定側、可動側封着金具2、3の周りにそれぞれ固定側、可動側電界緩和シールド11、12が埋め込まれている。絶縁層10の軸方向の両端には、テーパ状の固定側、可動側界面接続部13、14が設けられており、他の電気機器との接続が行われる。絶縁層10の外周には、固定側、可動側界面接続部13、14を除き、導電性塗料を塗布した接地層15が設けられている。
【0013】
次に、真空バルブの製造方法を
図2を参照して説明する。
【0014】
図2に示すように、先ず、所定形状に成形したものを(st1)、従来方法と同様に、加熱炉に搬入し、温度1000〜1400℃で仮焼、焼成する(st2)。必要により釉薬処理を施し、真空絶縁容器1を製造する(st3)。この状態において、従来では、次工程となる接点5、6などの組立てを行っていた。真空絶縁容器1では、全体が
アルミナ磁器の基材層1cとなっているものの、一部に酸素の結合が欠損した酸素欠陥部が現れることがある。
【0015】
このため、再度、加熱炉に搬入し、後述する温度で1〜2時間の再加熱を行い、再焼成する(st4)。加熱炉には、大気が流通するものの、外部から加熱空気を送り込み、酸素の供給を行ってもよい(st5)。また、再加熱は、複数回、繰り返してもよい(st6)。このような加熱により、酸素結合が進み、少なくとも内外周の表面では、酸素欠陥部が抑制された第1、第2の酸化促進層1a、1bが形成される。なお、長時間の再加熱で真空絶縁容器1全体が酸化促進層となってもよい。このような真空絶縁容器1を用い、次工程となる接点5、6などの組立てを行い(st7)、真空バルブを製造する(st8)。
【0016】
次に、温度を変化させて再加熱を行った真空絶縁容器1の発光強度特性と部分放電特性を
図3、
図4を参照して説明する。これらの測定は、真空バルブをモデル化したアルミナ磁器板を用い、電界分布などが相似的になるようにし、真空中で行ったものである。また、発光強度は、カソードルミネッセンスの分光測定で最も検出し易かった不純物のCrをベースにデータをまとめた。再加熱を行わない従来品を無処理とした。
【0017】
図3、
図4に示すように、温度800℃−1時間で再加熱すると、無処理と比べて発光強度が低下し、部分放電特性が上昇する。再加熱の温度を1250℃、1400℃と上昇させると、発光強度は更に低下し、部分放電特性も更に上昇する。これは、従来品では酸素欠陥部で帯電を起こして発光していたものが、再加熱により、酸素欠陥部が修復され、帯電が起き難くなったものと考えられる。再加熱の温度1250℃以上では、発光強度が32%以下となり、部分放電特性が急激に上昇し、大きな効果が出ている。なお、再加熱中に新鮮な加熱空気を送り込むとか、再加熱を2〜3回繰り返すと、更に部分放電特性を向上させることができる。
【0018】
このような酸化促進層1a、1bを有する真空絶縁容器1は、沿面絶縁特性を大きく向上させ、単独の真空バルブ、絶縁層10を設けたモールド真空バルブで用いることができる。
【0019】
上記実施例1の真空バルブによれば、真空絶縁容器1の製造時に再加熱を行い、表面に酸素欠陥部を修復した酸化促進層1a、1bを設けているので、帯電が起き難くなり、沿面絶縁特性を向上させることができる。
【実施例2】
【0020】
次に、本発明の実施例2に係る真空バルブを
図5を参照して説明する。
図5は、本発明の実施例2に係る真空バルブの構成を示す要部拡大断面図である。なお、この実施例2が実施例1と異なる点は、酸化促進層の形状である。
図5において、実施例1と同様の構成部分においては、同一符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0021】
図5に示すように、真空絶縁容器1には、筒状の開口部にいくほど絶縁厚さが厚くなる第1、第2の酸化促進層1a、1bを設けている。例えば、再加熱時に、開口部に熱風が直接かかるようにすれば設けることができる。
【0022】
上記実施例2の真空バルブによれば、実施例1による効果のほかに、電界電子が固定側(可動側)封着金具2、(3)から最も多く放出されるので、開口部付近の酸化促進層1a、1bを厚くすることで帯電をより起き難くすることができる。
【0023】
以上述べたような実施形態によれば、真空絶縁容器の沿面での帯電現象を抑えることができ、沿面絶縁特性を向上させることができる。
【0024】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0025】
1 真空絶縁容器
1a 第1の酸化促進層
1b 第2の酸化促進層
1c 基材層
2 固定側封着金具
3 可動側封着金具
5 固定側接点
6 可動側接点
10 絶縁層
15 接地層