(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、フロントフォークにあって、懸架バネとしてのコイルバネの使用に代えて、所定圧のエアを封入してフロントフォークを伸長方向に附勢する、いわゆるエアばねを懸架バネとしたフロントフォークが開発されている。
【0003】
エアばねを利用したフロントフォークでは、金属製のコイルバネを使用しない分フロントフォーク全体の重量を軽量化できる。また、エアばねの場合、フロントフォークの一端に設けられているエアバルブからエアを封入して、フロントフォーク内のエア圧を調整できるので、手軽に車高調整を行える。
【0004】
しかしながら、このようなエアばねを利用したフロントフォークにあっては、アウターチューブ内周の開口端部に設けられたオイルシールが劣化した場合などに、アウターチューブとインナーチューブの隙間からエアが外部に漏れ出してしまう可能性がある。
【0005】
図3を用いて具体的に説明すると、アウターチューブ1とインナーチューブ2の隙間Sにフォーク内の油室Rから作動油を供給して、インナーチューブ2とアウターチューブ3のスムーズな移動を実現するために、インナーチューブ2に連通孔10を設けている。しかしながら、このようにするとインナーチューブ2がアウターチューブ1の内部に挿入される圧縮行程では、隙間Sが拡大されて、エア室Gに封入されているエアが、作動油とともに連通孔10を通じて流入する。作動油は粘性を有しているため、この圧縮行程の際に、オイルシール4の直上にある作動油がインナーチューブ2の移動につられて持ち上げられ、エアがオイルシール4の直上に入り込む。このように、エアがオイルシール4に到達するため、オイルシール4が劣化していると、エアがわずかではあるが漏れてしまう恐れがある。
【0006】
エアが外部に漏れ出してしまう状態で、長期間エアの補充をしないと、所定のエアばねの反力が弱くなり、二輪車における車高が低下し、乗り心地が損なわれてしまう恐れがある。
【0007】
そこで、従来からオイルシール越しにエアが外部に漏れてしまい、乗り心地が損なわれるなどの不具合を防ぐための提案がある。
【0008】
例えば、引用文献1に開示の提案であっては、アウターチューブとインナーチューブの隙間の開口端部に設けられたオイルシールと、このオイルシールに隣接する液溜まり室を画成し、前記液溜まり室に貯留液体を収容するので、前記オイルシールが劣化した場合に、前記液溜まり室に収容された貯留液体が初めに外部に漏れ出すため、エアが漏れ出す前にオイルシールの劣化を検知できる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、図示した本実施の形態に基づいて、図面を参照しながら説明する。いくつかの図面を通して付された同じ符号は、同じ部品か対応する部品を示す。
【0017】
本実施の形態に係るフロントフォークは、
図1に示すように、アウターチューブ1と、前記アウターチューブ1内に軸方向移動自在に挿入されるインナーチューブ2とを備えたフォーク本体3と、前記フォーク本体3内にエアを封入することで形成されて、前記フォーク本体3を伸長方向へ附勢するエアばねGと、前記アウターチューブ1の開口端部の内周に固定され、前記インナーチューブ2の外周に摺接する環状のオイルシール4と、前記アウターチューブ1の内周であって、前記オイルシール4より軸方向の内側に設けられるワッシャ5と、前記アウターチューブ1の内周の前記ワッシャ5より軸方向の内側であって、前記ワッシャ5に離間した位置に設けられて、前記インナーチューブ2の外周に摺接する環状の軸受6と、前記アウターチューブ1と前記インナーチューブ2との隙間Sであって、前記ワッシャ5と前記軸受6の間に設けられて作動油が貯留される油溜室Oとを備えて構成されている。
【0018】
フロントフォークは、主に二輪車の前輪側に装備されて、前輪を保持している。ちなみに、フロントフォークを二輪車の前輪側に装備する方法については、図示しないが、左右となる二本のフロントフォークの上端側部をアッパーブラケット及びアンダーブラケットで連結し、各フロントフォークにおけるインナーチューブ2の下端部を前輪の車軸に連結させて前輪を挟むようにして懸架する。
【0019】
本実施の形態に係るフロントフォークは、
図1に示すように、アウターチューブ1と、アウターチューブ1内に軸方向移動自在に挿入されるインナーチューブ2とを備えたフォーク本体3と、フォーク本体3内に収納されるダンパ12とを備えている。ダンパ12は、
図1中下端がインナーチューブ2の底部に起立するシリンダ13と、シリンダ13内に摺動自在に挿入されてシリンダ13内を二つの圧力室に区画する図示しないピストンと、一端がピストンに連結されるとともに図中上端がアウターチューブ1の頂部に連結されるピストンロッド14とを備えている。
【0020】
また、フォーク本体3の内部は、所定量の作動油が収容される油室Rと、この作動油の油面を境にして画成されるエア室Gを有し、このエア室Gにエアを封入して、エア室Gに形成されるエアばねがフォーク本体3を伸長方向に附勢している。このフロントフォークを二輪車の車体と車輪の間に介装すると車体はエアばねによって弾性支持される。
【0021】
なお、フォーク本体3の一端にはエアバルブが設けられており、このエアバルブを介して、エア室G内の圧力を調整できるため、車高を容易に調整できる。
【0022】
さらに、本発明のフロントフォークは、エア室Gに形成されるエアばねによってフォーク本体3が伸長方向に附勢されるため、たとえば、コイルバネを懸架バネとしてフォーク本体3に設ける場合と比較して、金属製のコイルバネを使用しない分フロントフォーク全体の重量を軽減化できる。
【0023】
そして、詳しくは図示しないが、ピストンロッド14がシリンダ13から進退方向に移動するフロントフォークの伸縮時には、ピストンで区画されたシリンダ13内の二つの圧力室を、ピストンに設けられた減衰バルブを通じて作動油が移動する。
【0024】
また、ピストンロッド14がシリンダ13から退出方向に移動する場合には、シリンダ13内では、退出したピストンロッド14体積分の作動油が不足するため、作動油のシリンダ13内への移動のみ許容する図示しない伸側チェックバルブを介して、不足分の作動油が油室Rからシリンダ13内に供給される。
【0025】
他方、ピストンロッド14がシリンダ13内への進入方向に移動する場合には、シリンダ13内では、進入したロッド体積分の作動油が余剰となり、この余剰分の作動油が、作動油のシリンダ13外への移動のみを許容する図示しない圧側減衰バルブを介して、シリンダ13から油室Rに排出される。
【0026】
したがって、ダンパ12は、シリンダ13内にピストンロッド14が進退方向に移動するフロントフォークの伸縮時に、ピストン及び図示しない各バルブを作動油が通過する際の抵抗に起因する減衰力を発生し、フロントフォークの伸縮運動を抑制する。そして、シリンダ13内に進退移動するピストンロッド14体積分のシリンダ13内容積変化は、油室Rによって補償される。
【0027】
図1および
図2に示すように、本実施の形態に係るフロントフォークは、アウターチューブ1の内部にインナーチューブ2が軸方向に移動自在になるように挿入されるため、アウターチューブ1の内径はインナーチューブ2の外径より大きくなっている。そのため、アウターチューブ1とインナーチューブ2との間に隙間Sが形成されている。
【0028】
そして、
図1および
図2に示すように、隙間S内には、アウターチューブ1の内周に装着されて、インナーチューブ2の外周に摺接する環状の軸受11と、アウターチューブ1の開口端部の内周に固定され、インナーチューブ2の外周に摺接する環状のオイルシール4および環状のダストシール7と、アウターチューブ1の内周であって、オイルシール4より軸方向の内側で、オイルシール4に隣接して設けられる筒状のスペーサ9と、スペーサ9に隣接して設けられるワッシャ5と、アウターチューブ1の内周のワッシャ5より軸方向の内側であって、ワッシャ5に離間した位置に設けられて、インナーチューブ2の外周に摺接する環状の軸受6が設けられており、ワッシャ5と軸受6の間に作動油が貯留される油溜室Oが形成されている。
【0029】
また、隙間Sは、インナーチューブ2に設けられたフォーク本体3内と隙間Sを連通させる連通孔10を介してフォーク本体3内の作動油の流入を可能とし、この流入した作動油を潤滑油にしてアウターチューブ1とインナーチューブ2の軸方向の移動をスムーズにする。また、インナーチューブ2がアウターチューブ1の内部に挿入される圧縮行程では、増大する隙間Sにエア室Gに封入されているエアが、連通孔10を通じて流入するので、隙間Sには作動油とエアが混在する状態となる。
【0030】
図2に示すように、隙間Sを構成するアウターチューブ1の内周は、図中下方の開口端側で拡径されて形成される中径部1cと、中径部1cより図中下方の開口端側でさらに拡径されて形成される大径部1dを備える。このようにアウターチューブ1の内周に中径部1cと大径部1dを設けているので、アウターチューブ1の内周には段部1a,1bも形成される。
【0031】
そして、
図1及び2に示すように、軸受6は、軸受6を保持する保持部材15を介して、中径部1cに嵌合されて、アウターチューブ1に装着されると共に段部1bに当接しており、この段部1bによって、
図1中上方となる密封側への移動が規制されている。加えて、軸受6は、インナーチューブ2の外周に摺接する。また、ワッシャ5は大径部1dに嵌合されて、アウターチューブ1に装着されると共に段部1aに当接しており、この段部1aによって、
図1中上方となる密封側への移動が規制されている。さらに、その上からスペーサ9、オイルシール4が積層され、スナップリング8によって、抜け止めされる。このように、ワッシャ5、スペーサ9およびオイルシール9は、段部1aとスナップリング8とで挟持されて、軸方向に動かないように固定される。さらに、ダストシール7は、アウターチューブ1の大径部1dの先端内周に圧入して固定される。
【0032】
以下、隙間S内に設けられている部材を詳細に説明する。
【0033】
図2に示すように、本実施の形態に係るオイルシール4は、環状のインサートメタル4cを内部に有して、アウターチューブ1の内周に固定される基部4aと基部4aから内径方向に延び、インナーチューブ2の外周に摺接するシール部4bとを備える。
【0034】
また、オイルシール4の図中上方の密封側に固定されている環状のワッシャ5およびスペーサ9と、オイルシール4の図中下方の開口端側に隣接して設けられるスナップリング8によって、基部4aが挟持されて、オイルシール4は、アウターチューブ1に固定される。加えて、オイルシール4の基部4aは、内部に環状のインサートメタル4cを備えているため、アウターチューブ1に圧入されると、強固にアウターチューブ1に固定できるようになっている。
【0035】
そして、オイルシール4は、インナーチューブ2がアウターチューブ1内から退出される伸長行程にて、インナーチューブ2の外周に附着している作動油を掻き落として、作動油の外部への漏れを防ぐと共に、オイルシール4の内径はインナーチューブ2の外径よりも小さいため、アウターチューブ1とインナーチューブ2の隙間Sを密封してエアの漏れも防止する。
【0036】
図2に示すように、本実施の形態に係るダストシール7は、断面L字状のインサートメタル7cを有し、アウターチューブ1の大径部1dの先端内周に固定される基部7aと、基部7aから内径方向に延び、インナーチューブ2の外周に摺接するシール部7bとを備える。
【0037】
さらに、ダストシール7の基部7aは、インサートメタル7cの形状に合わせて、一端に外径方向かつ外方に延びるフランジ部7dを有しており、フランジ部7dをアウターチューブ1の開口端部に当接させて、基部7aをアウターチューブ1の大径部1dの先端内周に圧入して、ダストシール7が固定される。
【0038】
そして、ダストシール7は、インナーチューブ2がアウターチューブ1内に挿入される圧縮行程にて、インナーチューブ2の外周に附着している塵や埃などのダストを掻き落として、フォーク内へのダストの侵入を防止している。
【0039】
また、ダストシール7の基部7aは、内部に環状のインサートメタル4cを備えているため、アウターチューブ2に圧入されると、強固にアウターチューブ2に固定できるようになっている。
【0040】
加えて、インサートメタル7cを設けているので、基部7aはアウターチューブ1の内周とアウターチューブ1の開口端部に強く密着して、ダストシール7はアウターチューブ1の内周をシールする。
【0041】
なお、図示するところでは、オイルシール4とダストシール7は、分離されているが、オイルシール4とダストシール7が一体のシールとなっていてもよい。
【0042】
図2に示すように、ワッシャ5はアウターチューブ1の内周に設けられた大径部1dに嵌合されており、その上から筒状のスペーサ9とオイルシール4が積層されているため、スナップリング8と段部1bに挟まれ、各部とも固定される。
【0043】
スペーサ9は、インサートメタル4cを有するオイルシール4の基部4aにのみ当接するため、基部4aは変形せず、たとえ、シール部4bが基部4aのスペーサ9との当接部より密封側に延びていたとしても、オイルシール4のシール部4bを傷つける恐れがない。
【0044】
また、本実施の形態に係るフロントフォークにおいて、オイルシール4や軸受6,11を交換する際には、まず、ダストシール7とスナップリング8を外し、その後、アウターチューブ1からインナーチューブ2を退出方向に引っ張る。これにより、インナーチューブ2の外周に装着されている軸受11が、アウターチューブ1の内周に装着されている軸受6を押すため、軸受6がアウターチューブ1の内周から外れ、外れた軸受6がワッシャ5に当接する。さらに引っ張ると、軸受11が、軸受6と共にワッシャ5を押して、スペーサ9およびオイルシール4も押されて、各部品が取り外される。
【0045】
ここでも、スペーサ9は、オイルシール4の基部4aにのみ当接しているため、オイルシール4を取り出す際に、オイルシール4のシール部4bを傷つける恐れがない。
【0046】
なお、本実施の形態においては、スペーサ9を設けているが、スペーサ9を省略して、ワッシャ5が直接オイルシール4に当接しても問題なければスペーサ9を省略できる。スペーサ9を省略した場合、組み込む手間と部品の点数を少なくできる。
【0047】
図1および
図2に示すように、本実施の形態に係る環状の軸受6は、ホルダ部15を介して、アウターチューブ1の内周に設けられた中径部1cに嵌合されて、アウターチューブ1の内周の図中下方に設けられ、環状の軸受11は、軸受6と離間してインナーチューブ2の外周の図中上方に設けられている。そして、軸受6,11がそれぞれインナーチューブ2の外周と、アウターチューブ1の内周に摺接するため、インナーチューブ2がアウターチューブ1内を軸方向に移動する際に、軸受6,11は、インナーチューブ2を案内して、インナーチューブ2が偏芯するのを防止する。
【0048】
軸受6は、
図2に示すように、ホルダ部材15を介して、アウターチューブ1の内周に固定される。また、ホルダ部材15の密封側端部には、内周径方向に向けて延びるストッパ部15aが形成されており、これにより、組み込みの際に軸受6を位置決めできる。また、軸受6は、ホルダ部材15を介してアウターチューブ1に固定されているため、ホルダ部材15の分だけ、アウターチューブ1とインナーチューブ2の隙間Sの径が拡径され、後述する油溜室Oの容積が大きくなり、油溜室O内に大量の作動油を貯留できる。
【0049】
さらに、本実施の形態においては、ホルダ部材15に軸受6を保持させて、隙間Sの径を拡大しているから、ホルダ部材15を新たに設けるだけで、従来の軸受をそのまま使用できる。
【0050】
なお、軸受6の肉厚を、本実施の形態に係るホルダ部材15と軸受6の肉厚を合わせた大きさにしてもよく、その場合、アウターチューブ1の内周に軸受6を固定するために、ホルダ部材15を介する必要がなくなる。ただし、本発明が効果を奏するためには、軸受6の肉厚を常に大きくする必要はない。
【0051】
また、
図2に示すように、軸受6は、ワッシャ5から離間した位置に設けられているため、ワッシャ5と軸受6との間に作動油が貯留される油溜室Oが形成される。そのため、オイルシールの直上に常に作動油を大量に貯留できる。
【0052】
なお、ワッシャ5と軸受6との間の距離は、充填される作動油の粘性等の条件によって、適宜設定されればよい。
【0053】
以下、本実施の形態に係るフロントフォークの作動と効果について説明する。
【0054】
インナーチューブ2の前輪に連結される側から振動が入力されると、アウターチューブ1の内部にインナーチューブ2が挿入され、フォーク本体3内に収納されているダンパ12が収縮して、フォーク本体3の伸縮を防げる減衰力が発生する。
【0055】
また、インナーチューブ2が、アウターチューブ1の内部に挿入される圧縮行程では、増大するアウターチューブ1とインナーチューブ2の隙間Sの体積を補償するために、油室Rに収容されている作動油が、インナーチューブ2に設けられた連通孔10を通じて隙間Sに流入する。
【0056】
さらに、隙間S内にはワッシャ5と軸受6との間に大量に作動油を貯留可能な油溜室Oが形成されているため、フロントフォークの圧縮行程において、作動油の粘性によって、インナーチューブ2の移動につられて作動油が油溜室Oの外に移動したとしても、作動油が不足せず、また、連通孔10を通じて隙間Sに流入してしまったエア室Gのエアが、オイルシール4の直上まで到達しにくい。
【0057】
したがって、オイルシール4が劣化していた場合であっても、エア漏れが発生しにくい。
【0058】
また、軸受6のインナーチューブ2との隙間は、極めて狭いので、油溜室O内の作動油は、インナーチューブ2の摺動によって、軸受6より図中上方の密封側に移動し難く、油溜室O内に多量に作動油が貯留されているので、インナーチューブ2の摺動によって枯渇してしまう危惧もない。
【0059】
以上、本発明の好ましい実施の形態を詳細に説明したが、特許請求の範囲から逸脱しない範囲で改造、変形及び変更はできるのはもちろんである。