特許第6343164号(P6343164)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6343164
(24)【登録日】2018年5月25日
(45)【発行日】2018年6月13日
(54)【発明の名称】サーマルインクジェット記録方法
(51)【国際特許分類】
   B41M 5/00 20060101AFI20180604BHJP
   C09D 11/322 20140101ALI20180604BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20180604BHJP
【FI】
   B41M5/00 100
   C09D11/322
   B41M5/00 120
   B41J2/01 501
【請求項の数】5
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2014-78985(P2014-78985)
(22)【出願日】2014年4月7日
(65)【公開番号】特開2014-218078(P2014-218078A)
(43)【公開日】2014年11月20日
【審査請求日】2017年3月16日
(31)【優先権主張番号】特願2013-83305(P2013-83305)
(32)【優先日】2013年4月11日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078732
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 保
(74)【代理人】
【識別番号】100089185
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 誠
(72)【発明者】
【氏名】田中 聡
(72)【発明者】
【氏名】福田 輝幸
【審査官】 樋口 祐介
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/084763(WO,A1)
【文献】 特開2011−190400(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/043700(WO,A1)
【文献】 特開2010−189626(JP,A)
【文献】 特開2007−099916(JP,A)
【文献】 特開2011−132497(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M5/00,5/50−5/52
C09D11/00−13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料を含有するポリマー粒子を含む水系インクを熱エネルギーの作用により記録ヘッドから吐出する、サーマルインクジェット記録方法であって、ポリマー粒子を構成するポリマーの全構成単位中、炭素数3以上8以下の炭化水素基を有するアクリル酸エステル由来の構成単位が78質量%以上88質量%以下であり、アクリル酸由来の構成単位が22質量%以下12質量%以上であり、該水系インクにおける、ポリマーの量に対する顔料の量の質量比〔顔料/ポリマー〕が、1.0以上6.0以下である、サーマルインクジェット記録方法。
【請求項2】
前記炭化水素基を有するアクリル酸エステルの炭化水素基が、炭素数4以上6以下のアルキル基及び炭素数6以上7以下の芳香族基から選ばれる1種以上である、請求項1に記載のサーマルインクジェット記録方法。
【請求項3】
前記炭化水素基を有するアクリル酸エステルが、ブチルアクリレート及びベンジルアクリレートから選ばれる1種以上である、請求項1に記載のサーマルインクジェット記録方法。
【請求項4】
ポリマーの重量平均分子量が5,000以上40万以下である、請求項1〜3のいずれかに記載のサーマルインクジェット記録方法。
【請求項5】
顔料を含有するポリマー粒子の平均粒径が50nm以上200nm以下である、請求項1〜4のいずれかに記載のサーマルインクジェット記録方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サーマルインクジェット記録方法、該方法に用いられるサーマルインクジェット記録用水分散体、及び該水分散体を含有するサーマルインクジェット記録用水系インクに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、非常に微細なノズルからインク液滴を記録媒体に直接吐出し、付着させて、文字や画像を得る記録方式である。この方式は、フルカラー化が容易で、かつ安価であり、記録媒体として普通紙が使用可能、被印字物に対して非接触、という数多くの利点があるため普及が著しい。
インクジェット記録に使用されるインクとしては、耐水性や耐候性の観点から、近年、顔料、ポリマー等を水に分散させた顔料系インクが主に使用されている。
【0003】
また、インクジェット記録方法には、インクを吐出させる方式として、機械的なエネルギーを利用するピエゾ方式と、熱エネルギーを利用するサーマル方式がある。
ポリマーを含有するインクでは、インクジェット記録中にインク液滴の吐出間隔が大きくなると、吐出ノズル内の増粘によるインク液滴の吐出不良が起き易い。これを避けるためには、インク液滴の吐出力が小さいピエゾ方式よりも吐出力が大きいサーマル方式を採用することが好ましい。
一方、サーマル方式はインクに熱エネルギーを印加するため、サーマル記録ヘッドのヒーター部分に煤等の付着物が堆積する現象、いわゆるコゲーション(抵抗素子表面上の残渣沈着)の問題が生じる。
【0004】
例えば、特許文献1には、画像品質向上のために、近年、抵抗素子の表面温度が高くなる傾向にあり、サーマル方式におけるコゲーションは、熱効率の低下、インクの吐出効率の低下、更にはインク液滴の吐出不良や吐出速度の低下による画像品位の低下を招くため大きな問題であることが示されている。
そして、特許文献1には、吐出性の優れたサーマルインクジェット記録用水分散体の製造方法として、メタアクリル酸エステル由来の構成単位を含有するポリマー粒子等の分散処理時に、揮発性塩基を用いてポリマーのアニオン性基の中和を過剰に行うことで、サーマルヘッドにおける吐出性を高め、分散処理後に揮発性塩基を除去することで、記録ヘッドの耐久性を維持できる方法が開示されている。
また、特許文献2には、カラーバランス等に優れた、高品位の画像を形成することが可能なサーマルインクジェット記録に適したインクセットとして、少なくとも2種のインク組成物と、該インク組成物と反応し凝集せしめる反応液とを有し、前記インク組成物が少なくともアニオン性物質により分散されている顔料を含有し、かつ反応前後のインク中の顔料の粒径が同程度であるインクセットが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−138297号公報
【特許文献2】特開2004−107453号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の方法でサーマルインクジェット記録用水分散体を製造しても、コゲーションの発生する場合があることが判明し、また特許文献2に記載のインクセットも満足しうるものではない。
本発明は、コゲーションの発生を十分に抑制できるサーマルインクジェット記録方法、該方法に用いられるサーマルインクジェット記録用水分散体、及び該水分散体を含有するサーマルインクジェット記録用水系インクを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、顔料を含有するポリマー粒子を構成するポリマーの構成単位として、特定炭素数の炭化水素基を有するアクリル酸エステル由来の構成単位と、アクリル酸由来の構成単位とを有するポリマーを用いることにより、サーマル記録ヘッドのヒーター部分におけるコゲーションの発生を抑制できることを見出した。
すなわち、本発明は、次の〔1〕〜〔3〕を提供する。
〔1〕顔料を含有するポリマー粒子を含む水系インクを熱エネルギーの作用により記録ヘッドから吐出する、サーマルインクジェット記録方法であって、ポリマー粒子を構成するポリマーの全構成単位中、炭素数3以上8以下の炭化水素基を有するアクリル酸エステル由来の構成単位が78質量%以上88質量%以下であり、アクリル酸由来の構成単位が22質量%以下12質量%以上である、サーマルインクジェット記録方法。
〔2〕顔料を含有するポリマー粒子を含むサーマルインクジェット記録用水分散体であって、ポリマー粒子を構成するポリマーの全構成単位中、炭素数3以上8以下の炭化水素基を有するアクリル酸エステル由来の構成単位が78質量%以上88質量%以下であり、アクリル酸由来の構成単位が22質量%以下12質量%以上である、サーマルインクジェット記録用水分散体。
〔3〕前記〔2〕の水分散体を含有する、サーマルインクジェット記録用水系インク。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、コゲーションの発生を十分に抑制できるサーマルインクジェット記録方法、該方法に用いられるサーマルインクジェット記録用水分散体、及び該水分散体を含有するサーマルインクジェット記録用水系インクを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[サーマルインクジェット記録方法]
本発明のサーマルインクジェットの記録方法は、顔料を含有するポリマー粒子を含む水系インクを熱エネルギーの作用により記録ヘッドから吐出する、サーマルインクジェット記録方法であって、ポリマー粒子を構成するポリマーの全構成単位中、炭素数3以上8以下の炭化水素基を有するアクリル酸エステル由来の構成単位が78質量%以上88質量%以下であり、アクリル酸由来の構成単位が22質量%以下12質量%以上である。
本発明によりコゲーションの発生が抑制されるメカニズムは明確ではないが、以下のように考えられる。
一般に、ポリマー粒子を含有するインクをサーマルインクジェット記録に供すると、ポリマー粒子がサーマル記録ヘッドのヒーターの抵抗素子表面上に堆積し、コゲーションが発生すると考えられる。ここで、抵抗素子表面のインクに接する部分は負に帯電しているが、本発明に用いられるポリマー粒子は、親水基であるアクリル酸のカルボキシル基が負電荷を有するため、抵抗素子表面と静電反発力が生じることで、ポリマー粒子が抵抗素子表面上へ堆積することが抑制されると考えられる。
一方、ポリマーが顔料を内包するためには疎水基が必要である。本発明に用いられるポリマーの構成単位となるモノマーは、共重合性が高く、前記アクリル酸エステル由来の構成単位とアクリル酸由来の構成単位を特定比率で有することにより、親水基と疎水基が特定の比率となる。
このため、ポリマーが顔料を内包する機能と、顔料を含有(内包)するポリマー粒子が抵抗素子表面上に堆積するのを抑制する機能が適切に両立し、コゲーションの発生を抑制すると考えられる。
【0010】
サーマルインクジェット記録方法ではインクの吐出方式として、サーマル方式が用いられる。サーマル方式は、熱エネルギーの作用を受けたインクが急激な体積変化を生じ、この状態変化による作用力によって、インクをノズルから吐出させる方式であり、例えば米国特許第4723129号、米国特許第4740796号に開示されている基本的な原理を用いて行うものが好ましい。より具体的には、特公昭61−59911号公報に記載されている方式等が挙げられる。
本発明のサーマルインクジェット記録方法において用いられる記録媒体は、特に制限されないが、紙媒体、フィルムであることが好ましく、紙媒体であることがより好ましい。紙媒体としては、普通紙、フォーム用紙、コート紙、写真用紙等が挙げられる。
【0011】
(インクの吐出条件)
本発明のサーマルインクジェット記録方法におけるインクの吐出条件としては、以下の条件が好ましく挙げられる。
ヒーターの抵抗素子表面温度は、サーマルインクジェット記録方式の効率性、及び本発明の効果を顕著に発揮させる観点から、好ましくは150℃以上、より好ましくは200℃以上、更に好ましくは250℃以上であり、そして、好ましくは800℃以下、より好ましくは700℃以下、更に好ましくは600℃以下である。
印加電圧は、サーマルインクジェット記録方式の効率性、及び本発明の効果を顕著に発揮させる観点から、好ましくは1V以上、より好ましくは3V以上、更に好ましくは5V以上であり、そして、好ましくは25V以下、より好ましくは20V以下、更に好ましくは18V以下である。
駆動周波数は、コゲーションの発生を抑制する観点から、好ましくは0.1kHz以上、より好ましくは1kHz以上、更に好ましくは3kHz以上であり、そして、好ましくは20kHz以下、より好ましくは15kHz以下、更に好ましくは10kHz以下である。
パルス幅は、コゲーションの発生を抑制する観点から、好ましくは0.01μs以上、より好ましくは0.1μs以上、更に好ましくは0.3μs以上であり、そして、好ましくは3.0μs以下、より好ましくは2.0μs以下、更に好ましくは1.5μs以下である。
【0012】
インクの吐出液滴の量は、気流の影響を避け、インク液滴の着弾位置の精度を維持する観点から、1滴あたり好ましくは0.5pL以上、より好ましくは1.0pL以上、更に好ましくは1.5pL以上、より更に好ましくは3.0pL以上である。また、小さな文字を印刷した場合に、文字太りによって文字がつぶれるおそれを回避し、得られる画質を向上する観点から、好ましくは30pL以下、より好ましくは10pL以下、更に好ましくは5.0pL以下である。
インク液滴の平均吐出速度は、好ましくは6m/s以上、より好ましくは8m/s以上、更に好ましくは10m/s以上であり、そして、好ましくは20m/s以下、より好ましくは18m/s以下、更に好ましくは15m/s以下である。
なお、インク液滴の平均吐出速度は、実施例に記載の方法により算出することができる。
以下、サーマルインクジェット記録用水分散体に用いられる各成分、水分散体及び水系インクについて説明する。
【0013】
本発明に用いられるサーマルインクジェット記録用水分散体は、顔料を含有するポリマー粒子を含む。
<顔料>
本発明に用いられる顔料は、無機顔料及び有機顔料のいずれであってもよい。また、必要に応じて、それらと体質顔料を併用することもできる。
無機顔料としては、例えば、カーボンブラック、金属酸化物、金属硫化物、金属塩化物等が挙げられる。これらの中では、特に黒色水系インクにおいては、カーボンブラックが好ましい。カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、サーマルランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等が挙げられる。
有機顔料としては、例えば、アゾ顔料、ジアゾ顔料、フタロシアニン顔料、キナクリドン顔料、イソインドリノン顔料、ジオサキジン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔、チオインジコ顔料、アントラキノン顔料、キノフタロン顔料等が挙げられる。
好ましい有機顔料の具体例としては、C.I.ピグメント・イエロー、C.I.ピグメント・レッド、C.I.ピグメント・バイオレット、C.I.ピグメント・ブルー、及びC.I.ピグメント・グリーンからなる群から選ばれる1種以上の各品番製品が挙げられる。体質顔料としては、シリカ、炭酸カルシウム、タルク等が挙げられる。
顔料としては、いわゆる自己分散型顔料を用いることもできる。自己分散型顔料とは、アニオン性親水基又はカチオン性親水基の1種以上を直接又は他の原子団を介して顔料の表面に結合することで、界面活性剤や樹脂を用いることなく水系媒体に分散可能である顔料を意味する。ここで、アニオン性親水基としては、特にカルボキシ基(−COOM1)、スルホン酸基(−SO31)が好ましく(前記式中、M1は、水素原子、アルカリ金属、又はアンモニウムである)、カチオン性親水基としては、第4級アンモニウム基が好ましい。
上記の顔料は、単独で又は2種以上を混合して使用することができる。
【0014】
<顔料を含有するポリマー粒子>
(ポリマー粒子を構成するポリマー)
本発明で用いられるポリマーは、ポリマーの全構成単位中、炭素数3以上8以下の炭化水素基を有するアクリル酸エステル由来の構成単位が78質量%以上88質量%以下であり、アクリル酸由来の構成単位が22質量%以下12質量%以上である。
前記アクリル酸エステル由来の構成単位の含有量は、ポリマーの全構成単位中、好ましくは79質量%以上、より好ましくは80質量%以上であり、そして、好ましくは87質量%以下、より好ましくは86質量%以下である。
アクリル酸由来の構成単位の含有量は、ポリマーの全構成単位中、好ましくは21質量%以下、より好ましくは20質量%以下であり、そして、好ましくは13質量%以上、より好ましくは14質量%以上である。
【0015】
前記アクリル酸エステルにおける置換基である炭素数3以上8以下の炭化水素基としては、アルキル基及び芳香族基が挙げられる。
前記アルキル基の炭素数は、コゲーションの発生を抑制する観点から、好ましくは4以上であり、そして、好ましくは6以下、より好ましくは5以下である。
アルキル基を有するアクリル酸エステルの具体例としては、(イソ)プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、(イソ又はtert-)ブチルアクリレート、(イソ)アミルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、(イソ)オクチルアクリレート等が挙げられ、ブチルアクリレートが好ましい。なお、「(イソ)」は、この基が存在する場合としない場合の双方を意味し、この基が存在しない場合はノルマルを示す。
前記芳香族基の炭素数は、コゲーションの発生を抑制する観点から、好ましくは6以上であり、そして、好ましくは7以下である。
芳香族を有する炭化水素基を有するアクリル酸エステルの具体例としては、ベンジルアクリレート、フェノキシエチルアクリレートが挙げられ、ベンジルアクリレートが好ましい。
【0016】
本発明で用いられるポリマーは、本発明の効果を損なわない範囲で、前記アクリル酸エステル由来の構成単位、及びアクリル酸由来の構成単位以外の構成単位を含んでもよいが、実質的に前記アクリル酸エステル由来の構成単位とアクリル酸由来の構成単位とからなるものであり、他の構成単位を含まないことが好ましい。すなわち、前記アクリル酸エステル由来の構成単位とアクリル酸由来の構成単位の合計量は、ポリマーの全構成単位中、好ましくは95質量%以上、より好ましくは98質量%以上、更に好ましくは100質量%である。
【0017】
(ポリマーの製造)
本発明で用いられるポリマーは、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法等の公知の重合法により、実質的に炭素数3以上8以下の炭化水素基を有するアクリル酸エステル及びアクリル酸からなるモノマー混合物を共重合させることにより製造することができる。これらの重合法の中では、溶液重合法が好ましい。
溶液重合法で用いる溶媒は特に限定されないが、極性有機溶媒が好ましい。極性有機溶媒が水混和性を有する場合には、水と混合して用いることもできる。極性有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール等の炭素数1〜3の脂肪族アルコール;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;酢酸エチル等のエステル類等が挙げられる。これらの中では、メタノール、エタノール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、又はこれらの1種以上と水との混合溶媒が好ましい。
【0018】
重合の際には、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ化合物や、t−ブチルペルオキシオクトエート、ジベンゾイルオキシド等の有機過酸化物等の公知のラジカル重合開始剤を用いることができる。
ラジカル重合開始剤の量は、モノマー混合物1モルあたり、好ましくは0.001モル以上、より好ましくは0.002モル以上、更に好ましくは0.004モル以上であり、そして、好ましくは2モル以下、より好ましくは1モル以下、更に好ましくは0.1モル以下、より更に好ましくは0.05モル以下、より更に好ましくは0.01モル以下である。
重合の際には、さらに、オクチルメルカプタン、2−メルカプトエタノール等のメルカプタン類、チウラムジスルフィド類等の公知の重合連鎖移動剤を添加してもよい。
【0019】
モノマー混合物の重合条件は、使用するラジカル重合開始剤、モノマー、溶媒の種類等によって異なるので一概には決定することができない。通常、重合温度は、好ましくは30℃以上、より好ましくは40℃以上、更に好ましくは50℃以上であり、そして、好ましくは100℃以下、より好ましくは80℃以下、更に好ましくは70以下である。重合時間は、好ましくは30分以上、より好ましくは1時間以上、更に好ましくは2時間以上であり、そして、好ましくは20時間以下、より好ましくは15時間以下、更に好ましくは10時間以下である。また、重合時間は、好ましくは1〜20時間、より好ましくは2〜10時間である。
重合雰囲気は、窒素ガス、アルゴン等の不活性ガスの雰囲気であることが好ましい。
重合反応の終了後、反応溶液から再沈澱、溶媒留去等の公知の方法により、生成したポリマーを単離することができる。また、得られたポリマーは、再沈澱を繰り返したり、膜分離、クロマトグラフ法、抽出法等により、未反応のモノマー等を除去して精製することができる。
【0020】
(ポリマーの重量平均分子量)
ポリマーの重量平均分子量は、得られる印字物の印字濃度、光沢性、及び顔料の分散安定性の観点から、好ましくは5,000以上、より好ましくは1万以上、更に好ましくは2万以上、より更に好ましくは3万以上、より更に好ましくは5万以上であり、そして、好ましくは40万以下、より好ましくは30万以下、更に好ましくは20万以下、より更に好ましくは10万以下、より更に好ましくは9万以下である。なお、ポリマーの重量平均分子量は、実施例記載の方法により測定することができる。
【0021】
(ポリマーの中和)
前記ポリマーは、中和剤により中和して用いることが好ましい。中和剤を用いて中和する場合の中和度に特に限定はない。通常、最終的に得られる水分散体のpHが、例えば4.5以上、10以下であることが好ましい。前記ポリマーの望まれる中和度により、pHを決めることもできる。
中和剤としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、トリブチルアミン等の塩基が挙げられる。これらの中でも水酸化ナトリウム、及びアンモニアから選ばれる1種以上が好ましい。
塩生成基の中和度は、好ましくは210%以上、より好ましくは230%以上、更に好ましくは250%以上であり、そして、好ましくは500%以下、より好ましくは450%以下、更に好ましくは400%以下である。
ここで中和度は、下記式によって求めることができる。
{[中和剤の質量(g)/中和剤の当量]/[ポリマーの酸価(KOHmg/g)×ポリマーの質量(g)/(56×1000)]}×100
酸価は、ポリマーの構成単位から、計算で算出することができる。又は、適当な溶剤(例えばメチルエチルケトン)にポリマーを溶解して、滴定する方法でも求めることができる。
【0022】
(顔料を含有するポリマー粒子の水分散体の製造)
本発明おいては、ポリマー粒子は、顔料を安定に分散させるために、顔料を含有するポリマー粒子の形態で用いられる。顔料を含有するポリマー粒子の水分散体の製造方法は、特に限定はないが、次の工程(I)〜(III)を有する方法によれば、効率的に行うことができる。
工程(I):ポリマー、有機溶媒、顔料、水、及び必要により中和剤を含有する混合物を得る工程
工程(II):工程(I)で得られた混合物を分散処理して、顔料を含有するポリマー粒子の分散体を得る工程
工程(III):工程(II)で得られた分散体から有機溶媒を除去して、顔料を含有するポリマー粒子の水分散体を得る工程
【0023】
工程(I)では、まず、前記ポリマーを有機溶媒に溶解させ、次に顔料、水、及び必要に応じて中和剤、界面活性剤等を、得られた有機溶媒溶液に加えて混合し、水中油型の分散体を得る。得られた混合物中、顔料は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは12質量%以上であり、そして、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下、更に好ましくは20質量%以下である。
有機溶媒は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは15質量%以上であり、そして、好ましくは70質量%以下、より好ましくは50質量%以下、更に好ましくは30質量%以下である。
ポリマーは、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、更に好ましくは3質量%以上であり、そして、好ましくは40質量%以下、より好ましくは20質量%以下、更に好ましくは10質量%以下である。
水は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、更に好ましくは40質量%以上であり、そして、好ましくは75質量%以下、より好ましくは70質量%以下、更に好ましくは65質量%以下である。
前記のとおり、ポリマーは、中和剤により中和して用いることが好ましいが、ポリマーを予め中和しておいてもよい。
【0024】
有機溶媒としては、エタノール、イソプロパノール、イソブタノール等のアルコール系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジエチルケトン等のケトン系溶媒及びジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒が挙げられる。有機溶媒は、水100gに対する溶解量が20℃において、好ましくは5g以上、より好ましくは10g以上、更に好ましくは15g以上であり、そして、好ましくは50g以下、より好ましくは35g以下、更に好ましくは30g以下のものであり、特に、メチルエチルケトン及びメチルイソブチルケトンが好ましい。また、有機溶媒は、水100gに対する溶解量が20℃において、好ましくは5〜80g、より好ましくは10〜50gである。
【0025】
工程(II)における混合物の分散方法に特に限定はない。本分散だけでポリマー粒子の平均粒径を所望の粒径となるまで微粒化することもできるが、好ましくは予備分散させた後、さらに剪断応力を加えて本分散を行い、ポリマー粒子の平均粒径を所望の粒径とするように制御することが好ましい。
工程(II)における分散温度は、好ましくは5℃以上、より好ましくは7℃以上、更に好ましくは10℃以上であり、そして、好ましくは50℃以下、より好ましくは35℃以下、更に好ましくは25℃以下である。
混合物を予備分散させる際には、アンカー翼等の一般に用いられている混合撹拌装置を用いることができる。混合撹拌装置の中には、ウルトラディスパー〔浅田鉄鋼株式会社、商品名〕、エバラマイルダー〔株式会社荏原製作所、商品名〕、TKホモミクサー〔プライミクス株式会社、商品名〕等の高速混合撹拌装置が好ましい。
本分散に剪断応力を与える手段としては、例えば、ロールミル、ビーズミル、ニーダー、エクストルーダー等の混練機、高圧ホモゲナイザー〔株式会社イズミフフードマシナリ、商品名〕、ミニラボ8.3H型〔Rannie社、商品名〕に代表されるホモバルブ式の高圧ホモジナイザー、マイクロフルイダイザー〔Microfluidics社、商品名〕、ナノマイザー〔ナノマイザー株式会社、商品名〕等のチャンバー式の高圧ホモジナイザー等が挙げられる。これらの装置は複数を組み合わせることもできる。これらの中では、顔料の小粒子径化の観点から、高圧ホモジナイザーが好ましい。
また、超音波ホモジナイザーを用いることもできる。例えば、超音波ホモジナイザーとしては、周波数20kHz以上2000kHz以下、反応総液量の1リットル当たりのワット数が好ましくは20W以上、より好ましくは35W以上、更に好ましくは50W以上であり、そして、好ましくは1000W以下、より好ましくは900W以下、更に好ましくは800W以下であるものが望ましい。また、前記反応総液量の1リットル当たりのワット数は、好ましくは20〜1000W、より好ましくは50〜800Wである。かかる超音波分散機は、株式会社日本精機製作所、アレックス社等から市販されている。これらの装置は複数を組み合わせることもできる。
【0026】
工程(III)では、工程(II)で得られた分散体から、公知の方法で有機溶媒を留去して水系にすることで、顔料を含有するポリマー粒子の水分散体を得ることができる。得られたポリマー粒子を含む水分散体中の有機溶媒は実質的に除去されており、有機溶媒の量は好ましくは0.5質量%以下、より好ましくは0.1質量%以下、更に好ましくは0.01質量%以下である。
工程(III)で得られた水分散体は、前記のとおり、顔料を含有するポリマー粒子が水を主媒体とする中に分散しているものである。
得られた水分散体中の顔料を含有するポリマー粒子の平均粒径は、分散安定性、吐出性の観点から、好ましくは50nm以上、より好ましくは70nm以上、更に好ましくは90nm以上であり、そして、好ましくは200nm以下、より好ましくは170nm以下、更に好ましくは150nm以下、より更に好ましくは120nm以下である。
なお、顔料を含有するポリマー粒子の平均粒径は実施例記載の方法により測定することができる。
【0027】
[サーマルインクジェット記録用水分散体]
本発明のサーマルインクジェット記録用水分散体中の各成分の含有量は、以下のとおりである。
本発明の水分散体中に含まれる顔料の含有量は、印字濃度を高める観点から、好ましくは3質量%以上、より好ましくは6質量%以上、更に好ましくは9質量%以上、より更に好ましくは12質量%以上であり、そして、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下、更に好ましくは30質量%以下、より更に好ましくは20質量%以下である。
本発明の水分散体における、ポリマーの量に対する顔料の量の質量比〔顔料/ポリマー〕は、分散安定性の観点から、好ましくは1.0以上、より好ましくは1.5以上、更に好ましくは1.7以上であり、そして、好ましくは9.0以下、より好ましくは6.0以下、更に好ましくは5.0以下、より更に好ましくは4.0以下、より更に好ましくは2.5以下である。
また、本発明の水分散体における、顔料の質量に対するポリマーのカルボキシル基のモル量〔−COOH(mmol)/顔料(g)〕は、吐出速度を向上させる観点から、好ましくは0.65mmol/g以上、より好ましくは0.70mmol/g以上、更に好ましくは0.80mmol/g以上であり、そして、好ましくは1.40mmol/g以下、より好ましくは1.30mmol/g以下、更に好ましくは1.25mmol/g以下である。
本発明の水分散体中の水の含有量は、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上、更に好ましくは55質量%以上、より更に好ましくは70質量%以上であり、そして、好ましくは90質量%以下、より好ましくは85質量%以下、更に好ましくは80質量%以下である。
【0028】
本発明の水分散体の表面張力(20℃)は、好ましくは30mN/m以上、より好ましくは33mN/m以上、更に好ましくは35mN/m以上であり、そして、好ましくは65mN/m以下、より好ましくは63mN/m以下、更に好ましくは60mN/m以下である。
本発明の水分散体の20質量%(固形分)の粘度(20℃)は、水系インクとした際に好ましい粘度とするために、好ましくは1.5mPa・s以上、より好ましくは2mPa・s以上、更に好ましくは3mPa・s以上であり、そして、好ましくは7mPa・s以下、より好ましくは6mPa・s以下、更に好ましくは5mPa・s以下である。
なお、粘度は実施例に記載の方法により測定することができる。
本発明の水分散体はそのまま水系インクとして用いることができるが、必要に応じて、さらに通常用いられる湿潤剤、浸透剤、分散剤、粘度調整剤、消泡剤、防黴剤、防錆剤等を添加して調整することができる。
得られる水分散体における、顔料を含有するポリマー粒子の平均粒径は、プリンターのノズルの目詰まり防止及び分散安定性の観点から、好ましくは50nm以上、より好ましくは70nm以上、更に好ましくは90nm以上であり、そして、好ましくは200nm以下、より好ましくは170nm以下、更に好ましくは150nm以下、より更に好ましくは120nm以下である。
なお、顔料を含有するポリマー粒子の平均粒径は実施例に記載の方法により測定することができる。
【0029】
[サーマルインクジェット記録用水系インク]
本発明のサーマルインクジェット記録用水系インクは、本発明のサーマルインクジェット記録用水分散体を含有する。
本発明の水系インク中の各成分の含有量は、以下のとおりである。
本発明の水系インクに含まれる顔料の含有量は、水系インクの印字濃度を高める観点から、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、更に好ましくは3質量%以上、より更に好ましくは4質量%以上であり、そして、好ましくは25質量%以下、より好ましくは20質量%以下、更に好ましくは15質量%以下、より更に好ましくは12質量%以下である。
本発明の水系インクにおける、ポリマーの量に対する顔料の量の質量比〔顔料/ポリマー〕は、前記水分散体と同様であり、好ましくは1.0以上、より好ましくは1.5以上、更に好ましくは1.7以上であり、そして、好ましくは9.0以下、より好ましくは6.0以下、更に好ましくは5.0以下、より更に好ましくは4.0以下、より更に好ましくは1.25以下である。
また、本発明の水系インクにおける、顔料の質量に対するポリマーのカルボキシル基のモル量〔−COOH(mmol)/顔料(g)〕は、吐出速度を向上させる観点から、前記水分散体と同様であり、好ましくは0.65mmol/g以上、より好ましくは0.70mmol/g以上、更に好ましくは0.80mmol/g以上であり、そして、好ましくは1.40mmol/g以下、より好ましくは1.30mmol/g以下、更に好ましくは1.25mmol/g以下である。
水系インク中の水の含有量は、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上、更に好ましくは55質量%以上、より更に好ましくは70質量%以上であり、そして、好ましくは90質量%以下、より好ましくは85質量%以下、更に好ましくは80質量%以下である。
【0030】
本発明の水系インクの表面張力(25℃)は、インクノズルからの良好な吐出性を確保する観点から、好ましくは20mN/m以上、より好ましくは23mN/m以上、更に好ましくは25mN/m以上であり、そして、好ましくは45mN/m以下、より好ましくは43mN/m以下、更に好ましくは40mN/m以下である。
本発明の水系インクの粘度(20℃)は、良好な吐出性を維持するために、好ましくは2.0mPa・s以上、より好ましくは2.3mPa・s以上、更に好ましくは2.5mPa・s以上であり、そして、好ましくは12mPa・s以下、より好ましくは11mPa・s以下、更に好ましくは10mPa・s以下である。
【0031】
本発明の水系インクは、必要に応じて、水系インクに通常用いられる湿潤剤、浸透剤、界面活性剤等の分散剤、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルアルコール等の粘度調整剤、シリコーン油等の消泡剤、防黴剤、防錆剤等を添加して調整することができる。
湿潤剤、浸透剤としては、具体的には、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ジエチレングリコールジエチルエーテル等の多価アルコール及びそのエーテル、アセテート類等が挙げられ、グリセリン、トリメチロールプロパンが好ましい。
界面活性剤としては、アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物等の非イオン性界面活性剤等が挙げられる。
得られる水系インクにおける、顔料を含有するポリマー粒子の平均粒径は、プリンターのノズルの目詰まり防止及び分散安定性の観点から、好ましくは50nm以上、より好ましくは70nm以上、更に好ましくは90nm以上であり、そして、好ましくは200nm以下、より好ましくは170nm以下、更に好ましくは150nm以下、より更に好ましくは120nm以下である。
なお、顔料を含有するポリマー粒子の平均粒径は実施例に記載の方法により測定することができる。
【0032】
上述した実施形態に関し、本発明はさらに以下のサーマルインクジェット記録方法等を開示する。
<1> 顔料を含有するポリマー粒子を含む水系インクを熱エネルギーの作用により記録ヘッドから吐出する、サーマルインクジェット記録方法であって、ポリマー粒子を構成するポリマーの全構成単位中、炭素数3以上8以下の炭化水素基を有するアクリル酸エステル由来の構成単位が78質量%以上88質量%以下であり、アクリル酸由来の構成単位が22質量%以下12質量%以上である、サーマルインクジェット記録方法。
【0033】
<2> 前記炭化水素基を有するアクリル酸エステルの炭化水素基が、炭素数4以上6以下、好ましくは4以上5以下のアルキル基及び炭素数6以上7以下の芳香族基から選ばれる1種以上である、前記<1>に記載のサーマルインクジェット記録方法。
<3> 前記炭化水素基を有するアクリル酸エステルが、ブチルアクリレート及びベンジルアクリレートから選ばれる1種以上である、前記<1>に記載のサーマルインクジェット記録方法。
<4> ポリマーの重量平均分子量が、好ましくは5,000以上、より好ましくは1万以上、更に好ましくは2万以上、より更に好ましくは3万以上、より更に好ましくは5万以上であり、そして、好ましくは40万以下、より好ましくは30万以下、更に好ましくは20万以下、より更に好ましくは10万以下、より更に好ましくは9万以下である、前記<1>〜<3>のいずれかに記載のサーマルインクジェット記録方法。
<5> 顔料を含有するポリマー粒子の平均粒径が、好ましくは50nm以上、より好ましくは70nm以上、更に好ましくは90nm以上であり、そして、好ましくは200nm以下、より好ましくは170nm以下、更に好ましくは150nm以下、より更に好ましくは120nm以下である、前記<1>〜<4>のいずれかに記載のサーマルインクジェット記録方法。
<6> 前記アクリル酸エステル由来の構成単位の含有量が、好ましくは79質量%以上、より好ましくは80質量%以上であり、そして、好ましくは87質量%以下、より好ましくは86質量%以下であり、アクリル酸由来の構成単位の含有量が、好ましくは21質量%以下、より好ましくは20質量%以下であり、そして、好ましくは13質量%以上、より好ましくは14質量%以上である、前記<1>〜<5>のいずれかに記載のサーマルインクジェット記録方法。
<7> 水系インクに含まれる顔料の含有量が、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、更に好ましくは3質量%以上、より更に好ましくは4質量%以上であり、そして、好ましくは25質量%以下、より好ましくは20質量%以下、更に好ましくは15質量%以下、より更に好ましくは12質量%以下である、前記<1>〜<6>のいずれかに記載のサーマルインクジェット記録方法。
<8> 水系インクにおける、ポリマーの量に対する顔料の量の質量比〔顔料/ポリマー〕が、好ましくは1.0以上、より好ましくは1.5以上、更に好ましくは1.7以上であり、そして、好ましくは9.0以下、より好ましくは6.0以下、更に好ましくは5.0以下、より更に好ましくは4.0以下、より更に好ましくは2.5以下である、前記<1>〜<7>のいずれかに記載のサーマルインクジェット記録方法。
<9> 水系インクにおける、顔料の質量に対するポリマーのカルボキシル基のモル量〔−COOH(mmol)/顔料(g)〕が、好ましくは0.65mmol/g以上、より好ましくは0.70mmol/g以上、更に好ましくは0.80mmol/g以上であり、そして、好ましくは1.40mmol/g以下、より好ましくは1.30mmol/g以下、更に好ましくは1.25mmol/g以下である、前記<1>〜<8>のいずれかに記載のサーマルインクジェット記録方法。
<10> ヒーターの抵抗素子表面温度が、好ましくは150℃以上、より好ましくは200℃以上、更に好ましくは250℃以上であり、そして、好ましくは800℃以下、より好ましくは700℃以下、更に好ましくは600℃以下である、前記<1>〜<9>のいずれかに記載のサーマルインクジェット記録方法。
<11> 駆動周波数が、好ましくは0.1kHz以上、より好ましくは1kHz以上、更に好ましくは3kHz以上であり、そして、好ましくは20kHz以下、より好ましくは15kHz以下、更に好ましくは10kHz以下である、前記<1>〜<10>のいずれかに記載のサーマルインクジェット記録方法。
<12> パルス幅が、好ましくは0.01μs以上、より好ましくは0.1μs以上、更に好ましくは0.3μs以上であり、そして、好ましくは3.0μs以下、より好ましくは2.0μs以下、更に好ましくは1.5μs以下である、前記<1>〜<11>のいずれかに記載のサーマルインクジェット記録方法。
<13> インクの吐出液滴の量が、1滴あたり好ましくは0.5pL以上、より好ましくは1.0pL以上、更に好ましくは1.5pL以上、より更に好ましくは3pL以上であり、そして、好ましくは30pL以下、より好ましくは10pL以下、更に好ましくは5.0pL以下である、前記<1>〜<12>のいずれかに記載のサーマルインクジェット記録方法。
<14> インク液滴の平均吐出速度が、好ましくは6m/s以上、より好ましくは8m/s以上、更に好ましくは10m/s以上であり、そして、好ましくは20m/s以下、より好ましくは18m/s以下、更に好ましくは15m/s以下である、前記<1>〜<13>のいずれかに記載のサーマルインクジェット記録方法。
【0034】
<15> 顔料を含有するポリマー粒子を含むサーマルインクジェット記録用水分散体であって、ポリマー粒子を構成するポリマーの全構成単位中、炭素数3以上8以下の炭化水素基を有するアクリル酸エステル由来の構成単位が78質量%以上88質量%以下であり、アクリル酸由来の構成単位が22質量%以下12質量%以上である、サーマルインクジェット記録用水分散体。
<16> 前記炭化水素基を有するアクリル酸エステルの炭化水素基が、炭素数4以上6以下、好ましくは4以上5以下のアルキル基及び炭素数6以上7以下の芳香族基から選ばれる1種以上である、前記<15>に記載のサーマルインクジェット記録用水分散体。
<17> 前記炭化水素基を有するアクリル酸エステルが、ブチルアクリレート及びベンジルアクリレートから選ばれる1種以上である、前記<15>に記載のサーマルインクジェット記録用水分散体。
<18> ポリマーの重量平均分子量が好ましくは5,000以上、より好ましくは1万以上、更に好ましくは2万以上、より更に好ましくは3万以上、より更に好ましくは5万以上であり、そして、好ましくは40万以下、より好ましくは30万以下、更に好ましくは20万以下、より更に好ましくは10万以下、より更に好ましくは9万以下である、前記<15>〜<17>のいずれかに記載サーマルインクジェット記録用水分散体。
<19> 顔料を含有するポリマー粒子の平均粒径が好ましくは50nm以上、より好ましくは70nm以上、更に好ましくは90nm以上であり、そして、好ましくは200nm以下、より好ましくは170nm以下、更に好ましくは150nm以下、より更に好ましくは120nm以下である、前記<15>〜<18>のいずれかに記載のサーマルインクジェット記録用水分散体。
<20> 前記アクリル酸エステル由来の構成単位の含有量が、好ましくは79質量%以上、より好ましくは80質量%以上であり、そして、好ましくは87質量%以下、より好ましくは86質量%以下であり、アクリル酸由来の構成単位の含有量が、好ましくは21質量%以下、より好ましくは20質量%以下であり、そして、好ましくは13質量%以上、より好ましくは14質量%以上である、前記<15>〜<19>のいずれかに記載のサーマルインクジェット記録用水分散体。
<21> 水分散体中に含まれる顔料の含有量が、好ましくは3質量%以上、より好ましくは6質量%以上、更に好ましくは9質量%以上、より更に好ましくは12質量%以上であり、そして、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下、更に好ましくは30質量%以下、より更に好ましくは20質量%以下である、前記<15>〜<20>に記載のサーマルインクジェット記録用水分散体。
<22> 水分散体における、ポリマーの量に対する顔料の量の質量比〔顔料/ポリマー〕が、好ましくは1.0以上、より好ましくは1.5以上、更に好ましくは1.7以上であり、そして、好ましくは9.0以下、より好ましくは6.0以下、更に好ましくは5.0以下、より更に好ましくは4.0以下、より更に好ましくは2.5以下である、前記<15>〜<21>のいずれかに記載のサーマルインクジェット記録用水分散体。
<23> 水分散体における、顔料の質量に対するポリマーのカルボキシル基のモル量〔−COOH(mmol)/顔料(g)〕が、好ましくは0.65mmol/g以上、より好ましくは0.70mmol/g以上、更に好ましくは0.80mmol/g以上であり、そして、好ましくは1.40mmol/g以下、より好ましくは1.30mmol/g以下、更に好ましくは1.25mmol/g以下である、前記<15>〜<22>のいずれかに記載のサーマルインクジェット記録用水分散体。
【0035】
<24> 前記<15>〜<23>のいずれかに記載の水分散体を含有する、サーマルインクジェット記録用水系インク。
<25> 水系インクに含まれる顔料の含有量が、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、更に好ましくは3質量%以上、より更に好ましくは4質量%以上であり、そして、好ましくは25質量%以下、より好ましくは20質量%以下、更に好ましくは15質量%以下、より更に好ましくは12質量%以下である、前記<24>に記載のサーマルインクジェット記録用水系インク。
<26> 水系インクにおける、ポリマーの量に対する顔料の量の質量比〔顔料/ポリマー〕が、好ましくは1.0以上、より好ましくは1.5以上、更に好ましくは1.7以上であり、そして、好ましくは9.0以下、より好ましくは6.0以下、更に好ましくは5.0以下、より更に好ましくは4.0以下、より更に好ましくは1.25以下である、前記<24>又は<25>に記載のサーマルインクジェット記録用水系インク。
【実施例】
【0036】
以下の製造例、調製例、実施例及び比較例において、「部」及び「%」は特記しない限り「質量部」及び「質量%」である。なお、ポリマーの重量平均分子量、顔料を含有するポリマー粒子の平均粒径、固形分濃度及びインク粘度の測定方法は以下のとおりである。
(1)ポリマーの重量平均分子量の測定
溶媒として、60mmol/Lのリン酸と50mmol/Lのリチウムブロマイドを含有するN,N―ジメチルホルムアミドを用いたゲル浸透クロマトグラフィー法により、標準物質としてポリスチレンを用いて測定した。使用カラム:東ソー株式会社製(TSK−GEL、α−M×2本)、本体:東ソー株式会社製(HLC−8120GPC)、流速:1mL/minを用いた。
(2)顔料を含有するポリマー粒子の平均粒径の測定
大塚電子工業株式会社のレーザー粒子解析システムELS−8000(キュムラント解析)を用いて、顔料を含有するポリマー粒子の平均粒径を測定した。測定条件は、温度25℃、入射光と検出器との角度90°、積算回数100回であり、分散溶媒の屈折率として水の屈折率(1.333)を入力した。測定濃度は、5×10-3質量%とした。平均粒径が小さいほど分散性が良好である。
【0037】
(3)固形分濃度の測定
顔料を含有するポリマー粒子の水分散体1gと硫酸ナトリウム(芒硝)10gとを均一に混合し、蒸発皿10.5cm2に均一に広げて、105℃、2時間、−0.07MPaの条件下で減圧乾燥させ、乾燥後の水分散体の質量を測定し、次式により固形分濃度(質量%)を求めた。
固形分濃度(%)=(乾燥後の水分散体の質量/乾燥前の水分散体の質量)×100
(4)粘度測定
東機産業株式会社製のE型粘度計RE80を用い、測定温度20℃、測定時間1分、回転数100rpm、ロータは標準(1°34′×R24)を使用して、粘度を測定した。
【0038】
製造例1(ポリマー溶液の製造)
反応容器内に、メチルエチルケトン(MEK)55部、重合連鎖移動剤(2−メルカプトエタノール)0.08部、及びモノマーとしてアクリル酸15部、ベンジルアクリレート85部をそれぞれの10%を入れて混合し、窒素ガス置換を十分に行い、初期仕込みモノマー溶液を得た。
一方、滴下ロート中に、上記試薬の残りの90%を仕込み、次いで重合開始剤(2,2'−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、和光純薬工業株式会社製、商品名:V−65)1.0部を入れて混合し、十分に窒素ガス置換を行い、滴下モノマー溶液を得た。
窒素雰囲気下、反応容器内の初期仕込みモノマー溶液を撹拌しながら60℃まで昇温し、滴下ロート中の滴下モノマー溶液を3時間かけて徐々に反応容器内に滴下した。滴下終了後、前記重合開始剤0.6部をメチルエチルケトン2.5部に溶解した溶液を該反応液に加え、ポリマー溶液を得た。
得られたポリマー溶液を、減圧下、105℃で2時間乾燥させ、メチルエチルケトンを除去することによってポリマーを得た。得られたポリマーの重量平均分子量は70,000であった。
【0039】
調製例1(顔料を含有するポリマー粒子の水分散体の調製)
製造例1で得られたポリマー21.4部をメチルエチルケトン66.9部に溶かし、その中に5N水酸化ナトリウム水溶液6.3部、25%アンモニア水溶液9.1部及びイオン交換水212部を加えて撹拌し、次いで浅田鉄工株式会社製の「ウルトラディスパー」に仕込み、ディスパー翼を用いて、1400rpmで15分間処理した後、顔料としてカーボンブラック(Cabot社製、商品名:Monarch880)を50部加え、更に8000rpmで15℃で1時間処理した。次に、Microfluidics社製の高圧分散機、マイクロフルイダイザー「M−140K」を用いて180MPaの圧力で20パスの高圧分散を行った。
次に、高圧分散で得られた分散液を減圧下、60℃に加熱し、メチルエチルケトン、揮発性塩基及び一部の水を留去して、顔料を含有するポリマー粒子の水分散体を得た。得られた水分散体中の顔料の含有量は14%、〔顔料/ポリマー〕の質量比は2.3、粘度(20℃)は4.1mPa・s、顔料を含有するポリマー粒子の平均粒径は94.2nmであった。
得られたポリマー粒子の水分散体からは、メチルエチルケトン及びアンモニアの臭気は感じられなかった。
【0040】
調製例2(水系インクの製造)
グリセリン7部、トリメチロールプロパン7部、トリエチレングリコール5部、アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物(川研ファインケミカル株式会社、アセチレングリコール系界面活性剤、商品名:アセチノールE100、平均付加モル数:10)0.5部、及びイオン交換水73.4部を混合し、室温で15分間撹拌して、混合溶液を得た。
次に調製例1で得られた顔料を含有するポリマー粒子の水分散体25部(固形分換算7.1部、顔料分換算5部)をマグネチックスターラーで撹拌しながら、混合溶液を添加し、1.2μmのフィルター(アセチルセルロース膜、富士フイルム株式会社製)で濾過し、水系インクを得た。得られた水系インク中の顔料の含有量は5%、〔顔料/ポリマー〕の質量比は2.3、顔料を含有するポリマー粒子の平均粒径は94.2nmであった。
【0041】
実施例1〜10及び比較例1〜7
製造例1、調製例1及び2で得られた水系インクを実施例1に用いた。
実施例2、9、10及び比較例1〜7は、モノマーとモノマー比率を表1に示すように変えた以外は、製造例1、調製例1及び調製例2と同様にして水系インクを得た。
実施例3〜5は、調製例1で得られる水分散体の〔顔料/ポリマー〕の質量比が、表1に記載の〔顔料/ポリマー〕の質量比になるように、調製例1で用いるポリマー量を変えた以外は、製造例1、調製例1及び調製例2と同様にして水系インクを得た。
実施例6及び7は、製造例1の重合開始剤の量を変えて表1に記載の重量平均分子量のポリマーを得た以外は、製造例1、調製例1及び調製例2と同様にして水系インクを得た。
実施例8は、調製例1の顔料をシアン顔料(大日精化株式会社製、商品名:CFB6338JC)に変えた以外は、製造例1、調製例1及び調製例2と同様にして水系インクを得た。
得られた水系インクについて、コゲーションの観察・評価、及びインク液滴の平均吐出速度の算出を以下の方法で行った。結果を表1に示す。
【0042】
(1)コゲーションの観察・評価
印加電圧、パルス幅、駆動周波数を調整可能な電子天秤を有する自社製サーマルインクジェット吐出観察装置を評価装置として用いて、前記の通りに調製した各インクを充填したヒューレット パッカード(HP)社製のインクカートリッジ「HP135」を装填し、以下の条件で、市販の普通紙(上質普通紙、XEROX社製、「XEROX4200」縦279.4mm×横215.9mm)に、1×107パスのインク液滴を連続吐出させ、ベタ印刷を行った。
プリントヘッドのノズル径:約20μm
印加電圧:16.5V、パルス幅:1μs、駆動周波数:5kHz
インク吐出液滴量:約4pL/滴
インク液滴の吐出速度:12m/s
ベタ印刷後、記録ヘッドを分解し、ヒーター部分を純水で静かに洗浄し、光学顕微鏡観察を行い、以下の基準で評価した。
(コゲーションの評価基準)
A:付着物が認められなかった。
B:付着物がヒーターの抵抗体表面の30面積%以下存在した。
C:付着物がヒーターの抵抗体表面の30面積%を超えて存在した。
【0043】
(2)インク液滴の平均吐出速度の算出
自社製サーマルインクジェット吐出観察装置を評価装置として用いて、コゲーションの観察・評価と同様の条件でインクを吐出させ、ストロボとカメラを用いてノズルから0.5mmの距離にインク液滴が到達するまでの時間と1.5mmの距離に到達するまでの時間を測定し、これらの差で1.0mm(=1.5mm−0.5mm)を除することで平均吐出速度を算出した。
【0044】
【表1】
【0045】
表1から、実施例1〜10の水系インクは、比較例1〜7の水系インクに比べて、分散性、コゲーションの発生抑制効果、及びインク液滴の吐出速度が優れていることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明のサーマルインクジェット記録方法によれば、コゲーションの発生を十分に抑制することができるため、インクジェット記録方法として、広範囲で好適に使用することができる。