(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6343293
(24)【登録日】2018年5月25日
(45)【発行日】2018年6月13日
(54)【発明の名称】生体組織切除器具
(51)【国際特許分類】
A61B 17/3205 20060101AFI20180604BHJP
A61B 10/02 20060101ALI20180604BHJP
【FI】
A61B17/3205
A61B10/02 110H
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-6929(P2016-6929)
(22)【出願日】2016年1月18日
(65)【公開番号】特開2017-127348(P2017-127348A)
(43)【公開日】2017年7月27日
【審査請求日】2017年2月14日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】505425878
【氏名又は名称】中村 正一
(73)【特許権者】
【識別番号】592248835
【氏名又は名称】日本エー・シー・ピー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098589
【弁理士】
【氏名又は名称】西山 善章
(72)【発明者】
【氏名】中村 正一
【審査官】
後藤 健志
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−149860(JP,A)
【文献】
米国特許第06080176(US,A)
【文献】
米国特許第01867624(US,A)
【文献】
特公平04−080694(JP,B2)
【文献】
米国特許出願公開第2006/0116606(US,A1)
【文献】
欧州特許出願公開第01661520(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/3205
A61B 10/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体組織を穿孔するために該生体組織の一部を切除する生体組織切除器具であって、
円筒状をなし、該円筒状の先端の周縁に円環状の刃先を有する刃部と、
軸方向の先端に尖頭部を有し、前記尖頭部を前記刃部の刃先の内側から出没させるように、前記刃部内に軸方向に移動可能に保持された穿孔部とを備え、
前記刃部の刃先は、それぞれ前記円筒状の周縁に沿って軸方向に前記刃部の先端側に凸の弓形状に湾曲する複数の湾曲部を有し、
前記尖頭部は、前記刃部の刃先から外方へ突出した状態で軸方向に該刃部の刃先と対向するように配置された第2の刃先を有し、前記第2の刃先は、前記刃部の刃先から外方へ突出した状態から前記刃部の刃先の内部へ移動する際に該刃部の刃先の内側と摺接して、前記刃部の刃先との間で生体組織を切断することを特徴とする生体組織切除器具。
【請求項2】
前記刃部の刃先は、前記複数の湾曲部が前記円筒状の周縁に沿って等間隔で配置されていることを特徴とする請求項1に記載の生体組織切除器具。
【請求項3】
前記第2の刃先はその周縁に沿って軸方向に湾曲していることを特徴とする請求項1又は2に記載の生体組織切除器具。
【請求項4】
前記尖頭部は、その頂点を前記軸方向の先端側に配置した円錐形状をなし、前記第2の刃先が、前記円錐形状の底面の周縁に設けられていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の生体組織切除器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚を含む生体組織の一部を生体から切除するための生体組織切除器具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、医療現場においては生体の皮膚を含む生体組織(以下、本願においては単に「組織」という)を診断、治療又は検査の目的で、組織の一部を切除又は採取するための生体組織切除器具が用いられている。
【0003】
このような生体組織切除器具の例としては、円筒状の刃先を備え、当該刃先により組織の一部を切除するようにしている(例えば、特許文献1を参照)。
【0004】
図9で示すように、このような従来の生体組織切除器具100は、円筒状の柄部101及び刃部102とから成り、刃部102の円環状の刃先を組織面103に対して垂直に押し当てて、刃部102を回転させることで組織を円形に切り取るようになっている。
【0005】
しかしながら、円環状の刃先を組織に押し付ける際、柄部101の操作による押圧力が円形に沿って分散されるため、組織の弾力性に打ち勝つには相応の力が必要となり操作し難いことがあった。
【0006】
そのため、柄部11の軸線方向に対し直交している刃部102の刃先の先端平面を、
図10(a)に示すように傾斜させたり、若しくは
図10(b)に示すように波形にすることで、円形に切除する組織の一部に先ず押圧力が集中させるようにした生体組織切除器具も知られている(例えば、特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−126196号公報
【特許文献2】特開2006−149860号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、図
10(a)の切除器具の場合、組織に切り込みを入れる際、刃先102の傾斜の分だけ切り込みが長くなって、必要以上に組織の深くまで切除する虞があり、力の入れ加減が難しい。
【0009】
また、図
10(b)の切除器具の場合、波形の刃先102の先端を組織に突き刺してから回転させるときの組織からの抵抗により、綺麗な円形での切除は難しく組織の切断面が一様でなくなるという欠点がある。
【0010】
本発明は、このような従来技術の課題に鑑みて、円環状の刃先での切れ味を向上させた生体組織切除器具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記課題を解決するために、円筒状の刃部の先端を生
体組織に当てて前記刃部の円筒内に摘出される組織を切除する生体組織切除器具であって、前記刃部の円環状の刃先
は、前記刃部の軸方向に沿って弓形状の曲線による凹凸で反りを形成する湾曲部を有し、前記湾曲部は前記刃先の円周上に連続して均等に複数配される生体組織切除器具である。この場合に、
複数の前記湾曲部の曲率は全て同一であるとよい。
【0012】
また、前記刃部の中空内を軸方向に移動して前記刃部から外部に突出する押出部材を備えることで、切除後に刃先内に付着した組織片を容易に取り除くことができる。
【0013】
さらに、前記刃先の内部から出没自在な穿孔部を備えた生体組織切除器具にあっては、前記穿孔部の前記刃先と対向する端面の周囲には、前記穿孔部が前記刃先の内部を移動する際に、前記刃先の内側と接する第2の刃部を設けるとよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明による生体組織切除器具は、組織に当てた刃部を回転させたとき、刃部の円環状の刃先に設けた複数の弓形状の凹凸がそれぞれ反りとして作用するため、切れ味よく組織を切除でき操作性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明に係る第1実施態様の生体組織切除器具の全体構成を側面図で示す。
【
図2】
図1の生体組織切除器具における刃部の側断面図(a)及び平面図(b)をそれぞれ示す。
【
図3】本発明に係る第2実施態様の生体組織切除器具の外観図を示す。
【
図4】
図3の生体組織切除器具における押出部材の外観図を示す。
【
図5】
図3の生体組織切除器具における刃部の側断面図(a)及び平面図(b)をそれぞれ示す。
【
図6】本発明に係る第3実施形態の生体組織切除器具の全体構成を側面図で示す。
【
図7】本発明に係る第3実施形態の生体組織切除器具による生体組織切除動作を要部側面図で示す。
【
図8】第3実施形態の生体組織切除器具の変形例の要部を側面図で示す。
【
図9】従来の一般的な生体組織切除器具の構成を説明する図を示す。
【
図10】従来の生体組織切除器具における刃部の刃先の形状例を側断面図で示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0017】
[第1の実施形態]
図1は、本発明に係る生体組織切除器具を示す全体正面図である。
図1に示すように、本実施形態の生体組織切除器具10は、把持部1と、この把持部1の端部に設けられた刃部ホルダ2と、その刃部ホルダ2の先端に位置する刃部3と、を略直線上に固定して配置している。
【0018】
図2は、(a)部で刃部3の側断面図を示し、(b)部で刃部3の平面図を示している。刃部3は、円筒形状に形成されて、刃先3Aは、外周面の径が先端に向かうほど刃部本体3Bの径dより小さくなるように外刃付けされている。
【0019】
円環状の刃先3Aには、円周に沿って等間隔に配置された3つの湾曲部4を有している。湾曲部4は、刃部3の軸方向に沿って弓形状のなだらかな曲線で形成される凹凸であり、これにより刃先3Aの円周上に複数の反りが形成される。この場合、各々の反りの曲率、すなわち湾曲部4の弓形状の曲率は同一にするのが好ましい。
【0020】
このように、刃先3Aに反りを形成する湾曲部4を設けることで、刃先3Aを組織面に垂直に押し当てたとき、湾曲部4では湾曲の頂点4pから谷4rに向かうなだらかな曲線部分である反りによって、滑らかに組織に切れ込みを入れることができる。刃先3Aの円周上にこのような反りを形成するためには、刃先3Aに設ける湾曲部4の最大数は、刃先3Aの円環の径に応じて決定されなければならない。例えば、本例での刃先3Aの円環の径は6mmであるが、この径寸法の刃先3Aであれば、最大4つまで湾曲部4を設けることができる。しかし、4つ以上であると刃先3Aの円周上に反りが形成できず、図
10(b)で説明した波形の刃先となり組織に滑らかに切り込みを入れることができなくなる。
【0021】
把持部1は、使用者が使用の際に把持する部位であり、金属又は樹脂からなる真っ直ぐな棒状の部材であり、把持部1の周囲には、使用者が把持して操作する際に指が滑りにくいように、ローレット加工や梨地加工が施されている。
【0022】
刃部ホルダ2は、製造時に金型内へ刃部3を装填した後、樹脂を注入して刃部3を溶融樹脂で包んで固化させることで、刃部3と一体化された部材である。この場合、把持部1も同じ樹脂で構成して、金型内で刃部ホルダ2と一体に成型してもよい。
【0023】
上記構成による生体組織切除器具10は、筒状の刃部3を組織に押し当てて把持部1を回転させることで刃部3も回転し、刃先3Aでは各湾曲部4の頂点4pから谷4rの部分で形成される反りによって、組織には刃先3Aの円に沿って同じ深さで切り込みを入れることができる。このとき、等間隔で設けられた複数の反りにより、把持部1の回転が滑らかに刃部3に伝達されるため操作性も良い。
【0024】
そして、刃部3の円筒内に摘出されて切除された組織片は刃先3Aの内側に付着し、生体組織切除器具10を組織から離すと、組織片が組織から切除されて採取が可能となる。
【0025】
このような生体組織切除器具10は、例えば、黒子の除去のような施術や検査試料として組織の一部を採取する場合に使用される。
【0026】
[第2の実施形態]
上記の生体組織切除器具10は、切除されて刃先の内側に付着した組織片を取り出すために、ピンセット等を刃部3内へ挿入して組織片を摘出する作業が必要なことがある。このような摘出には手間が掛り、特に、刃先3Aの円環の径が小さい生体組織切除器具10の場合には、極めて面倒な作業となる。
【0027】
そこで、刃先内に付着した組織片を素早く除去することができる生体組織切除器具での実施形態を説明する。
【0028】
図3に示す生体組織切除器具20は、先端に刃部5を備える円筒状のカバー部6と、組み立て時にカバー部6内に挿入されて軸方向に摺動自在な押出部材7と、カバー部6と押出部材7との間で係合するバネ部材8(
図4に図示)と、から構成されている。
【0029】
押出部材7は、樹脂による一体成型品であり、
図4に示すように、棒状に形成された軸体11と、押出部12と、ロック部13と、から構成されている。軸体11から長手方向に分岐形成されているロック部13は、軸体11から遊離している端部を自身の弾性力で軸体11から離れた位置に保持させている。そして、ロック部13には、この自由側の端部に突起14が設けられている。また、押出部材7には、挿通されるコイル状のバネ部材8を係止する段差15が軸体11に形成されている。
【0030】
カバー部6は、円筒内に押出部材7が挿入されたとき、ロック部13の突起14と係合する2通りのロック孔15,16が設けられている。
【0031】
刃部5は、カバー部6の成型時に、金型内に装填された後、注入される溶融樹脂で包んで固化させることで、カバー6と一体に構成される。
図5は、(a)部で刃部5の側断面図を示し、(b)部で刃部5の平面図を示している。刃部5は、円筒形状に形成されて、刃先5Aは、その径が先端に向かうほど刃部本体5Bの径より小さくなるように外刃付けされている。
【0032】
円環状の刃先5Aには、円周に沿って均等に複数の湾曲部9が設けられている。本例での刃先5Aの先端の円環の径は3mmに設定しており、このように小径の場合には、弓形状のなだらかな曲線形状である湾曲部9の数は3個程度が限度で
図5は2個の例で示している。
【0033】
上記構成による生体組織切除器具20は、通常は、
図3(a)で示すように、突起14がロック孔15に係止して、押出部材7の先端の押出部12は円筒状の刃部5の内部には進出していない状態にある。この状態で、刃部5を組織に押し当ててカバー部6を回して刃部5を回転させると、刃先5Aでは、湾曲部9の頂点9pから谷9rの部分で形成される反りが組織に円状に切り込むことで、刃部3の円筒内には、摘出されて切除された組織片は刃先5Aの内側に付着する。
【0034】
そして、刃先5Aの内側に付着している組織片を取り出すには、突起14を押すと同時に、押出部材7の後端を刃先5Aに向けて、バネ部材8のバネ力に抗して移動するよう押し込む。これにより、ロック部13は、自身の弾性力で保持されていた突起14のロック孔15での係止が外れて、カバー部6内を移動する。そして、突起14がロック孔16まで到達すると、ロック部13は弾性力で軸体11から離間する方向に復帰して、突起14はロック孔16に係止される。
【0035】
突起14がロック孔16に係止するまで押出部材7が移動すると、
図3(b)で示すように押出部12が刃部5Aの先端から外方に突出するため、刃先5Aの内側に付着している組織片は外部に押し出されて取り出される。そして、ロック孔16に係止されている突起14をカバー部6の内側に向けて押し込むと、ロック孔16との係止が外れて、バネ部材8の復帰力で押出部材7は突起14が再びロック孔15に係止されるまで移動し、押出部13は刃部5の内部から退出する。
【0036】
[第3の実施形態]
次に、医療施術時に血管に孔を空けるときに使用する生体組織切除器具であるパンチャー30での実施形態を説明する。
図6は、パンチャー30の構成を示しており、円筒状の外装ケース17と、外装ケース17内に保持されている円筒状の刃部18と、刃部18内に保持されている穿孔部19と、を備える。
【0037】
外装ケース17は、側面にオペレータの指が入る指掛け32を有する。刃部18は、先端に円環状の刃先18Aを備えて、刃先18Aには、円周に沿って等間隔に配置された3つの湾曲部21が形成されている。湾曲部21は、
図7に示すように、刃部18の軸方向に沿って弓形状のなだらかな曲線で形成される凹凸であり、これにより刃先18Aの円周上に複数の反りが形成される。
【0038】
円柱体である穿孔部19は、先端に円錐状の尖頭部19Aを有しており、反対側の端部は外装ケース17にピン31で支持されて固定されている。また、刃部18も穿孔部19と共に、ピン31によって外装ケース17に支持されている。
【0039】
刃部18は、その長手方向に沿っている細長形状の長穴18Bを有しており、ピン31は、この長穴18Bに摺動自在に嵌合している。ピン31は、バネ24により付勢されて、通常は長穴18Bの下部に係止している。この状態では、
図7(a)に示すように、穿孔部19は、先端の尖頭部19Aを含む下端部が刃先18Aから外方へ突出している。
【0040】
この状態でオペレータは、パンチャー30全体を血管31に押し当てて、尖頭部19Aで血管表面31を突き破り穿孔部19の先端を突入させる。そして、指掛け32で外装ケース17を保持しながら刃部18の上端をバネ24の付勢に抗して手動で押し下げるとと、刃部18は、ピン31が長穴18Bの上部に係止するまで移動して、
図7(c)に示すように、尖頭部19Aは刃先18Aの円環内に収納される。こうして、尖頭部19Aが刃先18A内に納まる過程で、血管31の尖頭部19Aが突き刺した血管表面31の組織が切除されて穿孔される。
【0041】
図8は、
図6のパンチャー30の変形例を示すもので、尖頭部19Aには、刃部18が下降するときに、その円環状の刃先18Aの内側と接する上縁部に湾曲部23を有する第2の刃部22を形成している。このような構成のパンチャー30においては、尖頭部19Aが刃先18Aの円環内に収納される際、尖頭部19Aの刃部22は刃先18Aの内側を摺動し、尖頭部19Aが突き刺した血管表面31の表面組織を綺麗に切除して血管31の表面を刳り抜くことができる。図では、刃先18Aが外刃形状で、刃部22を内刃形状としているが、刃先18Aを内刃形状、刃部22を外刃形状としてもよい。
【0042】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づき種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。例えば、湾曲部4の弓形状の曲率は、それぞれで反りが確保されていれば同一でなくてもよい。また、刃先の形状も、内周面の径が先端に向かう程、刃部本体の径より小さくなるような、内刃付けの形状であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、生体の診断、治療又は検査等の医療に用いられる生体組織切除器具に関するものであり、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0044】
3 刃部
3A 刃先
4 湾曲部
5 刃部
5A 刃先
9 湾曲部
12 押出部
18 刃部
18A 刃先
19 穿孔部
21 湾曲部
22 第2の刃部
10、20、30 生体組織切除器具