(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
一次粒子が凝集してなる凝集構造物を含有するドープを、凝固液を用いて凝固させることにより、一次粒子の破壊を抑制し、且つ、凝集構造物を分解する方法であって、
上記ドープを、
ポリマーと、
該ポリマーを溶解する溶媒と、
一次粒子が凝集してなる凝集構造物と、
を含有させて構成し、
上記凝固液を、上記ポリマーの貧溶媒で構成し、
上記ドープと上記凝固液とを混合する凝固工程において、上記ドープ最表層にスキン層を上記ドープが取り巻かれるように形成し、該スキン層からの脱溶媒に伴い、上記ドープ内部での内部応力を増加させ、上記一次粒子の結合部位を切断して、上記凝集構造物を分解することを特徴とする凝集構造物の分解方法。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係る凝集構造物の分解方法について、以下に説明する。以下において開示する物質やそれらの量等は、凝集構造物の分解方法の良好な例であり、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0015】
まず、本実施の形態において用いる溶液や物質等について、以下に説明する。
<ポリマー(A)>
ポリマー(A)として疎水性ポリマーおよび親水性ポリマーが挙げられる。疎水性ポリマーとして、アラミドポリマー、アクリルポリマー、セルロースポリマーなどが挙げられる。親水性ポリマーとして、デキストリン、水溶性澱粉、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、水溶性酢酸セルロース、キトサンなどが挙げられる。
【0016】
アラミドポリマーは、アミド結合の85モル%以上が芳香族ジアミンおよび芳香族ジカルボン酸成分よりなるポリマーが好ましい。その具体例としては、ポリパラフェニレンテレフタルアミド、ポリメタフェニレンテレフタルアミド、ポリメタフェニレンイソフタルアミド、ポリパラフェニレンイソフタルアミドを挙げることができる。アクリルポリマーは、85モル%以上のアクリロニトリル成分を含むポリマーが好ましい。共重合成分として、酢酸ビニル、アクリル酸メチル、メタクリ酸メチル、および硫化スチレンスルホン酸塩からなる群から選ばれた少なくとも一種の成分が挙げられる。
【0017】
<凝集構造物(C)>
ナノ材料とも呼ばれるナノメーターやミクロンといったオーダーの一次粒子が、凝集してなる構造物。
一次粒子としては、例えば、カーボンナノチューブ等のナノカーボン、スメクタイトやハイドロタルサイト等の各種鉱物、ナノ零価鉄等の金属ナノ粒子が挙げられる。そして、多数の一次粒子が、静電引力、水素結合、ファンデルワールス力などに由来する物理的な結合により結合した集合体を凝集構造物と呼ぶ。
【0018】
<ドープ>
ポリマー(A)、ポリマー(A)を溶解する溶媒(B)、および、一次粒子が凝集してなる凝集構造物(C)を含有する。
溶媒(B)は、ポリマー(A)の良溶媒である。良溶媒とは一般に言われるように、ポリマーに対し大きな溶解能を有する溶媒である。
凝集構造物(C)は、溶媒(B)と非相溶な保護物質(C1)で覆われていても良い。溶媒(B)がN−メチル−2−ピロリドン(NMP)の場合、非相溶な保護物質(C1)は、例えば、デキストリン水溶液や澱粉糊等である。
【0019】
ドープを調整するに際しては、例えば、ポリマー(A)を溶媒(B)に溶解させたポリマー溶液に、凝集構造物(C)を添加し、攪拌棒等で全体を充分に攪拌すれば良い。
【0020】
<凝固液>
凝固液は、ポリマー(A)の貧溶媒である溶媒(D))
のみで構成される。貧溶媒とは一般に言われるように、ポリマー(A)に対し溶解能を僅かしか持たない溶媒である。ポリマー(A)がポリメタフェニレンイソフタルアミドであるとき、溶媒(D)は水が好ましい。またポリマー(A)がポリ乳酸であるとき、溶媒(D)はミネラルオイルが好ましい。凝固液は、好ましくは0.1〜50質量%、より好ましくは1〜30質量%の溶媒(E)を含有させることも可能である。この場合、溶媒(E)は、N−メチル−2−ピロリドンやジメチルスルホオキサド等である。
【0021】
<分解方法>
ドープを、凝固液中に添加、あるいは投入することにより、凝集構造物(C)の分解が行われる。
添加、投入方法は、スキン層がドープを取り囲む凝固形態を形成するものであれば、どのような手段でもよい。例えば、ドープを凝固液中にマイクロシリンジ、スプレー、注射器などで
滴下させるだけでよい。
【0022】
以下、本発明の効果を実証実験により検証する。
<実証実験1>
(ドープの調製)
室温において、ポリマー(A)である100重量部のポリメタフェニレンイソフタルアミド(PmIA)を溶媒(B)である1900重量部のN−メチル−2−ピロリドン(NMP)に溶解させて、ポリマー溶液を作製した。次いで、PmIA100重量部に対して、凝集構造物(C)として粘土鉱物である市販スメクタイトを67質量部添加し、攪拌棒で全体を充分に攪拌して、ドープを調製した。
(凝固)
ポリマーの貧溶媒(D)である水を凝固液として用いた。室温において、ドープを1mlニードル付きマイクロシリンジに入れて、凝固液中に滴下し、ポリマー(A)を凝固させて、直径が2〜3mmの球形成形体を得た。
【0023】
(透過型電子顕微鏡を用いた凝集構造の観察)
図1は、凝集構造物(C)として用いたスメクタイト粉末の透過型電子顕微鏡写真を示す。全体が凝集構造を形成していることがわかる。
図2は、凝固後の球状成形体の内部を示す。黒いまだら模様がポリマー(A)を示し、矢印で示す線状構造がスメクタイトを示す。スメクタイトの凝集構造がナノメーターオーダーの微細な一次構造に分解されているのがわかる。
【0024】
<実証実験2>
凝集構造物(C)である市販スメクタイト100質量部に、溶媒(B)と非相溶な保護物質(C1)として市販澱粉糊335質量部を添加し、攪拌棒で全体を充分に攪拌して、ポリマー溶液と混合した以外は、実証実験1と同様にして、直径が2〜3mmの球形成形体を得た。
【0025】
(透過型電子顕微鏡を用いた凝集構造の観察)
図3は、凝固後の球状成形体の内部を示す。
図2と同様に、黒い部分がポリマー(A)を示し、線状構造がスメクタイトを示す。スメクタイトの凝集構造が分解されているのがわかる。
図4は、
図3の部分拡大写真である。スメクタイトの層状構造が剥離していることがよくわかる。また、
図3、4から、スメクタイトは微細に分解しているだけではなく、全体に均一に分散していることがわかる。
【0026】
<実証実験3>
(ドープの調製)
室温において、ポリマー(A)である100重量部のポリメタフェニレンイソフタルアミド(PmIA)を溶媒(B)である1900重量部のN−メチル−2−ピロリドン(NMP)に溶解させて、ポリマー溶液を作製した。次いで、PmIA100重量部に対して、凝集構造物(C)として市販ハイドロタルサイト340質量部に市販澱粉糊470質量部を加え、撹拌棒で全体を充分に攪拌して、ポリマー溶液と混合して、ドープを調製した。
(凝固)
ポリマーの貧溶媒(D)である水を凝固液として用いた。室温において、ドープを1mlニードル付きマイクロシリンジに入れて、凝固液中に滴下し、ポリマーを凝固させて、直径が2〜3mmの球形成形体を得た。
【0027】
(透過型電子顕微鏡を用いた凝集構造の観察)
図5は、凝集構造物(C)として用いたハイドロタルサイト粉末の透過型電子顕微鏡を示す。全体が凝集構造を形成していることがわかる。
図6は、凝固後の球状成形体の内部を示す。黒いまだら模様がポリマーを示し、線状構造がハイドロタルサイトを示す。
図5と
図6は同じスケールであり、ハイドロタルサイトの凝集構造が分解されているのがわかる。
【0028】
<実証実験4>(ドープの調製)
室温において、ポリマー(A)である100重量部のポリメタフェニレンイソフタルアミド(PmIA)を溶媒(B)である1900重量部のN−メチル−2−ピロリドン(NMP)に溶解させて、ポリマー溶液を作製した。次いで、PmIA100重量部に対して、凝集構造物(C)としてナノ零価鉄200質量部に、溶媒(B)と非相溶な保護物質(C1)として市販澱粉糊200質量部を加え、撹拌棒で全体を充分に攪拌して、ポリマー溶液と混合して、ドープを調製した。
(凝固)
ポリマーの貧溶媒(D)である水を凝固液として用いた。室温において、ドープを1mlニードル付きマイクロシリンジに入れて、凝固液中に滴下し、ポリマー(A)を凝固させて、直径が2〜3mmの球形成形体を得た。
【0029】
(ヒ素吸着試験)
次に、上記に示した工程により分解されたナノ零価鉄の特性を検証するための試験を行った。
容器に水1Lを入れ、ヒ素100mgを溶解させて、ナノ零価鉄粉末と作製した成形体を各々、ナノ零価鉄量を変えて投入し、1時間撹拌後の水溶液中のヒ素濃度を測定した。
測定結果を
図7に示す。ナノ零価鉄粉末も、作製した成形体も、ヒ素を吸着し、溶液中のヒ素濃度を減少させた。しかし、ナノ零価鉄粉末においては、ナノ零価鉄濃度が0.25wt%以上になると、ナノ零価鉄濃度を増加させてもヒ素濃度はほとんど減少しなかった。一方、作製した成形体においては、ナノ零価鉄濃度の増加とともに、ヒ素濃度は減少した。
このように、ナノ零価鉄粉末よりも、作製した成形体の方が、良い吸着能力を示していることがわかる。
【0030】
(透過型電子顕微鏡を用いた凝集構造の観察)
図8は、凝集構造物(C)として用いたナノ零価鉄粉末の透過型電子顕微鏡写真を示す。ナノ零価鉄粉末は100μm程度の大きさであり、全体が凝集構造を形成していることがわかる。
図9は、凝固後の球状成形体の内部を示す。
図10、
図11は、その拡大図である。黒いまだら模様がポリマーを示し、線状構造がナノ零価鉄を示す。ナノ零価鉄の凝集構造が分解され、数十nmオーダーまで細分化されているのがわかる。
【0031】
なお、実証実験1から4において、分解された凝集構造物(C)をポリマー(A)や保護物質(C1)から分離するには、ポリマー(A)や保護物質(C1)の良溶媒を加えて、それらを溶解すれば良い。
また、凝集構造物(C)に関しては、上記実証実験に示した物質だけでは無く、カーボンナノチューブ等のナノカーボンを一次粒子とする凝集構造物にも同様に適用できる。
【0032】
<メカニズムに関する一考察>
本実施の形態においては、ドープにポリマーの貧溶媒(D)を含有する凝固液を加えることで、凝集構造物(C)が微細に細分化され、且つ一様に分散することが確認できた。このメカニズムについて考察する。
【0033】
まず、ポリマーの貧溶媒(D)を含有する凝固液に
、スキン層がドープを取り囲む凝固形態となるように、ドープを加えると、凝固液と接触したドープの最表層が凝固を始め、スキン層を形成する。
すなわち、凝固の初期過程においては、ドープ最表層を固化したスキン層が取り巻き、その内部に未凝固のドープが包含された構造が形成される。この凝固の初期に形成されるスキン層は、緻密な構造を有している。
さらに、ドープ中のポリマー(A)が析出し、溶媒(B)がスキン層から脱溶媒することで、ドープ相の容積減少が起こる。
しかし、表層が緻密なスキン層で被覆された構造体の内部で、容積の減少が起こるため、容積の減少は構造体内部にのみ影響を与えることになる。すなわち、容積の減少によって、スキン層で被覆された構造体の全体が収縮していくことになる。この収縮により、スキン層で被覆された構造体の内部に、内部応力が発生する。
そして、
収縮により、内部応力は増加を続ける。この強い内部応力により、凝集構造物(C)が分解され、ポリマーのセル構造内に均一に分散すると考えられる。凝集構造物(C)の分解は、ファンデルワールス力などで結合している一次粒子の結合部に応力がかかり、一次粒子の結合部位が剥がれることによって起こる。このため、一次粒子そのものは分解されない。
したがって、凝固の初期過程において、ポリマー(A)がスキン層を形成し、且つスキン層が緻密な構造を持つことが望ましい。
【0034】
ドープを湿式凝固させた場合、ドープは必ずしも緻密なスキン層を形成するとは限らない。緻密なスキン層を形成するためには、凝固速度が速く、ドープが凝固液に接した瞬間に、ドープ表層全域で急激な凝固が起こることが必要である。一方、凝固速度が遅い場合には、スキン層は粒子状の小さなポリマードメインが形成された、空孔の多い、すなわちポリマー密度の低い、粗い構造体となると考えられる。
【0035】
以上に示した緻密なスキン層形成の原理の妥当性を検証するための実験を行った。
この検証実験においては、凝固速度を変化させるため、2種類のドープ(ドープX、およびドープY)を準備し、それぞれを凝固することによりポリマーの成形体を作製した。そして、作製したそれぞれのポリマーの成形体を、透過型電子顕微鏡を用いて観察し、スキン層の状態を比較した。この検証実験の詳細を以下に述べる。
【0036】
(ドープXの調製)
室温において、ポリマー(A)である100重量部のポリメタフェニレンイソフタルアミド(PmIA)を溶媒(B)である1900重量部のN−メチル−2−ピロリドン(NMP)に溶解させて、ポリマー溶液を作製した。
(ドープYの調製)
ドープXと異なる点は、ポリマー(A)を溶媒(B)に溶解させて、さらに、水160重量部と陰イオン性界面活性剤(花王株式会社製、製品名エマール0)を2質量部とからなる凝固制御剤を加えた点である。ドープに凝固制御剤を加えた場合には、凝固価が大きくなり、すなわち、凝固速度が遅くなる。
【0037】
(凝固液の調製)
室温において、ポリマー(A)の貧溶媒(D)である水100重量部に陰イオン性界面活性剤(花王株式会社製、製品名エマール0)を1質量部加え、充分に溶解するまで攪拌して凝固液を調製した。
(成形加工)
室温において、ドープを1mlニードル付きマイクロシリンジに入れて、凝固液中に滴下し、直径が2〜3mmの球形成形体を得た。
【0038】
(透過型電子顕微鏡を用いた成形体の観察)
ドープXを用いて作製した成形体の透過型電子顕微鏡写真を
図12に、ドープYを用いて作製した成形体の透過型電子顕微鏡写真を
図13に示す。
ドープXを用いて作製した成形体では、緻密なスキン層が形成されている。
一方、ドープYを用いて作製した成形体では、スキン層の多くの空孔1が観察され、粗い構造となっていることが分かる。
以上のように、凝固速度が速い場合には、緻密なスキン層が形成されることを確認できた。
【0039】
凝集構造物(C)が微細に細分化されるメカニズムについてまとめると、凝集構造物の分解は、凝固工程において、凝固現象に基づいて発生する応力によって生じる。そして、凝固工程において、凝固速度を速くすることが極めて重要
と言える。凝固工程において凝固速度を速くすることで、ドープ表層にある程度の緻密な構造を持つスキン層が形成され、スキン層内部におけるポリマーの析出と脱溶媒に基づいて発生する応力により、凝集構造物(C)が微細に細分化される。より具体的には、凝固工程において、ある程度の緻密な構造を持つスキン層で覆われたドープ相がまず形成され、そのドープ相中にて、(1)ポリマーの析出と、(2)当該ポリマーを溶解する溶媒のドープ相からの脱溶媒、の2つの現象が同時に進行するため、上記ドープ相が収縮することよって応力が発生し、凝集構造物(C)が微細に細分化される。
【0040】
<発明の特長>
本実施の形態において開示した凝集構造物の分解方法は、ポリマー(A)、ポリマー(A)の良溶媒である溶媒(B)、および凝集構造物(C)を含むドープを、ポリマー(A)の貧溶媒(D)を含む凝固液を用いて、凝固させるものである。この構成の特長は、上述したように、凝固速度を大きくすることができるため、凝固過程の初期において、ドープ最表層に緻密なスキン層を形成することが可能となり、大きな内部応力が生じて、凝集構造物(C)を分解できることである。これにより、以下に述べる実用上の優れた特長が得られる。
【0041】
第一に、一次構造を壊すことなく、凝集構造物(C)を分解し、一様に分散させることができる。これにより、ナノ粒子の持つポテンシャルを充分に引き出し、様々な応用分野に用いることができる。
【0042】
第二に、機械的外力や化学修飾といった手段は全く不要で、かつ多くの物質や溶液を用いることなく、簡素な系で凝集構造物(C)を分解できる。これにより、設備費の低減や溶液の回収が容易となり、また、最小限の設備や化学物質しか必要とせず、製造コスト面においても有利である。
また、分散剤、酸、アルカリ等を原則として用いることが無いため、ポリマー(A)の選定の自由度が極めて大きくなり、また分解した凝集構造物(C)の機能や特性に害を与える物質が、分解した凝集構造物(C)近傍に付着する等の残差を生じない。したがって、これらを除去するための余分な工程が不要となる。
【0043】
第三に、溶媒(B)と非相溶な保護物質(C1)を用いる場合には、保護物質(C1)が凝集構造物(C)を覆うため、凝固過程において、スキン層で被覆された構造体内部で生じる内部応力が、より強く、また均一に凝集構造物(C)に掛かり、さらに効率的に凝集構造物(C)を分解し、また均一分散させることができる。
【0044】
参考例
上記実施の形態においては、凝固過程に生じるドープ内部の内部応力を用いて、凝集構造物(C)を分解する方法について述べた。
本参考例においては、ゲル化剤(F)、および必要によってはゲル化補助剤(G)によって形成されるゲルの収縮によって生じる内部応力を利用して、凝集構造体を分解する方法について述べる。
まず、本
参考例において用いる溶液や物質等について、以下に説明する。なお、ポリマー(A)、ポリマー(A)を溶解する溶媒(B)、および、一次粒子が凝集してなる凝集構造物(C)に関しては、
上記実施の形態に述べた通りであり、説明を省略する。
【0045】
<ゲル化剤(F)> 基本的には、以下において説明する凝集構造物含有ドープのゲル化を促進するものである。
どのようなゲル化剤(F)を用いても良いが、一例として、アクリレートおよびその誘導体、アルブミン、アルジネート、カルボマー、カラギーナン、セルロースおよびその誘導体、デキストラン、デキストロース、デキストリン、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、澱粉、プレゲル化澱粉、などが挙げられる。
なお、ゲル化剤(F)によっては、以下に示すゲル化補助剤(G)を必要とする場合もある。例えば、ゲル化剤(F)がゼラチンや寒天の場合は、ゲル化補助剤(G)は不要であるが、ゲル化剤(F)がカラギーナンの場合には、ゲル化補助剤(G)としてカリウムやカルシウムイオンを、ゲル化剤(F)がペクチンの場合は、カルシウムイオンを用いる。このように、ゲル化剤(F)とは、必要に応じてゲル化補助剤(G)を含むものである。
【0046】
<ドープ>
ポリマー(A)、ポリマー(A)を溶解する溶媒(B)を含有する。
溶媒(B)は、ポリマー(A)の良溶媒である。良溶媒とは一般に言われるように、ポリマーに対し大きな溶解能を有する溶媒である。
なお、さらに、凝集構造物(C)、およびゲル化剤(F)を含有したものを、以下において、凝集構造物含有ドープと呼ぶ。
【0047】
<分解方法>
ドープ、凝集構造物(C)、ゲル化剤(F)の溶液を撹拌棒で充分に混練し、凝集構造物含有ドープを調整する。そして、そのまま静置し、ゲルを収縮させる。
【0048】
<
参考例に係る実証実験>
(ドープの調製)
室温において、ポリマー(A)である100重量部のポリメタフェニレンイソフタルアミド(PmIA)を溶媒(B)である1150重量部のN−メチル−2−ピロリドン(NMP)に溶解させて、ポリマー溶液を作製した。
(ゲル化剤、カーボンナノチューブの添加)
凝集構造物(C)として市販マルチウォール・カーボンナノチューブ(以下、MWCNTと記す。バイエル・マテリアル・サイエンス社(現コベストロ社で、現在は製造中止)製、C70P、直径約1mm)を用いた。ゲル化剤(F)としてデキストリン(日澱化学製、アミコール3L)水溶液を用いた。まず、デキストリン300質量部に、水100質量部を加えて、デキストリン水溶液を調整した。次に、ポリメタフェニレンイソフタルアミド(PmIA)100質量部に対して、MWCNT53質量部とデキストリン水溶液250質量部を撹拌棒で充分に混練した。そして、ポリメタフェニレンイソフタルアミド(PmIA):MWCNT:デキストリンの質量比が、100:53:250となるように、調整したドープを混練物に添加した。
(ゲル化)
室温で48時間静置したところ、上部に白濁相、下部に黒色相を形成する、ゲルが得られた。このゲルは、容器であるビーカーを逆さにしても落下しなかった。
そして、ビーカーに溶媒(B)を加えた。加えた溶媒(B)の量は、ゲルに含まれるポリマー(A)100質量部に対し、620質量部である。溶媒(B)を加えた後、全体を良く撹拌し、静置すると、液相と固相に分離し、底に固形物2が沈殿した。この状態を
図14に示す。
【0049】
(走査型電子顕微鏡による分解物の観察)
まず、MWCNT原粉の走査型電子顕微鏡写真を
図15に示す。このように、mmオーダーの凝集物になっている。
次に、
図14に示した底に沈殿した固形物の走査型電子顕微鏡写真を
図16に、その一部拡大写真を
図17に示す。
図15、16から、約1mmの塊状MWCNTが、約1μmの微細塊に分解されていることが分る。さらに、この微細塊はポリマー(A)を包含しており、この微細塊を集めて、加熱溶融・混錬することによって、ポリマー中にMWCNTが均一に分散し、かつNMCNTが相互に接触しているポリマーナノコンポジットを作製できることが分かる。
なお、
参考例に係る実証実験において、分解された凝集構造物(C)に含有されるポリマー(A)を除去するには、ポリマー(A)の良溶媒を加えて、ポリマー(A)を溶解すれば良い。
また、ゲル化剤を除去するには、ゲル化時に生成する白濁層を除去すればよい。
また、本実証実験においては、凝集構造物(C)としてカーボンナノチューブを用いたが、その他のナノカーボン等、一次粒子が凝集したものであれば、同様の方法を用いて分解することが可能である。
【0050】
<
参考例の特長>
参考例において開示した凝集構造の分解方法の有する特長について、以下にまとめる。
第一に、一次構造を壊すことなく、凝集構造物(C)を分解し、均一に分散させることができる。これにより、ナノ粒子の持つポテンシャルを充分に引き出し、様々な応用分野に用いることができる。
【0051】
第二に、凝集構造物(C)を分解した微細塊にポリマーを含有させることができるため、ナノコンポジット作成の添加物として適している。
【0052】
以上、
実施の形態および参考例に示した凝集構造物の分解方法は優れた特長を有し、これらの分解方法を一工程として、分散性に優れた一次粒子、あるいは一次粒子から構成される微細凝集物の製造を行うことができる。