特許第6343268号(P6343268)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6343268
(24)【登録日】2018年5月25日
(45)【発行日】2018年6月13日
(54)【発明の名称】建設機械
(51)【国際特許分類】
   F02D 29/04 20060101AFI20180604BHJP
   F16H 61/14 20060101ALI20180604BHJP
   F02D 9/06 20060101ALI20180604BHJP
   F02D 29/00 20060101ALI20180604BHJP
   F02B 37/24 20060101ALI20180604BHJP
   F02B 37/12 20060101ALI20180604BHJP
   F02D 45/00 20060101ALI20180604BHJP
   B60W 10/02 20060101ALI20180604BHJP
   B60W 10/04 20060101ALI20180604BHJP
   B60W 10/06 20060101ALI20180604BHJP
【FI】
   F02D29/04 G
   F16H61/14 601Z
   F02D9/06 A
   F02D29/00 B
   F02D29/00 C
   F02B37/24
   F02B37/12 302C
   F02B37/12 302G
   F02D45/00 312F
   F02D45/00 312J
   F02D45/00 312M
   F02D45/00 301E
   B60W10/00 102
   B60W10/06
   B60W10/02
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-188117(P2015-188117)
(22)【出願日】2015年9月25日
(65)【公開番号】特開2017-61895(P2017-61895A)
(43)【公開日】2017年3月30日
【審査請求日】2017年4月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】509241041
【氏名又は名称】株式会社KCM
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 篤史
(72)【発明者】
【氏名】片山 智崇
(72)【発明者】
【氏名】島崎 浩司
【審査官】 戸田 耕太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−118030(JP,A)
【文献】 特開平05−319248(JP,A)
【文献】 特開平08−282328(JP,A)
【文献】 特開2001−200740(JP,A)
【文献】 特開平10−018866(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 29/04
B60W 10/02
B60W 10/04
B60W 10/06
F02B 37/12
F02B 37/24
F02D 9/06
F02D 29/00
F02D 45/00
F16H 61/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体継手であるトルクコンバータ、変速機およびアクスルを介して車輪に連結されるエンジンと、
前記トルクコンバータに連結されて駆動され、ブームを作動させるブームシリンダおよびバケットを作動させるバケットシリンダのそれぞれへ作動油を供給する油圧ポンプとしてのメインポンプと、
前記トルクコンバータに連結されて駆動される油圧ポンプとしてのファン用ポンプと、
前記エンジンからの排気の流量を調整する排気調整機構と、
前記排気調整機構を制御する制御装置と
前記ファン用ポンプから作動油が供給される、前記エンジンを冷却するためのファン用モータと、
前記ファン用モータの回転数を設定するファン回路と、を備え、
前記制御装置は、以下の第1降坂条件または第2降坂条件が成立するか否かを判定し、第1降坂条件または第2降坂条件が成立する場合には、排気ブレーキを実行するように前記排気調整機構を制御するとともに、前記ファン用モータの回転数を所定値以上とするように前記ファン回路を制御する、建設機械。
第1降坂条件:エンジンの実回転数が設定回転数以上、かつ、エンジン負荷率が設定割合以下
第2降坂条件:エンジンが変速機を介して車輪と連結される場合であって操縦者によって車速モードが選択される場合、実車速が選択された車速モードの許容車速以上
【請求項2】
前記制御装置は、前記エンジンの実回転数が前記設定回転数以下の第2の設定回転数より低く、かつ、実車速が前記許容車速以下の設定車速より低くなったとき、または、アクセルペダルが踏み込まれたときに、前記排気ブレーキを解除するように前記排気調整機構を制御する、請求項1に記載の建設機械。
【請求項3】
記メインポンプから荷役回路を経てタンクへ至る循環ラインと、
前記荷役回路よりも上流側で前記循環ラインから分岐してタンクへ至る、リリーフ弁が設けられた逃しラインと、
前記逃しラインの分岐点よりも下流側で前記循環ラインに設けられた開閉弁と、をさらに備え、
前記制御装置は、前記第1降坂条件または前記第2降坂条件が成立する場合には、前記循環ラインを遮断するように前記開閉弁を制御する、請求項1に記載の建設機械。
【請求項4】
記トルクコンバータの出力軸を入力軸と拘束するか否かを切り換えるロックアップ装置さらに備え、
前記制御装置は、前記第1降坂条件または前記第2降坂条件が成立する場合には、前記トルクコンバータの出力軸が入力軸と拘束されるように前記ロックアップ装置を制御する、請求項1に記載の建設機械。
【請求項5】
前記エンジンと接続された圧縮機およびタービンを含むターボチャージャをさらに備え、
前記タービンは、可変ノズルタービンであり、
前記排気調整機構は、前記タービンのノズルの開度を変更することによって前記エンジンからの排気の流量を調整するものである、請求項1に記載の建設機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1つの油圧ポンプを駆動するエンジンを含む建設機械に関する。
【背景技術】
【0002】
油圧アクチュエータを含む建設機械では、前記油圧アクチュエータに作動油を供給する油圧ポンプがエンジンにより駆動される(例えば、特許文献1参照)。このような建設機械では、エンジン回転数が高くなりすぎると、油圧ポンプなどの機器が破損するおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第7849688号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、エンジン回転数が高くなりすぎることを防止するには、エンジン回転数が閾値以上となったときに、エンジンからの排気の流量を低減させてエンジンの負荷を高くすることが考えられる(いわゆる排気ブレーキ)。
【0005】
しかしながら、エンジン回転数を閾値と比較して排気ブレーキを自動的に実行するようにした場合には、排気ブレーキのオン・オフが頻繁に切り換えられることになる。このような排気ブレーキのオン・オフの頻繁な切り換えは、エンジン部品(例えば、ターボチャージャ)の耐久性の観点から好ましくない。
【0006】
そこで、本発明は、排気ブレーキのオン・オフを頻繁に切り換えることなく、排気ブレーキを利用してエンジン回転数が高くなりすぎることを防止できる建設機械を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明の発明者らは、鋭意研究の結果、降坂時であれば、回転数が高くなった状態(車速が高い状態)が維持され、また、エンジンは走行のためのエネルギーを使用しない状況が継続することに着目し、本判断にて、降坂時に排気ブレーキを自動的に実行することを思いついた。このようにすれば、排気ブレーキのオン・オフの頻繁な切り換えを防止できると考える。本発明は、このような観点からなされたものである。
【0008】
すなわち、本発明の建設機械は、流体継手であるトルクコンバータ、変速機およびアクスルを介して車輪に連結されるエンジンと、前記トルクコンバータに連結されて駆動され、ブームを作動させるブームシリンダおよびバケットを作動させるバケットシリンダのそれぞれへ作動油を供給する油圧ポンプとしてのメインポンプと、前記トルクコンバータに連結されて駆動される油圧ポンプとしてのファン用ポンプと、前記エンジンからの排気の流量を調整する排気調整機構と、前記排気調整機構を制御する制御装置と、前記ファン用ポンプから作動油が供給される、前記エンジンを冷却するためのファン用モータと、前記ファン用モータの回転数を設定するファン回路と、を備え、前記制御装置は、以下の第1降坂条件または第2降坂条件が成立するか否かを判定し、第1降坂条件または第2降坂条件が成立する場合には、排気ブレーキを実行するように前記排気調整機構を制御するとともに、前記ファン用モータの回転数を所定値以上とするように前記ファン回路を制御する、ことを特徴とする。
第1降坂条件:エンジンの実回転数が設定回転数以上、かつ、エンジン負荷率が設定割合以下
第2降坂条件:エンジンが変速機を介して車輪と連結される場合であって操縦者によって車速モードが選択される場合、実車速が選択された車速モードの許容車速以上
【0009】
上記の構成によれば、降坂時に排気ブレーキが自動的に実行されるため、排気ブレーキのオン・オフを頻繁に切り換えることなく、排気ブレーキを利用してエンジン回転数が高くなりすぎることを防止できる。しかも、降坂時にはフットブレーキ以外の制動力が働くために、フットブレーキの使用頻度を低減することができる。さらに、第1降坂条件または第2降坂条件が成立する場合には、ファン用モータの回転数を所定値以上とするようにファン回路が制御されるので、降坂時の加速度が大きいときなどの排気ブレーキだけでは不十分な場合にも、エンジン回転数が高くなりすぎることを防止できる。
【0010】
【0011】
前記制御装置は、前記エンジンの実回転数が前記設定回転数以下の第2の設定回転数より低く、かつ、実車速が前記許容車速以下の設定車速より低くなったとき、または、アクセルペダルが踏み込まれたときに、前記排気ブレーキを解除するように前記排気調整機構を制御してもよい。この構成によれば、適切なタイミングで排気ブレーキを解除することができる。
【0012】
【0013】
記の建設機械は、前記メインポンプから荷役回路を経てタンクへ至る循環ラインと、前記荷役回路よりも上流側で前記循環ラインから分岐してタンクへ至る、リリーフ弁が設けられた逃がしラインと、前記逃しラインの分岐点よりも下流側で前記循環ラインに設けられた開閉弁と、をさらに備え、前記制御装置は、前記第1降坂条件または前記第2降坂条件が成立する場合には、前記循環ラインを遮断するように前記開閉弁を制御してもよい。この構成によれば、降坂時の加速度が大きいときなどの排気ブレーキだけでは不十分な場合にも、エンジン回転数が高くなりすぎることを防止できる。
【0014】
記トルクコンバータの出力軸を入力軸と拘束するか否かを切り換えるロックアップ装置さらに備え、前記制御装置は、前記第1降坂条件または前記第2降坂条件が成立する場合には、前記トルクコンバータの出力軸が入力軸と拘束されるように前記ロックアップ装置を制御してもよい。この構成によれば、降坂時の加速度が大きいときなどの排気ブレーキだけでは不十分な場合にも、エンジン回転数が高くなりすぎることを防止できる。
【0015】
例えば、上記の建設機械は、前記エンジンと接続された圧縮機およびタービンを含むターボチャージャをさらに備え、前記タービンは、可変ノズルタービンであり、前記排気調整機構は、前記タービンのノズルの開度を変更することによって前記エンジンからの排気の流量を調整するものであってもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、排気ブレーキのオン・オフを頻繁に切り換えることなく、排気ブレーキを利用してエンジン回転数が高くなりすぎることを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態に係る建設機械の概略構成を模式的に示す図である。
図2図1に示す建設機械の側面図である。
図3】制御装置が行う制御のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図2に、本発明の一実施形態に係る建設機械1を示し、図1に、建設機械1の概略構成を模式的に示す。図2に示す建設機械1は、車輪走行式の産業用車両の1つであるホイールローダである。ただし、本発明は、ショベルローダ、フォークリフト、トラッククレーンなどの他の産業用車両にも適用可能である。
【0019】
図2に示すように、建設機械1は、互いに水平方向に揺動可能に連結された前側車体11および後側車体12を含む。前側車体11には前車輪16が取り付けられ、後側車体12には後車輪17が取り付けられている。前側車体11と後側車体12の間には、進行方向変更用の左右一対のステアリングシリンダ(油圧アクチュエータ)34が設けられている。
【0020】
後側車体12には、運転室13およびエンジンルーム18が設けられている。エンジンルーム18内には、エンジン21と、エンジン21を冷却するためのラジエータ19およびファン用モータ(油圧アクチュエータ)39が配置されている。前側車体11には、ブーム14が鉛直方向に揺動可能に連結され、ブーム14の先端にはバケット15が鉛直方向に揺動可能に連結されている。また、前側車体11には、ブーム14を作動させる左右一対のブームシリンダ(油圧アクチュエータ)36と、バケット15を作動させるバケットシリンダ(油圧アクチュエータ)37が設けられている。
【0021】
図1および図2に示すように、エンジン21は、トルクコンバータ22、変速機23およびアクスル24,25を介して車輪16,17と連結されている。なお、変速機23は、入力軸と出力軸の速度比を変更することができるとともに、車両の前進と後進を切り換えるために出力軸の回転方向を入力軸と同方向にするか逆方向にするかを切り換えることができる。
【0022】
トルクコンバータ22は、流体継手である。本実施形態では、トルクコンバータ22の出力軸を入力軸と拘束するか否かを切り換えるロックアップ装置26が設けられている。
【0023】
トルクコンバータ22には、油圧ポンプであるメインポンプ31およびファン用ポンプ32も連結されている。つまり、メインポンプ31およびファン用ポンプ32は、エンジン21により駆動される。ファン用ポンプ32は、エンジン21に直接連結されてもよい。
【0024】
メインポンプ31は、荷役回路35を介してブームシリンダ36およびバケットシリンダ37へ作動油を供給するとともに、ステアリング回路33を介してステアリングシリンダ34へ作動油を供給する。なお、図1では、図面を簡略化するために、一対のブームシリンダ36およびバケットシリンダ37を1つのシリンダ記号で表すとともに、一対のステアリングシリンダ34を1つのシリンダ記号で表している。
【0025】
メインポンプ31からは循環ライン41が延びており、この循環ライン41は、荷役回路35を経てタンク40へ至っている。つまり、循環ライン41は、荷役回路35のセンターバイパスラインを構成する。また、循環ライン41からは、荷役回路35よりも上流側で分岐ライン44が分岐しており、この分岐ライン44がステアリング回路33につながっている。
【0026】
荷役回路35は、ブームシリンダ36に対する作動油の供給および排出を制御するブーム制御弁(図示せず)と、バケットシリンダ37に対する作動油の供給および排出を制御するバケット制御弁(図示せず)を含む。例えば、各制御弁へは、操作レバーを含む操作弁からパイロット圧が出力される。ステアリング回路33は、ステアリングシリンダ34に対する作動油の供給および排出を制御するステアリングバルブ(図示せず)を含む。例えば、ステアリングバルブへは、オービットロール(登録商標)などの操舵信号出力装置から操舵信号(パイロット流)が出力される。
【0027】
さらに、循環ライン41からは、荷役回路35よりも上流側で逃しライン45が分岐しており、この逃しライン45は、タンク40へ至っている。逃しライン45には、リリーフ弁46が設けられている。
【0028】
循環ライン41には、逃しライン45の分岐点よりも下流側に、開閉弁43が設けられている。開閉弁43は、循環ライン41の開放と遮断を切り換える。本実施形態では、開閉弁43が荷役回路35よりも上流側に配置されているが、開閉弁43は荷役回路35よりも下流側に配置されていてもよい。
【0029】
一方、ファン用ポンプ32は、ファン回路38を介して、上述したファン用モータ39へ作動油を供給する。ファン回路38は、ファン用モータ39の回転数を設定するものであり、例えば、ファン用モータ39の流出ラインへ任意の圧力を導く減圧弁と、この減圧弁へパイロット圧を出力する電磁比例弁を含む。
【0030】
エンジン21は、ターボチャージャ51の圧縮機52およびタービン53と接続されている。本実施形態では、タービン53が可変ノズルタービンであり、タービン53のノズルの開度が排気調整機構54によって変更される。つまり、排気調整機構54は、エンジン21からの排気の流量を調整する。
【0031】
排気調整機構54は、制御装置6によって制御される。制御装置6は、エンジン21の実回転数Nを検出する回転数計61、建設機械1の実車速Sを検出する車速計62、アクセルペダル71の踏み込み量を検出するペダルセンサ72、および車速モード選択装置73と接続されている。本実施形態では、車速計62が、車速として変速機23の出力軸の回転数を検出する回転数計である。
【0032】
車速モード選択装置73は、運転室13内に配置されており、操縦者による、複数の車速モードの選択を受け付ける。本実施形態では、車速モードは、変速機23での速度比を複数の段階(例えば、第1段〜第5段)で指し示すものである。ただし、車速モードは、必ずしも変速機23での速度比を複数の段階で指し示すものである必要はない。例えば、車速モードは、変速機23での速度比を手動で切り換える手動モードと自動で切り換える自動モードであってもよいし、エンジン回転数について異なる上限を定める複数の運転モードであってもよい。
【0033】
制御装置6は、エンジン関連機器を制御するエンジン制御装置と、油圧機器を制御する車体コントローラに分かれていてもよいし、全ての機器を統括して制御する1つのユニットであってもよい。
【0034】
以下、制御装置6が行う制御を、図3に示すフローチャートを参照しながら説明する。
【0035】
まず、制御装置6は、第1降坂条件が成立するか否かを判定する(ステップS1)。第1降坂条件とは、回転数計61で検出されるエンジン21の実回転数Nが第1設定回転数N1(例えば、2000〜2400rpm)以上となり、かつ、エンジン負荷率が所定割合R(例えば、5〜20%)以下となることである。エンジン負荷率は、例えば、エンジン21への燃料噴射量から算出することができる。
【0036】
第1降坂条件が成立する場合(ステップS1でYES)はステップS3に進み、第1降坂条件が成立しない場合(ステップS1でNO)はステップS2に進む。
【0037】
ステップS2では、制御装置6は、第2降坂条件が成立するか否かを判定する。第2降坂条件とは、車速計62で検出される実車速Sが、車速モード選択装置73で選択された車速モードの許容車速SL以上となることである。例えば、許容車速SLは、各車速モードごとに決められた変速機23での速度比と上述した第1設定回転数から求めることができる。
【0038】
第2降坂条件が成立する場合(ステップS2でYES)はステップS3に進み、第2降坂条件が成立しない場合(ステップS2でNO)はステップS1に戻る。なお、本実施形態では、先に第1降坂条件の成否が判定され、その後に第2降坂条件の成否が判定されているが、先に第2降坂条件の成否が判定され、その後に第2降坂条件の成否が判定されてもよい。すなわち、第1降坂条件と第2降坂条件のどちらか一方が成立すれば、ステップS3に進めるようになっていればよい。あるいは、ステップS1とステップS2のいずれか一方のみが採用されてもよい。第1降坂条件のみが採用される場合は、車速モード選択装置73が設けられずに、変速機23での速度比が自動で切り換えられるだけであってもよい。
【0039】
ステップS3では、制御装置6は、エンジン21の負荷を上昇させる処理、換言すればエンジン21に対して制動力を働かせる処理を行う。本実施形態では、制御装置6は、以下の4つの処理1〜4を行う。
処理1:排気ブレーキを実行する(エンジン21からの排気の流量を低減させてエンジン21の負荷を高くする)ように排気調整機構54を制御する。
処理2:ファン用モータ39の回転数を所定値(例えば、通常時の回転数の2倍)以上とするようにファン回路38を制御する。
処理3:循環ライン41を遮断するように開閉弁43を制御する。
処理4:トルクコンバータ22の出力軸が入力軸と拘束されるようにロックアップ装置26を制御する。
【0040】
ただし、制御装置6は、少なくとも処理1を行えばよく、処理1以外では処理2〜4のうちの1つまたは2つのみを行ってもよいし、処理2〜4の全てを行わなくてもよい。
【0041】
その後、制御装置6は、負荷上昇処理の解除条件が成立するまで、処理1〜4を行った状態を維持する。本実施形態では、制御装置6は、まず、エンジン21の実回転数Nが第2設定回転数N2より低く、かつ、実車速Sが設定車速Sdより低くなったか否かを判定する(ステップS4)。第2設定回転数N2は、上述した第1設定回転数N1と等しくてもよいし、第1設定回転数N1よりも小さくてもよい。設定車速Sdは、上述した許容車速SLと等しくてもよいし、許容車速SLよりも小さくてもよい。ステップS4でYESであればステップS6に進み、ステップS4でNOであればステップS5に進む。
【0042】
ステップS5では、制御装置6は、アクセルペダル71が踏み込まれたか否かを判定する。ステップS5でYESであればステップS6に進み、ステップS5でNOであればステップS4に戻る。なお、本実施形態では、ステップS4の次にステップS5が行われるが、ステップS5の次にステップS4が行われてもよい。あるいは、ステップS4とステップS5のいずれか一方のみが採用されてもよい。
【0043】
ステップS6では、制御装置6は、処理1〜4の全てを取り止める。具体的には、制御装置6は、(1)排気ブレーキを解除するように排気調整機構54を制御し、(2)ファン用モータ39の回転数を元に戻すようにファン回路38を制御し、(3)循環ライン41を開放するように開閉弁43を制御し、(4)変速機23の出力軸の入力軸に対する拘束を解除するようにロックアップ装置26を制御する。その後、ステップS1に戻る。
【0044】
以上説明したように、本実施形態の建設機械1では、ステップS1,S2の判定により降坂時に排気ブレーキが自動的に実行されるため、排気ブレーキのオン・オフを頻繁に切り換えることなく、排気ブレーキを利用してエンジン回転数が高くなりすぎることを防止できる。しかも、降坂時にはフットブレーキ以外の制動力が働くために、フットブレーキの使用頻度を低減することができる。
【0045】
また、本実施形態では、ステップS4,S5の判定により、適切なタイミングで排気ブレーキを解除することができる。
【0046】
さらに、本実施形態では、降坂時には、排気ブレーキの実行に加えて、ファン用モータ39の回転数が所定値以上とされ、循環ライン41の遮断によって作動油がリリーフ弁46を通過し、ロックアップ装置26のオンによってエンジンブレーキが作動する。これにより、降坂時の加速度が大きいときなどの排気ブレーキだけでは不十分な場合(例えば、坂の角度が大きい場合やバケット15で荷を保持したまま降坂する場合)にも、エンジン回転数が高くなりすぎることを防止できる。例えば、作動油や冷却水の温度が低い通常時にファン用モータ39の回転数が500rpmである場合、降坂時にファン用モータ39の回転数を1500rpm程度とすれば、エンジン21の回転数を300rpm程度低減することができる。なお、状況に応じて、上述した処理2〜4のいずれか1つまたは2つのみが行われてもよい。
【0047】
(変形例)
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。
【0048】
例えば、本発明は、クローラを含む油圧ショベルなど、車輪走行式ではない建設機械にも適用可能である。すなわち、建設機械の走行は、メインポンプ31から作動油が供給される油圧モータによって行われてもよい。
【0049】
また、排気調整機構54は、エンジン21からの排気の流量を調整できれば、どのようなものであってもよい。例えば、ターボチャージャ51のタービン53が可変ノズルタービンでない場合、あるいはターボチャージャ51がない場合には、排気調整機構54は、エンジン21からの排気路に設けられたバタフライ弁であってもよい。
【符号の説明】
【0050】
1 建設機械
16,17 車輪
21 エンジン
22 トルクコンバータ
23 変速機
26 ロックアップ装置
31 メインポンプ(油圧ポンプ)
32 ファン用ポンプ(油圧ポンプ)
34 ステアリングシリンダ(油圧アクチュエータ)
35 荷役回路
36 ブームシリンダ(油圧アクチュエータ)
37 バケットシリンダ(油圧アクチュエータ)
38 ファン回路
39 ファン用モータ(油圧アクチュエータ)
40 タンク
41 循環ライン
43 開閉弁
45 逃しライン
46 リリーフ弁
51 ターボチャージャ
52 圧縮機
53 タービン
54 排気調整機構
6 制御装置
図1
図2
図3